説明

個体識別装置、個体識別方法、及びプログラム

【課題】 タガントが付与された物品を識別する際に、網点階調によって印刷された物品の絵柄に起因するタガントの分布位置の誤認識を防ぎ、精度良く特徴点抽出を行うことが可能な個体識別装置等を提供する。
【解決手段】 個体識別装置100は、撮影画像の解像度とタガント12の実サイズとに基づいて、撮影画像におけるタガント12の画素サイズを算出し(S11)、S11において算出されたタガント12の画素サイズに基づいて所定のフィルタサイズを決定し(S12)、S12において決定された所定のフィルタサイズに基づいて、撮影画像に平滑化フィルタをかける(S13)。所定のフィルタサイズとしては、タガント12の画素サイズ以下の中で最も大きいフィルタサイズが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の表面に付したタガントに基づいて個体識別する個体識別装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工業製品や商品パッケージ等には製造番号が付与され、製造管理や物流管理に利用されている。製造番号は物品の所定位置に文字或いはバーコード等の符号として印字される。また、証明書等の公的証書や商品券等の有価証券に対し、偽造防止や真正性認証を目的としてシリアルナンバーが印字されている。しかし、製造管理や物流管理を目的として個体識別のための製造番号を付与する場合は、明確に視認或いは機械識別を行うことを目的としているため、明示的に印字されることが多く、特にバーコードや2次元コードの形式で付与される場合は本来の製品等の意匠性を損なうことがあった。また、偽造防止を目的とした場合、文字やバーコード等の印字は容易に偽造・変造される恐れがあり、その効果は不十分であった。
【0003】
また近年では、個体識別の手段として、ICタグを用いて個別IDを付与する方法が提案されている。ICタグは書換え困難かつユニークなIDを各々付与することができ、非接触で読取可能なことから製品等の基材裏面、もしくは内部にICタグを設けることにより個体識別が可能となる。しかし、ICタグは単価が高く普及しにくいという問題があった。
【0004】
これらの問題に対し、クレジットカードや有価証券類の一部にホログラムや回折格子などの光回折構造(以下、単にホログラムともいう。)を形成し、偽造を防止することが知られている。
また、特許文献1のラベルのように、透明プラスチック基材の片面に、少なくとも、光回折構造形成層、粘着剤層、被覆材料が順次形成されたラベルの粘着剤層または光回折構造形成層に微小細粒を混入することによって、真偽判別要素であるホログラムとタガント(追跡用添加物)としての微小細粒を存在させ、偽造防止を図るものや、特許文献2のラベルのように、透明プラスチック基材の片側に、少なくとも、光回折構造層、反射材料層、粘着剤層、被覆材料が順次形成されたラベルのいずれかの層間の一部領域に感温変色材料層を形成するとともに、反射材料層に、光回折構造層より低屈折率の金属材料を形成し、粘着剤層に光学的に検知可能な物質を混入して、偽造防止を図るものが提案されている。そして、上述の微小細粒が、例えば、白色光や紫外線または赤外線を照射することによってある波長範囲で蛍光などの光を放射する特性を有するものを採用した場合は、偽造判定を行う際に微小細粒をルーペ等で拡大し、放射光の特性を確認することで真偽判定を行っていた。
【0005】
更に、特許文献3では、上述のようなホログラムやタガントを用いず、個体そのものの表面の特徴を解析することで、真偽を判定する技術について記載されている。特許文献3には、例えば、個体の表面の特徴量として紙の透明度(紙を形成する繊維質材料の絡み具合等に起因する明暗パターン)をスキャナ等で読み取って、真の個体の表面特徴と判定対象の個体の表面特徴とをパターン比較することや、比較領域を移動させながら相関値を演算することや、相関値の最大値のノーマライズド・スコアを算出し、真偽を判定すること等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−261967号公報
【特許文献2】特開2008−281912号公報
【特許文献3】特許第4103826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されるラベルでは、ホログラムやタガント、或いは感温変色材料等を組み合わせることにより偽造困難としているが、ホログラム、タガント、及び感温変色材料等の存在や層構造まで解析され、模倣された場合には真偽判定が難しくなる恐れがあった。また、特許文献3の手法は、個体表面がランダムな特徴を有する場合に適用可能なものであり、個体表面の特徴が少ないものには適用できなかった。また、真偽判定の精度を向上するためには原本の紙質を特殊なものとしたり、表面に特殊な加工を施したりする必要があるため製造コスト増大につながる恐れがあった。そのため、物品に容易に付与できるが、個々の物品から切り離せない固有の特徴に基づいて個体識別や真偽判定を行えるようにすることが望まれている。
【0008】
特に、精度良く個体識別等を行うためには、タガントに由来する特徴点をより正確に抽出する必要がある。例えば、物品の意匠を構成する絵柄が網点階調によって印刷されている場合、タガントの色相と重複する色相の網点を構成するドット(以下、「網点ドット」という。)が存在する可能性がある。そのため、物品が撮影された画像から色相に基づいてタガントに由来する特徴点を抽出しようとすると、網点ドットに由来する特徴点も抽出してしまい、識別精度が著しく低下してしまう。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、タガントが付与された物品を識別する際に、網点階調によって印刷された物品の絵柄に起因するタガントの分布位置の誤認識を防ぎ、精度良く特徴点抽出を行うことが可能な個体識別装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決するため第1の発明は、基材と前記基材の表面と平行に固着されているタガント分布層とを有し、網点階調によって絵柄が印刷されている物品を個体識別する個体識別装置であって、個体識別の基準となる前記物品である基準物品に付与された前記タガントの分布位置情報を基準特徴点データとして記憶する記憶手段と、識別対象となる前記物品である対象物品の撮影画像に対して、所定のフィルタサイズによって平滑化フィルタをかけることによって、対象物データとする平滑化手段と、前記対象物データに基づいて、前記タガントの分布位置情報を対象物特徴点データとして抽出する対象物特徴点抽出手段と、前記対象物特徴点抽出手段により抽出された対象物特徴点データと、前記基準特徴点データとを比較することにより前記対象物品と前記基準物品とが同一個体であるか否かを判別する判別手段と、を備えることを特徴とする個体識別装置である。
【0011】
第2の発明は、基材と前記基材の表面と平行に固着されているタガント分布層とを有し、網点階調によって絵柄が印刷されている物品を個体識別する個体識別方法であって、個体識別の基準となる前記物品である基準物品に付与された前記タガントの分布位置情報を基準特徴点データとして記憶する記憶ステップと、識別対象となる前記物品である対象物品の撮影画像に対して、所定のフィルタサイズによって平滑化フィルタをかけることによって、対象物データとする平滑化ステップと、前記対象物データに基づいて、前記タガントの分布位置情報を対象物特徴点データとして抽出する対象物特徴点抽出ステップと、前記対象物特徴点抽出ステップにより抽出された対象物特徴点データと、前記基準特徴点データとを比較することにより前記対象物品と前記基準物品とが同一個体であるか否かを判別する判別ステップと、を含むことを特徴とする個体識別方法である。
【0012】
第1の発明の個体識別装置、及び第2の発明の個体識別方法によれば、基材と前記基材の表面と平行に固着されているタガント分布層とを有し、網点階調によって絵柄が印刷されている物品に対して、個体識別の基準となる前記物品である基準物品に付与された前記タガントの分布位置情報を基準特徴点データとして記憶し、識別対象となる前記物品である対象物品の撮影画像に対して、所定のフィルタサイズによって平滑化フィルタをかけることによって、対象物データとし、前記対象物データに基づいて、前記タガントの分布位置情報を対象物特徴点データとして抽出し、抽出された対象物特徴点データと、前記基準特徴点データとを比較することにより前記対象物品と前記基準物品とが同一個体であるか否かを判別する。
