説明

伸縮性不織布及びその製造方法

【課題】不織布の風合いや均一性を損なうことなく、従来にない伸縮性および伸縮時の強力に優れた不織布を提供する。
【解決手段】融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱収縮性複合繊維(A)を90〜60質量%、及び融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱接着性複合繊維(B)を10〜40質量%、均一に含んでなるウェブが、熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の融点より低い温度での熱処理(1)によって、熱収縮性複合繊維(A)が熱収縮した後、熱接着性複合繊維(B)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の軟化点より5〜10℃高い温度での熱処理(2)によって、当該最も融点の低い樹脂成分を溶融させて繊維間を熱接着することによって、接合一体化している伸縮性不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨てマスクの耳掛部やパップ剤の基布、包帯などに用いるのに特に適した、伸縮性及び伸縮時の強力に優れた不織布に関する。本発明はさらに、そのような不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
融点の異なる2種類の熱可塑性樹脂からなる熱接着性複合繊維の低融点成分の熱接着により、繊維同志を接着した不織布は、衛生的であり肌さわりに優れているため、マスクや紙オムツ、ウェットティッシュなどの用途に多用されている。このような不織布に伸縮性を与える方法として、熱接着性複合繊維を熱接着させる際に、捲縮が発現するような繊維を用いる方法が知られている(例えば特許文献1参照。)。
しかしこのような方法では、熱処理工程で、熱接着性複合繊維の熱接着による繊維間の接合と熱収縮性複合繊維の捲縮発現による熱収縮が同時に行われるため、熱収縮性複合繊維が充分な収縮をする前に繊維間が接合されてしまう。そのため、得られた不織布の伸縮性や地合いは、充分なものではなかった。また、繊維同士の位置関係が変動している最中に熱接着が生じることになるために、しっかりした接着点が形成され難く、充分な不織布の強力が得られ難いという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−211668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の従来技術にある問題を解決し、不織布の風合いや均一性を損なうことなく、従来にない伸縮性及び伸縮時の強力に優れた不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、伸縮性及び伸縮時の強力に優れた不織布を得るため鋭意研究を行った。その結果、熱収縮性複合繊維と熱接着性複合繊維とを特定の比率で均一に混合し、熱収縮性複合繊維を構成する最も融点の低い樹脂成分の融点より低い温度で、熱収縮性複合繊維がスパイラル状に捲縮することによって発現する熱収縮を施した後に、熱接着性複合繊維を構成する最も融点の低い樹脂成分の軟化点を超える温度で当該融点の低い樹脂成分を溶融させて繊維間を熱接着し、接合一体化させることによって得られた不織布が、所期の目的を達成することが可能であることを知見し、この発明に到達した。
【0006】
従って本発明は、融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱収縮性複合繊維(A)を90〜60質量%、及び融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱接着性複合繊維(B)を10〜40質量%、均一に含んでなるウェブが、熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の融点より低い温度での熱処理(1)によって、熱収縮性複合繊維(A)が熱収縮した後、熱接着性複合繊維(B)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の軟化点より5〜10℃高い温度での熱処理(2)によって、当該最も融点の低い樹脂成分を溶融させて繊維間を熱接着し、接合一体化している伸縮性不織布である。熱処理(1)の処理温度は、熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の融点より5〜20℃低い温度であることが好ましい。
