光デバイス及び検出装置
【課題】 金属粒子の大きさと金属粒子間の間隙との関係からホットサイトの密度を高く確保しながら、金属粒子間の間隙にてラマン散乱光を増強して、検出能力を向上した光デバイス及び検出装置を提供すること。
【解決手段】 光学デバイス100は、基板110と、基板110の表面に形成される大きさ1〜500nm、間隔0.1〜20nmの複数の金属粒子120Aから成る金属微細構造120と、金属微細構造120上の有機分子膜130とを備える。有機分子膜130は分子を捕捉する吸着膜であり、複数の金属粒子120Aが互いに形成する基板100の表面上の微小間隙121を覆うように配置されている。
【解決手段】 光学デバイス100は、基板110と、基板110の表面に形成される大きさ1〜500nm、間隔0.1〜20nmの複数の金属粒子120Aから成る金属微細構造120と、金属微細構造120上の有機分子膜130とを備える。有機分子膜130は分子を捕捉する吸着膜であり、複数の金属粒子120Aが互いに形成する基板100の表面上の微小間隙121を覆うように配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイス及び検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療診断や飲食物の検査等に用いられるセンサーチップの需要が増大しており、高感度かつ小型のセンサーチッブの開発が求められている。このような要求に応えるために、電気化学的な手法をはじめ様々なタイプのセンサーチップが検討されている。これらの中で、集積化が可能であること、低コスト、測定環境を選ばないこと等の理由から、表面プラズモン共鳴(SPR: Surface Plasmon Resonance)を利用した分光分析、特に表面増強ラマン散乱分光(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)用いたセンサーチップに対する関心が高まっている。
【0003】
ここで、表面プラズモンとは、表面固有の境界条件により光とカップリングを起こす電子波の振動モードである。表面プラズモンを励起する方法としては、金属表面に回折格子を刻み、光とプラズモンを結合させる方法やエバネッセント波を利用する方法がある。例えば、SPRを利用したセンサーとしては、全反射型プリズムと、当該プリズムの表面に形成された標的物質に接触する金属膜と、を具備して構成されるものがある。このような構成により、抗原抗体反応における抗原の吸着の有無など、標的物質の吸着の有無を検出している。
【0004】
ところで、金属表面に伝搬型の表面プラズモンが存在する一方、金属微粒子には局在型の表面プラズモンが存在する。局在型の表面プラズモン、つまり、表面の金属微細構造上に局在する表面プラズモンが励起された際には、著しく増強された電場が誘起されることが知られている。
【0005】
更に、金属ナノ粒子を用いた局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)によって形成される増強電場にラマン散乱光が照射されると表面増強ラマン散乱現象によってラマン散乱光が増強されることが知られており、高感度のセンサー(検出装置)が提案されている。この原理を用いることで、各種の微量な物質を検出することが可能になる。
【0006】
増強電場は、金属粒子の周囲、特に隣り合う金属粒子間の間隙で大きく、流体試料中の標的分子を金属粒子間の間隙に止まらせる必要がある。例えば、特許文献1や非特許文献1には、センサーチップの金属表面上に自己組織化単分子膜(SAM:Self-Assembled Monolayer))を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−222401号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P.Freunscht et al., “Surface-enhanced Raman spectroscopy of trans-stilbene adsorbed on platinum or self-assembled monolayer-modified silver film over nanosphere surfaces”, Chemical Physics Letters, 281(1997), 372-378
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の図10及び図12では、金属パターンの大きさは直径が800nmである。非特許文献1では、銀フィルムが直径542nmのポリスチレンの球形凸部上に形成されている。そして、特許文献1及び非特許文献1では、金属パターン上に自己組織化単分子膜を形成することが開示されている。
【0010】
このような構造によれば、増強電場が形成されるホットサイトとなる金属粒子の密度が小さいため、センサーチップの検出能力の向上に限界があった。
【0011】
本発明の幾つかの態様によれば、金属粒子の大きさと金属粒子間の間隙との関係からホットサイトの密度を確保しながら、金属粒子間の間隙でもラマン散乱光を増強して、検出能力を向上した光デバイス及び検出装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の一態様は、
基板と、
前記基板の表面に形成される複数の金属粒子から成る金属微細構造と、
前記金属微細構造上に形成される有機分子膜と、を備え、
前記複数の金属ナノ粒子は、平面視での粒子径が1〜500nmであり、隣り合う金属粒子の間隔が0.1〜20nmであり、
前記有機分子膜は分子を捕捉する吸着膜であり、
前記有機分子膜は、隣り合う金属粒子間の間隙を覆うように配置されている光学デバイスに関係する。
【0013】
本発明の一態様によれば、光学デバイスでの信号検出強度は、ホットサイト(電場増強の場)となる金属粒子の密度と、金属粒子の周囲に形成される増強電場にて捕捉される標的分子の数とに比例し、金属粒子間の間隙の大きさに反比例する。金属粒子の密度は、金属ナノ粒子の大きさと間隔(微小間隙)で定まる。ここで、金属粒子を小さくするとホットサイトの数は増える。ただし、加工精度が十分に確保できず、光学デバイス毎の測定感度のばらつきが大きくなる場合には、金属粒子を大きくする。ただし、金属粒子の径を大きくすると、ホットサイトの数が少なくなる。よって、この感度低下に対して、微小間隙を小さくして感度を向上させることがおこなわれる。
