説明

光学素子、撮像装置及び駆動方法

【課題】エレクトロウェッティング現象を用いた光学素子において、第1液体と第2液体との界面形状を元の静止状態に戻す際の動作速度を速くすることである。
【解決手段】本発明の光学素子は、有極性または導電性の第1液体と、第1液体と混ざらず且つ第1液体と略等しい比重を有する無極性または絶縁性の第2液体とを備える。また、第1基材部と、第2基材部と、第1及び第2基材部を接続する側壁部と、第1及び第2液体を内部に密封する収容部とを備える。また、第1基材部、第2基材部及び側壁部はそれぞれ第1電極、第2電極及び第3電極を備える。そして、静止状態から第1液体と第2液体との界面形状を変形させる際には、従来と同様に、第2及び第3電極間に電圧を印加し、第1液体と第2液体との界面形状を元の静止状態に戻す際には、第1及び第3電極間に電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、撮像装置及び駆動方法に関し、より詳細には、エレクトロウェッティング現象を利用した光学素子、その光学素子を備える撮像装置及びその光学素子の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロウェッティング現象(電気毛管現象)を用いた種々の光学デバイス(レンズ等)が提案されている。これらの光学デバイスでは、光学デバイス内に封入された互いに混合しない2つの液体間の界面形状がエレクトロウェッティング現象により変化するという性質を利用する。このような光学デバイスの一つとして、従来、エレクトロウェッティング現象を利用して透過する光量を調整する光学素子(絞り機構)、いわゆる、液体アイリスと呼ばれる光学素子が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
特許文献1及び2の液体アイリスの内部には、導電性の第1液体と、第1液体と比重が同じであり、第1液体と混ざらず且つ第1液体より透過率の高い絶縁性の第2液体が封入される。また、第1及び第2液体を収容する収容室の内壁には、第1液体との親和性の高い薄膜(親水膜)と、第2液体との親和性の高い薄膜(撥水膜)とが形成される。それゆえ、静止状態時(液体アイリスを駆動していない状態)には、収容室内では第1液体が親水膜側に位置し、第2液体が撥水膜側に位置する。
【0004】
そして、特許文献1及び2の液体アイリスでは、液体アイリスの側面壁に設けられた電極と、光出射側の端面壁に設けられた透明電極との間に電圧を印加して、エレクトロウェッティング現象により第1液体と第2液体との界面を変形させる。これにより、第2液体の一部を光入射側の端面壁側に押しつけて、液体アイリスの光入射側に光が透過する開口部を形成する。この開口部の大きさは、印加電圧の大きさにより調整することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2006−250967号公報
【特許文献2】特開2006−250977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したエレクトロウェッティング現象を利用した液体アイリスでは、第1液体と第2液体との界面形状を変形させる際(開口部を形成する際)には電圧を印加する。一方、第1液体と第2液体との界面形状を元の形状(静止状態)に戻す際には、電圧をオフする。すなわち、従来の液体アイリスでは、開口部の開閉動作は片側駆動方式となる。
【0007】
このような片側駆動方式では、第1液体と第2液体との界面形状を静止状態から変形させる場合には、電圧を印加することによりエレクトロウェッティング現象に基づく外力が界面に作用するので、その界面形状の変化速度(液体アイリスの動作速度)は速い。しかしながら、界面形状を元の静止状態に戻す際(開口部を閉じる際)には、電圧を印加せず、収容室内の撥水膜と第2液体との親和性に基づく復元力により界面が動作するので、界面形状の変化速度が遅いという問題がある。
【0008】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、エレクトロウェッティング現象を用いた光学素子において、第1液体と第2液体との界面形状を元の静止状態に戻す際の動作速度を速くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するために、本発明の光学素子を、次のような構成とした。本発明の光学素子は、有極性または導電性を有する第1液体と、第1液体と混合しない第2液体とを備える。また、本発明の光学素子は、第1基材部と、第2基材部と、第1及び第2基材部を接続する側壁部と、第1基材部、第2基材部及び側壁部により画成され、第1及び第2液体を内部に密封する収容部とを備える。なお、第1基材部は、光透過性を有する第1基材と、第1基材の一方の面上に形成された光透過性を有する第1電極と、第1電極上に形成された光透過性を有する第1絶縁膜とを有する。さらに、第1基材部は、第1絶縁膜上に形成され、第2液体より第1液体との親和性が高く、且つ、光透過性を有する第1膜と、第1膜の中央に形成され、第1液体より第2液体との親和性が高く、且つ、光透過性を有する第2膜とを有する。また、第2基材部は、光透過性を有する第2基材と、第2基材の一方の面上に形成された光透過性を有する第2電極と、第2電極上に形成された光透過性を有する第2絶縁膜とを有する。さらに、第2基材部は、第2絶縁膜上に形成され、第1液体より第2液体との親和性が高く、且つ、光透過性を有する第3膜を有する。また、側壁部は、第3電極を有し、第1膜及び第3膜が対向するように第1及び第2基材部を接続する。
【0010】
また、上記問題を解決するために、本発明の撮像装置を、次のような構成とした。本発明の撮像装置は、上記本発明の光学素子と、光学素子の第1電極及び第3電極間、または、第2電極及び第3電極間に電圧を印加する電源部とを備える。さらに、撮像装置は、入射光を集光するレンズ群と、光学素子及びレンズ群を介して入射光が集光される撮像素子とを備える。
【0011】