本発明の好ましい実施態様として、熱収縮性複合繊維(A)が、プロピレン単独重合体もしくはエチレン−プロピレンブロック共重合体と、エチレンおよびα−オレフィンより選ばれた1種または2種とプロピレンとのオレフィン−プロピレンランダム共重合体、とで構成されており、熱接着性複合繊維(B)が、プロピレン単独重合体もしくはポリエチレンテレフタレートと、エチレン単独重合体、とで構成されている伸縮性不織布である。本発明のまた別の好ましい実施態様として、熱収縮性複合繊維(A)が、最も融点の低い樹脂成分を鞘側に配置した偏心鞘芯型であり、当該樹脂成分が、繊維表面の30〜90%を占めている形態を有する、伸縮性不織布がある。
本発明はさらに、上記伸縮性不織布の製造方法に向けられている。該方法は、融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱収縮性複合繊維(A)と融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱接着性複合繊維(B)とを、(A):(B)=90:10〜60:40の質量比率で均一に混合してウェブを得て、熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の融点より低い温度で該ウェブに熱処理(1)を施して熱収縮性複合繊維(A)を熱収縮させ、次いで熱接着性複合繊維(B)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の軟化点より5〜10℃高い温度で、上記ウェブに熱処理(2)を施して、当該最も融点の低い樹脂成分を溶融させて繊維間を熱接着し、接合一体化させることを含む、伸縮性不織布の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の伸縮性不織布は、地合いが良好で、繰り返し引張試験をした際に、その伸長回復率と伸長時の強力のバランスに優れており、使い捨てマスクの耳掛部やパップ剤の基布、包帯などの用途に好適に用いることができる。
本発明の製造方法によれば、不織布の製造過程で、先ず熱収縮が主に発現し、次いで熱接着が主に発現することから、充分な地合いを達成するとともに不織布としての強力を充分なものとすることができ、優れた伸縮性不織布を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、「均一に混合する」とは、熱収縮性複合繊維(A)と熱接着性複合繊維(B)とを、熱収縮および熱接着する前に、混合することを意味している。また、「均一に含む」とは、上記混合によって得られたウェブにおいて、熱収縮性複合繊維(A)と熱接着性複合繊維(B)とが混合した状態で含むことを意味している。
【0009】
本発明の伸縮性不織布は、融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱収縮性複合繊維(A)を90〜60質量%、及び融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱接着性複合繊維(B)を10〜40質量%、均一に含んでなるウェブが、熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の融点より低い温度での熱処理(1)によって、熱収縮性複合繊維(A)が熱収縮した後、熱接着性複合繊維(B)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の軟化点より5〜10℃高い温度での熱処理(2)によって、当該最も融点の低い樹脂成分を溶融させて繊維間を熱接着し、接合一体化している。
【0010】
本発明で用いる伸縮性不織布を構成する熱収縮性複合繊維(A)と熱接着性複合繊維(B)は、その繊維長は限定されないが、熱収縮性複合繊維(A)を十分に熱収縮させた後に、熱接着性複合繊維(B)を熱接着させることから、一般的に10〜100mm程度にカットされた短繊維が好ましい。
【0011】
目的とする伸縮性不織布の伸縮性と伸縮時の強力をバランスよく発現させる点で、本発明の伸縮性不織布は、熱収縮性複合繊維(A)が90〜60質量%と熱接着性複合繊維(B)が10〜40質量%の比率で均一に混合されてなるウェブから作られる。中でも好ましいのは、熱収縮性複合繊維(A)が85〜65質量%と熱接着性複合繊維(B)が15〜35質量%の比率で均一に混合されてなるウェブから作られる伸縮性不織布である。
このようなウェブは、公知の装置、例えばカード機、ランダムウェバーなどの装置により、熱収縮性複合繊維(A)と熱接着性複合繊維(B)とを、(A):(B)=90:10〜60:40の質量比率で混合し、製造することができる。
【0012】