【0014】
さらに、金属微細構造の微小間隙を覆う有機分子膜が、金属表面そのままでは吸着しない分子を吸着する吸着膜として機能すると共に、増強電場の強度が大きい金属微細構造の微小間隙をも覆う。このことから、光学デバイスでの信号検出強度を大きくすることができる。
【0015】
(2)本発明の一態様では、前記有機分子膜の膜厚を0.1〜1nmとすることができる。有機分子膜の膜厚が小さい方が、金属ナノ粒子の表面からの距離による増強電場の減衰の影響を受けにくく、信号を高感度に検出できる。
【0016】
(3)本発明の一態様では、前記有機分子膜の膜厚を0.1〜0.4nmとすることができる。特に、金属粒子の径が大きい金属微細構造では、金属粒子間の微小間隙を小さくしてく、金属ナノ粒子の密度とホットサイト数(増強電場数)を確保して、感度を向上させる必要がある。この場合、有機分子膜の厚みが薄いほど金属粒子間の間隙の全体を覆い易くなる。
【0017】
(4)本発明の一態様では、前記有機分子膜がアルカンチオール膜であり、前記アルカンは主鎖に1原子以上9原子以下の炭素を備えることができる。アルカンチオール膜の膜厚は主鎖炭素原子数と相関があり、9原子以下の炭素を備えることで有機分子膜の膜厚を0.1〜1nmの範囲で安定して形成できる。
【0018】
(5)本発明の一態様では、前記有機分子膜がアルカンチオール膜であり、前記アルカンは主鎖に1原子以上3原子以下の炭素を備えることができる。アルカンチオール膜の膜厚は主鎖炭素原子数と相関があり、3原子以下の炭素を備えることで有機分子膜の膜厚を0.1〜0.4nmの範囲で安定して形成できる。
【0019】
(6)本発明の一態様では、前記アルカンチオール膜の炭素の原子数が2以上であり、2以上の炭素原子が直鎖状の配列を有することができる。有機分子膜の分子鎖が基板の表面に対して60°以下で傾斜して直鎖状で配列される場合に、炭素数が2〜9であれば有機分子膜130の膜厚を0.1〜1nmの範囲で安定して形成でき、炭素数が2〜3であれば有機分子膜130の膜厚を0.1〜0.4nmの範囲で安定して形成できる。
【0020】
(7)本発明の他の態様は、光源と、前記光源の光が入射される上述した光学デバイスと、前記光学デバイスから発せられる流体試料中の標的物資を反映した光を検出する光検出部と、を有する検出装置に関する。この検出装置は、表面増強ラマン散乱を適用して高感度な検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1(A)は、ラマン散乱分光法の原理的な説明図であり、図1(B)は、ラマン散乱分光により取得されるラマンスペクトルの例である。
【図2】図2(A)は光デバイスの部分断面図であり、図2(B)は光デバイスの部分平面図である。
【図3】膜厚(炭素数)の異なる有機分子膜とラマンスペクトルピーク強度との関係を示す図である。
【図4】図4(A)は有機分子膜の膜厚(炭素数)とSERSスペクトル強度との関係を示し、図4(B)(C)は有機分子膜の炭素数と膜厚との関係を示す図である。
【図5】金属ナノ粒子の径が大きい金属微細構造の平面図である。
【図6】図6(A)(B)は金属ナノ粒子の径とホットサイトの数との関係を示す図である。
【図7】検出装置の概略図である。
【図8】金属表面上の有機分子膜を例示した図である。
【図9】有機分子膜の分子長を例示した図である。
【図10】有機分子膜の分子長と膜厚との関係を例示した図である。
【図11】C−C結合距離と分子長との関係を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。また、各図においては、各構成要素を図面上で認識し得る程度の大きさとするため、各構成要素の寸法や比率を実際のものとは適宜に異ならせてある。
【0023】
1.検出原理
図1(A)に、ラマン散乱分光法の原理的な説明図を示す。図1(A)に示すように、単一波長の光Linを標的分子X(標的物)に照射すると、散乱光の中には、入射光Linの波長λinと異なる波長λ2のラマン散乱光Ramが発生する。このラマン散乱光Ramと入射光Linとのエネルギー差は、標的分子Xの振動準位や回転準位や電子準位のエネルギーに対応している。標的分子Xは、その構造に応じた特有の振動エネルギーをもつため、単一波長の光Linを用いることで、標的分子Xを特定できる。
【0024】
例えば、入射光Linの振動エネルギーをV1とし、標的分子Xの振動エネルギーをV2とし、ラマン散乱光Ramの振動エネルギーをV3とすると、V3=V1−V2となる。すなわち、V3がV2に応じた振動エネルギーとなるため、ラマン散乱光Ramの波長λ2を測定することで、標的分子Xを特定できる。
【0025】
なお、入射光Linの大部分は、標的分子Xに衝突した後においても衝突前と同じ大きさのエネルギーを有している。この弾性的な散乱光をレイリー散乱光Rayという。例えば、レイリー散乱光Rayの振動エネルギーをV4とすると、V4=V1である。すなわち、レイリー散乱光Rayの波長λ1は、λ1=λinである。
【0026】
図1(B)に、ラマン散乱分光により取得されるラマンスペクトル(ラマンシフトとラマン散乱強度との関係)の例を示す。図1(B)に示すグラフの横軸は、ラマンシフトを示す。ラマンシフトとは、ラマン散乱光Ramの波数(振動数)と入射光Linの波数との差であり、標的分子Xの分子結合状態に特有の値をとる。
【0027】
図1(B)に示すように、B1に示すラマン散乱光Ramの散乱強度(スペクトルピーク)と、B2に示すレイリー散乱光Rayの散乱強度を比較すると、ラマン散乱光Ramの方が微弱であることがわかる。このように、ラマン散乱分光法は、標的分子Xの識別能力には優れている一方、標的分子Xをセンシングする感度自体は低い測定手法である。そのため、本実施形態では、表面増強ラマン散乱による分光法を用いて、センサーの高感度化を図っている。
【0028】
2.光デバイス
