説明

光に対して安定化された工業用殺菌剤組成物

【課題】長期間わたって保存しても有効成分が安定に存在するともに、太陽光により使用場面で障害となる沈殿物の析出がない工業用殺菌剤組成物を提供すること。
【解決手段】イソチアゾロン系殺菌剤の1種又は2種以上、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤、pH緩衝剤、スルホン酸塩及び水を含有し、pHが2.3以上4.0以下の範囲である工業用殺菌剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用冷却水、紙パルプ工業における抄紙工程水、潤滑油、金属加工油などに用いられる工業用殺菌剤組成物、特に有効成分としてイソチアゾロン系化合物とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤とを有効成分として含有する光に対して安定化された工業用殺菌剤組成物及びその安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用の循環冷却水、紙パルプ工業における抄紙工程水などの産業用水や、潤滑油、金属加工油などの工業油剤、塗料、接着剤、インキ、シーリング剤、セメント混和剤などの各種工業製品には、生産性の低下、悪臭の原因となる細菌、酵母、かび、藻などの有害生物が繁殖し易く、数多くの工業用殺菌剤が用いられている。中でもイソチアゾロン系殺菌剤とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤は工業用殺菌剤分野で優れた効果を示すことが知られており、更にこれらを組み合わせることにより、より相乗的な効果を示すことが知られている(例えば、特許文献1乃至3を参照)。しかし、これらの有効成分は一般に不安定であり、その効果を充分に発揮させるためには有効成分の安定化が不可欠である。その安定化のための従来技術として、グルクロン酸又はその塩を安定化剤として添加する方法(例えば、特許文献4参照)、安定化溶媒としてグリコール系溶媒を用いる方法(例えば、特許文献5参照)が知られている。また、イソチアゾロン系殺菌剤の安定化方法としては、金属硝酸塩を含まず臭素酸塩を安定化剤として用い溶液のpHを4〜5.1の範囲にする方法(例えば、特許文献6参照)、臭素酸塩またはヨウ素酸塩を安定化剤として用い溶液のpHを3.5〜4.5の範囲にする方法(例えば、特許文献7参照)、金属硝酸塩及び臭素酸塩、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩などを添加する方法(例えば、特許文献8参照)、臭素酸塩を用い溶液のpHを2.6以上〜3.5未満の範囲にする方法(例えば、特許文献9参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭58−4682号公報
【特許文献2】特開平7−277910号公報
【特許文献3】特開2000−319113号公報
【特許文献4】特開平5−201809号公報
【特許文献5】特開2003−238318号公報
【特許文献6】特開平8−319279号公報
【特許文献7】特開平9−263504号公報
【特許文献8】特開平11−158013号公報
【特許文献9】特開2009−67791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術によるイソチアゾロン系殺菌剤とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤とを有効成分として含有する工業用殺菌剤組成物は、保存安定性、熱安定性、及び光安定性が充分でなく、更に安定化された工業用殺菌剤組成物の創出が望まれていた。
一般に、これらを有効成分とする工業用殺菌剤組成物は、使用場面で障害となる沈殿物の析出が起こり、冷却塔内においてトラブルが発生するといった課題があり、有効成分の安定性とともに沈殿物の析出のない工業用殺菌剤の創出が望まれていた。特に、イソチアゾロン系殺菌剤として、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン及び5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンとハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤として、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールを有効成分とする工業用殺菌剤組成物は戸外で使用すると太陽光により、沈殿物の析出が促進するため、戸外等の太陽光に晒される使用場面においても沈殿物の析出しない工業用殺菌剤組成物の創出が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明者らは、イソチアゾロン系殺菌剤の1種又は2種以上、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤、pH緩衝剤、スルホン酸塩及び水を含有し、pHが2.3以上4.0以下の範囲である工業用殺菌剤組成物が、各有効成分が長期間安定に存在するとともに、太陽光により使用場面で障害となる沈殿物の析出がないことを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、
[1]イソチアゾロン系殺菌剤の1種又は2種以上、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤、pH緩衝剤、スルホン酸塩及び水を含有し、pHが2.3以上4.0以下の範囲である工業用殺菌剤組成物;
