説明

付加重合体

【課題】再生可能資源より得られる繰り返し単位を有し、透明性、耐熱性、柔軟性に優れた付加重合体を提供する。
【解決手段】再生可能資源から誘導される下記一般式(1)


(上記一般式(1)において、nは0、1、2のいずれかであり、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を表す。)で表されるラクトン化合物とウレタンオリゴマーとを付加重合した、付加重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明性樹脂組成物に関するものであり、より詳しくは、植物資源より誘導可能なラクトン環構造を有する透明性および耐熱性に優れ、かつ機械強度が改善された付加重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸メチルを主成分とするメタクリル樹脂は、光学的性質および耐候性に極めて優れ、かつ機械的強度、熱的性質ならびに成形加工性などにおいても比較的バランスのとれた性能を有しているために、これらの特徴を生かして、看板、照明用カバー、銘板、自動車部品、電気機器部品、装飾用あるいは雑貨品などの多くの用途に使用され、さらに他の用途開発も進められている。
【0003】
また、近年、メタクリル酸メチルに第二成分を共重合させ耐熱性を向上させたメタクリル樹脂が開発されている(例えば特許文献1〜3等)。しかしながら、これらの方法では共重合化によって耐熱性が向上した代わりに、樹脂の光学的性質、機械的性質および耐候性等が低下し、上記のような用途に好ましい樹脂を得ることができてない。
【0004】
さらに、昨今では石油資源の枯渇や、廃棄物の焼却処理に伴い発生する二酸化炭素による地球温暖化が懸念されていることから、石油成分より誘導されるメタクリル酸メチルを主成分とする上記メタクリル樹脂を再生可能資源(石油や石炭のような枯渇性のあるような天然資源とは異なり、森林資源、バイオマス、風力、小規模水力などのようにそれ自身が再生能力を持つような資源)から構築することが強く望まれている。
【0005】
これら事由を鑑みて、上記の耐熱メタクリル樹脂に代わる高い耐熱性と透明性を有し、植物資源より誘導可能な樹脂としてα−メチレン−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(以下、MeMBLのように略記し、また、その重合体をPMeMBLのように略記することがある)などの付加重合体が注目されている(特許文献4及び5)。
【0006】
つまり、α−メチレン−γ−ブチロラクトンはグルコースの発酵により得られるコハク酸の脱水およびそれに続く還元により得られるγ−ブチロラクトンとホルムアルデヒドとの反応より得ることができる。また、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトンは主にキシロースから誘導されるイタコン酸を経由して得られるβ−メチル−γ−ブチロラクトンとホルムアルデヒドとの反応より得ることができ、さらに、MeMBLは植物の主構成要素であるセルロースの酸処理により得られるレブリン酸からγ−メチル−γ−ブチロラクトン(MBL)を経由し、最終的にMBLとホルムアルデヒドとの反応により誘導される(特許文献6など)。このことからこれらラクトン化合物は再生可能資源として位置付けることができ、また、これらのラクトン化合物の付加重合体はガラス転移温度(Tg)が200℃程度であることから、従来の上記メタクリル樹脂と比較して高い耐熱性を有する。
【0007】
しかしながら、MeMBLの付加重合体は脆く、成形品にした場合の機械的強度が低いため、柔軟性改良剤の添加や他種のポリマーとのアロイ化による柔軟性の改良が検討されている(特許文献7、及び特許文献8など)。しかしこれらの特許文献中では他種のポリマーや改良剤との混練のために高温下での二軸押し出し機が必要であり、プロセス上多大なエネルギーを要する。
【0008】
また、特許文献9などには、ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーと(メタ)アクリル酸化合物から成る組成物より誘導される硬化重合体について記載されているが、機械強度の改良効果については述べられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭49−10156号公報
【特許文献2】特公昭43−9753号公報
【特許文献3】特公平2−46605号公報
【特許文献4】特開平09−12645号公報
【特許文献5】特開平09−12646号公報
【特許文献6】国際公開第00/58297号パンフレット(特表2002−540200号公報)
【特許文献7】米国特許第6,723,790号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2004/0230019号明細書
【特許文献9】特開2000−264939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、植物資源より誘導可能なラクトン環構造を有する透明性および耐熱性に優れ、かつ機械強度が改善された付加重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を鑑み、再生可能資源から誘導される、MeMBL等の上記ラクトン化合物とウレタン結合を有するオリゴマーとを重合することにより、機械強度が改善された高耐熱・透明性の付加重合体が得られることを見出し、本発明を完成した。本発明の要旨を以下に示す。
