説明

光学塗料、光学塗膜、および光学素子

【課題】基材に対する密着性に優れ、異物の発生が抑制された塗膜を形成でき、かつ、簡便に生産性よく光学素子を形成できる光学塗料、光学塗膜、および光学素子の提供。
【解決手段】分子中にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート(A)、および分子中に10以下の重合性官能基を有するウレタン(メタ)アクリレート(B)を含む樹脂成分と、光重合開始剤(C)と、希釈剤(D)と、0.3質量%以下のシランカップリング剤とを含有する光学塗料であって、塗膜としたときの屈折率が1.55〜1.60であることを特徴とする光学塗料、および該光学塗料より形成された光学塗膜と、該光学塗膜を備えた光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学塗料、光学塗膜、および光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、顕微鏡、内視鏡等の光学機器のレンズ基材の光学面には、光線透過率を上げて撮像性能を向上させるために、反射防止膜が形成される場合が多い。
基材の表面に反射防止膜を形成する方法としては、真空蒸着法が用いられている。
しかし、真空蒸着法に代表される乾式法(ドライプロセス)は、真空下、高温加熱するため、反射防止膜の成膜時間が長いという問題があった。
【0003】
上記問題を解決するため、近年では、大気圧下で光学薄膜を形成する湿式法(ウェットプロセス)が提案されている。湿式法は、紫外線または熱で硬化する、エネルギー硬化型材料を溶媒で希釈した光学塗料を基材上に塗布した後、乾燥・硬化により塗膜を形成する方法である。
【0004】
ところで、反射防止膜の機能を発現しやすくするためには、屈折率の異なる複数の樹脂層(塗膜)を積層させ、反射防止膜全体として幅広い屈折率とする必要がある。各層の屈折率は、種類の異なる樹脂材料の組み合わせによって調整される。
また、反射防止膜を構成する複数の樹脂層のうち、特に基材に接する樹脂層は、基材への密着性が求められる。
【0005】
ガラス基材に対する密着性に優れた塗料としては、1つ以上のラジカル重合性二重結合を有する化合物と、シランカップリング剤とを含有する活性エネルギー線硬化性ガラス接着用組成物が提案されている(例えば特許文献1参照)。該組成物によれば、ガラス基材との密着性に優れた塗膜を活性エネルギー線の照射により簡便に形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−167244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の組成物のように、シランカップリング剤を含有する塗料は、密着性に優れた塗膜を形成できるものの、シランカップリング剤の副反応により塗膜に異物が発生することがあった。塗膜に異物が発生すると、該異物を起点として塗膜がガラス基材から剥離しやすくなる。
【0008】
ところで、基材上に塗膜を形成した後、該塗膜上に他の樹脂層をさらに形成させて反射防止膜とする場合、通常、最適な反射率となるように、他の樹脂層の膜厚や屈折率を最適化する必要があるが、基材上の塗膜の屈折率によっては、これらの最適化が困難となることがあった。また、場合によっては、他の樹脂層を形成するに際して市販の塗料では最適化が容易でないため、新たに専用の塗料を調製する必要があった。
そのため、基材上に複数の樹脂層からなる反射防止膜を形成させて光学素子を製造する場合、樹脂層の最適化や塗料の調製に手間がかかるため、生産性が低下することもあった。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、基材に対する密着性に優れ、異物の発生が抑制された塗膜を形成でき、かつ、簡便に生産性よく光学素子を形成できる光学塗料、光学塗膜、および光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光学塗料は、分子中にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート(A)、および分子中に10以下の重合性官能基を有するウレタン(メタ)アクリレート(B)を含む樹脂成分と、光重合開始剤(C)と、希釈剤(D)と、0.3質量%以下のシランカップリング剤とを含有する光学塗料であって、塗膜としたときの屈折率が1.55〜1.60であることを特徴とする。