図2(A)(B)に、本発明の一実施形態に係る表面プラズモン共鳴センサーチップ(光デバイス)100の構造を模式的に示した。図2(A)はセンサーチップ100の断面図であり、図2(B)は金属微細構造の平面図であり、いずれもセンサーチップ100の一部を示している。
【0029】
図2(A)に示すセンサーチップ100は、金属微細構造120を形成する複数の金属粒子120Aが、図2(B)に示すように例えば縦横に周期配列されて、基板例えばガラス基板110上に形成されている。複数の金属粒子120Aは、Ag(銀)やAu(金)等の金属にて形成される。なお、金属微細構造120は、基板110上に凹凸パターンを形成し、その凹凸パターン上に金属膜を形成することで製造されても良い。金属粒子120Aの平面視での大きさ(外径)は1〜500nm、隣り合う2つの金属粒子120A間の間隔(微小間隙121の大きさ)は0.1〜20nmとすることができる。さらに好ましくは、金属粒子120Aの平面視での大きさ(外径)は10〜300nmとすることができ、金属粒子間の間隙121の大きさは0.1〜10nmとすることができる。
【0030】
図2(B)の顕微鏡写真で示す金属粒子120Aは銀(Ag)にて形成され、金属粒子120Aの直径は140nmであり、隣り合う2つの金属粒子120A間の最小間隔は10nmである。
【0031】
本実施形態では、金属微細構造120上に有機分子膜130を有する。有機分子膜130は分子を捕捉する吸着膜であり、金属微細構造120上にて自己組織化単分子膜SAMを形成する。有機分子膜130は、複数の金属粒子120Aが互いに形成する基板110の表面上の微小間隙121を覆うように配置され、複数の金属ナノ粒子120Aの外表面も覆っている。
【0032】
2.1.実施例1
本実施例1は、図3にてC1,C3,C16と表記される3種類のアルカンチオール(メタンチオールCH3SH:C1と表記、プロパンチオールC3H7SH:C3と表記、ヘキサデカンチオールC16H33SH:C16と表記)の1mMエタノール溶液をそれぞれ調製し、図2(B)に示す銀SERSチップ100を一晩浸して、図2(A)に示すようにアルカンチオール膜から成る有機分子膜130を形成した。
【0033】
この銀SERSチップ100の表面に、標的物質であるトルエンの気体を曝露させて、銀SERSチップ100を用いて検出されるSERSスペクトルを図3に示す。図3は、2mWレーザー光源からの波長632.8nmの光を、60秒間露光させることで得られるSERSスペクトルである。
【0034】
図3中のC1とC3のアルカンチオール膜130を形成した銀SERSチップ100では、トルエンに特徴的な785cm−1、1000cm−1、1030cm−1のピークが高感度に検出できており、銀表面だけでは検出できなかった分子の検出が可能となった。
【0035】
上記の結果をアルカンチオールの炭素数を横軸、トルエンの1000cm−1のピークを縦軸にとりプロットすると、図4(A)ようになる。図4(A)に示すように、トルエンの1000cm−1のピークは、C1と表記される炭素数1のメタンチオールCH3SH、C3と表記される炭素数3のプロパンチオールC3H7SH、C16と表記される炭素数16のヘキサデカンチオールC16H33SHの順で低くなる。有機分子膜130を形成する材料の炭素数は、図4(B)(C)に示すように、有機分子膜130の膜厚に反映する。C1と表記される炭素数1のメタンチオールCH3SHによる有機分子膜130の膜厚は0.13nmであるのに対して、C16と表記される炭素数16のヘキサデカンチオールC16H33SHによる有機分子膜130の膜厚は1.76nmである。膜厚の計算例については後述する。
【0036】
図4から、有機分子膜130の膜厚が薄い方が、金属表面からの距離による増強電場の減衰の影響を受けずに高感度に検出できる。膜厚1nmを超えると(炭素数10以上)では感度が低く、トルエン検出能力が低いことが分かる。これは局在型表面プラズモン共鳴(LSPR)による電場増強度Eの範囲が金属ナノ粒子120Aの表面から近いほど大きく、離れるにしたがって著しく減衰するためである(SERS強度∝E4)。このことから、有機分子膜130の膜厚は好ましくは0.1〜1nmであり、さらに好ましくは0.1〜0.4nmである。
【0037】
有機分子膜130がアルカンチオール膜である場合には、アルカンは主鎖に1原子以上9原子以下の炭素を備えると、図4(A)に示すように有機分子膜130の膜厚を0.1〜1nmとすることができる。また、有機分子膜130がアルカンチオール膜である場合には、アルカンは主鎖に1原子以上3原子以下の炭素を備えると、図4(A)に示すように有機分子膜130の膜厚を0.1〜0.4nmとすることができる。特に、金属ナノ粒子120Aの粒径が大きくホットサイト数が少ない構造では、金属ナノ粒子120A間の微小間隙121の長さを小さくして感度を向上させる必要があり、このとき有機分子膜130の厚みが制限される。微小間隙121の長さが小さい場合に、有機分子膜130の厚みが厚いと、微小間隙121の全体を有機分子130にて覆うことが困難となるからである。
【0038】
なお、炭素の原子数が2〜9である場合には、2以上の炭素原子が直鎖状の配列を有することが好ましい。有機分子膜130の分子鎖が基板110の表面に対して60°以下で傾斜して直鎖状で配列される場合に、炭素数が2〜9であれば有機分子膜130の膜厚を0.1〜1nmの範囲で安定して形成でき、炭素数が2〜3であれば有機分子膜130の膜厚を0.1〜0.4nmの範囲で安定して形成できる。
【0039】
ここで、有機分子膜(アルカンチオール膜)の分子構造と膜厚の関係について説明する。図8に示すように、この膜厚Tの定義はアルカンチオールが金属(例えばAg)表面から例えば60°傾いた際の金属側の末端S原子中心から反対側の末端C原子中心までの距離とした。
【0040】
膜厚Tの計算方法は、まずアルカンチオールの分子長(末端S原子から末端C原子の距離)を図9及び図11に示すように求め、次に60°傾いた際の膜厚を図10のようにして求めた。なお、膜厚Tの計算には、化学便覧(基礎編II 改訂2版、日本化学会編、丸善)に記載された結合距離として、C‐C結合距離=1.54Å、S‐C結合距離=1.82Å及びC‐H結合距離=1.10Åを用い、結合角を全て109.5°とした。
【0041】
