説明

低炭素型セメントペースト組成物

【課題】CO削減のためにアルカリを含有する産業廃棄物及び/又は副産物をセメントクリンカーの原料として多量に使用し、CA量やアルカリ量が増加した場合であっても、流動性が良好な低炭素型セメントペースト組成物を提供すること。
【解決手段】セメント組成物とポリカルボン酸系高性能AE減水剤と水を含む低炭素型セメントペースト組成物であって、前記セメント組成物は、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグを含み、CA量が11〜13質量%、CAF間隙相量が8〜10質量23%であり、かつIMが2.10〜2.40であり、全アルカリ量が0.55〜0.80質量%であるセメントクリンカー50〜70質量%と、高炉スラグ微粉末を20〜40質量%と、石膏をSO基準で1.0〜3.0質量%含有する低炭素型セメントペースト組成物を提供することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性が良好な低炭素型セメントペースト組成物に関する。特にAl成分を多く含む産業廃棄物及び/又は副産物をセメントクリンカーの原料とした場合であっても、流動性および強度発現に優れるという特徴を有するセメント組成物を使用した低炭素型セメントペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント産業において多種の産業廃棄物及び/又は副産物が使用されている。産業廃棄物や副産物等を資源として有効利用することにより、近年、各種産業に求められている二酸化炭素(CO)排出量の低減を実現することが可能となる。
【0003】
しかしながら、原料として利用される産業廃棄物及び/又は副産物は比較的Al成分を多く含み、セメントクリンカーの原料として使用する産業廃棄物及び/又は副産物の原料原単位の増加とともにセメントクリンカーのアルミネート相(CA)含有量が増加する。一方、このCAの増加により、流動性の低下や長期強度発現の低下が懸念されるため、各種検討がされている。例えば、特許文献1では、SO量やアルカリ量を適正範囲とすることで流動性が改善されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−1796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アルカリは、適正範囲を超えると、これらの物性に対して悪影響を及ぼすおそれがあるため、アルカリを含有する廃棄物を増大できないという課題があった。
【0006】
本発明は、アルカリを含有する産業廃棄物及び/又は副産物をセメントクリンカーの原料として多量に使用し、CA量やアルカリ量が増加した場合であっても、流動性が良好な低炭素型セメントペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、セメントクリンカーのCA量やアルカリ量が増加した場合であっても、高炉スラグを加え、更に低炭素型セメントペースト組成物中のポリカルボン酸系高性能AE減水剤の含有量を通常の使用量よりも極端に少なくすることによって、優れた流動性が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、セメント組成物とポリカルボン酸系高性能AE減水剤と水を含む低炭素型セメントペースト組成物であって、前記セメント組成物は、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグを含み、ボーグ式換算でCA量が11〜13質量%、CAF間隙相量が8〜10質量23%、CS量が50〜60質量%及びCS量が17〜27質量%であり、かつIMが2.10〜2.40であり、全アルカリ(RO)量が0.55〜0.80質量%であるセメントクリンカー50〜70質量%と、高炉スラグ微粉末を20〜40質量%と、石膏をSO基準で1.0〜3.0質量%含有し、前記低炭素型セメントペースト組成物中の前記ポリカルボン酸系高性能AE減水剤の含有量が0.1〜0.3質量%であり、水セメント比(水セメント組成物比)が30〜40%である低炭素型セメントペースト組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、前記セメント組成物のHMが2.05〜2.20及びSMが2.00〜2.50であり、ブレーン比表面積が3100〜3300cm/gである低炭素型セメントペースト組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、前記高炉スラグのブレーン比表面積が2600〜4600cm/gであり、塩基度が1.65〜2.05である低炭素型セメントペースト組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、CO削減に効果的なAl成分やアルカリ成分を多く含む産業廃棄物及び/又は副産物から作製したセメントクリンカーを使用しても、流動性が良好なセメントペースト組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0013】
本発明の低炭素型セメントペースト組成物は、セメント組成物とポリカルボン酸系高性能AE減水剤と水を含む。
【0014】
前記セメント組成物は、セメントクリンカー50〜70質量%、好ましくは55〜65質量%、更に好ましくは60〜62質量%含む。また、高炉スラグ微粉末を28〜32質量%、好ましくは29〜31質量%、更に好ましくは29.5〜31.5質量%含む。また、石膏をSO基準で1.0〜3.0質量%、好ましくは1.5〜2.5質量%、更に好ましくは1.8〜2.2質量%含む。これらの範囲であれば、流動性や強度発現性が良好である。
【0015】
セメントクリンカーの鉱物組成は、ボーグ式基準で、CA量が11〜13質量%、好ましくは11.2〜12.7質量%、更に好ましくは11.5〜12.5質量%である。CA量が13質量%を超えると、水和熱が上昇し、流動性も低下するため、好ましくない。
【0016】
AF量は8〜10質量%、好ましくは8.2〜9.5質量%、更に好ましくは8.5〜9.0質量%であり、CS量は50〜60質量%、好ましくは51〜57質量%、更に好ましくは52〜54質量%であり、CS量は17〜27質量%、好ましくは19〜25質量%、更に好ましくは20〜24質量%である。これらの範囲であれば、流動性が良好である。
【0017】
