説明

充填材、充填材の作製方法及び地山の安定化方法

【課題】消石灰が均一に分散されており、長時間沈降しない安価な充填材を提供する。
【解決手段】充填材5は、水、ベントナイト等を含むA材と、消石灰、分散剤等を含む消石灰スラリーのB材とからなる。充填材5には、分散剤が含まれているので、消石灰は充填材5中に均一に分散している。充填材5は、シールド機1による急曲線状のトンネル2の掘削により進行方向に対して左右方向に形成される大きな空隙部4に充填されて地山3を保持し、地山3の崩落を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド機によるトンネルの余堀掘削によって形成された空隙部に充填される充填材及びその充填材を用いた地山の安定化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にシールド工法は、シールド機でトンネルを掘削し、このシールド機の後方にトンネルの内周面を覆う覆工体を形成するとともに、形成した覆工体から推進反力を得ながらシールド機を推進させてトンネルを構築する工法である。トンネル掘削時にはシールド機が地山をオーバーカットしながら掘削するために、シールド機の外周面と地山との間に空隙部が生じる。この状態のまま、例えば、施工時間の制約等により掘進作業が長時間にわたり停止すると、地山がこの空隙部で崩落する可能性があるために、空隙部に充填材を充填して地山を保持する。
【0003】
このような充填材として、例えば、特許文献1には、水と粘土とからなるA液と、セメントと水ガラス系凝集剤とからなるB液とを混合したものが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、水と膨潤性材料とからなるA液と、水と消石灰等の硬化材とからなるB液とを混合した充填材が開示されている。
【特許文献1】特開2002−160955号公報
【特許文献2】特開2004−244483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の充填材は、高価な水ガラス系凝集材を大量に使用するので材料費が高くつくという問題点があった。
【0006】
また、特許文献2に記載の充填材は、撹拌を停止すると消石灰が短時間で沈降してしまうので、B液の作製装置から注入孔へ送給する際に、配管内に消石灰が沈殿してしまい、配管が閉塞してしまう場合があり、さらに、消石灰が配管内に沈殿すると注入される充填材に含まれる消石灰の濃度にばらつきが生じ、場所によって充填材の強度にばらつきが生じるという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、消石灰が均一に分散されており、長時間沈降しない安価な充填材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明の充填材は、シールド機によるトンネルの余堀掘削によって生じる空隙部に充填するための充填材であって、消石灰と、水と混合された消石灰をその水中に均一に分散させるための分散剤とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る充填材によれば、分散剤を含むので、消石灰を充填材中に均一に分散させるとともに、沈降を防止することができる。そして、消石灰を充填材中に均一に分散させることができるので、空隙部に充填された充填材の強度にばらつきが無い。したがって、地山を確実に保持し、地山の崩落を防止することができる。
【0010】
また、充填材に含まれる消石灰の沈殿を防止できるので、充填作業時における配管等の装置類の閉塞を防止することができる。
【0011】
さらに、消石灰及び分散剤は、原料の入手性が容易であり、また、安価なので充填材のコストを低減することができる。
【0012】
第2の発明の充填材の作製方法は、シールド機の余堀掘削によって生じる空隙部に充填される充填材の作製方法において、水と消石灰とを混合して消石灰水を作製し、この消石灰水に、前記消石灰を前記消石灰水中に均一に分散させるための分散剤を添加して消石灰スラリーを作製し、充填直前にその消石灰スラリーとベントナイトを含む水とを混合することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る充填材の作製方法によれば、消石灰水に分散剤を添加するので、消石灰を充填材中に均一に分散させるとともに、沈降を防止することができる。そして、消石灰を充填材中に均一に分散させることができるので、空隙部に充填された充填材の強度にばらつきが無い。したがって、地山を確実に保持し、地山の崩落を防止することができる。