さらに、上記問題を解決するために、本発明の駆動方法では、次のようにして光学素子を駆動するようにした。まず、上記本発明の光学素子の第2電極と第3電極との間に電圧を印加して、第1液体及び第2液体の界面形状を変化させる。次いで、変化した第1液体及び第2液体の界面形状を元の形状に戻す際に、第1電極と第3電極との間に電圧を印加する。
【0012】
上述のように、本発明では、光学素子を構成する第1基材部、第2基材部及び側壁部は、それぞれ第1電極、第2電極及び第3電極を備える。この場合、光学素子(第1液体)に対して、第1及び第3電極間または第2及び第3電極間に電圧を印加することができる。本発明では、第1液体と第2液体との界面形状を静止状態から変形させる際には、従来と同様に、第2及び第3電極間に電圧を印加し、第1液体と第2液体との界面形状を元の静止状態に戻す際には、第1及び第3電極間に電圧を印加する。すなわち、本発明では、変形された第1液体と第2液体との界面形状を元の静止状態に戻す際にも、エレクトロウェッティング現象により第1及び第2液体の界面に外力を与えて、元の静止状態に戻す。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、変形された第1液体と第2液体との界面形状を元の静止状態に戻す際には、エレクトロウェッティング現象に基づく外力を第1及び第2液体の界面に与える。それゆえ、本発明によれば、変形した第1液体と第2液体との界面形状を元の静止状態に戻す際の動作速度を速くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照しながら下記の順で説明する。以下の実施形態では、本発明の光学素子として、撮像装置に用いられる液体アイリス(絞り機構)を例にとり説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
1.撮像装置の構成
2.液体アイリスの構成
3.液体アイリスの作製方法
4.エレクトウェッティング現象
5.液体アイリスの動作サイクル
6.開口部を形成する際の液体アイリスの動作
7.開口部を閉じる際の液体アイリスの動作
8.変形例
【0015】
[1.撮像装置の構成]
図1に、本実施形態の液体アイリスを適用した撮像装置の概略構成例を示す。なお、図1には、ズーム機構を備えた撮像装置の例を示す。また、図1には、主に撮像装置の光学系の構成を示し、撮像した画像の処理及び光学系の制御処理を行う構成部は省略する。なお、本発明は、ズーム機構を備えない撮像装置にも適用可能である。
【0016】
撮像装置20の光学系は、第1レンズ群1と、第2レンズ群2と、液体アイリス10と、第3レンズ群3と、第4レンズ群4と、フィルタ5と、撮像素子6とを備える。また、第1レンズ群1、第2レンズ群2、液体アイリス10、第3レンズ群3、第4レンズ群4、フィルタ5及び撮像素子6は、光線30の入射側から、この順で配置される。
【0017】
入射光を集光するための第1〜第4レンズ群のうち、第1レンズ群1及び第3レンズ群3は、鏡筒(不図示)内に固定して取り付けられる。第2レンズ群2は、ズーム用のレンズ群であり、光軸7の方向に沿って移動可能に鏡筒に取り付けられる。また、第4レンズ群4は、フォーカス用のレンズ群であり、光軸7の方向に移動可能に取り付けられる。なお、第2レンズ群2(ズーム用)及び第4レンズ群4(フォーカス用)の光軸7方向の移動は、撮像装置20内の図示しない制御部により制御される。
【0018】
液体アイリス10(光学素子)は、エレクトロウェッティング現象を利用して液体アイリス10の光入射側の開口径(絞り径)を調整し、これにより、液体アイリス10内を通過する光線30の光量を調整する。液体アイリス10の光入射側の開口径(絞り径)は、液体アイリス10に印加する電圧値により調整し、この調整は撮像装置20内の図示しない制御部により制御される。なお、液体アイリス10の具体的な構成及び動作は後で詳述する。
【0019】
フィルタ5は、赤外カットフィルタやローパスフィルタ等から構成される。また、撮像素子6は、例えば、CCD(Charge Coupled Devices)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)で構成される。
【0020】
本実施形態の撮像装置20では、図1に示すように、第1レンズ群1側から入射された光線30は、上述した種々の光学素子を介して、撮像素子6の結像面6aに集光される。そして、撮像素子6で取得した画像データは、撮像装置20内の図示しない画像処理部により所定の処理が施される。
【0021】
[2.液体アイリスの構成]
図2(a)及び(b)に、本実施形態の液体アイリス10の概略構成を示す。図2(a)は、電圧を印加していないとき(静止状態時)の液体アイリス10の概略断面図であり、図2(b)は、そのときの光入射側からみた液体アイリス10の上面図である。
【0022】
液体アイリス10は、第1基材部11と、第2基材部21と、第1基材部11及び第2基材部21を接続する側壁部31とで構成される。そして、第1基材部11、第2基材部21及び側壁部31により画成された収容室40(収容部)に、第1液体41及び第2液体42が密閉封入されている。
【0023】
第1液体41には、有極性または導電性を有する液体を用いる。第1液体41としては、このような特徴を有する液体であれば、任意の液体を用いることができる。例えば、第1液体41として、水(比重1、屈折率1.333)が用い得る。また、水以外では、水とエタノールとの混合液体、水とエタノールとエチレングリコールとの混合溶液、水及びエタノールの混合液体に食塩を加えた混合液体等を第1液体41として用いることができる。また、本実施形態では、第1液体41の光透過性を抑制するため、第1液体41にカーボンブラック等を混合して着色する。なお、着色材としては、カーボンブラック以外の染料を用いてもよい。
【0024】
