低pHおよび二価カチオンを用いる生物高分子を単離する方法
哺乳類細胞または細菌細胞を含有する工業規模のバイオリアクターからの抗体および組換えタンパク質の収集は、通常、濾過または遠心分離のいずれかを用いて行われる。しかし、これらの技法の場合、核酸(例えばDNA)、宿主細胞タンパク質(HCP)、および増殖培地成分は、目的の生体高分子から適切に分離されないことが多い。本発明は、組成物中の生体高分子を単離する方法に関する。具体的には、本発明は、不純物を含有する組成物中の生体高分子を単離する方法に関し、前記方法は、(a)組成物のpHを低下させることと、(b)組成物に二価カチオンを添加させることと、(c)不純物から生体高分子を分離することとを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物中の生物高分子を単離する方法に関する。具体的には、本発明は、不純物を含有する組成物中の生物高分子を単離する方法に関し、前記方法は、(a)組成物のpHを低下させること、(b)組成物に二価カチオンを添加すること、および(c)不純物から生体高分子を分離することを含む。
【背景技術】
【0002】
生物高分子(すなわち生体高分子)(例えば組換え生体高分子)は、多種多様な技術において重要である。従来から、生体高分子は、数多くの様々な方法(2、3例を挙げるだけでも、濾過、遠心分離、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、および前述の組み合わせ)を用いて、精製されてきた。精製の方法は、通常、組成物中に生体高分子と共存する1つ以上の不純物とそれを区別する、生体高分子の特徴に基づいて選択される。おびただしい数の生体高分子が商業的に重要であり、およびタイムリーにかつ効率の良い方法で大量の生体高分子を精製する能力が望まれている。現在の精製技術および生体高分子を精製する方法の効率を上げるために、広範囲の研究が行われてきた。小規模の調製に適している精製技術は、工業規模の精製に適さないことが多い。
【0003】
商業的に重要な生体高分子としては、例えば、タンパク質および核酸(例えばDNAおよびRNA)が挙げられる。工業規模で単離されることが多い生体高分子の2つ例は、モノクローナル抗体および融合タンパク質である。これらの抗体および融合タンパク質は、種々の診断および治療分野において役立ち、かつ種々の疾患(例えば遺伝性および後天性の免疫不全症ならびに感染症)を処置するために用いられている。
【0004】
精製抗体を生成するための従来からのアプローチとしては、硫安沈澱、カプリル酸の使用に続く遠心分離、イオン交換クロマトグラフィー(例えばDEAEまたはヒドロキシアパタイド)、免疫親和性精製(例えばタンパク質Aまたはタンパク質G)、および透析が挙げられる。例えば、非特許文献1を参照。上記の方法を組み合わせて使用することは一般的である(例えば、エタノール分画に続くイオン交換クロマトグラフィーおよび/またはカプリ酸(CA)沈澱を用いる血漿からの抗体精製)。例えば、非特許文献2;特許文献1;特許文献2;特許文献3;特許文献4;および特許文献5を参照。さらに、発酵の酸性化を用いて、抗体および組換えタンパク質の回収ならびに安定性が改善されてきた。例えば、非特許文献3を参照。
【0005】
種々の他の方法は、酸沈澱の応用を含み、抗体の単離および/または精製が開発されてきた。例えば、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、および特許文献14を参照。しかし、これらの方法の多くは、大量の原料および回収損失をもたらす可能性があり、および/または工業規模で抗体を生成するための原価高を有する可能性がある。限定された作業は、収集条件を調整する利点を活用して、細胞浄化のロバスト性(特に、それがタンジェンシャルフロー濾過に関するとき)を改善してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,164,495号明細書
【特許文献2】米国特許第4,177,188号明細書
【特許文献3】米国再発行特許第31,268号明細書
【特許文献4】米国特許第4,939,176号明細書
【特許文献5】米国特許第5,164,487号明細書
【特許文献6】米国特許第7,038,017号明細書
【特許文献7】米国特許第7,064,191号明細書
【特許文献8】米国特許第6,846,410号明細書
【特許文献9】米国特許第5,429,746号明細書
【特許文献10】米国特許第5,151,504号明細書
【特許文献11】米国特許第5,110,913号明細書
【特許文献12】米国特許第4,933,435号明細書
【特許文献13】米国特許第4,841,024号明細書
【特許文献14】米国特許第4,801,687号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988)
【非特許文献2】McKinney et al., J. Immunol. Methods 96:271−278(1987)
【非特許文献3】Lydersen et al., Annals New York Academy of Sciences 745:222−31(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
哺乳類細胞または細菌細胞を含有する工業規模のバイオリアクターからの抗体および組換えタンパク質の収集は、通常、濾過または遠心分離のいずれかを用いて行われる。しかし、これらの技法の場合、核酸(例えばDNA)、宿主細胞タンパク質(HCP)、および増殖培地成分は、目的の生体高分子から適切に分離されないことが多い。細胞培養でタンパク質生成量を増加させて生成する最近の傾向は、高い細胞密度で操作するためにバイオリアクターを必要としているが、これはDNA、HCP、および他の培地成分等の不純物の量を増加させる。混入物の濃度が上がると、細胞収集操作(例えば、濾過および遠心分離の手順)、ならびに下流精製手順(例えば、クロマトグラフィーおよび透析の手順)の両方に関して強い要望が生じている。これらの不純物の高い濃度に加えて、実行すべき精製手順数が増加することもあり、従って全生成処理量を低下させることもある。
【0009】
上述の問題点および非効率の結果、生体高分子の単離のための戦略を改善する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、不純物を含有する組成物中の生体高分子を単離する方法に関し、前記方法は(a)組成物のpHを低下させること、(b)組成物に二価カチオンを添加すること、および(c)不純物から生体高分子を分離することを含む。一部の実施形態では、(a)のpHを低下させることおよび(b)の二価カチオンを添加することは、(c)の分離することの前に起こる。
【0011】
生体高分子を分離することは、種々の方法によって達成されることができる。一部の実施形態では、(c)の分離することは、組成物を濾過することによって行われ、濾過することは、透過流れおよび未透過流れを形成する。一部の実施形態では、濾過を使用する場合、生体高分子は、実質的に、透過流れにあり、一部の実施形態では、濾過は、タンジェンシャルフローフィルターによって行われる。他の実施形態では、(c)の分離することは、組成物を遠心分離にかけることによって行われ、遠心分離は、上清および沈澱物を形成する。一部の実施形態では、遠心分離を使用する場合、生体高分子は、実質的に、上清にある。
【0012】
本発明の一部の態様では、(a)における組成物のpHは、少なくとも1pH単位低下する。本発明の一部の態様では、(a)における組成物のpHは、約3.0〜約6.5、約3.0〜約5.0、または約4.0〜約4.7の範囲内で調整される。
【0013】
本発明の一部の態様では、生体高分子はタンパク質である。一部の実施形態では、タンパク質は可溶性タンパク質である。一部の実施形態では、タンパク質は抗体である。一部の実施形態では、組成物は真核細胞物質を含む。一部実施形態では、不純物は、タンパク質、脂質、核酸、リボ核酸、またはそれらの組み合わせを含む。
【0014】
本発明では種々の二価カチオンを使用することができる。一部の実施形態では、二価カチオンは、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、Ni2+、Be2+、Sr2+、Ba2+、Ra2+、Zn2+、Cd2+、Ag2+、Pd2+、Rh2+、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。一部の実施形態では、二価カチオンは、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。一部の実施形態では、組成物は、約1mM〜約100mM、または約2mM〜約50mMの濃度の二価カチオンを含む。
【0015】
本発明の一部の態様は、生体高分子を単離する方法に関し、ここでは、二価カチオンを添加することで生体高分子の回収が3%を超えて増加する。一部の実施形態では、生体高分子の回収は、10%を超えて増加する。
【0016】
本発明の一部の実施形態では、分離することは、組成物を、濾過することによって行われ、膜貫通圧をもたらす。膜貫通圧は濾過の間、実質的に一定のままである。
【0017】
本発明の一部の実施形態では、前述の組成物のpHは、3.0〜5.0のpHに低下し、二価カチオンはCa2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、分離することは該組成物を濾過することによって行われ、および生体高分子は抗体である。
【0018】
一部の実施形態では、本発明は、不純物を含有する組成物中の生体高分子を浄化する方法に関し、前記方法は(a)該組成物のpHを低下させること、(b)該組成物に二価カチオンを添加すること、および(c)該組成物中の該不純物から該生体高分子を分離することを含む。一部の実施形態では、本発明は生体高分子および不純物を含有する組成物を明確にする方法に関し、前記方法は(a)該組成物のpHを低下させること、(b)該組成物に二価カチオンを添加すること、および(c)該組成物中の該不純物から該生体高分子を分離することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】pH4.5、5.75、および7.1(未調整)でのモノクローナル抗体(Mab)細胞培養の粒子径分布の分析を示す。pH4.5では、2.5μm未満の粒子径の比率が明白に低下し、および2.5〜6.0μmの粒子の集団が増加している。
【図2】pH4.5(図2c)、5.75(図2b)、および7.1(図2a)でTrypan Blueで染色した細胞の拡大像を表す。実験像は、低いpHレベルで染色が増加することを示した。
【図3】pHの低下に応じて、細胞培養の上清の濁度を示す。通常、細胞および粒子の綿状沈澱のために、濁度は低いpHレベルで減少する。
【図4】上清の濁度に対する、収集原料のpH調整の効果を表す。y軸は、収集pH調整および綿状沈澱細胞+細胞片の沈降後の上清の濁度を表す。x軸は、収集物質の種々のpH調整値を表す。特に、このデータは、収集原料のアリコートを、25%v/v酢酸またはクエン酸を用いて特定のpHに調整し、綿状沈澱および生じる細胞の塊の沈降を可能し、ならびに澄んだ上清の濁度(透明度)を測定することによって生成した。図4のデータは、抗体および融合タンパク質を含む様々な組換えタンパク質を含有する種々の収集流れから生成される。このグラフは、調整した収集物質のpHが低下するにつれて、上清濁度の一般的な減少を示し、pH値が低くなるにつれて上清がより澄むことを示す。これは、低いpHで生じる細胞綿状沈澱のより高い程度で、細胞の塊の沈降がより急速にもたらされる結果である。この綿状沈澱および向上した沈降は、膜表面付近の向上した物質移動を提供し、従ってより効率的な精密濾過の操作性能を提供する(図12および図13を参照)。
【図5】2つの別々の細胞培養物(細胞培養物は抗体AおよびBを生成する)から宿主細胞タンパク質(図5a)およびDNA(図5b)の除去への種々のpHレベルの効果を表す。x軸は、細胞培養物の種々のpH調整値を表す。y軸は、試料中に残存する宿主細胞タンパク質またはDNAいずれかの%を表す。
【図6】2つの異なるモノクローナル抗体(A(図6a)およびB(図6b))の生成物の品質および回収への種々のpHレベルの効果を表す。x軸は、細胞培養物の種々のpH調整値を表す。モノクローナル抗体Aのグラフ(図6a)については、四角形はタンパク質回収を表し、丸はSEC単量体を表し、三角形は、IRCの主要なアイソフォームを表す。モノクローナル抗体Bのグラフ(図6b)については、菱形はタンパク質回収を表し、×はSEC単量体を表し、丸はIECの主要なアイソフォームを表す。
【図7】精密濾過の性能に対する種々のpHレベルの効果を表す。x軸は、細胞培養物の種々のpH調整値を表す。×は、宿主細胞タンパク質の濃度パーセンテージを表し、星形はDNAの濃度を表し、黒三角形は濁度を表し、白三角形はSEC単量体を表し、およびアスタリスクはIECの主要なアイソフォームを表す。
【図8】精密濾過後のモノクローナル抗体Aの収率に対する、種々のpHレベルの効果を表す。pHレベル5.5を超える測定は、膜の付着物のために失敗した。
【図9】遠心分離後、モノクローナル抗体Bを単離することに対する、、種々のpHレベルの効果を表す。菱形は抗体Bの回収を表し、四角形は宿主細胞タンパク質の濃度を表し、三角形はDNA濃度を表し、プラス(+)記号は、濁度の測定値を表し、丸(○)はSEC単量体を、および×はIECの主要なアイソフォームを表す。
【図10】精密濾過システムの模式図を示す。このシステム操作の目的は、クロマトグラフ精製の前に、細胞培養物から細胞片および他の細片を取り除くことである。浄化を、マイクロフィルター(0.2〜0.65μmのポア呼び径)を交差流配置(膜表面に対して収集原料および未透過流れは平行)で用いることによって行われる。このシステムには、精密濾過(MF)カートリッジを通って原料を循環させるための蠕動ポンプが含まれるが、他のポンプ(例えば回転ローブまたは隔膜ポンプ)を使用することも可能である。濾過の間、経過時間、透過流れの重さ、およびカートリッジの入口、出口、ならびに透過流れ圧がモニターされる。細胞培養条件培地を5〜7倍に濃縮させた後、緩衝溶液(収集原料pHと同様のpH)による定容積ダイアフィルトレーションを行い、残存する生成物のほとんどを回収する。透過流れは一定流速でこのシステムから引き出され、容器に収集される。操作温度は、2〜26℃で起こり得る。原料容器は、未調整またはpH調整された収集原料のいずれかが含有され、細胞沈降を防ぐために攪拌される。
【図11】マイクロフィルターを通る膜貫通圧(TMP)低下を算出する方法を示す。TMPは、収集原料の未透過流れ側、および透過流れ側で測定される圧力から算出される。圧力測定は、針圧計、デジタル計測器、または圧力トランスデューサーを用いて行われる。
【図12】精密濾過の操作性能に対する、pH調整の効果を表す。y軸は、0.65μmポア径の中空繊維フィルターを用いる精密濾過フィルターの平均膜貫通圧(TMP)のpsiの差を表し、x軸は、膜に負荷される収集原料の量対膜面積の割合(L/m2)を表す。これらの精密濾過実験で用いる収集物質は、グリコシル化ヒト化モノクローナル抗体(IgG1)チャイニーズハムスター卵巣細胞を含む。図12の凡例は、種々のpHを調整した収集流および種々のパーセント細胞生存率のデータを示す。グラフは、中性のバイオリアクター状態からpH4.7〜5.3に低下した未調整収集原料を濾過することは、pH6.8〜7.2の範囲のままである収集原料を濾過することと比較して、フィルターを横切る、より低い全体的な膜貫通圧をもたらすことを示す。データは、収集流れのpHを下げることで定められた透過流量(高い負荷で低いTMPによって示されるように)でフィルターの付着物を減少させることを可能にし、より強い精密濾過操作をもたらす。
【図13】図12に類似するが別のモノクローナル抗体のための精密濾過の操作性能に対する、pH調整の効果を表す。y軸は、0.65μmポア径の中空繊維フィルターを用いる精密濾過フィルターの平均膜貫通圧(TMP)のpsiの差を表し、x軸は、膜に負荷される収集原料の量対膜面積の割合(L/m2)を表す。これらの精密濾過実験で用いる収集物質は、十分に分化したヒト化モノクローナル抗体を産生するチャイニーズハムスター卵巣細胞を含む。図13の凡例は、種々のpHを調整した収集流および種々のパーセント細胞生存率のデータを示す。グラフは、中性のバイオリアクター状態からpH4.7〜5.2に低下する未調整収集原料のフィルタリングが、6.8〜7.2のpHの範囲で残る収集原料のフィルタリングに対してフィルターを横切るより低い全体的な膜貫通圧をもたらすことを示す。データは、収集流れのpHを下げることで定められた透過流量(高い負荷で低いTMPによって示されるように)でフィルターの付着物を減少させることを可能にする。これにより、より強い精密濾過操作がもたらされる。
【図14】条件付き収集流れにおけるpH変化および生成物タンパク質タイタ−に対する、異なる二価カチオンの存在の効果を表す。y軸は生成物タイター(添加されたカチンがないpH7.0収集のタイターに規準化された)を表す。x軸は、いくつかのpH値(pH7、5、または4)および二価カチオン型で種々の生体高分子のための収集流れを表す。融合タンパク質に関するデータは、pH5調整の間にCo2+を添加することで溶液中の融合タンパク質が保存される、または凝集細胞および細胞片とのタンパク質の共沈澱の可能性を除去されることを示す。抗体に関するデータは、pH5調整の間にMg2+またはCa2+を添加することで溶液中の抗体が保存される、または凝集細胞および細胞片との共沈澱の可能性を除去されることを示す。
【図15】種々の抗体を含有する様々な収集流れのためのDNA除去に対する、収集のpH調整の効果を表す。y軸は、浄化した収集流れにおける抗体の量の存在(kg)あたりのDNA不純物の量の存在(μg)を示す。x軸は、pH未調整および25%酢酸でpHを4.7に調整した両方の収集/抗体流れを表す。以下に示すすべての抗体について、約7.0から4.7への収集pHの調整することで、DNA沈澱が効率的にもたらされ、DNA不純物レベルで1.5〜3ログの減少を有する浄化収集流れをもたらす。
【図16】種々のカチオンを収集原料に添加し、続いてその収集をpH5に調整する効果を表す。y軸は付加的なイオンの存在または非存在で未調整収集流れに基づく%タンパク質での損失を示す。グラフの左側の最初の棒は、任意の付加的な二価イオンなしでpH収集をpH5.0に調整した後の14%のタンパク質損失(沈澱に起因する)を表す。残りの棒は、種々の二価カチオンの存在で、付加的なタンパク質損失(>14%)またはタンパク質生成物回復(<14%)を表す。データは、種々の遷移金属イオン(例えば、Ni2+、Ca2+、Mg2+、Mn2+、およびCo2+)の存在がタンパク質回収を向上させることを示す。
【図17】25%酢酸でpHを5.0に調整する収集流れからタンパク質タイター回収に対する、CoCl2の濃度の効果を表す。y軸は、CoCl2の種々のレベルでpHを調整した収集流れの%タンパク質での損失を表す。x軸は、pHを5.0に調整した収集流れに存在するCoCl2(mM)の濃度を表す。データは、Co2+イオンの濃度が上がるにつれて、pHに誘発された沈澱に起因するタンパク質生成物の%損失が減少することを示す。10mMの平衡濃度は、融合タンパク質に対して示される。
【図18】タンパク質の濾過拒絶および全浄化回収に対する、本発明の方法の効果を表す。y軸は、保持係数(R)によって規定されるタンパク質の即時濾過拒絶を表す。x軸は、目的の生体高分子を含む組成物の浄化操作の間の処理体積量を表す。データは、4つの別々のMF実験を示す。すなわち、白三角形および黒三角形によって示される操作は、10mM CoCl2の添加を含み、pH5.0に調整された収集流れを表し、白丸および黒丸によって示される操作は、CoCl2を添加されない未調整収集流れを表す。データは、研究したすべての負荷率に関して、10mM CoCl2を含有するpHを調整した収集原料に対して低いことを示す。データは、Co2+二価イオンを含有する操作が未調整収集原料を用いる操作による20%収率損傷と比較すると、所望のタンパク質の完全回収を示すことを表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、不純物を含有する組成物中の生体高分子を単離する方法に関し、前記方法は、(a)組成物のpHを低下させること、(b)組成物に二価カチオンを添加すること、および(c)不純物から生体高分子を分離することを含む。本発明の発明者は、最初の生物由来物質を高密度で有する細胞培養物を含有するバイオリアクターから工業規模量の抗体を分離する(濾過によって)ことを試みた場合、高濃度の細胞物質に起因する膜表面の付着物の結果と思われる、フィルターを横切る膜貫通圧の低下が著しく増大したことを見出した。フィルター付着物が増加し、次いで、回収される抗体の量に悪影響を及ぼし、浄化収率を低下させ、次いで透過流れにおいて相対的に高いレベルの不純物をもたらした。一部の例では、膜貫通圧がフィルターの機械的性能を超えた値まで増加し、従って完了する前に操作が停止され、生成物収率の著しい低下をもたらした。
