説明

光回折ICタグラベル

【課題】非接触ICタグと光回折構造体を同一基材に形成し、複数の情報記録を可能とすることで高度な製品情報管理システムを構築する事が出来る光回折ICタグラベルを提供する。
【解決手段】本発明の光回折ICタグラベル1は、基材シートに、アンテナ32とICチップ31からなる非接触ICタグ3と、レーザー光による情報記録が可能な光回折構造体2が形成され、光回折構造体形成面の他方側面には粘着層が形成されていることを特徴とする。本発明の光回折ICタグラベルは製品情報管理システムとして利用可能であり、当該製品の流通過程において、同様に当該製品に添付する当該光回折ICタグラベル1の非接触ICタグ3と光回折構造体2に、取り扱い店に関する情報を記録することで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高級ブランド品等の流通管理における認証性の向上を目的とするものである。詳しくは、非接触ICタグに描画可能なホログラム等の光回折構造体を付与したラベルと、それを用いた製品情報管理システム、等に関する。
従って、本発明の適用分野は、バッグ、カバン、時計等の輸出入高級ブランド品や家電製品、医薬品、化粧品等の純正品認証や保護、音楽・映像・ゲームソフト等の著作権保護、等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光回折構造体を物品に持たせて真贋判断することは行われており、本願発明に近接した先行技術を列挙すれば、以下のようになる。
特許文献1の請求項4は、非接触ICタグにホログラム層を設けることを記載し、非接触ICタグの偽造防止を目的としている。しかし、ホログラム自体の完全な偽造は困難であるが、類似の見え方をする模造品の製造は可能である。
そうすると、そのような模造品を付された場合は確実、迅速な真贋判断は困難である。また、ICタグにだけ記録したデータは目視できないので読み取り装置が無い場合は情報を確認できない問題がある。
【0003】
特許文献2や特許文献3には、光回折構造体を有する物品の製造方法やホログラム付きカードが記載されている。これらの文献は、光回折構造体と光反射層を有する物品にレーザー光を照射して、光反射層を破壊して情報を記録する技術に関するが、本願のように非接触ICタグと一体になった光回折構造体に関するものではない。
したがって、このように光回折構造体だけを有する類似品の作製はある程度可能であって、市販のレーザーマーカがあれば、当該類似品に文字、数字等の個別情報の記録ができ、改ざんされ易い問題がある。
また、非接触ICタグの情報をリライト記録層またはサーマル記録層に表示させることも行われているが、リライトやサーマル方式は表示情報を改ざんされ易い問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2001−13874号公報
【特許文献2】特開2000−47555号公報
【特許文献3】特公平6−85102号公報
【0005】
特許文献4には、商品に対して割り当てられた個別商品情報をホログラムの形式でホログラム情報記録媒体を商品と一対にして流通させ、流通拠点でホログラムに記録された個別商品情報を読取りし、読取った商品情報に基づき管理サーバとのデータ照合により商品管理を行うことが記載されている。
しかし、ホログラムに記録されているデータは製造工場出荷時のものであり、その後の流通拠点毎の記録表示はホログラムにされず、外観上その商品が正規な店舗、流通経路を経由していることの確認はできない。また、非接触ICタグと一体にしたものではないので大量の情報の記録はできない問題がある。さらに、情報の書き換えや追記ができない問題もある。
【0006】
特許文献5は、複数情報を記録したホログラムを物品に付与し、流通拠点毎に前記情報の再生読取り→管理データベースとの照合→新たな情報の書き込み、を行い、商品管理を行う、ことが記載されている。
しかし、ホログラムの情報は、情報の書き換えができない。追記はできるが情報量に限界がある問題がある。
ホログラムへの記録情報は、ランダムドットの破壊による組合せであって、目視的に表示情報および情報の正確性を把握できない、読取り精度が低い、等の問題がある。読取り装置は、ホログラムのランダムドットの回折再生像を撮像素子を通じて読み込むため、また書込み装置も、レーザ描画に高精度を要するため、装置が非常に高額となる問題もある。
【0007】
また、RFIDタグ(非接触ICタグ)に光回折構造層を持たせることも特許文献6に記載され、公知であるが、当該技術はRFIDタグの意匠性向上のみを目的とするもので、情報記録とは無関係である。
【0008】
【特許文献4】特開2001−180813号公報