一方、第2液体42には、第1液体41と混合せず、第1液体41と略等しい比重及び屈折率を有し、絶縁性または無極性を有し且つ光透過性を有する液体を用いる。第2液体42としては、このような特徴を有する任意の液体を用いることができる。なお、第1液体41の屈折率と第2液体42の屈折率を略同一にすることにより、第1液体41と第2液体42との界面における光の屈折(レンズ効果)を防止または十分小さくすることができ、液体アイリス10の絞り動作をより確実に行わせることができる。また、比重を略同じにすることによって、装置全体が振動したり、傾いたりした場合における第1液体41及び第2液体42の界面の変形をすることを抑制することができる。なお、第1液体41及び第2液体42の比重及び屈折率は、装置の光学特性、耐振動特性等が装置の許容範囲内となる程度に近い数値であればよい。また、第2液体42は、着色しないので、第2液体42の光透過率は第1液体41のそれより高くなる。
【0025】
第1液体41として水を用いる場合には、第2液体42として、例えば、シリコーンオイルを用いる。なお、市販されているシリコーンオイルには種々のものがあり、それぞれ、その比重や屈折率が異なる。それゆえ、本実施形態では、市販のシリコーンオイルの中から、第1液体41と略同じ比重及び屈折率を有するシリコーンオイルを選び、それを第2液体42として用いる。なお、第1液体41と第2液体42の比重及び屈折率をより近くするために、例えば、水にエタノール、エチレングリコール、食塩等を混合したものを第1液体41として用い、それらの混合比を調節して第1液体41の比重及び屈折率を調整してもよい。
【0026】
第1基材部11は、第1基材12と、第1基材12上に形成された第1電極13と、第1電極13上に形成された第1絶縁膜14と、第1絶縁膜14上に形成された親水膜15と、親水膜15の中央に形成された第1撥水膜16とを備える。
【0027】
第1基材12は、透明ガラス等の光透過性材料で形成された、例えば、厚さ約0.2〜0.3mmの正方形状の板状部材である。なお、第1基材12の形成材料としては、透明性を有する合成樹脂材料等を用いてもよい。第1電極13は、酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)等で形成された透明電極である。第1電極13は、撮像装置20の電源部8に接続される。より具体的には、電源部8は電源8aと切替スイッチ8bとで構成されており、第1電極13は、切替スイッチ8bの一つの端子Bに接続される。また、第1絶縁膜14は、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等で形成された誘電体膜である。
【0028】
親水膜15(第1膜)は、第2液体42より第1液体41との親和性の高い薄膜である。すなわち、第1液体41の親水膜15に対する濡れ性は、第2液体42の親水膜15に対する濡れ性より大きくなる。本実施形態では、親水膜15の形成材料として、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂等を用いる。なお、親水膜15としては、親水性及び光透過性を有する薄膜であれば任意の薄膜を用いることができる。
【0029】
第1撥水膜16(第2膜)は、第1液体41より第2液体42との親和性の高い薄膜(疎水性または親油性の薄膜)である。すなわち、第2液体42の第1撥水膜16に対する濡れ性は、第1液体41の第1撥水膜16に対する濡れ性より大きくなる。本実施形態では、第1撥水膜16の形成材料として、フッ素系樹脂等を用いる。なお、第1撥水膜16としては、親油性及び光透過性を有する薄膜であれば任意の薄膜を用いることができる。
【0030】
また、第1撥水膜16の収容室40側の面形状は円形とする(図2(b)参照)。なお、本発明はこれに限定されず、第1撥水膜16の面形状を円形以外の形状としてもよい。ただし、後述するように、本実施形態では、光を通過させる開口部は第1撥水膜16を中心にして広がる。この際、開口部の面形状は解像度を考慮して円形であることが好ましい。それゆえ、開口部の面形状を円形に維持するために、第1撥水膜16の面形状としては円形が好ましい。
【0031】
なお、第1撥水膜16の径はできる限り大きい方が好ましい。後述するように、本実施形態では、液体アイリス10の開口部を閉じる際、すなわち、第1液体41及び第2液体42の界面形状を元の静止状態に戻す際に第1電極13及び後述の側壁電極32に電圧を印加する。この際、第2液体42及び後述の第2撥水膜25間の親和性に基づく復元力と、第1撥水膜16上で発生するエレクトロウェッティング現象により第1液体41及び第2液体42の界面に働く外力とにより、その界面形状が元の静止状態に戻る。それゆえ、本実施形態では、液体アイリス10の開口部を閉じる際に、第1撥水膜16上で十分にエレクトロウェッティング現象を発生させる必要がある。本発明者らの検証によれば、第1撥水膜16の径が大きいほど、第1撥水膜16上でエレクトロウェッティング現象が発生し易くなることが分かっている。ただし、第1撥水膜16の径が大きくなりすぎると、収容室40の第1基材部11側の面における第1液体41と親水膜15との親和性が低くなる。この場合、静止状態において、第1液体41及び第2液体42の界面を図2(a)に示すような状態(第2液体42が第1基材部11側の膜に接触しないような状態)に維持することが困難となる。それゆえ、第1撥水膜16の径は、第1撥水膜16上におけるエレクトロウェッティング現象の発生し易さ、及び、静止状態における界面形状の維持等を考慮して適宜設定する必要がある。
【0032】
さらに、第1撥水膜16の膜厚は、親水膜15とほぼ同じ膜厚にすることが好ましい。すなわち、第1撥水膜16の収容室40側の表面と、親水膜15の収容室40側の表面とを略面一にすることが好ましい。これは、第1撥水膜16の膜厚と親水膜15とが異なり、収容室40側の表面に段差が生じると、その段差部により光学特性が変化し、所望の光学特性が得られなくなるためである。また、液体アイリス10の光学特性の観点から、親水膜15の屈折率と第1撥水膜16の屈折率とができる限り近くなるように、各膜の形成材料を選択することが好ましい。なお、親水膜15及び第1撥水膜16の膜厚及び屈折率は、装置の光学特性が装置の許容範囲内となる程度に近い値であればよい。