【0021】
フィルターの膜貫通圧を減少させ、透過流れにおけるタンパク質回収を増加させ、および透過流れにおける不純物の量を減少させるために、本発明の方法は、濾過の前に収集原料のpHを下げて、他の不純物(例えばDNA)の沈澱とともに大型細胞および細胞片の綿状沈澱を引き起こす。不純物(細胞、細胞片、およびDNA)の大粒子への綿状沈澱は、フィルター表面近くの組成物の物質移動を向上させ、従って所定の透過流れの流量または流速でフィルターを横切る膜貫通圧を減少させた。さらに、収集流れのpHを下げることによって起こる不純物の共沈澱は、フィルター上でこれらの不純物の保持を向上させ、従って透過流れにおける不純物レベルを減少させる。
【0022】
組成物のpHを下げることにより、収集原料内の所望の抗体の沈澱を誘導し、膜によって所望の抗体の保持がもたらされ、次いで透過流れにおける所望の抗体の量が減少することが見出された。本発明の方法は、濾過の前にpHを調整した収集原料に、二価カチオンを添加することによって抗体の共沈殿をさらに選択的に減少させ、および透過流れにおける抗体回収の量を増加させながら、不純物の量に影響を及ぼさない。
【0023】
本発明の方法は、組成物中の不純物から生体高分子を単離するのに有用である。生体高分子の例としては、例えば抗体、組換えタンパク質、融合タンパク質等であり、二価カチオンの存在下の低pHで類似する溶解特性を有する。
【0024】
文脈から明白でない限り、「単数形の(a)または(an)」という用語の実体は、その実体の1つ以上をいうことに注目すべきであり、例えば、「単数形のタンパク質」は、1つ以上のタンパク質を表すと理解される。そのようなものとして、「単数形の(a)(または(an))」、「1つ以上の」、および「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では互換的に用いられ得る。
【0025】
「単離すること」および「単離」という用語は、組成物中に見出される少なくとも1つの他の望ましくない成分または不純物から生体高分子を分離することをいう。「単離すること」という用語は、「精製すること」および「浄化すること」を含む。生体高分子の単離には特定のレベルは必要ではないが、一部の実施形態では、不純物の少なくとも50%、70%、80%、90%、または95%(w/w)が生体高分子から分離される。例えば、一部の実施形態では、生体高分子の単離は、組成物中に最初に存在するHCPの80%から生体高分子を分離することを含む。
【0026】
「浄化すること」および「浄化」という用語は、組成物から大粒子の除去をいう。例えば、細胞培養物および増殖培地に適用すると、「浄化すること」という用語は、細胞培養物から例えば、原核細胞および真核(例えば哺乳類の)細胞、脂質、および/または核酸(例えば染色体およびプラスミドDNA)の除去をいう。一部の実施形態では、本発明の方法は、(a)組成物のpHを下げて、不純物が組成物内に凝集させることを可能すること、(b)二価カチオンを組成物に添加すること、および(c)組成物中の不純物から生体高分子を分離することを含む。不純物の綿状沈澱には特定のレベルは必要ではないが、一部の実施形態では、不純物の少なくとも50%、70%、80%、90%、または95%(w/w)が凝集される。例えば、一部の実施形態では、生体高分子の浄化は、組成物中に存在する哺乳類細胞の80%を凝集させることを含む。綿状沈澱は、濁度計等の写真測光法を含む、当業者にとって公知の方法によって測定されることができる。
【0027】
「精製すること」および「精製」という用語は、不純物の大きさにかかわらず組成物中の不純物または他の混入物から本発明の生体高分子を分離することをいう。従って、「精製」という用語は、「浄化」を包含するが、さらに、浄化の間に除去されるものよりも小さい大きさの不純物(例えば、タンパク質、脂質、核酸、および細胞片、ウイルス片、混入細菌片、培地成分等の他の形態)を包含する。生体高分子の精製には特定のレベルは必要ではないが、一部の実施形態では、不純物の少なくとも50%、70%、80%、90%、または95%(w/w)が生体高分子から精製される。例えば、一部の実施形態では、生体高分子の精製は、組成物中に最初に存在するHCPの80%から生体高分子を分離することを含む。
【0028】
本明細書に用いるように「生物生体高分子」または「生体高分子」という用語は、生物または細胞培養物(例えば、真核(例えば、哺乳類等)細胞培養物または原核(例えば、細菌等)細胞培養物)から単離されることができる1kDaを超える分子量を有する分子をいう。一部の実施形態では、この用語の使用は、ポリマー、例えば、生体高分子(核酸(例えばDNA、RNA)、ポリペプチド(例えばタンパク質)、炭水化物、および脂質)をいう。一部の実施形態では、「生体高分子」という用語は、タンパク質をいう。一部の実施形態では、「生体高分子」という用語は、組換えタンパク質または融合タンパク質をいう。一部の実施形態では、タンパク質は可溶性である。一部の実施形態では、生体高分子は、抗体(例えばモノクローナル抗体)である。
【0029】
本明細書で用いるように、「タンパク質」という用語は、単数の「タンパク質」ならびに複数の「タンパク質」を包含することを意図する。従って、本明細書で用いるように、「ペプチド」、「ポリペプチド」、「アミノ酸鎖」、または1本鎖のアミノ酸または複数鎖のアミノ酸を参照するために用いる任意の他の用語を含むがそれらに限定されない用語は、「タンパク質」の定義に含まれ、および「タンパク質」という用語は、これらの用語のいずれかの代わりに、または互換的に使用することが可能である。この用語は、翻訳後の修飾(例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、公知の保護基/封鎖基による誘導体化、タンパク質切断、または非天然のアミノ酸による修飾)を受けているタンパク質をさらに含む。タンパク質は、多量体(例えば二量体、三量体等)を形成するポリペプチドも含む。「タンパク質」という用語は、融合タンパク質(例えば、タンパク質(またはタンパク質のフラグメント)が抗体(または抗体のフラグメント)に結合する遺伝子融合のプロセスを介して産生されるタンパク質)も含む。本発明の融合タンパク質の例としては、ヒトIgG1およびヒトIgEに由来する、連結したFc領域を含むジスルフィド結合二官能性タンパク質、およびリンホトキシンβ受容体免疫グロブリンG1が挙げられる。
【0030】
抗体は、本発明の方法によって精製されることができる。用語[抗体]とは、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、多選択性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体、一本鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab‘)2フラグメント、Fab発現ライブラリーによって生成されるフラグメント、坑イディオタイプ(坑Id)抗体(例えば本発明の抗体に対する坑Id抗体を含む)、および前述のいずれかのエピトープ結合フラグメントをいう。一部の実施形態では、「抗体」という用語は、モノクローナル抗体をいう。「抗体」という用語は、また、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性の部分(すなわち、抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子)いう。本発明の方法によって精製されることができる免疫グロブリン分子は、型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、クラス(例えば、IgGl、IgG2、IgG3、およびIgG4)、または免疫グロブリン分子のサブクラスのいずれかであり得る。本発明の抗体としては、キメラ抗体、一本鎖抗体、およびヒト化抗体も挙げられる。本発明の抗体の例としては、商品化された抗体(例えば、natalizmab(ヒト化坑a4インテグリンモノクローナル抗体)、ヒト化坑αVβ6モノクローナル抗体、ヒト化坑VLA1 IgG1κモノクローナル抗体、huB3F6(ヒト化IgG1/κモノクローナル抗体)が挙げられる。
【0031】
本発明の方法によって精製される抗体は、鳥および哺乳類を含む任意の動物に由来することもある。好ましくは、本発明の方法によって精製される抗体は、ヒト、ネズミ科の動物(例えばマウスおよびラット)、ロバ、シップウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ、またはニワトリ)に由来する。本明細書で用いるように、「ヒト」抗体とは、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含み、およびヒト免疫グロブリンライブラリーから、または1つ以上のヒト免疫グロブリンとの動物トランスジェニックから単離され、内在性免疫グロブリンを発現しない抗体を含む。例えば、Kucherlapati et al.による米国特許第5,939,598号を参照。一部の実施形態では、抗体としては、商品化された抗体(例えばnatalizmab(TYSBARI(登録商標), Elan Pahrmaceuticals, San Diego, CA))を含む、IgGl、IgG2、IgG3、およびIgG4の抗体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0032】
本発明の方法によって精製されることができる抗体としては、例えば、自然抗体、インタクトなモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2種類のインタクトな抗体から形成される多選択性抗体(例えば二重特異性抗体)、抗体フラグメント(例えば、1つ以上の抗原に結合し、および/または認識する抗体フラグメント)、ヒト化抗体、ヒト抗体(Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2551(1993); Jakobovits et al., Nature 362, 255−258(1993); Bruggermann et al., Year in Immunol. 7:33 (1993)、米国特許第5,591,669号および第5,545,807号)、抗体ファージライブラリーから単離される抗体および抗体フラグメント(McCafferty et al., Nature 348:552−554(1990);Clackson et al., Nature 352:624−628(1991); Marks et al., J. Mol.Biol. 222:581−597(1991); Marks et al., Bio/Technology 10:779−783(1992); Waterhouse et al., Nucl. Acids Res. 21: 2265−2266(1993))が挙げられる。本発明の方法によって精製される抗体は、N末端もしくはC末端で非相同ポリペプチドに組換えで融合され得る、またはポリペプチドもしくは他の組成物に化学的に抱合(共有抱合および非共有抱合)され得る。例えば、本発明の方法によって精製される抗体は、検出アッセイおよびエフェクター分子(例えば、非相同ポリペプチド、薬物、または毒素)において標的として有用な分子に組換えで融合され得るまたは抱合され得る。例えば、PCT公報第WO92/08495号、第WO91/14438号、第WO89/12624号、米国特許第5,314,995号、および欧州特許第EP396,387号を参照。
【0033】
一部の実施形態では、本発明の生体高分子または組成物は、医薬的に許容される。「医薬的に許容される」とは、健全な医学的判断に従って、有用性/危険性の妥当な比に釣り合い、過剰な毒性または他の合併症もなく、人間および動物の組織との接触に適した生体高分子または組成物をいう。
【0034】
一部の実施形態では、生体高分子は可溶性タンパク質である。「可溶性」という用語は、細胞宿主の親水性もしくは水性の環境(例えば細胞質、周辺質、または細胞外媒体)に実質的に局在化するためのタンパク質の性質をいう。従って、細胞分画の間、可溶性タンパク質は、通常、宿主細胞の細胞質成分、周辺質成分、または細胞外成分によって実質的に単離される。一部の実施形態では、可溶性タンパク質は、界面活性剤の非存在下で水溶性である。当業者は、ポリペプチドの細胞局在またはタンパク質の細胞分画のどちらも絶対的でないことを認識する。従って、語句「実施的に局在化させる」とは、タンパク質の50%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%が指定された細胞部位(例えば細胞質、周辺質、または細胞外媒体)にあるタンパク質をいう。
【0035】
本発明での「組成物」という用語は、本発明の生体高分子の1つ以上の分子、および場合により、不純物および生体高分子が同一でない、少なくとも1つの不純物の混合物をいう。一部の実施形態では、組成物は、生体高分子、細胞宿主生物(例えば哺乳類細胞)、および宿主生物を増殖させ、ならびに目的の生体高分子の発現を可能にするのに十分な培養基を含む。増殖培地の選択および使用は、当業者にとって公知である。一部の実施形態では、培養基は、細胞培養培地である。細胞培養培地は、増殖する細胞培養の種類によって異なる。一部の実施形態では、細胞培養培地は、市販されている培地である。一部の実施形態では、例えば無機塩類、炭水化物(例えば、グルコース、ガラクトース、マルトース、または果糖等の糖類)、アミノ酸、ビタミン(例えば、ビタミンB群(例えばB12)、ビタミンA、ビタミンE、リボフラビン、チアミン、およびビオチン)、脂肪酸および脂質(例えば、コレステロールおよびステロイド)、タンパク質およびペプチド(例えばアルブミン、トランスフェリン、フィブロネクチン、およびフェチュイン)、血清(例えばアルブミン、成長因子、および成長抑制物質を含む組成物(例えばウシ血清、新生仔牛血清、およびウマ血清))、微量元素(例えば亜鉛、銅、セレン、およびトリカルボン酸の中間体)、ならびにそれらの組み合わせを含有する増殖培地を含む。増殖培地の例としては、基本培地(例えばMEM、DMEM、GMEM)、複合培地(RPMI 1640、Iscoves DMEM、Leibovitz L−15、TC100)、無血清培地(例えばCHO、Ham F10および誘導体、Ham F12、DMEM/F12)が挙げられるがこれらに限定されない。増殖培地で見られる通常の緩衝液として、PBS、Hanks BSS、Earles塩類、DPBS、HBSS、EBSSが挙げられる。哺乳類細胞を培養するための培地は、当該技術分野で周知であり、例えば、Sigma−Aldrich Corporation (St. Louis, MO)、HyClone (Logan, UT)、Invitrogen Corporation (Carlsbad, CA)、Cambrex Corporation (E. Rutherford, NJ)、JRH Biosciences (Lenexa, KS)、Irvine Scientific (Santa Ana, CA)、および他から入手可能である。増殖培地で見られる他の成分としては、アスコルビン酸、クエン酸、システイン/シスチン、グルタミン、葉酸、グルタチオン、リノール酸、リノレン酸、リポ酸、オレイン酸、パルミチン酸、ピリドキサール/ピリドキシン、リボフラビン、セレン、チアミン、トランスフェリンを挙げることができる。当業者は、本発明の範囲に含まれる増殖培地に修飾が存在することを認識する。
【0036】
一部の実施形態では、組成物は収集原料をさらに含む。「収集原料」という用語は、細胞が収集の直前に存在する培地、または収集された細胞が収集直後に置かれ、かつ細胞がそれに再懸濁される培地をいう。収集原料としては、増殖培地に関して上述した組成物の任意の、または収集細胞もしくは細胞分画を再懸濁させるのに適した他の培地を挙げることができる。例えば、一部の実施形態では収集培地は、水、緩衝液、浸透圧剤、坑分解剤等を含有することもある。
【0037】
「不純物」という用語は、本発明の生体高分子と異なる、組成物の1つ以上の成分をいう。一部の実施形態では、不純物としては、インタクトな哺乳類細胞(例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)もしくはマウス骨髄腫細胞(NSO細胞))、または部分細胞(例えば細胞片)を挙げることができる。一部の実施形態では、不純物は、タンパク質(例えば、可溶性もしくは不溶性のタンパク質、またはHCP等のタンパク質のフラグメント)、脂質(例えば細胞壁物質)、核酸(例えば染色体DNAもしくは染色体外DNA)、リボ核酸(t−RNAもしくはmRNA)、またはそれらの組み合わせ、または目的の生体高分子とは異なる任意の他のどんな細胞片でも含む。一部の実施形態では、不純物は、目的の生体高分子を産生した、または含有した宿主生物から生じ得る。例えば、不純物は、目的のタンパク質を発現した原核細胞または真核細胞(例えば、細胞壁、細胞タンパク質、DNAもしくはRNA等)の細胞成分であり得る。一部の実施形態では、不純物は宿主生物に由来せず、例えば不純物は、細胞培養培地、増殖培地、緩衝液、または培地添加物に由来することもある。本明細書で用いるように不純物は、単一の望ましくない成分、またはいくつかの望ましくない成分の組み合わせを含み得る。
【0038】
本発明の生体高分子は、増殖培地および種々の真核細胞(例えば哺乳類細胞)を含む細胞培養物から単離されることも可能である。本発明の哺乳類細胞(本発明の方法で用いられる哺乳類細胞を含む)は、培養で増殖することが可能な任意の哺乳類細胞である。典型的な哺乳類細胞としては、例えば、CHO細胞(CHO−K1、CHO DUKX−B11、CHO DG44を含む)、VERO、BHK、HeLa、CV1(Cos、Cos−7を含む)、MDCK、293、3T3、C127、骨髄腫細胞系(特にマウス)、PC12、HEK−293細胞(HEK−293TおよびHEK−293Eを含む)、PERC6、Sp2/0、NSO細胞、およびW138細胞が挙げられる。任意の前述の細胞に由来する哺乳類細胞も、用いることが可能である。
【0039】
本発明の生体高分子は、増殖培地および種々の原核細胞(例えば、大腸菌、枯草菌、ネズミチフス菌、ならびにシュードモナス属内の種々の種(例えば緑膿菌)、酵母菌(例えばサッカロミセス、ピキア、ハンゼヌラ、クリベロマイセス、分裂酵母、シュワニオミセス、およびヤロウイア)、昆虫細胞(例えばイラクサギンウワバ、鱗翅目カブラヤガ、スポドプテラ属、ショウジョウバエ、およびSf9)、植物細胞(例えばシロイヌナズナ)を含む細胞培養物から単離され得る。当業者は、目的の生体高分子に応じて、適切な細胞系を選択できる。
【0040】
本発明では、組成物のpHは、収集原料のpHよりも低いpHに調整される。本発明の組成物(例えば、収集原料を含むもの)は、通常、調整なしで、約6.0〜約8.0、約6.5〜約7.5、または約6.8〜約7.2のpHを有する。一部の実施形態では、収集原料のpHよりも低い任意のpHを、本発明の単離で用いる。一部の実施形態では、組成物のpHは、約1.0〜約6.0、約2.0〜約5.5、約3.0〜約6.5、約3.0〜約5.0、約4.0〜約5.0、約4.0〜約4.7、約4.3〜約5.0、または約4.7〜約5.0の範囲内のpHに下げる。一部の実施形態では、組成物のpHは、約4.0〜約4.7の範囲内に下げる。一部の実施形態では、pHは、約3.5のpHまで下げることができる。一部の生体高分子では、3.5よりも低いpHは、目的の生体高分子の変性または不安定性をもたらし、従って望ましくない。任意の理論に制約されることなく、一部の実施形態では、収集原料のpHを下げることによって、組成物、主に細胞、および細胞片のうちの1つ以上の成分を凝集させる。一部の実施形態では、宿主細胞DNAは凝集され、目的の生体高分子の単離をより簡単および/またはより効率的にできるようにする。一部の実施形態では、宿主細胞タンパク質は凝集され、目的の生体高分子の単離をより簡単および/またはより効率的にできるようにする。一部の実施形態では、濾過を用いて生体高分子を単離する場合、凝集した大粒子は、フィルターのポアの付着物を減少させ、従ってフィルタリング効果を上昇させ、膜貫通圧を低下させ、処理体積量を増大させる。一部の実施形態では、本発明は、pHを下げることによる生体高分子を単離する方法に関する。
【0041】
本発明の組成物のpHは、種々の方法によって調整されることが可能である。一部の実施形態では、pHを、組成物に酸を添加することによって下げる。適切な酸としては、強酸(例えば、過塩素酸(HClO4)、ヨウ化水素酸(HI)、臭化水素酸(HBr)、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)、硫酸(二塩基酸)(H2OS4))、もしくは弱酸(例えば酢酸(CH3COOH)(例えば氷酢酸)、クエン酸(C6H8O7)、ギ酸(HCOOH)、シアン化水素酸(HCN)、硫酸水素塩イオン(HSO4−))、または上記の酸のいずれかの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。一部の実施形態では、組成物のpHは、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液(例えばリン酸ナトリウムおよびリン酸カリウム)、炭酸水素緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液、トロメタミン緩衝液、HEPES緩衝液、およびそれらの組み合わせ)を用いることによって調整され得る。