【特許文献5】特開2002−245420号公報
【特許文献6】特開2002−366915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、先行技術の光回折構造体やホログラム付きラベル等は、それ単体を認証媒体とするか、あるいは固定情報を記録して認証媒体として用いるもので、記録媒体としては比較的書込みが容易であって、しかも単一の情報であるため、複数の情報源から記録情報の信憑性を確認できない問題がある。
また、特許文献1のように非接触ICタグラベルにホログラムを設けた先行技術も存在するが、ホログラム面への情報記録は考慮されていないので、ホログラムは単に装飾的効果や偽造困難性を高める役割のみとしてしか機能しないものであった。
【0010】
そこで、本発明では、非接触ICタグと光回折構造体を同一の基材シートに一体に形成し、非接触ICタグには勿論、光回折構造体にも情報記録を可能とすることで、複数の記録方式による情報を、一つのラベルに持たせることで、情報の信頼性を一層高められることを着想し、本発明の完成に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の要旨の第1は、基材シートに、アンテナとICチップからなる非接触ICタグと、レーザー光による情報記録が可能な光回折構造体が形成され、前記光回折構造体形成面の他方側面には粘着層が形成されていることを特徴とする光回折ICタグラベル、にある。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の要旨の第2は、基材シートに、アンテナとICチップからなる非接触ICタグと、レーザー光による情報記録が可能な光回折構造体が形成され、前記光回折構造体形成面の他方側面には粘着層が形成されている光回折ICタグラベルにおいて、前記ICチップのメモリーと前記情報記録が可能な光回折構造体には、相互に対応するように関連付けされた情報が記録されていることを特徴とする光回折ICタグラベル、にある。
【発明の効果】
【0013】
以上詳説明したように本発明によれば以下の効果が得られる。
(1)本発明の光回折ICタグラベルは、レーザー光書込み可能な光回折構造体と電気的に書込み可能な非接触ICタグを有しているので、レーザー光描画機を用いて光回折構造体に個別情報の表示記録を行い、かつ非接触ICタグにもその情報を記録することで、光記録可能な光回折構造体にデータキャリアの機能を持たせることができる。
(2)レーザー光描画機により光回折構造体に表示させる情報を、非接触ICタグに記録された情報と相互に対応するように関連付けすることにより、目視では見えない非接触ICタグの情報を表示でき、データキャリアとしての信頼性を高めることができる。
この場合、双方のデータの対応付けを暗号化すれば、情報の改ざんを一層困難にすることができる。
(3)従来のホログラム単体のラベルに比較して、非接触ICタグとしての機能を有しているので、製品から剥離して他に転用しても、非接触ICタグの履歴を確認すれば、製品が真正品でないことを容易に明らかにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、製品情報管理システムに用いる光回折ICタグラベルに関するので、まず、それぞれについて概説することとする。
図1は、本発明の光回折ICタグラベルを示す図であって、図1(A)は平面図、図1(B)は図1(A)のA−A線に沿う断面図である。
図2は、本発明の光回折ICタグラベルを用いた製品情報管理システムを説明する図である。
【0015】
図1(A)のように、本発明の光回折ICタグラベル1は、基材シート1bの表面側面に、光回折構造体2が形成され、他方側面には、ICチップ31とアンテナ32とからなる非接触ICタグ3と粘着層が形成されている。
光回折ICタグラベル1は、いずれを表面としても良いが、情報記録がされる光回折構造体2が、人目に触れるように貼着されるので、当該光回折構造体2側面を表面としている。したがって、非接触ICタグ3は基材シート1bの裏側面に有り、当該面で製品や商品に貼着されることになる。
【0016】
図1(A)において、光回折構造体2は基材シート1bの一部分に設けられているが、全面を覆うように形成するものであっても良い。
光回折構造体2は、後に詳述するが、表面にホログラムや回折格子のような微細凹凸からなるエンボス形成層や金属反射層を有している。これにより受けた光を回折したり反射する効果を有する。また、当該光回折構造体2は、レーザー光照射により光反射層の一部を破壊し、固有の情報を記録表示させることが可能になっている。
【0017】