【0013】
これにより、タガントが付与された物品を識別する際に、網点階調によって印刷された物品の絵柄に起因するタガントの分布位置の誤認識を防ぎ、精度良く特徴点抽出を行うことができる。
【0014】
第1の発明における前記平滑化手段は、前記撮影画像の解像度と前記タガントの実サイズとに基づいて、前記タガントの画素サイズを算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された前記タガントの画素サイズに基づいて前記所定のフィルタサイズを決定する決定手段と、前記決定手段によって決定された前記所定のフィルタサイズに基づいて、前記撮影画像に平滑化フィルタをかけるフィルタ手段と、を含むことが望ましい。これによって、網点階調によって絵柄が印刷されている物品に対しても、タガントの領域とそれ以外の領域を、色相等によって明確に区別することができる。
【0015】
また、第1の発明における前記決定手段は、前記所定のフィルタサイズを、前記タガントの画素サイズ以下とすることが望ましい。これによって、網点ドットに由来する特徴点を抽出することなく、タガントに由来する特徴点のみを抽出することができる。
【0016】
また、第1の発明における前記対象物特徴点抽出手段は、所定の色相範囲の画素をタガント領域として抽出し、前記タガント領域の重心を算出することによって、前記タガントの分布位置情報を前記対象物特徴点データとして抽出することが望ましい。これによって、タガントの周囲の影をタガント領域として抽出したとしても、影の領域が小さければ、特徴点の抽出結果に大きな影響を与えない。
【0017】
第3の発明は、コンピュータにより読み取り可能な形式で記述されたプログラムであって、基材と前記基材の表面と平行に固着されているタガント分布層とを有し、網点階調によって絵柄が印刷されている物品について、個体識別の基準となる前記物品である基準物品に付与された前記タガントの分布位置情報を基準特徴点データとして記憶する記憶ステップと、識別対象となる前記物品である対象物品の撮影画像に対して、所定のフィルタサイズによって平滑化フィルタをかけることによって、対象物データとする平滑化ステップと、前記対象物データに基づいて、前記タガントの分布位置情報を対象物特徴点データとして抽出する対象物特徴点抽出ステップと、前記対象物特徴点抽出ステップにより抽出された対象物特徴点データと、前記基準特徴点データとを比較することにより前記対象物品と前記基準物品とが同一個体であるか否かを判別する判別ステップと、を含む処理をコンピュータに実行させるためのプログラムプログラムである。
【0018】
第3の発明により、コンピュータを第1の発明の個体識別装置として機能させることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、タガントが付与された物品を識別する際に、網点階調によって印刷された物品の絵柄に起因するタガントの分布位置の誤認識を防ぎ、精度良く特徴点抽出を行うことが可能な個体識別装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用する物品1について説明する図(第1の実施の形態)
【図2】反射性金属層3を有するタガント12A、12Bの構造の例
【図3】誘電率の異なる多層薄膜4を有するタガント12Cの構造の例
【図4】光回折構造体層5を有するタガント12Dの構造の例
【図5】特定照射光に対し所定の反射光を放射する反射層6を有するタガント12Eの構造の例
【図6】個体識別処理の手順を説明するフローチャート
【図7】撮影画像に含まれるタガント12と影9について説明する図
【図8】タガント12の影9について説明する図
【図9】本発明に係る個体識別装置100のハードウエア構成図
【図10】タガント12が付与され、網点階調によって絵柄が印刷された物品1の例
【図11】微細物質分布解析処理の流れを説明するフローチャート
【図12】平滑化処理の流れを説明するフローチャート
【図13】平滑化フィルタの例
【図14】平滑化処理の実行例
【図15】平滑化処理を実行せずに特徴点を抽出した例
【図16】平滑化処理を実行した後に特徴点を抽出した例
【図17】基準物品及び対象物品と、読み取る画像データ(絶対位置での比較の場合)の例
【図18】基準物品及び対象物品と、読み取る画像データ(相対位置での比較の場合)の例
【図19】特徴点データの相対位置情報の算出について説明する図
【図20】基準画像データ及び対象物画像データから抽出された特徴点の例
【図21】間引き処理を説明するフローチャート
【図22】本発明を適用する物品8について説明する図(第2の実施の形態)
【図23】所定の文字、図形、記号、模様もしくはこれらを結合したものが付され、かつ、所定の3次元形状を有するタガント82の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0022】
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明を適用する物品1について説明する。
図1(a)は物品1の上面図、図1(b)は図1(a)のA−A線断面図である。
物品1は、その基材10上にタガント(taggant:追跡用添加物)分布層11を有する。タガント分布層11には、基材10とは異なる反射性を有する微細物質(以下、タガントという)12がランダムに複数配置されている。タガント分布層11のタガント12は、例えば、印刷インクに混入して基材10に印刷を施したり、粘着剤等に混入して塗布したりすることで、物品1の基材10上に配置される。これにより各タガント12はランダムな位置に配置される。
【0023】
なお、図1では、物品1は基材10及びタガント分布層11のみを有するように図示しているが、タガント分布層11の上面を更に透明プラスチック等で被覆し、タガント分布層11を保護するようにしてもよい。また、基材10としては、物品1の機能や性質、デザイン等に応じていかなる材料を利用してもよい。また、タガント分布層11を形成する面は平面に限定されず、曲面であってもよいし、凹凸があってもよい。また、タガント分布層11は、物品の表面の全部に設けられてもよいし、一部としてもよい。
【0024】
次に、図2〜図5を参照して、タガント12について説明する。図2〜図5は、様々な態様のタガント12A〜12Eの断面図である。
タガント12は、ルーペで拡大するとその形状や表面の光学的特徴を視認できる大きさ(数μm〜数百μm程度)の微細な細粒である。
【0025】
本発明では、タガント12として、例えば、金属片や、図2に示すように反射性金属層3を有するもの、図3に示すように誘電率が異なる薄膜を多層にコート(多層薄膜4)したもの、図4に示すように光回折構造体層5を有するもの、図5に示すように、所定の照射光に対して特定の反射特性を有する反射層6を有するもの等を採用することが好適である。
【0026】
なお、図2〜図5のタガント12A,12B,12C,12D,12Eは、説明のために断面形状を円形として示しているが、本発明の第1の実施の形態では、これに限定されるものではなく、タガント12の形状は任意としてよい。例えば、基材120とする材料を粉砕し、ランダムな形状となったものをタガント12の基材120として用いるようにしてもよい。
【0027】
図2のタガント12Aは、タガント12の基材120の表面に反射性金属層3を形成したものである。
【0028】
反射性金属層3を不透明層とする場合は、屈折率が小さい薄膜とすればよく、一般的に使用されるアルミニウムの他に、例えば、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、金、マグネシウム、鉛、錫、カドミウム、ビスマス、チタン、亜鉛、インジウム等の金属、または、その酸化物、窒化物、または、これらの金属の合金等を使用する。
また、反射性金属層3を透明層とする場合は、屈折率が大きい薄膜とすればよく、硫化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化シリコン、硫化アンチモン等を使用する。
【0029】
