説明

光学ガラス

【課題】(1)環境上好ましくない成分を含有しない、(2)低ガラス転移点を達成しやすい、(3)高屈折率かつ高分散である、(4)可視光透過率に優れるガラスが得られやすい、(5)プリフォーム成形時の耐失透性に優れる、といった要求をすべて満足することが可能な光学ガラスを提供する。
【解決手段】屈折率ndが2.0以上、アッベ数νdが20以下、ガラス転移点)が450℃以下であり、ガラス組成として質量%で、Bi 70〜90%、B 4〜29.9%、LiO+NaO+KO 0.1%〜10%、SiO+Al 0〜2.5%を含有し、かつ、鉛成分、砒素成分、F成分、TeO、GeOを実質的に含有しないことを特徴とする光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスに関するものである。詳細には、高屈折率かつ高分散であり、各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラ、一般のカメラの撮影用レンズ等に好適な光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラ、一般のカメラの撮影用レンズは、一般に以下のようにして作製される。
【0003】
まず、溶融ガラスをノズルの先端から滴下して、液滴状ガラスを作製し(液滴成形)、必要に応じて、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを作製する。または、溶融ガラスを急冷鋳造して一旦ガラスインゴットを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを作製する。続いて、プリフォームガラスを加熱して軟化し、精密加工を施した金型によって加圧成形し、金型の表面形状をガラスに転写してレンズを作製する。このような成形方法は、一般にモールドプレス成形法(あるいは精密プレス成形法)と呼ばれている。
【0004】
モールドプレス成形法を採用する場合、金型の劣化を抑制しつつ、レンズを精密にモールドプレス成形するために、できるだけ低いガラス転移点(少なくとも650℃以下)を有するガラスが求められており、種々のガラスが提案されている。
【0005】
プリフォームガラスを作製する際に失透が生じると、モールドプレスレンズとしての基本性能が損なわれることから、耐失透性に優れたガラスであることが重要である。さらに、近年の環境問題への意識の高まりから、ガラス成分に鉛等の有害な物質を使用しない光学ガラスが望まれている。なお、近年では、各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズや撮影用レンズといった光学レンズには、コスト削減を目的として、レンズを薄くしたり、レンズの枚数を少なくしたりすることが検討されている。このように、レンズの薄肉化やレンズ枚数の低減を実現するために、高屈折率で高分散(アッベ数の小さい)のガラス材質が求められている。このような光学特性を有するガラスとして、ビスマスを主成分として含有する光学ガラスが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−201039号公報
【特許文献2】特開2007−106625号公報
【特許文献3】特開2006−151758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、高屈折率の光学ガラスを作製しようとすると、高屈折率を付与する成分に起因して着色が生じ、透過率、特に可視域または近紫外域の透過率が低下しやすいという問題がある。一方、着色を抑制する成分を添加するとアッベ数が大きくなる、すなわち低分散になる傾向がある。このように、高屈折率かつ高分散で、しかも可視光透過率に優れた光学ガラスを作製することは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、(1)環境上好ましくない成分を含有しない、(2)低ガラス転移点を達成しやすい、(3)高屈折率かつ高分散である、(4)可視光透過率に優れるガラスが得られやすい、(5)プリフォーム成形時の耐失透性に優れる、といった要求をすべて満足することが可能な光学ガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は種々検討を行った結果、BiとBを主成分として含有する特定組成のガラスによって上記目的が達成できることを見いだし、本発明として提案するものである。
【0010】
すなわち、本発明は、屈折率ndが2.0以上、アッベ数νdが20以下、ガラス転移点が450℃以下であり、ガラス組成として質量%で、Bi 70〜90%、B 4〜29.9%、LiO+NaO+KO 0.1%〜10%、SiO+Al 0〜2.5%を含有し、かつ、鉛成分、砒素成分、F成分、TeO、GeOを実質的に含有しないことを特徴とする光学ガラスに関する。
【0011】
