説明

低温特性に優れた電気絶縁油組成物

【課題】低温特性、水素ガス吸収性、耐電圧特性に優れ、生体に対する悪影響のない電気絶縁油組成物を提供する。
【解決手段】[A]1,1−ジフェニルエタンを30〜70質量%含み、かつ[B](a)1−フェニル−1−メチルフェニルエタン、(b)1−フェニル−1−キシリルエタン、(c)1−フェニル1−エチルフェニルエタンおよび(d)ベンジルトルエンの4成分から選ばれた少なくとも1成分以上を合計で30〜70質量%含み、さらに[C]1,2−ジフェニルエタンを0.1〜2質量%および/またはジフェニルメタンを0.1〜13質量%含む電気絶縁油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリールアルカン混合物から成る低温特性に優れた電気絶縁油に関する。
【背景技術】
【0002】
低温特性に優れた電気絶縁油として主に求められる性能は、絶縁破壊電圧が高いことをはじめ、水素ガス吸収性が高いこと、粘度が低いこと、さらに融点が低いことが挙げられる。近年、世界的に絶縁破壊電圧の高い電気絶縁油が使用されつつある。従来とは異なり、世界経済の発展に伴って、これまで使用されていなかった極低温の地域でも使用できるような低温特性に優れた電気絶縁油が求められており、要求性能は−50℃以下で凝固物質などが生成せず使用できる電気絶縁油である。電気絶縁油は使用の際に、油中に固形物が発生するとその部分から放電が発生しやすくなることが知られており、その使用環境下で凝固物質が析出するような電気絶縁油は使用できない。
【0003】
特許文献1(特開平7−226332号公報)では、炭素数14〜16の縮合型または非縮合型のベンゼン環を二個有する芳香族炭化水素油と凝固点が5℃以下の天然脂肪酸トリグリセリドを配合することで、低温特性の改良を行っている。しかしながら、この方法では低温特性はある程度改善するものの、天然脂肪酸トリグリセリドの絶縁破壊電圧が低いため、ベンゼン環を二個有する芳香族炭化水素油の持つ絶縁破壊電圧を損ねている。
【0004】
長きに渡って、高い絶縁破壊電圧を有する電気絶縁油として、ベンジルトルエンとジベンジルトルエンの混合物が使用されている。ベンジルトルエンは分子中の芳香族炭素の比率が高く、水素ガス吸収性が高く、耐電圧特性に優れているが、ベンジルトルエンの3種の位置異性体は、文献によればo体+6.6℃、m体−27.8℃およびp体+4.6℃と、決して低い融点とは言えない。
【0005】
このような問題を解決するために、特許文献2(特開昭60−87231号公報)では、トルエンとベンジルクロライドとを塩化鉄触媒で反応させて得られるベンジルトルエンに、共生成物であるジベンジルトルエンを混合することが提案されている。特許文献2の提案と同一技術内容の商品として、アルケマ社からジャリレック(JARYLEC)C−101なる商品名で商品化されている電気絶縁油組成物がある。なお、特許文献2は、トリアリールメタンのオリゴマー混合物を開示しているが、その実質はベンジルトルエンとジベンジルトルエンの混合物である。特許文献2の第3頁には、モノベンジルトルエンは「過冷却後には−20℃で晶出する欠点を有し」と記載され、この晶出の抑制のためにジベンジルトルエンを混合してなる組成物となしている。
【0006】
しかしながら、ジベンジルトルエンの如き化合物を添加することは、次の3つの理由から得策ではない。すなわち、ジベンジルトルエンの添加により凝固点降下現象を期待するとしても、ベンジルトルエンが高分子量であるために、加えた重量ほどには凝固点が降下しない。凝固点降下現象は、添加した物質のモル濃度に比例するが、前記商品JARYLEC C−101に加えられている20質量%程度のジベンジルトルエンではその晶出温度の降下はモル濃度から計算すると6〜8℃程度にすぎない。
2つ目の理由は、ジベンジルトルエンは単に絶縁油の粘度を上昇させ、液分子の易動度を低下させて見掛け上結晶の析出を抑制しているに過ぎない。それ故、注意深く冷却すれば結晶の析出が見られるのである。
3つ目の理由は、ジベンジルトルエンが高い生物蓄積性を有することにある。近年、ストックホルム条約等によって、高毒性を有する物質については国際的な規制がかかり始めている。ジベンジルトルエン自体は当該規制にかかっていないものの、日本国内においては、生物蓄積性が高いことから第一種監視化学物質に指定されている。当該物質の使用自体はエッセンシャルユースという形態で使用用途を限定することで使用が認められているものの、今後、高毒性の物質への規制が強まることは必至であり、低毒性な代替物質が求められている。