ここで、前記(メタ)アクリレート(A)およびウレタン(メタ)アクリレート(B)の質量比((B)/(A))が、0.1〜2であることが好ましい。
また、前記光重合開始剤(C)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して2〜10質量部であることが好ましい。
さらに、前記希釈剤(D)の溶解度パラメータが、18.3〜20.1MPa1/2であり、当該光学塗料100質量%中、前記樹脂成分と光重合開始剤(C)の含有量の合計が2〜15質量%であることが好ましい。
また、本発明の光学塗膜は、前記光学塗料より形成されたことを特徴とする。
また、本発明の光学素子は、基材と、該基材上に形成された3層以上からなる屈折率層とを備え、前記屈折率層のうち、基材と接する層が前記光学塗料より形成された光学塗膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材に対する密着性に優れ、異物の発生が抑制された塗膜を形成でき、かつ、簡便に生産性よく光学素子を形成できる光学塗料、光学塗膜、および光学素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の光学素子の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の光学素子の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
[光学塗料]
本発明の光学塗料は、分子中にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート(A)(以下、「(A)成分」という。)、および分子中に10以下の重合性官能基を有するウレタン(メタ)アクリレート(B)(以下、「(B)成分」という。)を含む樹脂成分と、光重合開始剤(C)(以下、「(C)成分」という。)と、希釈剤(D)(以下、「(D)成分」という。)とを必須成分として含有する、紫外線硬化型塗料である。
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、メタクリレートとアクリレートとの両方を意味する。
【0014】
<樹脂成分>
((A)成分)
(A)成分は、分子中にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートである。
(A)成分がフルオレン骨格を有することで、透明性に優れた塗膜が得られる。加えて、得られる塗膜の屈折率を所望の値に容易に調整できる。
【0015】
(A)成分としては、フルオレン骨格を有するものであれば特に限定されないが、例えば9,9−ビス(4−(2−アクリロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)−9H−フルオレン、9,9−ビス(6−(2−アクリロキシエトキシ)ナフタレン−2−イル)−9H−フルオレンなどが挙げられる。
また、(A)成分としては市販品を用いることができ、例えば大阪ガスケミカル社製の「オグソールEA−0200」、「オグソールEA−0500」、「オグソールEA−1000」、「オグソールEA−F5003」、「オグソールEA−F5503」などが挙げられる。
これら(A)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
((B)成分)
(B)成分は、分子中に10以下の重合性官能基を有するウレタン(メタ)アクリレートである。
(B)成分が分子中に10以下の重合性官能基を有することで、基材に対する密着性に優れた塗膜が得られる。
重合性官能基の数は、6以上が好ましい。重合性官能基の数が6以上であれば、得られる塗膜の耐擦傷性が向上する。
【0017】
(B)成分としては、公知の方法により製造できる。例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどのポリオールと、ジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレートとを反応させることで得られる。
【0018】
(B)成分としては、具体的に、ビス(2,2−ビス(アクリロキシメチル)−3−アクリロキシプロピル)N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルジカルバメート、1,3,5−トリス(6−(2,2−ビス(アクリロキシメチル)−3−アクリロキシプロピルオキシ)カルボニルアミノヘキシル)−1,3,5−トリアジン−2,4−6−トリオン、ビス(2,2−ビス(アクリロキシメチル)−3−(2,2−ビス(アクリロキシメチル)−3−アクリロキシプロピル)プロピル)N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルジカーバメートなどが挙げられる。