【0042】
任意の理論にも制約されることなく、本発明の一部の実施形態では、pHを低下させることによって大きな不純物の粒子を凝集させるのに役立ち、それによって「付着物」(すなわち、フィルターのポアを塞ぐまたは詰める)を減少させる。フィルターの付着物が増加すると、透過流れにおける所望の生体高分子の回収に悪影響を及ぼす可能性があり、透過流れにおける浄化収率の低下および比較的高いレベルの不純物をもたらす。場合によっては、フィルターの付着物は、膜貫通圧を増加させる。フィルターの付着物は、フィルターの機械的性能を超える値まで膜貫通圧を増大させ、従って、完了する前にフィルター操作を停止させ、著しく低い生成物回収をもたらす。従って、一部の実施形態では、本発明は、組成物のpHを下げることによって、組成物中の生体高分子のより多くの量または容積を単離する方法に関する。一部の実施形態では、pHを下げることによって、回収される生体高分子の純度および品質を増加させることができる。
【0043】
一部の実施形態では、組成物のpHを下げることは、目的の生体高分子ならびに不純物の共沈澱をもたらし、細胞外媒体における生体高分子の回収を減少させる結果となる。本発明の発明者は、一部の実施形態では、pHを調整した組成物に二価カチオンを添加することは、目的の生体高分子の回収を増加させることに適していることが分った。「回収の増加」という用語は、同一の精製方法であるが二価カチオンを添加しない方法に比べて、本発明の方法の比較をいう。例えば、方法Aが本発明の方法(収集原料への二価カチオンの添加を含まないことを除いて)であって、目的の生体高分子を100mgもたらし、方法Bが方法Aと同一(方法Bが収集原料への二価カチオンの添加を含むことを除いて)であり、生体高分子を110mgもたらす場合、方法Bは10%の「回収の増加」を有すると判定される。一部の実施形態では、本発明の方法は、生体高分子の回収を3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、または25%を超えて増加させる。一部の実施形態では、本発明の方法は、回収を、10%、15%、20%、25%、30%、または50%まで増加させる。
【0044】
本発明では、二価カチオンを組成物に添加する。種々の二価カチオンが存在し、当業者にとって公知であり、例えば、カルシウムカチオン(Ca2+)、マグネシウムカチオン(Mg2+)、銅カチオン(Cu2+)、コバルトカチオン(Co2+)、マンガンカチオン(Mn2+、ニッケルカチオン(Ni2+)、ベリリウムカチオン(Be2+)、ストロンチウムカチオン(Sr2+)、バリウムカチオン(Ba2+)、ラジウムカチオン(Ra2+)、亜鉛カチオン(Zn2+)、カドミウムカチオン(Cd2+)、銀カチオン(Ag2+)、パラジウムカチオン(Pd2+)、ロジウムカチオン(Rh2+)、およびそれらの組み合わせが挙げられる。当業者は、カチオンが塩の形(例えば、CaCl2等のカルシウム塩は、水溶液に加えて、カルシウムカチオンを生成できる)で存在できることを理解する。従って、本明細書で用いるように、語句「二価カチオンを添加すること」は、その荷電状態にカチオンを添加することだけでなく、本発明の組成物に導入されると、二価カチオンを生成する塩もしくは他の成分を添加することも包含する。一部の実施形態では、二価カチオンはCo2+もしくはNi2+、またはそれらの塩類(例えばCoCl2、NiCl2、CaCl2、MnCl2、MgCl22、およびCuCl2)、またはこれらのカチオンもしくは塩類のうちの1つ以上の組み合わせである。ある二価カチオンが様々な生体高分子により適していることもあり得ると予想される。また一方、当業者は、多数の二価カチオンを容易にかつ手早く試験して、どれが目的の生体高分子の最大回収を達成するかを決定することができる。
【0045】
組成物における二価カチオンの種々の濃度が本発明での使用に適している。当業者は、種々の量の二価カチオンが通常、収集原料(内在性二価カチオン)で少量存在し、種々の量の二価カチオンが本発明によって収集原料に添加される(外因性二価カチオン)ことができることを認識する。一部の実施形態では、二価カチオンの濃度は、外因性カチオンおよび内在性カチオンの両方を含む。しかし、実際的には、内在性二価カチオンの量は、外因性二価カチオンの量と比べて、比較的に少量であるので、二価カチオンの濃度は、単純に外因性二価カチオンを考慮することで算出されることが可能である。一部の実施形態では、組成物中の二価カチオンは、組成物の約0.01mM〜約1Mの濃度で組成物に存在する。一部の実施形態では、約0.1mM〜約500mM,または約0.5mM〜約200mM、約1.0mM〜約100mM,約2mM〜約50mM、約5mM〜約15mM、または約2mM〜約20mMの濃度で組成物に存在する。一部の実施形態では、二価カチオンは、約10mMの濃度で組成物に存在する。任意の方法論に制約されることなく、二価カチオンの適切な濃度は、実施例14で分ったものに類似する方法で決定されることが可能である。この実施例では、種々の濃度の二価カチオンを、生体高分子を含む、pHを調整した組成物に添加し、次いで最大量の生体高分子を回収できる最低濃度を決定する。当業者は、様々な濃度のカチオンが種々の生体高分子で必要とされ得ると理解する。
【0046】
種々の方法を用いて、1つ以上の不純物から本発明の生体高分子を分離することができる。不純物から生体高分子を分離する方法の例としては、沈澱、免疫沈降、クロマトグラフィー、濾過、遠心分離、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、不純物から生体高分子を分離することは、フィルターを用いることによって達成される。「濾過」または「濾過すること」という用語は、特定のポア径からなる、1つ以上の半透膜(または媒体)に組成物を通過させることによって組成物から浮遊粒子を除去するプロセスをいう。濾過について言及するとき、「透過流れ」という用語は、濾過の間、フィルターポアを通過する組成物の画分をいう。濾過について言及するとき、「未透過流れ」という用語は、濾過の間、フィルター上に残存する、またはフィルターポアを通過しない組成物の画分をいう。一部の実施形態では、濾過後、本発明の生体高分子は、実質的に透過流れ(すなわち、フィルターポアを通過して、収集される)に存在し、一方不純物(例えば、細胞片、DNA、および/またはHCP)は実質的に未透過流れに存在する。一部の実施形態では、濾過後、本発明の生体高分子は、実質的に未透過流れに存在し、一方不純物は、実質的に透過流れに存在する。一部の実施形態では、「ベンチ規模」の濾過を用いて、工業規模濾過の適切な条件を予測することができる。
【0047】
特定の生体高分子を精製するための適切なフィルターの種類、化学的性質、およびモジュール配置は、当業者にとって公知であり、種々の因子(例えば濾過される組成物の成分の量および大きさ、濾過される組成物の容積、および濾過される組成物の細胞密度および生存率)に基づいて選択されることができる。一部の実施形態では、フィルター(例えば薄膜フィルター、プレートフィルター、カートリッジフィルター、バッグフィルター、加圧リーフフィルター、回転ドラムフィルター、または真空フィルター)を用いることが可能である。一部の実施形態では、デプスフィルターまたは交差フィルターを用いる。本発明に適用される交差流フィルターモジュールの種類としては、中空繊維型、管状型、平板(板・骨組)型、スパイラル型、または渦流型(例えば回転)のフィルター形状が挙げられる。一部の実施形態では、タンジェンシャルフローフィルターが用いられる。一部の実施形態では、タンジェンシャルフロー(交差流)モードで、中空繊維、管状、および平膜のモジュールを利用した。利用できる市販のフィルターは、種々の製造ベンダー(例えば、Millipore Corporation (Billerica, MA)、Pall Corporation (East Hills, NY)、GE Healthcare Sciences (Piscataway, NJ)、およびSartorius Corporation (Goettingen, Germany))のために製造されている。
【0048】
本発明のフィルターのポア径は、単離される生体高分子の型および組成物中に存在する不純物の種類によって変わり得る。一部の実施形態では、フィルターのポア径は、直径0.1μm〜1.0μm、0.2μm〜0.8μm、または0.2μm〜0.65μmである。
【0049】
濾過の間、フィルターを通る組成物の移動(例えば、収集原料)は、膜抵抗の結果として起こる膜貫通圧を生成する。膜表面に細胞物質が蓄積する(または極性化する)につれて、一定流速で膜を横切って流れる抵抗が増大し、従って推進力または膜貫通圧が増大する原因になる。膜表面近くの細胞物質の量が減少する場合、または膜の極性化が低下する場合、膜貫通圧は実質的に一定のままである傾向がある。膜電位差を算出する方法は、当業者にとって公知であり、圧力トランスデューサーまたはゲージの使用が挙げられる。本発明の一部の実施形態では、膜貫通圧は、原料および未透過流れの出口圧力および透過流れの圧力との間の平均の差を取って、算出されることができる。図8は、膜貫通圧算出の模式図を示す。
【0050】
通常、pHを調整してない組成物の濾過の間(例えば、収集原料)、より多くの組成物がフィルターに負荷されるにつれて、フィルターの膜貫通圧は著しく増大する。例えば、一部の実施形態では、フィルターのポアが詰まるにつれて、膜貫通圧は、濾過プロセスの開始(組成物の最初の量をフィルターに配置するとき)から濾過プロセスの終了(通常、7〜10×細胞物質の濃度および3〜5×ダイアフィルトレーションの後)までに5psi、7psi、10psi、15psi、または20psiもしくはそれ以上増大する。例えば、図12(原料組成物A)および図13(原料組成物A)に示すように、収集原料溶液(pHを調整してない)の濾過の間、膜貫通圧は、収集原料の負荷の開始時の約1psi未満から、60リットル/m2の収集原料をフィルターに負荷(1000%の膜貫通圧の増加)した後の約10psiを超えるまで増大することもある。従って、膜貫通圧について言及するとき、「実質的に一定の」という用語は、濾過の間に、4psi、3psi、または2psiより大きく増大しない膜貫通圧をいう。実質的に一定の膜貫通圧は、図12の収集原料組成物B〜G、および図13の原料組成物B〜Fによって例証される。これらの組成物のそれぞれは、約1psi未満の膜貫通圧で開始し、濾過の間、これらの組成物を濾過するフィルター上の膜貫通圧は、2psiを超えない。従って、図12の組成物B〜Gおよび図13の原料組成物B〜Fを濾過するフィルター上の膜貫通圧は、実質的に一定であると考えられる。一部の実施形態では、本発明は、組成物中の生体高分子を精製する方法に関し、前記方法は、(a)組成物のpHを低下させること、(b)組成物に二価カチオンを添加させること、および次いで(c)膜を通して組成物を濾過させることを含み、この濾過方法は、濾過の間、実質的に一定のままである膜貫通圧をもたらす。
【0051】
一部の実施形態では、本発明の方法は、タンパク質濾過の拒絶を減少させる。「タンパク質濾過の拒絶」という用語は、式R=(1−[CP/CR])によって実証することができる。ここで、Rはタンパク質濾過の拒絶係数、CPは目的の生体高分子の即時透過濃度、およびCRは目的の生体高分子の即時未透過濃度である。一部の実施形態では、本発明は、組成物のpHを低下させること、組成物に二価カチオンを添加させること、および生体高分子を濾過することを含む、組成物中の生体高分子を単離する方法に関する。ここで、タンパク質濾過の拒絶係数の値は、pHの調整および/または二価カチオンの添加を行わない組成物中の生体高分子と比較して、所定の処理体積量に対してより低い。例えば図18を参照。
【0052】
生体高分子を単離するとき、一部の実施形態では、大量の組成物(例えば収集原料)が、例えば商業生産プロセスの間に存在し得る。量が大量になると、精製プロセスにおいていくつかの課題が生じる。例えば、単離した生体高分子の回収の際にフィルターを通る流速の多少の変化が有する影響は、大量で用いる場合に、増幅される。同様に、大量で用いる場合、生成物回収の際に、収集原料における細胞密度の増加も増幅される。従って、大量の組成物の使用は、増幅されかつ少量の使用と比較すると、より大きい分枝を有するという独特な問題を提起する。従って、一部の実施形態では、本発明は大量の組成物に存在する生体高分子を単離する方法に関する。「大量」という用語は、生体高分子の商業生産および/または工業生産に関連する量をいう。一部の実施形態では、「大量」という用語は、10〜2000リットル、20〜1000リットル、または50〜500リットルをいう。
【0053】
一部の実施形態では、高細胞密度の組成物(例えば収集原料)から生体高分子を収集することは有益である、もしくは望ましい。高細胞密度の組成物は、通常の細胞密度の組成物と比較すると、独特な問題を提起する。例えば、高細胞密度の組成物は、組成物中に存在する不純物を大量に有し、それによって、精製プロセスの間に除去される必要がある不純物の量を増加させる。従って、より高い細胞密度の組成物は、フィルターをより早く詰まらせる可能性があり、それによって、組成物の濾過が妨げられる。一部の実施形態では、高細胞密度の組成物は、より多くのフィルター、またはより大きい表面積を有するフィルターを使用する必要がある。これらの両要件は、濾過に付随する費用および/または生成物の損失をより大きくする結果になり得る。本発明では、組成物のpHを低下させ、それによって一部の不純物を除去して、より高い細胞密度の組成物の精製を可能にする。従って、本発明の一部の実施形態は、高細胞密度の組成物中に存在する生体高分子を単離する方法に関する。「高細胞密度」という用語は、通常、哺乳類細胞の場合、約1×105〜3.5×107、約1.0×106〜約1.0×107、または約5.0×106〜約9.0×106の細胞/mlをいう。もちろん、当業者は、種々の細胞が伝統的に異なる細胞密度で増殖することを認識する。従って、一部の実施形態では、「高細胞密度」細胞培養物は、その細胞系について従来行われている密度よりも、より高い密度で細胞を含有する細胞培養物をいう。
【0054】
本発明の一部の実施形態では、本発明の方法は、濾過プロセスのロバスト性を増大させる方法に関する。前記方法は、(a)組成物のpHを低下させること、(b)組成物に二価カチオンを添加させること、および(c)膜を通して組成物を濾過させることを含む。「ロバスト性を増大させる」という用語は、膜貫通圧、不純物濃度、または生成物の損失を増大させずに、所定のフィルターに対してより広い範囲の流速を用いる能力をいう。「ロバスト性を増大させる」という用語は、また、膜貫通圧、不純物濃度、または生成物の損失を増大させずに、より大きい容量、または所定のフィルターの収集原料のより高い細胞密度を濾過する能力をいう。
【0055】
本発明の一部の実施形態では、方法は、濾過する前に、生体高分子(例えば収集原料)を含む組成物を浄化する方法に関する。前記方法は、(a)組成物のpHを低下させること、(b)組成物に二価カチオンを添加させること、および(c)組成物中の不純物から生体高分子を分離させることを含む。一部の実施形態では、組成物を浄化することは、濁度計(例えば、Hach 2100AN濁度計(Hach Co., Loveland, CO))によって測定されるように、濁度の減少と相関する。
【0056】
一部の実施形態では、本発明の方法は、遠心力(すなわち遠心分離)に組成物をさらすし、遠心分離が上清および沈澱物を形成することによって不純物から生体高分子を分離することを含む。一部の実施形態では、遠心分離は、実質的に不純物(細胞または細胞片)を含まない上清および細胞/細胞片が濃縮した沈澱物を形成する。遠心分離について言及するとき、「沈澱物」という用語は、遠心分離の間に沈澱して(またはペレット状になり)細胞/細胞片の塊を形成する組成物の画分をいう。「上清」という用語は、遠心分離の間に沈澱(またはペレット状)しない、組成物の画分、例えば、組成物中の水相にとどまり、実質的に無細胞である組成物の画分をいう。一部の実施形態では、遠心分離後、本発明の生体高分子は、実質的に上清に存在する(すなわち、組成物の液体画分に実質的に浮遊したままである)。一部の実施形態では、遠心分離後、本発明の生体高分子は、実質的に沈澱物中に存在する(すなわち、溶液から沈澱する、または遠心分離によって生ずるペレット中に存在する)。一部の実施形態では、密度勾配を用いて、不純物から生体高分子を分離する。従って、一部の実施形態では、遠心分離後に、生体高分子および不純物の両方は、異なる密度で、従って遠心分離装置内の異なる部位で、上清中に残る。
【0057】
種々の遠心分離装置が使用できる。一部の実施形態では、遠心分離は、分離板型遠心分離機によって達成されることができる。一部の実施形態では、「ベンチ規模」の濾過を用いて、工業規模濾過の適切な条件を予測することができる。遠心分離の変数を変えて、目的の生体高分子の最適な単離を達成することができる。例えば、一部の実施形態では、種々の回転速度または流速を用いて、生体高分子回収の品質、および/または生体高分子回収の量を上げることができる。
【0058】
本発明の方法の手順は、種々の順番で順序付けることが可能である。例えば、本発明の一部の実施形態では、pHを下げることおよび二価カチオンを添加することは、不純物から生体高分子を分離することの前に行う。一部の実施形態では、収集媒体のpHを最初に調整して、二価カチオンを添加して、次いで生体高分子を不純物から分離する。他の実施形態では、二価カチオンを最初に添加して、組成物のpHを調整し、次いで生体高分子を分離する。一部の実施形態では、1つ以上の精製手段が(a)pHを低下させること、(b)二価カチオンを添加させること、または(c)不純物から生体高分子を分離することのいずれかの間で起こることもある。あるいは、本発明の方法の手順(a)、(b)、または(c)は、連続的(例えば、付加的な精製手段が手順(a)、(b)、および(c)の間に起こらない)であり得る。しかし、手順(a)、(b)、および(c)が連続的であるとき、付加的な精製手段は、手順(a)、(b)、および(c)の前もしくは後に起こり得る。
【0059】
本発明の一部の実施形態は、生体高分子および不純物を含む組成物中の生体高分子を単離する間、浄化操作のロバスト性を向上させる方法に関し、前記方法は、(a)組成物のpHを低下させること、(b)不純物が凝集することを可能にすること、(c)組成物に二価カチオンを添加すること、および(d)組成物中の不純物から生体高分子を分離することを含む。「操作のロバスト性」という用語は、所定(例えばフィルター径)の分離装置のためのより幅広い種類の細胞負荷を処理する単離操作(例えば濾過プロセス)の能力をいう。一部の実施形態では、pHを低下させることは、不純物(例えば細胞片等)によるフィルター膜の付着物を逆行させ、従って、より高い体積負荷の下でより高い処理体積量によって濾過が操作されることを可能にする。
【実施例】
【0060】
本発明を、具体的な実施例を通して、より詳細に説明する。以下の実施例を、例示を目的として提示し、および任意の方法によっても本発明を限定することを意図しない。当業者は、本発明によって別の実施形態をもたらすために、変更または修飾され得る種々の非重大パラメータを容易に認識する。
(実施例1)
細胞の綿状沈澱に対するpHの効果を、種々のpHレベルで、培養細胞の粒子径分布を比較することによって調べた。細胞培養液を、2つのバイオリアクターから収集し、次いで3つの異なる群(1つの対照群、および2つの実験群)に分けた。実験群を、25%酢酸を用いておおよそpH4.5または5.75に調整した。対照群は、おおよそpH7.1の未調整のままにした。次いで、各群の試料を、Beckman Coulter, Multisizer III (Fullerton, CA)を使用して分析し、平均径を決定した。結果を図1に示す。
【0061】
実験の結果は、5.75未満のpHで、直径2.5μm未満の粒子が明らかに減少し、2.5〜6.0μmの粒子集団が増加することを示す。
(実施例2)
細胞の綿状沈澱に対するpH変化の効果を、種々のpHレベルで、Trypan Blueを用いて細胞を染色し、次いで着色した細胞をCEDEX細胞分析装置(Flonamics, Madison WI)で分析することによって調べた。実施例1に記述するように、細胞培養液を2つのバイオリアクターから収集し、次いで3つの異なる群(1つの対照群、および2つの実験群)に分けた。実験群を、25%酢酸を用いておおよそpH4.5および5.75に調整した。対照群は、おおよそpH7.1の未調整のままにした。次いでTB染料液を添加し、拡大像を使用して分析した。結果を図2に示す。
【0062】