【0007】
他方、1−フェニル−1−キシリルエタン或いは1−フェニル−1−エチルフェニルエタンもその製造が容易であり、絶縁破壊電圧が比較的高く、誘電損失が小さいなどの優れた特性を有していることから広く用いられている。例えば絶縁破壊電圧や誘電損失が優れていることに加え、酸化安定性が特に優れている電気絶縁油組成物として1−フェニル−1−(2,4−ジメチルフェニル)エタンあるいは1−フェニル−1−(2,5−ジメチルフェニル)エタンからなる組成物が提案されている(特許文献3:特開昭57−50708号公報)。
【0008】
しかしながら、1−フェニル−1−キシリルエタン或いは1−フェニル−1−エチルフェニルエタンからなる電気絶縁油組成物は、流動点が−47.5℃以下であり融点が非常に低いものの、40℃における粘度が5.0mm/s程度と高いために、特に0℃以下の低温領域においてコンデンサの絶縁性能が十分でないという問題があった。
【0009】
ところで、1,1−ジフェニルエタンは絶縁破壊電圧、水素ガス吸収性が高く、40℃における粘度は2.8mm/s、凝固点も−18℃と低いため、低温特性に優れた電気絶縁油として有望な物質である。1,1−ジフェニルエタンの凝固点は、低いもののそれ単独では、−50℃以下の温度領域においては使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−226332号公報
【特許文献2】特開昭60−87231号公報
【特許文献3】特開昭57−50708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、絶縁破壊電圧を高く維持しつつ、特に−50℃で結晶が極めて析出し難い、低温特性に優れた電気絶縁油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、1,1−ジフェニルエタンに、1−フェニル−1−メチルフェニルエタン、1−フェニル−1−キシリルエタン、1−フェニル−1−エチルフェニルエタン、ベンジルトルエンから選ばれる少なくとも1種以上を所定量加え、さらに1,2−ジフェニルエタンおよび/またはジフェニルメタンを所定量加えてなるジアリールアルカン混合物とすることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0013】
すなわち、本発明は、[A]1,1−ジフェニルエタンを30〜70質量%含み、かつ[B](a)1−フェニル−1−メチルフェニルエタン、(b)1−フェニル−1−キシリルエタン、(c)1−フェニル1−エチルフェニルエタンおよび(d)ベンジルトルエンの4成分から選ばれた少なくとも1成分以上を合計で30〜70質量%含み、さらに[C]1,2−ジフェニルエタンを0.1〜2質量%および/またはジフェニルメタンを0.1〜13質量%含む電気絶縁油組成物である。
【0014】
また本発明は、[A]1,1−ジフェニルエタンを30〜70質量%含み、かつ[B](a)1−フェニル−1−メチルフェニルエタン、(b)1−フェニル−1−キシリルエタンおよび(c)1−フェニル1−エチルフェニルエタンの3成分から選ばれた少なくとも1成分以上を合計で30〜70質量%含み、さらに[C]1,2−ジフェニルエタンを0.1〜2質量%および/またはジフェニルメタンを0.1〜13質量%含む電気絶縁油組成物である。
【0015】
また本発明は、[A]1,1−ジフェニルエタンを30〜70質量%含み、かつ[B](a)1−フェニル−1−メチルフェニルエタンを30〜70質量%含み、さらに[C]1,2−ジフェニルエタンを0.1〜2質量%および/またはジフェニルメタンを0.1〜13質量%含む電気絶縁油組成物である。
【0016】
また本発明は、40℃における動粘度が4.5mm/s以下であることを特徴とする前記の電気絶縁油組成物である。
【0017】
また本発明は、塩素の含有量が50質量ppm未満である前記の電気絶縁油組成物である。
【0018】