【0033】
第2基材部21は、第2基材22と、第2基材22上に形成された第2電極23と、第2電極23上に形成された第2絶縁膜24と、第2絶縁膜24上に形成された第2撥水膜25とを備える。
【0034】
第2基材22は、第1基材12と同様に、透明ガラス等の光透過性材料で形成された、例えば、厚さ約0.2〜0.3mmの正方形状の板状部材である。第2電極23は、第1電極13と同様に、ITO等で形成された透明電極である。なお、第2電極23は、電源部8の切替スイッチ8bの一つの端子Aに接続される。また、第2絶縁膜24は、第1絶縁膜14と同様に、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等で形成された誘電体膜である。
【0035】
第2撥水膜25(第3膜)は、第1撥水膜16と同様に、第1液体41より第2液体42との親和性の高い薄膜である。本実施形態では、第2撥水膜25の形成材料としては、第1撥水膜16と同じものを用いる。なお、第2撥水膜25の形成材料は、第1撥水膜16と同じでもよいし、第1撥水膜16の形成材料と異なっていてもよい。
【0036】
側壁部31は、主に、円筒状の側壁電極32と、側壁電極32の内壁面上に形成された親水膜33とを備える。
【0037】
側壁電極32は、金属製の円筒状部材(リング状部材)である。本実施形態では、側壁電極32を例えば、銅製の円筒状部材(銅管)を用い、その内径を約9mm、外径を約11mm、及び、高さを約1mmとする。側壁電極32は、電源部8の電源8aに接続される。また、側壁電極32は、第1液体41及び第2液体42を、液体アイリス10内に注入するための注入口(不図示)を有する。そして、その注入口は側壁電極32の外側から接着部材(不図示)により封止される。なお、側壁電極32として、銅製等の円筒状部材の表面にニッケル、金、白金、アルミニウム等を蒸着した部材、すなわち、表面処理された部材を用いてもよい。また、側壁電極32として、ガラス製、樹脂製等の円筒状部材の表面に銅、ニッケル、金、白金、アルミニウム等を蒸着した部材を用いてもよい。
【0038】
親水膜33(第4膜)は、第2液体42より第1液体41との親和性の高い薄膜である。本実施形態では、親水膜33の形成材料としては、第2基材部21の親水膜25と同様に、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂等を用いる。なお、親水膜33としては、親水性及び光透過性を有する薄膜であれば任意の薄膜を用いることができる。
【0039】
なお、側壁電極13が接続されている電源8aは、図2(a)に示すように、切替スイッチ9の一つの端子Cに接続される。また、本実施形態では、電源8aとしては、交流電源を用いるが、直流電源を用いてもよい。
【0040】
本実施形態の液体アイリス10において、第1電極13及び側壁電極32間または第1電極23及び側壁電極32間に電圧を印加しない場合(静止状態)には、第1液体41と第2液体42との界面は、図2(a)に示すような状態になる。
【0041】
より具体的に説明すると、収容室40の第2基材部21側の表面には全面に渡って第2撥水膜25が形成されるので、第2撥水膜25に対する濡れ性(第2撥水膜25との親和性)のより大きい第2液体42が、第2撥水膜25上に広がって接触する。また、第2液体42は、図2(a)に示すように、第2撥水膜25上で側壁部31近くまで広がるが、収容室40の側壁部31側には親水膜33が形成されているので、第2液体42は側壁部31に接触しない。
【0042】
一方、収容室40の第1基材部11側の表面には、主に(中央を除いて)親水膜15が形成されるので、親水膜15に対する濡れ性のより大きい第1液体41が、第1基材部11側の膜に接触する。また、収容室40の側壁部31側の表面には、親水膜33が形成されるので、第1液体41は、その親水膜33上にも接触する。それゆえ、第1液体41は、図2(a)に示すように、第2液体42を取り囲むようにして、第2液体42と収容室40の第1基材部11側の膜(親水膜15及び第1撥水膜16)との間に配置される。なお、第1液体41及び第2液体42との界面形状は曲面となるが、この形状は、第1液体41及び第2液体42の表面張力、並びに、第2撥水膜25上での界面張力のバランスにより決定される。
【0043】
また、このような静止状態では、第2液体42と収容室40の第1基材部11側の膜との間に着色された第1液体41が存在するので、図2(b)に示すように、光線30の入射側から液体アイリス10を見ると、光線が通過する開口部は形成されない。
【0044】
[3.液体アイリスの作製方法]
次に、本実施形態の液体アイリス10の作製方法を、図3を参照しながら説明する。図3は、液体アイリス10の作製手順を示すフローチャートである。
【0045】
まず、透明ガラス等の光透過性材料からなる第2基材22を用意する。次いで、第2基材22の一方の表面上に、蒸着法等により、光透過性導電材(ITO等)からなる第2電極23を、例えば膜厚約30nmで形成する(ステップS1)。次いで、第2電極23上に、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等で形成された、例えば厚さ約1〜5μmの誘電体膜を接着剤で貼り付け等を行うことにより、第2絶縁膜24を形成する(ステップS2)。
【0046】
次いで、第2絶縁膜24上に、フッ素系樹脂等をスピンコート法等により塗布し、その後、例えば150℃で焼成して、例えば膜厚約10〜30nmの第2撥水膜25を形成する(ステップS3)。上述したステップS1〜S3の工程により第2基材部21を作製する。
【0047】
また、ステップS1〜S3と並行して、第1基材部11及び側壁部31を次のようにして作製する。まず、透明ガラス等の光透過性材料からなる第1基材12を用意する。次いで、第1基材12の一方の表面上に、蒸着法等により、光透過性導電材(ITO等)からなる第1電極13を、例えば膜厚約30nmで形成する(ステップS4)。次いで、第1電極13上に、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等で形成された、例えば厚さ約1〜5μmの誘電体膜を接着剤で貼り付け等を行うことにより、第1絶縁膜14を形成する(ステップS5)。