[2]イソチアゾロン系殺菌剤が2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン及び/又は5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンであり、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤が2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールである上記[1]に記載の工業用殺菌剤組成物;
[3]pH緩衝剤が多塩基酸塩である上記[1]又は[2]に記載の工業用殺菌剤組成物;
[4]pH緩衝剤が酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、グリシン塩、フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩、グルタル酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、ポリマレイン酸塩及びポリアクリル酸塩から選択される1種又は2種以上である上記[1]又は[2]に記載の工業用殺菌剤組成物;
[5]pH緩衝剤がクエン酸3ナトリウムである上記[3]又は[4]に記載の工業用殺菌剤組成物;
[6]スルホン酸塩がリグニンスルホン酸カルシウム、リグニンスルホン酸マグネシウム及びリグニンスルホン酸ナトリウムから選択される1種又は2種以上である上記[1]〜[5]のいずれか一つに記載の工業用殺菌剤組成物;
[7]イソチアゾロン系殺菌剤を工業用殺菌剤組成物の全量に対して0.1〜14質量%、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を工業用殺菌剤組成物の全量に対して0.1〜5質量%含有する上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載の工業用殺菌剤組成物;
[8]pH緩衝剤を工業用殺菌剤組成物の全量に対して0.01〜5質量%含有する上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載の工業用殺菌剤組成物;
[9]スルホン酸塩を工業用殺菌剤組成物の全量に対して0.01〜5質量%含有する上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載の工業用殺菌剤組成物;
[10]イソチアゾロン系殺菌剤の1種又は2種以上、及びハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を有効成分として含有する工業用殺菌剤組成物において、pH緩衝剤及びスルホン酸塩を含有させ、かつpHが2.3以上4.0以下の範囲に調整することを特徴とする工業用殺菌剤組成物の安定化方法;
等に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、経時安定性及び熱安定性に優れ、長期間わたって保存しても有効成分が安定に存在するともに、太陽光により使用場面で障害となる沈殿物の析出がない工業用殺菌剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は安定性試験における試験開示時の状態を示す写真である。左から比較例1、実施例3、5及び7を示す。
【図2】図2は安定性試験における屋外で1週間保管後の状態を示す写真である。左から比較例1、実施例3、5及び7を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の有効成分であるイソチアゾロン系殺菌剤としては、例えば、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−プロピル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−イソプロピル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンなどの2−アルキル−4−イソチアゾリン−3−オン;5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−ブロモ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−ブロモ−2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−ブロモ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンなどの2−アルキル−5−ハロ−4−イソチアゾリン−3−オン等が挙げられ、特に好ましくは2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン及び/又は5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンである。これらは単独で使用してもよく、又は2種以上混合して用いることができるが、本発明においては、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンとを混合して用いることが好ましく、その混合割合は、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン1質量部に対して5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンが1〜5質量部の範囲が好ましく、安定な効果を得るためには1〜3質量部の範囲が好ましい。
【0009】
工業用殺菌剤組成物全体におけるイソチアゾロン系殺菌剤の配合割合としては、工業用殺菌剤組成物の全量(100質量%)に対して、イソチアゾロン系殺菌剤が0.1〜14質量%の範囲が好ましく、0.1〜7質量%の範囲がより好ましく、特に好ましくは0.5〜5質量%の範囲である。通常は、イソチアゾロン系殺菌剤を含む工業用原体であるケーソンWT、ケーソンLXplus、ケーソンLXplus-conc.(ロームアンドハース社製)、ゾーネンC、ゾーネンF(ケミクレア社製)等が用いられる。
