説明

光ファイバ素線及び光ファイバ素線の製造方法

【課題】良好なZSA特性を維持しつつ被覆樹脂の硬化性が良好な光ファイバ素線の製造方法を提供する。
【解決手段】石英ガラスからなる光ファイバ13の外周に樹脂組成物をコーティングして硬化することにより被覆層14を形成する際に、該樹脂組成物が、ベース樹脂と下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤を含有量が0.5〜5.0質量%含む。


(式中、XはOCH又はOCOCHを表し、Yは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスからなる光ファイバの外周に放射線硬化型樹脂組成物をコーティングして硬化することにより被覆層が形成された光ファイバ素線及び光ファイバ素線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
純シリカなどの石英系ガラスからなる光ファイバに、樹脂層を被覆した構造の光ファイバ素線は、通常、線引機で石英系ガラス母材を溶融線引きして光ファイバを形成した後、その外周にコーティングダイス等によって硬化性樹脂組成物を塗布し、硬化させることにより形成される。
【0003】
このような光ファイバ素線においては様々な特性が要求されるが、その中でZSA(Zero Stress Aging)特性(高温高湿度等の過酷な状況における無応力での強度劣化)は、高温高湿雰囲気下において樹脂被覆層が耐久性を有し被覆された光ファイバの破断強度低下を防止するための特性である。ZSA特性の向上を目的とした光ファイバ素線においては、例えば、特許文献1では、シランカップリング剤としてメルカプト基含有シラン、例えばγ−メルカプトプロピルトリメトキシシランが使用されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1のようにメルカプト基含有シランを使用した場合、ZSA特性等の特性の向上は期待できるが、硬化性樹脂組成物中に存在するメルカプト基が重合阻害剤として働き、被覆樹脂の硬化性が低下することが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−95706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の光ファイバ素線における上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、良好なZSA特性を維持しつつ被覆樹脂の硬化性が良好な光ファイバ素線及び光ファイバ素線の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、シランカップリング剤としてメルカプト基含有シランを含む被覆樹脂の場合、メルカプト基の水素原子を適切な置換基とすることでメルカプト基の極性を低下させれば重合阻害剤としての働きを抑制できることを見出した。
【0008】
また、シランカップリング剤を被覆樹脂中で光ファイバ側に局在させるために被覆樹脂中からガラス界面へのシランカップリング剤の移動を容易にする方法を検討したところ、一般的な光ファイバ用被覆樹脂ではグリコール系ジオールを用いたウレタンアクリレートが使用されており被覆樹脂はマクロ的には極性が高いことから、シランカップリング剤の極性を低下させることが有効であることを見出した。
【0009】
さらに、一般的に分子構造の小さな分子ほど移動性が高いことから、例えばγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(以下「MPTS」ともいう)をベースにシランカップリング剤の設計を検討した場合、トリメチレン基の部分(プロピルの部分)については適切な長さを維持することで移動性が損なわれないと考えられた。またSi原子に結合するメトキシ基部分は加水分解によりOH基となるため、縮合反応が進むと分子量の増大が懸念される。したがって、分子量の増大による移動性の低下を回避するために、当該メトキシ基部分については、ガラス界面までの移動中の加水分解・縮合反応を抑制して加水分解・縮合速度を許容範囲に維持できる置換基とすることを見出した。
本発明は、上記知見に基づいて達成されたものである。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0010】
(1)石英ガラスからなる光ファイバの外周に、光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物をコーティングして硬化することにより光ファイバに接する被覆層が形成された光ファイバ素線であって、
前記光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物が、ベース樹脂と下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤とを含む光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物であって、
該シランカップリング剤の含有量が0.5〜5.0質量%であることを特徴とする光ファイバ素線。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、XはOCH又はOCOCHを表し、Yは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0013】
(2)石英ガラスからなる光ファイバの外周に光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物をコーティングして硬化することにより光ファイバに接する被覆層を形成する光ファイバ素線の製造方法であって、前記光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物が、ベース樹脂と上記一般式(A)で示されるシランカップリング剤とを含む光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物であって、
該シランカップリング剤の含有量が0.5〜5.0質量%であることを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物において、特定の構造のシランカップリング剤を、規定の割合で含有することにより、良好なZSA特性を維持しつつ被覆樹脂の硬化性が良好なファイバ素線及び光ファイバ素線の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の光ファイバ素線の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の光ファイバ素線及び光ファイバ素線の製造方法についての好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明の光ファイバ素線は、石英ガラスからなる光ファイバの外周に、光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物をコーティングして硬化することにより光ファイバに接する被覆層が形成された光ファイバ素線であって、該光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物が、ベース樹脂と下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤とを含み、該シランカップリング剤の含有量は0.5〜5.0質量%である。
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、XはOCH又はOCOCHを表し、Yは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0020】
本発明におけるベース樹脂としては、放射線硬化性を有するものであれば特に制限はされないが、例えば、オリゴマー、モノマー、光開始剤を含有するものが好ましい。
【0021】
該オリゴマーとしては、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、或いはそれらの混合系が挙げられる。
【0022】
該ウレタンアクリレートとしては、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物、水酸基含有アクリレート化合物、を反応させて得られるものが挙げられる。
ポリオール化合物としては、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、などが挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、2,4-トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、などが挙げられる。水酸基含有アクリレート化合物としては、2-ヒドロキシアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、1,6-ヘキサンジオールモノアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、などが挙げられる。
【0023】
該モノマーとしては、環状構造を有するN−ビニルモノマー、例えばN−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルフォリンが挙げられる。これらのモノマーを含むと硬化速度が向上するので好ましい。この他、イソボルニルアクリレート、トリシクロデカニルアクリレート、ベンジルアクリレート、ジシクロペンタニルアクレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレートなどの単官能モノマーや、ポリエチレングリコールジアクリレートまたはトリシクロデカンジイルジメチレンジアクリレートなどの多官能モノマー、が用いられる。
【0024】
該光開始剤としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等が挙げられる。また、酸化防止剤、光増感剤などが添加されていても良い。
【0025】
2.シランカップリング剤
本発明におけるシランカップリング剤は、上記一般式(A)で示される。
式中、XはOCH又はOCOCHであり、好ましくはOCHである。Xをこれらの基とすることで、樹脂組成物中でのシランカップリング剤の加水分解・縮合速度が低下し、シランカップリング剤の分子量の増大を抑制することができる。これにより、シランカップリング剤の樹脂組成物中での移動性を維持することができる。
式中、Yは、炭素数1〜3のアルキレン基を表し、具体的には、メチレン基、エチレン基又はプロピレン基であり、好ましくはメチレン基である。Yを炭素数が3以下の長さとすることで、シランカップリング剤の移動性を向上させることができる。
式中、Zは炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましくはメチル基である。Zをこれらの基とすることで、メルカプト基の極性を低下させることができるので、樹脂組成物の重合阻害を抑制でき、またシランカップリング剤の移動性の向上にも寄与する。
【0026】
このようなシランカップリング剤は、例えば、下記反応式に示すように、MPTSと塩基の反応によって生成するチオラートアニオンを、ヨウ化メチルなどのハロゲン化アルキルと反応させることにより得ることができる。
【0027】
【化3】

