説明

充填方法、充填装置および容器

【課題】不活性ガスを多量に使用することなしに、ビールの発泡を抑える。
【解決手段】充填装置(10)が、容器(40)に所定の充填重量の飲料を充填する飲料充填手段(21)と、飲料充填手段から充填される前の飲料の温度を測定する温度測定手段(24)とを具備する。充填装置においては、温度測定手段により測定された飲料の測定温度が所定の値よりも高い場合には、飲料充填手段から充填される飲料の充填速度を測定温度に応じて低下させる。飲料の充填速度の低下は、供給管路に設けられた飲料制御弁(26)および/またはプリストレスガス制御弁(57)によって行われるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器、例えばビール樽に飲料、例えばビールを充填する容器の充填方法、そのような方法を実施する充填装置およびそのような方法により充填された容器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にビールは瓶容器または缶容器に充填された状態で販売される。そのような販売形態に加えて、ビールは、工場においてビール樽または専用タンクに充填され、次いで店舗においてビール樽に取付けられた専用のディスペンサを通じてジョッキまたはコップ等に注出された状態で販売される場合もある。
【0003】
工場においては、充填装置によってビールがビール樽に充填される。充填装置は複数の充填部を備えており、それぞれの充填部はビールの流量を調整する流量制御弁と充填ヘッドとを主に含んでいる。
【0004】
ビール樽にビールを充填する際には、プリストレスガス、例えば不活性ガスをビール樽内に予め充填してビール樽内部を所定の圧力に予め加圧している。プリストレスガスは、ビール内に溶存した炭酸ガスがビール充填時にビールから分離するのを防止すると共に、ビール充填時にビール自体が発泡するのを防止する役目を果たす。
【0005】
ところで、液中に溶存するガスの量は液体の温度によって異なり、液体の温度が高くなると、液体に溶存可能なガス量は低下することが知られている。そして、液体がビールである場合には、ビールの温度が高くなると、ビール内に溶存していた炭酸ガスはビールから分離するようになる。
【0006】
このようなビール温度の上昇は、特に夏季において充填装置を長時間にわたって停止させるときに発生しやすい。そのような場合には、ビール樽への充填時にビールが容易に発泡し、従って、充填工程の途中でビールがビール樽から吹きこぼれるようになる。
【0007】
このため、特許文献1に開示される充填装置においては、充填液の温度に対応して充填液タンク内のカウンタ圧力を最適に設定するようにしている。つまり、特許文献1においては、充填液の温度が高い場合には充填液タンク内のカウンタ圧力も高くされ、充填液の発泡が抑えられる。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実用新案登録第2583744号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1におけるカウンタ圧力は、ガス、例えば不活性ガスを供給することによって高められている。従って、充填液の温度が高い場合には、使用される不活性ガスの量も増大することになる。特に、夏季においてはビールの温度は比較的迅速に上昇するので、多量の不活性ガスを供給する必要があり、経済的ではない。また、多量の不活性ガス、例えば二酸化炭素を使用することは環境負荷の面からも好ましくない。
【0009】
そこで、本発明者は上記課題を克服すべく鋭意研究を重ねた結果、充填時におけるビールの充填速度をビールの温度に応じて変更することにより、不活性ガスを多量に使用することなしに、ビールの発泡を抑えられるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、不活性ガスを多量に使用することなしに、ビールの発泡を抑えることのできる充填方法、そのような方法を実施する充填装置およびそのような方法により充填された容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、温度測定手段により飲料の温度を測定し、前記温度測定手段により測定された前記飲料の測定温度に応じて単位充填重量当たりにおける前記飲料の充填時間を増減させ、飲料充填手段によって、所定の充填重量の飲料を前記増減された充填時間にわたって容器に充填する容器の充填方法が提供される。