また本発明は、前記の電気絶縁油組成物に活性白土を接触させた後に、エポキシ化合物を0.01〜1.0質量%添加することを特徴とする電気絶縁油組成物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電気絶縁油組成物は、特定の複数の成分を特定の割合で配合することにより、結晶が極めて析出し難く、それを含浸してなる油浸コンデンサは実用上−50℃という低温でも使用できるという特徴を有する低温特性に優れた電気絶縁油組成物である。さらに、電気絶縁油組成物として配合された前記の二環芳香族炭化水素は、水素ガス吸収性、耐電圧特性なども優れている。また、本発明の電気絶縁油組成物の各成分は、生体に対する悪影響などがないものである。したがって、実用的に極めて優れたコンデンサ含浸用の電気絶縁油組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の電気絶縁油組成物は、[A]1,1−ジフェニルエタンに、[B]1−フェニル−1−メチルフェニルエタン、1−フェニル−1−キシリルエタン、1−フェニル−1−エチルフェニルエタン、およびベンジルトルエンから選ばれる少なくとも1種以上、かつ[C]1,2−ジフェニルエタンおよび/またはジフェニルメタンを所定量配合したジアリールアルカン混合物である。
【0021】
ベンジルトルエンは水素ガス吸収性が高く、粘度も低いものの、その融点は前記のとおりo体+6.6℃、m体−27.8℃およびp体+4.6℃であり、−50℃での使用に関しては必ずしも十分なものではない。
【0022】
1−フェニル−1−キシリルエタン、1−フェニル−1−エチルフェニルエタンは基本的に、スチレンとC8芳香族炭化水素とのアラルキル化によって得られるため、通常は両者の混合物である(例えば、特開昭47−29351号公報、特開昭53−135959号公報など参照)。この流動点は前記のとおり、−47.5℃であるため低温での結晶が析出しにくいものの、粘度が高いために特に0℃以下の低温領域における絶縁性能は十分ではない。
【0023】
1−フェニル−1−メチルフェニルエタンの融点はo体+39.5℃、m体−40℃以下およびp体−12℃である。1−フェニル−1−メチルフェニルエタンは、例えば特開2003−119159号公報の実施例1に記載のゼオライト触媒を用いて、スチレンとトルエンから製造した場合、o体の生成は1%前後である。そのため、異性体混合物の融点は低いと考えられる。また、水素ガス吸収性や絶縁破壊電圧も高く、低温特性に優れた電気絶縁油である。
【0024】
ジフェニルメタンや1,2−ジフェニルエタンは粘度が低く、ガス吸収性、絶縁破壊電圧が高いものの、融点がそれぞれ+25℃、+51.2℃と高いことから、これまでは使用されてこなかった。しかしながら、驚くべきことに1,1−ジフェニルエタンに1−フェニル−1−メチルフェニルエタン、1−フェニル−1−キシリルエタン、1−フェニル−1−エチルフェニルエタン、ベンジルトルエンから選ばれた少なくとも1成分以上を加えたものに、ジフェニルメタンや1,2−ジフェニルエタンを所定量加えることで結晶析出を抑制しつつ、出来上がった電気絶縁油組成物の絶縁破壊電圧も向上できることを見出した。
【0025】
本発明の電気絶縁油組成物は、[A]成分として1,1−ジフェニルエタンを電気絶縁油組成物全量基準で30〜70質量%含有する。1,1−ジフェニルエタンの含有量が30質量%より少ないと相対的に[B]成分が多くなるため結晶が析出しやすくなり、70質量%より多いと[A]成分が多くなる影響で結晶が析出しやすくなるおそれがある。
【0026】
本発明の電気絶縁油組成物は、[B]成分として、(a)1−フェニル−1−メチルフェニルエタン、(b)1−フェニル−1−キシリルエタン、(c)1−フェニル1−エチルフェニルエタンおよび(d)ベンジルトルエンの4成分から選ばれる少なくとも1成分以上を含有する。
本発明の電気絶縁油組成物における(a)〜(d)の合計の含有量は、電気絶縁油組成物全量基準で30〜70質量%である。[B]成分の含有量が30質量%より少ないと相対的に[A]成分が多くなるため結晶が析出しやすくなり、70質量%より多いと[B]成分が多くなる影響で結晶が析出しやすくなるおそれがある。
【0027】
本発明の電気絶縁油組成物は、[C]成分として、1,2−ジフェニルエタンおよび/またはジフェニルメタンを含有する。
