説明

位相差フィルムおよびその製造方法ならびに表示装置

【課題】基板として熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムを用いた位相差フィルムおよびその製造方法と、そのような位相差フィルムを備えた表示装置とを提供する。
【解決手段】基材10である熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム上に、50重量部以上90重量部以下の3官能以上のアクリレートモノマーを含むアンカー材11Dが塗布され、その後、アンカー材11Dが乾燥され、硬化されることにより、アンカー層11が形成される。そして、そのアンカー層11の上に配向膜12および位相差層(図示せず)が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異方性を有する位相差フィルムおよびその製造方法に関する。また、本発明は、光学異方性を有する位相差フィルムを備えた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、偏光眼鏡を用いるタイプの立体映像表示装置として、左目用画素と右目用画素とで異なる偏光状態の光を射出させるものがある。このような表示装置では、視聴者が偏光眼鏡をかけた上で、左目用画素からの射出光を左目のみに入射させ、右目用画素からの射出光を右目のみに入射させることにより、立体映像の観察を可能とするものである。
【0003】
例えば、特許文献1では、左目用画素と右目用画素とで異なる偏光状態の光を射出させるために位相差フィルムが用いられている。この位相差フィルムでは、一の方向に遅相軸または進相軸を有する位相差領域が左目用画素に対応して設けられ、上記位相差領域とは異なる方向に遅相軸または進相軸を有する位相差領域が右目用画素に対応して設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3360787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の位相差フィルムを表示パネルの表示面に貼り合わせる際に、位相差領域と表示パネルの画素との位置合わせをすることが必要となる。通常、位相差フィルムおよび表示パネルには共にガラス基板が用いられており、位相差フィルムおよび表示パネルが外部環境によって膨張したり収縮したりすることはほとんどない。そのため、位相差領域のピッチと画素のピッチとがあらかじめ同じになるように位相差フィルムおよび表示パネルを作成しておけば、位相差フィルムと表示パネルとを互いに貼り合わせる際に、位相差領域と画素との間で位置ずれが生じる虞はない。
【0006】
しかし、位相差フィルムの基材として樹脂フィルムを用いた場合には、その樹脂フィルムが外部環境によって膨張したり収縮したりする可能性がある。そこで、位相差フィルムの基材として、寸法安定性の極めて高い熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムを用いることが考えられる。しかし、この樹脂フィルムは、他の樹脂との密着性が低く、位相差フィルムの基材には向いていないという問題がある。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、基板として熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムを用いた位相差フィルムおよびその製造方法を提供することにある。また、第2の目的は、そのような位相差フィルムを備えた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の位相差フィルムは、熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム、アンカー層、配向膜、および位相差層をこの順に積層して構成されたものである。この位相差フィルムにおいて、アンカー層は、50重量部以上90重量部以下の3官能以上のアクリレートモノマーを含むアンカー材を熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム上に塗布したのち、乾燥させ、硬化させることにより形成されたものである。
【0009】
本発明の表示装置は、複数の画素電極が行列状に配置された表示パネルと、表示パネルに貼り合わされた位相差フィルムとを備えたものである。この表示装置に含まれる位相差フィルムは、上記の位相差フィルムと同一の構成要素を有している。
【0010】
本発明の位相差フィルムおよび表示装置では、熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムと配向膜との間に、上述のようにして形成されたアンカー層が設けられている。これにより、アンカー層が熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムに強固に密着するので、配向膜が熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムに密着し難い材料によって構成されている場合であっても、配向膜を、アンカー層を介して熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムに強固に密着させることができる。
【0011】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、以下の2つの工程を含むものである。
(A)熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム上に、50重量部以上90重量部以下の3官能以上のアクリレートモノマーを含むアンカー材を塗布したのち、乾燥させ、硬化させることによりアンカー層を形成する第1工程
(B)アンカー層上に、配向膜および位相差層をこの順に形成する第2工程
【0012】