熱収縮性複合繊維(A)の割合が、90〜60質量%の範囲にあることで、伸縮性(回復率)、伸縮時の強力及び不織布の地合いを良好にすることができる。
【0013】
本発明で用いられる熱収縮性複合繊維(A)は、融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分からなる熱収縮性複合繊維である。該熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分としては、プロピレンを主として、エチレンおよびα−オレフィンより選ばれた1種または2種とプロピレンとのオレフィン−プロピレンランダム共重合体を例示できる。α−オレフィンとしては、例えばブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1などを例示できる。これらエチレンおよびα−オレフィンのうち2種類以上を併用することもできる。オレフィン−プロピレンランダム共重合体の具体例として、エチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン−ブテン−1ランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1ランダム共重合体、プロピレン−ヘキセン−1ランダム共重合体、プロピレン−オクテン−1ランダム共重合体など、およびこれらの混合物を例示することができ、重合の形態は通常、ランダム共重合体であるが、ブロック共重合体が混合物として含まれていてもよい。前記最も融点の低い樹脂成分は、熱収縮性複合繊維(A)を製造する工程、すなわち紡糸・延伸工程における加工性や熱処理(1)の工程で熱収縮を発現させる際に、繊維間の熱接着を発現しないことが好ましいことから、その融点は、熱処理(1)の処理温度より5〜20℃高い融点であることが好ましい。そのため、前記最も融点の低い樹脂成分が、オレフィン−プロピレンランダム共重合体の場合、その融点は、125〜138℃の範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明の熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分がオレフィン−プロピレンランダム共重合体である場合には、90〜98質量%のプロピレン、1〜7質量%のエチレン、1〜5質量%のブテン−1からなるエチレン−プロピレン−ブテン−1ランダム共重合体や、90〜98質量%のプロピレン、2〜10質量%のエチレンからなるエチレン−プロピレンランダム共重合体が、コスト面からも好ましく、熱によって収縮処理する際の低温加工性、収縮力の観点からは、90〜97質量%のプロピレン、3〜10質量%のエチレンからなるエチレン−プロピレンランダム共重合体や、90〜96質量%のプロピレン、3〜7質量%のエチレン、1〜5質量%のブテン−1からなるエチレン−プロピレン−ブテン−1ランダム共重合体を用いることがより好ましい。これら共重合体において、プロピレンが90質量%以上であれば、融点が低くなり過ぎることがなく、該熱収縮性複合繊維(A)を紡糸・延伸により製造する際の加工性低下や熱収縮時に繊維間の熱接着が発生しにくく、不織布にした際に十分な伸縮性が得られる。また、プロピレンが98質量%以下であれば、熱収縮時に十分な収縮が発生し、不織布にした際に十分な伸縮性が得られる。
【0015】
なお、熱収縮性複合繊維(A)の熱収縮性を極端に低下させない程度、または熱収縮性を軽度に抑制する程度であれば、必要に応じて熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分、例えばオレフィン−プロピレンランダム共重合体に、二酸化チタン,炭酸カルシウムおよび水酸化マグネシウムなどの無機物や、難燃剤、顔料及びその他のポリマーを添加しても差し支えない。
【0016】
本発明で用いる熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、融点の高い樹脂成分としては、プロピレン単独重合体もしくはエチレン−プロピレンブロック共重合体が好適に用いられ、繊維の剛性面からプロピレン単独重合体がより好ましい。このようなプロピレン単独重合体もしくはエチレン−プロピレンブロック共重合体は、汎用のチーグラー・ナッタ触媒などから得られる。前記融点の高い樹脂成分は、熱処理(2)の工程で溶融せずに繊維の形態を保持する必要がある点から、熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分との融点差が、20℃以上であることが好ましい。そのため、前記融点の高い樹脂成分が前記プロピレン単独重合体もしくはエチレン−プロピレンブロック共重合体の場合、その融点は、158℃以上であることが好ましい。