【0012】
1. 下記一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)において、nは0、1、2のいずれかであり、R、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を表す。)
で表されるラクトン化合物(A成分)に由来する繰り返し単位と、
エチレン性不飽和基を有する数平均分子量が2500以上のウレタンオリゴマー(B成分)に由来する繰り返し単位とを、質量比0.9〜0.3(A成分)/0.1〜0.7(B成分)にて含むことを特徴とする付加重合体。
2. 上記項1.において、A成分及びB成分のいずれにも該当しないモノオレフィン系化合物(C成分)に由来する繰り返し単位を、A成分及びB成分に由来する繰り返し単位の合計1質量部に対して0.7質量部以下含む付加重合体。
3. 上記項1.記載の付加重合体を製造する方法において、A成分とB成分とを、質量比0.9〜0.3(A成分)/0.1〜0.7(B成分)にて混合し、加熱またはエネルギー線照射してラジカル重合させることを特徴とする製造方法。
4. 上記項2.記載の付加重合体を製造する方法において、A成分、B成分及びC成分を、A成分とB成分との質量比0.9〜0.3/0.1〜0.7、かつ、A成分とB成分の合計1質量部に対してC成分が0.7質量部以下となる量にて混合し、加熱またはエネルギー線照射してラジカル重合させることを特徴とする製造方法。
5. 上記項1.または2.に記載の付加重合体の成形体。
6. フィルム状の成形体である上記項5.に記載の成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、植物資源より誘導可能なラクトン環構造を有する透明性および耐熱性に優れ、かつ機械強度が改善された付加重合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態につき詳細に説明する。尚、これらの実施例および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0015】
[付加重合体]
本発明は、前記一般式(1)で表されるラクトン化合物(A成分)に由来する繰り返し単位と、エチレン性不飽和基を有する数平均分子量が2500以上のウレタンオリゴマー(B成分)に由来する繰り返し単位とを、質量比0.9〜0.3(A成分)/0.1〜0.7(B成分)にて含むことを特徴とする付加重合体に関するものであり、更には、上記A成分に由来する繰り返し単位と、上記B成分に由来する繰り返し単位とを、質量比0.9〜0.3(A成分)/0.1〜0.7(B成分)にて含み、かつA成分及びB成分のいずれにも該当しないモノオレフィン系化合物(C成分)に由来する繰り返し単位を、A成分及びB成分に由来する繰り返し単位の合計1質量部に対して0.7質量部以下の量にて含む付加重合体についての発明でもある。
【0016】
なお、本願発明の付加重合体において、上記のA成分に由来する繰り返し単位の数値とB成分に由来する繰り返し単位の質量比は、0.6/0.4、0.5/0.5などのように、分子と分母の和が1になる数値の組み合わせにて表現される。
【0017】
前記一般式(1)で表されるラクトン化合物(A成分)として具体的には、α−メチレン−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる1種類以上である。これらラクトン化合物の前駆対であるγ−ブチロラクトン、β−メチル−γ−ブチロラクトン、γ−メチル−γ−ブチロラクトンは、自然界のバイオマスからも得られる物質で、再生可能資源と呼ばれるものの1つである。α−メチレン−γ−ブチロラクトンはグルコースの発酵により得られるコハク酸の脱水およびそれに続く還元により得られるγ−ブチロラクトンとホルムアルデヒドとの反応より得ることができる。また、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン主にキシロースから誘導されるイタコン酸を経由して得られるβ−メチル−γ−ブチロラクトンとホルムアルデヒドとの反応より得ることができ、さらに、α−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(MeMBL)は植物の主構成要素であるセルロースの酸処理により得られるレブリン酸からγ−メチル−γ−ブチロラクトン(MBL)を経由し、最終的にMBLとホルムアルデヒドとの反応により誘導される。
【0018】
これらのラクトン化合物の中でも得られるポリマーの耐熱性(Tg)の高さや原料となるバイオマスつまりセルロースの存在量や入手のし易さなどからα−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(MeMBL)が特に好ましい。
【0019】
前記のエチレン性不飽和基を有する数平均分子量が2500以上のウレタンオリゴマー(B成分)としては、分子中に下記一般式(2)
【化2】

又は、下記一般式(3)
【化3】

