説明

光不揮発性メモリ

【課題】光信号を直接不揮発的に記憶する光不揮発性メモリを提供すること。
【解決手段】第1導電型を有する第1半導体層12と、前記第1導電型とは異なる第2導電型を有する第2半導体層16と、前記第1半導体層と前記第2半導体層とに挟まれ、逆バイアスが印加されることにより受光し、順バイアスが印加されることにより発光する活性層14と、前記活性層の受光する光の強さによって磁化方向が変化する強磁性体層20と、を具備する光不揮発性メモリ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光不揮発性メモリに関し、特に強磁性体層を有する光不揮発性メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
光信号を用いた光回路技術が開発されている。光回路においては、電気回路に比べ高速動作が可能である。一方、電気回路においては、多くのメモリが用いられている。例えば、強磁性体の磁化方向により、データを不揮発的に記憶するMRAM(Magnetic Random Access Memory)が開発されている。
【0003】
非特許文献1においては、強磁性半導体に電界を加えることにより磁化方向を変化させること可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nature Vol. 455 pp. 515-518
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光回路において、光信号を直接不揮発的にメモリする光不揮発性メモリが求められている。本発明は、光信号を直接不揮発的に記憶する光不揮発性メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1導電型を有する第1半導体層と、前記第1導電型とは異なる第2導電型を有する第2半導体層と、前記第1半導体層と前記第2半導体層とに挟まれ、逆バイアスが印加されることにより受光し、順バイアスが印加されることにより発光する活性層と、前記活性層の受光する光の強さによって磁化方向が変化する強磁性体層と、を具備することを特徴とする光不揮発性メモリである。本発明によれば、光信号を直接不揮発的に記憶する光不揮発性メモリを提供することができる。
【0007】
上記構成において、前記磁化方向によって前記活性層の発光する光の偏光方向が変化する構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記第1半導体層、前記活性層、前記第2半導体層および前記強磁性体層は、この順に積層されている構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記強磁性体層の前記第2半導体層と反対側に設けられた電極を具備する構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記活性層が受光する際は、前記第2半導体層と前記電極との間の電界に応じ、前記磁化方向が変化する構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記活性層が発光する際は、前記電極から前記強磁性体層に注入されたキャリアが前記磁化方向に応じスピン偏極し、前記第2半導体層に注入される構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記強磁性体層と前記第2半導体層との間に設けられたトンネル絶縁膜を具備する構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記強磁性体層と前記電極との間に設けられた絶縁膜を具備する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光信号を直接不揮発的に記憶する光不揮発性メモリを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例に係る光不揮発性メモリの断面図である。
【図2】図2(a)は、実施例1に係る光不揮発性メモリのエネルギーバンド図、図2(b)は、キャパシタで示した光不揮発性メモリの等価回路である。
【図3】図3(a)および図3(b)は、活性層が受光した際のそれぞれエネルギーバンド図および等価回路である。
【図4】図4は、活性層が発光する際のエネルギーバンド図である。