本発明の電気絶縁油組成物において、1,2−ジフェニルエタンを含有する場合の含有量は、電気絶縁油組成物全量基準で0.1〜3質量%であり、好ましくは0.5質量%以上、2質量%以下である。また、本発明の電気絶縁油組成物において、ジフェニルメタンを含有する場合の含有量は、電気絶縁油組成物全量基準で0.1〜13質量%であり、好ましくは0.5質量%以上、10質量%以下である。1,2−ジフェニルエタンおよび/またはジフェニルメタンの含有量が上記下限値に満たない場合は低温における結晶析出の抑制効果が低く、上記上限値を超えると融点の高い1,2−ジフェニルエタン、ジフェニルメタンの影響により結晶が析出しやすくなるおそれがある。
【0028】
電気絶縁油の粘度は高いほど、コンデンサ内で油が循環(対流)しにくくなるため、放電による発熱を除去しにくくなる。そのため、粘度は低いほど好ましいが、絶縁破壊電圧の高いジアリールアルカンの場合、最も分子量の小さいジフェニルメタンで40℃の動粘度は2.1mm/sである。1−フェニル−1−キシリルエタンおよび1−フェニル−1−フェニルエチルエタン混合物の40℃における動粘度は約5.0mm/sであるが、−50℃においては2000mm/sを超える動粘度となり、絶縁破壊電圧の測定が困難となる。すなわち、1−フェニル−1−キシリルエタンおよび1−フェニル−1−フェニルエチルエタン混合物は−50℃で結晶性物質は析出しないものの、その条件下では使用できない。そのため、40℃における動粘度は、1−フェニル−1−キシリルエタンおよび1−フェニル−1−フェニルエチルエタン混合物の5.0mm/s未満であることが好ましい。40℃の動粘度と−50℃の動粘度はその化合物の粘度指数によって異なるが、ジアリールアルカンであれば化合物間で大きな差異は生じない。
【0029】
前記ベンジルトルエンとジベンジルトルエンは、ベンジルクロライドとトルエンを反応させて製造されるため、電気絶縁油中に塩素分を相当量含むが、塩素分は絶縁油の性能を悪化させることが分かっている。電気絶縁油中の塩素の含有量は、50質量ppm未満が好ましく、さらに好ましくは10質量ppm以下である。
【0030】
電気絶縁油の性能は、水や極性物質の含有により誘電正接が高くなるが、誘電正接が高いと絶縁性が低くなるため、電気絶縁油としての性能は悪化する。これらを回避するために、活性白土と接触させこれらを除去すると、誘電正接が低減し性能が良化する。使用させる活性白土は、特に限定されない。活性白土の形状としては、特に限定されないが、実用上の観点から成型体の方が好ましい。塩素分については必ずしも活性白土で除去できないため、塩化水素のトラップ剤としてエポキシ化合物を添加する。このエポキシ化合物は活性白土と接触させることによって、ある程度除去されることからエポキシ化合物は電気絶縁油が白土処理された後に添加するのが望ましい。
【0031】
エポキシ化合物としては、たとえば脂環式エポキシ化合物である3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジエポキサイド、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ−6−メチルヘキサン)カルボキシレートなど、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ化合物であるフェノールノボラック型エポキシ化合物、オルソクレゾールノボラック型エポキシ化合物などが例示される。添加量としては電気絶縁油組成物全量基準で0.01〜1.0質量%、好ましくは0.3〜0.8質量%である。添加量が0.01質量%未満では放電エネルギーを分散させる効果がなく、1.0質量%を超えると絶縁油の電気特性が低くなり、コンデンサ内部で誘電損失となって発熱しコンデンサの性能を損ねる。また、エポキシ化合物を添加した後に、白土処理と接触させた場合、添加したほどの効果が得られ難くなるため好ましくない。
【0032】
本発明の電気絶縁油組成物は、油含浸電気機器の含浸油、特にコンデンサ油として有用である。その中でも、プラスチックフィルムを絶縁材料または誘電体材料の少なくとも一部に使用した油浸電気機器、好ましくは油含浸コンデンサに含浸させるために好適である。
【0033】
プラスチックフィルムとしては、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデンなどの他、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンフィルムなどを用いることができるが、その中でもポリオレフィンフィルムが好適である。特に好適なポリオレフィンフィルムはポリプロピレンフィルムである。