で表される不飽和基を少なくとも1個含み、前記一般式(1)で表されるラクトン化合物(A成分)とラジカル共重合が可能な数平均分子量が2500以上のウレタン結合を有するオリゴマーである。上記一般式(2)および(3)において、Rはアルキレン基、アルキリデン基又は−OCO−基を示すが、アルキレン基及びアルキリデン基としては、炭素数1〜6の低級アルキレン基及びアルキリデン基が好ましい。Rは水素又はアルキル基を示すが、好ましくは水素又はメチル基である。好ましい不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基及びビニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なお、当該ウレタンオリゴマーは、数平均分子量が5000〜100000のものであると好ましく、6000〜50000のものであるとより好ましく、7000〜20000のものであると更に好ましい。
【0020】
前記B成分のウレタンオリゴマーは、従来から一般的に用いられる方法、つまり、ポリオールとポリイソシアネートと末端に重合性不飽和基と水酸基とを有する化合物から合成する方法等である。その際に、原料物質の分子量、あるいは反応時のモル比を適宜調節することにより製造することができる。
【0021】
上記ポリオールとしては、例えば多塩基酸と多価アルコールを重縮合して得られるポリエステルポリオール、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類を開環重合して得られるポリエステルポリオール、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシド、テトラヒドロフラン、アルキル置換テトラヒドロフラン等の環状エーテルの重合体又はこれらの2種以上の共重合体であるポリエーテルポリオール等が挙げられる。
【0022】
また、ポリイソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4 −ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロペンタジエンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0023】
末端に重合性不飽和基と水酸基とを有する化合物としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリε−カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、各種エポキシアクリレート等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0024】
なお、前記B成分のウレタンオリゴマーとして、市販されているものを使用することができ、例えば、日立化成(株)製のウレタンアクリレートオリゴマー ヒタロイド7980−1、ヒタロイド7980−2、ヒタロイド7903−1、根上工業(株)製のウレタンアクリレートオリゴマーAH−50M、AH−51M、AH−53M、共栄社化学(株)製のウレタンアクリレートオリゴマーUF−8001、UF−503などからなる群より選ばれる1種類以上をあげることができる。
【0025】
前記のA成分及びB成分のいずれにも該当しないモノオレフィン系化合物(C成分)としてはとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、その他の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等や、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、メタクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕−デカ−8−イル、その他の脂環式(メタ)アクリル酸等や、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のα−置換スチレン、フルオロスチレン、メチルスチレン等の置換スチレン等の芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。また、アクリロニトリル等のヘテロ原子含有ビニル化合物、(メタ)アクリル酸フルオロメチル、(メタ)アクリル酸フルオロエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、(メタ)アクリル酸2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル、(メタ)アクリル酸1,1,2,2−テトラハイドロパーフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸1,1,2,2−テトラハイドロパーフルオロデカニル、(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロネオペンチル等のフッ素化(メタ)アクリル酸アルキルエステル類からなる群より選ばれる1種類以上も用いることができる。さらに、イタコン酸、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジイソプロピル、イタコン酸ジn-プロピル、イタコン酸ジtert−ブチル、イタコン酸ジn−ブチル、その他のイタコン酸アルキルエステルやその他の多官能性不飽和カルボン酸のアルキルエステル類からなる群より選ばれる1種類以上も用いることができる。この中でも、原料入手の容易さや、得られる樹脂組成物の透明性、機械強度改善効果などの点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、アクリロニトリル、スチレンからなる群より選ばれる1種類以上が特に好ましい。また上記各点に加えて、再生可能資源から誘導可能な成分としてイタコン酸アルキルエステルも好適に用いることができる。