本発明の位相差フィルムの製造方法では、熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム上に、上述のようにしてアンカー層を形成した後で、配向膜および位相差層が形成される。これにより、アンカー層が熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムに強固に密着するので、配向膜が熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムに密着し難い材料によって構成されている場合であっても、配向膜を、アンカー層を介して熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムに強固に密着させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の位相差フィルムおよびその製造方法、ならびに表示装置によれば、配向膜を、アンカー層を介して熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムに強固に密着させるようにしたので、配向膜が剥離したり、位相差フィルムの寸法が大きく変化したりするのを低減することができる。従って、熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムを基板として用いた位相差フィルムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る位相差フィルムの構成の一例を表す断面図である。
【図2】図1の位相差フィルムの製造過程の一例を表す概念図である。
【図3】アンカー材に使用する材料を表す図である。
【図4】官能の数と、密着性および寸法変化率との関係の一例を表す図である。
【図5】図1のアンカー層の膜厚と、密着性および寸法変化率との関係の他の例を表す図である。
【図6】図1の位相差フィルムの一適用例である表示装置および偏光眼鏡の構成の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。

1.実施の形態(位相差フィルム)
2.適用例(表示装置)
【0016】
<実施の形態>
[構成]
図1(A)は、本発明の一実施の形態に係る位相差フィルム1の断面構成の一例を表すものである。図1(B)は、図1(A)の配向膜13を表面側からみたものである。位相差フィルム1は、例えば、図1(A)に示したように、基材10上に、アンカー層11、配向膜12および位相差層13を基材10側からこの順に積層して構成されたものである。
【0017】
基材10は、熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムによって構成されている。この熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムは、寸法安定性に優れており、外部環境によって膨張したり収縮したりすることのほとんどないフィルムである。上市されているフィルムの中で熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムに相当するものとしては、例えば、ゼオノア(日本ゼオン株式会社製)が挙げられる。
【0018】
アンカー層11は、配向膜12を基材10に強固に密着させるための接着層である。アンカー層11は、基材10に強固に密着しており、かつ配向膜12との密着性に優れている。アンカー層11は、後に詳述するように、50重量部以上90重量部以下の3官能以上のアクリレートモノマーを含むアンカー材を基材10上に塗布したのち、乾燥し、硬化(重合)させることにより形成されたものである。そのため、アンカー層11は、原料であるアクリレートモノマーをほとんど含有していない。ただし、アンカー層11に対してIR(infrared absorption spectrometry)スペクトル分析を行うと、アンカー層11内にわずかに残留しているアクリル系の成分が検出される。なお、アンカー層11の原料についての説明は、後の製造方法の説明の際に詳述するものとする。
【0019】
配向膜12は、製造過程において、位相差層13の原料である液晶性モノマーを配向させるためのものである。配向膜12は、アンカー層11を介して基材10上に形成されており、その表面に、2種類の溝領域12a,12bを有している。溝領域12a,12bは、例えば、図1(B)に示したように、帯状の形状となっており、かつ溝領域12a,12bの延在方向と交差する方向に交互に配列されている。これらのストライプ幅は、例えば表示装置(後述)における画素ピッチと同等の幅となっている。
【0020】
溝領域12aは、互いに同一の方向に延在する複数の溝12Aによって構成されている。各溝12Aは、例えば、溝領域12aの延在方向と90度以外の角度で交差する方向に延在している。溝領域12bは、互いに同一の方向に延在する複数の溝12Bによって構成されている。各溝12Bは、例えば、溝領域12bの延在方向と90度以外の角度で交差する方向であって、かつ溝領域12aの延在方向とは異なる方向に延在している。例えば、図1(B)に示したように、溝12Aの延在方向と溝12Bの延在方向とは、互いに直交しており、かつ溝領域12aと溝領域12bとの境界線Bに接する溝領域12a,12bは、境界線Bに対して互いに線対称な方向に延在している。
【0021】
位相差層13は、配向膜12の溝領域12a,12bに接して形成されたものである。位相差層13は、帯状の位相差領域13a,13bが交互に配列されたものである。位相差領域13aは溝領域12aに接して形成されており、位相差領域13bは溝領域12bに接して形成されている。位相差領域13a,13bは、互いに異なる位相差特性を持っている。具体的には、位相差領域13aは、溝12Aの延在方向に光学軸を有しており、位相差領域13bは、溝12Bの延在方向に光学軸を有している。
【0022】
位相差層13は、例えば、重合した高分子液晶材料を含んで構成されたものである。すなわち、位相差層13では、液晶分子(図示せず)の配向状態が固定されている。高分子液晶材料としては、相転移温度(液晶相−等方相)、液晶材料の屈折率波長分散特性、粘性特性、プロセス温度などに応じて選定された材料が用いられる。但し、重合基としてアクリロイル基あるいはメタアクリロイル基を有していることが、透明性の観点から好ましい。また、重合性官能基と液晶骨格との間にメチレンスペーサのない材料を用いることが好ましい。プロセス時の配向処理温度を低くすることができるためである。この位相差層13の厚みは、例えば0.1μm〜10μmである。なお、位相差層13が、重合した高分子液晶材料を含んで構成されている場合に、位相差層13が、重合した高分子液晶材料だけで構成されている必要はなく、その一部に未重合の液晶性モノマーを含んでいてもよい。これは、位相差層13に含まれる未重合の液晶性モノマーは、後述の配向処理(加熱処理)によって、その周囲に存在する液晶分子(図示せず)の配向方向と同様の方向に配向しており、高分子液晶材料の配向特性と同様の配向特性を有しているからである。