【0034】
本発明の好適な油含浸コンデンサは、導体としてアルミニウムなどの金属箔と、前記絶縁材料または誘電体材料としてのプラスチックフィルムとを、必要に応じて絶縁紙などの他の材料と共に巻回し、常法により絶縁油を含浸させることにより製造される。あるいは本発明の好適な油含浸コンデンサは、前記絶縁材料または誘電体材料としてのプラスチックフィルム上に、アルミニウム、亜鉛などの導体としての金属層を蒸着などの方法により形成した金属化プラスチックフィルムを、必要に応じてプラスチックフィルムあるいは絶縁紙と共に巻回し、常法により含浸することによっても製造される油浸コンデンサである。
【実施例】
【0035】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
1,1−ジフェニルエタン67質量%、ベンジルトルエン30質量%、1,2−ジフェニルエタン2質量%、ジフェニルメタン1質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。
なお、ベンジルトルエンは、特公平8−8008号公報の参考製造例に従って製造したo−体4質量%、m−体59質量%およびp−体37質量%からなる異性体混合物を用いた。
【0037】
(実施例2)
1,1−ジフェニルエタン69質量%、1−フェニル−1−キシリルエタン24質量%、1−フェニル−1−フェニルエチルエタン6質量%、1,2−ジフェニルエタン1質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。
【0038】
(実施例3)
1,1−ジフェニルエタン54質量%、1−フェニル−1−キシリルエタン36質量%、1−フェニル−1−フェニルエチルエタン9質量%、1,2−ジフェニルエタン1質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。
【0039】
(実施例4)
1,1−ジフェニルエタン67質量%、1−フェニル−1−メチルフェニルエタン30質量%、ジフェニルメタン1質量%、1,2−ジフェニルエタン2質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。
なお、1−フェニル−1−メチルフェニルエタンは、特開平2003−119159号公報の実施例1の原料のクメンをトルエンに、反応温度を200℃に変えて製造したo−体1質量%、m−体11質量%およびp−体88質量%からなる異性体混合物を用いた。
【0040】
(実施例5)
1,1−ジフェニルエタン60質量%、1−フェニル−1−キシリルエタン24質量%、1−フェニル−1−フェニルエチルエタン6質量%、ジフェニルメタン10質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。
【0041】
(実施例6)
1,1−ジフェニルエタン59質量%、1−フェニル−1−メチルフェニルエタン32質量%、ジフェニルメタン9質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。なお、1−フェニル−1−メチルフェニルエタンは実施例4と同じものを用いた。
【0042】
(実施例7)
1,1−ジフェニルエタン30質量%、1−フェニル−1−メチルフェニルエタン69質量%、1,2−ジフェニルエタン1質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。なお、1−フェニル−1−メチルフェニルエタンは実施例4と同じものを用いた。
【0043】
(実施例8)
1,1−ジフェニルエタン58質量%、1−フェニル−1−メチルフェニルエタン39質量%、1,2−ジフェニルエタン2質量%、ジフェニルメタン1質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。なお、1−フェニル−1−メチルフェニルエタンは実施例4と同じものを用いた。
【0044】
(実施例9)
1,1−ジフェニルエタン49質量%、1−フェニル−1−メチルフェニルエタン49質量%、1,2−ジフェニルエタン1質量%、ジフェニルメタン1質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。なお、1−フェニル−1−メチルフェニルエタンは実施例4と同じものを用いた。
