説明

供試体のトルク測定に用いるモータ

【課題】設置スペースを広くとる必要がなく、トルクを測定するための構成が簡単な、トルク測定に用いるモータを提供する。
【解決手段】ケーシング1と、前記ケーシング1の内径側に固定されたステータ2と、前記ステータ2の内径側に当該ステータ2に対して回転可能に設けられたロータ3と、前記ロータ3と一体的に回転する駆動軸4とを備え、前記駆動軸4は、供試体が有する回転軸に対して接続可能とされ、前記ケーシング1は、前記駆動軸4の回転により当該ケーシング1に発生する周方向への変位を検出可能な変位検出手段5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を有する供試体のトルク測定に用いるモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、トランスミッション等の自動車用駆動部品の性能や耐久性を評価するために、当該自動車用駆動部品を供試体とし、この供試体が有する回転軸にモータの駆動軸を接続して強制的に回転させる試験を行っている。
【0003】
この試験では、供試体の回転軸に生じるトルクを測定している。このための測定手段として、例えば、本願出願人による特許文献1または特許文献2に記載されたものが挙げられる。
【0004】
特許文献1の「揺動ダイナモメータ」は、モータのケーシングが油圧浮上状態で支持され、ケーシングから径方向に突出してアームが設けられ、このアームと、モータが設置された基礎との間にロードセルが設けられたものである。供試体の回転軸とモータの駆動軸とを連結した状態でモータを駆動させると、ロードセルで反力が検出される。この検出された反力を用いて、供試体の回転軸に生じるトルクを測定できる。
【0005】
また、特許文献2の「軸受ユニット」は、ひずみゲージ等のトルク計が内蔵された軸受ユニットである。この軸受ユニットを、供試体とモータとの間に取り付けた状態でモータを駆動させると、軸受ユニットにせん断ひずみが生じるため、これをトルク計により検出する。この検出されたせん断ひずみを用いて、供試体の回転軸に生じるトルクを測定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−281515号公報
【特許文献2】特開2005−331441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1の「揺動ダイナモメータ」では、モータからアームを突出させなければならないため、測定手段の設置スペースを広くとる必要があるという欠点がある。そして、特許文献2の「軸受ユニット」では、トルク計が内蔵された軸受ユニットと、これを支持するためのカップリングとが必要となるため、軸長が長くなり、前記と同じく、測定手段の設置スペースを広くとる必要があるという欠点がある。また、軸受ユニットが供試体とモータとの間に介在することで、当該軸受ユニットにせん断ひずみを生じさせやすくするために設けられた剛性の弱い部分により、モータの駆動力が伝達される経路(軸)の剛性が低下し、共振が起こりやすくなるという欠点もある。
【0008】
そこで本発明は、小型化により設置スペースを抑制でき、共振が起こり難い、トルク測定に用いるモータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ケーシングと、前記ケーシングの内径側に固定されたステータと、前記ステータの内径側に当該ステータに対して回転可能に設けられたロータと、前記ロータと一体的に回転する駆動軸とを備え、前記駆動軸は、供試体が有する回転軸に対して接続可能とされ、前記ケーシングは、前記駆動軸の回転により当該ケーシングに発生する周方向への変位を検出可能な変位検出手段を備える供試体のトルク測定に用いるモータである。
【0010】
前記構成によると、ケーシングに設けられた変位検出手段でトルク測定が可能である。このため、トルク測定用モータに直接供試体を接続して試験を行うことができる。また、トルク測定用モータの駆動力が伝達される経路(軸)の剛性が低下することがない。
【0011】
そして本発明は、前記ケーシングは、内側ケーシングと、当該内側ケーシングの外径側に設けられた外側ケーシングと、前記各ケーシング間を連結する連結部材とを備え、前記変位検出手段はひずみゲージであり、前記連結部材に前記ひずみゲージが取り付けられたものとすることが好ましい。
【0012】
前記好ましい構成によると、内側ケーシングと外側ケーシングとを連結する連結部材にひずみゲージが取り付けられている。このため、簡単な構成でトルク測定が可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、トルク測定用モータに直接供試体を接続して試験を行うことができるため、小型化により設置スペースを抑制できる。そして、トルク測定用モータの駆動力が伝達される経路(軸)の剛性が低下することがないため、共振を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)は、本発明の一実施形態に係るモータの構造を示す概略断面図であり、(B)は要部の概略断面図である。
【図2】同実施形態に係るモータと供試体とを接続した状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明につき、一実施形態を取り上げて、図面とともに以下説明を行う。
【0016】
本実施形態のモータは、基本的な構造については一般的なモータと同じである。つまり、図1(A)に示すように、このモータMは、ケーシング1と、前記ケーシング1の内径側に固定されたステータ2と、前記ステータ2の内径側に当該ステータ2に対して回転可能に設けられたロータ3と、前記ロータ3と一体で前記ケーシング1から一部が突出した駆動軸4(図2参照)とを備えている。そして、他には、一般的なモータと同じく、冷却ファン、冷却フィン、ベアリング、固定用ブラケット、端子台等を備えている(図示していない)。
【0017】
駆動軸4は、一方側の端部にキー溝、キー、接続フランジ等が設けられたことにより、図2に示すように、供試体Tが有する回転軸T1に対して接続可能とされている。
【0018】
