説明

作業機のキャブ昇降装置

【課題】上リンク及び下リンクを含む昇降動用平行リンク機構の全体の支持強度を増大させてキャブの揺れを抑止する。
【解決手段】上部旋回体上に支持塔体22が支持されているとともに、該支持塔体22に昇降動用平行リンク機構及びキャブ昇降用シリンダ21を介してキャブ搭載用の架台23が昇降動可能に支持された作業機のキャブ昇降装置において、昇降動用平行リンク機構20の下リンク29と架台23の回転連結部に、該回転連結部の回転を抑える解除可能な回転制動力を付与する油圧ディスクブレーキ装置41を装着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業機のキャブ昇降装置に関するものであり、特に、平行リンク機構を介してキャブを昇降動可能に設けてなる作業機のキャブ昇降装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建設作業や港湾荷役作業等を行う作業機は、キャブ内のオペレータから作業箇所内部が良く見えるように、必要に応じてキャブを持ち上げて高くできるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4及び図5に、従来の作業機である油圧ショベル10と、該油圧ショベルに装備されたキャブ昇降装置11の一例を示す。同図において、油圧ショベル10は、下部走行体12を備え、該下部走行体12上に旋回機構13を介して上部旋回体14が旋回可能に搭載され、該上部旋回体14の前部一側部にブーム15が上下回動可能に連結されている。また、該ブーム15の先端部には、アーム16が上下回動可能に枢着されている。
【0004】
さらに、前記ア−ム16の先端部にエンドアタッチメント(リフティングマグネット又はバケット)17が揺動可能に取り付けられている。なお、図中の符号18,19は、それぞれ前記ブーム15,前記ア−ム16を駆動するためのシリンダである。
【0005】
また、前記上部旋回体14上には、前記ブーム15の側方に位置してキャブ19が前記キャブ昇降装置11を介して昇降可能に設けられている。
【0006】
前記キャブ昇降装置11は、前記キャブ19を所定の姿勢に保つ昇降動用平行リンク機構20と、該昇降動用平行リンク機構20を駆動して前記キャブ19を昇降駆動するキャブ昇降シリンダ21を備えている。
【0007】
前記昇降動用平行リンク機構20は、前記上部旋回体14上に立設された支持塔体22と、前記キャブ19の下部に一体に設けられ、該キャブ19を下側から支えているL形の架台23と、下端側ピン24,25及び上端側ピン26,27により上下端が回動自在に連結され、各々上下方向に回動される左右1対の上リンク28,28及び左右1対の下リンク29,29と、該上リンク28,28及び下リンク29,29の上下方向における回動を制御するキャブ昇降シリンダ21を具備している。
【0008】
前記キャブ昇降シリンダ21の基端は、前記支持塔体22の下部に一体に取付けられた軸受部(図示せず)に嵌着されたピン31により回動自在に軸支され、前記キャブ昇降シリンダ21のピストンロッド先端は、前記上リンク28,28間の連結部材(図示せず)にピン32で連結されている。
【0009】
このように構成されたキャブ昇降装置11は、前記キャブ昇降シリンダ21を伸縮動作させると、前記昇降動用平行リンク機構20を介して前記キャブ19が前記下端側ピン24,24、25,25を支点として弧を描きながら上下方向及び前後方向に移動する。
【0010】
そして、この昇降動用平行リンク機構20では、前記キャブ昇降シリンダ21の上下両端側の前記ピン31,32及び前記上リンク28の前記下端側ピン24の3点を結ぶことにより三角形が形成され、該三角形の構成部分は全体として高い剛性を有する。したがって、前記キャブ19を支持する前記上リンク28,28の前記上端側ピン26の支持強度が増大するので、前記上端側ピン26による前記キャブ19の支持力は十分確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−106564号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した従来のキャブ昇降装置において、前記昇降動用平行リンク機構20の前記下リンク29には、前記キャブ昇降シリンダ21の上端部が枢着連結されていないので、該下リンク29の前記上端側ピン27の支持強度は増大しない。その結果、該上端側ピン27による前記キャブ19の支持力は十分ではなく、該キャブ19の昇降動作時に前記キャブ2の支持安定性が低下して揺れ易いという問題があった。
【0013】
そこで、上リンク及び下リンクを含む昇降動用平行リンク機構の全体の支持強度を増大させてキャブの揺れを抑止するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、上部旋回体上に支持塔体が支持されているとともに、該支持塔体に昇降動用平行リンク機構及び昇降動用シリンダを介してキャブ搭載用の架台が昇降動可能に支持された作業機のキャブ昇降装置において、前記昇降動用平行リンク機構の下リンクと前記架台の回転連結部に、該回転連結部の回転を抑える制動力を解除可能に付与する油圧ディスクブレーキ装置を装着した作業機のキャブ昇降装置を提供する。
【0015】