【0012】
すなわち1番目の発明においては、飲料の温度に応じて飲料の充填時間を増減させるようにしているので、不活性ガスを多量に使用することなしに、飲料充填時における飲料の発泡を抑えることができる。
【0013】
2番目の発明によれば、温度測定手段により飲料の温度を測定し、前記温度測定手段により測定された前記飲料の測定温度に応じて前記飲料の充填速度を増減させ、飲料充填手段によって、所定の充填重量の飲料を前記増減された充填速度で容器に充填する容器の充填方法が提供される。
【0014】
すなわち2番目の発明においては、飲料の温度に応じて飲料の充填速度を増減させるようにしているので、不活性ガスを多量に使用することなしに、飲料充填時における飲料の発泡を抑えることができる。
【0015】
3番目の発明によれば、温度測定手段により飲料の温度を測定し、前記温度測定手段により測定された前記飲料の測定温度に応じて前記飲料の充填速度を低下させ、飲料充填手段によって、所定の充填重量の飲料を前記低下された充填速度で容器に充填する容器の充填方法が提供される。
【0016】
すなわち3番目の発明においては、飲料の温度が比較的高い場合には飲料の充填速度を低下させるようにしているので、不活性ガスを多量に使用することなしに、飲料充填時における飲料の発泡を抑えることができる。
【0017】
4番目の発明によれば、3番目の発明において、前記飲料充填手段に前記飲料を供給する供給管路に設けられた飲料制御弁によって、前記飲料の充填速度が低下される。
すなわち4番目の発明においては、比較的簡易な構成により、充填速度を低下させられる。
【0018】
5番目の発明によれば、3番目または4番目の発明において、前記容器内に予め加圧されたプリストレスガスを排出する排出管路に設けられた排気制御弁は、前記飲料充填手段によって飲料が充填されるときに前記容器内における前記プリストレスガスの排出速度を低下させることによって前記飲料の充填速度を低下させる。
すなわち5番目の発明においては、排気制御弁によって容器内のプリストレスガスが排出され難いようにできるので、飲料が容器内に流入するのを抑えられ、従って、飲料の充填速度を低下させられる。つまり、排気制御弁によって、飲料の充填速度の低下を助勢することができる。
【0019】
6番目の発明によれば、3番目から5番目のいずれかの発明において、前記飲料の充填開始直後における充填速度の傾きが前記測定温度に応じて小さくなるように前記充填速度が低下される。
すなわち6番目の発明においては、飲料の充填初期における発泡を抑制できる。従って、充填初期の発泡に続いて飲料が連続的に発泡するのを抑えられる。すなわち、充填時における飲料の発泡を効率的に抑えられる。
【0020】
7番目の発明によれば、3番目から6番目のいずれかの発明において、さらに、前記飲料充填手段は、前記容器を周方向に回転させる回転通路に設けられており、前記回転通路が所定の回転角度範囲で回転する間に、容器に所定の充填重量の飲料が充填されるようになっており、前記回転通路の回転速度を前記測定温度に応じて低下させるようにした。
すなわち7番目の発明においては、回転通路が所定の回転角度範囲で回転する間に、所定の充填重量の飲料の充填を完了させられる。
8番目の発明によれば、1番目から7番目のいずれかの充填方法によって飲料が充填された容器が提供される。
【0021】
9番目の発明によれば、容器に所定の充填重量の飲料を充填する飲料充填手段と、該飲料充填手段から充填される前記飲料の温度を測定する温度測定手段とを具備し、該温度測定手段により測定された前記飲料の測定温度に応じて、単位充填重量当たりにおける前記飲料の充填時間を増減させるようにした容器の充填装置が提供される。
すなわち9番目の発明においては、1番目の発明と同様な効果を得ることができる。
【0022】
10番目の発明によれば、容器に所定の充填重量の飲料を充填する飲料充填手段と、該飲料充填手段から充填される前記飲料の温度を測定する温度測定手段とを具備し、該温度測定手段により測定された前記飲料の測定温度に応じて、前記飲料充填手段から充填される前記飲料の充填速度を増減させるようにした容器の充填装置が提供される。
すなわち10番目の発明においては、2番目の発明と同様な効果を得ることができる。
【0023】
11番目の発明によれば、容器に所定の充填重量の飲料を充填する飲料充填手段と、該飲料充填手段から充填される前記飲料の温度を測定する温度測定手段とを具備し、該温度測定手段により測定された前記飲料の測定温度が所定の値よりも高い場合には、前記飲料充填手段から充填される前記飲料の充填速度を前記測定温度に応じて低下させるようにした容器の充填装置が提供される。