【図5】図5は、各層の材料と膜厚の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、実施例に係る光不揮発性メモリの断面図である。図1のように、第1電極26、第1半導体層12、活性層14、第2半導体層16、トンネル絶縁膜18、強磁性体層20、絶縁膜22および第2電極24が順次積層されている。第1半導体層12は第1導電型を有する。第2半導体層16は第1導電型とは異なる第2導電型を有する。活性層14は、第1半導体層12と第2半導体層16とに挟まれている。活性層14は、例えば量子井戸構造であり、例えば多重量子井戸構造でもよい。第1半導体層12、活性層14および第2半導体層16は、ダイオード10を形成する。活性層14は、ダイオード10に逆バイアスが印加されることにより光30を受光する。また、活性層14は、ダイオード10に順バイアスが印加されることにより光50を発光する。なお、光30および50は、図1のように、活性層14の側面から入射および出射してもよいが、第2半導体層16または強磁性体層20から入射および出射してもよい。また、第1半導体層12を介し入射および出射してもよい。また、光30の入射と光50の出射とは別の方向から行ってもよい。第1電極26は、第1半導体層12とオーミック接触している。第1電極26は、第1半導体層12にキャリアを注入する、または第1半導体層12らキャリアを受ける。第1半導体層12、活性層14および第2半導体層16は、例えばIII−V族半導体からなることが好ましい。
【0018】
強磁性体層20は、非特許文献1のGaMnAsのように、印加される電界の強さに応じ磁化方向が変化する。これにより、強磁性体層20は、活性層14が受光する光の強さにより磁化方向が変化する。さらに、強磁性体層20の磁化方向に依存し活性層14が発光する光の偏光方向が異なる。これらについては、図3(a)から図5において詳細に説明する。トンネル絶縁膜18は、キャリアがトンネル伝導する程度の膜厚を有しており、スピン偏極したキャリアを強磁性体層20から第2半導体層16に注入する。第2電極24は絶縁膜22を介し強磁性体層20に電界を印加する。
【0019】
図2(a)は、実施例1に係る光不揮発性メモリのエネルギーバンド図、図2(b)は、キャパシタで示した光不揮発性メモリの等価回路である。図2(a)を参照し、この例では、第1半導体層12はp型であり、第2半導体層16はn型である。また、強磁性体層20は半導体である。Ecは伝導帯の底(または単に伝導帯ともいう)、Evは価電子帯の頂点(または単に価電子帯ともいう)を示している。第1半導体層12および第2半導体層16に比べ活性層14のバンドギャップエネルギーは小さい。トンネル絶縁膜18および絶縁膜22は、第2半導体層16および強磁性体層20の伝導帯Ecおよび価電子帯Evに対し障壁となっている。強磁性体層20は磁化方向40に磁化している。電源60より第1電極26と第2電極24とにダイオード10が逆バイアスとなるように電圧が印加されている。すなわち、第1電極26に負電圧、第2電極24に正電圧が印加されている。
【0020】
図2(b)のように、トンネル絶縁膜18から絶縁膜22は等価的にはキャパシタC1とみなせる。同様に、ダイオード10は等価的にキャパシタC2とみなせる。キャパシタC1およびC2には、それぞれ、電荷+Qおよび−Qが蓄積されている。
【0021】
図3(a)および図3(b)は、活性層が受光した際のそれぞれエネルギーバンド図および等価回路である。図3(a)のように、活性層14に光30が照射されると、活性層14内に電子32−ホール34対が生成される。ダイオード10に逆バイアスが印加されているため、電子32は第2電極24側に、ホール34は第1電極26側に伝導する。第2電極24側に伝導した電子36は、トンネル絶縁膜18によりせき止められる。これにより、図3(b)のように、キャパシタC1には、+Q+δq、−Q−δqの電荷が蓄積される。また、キャパシタC2にも、+Q+δq、−Q−δqの電荷が蓄積される。これにより、キャパシタC1に印加される電界が変調される。強磁性体層20に印加される電界の強さが変調されると、非特許文献1に記載されているように強磁性体層20の磁化方向40が変化する。これにより、活性層14が受光した光の強度の情報を強磁性体層20に不揮発的に記憶することができる。
【0022】