この構成によれば、平行四辺形を構成する上下におけるリンクの両端は回転自在に連結される。その回転連結部は、側面視で4箇所であり、そのうち2箇所は固定側である支持塔体(上部旋回体側)につながり、残りの2箇所は昇降するキャブ側の架台に連結される。また、昇降動用シリンダの一端部は支持塔体側で他端部は上リンクに回転自在に接続される。ここで、平行四辺形の構成要素のうち、支持塔体は上部旋回体に固定であり、上リンクは昇降動用シリンダと連結されているため、支持塔体、上リンク、昇降動用シリンダの3要素は三角形を構成して互いに剛性が保たれる。しかしながら、下リンクは両端を回転接続されているだけで、回転を規制する要素が存在していない。このため、従来では、作業時に加わる反力等に抵抗力を持たずに大きなキャブ揺れを発生させていたが、この構成では、最も抵抗力を持たないリンクと架台の回転連結部に装着した、該回転連結部の回転を抑える制動力を解除可能に付与する油圧ディスクブレーキ装置により、必要とする際に、リンクと架台の回転連結部に制動力を付与し、平行四辺形の剛性を高めて揺れを防止できる。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成において、上記油圧ディスクブレーキ装置は、上記架台側に固設したディスクブレーキ板と、上記リンク側に装備され、かつ、油圧力で駆動されて前記ディスクブレーキ板を挟持して前記架台の揺動を制止する油圧ブレーキシリンダ部を備えてなる作業機のキャブ昇降装置を提供する。
【0017】
この構成によれば、架台の揺動制止を必要とする際、ブレーキシリンダ部に油圧力を付与すると、該ブレーキシリンダ部がディスクブレーキ板を挟持し、該ディスクブレーキ板が固設されている前記架台側の揺動を制止できる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明は、上リンクの上端側枢着支点のみならず下リンクの上端側枢着支点の支持強度も増大するので、上リンク及び下リンクによるキャブの支持力を十分確保できる。したがって、キャブの昇降動作時における支持安定性が向上するため、従来装置で問題となっていたキャブの揺れを確実に抑止することができる。
【0019】
請求項2記載の発明は、架台の揺動制止を必要とする際、ブレーキシリンダ部に油圧力を付与することにより、架台側の揺動を簡単に制止することができるので、請求項1記載の発明の効果に加えて、簡単な操作でキャブの揺れを確実に抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例として示すキャブ昇降装置の概略要部側面図。
【図2】図1のA−A線拡大概略断面図。
【図3】同上キャブ昇降装置の油圧ディスクブレーキ装置の要部拡大斜視図。
【図4】従来の油圧ショベルの側面図。
【図5】従来の油圧ショベルにおけるキャブ昇降装置部分を拡大して示す概略斜視図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、上リンク及び下リンクを含む昇降動用平行リンク機構の全体の支持強度を増大させてキャブの揺れを抑止するという目的を達成するため、上部旋回体上に支持塔体が支持されているとともに、該支持塔体に昇降動用平行リンク機構及び昇降動用シリンダを介してキャブ搭載用の架台が昇降動可能に支持された作業機のキャブ昇降装置において、前記昇降動用平行リンク機構のリンクと前記架台の連結部に、該回転連結部の回転を抑える制動力を解除可能に付与する油圧ディスクブレーキを装着したことにより実現した。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の好適な一実施例を図4に示した油圧ショベル10に適用した場合として図1乃至図3を参照し、かつ、図4及び図5に示すキャブ昇降装置11と対応する部材には同じ符号を付して説明する。
【0023】
図1は本発明に係る実施例として示すキャブ昇降装置40と該キャブ昇降装置40が搭載された油圧ショベル10の要部構造を示す側面図であり、図2は図1のA−A線拡大概略断面図である。同図に示すように、油圧ショベル10の上部旋回体14上には、キャブ19がキャブ昇降装置40を介して昇降可能に設けられている。
【0024】
前記キャブ昇降装置40は、前記キャブ19を所定の姿勢に保つ昇降動用平行リンク機構20と、該昇降動用平行リンク機構20を駆動して前記キャブ19を昇降駆動するキャブ昇降シリンダ21を備えている。
【0025】
前記昇降動用平行リンク機構20は、前記上部旋回体14上に立設された支持塔体22と、前記キャブ19の下部に一体に設けられたL形のリンク接続部23と、前記支持塔体22の上部と前記リンク接続部23の後背部との間に常に平行に保たれるように下端側ピン24,25及び上端側ピン26,27によりそれぞれ回動自在に連結されて上下方向に回動される左右1対の上リンク28,28及び左右1対の下リンク29,29と、該上リンク28,28及び下リング29,29の上下方向における回動を駆動制御するキャブ昇降シリンダ21を具備している。
【0026】
前記キャブ昇降シリンダ21の基端は、支持塔体22の下部に一体に取付けられた軸受部(図示せず)に嵌着されたピン31により回動自在に軸支され、キャブ昇降シリンダ21のピストンロッド先端は、上リンク28,28間の連結部材(図示せず)にピン32により連結されている。
【0027】
また、前記下リンク29の上端部と前記架台23の連結部には、油圧ディスクブレーキ装置41が装備されている。該油圧ディスクブレーキ装置41は、それ自体の構造はよく知られた構造である。そして、該キャブ昇降装置40に装備された該油圧ディスクブレーキ装置41は、図2及び図3に示すように、前記架台23側に固設され、該架台23と共に上下方向に一体回転可能に設けられたディスクブレーキ板42と、前記下リンク29の上端部側に固設された油圧ブレーキシリンダ部43等により構成されている。