メタンチオール(C1)
分子長={C-C結合距離×(炭素数-1)+S-C結合距離×1}×{sin(109.5°÷2)}
=(1.54×0+1.82×1)×0.8166
=1.49 Å
膜厚=分子長×sin60°
=1.49×√3/2
=1.29 Å
=0.13 nm
ヘキサデカンチオール(C16)
分子長={C-C結合距離×(炭素数-1)+S-C結合距離×1}×{sin(109.5°÷2)}
=(1.54×15+1.82×1)×0.8166
=20.35 Å
膜厚=分子長×sin60°
=20.35×√3/2
=17.62 Å
=1.76 nm
2.2.実施例2
図5は、図2(B)に示す金属微細構造に代えて、金属粒子120Aの粒径を上限の500nmとした例を示している。金属粒子120Aの粒径が大きくなると、図6(A)(B)に示すように、それに伴って局在表面プラズモン共鳴(LSPR)のホットサイトHSの数は減少する。図6(A)(B)はレーザービーム径Dに対して異なる粒子径の金属ナノ粒子120Aを示しており、粒子径が大きい図6(A)では粒子径の小さい図6(B)よりもホットサイトHSの数は少なくなっている。
【0042】
ここで、SERS強度は、ホットサイト数をNとし、微小間隙121の大きさをGとすると、SERS強度∝N/Gとなる。
【0043】
このように、金属粒子120Aの粒径が大きな構造ではホットサイト数Nが小さいため、金属粒子間の間隙121の大きさGを小さくして感度を向上させる必要がある。上述の通り、金属粒子間の間隙121の大きさGが小さくなると分子長の大きな分子は構造間に入り込めなくなるため、金属粒子間の間隙121の大きさGの大きさによって有機分子膜130の膜厚は限定される。そのため、実施例2のように比較的大きな粒径の金属粒子120Aを用いる場合には、有機分子膜130の膜厚を0.1〜0.4nmとするのが適している。
【0044】
3.検出装置
図7は、上述したセンサーチップ(光デバイス)100(図7では符号260)を備えた検出装置200の一例を示す模式図である。標的物質(図示せず)のA方向から検出装置200に搬入されてB方向に搬出される。励起光源210から出射されたレーザーはコリメータレンズで平行光にされ、偏光制御素子230を通過し、ダイクロイックミラー240によってセンサーチップ260の方向に導かれる。レーザーは対物レンズ250で集光され、センサーチップ260に入射する。このとき、センサーチップ260の表面(例えば、金属微細構造120が形成された面)には標的物質(図示せず)が配置されている。なお、ファン(図示せず)の駆動を制御することにより、標的物質は搬入口から搬送部内部に導入され、排出口から搬送部外部に排出されるようになっている。
【0045】
センサーチップ260表面へレーザー光が入射すると、金属微細構造120の近傍には表面プラズモン共鳴SPRを介して極めて強い増強電場が生じる。増強電場に1〜数個の標的物質が浸入し、有機分子膜130にて吸着されると、そこからラマン散乱光が発生する。ラマン散乱光は、対物レンズ250を通過し、ダイクロイックミラー240によって光検出器280の方向に導かれ、集光レンズ270で集光され、光検出器(例えば、回折格子型分光器)280に入射する。そして、光検出器280によりスペクトル分解され、図4(B)に示されたようなスペクトル情報が得られる。この構成によれば、上述したセンサーチップ100を備えているため、センサー感度が向上され、ラマン散乱スペクトルから標的物質を特定することが可能となる。
【0046】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【0047】
例えば、有機分子膜130を形成させる試薬としては、金属微細構造120上に自己組織化単分子膜(SAM)を形成する試薬を用いることができ、この試薬としてチオール基、ジスルフィド基、カルボニル基などを含むものを用いることができる。なお、従来はSAM形成試薬としては、鎖長が長いもの(膜厚が厚い)の方が、分子間の分子間相互作用が強固なので安定性が高く規則的に配列しやすいため、鎖長が長いもの(膜厚が厚い)よく用いられてきた。しかし、SERSに利用する場合はLPSRの電場増強の及ぶ範囲を効率よく利用するためには、鎖長の短いものの方が有利であることは上述の通り実験により明らかになった。なお、有機分子膜130の形成は液相に限らず気相であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
100,260 光デバイス、110 基板、120 金属微細構造、
120A 金属粒子、121 金属粒子間の間隙、130 有機分子膜、
200 検出装置、210 光源、280 光検出器
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイス及び検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療診断や飲食物の検査等に用いられるセンサーチップの需要が増大しており、高感度かつ小型のセンサーチッブの開発が求められている。このような要求に応えるために、電気化学的な手法をはじめ様々なタイプのセンサーチップが検討されている。これらの中で、集積化が可能であること、低コスト、測定環境を選ばないこと等の理由から、表面プラズモン共鳴(SPR: Surface Plasmon Resonance)を利用した分光分析、特に表面増強ラマン散乱分光(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)用いたセンサーチップに対する関心が高まっている。
【0003】
ここで、表面プラズモンとは、表面固有の境界条件により光とカップリングを起こす電子波の振動モードである。表面プラズモンを励起する方法としては、金属表面に回折格子を刻み、光とプラズモンを結合させる方法やエバネッセント波を利用する方法がある。例えば、SPRを利用したセンサーとしては、全反射型プリズムと、当該プリズムの表面に形成された標的物質に接触する金属膜と、を具備して構成されるものがある。このような構成により、抗原抗体反応における抗原の吸着の有無など、標的物質の吸着の有無を検出している。
【0004】