図1(B)の断面図のように、非接触ICタグ3側には、接着剤層4を介して、ICタグを保護する保護シート3bが設けられ、当該保護シートを介して粘着剤層5やセパレート紙6が設けられている。セパレート紙6を剥がして当該粘着剤層5により製品や商品に貼着するものである。
【0018】
非接触ICタグ3は、外部リーダライタと非接触で交信するデータキャリアであって、ICチップ31は、一般に制御部とメモリーを有する。
アンテナ32は外部リーダライタからの電波を受信し、これに応答して非接触ICタグ3のデータを送信するものである。アンテナ32には、図示のようなコイル型のほかに2片に分離したパッチ型のアンテナ等を採用できる。一般に、アンテナコイルによるものが通信距離を大きくできるとされている。
【0019】
光回折ICタグラベル1の非接触ICタグ3は、図1(A)のように、アンテナコイル32にICチップ31を装着した構成になっている。
アンテナコイル32とICチップ31に内在するか、または回路が有する浮遊容量、とにより共振回路を形成し、特定周波数の電波を受信し、また発振できるようにされている。通信周波数は、13.56MHz(ISO15693準拠)、125kHz(中波)、2.45GHz(マイクロ波)、等である。
【0020】
非接触ICタグ3の製造は、基材シート1bとアルミ箔等をラミネートした材料にアンテナコイル形状にレジストパターンを形成してアルミ箔をエッチングすることにより製造できるが、アンテナを導電性インキにより印刷したり、細線を捲線状に配線するものであっても良い。
ICチップ31を装着するために、アンテナコイルの一端側を基材シート1bの背面を通して導通させたり、ICチップ装着部を極めて細線にしてコイルの両端部を接近させ、その狭幅になったコイル部分を跨いでICチップ31を装着する方法等が行われている。アンテナコイルの両端部にICチップ31のパッドを導電性接着剤等を使用して装着する。
【0021】
次に、本発明の光回折ICタグラベルを用いた製品情報管理システムについて説明する。
本発明の光回折ICタグラベルを用いた製品情報管理システム10は、図2のように、製造メーカー11と卸売店12、小売店13、および消費者14の間で、製品情報を共有して管理するシステムである。さらに製品情報管理システム10は、製造メーカー11、卸売店12、小売店13で共有または共通使用する製品管理データベース15を有していて、それぞれから随時アクセスできるようにされている。
良く知られるように、非接触ICタグ3のICチップ31は、相互に重複しない固有のユニークIDを有するので、基本的には当該ユニークIDをキーコードとして特定し管理データベース15にデータを蓄積すれば、リーダライタにおいて検索対象を誤ることはないが、各光回折ICタグラベル1のICチップに、ユニークIDとは別に、それぞれ固有の識別コードを持たせて管理するものであっても良い。
【0022】
製品情報管理システム10では、製品に添付された光回折ICタグラベル1が共通に使用される。そのため、製造メーカー11、卸売店12、小売店13は、光回折ICタグラベル1に書込みまたは読込みする非接触ICタグリーダライタ11a,12a,13aとレーザー光描画機11b,12b,13b、および管理データベース15にアクセスするための端末機11c,12c,13cをそれぞれ保有している。
消費者14が非接触ICタグリーダライタ14aや端末機14cを有していても良い。
【0023】
光回折ICタグラベル1を読取りする際は、製品管理データベース15との通信によりデータの照合を行い、書込み時には、製品管理データベース15との通信により新規データの蓄積を行う。
消費者14から光回折ICタグラベル1を店頭で回収する場合は、製品自体または製品の包装に暗号化コードを印字しておき、消費者14がインターネットでメーカーHP(ホームページ)9にアクセスして暗号内容を確認できるようにしても良い。
【0024】
次に、本発明の光回折ICタグラベル1における光回折構造体2の構成について説明することとする。
図3は、光回折構造体の断面図、図4は、光回折構造体に判読可能なレーザー光描画個別情報を記録した後の平面図、図5は、同断面図、である。
【0025】
光回折構造体2の一般的な構成を詳細に図示すると図3の断面構造になる。
この光回折構造体2は非接触ICタグとは、別のベースフィルム2bに形成したもので、最下面の粘着剤層2nにより非接触ICタグ3の基材シート1bに貼着されている。
ベースフィルム2bには、剥離層2sを介して、エンボス形成層2eと金属反射層2r、粘着剤層2nが形成されている。ベースフィルム2bは製品に貼着後は剥離除去してもよい。従ってその場合、光回折ICタグラベル1を製品に貼着した状態では、剥離層2s以下であって粘着剤層2nの間が光回折構造体2となる。