また、(B)成分としては市販品を用いることができ、例えばダイセル・サイテック社製の「KRM8200」、「KRM7804」、「KRM8452」などが挙げられる。
これら(B)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
(A)成分と(B)成分の質量比((B)成分/(A)成分)は、0.1〜2であることが好ましく、0.2〜1がより好ましい。質量比が0.1以上であれば、基材に対する接着性により優れた塗膜が得られやすくなる。加えて、塗膜の耐擦傷性や成膜性が向上する。一方、質量比が2以下であれば、所望の屈折率を有する塗膜が得られやすくなり、塗膜の光学特性(反射防止性)を良好に維持できる。
【0020】
(その他のモノマー)
樹脂成分は、(A)成分および(B)成分のみを含むものでもよいが、これら以外の成分(その他のモノマー)を含んでいてもよい。
その他のモノマーとしては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
その他のモノマーの含有量は、樹脂成分100質量%中、10質量%以下が好ましい。
【0021】
<(C)成分>
(C)成分は光重合開始剤である。(C)成分としては、ラジカルを発生するものであれば特に制限されないが、光開裂型光重合開始剤、水素引き抜き型光重合開始剤などが挙げられる。
光開裂型光重合開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α−アクリルベンゾイン等のベンゾイン系、ベンジル、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン、ベンジルメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、4−(2−アクリロイル−オキシエトキシ)フェニル−2−ヒドロキシ−2−プロピルケトン、ジエトキシアセトフェノンなどが挙げられる。
これらの市販品としては、例えばBASF社製の「イルガキュア907」、「イルガキュア369」、「イルガキュア651」、「イルガキュア184」、「ZLI3331」「ルシリンTPO」「CGI1700」;メルク社製の「ダロキュア1173」、「ダロキュア1116」;ラムベルティ社製の「エサキュアーKIP100」;日本油脂社製の「BTTB」などが挙げられる。
【0022】
水素引き抜き型光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、p−メチルベンゾフェノン、p−クロルベンゾフェノン、テトラクロロベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、アセトフェノン等のアリールケトン系開始剤、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、p−メチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジメチルアミノアセトフェノン等のジアルキルアミノアリールケトン系開始剤、チオキサントン、キサントン系のおよびそのハロゲン置換系の多環カルボニル系開始剤などが挙げられる。
これら(C)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
(C)成分の含有量は、樹脂成分100質量部に対して2〜10質量部が好ましく、3〜7質量部がより好ましい。(C)成分の含有量が2質量部以上であれば、十分な硬化性を確保できる。一方、(C)成分の含有量が10質量部以下であれば、耐擦傷性に優れた塗膜が得られやすくなる。また、得られた塗膜が黄変するのを防止できるので、透明性が向上する。
【0024】
<(D)成分>
(D)成分は希釈剤である。(D)成分としては、例えばプロピレングリコールモノプロピルエーテル(PNP)、2−メトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ジオキサン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、3−メトキシ−3−メチルブタノール(MMB)、3−メトキシブタノール(MB)、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが挙げられる。