【0017】
なお、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち融点の高い樹脂成分であるプロピレン単独重合体もしくはエチレン−プロピレンブロック共重合体に、二酸化チタン,炭酸カルシウムおよび水酸化マグネシウムなどの無機物や、難燃剤、顔料及びその他のポリマーを添加しても差し支えない。
【0018】
本発明における熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分と融点の高い樹脂成分の面積比(例えば、偏心鞘芯型複合繊維である場合には、繊維を繊維軸方向と直交する方向に切った切断面における鞘成分(融点の低い樹脂成分)と芯成分(融点の高い樹脂成分)の面積比)が、30/70〜70/30の範囲であることが好ましく、さらに40/60〜60/40の範囲であることがより好ましい。この面積比が30/70〜70/30であれば、熱処理(1)の工程で生じる熱収縮力から繊維に十分なスパイラル状の捲縮を付与させることができるため伸縮性に優れた伸縮性不織布を得ることができる。また、上記面積比の範囲内であれば、十分なスパイラル状の捲縮を付与させることができるため熱収縮も多く、十分な伸縮性を得ることができる。
【0019】
本発明における熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分と融点の高い樹脂成分の複合形態は、融点の低い樹脂成分を鞘側に配置した偏心鞘芯型であることが好ましい。さらに、好ましいのは、最も融点の低い樹脂成分が、繊維表面の30〜95%を占めている偏心鞘芯型複合繊維である。このような熱収縮性複合繊維(A)であると、熱収縮時、スパイラル状の捲縮が、より発現しやすくなり、不織布の伸縮性向上効果が高まる。
【0020】
本発明に用いる熱収縮性複合繊維(A)は、熱処理(1)によってスパイラル捲縮を発現し得る性能を有しているという条件のもとで、本発明の効果を妨げない程度に、ジグザグ型やオーム型などの少なくとも1種類の捲縮形状を持つ機械捲縮が事前に長さ方向に連続して付与されている繊維であってもよい。
【0021】
また、本発明における熱収縮性複合繊維(A)は、この繊維を単独で用いてカード機により作成した目付け200g/m2のカードウェブを縦25cm×横25cmにカットし、熱風乾燥機により、145℃で5分間熱処理を行った後、放冷し、MD方向(MD方向とは、カードウェブが、カード機から繰り出される方向をいう。)の長さを測定して得られた熱収縮率が、60%以上であることが好ましく、得られた不織布の伸縮性や伸縮時の強力をよりバランスよく発現させる点で、70%以上であることが、より好ましい。
【0022】
本発明で用いられる熱接着性複合繊維(B)は、融点の異なる少なくとも2種の樹脂を用いて得られた熱接着性複合繊維であり、得られる不織布が良好な伸縮性を有するという点で、ジグザグ型、スパイラル型やオーム型の捲縮を有するものが好ましく、中でもスパイラル型の捲縮を有するものがより好ましい。熱接着性複合繊維(B)は、熱処理(2)で、当該熱接着性複合繊維(B)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の熱溶融によって、熱接着性複合繊維(B)同士の交点及びまたは熱収縮性複合繊維(A)との交点が熱接着するような複合繊維である。
【0023】
本発明で用いられる熱接着性複合繊維(B)は、融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱接着性複合繊維であり、熱接着性複合繊維(B)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分として、高密度ポリエチレンが好ましく、本発明の効果を著しく損なわなければ、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどの他のポリマーを添加してもよい。得られる伸縮性不織布が、充分な伸縮性を得るためには、前記最も融点の低い樹脂成分は、熱処理(1)の工程で熱収縮性複合繊維(A)の熱収縮を発現させる際に、熱接着性複合繊維(B)の熱接着性を発現しないことが好ましい。そのため、熱接着性複合繊維(B)を構成する樹脂成分のうち、前記最も融点の低い樹脂成分が、高密度ポリエチレンの場合には、その融点は、125〜135℃の範囲であることが好ましい。
【0024】