ところで、金属表面に伝搬型の表面プラズモンが存在する一方、金属微粒子には局在型の表面プラズモンが存在する。局在型の表面プラズモン、つまり、表面の金属微細構造上に局在する表面プラズモンが励起された際には、著しく増強された電場が誘起されることが知られている。
【0005】
更に、金属ナノ粒子を用いた局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)によって形成される増強電場にラマン散乱光が照射されると表面増強ラマン散乱現象によってラマン散乱光が増強されることが知られており、高感度のセンサー(検出装置)が提案されている。この原理を用いることで、各種の微量な物質を検出することが可能になる。
【0006】
増強電場は、金属粒子の周囲、特に隣り合う金属粒子間の間隙で大きく、流体試料中の標的分子を金属粒子間の間隙に止まらせる必要がある。例えば、特許文献1や非特許文献1には、センサーチップの金属表面上に自己組織化単分子膜(SAM:Self-Assembled Monolayer))を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−222401号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P.Freunscht et al., “Surface-enhanced Raman spectroscopy of trans-stilbene adsorbed on platinum or self-assembled monolayer-modified silver film over nanosphere surfaces”, Chemical Physics Letters, 281(1997), 372-378
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の図10及び図12では、金属パターンの大きさは直径が800nmである。非特許文献1では、銀フィルムが直径542nmのポリスチレンの球形凸部上に形成されている。そして、特許文献1及び非特許文献1では、金属パターン上に自己組織化単分子膜を形成することが開示されている。
【0010】
このような構造によれば、増強電場が形成されるホットサイトとなる金属粒子の密度が小さいため、センサーチップの検出能力の向上に限界があった。
【0011】
本発明の幾つかの態様によれば、金属粒子の大きさと金属粒子間の間隙との関係からホットサイトの密度を確保しながら、金属粒子間の間隙でもラマン散乱光を増強して、検出能力を向上した光デバイス及び検出装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の一態様は、
基板と、
前記基板の表面に形成される複数の金属粒子から成る金属微細構造と、
前記金属微細構造上に形成される有機分子膜と、を備え、
前記複数の金属ナノ粒子は、平面視での粒子径が1〜500nmであり、隣り合う金属粒子の間隔が0.1〜20nmであり、
前記有機分子膜は分子を捕捉する吸着膜であり、
前記有機分子膜は、隣り合う金属粒子間の間隙を覆うように配置されている光学デバイスに関係する。
【0013】
本発明の一態様によれば、光学デバイスでの信号検出強度は、ホットサイト(電場増強の場)となる金属粒子の密度と、金属粒子の周囲に形成される増強電場にて捕捉される標的分子の数とに比例し、金属粒子間の間隙の大きさに反比例する。金属粒子の密度は、金属ナノ粒子の大きさと間隔(微小間隙)で定まる。ここで、金属粒子を小さくするとホットサイトの数は増える。ただし、加工精度が十分に確保できず、光学デバイス毎の測定感度のばらつきが大きくなる場合には、金属粒子を大きくする。ただし、金属粒子の径を大きくすると、ホットサイトの数が少なくなる。よって、この感度低下に対して、微小間隙を小さくして感度を向上させることがおこなわれる。
【0014】
さらに、金属微細構造の微小間隙を覆う有機分子膜が、金属表面そのままでは吸着しない分子を吸着する吸着膜として機能すると共に、増強電場の強度が大きい金属微細構造の微小間隙をも覆う。このことから、光学デバイスでの信号検出強度を大きくすることができる。
【0015】
(2)本発明の一態様では、前記有機分子膜の膜厚を0.1〜1nmとすることができる。有機分子膜の膜厚が小さい方が、金属ナノ粒子の表面からの距離による増強電場の減衰の影響を受けにくく、信号を高感度に検出できる。
【0016】
(3)本発明の一態様では、前記有機分子膜の膜厚を0.1〜0.4nmとすることができる。特に、金属粒子の径が大きい金属微細構造では、金属粒子間の微小間隙を小さくしてく、金属ナノ粒子の密度とホットサイト数(増強電場数)を確保して、感度を向上させる必要がある。この場合、有機分子膜の厚みが薄いほど金属粒子間の間隙の全体を覆い易くなる。
【0017】
(4)本発明の一態様では、前記有機分子膜がアルカンチオール膜であり、前記アルカンは主鎖に1原子以上9原子以下の炭素を備えることができる。アルカンチオール膜の膜厚は主鎖炭素原子数と相関があり、9原子以下の炭素を備えることで有機分子膜の膜厚を0.1〜1nmの範囲で安定して形成できる。
【0018】
(5)本発明の一態様では、前記有機分子膜がアルカンチオール膜であり、前記アルカンは主鎖に1原子以上3原子以下の炭素を備えることができる。アルカンチオール膜の膜厚は主鎖炭素原子数と相関があり、3原子以下の炭素を備えることで有機分子膜の膜厚を0.1〜0.4nmの範囲で安定して形成できる。
【0019】
(6)本発明の一態様では、前記アルカンチオール膜の炭素の原子数が2以上であり、2以上の炭素原子が直鎖状の配列を有することができる。有機分子膜の分子鎖が基板の表面に対して60°以下で傾斜して直鎖状で配列される場合に、炭素数が2〜9であれば有機分子膜130の膜厚を0.1〜1nmの範囲で安定して形成でき、炭素数が2〜3であれば有機分子膜130の膜厚を0.1〜0.4nmの範囲で安定して形成できる。
【0020】