【0028】
本発明におけるシランカップリング剤の含有量は、樹脂組成物中、0.5〜5.0質量%である。含有量をこの範囲とすることで、硬化後の樹脂の硬化性とZSA特性の向上のバランスをとることができる。
【0029】
本発明の一実施形態に係る光ファイバ素線10を図1に示す。光ファイバ素線10は、石英ガラスからなる光ファイバ13の外周に、本発明の光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物により形成された内層14を含む被覆層16を有する。なお光ファイバ13は、コア部11とクラッド部12とからなり、例えば、コア部にはゲルマニウムを添加した石英を用いることができ、クラッド部には純石英、或いはフッ素が添加された石英を用いることができる。
【0030】
図1において、例えば、光ファイバ13の径(D2)は125μm程度である。またコア部11の径(D1)は7〜15μm程度であることが好ましい。被覆層16は内層14と外層15の二層からなり、内層14の厚さは12〜45μmである。シランカップリング剤が含まれる被覆層は内層14であり、その弾性率を0.8MPa以下とするものが好ましい。その外に弾性率が600〜1500MPaの被覆層を設けて機械的強度を大きくする。
【0031】
(光ファイバ素線の製造方法)
本発明の光ファイバ素線の製造方法は、石英ガラスからなる光ファイバの外周に、本発明の光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物をコーティングして硬化することにより被覆層を形成する方法である。
例えば、石英系ガラス母材を溶融紡糸して得られた光ファイバの周囲に本発明の光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物を塗布し、紫外線照射装置内で紫外線を照射することで該樹脂組成物を硬化させる方法を一実施態様として挙げることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明に係る実施例及び比較例を用いた評価試験の結果を示し、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1〜4,比較例1〜4)
[光ファイバ素線10の作製]
光ファイバ13は、石英を主成分とするコア径(D1)が8μm、クラッド径(D2)が125μmのもの(比屈折率差Δnは1.0%)を使用した。そして、該光ファイバ13の外周面に、前記した方法に準じて、下記の紫外線硬化性樹脂組成物を硬化させてなる被覆層16を二層(内層14と外層15)被覆して、外層15の外径(D3)が250μmとなる光ファイバ素線10を作製した。
【0034】
[被覆層16を構成するための紫外線硬化型樹脂組成物]
オリゴマーとして、ポリプロピレングリコール、2,4-トリレンジイソシアネート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、をおおよそ1:2:2の割合で反応させたものを用い、モノマーとして、N-ビニルカプロラクタム、イソボルニルアクリレート、を加えたものをベース樹脂とした。このベース樹脂100質量部に対し、光開始剤として2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイドを1質量部、を添加し、樹脂組成物を調整した。
なお、内側保護被覆層(内層14)形成用の樹脂組成物には、シランカップリング剤として下記表1に記載のものを表1に記載の添加量になるように添加した。
【0035】
[光ファイバ素線10の評価]
作製した光ファイバ素線について、以下の評価試験(疲労特性、硬化性、ZSA特性)を行った。結果を表1に示す。
【0036】
(試験方法)
1.疲労特性
Teccordia GR−20−COREの規定による動疲労特性を評価し、20未満を×、20以上−23未満を○、23以上を◎とした。
2.硬化性
紫外線の照射量を30mJ/cmとして硬化させた樹脂フィルムの弾性率と紫外線の照射量を300mJ/cmとして硬化させた樹脂フィルムの弾性率の比が0.80未満を×、0.80以上を○とした。
3.ZSA特性
光ファイバ素線には曲げ等の応力が加わらないようにして、温度85℃、相対湿度85%の高温高湿度雰囲気下にそれぞれ30日間放置し、そのような劣化環境に置かなかったものに比べて、破断強度が80%以上であったものを○、80%未満であったものを×とした。
【0037】
【表1】