【0048】
次いで、第1絶縁膜14上に、側壁電極32を、例えば紫外線硬化型の接着剤を用いて接着する(ステップS6)。次いで、第1絶縁膜14上及び側壁電極32の内壁上に、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂等をスピンコート法等により塗布し、例えば膜厚約300〜600nmの親水膜15,33を形成する(ステップS7)。
【0049】
次いで、親水膜15の中央に、第1撥水膜16を形成する(ステップS8)。この際、第1撥水膜16の膜厚は、親水膜15の膜厚と略同じにする。第1撥水膜16の形成方法としては、次のような方法で形成することができる。まず、第1絶縁膜14の全面に渡って親水膜15を形成し、次いで、第1撥水膜16を形成する部分以外の親水膜15の領域をマスクする。次いで、第1撥水膜16を形成する部分の親水膜15をエッチング法等により除去する。そして、除去された部分にフッ素系樹脂等を塗布して第1撥水膜16を形成する。また、別の方法として、次のような方法を用いてもよい。まず、第1絶縁膜14上の第1撥水膜16を形成する部分をマスクしておき、その上から、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂等をスピンコート法等により塗布して親水膜15を形成する。次いで、親水膜15をマスクし、その上からフッ素系樹脂等を塗布して第1撥水膜16を形成する。上述したステップS4〜S8の工程により、第1基材部11及び側壁部31、並びに、それらを接続した部材を作製する。
【0050】
次に、上述のようにして作製した第2基材部21と、第1基材部11及び側壁部31を接続した部材とを、例えば紫外線硬化型の接着剤を用いて接着する(ステップS9)。なお、この際、第2撥水膜25と、親水膜15(第1撥水膜16)とが対向するように接着する。この工程により、液体アイリス10内に、第1液体41及び第2液体42を封入する収容室40が形成される。
【0051】
次いで、液体アイリス10の所望の面(光入射側または光出射側の表面)に、蒸着法等により、反射防止膜(不図示)を形成する(ステップS10)。なお、反射防止膜としては、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された多層反射膜等を用いることができる。例えば、反射防止膜をLaTiO/SiO膜等で形成し、その膜厚を例えば約400nmとする。
【0052】
次いで、注射器を用いて、側壁電極32に設けられた注入口(不図示)から、第1液体41及び第2液体42を収容室40に注入する(ステップS11)。この際、先に、所定量の第1液体41を収容室40内に注入し、その後、残りの収容室40内の空間に第2液体42を充填する。また、この際、収容室40内に空気が残らないように第1液体41及び第2液体42を充填する。なお、第1液体41の注入量と第2液体42の注入量との割合は、第1液体41の親水膜15,33に対する濡れ性の大きさ、第2液体42の第1及び第2撥水膜16,25に対する濡れ性の大きさ、第1撥水膜16の径等に応じて適宜調整する。
【0053】
次いで、第1電極13及び第2電極23を切替スイッチ8bに接続し、側壁電極32を電源8aに接続する(ステップS12)。そして、最後に、例えば紫外線硬化型の接着剤を側壁電極32上に塗布した後、紫外線照射を行って接着剤を硬化し、側壁電極32の注入口を封止する(ステップS13)。これにより、収容室40を密閉し、内部に第1液体41及び第2液体42を密封する。上述のようにして、本実施形態では、液体アイリス10を作製する。
【0054】
[4.エレクトウェッティング現象]
ここで、本実施形態の液体アイリス10の駆動動作を説明する前に、この駆動動作に用いるエレクトロウェッティング現象(電気毛管現象)について簡単に説明する。図4(a)及び(b)に、エレクトロウェッティング現象の原理図を示す。図4(a)は、有極性液体90に電圧が印加されていない場合の有極性液体90の状態を示す図であり、図4(b)は、有極性液体90に電圧を印加した際の有極性液体90の状態を示す図である。
【0055】
図4(a)及び(b)の例では、基材91上に電極92、絶縁膜93及び撥水膜94(疎水膜)が形成された部材の撥水膜94上に有極性液体90(例えば、水)が滴下されている場合を考える。なお、有極性液体90はスイッチ96を介して電源95の一方の端子に接続され、電源95の他方の端子は電極92に接続される。また、この例では、図4(a)に示すように、有極性液体90内には、プラスイオンの分子90aとマイナスイオンの分子90bとが存在する。
【0056】
有極性液体90に電圧が印加されていない場合(スイッチ96がオフの場合)、有極性液体90の表面は、表面張力により球面状になる(図4(a)の状態)。このときの撥水膜94の表面と、有極性液体90の撥水膜94に接触している部分の液面との角度、すなわち接触角をθとする。
【0057】
ここで、スイッチ96を閉じて、有極性液体90に電圧を印加すると、絶縁膜93の一方の表面にプラス電荷93aが帯電し、他方の表面にマイナス電荷93bが帯電する。図4(a)及び(b)の例では、絶縁膜93の有極性液体90側にプラス電荷93aが帯電し、電極92側にマイナス電荷93bが帯電する場合を考える。この場合、有極性液体90のマイナスイオンの分子90bに静電気力が作用し、マイナスイオンの分子90bは絶縁膜93上の撥水膜94に引き付けられる。この結果、電圧を印加しない場合(図4(a)の状態)に比べて、有極性液体90は、撥水膜94上により広がった状態で付着する(図4(b)の状態)。このときの有極性液体90の接触角θは、電圧を印加しない場合の接触角θより小さくなる。すなわち、電圧を印加することで、有極性液体90の撥水膜94に対する濡れ性(有極性液体90と撥水膜94との親和性)が大きくなる。このような現象がエレクトロウェッティング現象とよばれるものである。