【0010】
もう一方の有効成分であるハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤としては、例えば、2,2−ジクロロ−2−ニトロエタノール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2−ブロモ−2−クロロ−2−ニトロエタノール、2−クロロ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール等が挙げられ、特に好ましくは一般名ブロノポールとして知られる2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールである。工業用殺菌剤組成物全体におけるハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤の配合割合としては、工業用殺菌剤組成物全量(100質量%)に対して、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤が0.1〜5質量%の範囲が好ましく、特に好ましくは0.2〜2質量%の範囲である。
イソチアゾロン系殺菌剤とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤の配合割合としては、イソチアゾロン系殺菌剤が1質量部に対してハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤が0.01〜10質量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.1〜1質量部の範囲である。
【0011】
本発明で使用されるpH緩衝剤は、工業用殺菌剤組成物のpHを安定させるために用いられる。pH緩衝剤は当該作用を有するものであれば、特に限定されず、好ましくは有機酸塩が使用される。該有機酸塩としては、例えばギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、安息香酸塩、グリシン塩、p−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩等の一塩基酸塩;フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩、グルタル酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、ポリマレイン酸塩、ポリアクリル酸塩等の多塩基酸塩が挙げられ、対イオンとしては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、アンモニウム、ピリジニウム等のアミン、カルシウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。好ましくは酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、グリシン塩、フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩、グルタル酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、ポリマレイン酸塩又はポリアクリル酸塩であり、特に好ましい化合物としては、フタル酸水素ナトリウム、フタル酸ナトリウム、クエン酸2ナトリウム、クエン酸3ナトリウム、フマル酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム等の多塩基酸塩が挙げられ、更に好ましくはクエン酸3ナトリウムである。pH緩衝剤の配合割合としては、工業用殺菌剤組成物全量(100質量%)に対して、pH緩衝剤が0.01〜5質量%の範囲が好ましく、特に好ましくは0.05〜3質量%の範囲である。pH緩衝剤の含量がこの範囲より少ないと、殺菌剤組成物のpHが不安定になりやすい。また、pH緩衝剤の含量がこの範囲より多いと、殺菌剤組成物が変色する場合がある。
【0012】
本発明で使用するスルホン酸塩は安定化剤として使用される。該スルホン酸塩としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩、アルキルスルホコハク酸エステル金属塩、リグニンスルホン酸塩等が挙げられる。また前記金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、又はカルシウム塩等が挙げられる。好ましくは、リグニンスルホン酸塩であり、特に特に好ましくは、リグニンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸マグネシウム及び/又はリグニンスルホン酸カルシウムである。スルホン酸塩の添加によってイソチアゾロン系殺菌剤とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤の安定性が向上する。特にハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤の安定性の向上が顕著である。さらには、スルホン酸塩の添加により、太陽光による沈殿物の析出が顕著に改善できる。
スルホン酸塩の配合割合としては、工業用殺菌剤組成物全量(100質量%)に対して、スルホン酸塩が0.01〜5質量%の範囲が好ましく、特に好ましくは0.05〜3質量%の範囲である。スルホン酸塩の含量がこの範囲より少ないと、光安定性が不十分であり、析出物が生じやすい。また、スルホン酸塩の含量がこの範囲より多いと、スルホン酸塩が製剤中で完全に溶解せず、スルホン酸塩自体が沈降物と成る場合があり、析出物防止の観点からは多量の添加は逆効果となる場合がある。特に、リグニンスルホン酸塩のような高分子量のスルホン酸塩を使用する場合は、0.1質量%以下が好ましい。