これら(D)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
これらの中でも、(D)成分としては、溶解度パラメータ(SP値)が18.3〜20.1MPa1/2である溶媒が好ましい。SP値が上記範囲内であれば、樹脂成分を均一に溶解または分散できるので、成膜性が向上するとともに、均一な塗膜を形成できる。なお、塗料中で樹脂成分が均一に溶解または分散していない場合、塗膜となったときに、膜厚が均一になりにくくなる場合がある。膜厚が均一でないということは、局所的に樹脂の塊ができることを意味し、この樹脂の塊を起点として塗膜が基材から剥離する場合がある。
また、(D)成分としては、粘度が0.4〜2.5mPa・sであり、表面張力が25.0〜27.5mN/mである溶媒が好ましい。粘度や表面張力が上記範囲内であれば、成膜性がより向上する。
ここで、(D)成分として用いられる主な溶媒のSP値、粘度、および表面張力を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
<他の成分>
本発明の光学塗料は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上述した樹脂成分、(C)成分、(D)成分以外の他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防曇剤、難燃剤、可塑剤、重合抑制剤、界面活性剤、防カビ剤、レベリング剤、スリップ剤、消泡剤、帯電防止剤、増粘剤、有機フィラー、無機フィラー、これらの分散剤など、通常の光学用塗料に用いられる添加剤が挙げられる。
【0028】
なお、本発明の光学塗料は、基材に対する密着性に優れた塗膜が得られるので、シランカップリング剤を含有する必要がない。よって、塗膜に異物が発生するのを抑制できる。
本発明の光学塗料は、シランカップリング剤を含有しないことが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、シランカップリング剤を含有していてもよい。シランカップリング剤としては、市販品として信越化学工業社製の「KBM−5103」や「KBM−503」、JNC社製の「サイラエースS710」などが挙げられる。
光学塗料がシランカップリング剤を含有する場合、その含有量は、光学塗料100質量%中、0.3質量%以下である。シランカップリング剤の含有量が0.3質量%を超えると、塗膜に異物が発生しやすくなる。
【0029】
<濃度>
本発明の光学塗料は、前記樹脂成分と(C)成分の含有量の合計が、光学塗料100質量%中、2〜15質量%であることが好ましく、2.5〜10質量%がより好ましい。含有量の合計が2質量%以上であれば、詳しくは後述するが、所望の膜厚の塗膜を容易に形成でき、光学特性を十分に発揮できる。一方、含有量の合計が15質量%以下であれば、樹脂成分を均一に溶解または分散できるので、成膜性が向上するとともに、均一な塗膜を形成できる。よって、上述したような樹脂の塊が局所的にできるのを抑制でき、塗膜が基材から剥離するのを抑制できる。
【0030】
<屈折率>
本発明の光学塗料は、塗膜としたときの屈折率が1.55〜1.60である。塗膜としたときの屈折率が1.55以上であれば、詳しくは後述するが、基材と3層以上の樹脂層からなる屈折率層とを備えた光学素子を製造するに際して、基材上に本発明の光学塗料を塗布して光学塗膜を形成した後、該光学塗膜上に他の樹脂層を形成するときに、光学塗膜と他の樹脂層との屈折率差を容易に得ることができ、結果として、基材上に設ける樹脂層としては3層構成で十分な光学特性を得ることができる。塗膜の屈折率が1.60以下であれば、同様に樹脂層としては3層構成で十分な光学特性を得ることができる。
なお、塗膜としたときの屈折率が上記範囲から外れると、上述したように光学素子を製造するに際して、光学塗膜上に他の樹脂層を形成するときに、該他の樹脂層の膜厚や屈折率を最適化するのが困難となる。また、場合によっては、他の樹脂層を形成するに際して市販の塗料では最適化が容易でないため、新たに専用の塗料を調製する必要がある。
ここで、本発明に記載する「屈折率」とは、波長550nmにおける値を指す。
【0031】