図4は、活性層が発光する際のエネルギーバンド図である。図4のように、ダイオード10が順バイアスとなるように、第1電極26と第2電極24とに電圧を印加する。すなわち、第1電極26に正電圧、第2電極24に負電圧を印加する。第2電極24から絶縁膜22を介して強磁性体層20に注入された電子は、強磁性体層20の磁化方向に依存しスピン偏極する。スピン偏極した電子44はトンネル絶縁膜18を介し第2半導体層16に注入される。順バイアスのため、スピン偏極した電子46と第1電極26から注入されたホール48は活性層14に伝導する。活性層14において、電子46とホール48とが結合し光50が発光する。このとき、電子46のスピン偏極方向に依存し、発光する光50の右回りと左回りの円偏光の割合が変化する。これにより、強磁性体層20に記憶されている情報を読み出すことができる。このように、発光における円偏光度から磁化の情報を読み取ることができる。
【0023】
図5は、各層の材料と膜厚の例を示す図である。図5のように、第1電極26は、第1半導体層12側からCr膜およびAuZn膜の積層膜であり、膜厚は250nmである。第1電極26は、第1半導体層12とオーミック接触していることが好ましい。第1半導体層12は、膜厚が200nmのp型のInPと膜厚が200nmのInAlAsである。活性層14は、膜厚が100nmのp型のInGaAs、膜厚が60nmのn型のInGaAs(ドーパント濃度は1×1017cm−3)および膜厚が30nmのn型のInGaAs(ドーパント濃度は1×1018cm−3)である。第2半導体層16は、膜厚が30nmのn型のInAlAs(ドーパント濃度は1×1018cm−3)である。
【0024】
トンネル絶縁膜18は、膜厚が2−3nmの規則性MgOである。強磁性体層20は、膜厚が5nmのGaMnAsまたはFePtである。絶縁膜22は、膜厚が20nmのZrO(酸化ジルコニウム)である。第2電極24は、絶縁膜22側からCr膜(10nm)およびAu膜(20nm)の積層膜であり、膜厚は30nmである。強磁性体層20をGaMnAsとすることにより、非特許文献1のように、電界により磁化方向を変化させやすいが、MgO等の絶縁膜上の成長が難しい。そこで、強磁性体層20は、FePt等の金属またはハーフメタルを用いることもできる。
【0025】
図5の例以外にも、例えば第1半導体層12をGaAs基板とAlGaAs層、活性層14をGaAs層、第2半導体層16をAlGaAs層、トンネル絶縁膜18を第2半導体層16よりバンドギャップの大きいAlGaAs層、強磁性体層20をGaMnAs層、絶縁膜22を酸化ジルコニウムとすることができる。AlGaAs層等の半導体をトンネル絶縁膜18とすることにより、強磁性体層20としてGaMnAs等の半導体強磁性体を簡単に成長することもできる。
【0026】
実施例によれば、図3(a)において説明したように、活性層14の受光する光の強さによって強磁性体層20の磁化方向40が変化する。これにより、光信号の情報を強磁性体層20の磁化方向40により不揮発的に記憶することができる。このように、光信号の情報を直接不揮発性メモリに記憶させることができる。よって、光信号を電気信号に変換し、電気信号の情報を不揮発性メモリに記憶するのに比べ、簡単な構成で光信号の記憶を行なうことができる。
【0027】
また、図4において説明したのように、強磁性体層20の磁化方向40によって活性層14の発光する光の偏光方向が変化する。例えば、強磁性体層20の磁化方向40が異なると、活性層14が発光する光の偏光方向が異なる。これにより、強磁性体層20に記憶された情報を光信号として読み出すことができる。このように、不揮発性メモリ内の情報を直接光信号として読み出すことができる。よって、不揮発性メモリの情報を電気信号で読み出し、光信号に変換するのに比べ、簡単な構成で不揮発性メモリの情報を光信号として読み出すことができる。
【0028】
さらに、図1のように、第1半導体層12、活性層14、第2半導体層16および強磁性体層20は、この順に積層して形成されている。これにより、光不揮発性メモリの小型化が可能となる。
【0029】
さらに、強磁性体層20の第2半導体層16と反対側に第2電極24が設けられている。これにより、図3(a)のように、第2半導体層16と第2電極24との間の電界が、活性層14において受光した光の強さにより変化する。よって、活性層14が受光した際に、第2半導体層16と第2電極24との間の電界に応じ、強磁性体層20の磁化方向40を変更できる。さらに、図4のように、活性層14が発光する際に、第2電極24から強磁性体層20に注入されたキャリアが磁化方向40に応じスピン偏極する。このスピン偏極したキャリアは第2半導体層16に注入される。
【0030】
さらに、強磁性体層20と第2半導体層16との間には、トンネル絶縁膜18が設けられていることが好ましい。これにより、強磁性体層20から第2半導体層16へのスピン偏極したキャリアの注入効率を向上できる。