【0058】
[5.液体アイリスの動作サイクル]
次に、本実施形態の液体アイリス10の駆動動作(駆動方法)の概要を図2及び5を参照しながら説明する。図5は、液体アイリス10の駆動動作のサイクルを示す図である。なお、ここでは、第1電極13及び側壁電極32間または第2電極23及び側壁電極32間に電圧を印加しない状態(静止状態)から説明する。静止状態では、図2(a)及び(b)に示すように、第2液体42が第2基材部21側の膜に接触しないので、開口部は形成されない。
【0059】
次いで、切替スイッチ8bを端子A側に接続して第2電極23及び側壁電極32間に電圧を印加し(ステップS21)、これにより、第2撥水膜25上でエレクトロウェッティング現象を発生させ、第2液体42を第1基材部11側の膜に押しつける。この動作により、液体アイリス10の光入射側に開口部が形成される。なお、開口部形成時の液体アイリス10の動作の詳細については、後で詳述する。
【0060】
次いで、開口部を閉じる際には、切替スイッチ8bを端子B側に接続して第1電極13及び側壁電極32間に電圧を印加する(ステップS22)。これにより、第1撥水膜16上でエレクトロウェッティング現象が発生し、第1液体41の第1撥水膜16に対する濡れ性が大きくなり、第1液体41が第1撥水膜16上に広がろうとする。その結果、第2液体42に、第1基材部11側の膜から離れる方向に外力が働き、開口部を閉じる際の動作速度を速くすることができる。なお、開口部を閉じる際の液体アイリス10の動作の詳細については、後で詳述する。そして、所定時間後、切替スイッチ8bをオフして、静止状態(図2(a)及び(b)の状態)に戻る。なお、ここでは、開口部を閉じた後、切替スイッチ8bをオフにする例を説明したが、本発明はこれに限定されない。開口部を閉口している間は、切替スイッチ8bを端子B側に接続し続け、第1電極13及び側壁電極32間に電圧を印加し続けてもよい。
【0061】
上述のように、本実施形態では、開口部を形成する際及び開口部を閉じる際の両方の動作において電圧を印加する。すなわち、本実施形態の液体アイリス10における開口部の開閉動作は両側駆動方式となる。このような駆動方式を用いることにより、開口部の形成時だけでなく閉口時においてもその応答性を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態では、第1基材部11の親水膜15の中央に、第1液体41より第2液体42との親和性の高い第1撥水膜16を設けているので、第1液体41が第2撥水膜26ではじかれる。それゆえ、開口部内に黒色残り(汚れ)が無くなり、光の透過率が高くなる。
【0063】
[6.開口部を形成する際の液体アイリスの動作]
ここで、開口部を形成する際の液体アイリス10の動作(図5中のステップS21の動作)を詳細に説明する。開口部を形成する際には、上述のように、切替スイッチ8bを端子A側に接続して第2電極23及び側壁電極32間に電圧を印加する。その動作の様子を図6(a)及び(b)に示す。
【0064】
図6(a)及び(b)は、第2電極23及び側壁電極32間に電圧Vを印加した際の液体アイリス10の動作の様子を示した図である。なお、図6(a)は、その際の液体アイリス10の断面図であり、図6(b)は、その際の光入射側から見た液体アイリス10の上面図である。
【0065】
第2電極23及び側壁電極32間に電圧Vを印加すると、第2撥水膜25上で発生するエレクトロウェッティング現象により、第2液体42が第1基材部11側に押し出されるように第1液体41及び第2液体42の界面形状が変形する。これにより、第2液体42の一部が第1基材部11側の膜に接触し、第2液体42と第1基材部11側の膜との接触領域、すなわち、開口部50(円形)が形成される(図6(b)参照)。この開口部50の範囲においては、液体アイリス10内には第1基材部11、第2液体42及び第2基材部21を貫通する光路が形成される。すなわち、開口部50の径Rが液体アイリス10の絞り径となる。
【0066】
また、第2液体42の一部が第1基材部11側の膜に接触する際、親水膜15の中央には、第2液体42との親和性の高い第1撥水膜16が形成されているので、第2液体42の一部は第1撥水膜16に接触する。これにより、光入射側に形成された開口部50の中心を第1撥水膜16の中心に位置付けることができる。すなわち、本実施形態では、第1撥水膜16により偏芯を抑制することができ、解像度の低下を抑制することができる。
【0067】
ここで、第2電極23及び側壁電極32間に電圧を印加した際に、エレクトロウェッティング現象により第1液体41と第2液体42との界面変形し、第2液体42の一部が第1基材部11側の膜に押しつけられる原理を図7を参照しながら説明する。図7は、開口部50を形成する際の液体アイリス10の動作原理図である。なお、図7には、第2撥水膜25と液体との界面近傍だけを示す。また、図7では、電圧印加時に、第2絶縁膜24の液体側にプラス電荷24aが帯電し、第2電極23側にマイナス電荷24bが帯電する例を説明する。
【0068】
第2電極23及び側壁電極32間に電圧を印加すると、第2絶縁膜24の液体側にプラス電荷24aが帯電する。この場合、有極性液体である第1液体41のマイナスイオンの分子41bに静電気力が作用し、マイナスイオンの分子41bは第2撥水膜25側に引き付けられる(図7中の白抜き矢印)。すなわち、第1液体41の第2撥水膜25に対する濡れ性が大きくなる。この際、第1液体41は、エレクトロウェッティング現象により第2撥水膜25上に広がろうとするので、第2液体42には、その周囲に存在する第1液体41から押す力(図7中の黒矢印:以下、この力を押力という)が生じる。これにより、第2液体42の第1基材部11側の表面が、第1基材部11側に向かって押し出されるように変形する(図7中の斜線矢印)。この結果、第2液体42の一部の表面が第1基材部11側の膜に押しつけられ、液体アイリス10の光入射側に円形の開口部50が形成される。
【0069】