【0026】
エンボス形成層2eは、ホログラムの干渉縞波面や光回折格子を記録したもので、これらの記録原版を複製した複製用型版から熱硬化性や熱可塑性樹脂材料面にエンボス的に複製再現するので、エンボス形成層2eと表現している。
通常、エンボス形成層2eには、光の波長の1/4から2倍程度の干渉縞ピッチや回折格子が記録されているが、波形の凹凸高さは一般に、それよりは小さい値となる。エンボス形成層2eは、0.1〜6μm程度の厚みに形成する。
このエンボス形成層2eにより、ホログラム像や光の回折光パターンが生じることになる。
【0027】
本発明に使用する光回折構造体2は、エンボス形成層2eの粘着剤層2n側面に、反射性金属材料を蒸着またはスパッタリングして設けた金属反射層2rを有している。当該金属反射層2rが、ホログラム像や回折格子パターンをより明るく鮮明にすると共に、レーザー光により情報記録が可能にされる特徴がある。
金属反射層2rは、後述するように各種の材料があるが、蒸着等が容易であって、記録に高エネルギーを必要としない材料としては、アルミニウムが最適と考えられる。ただし、ニッケル、錫、インジウム、等も実用性が望める。
当該金属反射層2rの厚みは、5nm〜1μmもあれば十分である。
【0028】
剥離層2sはベースフィルム2bからエンボス形成層2eを容易に剥離させるための層であり、選択するフィルムとエンボス形成層樹脂材料の相互間の関係で、本来的に易剥離性の場合は設けなくても良い。通常、後述するようにベースフィルム2bに対して強接着しない材料を選択する。
【0029】
上記は光回折構造体2の一般的な層構成であるが、上記以外に、(1)粘着ラベル形態、(2)脆性ラベル形態、(3)転写箔形態、(4)ラミネートフィルム形態、とすることもできる。以下、その層構成について簡単に説明する。
(1)粘着ラベル
この場合の層構成は、支持体シート/ホログラム層/光反射層/粘着剤層、であるが、支持体シート/ホログラム層間に中間層を入れても良い。
(2)脆性ラベル
この場合の層構成は、支持体シート/剥離層/ホログラム層/光反射層/粘着剤層、であるが必要に応じて、剥離層/ホログラム層間に中間層、光反射層/粘着剤層間にアンカー層を入れても良い。
脆性ラベルの場合は脆い層構成とするために、剥離層/ホログラム層間に強弱パターンを設けて均一な剥離を防止したり、光反射層/粘着剤層間のアンカー層を微細パターン化して、剥離した際には光反射層が不規則に分裂するような加工が行われる。
【0030】
(3)転写箔
この場合の層構成は、支持体シート/剥離層/ホログラム層/光反射層/接着剤(ヒートシール)層、であるが必要に応じて、剥離層/ホログラム層間に中間層、光反射層/接着剤層間にアンカー層を入れても良い。また剥離層のない場合もある。
(4)ラミネートフィルム
この場合の層構成は、支持体シート/ホログラム層/光反射層/接着剤(ヒートシール)層、であるが必要に応じて、支持体シート/ホログラム層間に中間層、光反射層/接着剤層間にアンカー層を入れても良い。
なお、上記各場合において、ホログラム層はエンボス形成層と表現しても良いものである。
【0031】
光回折構造体2に判読可能な情報を記録した後は、図4または図5のようになる。ホログラム像または光回折パターン7と共に、レーザー光描画情報8が、肉眼で目視可能に表示されている。
当該表示は、文字、数字、記号、図形、等であって一瞥して認識可能な表示とする。ただし、文字、数字のように製造メーカーや、卸売店を直接的に想起させるものに限らず、記号、図形等と紐付けして対応関係を持たせ、間接的に観念させる場合、あるいは暗号化して表示するものであっても良い。ただし、ビットコードのように機械読み取りしなければ認識できない情報は除かれる。
情報記録後の光回折構造体2の断面は、図5のようになる。この図では、金属反射層2rにレーザ光描画情報8が記録されていることを示している。
【0032】
金属反射層2rの情報記録は、レーザー光描画機を使用して行う。当該描画機は、YAGレーザ、または炭酸ガス(CO2 )等のレーザ光を照射し、金属反射層を溶融することにより前記情報表示がなされる。
レーザー光描画は、光回折構造体2のベースフィルム2bまたは剥離層を介して行なうことができる。波長1.06μmのYAGレーザーの場合、レーザー出力20W以上で瞬時に溶融印字が可能である。レーザー発振装置コスト等を考慮するとレーザー出力50W程度が好ましい。
一方、炭酸ガスレーザー(波長10.6μm)の場合は、レーザー出力2W以上で瞬時に溶融印字することが可能である。
【0033】