【0023】
溝領域12aと位相差領域13aとの界面付近では、液晶分子の長軸が溝12Aの延在方向に沿っている。また、位相差領域13aの上層の液晶分子についても、下層の液晶分子の配向方向に倣って配向している。すなわち、溝領域12aにおいて所定の方向に延在する溝12Aの形状により、液晶分子の配向が制御され、位相差領域13aの光学軸が設定される。同様に、溝領域12bと位相差領域13bとの界面付近では、液晶分子の長軸が溝12Bの延在方向に沿っている。また、位相差領域13bの上層の液晶分子についても、下層の液晶分子の配向方向に倣って配向している。すなわち、溝領域12bにおいて所定の方向に延在する溝12Bの形状により、液晶分子の配向が制御され、位相差領域13bの光学軸が設定される。
【0024】
また、位相差層13において、位相差領域13a,13bの構成材料や厚みを調整することにより、位相差層13のリタデーション値が設定される。この位相差層13のリタデーション値は、基材10が位相差を有する場合には、この基材10の位相差をも考慮して設定されることが好ましい。
【0025】
[製造方法]
次に、本実施の形態の位相差フィルム1の製造方法の一例について説明する。図2(A)〜(D)は、位相差フィルム1の製造過程の一例を表すものである。
【0026】
まず、溶融押し出し製法により、幅1350mm、厚さ100μmの熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムを作成する。以下では、これを基材10として用いる。次に、アンカー材11Dとして用いる材料を調整する。具体的には、アンカー材11Dとして、50重量部以上90重量部以下の3官能以上のアクリレートモノマーを含む樹脂材料を用いる。より具体的には、アンカー材11Dとして、50重量部以上90重量部以下の3官能以上のアクリレートモノマーと、相溶性の良いエステル系の樹脂と、樹脂の硬度を高めるウレタン系の樹脂とを含む樹脂材料を用いる。アンカー材11Dに含まれるアクリレートモノマーは、他の材料としてエステル系の樹脂およびウレタン系の樹脂が含まれている場合には、50重量部以上65重量部以下となっていることが好ましい。熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムに対するアンカー材11Dとしては、アクリレートモノマーを60重量部、エステル系の樹脂を20重量部、ウレタン系の樹脂を20重量部、含んだものが最も好ましい。
【0027】
図3の実施例1、2、3に、アンカー材11Dに含まれる材料の具体例を示す。実施例1に記載のアンカー材11Dは、ペンタエリストールトリアクリレート(東亜合成製:アロニックスM−305)60重量部、ポリエステルアクリレート(東亜合成製:アロニックスM−9050)20重量部、UVウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学製:UV7605B)20重量部、含んでいる。このアンカー材11Dは、添加剤として、光重合開始剤であるイルガキュア−184Dを3.5重量部、レベリング剤を0.01重量部、酢酸ブチルを34重量部、含んでいる。
【0028】
また、実施例2に記載のアンカー材11Dは、ペンタエリストールトリアクリレート(東亜合成製:アロニックスM−306)60重量部、ポリエステルアクリレート(東亜合成製:アロニックスM−8060)20重量部、UVウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学製:UV7630B)20重量部、含んでいる。このアンカー材11Dも、添加剤として、光重合開始剤であるイルガキュア−184Dを3.5重量部、レベリング剤を0.01重量部、酢酸ブチルを34重量部、含んでいる。
【0029】
また、実施例3に記載のアンカー材11Dは、ペンタエリストールテトラアクリレート(東亜合成製:アロニックスM−451)60重量部、ポリエステルアクリレート(東亜合成製:アロニックスM−8030)20重量部、UVウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学製:UV7550B)20重量部、含んでいる。このアンカー材11Dも、添加剤として、光重合開始剤であるイルガキュア−184Dを3.5重量部、レベリング剤を0.01重量部、酢酸ブチルを34重量、含んでいる。
【0030】
次に、例えば、図2(A)に示したように、バーコーター100を用いて、アンカー材11D(例えば、図3の実施例1、2、3に記載の材料を含んで構成されたアンカー材)を、基材10上に塗布する。その後、基材10上のアンカー材11Dに熱Hを加えて乾燥させ(図2(B))、続いて、アンカー材11Dに紫外線Lを照射して硬化させる(図2(C))。このようにして、基材10上にアンカー層11を形成する。このとき、アンカー層11は基材10表面に強固に密着しており、簡単には剥がれることはない。
【0031】
なお、上記の実施例1〜3において、溶剤として酢酸ブチルを用いているが、基材10に影響を及ぼさない溶剤を酢酸ブチルの代わりに用いることも可能である。そのようにした場合であっても、アンカー層11を基材10表面に強固に密着させることが可能である。なお、溶剤として酢酸ブチルのような、基材10表面に荒れを生じさせる溶剤を用いた場合には、その面荒れによって、アンカー層11を基材10表面に、より一層強固に密着させることが可能である。
【0032】
基材10表面に荒れを生じさせる溶剤としては、例えば、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、ジエチルエーテル、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イコペンチル、酢酸エチル、シクロヘキサノン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、1-ブタノール、メタノール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどの一般的な有機溶剤、またはこれらのうち2種類以上を混合したものなどが挙げられる。
【0033】