セメントクリンカーの諸率は、IMが2.10〜2.40、好ましくは2.19〜2.3、更に好ましくは2.20〜2.25である。IMが2.1未満であれば、アルミネート系廃棄物の使用量の低減や、鉄源量の増加に伴うクリンカー中の重金属量の増加につながるため、好ましくない。また、2.4を超えれば、CA量増加に伴うセメントの水和熱の上昇、流動性の低下、強度発現性の低下などに影響するため好ましくない。
【0018】
HMは2.05〜2.20、好ましくは2.08〜2.15、更に好ましくは2.10〜2.12であり、SMは2.00〜2.50、好ましくは2.30〜2.45、更に好ましくは2.35〜2.39である。これらの範囲であれば、流動性が良好である。
【0019】
セメントクリンカーの全アルカリ量(RO)は0.55〜0.80質量%、好ましくは0.58〜0.70質量%、更に好ましくは0.60〜0.65質量%である。全アルカリ量が0.55質量%未満であれば、クリンカー原料に使用する産業廃棄物及び/又は副産物が低減することになる。また、0.80質量%を超えれば、流動性の低下や強度発現性の低下、アルカリ骨材反応による耐久性の低下が懸念されるため、好ましくない。
【0020】
セメントクリンカーは、石灰石、珪石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥、高炉ダスト、銅からみ、脱鉄スラグ及び焼却灰からなる群より選ばれる原料の一種以上を混合し、焼成する。
高炉スラグや石炭灰等の産業廃棄物及び/又は副産物等を比較的多く使用することにより、天然資源である石灰石や硅石の使用量を低減しかつエネルギー消費量等を低減することができるため、石灰石の熱分解や燃料の燃焼に起因するCO排出量を低減することができる。
【0021】
セメントクリンカーの製造に使用する建設発生土の原料原単位は、21kg〜130kg、好ましくは23〜120kgである。21kg未満であれば、建設発生土の利用が有効にできず、また、130kgを超えれば、クリンカー中のアルカリ量が増大し、流動性の低下や強度発現性の低下、アルカリ骨材反応による耐久性の低下が懸念されるため、好ましくない。
【0022】
セメントクリンカーの焼成は、SP方式(多段サイクロン予熱方式)又はNSP方式(仮焼炉を併設した多段サイクロン予熱方式)等の既存のセメント製造設備を用いることができる。
【0023】
セメント組成物は、上述したように、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグ微粉末を含む。高炉スラグ微粉末は、JIS R 5211「高炉セメント」で規定される品質を満足する高炉スラグ微粉末を用いることが望ましい。
【0024】
高炉スラグのブレーン比表面積は2600〜4600cm/g、好ましくは3000〜4000cm/g、更に好ましくは3400〜3800cm/gであり、塩基度は1.65〜2.05、好ましくは1.75〜1.95、更に好ましくは1.80〜1.90である。
【0025】
石膏は、JIS R 9151「セメント用天然せっこう」に規定される品質を満足することが望ましい。セメント組成物には、具体的に二水石膏、半水石膏、不溶性無水石膏が好適に用いられる。また、さらに少量の混合材を添加してもよい。混合材は、JIS R 5211「高炉セメント」に規定される高炉スラグ、JIS R 5212「シリカセメント」に規定されるシリカ質混合材、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」に規定されるフライアッシュ、石灰石微粉末を利用することができる。
【0026】
セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを混合する方法としては、特に制限されるものではなく、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを同時に粉砕して混合する方法や、セメントクリンカーを粉砕後、粉砕したセメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを混合する方法等が挙げられる。
【0027】
セメント組成物のブレーン比表面積は、3000〜3300cm/g、好ましくは3100〜3280cm/gである。ブレーン比表面積がこの範囲内であると、優れた強度発現性を有するモルタルやコンクリートの製造が可能となる。
【0028】
本発明の低炭素型セメントペースト組成物は、上記方法で得られたセメント組成物とポリカルボン酸系高性能AE減水剤と水とを混合し製造する。
【0029】
低炭素型セメントペースト組成物中のポリカルボン酸系高性能AE減水剤の含有量は0.1〜0.3質量%、好ましくは0.15〜0.25質量%、更に好ましくは0.18〜0.22質量%であり、水セメント比は、質量基準で30〜40%、好ましくは32〜38%、更に好ましくは34〜36%である。これらの範囲であれば、流動性、強度発現性が十分に得られる。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0031】
[1.セメント組成物の作製]
セメントクリンカーの原料として、表1に示す、石灰石、珪石、高炉スラグ、石炭灰、銅がらみ、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム二水和物、炭酸ナトリウムおよび炭酸カルシウムを用いた。これらのセメントクリンカーの原料調合は表2に示す原料原単位(乾燥ベース、単位:kg/t−クリンカー)に従いおこなった。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
上記原料の混合物を1500℃,30分電気炉で焼成し、セメントクリンカーをそれぞれ作製した。得られたクリンカーの主要化学組成および鉱物組成を表3に示す。クリンカーの化学組成は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析法」に準じて測定した。f.CaO量は、セメント協会標準試験方法のJCAS I−01:1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準じて測定した。クリンカーの鉱物組成は下式を用いて算出した。また、表3にはクリンカー中の水溶性アルカリ量を示した。クリンカー中の水溶性アルカリ量は、セメント協会標準試験方法のJCAS I−04:2004「セメントの水溶性成分の分析方法」に準じて測定した。なお、クリンカーの鉱物組成は下記ボーグ式により算出した。
【0035】
S=4.07×(CaO−f.CaO)−7.60×SiO−6.72×Al−1.43×Fe
S=2.87×SiO−0.75×C
A=2.65×Al−1.69×Fe
AF=3.04×Fe