【0026】
本発明の付加重合体において、前記A成分に由来する繰り返し単位と、前記B成分に由来する繰り返し単位とが含まれる質量比としては、0.8〜0.4(A成分)/0.2〜0.6(B成分)であると好ましく、0.77〜0.48(A成分)/0.23〜0.52(B成分)である更に好ましい。
【0027】
本発明の付加重合体において、A成分及びB成分のいずれにも該当しないモノオレフィン系化合物(C成分)に由来する繰り返し単位が、A成分及びB成分に由来する繰り返し単位の合計1質量部に対して含まれる量としては、0.01質量部以上0.6質量部以下であると好ましく、0.05質量部以上0.5質量部以下であるとより好ましく、0.1質量部以上0.45質量部以下であると更に好ましい。
【0028】
また、本発明の付加重合体は、多官能不飽和化合物に由来する繰り返し単位を含み、良好な3次元架橋体であってもよい。このような多官能不飽和化合物としては、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等からなる群より選ばれる1種類以上を例示することができる。
【0029】
本発明の付加重合体は、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定によるガラス転移温度が100℃以上であることが好ましく、より好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度がこの範囲内にあるときは実用に耐えうる十分な耐熱性を有する。また、得られる樹脂組成物の成形性の観点から、ガラス転移点の上限は250℃であり、ガラス転移温度がこの範囲内であれば十分な成形性を有する。
【0030】
本発明の付加重合体を製造する方法としては、A成分とB成分とを、質量比0.9〜0.3(A成分)/0.1〜0.7(B成分)にて混合し、加熱またはエネルギー線照射してラジカル重合させることを特徴とする製造方法、または、A成分、B成分及びC成分を、A成分とB成分との質量比0.9〜0.3/0.1〜0.7、かつ、A成分とB成分の合計1質量部に対してC成分が0.7質量部以下となる量にて混合し、加熱またはエネルギー線照射してラジカル重合させることを特徴とする製造方法が好ましく挙げられる。なお、本願発明の製造方法において、上記のA成分とB成分との質量比は、0.6/0.4、0.5/0.5などのように、分子と分母の和が1になる数値の組み合わせにて表現される。また、本発明の製造方法における前記A成分、B成分、及びC成分の使用量の比率は、生成する付加重合体中の各成分に由来する繰り返し単位の比率とみなすことができる。
【0031】
本発明の製造方法においてラジカル重合に用いるエネルギー線照射のエネルギー線としては、可視光線、赤外線、紫外線、レーザー光線、電子線、α線、β線、γ線のような電離放射線、マイクロ波、高周波よりなる群から選ばれる1種類以上が好ましい。
【0032】
また、本発明の製造方法において、上記のA成分とB成分との質量比、およびA成分とB成分の合計1質量部に対するC成分の質量部の好ましい値、および、より好ましい値は、本発明の付加重合体の組成において各成分に由来する繰り返し単位に関して示したとおりである。
【0033】
本発明の付加重合体の製造方法におけるラジカル重合の具体的な態様としては、塊状重合法や溶液重合法を用いることができるが、熱硬化樹脂の製造に用いられるような成形硬化法を適用することも可能である。
【0034】
本発明の製造方法において、ラジカル重合の際に、重合開始剤を添加しても良い。重合酸化剤としては、例えば2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物、ベンゾインメチルエーテル、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、およびチタノセン系光重合開始剤等の光重合開始剤、過硫酸アンモニウム等の硫酸塩、亜硫酸ソーダ、レドックス系開始剤、並びにこれらよりなる群から選ばれる1種類以上などが挙げられる。なかでも、エネルギー線照射によるラジカル重合においては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノンよりなる群から選ばれる1種類以上のアルキルフェノン系光重合開始剤が、重合開始剤として特に好ましい。
【0035】
これらの重合開始剤の使用量は、前記のA成分とB成分との合計、またはA成分とB成分およびC成分の合計を100質量部とした場合、0.05〜10質量部の範囲にあると好ましく、反応性と、成形体の透明性の低下防止との双方を考慮すると、0.1〜2質量部の範囲にあるとより好ましい。
【0036】
また、本発明の製造方法において、ラジカル重合の際にアミン化合物やイオウ化合物(チオール、ジスルフィド等)に代表される重合促進剤や連鎖移動触媒等を添加することが可能である。
【0037】
本発明の製造方法において、加熱によってラジカル重合を行う場合、その成形温度は、熱重合開始剤や促進剤の選択により、室温から200℃前後までの広い範囲から選択することができる。
【0038】