なお、第2撥水膜25の表面に対する第1液体41及び第2液体42の界面の角度(接触角)は、印加電圧等により下記数式1で表される。
【0070】
【数1】

【0071】
なお、上記数式1中のθは電圧Vを印加した際の界面の接触角であり、θS0は電圧を印加しない場合(静止状態:図2(a)の状態)の界面の接触角である。また、εは真空の誘電率8.85×10−12[F/m]、εは第2絶縁膜24の比誘電率、Vは印加電圧[V]、dは第2絶縁膜24の厚み[m]、そして、γは第1液体41及び第2液体42間の界面張力(または界面エネルギー)[N/m]である。
【0072】
上記数式1からも明らかなように、第2電極23及び側壁電極32間の印加電圧Vが大きくなると、第2撥水膜25の表面に対する第1液体41及び第2液体42の界面の角度θが大きくなる。これは、第2電極23及び側壁電極32間の印加電圧Vを大きくすると、第1液体41の第2撥水膜25に対する濡れ性が大きくなり、第1液体41から第2液体42に働く押力(図7中の黒矢印)が大きくなるためである。
【0073】
図8及び9に、第2電極23及び側壁電極32間の印加電圧Vを図6の場合よりさらに大きくした場合の第1液体41及び第2液体42間の界面形状の変化、すなわち、液体アイリス10の光入射側に形成される開口部50の変化の様子を示す。
【0074】
図8(a)及び(b)は、図6の場合の印加電圧Vより大きな電圧Vを第2電極23及び側壁電極32間に印加した場合の開口部50の開口状態を示す図である。なお、図8(a)は,その際の液体アイリス10の概略断面図であり、図8(b)は、その際の光入射側から見た液体アイリス10の上面図である。また、図9(a)及び(b)は、印加電圧Vよりさらに大きな電圧Vを第2電極23及び側壁電極32間に印加した場合の開口部50の開口状態を示す図である。なお、図9(a)は、その際の液体アイリス10の概略断面図であり、図9(b)は、その際の光入射側から見た液体アイリス10の上面図である。また、図8及び9では、図6と同じ構成部分には同一符号を付して示す。
【0075】
図6、8及び9に示すように、第1電極13及び側壁電極32間に印加する電圧VをV<V<Vと大きくすると、第2液体42と第2基材部21側の膜との接触領域が大きくなり、開口部50の径もR<R<Rと大きくなる。すなわち、本実施形態では、印加電圧を変化させることにより、液体アイリス10内を通過する光線30の透過光量を調整することができる。
【0076】
[7.開口部を閉じる際の液体アイリスの動作]
次に、開口部50を閉じる際の液体アイリス10の動作(図5中のステップS22の動作)を詳細に説明する。開口部50を閉じる際には、上述のように、切替スイッチ8bを端子B側に接続して第1電極13及び側壁電極32間に電圧を印加する。その動作の様子を図10(a)及び(b)に示す。図10(a)及び(b)は、第1電極13及び側壁電極32間に電圧を印加した際の液体アイリス10の動作の様子を示す図である。なお、図10(a)は、その際の液体アイリス10の断面図であり、図10(b)は、その際の光入射側から見た液体アイリス10の上面図である。
【0077】
開口部50を閉じる際、すなわち、収容室40の第1基材部11側の膜に接触していた第2液体42の一部をその膜から離す際に、第1電極13及び側壁電極32間に電圧を印加すると、第1撥水膜16上でエレクトロウェッティング現象が発生する。
【0078】
ここで、開口部50を閉じる際に、第1電極13及び側壁電極32間に電圧を印加することにより、第1撥水膜16上で発生するエレクトロウェッティング現象を図11を参照しながら説明する。図11は、開口部50を閉じる際の液体アイリス10の動作原理図である。なお、図11には、第1撥水膜16及び親水膜15と液体との界面近傍だけを示す。また、図11では、第1絶縁膜14の液体側にプラス電荷14aが帯電し、第1電極13側にマイナス電荷14bが帯電する例を説明する。
【0079】
第1電極13及び側壁電極32間に電圧を印加すると、第1絶縁膜14の液体側にプラス電荷14aが帯電する。この場合、有極性液体である第1液体41のマイナスイオンの分子41bに静電気力が作用し、マイナスイオンの分子41bは親水膜15側に引き付けられる(図11中の白抜き矢印)。この際、第1液体41は、エレクトロウェッティング現象により第1撥水膜16上に広がろうとするので、第2液体42には、その周囲に存在する第1液体41から押力(図11中の黒矢印)が生じる。この押力により、第2液体42の第1撥水膜16と接触している部分に第1撥水膜16から離れる方向(図11中では下側)に力が作用する(図11中の斜線矢印)。
【0080】
上述のように、本実施形態では、開口部50を閉じる際に、第2液体42及び第1撥水膜15間の親和性に基づく復元力だけでなく、エレクトロウェッティング現象に基づいて第1液体41から第2液体42に作用する押力(外力)が第2液体42に加わる。それゆえ、第1液体41と第2液体42と界面形状を元の静止状態に戻す際の動作速度を速くすることができる。
【0081】
[8.変形例]
(変形例1)
上記実施形態では、第1基材部11と第2基材部21とを接続する側壁部材として金属製の円筒状部材を用い、側壁部材を電極として用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、側壁部材を絶縁性の円筒状部材で形成し、金属製の棒状電極をその側壁部材を介して収容室40に挿入してもよい。図12(a)及び(b)に、そのような構成の液体アイリスの一例(変形例1)を示す。
【0082】
図12(a)は、電圧を印加していないときの変形例1の液体アイリス60の概略断面図であり、図12(b)は、その際の光入射側から見た液体アイリス60の上面図である。なお、図12(a)及び(b)の液体アイリス60において、上記実施形態の液体アイリス10(図2(a)及び(b))と同じ構成部分には同一符号を付して示す。
【0083】