【0036】
【表3】

【0037】
[2.セメント組成物の調製及びその試験方法]
No.1〜4のクリンカーをそれぞれ、ボールミルに入れ、ブレーン比表面積が3200±50cm/gとなるように粉砕した。セメント組成物のSO量が2.0質量%となるように、クリンカーの粉砕物に、JIS R 9151「セメント用天然せっこう」に規定される品質を満たす排脱二水セッコウ及びこれを加熱して調製した半水セッコウを添加した。ロッキングミキサーで混合して、セメント組成物を調製した。なお、セッコウは、セッコウの半水化率(全セッコウ量中の半水化量)が70%となるように二水セッコウ及び半水セッコウを所定量添加した。また、ブレーン比表面積は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に従い、ブレーン空気透過装置を用いて測定した。
さらに、No.1〜4のクリンカーを使用したセメントを対象に、JIS R5210:2009「セメントの物理試験方法」に規定される品質を満たす石灰石微粉末を内割で5%添加した。
【0038】
また、No.2及び3のクリンカーを使用したセメント組成物を対象に、JIS R 5211:2009「高炉セメント」に規定される品質を満たす高炉スラグを粉砕した高炉スラグ微粉末を内割で30%添加した。表4に使用した石灰石微粉末と高炉スラグ微粉末の化学組成を示す。化学分析は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析」に準拠して測定した。また、石灰石微粉末と高炉スラグ微粉末の各々のブレーン比表面積は、5150cm/g、3600cm/gであり、JIS R 5201:1998「セメントの物理試験方法」に準拠して測定した。また、JIS R 5211:2009「高炉セメント」に準拠して塩基度を算出した。
【0039】
【表4】