【0013】
本発明の工業用殺菌剤組成物のように異なる有効成分を含有する工業用殺菌剤の安定化においては、全ての有効成分の安定性を満足できる条件を探すのは容易ではなく、例えば、pH領域においても、一方の有効成分の安定化を追及すれば、もう一方の有効成分の分解が著しくなるなどの現象が生じる。イソチアゾロン系殺菌剤とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤の両方の有効成分の安定化を達成するにはpHの範囲が特に重要となる。本発明におけるpHの範囲としては、2.3以上4.0以下が特に好ましく、2.6以上3.4以下がより好ましく、2.8以上3.4以下が特に好ましい。pHがこの範囲より高いと、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤が分解しやすくなり、この範囲より低いとイソチアゾロン系殺菌剤が分解しやすくなる。
当該pHを適当な範囲に調整するために酸を使用することができる。使用できる酸としては、クエン酸、塩酸又は硝酸を例示することができ、これらは2種以上を組み合わせて使用することもできる。好ましくは、クエン酸である。
【0014】
本発明で使用される水は、工業用殺菌剤組成物の希釈剤として使用され、本発明の効果を損なわない限り、いかなるものを使用してもよい。例えば、水道水、蒸留水などの精製水、イオン交換水等が挙げられ、精製水、イオン交換水が好ましい。水は、本発明の工業用殺菌剤組成物の有効成分、pH緩衝剤、スルホン酸塩が所定の含量となるような量で使用すればよい。
【0015】
本発明の工業用殺菌剤組成物の製造方法は、通常の方法にて製造することができる。例えば、ゾーネンCやゾーネンMTのようなイソチアゾロン系殺菌剤を含有するバルク、スルホン酸塩、pH緩衝剤、及びハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を水に溶解し、クエン酸、塩酸又は硝酸等の酸でpHを適当な範囲に調整することにより製造することができる。
【0016】
また、本発明の工業用殺菌剤組成物は、本発明の工業用殺菌剤組成物の優れた効果を阻害しない範囲において、消泡剤を含有することもできる。当該消泡剤はシリコーン系消泡剤,界面活性剤,ポリエーテル,高級アルコールなどの有機系消泡剤が挙げられ、好ましくは、シリコーン系消泡剤である。
【0017】
さらに本発明の工業用殺菌剤組成物は、当該技術分野で当業者に添加剤として知られている従来の他の成分を、本発明の工業用殺菌剤組成物の優れた効果を阻害しない範囲において、適宜含むことができる。添加剤としては、例えば、増粘剤、安定化剤、香料、分散剤、着色剤、変色防止安定化剤、錯化剤等が挙げられる。
【0018】
本発明の工業用殺菌剤組成物は、開放循環式冷却水系に良く見られるスフェロチリス(Sphaerotilis)属に有効である他、エッセリチア コリ(Escherichia coli)等のエッセリチア(Escherichia)属、スタフィロコッカス アウレウス(Staphylococcus aureus)等のスタフィロコッカス(Staphylococcus属、シュードモナス アエルギノーザ(Pseudomonas Aeruginosa)、シュードモナス フルオレッセンス(Pseudomonas fluoresense)等のシュードモナス(Pseudomonas)属、プロテウス ブルガリス(Proteus vulugaris)等のプロテウス(Proteus)属、バチルス ズブチリス(Bacilus subtilis)等のバチルス(Bacilus)属、エンテロバクター アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等のエンテロバクター(Enterobacter)属などの種類の細菌類に対して抗菌効力を有しており、既存薬剤の効果が低下したこれらの菌類に対しても効果を有する。また、上記以外にもパルプ製造工程の添加剤として、更に潤滑油、とりわけ金属加工油などの工業油剤、塗料、接着剤、インキ、シーリング剤、セメント混和剤などの各種工業製品の分野等にも使用することもできる。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明の工業用殺菌剤組成物の製造例、有効成分の安定性試験例及び沈殿物と着色の有無、並びに効果試験例を示すが本願はこれらに限定されるものではない。尚、以下の製造例、試験例においてCMTは5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを表し、MTは2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを表し、BPは2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールを表す。
【0020】
実施例1
リグニンスルホン酸ナトリウム0.1質量部をイオン交換水70.0質量部に溶解させ、ゾーネンC(CMT約10.5質量%、MT約3.5質量%、ケミクレア製)14.37質量部、ブロノポール(BP;純度99.8%、ケミクレア製)0.3質量部、クエン酸3ナトリウム・2水和物1質量部、を順次溶解させ、クエン酸を用いてpHを2.3に調整し、イオン交換水を加えて全体を100質量部とし、CMTを約1.5質量%、MTを約0.5質量%、BPを約0.3質量%含む試験No.1(実施例1)の工業用殺菌剤組成物を得た。
【0021】
実施例2〜7
実施例1と同様の方法により、表1に記載された含量になるようにリグニンスルホン酸ナトリウムおよびクエン酸3ナトリウムを配合し、表1に記載したpHに調整して、試験No.2〜7の工業用殺菌剤組成物を得た。