しかし、本発明の光学塗料であれば、塗膜としたときの屈折率が1.55〜1.60であるため、該塗膜上に他の樹脂層を形成する場合、他の樹脂層の膜厚や屈折率の最適化が容易であるとともに、市販の塗料を使用できる。加えて、当該塗膜の屈折率は1.55〜1.60の範囲において、また膜厚においても任意に選択できるため、他の樹脂層として屈折率の異なる樹脂層を2層設ければ、十分な光学特性が得られる。よって、他の樹脂層を形成する手間を軽減でき、短時間で多くの光学素子を製造できる。
【0032】
塗膜の屈折率は、(A)成分の種類や含有量を調整することによって制御できる。例えば、(A)成分の含有量が少なくなると、屈折率は小さくなる傾向にある。
なお、塗膜の屈折率は、以下のようにして測定できる。
すなわち、光学塗料をガラス基材上に塗布し、硬化させて形成した塗膜の反射率(R)を測定し、下記式(1)より塗膜の屈折率を求める。
R=(n−n/(n+n ・・・(1)
式(1)中、「n」は空気の屈折率であり、「n」は塗膜の屈折率である。
【0033】
<作用効果>
以上説明した本発明の光学塗料は、(B)成分を含有するので、シランカップリング剤を含有しなくても、基材に対する密着性に優れた塗膜を形成できる。加えて、シランカップリング剤を含有する必要がないので、塗膜に異物が発生しにくく、塗膜が基材から剥離するのを抑制できる。
また、本発明の光学塗料は、(A)成分を含有するので、屈折率が1.55〜1.60の塗膜を形成できる。よって、該塗膜上に他の樹脂層を形成する場合、他の樹脂層の膜厚や屈折率の最適化が容易であるとともに、市販の塗料を使用できる。よって、簡便に生産性よく光学素子を形成できる。
本発明の光学塗料より形成される塗膜は、光学素子の基材上に設けられる光学塗膜として好適である。
【0034】
[光学塗膜]
本発明の光学塗膜は、本発明の光学塗料より形成された塗膜であり、屈折率が1.55〜1.60である。
光学塗膜の膜厚は、10〜200nmであることが好ましく、20〜150nmがより好ましい。膜厚が10nm以上であれば、後述する他の樹脂層を形成したときに、十分な光学特性を発揮できる。一方、膜厚が200nm以下であれば、硬化したときの収縮を抑制できる。また、他の樹脂層を形成したときに、光学塗膜と他の樹脂層との密着性を良好に維持できる。
【0035】
本発明の光学塗膜は、本発明の光学塗料より形成された塗膜であるため、後述する基材との密着性に優れる。また、異物の発生が抑制されているので、基材から剥離しにくい。
【0036】
[光学素子]
図1に、本発明の光学素子の一例を示す。
この例の光学素子1は、基材10と、該基材10上に形成された3層からなる屈折率層20とを備えている。
【0037】
基材10としてはレンズ基材が挙げられ、材質としてはガラス、プラスチックなどが挙げられる。
【0038】
図1に示す屈折率層20は、基材10上に形成された第一の樹脂層21と、該第一の樹脂層21上に形成された第二の樹脂層22と、該第二の樹脂層22上に形成された第三の樹脂層23とからなる。
第一の樹脂層21は、本発明の光学塗料より形成された光学塗膜である。
【0039】
第二の樹脂層22は、第一の樹脂層21および第三の樹脂層23よりも屈折率が高い層である。第二の樹脂層22の屈折率は、1.70〜2.00が好ましい。屈折率が上記範囲内であれば、第一の樹脂層21との屈折率差が得られやすいため、反射防止性能に優れる光学素子1の製造が容易となる。
第二の樹脂層22を構成する材料としては、例えばチタノキサンポリマー、酸化ジルコニウム含有ポリマー、酸化ニオブ含有ポリマー、TiO、ZrO、Nb、Ta、CeO、HfO又はこれらの混合物や、これらを分散してなるエネルギー硬化型材料などが挙げられる。
【0040】
第三の樹脂層23は、第一の樹脂層21および第二の樹脂層22よりも屈折率が低い層である。第三の樹脂層23の屈折率は、1.25〜1.40が好ましい。屈折率が上記範囲内であれば、広い波長領域に渡って反射率を低く抑えるのに有効であり、直入射光だけでなく広い角度範囲から入射する光に対しても反射率を低く抑えることができることから光学薄膜として有用である。
第三の樹脂層23を構成する材料としては、例えばMgF、SiO又はこれらの混合物などが挙げられる。
【0041】
光学素子1は、例えば以下のようにして製造できる。
まず、基材10上に本発明の光学塗料を塗布する。その後、紫外線などの活性エネルギー線を照射して、第一の樹脂層21である光学塗膜を形成する。
塗布方法としては、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、ロールコート法、インクジェット法が好適に用いられる。