【0028】
さらに詳述すると、前記ディスクブレーキ装置41のディスクブレーキ板42は、前記架台23に固設されたブラケット44に、前記下リンク29と平行に垂下されてボルト45,45で固定されている。
【0029】
前記油圧ブレーキシリンダ部43は、前記下リンク29に固設されたブラケット47を介して、前記下リンク29側に固定して取り付けられたブレーキアクチュエータ47と、該ブレーキアクチュエータ47を駆動する油圧ブレーキシリンダ48を備えている。
【0030】
前記ブレーキアクチュエータ47は、前記ディスクブレーキ板42を左右両側より挟むようにして配設されている。一方、前記油圧ブレーキシリンダ48は、前記ブレーキアクチュエータ47の左右両側に配設されている。また、該油圧ブレーキシリンダ48には油圧管49が接続されており、該油圧管49を介して該油圧ブレーキシリンダ48に供給される油圧を制御することにより、前記ディスクブレーキ板42に対する該ブレーキアクチュエータ47の挟持・解除動作を行わせることができるようになっている。
【0031】
そして、ここでの油圧ディスクブレーキ装置41は、前記架台23を所定の高さ位置で固定する際、前記油圧ブレーキシリンダ部43の前記油圧ブレーキシリンダ48を介して該ブレーキアクチュエータ47をブレーキ動作させ、前記ディスクブレーキ板42を挟持させると、前記架台23の揺動を制止させて、この状態を油圧が供給されているブレーキ動作中、保持することができる。反対に、前記架台23を昇降移動させる際には、前記ブレーキアクチュエータ47に対するブレーキ動作を解除すると、該架台23が昇降可能となる。
【0032】
なお、この油圧ディスクブレーキ装置41は、油圧式に限らず、回転制動を与えるものであれば電磁式または空圧式の何れであってもよい。また、該ブレーキアクチュエータ47の制動・解除作動とキャブ昇降シリンダ21等の作動を電気制御的にリンクさせておくと、オペレータは該油圧ディスクブレーキ装置41の存在を意識することなく使用可能になる。
【0033】
したがって、上記構成からなるキャブ昇降装置11では、平行リンク機構20が、平行四辺形を構成する上下におけるリンク28,29の両端を回転自在に連結しており、その回転連結部は側面視で4箇所であり、そのうち下端側は固定側である支持塔体22につながり、残りの上端側2箇所はキャブ19を設置された移動する側の架台23に連結した構成になっている。また、キャブ昇降シリンダ21の一端部(下端部)は前記支持塔体22に回転自在に接続され、他端部(上端部)は上リンク28に回転自在に接続されている。ここで、平行四辺形を構成している要素のうち、前記支持塔体22は固定で、前記上リンク28は前記キャブ昇降シリンダ21と連結されている。このため、前記支持塔体22、前記上リンク28、前記キャブ昇降シリンダ21の3要素は三角形を構成して互いに剛性が保たれる。
【0034】
一方、前記下リンク29は両端を回転接続されているだけで、回転を規制する要素が存在していない。しかし、前記下リンク29と前記架台23の回転連結部には、該回転連結部の回転を抑える制動力を解除可能に付与する前記油圧ディスクブレーキ装置41を装着している。そして、前記架台23を固定する際には、前記油圧ディスクブレーキ装置41の作動により、前記下リンク29と前記架台23の回転連結部に制動力を付与して回転を抑えて平行四辺形の剛性を高めるので、前記架台23の揺動を制止することができ、前記キャブ19の支持力が十分確保されることとなる。
【0035】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明したように、本発明は油圧ショベルのキャブ昇降装置に限ることなく、広く一般の作業機にも応用できる。
【符号の説明】
【0037】
10 油圧ショベル
11 キャブ昇降装置
14 上部旋回体
19 キャブ
20 昇降動用平行リンク機構
21 キャブ昇降シリンダ
22 支持塔体
23 架台
28 上リンク
29 下リンク
40 キャブ昇降装置
41 油圧ディスクブレーキ装置
42 ディスクブレーキ板
43 油圧ブレーキシリンダ部
47 ブレーキアクチュエータ
48 油圧ブレーキシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部旋回体上に支持塔体が支持されているとともに、該支持塔体に昇降動用平行リンク機構及び昇降動用シリンダを介してキャブ搭載用の架台が昇降動可能に支持された作業機のキャブ昇降装置において、
前記昇降動用平行リンク機構のリンクと前記架台の回転連結部に、該回転連結部の回転を抑える制動力を解除可能に付与する油圧ディスクブレーキ装置を装着したことを特徴とする作業機のキャブ昇降装置。
【請求項2】
上記油圧ディスクブレーキ装置は、上記架台側に固設したディスクブレーキ板と、上記リンク側に装備され、かつ、油圧力で駆動されて前記ディスクブレーキ板を挟持して前記架台の揺動を制止する油圧ブレーキシリンダ部を備えてなることを特徴とする請求項1記載の作業機のキャブ昇降装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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