反射性金属層3の形成は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの薄膜形成法によって行なう。
反射性金属層3の厚みは目的に応じて設定する。例えば、0.005μm〜0.1μmの厚さとすればよい。
【0030】
反射性金属層3はタガント12Aの基材120の表面の全部に付与されてもよいし、一部に付与されてもよい。また、例えば、文字、図形、記号、模様等やこれらの組み合わせからなる図案として、反射性金属層3を付与するようにしてもよい。
【0031】
基材120には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル),ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、セルローストリアセテート、ポリスチレン、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレンを使用すればよい。
【0032】
また、図2(B)に示すタガント12Bのように、反射性金属層3を透明な被覆層31で覆い、保護するようにしてもよい。被覆層31の材料は、ポリエチレン、ワックス、シリコン、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム等が好適である。
【0033】
タガント12A,12Bのように反射性金属層3を有することにより、タガント12の分布が確認しやすく、ルーペ(拡大鏡)による真偽判定が行いやすくなる。また、後述する微細物質分布解析処理(図11)において、特徴点として抽出しやすくなる。
【0034】
図3のタガント12Cは、基材120の表面に誘電率の異なる薄膜を多層に形成したものである。例えば、天然雲母薄片(マイカフレーク)等の基材120に酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物をコートした顔料(パール顔料)や、合成アルミナフレーク、合成シリカフレーク、ホウ珪酸ガラスフレーク、酸化チタン被覆、合成マイカフレーク(酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、フッ素化合物等)等の基材120に、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物をコートした顔料(エフェクト顔料)等がタガント12Cとして使用できる。
多層薄膜層4の厚みは目的に応じて設定する。例えば、0.005μm〜0.1μmの厚さとすればよい。
【0035】
タガント12Cは見る角度によって色が変化するため、ルーペによる真偽判定が行いやすくなる。また、後述する微細物質分布解析処理(図11)において、特徴点として抽出しやすくなるという効果もある。
【0036】
図4のタガント12Dは、基材120の表面に光回折構造体層5を形成したものである。光回折構造体層5とは、ホログラムの微細凹凸が形成された層であるが、光回折構造体層5自体は、ホログラムの微細凹凸の形成が可能な種々の素材を用いて形成できる。例えば、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネートなどの透明な熱可塑性樹脂、或いは、不飽和ポリエステル、メラミン、エポキシ、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン系アクリレート等の透明熱硬化性樹脂等を使用できる。更には、上述の熱可塑性樹脂と上述の熱硬化性樹脂とを混合して使用し、更に、ラジカル重合性不飽和基を有する熱成形性物質、或いは、これらにラジカル重合性不飽和単量体を加え電離放射線硬化性としたものなどを使用してもよい。
【0037】
光回折構造体層5はタガント12Dの全面に付与されてもよいし、一部に付与されてもよい。
また、光回折構造体層5を透明な被覆層(不図示)で覆い、保護するようにしてもよい。
【0038】
光回折構造体5へのホログラムの微細凹凸の形成は、回折格子やホログラムの干渉縞が凹凸の形で記録された原版をプレス型として用い、基材に上述の樹脂を塗布用組成物として調製したものを、グラビアコート法、ロールコート法、バーコート法などの手段で塗布して塗膜を形成し、その上に上述の原版を重ねて加熱ロールなどの適宜手段によって両者を加熱圧着して行なうことができる。また、フォトポリマーを用いる場合は、基材上に、フォトポリマーを同様に塗布した後、上述の原版を重ねてレーザー光を照射することにより複製できる。
光回折構造体層5の厚みは目的に応じて設定する。例えば、0.005μm〜0.1μmの厚さとすればよい。
【0039】
また図4のタガント12Dにおいて、ホログラムの微細凹凸の回折効率を高めるために、更に、反射性金属層を設けてもよい。その反射性金属層は、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、金、ゲルマニウム、アルミニウム、マグネシウム、アンチモン、鉛、錫、カドミウム、ビスマス、セレン、ガリウム、インジウム、ルビジウム等の金属、または、その酸化物、窒化物、または、これらの金属の合金等を使用できる。反射性金属層は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの薄膜形成法によって形成することが好ましいが、メタリック顔料を含有するメタリックインクを用いて印刷することによって形成してもよい。
【0040】
タガント12Dのように光回折構造体層5を有することにより、ルーペによる確認がしやすくなる。また、後述する微細物質分布解析処理において、光学的な読取りが容易となり特徴点として抽出しやすくなる。また、特定波長の光(レーザ光等)を照射してホログラム図案を再生し、ホログラム図案の判定をタガントの分布の判定と合わせて行うことにより、偽造防止効果が高くなる。
【0041】
また、個々のタガント12Dに付与されるホログラム図案は、同一としてもよいし、異なっていてもよい。異なるホログラム図案を付与する場合は、よりセキュリティ効果が高くなる。一方、同一のホログラム図案を付与する場合は、異なるホログラム図案を付与する場合と比べてコストダウンが可能となる。
【0042】
図5のタガント12Eは、所定の照射光に対し、特定波長の光を放出する反射層6を形成したものである。反射層6は、例えば、基材120の表面に蛍光顔料を含む樹脂を塗布するか、印刷インクに蛍光顔料を混入して印刷することにより形成される。
【0043】
蛍光顔料として使用される無機蛍光体に用いられる材料は、例えば、紫外線発光蛍光体または赤外線発光蛍光体等である。紫外線発光蛍光体は紫外線により励起され、それよりも低いエネルギー準位に戻るときに発するスペクトルのピークが青、緑、赤等の波長域にあるもので、例えばCaCl:Eu2+、CaWO、ZnO:ZnSiO:Mn、YS:Eu、ZnS:Ag、YVO:Eu、Y:Eu、GdS:Tb、LaS:Tb、YAl12:Ce等があり、単体又はこれらから数種を選択し混合して使用することができる。その蛍光スペクトルはピークを青、赤、緑の波長域以外に持つものである。また赤外線発光蛍光体は波長λ1の励起光を受けて、波長λ2の可視光を発光する特性を示し、λ1≠λ2かつλ1>λ2なる性質を有するものとして、その組成は例えば、YF:Er+Yb、YOCl:Er+Yb、NaLnF:Er+Yb(Ln=Y,Gd,La)、BaY:Er+Yb、(PbF−GeO):Er+Yb、(PbF−GeO):Tm+Yb等があり、いずれも励起光(λ1)800〜1000nmの赤外線を受けて450nm〜650nmに発光スペクトルの顕のピークを有する可視光線(λ2)を発光するものである。
【0044】
反射層6はタガント12Eの全面に付与されてもよいし、表面の一部に付与されてもよい。また、例えば、文字、図形、絵柄、模様等の図案として、反射層6を付与するようにしてもよい。
また、反射層6を透明な被覆層で覆い、保護するようにしてもよい。
反射層6の厚みは目的に応じて設定する。例えば、0.005μm〜0.1μmの厚さとすればよい。
【0045】
タガント12Eのように特定照射光による反射層6を有することにより、ルーペによる確認がしやすくなる。また、後述する微細物質分布解析処理において、光学的な読取りが容易となり、特徴点として抽出しやすくなる。また、通常の白色光の下では発光しないため、隠匿性が高く、模倣を防止しやすい。
【0046】