本発明の製造方法において、光照射によってラジカル重合を行う場合、波長10〜400nmの紫外線や波長400〜700nmの可視光線を照射することで、付加重合体を得ることができる。用いる光の波長は特に制限されるものではないが、特に波長200〜400nmの近紫外線がラジカル重合には好適である。そのような近紫外線を含む光線の発生源として用いられるランプとしては、低圧水銀ランプ(出力:0.4〜4W/cm)、高圧水銀ランプ(40〜160W/cm)、超高圧水銀ランプ(173〜435W/cm)、メタルハライドランプ(80〜160W/cm)、パルスキセノンランプ(80〜120W/cm)、無電極放電ランプ(80〜120W/cm)等からなる群より選ばれる1種類以上を例示することができる。これらのランプは、各々その分光分布に特徴があるため、使用する光開始剤の種類に応じて選定される。積算光量は10〜5000mJ/cmの範囲とすることが好ましく、100〜4000mJ/cmの範囲とするとより好ましく、1000〜3000mJ/cmの範囲とすると更に好ましい。
【0039】
本発明の付加重合体を成形し成形体を得る方法としては、公知の射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、押し出し成形、ブロー成形等を用いることができ、フィルム状の成形体を製造する方法としては、例えば溶剤キャスト法、溶融押し出し法、カレンダー法等が挙げられる。なお、本願発明においてフィルム状の成形体には、厳密な厚さの定義によるものでない広義のものであり、いわゆるシート状の成形体も含まれる。
【0040】
また、前記のとおり、熱硬化性樹脂の製造におけるものと同様の成形硬化法を用いて、成形体を得ることも可能である。成形硬化法のうち、前記のA成分とB成分との混合物、またはA成分、B成分、及びC成分の混合物を、金型を使用して光照射し重合・硬化・賦形を行う方法が好ましい。特に、フィルム状の成形体の製造方法としては、金型としての機能を有する金属製のロールとポリエチレンテレフタレートフィルム等の透明樹脂フィルムとの間に、前記混合物を流し込み、透明樹脂フィルム側から光を照射して重合・硬化・賦形を行わせる方法や、複数の上記透明樹脂フィルムにて前記混合物を挟み、光を照射して重合・硬化・賦形を行わせる方法が好適である。なお、上記のフィルム状成形体に用いられる透明樹脂フィルムは、当該成形体の剥離不良を防止するため、表面がフッ素コーティングされたものや、剥離剤が塗布されたものが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下の実施例により本発明の詳細をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例に使用したα−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(MeMBL)は東京化成製、メチルメタクリレート(MMA)および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンは和光純薬製を使用し、MeMBL(A成分)およびMMA(C成分)は使用前に蒸留精製したものを重合反応に用いた。
【0042】
ガラス転移温度(Tgと略記することがある。)はTA instruments社製DSC2920を用い、温度範囲30〜250℃、昇温速度10℃/分にて測定し、1回目の測定を行った後に液体窒素で急冷・クエンチし、その後2回目の測定を行った。2回目の値をポリマーおよび樹脂組成物のTgとして本実施例に記した。
【0043】
ウレタンアクリレートオリゴマー(B成分)としては、日立化成(株)製のウレタンアクリレートオリゴマー ヒタロイド7980−2(数平均分子量:9000、希釈有機溶剤:メチルエチルケトン、ヒタロイド7980−2中の希釈有機溶剤重量比:50質量%)を使用した。
また、ラジカル重合は光照射により行い、その際の光源として、セン特殊光源(株)製の高圧水銀ランプ(HL100CH−4)を使用した。
【0044】
[実施例1]
A成分としてα−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(MeMBL)1.05g(9.4×10−3mol)、B成分として2.1gのヒタロイド7980−2(正味のウレタンアクリレートオリゴマー量は1.05g、A成分/B成分(質量比)=0.5/0.5、C成分は無し)、重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.021g(1.0×10−4mol)を窒素雰囲気下で混合・溶解させ、得られた溶液をフッ素コーティングされたポリエチレンテレフタレートフィルムで挟み光重合反応装置にセットした。反応装置内を窒素雰囲気とし、480μW/cmの水銀ランプを用い、1700mJ/cm2の積算露光量で硬化させ、フィルム状の透明成形体を得た。得られたフィルム状透明成形体の厚みは200μmであり、この成形体を用いて引っ張り試験を行い、最大点応力および破断点伸度を測定した。また該成形体のTgは180℃であった。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例2]
A成分のα−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(MeMBL)の量を1.5g(1.3×10−2mol)、B成分のヒタロイド7980−2の量を1.0g(正味のウレタンアクリレートオリゴマー量は0.5g、A成分/B成分(質量比)=0.75/0.25;C成分は無し)とし、重合開始剤の1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの量を0.02g(9.8×10−5mol)をとした以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例3]