本発明の光学ガラスは、高屈折率かつ高分散の光学特性を有する。さらに、屈折率が従来のガラスと同等またはそれ以上であり、かつ透過率のより優れたガラスを作製可能である。このため、レンズの薄肉化やレンズ枚数の低減が可能になり、さらに高精細な光学デバイスを作製することができる。これにより、部品コストの削減や性能の向上を図ることが可能になる。
【0012】
なお、本発明の光学ガラスは、組成中にBiを多量に含有していることやアルカリ成分であるLi、NaO、KOを含むため、低ガラス転移点を達成しやすい。そのため、低温でモールドプレス成形可能であり、ガラス成分の揮発物に起因する金型の劣化を抑制することができる。また、本発明の光学ガラスは、モールドプレス成形時に透明性を阻害する失透物が生じにくいという特徴も有する。
【0013】
さらに、本発明の光学ガラスは、有害成分である鉛成分、砒素成分、およびF成分を実質的に含有しないため、環境上好ましいガラスである。また、透過率を低下させる成分であるGeO、TeOを実質的に含有しないため、高透過率を達成しやすい。
【0014】
なお、本発明において、「鉛成分、砒素成分、F成分、TeO、GeOを実質的に含有しない」とは、これらの成分を意図的にガラス中に添加しないという意味であり、不可避的不純物まで完全に排除することを意味するものではない。客観的には、不純物を含めたこれらの成分の含有量が、質量%で、各々0.1%未満であることを意味する。
【0015】
第二に、本発明の光学ガラスは、質量比で、Bi/Bが8以下であることを特徴とする。
【0016】
当該構成により、透過率の高い(着色度に優れた)ガラスを得ることが可能となる。
【0017】
第三に、本発明の光学ガラスは、質量%で、B/(SiO+Al)が5.5以上であることを特徴とする。
【0018】
当該構成により、透過率の高いガラスを得ることが可能となる。
【0019】
第四に、本発明の光学ガラスは、質量%で、Bi+B+LiO+NaO+KOが90%以上であることを特徴とする。
【0020】
当該構成により、高屈折率かつ高分散で、ガラス転移点が低く、しかも透過率に優れたガラスが得られやすくなる。
【0021】
第五に、本発明の光学ガラスは、質量%で、TiO+WO+Nbが0〜15%を含有することを特徴とする。
【0022】
TiO、WO、Nbは屈折率を高める成分であるが、透過率を低下しやすい成分である。したがって、これらの成分を上記範囲に制限することにより、透過率の高いガラスが得られやすくなる。
【0023】
第六に、本発明の光学ガラスは、質量%で、Bi+B+LiO+NaO+KO+TiO+WO+Nbが95%以上であることを特徴とする。
【0024】
当該構成により、高屈折率および高分散の特性に特に優れたガラスを得ることが可能となる。
【0025】
第七に、本発明の光学ガラスは、質量%で、ZnO+BaOが0〜2.5%であることを特徴とする。
【0026】
ZnOおよびBaOは透過率低下の原因となる成分であるため、これらの成分の含有量を上記範囲に制限することにより、透過率の高いガラスが得られやすくなる。
【0027】
第八に、本発明の光学ガラスは、質量%で、ZnO+BaO+CaO+SrO+MgOが0〜2.5%であることを特徴とする。
【0028】
アルカリ土類金属酸化物およびZnOは透過率低下の原因となる成分であるため、これらの成分の含有量を上記範囲に制限することにより、透過率の高いガラスが得られやすくなる。
【0029】
第九に、本発明の光学ガラスは、質量%で、La+Gd+Taが0〜10%であることを特徴とする。
【0030】
当該構成により、透過率が高く、耐失透性に優れたガラスが得られやすくなる。
【0031】
第十に、本発明の光学ガラスは、質量%でSbが0〜1%であることを特徴とする。
【0032】
第十一に、本発明の光学ガラスは、ガラスの着色度λ70が500nm未満であることを特徴とする。
【0033】
ガラス着色度λ70が上記範囲を満たすことにより、可視域または近紫外域における透過率に優れ、各種光学レンズ等に好適なガラスを得ることが可能となる。なお、本発明において「着色度λ70」とは、透過率が70%になる波長をいう。
【0034】
第十二に、本発明の光学ガラスは、モールドプレス成形用であることを特徴とする。
【0035】
第十三に、本発明は、前記光学ガラスを成形してなる光学素子に関する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例のNo.1のガラス試料についてプレス性評価を行った際の写真を示す。
【図2】実施例のNo.34のガラス試料についてプレス性評価を行った際の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明の光学ガラスにおける各成分の含有量を上記のように特定した理由を詳述する。なお、特に断りがない場合、以下の説明において「%」は「質量%」を意味する。
【0038】