すなわち11番目の発明においては、3番目の発明と同様な効果を得ることができる。
【0024】
12番目の発明によれば、11番目の発明において、前記飲料充填手段に前記飲料を供給する供給管路に設けられた飲料制御弁によって、前記飲料の充填速度が低下される。
すなわち12番目の発明においては、4番目の発明と同様な効果を得ることができる。
【0025】
13番目の発明によれば、11番目または12番目の発明において、さらに、前記容器内に予め加圧されたプリストレスガスを排出する排出管路に設けられた排気制御弁を具備し、前記排気制御弁は、前記飲料充填手段によって飲料が充填されるときに前記容器内における前記プリストレスガスの排出速度を低下させることによって前記飲料の充填速度を低下させる。
すなわち13番目の発明においては、5番目の発明と同様な効果を得ることができる。
【0026】
14番目の発明によれば、11番目から13番目のいずれかの発明において、前記飲料の充填開始直後における充填速度の傾きが前記測定温度に応じて小さくなるように前記充填速度が低下される。
すなわち14番目の発明においては、6番目の発明と同様な効果を得ることができる。
【0027】
15番目の発明によれば、11番目から14番目のいずれかの発明において、さらに、前記飲料充填手段は、前記容器を周方向に回転させる回転通路に設けられており、前記回転通路が所定の回転角度範囲で回転する間に、容器に所定の充填重量の飲料が充填されるようになっており、前記回転通路の回転速度を前記測定温度に応じて低下させるようにした。
すなわち15番目の発明においては、7番目の発明と同様な効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同一の部材には同一の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。なお、以下の説明においてはビール樽にビールを充填する場合について説明しているが、これらは一例にすぎず、容器に飲料を充填するあらゆる形態を含むことに留意されたい。
【0029】
図1は本発明に基づくビール樽用の充填装置の概念図である。図1に示される充填装置10は、複数の樽容器、例えばビール樽40を矢印A方向に順次搬送するコンベヤなどの搬送経路11と、搬送経路11に隣接して配置されていてビール樽40を矢印B方向に順次搬送する環状の回転通路20とを含んでいる。
【0030】
回転通路20には、ビールをビール樽40に充填するために複数、例えば二十個の充填部21が周方向に等間隔で設けられている。図1においては、回転通路20上に位置するビール樽40に対応した位置のそれぞれに、充填部21が設けられているものとする。
【0031】
図2は図1の線I−Iに沿ってみた充填部の縦断面図である。図2においては、ビール樽40は口金を下方に向けた倒立状態で回転通路20上に配置される。充填装置10の上方には、伸縮自在なロッド52を備えたエアシリンダ51が設けられている。そして、ロッド52の先端には略「+」字形状のクランプハンド53が取付けられている。エアシリンダ51を作動してロッド52を延ばすことによって、ビール樽40はクランプハンド53と回転通路20との間に把持される。
【0032】
充填部21は、ビール樽40の樽口(図示しない)に係合可能な充填ヘッド23と、ビール用の貯留タンク(図示しない)から充填ヘッド23まで延びる送液管22とを含んでいる。ビール用の貯留タンク(図示しない)内のビールは、送液管22および充填ヘッド23を通じて樽口からビール樽40内に充填される。
【0033】
図示されるように、送液管22には、送液管22内を流れるビールの流量を測定する流量計25が設けられている。さらに、ビールの流れに対して流量計25の下流には、ビールの流量を制御する第一制御弁26が設けられている。さらに、第一制御弁26と充填ヘッド23との間には、送液管22を流れるビールの温度を測定する温度測定部24が設けられている。これら温度測定部24、流量計25および第一制御弁26は後述する制御装置30に接続されている。
【0034】
なお、温度測定部24は図2に示したのとは異なる場所、例えば充填ヘッド23内に組み込まれていてもよい。さらに、温度測定部24がビール用の貯留タンク(図示しない)におけるビールの温度を測定するようになっていてもよい。
【0035】