本発明で用いる熱接着性複合繊維(B)を構成する融点の高い樹脂成分として、プロピレン単独重合体もしくはポリエチレンテレフタレートが好適に用いられる。前記融点の高い樹脂成分の融点は、熱処理(2)の工程で溶融せずに繊維の形態を保持し、不織布となった際に、不織布の剛性を高める点から、前記最も融点の低い樹脂成分との融点より、20℃以上高い融点を有することが好ましい。そのため、前記融点の高い樹脂成分が、プロピレン単独重合体もしくはポリエチレンテレフタレートの場合には、その融点は、158℃以上であることが好ましい。
【0025】
本発明で用いられる熱接着性複合繊維(B)を構成する融点の高い樹脂成分としては、プロピレン単独重合体が利用できる。プロピレン単独重合体は、汎用のチーグラー・ナッタ触媒などから得られる。また、本発明の効果を著しく損なわなければ、少量のエチレンおよび/またはブテン−1との共重合であるエチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1ランダム共重合体およびプロピレン−ブテン−1ランダム共重合体であっても構わない。
【0026】
本発明における熱接着性複合繊維(B)の融点の低い樹脂成分と融点の高い樹脂成分との複合形態は、熱接着性複合繊維(B)が、熱処理(1)において、熱収縮性複合繊維(A)の熱収縮性よりも小さい熱収縮性を有するか、もしくは、非熱収縮性であるという条件のもと、同心鞘芯型、偏心鞘芯型、並列型などの構造を採用できる。熱処理(1)において、熱収縮性複合繊維(A)の熱収縮性よりも小さい熱収縮性を示すという条件のもと、スパイラル状の捲縮が、発現しやすくなる点から、融点の低い成分を鞘側に配置した偏心鞘芯型であることが好ましく、さらには、よりスパイラル型の立体捲縮が発現しやすくするため、融点の高い樹脂成分が一部繊維表面に露出した形態であることがより好ましい。
【0027】
また、熱接着性複合繊維(B)の融点の低い樹脂成分と融点の高い樹脂成分の面積比、すなわち繊維を繊維軸方向と直交する方向に切った切断面における鞘成分(例えば、それが鞘芯型複合繊維である場合には、融点の低い樹脂成分)と芯成分(融点の高い樹脂成分)の面積比が、30/70〜70/30の範囲であることが好ましく、さらに40/60〜60/40の範囲であることがより好ましい。さらに熱接着性複合繊維(B)に剛直性を持たせるために融点の高い樹脂成分の比率を上げて、融点の低い樹脂成分と高い樹脂成分が50/50〜40/60の範囲とするのがより好ましい。熱接着性複合繊維(B)の融点の低い樹脂成分と高い樹脂成分が30/70〜70/30の範囲内であれば、不織布の伸縮性と伸縮時の強力のバランスが良好であり、両方の性能を維持することができる。
【0028】
前述の熱収縮性複合繊維(A)の熱収縮率の測定と同様に、熱接着性複合繊維(B)を単独で用いてカード機により作成した目付け200g/m2のカードウェブを縦25cm×横25cmにカットし、熱風乾燥機により、145℃で5分間熱処理を行った後、放冷し、MD方向の長さを測定して得られた熱収縮率が、10%以下であることが、得られた不織布の伸縮時の強力を効果的に発現させる点において好ましい。
【0029】
本発明では、熱処理(2)の工程で、熱接着性複合繊維(B)が熱接着性を発現するが、繊維間の接着を強化するため、同工程において、熱収縮性複合繊維(A)においても熱接着性が発現されることを排除しない。しかし、熱収縮性複合繊維(A)による熱接着性の発現が強すぎると、繊維間が強固に一体化されるために、伸縮性が失われがちとなる。伸縮性と伸縮時の強力とのよりよいバランスを有するためには、熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の融点が、熱接着性複合繊維(B)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の融点に対し、7℃を超えて低くないことが好ましく、5℃を超えて低くないことがより好ましい。
【0030】
以下に本発明において使用する熱収縮性複合繊維(A)及び熱接着性複合繊維(B)を製造する工程を示す。融点の低い樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を形成するように並列型口金、または融点の低い成分を鞘成分とし融点の高い成分を芯成分とする鞘芯型口金、若しくは偏心鞘芯型口金を用い、通常用いられる溶融紡糸機により熱可塑性樹脂を紡出し、引取機で引き取る。このとき、口金直下をクエンチにより送風し、半溶融状態の熱可塑性樹脂を冷却することによって、未延伸状態の複合繊維を製造することができる。このとき、溶融した熱可塑性樹脂の吐出量及び未延伸糸の引取速度を任意に設定し、目標繊度に対して1〜5倍程度の繊維径の未延伸糸とする。
【0031】