A成分のα−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(MeMBL)の量を0.8g(1.9×10−9mol)、B成分のヒタロイド7980−2の量を1.6g(正味のウレタンアクリレートオリゴマー量は0.8g)として、更にC成分として、メチルメタクリレート(MMA)を0.4g(4.0×10−3mol)も用いて{A成分/B成分(質量比)=0.5/0.5、A成分及びB成分の合計1質量部に対してC成分は0.25質量部}、重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.02g(9.8×10−5mol)を窒素雰囲気下で混合・溶解させた以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0047】
[比較例1]
B成分のヒタロイド7980−2を添加することなく、A成分のα−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(MeMBL)2.1g(1.9×10−2mol)を用いて、重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.021g(1.0×10−4mol)を窒素雰囲気下で混合・溶解させた以外は実施例1と同様の操作を行った。得られた成形体は非常に脆く、引っ張り試験用サンプル作製時に割れ、測定することができなかった。結果を表1に示す。
【0048】
[比較例2]
A成分のα−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(MeMBL)を1.4g(1.2×10−2mol)、B成分のヒタロイド7980−2を添加することなく、C成分としてメチルメタクリレート(MMA)0.6g(6.0×10−3mol)を用いて(A成分1質量部に対して、C成分は0.43質量部)、重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.02g(9.8×10−5mol)を窒素雰囲気下で混合・溶解させた以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
※A成分、B成分由来の繰り返し単位の量は両者の質量比である。C成分由来の繰り返し単位の量は、A成分及びB成分に由来する繰り返し単位の合計1質量部あたりの質量部である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の付加重合体は、光ファイバなどの情報伝送体、光メディア用途、電気・電子・OA用途、自動車・産業機器用途、医療・保安用途、プラスチックレンズ、シート・フィルム・包装用途、雑貨用途をはじめとする様々な用途に幅広く用いることが、より具体的には、光メディア用途としてDVD、CD−ROM、CD−R、ミニディスク、電気・電子・OA用途として携帯電話、パソコンハウジング、電池のパックケース、液晶用部品、コネクタ、自動車・産業機器用途としてヘッドランプ、インナーレンズ、ドアハンドル、バンパ、フェンダ、ルーフレール、インバネ、クラスタ、コンソールボックス、窓ガラス、カメラ、電動工具、医療・保安用途として銘板、カーポート、液晶用拡散・反射フィルム、飲料水タンク、雑貨としてパチンコ部品、消火器ケース、プラスチックレンズとして撮像系レンズ、ピックアップレンズ、fθレンズ、球面レンズ、平面レンズなど様々な形状のプラスチックレンズなどに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)において、nは0、1、2のいずれかであり、R、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を表す。)
で表されるラクトン化合物(A成分)に由来する繰り返し単位と、
エチレン性不飽和基を有する数平均分子量が2500以上のウレタンオリゴマー(B成分)に由来する繰り返し単位とを、質量比0.9〜0.3(A成分)/0.1〜0.7(B成分)にて含むことを特徴とする付加重合体。
【請求項2】
請求項1において、A成分及びB成分のいずれにも該当しないモノオレフィン系化合物(C成分)に由来する繰り返し単位を、A成分及びB成分に由来する繰り返し単位の合計1質量部に対して0.7質量部以下含む付加重合体。
【請求項3】
請求項1記載の付加重合体を製造する方法において、A成分とB成分とを、質量比0.9〜0.3(A成分)/0.1〜0.7(B成分)にて混合し、加熱またはエネルギー線照射してラジカル重合させることを特徴とする製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の付加重合体を製造する方法において、A成分、B成分及びC成分を、A成分とB成分との質量比0.9〜0.3/0.1〜0.7、かつ、A成分とB成分の合計1質量部に対してC成分が0.7質量部以下となる量にて混合し、加熱またはエネルギー線照射してラジカル重合させることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の付加重合体の成形体。
【請求項6】
フィルム状の成形体である請求項5に記載の成形体。

【公開番号】特開2011−225726(P2011−225726A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97098(P2010−97098)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】