【0014】
第3の発明の地山の安定化方法は、シールド機によりトンネルが掘削された地山を安定化するための安定化方法において、消石灰と、この消石灰と水とを混合して作製された消石灰水中に当該消石灰を均一に分散させる分散剤と、ベントナイトとを含む充填材を、前記シールド機の余堀掘削によって生じる空隙部に充填して地山を保持することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る地山の安定化方法によれば、消石灰が充填材中に均一に分散しているので、空隙部に充填された充填材の強度にばらつきが無い。したがって、充填材は、地山を確実に保持し、地山の空隙部での崩落を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の充填材を用いることにより、消石灰が均一に分散されており、長時間沈降しないので、空隙部に充填された充填材の強度にばらつきが生じず、地山を確実に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る地山の安定化方法及び安定化構造の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。本実施形態においては、シールド機による急曲線施工で進行方向に対して左右方向に大きく形成された空隙部に充填材を充填する場合について説明するが、これに限定されるものではなく、シールド機による余堀掘削で形成される空隙部全般に適用可能である。
【0018】
図1は、シールド機1で急曲線施工にて掘削したトンネル2の平面図であり、図2は、図1のA−A’矢視図である。なお、以下の図において、本発明の説明に不要な部分の図示は省略している。
【0019】
図1及び図2に示すように、シールド機1によって急曲線状のトンネル2を掘削する場合は、直線状のトンネル2を掘削する場合よりも進行方向に対して左右方向を大幅に余堀掘削するので、シールド機1の外周面と地山3との間に大きな空隙部4が形成される。そして、この空隙部4をそのまま放置すると地山3の肌落ちや地盤沈下等が生じるので、空隙部4には充填材5が充填される。この充填材5は、シールド機1の掘進と同時に空隙部4に充填され、地山3を保持する。
【0020】
図3は、本実施形態に係る充填材5に含まれる材料の配合割合の一例を示す図である。
【0021】
図3に示すように、充填材5は、水、ベントナイト等を含むA材と、消石灰、分散剤等を含む消石灰スラリーのB材とからなる。充填材5には、分散剤が含まれているので、消石灰は充填材5中に均一に分散する。
【0022】
また、図3に示すように、例えば、1mの充填材5を作製するには、A材のベントナイト及び水をそれぞれ91kg、875L使用し、B材の消石灰、分散剤及び水をそれぞれ21.84kg、0.728kg、72.8L使用する。なお、ベントナイト、消石灰、分散剤、水等の配合割合は、各現場の地質条件によって異なるものであって、設計等により適宜決定される。
【0023】
充填材5は、空隙部4を確実に充填できるように急速に高粘性化すること無く、かつ、シールド機1の推進に影響を与えないように遅延硬化性を有する。また、本実施形態においては、充填材5の粘度は、配管内で閉塞せず、かつ、テールボイド部への裏込材の注入により切羽へ排出されるように、例えば、30Pa・sとした。
【0024】
また、充填材5は、ゲル状なので、地山3へ浸透しにくく、かつ、地下水で希釈されにくい。したがって、空隙部4に充填されて地山3の崩落を確実に防止する。
【0025】
図4は、シールド機1によるトンネル2の掘削で形成される空隙部4に充填材5を充填している状態を示す概略図である。また、図5は、本実施形態に係る充填材5の作製方法を示すフロー図である。
【0026】
図4に示すように、シールド機1は、地中を掘削するためのカッターヘッド6等を備えたフード部7と、カッターヘッド6の駆動装置8やシールド機1本体を前進させるための複数のシールドジャッキ9等を備えたガーダ部10と、セグメント11を組み立てるためのエレクタ12等を備えたテール部13とから構成されている。
【0027】