(7)本発明の他の態様は、光源と、前記光源の光が入射される上述した光学デバイスと、前記光学デバイスから発せられる流体試料中の標的物資を反映した光を検出する光検出部と、を有する検出装置に関する。この検出装置は、表面増強ラマン散乱を適用して高感度な検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1(A)は、ラマン散乱分光法の原理的な説明図であり、図1(B)は、ラマン散乱分光により取得されるラマンスペクトルの例である。
【図2】図2(A)は光デバイスの部分断面図であり、図2(B)は光デバイスの部分平面図である。
【図3】膜厚(炭素数)の異なる有機分子膜とラマンスペクトルピーク強度との関係を示す図である。
【図4】図4(A)は有機分子膜の膜厚(炭素数)とSERSスペクトル強度との関係を示し、図4(B)(C)は有機分子膜の炭素数と膜厚との関係を示す図である。
【図5】金属ナノ粒子の径が大きい金属微細構造の平面図である。
【図6】図6(A)(B)は金属ナノ粒子の径とホットサイトの数との関係を示す図である。
【図7】検出装置の概略図である。
【図8】金属表面上の有機分子膜を例示した図である。
【図9】有機分子膜の分子長を例示した図である。
【図10】有機分子膜の分子長と膜厚との関係を例示した図である。
【図11】C−C結合距離と分子長との関係を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。また、各図においては、各構成要素を図面上で認識し得る程度の大きさとするため、各構成要素の寸法や比率を実際のものとは適宜に異ならせてある。
【0023】
1.検出原理
図1(A)に、ラマン散乱分光法の原理的な説明図を示す。図1(A)に示すように、単一波長の光Linを標的分子X(標的物)に照射すると、散乱光の中には、入射光Linの波長λinと異なる波長λ2のラマン散乱光Ramが発生する。このラマン散乱光Ramと入射光Linとのエネルギー差は、標的分子Xの振動準位や回転準位や電子準位のエネルギーに対応している。標的分子Xは、その構造に応じた特有の振動エネルギーをもつため、単一波長の光Linを用いることで、標的分子Xを特定できる。
【0024】
例えば、入射光Linの振動エネルギーをV1とし、標的分子Xの振動エネルギーをV2とし、ラマン散乱光Ramの振動エネルギーをV3とすると、V3=V1−V2となる。すなわち、V3がV2に応じた振動エネルギーとなるため、ラマン散乱光Ramの波長λ2を測定することで、標的分子Xを特定できる。
【0025】
なお、入射光Linの大部分は、標的分子Xに衝突した後においても衝突前と同じ大きさのエネルギーを有している。この弾性的な散乱光をレイリー散乱光Rayという。例えば、レイリー散乱光Rayの振動エネルギーをV4とすると、V4=V1である。すなわち、レイリー散乱光Rayの波長λ1は、λ1=λinである。
【0026】
図1(B)に、ラマン散乱分光により取得されるラマンスペクトル(ラマンシフトとラマン散乱強度との関係)の例を示す。図1(B)に示すグラフの横軸は、ラマンシフトを示す。ラマンシフトとは、ラマン散乱光Ramの波数(振動数)と入射光Linの波数との差であり、標的分子Xの分子結合状態に特有の値をとる。
【0027】
図1(B)に示すように、B1に示すラマン散乱光Ramの散乱強度(スペクトルピーク)と、B2に示すレイリー散乱光Rayの散乱強度を比較すると、ラマン散乱光Ramの方が微弱であることがわかる。このように、ラマン散乱分光法は、標的分子Xの識別能力には優れている一方、標的分子Xをセンシングする感度自体は低い測定手法である。そのため、本実施形態では、表面増強ラマン散乱による分光法を用いて、センサーの高感度化を図っている。
【0028】
2.光デバイス
図2(A)(B)に、本発明の一実施形態に係る表面プラズモン共鳴センサーチップ(光デバイス)100の構造を模式的に示した。図2(A)はセンサーチップ100の断面図であり、図2(B)は金属微細構造の平面図であり、いずれもセンサーチップ100の一部を示している。
【0029】
図2(A)に示すセンサーチップ100は、金属微細構造120を形成する複数の金属粒子120Aが、図2(B)に示すように例えば縦横に周期配列されて、基板例えばガラス基板110上に形成されている。複数の金属粒子120Aは、Ag(銀)やAu(金)等の金属にて形成される。なお、金属微細構造120は、基板110上に凹凸パターンを形成し、その凹凸パターン上に金属膜を形成することで製造されても良い。金属粒子120Aの平面視での大きさ(外径)は1〜500nm、隣り合う2つの金属粒子120A間の間隔(微小間隙121の大きさ)は0.1〜20nmとすることができる。さらに好ましくは、金属粒子120Aの平面視での大きさ(外径)は10〜300nmとすることができ、金属粒子間の間隙121の大きさは0.1〜10nmとすることができる。
【0030】
図2(B)の顕微鏡写真で示す金属粒子120Aは銀(Ag)にて形成され、金属粒子120Aの直径は140nmであり、隣り合う2つの金属粒子120A間の最小間隔は10nmである。
【0031】
本実施形態では、金属微細構造120上に有機分子膜130を有する。有機分子膜130は分子を捕捉する吸着膜であり、金属微細構造120上にて自己組織化単分子膜SAMを形成する。有機分子膜130は、複数の金属粒子120Aが互いに形成する基板110の表面上の微小間隙121を覆うように配置され、複数の金属ナノ粒子120Aの外表面も覆っている。
【0032】
2.1.実施例1
本実施例1は、図3にてC1,C3,C16と表記される3種類のアルカンチオール(メタンチオールCH3SH:C1と表記、プロパンチオールC3H7SH:C3と表記、ヘキサデカンチオールC16H33SH:C16と表記)の1mMエタノール溶液をそれぞれ調製し、図2(B)に示す銀SERSチップ100を一晩浸して、図2(A)に示すようにアルカンチオール膜から成る有機分子膜130を形成した。
【0033】
この銀SERSチップ100の表面に、標的物質であるトルエンの気体を曝露させて、銀SERSチップ100を用いて検出されるSERSスペクトルを図3に示す。図3は、2mWレーザー光源からの波長632.8nmの光を、60秒間露光させることで得られるSERSスペクトルである。
【0034】
図3中のC1とC3のアルカンチオール膜130を形成した銀SERSチップ100では、トルエンに特徴的な785cm−1、1000cm−1、1030cm−1のピークが高感度に検出できており、銀表面だけでは検出できなかった分子の検出が可能となった。