レーザー光は連続光あるいはパルス光のいずれであっても良い。連続光のレーザー光は、一定時間の間、常に同じ出力を保持している光であるが、これに対してパルス光はごく僅かな時間の間のみ高出力を有する光である。
パルスレーザー光としては、連続光を外部変調機でその出力を制御する方法、またはQスイッチをレーザー共振器内に挿入し、Qスイッチのスイッチングによりレーザー媒質に蓄積されたエネルギーを瞬時に出力させる方法がある。
前者のレーザーの具体例としては、アルゴンレーザーやヘリウム−ネオンレーザー、YAGレーザー、半導体レーザーなどがあり、外部変調器としてメカニカルシャッター、A/O変調素子、E/O変調素子、などをQスイッチとして挿入し、共振器のQ値をコントロールすることで数十ナノから数百ナノ秒の時間幅のパルス光を発生させることができる。
【0034】
<その他の材質に関する実施形態>
(1)ベースフィルム、基材シート
積層する各層を順次コーティングなどにより形成する際の耐熱性および耐溶剤性、また形成された光回折ICタグラベルを製品やカードなどの物品の基材に転写する際、熱転写方式を利用する場合には、その耐熱性が必要とされる。
これらの性能を備えるプラスチックフィルムとしては、例えば2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、「PETフィルム」と表示する。)を好ましく使用できる。
PETフィルムを使用する場合、ベースフィルム2bの厚みは、5〜250μmのものが好ましく、加工適性や引張り強度、熱転写の際の熱効率を考慮すると10〜50μmがさらに好ましい。
非接触ICタグの基材シート1bの場合は、アンテナコイルを形成する関係から50μm〜250μmの厚みのあるものが好ましい。
【0035】
(2)剥離層
光回折構造体2の剥離層2sには、アクリル骨格樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸セルロースと熱硬化型アクリル樹脂、メラミン樹脂、ニトロセルロース樹脂、およびこれらとポリエチレンワックスとの混合物等から形成されるが、特にアクリル骨格樹脂を主成分とすることが好ましい。
または剥離層とベースフィルム2bとの密着力を調整するために、ポリエステル樹脂等が好ましく用いられる。逆に剥離性を高めるためには、ワックス、シリコン系樹脂を添加することが行われる。
剥離層は、上記樹脂を適宜な溶剤に溶解または分散して、剥離層用塗工液を調整しこれをベースフィルム上に、グラビア印刷法、スクリーン印刷法またはリバースコーティング法、等の手段により塗布、乾燥して形成することができる。
剥離層の厚みは、0.1〜10μm程度の薄層にして用いる。
【0036】
(3)エンボス形成層
ホログラムや光回折格子の精細パターンを再現できる樹脂材料が使用される。
一般的には、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン、エポキシ、アクリレート等の熱硬化性樹脂をそれぞれ単独、あるいは上記熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを混合して使用することができ、さらにラジカル重合性不飽和基を有する熱成形性物質、あるいはこれらにラジカル重合性不飽和単量体を加え、電離放射線硬化性としたものなどを使用することができる。
このようなエンボス形成層の膜厚は、0.1〜6μmの範囲が好ましく、1〜4μmの範囲がさらに好ましい。
【0037】
(4)金属反射層材料
光を全反射する金属材料は、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、金(Au)、銀(Ag)、コバルト(Co)、錫(Sn)、セレン(Se)、チタニウム(Ti)、テルル(Te)、鉄(Fe)、銅(Cu)、鉛(Pb)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)などの単体金属もしくはそれらの合金を使用し得る。
金属薄膜の厚みは、色調やデザイン、用途等に応じて調整し得るが、一般的には5nm〜1μmの範囲が好ましく、より好ましくは10nm〜100nmの範囲である。透明性を有する着色光反射層を設けたい場合は、膜厚を20nm以下にするのが好ましい。また、隠蔽性を有する着色光反射層を設けたい場合は、膜厚を20nm以上にするのが望ましい。
薄膜は、上記のように、転写箔の用途、トータルデザインを考慮し、色調、隠蔽性あるいは透明性等の必要に応じて設定することができる。
【0038】
(5)粘着剤層