TB色素は、浸透して、細胞内タンパク質を着色することによって死細胞を着色した。pH4.50で細胞を提示したデータは、pH7.00および5.75のデータと比較して、単位面積あたりより多くの着色された微粒子を示している。これは、TBが死細胞を着色しただけでなく、同様の大きさの他のタンパク質集合体も着色することを示唆する。この観察は、タンパク質の沈澱および綿状沈澱が低いpHで起こるという仮説をさらに支持する。
(実施例3)
上清の濁度に対するpH変化の効果を決定した。細胞培養物を、種々のアリコートに分け、次いでpH4.25、4.5、4.75、5.0、5.25、5.5、6.0に調整した、または未調整(pH7.1)のままにした。次いで、沈降速度実験を行い、結果として生じる上清の濁度を測定した。結果を図3に示す。
【0063】
実験の結果は、上清の濁度がpHレベルの増加とともに増加することを示す。これは、沈降速度実験の間、低いpH範囲で細胞が凝集し、除去されることを示唆する。
(実施例4)
IgG1およびIgG4クラスのモノクローナル抗体を、組換えチャイニーズハムスター卵巣(CHO)またはマウス(NSO)の細胞発酵によって生成した。Master Cell Bankのバイアルを解凍し、次いで接種調製で、種々の大きさのシェーカーフラスコおよびバイオリアクターを介して伸長させた。接種調製および生成バイオリアクター培地を、無動物成分を用いて作製した。温度、pH、および溶存酸素レベルを、記述したすべてのバイオリアクターで制御した。
(実施例5)
実施例4の収集原料は、(a)pH未調整、または(b)pH4.7に調整したいずれかであった。調整した(または未調整の)収集原料を、次いで、一定の再循環および透過流速で、タンジェンシャルフロー濾過モードでマイクロフィルターに通過させた。濾過プロセスの間、pH調整した収集原料およびpH未調整の収集原料の両方に対する膜貫通圧を算出した(図11を参照)。IgG1クラス抗体およびIgG4クラス抗体に対する膜貫通圧の測定結果を、図12および図13にそれぞれ示す。両図は、収集原料をフィルターに適用するとき、収集原料をpH4.7〜5.3の範囲に低下させると、比較的一定の低い膜貫通圧をもたらすのに対して、pHを調整しない収集原料をフィルターに適用すると、急増する膜貫通圧をもたらすことを示している。
【0064】
特定の理論に制約されることなく、証拠は、pHを低下させることで細胞物質の綿状沈澱の増加をもたらし、マイクロフィルター上のポアを妨げる可能性が少ない大きい粒子をもたらすことを示唆する。浄化を、微多孔膜を含有する精密濾過モジュール内に収集原料を方向付ける交差流モードで行った。無細胞透過物がフィルター膜を通過して収集される間、保持される細胞および細胞片を保持し、原料容器に再循環させてもどした(図10の模式図を参照)。透過物を一定流速でシステムから引出し、次いで容器に収集した。高濃度の細胞物質が薄膜フィルター表面に付着する結果、最初の高密度の生物由来物質を有する細胞培養物を含有するバイオリアクターから所望のタンパク質を精密濾過によって分離することで、マイクロフィルターを通過する膜貫通圧低下の増加をもたらした。精密濾過操作のロバスト性を増大させ、透過でタンパク質回収を増大させるためにフィルター膜貫通圧の低下を減少させるために、収集原料のpHを、精密濾過の前に4.0〜5.0まで低下させた。pHを低下させることにより、不純物(例えばDNA)の沈澱とともに大型細胞および細胞片の綿状沈澱を引き起こした。大粒子への不純物(細胞、細胞片、およびDNA)の綿状沈澱は、フィルター表面近くの組成物の物質移動を向上させ、従って、所定の透過流量または流速でフィルターを横切る膜貫通圧の低下を推進する力を減少させる(図3および4を参照)。
(実施例6)
宿主細胞タンパク質およびDNAの除去に対する、pHレベルの低下の効果を調べた。図5は、pHレベルを低下させると、溶液からの宿主細胞タンパク質およびDNAの両除去を増大させることを示す。細胞培養物を、様々なアリコートに分け、次いで各アリコートからの試料のpHを調整した。次いで、試料を遠心分離して、宿主細胞タンパク質またはDNAの量を決定した。データは、DNAが5.0未満のpHで90%を超えて減少し、宿主細胞タンパク質が5.0未満のpHで50%を超えて減少したことを示す。これらの不純物は溶液から沈澱し、遠心分離によって除去される可能性がある。
(実施例7)
pHを低下させることによる、2つのモノクローナル抗体の品質および回収に対する効果を調べた。図6は、両モノクローナル抗体のタンパク質回収がpH6.0以下で5%〜10%減少し、およびpH4.5以下で抗体Aが大きく減少したことを示す。タンパク質回収におけるこの著しい減少を、集合体および酸性異型のレベルを増加させることで達成した。低いpHで分子の不安定性を示す、単量体および主要なアイソフォームのレベルを低下させることで、本明細書に示した。抗体Bは、観察したpHの範囲にわたり、著しい分解を示さなかった。
(実施例8)
中空繊維の精密濾過(MF)の効率に対する、pHを低下させる効果を調べた。図7は、精密濾過の収集生成物の品質および不純物の結果が、図5の結果と一致したことを示す。宿主細胞タンパク質およびDNAが5.0未満のpHで、それぞれ50%および90%減少した。浄化した濁度のレベルは、精密濾過ユニットの操作に関連した濾過プロセスのため、図3の最初の実験よりも低かった。それでも、結果は、低いpHレベルに調節した細胞培養で、濁度において2倍以上の減少を示している。
【0065】
ベンチ規模のMF収率の結果を、図8に示す。最初の条件付け実験で見られたように、結果は、pH4.5以下で収率の損失を示している。さらに、MFプロセスの間の膜付着物のため、5.5もしくはそれ以上のpHで、実質的な損失が観察された。低いpHレベルに調節した細胞培養によってもたらされた綿状沈澱の効果は、この付着物を減少させる。
(実施例9)
モノクローナル抗体の収集に対する、pHを低下させる効果を調べた。抗体Bの遠心分離の結果も、図3および図5の浄化結果と一致した。ベンチ規模の遠心分離の操作の全収率数は、条件付けおよび遠心分離ユニットの操作による付加的な生成物の損失のために、最初の浄化実験よりも低かった。また、ベンチ規模の遠心分離と、パイロット規模の遠心分離とのせん断差のために、濁度レベルは、浄化実験よりも高かった。しかし、これらの両プロセスの結果は、浄化実験の間に見られたものと同じ傾向を示している。遠心分離のデータポイントにおけるばらつきの増加は、遠心分離の異なる作動条件に起因した。
(実施例10)
実施例4の収集原料の濁度に対する、pHレベルを低下させる効果を調べた。MgCl2、CaCl2、またはNaClのいずれかを含有する収集原料のpHは、(1)未調整(pH6.9〜7.2)、(2)pH6.0に調整、(3)pH5.0に調整、(4)pH5.0に調整、(5)pH4.5に調整、または(6)pH4.0に調整のいずれかであった。25%v/v酢酸を用いて、収集原料のアリコートを特定のpHに調整し、約2〜24時間の間、綿状沈澱および細胞の塊を沈降させた。次いで濁度計を使用して、澄んだ上清の濁度(透明度)を測定することによって、データを作成した。調整した収集物質のpHが低下するにつれて、上清濁度の一般的な減少が起こり、pH値が低下するとより澄んだ上清を示す(図4を参照)。濁度におけるこの減少は、低pHレベルで起こる高程度の細胞綿状沈澱の結果であり、細胞の塊のより急速な沈降をもたらした。綿状沈澱および向上した沈降によって、さらに効率的な精密濾過の操作性能がもたらされた(図12または図13を参照)。
(実施例11)
収集原料からのDNA混入物の回収に対する、pH調整の効果を、実施例4に説明するように収集原料を収集し、次いで(a)収集原料のpHを調整しない、または(b)収集原料のpHを4.7まで低下させることで決定した。次いで、調整および未調整の収集原料を、24時間沈降させた。試料を、澄んだ上清から収集して、DNAに対する検査を行った。無細胞収集に残存するDNAの量を、定量ポリメラーゼ連鎖反応法(QPCR)によって決定した。図15は、pHを調整しなかった収集原料と比較して、pHを4.7に調整した収集原料でのDNA混入物の減少が約1.5〜3ログであることを示す。
(実施例12)
モノクローナル抗体(IgG4)および融合タンパク質の回収に対する、pH調整の効果を、実施例4に説明するように収集原料を収集することで決定した。次いで、収集原料を、pH7.0、5.0、または4.0のいずれかに調整し、2〜24時間の間沈降させた。試料を、澄んだ上清から収集して、タンパク質タイターに対する検査を行った。無細胞収集原料に存在する抗体または融合タンパク質の量を、次いで、タンパク質Gタイターアッセイによって決定した。図14は、条件付き収集流れにおける生成物タンパク質タイターに対する、pH変化の効果を示す。IgG4クラス抗体および融合タンパク質に関するデータを示す。両タンパク質型のデータは、pHが7.0から4.0に低下するにつれて、タンパク質が著しく減少したことを示す。pHに誘導された沈澱によるタンパク質損失量は、3%から52%に及んだ。組成物のタンパク質濃度を決定する方法は、タンパク質G結合HPLC樹脂上の抗体または融合タンパク質の親和性捕捉に基づいた。
(実施例13)
タンパク質に対する、pHを調整した収集原料への二価カチオンの添加の効果を、10mMの種々の二価カチオンを収集原料に添加し、次いで前記収集原料のpHを5.0に低下させることによって、調べた。結果として生じた収集原料を、2〜24時間の間、沈降させた。試料を、澄んだ上清から収集し、次いでタンパク質タイターに対する検査を行った。そのタイターを、対照実験(二価カチオンを持たない、pH5.0に調整した収集)と比較した。無細胞の収集原料に存在する抗体または融合タンパク質の量を、タンパク質Gタイターアッセイによって決定した。図16は、何らイオンを添加しない対照の操作と比較して、二価カチオンを添加することによって、ほとんどの場合、可溶性抗体の損失が減少したことを示す。y軸は、(カチオンで処理した濾過収集原料のタイター)を(カチンで処理しなかった濾過収集原料のタイター)で割ることで表す、規準化したタイターを示す。
(実施例14)
pHを調整した収集原料に添加する二価カチオンの種々の濃度の効果を調べた。具体的には、CoCl2(またはCo2+)を、pHを調整した収集原料に、最終濃度の1mM、2mM、5mM、10mM、または20mMを添加した。次いで、pHを調整した収集原料から回収した生成物の量を、タンパク質Gを用いてアッセイし、生成物回収に対する、CoCl2の種々の濃度の効果を決定した。図17は、pH調整後、約10mMのCoCl2が生成物の損失を最小化する(すなわち、生成物の収率回収を最大化する)のに十分であったことを示す。
(実施離15)
タンパク質の濾過拒絶に対する、本発明の方法の効果を、濃度相およびダイアフィルトレーション相の間に微多孔膜を通して処理される累積量に応じて調べた。タンパク質の濾過拒絶の係数を、種々の時間間隔で未透過物タイターおよび透過物タイターを測定し、タンパク質のフィルター拒絶の係数を、式R=(1−[CP/CR])を用いて算出することで、決定した。データは、4通りの別々のMF実験を示す。すなわち、白三角形および黒三角形によって示される操作は、10mMのCoCl2の添加を含む、pH5.0に調整した収集流れを表し、白丸および黒丸によって示される操作は、CoCl2が存在しない未調整の収集流れを表す。データは、研究したすべての負荷率に関して、10mMのCoCl2を含有するpHを調整した収集原料に対してMF保持係数が低いことを示している。例えば、60〜70L/m2の典型的な大規模負荷率で算出した拒絶係数は、pHを調整しなかった操作に対するほぼ完全な拒絶(90〜100%)と比較すると、約30%である。また、図6に示すのは、各精密濾過の操作からの全タンパク質回収である。Co2+二価イオンを含有する操作は、未調整収集原料を用いる操作による20%収率損失と比較すると所望のタンパク質の完全回収を示す。
【0066】
タンパク質の濾過拒絶に対する、本発明の方法の効果を、濃度相およびダイアフィルトレーション相の間に、微多孔膜を通して処理される累積量に応じて調べた。タンパク質の濾過拒絶の係数を、種々の時間間隔で未透過物タイターおよび透過物タイターを測定し、タンパク質の濾過拒絶の係数を、式R=(1−[CP/CR])を用いて算出することで、決定した。図18に示すデータは、4通りの別々の精密濾過実験からである。すなわち、CおよびDでは、pH調整の間、10mMのCoCl2を収集流れに添加し、AおよびBでは、CoCl2を添加しなかった。収集原料のすべてをpH5.0まで低下させた。図18は、研究したすべての負荷率に関して、10mMのCoCl2でpHを調整した収集原料に対して精密濾過保持係数が低いことを示している。例えば、60〜70L/m2の典型的な大規模負荷率で、精密濾過の操作CおよびDに対して算出した拒絶係数は、操作AおよびBに対するほぼ完全な拒絶(90〜100%)と比較すると、約30%であった。また、図18は、各精密濾過の操作からの全タンパク質回収を示す。Co2+二価イオンを含有する操作(CおよびD)は、所望のタンパク質の完全に近い回収を示すのに対して、Co2+を添加しなかった操作(AおよびB)は、20%収率損失をもたらした。
【0067】
本発明は、記述した特定の実施形態によって範囲を限定されるものではなく、これらの実施形態は、本発明の個別の態様の単一の説明として意図し、および機能的に同等である任意の組成物または方法でも、本発明の範囲内である。実際に、本明細書に示し、説明したものに加えて、本発明の種々の修飾は、前述の説明および添付する図面から当業者にとって明らかになる。そのような修飾が添付する特許請求の範囲内に収まることを意図する。
【0068】
本明細書で記述する刊行物および特許出願のすべては、それぞれ個別の刊行物または特許出願が具体的かつ個別に参考として援用されることを示されるかのように同じ程度まで、参考として本明細書で援用する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物中の生物高分子を単離する方法に関する。具体的には、本発明は、不純物を含有する組成物中の生物高分子を単離する方法に関し、前記方法は、(a)組成物のpHを低下させること、(b)組成物に二価カチオンを添加すること、および(c)不純物から生体高分子を分離することを含む。
【背景技術】
【0002】
生物高分子(すなわち生体高分子)(例えば組換え生体高分子)は、多種多様な技術において重要である。従来から、生体高分子は、数多くの様々な方法(2、3例を挙げるだけでも、濾過、遠心分離、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、および前述の組み合わせ)を用いて、精製されてきた。精製の方法は、通常、組成物中に生体高分子と共存する1つ以上の不純物とそれを区別する、生体高分子の特徴に基づいて選択される。おびただしい数の生体高分子が商業的に重要であり、およびタイムリーにかつ効率の良い方法で大量の生体高分子を精製する能力が望まれている。現在の精製技術および生体高分子を精製する方法の効率を上げるために、広範囲の研究が行われてきた。小規模の調製に適している精製技術は、工業規模の精製に適さないことが多い。
【0003】
商業的に重要な生体高分子としては、例えば、タンパク質および核酸(例えばDNAおよびRNA)が挙げられる。工業規模で単離されることが多い生体高分子の2つ例は、モノクローナル抗体および融合タンパク質である。これらの抗体および融合タンパク質は、種々の診断および治療分野において役立ち、かつ種々の疾患(例えば遺伝性および後天性の免疫不全症ならびに感染症)を処置するために用いられている。
【0004】
精製抗体を生成するための従来からのアプローチとしては、硫安沈澱、カプリル酸の使用に続く遠心分離、イオン交換クロマトグラフィー(例えばDEAEまたはヒドロキシアパタイド)、免疫親和性精製(例えばタンパク質Aまたはタンパク質G)、および透析が挙げられる。例えば、非特許文献1を参照。上記の方法を組み合わせて使用することは一般的である(例えば、エタノール分画に続くイオン交換クロマトグラフィーおよび/またはカプリ酸(CA)沈澱を用いる血漿からの抗体精製)。例えば、非特許文献2;特許文献1;特許文献2;特許文献3;特許文献4;および特許文献5を参照。さらに、発酵の酸性化を用いて、抗体および組換えタンパク質の回収ならびに安定性が改善されてきた。例えば、非特許文献3を参照。
【0005】
種々の他の方法は、酸沈澱の応用を含み、抗体の単離および/または精製が開発されてきた。例えば、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、および特許文献14を参照。しかし、これらの方法の多くは、大量の原料および回収損失をもたらす可能性があり、および/または工業規模で抗体を生成するための原価高を有する可能性がある。限定された作業は、収集条件を調整する利点を活用して、細胞浄化のロバスト性(特に、それがタンジェンシャルフロー濾過に関するとき)を改善してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,164,495号明細書
【特許文献2】米国特許第4,177,188号明細書
【特許文献3】米国再発行特許第31,268号明細書
【特許文献4】米国特許第4,939,176号明細書
【特許文献5】米国特許第5,164,487号明細書
【特許文献6】米国特許第7,038,017号明細書
【特許文献7】米国特許第7,064,191号明細書
【特許文献8】米国特許第6,846,410号明細書
【特許文献9】米国特許第5,429,746号明細書
【特許文献10】米国特許第5,151,504号明細書
【特許文献11】米国特許第5,110,913号明細書
【特許文献12】米国特許第4,933,435号明細書
【特許文献13】米国特許第4,841,024号明細書
【特許文献14】米国特許第4,801,687号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988)
【非特許文献2】McKinney et al., J. Immunol. Methods 96:271−278(1987)
【非特許文献3】Lydersen et al., Annals New York Academy of Sciences 745:222−31(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
哺乳類細胞または細菌細胞を含有する工業規模のバイオリアクターからの抗体および組換えタンパク質の収集は、通常、濾過または遠心分離のいずれかを用いて行われる。しかし、これらの技法の場合、核酸(例えばDNA)、宿主細胞タンパク質(HCP)、および増殖培地成分は、目的の生体高分子から適切に分離されないことが多い。細胞培養でタンパク質生成量を増加させて生成する最近の傾向は、高い細胞密度で操作するためにバイオリアクターを必要としているが、これはDNA、HCP、および他の培地成分等の不純物の量を増加させる。混入物の濃度が上がると、細胞収集操作(例えば、濾過および遠心分離の手順)、ならびに下流精製手順(例えば、クロマトグラフィーおよび透析の手順)の両方に関して強い要望が生じている。これらの不純物の高い濃度に加えて、実行すべき精製手順数が増加することもあり、従って全生成処理量を低下させることもある。
【0009】
上述の問題点および非効率の結果、生体高分子の単離のための戦略を改善する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、不純物を含有する組成物中の生体高分子を単離する方法に関し、前記方法は(a)組成物のpHを低下させること、(b)組成物に二価カチオンを添加すること、および(c)不純物から生体高分子を分離することを含む。一部の実施形態では、(a)のpHを低下させることおよび(b)の二価カチオンを添加することは、(c)の分離することの前に起こる。
【0011】
生体高分子を分離することは、種々の方法によって達成されることができる。一部の実施形態では、(c)の分離することは、組成物を濾過することによって行われ、濾過することは、透過流れおよび未透過流れを形成する。一部の実施形態では、濾過を使用する場合、生体高分子は、実質的に、透過流れにあり、一部の実施形態では、濾過は、タンジェンシャルフローフィルターによって行われる。他の実施形態では、(c)の分離することは、組成物を遠心分離にかけることによって行われ、遠心分離は、上清および沈澱物を形成する。一部の実施形態では、遠心分離を使用する場合、生体高分子は、実質的に、上清にある。
【0012】
本発明の一部の態様では、(a)における組成物のpHは、少なくとも1pH単位低下する。本発明の一部の態様では、(a)における組成物のpHは、約3.0〜約6.5、約3.0〜約5.0、または約4.0〜約4.7の範囲内で調整される。
【0013】
本発明の一部の態様では、生体高分子はタンパク質である。一部の実施形態では、タンパク質は可溶性タンパク質である。一部の実施形態では、タンパク質は抗体である。一部の実施形態では、組成物は真核細胞物質を含む。一部実施形態では、不純物は、タンパク質、脂質、核酸、リボ核酸、またはそれらの組み合わせを含む。
【0014】