次に、物品1の個体識別方法について説明する。
まず、図6に示すように、検査用の所定の照射光を照射する検知器等を用いて、物品1のタガント分布層11に付与されたタガント12の放射光を放射させ、ルーペ等を用いて拡大し、視認することでその特性を判断することにより、大まかに真偽が判定される(ステップS1)。ステップS1で真と判定された物品1について、更に、コンピュータ等の個体識別装置100を用いた微細物質分布解析処理(ステップS2)を施すことにより、真偽が判定される。
【0047】
物品1のタガント分布層11には、タガント12が含まれている。そのため、光源から光を照射して画像を読み取る(撮影する)と、各タガント12に影が生じ、撮影画像にはタガントの影9も映り込むこととなる。図7は、撮影画像の例であり、符号9の領域が影を示している。尚、図7(a)と図7(b)とでは光源位置が異なるため、影9の位置も異なるものとなっている。
【0048】
図8に示すように、タガント12は平らな構造物であり、水平方向の最大長が100μm〜数100μmに対して、厚さ(=垂直方向の長さ)は数μm程度である。そして、タガント12は、基材10の表面に対して平行となるように分布され、透明プラスチックを固着剤として用いることによって、基材10の表面と平行に固着される。つまり、タガント12は、タガント分布層11の中で、基材10の表面と平行に浮いている状態となる。
そして、図8に示すように、タガント12と基材10との間を光が散乱することにより、タガント12の影9が出来る。一般に、物体の色相は、物体から反射する光の波長を持つ色相になるので、タガント12と同じ色相の影9が出来る。
【0049】
ここで、影9とは、「光によって、物体の他にできる、その物体の姿」を意味する。つまり、その色相は黒に限定されない。本発明における「タガントの影」は、前述した通り、タガント12と基材10との間で散乱される光によって生じるものである。
一般に、物体の色相は、物体から反射する光の波長をもつ色相であるので、影9の色相はタガント12の色相と同一となる。ただし、彩度はタガント12よりも影9の方が低いものとなる。例えば、タガント12が青であれば、影9は淡い青となる。
【0050】
物品1に対して、網点階調によって絵柄が印刷されている場合、タガント12の色相や影9の色相に近い色相の網点ドットが存在する可能性がある。そのため、物品1が撮影された画像の色相に基づいてタガント12に由来する特徴点を抽出しようとすると、網点ドットに由来する特徴点も抽出してしまい、識別精度が著しく低下してしまう。
【0051】
ところで、後述するように、個体識別装置は、特徴点抽出処理(図11のステップS102、ステップS106)では、物品1の画像データをHSV変換し、所定の色相範囲の画素をタガント領域として抽出し、タガント領域の重心を算出することによって、タガント12に由来する特徴点を抽出する。従って、タガント12の周囲の影9をタガント領域として抽出したとしても、影9の領域が小さければ、タガント領域の重心の座標はあまり変わらず、特徴点の抽出結果に大きな影響を与えない。
【0052】
一方、網点ドットは、大局的には、画像全体に一定の規則性を持って出現する。従って、網点ドットの色相が、タガント領域を抽出する際の所定の色相範囲に含まれる場合、網点ドットに由来する特徴点を数多く抽出してしまう。そして、タガント12に由来する特徴点の数よりも、網点ドットに由来する特徴点の数の方が多い場合、タガント12が付与されていない偽造品であっても、真の物品と誤判定してしまうことになる。
【0053】
そこで、ステップS2の微細物質分布解析処理では、物品1のタガント分布層11を撮影した画像に対して平滑化処理(図11のステップS101、ステップS105)を行った後に特徴点抽出処理を行うことによって、網点ドットに由来する特徴点が抽出されないようにする。そして、抽出された特徴点群(タガント12の分布位置情報)をその個体の特徴量として照合に利用する。
【0054】
例えば、タガント12を印刷インクに混入して付与した場合は、たとえ同じ機種の印刷装置であっても個々の印刷装置には固有の癖があり、厳密には同じ仕上がり状態を得られない。そのため、印刷装置や、用いるインク、インクの残存量、印刷の設定、更には、印刷時の気温や湿度等の諸条件によって、異なる印刷結果を得る。また、タガントの混入の割合等によってもタガントの分布は異なる。本発明は、予め真の物品のタガント12の分布位置を求め、基準特徴点データとして記憶しておき、比較対象とする物品のタガント12の分布と比較照合することにより個体の一致、不一致(真偽)を判別しようとするものである。
【0055】
次に、微細物質分布解析処理を行う個体識別装置100について説明する。
図9は、個体識別装置100のハードウエア構成を示すブロック図である。
【0056】
図9に示すように、個体識別装置100は、制御部101、記憶部102、入力部103、表示部104、メディア入出力部105、通信I/F部106、周辺機器I/F部107等がバス109を介して接続されて構成される。また、周辺機器I/F部107には画像読取装置108及び光源110が接続されている。
個体識別装置100の制御部101、記憶部102、入力部103、表示部104、メディア入出力部105、通信I/F部106、周辺機器I/F部107及びバス109を含む各装置は、例えばコンピュータ等によって構成される。
【0057】
制御部101は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Accsess Memory)等により構成される。
CPUは、記憶部102、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス108を介して接続された各部を駆動制御する。ROMは、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持する。RAMは、ロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部101が後述する各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0058】
記憶部102は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部101が実行するプログラムや、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティング・システム)等が格納されている。これらのプログラムコードは、制御部101により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて実行される。
【0059】
入力部103は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、タブレット等のポインティング・デバイス、テンキー等の入力装置であり、入力されたデータを制御部101へ出力する。
【0060】
表示部104は、例えば液晶パネル、CRTモニタ等のディスプレイ装置と、ディスプレイ装置と連携して表示処理を実行するための論理回路(ビデオアダプタ等)で構成され、制御部101の制御により入力された表示情報をディスプレイ装置上に表示させる。
なお、入力部103と表示部104が一体的に構成されたタッチパネル式の入出力部としてもよい。
【0061】
メディア入出力部105は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、PDドライブ、CDドライブ、DVDドライブ、MOドライブ等のメディア入出力装置であり、データの入出力を行う。
通信I/F106は、通信制御装置、通信ポート等を有し、ネットワークとの通信を媒介する通信インタフェースであり、通信制御を行う。
【0062】
周辺機器I/F(インタフェース)107は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F107を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F107は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
【0063】