得られた未延伸糸は、通常用いられる延伸機により延伸することによって、延伸糸(捲縮加工前の複合繊維)とすることができる。なお、通常の場合、40〜120℃に加熱したロールとロールとの間を、ロール間の速度比が1:1〜1:5の範囲となるように延伸処理を施す。得られた延伸糸は必要に応じて、ボックス型の捲縮加工機により捲縮が付与されトウとする。
【0032】
繊維処理剤の付着工程については、未延伸糸の引き取り時にキスロールにて付着する方法や、延伸時及び/または延伸後にタッチロール法、浸漬法、噴霧法などで付着する方法があり、これらの方法の少なくとも一種の工程にて付着される。該トウを、押し切りカッターを用いて用途に合わせた任意の繊維長に切断し、使用される。
【0033】
このようにして得られた熱収縮性複合繊維(A)及び熱接着性複合繊維(B)を、(A):(B)=90:10〜60:40の質量比率で均一に混合してウェブを得る。
ウェブの作製は、カード機、ランダムウェバーなど公知の装置を用いて、常法にて行うことができる。こうして融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱収縮性複合繊維(A)を90〜60質量%、及び融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱接着性複合繊維(B)を10〜40質量%、均一に含んでなるウェブが得られる。
こうして得たウェブに、熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の融点より低い温度で熱処理(1)を施して熱収縮性複合繊維(A)を熱収縮させ、次いで熱接着性複合繊維(B)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の軟化点より5〜10℃高い温度で、上記ウェブに熱処理(2)を施して、当該最も融点の低い樹脂成分を溶融させて繊維間を熱接着し、接合一体化させる。
【0034】
熱処理(1)で熱収縮性複合繊維(A)のみを熱処理し、この熱収縮させた熱収縮性複合繊維(A)と熱接着性複合繊維(B)を混合して、熱処理(2)により不織布を得る方法も考えられる。しかしながら、この方法では、熱処理(1)で熱収縮性複合繊維(A)同士が、スパイラル状の捲縮を発現することによる熱収縮によって複雑に絡まり合うため、この状態の熱収縮性複合繊維(A)に熱接着性複合繊維(B)を混合してもそれぞれの繊維を均一に分散させることが難しく、充分な伸縮性が得られなくなる。また、カード機などによりウェブを作成する際、スパイラル状に捲縮した熱収縮性複合繊維(A)が必要以上の応力を受け、引き伸ばされることによって、伸縮性の性能を低下させる原因ともなる。
【0035】
従って、まず、熱によって処理されていない熱収縮性複合繊維(A)と熱によって処理されていない熱接着性複合繊維(B)とを混合してウェブを作製する(このウェブは、熱収縮性複合繊維(A)と熱接着性複合繊維(B)とが均一に混合され、均一に含んでいる。)。その後、熱処理(1)でウェブ中の熱収縮性複合繊維(A)を熱収縮させることで、スパイラル状の捲縮を発現させ、引き続いて、熱処理(2)でウェブ中の熱接着性複合繊維(B)を、熱接着させることで、繊維間を接合一体化させる。得られる不織布は、接合された繊維間や繊維の格子の間にスパイラル状に捲縮した熱収縮性複合繊維(A)が介在することによって、いわゆるバネ状の効果をより効果的に発現するため、不織布の風合いや均一性を損なうことなく、従来にない伸縮性と伸縮時の強力のバランスに優れる。
【0036】
上述のウェブへの熱処理の具体的態様として以下のような態様が挙げられる。熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の融点より5〜20℃低い温度で熱処理(1)することによって、先ず熱収縮性複合繊維(A)を熱収縮させる。熱収縮性複合繊維(A)がスパイラル状に捲縮することによって熱収縮を発現させる。この熱処理(1)は赤外線加熱、熱風ドライヤー、加熱ロールなど公知の装置によって行うことができる。熱収縮を発現させたウェブを同様の装置により、熱接着性複合繊維(B)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の軟化点より5〜10℃高い温度で熱処理することによって、熱接着性複合繊維(B)の融点の低い樹脂成分による熱接着により繊維間を接合一体化することによって目的とする伸縮性不織布を製造することができる。
【実施例1】
【0037】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例、比較例において用いられている用語の定義及び測定方法は以下の通りである。