紫外線を照射する場合、その光源種は特に限定されないが、例えばLED光源、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプなどの光源を使用できる。また、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0042】
ついで、第一の樹脂層21上に第二の樹脂層22用の塗料(以下、「第二の塗料」という場合がある。)を塗布し、硬化させて、第二の樹脂層22を形成する。
その後、第二の樹脂層22上に第三の樹脂層23用の塗料(以下、「第三の塗料」という場合がある。)を塗布し、硬化させて、第三の樹脂層23を形成し、基材10上に屈折率層20が形成された光学素子1を得る。
第二の塗料および第三の塗料の塗布方法としては、光学塗料の塗布方法の説明において先に例示した方法が挙げられる。
また、第二の塗料および第三の塗料の硬化方法としては特に限定されず、紫外線硬化型の塗料であれば紫外線を照射し、熱硬化型の塗料であれば所定の温度に加熱すればよい。
【0043】
ところで、第二の樹脂層22および第三の樹脂層23を形成する際には、これらの樹脂層の膜厚や屈折率を最適化する必要がある。
しかし、本発明であれば、第一の樹脂層21が本発明の光学塗料より形成された光学塗膜であるため、最適化が容易であるとともに、市販の塗料を第二の塗料および第三の塗料として使用できるので、新たに塗料を調製する必要がない。
【0044】
このようにして得られた光学素子1の屈折率層20は、屈折率の異なる3層の樹脂層が積層して構成されているので、広い波長領域にわたって反射率を低く抑えることができ、対応できる波長範囲が広い。よって、屈折率層20は反射防止膜として好適である。
【0045】
また、本発明の光学素子1は、屈折率層20のうち、基材10と接する層(第一の樹脂層21)が本発明の光学塗料より形成された光学塗膜である。よって、基材10と第一の樹脂層21とが十分に密着しており、第一の樹脂層21が基材10から剥離しにくい。
加えて、第一の樹脂層21が本発明の光学塗膜であるため、第一の樹脂層21上に形成される他の樹脂層としては、第二の樹脂層22と第三の樹脂層23の2層で十分であり、屈折率層20が3層構造であっても十分な反射防止性能が得られる。すなわち、基材10上には少なくとも3層の樹脂層を形成すればよいので、本発明であれば、樹脂層形成の手間を軽減でき、短時間で多くの光学素子を製造できる。
【0046】
なお、本発明の光学素子は、図1に示す光学素子1に限定されない。図1に示す光学素子1の屈折率層20は3層構造であるが、例えば図2に示す光学素子2のように、屈折率層20は4層であってもよい。図2に示す光学素子2の屈折率層20は、第二の樹脂層22と第三の樹脂層23との間に、本発明の光学塗料より形成された光学塗膜(第四の樹脂層24)が形成された4層構造である。
また、屈折率層20は、5層以上であってもよいが、屈折率層を構成する樹脂層の数が増えるほど、樹脂層形成の手間が増える。よって、屈折率層の反射防止性能と光学素子の生産性を考慮すると、屈折率層は3〜5層が好ましい。
【0047】
本発明の光学素子は、例えばカメラ、顕微鏡、内視鏡、半導体露光装置等の光学機器の光学素子として好適である。
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例、比較例で用いた使用原料、および測定方法と評価方法を以下に示す。
【0049】
[使用原料]
<(A)成分、(A)成分の代替品>
(A)成分または(A)成分の代替品として、以下に示す化合物を用いた。
・A−1:9,9−ビス(4−(2−アクリロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)−9H−フルオレン。
・A−2:9,9−ビス(6−(2−アクリロキシエトキシ)ナフタレン−2−イル)−9H−フルオレン。
・MMA:メタクリル酸メチル(和光純薬工業社製)。
【0050】
<(B)成分、(B)成分の代替品>
(B)成分または(B)成分の代替品として、以下に示す化合物を用いた。
・KRM8200:ビス(2,2−ビス(アクリロキシメチル)−3−アクリロキシプロピル)N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルジカルバメート(ダイセル・サイテック社製、「KRM8200」、重合性官能基の数:6)。
・KRM7804:1,3,5−トリス(6−(2,2−ビス(アクリロキシメチル)−3−アクリロキシプロピルオキシ)カルボニルアミノヘキシル)−1,3,5−トリアジン−2,4−6−トリオン(ダイセル・サイテック社製、「KRM7804」、重合性官能基の数:9)。