画像読取装置108(撮影装置)は、スキャナ、CCDカメラ等であり、画像を光学的に読取り、画像データとして取得する装置である。画像読取装置108は、周辺機器I/F107を介して個体識別装置100に接続される。或いは、画像読取装置108は、通信I/F106を介して個体識別装置100と通信接続される構成としてもよい。画像読取装置108は読み取った画像データを制御部101へ出力する。制御部101は取得した画像データをRAMまたは記憶部102の所定のメモリ領域に記憶する。
光源110は、撮影対象とする物品1を撮影する際に、物品1に対して所定の方向から光を照射する。
バス109は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0064】
次に、微細物質分布解析処理の流れを説明する。
図10は、タガント12が付与され、網点階調によって絵柄が印刷された物品1の例である。図11は、微細物質分布解析処理の流れを説明するフローチャートである。図12は、平滑化処理について説明するフローチャートである。図13は、平滑化フィルタの例である。図14は、平滑化処理の実行例である。図15は、平滑化処理を実行せずに特徴点を抽出した例である。図16は、平滑化処理を実行した後に特徴点を抽出した例である。図17、図18は基準物品及び対象物品と、読み取る画像データの例である。図19は、特徴点の相対位置について説明する図である。図20は、基準画像データ及び対象物画像データから抽出された特徴点の例である。
【0065】
尚、図10、図14〜図16の元画像は、全てカラー画像である。特許図面の制約の為、カラー画像をグレースケール画像に変換している。図10、図14〜図16に示される物品1は、カード形状の媒体であり、網点階調によってカラーの絵柄が印刷されている。また、図10、図14〜図16に示される物品1には、様々な色相を有するタガント12が付されている。
【0066】
以下に説明する微細物質分布解析処理では、物品1には網点階調によって絵柄が印刷されているものとする。図10(a)は、タガントが付与された物品1の一部を画像読取装置108によって撮影した画像である。図10(b)は、図10(a)の矩形領域X1(黒の太線にて図示)の拡大画像である。
【0067】
図10(b)を参照すると分かるように、図10に示す物品1の絵柄は、網点階調によって印刷されたものである。また、図1(b)の矩形領域X2(黒の太線にて図示)には、タガント12が2個存在する。
【0068】
図11のフローチャートに示すように、個体識別装置100の制御部101は、まず事前処理(ステップS100〜ステップS103)を行う。事前処理では、画像読取装置108を用いて基準物品(真の物品)に付与されたタガント分布層11を光学的に読み取る(ステップS100)。読み取り対象とする部位は、タガント分布層11の全部としてもよいし、一部としてもよい。
【0069】
次に、制御部101は、読み取った画像(以下、「撮影画像」という。)に対して平滑化処理を行う(ステップS101)。
平滑化処理を行うことにより、後述する特徴点の抽出をより精密に行うことが可能となり、個体識別の精度が向上する。
【0070】
ここで、ステップS101の平滑化処理について説明する。
図12のフローチャートに示すように、制御部101は、撮影画像の解像度とタガント12の実サイズとに基づいて、撮影画像におけるタガント12の画素サイズを算出する(ステップS11)。
【0071】
図7に示すように、タガント12の平らな面は、円形、ハート形、多角形等の様々な形状を有する。そこで、本発明では、タガント12の実サイズは、垂直方向から見たときのタガント12の外接正方形の1辺の長さとする。また、撮影画像におけるタガント12の画素サイズとは、撮影画像において、タガント12の外接正方形の1辺の長さに相当する画素数である。
【0072】
ステップS11における具体例を説明する。例えば、画像読取装置108の撮影解像度を「1200dpi」とする。この場合、1ドットの直径は、25.4mm÷1200×10≒21.2μmとなる。また、例えば、タガント12の実サイズ(=外接正方形の1辺の長さ)を、150μmとする。この場合、タガント12の画素サイズは、150÷21.2≒7.08画素となる。
【0073】
次に、制御部101は、ステップS11において算出されたタガント12の画素サイズに基づいて所定のフィルタサイズを決定する(ステップS12)。そして、制御部101は、ステップS12において決定された所定のフィルタサイズに基づいて、撮影画像に平滑化フィルタをかける(ステップS13)。
【0074】
平滑化フィルタは、図13に示すように、例えば、ガウシアンフィルタである。図13(a)には、フィルタサイズが「3」(3×3)のガウシアンフィルタが図示されている。また、図13(b)には、フィルタサイズが「5」(5×5)のガウシアンフィルタが図示されている。いずれも、斜線部が着目画素である。ガウシアンフィルタは、フィルタサイズが「3」や「5」だけでなく、「7」、「9」、・・・というように、奇数のフィルタサイズを定義することができる。
【0075】
尚、平滑化フィルタは、ガウシアンフィルタに限定されない。適用可能な平均化フィルタとしては、例えば、平均化フィルタ、加重平均化フィルタ(ガウシアンフィルタの一般化)、メディアンフィルタなどが考えられる。いずれのフィルタであっても、奇数のフィルタサイズを定義することができる。
【0076】
例えば、所定のフィルタサイズが、タガント12の画素サイズよりも大きいフィルタサイズとすると、タガント12自体の色相が平滑化されてしまい(ぼかされてしまい)、後述する特徴点抽出処理において、タガント12に由来する特徴点が抽出できなくなってしまう。一方、所定のフィルタサイズがあまりに小さすぎると、網点ドットの色相を十分に平滑化できず(ぼかすことができず)、後述する特徴点抽出処理において、網点ドットに由来する特徴点も抽出してしまう。
【0077】
そこで、所定のフィルタサイズとしては、タガント12の画素サイズ以下の中で最も大きいフィルタサイズが望ましい。例えば、前述の具体例であれば、タガント12の画素サイズが「7.08画素」であることから、7.08以下のフィルタサイズ、つまり、フィルタサイズ=3、5、7の中で、最も大きいフィルタサイズである「7」とする。これによって、後述する特徴点抽出処理において、網点ドットに由来する特徴点を抽出することなく、タガント12に由来する特徴点のみを抽出することができる。
【0078】
図14(a)は、図10(b)の矩形領域X2(黒の太線にて図示)の拡大画像である。楕円領域Y1、Y2(黒の太線にて図示)には、それぞれタガント12が1つずつ存在する。グレースケール変換をしている為に確認出来ないが、楕円領域Y1に存在するタガント12の色相は、赤に近い色相である。また、楕円領域Y2に存在するタガント12の色相は、緑に近い色相である。一方、物品1の絵柄を構成する各網点は、赤、青、白、灰色の4種類の網点ドットによって構成されている。尚、物品1の絵柄は、全体としては、青と灰色の領域が多くなっている。
【0079】
図14(a)に示す画像データに対して、例えば、赤に近い色相のタガント12が抽出されるように、所定の色相範囲の画素をタガント領域として抽出する場合、赤の網点ドットもタガント領域として抽出されてしまう。
【0080】
図14(b)は、図14(a)に対してステップS13の処理を行った結果を示している。グレースケール変換をしている為に確認出来ないが、楕円領域Y3内は、ほとんどの画素が赤に近い色相となっている。また、楕円領域Y4内は、ほとんどの画素が緑に近い色相となっている。一方、それ以外の領域は、ほとんどの画素が、青や灰色に近い色相となっている。このように、ステップS13の処理を行うことによって、網点階調によって絵柄が印刷されている物品1に対しても、タガント12の領域とそれ以外の領域を、色相によって明確に区別することができる。
【0081】
図12の平滑化処理が終了すると、制御部101は、平滑化処理後の画像データを基準画像データとしてRAMに保持し、図11の微細物質分布解析処理のステップS102へ移行する。
【0082】
制御部101は、基準画像データに含まれるタガント12の分布位置を特徴点として抽出する(ステップS102)。
【0083】