Biは高屈折かつ高分散化、低ガラス転移点化、化学耐久性向上等を実現させる必須成分であり、ガラスの失透抑制の効果もある。Biの含有量は70〜90%、75〜90%、77〜88%、78〜87%、特に79〜86%であることが好ましい。Biの含有量が70%未満であると、高屈折かつ低分散の光学特性を達成しにくくなり、低ガラス転移点化も困難になる傾向がある。一方、Biは揮発性が高いため、その含有量が90%を超えると、モールドプレス成形時に金型が劣化しやすくなったり、ガラスが金型に融着しやすくなる。また、ガラスの化学耐久性が低下したり、透過率が低下しやすくなる。
【0039】
はガラスの骨格を構成する成分である。また、ガラスの透過率を高める成分であり、紫外域付近の透過率低下を抑制したり、吸収端を低波長側にシフトさせることができる。特に高屈折率のガラスの場合は、Bの透過率を高める効果が得られやすい。また、ガラスの失透を抑制する効果も有する。Bの含有量は4〜29.9%、6〜28%、8〜27%、特に10〜26%であることが好ましい。Bの含有量が4%未満であると、透過率の高いガラスを得られにくくなる。また、化学耐久性が悪化しやすくなる。一方、Bはアッベ数を上昇させやすい成分であるため、その含有量が29.9%を超えると、高分散のガラスが得られにくくなる。また、高屈折率特性を達成しにくくなる。
【0040】
本発明において、着色度に優れたガラスを得るためには、BiとBの含有量の比を調整することが好ましい。具体的には、Bi/B(質量比)が8以下、7.5以下、特に7以下であることが好ましい。これらの成分の比が8を超えると、着色度に優れたガラスが得られにくくなる。また、液相温度初相でBi−Bを主成分とする結晶が出やすくなるため、失透しやすくなる。
【0041】
LiOはアルカリ成分のなかで最も軟化点を低下させる効果が大きい。また、他のアルカリ成分と比較して液相温度の上昇が少ない成分である。また、B,SiO、Alとの置換においては、アッベ数を低下できる成分である。しかし、LiOは分相性が強いため、その含有量が多すぎると、液相温度が上昇(液相粘度が低下)して失透物が析出しやすくなり、作業性が悪化するおそれがある。さらに、LiOは化学耐久性を低下させやすく、また、着色度を悪化させやすい。なお、LiOは屈折率を低下させる成分であるため、多量に含有すると高屈折率なガラスが得られにくくなる。したがって、LiOの含有量は0〜5%、0〜3%、特に0.1〜1.5%であることが好ましい。
【0042】
NaOはLiOと同様に軟化点を低下させる効果を有する。また、B,SiO、Alとの置換においては、アッベ数を低下できる成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると、屈折率が大幅に低下したり、ガラス溶融時にBとNaOで形成される揮発物が多くなり、脈理の生成を助長してしまう傾向がある。また、液相温度が上昇して、ガラス中に失透物が析出しやすくなる。したがって、NaOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%であることが好ましい。
【0043】
OもLiOと同様に軟化点を低下させる効果を有する。また、B,SiO、Alとの置換においては、アッベ数を低下できる成分である。KOの含有量が多くなりすぎると、屈折率が大幅に低下したり、耐候性が悪化する傾向がある。また、液相温度が上昇して、ガラス中に失透物が析出しやすくなる。したがって、KOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%であることが好ましい。
【0044】
本発明の光学ガラスは、低ガラス転移点化を目的として、アルカリ成分であるLiO+NaO+KOの含有量が制限される。具体的には、LiO+NaO+KOは0.1〜10%、特に0.2〜5%であることが好ましい。LiO+NaO+KOが0.1%より少ないと、上記効果が得られにくくなり、10%より多くなると、液相温度初相でBi−Bを主成分とする結晶が出やすくなるため、失透しやすくなることや、化学耐久性が悪くなりやすく、また所望の光学特性が得られにくくなる。さらに、透過率低下の原因となる。
【0045】
なお、Bi+B+LiO+NaO+KOを90%以上、93%以上、特に95%以上と多くすることにより、高屈折率かつ高分散で、ガラス転移点が低く、しかも透過率に優れたガラスを得ることが可能となる。
【0046】
SiOはBとともにガラス骨格を構成することが可能な成分である。また、耐候性を向上させる効果があり、特にガラス中のBやアルカリ金属酸化物等の成分が水へ選択的に溶出することを抑制する効果が顕著である。SiOの含有量は0〜2.5%、特に0.1〜2%が好ましい。SiOの含有量が2.5%を超えると、ガラスの溶融性が悪化し、溶融温度が高くなり透過率が低くなったり、未溶解による脈理や泡がガラス中に残り、レンズ用ガラスとしての要求品位を満たさなくなる可能性がある。
【0047】