本発明では種々の二価カチオンを使用することができる。一部の実施形態では、二価カチオンは、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、Ni2+、Be2+、Sr2+、Ba2+、Ra2+、Zn2+、Cd2+、Ag2+、Pd2+、Rh2+、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。一部の実施形態では、二価カチオンは、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。一部の実施形態では、組成物は、約1mM〜約100mM、または約2mM〜約50mMの濃度の二価カチオンを含む。
【0015】
本発明の一部の態様は、生体高分子を単離する方法に関し、ここでは、二価カチオンを添加することで生体高分子の回収が3%を超えて増加する。一部の実施形態では、生体高分子の回収は、10%を超えて増加する。
【0016】
本発明の一部の実施形態では、分離することは、組成物を、濾過することによって行われ、膜貫通圧をもたらす。膜貫通圧は濾過の間、実質的に一定のままである。
【0017】
本発明の一部の実施形態では、前述の組成物のpHは、3.0〜5.0のpHに低下し、二価カチオンはCa2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、分離することは該組成物を濾過することによって行われ、および生体高分子は抗体である。
【0018】
一部の実施形態では、本発明は、不純物を含有する組成物中の生体高分子を浄化する方法に関し、前記方法は(a)該組成物のpHを低下させること、(b)該組成物に二価カチオンを添加すること、および(c)該組成物中の該不純物から該生体高分子を分離することを含む。一部の実施形態では、本発明は生体高分子および不純物を含有する組成物を明確にする方法に関し、前記方法は(a)該組成物のpHを低下させること、(b)該組成物に二価カチオンを添加すること、および(c)該組成物中の該不純物から該生体高分子を分離することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】pH4.5、5.75、および7.1(未調整)でのモノクローナル抗体(Mab)細胞培養の粒子径分布の分析を示す。pH4.5では、2.5μm未満の粒子径の比率が明白に低下し、および2.5〜6.0μmの粒子の集団が増加している。
【図2】pH4.5(図2c)、5.75(図2b)、および7.1(図2a)でTrypan Blueで染色した細胞の拡大像を表す。実験像は、低いpHレベルで染色が増加することを示した。
【図3】pHの低下に応じて、細胞培養の上清の濁度を示す。通常、細胞および粒子の綿状沈澱のために、濁度は低いpHレベルで減少する。
【図4】上清の濁度に対する、収集原料のpH調整の効果を表す。y軸は、収集pH調整および綿状沈澱細胞+細胞片の沈降後の上清の濁度を表す。x軸は、収集物質の種々のpH調整値を表す。特に、このデータは、収集原料のアリコートを、25%v/v酢酸またはクエン酸を用いて特定のpHに調整し、綿状沈澱および生じる細胞の塊の沈降を可能し、ならびに澄んだ上清の濁度(透明度)を測定することによって生成した。図4のデータは、抗体および融合タンパク質を含む様々な組換えタンパク質を含有する種々の収集流れから生成される。このグラフは、調整した収集物質のpHが低下するにつれて、上清濁度の一般的な減少を示し、pH値が低くなるにつれて上清がより澄むことを示す。これは、低いpHで生じる細胞綿状沈澱のより高い程度で、細胞の塊の沈降がより急速にもたらされる結果である。この綿状沈澱および向上した沈降は、膜表面付近の向上した物質移動を提供し、従ってより効率的な精密濾過の操作性能を提供する(図12および図13を参照)。
【図5】2つの別々の細胞培養物(細胞培養物は抗体AおよびBを生成する)から宿主細胞タンパク質(図5a)およびDNA(図5b)の除去への種々のpHレベルの効果を表す。x軸は、細胞培養物の種々のpH調整値を表す。y軸は、試料中に残存する宿主細胞タンパク質またはDNAいずれかの%を表す。
【図6】2つの異なるモノクローナル抗体(A(図6a)およびB(図6b))の生成物の品質および回収への種々のpHレベルの効果を表す。x軸は、細胞培養物の種々のpH調整値を表す。モノクローナル抗体Aのグラフ(図6a)については、四角形はタンパク質回収を表し、丸はSEC単量体を表し、三角形は、IRCの主要なアイソフォームを表す。モノクローナル抗体Bのグラフ(図6b)については、菱形はタンパク質回収を表し、×はSEC単量体を表し、丸はIECの主要なアイソフォームを表す。
【図7】精密濾過の性能に対する種々のpHレベルの効果を表す。x軸は、細胞培養物の種々のpH調整値を表す。×は、宿主細胞タンパク質の濃度パーセンテージを表し、星形はDNAの濃度を表し、黒三角形は濁度を表し、白三角形はSEC単量体を表し、およびアスタリスクはIECの主要なアイソフォームを表す。
【図8】精密濾過後のモノクローナル抗体Aの収率に対する、種々のpHレベルの効果を表す。pHレベル5.5を超える測定は、膜の付着物のために失敗した。
【図9】遠心分離後、モノクローナル抗体Bを単離することに対する、、種々のpHレベルの効果を表す。菱形は抗体Bの回収を表し、四角形は宿主細胞タンパク質の濃度を表し、三角形はDNA濃度を表し、プラス(+)記号は、濁度の測定値を表し、丸(○)はSEC単量体を、および×はIECの主要なアイソフォームを表す。
【図10】精密濾過システムの模式図を示す。このシステム操作の目的は、クロマトグラフ精製の前に、細胞培養物から細胞片および他の細片を取り除くことである。浄化を、マイクロフィルター(0.2〜0.65μmのポア呼び径)を交差流配置(膜表面に対して収集原料および未透過流れは平行)で用いることによって行われる。このシステムには、精密濾過(MF)カートリッジを通って原料を循環させるための蠕動ポンプが含まれるが、他のポンプ(例えば回転ローブまたは隔膜ポンプ)を使用することも可能である。濾過の間、経過時間、透過流れの重さ、およびカートリッジの入口、出口、ならびに透過流れ圧がモニターされる。細胞培養条件培地を5〜7倍に濃縮させた後、緩衝溶液(収集原料pHと同様のpH)による定容積ダイアフィルトレーションを行い、残存する生成物のほとんどを回収する。透過流れは一定流速でこのシステムから引き出され、容器に収集される。操作温度は、2〜26℃で起こり得る。原料容器は、未調整またはpH調整された収集原料のいずれかが含有され、細胞沈降を防ぐために攪拌される。
【図11】マイクロフィルターを通る膜貫通圧(TMP)低下を算出する方法を示す。TMPは、収集原料の未透過流れ側、および透過流れ側で測定される圧力から算出される。圧力測定は、針圧計、デジタル計測器、または圧力トランスデューサーを用いて行われる。
【図12】精密濾過の操作性能に対する、pH調整の効果を表す。y軸は、0.65μmポア径の中空繊維フィルターを用いる精密濾過フィルターの平均膜貫通圧(TMP)のpsiの差を表し、x軸は、膜に負荷される収集原料の量対膜面積の割合(L/m2)を表す。これらの精密濾過実験で用いる収集物質は、グリコシル化ヒト化モノクローナル抗体(IgG1)チャイニーズハムスター卵巣細胞を含む。図12の凡例は、種々のpHを調整した収集流および種々のパーセント細胞生存率のデータを示す。グラフは、中性のバイオリアクター状態からpH4.7〜5.3に低下した未調整収集原料を濾過することは、pH6.8〜7.2の範囲のままである収集原料を濾過することと比較して、フィルターを横切る、より低い全体的な膜貫通圧をもたらすことを示す。データは、収集流れのpHを下げることで定められた透過流量(高い負荷で低いTMPによって示されるように)でフィルターの付着物を減少させることを可能にし、より強い精密濾過操作をもたらす。
【図13】図12に類似するが別のモノクローナル抗体のための精密濾過の操作性能に対する、pH調整の効果を表す。y軸は、0.65μmポア径の中空繊維フィルターを用いる精密濾過フィルターの平均膜貫通圧(TMP)のpsiの差を表し、x軸は、膜に負荷される収集原料の量対膜面積の割合(L/m2)を表す。これらの精密濾過実験で用いる収集物質は、十分に分化したヒト化モノクローナル抗体を産生するチャイニーズハムスター卵巣細胞を含む。図13の凡例は、種々のpHを調整した収集流および種々のパーセント細胞生存率のデータを示す。グラフは、中性のバイオリアクター状態からpH4.7〜5.2に低下する未調整収集原料のフィルタリングが、6.8〜7.2のpHの範囲で残る収集原料のフィルタリングに対してフィルターを横切るより低い全体的な膜貫通圧をもたらすことを示す。データは、収集流れのpHを下げることで定められた透過流量(高い負荷で低いTMPによって示されるように)でフィルターの付着物を減少させることを可能にする。これにより、より強い精密濾過操作がもたらされる。
【図14】条件付き収集流れにおけるpH変化および生成物タンパク質タイタ−に対する、異なる二価カチオンの存在の効果を表す。y軸は生成物タイター(添加されたカチンがないpH7.0収集のタイターに規準化された)を表す。x軸は、いくつかのpH値(pH7、5、または4)および二価カチオン型で種々の生体高分子のための収集流れを表す。融合タンパク質に関するデータは、pH5調整の間にCo2+を添加することで溶液中の融合タンパク質が保存される、または凝集細胞および細胞片とのタンパク質の共沈澱の可能性を除去されることを示す。抗体に関するデータは、pH5調整の間にMg2+またはCa2+を添加することで溶液中の抗体が保存される、または凝集細胞および細胞片との共沈澱の可能性を除去されることを示す。
【図15】種々の抗体を含有する様々な収集流れのためのDNA除去に対する、収集のpH調整の効果を表す。y軸は、浄化した収集流れにおける抗体の量の存在(kg)あたりのDNA不純物の量の存在(μg)を示す。x軸は、pH未調整および25%酢酸でpHを4.7に調整した両方の収集/抗体流れを表す。以下に示すすべての抗体について、約7.0から4.7への収集pHの調整することで、DNA沈澱が効率的にもたらされ、DNA不純物レベルで1.5〜3ログの減少を有する浄化収集流れをもたらす。
【図16】種々のカチオンを収集原料に添加し、続いてその収集をpH5に調整する効果を表す。y軸は付加的なイオンの存在または非存在で未調整収集流れに基づく%タンパク質での損失を示す。グラフの左側の最初の棒は、任意の付加的な二価イオンなしでpH収集をpH5.0に調整した後の14%のタンパク質損失(沈澱に起因する)を表す。残りの棒は、種々の二価カチオンの存在で、付加的なタンパク質損失(>14%)またはタンパク質生成物回復(<14%)を表す。データは、種々の遷移金属イオン(例えば、Ni2+、Ca2+、Mg2+、Mn2+、およびCo2+)の存在がタンパク質回収を向上させることを示す。
【図17】25%酢酸でpHを5.0に調整する収集流れからタンパク質タイター回収に対する、CoCl2の濃度の効果を表す。y軸は、CoCl2の種々のレベルでpHを調整した収集流れの%タンパク質での損失を表す。x軸は、pHを5.0に調整した収集流れに存在するCoCl2(mM)の濃度を表す。データは、Co2+イオンの濃度が上がるにつれて、pHに誘発された沈澱に起因するタンパク質生成物の%損失が減少することを示す。10mMの平衡濃度は、融合タンパク質に対して示される。
【図18】タンパク質の濾過拒絶および全浄化回収に対する、本発明の方法の効果を表す。y軸は、保持係数(R)によって規定されるタンパク質の即時濾過拒絶を表す。x軸は、目的の生体高分子を含む組成物の浄化操作の間の処理体積量を表す。データは、4つの別々のMF実験を示す。すなわち、白三角形および黒三角形によって示される操作は、10mM CoCl2の添加を含み、pH5.0に調整された収集流れを表し、白丸および黒丸によって示される操作は、CoCl2を添加されない未調整収集流れを表す。データは、研究したすべての負荷率に関して、10mM CoCl2を含有するpHを調整した収集原料に対して低いことを示す。データは、Co2+二価イオンを含有する操作が未調整収集原料を用いる操作による20%収率損傷と比較すると、所望のタンパク質の完全回収を示すことを表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、不純物を含有する組成物中の生体高分子を単離する方法に関し、前記方法は、(a)組成物のpHを低下させること、(b)組成物に二価カチオンを添加すること、および(c)不純物から生体高分子を分離することを含む。本発明の発明者は、最初の生物由来物質を高密度で有する細胞培養物を含有するバイオリアクターから工業規模量の抗体を分離する(濾過によって)ことを試みた場合、高濃度の細胞物質に起因する膜表面の付着物の結果と思われる、フィルターを横切る膜貫通圧の低下が著しく増大したことを見出した。フィルター付着物が増加し、次いで、回収される抗体の量に悪影響を及ぼし、浄化収率を低下させ、次いで透過流れにおいて相対的に高いレベルの不純物をもたらした。一部の例では、膜貫通圧がフィルターの機械的性能を超えた値まで増加し、従って完了する前に操作が停止され、生成物収率の著しい低下をもたらした。
【0021】
フィルターの膜貫通圧を減少させ、透過流れにおけるタンパク質回収を増加させ、および透過流れにおける不純物の量を減少させるために、本発明の方法は、濾過の前に収集原料のpHを下げて、他の不純物(例えばDNA)の沈澱とともに大型細胞および細胞片の綿状沈澱を引き起こす。不純物(細胞、細胞片、およびDNA)の大粒子への綿状沈澱は、フィルター表面近くの組成物の物質移動を向上させ、従って所定の透過流れの流量または流速でフィルターを横切る膜貫通圧を減少させた。さらに、収集流れのpHを下げることによって起こる不純物の共沈澱は、フィルター上でこれらの不純物の保持を向上させ、従って透過流れにおける不純物レベルを減少させる。
【0022】
組成物のpHを下げることにより、収集原料内の所望の抗体の沈澱を誘導し、膜によって所望の抗体の保持がもたらされ、次いで透過流れにおける所望の抗体の量が減少することが見出された。本発明の方法は、濾過の前にpHを調整した収集原料に、二価カチオンを添加することによって抗体の共沈殿をさらに選択的に減少させ、および透過流れにおける抗体回収の量を増加させながら、不純物の量に影響を及ぼさない。
【0023】
本発明の方法は、組成物中の不純物から生体高分子を単離するのに有用である。生体高分子の例としては、例えば抗体、組換えタンパク質、融合タンパク質等であり、二価カチオンの存在下の低pHで類似する溶解特性を有する。
【0024】
文脈から明白でない限り、「単数形の(a)または(an)」という用語の実体は、その実体の1つ以上をいうことに注目すべきであり、例えば、「単数形のタンパク質」は、1つ以上のタンパク質を表すと理解される。そのようなものとして、「単数形の(a)(または(an))」、「1つ以上の」、および「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では互換的に用いられ得る。
【0025】
「単離すること」および「単離」という用語は、組成物中に見出される少なくとも1つの他の望ましくない成分または不純物から生体高分子を分離することをいう。「単離すること」という用語は、「精製すること」および「浄化すること」を含む。生体高分子の単離には特定のレベルは必要ではないが、一部の実施形態では、不純物の少なくとも50%、70%、80%、90%、または95%(w/w)が生体高分子から分離される。例えば、一部の実施形態では、生体高分子の単離は、組成物中に最初に存在するHCPの80%から生体高分子を分離することを含む。
【0026】
「浄化すること」および「浄化」という用語は、組成物から大粒子の除去をいう。例えば、細胞培養物および増殖培地に適用すると、「浄化すること」という用語は、細胞培養物から例えば、原核細胞および真核(例えば哺乳類の)細胞、脂質、および/または核酸(例えば染色体およびプラスミドDNA)の除去をいう。一部の実施形態では、本発明の方法は、(a)組成物のpHを下げて、不純物が組成物内に凝集させることを可能すること、(b)二価カチオンを組成物に添加すること、および(c)組成物中の不純物から生体高分子を分離することを含む。不純物の綿状沈澱には特定のレベルは必要ではないが、一部の実施形態では、不純物の少なくとも50%、70%、80%、90%、または95%(w/w)が凝集される。例えば、一部の実施形態では、生体高分子の浄化は、組成物中に存在する哺乳類細胞の80%を凝集させることを含む。綿状沈澱は、濁度計等の写真測光法を含む、当業者にとって公知の方法によって測定されることができる。
【0027】
「精製すること」および「精製」という用語は、不純物の大きさにかかわらず組成物中の不純物または他の混入物から本発明の生体高分子を分離することをいう。従って、「精製」という用語は、「浄化」を包含するが、さらに、浄化の間に除去されるものよりも小さい大きさの不純物(例えば、タンパク質、脂質、核酸、および細胞片、ウイルス片、混入細菌片、培地成分等の他の形態)を包含する。生体高分子の精製には特定のレベルは必要ではないが、一部の実施形態では、不純物の少なくとも50%、70%、80%、90%、または95%(w/w)が生体高分子から精製される。例えば、一部の実施形態では、生体高分子の精製は、組成物中に最初に存在するHCPの80%から生体高分子を分離することを含む。
【0028】
本明細書に用いるように「生物生体高分子」または「生体高分子」という用語は、生物または細胞培養物(例えば、真核(例えば、哺乳類等)細胞培養物または原核(例えば、細菌等)細胞培養物)から単離されることができる1kDaを超える分子量を有する分子をいう。一部の実施形態では、この用語の使用は、ポリマー、例えば、生体高分子(核酸(例えばDNA、RNA)、ポリペプチド(例えばタンパク質)、炭水化物、および脂質)をいう。一部の実施形態では、「生体高分子」という用語は、タンパク質をいう。一部の実施形態では、「生体高分子」という用語は、組換えタンパク質または融合タンパク質をいう。一部の実施形態では、タンパク質は可溶性である。一部の実施形態では、生体高分子は、抗体(例えばモノクローナル抗体)である。
【0029】
本明細書で用いるように、「タンパク質」という用語は、単数の「タンパク質」ならびに複数の「タンパク質」を包含することを意図する。従って、本明細書で用いるように、「ペプチド」、「ポリペプチド」、「アミノ酸鎖」、または1本鎖のアミノ酸または複数鎖のアミノ酸を参照するために用いる任意の他の用語を含むがそれらに限定されない用語は、「タンパク質」の定義に含まれ、および「タンパク質」という用語は、これらの用語のいずれかの代わりに、または互換的に使用することが可能である。この用語は、翻訳後の修飾(例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、公知の保護基/封鎖基による誘導体化、タンパク質切断、または非天然のアミノ酸による修飾)を受けているタンパク質をさらに含む。タンパク質は、多量体(例えば二量体、三量体等)を形成するポリペプチドも含む。「タンパク質」という用語は、融合タンパク質(例えば、タンパク質(またはタンパク質のフラグメント)が抗体(または抗体のフラグメント)に結合する遺伝子融合のプロセスを介して産生されるタンパク質)も含む。本発明の融合タンパク質の例としては、ヒトIgG1およびヒトIgEに由来する、連結したFc領域を含むジスルフィド結合二官能性タンパク質、およびリンホトキシンβ受容体免疫グロブリンG1が挙げられる。
【0030】
抗体は、本発明の方法によって精製されることができる。用語[抗体]とは、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、多選択性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体、一本鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab‘)2フラグメント、Fab発現ライブラリーによって生成されるフラグメント、坑イディオタイプ(坑Id)抗体(例えば本発明の抗体に対する坑Id抗体を含む)、および前述のいずれかのエピトープ結合フラグメントをいう。一部の実施形態では、「抗体」という用語は、モノクローナル抗体をいう。「抗体」という用語は、また、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性の部分(すなわち、抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子)いう。本発明の方法によって精製されることができる免疫グロブリン分子は、型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、クラス(例えば、IgGl、IgG2、IgG3、およびIgG4)、または免疫グロブリン分子のサブクラスのいずれかであり得る。本発明の抗体としては、キメラ抗体、一本鎖抗体、およびヒト化抗体も挙げられる。本発明の抗体の例としては、商品化された抗体(例えば、natalizmab(ヒト化坑a4インテグリンモノクローナル抗体)、ヒト化坑αVβ6モノクローナル抗体、ヒト化坑VLA1 IgG1κモノクローナル抗体、huB3F6(ヒト化IgG1/κモノクローナル抗体)が挙げられる。
【0031】