ケーシング1は、内外二重構造とされている点で、一般的なモータとは異なっている。つまり、本実施形態のケーシング1は、図1(A)(B)に示すように、内側ケーシング11と、当該内側ケーシング11の外径側に設けられた外側ケーシング12と、各ケーシング11,12間を連結する連結部材13とを備えている。図1(B)に示すように、内側ケーシング11は、ロータ3が方向Rに回転した場合に、ステータ2に生じる反力Xの影響で周方向に変位する。これに対し、外側ケーシング12は固定された状態であるから、連結部材13に、図1に破線で示したようなひずみ(ねじりひずみ)が発生する。なお、このひずみは、連結部材13に着目すると、せん断ひずみであるとも言える。
【0019】
前記各ケーシング11,12及び連結部材13は、一体に形成されていても良いし、別々に形成されたものが嵌合等により組み立てられて構成されていても良い。また、本実施形態の連結部材13は、駆動軸4の延長方向に沿う方向に延びる形状とされているが、周方向に延びるように形成されていても良い。また、各ケーシング11,12に対して連続的に設けられていても良いし、断続的に設けられていても良い。また、途中に開口部や肉厚の薄い部分(くびれ)が設けられていても良い。
【0020】
また、一般的なモータと同じく、前記各ケーシング11,12及び連結部材13の端面は、端面ケーシングにより覆われている(図示していない)。これにより、ケーシング1は駆動軸4の突出する部分、電気配線が外部に取り出される部分、水抜き穴等を除いて閉鎖されている。このケーシング1によって閉鎖された空間に、ステータ2、ロータ3、駆動軸4の一部等が配置されている。
【0021】
ケーシング1には、前記ステータ2に生じる反力Xの影響により、当該ケーシング1に発生する周方向への変位を検出可能な変位検出手段が設けられている。本実施形態では、連結部材13に変位検出手段としてのひずみゲージ5が取り付けられている。本実施形態のひずみゲージ5は、図1(A)(B)に示すように、連結部材13の端面(駆動軸4の延長方向に対して直交する面)に貼り付けられているが、これに限られず、連結部材13の側面(駆動軸4等の回転方向に対して直交する面)に貼り付けられていても良い。また、このひずみゲージ5は、連結部材13の内部に埋め込まれていても良い。また、本実施形態のひずみゲージ5は、図1(B)に示すように、測定箇所1箇所につき2枚が用いられているが、1枚のみが用いられても良い。また、このひずみゲージ5は、複数設けられた連結部材13の一部に取り付けられていても良いし、全部に取り付けられていても良い。
【0022】
なお、この変位検出手段は、本実施形態のようなひずみゲージ5に限らず、その他種々の変位を検出できる手段を用いることができる。その一例として、磁歪センサ、光センサ、磁気センサが挙げられる。また、この変位検出手段は、本実施形態のひずみゲージ5のようにケーシング1に対して直接取り付けられていても良いし、ケーシング1から空間を隔てた位置で変位を測定するものであっても良い。
【0023】
次に、本実施形態のモータMを用いたトルクの測定方法について述べる。なお、回転軸を有するものであれば、技術分野を問わず、種々のものを供試体Tとすることができる。一例として、電気自動車用の駆動モータ、自動車用のトランスミッション(変速機)、発電機が挙げられる。本実施形態では、トランスミッション等の自動車用駆動部品を供試体Tとしている。
【0024】
図2に示すように、まず、支持台B上に固定された供試体Tの回転軸T1を、モータMの駆動軸4に対し、回転中心が一致するように接続する。この接続に当たっては、必要に応じ、図示のようにカップリングCを介して接続する。ただし、駆動軸4と回転軸T1の端面間距離については、各軸間の回転振れを抑制するために、できるだけ小さくしておくことが望ましい。
【0025】
この状態でモータMを駆動すると、図1(B)に示すように、ステータ2に対してロータ3が方向Rに回転するが、これと同時に反力Xがステータ2に生じる。この反力Xは内側ケーシング11にも及び、連結部材13には、図1に破線で示したようなひずみ(ねじりひずみ)が発生する。
【0026】
この連結部材13に発生したひずみを、連結部材13に取り付けられたひずみゲージ5で検出する。そして、この検出されたひずみを換算することで、トルクを算出することができる。
【0027】
以上、本発明につき一実施形態を取り上げて説明してきたが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0028】
例えば、ケーシング1につき、本実施形態では、内外二重の構造としたが、一重の構造であっても良い。また、連結部材13を設けず、内側ケーシングと外側ケーシングを摺動可能に設けておき、各ケーシング間に発生するすべりを検知しても良い。また、ステータでひずみを検出しても良い。
【0029】
また、変位検出手段からモータ外部への変位データの取り出し手段は、有線でも無線でも良い。
【符号の説明】
【0030】
1 ケーシング
11 内側ケーシング
12 外側ケーシング
13 連結部材
2 ステータ
3 ロータ
4 駆動軸
5 変位検出手段、ひずみゲージ
M モータ
T 供試体
T1 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、前記ケーシングの内径側に固定されたステータと、前記ステータの内径側に当該ステータに対して回転可能に設けられたロータと、前記ロータと一体的に回転する駆動軸とを備え、
前記駆動軸は、供試体が有する回転軸に対して接続可能とされ、
前記ケーシングは、前記駆動軸の回転により当該ケーシングに発生する周方向への変位を検出可能な変位検出手段を備える供試体のトルク測定に用いるモータ。
【請求項2】
前記ケーシングは、内側ケーシングと、当該内側ケーシングの外径側に設けられた外側ケーシングと、前記各ケーシング間を連結する連結部材とを備え、
前記変位検出手段はひずみゲージであり、
前記連結部材に前記ひずみゲージが取り付けられた請求項1に記載の供試体のトルク測定に用いるモータ。

【図1】
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【図2】
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