図4及び図5に示すように、地上に設置されたプラント14にてベントナイトと水とを上記割合で混合してA材を作製し、送給ポンプ15で送給管16を介して坑内のシールド機1の後方に設置されたタンク17に供給する。タンク17内に貯留されたA材は、攪拌機18で撹拌されながら貯留される。そして、充填作業時にA材を圧送ポンプ19で圧送管20を介して混合機21に供給する。
【0028】
A材の作製作業と並行して、坑内のシールド機1の後方に設置された製造装置22にて消石灰と水とを上記割合で混合し、消石灰水を作製してタンク23内に貯留する。タンク23内の消石灰水を攪拌機24で充分に撹拌したら、この消石灰水と分散剤とを上記割合で混合してB材である消石灰スラリーを作製する。B材は、タンク23内の攪拌機24で撹拌されて貯留される。そして、充填作業時にB材を圧送ポンプ25で圧送管26を介して混合機21に供給する。B材には分散剤が含まれているので、消石灰はB材中に均一に分散している。
【0029】
混合機21でA材とB材とを混合して充填材5を作製し、シールド機1のガーダ部10に設けられている注入孔27から、シールド機1の掘進時に、空隙部4に充填材5を充填する。充填作業は、注入孔27付近に設けられた圧力計28にて空隙部4内の圧力を測定しつつ行う。注入孔27は、ガーダ部10の、例えば、上部に複数個設けられているので、シールド機1の全外周にわたって良好に充填材5の充填が行われる。
【0030】
各圧送ポンプ19、25の駆動やA材及びB材の供給量の調整等は、シールド機1の後方に設けられた制御装置29にて行う。
【0031】
所定の距離を掘進したらシールド機1を停止し、シールド機1のテール部13内でセグメント11を組み立てて、その後にテール部13を推進させる。テール部13の推進と同時に、テールボイド部に裏込材を充填する。このとき、充填材5はゲル状で流動性を有しているので、テールボイド部に充填されていた充填材5が裏込材の充填によって前方に押し出されて、ガーダ部10やテール部13の周囲の空隙部4に充填されている充填材5の一部が切羽へ流入する。切羽へ流入した充填材5は、次の掘進時に掘削土砂とともに排出される。また、ガーダ部10やテール部13の周囲の充填材5もゲル状なので、再び掘進を開始する場合には、シールド機1の外周面と充填材5との間に生じる摩擦抵抗は小さく、シールド機1はスムーズに推進する。
【0032】
次に、本実施形態に係る充填材5を、シールド機1による急曲線施工で進行方向に対して左右方向に大きく形成された空隙部4に充填した場合における地表面の変位量を実際に測定した結果を示す。
【0033】
図6は、シールド機1で掘削したトンネル2を示す平面図である。また、図7は、図6のD−D断面図である。
【0034】
図6及び図7に示すように、直径6560mmの円形断面のシールド機1で深度25m付近を掘削してトンネル2を構築した。トンネル2は、半径R=25mの急曲線区間Aと、直線区間Bと、半径R=25mの急曲線区間Cとからなる構造である。
【0035】
図8及び図9は、それぞれシールド機1でトンネル2を掘削した場合におけるシールド機1の総推力及び地表面の変位量を示す図である。
【0036】
図8に示すように、急曲線区間A及びCを推進する際の総推力平均値は共に、直線区間Bを推進する際の総推力平均値よりも小さかった。すなわち、急曲線施工におけるシールド機1の左右方向に形成された空隙部4の崩壊による胴締めは発生していないと考えられる。したがって、シールド機1の周囲、特に空隙が大きい左右両側に充填された充填材5は、地山3を保持していることがわかる。
【0037】
図9に示すように、トンネル2の上方に位置する地表面の沈下量を測定した。具体的には、急曲線区間Aを5箇所、直線区間Bを17箇所、急曲線区間Cを6箇所の合計28箇所について測定した。
急曲線区間Aの地表面は、測定点25〜28は沈下し、測定点24のみ隆起した。隆起量及び沈下量の最大値は、それぞれ1mm、4mmであった。
直線区間Bの地表面にも隆起及び沈下が生じ、隆起量及び沈下量の最大値は共に2mmであった。
急曲線区間Cの地表面は沈下のみ生じ、沈下量の最大値は1mmであった。
【0038】
これらの結果が示すように、急曲線区間A及びCの地表面の変位量は、直線区間Bの地表面の変位量とほぼ同じである。すなわち、シールド機1の左右方向に充填された充填材5は、地山3を確実に保持しており、急曲線施工による地山3への影響は無い。
【0039】