粘着剤層5や粘着剤層2nに使用する粘着剤としては、アクリル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、またはこれらの共重合体、スチレンブタジエン共重合体樹脂、天然ゴム、カゼイン、ゼラチン、ロジンエステル、テルペン樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂、クロマンインデン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、シリコーン樹脂、または、アルファシアノアクリレート系、シリコーン系、マレイミド系、スチロール系、ポリオレフィン系、レゾルシノール系、ポリビニルエーテル系、等の粘着剤を挙げることができる。
【0039】
また、粘着剤として、ヒートシール剤を使用してもよく、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン−イソブチルアクリレート共重合樹脂、ブチラール樹脂、ポリ酢酸ビニルおよびその共重合樹脂、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)共重合体樹脂、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)共重合体樹脂等の各種熱可塑性エラストマー、または反応ホットメルト系樹脂等が挙げられる。
粘着剤層の厚みとしては、3μm〜30μmとするのが好ましい。
【0040】
次に、本発明の光回折ICタグラベルを用いた製品情報管理システムの利用方法、等について説明する。
図6は、光回折ICタグラベルを製品に添付した状態を示す図、図7は、製品の流通経路を説明する図、である。
製品情報管理システム10は、各種の利用方法があるので、図2を再度参照して説明することとする。
【0041】
利用方法の第1は、主として製品の製造メーカー11と卸売店12、小売店13との間で利用を図るものである。この利用形態では、製造メーカー11が製品20に光回折ICタグラベル1を添付して出荷するが、その段階で出荷製品に関する情報を、非接触ICタグ3と光回折構造体2の双方に記録する。
出荷製品に関する情報とは、製造メーカー名、製造ロットや製造日、製造工場や製造地の情報、あるいは原材料の産地や材質、等の情報であるが、必要な情報内容は任意に選択または追加できる。
【0042】
非接触ICタグへの記録は、非接触ICタグリーダライタ11aで行い、光回折構造体への記録は、前述のようにレーザー描画機11bを使用して行う。
これらの記録データの一部は、双方に共通する内容のものが含まれるようにするのが好ましい。例えば、非接触ICタグ3に製造メーカー名を記録した場合には、光回折構造体2にも、製造メーカー名、あるいはそれと相互に対応するように関連付けられた記号や文字、図形等を記録する。
非接触ICタグ3の記録容量は近年大きくなってきているので、かなりの情報を記録できるが、小さな面積の光回折構造体に大きな情報を記録することは困難である。光回折構造体に長文の文字等を記録するのは現実的でないから、対応したコード等を記録するのが好ましいことになる。
【0043】
情報を記録した光回折ICタグラベル1を、図6のように製品20に添付して出荷する。製品20が卸売店12または小売店13に着荷した際、店主等は、当該製品20が真正品であるか否かを、非接触ICタグ3を読取りしてあるいは光回折構造体2の表示情報を肉眼で視認して確認することができる。
非接触ICタグ3の読取り情報が正確なものであるか、あるいは光回折構造体2の表示情報が製造メーカーに対応するものである場合は、製品の真正性を裏付けすることになる。
光回折ICタグラベル1への情報記録は、前記の図4のように行うが、流通拠点が増えた場合の追記スペース確保のため、レーザー光記録は上段左上から右下へ行うのが好ましい。
【0044】
製品20が真正品であることが確認できた場合には、卸売店12または小売店13は、取り扱い店に関する情報を光回折ICタグラベル1に同様に記録する。
これらは、後に製品が返品されたり、トラブルを発生させた場合には、自己の店舗が扱ったものであることの証明に役立つことになる。
暗号化コードを記入する場合は、暗号化コードの店舗リストを製造メーカーが所持しておき、流通拠点毎に抜き打ち的にチェックを行う。また流通拠点毎に店舗リストを所持しておき、製品の入荷もしくは出荷時に流通業者が確認するようにもできる。
【0045】
製品の流通経路は、図7のように各種の形態がある。製造メーカー11から卸売店12Aを介して小売店13Aに直結して流通する場合もあれば、卸売店12Bと卸売店12Dを介して小売店13Bに流通する場合もある。また、卸売店12Cから小売店13Cと13D、等に分岐して流通する場合も生じる。