【0022】
比較例1
特開2009−67791号公報に開示された製造方法に従って製造した。即ち、臭素酸カリウム0.1質量部をイオン交換水70.0質量部に溶解させ、ゾーネンC(CMT約10.5質量%、MT約3.5質量%、ケミクレア製)14.2質量部、クエン酸3ナトリウム・2水和物0.1質量部、無水マレイン酸0.06重量部、ブロノポール(BP;純度99.8%、ケミクレア製)0.3質量部を順次溶解させ、イオン交換水を加えて全体を100質量部とした。製造後のpHは、3.4であった。
【0023】
安定性試験例1
製剤実施例及び比較例にて製造した工業用殺菌剤組成物を無色のガラス試験管に充填し、屋外で1週間保管し、その後液体クロマトグラフィーによりCMT、MT、BPの残存率を測定した。また沈殿の発生を目視により評価した。結果を第1表及び第2表、並びに実施例3、5及び7、及び比較例の概観の写真を図1及び2に示す。
【0024】
有効成分の残存率の評価基準;
A:残存率90%以上
B:残存率80〜99%
C:残存率70〜79%
D:残存率60〜69%
E:残存率59%以下
以上の評価基準において、C以上は製品の効果として問題ないが、D以下は効果に問題があり製品とすることができない。
【0025】
沈殿物の評価基準;
A:沈殿物の発生が少なく、沈降していない
B:目視で明らかに沈殿物が発生
C:多くの沈殿物の発生が認められる
以上の評価基準において、Aは製品の使用に問題ないが、B以下は問題があり製品とすることができない。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
第1表、第2表、図1及び図2の結果から、pH緩衝剤であるクエン酸3ナトリウムおよび、安定化剤であるリグニンスルホン酸塩を配合し、かつpHが2.3以上4.0以下の範囲である場合に有効成分が安定で、沈殿物が少なく、沈降しておらず、実用上問題ないことがわかる。一方比較したサンプルは、BPの安定性が悪く、大量の沈殿物が析出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソチアゾロン系殺菌剤の1種又は2種以上、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤、pH緩衝剤、スルホン酸塩及び水を含有し、pHが2.3以上4.0以下の範囲である工業用殺菌剤組成物。
【請求項2】
イソチアゾロン系殺菌剤が2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン及び/又は5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンであり、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤が2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールである請求項1に記載の工業用殺菌剤組成物。
【請求項3】
pH緩衝剤が多塩基酸塩である請求項1又は2に記載の工業用殺菌剤組成物。
【請求項4】
pH緩衝剤が酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、グリシン塩、フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩、グルタル酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、ポリマレイン酸塩及びポリアクリル酸塩から選択される1種又は2種以上である請求項1又は2に記載の工業用殺菌剤組成物。
【請求項5】
pH緩衝剤がクエン酸3ナトリウムである請求項3又は4に記載の工業用殺菌剤組成物。
【請求項6】
スルホン酸塩がリグニンスルホン酸カルシウム、リグニンスルホン酸マグネシウム及びリグニンスルホン酸ナトリウムから選択される1種又は2種以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載の工業用殺菌剤組成物。
【請求項7】
イソチアゾロン系殺菌剤を工業用殺菌剤組成物の全量に対して0.1〜14質量%、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を工業用殺菌剤組成物の全量に対して0.1〜5質量%含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の工業用殺菌剤組成物。
【請求項8】
pH緩衝剤を工業用殺菌剤組成物の全量に対して0.01〜5質量%含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の工業用殺菌剤組成物。
【請求項9】
スルホン酸塩を工業用殺菌剤組成物の全量に対して0.01〜5質量%含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の工業用殺菌剤組成物。
【請求項10】
イソチアゾロン系殺菌剤の1種又は2種以上、及びハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を有効成分として含有する工業用殺菌剤組成物において、pH緩衝剤及びスルホン酸塩を含有させ、かつpHが2.3以上4.0以下の範囲に調整することを特徴とする工業用殺菌剤組成物の安定化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−92034(P2012−92034A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239959(P2010−239959)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000232623)日本農薬株式会社 (97)
【Fターム(参考)】