本発明の方法によって精製される抗体は、鳥および哺乳類を含む任意の動物に由来することもある。好ましくは、本発明の方法によって精製される抗体は、ヒト、ネズミ科の動物(例えばマウスおよびラット)、ロバ、シップウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ、またはニワトリ)に由来する。本明細書で用いるように、「ヒト」抗体とは、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含み、およびヒト免疫グロブリンライブラリーから、または1つ以上のヒト免疫グロブリンとの動物トランスジェニックから単離され、内在性免疫グロブリンを発現しない抗体を含む。例えば、Kucherlapati et al.による米国特許第5,939,598号を参照。一部の実施形態では、抗体としては、商品化された抗体(例えばnatalizmab(TYSBARI(登録商標), Elan Pahrmaceuticals, San Diego, CA))を含む、IgGl、IgG2、IgG3、およびIgG4の抗体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0032】
本発明の方法によって精製されることができる抗体としては、例えば、自然抗体、インタクトなモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2種類のインタクトな抗体から形成される多選択性抗体(例えば二重特異性抗体)、抗体フラグメント(例えば、1つ以上の抗原に結合し、および/または認識する抗体フラグメント)、ヒト化抗体、ヒト抗体(Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2551(1993); Jakobovits et al., Nature 362, 255−258(1993); Bruggermann et al., Year in Immunol. 7:33 (1993)、米国特許第5,591,669号および第5,545,807号)、抗体ファージライブラリーから単離される抗体および抗体フラグメント(McCafferty et al., Nature 348:552−554(1990);Clackson et al., Nature 352:624−628(1991); Marks et al., J. Mol.Biol. 222:581−597(1991); Marks et al., Bio/Technology 10:779−783(1992); Waterhouse et al., Nucl. Acids Res. 21: 2265−2266(1993))が挙げられる。本発明の方法によって精製される抗体は、N末端もしくはC末端で非相同ポリペプチドに組換えで融合され得る、またはポリペプチドもしくは他の組成物に化学的に抱合(共有抱合および非共有抱合)され得る。例えば、本発明の方法によって精製される抗体は、検出アッセイおよびエフェクター分子(例えば、非相同ポリペプチド、薬物、または毒素)において標的として有用な分子に組換えで融合され得るまたは抱合され得る。例えば、PCT公報第WO92/08495号、第WO91/14438号、第WO89/12624号、米国特許第5,314,995号、および欧州特許第EP396,387号を参照。
【0033】
一部の実施形態では、本発明の生体高分子または組成物は、医薬的に許容される。「医薬的に許容される」とは、健全な医学的判断に従って、有用性/危険性の妥当な比に釣り合い、過剰な毒性または他の合併症もなく、人間および動物の組織との接触に適した生体高分子または組成物をいう。
【0034】
一部の実施形態では、生体高分子は可溶性タンパク質である。「可溶性」という用語は、細胞宿主の親水性もしくは水性の環境(例えば細胞質、周辺質、または細胞外媒体)に実質的に局在化するためのタンパク質の性質をいう。従って、細胞分画の間、可溶性タンパク質は、通常、宿主細胞の細胞質成分、周辺質成分、または細胞外成分によって実質的に単離される。一部の実施形態では、可溶性タンパク質は、界面活性剤の非存在下で水溶性である。当業者は、ポリペプチドの細胞局在またはタンパク質の細胞分画のどちらも絶対的でないことを認識する。従って、語句「実施的に局在化させる」とは、タンパク質の50%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%が指定された細胞部位(例えば細胞質、周辺質、または細胞外媒体)にあるタンパク質をいう。
【0035】
本発明での「組成物」という用語は、本発明の生体高分子の1つ以上の分子、および場合により、不純物および生体高分子が同一でない、少なくとも1つの不純物の混合物をいう。一部の実施形態では、組成物は、生体高分子、細胞宿主生物(例えば哺乳類細胞)、および宿主生物を増殖させ、ならびに目的の生体高分子の発現を可能にするのに十分な培養基を含む。増殖培地の選択および使用は、当業者にとって公知である。一部の実施形態では、培養基は、細胞培養培地である。細胞培養培地は、増殖する細胞培養の種類によって異なる。一部の実施形態では、細胞培養培地は、市販されている培地である。一部の実施形態では、例えば無機塩類、炭水化物(例えば、グルコース、ガラクトース、マルトース、または果糖等の糖類)、アミノ酸、ビタミン(例えば、ビタミンB群(例えばB12)、ビタミンA、ビタミンE、リボフラビン、チアミン、およびビオチン)、脂肪酸および脂質(例えば、コレステロールおよびステロイド)、タンパク質およびペプチド(例えばアルブミン、トランスフェリン、フィブロネクチン、およびフェチュイン)、血清(例えばアルブミン、成長因子、および成長抑制物質を含む組成物(例えばウシ血清、新生仔牛血清、およびウマ血清))、微量元素(例えば亜鉛、銅、セレン、およびトリカルボン酸の中間体)、ならびにそれらの組み合わせを含有する増殖培地を含む。増殖培地の例としては、基本培地(例えばMEM、DMEM、GMEM)、複合培地(RPMI 1640、Iscoves DMEM、Leibovitz L−15、TC100)、無血清培地(例えばCHO、Ham F10および誘導体、Ham F12、DMEM/F12)が挙げられるがこれらに限定されない。増殖培地で見られる通常の緩衝液として、PBS、Hanks BSS、Earles塩類、DPBS、HBSS、EBSSが挙げられる。哺乳類細胞を培養するための培地は、当該技術分野で周知であり、例えば、Sigma−Aldrich Corporation (St. Louis, MO)、HyClone (Logan, UT)、Invitrogen Corporation (Carlsbad, CA)、Cambrex Corporation (E. Rutherford, NJ)、JRH Biosciences (Lenexa, KS)、Irvine Scientific (Santa Ana, CA)、および他から入手可能である。増殖培地で見られる他の成分としては、アスコルビン酸、クエン酸、システイン/シスチン、グルタミン、葉酸、グルタチオン、リノール酸、リノレン酸、リポ酸、オレイン酸、パルミチン酸、ピリドキサール/ピリドキシン、リボフラビン、セレン、チアミン、トランスフェリンを挙げることができる。当業者は、本発明の範囲に含まれる増殖培地に修飾が存在することを認識する。
【0036】
一部の実施形態では、組成物は収集原料をさらに含む。「収集原料」という用語は、細胞が収集の直前に存在する培地、または収集された細胞が収集直後に置かれ、かつ細胞がそれに再懸濁される培地をいう。収集原料としては、増殖培地に関して上述した組成物の任意の、または収集細胞もしくは細胞分画を再懸濁させるのに適した他の培地を挙げることができる。例えば、一部の実施形態では収集培地は、水、緩衝液、浸透圧剤、坑分解剤等を含有することもある。
【0037】
「不純物」という用語は、本発明の生体高分子と異なる、組成物の1つ以上の成分をいう。一部の実施形態では、不純物としては、インタクトな哺乳類細胞(例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)もしくはマウス骨髄腫細胞(NSO細胞))、または部分細胞(例えば細胞片)を挙げることができる。一部の実施形態では、不純物は、タンパク質(例えば、可溶性もしくは不溶性のタンパク質、またはHCP等のタンパク質のフラグメント)、脂質(例えば細胞壁物質)、核酸(例えば染色体DNAもしくは染色体外DNA)、リボ核酸(t−RNAもしくはmRNA)、またはそれらの組み合わせ、または目的の生体高分子とは異なる任意の他のどんな細胞片でも含む。一部の実施形態では、不純物は、目的の生体高分子を産生した、または含有した宿主生物から生じ得る。例えば、不純物は、目的のタンパク質を発現した原核細胞または真核細胞(例えば、細胞壁、細胞タンパク質、DNAもしくはRNA等)の細胞成分であり得る。一部の実施形態では、不純物は宿主生物に由来せず、例えば不純物は、細胞培養培地、増殖培地、緩衝液、または培地添加物に由来することもある。本明細書で用いるように不純物は、単一の望ましくない成分、またはいくつかの望ましくない成分の組み合わせを含み得る。
【0038】
本発明の生体高分子は、増殖培地および種々の真核細胞(例えば哺乳類細胞)を含む細胞培養物から単離されることも可能である。本発明の哺乳類細胞(本発明の方法で用いられる哺乳類細胞を含む)は、培養で増殖することが可能な任意の哺乳類細胞である。典型的な哺乳類細胞としては、例えば、CHO細胞(CHO−K1、CHO DUKX−B11、CHO DG44を含む)、VERO、BHK、HeLa、CV1(Cos、Cos−7を含む)、MDCK、293、3T3、C127、骨髄腫細胞系(特にマウス)、PC12、HEK−293細胞(HEK−293TおよびHEK−293Eを含む)、PERC6、Sp2/0、NSO細胞、およびW138細胞が挙げられる。任意の前述の細胞に由来する哺乳類細胞も、用いることが可能である。
【0039】
本発明の生体高分子は、増殖培地および種々の原核細胞(例えば、大腸菌、枯草菌、ネズミチフス菌、ならびにシュードモナス属内の種々の種(例えば緑膿菌)、酵母菌(例えばサッカロミセス、ピキア、ハンゼヌラ、クリベロマイセス、分裂酵母、シュワニオミセス、およびヤロウイア)、昆虫細胞(例えばイラクサギンウワバ、鱗翅目カブラヤガ、スポドプテラ属、ショウジョウバエ、およびSf9)、植物細胞(例えばシロイヌナズナ)を含む細胞培養物から単離され得る。当業者は、目的の生体高分子に応じて、適切な細胞系を選択できる。
【0040】
本発明では、組成物のpHは、収集原料のpHよりも低いpHに調整される。本発明の組成物(例えば、収集原料を含むもの)は、通常、調整なしで、約6.0〜約8.0、約6.5〜約7.5、または約6.8〜約7.2のpHを有する。一部の実施形態では、収集原料のpHよりも低い任意のpHを、本発明の単離で用いる。一部の実施形態では、組成物のpHは、約1.0〜約6.0、約2.0〜約5.5、約3.0〜約6.5、約3.0〜約5.0、約4.0〜約5.0、約4.0〜約4.7、約4.3〜約5.0、または約4.7〜約5.0の範囲内のpHに下げる。一部の実施形態では、組成物のpHは、約4.0〜約4.7の範囲内に下げる。一部の実施形態では、pHは、約3.5のpHまで下げることができる。一部の生体高分子では、3.5よりも低いpHは、目的の生体高分子の変性または不安定性をもたらし、従って望ましくない。任意の理論に制約されることなく、一部の実施形態では、収集原料のpHを下げることによって、組成物、主に細胞、および細胞片のうちの1つ以上の成分を凝集させる。一部の実施形態では、宿主細胞DNAは凝集され、目的の生体高分子の単離をより簡単および/またはより効率的にできるようにする。一部の実施形態では、宿主細胞タンパク質は凝集され、目的の生体高分子の単離をより簡単および/またはより効率的にできるようにする。一部の実施形態では、濾過を用いて生体高分子を単離する場合、凝集した大粒子は、フィルターのポアの付着物を減少させ、従ってフィルタリング効果を上昇させ、膜貫通圧を低下させ、処理体積量を増大させる。一部の実施形態では、本発明は、pHを下げることによる生体高分子を単離する方法に関する。
【0041】
本発明の組成物のpHは、種々の方法によって調整されることが可能である。一部の実施形態では、pHを、組成物に酸を添加することによって下げる。適切な酸としては、強酸(例えば、過塩素酸(HClO4)、ヨウ化水素酸(HI)、臭化水素酸(HBr)、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)、硫酸(二塩基酸)(H2OS4))、もしくは弱酸(例えば酢酸(CH3COOH)(例えば氷酢酸)、クエン酸(C6H8O7)、ギ酸(HCOOH)、シアン化水素酸(HCN)、硫酸水素塩イオン(HSO4−))、または上記の酸のいずれかの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。一部の実施形態では、組成物のpHは、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液(例えばリン酸ナトリウムおよびリン酸カリウム)、炭酸水素緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液、トロメタミン緩衝液、HEPES緩衝液、およびそれらの組み合わせ)を用いることによって調整され得る。
【0042】
任意の理論にも制約されることなく、本発明の一部の実施形態では、pHを低下させることによって大きな不純物の粒子を凝集させるのに役立ち、それによって「付着物」(すなわち、フィルターのポアを塞ぐまたは詰める)を減少させる。フィルターの付着物が増加すると、透過流れにおける所望の生体高分子の回収に悪影響を及ぼす可能性があり、透過流れにおける浄化収率の低下および比較的高いレベルの不純物をもたらす。場合によっては、フィルターの付着物は、膜貫通圧を増加させる。フィルターの付着物は、フィルターの機械的性能を超える値まで膜貫通圧を増大させ、従って、完了する前にフィルター操作を停止させ、著しく低い生成物回収をもたらす。従って、一部の実施形態では、本発明は、組成物のpHを下げることによって、組成物中の生体高分子のより多くの量または容積を単離する方法に関する。一部の実施形態では、pHを下げることによって、回収される生体高分子の純度および品質を増加させることができる。
【0043】
一部の実施形態では、組成物のpHを下げることは、目的の生体高分子ならびに不純物の共沈澱をもたらし、細胞外媒体における生体高分子の回収を減少させる結果となる。本発明の発明者は、一部の実施形態では、pHを調整した組成物に二価カチオンを添加することは、目的の生体高分子の回収を増加させることに適していることが分った。「回収の増加」という用語は、同一の精製方法であるが二価カチオンを添加しない方法に比べて、本発明の方法の比較をいう。例えば、方法Aが本発明の方法(収集原料への二価カチオンの添加を含まないことを除いて)であって、目的の生体高分子を100mgもたらし、方法Bが方法Aと同一(方法Bが収集原料への二価カチオンの添加を含むことを除いて)であり、生体高分子を110mgもたらす場合、方法Bは10%の「回収の増加」を有すると判定される。一部の実施形態では、本発明の方法は、生体高分子の回収を3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、または25%を超えて増加させる。一部の実施形態では、本発明の方法は、回収を、10%、15%、20%、25%、30%、または50%まで増加させる。
【0044】
本発明では、二価カチオンを組成物に添加する。種々の二価カチオンが存在し、当業者にとって公知であり、例えば、カルシウムカチオン(Ca2+)、マグネシウムカチオン(Mg2+)、銅カチオン(Cu2+)、コバルトカチオン(Co2+)、マンガンカチオン(Mn2+、ニッケルカチオン(Ni2+)、ベリリウムカチオン(Be2+)、ストロンチウムカチオン(Sr2+)、バリウムカチオン(Ba2+)、ラジウムカチオン(Ra2+)、亜鉛カチオン(Zn2+)、カドミウムカチオン(Cd2+)、銀カチオン(Ag2+)、パラジウムカチオン(Pd2+)、ロジウムカチオン(Rh2+)、およびそれらの組み合わせが挙げられる。当業者は、カチオンが塩の形(例えば、CaCl2等のカルシウム塩は、水溶液に加えて、カルシウムカチオンを生成できる)で存在できることを理解する。従って、本明細書で用いるように、語句「二価カチオンを添加すること」は、その荷電状態にカチオンを添加することだけでなく、本発明の組成物に導入されると、二価カチオンを生成する塩もしくは他の成分を添加することも包含する。一部の実施形態では、二価カチオンはCo2+もしくはNi2+、またはそれらの塩類(例えばCoCl2、NiCl2、CaCl2、MnCl2、MgCl22、およびCuCl2)、またはこれらのカチオンもしくは塩類のうちの1つ以上の組み合わせである。ある二価カチオンが様々な生体高分子により適していることもあり得ると予想される。また一方、当業者は、多数の二価カチオンを容易にかつ手早く試験して、どれが目的の生体高分子の最大回収を達成するかを決定することができる。
【0045】
組成物における二価カチオンの種々の濃度が本発明での使用に適している。当業者は、種々の量の二価カチオンが通常、収集原料(内在性二価カチオン)で少量存在し、種々の量の二価カチオンが本発明によって収集原料に添加される(外因性二価カチオン)ことができることを認識する。一部の実施形態では、二価カチオンの濃度は、外因性カチオンおよび内在性カチオンの両方を含む。しかし、実際的には、内在性二価カチオンの量は、外因性二価カチオンの量と比べて、比較的に少量であるので、二価カチオンの濃度は、単純に外因性二価カチオンを考慮することで算出されることが可能である。一部の実施形態では、組成物中の二価カチオンは、組成物の約0.01mM〜約1Mの濃度で組成物に存在する。一部の実施形態では、約0.1mM〜約500mM,または約0.5mM〜約200mM、約1.0mM〜約100mM,約2mM〜約50mM、約5mM〜約15mM、または約2mM〜約20mMの濃度で組成物に存在する。一部の実施形態では、二価カチオンは、約10mMの濃度で組成物に存在する。任意の方法論に制約されることなく、二価カチオンの適切な濃度は、実施例14で分ったものに類似する方法で決定されることが可能である。この実施例では、種々の濃度の二価カチオンを、生体高分子を含む、pHを調整した組成物に添加し、次いで最大量の生体高分子を回収できる最低濃度を決定する。当業者は、様々な濃度のカチオンが種々の生体高分子で必要とされ得ると理解する。
【0046】
種々の方法を用いて、1つ以上の不純物から本発明の生体高分子を分離することができる。不純物から生体高分子を分離する方法の例としては、沈澱、免疫沈降、クロマトグラフィー、濾過、遠心分離、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、不純物から生体高分子を分離することは、フィルターを用いることによって達成される。「濾過」または「濾過すること」という用語は、特定のポア径からなる、1つ以上の半透膜(または媒体)に組成物を通過させることによって組成物から浮遊粒子を除去するプロセスをいう。濾過について言及するとき、「透過流れ」という用語は、濾過の間、フィルターポアを通過する組成物の画分をいう。濾過について言及するとき、「未透過流れ」という用語は、濾過の間、フィルター上に残存する、またはフィルターポアを通過しない組成物の画分をいう。一部の実施形態では、濾過後、本発明の生体高分子は、実質的に透過流れ(すなわち、フィルターポアを通過して、収集される)に存在し、一方不純物(例えば、細胞片、DNA、および/またはHCP)は実質的に未透過流れに存在する。一部の実施形態では、濾過後、本発明の生体高分子は、実質的に未透過流れに存在し、一方不純物は、実質的に透過流れに存在する。一部の実施形態では、「ベンチ規模」の濾過を用いて、工業規模濾過の適切な条件を予測することができる。
【0047】
特定の生体高分子を精製するための適切なフィルターの種類、化学的性質、およびモジュール配置は、当業者にとって公知であり、種々の因子(例えば濾過される組成物の成分の量および大きさ、濾過される組成物の容積、および濾過される組成物の細胞密度および生存率)に基づいて選択されることができる。一部の実施形態では、フィルター(例えば薄膜フィルター、プレートフィルター、カートリッジフィルター、バッグフィルター、加圧リーフフィルター、回転ドラムフィルター、または真空フィルター)を用いることが可能である。一部の実施形態では、デプスフィルターまたは交差フィルターを用いる。本発明に適用される交差流フィルターモジュールの種類としては、中空繊維型、管状型、平板(板・骨組)型、スパイラル型、または渦流型(例えば回転)のフィルター形状が挙げられる。一部の実施形態では、タンジェンシャルフローフィルターが用いられる。一部の実施形態では、タンジェンシャルフロー(交差流)モードで、中空繊維、管状、および平膜のモジュールを利用した。利用できる市販のフィルターは、種々の製造ベンダー(例えば、Millipore Corporation (Billerica, MA)、Pall Corporation (East Hills, NY)、GE Healthcare Sciences (Piscataway, NJ)、およびSartorius Corporation (Goettingen, Germany))のために製造されている。