さらに、図2においては、ビールの充填前にプリストレスガスをビール樽40内に供給する供給管路55と、ビール樽40内のプリストレスガスを排出する排出管路56とが示されている。プリストレスガスは、不活性ガス、例えば二酸化炭素または窒素であり、ビールの液中に溶存した炭酸ガスがビール樽40への充填時に分離または発泡するのを防止する役目を果たす。なお、排出管路56には、プリストレスガスの排出流量を制御する第二制御弁57が設けられており、この第二制御弁57も制御装置30に接続されている。詳細には説明しないものの、ビール樽40に供給されたプリストレスガスはビールの充填作用に応じて排出管路56を通じて排出される。
【0036】
再び図1を参照すると、搬送経路11上に搬送されたビール樽40は、搬送方向Aに対して上流側のスターホイール13およびガイド14によって回転通路20に搬送される。回転通路20に搬送されたビール樽40は回転通路20によって矢印B方向に回転しつつ、一つの充填部21によってビールが充填される。
【0037】
言い換えれば、上流側スターホイール13におけるビール樽投入位置から下流側スターホイール15におけるビール樽排出位置まで回転通路20が回転する間に、所定重量のビールがビール樽40に充填される。ビールが充填されたビール樽40は下流側のスターホイール15およびガイド16によって搬送経路11に再び戻る。このような構成であるので、図1においてスターホイール13、15の間に位置している充填部21aにはビール樽40は配置されない。
【0038】
充填装置10においては、重量測定手段17が下流側スターホイール15の下流において搬送経路11上に設けられている。重量測定手段17は、ビールが充填された後におけるビール樽40の総重量を測定する。
【0039】
図示されるように、重量測定手段17の下流においては分岐搬送通路18が搬送経路11から分岐している。分岐搬送通路18は通常は動作しておらず、起動部19が起動したときにのみ動作する。重量測定手段17により測定されたビール樽40の総重量が所定値Z2を下回った場合には、起動部19が起動して、そのビール樽40は搬送経路11から分岐搬送通路18に排出される。つまり、分岐搬送通路18はそのようなビール樽40を排出する排出手段としての役目を果たす。
【0040】
重量測定手段17および起動部19も制御装置30に接続されている。ここで、制御装置30はデジタルコンピュータであり、充填装置10全体の制御を行うようになっている。制御装置30は、各種所定値、各種測定値、マップおよび後述する動作プログラム100などを記憶する記憶部34を含んでいる。
【0041】
図3は本発明の第一の実施形態に基づく充填装置の動作プログラムに関するフローチャートである。以下、図3を参照しつつ、本発明に基づく充填装置の動作について説明する。
【0042】
図3に示される動作プログラム100のステップ101においては、温度測定部24を用いて送液管22内のビールの温度θを測定する。次いで、ステップ102において温度θは、制御装置30において所定温度θ0と比較される。ビール温度θが所定値θ0よりも大きくないと判定された場合には、ステップ107に進む。
【0043】
一方、ビール温度θが所定値θ0よりも大きいと判定された場合には、ステップ103に進む。このようにビール温度θが所定値θ0を越える場合は、例えば夏季において充填装置を長時間にわたって停止させるときに発生する。ステップ103においては、ビールをビール樽40に充填する充填速度Vに関する充填速度関数f(T)が変更される。
【0044】
図4は充填速度関数のマップを示す図である。図4に示されるように、ビール温度θに応じて異なる複数の充填速度関数f(T)が制御装置30の記憶部34に予め記憶されている。これら充填速度関数f(T)は、ビール温度θが高くなるにつれて、充填速度Vが小さくかつ充填時間が長くなるように予め設定されている。これら充填速度関数f(T)は実験等により予め求められるものとする。ステップ103においては、測定されたビール温度θに応じて充填速度関数f(T)が選択される。なお、充填速度関数f(T)を変更する必要がない場合は、予め設定されていた通常状態用の充填速度関数がそのまま使用される。ここで、通常状態は、ビールの温度が比較的低い場合、例えば温度が2度程度である場合であるものとする。
【0045】
ビールの充填速度と時間との関係を示す図5を参照して、充填速度関数についてさらに具体的に説明する。図5においては、縦軸はビールの充填速度を示しており、横軸は時間を示している。また、図5に示される曲線X0は通常状態におけるビールの充填速度関数であり、曲線X1は通常状態から変更された一つの例における充填速度関数f(T)である。