・KRM8452:ビス(2,2−ビス(アクリロキシメチル)−3−(2,2−ビス(アクリロキシメチル)−3−アクリロキシプロピル)プロピル)N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルジカーバメート(ダイセル・サイテック社製、「KRM8452」、重合性官能基の数:10)。
・EBECRYL8210:脂肪族ウレタンアクリレート(ダイセル・サイテック社製、「EBECRYL8210」、重合性官能基の数:4)。
・B’−1:分子中に11以上の重合性官能基を有するウレタン(メタ)アクリレート。
【0051】
<(C)成分>
(C)成分として、以下に示す化合物を用いた。
・イルガキュア907:2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン(BASF社製、「イルガキュア907」)。
【0052】
<(D)成分>
(D)成分として、以下に示す化合物を用いた。
・PNP:プロピレングリコールモノプロピルエーテル(和光純薬工業社製、SP値:20.04MPa1/2)。
・アセトン:(和光純薬工業社製、SP値:20.40MPa1/2)。
【0053】
<その他>
その他の成分として、以下に示す化合物を用いた。
・KBM−5103:シランカップリング剤(信越化学工業社製、「KBM−5103」)。
【0054】
[測定・評価]
<試験片の作製>
表面を鏡面研磨した直径30mmのガラス基材(オハラ社製、「S−BSL7」、厚さ:1mm)の研磨面に、0.05mLの光学塗料を滴下し、スピンコーター(アクティブ社製、「ACT−220DII」)を用いて3000rpmで10秒、スピンコートした。スピンコート後、UV光源(住田光学社製、「LS−165UV」)を用い、波長365nmでの積算光量が1000mJ/cmとなるように紫外線を照射し、ガラス基材上に光学塗膜(膜厚:100nm)が形成された試験片を得た。
【0055】
<屈折率の測定>
試験片の光学塗膜について、近赤外顕微分光測定機(オリンパス社製、「USPM−RU」)を用いて反射率を測定し、上記式(1)より光学塗膜の屈折率を測定した。
【0056】
<密着性の評価>
試験片の光学塗膜上に、粘着テープ(ニチバン社製、「CT24」)を貼着した後、これを引き剥がしたときの塗膜外観を目視にて観察し、以下の評価基準にて密着性を評価した。
○:塗膜外観に変化が見られない。
△:粘着テープを貼着した面の半分以下の範囲において、塗膜が剥離した。
×:粘着テープを貼着した面の半分を超える範囲において、塗膜が剥離した。
【0057】
<耐擦傷性の評価>
試験片の光学塗膜上に、レンズクリーニングワイパー(小津産業社製、「ダスパー」)を荷重200gで押し当て、10往復させた後の塗膜外観を目視にて観察し、以下の評価基準にて耐擦傷性を評価した。
○:塗膜外観に変化が見られない。
×:塗膜外観に変化が見られた。
【0058】
<異物の発生の評価>
試験片の光学塗膜に、光源(オリンパス社製、「Model LGPS」)より光を照射したときの塗膜外観を目視にて観察し、以下の評価基準にて異物の発生を評価した。
○:異物を確認できない。
×:異物を確認できた。
【0059】
<成膜性の評価>
試験片の光学塗膜に、光源(オリンパス社製、「Model LGPS」)より光を照射したときの塗膜外観を目視にて観察し、以下の評価基準にて成膜性を評価した。
○:光学塗料が塗布されていない部分を確認できない。
×:光学塗料が塗布されていない部分を確認できた。
【0060】
[実施例1]
(A)成分としてEA−F5503を1gと、(B)成分としてKRM8452を0.1gと、(C)成分としてイルガキュア907を0.05gと、(D)成分としてPNPを19g混合し、光学塗料を調製した。
得られた光学塗料について、各測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0061】
[実施例2〜18、比較例1〜6]
配合組成を表2〜4に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして光学塗料を調製し、各測定および評価を行った。結果を表2〜4に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