【0045】
(実施例10)
1,1−ジフェニルエタン49質量%、1−フェニル−1−メチルフェニルエタン49質量%、1,2−ジフェニルエタン1質量%、ジフェニルメタン1質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。
なお、1−フェニル−1−メチルフェニルエタンは、特開平2003−119159号公報の実施例1の原料のクメンをトルエンに、反応温度を260℃に変えて製造したo−体1質量%、m−体52質量%およびp−体47質量%からなる異性体混合物を用いた。
【0046】
(実施例11)
1,1−ジフェニルエタン58質量%、ベンジルトルエン39質量%、1,2−ジフェニルエタン2質量%、ジフェニルメタン1質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。
なお、ベンジルトルエンは、特開昭60−87231号公報記載の方法で製造したo−体49質量%、m−体7質量%およびp−体44質量%からなる異性体混合物を用いた。
【0047】
(実施例12)
1,1−ジフェニルエタン58質量%、ベンジルトルエン39質量%、1,2−ジフェニルエタン2質量%、ジフェニルメタン1質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。なお、ベンジルトルエンは実施例1と同じものを用いた。
【0048】
(実施例13)
1,1−ジフェニルエタン39質量%、ベンジルトルエン59質量%、1,2−ジフェニルエタン1質量%、ジフェニルメタン1質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。なお、ベンジルトルエンは実施例1と同じものを用いた。
【0049】
(実施例14)
1,1−ジフェニルエタン57質量%、ベンジルトルエン30質量%、ジフェニルメタン13質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。なお、ベンジルトルエンは実施例1と同じものを用いた。
【0050】
(実施例15)
1,1−ジフェニルエタン54質量%、1−フェニル−1−メチルフェニルエタン36質量%、ジフェニルメタン10質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。なお、1−フェニル−1−メチルフェニルエタンは実施例4と同じものを用いた。
【0051】
(実施例16)
1,1−ジフェニルエタン69.8質量%、1−フェニル−1−メチルフェニルエタン30質量%、ジフェニルメタン0.1質量%、1,2−ジフェニルエタン0.1質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。なお、1−フェニル−1−メチルフェニルエタンは実施例4と同じものを用いた。
【0052】
(比較例1)
1,1−ジフェニルエタン70質量%、1−フェニル−1−メチルフェニルエタン30質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。なお、1−フェニル−1−メチルフェニルエタンは実施例4と同じものを用いた。
【0053】
(比較例2)
1,1−ジフェニルエタン70質量%、ベンジルトルエン30質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。なお、ベンジルトルエンは実施例1と同じものを用いた。
実験例Aの1030時間では、結晶が析出したが、実験例Bでは測定終了まで200時間程度であったため、絶縁破壊電圧を測定することができた。
【0054】
(比較例3)
1−フェニル−1−キシリルエタン80質量%、1−フェニル−1−フェニルエチルエタン20質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。
【0055】
(比較例4)
1,1−ジフェニルエタンを用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(比較例5)
1,1−ジフェニルエタン20質量%、ベンジルトルエン80質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。ベンジルトルエンは実施例1と同じものを用いた。