次に、アンカー層11上に、樹脂層12Dを塗布したのち、配向膜12の溝領域12a,12bの凹凸形状を反転させた形状の溝領域100a,100bを有する原盤100を樹脂層12Dに押し当てる(図2(D))。この状態で、樹脂層12Dを硬化(例えば、熱硬化、紫外線硬化)させ、樹脂層12Dの表面に溝領域100a,100bの形状を転写する。このようにして、アンカー層11上に配向膜12を形成する。
【0034】
次に、図示しないが、配向膜12の表面に、液晶性モノマーを含む液晶層を、例えばロールコータなどでコーティングして形成する。このとき、液晶層として、重合性官能基と液晶骨格の間にメチレンスペーサのない高分子化合物を用いることが好ましい。そのようにした場合には、室温付近でネマティック相を示すため、後の工程における配向処理の加熱温度を低くすることができる。
【0035】
このとき、液晶層には、必要に応じて、液晶性モノマーを溶解させるための溶媒、重合開始剤、重合禁止剤、界面活性剤、レベリング剤などを用いることができる。溶媒としては、特に限定されないが、液晶性モノマーの溶解性が高く、室温での蒸気圧が低く、また室温で蒸発しにくいものを用いることが好ましい。室温で蒸発しにくい溶媒としては、例えば、1−メトキシ−2−アセトキシプロパン(PGMEA)、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが挙げられる。これは、室温で蒸発しやすい溶媒を用いると、液晶層を塗布形成後の溶媒の蒸発速度が速すぎて、溶媒の蒸発後に形成される液晶性モノマーの配向に乱れが生じやすくなるためである。
【0036】
続いて、基材10の表面に塗布された液晶層の液晶性モノマーの配向処理(加熱処理)を行う。この加熱処理は、液晶性モノマーの相転移温度(液晶相−等方相間の相転移温度)以上、溶媒を用いた場合には、この溶媒が乾燥する温度以上の温度、例えば50℃〜130℃で行うようにする。但し、昇温速度や保持温度、時間、降温速度などを制御することが重要である。例えば、相転移温度52℃の液晶性モノマーを、固形分が30重量%となるように、1−メトキシ−2−アセトキシプロパン(PGMEA)に溶解した液晶層12−1を用いた場合には、まず、液晶性モノマーの相転移温度(52℃)以上で溶媒が乾燥する温度、例えば70℃程度に加熱し、数分程度保持する。
【0037】
ここで、前工程における液晶性モノマーのコーティングによって、液晶性モノマーと基板との界面にずり応力が働き、流れによる配向(流動配向)や力による配向(外力配向)が生じ、液晶分子が意図しない方向に配向してしまうことがある。上記加熱処理は、このような意図しない方向に配向してしまった液晶性モノマーの配向状態を一旦キャンセルするために行われる。これにより、液晶層では、溶媒が乾燥して液晶性モノマーのみとなり、その状態は等方相となる。
【0038】
この後、相転移温度(52℃)よりも少し低い温度、例えば47℃まで1〜5℃/分程度で徐冷する。このように、相転移温度以下の温度に降温することにより、液晶性モノマーは、配向膜12の表面に形成された溝領域12a,12bのパターンに応じて配向する。すなわち、液晶性モノマーが溝12A,12Bの延在方向に沿って配向する。
【0039】
続いて、配向処理後の液晶層に対して、例えば紫外線UVを照射することにより、液晶性モノマーを重合させる。なお、このとき、処理温度は、一般に室温付近であることが多いが、リタデーション値を調整するために温度を相転移温度以下の温度まで上げるようにしてもよい。また、紫外線UVに限らず、熱や電子線などを用いるようにしてもよい。但し、紫外線UVを用いた方がプロセスの簡便化を図ることができる。これにより、溝12A,12Bの延在方向に沿って液晶分子(図示せず)の配向状態が固定され、位相差領域13a、13bが形成される。このようにして、図1(A),(B)に示した位相差フィルム1が形成される。
【0040】
次に、アンカー材11Dの主な原料であるアクリレートモノマーの官能数と、位相差フィルム1の特性(密着性、寸法変化率)との関係について、比較例と対比しつつ説明する。図4は、アンカー材11Dの主な原料であるアクリレートモノマーの官能数(図3の樹脂1の欄に記載の樹脂の官能数)と、位相差フィルム1の特性(密着性、寸法変化率)との関係を表したものである。比較例として、アンカー材11Dの主な原料であるアクリレートモノマーの官能数が1であるものを3種類、図3の比較例1〜3に示す。なお、図4には、アンカー材11Dの主な原料であるアクリレートモノマーの官能数が2であるものが記載されているが、そのような材料の具体的な名称などについての記載はここでは省略する。また、図4において、密着性が「×」となっているのは、剥がれが生じたことを意味しており、寸法変化率が「×」となっているのは、実使用に耐えない大きなカールが生じたことを意味している。
【0041】
図4から、1または2官能のアクリレートモノマーがアンカー材11Dに主に含まれている場合には、アンカー層11の硬化収縮率が小さいので、位相差フィルム1の寸法変化率も小さいが、アンカー層11と基材10との間の密着性が悪いことがわかる。一方、5官能以上のアクリレートモノマーがアンカー材11Dに主に含まれている場合には、アンカー層11と基材10との間の密着性が良いが、アンカー層11の硬化収縮率が大きく、位相差フィルム1の寸法変化率も大きくなっていることがわかる。従って、図4からは、アンカー材11Dには、3または4官能のアクリレートモノマーが主に含まれていることが、密着性および寸法変化率の点で好ましいことがわかる。
【0042】
次に、アンカー層11の膜厚と、位相差フィルム1の特性(密着性、寸法変化率)との関係について説明する。図5は、アンカー層11の膜厚と、位相差フィルム1の特性(密着性、寸法変化率)との関係を表したものである。
【0043】
なお、図5において、密着性が「○」となっているのは、アンカー層11の膜厚が同じ位相差フィルム1を100枚作成したときに、剥がれが生じたものが1枚も無かったことを意味している。また、密着性が「Δ」となっているのは、アンカー層11の膜厚が同じ位相差フィルム1を100枚作成したときに、30枚以上80枚以下の範囲内で剥がれが生じなかったことを意味している。また、密着性が「×」となっているのは、アンカー層11の膜厚が同じ位相差フィルム1を100枚作成したときに、剥がれが生じなかったものが1枚も無かったことを意味している。
【0044】