【0038】
なお、表1中に記載のシランカップリング剤A〜Bはそれぞれ以下の通りである。
【0039】
【化4】

【0040】
上記表1の結果に示すように、上記一般式(A)で示されるシランカップリング剤を規定量含む光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物を用いた実施例1〜4の場合、疲労特性、硬化性、ZSAが全て良好な信頼性の高い光ファイバ素線を得ることができた。
シランカップリング剤を使用しない例、式(A)で示されるもの以外のシランカップリング剤を使用した例、式(A)で示されるシランカップリング剤を所定の範囲外の量使用した場合は、ZSA特性または硬化性が不良であった。
【符号の説明】
【0041】
10 光ファイバ素線、11 コア部、12 クラッド部、13 光ファイバ、14 内層(被覆層)、15 被覆(外)層、16 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスからなる光ファイバの外周に、光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物をコーティングして硬化することにより光ファイバに接する被覆層が形成された光ファイバ素線であって、
前記光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物が、ベース樹脂と下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤とを含む光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物であって、
該シランカップリング剤の含有量が0.5〜5.0質量%であることを特徴とする光ファイバ素線。
【化1】


(式中、XはOCH又はOCOCHを表し、Yは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項2】
石英ガラスからなる光ファイバの外周に光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物をコーティングして硬化することにより光ファイバに接する被覆層を形成する光ファイバ素線の製造方法であって、前記光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物が、ベース樹脂と下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤とを含む光ファイバ被覆用放射線硬化型樹脂組成物であって、
該シランカップリング剤の含有量が0.5〜5.0質量%であることを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【化1】


(式中、XはOCH又はOCOCHを表し、Yは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Zは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)

【図1】
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【公開番号】特開2013−82575(P2013−82575A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222826(P2011−222826)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】