ここで、ステップS102における特徴点抽出処理について説明する。制御部101は、基準画像データ(平滑化処理後の画像データ)に対してHSV変換を行い、色相データを算出する。そして、制御部101は、色相データに対して所定の色相範囲の画素をタガント領域として抽出し、タガント領域の重心を算出することによって、タガント12の分布位置情報を基準特徴点データとして抽出する。
【0084】
図15(a)は、図10(a)に示す画像と同一である。また、図15(b)は、図15(a)に対して特徴点抽出処理を行った結果である。つまり、図15(b)は、平滑化処理を行っていない画像データに対して特徴点抽出処理を行った結果である。図15(b)では、カラー画像をグレースケール変換しているので、高輝度(図面上は白又は灰色)の画素が、タガント領域として抽出される画素に相当し、低輝度(図面上は黒)の画素が、タガント領域として抽出されない画素に相当する。図15(b)に示す結果では、明らかに、タガント12が存在しない箇所もタガント領域として抽出される。つまり、網点階調によって印刷された物品1の絵柄に起因するタガント12の分布位置の誤認識が発生する。
【0085】
一方、図16(a)は、図10(a)に示す画像に対して、ステップS101の平滑化処理を行った結果である。また、図16(b)は、図16(a)に対して特徴点抽出処理を行った結果である。つまり、図16(b)は、平滑化処理を行った画像データに対して特徴点抽出処理を行った結果である。図16(b)では、カラー画像をグレースケール変換しているので、高輝度(図面上は白又は灰色)の画素が、タガント領域として抽出される画素に相当し、低輝度(図面上は黒)の画素が、タガント領域として抽出されない画素に相当する。図16(b)に示す結果では、明らかに、タガント12が存在しない箇所はタガント領域として抽出されず、タガント12が存在する箇所のみがタガント領域として抽出される。つまり、網点階調によって印刷された物品1の絵柄に起因するタガント12の分布位置の誤認識は発生しない。
【0086】
上述の特徴点抽出処理によりタガント12の分布位置を特徴点として抽出し、抽出した特徴点の位置情報を求めて、基準特徴点データとしてRAMまたは記憶部102に記憶する(ステップS103)。
ここで、特徴点の位置情報は、絶対位置情報でもよいし、相対位置情報でもよい。
【0087】
絶対位置情報を採用する場合は、図17に示すように、画像データの読取範囲は、基準物品と後に読み取る対象物品とで同じ位置、同じ向き、同じ範囲(同じ形状、同じ面積)とする必要がある。そのため、物品1に読取位置を示すマーカ等を予め付与しておくことが望ましい。
また、絶対位置情報は、読み取った画像データを所定の画素数で正規化し、正規化後画像データの、例えば中心点を原点として各特徴点の2次元絶対位置座標(X,Y)を求めればよい。
【0088】
また、相対位置情報を採用する場合は、画像データの読取範囲は、図18(a)、図18(b)に示すように、基準物品1Aと後に読み取る対象物品1Bとで同じとする必要がない。
相対位置情報とは、図19に示すように、ある特徴点とその特徴点の周囲の所定数の特徴点との各距離(相対距離)の集合データである。この相対距離の集合データを読取範囲内の各特徴点について繰り返し算出する。
【0089】
ステップS100〜ステップS103の処理により基準物品から読み取った画像データから基準特徴点データを取得すると、次に、制御部101は、本処理(ステップS104〜ステップS110)へ移行する。
【0090】
本処理において、個体識別装置100は、対象物品に付与されたタガント分布層11を光学的に読み取る(ステップS104)。
基準特徴点データ算出時(ステップS102)に特徴点の絶対位置情報を求めた場合は、ステップS104の対象物品の読取りは、基準物品の読取りと同じ画像読取装置108を用い、同じ条件で読み取る。また、図17に示すように、読み取りの向き、位置、範囲も、基準物品の読取りと同一とする。制御部101は、読み取った画像データを対象物画像データとしてRAMに保持する。
【0091】
一方、基準特徴点データ算出時(ステップS103)に特徴点の相対位置情報を求めた場合は、ステップS104の対象物品の読取りは、基準物品の読取りと同じ画像読取装置108を用い、同じ条件で読み取るが、読み取りの向き、位置、範囲は、図18(a)、(b)に示すように、基準物品の読取りの向き、位置、範囲と異なっていてもよい。制御部101は、読み取った画像データを対象物画像データとしてRAMに保持する。
【0092】
次に、制御部101は、対象物品から読み取った画像(以下、撮影画像という)に対して平滑化処理を行う(ステップS105)。ステップS105の平滑化処理は、ステップS101で行った平滑化処理と同一である。つまり、制御部101は、撮影画像の解像度とタガント12の実サイズとに基づいて、撮影画像におけるタガント12の画素サイズを算出する(ステップS11)。次に、制御部101は、ステップS11において算出されたタガント12の画素サイズに基づいて所定のフィルタサイズを決定する(ステップS12)。そして、制御部101は、ステップS12において決定された所定のフィルタサイズに基づいて、撮影画像に平滑化フィルタをかける(ステップS13)。
【0093】
次に、制御部101は、平滑化処理後の対象物画像データからタガント12の分布位置を対象物特徴点データとして抽出する特徴点抽出処理を行う(ステップS106)。ここで、対象物品に対して行う特徴点抽出処理は、基準物品に対して行った特徴点抽出処理と同一である。すなわち、制御部101は、対象物画像データ(平滑化処理後の画像データ)に対してHSV変換を行い、色相データを算出する。そして、制御部101は、色相データに対して所定の色相範囲の画素をタガント領域として抽出し、タガント領域の重心を算出することによって、タガント12の分布位置情報を対象物特徴点データとして抽出する。
【0094】
制御部101は、抽出した特徴点の位置情報を算出し、対象物特徴点データとしてRAMに記憶する。
基準特徴点データとして絶対位置情報を算出している場合は、対象物特徴点データとして絶対位置情報を求める。
【0095】
一方、基準特徴点データとして相対位置情報を算出している場合は、図18(c)のように、対象物特徴点データの読取範囲Bから、まず基準特徴点データと同一形状、同一面積となる比較領域19−1を切出し、この比較領域19−1についての対象物特徴点データとして各特徴点の相対位置情報(相対距離の集合データ)を求める。次に、切出し位置を例えばx方向に1画素ずらして別の比較領域19−2を切出し、この比較領域19−2についての対象物特徴点データとして各特徴点の相対位置情報(相対距離の集合データ)を求める。これを繰り返すことにより、各比較領域19−1,19−2,・・・,19−Nについて、それぞれ対象物特徴点データを求める。
【0096】
次に、制御部101は、RAMまたは記憶部102に記憶されている基準特徴点データと、ステップS106で求めた対象物特徴点データとを照合し、一致するか否かを判断する(ステップS107)。
【0097】
基準特徴点データと対象物特徴点データとの照合は、例えば、正規化相互相関(NCC;Normalized Cross−Correlation、またはZNCC;Zero−mean Normalized Cross−Correlation)等を求めることにより行える。具体的には、以下の式(3)の類似度RNCC、式(4)の類似度RZNCC等を相関値として求めればよい。
【0098】
【数1】

【0099】
【数2】

【0100】
ここで、T(i,j)は、基準画像の輝度値の値、I(i,j)は、識別対象とする画像の輝度値の値であり、座標の(i,j)は基準画像の読取範囲Aをm画素×n画素としたとき、左上(もしくは左下)座標は(0,0)、右下(もしくは右上)座標は(m−1,n−1)である。Tバー、Iバーはそれぞれ基準画像の平均輝度値、識別対象とする画像の平均輝度値である。
【0101】
全ての比較領域について求めた相関値のうち、最大の値が所定閾値以上(相関値が類似度の場合)であれば、対象物品は真と判定する。一方、相関値の最大値が所定閾値を下回る場合は、基準物品と対象物品とが異なる個体(偽)であると判定する(相関値が類似度の場合)。
【0102】
なお、照合の「一致」とは、厳密な一致に限定する必要はなく、所定の許容範囲内にあるものも含むものとする。また、その許容範囲は真偽判定に必要な精度に応じて、任意に設定できるようにしてもよい。
【0103】