また、図5において、寸法変化率が「○」となっているのは、表示装置への実装に際して何らの調整も必要ない程度の変化率であったことを意味している。また、寸法変化率が「Δ」となっているのは、表示装置への実装に際して微調整により十分に対応可能な程度の小さな変化率であったことを意味している。また、寸法変化率が「×」となっているのは、表示装置への実装に際して大幅な調整が必要な程の大きな変化率であったことを意味している。
【0045】
図5から、アンカー層11の膜厚が0.5μm以上7.5μm以下となっている場合には、密着性および寸法変化率の双方が許容範囲内であることがわかる。また、アンカー層11の膜厚が0.5μm以上3.5μm以下となっている場合には、密着性および寸法変化率の双方において極めて優れていることがわかる。
【0046】
[効果]
本実施の形態では、基材10である熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム上に、50重量部以上90重量部以下の3官能以上のアクリレートモノマーを含むアンカー材11Dが塗布され、その後、アンカー材11Dが乾燥され、硬化されることにより、アンカー層11が形成される。そして、そのアンカー層11の上に配向膜12および位相差層13が形成される。これにより、アンカー層11が熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムに強固に密着するので、配向膜12が熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムに密着し難い材料によって構成されている場合であっても、配向膜12を、アンカー層11を介して熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムに強固に密着させることができる。その結果、配向膜12が剥離したり、位相差フィルム1の寸法が大きく変化したりするのを低減することができる。従って、熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムを基材10として用いた位相差フィルム1を実現することができる。
【0047】
<適用例>
図6は、上記実施の形態の位相差フィルム1の一適用例に係る表示装置2の構成の一例を表すものである。表示装置2は、後述する偏光眼鏡5を眼球の前に装着した観察者(図示せず)に対して立体映像を表示する偏光眼鏡方式の表示装置である。この表示装置2は、バックライトユニット3、表示パネル4および位相差フィルム1をこの順に積層して構成されたものである。この表示装置2において、位相差フィルム1は表示パネル4の光射出側の面に貼り合わされている。位相差フィルム1の表面が映像表示面となっており、観察者側に向けられている。
【0048】
なお、本適用例では、映像表示面が垂直面(鉛直面)と平行となるように表示装置2が配置されている。映像表示面は長方形状となっており、映像表示面の長手方向が水平方向と平行となっている。観察者は偏光眼鏡5を眼球の前に装着した上で、映像表示面を観察するものとする。偏光眼鏡5は円偏光タイプであり、表示装置2は円偏光眼鏡用の表示装置である。
【0049】
[バックライトユニット3]
バックライトユニット3は、例えば、反射板、光源および光学シート(いずれも図示せず)を有している。反射板は、光源からの射出光を光学シート側に戻すものであり、反射、散乱、拡散などの機能を有している。この反射板は、例えば、発泡PET(ポリエチレンテレフタレート)などによって構成されている。これにより、光源からの射出光を効率的に利用することができる。光源は、表示パネル4を背後から照明するものであり、例えば、複数の線状光源が等間隔で並列配置されたり、複数の点状光源が2次元配列されたりしたものである。なお、線状光源としては、例えば、熱陰極管(HCFL;Hot Cathode Fluorescent Lamp)、冷陰極管(CCFL;Cold Cathode Fluorescent Lamp)などが挙げられる。また、点状光源としては、例えば、発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)などが挙げられる。光学シートは、光源からの光の面内輝度分布を均一化したり、光源からの光の発散角や偏光状態を所望の範囲内に調整したりするものであり、例えば、拡散板、拡散シート、プリズムシート、反射型偏光素子、位相差フィルムなどを含んで構成されている。
【0050】
[表示パネル4]
表示パネル4は、複数の画素が行方向および列方向に2次元配列された透過型の表示パネルであり、映像信号に応じて各画素を駆動することによって画像を表示するものである。この表示パネル4は、例えば、図6に示したように、バックライトユニット3側から順に、偏光板41A、透明基板42、画素電極43、配向膜44、液晶層45、配向膜46、共通電極47、カラーフィルタ48、透明基板49および偏光板41Bを有している。
【0051】
ここで、偏光板41Aは、表示パネル4の光入射側に配置された偏光板であり、偏光板41Bは表示パネル4の光射出側に配置された偏光板である。偏光板41A,41Bは、光学シャッタの一種であり、ある一定の振動方向の光(偏光)のみを通過させる。偏光板41A,41Bはそれぞれ、例えば、偏光軸が互いに所定の角度だけ(例えば90度)異なるように配置されており、これによりバックライトユニット3からの射出光が液晶層を介して透過し、あるいは遮断されるようになっている。
【0052】
偏光板41Aの透過軸(図示せず)の向きは、バックライトユニット3から射出された光を透過可能な範囲内に設定される。例えば、バックライトユニット3から射出される光の偏光軸が垂直方向となっている場合には、偏光板41Aの透過軸も垂直方向を向いている。また、例えば、バックライトユニット3から射出される光の偏光軸が水平方向となっている場合には、偏光板41Aの透過軸も水平方向を向いている。なお、バックライトユニット3から射出される光は直線偏光光である場合に限られるものではなく、円偏光や、楕円偏光、無偏光であってもよい。
【0053】
偏光板41Bの偏光軸(図示せず)の向きは、表示パネル4内を透過した光を透過可能な範囲内に設定される。例えば、偏光板41Aの偏光軸の向きが水平方向となっている場合には、偏光板41Bの偏光軸はそれと直交する方向(垂直方向)を向いており、偏光板41Aの偏光軸の向きが垂直方向となっている場合には、偏光板41Bの偏光軸はそれと直交する方向(水平方向)を向いている。
【0054】