なお、本実施形態においては、円形断面のシールド機1を用いた方法について説明したが、円形断面のシールド機1に限定されるものではなく、例えば、矩形断面等の様々な断面形状のシールド機1に広く適用が可能である。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の充填材5によれば、分散剤を含むので、消石灰を充填材5中に均一に分散させるとともに、消石灰の沈降を防止することができる。したがって、空隙部4に充填された充填材5の強度にばらつきが無いので、地山3を確実に保持し、地山3の崩落を防止することができる。さらに、充填材5に含まれる消石灰の沈殿を防止できるので、充填作業時における配管等の装置類の閉塞を防止することができる。
【0041】
また、消石灰及び分散剤は、原料の入手が容易であり、安価なので充填材5のコストを低減することができる。
【0042】
そして、シールド機1の推進時に充填材5はゲル状で流動性を有するので、充填材5とシールド機1の外周面との摩擦抵抗が小さくなり、容易に推進することが可能となる。
【0043】
なお、本実施形態においては、注入孔27はガーダ部10の上部に設けたが、この位置に限定されるものではなく、シールド機1の掘削断面規模に応じて注入孔27の位置は適宜変更することが可能である。
【0044】
また、本実施形態において、急曲線施工による左右方向の余堀掘削によって形成された空隙部4に充填材5を充填する方法について説明したが、これに限定されるものではなく、進行方向に対して上下方向の余堀掘削によって形成される空隙部にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】シールド機で急曲線施工にて掘削したトンネルの平面図である。
【図2】図1のA−A’矢視図である。
【図3】本実施形態に係る充填材に含まれる材料の配合割合の一例を示す図である。
【図4】シールド機によるトンネルの掘削で形成される空隙部に充填材を充填している状態を示す概略図である。
【図5】本実施形態に係る充填材の作製方法を示すフロー図である。
【図6】シールド機で掘削したトンネルを示す平面図である。
【図7】図6のD−D断面図である。
【図8】シールド機でトンネルを掘削した場合におけるシールド機の総推力を示す図である。
【図9】シールド機でトンネルを掘削した場合における地表面の変位量を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 シールド機
2 トンネル 3 地山
4 空隙部 5 充填材
6 カッターヘッド 7 フード部
8 駆動装置 9 シールドジャッキ
10 ガーダ部 11 セグメント
12 エレクタ 13 テール部
14 プラント 15 送給ポンプ
16 送給管 17 タンク
18 攪拌機 19 圧送ポンプ
20 圧送管 21 混合機
22 製造装置 23 タンク
24 攪拌機 25 圧送ポンプ
26 圧送管 27 注入孔
28 圧力計 29 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド機によるトンネルの余堀掘削によって生じる空隙部に充填するための充填材であって、
消石灰と、水と混合された前記消石灰をその水中に均一に分散させるための分散剤とを含むことを特徴とする充填材。
【請求項2】
シールド機の余堀掘削によって生じる空隙部に充填される充填材の作製方法において、
水と消石灰とを混合して消石灰水を作製し、
この消石灰水に、前記消石灰を前記消石灰水中に均一に分散させるための分散剤を添加して消石灰スラリーを作製し、
充填直前にその消石灰スラリーとベントナイトを含む水とを混合することを特徴とする充填材の作製方法。
【請求項3】
シールド機によりトンネルが掘削された地山を安定化するための安定化方法において、
消石灰と、この消石灰と水とを混合して作製された消石灰水中に当該消石灰を均一に分散させる分散剤と、ベントナイトとを含む充填材を、前記シールド機の余堀掘削によって生じる空隙部に充填して地山を保持することを特徴とする地山の安定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−209522(P2009−209522A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50548(P2008−50548)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】