AlはSiOやBとともにガラス骨格を構成することが可能な成分である。また、耐候性を向上させる効果があり、特にガラス中のBやアルカリ金属酸化物等の成分が水へ選択的に溶出することを抑制する効果が顕著である。Alの含有量は0〜2.5%、特に0.1〜2%が好ましい。Alの含有量が2.5%を超えると、ガラスが失透しやすくなる。また、溶融温度が高くなり透過率が低くなったり、未溶解による脈理や泡がガラス中に残り、レンズ用ガラスとしての要求品位を満たさなくなる可能性がある。
【0048】
本発明において、SiO+Alは0〜2.5%、0〜2%、0〜1.5%、0〜1%、特に0.1〜0.5%であることが好ましい。SiO+Alが2.5%を超えると、ガラスの溶融温度が高くなって、ガラス溶融が困難になる。また、溶融温度が高くなると、ビスマス成分が還元され金属ビスマスが析出しやすくなり、ガラスの透過率が低下する傾向がある。
【0049】
本発明において、透過率の高いガラスを得るためには、B/(SiO+Al)は5.5以上、7以上、特に10以上であることが好ましい。
【0050】
本発明の光学ガラスは、上記成分以外にも以下の成分を含有することができる。
【0051】
Laは透過率を低下させることなく、屈折率を高めることが可能な成分である。ただし、失透物が析出しやすくなるため、多量に含有させないほうがよい。Laの含有量は0〜20%、0.1〜10%であることが好ましい。Laの含有量が20%を超えると、耐失透性が悪化すると同時に、高分散なガラスが得られにくくなる。
【0052】
GdはLaと同様に、透過率を低下させることなく屈折率を高めることが可能な成分である。Gdの含有量は0〜20%、0〜10%、特に0.1〜10%であることが好ましい。Gdの含有量が20%を超えると、耐失透性が悪化すると同時に、高分散なガラスが得られにくくなる。
【0053】
Taは透過率を低下させることなく屈折率および分散を高める効果がある。Taの含有量は0〜20%、0〜15%、特に0.1〜10%であることが好ましい。Taの含有量が20%を超えると、ガラスの耐失透性が悪化しやすくなる。
【0054】
本発明の光学ガラスにおいて、着色を抑制するには、La+Gd+Taを調整することが好ましい。具体的には、La+Gd+Taが0〜10%、0〜7.5%、0〜5%、特に0.1〜2.5%であることが好ましい。La+Gd+Taが10%を超えると、ガラスが着色しやすくなり、また失透しやすくなる。なお、これらの成分は、希少価値が高く高価な原料(レアメタル)であるため、コストを低減する観点からは、実質的に含有しない(具体的には0.1%未満)ことが好ましい。
【0055】
TiO、WO、Nbは屈折率を高める効果が大きい成分であると同時に、分散を高める効果もある。また、La、Gd、Taと比較して、耐失透性を抑制する働きが大きい。
【0056】
TiOは、上記3成分のなかではガラスの耐失透性の向上に最も有効な成分である。しかし、その含有量が多すぎるとガラスの透過率が低下する傾向がある。特に、不純物Feがガラス中に多く含まれる場合(例えば20ppm以上)に顕著な透過率の低下が発生する。顕著に透過率が低下する傾向がある。したがって、TiOの含有量は0〜10%、0〜5%、特に0.1〜5%であることが好ましい。なお、TiOはLa、Gd、Taに比べ透過率を低下させる割合が小さいため、TiOを積極的に添加することで、比較的高い透過率を維持しつつ高屈折率および高分散の光学特性が得られやすくなる。
【0057】
WOはTiO同様に、高屈折率および高分散の光学特性を得るために有効であり、耐候性を向上させる効果も有する。また、WOはガラスの耐失透性の向上に有効な成分であるが、上記3成分のなかで最も透過率を低下させやすい成分である。したがって、WOの含有量は0〜10%、0〜5%、0〜2%、特に0.1〜1%であることが好ましい。
【0058】
Nbの含有量は0〜10%、0〜5%、特に0.1〜5%であることが好ましい。Nbの含有量が10%を超えると、Nbを主成分とする失透物がガラス表面に析出(表面失透)しやすくなったり、ガラスが不均質となり脈理が発生しやすくなる。また、透過率が低下する傾向がある。
【0059】
TiO+WO+Nbは0〜15%、特に0.1〜10%であることが好ましい。TiO+WO+Nbが15%を超えると、透過率が顕著に低下しやすくなる。
【0060】
なお、Bi+B+LiO+NaO+KO+TiO+WO+Nbを95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、特に99.5%以上と多くすることにより、高屈折率および高分散の特性に特に優れたガラスを得ることが可能となる。
【0061】
また、本発明の光学ガラスは、上記成分以外にも種々の成分を本発明のガラスの特性を損なわない範囲で添加することが可能である。このような成分として、例えばCaO、SrO、BaO、ZnO、ZrO、Y、Yb、清澄剤などが挙げられる。
【0062】