透明基板42,49は、一般に、可視光に対して透明な基板である。なお、バックライトユニット3側の透明基板には、例えば、透明画素電極に電気的に接続された駆動素子としてのTFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)および配線などを含むアクティブ型の駆動回路が形成されている。複数の画素電極43は、例えば透明基板42の面内に行列状に配置されている。この画素電極43は、例えば酸化インジウムスズ(ITO;Indium Tin Oxide)からなり、画素ごとの電極として機能する。配向膜44は、例えばポリイミドなどの高分子材料からなり、液晶に対して配向処理を行う。液晶層45は、例えば、VA(Vertical Alignment)モードの液晶からなる。この液晶層45は、図示しない駆動回路からの印加電圧により、バックライトユニット3からの射出光を画素ごとに透過または遮断する機能を有している。共通電極47は、例えばITOからなり、共通の対向電極として機能する。カラーフィルタ48は、バックライトユニット3からの射出光を、例えば、赤(R)、緑(G)および青(B)の三原色にそれぞれ色分離するためのフィルタ部48Aを配列して形成されている。このカラーフィルタ48では、フィルタ部48Aは画素間の境界に対応する部分に、遮光機能を有するブラックマトリクス部48Bが設けられている。
【0055】
[位相差フィルム1]
次に、位相差フィルム1について説明する。位相差フィルム1は、表示パネル4の偏光板41Bを透過した光の偏光状態を変化させるものである。この位相差フィルム1は、例えば、図6に示したように、光射出側から順に、基材10、アンカー層11、配向膜12および位相差層13を有している。
【0056】
基材10の遅相軸は、例えば、水平方向または垂直方向を向いている。位相差層13は、光学異方性を有する薄い層である。この位相差層13は、遅相軸の向きが互いに異なる二種類の位相差領域(位相差領域13a,13b)を有している。
【0057】
位相差領域13a,13bは、例えば、図6に示したように、共通する一の方向(水平方向)に延在する帯状の形状となっている。これら位相差領域13a,13bは、基材10の面内方向に、隣接して規則的に配置されており、具体的には、位相差領域13a,13bの短手方向(垂直方向)に交互に配置されている。従って、位相差領域13a,13bが互いに隣接する(接する)境界線(図示せず)は、位相差領域13a,13bの長手方向(水平方向)と同一の方向を向いている。また、位相差領域13a,13bは、複数の画素電極43の配列に対応して配置されている。
【0058】
位相差領域13a,13bの遅相軸は、例えば、水平方向および垂直方向のいずれの方向とも交差する方向を向いており、基材10の遅相軸とも交差する方向を向いている。位相差領域13a,13bの遅相軸は、表示パネル4の偏光板41Bの偏光軸とも交差する方向を向いている。さらに、位相差領域13aの遅相軸は、後述する偏光眼鏡5の右目用位相差フィルム51Bの遅相軸の向きと同一の方向か、またはその方向と対応する方向を向いており、左目用位相差フィルム52Bの遅相軸の向きと異なる方向を向いている。一方、位相差領域13bの遅相軸は、後述する偏光眼鏡5の左目用位相差フィルム52Bの遅相軸の向きと同一の方向か、またはその方向と対応する方向を向いており、右目用位相差フィルム51Bの遅相軸の向きと異なる方向を向いている。
【0059】
[偏光眼鏡5]
次に、偏光眼鏡5について説明する。偏光眼鏡5は、観察者(図示せず)の眼球の前に装着されるものであり、映像表示面に映し出される映像を観察する際に観察者によって用いられるものである。この偏光眼鏡5は、例えば、図6に示したように、右目用眼鏡51および左目用眼鏡52を有している。
【0060】
右目用眼鏡51および左目用眼鏡52は、表示装置2の映像表示面と対向するように配置されている。なお、これら右目用眼鏡51および左目用眼鏡52は、図6に示したように、できるだけ一の水平面内に配置されることが好ましいが、多少傾いた平坦面内に配置されていてもよい。
【0061】
右目用眼鏡51は、例えば、偏光板51Aおよび右目用位相差フィルム51Bを有している。一方、左目用眼鏡52は、例えば、偏光板52Aおよび左目用位相差フィルム52Bを有している。右目用位相差フィルム51Bは、偏光板51Aの表面であって、かつ光入射側に設けられたものである。左目用位相差フィルム52Bは、偏光板52Aの表面であって、かつ光入射側に設けられたものである。
【0062】
偏光板51A,52Aは、偏光眼鏡5の光射出側に配置されており、ある一定の振動方向の光(偏光)のみを通過させる。偏光板51A,52Aの偏光軸はそれぞれ、偏光板41Bの偏光軸と直交する方向を向いている。偏光板51A,52Aの偏光軸はそれぞれ、例えば、偏光板41Bの偏光軸が垂直方向を向いている場合には水平方向を向いており、偏光板41Bの偏光軸が水平方向を向いている場合には垂直方向を向いている。
【0063】
右目用位相差フィルム51Bおよび左目用位相差フィルム52Bは、光学異方性を有する薄い層である。右目用位相差フィルム51Bの遅相軸および左目用位相差フィルム52Bの遅相軸は、水平方向および垂直方向のいずれの方向とも交差する方向を向いており、偏光板51A,52Aの偏光軸とも交差する方向を向いている。また、偏光板51Aの偏光軸は、位相差領域13aの遅相軸の向きと同一の方向か、またはその方向と対応する方向を向いており、位相差領域13bの遅相軸の向きと異なる方向を向いている。一方、偏光板51Bの遅相軸は、位相差領域13bの遅相軸と同一の方向か、またはその方向と対応する方向を向いており、位相差領域13aの遅相軸の向きと異なる方向を向いている。
【0064】
[表示装置2の製造方法]
次いで、表示装置2の製造方法の一例について説明する。まず、透明基板42、画素電極43、配向膜44、液晶層45、配向膜46、共通電極47、カラーフィルタ48および透明基板49をこの順に含む積層体(図示せず)を用意する。次に、この積層体の裏面(透明基板42側の面)に偏光板41Aを貼り合わせるとともに、この積層体の表面(透明基板49側の面)に偏光板41Bを貼り合わせる。このようにして、表示パネル4が完成する。次に、偏光板41B上に、位相差フィルム1を貼り合わせたのち、表示パネル4の裏面側(偏光板41A側)にバックライトユニット3を取り付ける。このようにして、表示装置2が完成する。
【0065】