【0046】
はじめに、曲線X0を参照して、充填装置10の通常状態における充填速度について説明する。時間0においてビールの充填が開始されると、充填速度Vは時間TA0まで等加速度的に増加する。時間0から時間TA0までの区間を初期充填区間と呼ぶ。時間TA0以降においてはビールの充填速度Vはさらに増大され、時間TB0において最大充填速度VA0に到達する。
【0047】
次いで、ビールは最大充填速度VA0で時間TC0まで充填され続ける。時間TB0と時間TC0との間の区間を最大充填速度区間と呼ぶ。その後、ビールの充填速度Vは充填終了時間TE0において零になるように低下する。時間TE0においては所定の充填重量のビールがビール樽40に充填されるものとする。
【0048】
ステップ103において或る充填速度関数f(T)を選択した場合には、通常状態の充填速度関数は、例えば曲線X1で示されるようにX軸方向にシフトする。曲線X0、X1とX軸とで囲まれる面積はビール樽40に充填されるビールの充填重量に対応する。この面積は、充填速度関数を変更した場合であっても、変化しないことに留意されたい。言い換えれば、図4に示されるマップの充填速度関数f(T)はビールの充填重量が変化しないように定められている。また、ビールの充填重量が補償される限りにおいては、最大充填速度を変更することなしに充填時間を長くした充填速度関数を選択してもよい。
【0049】
図示されるように、曲線X1において初期充填区間が終了する時間TA1は前述した時間TA0よりも長くなっている。さらに、曲線X1における充填終了時間TE1は曲線X0における時間TE0よりも長くなっている。
【0050】
また、曲線X1の初期充填区間においては充填速度Vは曲線X0の場合と同様に等加速度的に増加している。そして、曲線X1の初期充填区間においては充填速度Vの傾きβは曲線X0の初期充填区間における傾きαよりも小さく設定されている。さらに、図5から分かるように、曲線X1における最大充填速度VA1は曲線X0における最大充填速度VA0よりも小さくなっている。
【0051】
このように、本発明においては、ビール温度θが比較的高い場合には、充填時間を長くかつ充填速度を小さくするようにしており、それにより、ビール樽40に充填されるビールの充填重量を補償している。
【0052】
図3のステップ103において充填速度関数f(T)がビール温度θに基づいて選択されると、通常状態の場合よりも、充填速度Vは小さくなると共に充填終了時間TEは長くなるが、ビール樽40に充填される充填重量は変化しない。
【0053】
次いで、ステップ104においては、ビール温度θに応じて選択された充填速度関数f(T)から共に充填終了時間TEを算出する。充填終了時間TEは、選択された充填速度関数において充填速度Vが零になる二つの時間のうちの大きい方の時間である。このように充填終了時間TEは選択された充填速度関数f(T)から算出してもよく、また充填終了時間TEに関して記憶部34に予め記憶されたマップ(図示しない)から選択するようにしてもよい。
【0054】
次いで、ステップ105においては、充填終了時間TEが所定値T0よりも大きいか否かが判定される。前述したように所定の充填重量のビールのビール樽40への充填作用は、ビール樽40が上流側スターホイール13から下流側スターホイール15まで回転通路20上を矢印B方向に搬送される間に行われる。所定値T0は、回転通路20が上流側スターホイール13から下流側スターホイール15まで回転するのに要する時間に概ね一致する。
【0055】
充填終了時間TEが所定値T0よりも大きい場合には、ステップ106に進む。ステップ106においては、回転通路20が上流側スターホイール13から下流側スターホイール15まで回転するのに要する時間が充填終了時間TEよりも小さくなるように回転通路20の回転速度Qを変更する。
【0056】
このような回転速度Qは、実験等により予め求められた充填終了時間TEと回転通路20の回転速度Qとのマップ(図6を参照されたい)から定めればよい。これにより、回転通路20が回転して上流側スターホイール13から下流側スターホイール15まで到達する前に所定の充填重量のビールをビール樽40に充填できるようになる。
【0057】