CaO、SrO、BaOといったアルカリ土類金属酸化物(RO)は、融剤として作用するとともに、屈折率を大きく低下させず、アッベ数を上昇させない効果がある。アルカリ土類金属酸化物の含有量が多くなりすぎると、液相温度が上昇してガラスの溶融、成形工程中に失透物が析出し、作業範囲が狭くなる傾向がある。その結果、ガラスを量産化しにくくなる傾向がある。また、耐候性が悪化しやすくなり、研磨洗浄水や各種洗浄溶液中へのガラス成分の溶出量が増大したり、高温多湿状態でのガラス表面の変質が顕著になったりする。さらに、透過率の高いガラスが得られにくくなる。よって、CaO、SrO、BaOは合量で0〜20%、0.1〜10%、0.1〜5%、特に0.1〜3%であることが好ましい。
【0063】
CaOは耐候性向上のための有効成分であり、耐水性や耐アルカリ性を向上させる効果が高い。CaOは屈折率を大きく低下させない成分であるが、添加量が多くなるとガラスが着色しやすくなる。したがって、CaOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%であることが好ましい。
【0064】
SrOは屈折率を高める成分である。また、CaOに比べるとガラスの耐水性や耐アルカリ性を向上させる効果が高い。したがって、SrOを積極的に使用することにより、耐候性に優れたガラスを得ることができる。しかし、その含有量が多くなるとガラスが着色しやすくなる。したがって、SrOの含有量は0〜20%、0〜10%、特に0.1〜5%であることが好ましい。
【0065】
BaOはCaOに比べ、液相温度の上昇を抑えることができ、ガラスの耐水性や耐アルカリ性を向上させる効果が高い。BaOは屈折率を大きく低下させない成分であるが、その含有量が多くなるとガラスが着色しやすくなる。したがって、BaOの含有量は0〜20%、特に0.1〜5%であることが好ましい。
【0066】
なお、CaO、BaO、SrO以外にも、屈折率を高めるためにRO成分としてMgOを含有してもよい。MgOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%であることが好ましい。MgOの含有量が10%を超えると、失透しやすくなる。
【0067】
ZnOは屈折率を低下させることなくガラス粘度を低下させることが可能な成分である。よって、ガラス転移点を低下でき、金型と融着しにくいガラスを得ることができる。さらに、耐候性を向上させる効果もある。また、アルカリ土類金属成分(MgO、CaO、SrO、BaO)に比べ失透傾向が強くないため、多量に含有させても均質なガラスを得ることができる。さらに、ZnOはガラスが着色しにくい成分である。ZnOの含有量は0〜10%、0〜8%、特に0.1〜5%であることが好ましい。ZnOの含有量が10%を超えると、むしろ耐候性が悪化する傾向がある。また、高屈折率かつ高分散なガラスが得られにくくなる。
【0068】
なお、本発明において、透過率の高いガラスを得るためには、透過率低減の原因となるアルカリ土類金属酸化物やZnOの含有量を制限することが好ましい。例えば、BaO+ZnOが2.5%以下、特に2%以下であることが好ましい。また、CaO+SrO+BaO+MgO+ZnOが2.5%以下、特に2%以下であることが好ましい。
【0069】
ZrOは屈折率を高める成分である。また、中間酸化物としてガラスの骨格を形成するため、耐失透性を改善(BおよびLaで形成される失透物の抑制)したり、化学的耐久性を向上させたりする効果もある。ただし、ZrOの含有量が多くなるとガラス転移点が上昇し、モールドプレス成形性が悪化すると同時に、ZrOを主成分とする失透物が析出しやすくなる。また、アッベ数が大きくなって、高分散なガラスが得られにくくなる傾向がある。ZrOの含有量は0〜10%、0〜7.5%、特に0.1〜5%であることが好ましい。
【0070】
およびYbは屈折率を高め、分散を低下させる成分である。また、分相を抑制する効果がある。YおよびYbは、Laとの置換により耐失透性を改善することができる。YおよびYbの含有量は各々0〜10%、特に0.1〜8%であることが好ましい。YおよびYbのいずれかの含有量が10%を超えると、失透しやすくなり、作業温度範囲が狭くなる傾向がある。また、ガラス中に脈理が発生しやすくなる。
【0071】
清澄剤としては、例えばSbやSnOが挙げられる。特に、Sbは低温で溶融するガラスの清澄に有効であり、不純物であるFe等による着色を抑制することができる。ただし、清澄剤の添加量が多くなりすぎると、当該清澄剤からなるブツが発生しやすくなる。清澄剤の含有量は0〜1%、0.001〜0.1%であることが好ましい。
【0072】
GeOは、高屈折率かつ高分散の光学特性を得るための成分であるが、透過率が低下して所望の着色度が得られにくくなる。また、高価な原料であるため、多量に使用すると原料コストが高くなる傾向がある。したがって、本発明ではGeOは実質的に含有しない。
【0073】
TeOも、高屈折率かつ高分散の光学特性を得るための成分であるが、透過率が低下して所望の着色度が得られにくくなる。したがって、本発明ではTeOは実質的に含有しない。