このように流通経路は多岐にわたるので、表示や記録が無い場合は流通経路を特定するのは一般には困難である。そこで、上記のように、光回折ICタグラベル1に取り扱い店情報を記録すれば、トラブル製品の究明や処理迅速化に有益となる。
【0046】
表1は、製造メーカーおよび各流通拠点における非接触ICタグの読取り情報と書込み情報の例を示す表である。図7で図示した流通経路で製品が流通した場合を示している。
製造メーカー11では、初期データを読取りし、製造メーカーコードと製造番号、出荷日、等を記録する。卸売店A,B,C,Dでは製造メーカー11が書込みした情報を読取りし、卸売店コードと入荷日、出荷日、等を記録する。
小売店Aでは製造メーカー11と卸売店Aの書込み情報を読取りし、販売日を記録する。
小売店Bでは製造メーカー11と卸売店B,Dの書込み情報を読取りし、販売日を記録する。小売店Cと小売店Dでは製造メーカー11と卸売店Cの書込み情報を読取りし、販売日を記録する。
ただし、上記は情報記録の一例であり、必要に応じて各種の記録方法を採用できるのは勿論のことである。
【0047】
【表1】

【0048】
表2は、製造メーカーおよび各流通拠点における光回折構造体への表示情報の例を示す表である。前記のように、コード化または暗号化して記録する例であり、この例に限定されないのは勿論のことである。
表2では、製造メーカー11の拠点コードが「0」であり、暗号化コードが、「00」にされている。また、卸売店A,B,C,Dには、それぞれ拠点コード「1」「2」「3」「4」が割り振られ、暗号化コードとして「?1」「%2」「&3」「♯4」が割り振られている。小売店A,B,C,Dについても同様である。このようにしてコード化することで、光回折構造体2の小さい面積内に必要な情報を盛り込むことができる。この場合、コード対応表は、製造メーカー、卸売店、小売店間での営業秘密として管理されることになる。
【0049】
【表2】

【0050】
利用方法の第2は、利用方法の第1と同様に、主として製品の製造メーカー11と卸売店12、小売店13との間で利用を図るものである。
この利用形態では、製造メーカー11が製品に、請求項1記載の光回折ICタグラベル1を添付して出荷するが、その段階で出荷製品に関する情報を、非接触ICタグと光回折構造体の双方に記録する。出荷製品に関する情報とは、製造メーカー名、製造ロットや製造日、製造工場や製造地の情報、あるいは原材料の産地や材質、等の情報であり、利用方法の第1と同様である。
流通過程における卸売店12や小売店13では、非接触ICタグへの書込みをするが、光回折構造体への書込みは必要により行う。
【0051】
利用方法の第3は、利用方法の第1、第2と同様に、主として製品の製造メーカー11と卸売店12、小売店13との間で利用を図ることを目的としている。ただし、製品管理データベース15を使用することが必須の要件となっている。
この場合は、非接触ICタグに記録した情報の全部または一部が端末機11cを介して製品管理データベース15に蓄積されるので、卸売店12または小売店13では、光回折ICタグラベルから読み取った属性情報に基づき、通信回線を介して製品管理データベース15にアクセスすれば製品内容または履歴を確認することができる。
【0052】
また、利用方法の第3では、製造メーカー11は、光回折ICタグラベル1の非接触ICタグ3と光回折構造体2に、出荷製品に関し少なくとも一部が共通する情報を記録することを必須の要件とする。少なくとも一部が共通する情報とはデータコードとして一致する内容の製品情報であっても良いし、光回折構造体2に記録した目視判読可能な情報が、表2の関係で対応付けられているものであってもよい。
さらに、利用方法の第3では、製造メーカー11の他に、卸売店12、小売店13が、光回折ICタグラベル1に取り扱い店に関する情報を記録することと、製品管理データベース15にアクセスして製品内容または履歴を確認することを要件とする。
【0053】
利用方法の第4は、製品の製造メーカー11と卸売店12、小売店13の間で利用を図るものであるが、製造メーカー11が、光回折ICタグラベル1に製品に関する情報を記録して製品に添付して出荷することと、前記製品管理データベース15に記録した情報を登録することと、卸売店12、小売店13が、当該製品管理データベース15にアクセスして製造元や製品履歴を読み取って製品の真正性を認証することを目的とするものである。
【0054】
利用方法の第5は、製品の製造メーカー11と卸売店12、小売店13、消費者14との間で利用を図るものである。製造メーカー11が光回折ICタグラベル1に書込みするが、卸売店12、小売店13は必要に応じて、光回折ICタグラベル1に書込みし、製品管理データベースに当該記録した情報の登録をする。