制御部101は、照合結果が「一致」であれば(ステップS108;Yes)、真と判定し、その結果を例えば表示部104に表示したり、所定の結果送信先へ送信したり、或いは所定のリストに登録する等の出力処理を行う(ステップS109)。また、照合結果が「不一致」であれば(ステップS108;No)、偽と判定し、その結果を例えば表示部104に表示したり、所定の結果送信先へ送信したり、或いは所定のリストに登録する等の出力処理を行う(ステップS110)。
その後、次の対象物品があれば、ステップS104〜ステップS110の本処理を繰り返し行い、結果を出力して、微細物質分布解析処理を終了する。
【0104】
個体識別処理の具体例を図17及び図20を参照して説明する。
試料No.1は、基準物品から読み取り、平滑化処理を行った画像データ15とする。試料No.1Rは、試料No.1と同じ基準物品を同じ条件で再読取し、平滑化処理を行った画像データ16とする。また、試料No.2,No.3は、基準物品(試料No.1)と異なる条件でタガント分布層11が形成された物品から読み取り、平滑化処理を行った画像データ17,18とする。
【0105】
図19には、試料No.1から抽出した基準特徴点データを示す画像25、試料No.1Rから抽出した対象物特徴点データを示す画像26、試料No.2から抽出した対象物特徴点データを示す画像27、試料No.3から抽出した対象物特徴点データを示す画像28が示されている。
【0106】
このような例に対して、個体識別装置100が、図11に示す微細物質分布解析処理を行うと、基準物品を再読取した試料No.1Rが「一致」と判別し、基準物品と異なる条件でタガント分布層11が形成された対象物品No.2、No.3が「不一致」と判別する。
【0107】
相対位置情報を用いる場合、まず画像読取装置108を用いて基準物品(真の物品)に付与されたタガント分布層11を光学的に読み取る。読み取り対象とする範囲(読取範囲A)は、タガント分布層11の一部とする。制御部101は、画像読取装置108によって読み取った画像データに対し、特徴点を抽出し、抽出した各特徴点について図19に示すように、まず任意の特徴点を基準点に設定する。そして、その基準点に隣接するt個の隣接点P1,P2,・・・,Ptを選択し、基準点から各隣接点までの各距離を算出する。次に、基準点を変更し、その基準点に隣接するt個の隣接点P1〜Ptを新たに選択し、基準点から各隣接点までの各距離を算出する。これを全ての特徴点について繰り返し、各特徴点と隣接するt個の特徴点との相対距離の集合データを求める。これを基準特徴点データとして記憶部102に記憶する。
【0108】
次に、対象物品に付与されたタガント分布層11を光学的に読取る。ここで、対象物品の読取範囲Bは、図18(b)に示すように、基準物品の読取範囲Aより広い範囲とする。また読取範囲Bに読取範囲Aの少なくとも一部を含むものとする。
【0109】
次に、制御部101は、図18(c)に示すように読取範囲B内の任意の点(例えば、読取範囲Bの左上)を切出し位置に設定し、基準画像データの読取範囲Aと同じ形状、同じ面積の範囲を比較領域19−1として切り出す。具体的には、例えば、「512画素×512画素」の読取範囲Bから「64画素×64画素」(実画像に対して1/8の大きさ)の比較領域を切出す。1画素の大きさは、スキャナの読取り精度に依存する。
【0110】
なお、比較領域(すなわち、基準画像の読取範囲A)をどの程度の大きさに設定するかは、識別精度と計算速度とのトレードオフによって決まる。つまり、比較領域の大きさを大きくする(画素数を増やす)と、識別精度は上がるが計算速度は遅くなる。一方、比較領域の大きさを小さくする(画素数を減らす)と、精度は下がるが計算速度は速くなる。
【0111】
また、比較領域の形状(すなわち、読取範囲Aの形状)は、正方形に限らず、長方形等でもよい。
【0112】
制御部101は、切出した比較領域19−1について、各特徴点の相対距離の集合データを求める。そして、切出し位置を移動しながら別の比較領域19−2,19−3,・・・,19−Nを切出し、各比較領域について各特徴点の相対距離の集合データ(対象物特徴点データ)を求める。
【0113】
そして、基準特徴点データと対象物特徴点データとを照合する際は、各比較領域の対象物特徴点データを基準特徴点データと比較し、一致する(許容範囲内のものも含む)対象物特徴点データ(相対距離の集合データ)があれば、同一と判別する。
【0114】
なお、読取り角度が異なる画像間の比較については国際公開WO2006/092957号等に詳細な手法が記載されている。本実施の形態の個体識別処理において、この文献に開示される手法(特徴点の近傍のn個の点を選択し、これらの相対的な位置情報として例えば、各点の複比の組み合わせを求め、特徴量として照合に利用する方法)を利用して、画像間の比較を行うようにしてもよい。
【0115】
なお、上述の実施の形態において、画像処理の結果、抽出される特徴点の点数が多い場合は、図11のステップS102及びステップS106の特徴点抽出処理において、図21に示す間引き処理を適用してもよい。
【0116】
制御部101は、まず、読み取った画像データ(基準画像データ及び対象物画像データ)を圧縮(一定間隔でサンプリング)する(ステップS201)。次に、元の画素数に戻し、間引き画像を作成する(ステップS202)。その後、制御部101は間引き画像に上述の(A)、(B)等の画像処理を施して特徴点を抽出する(ステップS203)。
【0117】
このように圧縮画像を用いることにより、特徴点を間引くことができ、照合に適した数の特徴点を抽出できる。その結果、照合の精度を向上させることが可能となり、また演算を高速化できる。
【0118】
以上説明したように、第1の実施の形態の個体識別装置100によれば、基準物品に付与されたタガント分布層11を光学的に読み取った画像に対して平滑化処理を行い、基準画像データに対して所定の画像処理を施して特徴点(タガント12の位置)を抽出し、基準特徴点データとして記憶部102に記憶しておく。また識別対象とする対象物品に付与されたタガント分布層11を基準画像データの読み取りと同様の手法で読み取り、平滑化処理を行った対象画像データに対して同一の画像処理を施し、対象物特徴点データを抽出する。そして抽出された対象物特徴点データと、記憶部102に記憶されている基準特徴点データとを比較照合することにより対象物品と基準物品とが同一個体であるか否かを判別し、その結果を出力する。
【0119】
これにより、タガント12が付与された物品1を識別する際に、網点階調によって印刷された物品1の絵柄に起因するタガント12の分布位置の誤認識を防ぎ、精度良く特徴点抽出を行うことができる。
【0120】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
第2の実施の形態では、所定の形状を人工的に付与したタガント82が基材80の表面に付与された物品8について、本発明に係る個体識別方法を適用する例を説明する。
【0121】
図22(a)は物品8の上面図、図22(b)は図22(a)のA−A線断面図、図22(c)はタガント分布層81のルーペによる拡大図である。
図22に示すように、物品8は、その基材80上にタガント分布層81を有する。タガント分布層81には、基材80とは異なる反射性を有するタガント82がランダムに複数配置されている。タガント分布層81のタガント82は、例えば、印刷インクに混入して基材80に印刷を施したり、粘着剤等に混入して塗布したりすることで、物品8の基材80上に配置される。これにより各タガント82はランダムな位置に配置される。
【0122】
なお、図22では、物品8は基材80及びタガント分布層81のみを有するように図示しているが、タガント分布層81の上面を更に透明プラスチック等で被覆してもよい。また、基材80としては、物品8の機能や性質、デザイン等に応じていかなる材料を利用してもよい。また、タガント分布層81を形成する物品8の表面は平面に限定されず、曲面であってもよい。また、タガント分布層81は、物品の表面の全部に設けられてもよいし、一部としてもよい。
【0123】
タガント82は、ルーペで拡大するとその形状や表面の光学的特徴を視認できる大きさ(数μm〜数百μm程度)の微細な細粒である。
【0124】