【0057】
(比較例6)
1,1−ジフェニルエタン80質量%、1−フェニル−1−キシリルエタン8質量%、1−フェニル−1−フェニルエチルエタン2質量%、ベンジルトルエン10質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。なお、ベンジルトルエンは実施例1と同じものを用いた。
【0058】
(比較例7)
ベンジルトルエン80質量%、ジベンジルトルエン20質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。
実験例Aの1030時間では、結晶が析出したが、実験例Bでは測定終了まで200時間程度であったため、絶縁破壊電圧を測定することができた。
【0059】
(比較例8)
1,1−ジフェニルエタン20質量%、1−フェニル−1−メチルフェニルエタン80質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。なお、1−フェニル−1−メチルフェニルエタンは実施例4と同じものを用いた。
【0060】
(比較例9)
1,1−ジフェニルエタン20質量%、1−フェニル−1−キシリルエタン64質量%、1−フェニル−1−フェニルエチルエタン16質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例10)
1,1−ジフェニルエタン30質量%、1−フェニル−1−キシリルエタン56質量%、1−フェニル−1−フェニルエチルエタン14質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例11)
1,1−ジフェニルエタンに塩素化合物として塩化ジフェニルメタンを50質量ppm添加した油を用い、後述の実験例A、Bの実験を行った。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例12)
1,1−ジフェニルエタン67質量%、ベンジルトルエン30質量%、1,2−ジフェニルエタン3質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。なお、ベンジルトルエンは実施例1と同じものを用いた。
【0064】
(比較例13)
1,1−ジフェニルエタン55質量%、ベンジルトルエン30質量%、ジフェニルメタン15質量%に調製した混合油を用い、後述の実験例Aの実験を行った。結果を表1に示す。なお、ベンジルトルエンは実施例1と同じものを用いた。
【0065】
<実験A>(−50℃での結晶化実験)
結晶析出と温度の関係コンデンサの性能を維持するためには、最低許容温度の−50℃まで絶縁油組成物が結晶を析出しないことが望まれる。絶縁油組成物の結晶析出を確認するために、実施例1〜16、比較例1〜13のそれぞれの油を100mlのサンプル瓶に入れ、低温恒温槽内に静置し、その温度を1030時間保ち、結晶の析出を目視によって観察した。結果を表1に示す。表において、「○」とは液に透明性があり結晶の析出が見られない状態、「×」とは透明性がなく一部に結晶析出が見られるが流動している状態、または結晶が析出し全体が固化した状態をそれぞれ示す。−50℃以下でも固化しない本発明の絶縁油組成物はコンデンサの性能を最低許容温度まで維持できるものである。
【0066】
<実験B>(モデルコンデンサによる電気絶縁油組成物としての評価)
実験に用いたコンデンサは次の通りである。固体絶縁体としてはチューブラー法で作られた信越フィルム(株)製の同時二軸延伸ポリプロピレンフィルムの易含浸タイプを用いた。
厚さ14μm(マイクロメーター法)のものを2枚使用し、これをアルミ箔電極と共に巻回して、静電容量が0.3から0.4μFの素子を作り、これをブリキ製の缶に入れた。缶は絶縁体油が低温で収縮したときに充分に対応できるように柔軟な構造にした。また、電極の端部はスリットしたままで折り曲げてないものとした。
このようにして準備された缶型のコンデンサを、常法に従って真空乾燥した後、同じ真空下で絶縁油を含浸し、封口した。次に含浸を一定にし安定化するために、最高80℃の温度2昼夜熱処理を施した。これを室温で5日間以上放置した後、AC1400V(50V/μに相当)にて30℃の恒温槽で16時間課電処理をした後に実験に供した。