次いで、ステップ107においては、空のビール樽40が上流側スターホイール13およびガイド14によって搬送経路11から回転通路20まで移動され、対応する充填部21によって前述したように把持される。そして、空のビール樽40は回転通路20と共に回転しつつ、充填部21の充填ヘッド23から所定の充填重量のビールが当該ビール樽40に充填される。
【0058】
ビールは、通常状態の場合の充填速度関数またはステップ103で変更された充填速度関数f(T)に基づいて、ビール樽40に充填される。図5を参照して説明したように、ビールの充填速度Vは充填速度関数に基づいて時間と共に変化する。このようなビールの充填速度Vの変更は、送液管22に設けられた第一制御弁26の開度を主に調節することにより行われる。
【0059】
制御装置30の記憶部34には、図7(a)に示されるような充填速度Vと第一制御弁26の開度C1とのマップが記憶されている。このマップにおいては、要求される充填速度Vが小さくなるにつれ、第一制御弁26の開度C1も小さくなるようになっている。第一制御弁26の開度C1は、このようなマップに基づいて、要求される充填速度Vに対応する開度に設定される。このような設定を単位時間ごとに行うことにより、最適な充填速度Vを充填速度関数に基づいて容易に変更することが可能となる。
【0060】
前述したようにビール内に溶存していた炭酸ガスは、ビールの温度が高くなるほど、ビールから容易に分離して発泡するようになる。これに対し、本発明においては、ビールの充填速度をビールの温度に応じて低下させ、それにより、ビール充填時におけるビールの発泡を抑えている。従って、本発明においては、ビールの発泡を抑えるのに、ビール樽40内のプリストレスガスの圧力を高く設定する必要は無い。言い換えれば、本発明においては、プリストレスガス、つまり不活性ガスを多量に使用することなしに、ビールの発泡を抑えることが可能である。
【0061】
このようにして所定の充填重量のビールが充填されてビール樽40が下流側スターホイール15付近まで移動すると、ビール樽40は下流側スターホイール15およびガイド16によって回転通路20から搬送経路11まで再び戻される。次いで、重量測定手段17において、ビール樽40自体の重量とビールの充填重量とを合計した総重量Zが測定される(ステップ108)。
【0062】
次いで、ステップ109においては、総重量Zが充填後ビール樽基準総重量Z2よりも小さいか否かが判定される。ここで、充填後ビール樽基準総重量Z2は、制御装置30の記憶部34に予め記憶された所定の値であり、統計等により予め決定された空ビール樽重量の最大値にビールの充填重量を加算した値である。
【0063】
そして、重量Zが充填後ビール樽基準総重量Z2よりも小さいと判定された場合には、当該充填後ビール樽40のビールは充填不足であると判断される。そのような場合には、制御装置30から信号が起動部19に送信されることによって分岐搬送通路18が起動する。これにより、当該充填後ビール樽40は搬送経路11から分岐搬送通路18に移送され、充填装置10から排出される(ステップ110)。これにより、充填不足の充填後ビール樽40が市場に出荷されるのを防止できる。
【0064】
一方、総重量Zが充填後ビール樽基準総重量Z2よりも小さくないと判定された場合には、充填不足ではないと判断できる。この場合には、起動部19は動作せず、当該充填後ビール樽40は搬送経路11上をそのまま移動して、次工程に搬送される。このようにして、図3に示される動作プログラム100の処理を終了する。
【0065】
図5を参照して説明したように、本発明においては、初期充填区間における充填速度Vの傾きを、例えば傾きβになるように小さくするのが好ましい。一般的に、ビールはビール樽40の内面に衝突するときに発泡しやすい。特に、ビールの充填開始直後にはこのような衝突が発生しやすい。従って、初期充填区間における充填速度Vの傾きを小さくすることにより、初期充填区間における発泡を抑えることが可能である。
【0066】
さらに、初期充填区間で発泡が生じた場合には、ビールをそのまま充填し続けると、発泡現象が連続して発生することが分かっている。このため、初期充填区間での発泡を抑えることができれば、初期充填区間における発泡に基づいてビールが連続的に発泡することも抑えることができる。従って、初期充填区間における充填速度Vの傾きを小さくすることにより初期充填区間の発泡を抑えることは特に好ましく、それにより、充填時におけるビールの発泡を効率的に抑えることが可能である。
【0067】