【0035】
上記の結果をアルカンチオールの炭素数を横軸、トルエンの1000cm−1のピークを縦軸にとりプロットすると、図4(A)ようになる。図4(A)に示すように、トルエンの1000cm−1のピークは、C1と表記される炭素数1のメタンチオールCH3SH、C3と表記される炭素数3のプロパンチオールC3H7SH、C16と表記される炭素数16のヘキサデカンチオールC16H33SHの順で低くなる。有機分子膜130を形成する材料の炭素数は、図4(B)(C)に示すように、有機分子膜130の膜厚に反映する。C1と表記される炭素数1のメタンチオールCH3SHによる有機分子膜130の膜厚は0.13nmであるのに対して、C16と表記される炭素数16のヘキサデカンチオールC16H33SHによる有機分子膜130の膜厚は1.76nmである。膜厚の計算例については後述する。
【0036】
図4から、有機分子膜130の膜厚が薄い方が、金属表面からの距離による増強電場の減衰の影響を受けずに高感度に検出できる。膜厚1nmを超えると(炭素数10以上)では感度が低く、トルエン検出能力が低いことが分かる。これは局在型表面プラズモン共鳴(LSPR)による電場増強度Eの範囲が金属ナノ粒子120Aの表面から近いほど大きく、離れるにしたがって著しく減衰するためである(SERS強度∝E4)。このことから、有機分子膜130の膜厚は好ましくは0.1〜1nmであり、さらに好ましくは0.1〜0.4nmである。
【0037】
有機分子膜130がアルカンチオール膜である場合には、アルカンは主鎖に1原子以上9原子以下の炭素を備えると、図4(A)に示すように有機分子膜130の膜厚を0.1〜1nmとすることができる。また、有機分子膜130がアルカンチオール膜である場合には、アルカンは主鎖に1原子以上3原子以下の炭素を備えると、図4(A)に示すように有機分子膜130の膜厚を0.1〜0.4nmとすることができる。特に、金属ナノ粒子120Aの粒径が大きくホットサイト数が少ない構造では、金属ナノ粒子120A間の微小間隙121の長さを小さくして感度を向上させる必要があり、このとき有機分子膜130の厚みが制限される。微小間隙121の長さが小さい場合に、有機分子膜130の厚みが厚いと、微小間隙121の全体を有機分子130にて覆うことが困難となるからである。
【0038】
なお、炭素の原子数が2〜9である場合には、2以上の炭素原子が直鎖状の配列を有することが好ましい。有機分子膜130の分子鎖が基板110の表面に対して60°以下で傾斜して直鎖状で配列される場合に、炭素数が2〜9であれば有機分子膜130の膜厚を0.1〜1nmの範囲で安定して形成でき、炭素数が2〜3であれば有機分子膜130の膜厚を0.1〜0.4nmの範囲で安定して形成できる。
【0039】
ここで、有機分子膜(アルカンチオール膜)の分子構造と膜厚の関係について説明する。図8に示すように、この膜厚Tの定義はアルカンチオールが金属(例えばAg)表面から例えば60°傾いた際の金属側の末端S原子中心から反対側の末端C原子中心までの距離とした。
【0040】
膜厚Tの計算方法は、まずアルカンチオールの分子長(末端S原子から末端C原子の距離)を図9及び図11に示すように求め、次に60°傾いた際の膜厚を図10のようにして求めた。なお、膜厚Tの計算には、化学便覧(基礎編II 改訂2版、日本化学会編、丸善)に記載された結合距離として、C‐C結合距離=1.54Å、S‐C結合距離=1.82Å及びC‐H結合距離=1.10Åを用い、結合角を全て109.5°とした。
【0041】
メタンチオール(C1)
分子長={C-C結合距離×(炭素数-1)+S-C結合距離×1}×{sin(109.5°÷2)}
=(1.54×0+1.82×1)×0.8166
=1.49 Å
膜厚=分子長×sin60°
=1.49×√3/2
=1.29 Å
=0.13 nm
ヘキサデカンチオール(C16)
分子長={C-C結合距離×(炭素数-1)+S-C結合距離×1}×{sin(109.5°÷2)}
=(1.54×15+1.82×1)×0.8166
=20.35 Å
膜厚=分子長×sin60°
=20.35×√3/2
=17.62 Å
=1.76 nm
2.2.実施例2
図5は、図2(B)に示す金属微細構造に代えて、金属粒子120Aの粒径を上限の500nmとした例を示している。金属粒子120Aの粒径が大きくなると、図6(A)(B)に示すように、それに伴って局在表面プラズモン共鳴(LSPR)のホットサイトHSの数は減少する。図6(A)(B)はレーザービーム径Dに対して異なる粒子径の金属ナノ粒子120Aを示しており、粒子径が大きい図6(A)では粒子径の小さい図6(B)よりもホットサイトHSの数は少なくなっている。
【0042】
ここで、SERS強度は、ホットサイト数をNとし、微小間隙121の大きさをGとすると、SERS強度∝N/Gとなる。
【0043】
このように、金属粒子120Aの粒径が大きな構造ではホットサイト数Nが小さいため、金属粒子間の間隙121の大きさGを小さくして感度を向上させる必要がある。上述の通り、金属粒子間の間隙121の大きさGが小さくなると分子長の大きな分子は構造間に入り込めなくなるため、金属粒子間の間隙121の大きさGの大きさによって有機分子膜130の膜厚は限定される。そのため、実施例2のように比較的大きな粒径の金属粒子120Aを用いる場合には、有機分子膜130の膜厚を0.1〜0.4nmとするのが適している。
【0044】
3.検出装置
図7は、上述したセンサーチップ(光デバイス)100(図7では符号260)を備えた検出装置200の一例を示す模式図である。標的物質(図示せず)のA方向から検出装置200に搬入されてB方向に搬出される。励起光源210から出射されたレーザーはコリメータレンズで平行光にされ、偏光制御素子230を通過し、ダイクロイックミラー240によってセンサーチップ260の方向に導かれる。レーザーは対物レンズ250で集光され、センサーチップ260に入射する。このとき、センサーチップ260の表面(例えば、金属微細構造120が形成された面)には標的物質(図示せず)が配置されている。なお、ファン(図示せず)の駆動を制御することにより、標的物質は搬入口から搬送部内部に導入され、排出口から搬送部外部に排出されるようになっている。