【0048】
本発明のフィルターのポア径は、単離される生体高分子の型および組成物中に存在する不純物の種類によって変わり得る。一部の実施形態では、フィルターのポア径は、直径0.1μm〜1.0μm、0.2μm〜0.8μm、または0.2μm〜0.65μmである。
【0049】
濾過の間、フィルターを通る組成物の移動(例えば、収集原料)は、膜抵抗の結果として起こる膜貫通圧を生成する。膜表面に細胞物質が蓄積する(または極性化する)につれて、一定流速で膜を横切って流れる抵抗が増大し、従って推進力または膜貫通圧が増大する原因になる。膜表面近くの細胞物質の量が減少する場合、または膜の極性化が低下する場合、膜貫通圧は実質的に一定のままである傾向がある。膜電位差を算出する方法は、当業者にとって公知であり、圧力トランスデューサーまたはゲージの使用が挙げられる。本発明の一部の実施形態では、膜貫通圧は、原料および未透過流れの出口圧力および透過流れの圧力との間の平均の差を取って、算出されることができる。図8は、膜貫通圧算出の模式図を示す。
【0050】
通常、pHを調整してない組成物の濾過の間(例えば、収集原料)、より多くの組成物がフィルターに負荷されるにつれて、フィルターの膜貫通圧は著しく増大する。例えば、一部の実施形態では、フィルターのポアが詰まるにつれて、膜貫通圧は、濾過プロセスの開始(組成物の最初の量をフィルターに配置するとき)から濾過プロセスの終了(通常、7〜10×細胞物質の濃度および3〜5×ダイアフィルトレーションの後)までに5psi、7psi、10psi、15psi、または20psiもしくはそれ以上増大する。例えば、図12(原料組成物A)および図13(原料組成物A)に示すように、収集原料溶液(pHを調整してない)の濾過の間、膜貫通圧は、収集原料の負荷の開始時の約1psi未満から、60リットル/m2の収集原料をフィルターに負荷(1000%の膜貫通圧の増加)した後の約10psiを超えるまで増大することもある。従って、膜貫通圧について言及するとき、「実質的に一定の」という用語は、濾過の間に、4psi、3psi、または2psiより大きく増大しない膜貫通圧をいう。実質的に一定の膜貫通圧は、図12の収集原料組成物B〜G、および図13の原料組成物B〜Fによって例証される。これらの組成物のそれぞれは、約1psi未満の膜貫通圧で開始し、濾過の間、これらの組成物を濾過するフィルター上の膜貫通圧は、2psiを超えない。従って、図12の組成物B〜Gおよび図13の原料組成物B〜Fを濾過するフィルター上の膜貫通圧は、実質的に一定であると考えられる。一部の実施形態では、本発明は、組成物中の生体高分子を精製する方法に関し、前記方法は、(a)組成物のpHを低下させること、(b)組成物に二価カチオンを添加させること、および次いで(c)膜を通して組成物を濾過させることを含み、この濾過方法は、濾過の間、実質的に一定のままである膜貫通圧をもたらす。
【0051】
一部の実施形態では、本発明の方法は、タンパク質濾過の拒絶を減少させる。「タンパク質濾過の拒絶」という用語は、式R=(1−[CP/CR])によって実証することができる。ここで、Rはタンパク質濾過の拒絶係数、CPは目的の生体高分子の即時透過濃度、およびCRは目的の生体高分子の即時未透過濃度である。一部の実施形態では、本発明は、組成物のpHを低下させること、組成物に二価カチオンを添加させること、および生体高分子を濾過することを含む、組成物中の生体高分子を単離する方法に関する。ここで、タンパク質濾過の拒絶係数の値は、pHの調整および/または二価カチオンの添加を行わない組成物中の生体高分子と比較して、所定の処理体積量に対してより低い。例えば図18を参照。
【0052】
生体高分子を単離するとき、一部の実施形態では、大量の組成物(例えば収集原料)が、例えば商業生産プロセスの間に存在し得る。量が大量になると、精製プロセスにおいていくつかの課題が生じる。例えば、単離した生体高分子の回収の際にフィルターを通る流速の多少の変化が有する影響は、大量で用いる場合に、増幅される。同様に、大量で用いる場合、生成物回収の際に、収集原料における細胞密度の増加も増幅される。従って、大量の組成物の使用は、増幅されかつ少量の使用と比較すると、より大きい分枝を有するという独特な問題を提起する。従って、一部の実施形態では、本発明は大量の組成物に存在する生体高分子を単離する方法に関する。「大量」という用語は、生体高分子の商業生産および/または工業生産に関連する量をいう。一部の実施形態では、「大量」という用語は、10〜2000リットル、20〜1000リットル、または50〜500リットルをいう。
【0053】
一部の実施形態では、高細胞密度の組成物(例えば収集原料)から生体高分子を収集することは有益である、もしくは望ましい。高細胞密度の組成物は、通常の細胞密度の組成物と比較すると、独特な問題を提起する。例えば、高細胞密度の組成物は、組成物中に存在する不純物を大量に有し、それによって、精製プロセスの間に除去される必要がある不純物の量を増加させる。従って、より高い細胞密度の組成物は、フィルターをより早く詰まらせる可能性があり、それによって、組成物の濾過が妨げられる。一部の実施形態では、高細胞密度の組成物は、より多くのフィルター、またはより大きい表面積を有するフィルターを使用する必要がある。これらの両要件は、濾過に付随する費用および/または生成物の損失をより大きくする結果になり得る。本発明では、組成物のpHを低下させ、それによって一部の不純物を除去して、より高い細胞密度の組成物の精製を可能にする。従って、本発明の一部の実施形態は、高細胞密度の組成物中に存在する生体高分子を単離する方法に関する。「高細胞密度」という用語は、通常、哺乳類細胞の場合、約1×105〜3.5×107、約1.0×106〜約1.0×107、または約5.0×106〜約9.0×106の細胞/mlをいう。もちろん、当業者は、種々の細胞が伝統的に異なる細胞密度で増殖することを認識する。従って、一部の実施形態では、「高細胞密度」細胞培養物は、その細胞系について従来行われている密度よりも、より高い密度で細胞を含有する細胞培養物をいう。
【0054】
本発明の一部の実施形態では、本発明の方法は、濾過プロセスのロバスト性を増大させる方法に関する。前記方法は、(a)組成物のpHを低下させること、(b)組成物に二価カチオンを添加させること、および(c)膜を通して組成物を濾過させることを含む。「ロバスト性を増大させる」という用語は、膜貫通圧、不純物濃度、または生成物の損失を増大させずに、所定のフィルターに対してより広い範囲の流速を用いる能力をいう。「ロバスト性を増大させる」という用語は、また、膜貫通圧、不純物濃度、または生成物の損失を増大させずに、より大きい容量、または所定のフィルターの収集原料のより高い細胞密度を濾過する能力をいう。
【0055】
本発明の一部の実施形態では、方法は、濾過する前に、生体高分子(例えば収集原料)を含む組成物を浄化する方法に関する。前記方法は、(a)組成物のpHを低下させること、(b)組成物に二価カチオンを添加させること、および(c)組成物中の不純物から生体高分子を分離させることを含む。一部の実施形態では、組成物を浄化することは、濁度計(例えば、Hach 2100AN濁度計(Hach Co., Loveland, CO))によって測定されるように、濁度の減少と相関する。
【0056】
一部の実施形態では、本発明の方法は、遠心力(すなわち遠心分離)に組成物をさらすし、遠心分離が上清および沈澱物を形成することによって不純物から生体高分子を分離することを含む。一部の実施形態では、遠心分離は、実質的に不純物(細胞または細胞片)を含まない上清および細胞/細胞片が濃縮した沈澱物を形成する。遠心分離について言及するとき、「沈澱物」という用語は、遠心分離の間に沈澱して(またはペレット状になり)細胞/細胞片の塊を形成する組成物の画分をいう。「上清」という用語は、遠心分離の間に沈澱(またはペレット状)しない、組成物の画分、例えば、組成物中の水相にとどまり、実質的に無細胞である組成物の画分をいう。一部の実施形態では、遠心分離後、本発明の生体高分子は、実質的に上清に存在する(すなわち、組成物の液体画分に実質的に浮遊したままである)。一部の実施形態では、遠心分離後、本発明の生体高分子は、実質的に沈澱物中に存在する(すなわち、溶液から沈澱する、または遠心分離によって生ずるペレット中に存在する)。一部の実施形態では、密度勾配を用いて、不純物から生体高分子を分離する。従って、一部の実施形態では、遠心分離後に、生体高分子および不純物の両方は、異なる密度で、従って遠心分離装置内の異なる部位で、上清中に残る。
【0057】
種々の遠心分離装置が使用できる。一部の実施形態では、遠心分離は、分離板型遠心分離機によって達成されることができる。一部の実施形態では、「ベンチ規模」の濾過を用いて、工業規模濾過の適切な条件を予測することができる。遠心分離の変数を変えて、目的の生体高分子の最適な単離を達成することができる。例えば、一部の実施形態では、種々の回転速度または流速を用いて、生体高分子回収の品質、および/または生体高分子回収の量を上げることができる。
【0058】
本発明の方法の手順は、種々の順番で順序付けることが可能である。例えば、本発明の一部の実施形態では、pHを下げることおよび二価カチオンを添加することは、不純物から生体高分子を分離することの前に行う。一部の実施形態では、収集媒体のpHを最初に調整して、二価カチオンを添加して、次いで生体高分子を不純物から分離する。他の実施形態では、二価カチオンを最初に添加して、組成物のpHを調整し、次いで生体高分子を分離する。一部の実施形態では、1つ以上の精製手段が(a)pHを低下させること、(b)二価カチオンを添加させること、または(c)不純物から生体高分子を分離することのいずれかの間で起こることもある。あるいは、本発明の方法の手順(a)、(b)、または(c)は、連続的(例えば、付加的な精製手段が手順(a)、(b)、および(c)の間に起こらない)であり得る。しかし、手順(a)、(b)、および(c)が連続的であるとき、付加的な精製手段は、手順(a)、(b)、および(c)の前もしくは後に起こり得る。
【0059】
本発明の一部の実施形態は、生体高分子および不純物を含む組成物中の生体高分子を単離する間、浄化操作のロバスト性を向上させる方法に関し、前記方法は、(a)組成物のpHを低下させること、(b)不純物が凝集することを可能にすること、(c)組成物に二価カチオンを添加すること、および(d)組成物中の不純物から生体高分子を分離することを含む。「操作のロバスト性」という用語は、所定(例えばフィルター径)の分離装置のためのより幅広い種類の細胞負荷を処理する単離操作(例えば濾過プロセス)の能力をいう。一部の実施形態では、pHを低下させることは、不純物(例えば細胞片等)によるフィルター膜の付着物を逆行させ、従って、より高い体積負荷の下でより高い処理体積量によって濾過が操作されることを可能にする。
【実施例】
【0060】
本発明を、具体的な実施例を通して、より詳細に説明する。以下の実施例を、例示を目的として提示し、および任意の方法によっても本発明を限定することを意図しない。当業者は、本発明によって別の実施形態をもたらすために、変更または修飾され得る種々の非重大パラメータを容易に認識する。
(実施例1)
細胞の綿状沈澱に対するpHの効果を、種々のpHレベルで、培養細胞の粒子径分布を比較することによって調べた。細胞培養液を、2つのバイオリアクターから収集し、次いで3つの異なる群(1つの対照群、および2つの実験群)に分けた。実験群を、25%酢酸を用いておおよそpH4.5または5.75に調整した。対照群は、おおよそpH7.1の未調整のままにした。次いで、各群の試料を、Beckman Coulter, Multisizer III (Fullerton, CA)を使用して分析し、平均径を決定した。結果を図1に示す。
【0061】
実験の結果は、5.75未満のpHで、直径2.5μm未満の粒子が明らかに減少し、2.5〜6.0μmの粒子集団が増加することを示す。
(実施例2)
細胞の綿状沈澱に対するpH変化の効果を、種々のpHレベルで、Trypan Blueを用いて細胞を染色し、次いで着色した細胞をCEDEX細胞分析装置(Flonamics, Madison WI)で分析することによって調べた。実施例1に記述するように、細胞培養液を2つのバイオリアクターから収集し、次いで3つの異なる群(1つの対照群、および2つの実験群)に分けた。実験群を、25%酢酸を用いておおよそpH4.5および5.75に調整した。対照群は、おおよそpH7.1の未調整のままにした。次いでTB染料液を添加し、拡大像を使用して分析した。結果を図2に示す。
【0062】
TB色素は、浸透して、細胞内タンパク質を着色することによって死細胞を着色した。pH4.50で細胞を提示したデータは、pH7.00および5.75のデータと比較して、単位面積あたりより多くの着色された微粒子を示している。これは、TBが死細胞を着色しただけでなく、同様の大きさの他のタンパク質集合体も着色することを示唆する。この観察は、タンパク質の沈澱および綿状沈澱が低いpHで起こるという仮説をさらに支持する。
(実施例3)
上清の濁度に対するpH変化の効果を決定した。細胞培養物を、種々のアリコートに分け、次いでpH4.25、4.5、4.75、5.0、5.25、5.5、6.0に調整した、または未調整(pH7.1)のままにした。次いで、沈降速度実験を行い、結果として生じる上清の濁度を測定した。結果を図3に示す。
【0063】
実験の結果は、上清の濁度がpHレベルの増加とともに増加することを示す。これは、沈降速度実験の間、低いpH範囲で細胞が凝集し、除去されることを示唆する。
(実施例4)
IgG1およびIgG4クラスのモノクローナル抗体を、組換えチャイニーズハムスター卵巣(CHO)またはマウス(NSO)の細胞発酵によって生成した。Master Cell Bankのバイアルを解凍し、次いで接種調製で、種々の大きさのシェーカーフラスコおよびバイオリアクターを介して伸長させた。接種調製および生成バイオリアクター培地を、無動物成分を用いて作製した。温度、pH、および溶存酸素レベルを、記述したすべてのバイオリアクターで制御した。
(実施例5)
実施例4の収集原料は、(a)pH未調整、または(b)pH4.7に調整したいずれかであった。調整した(または未調整の)収集原料を、次いで、一定の再循環および透過流速で、タンジェンシャルフロー濾過モードでマイクロフィルターに通過させた。濾過プロセスの間、pH調整した収集原料およびpH未調整の収集原料の両方に対する膜貫通圧を算出した(図11を参照)。IgG1クラス抗体およびIgG4クラス抗体に対する膜貫通圧の測定結果を、図12および図13にそれぞれ示す。両図は、収集原料をフィルターに適用するとき、収集原料をpH4.7〜5.3の範囲に低下させると、比較的一定の低い膜貫通圧をもたらすのに対して、pHを調整しない収集原料をフィルターに適用すると、急増する膜貫通圧をもたらすことを示している。
【0064】
特定の理論に制約されることなく、証拠は、pHを低下させることで細胞物質の綿状沈澱の増加をもたらし、マイクロフィルター上のポアを妨げる可能性が少ない大きい粒子をもたらすことを示唆する。浄化を、微多孔膜を含有する精密濾過モジュール内に収集原料を方向付ける交差流モードで行った。無細胞透過物がフィルター膜を通過して収集される間、保持される細胞および細胞片を保持し、原料容器に再循環させてもどした(図10の模式図を参照)。透過物を一定流速でシステムから引出し、次いで容器に収集した。高濃度の細胞物質が薄膜フィルター表面に付着する結果、最初の高密度の生物由来物質を有する細胞培養物を含有するバイオリアクターから所望のタンパク質を精密濾過によって分離することで、マイクロフィルターを通過する膜貫通圧低下の増加をもたらした。精密濾過操作のロバスト性を増大させ、透過でタンパク質回収を増大させるためにフィルター膜貫通圧の低下を減少させるために、収集原料のpHを、精密濾過の前に4.0〜5.0まで低下させた。pHを低下させることにより、不純物(例えばDNA)の沈澱とともに大型細胞および細胞片の綿状沈澱を引き起こした。大粒子への不純物(細胞、細胞片、およびDNA)の綿状沈澱は、フィルター表面近くの組成物の物質移動を向上させ、従って、所定の透過流量または流速でフィルターを横切る膜貫通圧の低下を推進する力を減少させる(図3および4を参照)。
(実施例6)
宿主細胞タンパク質およびDNAの除去に対する、pHレベルの低下の効果を調べた。図5は、pHレベルを低下させると、溶液からの宿主細胞タンパク質およびDNAの両除去を増大させることを示す。細胞培養物を、様々なアリコートに分け、次いで各アリコートからの試料のpHを調整した。次いで、試料を遠心分離して、宿主細胞タンパク質またはDNAの量を決定した。データは、DNAが5.0未満のpHで90%を超えて減少し、宿主細胞タンパク質が5.0未満のpHで50%を超えて減少したことを示す。これらの不純物は溶液から沈澱し、遠心分離によって除去される可能性がある。
(実施例7)
pHを低下させることによる、2つのモノクローナル抗体の品質および回収に対する効果を調べた。図6は、両モノクローナル抗体のタンパク質回収がpH6.0以下で5%〜10%減少し、およびpH4.5以下で抗体Aが大きく減少したことを示す。タンパク質回収におけるこの著しい減少を、集合体および酸性異型のレベルを増加させることで達成した。低いpHで分子の不安定性を示す、単量体および主要なアイソフォームのレベルを低下させることで、本明細書に示した。抗体Bは、観察したpHの範囲にわたり、著しい分解を示さなかった。
(実施例8)
中空繊維の精密濾過(MF)の効率に対する、pHを低下させる効果を調べた。図7は、精密濾過の収集生成物の品質および不純物の結果が、図5の結果と一致したことを示す。宿主細胞タンパク質およびDNAが5.0未満のpHで、それぞれ50%および90%減少した。浄化した濁度のレベルは、精密濾過ユニットの操作に関連した濾過プロセスのため、図3の最初の実験よりも低かった。それでも、結果は、低いpHレベルに調節した細胞培養で、濁度において2倍以上の減少を示している。
【0065】
ベンチ規模のMF収率の結果を、図8に示す。最初の条件付け実験で見られたように、結果は、pH4.5以下で収率の損失を示している。さらに、MFプロセスの間の膜付着物のため、5.5もしくはそれ以上のpHで、実質的な損失が観察された。低いpHレベルに調節した細胞培養によってもたらされた綿状沈澱の効果は、この付着物を減少させる。
(実施例9)
モノクローナル抗体の収集に対する、pHを低下させる効果を調べた。抗体Bの遠心分離の結果も、図3および図5の浄化結果と一致した。ベンチ規模の遠心分離の操作の全収率数は、条件付けおよび遠心分離ユニットの操作による付加的な生成物の損失のために、最初の浄化実験よりも低かった。また、ベンチ規模の遠心分離と、パイロット規模の遠心分離とのせん断差のために、濁度レベルは、浄化実験よりも高かった。しかし、これらの両プロセスの結果は、浄化実験の間に見られたものと同じ傾向を示している。遠心分離のデータポイントにおけるばらつきの増加は、遠心分離の異なる作動条件に起因した。
(実施例10)
実施例4の収集原料の濁度に対する、pHレベルを低下させる効果を調べた。MgCl2、CaCl2、またはNaClのいずれかを含有する収集原料のpHは、(1)未調整(pH6.9〜7.2)、(2)pH6.0に調整、(3)pH5.0に調整、(4)pH5.0に調整、(5)pH4.5に調整、または(6)pH4.0に調整のいずれかであった。25%v/v酢酸を用いて、収集原料のアリコートを特定のpHに調整し、約2〜24時間の間、綿状沈澱および細胞の塊を沈降させた。次いで濁度計を使用して、澄んだ上清の濁度(透明度)を測定することによって、データを作成した。調整した収集物質のpHが低下するにつれて、上清濁度の一般的な減少が起こり、pH値が低下するとより澄んだ上清を示す(図4を参照)。濁度におけるこの減少は、低pHレベルで起こる高程度の細胞綿状沈澱の結果であり、細胞の塊のより急速な沈降をもたらした。綿状沈澱および向上した沈降によって、さらに効率的な精密濾過の操作性能がもたらされた(図12または図13を参照)。
(実施例11)
収集原料からのDNA混入物の回収に対する、pH調整の効果を、実施例4に説明するように収集原料を収集し、次いで(a)収集原料のpHを調整しない、または(b)収集原料のpHを4.7まで低下させることで決定した。次いで、調整および未調整の収集原料を、24時間沈降させた。試料を、澄んだ上清から収集して、DNAに対する検査を行った。無細胞収集に残存するDNAの量を、定量ポリメラーゼ連鎖反応法(QPCR)によって決定した。図15は、pHを調整しなかった収集原料と比較して、pHを4.7に調整した収集原料でのDNA混入物の減少が約1.5〜3ログであることを示す。
(実施例12)