ところで、充填速度Vは、排出管路56に設けられた第二制御弁57を調整することによっても変更できる。図7(b)は充填速度と第二制御弁57の開度C2とのマップを示す図7(a)と同様な図である。このマップにおいては、充填速度Vが小さくなるにつれ、第二制御弁57の開度C2も小さくなるようになっている。第二制御弁57の開度C2を小さくした場合には、排出管路56を通じて排出される空のビール樽40内のプリストレスガスの量が低下するので、ビール樽40内のプリストレスガスの圧力は比較的高く維持される。
【0068】
その結果、ビールが充填ヘッド23からビール樽40内に流入し難くなる。従って、第二制御弁57の開度C2を小さくすることにより、ビールの充填速度Vを結果的に低下させられる。前述したのと同様に、このようなマップを使用することにより、最適な充填速度Vを充填速度関数に基づいて容易に変更することができる。
【0069】
図7(b)の場合には、プリストレスガス、つまり不活性ガスの使用量が高まるので経済的ではない。このため、第一制御弁26の開度C1および第二制御弁57の開度C2の両方を調節することにより充填速度Vを変更するのが好ましい。この場合には、図7(c)に示されるような充填速度Vと第一制御弁26の開度C1および第二制御弁57の開度C2とのマップを使用する。
【0070】
すなわち、この場合には、第二制御弁57の開度を変更することによって、充填速度Vの低下を助勢できるのが分かるであろう。また、第二制御弁57のみの調節によって充填速度Vを制御する場合と比較すると、プリストレスガスの使用量が減るので経済的に有利でもある。さらに、第一制御弁26および第二制御弁57の両方を調節することにより、充填速度Vを迅速に変更することも可能である。
【0071】
なお、図5においては初期充填区間における充填速度は等加速度的に変化している。しかしながら、初期充填区間における充填速度Vがステップ状(階段状)に変化する場合、または曲線状に変化する場合であっても、そのような充填速度Vが通常状態の充填速度Vよりも低下している限りにおいては本発明の範囲に含まれるものとする。
【0072】
また、前述したように本発明においてはビールの温度が比較的低い場合、例えば温度が2度程度である場合を通常状態としており、ビール温度が通常状態よりも高い場合にはビール温度に応じて通常状態よりも高温側の充填速度関数を選択するようにしている。しかしながら、ビールの温度が比較的高い場合、例えば温度が10度程度である場合を通常状態として設定し、ビール温度が通常状態よりも低い場合には、ビール温度に応じて通常状態よりも低温側の充填速度関数を選択すると共にビール温度が通常状態よりも高い場合には、ビール温度に応じて通常状態よりも高温側の充填速度関数を選択するようにしてもよい。このような場合が本発明の範囲に含まれるのは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に基づくビール樽用の充填装置の概念図である。
【図2】図1の線I−Iに沿ってみた充填部の縦断面図である。
【図3】本発明に基づく充填装置の動作プログラムに関するフローチャートである。
【図4】充填速度関数のマップを示す図である。
【図5】ビールの充填速度と時間との関係を示す図である。
【図6】充填終了時間と回転速度とのマップを示す図である。
【図7】(a)充填速度と第一制御弁26の開度C1とのマップを示す図である。(b)充填速度と第二制御弁57の開度C2とのマップを示す図である。(c)充填速度と第一制御弁26の開度C1および第二制御弁57の開度C2とのマップを示す図である。
【符号の説明】
【0074】
10 充填装置
11 搬送経路
13 上流側スターホイール
14 ガイド
15 下流側スターホイール
16 ガイド
17 重量測定手段
18 分岐搬送通路
19 起動部
20 回転通路
21 充填部
21a 充填部
22 送液管
23 充填ヘッド
24 温度測定部
25 流量計
26 第一制御弁(飲料制御弁)
30 制御装置
34 記憶部
40 ビール樽
51 エアシリンダ
52 ロッド
53 クランプハンド
55 供給管路
56 排出管路
57 第二制御弁(排気制御弁)
C1 第一制御弁の開度
C2 第二制御弁の開度
f(T) 充填速度関数
TE 充填終了時間
V 充填速度
Z 総重量
α、β 充填速度の傾き
θ ビール温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度測定手段により飲料の温度を測定し、
前記温度測定手段により測定された前記飲料の測定温度に応じて単位充填重量当たりにおける前記飲料の充填時間を増減させ、