第2の実施の形態におけるタガント82は、所定の文字、図形、記号、模様もしくはこれらを結合したもの(以下、図案という)が付され、かつ、所定の3次元形状を有するものを採用する。すなわち、埃や塵等と識別可能なものとするために、人為的に所定の図案が付与される。また、その形状も所定の形状となるように作成される。
【0125】
また、タガント分布層81に分布する各タガント82の形状は、すべて同一のものとしてもよいし、異なるものとしてもよい。
例えば、図22(c)に示す例では、表面形状が円形、三角形、四角形、十字型となるタガント82が混在する。このように、異なる形状のタガント82を混ぜ合わせ、タガント分布層81にランダムに配置するようにしてもよい。
異なる形状のタガント82を分布させる場合は、後述する個体識別処理による個体識別性が向上する。一方、同一形状のタガント82を分布させる場合は、異なる形状のタガント82を付与する場合と比べて低コストで実現できる。
【0126】
また、タガント82の図案は、タガント82の表面から視認できるように付される。例えば、タガント82の表面に付与されてもよいし、更にその上面を透明性のある材料で被覆するようにしてもよい。
【0127】
図23は、タガント82の一例であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は図23(b)のA−A線断面図である
図23では、タガント82の形状を六角柱とし、一部に「D」の文字(図案7)が付与されている。
【0128】
また、タガント82を光学反射性のある材料によって形成するか、表面に光学反射性のある反射材料層71を設けるようにしてもよい。
【0129】
すなわち、図23(c)に示すように、基材73の表面に図案形成層72を設け、更にその上面に反射材料層71を形成するようにしてもよい。
【0130】
図案形成層72は、印刷、刻印等により図案7が付与される。図案7は、基材73と異なる色の染料等を用いて形成される。
タガント82の基材73には、第1の実施の形態のタガント12と同様に、金属や樹脂等を用いる。
【0131】
反射材料層71は、物品8の基材81及び図案72の染料75とは異なる反射性を有する材料を用いて形成される。例えば、第1の実施の形態のタガント12と同様に、反射性金属層3を有するもの(図2)、誘電率が異なる薄膜を多層にコート(多層薄膜4)したもの(図3)、光回折構造体層5を有するもの(図4)、所定の照射光に対して特定の反射特性を有する反射層6を有するもの(図5)等を採用することが好適である。
【0132】
物品8の個体識別の方法は、第1の実施の形態と同様である。
第2の実施の形態では、タガント分布層81の各タガント82が図案及び所定形状を有するため、ルーペによる視認の段階(ステップS1)で真偽の判定精度が向上する。
更に、ステップS2の微細物質分布解析処理を行うことで、ランダムに配置されているタガント82の分布位置情報を基準特徴点データとして記憶しておき、これに基づいて対象とする物品の真偽を正確に判定することが可能となる。
【0133】
なお、本発明を適用する物品やタガントの形状、性質、形成方法、付与する図案等は一例であり、上述の実施形態に記載されるものに限定されない。その他、当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0134】
100・・・個体識別装置
101・・・制御部
102・・・記憶部
108・・・画像読取装置
1・・・・・基準物品
11・・・・タガント分布層
12・・・・タガント(微細物質)
3・・・・・反射性金属層
4・・・・・被覆層
5・・・・・光回折構造体層
6・・・・・所定の照射光による反射層
7・・・・・図案(文字、図形、記号、模様、もしくはこれらの組み合わせ)
72・・・・図案形成層
71・・・・反射材料層
8・・・・・物品
81・・・・タガント分布層
82・・・・タガント
9・・・・・タガントの影
15・・・・基準画像データ
16,17,18,19・・・・・・・・対象物画像データ
19−1,19−2,…,19−N・・・比較領域
25・・・・・・・・・・・・・・・・・基準特徴点データ
26,27,28・・・・・・・・・・・対象物特徴点データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と前記基材の表面と平行に固着されているタガント分布層とを有し、網点階調によって絵柄が印刷されている物品を個体識別する個体識別装置であって、
個体識別の基準となる前記物品である基準物品に付与された前記タガントの分布位置情報を基準特徴点データとして記憶する記憶手段と、
識別対象となる前記物品である対象物品の撮影画像に対して、所定のフィルタサイズによって平滑化フィルタをかけることによって、対象物データとする平滑化手段と、
前記対象物データに基づいて、前記タガントの分布位置情報を対象物特徴点データとして抽出する対象物特徴点抽出手段と、
前記対象物特徴点抽出手段により抽出された対象物特徴点データと、前記基準特徴点データとを比較することにより前記対象物品と前記基準物品とが同一個体であるか否かを判別する判別手段と、
を備えることを特徴とする個体識別装置。
【請求項2】
前記平滑化手段は、
前記撮影画像の解像度と前記タガントの実サイズとに基づいて、前記タガントの画素サイズを算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された前記タガントの画素サイズに基づいて前記所定のフィルタサイズを決定する決定手段と、
前記決定手段によって決定された前記所定のフィルタサイズに基づいて、前記撮影画像に平滑化フィルタをかけるフィルタ手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の個体識別装置。
【請求項3】
前記決定手段は、前記所定のフィルタサイズを、前記タガントの画素サイズ以下とすることを特徴とする請求項2に記載の個体識別装置。
【請求項4】
前記対象物特徴点抽出手段は、所定の色相範囲の画素をタガント領域として抽出し、前記タガント領域の重心を算出することによって、前記タガントの分布位置情報を前記対象物特徴点データとして抽出することを特徴とする請求項3に記載の個体識別装置。
【請求項5】
基材と前記基材の表面と平行に固着されているタガント分布層とを有し、網点階調によって絵柄が印刷されている物品を個体識別する個体識別方法であって、
個体識別の基準となる前記物品である基準物品に付与された前記タガントの分布位置情報を基準特徴点データとして記憶する記憶ステップと、
識別対象となる前記物品である対象物品の撮影画像に対して、所定のフィルタサイズによって平滑化フィルタをかけることによって、対象物データとする平滑化ステップと、
前記対象物データに基づいて、前記タガントの分布位置情報を対象物特徴点データとして抽出する対象物特徴点抽出ステップと、
前記対象物特徴点抽出ステップにより抽出された対象物特徴点データと、前記基準特徴点データとを比較することにより前記対象物品と前記基準物品とが同一個体であるか否かを判別する判別ステップと、
を含むことを特徴とする個体識別方法。
【請求項6】
コンピュータにより読み取り可能な形式で記述されたプログラムであって、
基材と前記基材の表面と平行に固着されているタガント分布層とを有し、網点階調によって絵柄が印刷されている物品について、個体識別の基準となる前記物品である基準物品に付与された前記タガントの分布位置情報を基準特徴点データとして記憶する記憶ステップと、
識別対象となる前記物品である対象物品の撮影画像に対して、所定のフィルタサイズによって平滑化フィルタをかけることによって、対象物データとする平滑化ステップと、
前記対象物データに基づいて、前記タガントの分布位置情報を対象物特徴点データとして抽出する対象物特徴点抽出ステップと、
前記対象物特徴点抽出ステップにより抽出された対象物特徴点データと、前記基準特徴点データとを比較することにより前記対象物品と前記基準物品とが同一個体であるか否かを判別する判別ステップと、
を含む処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−62648(P2013−62648A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199158(P2011−199158)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】