【0074】
鉛成分(PbO)、砒素成分(As)およびF成分(F)は、環境上の理由から、実質的なガラスへの導入は避けるべきである。それゆえ本発明ではこれらの成分は実質的に含有しない。
【0075】
本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は2.0以上、特に2.05以上であることが好ましい。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は20以下、特に19以下であることが好ましい。これらの光学特性を満たすことにより、色分散が少なく、高機能で小型の光学素子用光学レンズとして好適となる。
【0076】
本発明の光学ガラスは、着色度λ70が500nm未満、470nm以下、特に460nm以下であることが好ましい。着色度λ70が500nm以上になると、可視域または近紫外域における透過率に劣り、各種光学レンズ等に使用することが困難となる。
【0077】
着色度λ70を上記範囲に調整するためには、既述の通り、Bi/Bの比を調整したり、Nb、WO、TiO等の透過率を低下させる成分の含有量を制限することが効果的である。また、後述するように、ガラスの溶融を酸化雰囲気下で行って金属ビスマスの析出を抑制することも好ましい。なお、不純物として白金が混入すると透過率が低下する傾向があるため、溶融炉の材質としては極力、白金を含有しないものが好ましい。例えば、溶融炉としては金を主成分として含有する材質を採用することが好ましい。なお、バッチ原料として粒径の小さいものや、一旦ガラス化したものを使用することで溶解性を向上させ、未溶解不純物の混入を抑制することができる。
【0078】
本発明の光学ガラスは、ガラス転移点が450℃以下、425℃以下、特に420℃以下であることが好ましい。ガラス転移点が低くなると、低温でのモールドプレス成形が可能となり、金型の酸化あるいはガラス成分の揮発による金型の汚染や、ガラスと金型との融着などの問題を抑制することができる。
【0079】
次に、本発明のガラスを用いて光ピックアップレンズや撮影用レンズ等を製造する方法を説明する。
【0080】
まず、所望の組成になるようにガラス原料を調合した後、ガラス溶融炉中で溶融を行う。本発明の光学ガラスを製造するためには、所定の組成になるように最適なガラス原料を選択して不純物の混入を抑制したり、ガラスの溶融雰囲気を調整する必要がある。特に、酸化ビスマスは溶融時に他の成分を酸化したり、ビスマス自身が還元されて金属ビスマスとなり、透過率低下の原因となりやすい。したがって、酸化雰囲気で溶融することが好ましい。酸化溶融雰囲気を実現するためには、酸化剤として働く硝酸原料、炭酸原料、水和物等を多く含む原料、例えば硝酸ビスマス、硝酸ランタン、硝酸バリウム、硝酸ソーダ等を多く使用することが好ましい。また、溶融時に酸素を多く含むガスをガラス中に導入することで、より酸化方向の溶融雰囲気が達成される。
【0081】
なお、高温で溶融すると、ビスマス自身が還元されて金属ビスマスが析出しやすくなるため、溶融温度はなるべく低いほうが好ましい。具体的には、溶融温度は1200℃以下、1100℃以下、特に1000℃以下が好ましい。特に溶融部材にAuを使用する場合、その融点が低く、Auの場合、約1060℃以下にする必要が生じる。下限は特に限定されないが、ガラス原料を十分に溶融してガラス化するために、700℃以上、特に800℃以上が好ましい。
【0082】
次に、溶融ガラスをノズルの先端から滴下して液滴状ガラスを作製し、プリフォームガラスを得る。または、溶融ガラスを急冷鋳造して一旦ガラスブロックを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを得る。
【0083】
続いて、精密加工を施した金型中にプリフォームガラスを投入して軟化状態となるまで加熱しながら加圧成形し、金型の表面形状をプリフォームガラスに転写させる。このようにして光ピックアップレンズや撮影用レンズを得ることができる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
表1〜7は本発明の実施例(No.1〜28、34〜56)および比較例(No.29〜33)を示している。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
【表6】

【0092】
【表7】

【0093】
各試料は次のようにして調製した。
【0094】
まず、表に示す各組成になるようにガラス原料を調合し、金ルツボを用いて800〜1050℃で1時間溶融した。溶融後、ガラス融液をカーボン板上に流し出し、さらにアニール後、各測定に適した試料を作製した。
【0095】
得られた試料について、屈折率、アッベ数、ガラス転移点、着色度λ70を評価した。結果を表1〜7に示す。
【0096】
屈折率は、ヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で示した。