飲料充填手段によって、所定の充填重量の飲料を前記増減された充填時間にわたって容器に充填する容器の充填方法。
【請求項2】
温度測定手段により飲料の温度を測定し、
前記温度測定手段により測定された前記飲料の測定温度に応じて前記飲料の充填速度を増減させ、
飲料充填手段によって、所定の充填重量の飲料を前記増減された充填速度で容器に充填する容器の充填方法。
【請求項3】
温度測定手段により飲料の温度を測定し、
前記温度測定手段により測定された前記飲料の測定温度に応じて前記飲料の充填速度を低下させ、
飲料充填手段によって、所定の充填重量の飲料を前記低下された充填速度で容器に充填する容器の充填方法。
【請求項4】
前記飲料充填手段に前記飲料を供給する供給管路に設けられた飲料制御弁によって、前記飲料の充填速度が低下される請求項3に記載の充填方法。
【請求項5】
前記容器内に予め加圧されたプリストレスガスを排出する排出管路に設けられた排気制御弁は、前記飲料充填手段によって飲料が充填されるときに前記容器内における前記プリストレスガスの排出速度を低下させることによって前記飲料の充填速度を低下させる請求項3または4に記載の充填方法。
【請求項6】
前記飲料の充填開始直後における充填速度の傾きが前記測定温度に応じて小さくなるように前記充填速度が低下される請求項3から5のいずれか一項に記載の充填方法。
【請求項7】
さらに、前記飲料充填手段は、前記容器を周方向に回転させる回転通路に設けられており、前記回転通路が所定の回転角度範囲で回転する間に、容器に所定の充填重量の飲料が充填されるようになっており、
前記回転通路の回転速度を前記測定温度に応じて低下させるようにした請求項3から6のいずれか一項に記載の充填方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の充填方法により充填された容器。
【請求項9】
容器に所定の充填重量の飲料を充填する飲料充填手段と、
該飲料充填手段から充填される前記飲料の温度を測定する温度測定手段とを具備し、
該温度測定手段により測定された前記飲料の測定温度に応じて、単位充填重量当たりにおける前記飲料の充填時間を増減させるようにした容器の充填装置。
【請求項10】
容器に所定の充填重量の飲料を充填する飲料充填手段と、
該飲料充填手段から充填される前記飲料の温度を測定する温度測定手段とを具備し、
該温度測定手段により測定された前記飲料の測定温度に応じて、前記飲料充填手段から充填される前記飲料の充填速度を増減させるようにした容器の充填装置。
【請求項11】
容器に所定の充填重量の飲料を充填する飲料充填手段と、
該飲料充填手段から充填される前記飲料の温度を測定する温度測定手段とを具備し、
該温度測定手段により測定された前記飲料の測定温度が所定の値よりも高い場合には、前記飲料充填手段から充填される前記飲料の充填速度を前記測定温度に応じて低下させるようにした容器の充填装置。
【請求項12】
前記飲料充填手段に前記飲料を供給する供給管路に設けられた飲料制御弁によって、前記飲料の充填速度が低下される請求項11に記載の充填装置。
【請求項13】
さらに、前記容器内に予め加圧されたプリストレスガスを排出する排出管路に設けられた排気制御弁を具備し、
前記排気制御弁は、前記飲料充填手段によって飲料が充填されるときに前記容器内における前記プリストレスガスの排出速度を低下させることによって前記飲料の充填速度を低下させる請求項11または12に記載の充填装置。
【請求項14】
前記飲料の充填開始直後における充填速度の傾きが前記測定温度に応じて小さくなるように前記充填速度が低下される請求項11から13のいずれか一項に記載の充填装置。
【請求項15】
さらに、前記飲料充填手段は、前記容器を周方向に回転させる回転通路に設けられており、前記回転通路が所定の回転角度範囲で回転する間に、容器に所定の充填重量の飲料が充填されるようになっており、
前記回転通路の回転速度を前記測定温度に応じて低下させるようにした請求項11から14のいずれか一項に記載の充填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−81156(P2008−81156A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262747(P2006−262747)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】