次に、上記の製造方法において、表示パネル4と位相差フィルム1とを互いに貼り合わせる工程の一例について、詳細に説明する。なお、この製造方法は、位相差フィルム1に若干の伸縮が見られる場合に用いられるものである。従って、位相差フィルム1の寸法安定性が極めて高い場合には、以下の製造方法を適用する必要はない。
【0066】
まず、評価用の(すなわちリファレンスとなる)表示パネル4および位相差素子1もしくは貼り合わせ前の表示パネル4および位相差素子1を用意する(図示せず)。次に、その表示パネル4および位相差素子1において、複数の画素電極43の配列ピッチと、位相差領域13a,13bの配列ピッチとを計測する(図示せず)。これらの配列ピッチは、例えば、表示パネル4および位相差素子1の表面が撮像装置によって撮影され、撮影により得られた画像が撮像装置によって処理されることにより得られる。計測時の湿度は、例えば、標準湿度(例えば45%RH)に設定される。また、計測時の温度は、例えば、22.5℃に設定される。
【0067】
その後、計測値を、後述の温湿度制御室(図示せず)内の温湿度を制御する制御装置(図示せず)に格納する。計測値の格納は、人が計測値を制御装置に入力することによって行われてもよいし、配列ピッチの計測を行った撮像装置が計測値を制御装置に転送することによって行われてもよい。
【0068】
この制御装置は、例えば、図示しないが、温湿度制御室内の温湿度を制御する制御部と、記憶部と、情報を受け付ける入力部とを備えている。記憶部は、入力部で受け付けられた情報を格納するためのものである。記憶部には、例えば、位置ずれ補正用のデータDと、温湿度補正用の算定式とが格納されており、上述の計測が行われた後には、さらに、配列ピッチの計測値も格納されている。制御装置は、格納された計測値と、位置ずれ補正用のデータDとを用いて、温湿度補正用の算定式から温湿度制御室内の設定湿度を導出し、温湿度制御室内の湿度を、導出した湿度に設定する。
【0069】
ここで、データDは、例えば、位相差素子1の温度膨張係数および湿度膨張係数を含んでいる。温湿度補正用の算定式は、例えば、位相差素子1の配列ピッチと表示パネル4の配列ピッチとを互いに等しくするには温湿度制御室内の温度および湿度をいくつにすればよいかを導出するためのものである。
【0070】
その後、貼り合わせ前の位相差素子1を温湿度制御室内に所定の時間だけ放置する。これにより、位相差素子1の配列ピッチが表示パネル4の配列ピッチと等しくなる。つまり、制御装置は、双方の配列ピッチが互いに等しくなるように位相差素子1の周囲の雰囲気の温度および湿度を制御する。
【0071】
次に、湿度制御を行っている雰囲気の中(つまり温湿度制御室の中)または、温湿度制御室から位相差素子1を取り出した直後に、表示パネル4および位相差素子1を互いに貼り合わせる。このようにして、本実施の形態の表示パネル4と位相差素子1とが互いに貼り合わされる。
【0072】
なお、上記の製造過程において、評価用の位相差素子1もしくは貼り合わせ前の位相差素子1だけを用意したのち、位相差素子1において、位相差領域13a,13bの配列ピッチだけを計測し、その計測値を記憶部に格納するようにしてもよい。このようにした場合には、表示パネル4の配列ピッチを計測する代わりに、位相差領域13a,13bの配列ピッチの設計値を制御装置の記憶部に位置ずれ補正用のデータDの一つとして格納しておく。そして、制御装置が、格納された計測値と、位置ずれ補正用のデータDとを用いて、温湿度補正用の算定式から温湿度制御室内の設定湿度を導出し、温湿度制御室内の湿度を、導出した湿度に設定すればよい。
【0073】
[動作]
本適用例に係る表示装置2では、まず、バックライトユニット3から照射された光が表示パネル4に入射している状態で、映像信号として右目用画像および左目用画像を含む視差信号が表示パネル4に入力される。すると、奇数行の画素から右目用画像光が出力され、偶数行の画素から左目用画像光が出力される。その後、右目用画像光および左目用画像光は、位相差フィルム1の位相差領域13a,13bによって楕円偏光に変換されたのち、表示装置2の画像表示面から外部に出力される。
【0074】
その後、表示装置2の外部に出力された光L1は、偏光眼鏡5に入射し、右目用位相差フィルム51Bおよび左目用位相差フィルム52Bによって楕円偏光から直線偏光に戻されたのち、偏光眼鏡5の偏光板51A,52Aに入射する。このとき、偏光板51A,52Aへの入射光のうち右目用画像光に対応する光の偏光軸は、偏光板51Aの偏光軸と平行となっており、偏光板52Aの偏光軸と直交している。従って、偏光板51A,52Aへの入射光のうち右目用画像光に対応する光は、偏光板51Aだけを透過して、観察者の右目に到達する。一方、偏光板51A,52Aへの入射光のうち左目用画像光に対応する光の偏光軸は、偏光板51Aの偏光軸と直交しており、偏光板52Aの偏光軸と平行となっている。従って、偏光板51A,52Aへの入射光のうち左目用画像光に対応する光は、偏光板52Aだけを透過して、観察者の左目に到達する。
【0075】
このようにして、右目用画像光に対応する光が観察者の右目に到達し、左目用画像光に対応する光が観察者の左目に到達した結果、観察者は表示装置2の映像表示面に立体画像が表示されているかのように認識することができる。
【0076】
[効果]
ところで、本適用例では、位相差フィルム1において、基材10である熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムと配向膜12とがアンカー層11を介して強固に密着している。これにより、配向膜12が剥離したり、位相差フィルム1の寸法が大きく変化したりする可能性を低減することができる。特に、位相差フィルム1の高い寸法安定性が維持されるので、上述したような、製造方法を用いなくても、表示パネル4と位相差フィルム1とを高精度に貼り合わせることができる。また、位相差フィルム1に若干の伸縮が見られる場合であっても、上述した製造方法を用いることにより、表示パネル4と位相差フィルム1とを高精度に貼り合わせることができる。
【0077】
<変形例>
[第1の変形例]