モノクローナル抗体(IgG4)および融合タンパク質の回収に対する、pH調整の効果を、実施例4に説明するように収集原料を収集することで決定した。次いで、収集原料を、pH7.0、5.0、または4.0のいずれかに調整し、2〜24時間の間沈降させた。試料を、澄んだ上清から収集して、タンパク質タイターに対する検査を行った。無細胞収集原料に存在する抗体または融合タンパク質の量を、次いで、タンパク質Gタイターアッセイによって決定した。図14は、条件付き収集流れにおける生成物タンパク質タイターに対する、pH変化の効果を示す。IgG4クラス抗体および融合タンパク質に関するデータを示す。両タンパク質型のデータは、pHが7.0から4.0に低下するにつれて、タンパク質が著しく減少したことを示す。pHに誘導された沈澱によるタンパク質損失量は、3%から52%に及んだ。組成物のタンパク質濃度を決定する方法は、タンパク質G結合HPLC樹脂上の抗体または融合タンパク質の親和性捕捉に基づいた。
(実施例13)
タンパク質に対する、pHを調整した収集原料への二価カチオンの添加の効果を、10mMの種々の二価カチオンを収集原料に添加し、次いで前記収集原料のpHを5.0に低下させることによって、調べた。結果として生じた収集原料を、2〜24時間の間、沈降させた。試料を、澄んだ上清から収集し、次いでタンパク質タイターに対する検査を行った。そのタイターを、対照実験(二価カチオンを持たない、pH5.0に調整した収集)と比較した。無細胞の収集原料に存在する抗体または融合タンパク質の量を、タンパク質Gタイターアッセイによって決定した。図16は、何らイオンを添加しない対照の操作と比較して、二価カチオンを添加することによって、ほとんどの場合、可溶性抗体の損失が減少したことを示す。y軸は、(カチオンで処理した濾過収集原料のタイター)を(カチンで処理しなかった濾過収集原料のタイター)で割ることで表す、規準化したタイターを示す。
(実施例14)
pHを調整した収集原料に添加する二価カチオンの種々の濃度の効果を調べた。具体的には、CoCl2(またはCo2+)を、pHを調整した収集原料に、最終濃度の1mM、2mM、5mM、10mM、または20mMを添加した。次いで、pHを調整した収集原料から回収した生成物の量を、タンパク質Gを用いてアッセイし、生成物回収に対する、CoCl2の種々の濃度の効果を決定した。図17は、pH調整後、約10mMのCoCl2が生成物の損失を最小化する(すなわち、生成物の収率回収を最大化する)のに十分であったことを示す。
(実施離15)
タンパク質の濾過拒絶に対する、本発明の方法の効果を、濃度相およびダイアフィルトレーション相の間に微多孔膜を通して処理される累積量に応じて調べた。タンパク質の濾過拒絶の係数を、種々の時間間隔で未透過物タイターおよび透過物タイターを測定し、タンパク質のフィルター拒絶の係数を、式R=(1−[CP/CR])を用いて算出することで、決定した。データは、4通りの別々のMF実験を示す。すなわち、白三角形および黒三角形によって示される操作は、10mMのCoCl2の添加を含む、pH5.0に調整した収集流れを表し、白丸および黒丸によって示される操作は、CoCl2が存在しない未調整の収集流れを表す。データは、研究したすべての負荷率に関して、10mMのCoCl2を含有するpHを調整した収集原料に対してMF保持係数が低いことを示している。例えば、60〜70L/m2の典型的な大規模負荷率で算出した拒絶係数は、pHを調整しなかった操作に対するほぼ完全な拒絶(90〜100%)と比較すると、約30%である。また、図6に示すのは、各精密濾過の操作からの全タンパク質回収である。Co2+二価イオンを含有する操作は、未調整収集原料を用いる操作による20%収率損失と比較すると所望のタンパク質の完全回収を示す。
【0066】
タンパク質の濾過拒絶に対する、本発明の方法の効果を、濃度相およびダイアフィルトレーション相の間に、微多孔膜を通して処理される累積量に応じて調べた。タンパク質の濾過拒絶の係数を、種々の時間間隔で未透過物タイターおよび透過物タイターを測定し、タンパク質の濾過拒絶の係数を、式R=(1−[CP/CR])を用いて算出することで、決定した。図18に示すデータは、4通りの別々の精密濾過実験からである。すなわち、CおよびDでは、pH調整の間、10mMのCoCl2を収集流れに添加し、AおよびBでは、CoCl2を添加しなかった。収集原料のすべてをpH5.0まで低下させた。図18は、研究したすべての負荷率に関して、10mMのCoCl2でpHを調整した収集原料に対して精密濾過保持係数が低いことを示している。例えば、60〜70L/m2の典型的な大規模負荷率で、精密濾過の操作CおよびDに対して算出した拒絶係数は、操作AおよびBに対するほぼ完全な拒絶(90〜100%)と比較すると、約30%であった。また、図18は、各精密濾過の操作からの全タンパク質回収を示す。Co2+二価イオンを含有する操作(CおよびD)は、所望のタンパク質の完全に近い回収を示すのに対して、Co2+を添加しなかった操作(AおよびB)は、20%収率損失をもたらした。
【0067】
本発明は、記述した特定の実施形態によって範囲を限定されるものではなく、これらの実施形態は、本発明の個別の態様の単一の説明として意図し、および機能的に同等である任意の組成物または方法でも、本発明の範囲内である。実際に、本明細書に示し、説明したものに加えて、本発明の種々の修飾は、前述の説明および添付する図面から当業者にとって明らかになる。そのような修飾が添付する特許請求の範囲内に収まることを意図する。
【0068】
本明細書で記述する刊行物および特許出願のすべては、それぞれ個別の刊行物または特許出願が具体的かつ個別に参考として援用されることを示されるかのように同じ程度まで、参考として本明細書で援用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含有する組成物中の生体高分子を単離する方法であって、
(a)前記組成物のpHを低下させることと、
(b)前記組成物に二価カチオンを添加することと、
(c)前記不純物から前記生体高分子を分離することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記(c)の分離することが前記組成物を濾過することによって行われ、前記濾過することが透過流れおよび未透過流れを形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濾過することがタンジェンシャルフローフィルターによって行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生体高分子が実質的に前記透過流れに存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記(c)の分離することが前記組成物を遠心分離にかけることによって行われ、前記遠心分離が上清および沈澱物を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記生体高分子が実質的に前記上清に存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記(a)の組成物の前記pHが少なくとも1pH単位で低下される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記(a)の組成物の前記pHが約3.0乃至約6.5のpH範囲に低下される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記(a)の組成物の前記pHが約3.0乃至約5.0のpH範囲に低下される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記(a)の組成物の前記pHが約4.0乃至約4.7のpH範囲に低下される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記生体高分子がタンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質が可溶性タンパク質である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質が抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が真核細胞物質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記不純物がタンパク質、脂質、核酸、リボ核酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記二価カチオンがCa2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、Ni2+、Be2+、Sr2+、Ba2+、Ra2+、Zn2+、Cd2+、Ag2+、Pd2+、Rh2+、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記二価カチオンがCa2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記二価カチオンを前記組成物に添加することが約1mM乃至約100mMの二価カチオン濃度をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記二価カチオンを前記組成物に添加することが約2mM乃至約50mMの二価カチオン濃度をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記二価カチオンの添加が前記生体高分子の回収を3%を超えて増加させる、請求項1乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記生体高分子の回収が10%を超えて増加する、請求項1乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記(c)の分離することが前記組成物を濾過することによって行われ、前記濾過することが膜貫通圧をもたらし、そして前記膜貫通圧が前記濾過する間、実質的に一定のままである、請求項1乃至4および7乃至21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
(a)前記組成物の前記pHが3.0乃至5.0のpHまで低下され、
(b)前記二価カチオンがCa2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、
(c)前記分離することが前記組成物を濾過することによって行われ、そして
(d)前記生体高分子が抗体である、
請求項1に記載の方法。
【請求項24】
不純物を含有する組成物中の生体高分子を精製する方法であって、
(a)前記組成物の前記pHを低下させることと、
(b)前記組成物に二価カチオンを添加することと、
(c)前記不純物から前記生体高分子を分離することと
を含む、方法。
【請求項25】
生体高分子および不純物を含有する組成物を浄化する方法であって、
(a)前記組成物のpHを低下させることと、
(b)前記組成物に二価カチオンを添加することと、
(c)前記不純物から前記生体高分子を分離することとを
含む、方法。
【請求項26】
前記(c)の分離することが前記組成物を濾過することによって行われ、前記濾過することが透過流れおよび未透過流れを形成する、請求項24乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記生体高分子が実質的に前記透過流れに存在する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記(a)の組成物の前記pHが約3.0乃至約6.5のpH範囲に低下される、請求項24乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記生体高分子がタンパク質である、請求項24乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記タンパク質が抗体である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記不純物がタンパク質、脂質、核酸、リボ核酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項24乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記二価カチオンがCa2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項24乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記二価カチオンを前記組成物に添加することが約1mM乃至約100mMの二価カチオン濃度をもたらす、請求項24乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
不純物を含有する組成物中の生体高分子を単離する方法であって、
(a)前記組成物のpHを低下させることと、
(b)前記組成物に二価カチオンを添加することと、
(c)前記不純物から前記生体高分子を分離することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記(c)の分離することが前記組成物を濾過することによって行われ、前記濾過することが透過流れおよび未透過流れを形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濾過することがタンジェンシャルフローフィルターによって行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生体高分子が実質的に前記透過流れに存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記(c)の分離することが前記組成物を遠心分離にかけることによって行われ、前記遠心分離が上清および沈澱物を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記生体高分子が実質的に前記上清に存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記(a)の組成物の前記pHが少なくとも1pH単位で低下される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記(a)の組成物の前記pHが約3.0乃至約6.5のpH範囲に低下される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記(a)の組成物の前記pHが約3.0乃至約5.0のpH範囲に低下される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記(a)の組成物の前記pHが約4.0乃至約4.7のpH範囲に低下される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記生体高分子がタンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質が可溶性タンパク質である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質が抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が真核細胞物質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記不純物がタンパク質、脂質、核酸、リボ核酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記二価カチオンがCa2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、Ni2+、Be2+、Sr2+、Ba2+、Ra2+、Zn2+、Cd2+、Ag2+、Pd2+、Rh2+、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記二価カチオンがCa2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記二価カチオンを前記組成物に添加することが約1mM乃至約100mMの二価カチオン濃度をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記二価カチオンを前記組成物に添加することが約2mM乃至約50mMの二価カチオン濃度をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記二価カチオンの添加が前記生体高分子の回収を3%を超えて増加させる、請求項1乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記生体高分子の回収が10%を超えて増加する、請求項1乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記(c)の分離することが前記組成物を濾過することによって行われ、前記濾過することが膜貫通圧をもたらし、そして前記膜貫通圧が前記濾過する間、実質的に一定のままである、請求項1乃至4および7乃至21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
(a)前記組成物の前記pHが3.0乃至5.0のpHまで低下され、
(b)前記二価カチオンがCa2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、
(c)前記分離することが前記組成物を濾過することによって行われ、そして
(d)前記生体高分子が抗体である、
請求項1に記載の方法。
【請求項24】
不純物を含有する組成物中の生体高分子を精製する方法であって、
(a)前記組成物の前記pHを低下させることと、
(b)前記組成物に二価カチオンを添加することと、
(c)前記不純物から前記生体高分子を分離することと
を含む、方法。
【請求項25】
生体高分子および不純物を含有する組成物を浄化する方法であって、
(a)前記組成物のpHを低下させることと、
(b)前記組成物に二価カチオンを添加することと、
(c)前記不純物から前記生体高分子を分離することとを
含む、方法。
【請求項26】
前記(c)の分離することが前記組成物を濾過することによって行われ、前記濾過することが透過流れおよび未透過流れを形成する、請求項24乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記生体高分子が実質的に前記透過流れに存在する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記(a)の組成物の前記pHが約3.0乃至約6.5のpH範囲に低下される、請求項24乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記生体高分子がタンパク質である、請求項24乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記タンパク質が抗体である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記不純物がタンパク質、脂質、核酸、リボ核酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項24乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記二価カチオンがCa2+、Mg2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項24乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記二価カチオンを前記組成物に添加することが約1mM乃至約100mMの二価カチオン濃度をもたらす、請求項24乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2010−508352(P2010−508352A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535309(P2009−535309)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/023028
【国際公開番号】WO2008/127305
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(592221528)バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド (224)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/023028
【国際公開番号】WO2008/127305
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(592221528)バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド (224)
【Fターム(参考)】
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