【0040】
[3.流動性の評価]
低炭素型セメントペースト組成物の流動性をパラレルプレート型回転粘度計(Haake社製 Rotovisco RV1、プレート半径30mm、プレート間のギャップ0.5mm)を用いて評価した。測定用の低炭素型セメントペースト組成物は、次のようにして調製した。すなわち、水セメント比を35%とし、計量したセメント組成物に混和剤(ポリカルボン酸系高性能AE減水剤(レオビルド SP8SBsx4))を0.20%含む水を加えた。ハンドミキサーにて2分間練混ぜた後、5分間静置し、その2分後(接水後9分)のペーストの見かけ粘度を測定した。なお、見かけ粘度はせん断速度が200s−1のときの値とした。表5に見かけ粘度の結果を示す。
【0041】
【表5】

【0042】
表5より、石灰石微粉末を5%添加した場合は、クリンカーのアルカリ量が増加すると共に見かけ粘度が高まり、流動性が低下した(比較例1〜3)。同様に、高炉スラグ微粉末を20質量%添加した場合も、クリンカーのアルカリ量が増加すると共に見かけ粘度が高まり、流動性が低下した(比較例4、5)。しかしながら、高炉スラグ微粉末を28質量%又は30質量%添加した場合は、クリンカーのアルカリ量を適度に増やしたクリンカーNo.3を使用すると、見かけ粘度が低下し、流動性が向上した(比較例11〜14、実施例1、2)。また、高炉スラグ微粉末を32質量%又は35質量%添加した場合は、このような現象は見られなかった。
このように、既往の結果に反し、クリンカーのCA量やアルカリ量が増加した場合であっても、適切なアルカリ量および高炉スラグ添加量とすることに加えて、低炭素型セメントペースト組成物中のポリカルボン酸系高性能AE減水剤の含有量を通常の使用量よりも極端に少なくした本発明の範囲であれば、流動性は良好とすることが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント組成物とポリカルボン酸系高性能AE減水剤と水を含む低炭素型セメントペースト組成物であって、
前記セメント組成物は、CA量が11〜13質量%、CAF量が8〜10質量%、CS量が50〜60質量%及びCS量が17〜27質量%であり、IMが2.10〜2.40であり、全アルカリ量が0.55〜0.80質量%であるセメントクリンカー50〜70質量%と、高炉スラグ微粉末28〜32質量%と、石膏をSO基準で1.0〜3.0質量%含有し、
前記低炭素型セメントペースト組成物中の前記ポリカルボン酸系高性能AE減水剤の含有量が0.1〜0.3質量%であり、水セメント比が30〜40%であることを特徴とする低炭素型セメントペースト組成物。
【請求項2】
前記セメント組成物のHMが2.05〜2.20及びSMが2.00〜2.50であり、ブレーン比表面積が3100〜3300cm/gである請求項1記載の低炭素型セメントペースト組成物。
【請求項3】
前記高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積が2600〜4600cm/gであり、塩基度が1.65〜2.05である請求項1又は2記載の低炭素型セメントペースト組成物。

【公開番号】特開2013−107816(P2013−107816A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−236287(P2012−236287)
【出願日】平成24年10月26日(2012.10.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】