【0097】
アッベ数は、上記d線の屈折率と水素ランプのF線(486.1nm)、同じく水素ランプのC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)=[(nd−1)/(nF−nC)]式から算出した。
【0098】
ガラス転移点は、熱膨張測定装置(dilato meter)にて測定される値によって評価した。
【0099】
着色度は、分光光度計を用いて、厚さ10mm±0.1mmの光学研磨されたガラス試料について、200〜800nmの波長域での透過率を0.5nm間隔で測定し、透過率70%を示す波長により評価した。
【0100】
なお、No.1およびNo.34の試料につきプレス性評価を行った。このプレス性評価は、モールドプレス成形を想定した熱によるガラス成分(主にビスマス)の揮発量を評価したものである。プレス性評価は、研磨されたタングステンカーバイト(WC)板上に、5mmφ×5mmtのサイズの端面鏡面研磨された試料を載置し、窒素雰囲気で熱処理を行うことにより行った。ここで、熱処理温度はガラス転移点+20℃で行った。結果を図1に示す。
【0101】
図1に示すように、熱処理後のWC板の状態を観察した結果、No.1の試料のほうがNo.34の試料よりビスマスを主成分とする揮発物の量が少ないことが確認された(なお、図1および2の写真において、白い斑点は塵やゴミである)。これにより、ガラス転移点が低いほうが、モールドプレス成形時における揮発物が少ないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の光学ガラスは、高屈折率かつ高分散であり、透過率に優れるため、CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラ、一般のカメラの撮影用レンズ等を高性能化することができる。また、モールドプレス成形以外の成形方法で製造されるガラス硝材として使用することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率ndが2.0以上、アッベ数νdが20以下、ガラス転移点が450℃以下であり、ガラス組成として質量%で、Bi 70〜90%、B 4〜29.9%、LiO+NaO+KO 0.1%〜10%、SiO+Al 0〜2.5%を含有し、かつ、鉛成分、砒素成分、F成分、TeO、GeOを実質的に含有しないことを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
質量比で、Bi/Bが8以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量%で、B/(SiO+Al)が5.5以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量%で、Bi+B+LiO+NaO+KOが90%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
質量%で、TiO+WO+Nbが0〜15%を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
質量%で、Bi+B+LiO+NaO+KO+TiO+WO+Nbが95%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
質量%で、ZnO+BaOが0〜2.5%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
質量%で、ZnO+BaO+CaO+SrO+MgOが0〜2.5%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項9】
質量%で、La+Gd+Taが0〜10%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項10】
質量%でSbが0〜1%であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項11】
ガラスの着色度λ70が500nm未満であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項12】
モールドプレス成形用であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項13】
請求項12に記載の光学ガラスをモールドプレス成形してなる光学素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−91990(P2012−91990A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287005(P2010−287005)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】