(1)融点・軟化点:(単位:℃)
ティー・エイ・インスツルメント製示差走査熱量計DSC−Q10により、熱可塑性重合体を10℃/分で昇温した時に得られた融解吸収曲線上のピークに対応する温度をその熱可塑性重合体の融点とし、このピークの立ち上がり部分の最大傾斜の点で引いた接線とピーク前のベースラインとを外挿して得られる交点の温度である補外融解開始温度を軟化点とした。
(2)繊度:(単位:dtex)
JIS L 1015に準じて測定した。
【0038】
(3)MFR:(単位:g/10min)
JIS K 7210(230℃、21.18N)に準じて測定した。MFRは熱可塑性重合体を試料とし測定した値である。
(4)熱収縮率
熱収縮性複合繊維(A)もしくは熱接着性複合繊維(B)を単独で用いて、大和機工製ミニチュアカード機により作成した目付け200g/m2のカードウェブを縦25cm×横25cmにカットし、熱風乾燥機により、145℃で5分間熱処理を行った。その後、放冷し、MD方向の長さcm(X)を測定し、(1)式より熱収縮率を算出した。
((25−X)/25)×100=熱収縮率(%)・・・・・・・・・・(1)式
【0039】
(5)伸長回復率及び引張強力
作成した不織布から長さ150mm、幅25mmの試験片を長さ方向がMD方向になるように切り出し、島津製作所製引張試験機オートグラフAGS−Jを用い、チャック間100mm、引張速度300mm/minで、引張伸度が50%になるまで引っ張り、その後すぐにチャック間100mmに戻すという動作を連続して10回繰り返し、各引っ張り回数毎に最大引張強力(50%引っ張った際の強力)と引張強力が0に戻った伸度(L)を測定し、(2)式より伸長回復率を算出した。10回目の伸長回復率と最大引張強力(50%引っ張った際の強力、単位N)を求めた。
((50−L)/50)×100=伸長回復率(%)・・・・・・・・(2)式
(6)地合い
作成した不織布の地合いについて以下のような3段階の基準で目視判定した。
良好(○):均一に熱収縮を起こし、地合いが良好な不織布が得られたもの
良(△):ほぼ均一に熱収縮を起こし、地合いの乱れが僅かに見られるもの
不良(×):熱収縮が均一に起こらず地合いの乱れがあるもの
【0040】
用いた熱収縮性複合繊維及び熱接着性複合繊維の繊維形態及び製造方法について、表1、2に示した。
(1)本発明の熱収縮性複合繊維(A)である熱収縮性複合繊維−1及び2について表1に示す。表1に示すように融点の異なる2種の樹脂成分を用い、押出機、孔径0.8mmの並列型紡糸口金と、引取り機、巻取り装置等を備えた紡糸装置と、多段加熱ロールとスタッファーボックス型クリンパー(蒸気による捲縮形状の固定が可能)を備えた延伸装置を用い、表1に示した条件で各熱収縮性複合繊維を製造した。
(2)本発明の熱接着性複合繊維(B)である熱接着性複合繊維−1〜3について表2に示す。表2に示すように融点の異なる2種の樹脂成分を用い、押出機、孔径0.8mmの偏心鞘芯型紡糸口金と、引取り機、巻取り装置等を備えた紡糸装置と、多段加熱ロールとスタッファーボックス型クリンパー(蒸気による捲縮形状の固定が可能)とを備えた延伸装置を用い、表2に示した条件で各熱接着性複合繊維を製造した。
【0041】
[実施例1]
表1、2に示した熱収縮性複合繊維−1と熱接着性複合繊維−1を表3に示す混合比率75/25の比率で混合し、大和機工製ミニチュアカード機により目付25g/m2のウェブを作成し、熱処理(1)として、熱風ドライヤーに通し、120℃の設定温度、平均風速0.8m/sec、加工時間12secの条件で、熱収縮性複合繊維−1にスパイラル状の捲縮を発生させることによる収縮を発現させた。続いて、熱処理(2)として、同様に熱風ドライヤーを通し、130℃の設定温度、平均風速0.8m/sec、加工時間12secの条件で、熱接着複合繊維−1による熱接着により、繊維間の接合一体化された不織布を作成した。
熱処理(1)、(2)による事象の発現について、各熱処理終了後のサンプルを走査電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、熱処理(1)後では、熱収縮性複合繊維のスパイラル状の捲縮発生と繊維間の熱接着が発生していないことが確認され、熱処理(2)後では、熱処理(1)で確認されなかった繊維間の熱接着が確認された。
以上のように作成された不織布を用い、上述のように不織布の地合いを確認し、引張試験機により伸長回復率、伸長時の強力を測定した。
【0042】
[実施例2〜7、比較例1〜5]
表3に示した熱収縮性複合繊維及び熱収縮性複合繊維の組み合わせ及び混合比率、熱処理(1)、(2)の温度に変更した以外は、実施例1と同じ方法で不織布を作成し、伸長回復率、伸長時の強力を測定した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