表2、3から明らかなように、各実施例で得られた光学塗料は、ガラス基材に対する密着性に優れ、かつ異物の発生が抑制された光学塗膜を形成できた。特に、(B)成分/(A)成分の質量比が0.1〜2であり、樹脂成分((A)成分と(B)成分の合計)100質量部に対する(C)成分の含有量が2〜10質量部であり、光学塗料100質量%中の(A)〜(C)成分の含有量の合計が2〜15質量%であり、(D)成分としてSP値が20.04MPa1/2であるPNPを用いた実施例1〜12の場合、得られた光学塗膜は、耐擦傷性および成膜性にも優れていた。
なお、(B)成分/(A)成分の質量比が0.05である実施例13の場合、ガラス基材に対する光学塗膜の密着性が他の実施例に比べてやや劣っていた。また、光学塗膜の耐擦傷性や成膜性も他の実施例に比べると劣るものであった。
(C)成分の含有量が、樹脂成分((A)成分と(B)成分の合計)100質量部に対して、1.8質量部、または11質量部である実施例14、15の場合、光学塗膜の耐擦傷性が他の実施例に比べて劣っていた。
(D)成分としてSP値が20.40MPa1/2であるアセトンを用いた実施例16の場合、成膜性が他の実施例に比べて劣っていた。
(B)成分として重合性官能基の数が4であるウレタンアクリレートを用いた実施例17、18の場合、光学塗膜の耐擦傷性が他の実施例に比べて劣っていた。
【0066】
一方、比較例1、2、5で得られた光学塗料は、光学塗膜の屈折率が1.54であった。そのため、各評価は各実施例で得られた光学塗料と同程度であったが、光学素子を製造するに際して、光学塗膜上に他の樹脂層を形成するときに、該他の樹脂層の膜厚や屈折率を最適化するのが困難となる。
(B)成分を含有しない比較例3で得られた光学塗料は、ガラス基材に対する光学塗膜の密着性や耐擦傷性が劣り、成膜性も悪かった。また、光学塗膜には異物が発生しやすかった。
(B)成分として重合性官能基の数が11以上であるウレタン(メタ)アクリレートを用いた比較例4で得られた光学塗料は、ガラス基材に対する光学塗膜の密着性が劣っていた。また、光学塗膜の屈折率が1.54であった。そのため、光学素子を製造するに際して、光学塗膜上に他の樹脂層を形成するときに、該他の樹脂層の膜厚や屈折率を最適化するのが困難となる。
シランカップリング剤を0.5質量%含む比較例6で得られた光学塗料は、光学塗膜に異物が発生しやすかった。また、光学塗膜は耐擦傷性にも劣るものであった。
【符号の説明】
【0067】
1:光学素子、2:光学素子、10:基材、20:屈折率層、21:第一の樹脂層、22:第二の樹脂層、23:第三の樹脂層、24:第四の樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート(A)、および分子中に10以下の重合性官能基を有するウレタン(メタ)アクリレート(B)を含む樹脂成分と、光重合開始剤(C)と、希釈剤(D)と、0.3質量%以下のシランカップリング剤とを含有する光学塗料であって、
塗膜としたときの屈折率が1.55〜1.60であることを特徴とする光学塗料。
【請求項2】
前記(メタ)アクリレート(A)およびウレタン(メタ)アクリレート(B)の質量比((B)/(A))が、0.1〜2であることを特徴とする請求項1に記載の光学塗料。
【請求項3】
前記光重合開始剤(C)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して2〜10質量部であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学塗料。
【請求項4】
前記希釈剤(D)の溶解度パラメータが、18.3〜20.1MPa1/2であり、当該光学塗料100質量%中、前記樹脂成分と光重合開始剤(C)の含有量の合計が2〜15質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学塗料。
【請求項5】
請求項1に記載の光学塗料より形成されたことを特徴とする光学塗膜。
【請求項6】
基材と、該基材上に形成された3層以上からなる屈折率層とを備え、前記屈折率層のうち、基材と接する層が請求項1に記載の光学塗料より形成された光学塗膜であることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−95816(P2013−95816A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238715(P2011−238715)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】