【0031】
さらに、強磁性体層20と第2電極24との間に絶縁膜22が設けられていることが好ましい。これにより、強磁性体層20と第2電極24とを電気的に分離できる。トンネル絶縁膜18および絶縁膜22の膜厚は、図3(a)のように、ダイオード10に逆バイアスを印加した際には、キャリアがトンネル伝導せず、図4のように、ダイオード10に順バイアスを印加した際には、キャリアがトンネル伝導する程度の膜厚であることが好ましい。
【0032】
図2(a)から図5においては、第1導電型がp型であり、第2導電型がn型の例を説明したが、第1導電型がn型であり、第2導電型がp型でもよい。この場合、スピン偏極するキャリアはホールである。また、第1半導体層12、活性層14および第2半導体層16は、例示した半導体以外の半導体を用いることもできる。例えば、第1半導体層12、活性層14および第2半導体層16として、III−V族化合物半導体を用いることができる。第1半導体層12、活性層14および第2半導体層16は、光信号の波長に応じ選択することができる。例えば、光通信によく用いられる波長が1.3μmまたは1.55μmの光信号を記憶するためには、活性層14としてInGaAsを用いることが好ましい。さらに、短波長の光信号を記憶するためには、活性層14としてGaAsを用いることが好ましい。より短波長の光信号を記憶するためには、活性層14としてGaN等の窒化物半導体を用いることが好ましい。このように、活性層14の材料を適宜選択することにより、活性層14が受光する光および発光する光を、赤外線、可視光および紫外線の中から所望の波長の光とすることができる。
【0033】
以上、発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
10 ダイオード
12 第1半導体層
14 活性層
16 第2半導体層
18 トンネル絶縁膜
20 強磁性体層
22 絶縁膜
24 第2電極
26 第1電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型を有する第1半導体層と、
前記第1導電型とは異なる第2導電型を有する第2半導体層と、
前記第1半導体層と前記第2半導体層とに挟まれ、逆バイアスが印加されることにより受光し、順バイアスが印加されることにより発光する活性層と、
前記活性層の受光する光の強さによって磁化方向が変化する強磁性体層と、
を具備することを特徴とする光不揮発性メモリ。
【請求項2】
前記磁化方向によって前記活性層の発光する光の偏光方向が変化することを特徴とする請求項1記載の光不揮発性メモリ。
【請求項3】
前記第1半導体層、前記活性層、前記第2半導体層および前記強磁性体層は、この順に積層されていることを特徴とする請求項1または2記載の光不揮発性メモリ。
【請求項4】
前記強磁性体層の前記第2半導体層と反対側に設けられた電極を具備することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の光不揮発性メモリ。
【請求項5】
前記活性層が受光する際は、前記第2半導体層と前記電極との間の電界に応じ、前記磁化方向が変化することを特徴とする請求項4記載の光不揮発性メモリ。
【請求項6】
前記活性層が発光する際は、前記電極から前記強磁性体層に注入されたキャリアが前記磁化方向に応じスピン偏極し、前記第2半導体層に注入されることを特徴とする請求項4または5記載の光不揮発性メモリ。
【請求項7】
前記強磁性体層と前記第2半導体層との間に設けられたトンネル絶縁膜を具備することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の光不揮発性メモリ。
【請求項8】
前記強磁性体層と前記電極との間に設けられた絶縁膜を具備することを特徴とする請求項4から6のいずれか一項記載の光不揮発性メモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−38278(P2013−38278A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174297(P2011−174297)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構さきがけ研究「界面の構造と制御」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】