誘電体として厚み14μmのポリプロピレンフィルムを2枚重ねたものを使用し、電極として、アルミニウム箔を常法に従って、巻回、積層することにより、油含浸用のモデルコンデンサを作成した。
このコンデンサに、真空下で各混合油を含浸させて、静電容量0.26μFの油含浸コンデンサを作成した。なお、含浸にあたっては各電気絶縁油組成物を予め活性白土で処理して用いた。すなわち水沢化学工業(株)製NSR白土を電気絶縁油組成物に3質量%添加し、液温25℃で30分間撹拌し、その後濾過した。濾過後塩素捕獲剤としてエポキシ化合物(脂環式エポキシド;商品名:セロキサイド2021P、ダイセル化学工業(株)製)を0.65質量%添加して含浸用に用いた。
次に、これら油含浸コンデンサを所定の温度下で所定の方法で交流電圧を課電して、コンデンサが絶縁破壊を起こした電圧と時間から下記式(1)により絶縁破壊電圧を求めた。なお所定の課電方法とは、電位傾度50v/μmから、24時間毎に10v/μmの割合で連続的に課電電圧を上昇させる方法である。
絶縁破壊電圧(v/μm)=V+S×(T/1440) (1)
ここで V:絶縁破壊時の課電電圧(v/μm)
S:24時間毎の上昇電圧(v/μm)
T:課電電圧上昇後、絶縁破壊までの経過時間(分)
【0067】
【表1】

【0068】
表中の1,1−DPEは1,1−ジフェニルエタン、PTEは1−フェニル−1−メチルフェニルエタン、PXEは1−フェニル−1−キシリルエタン、PEPEは1−フェニル−1−フェニルエチルエタン、BTはベンジルトルエン、1,2−DPEは1,2−ジフェニルエタン、DPMはジフェニルメタン、DBTはジベンジルトルエンをそれぞれ指す。
【0069】
表1から明らかなように、本発明の電気絶縁油組成物(実施例1〜16)は絶縁破壊電圧を高く維持しつつ、−50℃で結晶を析出しないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の電気絶縁油組成物は低温特性に優れており産業上きわめて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A]1,1−ジフェニルエタンを30〜70質量%含み、かつ[B](a)1−フェニル−1−メチルフェニルエタン、(b)1−フェニル−1−キシリルエタン、(c)1−フェニル1−エチルフェニルエタンおよび(d)ベンジルトルエンの4成分から選ばれた少なくとも1成分以上を合計で30〜70質量%含み、さらに[C]1,2−ジフェニルエタンを0.1〜2質量%および/またはジフェニルメタンを0.1〜13質量%含む電気絶縁油組成物。
【請求項2】
[A]1,1−ジフェニルエタンを30〜70質量%含み、かつ[B](a)1−フェニル−1−メチルフェニルエタン、(b)1−フェニル−1−キシリルエタンおよび(c)1−フェニル1−エチルフェニルエタンの3成分から選ばれた少なくとも1成分以上を合計で30〜70質量%含み、さらに[C]1,2−ジフェニルエタンを0.1〜2質量%および/またはジフェニルメタンを0.1〜13質量%含む電気絶縁油組成物。
【請求項3】
[A]1,1−ジフェニルエタンを30〜70質量%含み、かつ[B](a)1−フェニル−1−メチルフェニルエタンを30〜70質量%含み、さらに[C]1,2−ジフェニルエタンを0.1〜2質量%および/またはジフェニルメタンを0.1〜13質量%含む電気絶縁油組成物。
【請求項4】
40℃における動粘度が4.5mm/s以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気絶縁油組成物。
【請求項5】
塩素の含有量が50質量ppm未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電気絶縁油組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電気絶縁油組成物に活性白土を接触させた後に、エポキシ化合物を0.01〜1.0質量%添加することを特徴とする電気絶縁油組成物。

【公開番号】特開2012−256449(P2012−256449A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127597(P2011−127597)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】