【0045】
センサーチップ260表面へレーザー光が入射すると、金属微細構造120の近傍には表面プラズモン共鳴SPRを介して極めて強い増強電場が生じる。増強電場に1〜数個の標的物質が浸入し、有機分子膜130にて吸着されると、そこからラマン散乱光が発生する。ラマン散乱光は、対物レンズ250を通過し、ダイクロイックミラー240によって光検出器280の方向に導かれ、集光レンズ270で集光され、光検出器(例えば、回折格子型分光器)280に入射する。そして、光検出器280によりスペクトル分解され、図4(B)に示されたようなスペクトル情報が得られる。この構成によれば、上述したセンサーチップ100を備えているため、センサー感度が向上され、ラマン散乱スペクトルから標的物質を特定することが可能となる。
【0046】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【0047】
例えば、有機分子膜130を形成させる試薬としては、金属微細構造120上に自己組織化単分子膜(SAM)を形成する試薬を用いることができ、この試薬としてチオール基、ジスルフィド基、カルボニル基などを含むものを用いることができる。なお、従来はSAM形成試薬としては、鎖長が長いもの(膜厚が厚い)の方が、分子間の分子間相互作用が強固なので安定性が高く規則的に配列しやすいため、鎖長が長いもの(膜厚が厚い)よく用いられてきた。しかし、SERSに利用する場合はLPSRの電場増強の及ぶ範囲を効率よく利用するためには、鎖長の短いものの方が有利であることは上述の通り実験により明らかになった。なお、有機分子膜130の形成は液相に限らず気相であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
100,260 光デバイス、110 基板、120 金属微細構造、
120A 金属粒子、121 金属粒子間の間隙、130 有機分子膜、
200 検出装置、210 光源、280 光検出器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面に形成される複数の金属粒子から成る金属微細構造と、
前記金属微細構造上に形成される有機分子膜と、を備え、
前記複数の金属粒子は、平面視での粒子径が1〜500nmであり、隣り合う金属粒子の間隔が0.1〜20nmであり、
前記有機分子膜は分子を捕捉する吸着膜であり、
前記有機分子膜は、隣り合う金属粒子の間隙を覆うように配置されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光学デバイスにおいて、
前記有機分子膜の膜厚が0.1〜1nmであることを特徴とする光学デバイス。
【請求項3】
請求項1に記載の光学デバイスにおいて、
前記有機分子膜の膜厚が0.1〜0.4nmであることを特徴とする光学デバイス。
【請求項4】
請求項2に記載の光学デバイスにおいて、
前記有機分子膜がアルカンチオール膜であり、
前記アルカンは主鎖に1原子以上9原子以下の炭素を備えることを特徴とする光学デバイス。
【請求項5】
請求項3に記載の光学デバイスにおいて、
前記有機分子膜がアルカンチオール膜であり、
前記アルカンは主鎖に1原子以上3原子以下の炭素を備えることを特徴とする光学デバイス。
【請求項6】
請求項4または5に記載の光学デバイスにおいて、
前記炭素の原子数が2以上であり、2以上の炭素原子が直鎖状の配列を有することを特徴とする光学デバイス。
【請求項7】
光源と、
前記光源の光が入射される請求項1乃至6のいずれかに記載の光学デバイスと、
前記光学デバイスから発せられる流体試料中の標的物資を反映した光を検出する光検出部と、
を有することを特徴とする検出装置。
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面に形成される複数の金属粒子から成る金属微細構造と、
前記金属微細構造上に形成される有機分子膜と、を備え、
前記複数の金属粒子は、平面視での粒子径が1〜500nmであり、隣り合う金属粒子の間隔が0.1〜20nmであり、
前記有機分子膜は分子を捕捉する吸着膜であり、
前記有機分子膜は、隣り合う金属粒子の間隙を覆うように配置されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光学デバイスにおいて、
前記有機分子膜の膜厚が0.1〜1nmであることを特徴とする光学デバイス。
【請求項3】
請求項1に記載の光学デバイスにおいて、
前記有機分子膜の膜厚が0.1〜0.4nmであることを特徴とする光学デバイス。
【請求項4】
請求項2に記載の光学デバイスにおいて、
前記有機分子膜がアルカンチオール膜であり、
前記アルカンは主鎖に1原子以上9原子以下の炭素を備えることを特徴とする光学デバイス。
【請求項5】
請求項3に記載の光学デバイスにおいて、
前記有機分子膜がアルカンチオール膜であり、
前記アルカンは主鎖に1原子以上3原子以下の炭素を備えることを特徴とする光学デバイス。
【請求項6】
請求項4または5に記載の光学デバイスにおいて、
前記炭素の原子数が2以上であり、2以上の炭素原子が直鎖状の配列を有することを特徴とする光学デバイス。
【請求項7】
光源と、
前記光源の光が入射される請求項1乃至6のいずれかに記載の光学デバイスと、
前記光学デバイスから発せられる流体試料中の標的物資を反映した光を検出する光検出部と、
を有することを特徴とする検出装置。
【図1】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図5】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図5】
【公開番号】特開2013−96939(P2013−96939A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242141(P2011−242141)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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