上記適用例では、位相差フィルム1が表示装置2の画像表示面側に設けられていたが、それ以外の箇所に設けられていてもよい。例えば、図示しないが、位相差フィルム1が、偏光板41Aと透明基板42との間に設けられていてもよい。本変形例に係る表示装置2は、以下のようにして製造することが可能である。まず、透明基板42、画素電極43、配向膜44、液晶層45、配向膜46、共通電極47、カラーフィルタ48および透明基板49をこの順に含む積層体(図示せず)を用意する。次に、この積層体の裏面(透明基板42側の面)に位相差フィルム1を貼り合わせたのち、位相差フィルム1上に偏光板41Aを貼り合わせる。次に、上記の積層体の表面(透明基板49側の面)に偏光板41Bを貼り合わせる。このようにして、位相差フィルム1を含む表示パネル4が完成する。その後、表示パネル4の裏面側(偏光板41A側)にバックライトユニット3を取り付ける。このようにして、本変形例に係る表示装置2が完成する。
【0078】
本変形例に係る表示装置2では、バックライトユニット3から発せられた光は、偏光板41Aへ入射すると、水平方向の偏光成分のみが透過されて、位相差フィルム1に入射する。位相差フィルム1を透過した光は、上記の積層体および偏光板41Bを順に透過して、垂直方向の偏光成分として射出される。これにより、2次元表示がなされる。ここで、位相差フィルム1が配置されていることにより、斜め方向からみた場合の液晶の位相差が補償され、黒表示の際の斜め方向の漏れ光や色づきを低減することができる。すなわち、位相差フィルム1を、AプレートやCプレートなどの視野角補償フィルムとして用いることができる。
【0079】
[第2の変形例]
また、上記実施の形態では、位相差フィルム1の位相差領域13a,13bが水平方向に延在している場合が例示されていたが、それ以外の方向に延在していてもかまわない。
【0080】
[第3の変形例]
また、上記実施の形態およびその変形例では、位相差フィルム1の位相差領域13a,13bが位相差フィルム1の水平方向もしくは垂直方向全体に渡って延在している場合が例示されていたが、例えば、水平方向および垂直方向の双方に2次元配置されていてもよい。
【0081】
[第4の変形例]
また、上記実施の形態およびその変形例では、位相差フィルム1を表示装置2に適用した場合が例示されていたが、他のデバイスに適用することももちろん可能である。
【0082】
[第5の変形例]
以上では、偏光眼鏡5が円偏光タイプであり、表示装置2としては円偏光眼鏡用の表示装置である場合について説明をしたが、本発明は、偏光眼鏡5が直線偏光タイプであり、表示装置1として直線偏光眼鏡用の表示装置である場合についても適用可能である。
【符号の説明】
【0083】
1…位相差フィルム、2…表示装置、3…バックライトユニット、4…表示パネル、5…偏光眼鏡、10…基材、11…アンカー層、11D…アンカー材、12,44,46…配向膜、12a,12b…溝領域、12A,12B…溝、13…位相差層、13a,13b…位相差領域、41A,41B,51A,52A…偏光板、42,49…透明基板、43…画素電極、45…液晶層、47…共通電極、48…カラーフィルタ、48A…フィルタ部、48B…ブラックマトリクス部、32A…右目用領域、32B…左目用領域、51…右目用眼鏡、51B…右目用位相差フィルム、52…左目用眼鏡、52B…左目用位相差フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム、アンカー層、配向膜、および位相差層をこの順に積層してなり、
前記アンカー層は、50重量部以上90重量部以下の3官能以上のアクリレートモノマーを含むアンカー材を前記熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム上に塗布したのち、乾燥させ、紫外線硬化させることにより形成されたものである
位相差フィルム。
【請求項2】
前記アンカー層は、前記アクリレートモノマーの他に、エステル系の樹脂と、ウレタン系の樹脂とを含むアンカー材を前記熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム上に塗布したのち、乾燥し、紫外線硬化させることにより形成されたものである
請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記アンカー層の厚さは、0.5μm以上7.5μm以下となっている
請求項1または請求項2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記アンカー層の厚さは、0.5μm以上3.5μm以下となっている
請求項3に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
複数の画素電極が行列状に配置された表示パネルと、
前記表示パネルに貼り合わされた位相差フィルムと
を備え、
前記位相差フィルムは、
熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム、アンカー層、配向膜、および位相差層をこの順に積層してなり、
前記アンカー層は、50重量部以上90重量部以下の3官能以上のアクリレートモノマーを含むアンカー材を前記熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム上に塗布したのち、乾燥させ、紫外線硬化させることにより形成されたものである
表示装置。
【請求項6】
熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム上に、50重量部以上90重量部以下の3官能以上のアクリレートモノマーを含むアンカー材を塗布したのち、乾燥させ、紫外線硬化させることによりアンカー層を形成する第1工程と、
前記アンカー層上に、配向膜および位相差層をこの順に形成する第2工程と
を含む位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記アンカー材は、前記アクリレートモノマーの他に、エステル系の樹脂と、ウレタン系の樹脂とを含む
請求項6に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記アンカー材は、前記アクリレートモノマーを60重量部、前記エステル系の樹脂を20重量部、前記ウレタン系の樹脂を20重量部含む
請求項7に記載の位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−221177(P2011−221177A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88762(P2010−88762)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】