実施例1〜7の結果から明らかなように、本発明の伸縮性不織布は、地合いが良好で、繰り返し引張試験をした際に、その伸長回復率と10回目の50%伸長時の強力のバランスに優れている。
これに対し、比較例1のように、熱接着性複合繊維を用いない場合には、伸長回復率は良好であるが、10回目の伸長時の強力が極端に低く、伸長回復率と伸長時の強力のバランスが悪い。
比較例2、3では、熱処理(2)、(1)の温度が高すぎると10回目の50%伸長時の強力は高くなるが、地合いや伸長回復率が低下する。
比較例4では、熱収縮性複合繊維の混合比率が低すぎると10回目の50%伸長時の強力が、低下する。これは熱接着性複合繊維の混合比率が高くなったことにより、熱接着による繊維間の接合点が多くなり、繰り返し引張試験の初期段階では、50%伸長時の強力は、高い値を示すが、何回も繰り返されることによって、繊維間の接合点が破壊され、10回目の50%伸長時の強力は、低くなってしまうためである。
比較例5は、熱収縮性複合繊維−2を用い、熱接着性複合繊維の繊度を大きくした以外は比較例2と同じであるが、繊度に関係なく、熱処理(2)の温度が高すぎると、比較例2同様の結果となる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の不織布は、繰り返しの伸長回復率と伸長時の強力のバランスに優れており、伸び縮みを繰り返しても高い伸長時の強力を保持し、使い捨てマスクの耳掛け部材、パップ剤の基布、包帯、サポーター等として使用できる。また、この伸縮性は、弾性体としての効果もあり、従来の用途にこのような効果を付加させることによって、高機能化させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱収縮性複合繊維(A)を90〜60質量%、及び融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱接着性複合繊維(B)を10〜40質量%、均一に含んでなるウェブが、熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の融点より低い温度での熱処理(1)によって、熱収縮性複合繊維(A)が熱収縮した後、熱接着性複合繊維(B)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の軟化点より5〜10℃高い温度での熱処理(2)によって、当該最も融点の低い樹脂成分を溶融させて繊維間を熱接着することによって、接合一体化している伸縮性不織布。
【請求項2】
熱収縮性複合繊維(A)が、プロピレン単独重合体もしくはエチレン−プロピレンブロック共重合体と、エチレンおよびα−オレフィンより選ばれた1種または2種とプロピレンとのオレフィン−プロピレンランダム共重合体、とで構成されており、熱接着性複合繊維(B)が、プロピレン単独重合体もしくはポリエチレンテレフタレートと、エチレン単独重合体、とで構成されている請求項1記載の伸縮性不織布。
【請求項3】
熱収縮性複合繊維(A)が、最も融点の低い樹脂成分を鞘側に配置した偏心鞘芯型であり、当該樹脂成分が、繊維表面の30〜95%を占めている請求項1または2記載の伸縮性不織布。
【請求項4】
融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱収縮性複合繊維(A)と融点の異なる少なくとも2種の樹脂成分を用いて得られた熱接着性複合繊維(B)とを、(A):(B)=90:10〜60:40の質量比率で均一に混合してウェブを得て、熱収縮性複合繊維(A)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の融点より低い温度で該ウェブに熱処理(1)を施して熱収縮性複合繊維(A)を熱収縮させ、次いで熱接着性複合繊維(B)を構成する樹脂成分のうち、最も融点の低い樹脂成分の軟化点より5〜10℃高い温度で、上記ウェブに熱処理(2)を施して、当該最も融点の低い樹脂成分を溶融させて繊維間を熱接着することによって、接合一体化させることを含む、伸縮性不織布の製造方法。

【公開番号】特開2013−19076(P2013−19076A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154317(P2011−154317)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(399120660)JNCファイバーズ株式会社 (41)
【Fターム(参考)】