これにより、消費者は光回折ICタグラベル1の情報を目視または非接触ICタグリーダライタ14cにより読取りした情報に基づいて、製造メーカ11、卸売店12または小売店13に製品内容や履歴を問い合わせを可能とするものである。
これらの問い合わせは、携帯電話等の通信手段によることになるが、製造メーカーへの問い合わせは、メーカーのホームページ9に対して行っても良い。
【0055】
この場合、流通拠点毎に光回折構造体2に記録する流通拠点の暗号化コードと同一もしくはリンクさせた暗号化コードを製品自体または製品の包装に付与しておき、光回折ICタグラベル1を店頭にて回収した後、消費者がインターネット経由でメーカーのホームページ9より暗号コード一覧により流通履歴を確認することもできる。
【0056】
なお、参考のためであるが、非接触ICタグリーダライタの市販品としては、松下産業機器株式会社製「I−codeリーダライタ」、株式会社マーステクノサイエンス製「ICU150」、ハンディーリーダ・ライタとして田村電機製作所製「TR−100」等がある。また、レーザー光描画機としては、シグマ光機株式会社製「LYCMシリーズ」等の各種の市販品がある。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の光回折ICタグラベルを示す図である。
【図2】本発明の光回折ICタグラベルを用いた製品情報管理システムを説明する図である。
【図3】光回折構造体の断面図である。
【図4】光回折構造体に判読可能なレーザー光描画情報を記録した後の平面図である。
【図5】同断面図である。
【図6】光回折ICタグラベルを製品に添付した状態を示す図である。
【図7】製品の流通経路を説明する図である。
【符号の説明】
【0058】
1 光回折ICタグラベル
1b 基材シート
2 光回折構造体
2b ベースフィルム
3 非接触ICタグ
3b 保護シート
4 接着剤層
5 粘着剤層
6 セパレート紙
7 ホログラム像または光回折パターン
8 レーザー光描画情報
9 メーカーホームページ
10 製品情報管理システム
11 製造メーカー
12 卸売店
13 小売店
14 消費者
11a,12a,13a 非接触ICタグリーダライタ
11b,12b,13b レーザー光描画機
11c,12c,13c,14c 端末機
15 製品管理データベース
20 製品
31 ICチップ
32 アンテナ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートに、アンテナとICチップからなる非接触ICタグと、レーザー光による情報記録が可能な光回折構造体が形成され、前記光回折構造体形成面の他方側面には粘着層が形成されていることを特徴とする光回折ICタグラベル。
【請求項2】
基材シートに、アンテナとICチップからなる非接触ICタグと、レーザー光による情報記録が可能な光回折構造体が形成され、前記光回折構造体形成面の他方側面には粘着層が形成されている請求項1記載の光回折ICタグラベルにおいて、前記ICチップのメモリーと前記情報記録が可能な光回折構造体には、相互に対応するように関連付けされた情報が記録されていることを特徴とする光回折ICタグラベル。
【請求項3】
光回折構造体が、光回折を生じさせるエンボス形成層と情報記録が可能な金属反射層を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の光回折ICタグラベル。
【請求項4】
光回折構造体への情報記録が、金属反射層に対してレーザー光により行われ、人間が目視で判読可能な文字、数字、記号、図形の表示をすることを特徴とする請求項1または請求項2記載の光回折ICタグラベル。
【請求項5】
金属反射層がアルミニウム層であることを特徴とする請求項3記載の光回折ICタグラベル。
【請求項6】
光回折構造体が、脆性構造にされていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の光回折ICタグラベル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−276799(P2008−276799A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178014(P2008−178014)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【分割の表示】特願2003−16847(P2003−16847)の分割
【原出願日】平成15年1月27日(2003.1.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】