変形例1の液体アイリス60の側壁部61以外の構成は、上記実施形態と同様である。変形例1の液体アイリス60では、棒状電極63が側壁部材62及び親水膜33を貫通して挿入され、棒状電極63の先端が第1液体41に直接接触した状態となる。そして、棒状電極63は、電源部8の電源8aに接続されている。なお、側壁部材62は、絶縁性材料(例えば、ガラス等)で形成される。
【0084】
(変形例2)
上記実施形態では、側壁電極32を開口断面が円形の筒状金属製部材を用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されない。側壁電極32の開口断面の形状が、開口断面の中心に対して点対称であれば任意のものを用いることができる。例えば、側壁電極の開口断面を正方形状としてもよい。図13(a)及び(b)に、そのような構成の液体アイリスの一例(変形例2)を示す。
【0085】
図13(a)は、電圧を印加していないときの変形例2の液体アイリス70の概略断面図であり、図13(b)は、その際の光入射側から見た液体アイリス70の上面図である。なお、図13(a)及び(b)の液体アイリス70において、上記実施形態の液体アイリス10(図2(a)及び(b))と同じ構成部分には同一符号を付して示す。
【0086】
変形例2の液体アイリス70の側壁部71以外の構成は、上記実施形態と同様である。変形例2の液体アイリス70では、開口断面が正方形状の側壁電極72を用いているので、光入射側から液体アイリス70を見た際には、図13(b)に示すように、着色した第1液体41の部分の形状が正方形状となる。
【0087】
(変形例3)
また、上記実施形態では、第2電極23を第2基材22上の全面に渡って形成した例を説明したが、本発明はこれに限定されない。第2電極23を所定形状にパターニングしてもよい。図14に、そのような第2電極の構成例(変形例3)を示す。
【0088】
図14は、変形例3の液体アイリスの第2電極の概略構成図である。第2電極80の電極部80aの中央には、星形形状の電極開口部80bを形成する。なお、電極部80aは、上記実施形態の第2電極23と同じ材料、同じ厚さで形成することができる。また、電極開口部80bには、第2電極80が形成される第2基材22が露出している。
【0089】
電極開口部80bは、第2電極80の中心に形成された円形部80cと、円形部80cの外周部において互いに90度間隔で離れ、且つ、その外周部から外側に向かって逆V字状に突出した4つの凸部80dとで構成される。
【0090】
電極開口部80bの形成(パターニング)は、次のようにして行うことができる。まず、第2電極80を、上記実施形態と同様にして、第2基材22上にその全面に渡って形成する。次いで、電極開口部80bに対応する部分の第2電極80をウェットエッチング法等により除去して、電極開口部80bを形成する。また、別の方法としては、第2基材22上の電極開口部80bに対応する部分をマスクして、その上から第2電極80を形成してもよい。なお、変形例3の液体アイリスは、電極開口部80bを上述のようにして形成すること以外は、上記実施形態と同様にして作製することができる。
【0091】
第2電極80の中央に、図14に示すような星形形状の電極開口部80bを形成することにより、開口部の偏芯抑制効果を増大させることができる。その開口部の偏芯抑制の原理を図15に示す。
【0092】
中央に星形形状の電極開口部80bを有する第2電極80上で、第2液体42(無極性液体)が、図15に示すように、第2電極80の中央からずれている(偏芯している)と、第2液体42と電極部80aとの重なる部分が不均一になる(対称性が無くなる)。
【0093】
このような状況で液体アイリスに電圧を印加すると、エレクトロウェッティング現象により第1液体41から第2液体42に作用する押力のバランスが崩れる。このとき、この押力のバランスがとれるようにする力、すなわち、第2液体42を第2電極80の中央に戻そうとする復元力(図15中の白抜き矢印)が第2液体42に働く。それゆえ、変形例3では、電圧印加時には、第2液体42を、第2電極80の中央に位置づけるように復元力が働くので、開口部の偏芯を抑制することができる。
【0094】
また、上記実施形態で説明したように、開口部形成時には、親水膜15の中央により形成した第1撥水膜16によっても、開口部の偏芯抑制の効果がある。それゆえ、変形例3のような構成の第2電極80を用いると、開口部形成時には、開口部の偏芯を立体的に抑制することとなり、偏芯抑制の効果を一層増大させることができる。
【0095】
なお、第2電極の電極開口部の形状としては、第2液体42が第2電極の中央に位置する際に、第2液体42と電極部との重なる部分が第2電極の中心に対して対称になるような形状であれば、任意の形状を用いることができる。特に、電極開口部の星形形状としては、中心から外側に突出する複数の凸部が第2電極の中心に対して周回方向に略等距離(略等間隔)で配置される形状が好ましい。
【0096】
上記実施形態及び変形例1〜3では、液体アイリスに本発明を適用した例を説明したが、本発明はこれに限定されない。シャッターやレンズ等の光学素子に対しても適用可能である。ただし、レンズに本発明を用いる場合には、第1液体41及び第2液体42の両方を透明液体で構成し、第1液体41の屈折率と第2液体42の屈折率とが異なるものを用いる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施形態に係る撮像装置の概略構成図である。
【図2】図2(a)は、実施形態の液体アイリスの概略断面図であり、図2(b)は、光入射側から見た液体アイリスの上面図である。
【図3】実施形態の液体アイリスの作製手順を示すフローチャートである。
【図4】図4(a)は、有極性液体に電圧を印加する前の有極性液体の状態を示す図であり、図4(b)は、有極性液体に電圧を印加した際の有極性液体の状態を示す図である。
【図5】実施形態の液体アイリスの駆動動作のサイクルを示す図である。
【図6】図6(a)は、開口部形成時の液体アイリスの概略断面図であり、図6(b)は、開口部形成時の光入射側から見た液体アイリスの上面図である。
【図7】開口部を形成する際の液体アイリスの動作原理を示す図である。
【図8】図8(a)は、開口部形成時の液体アイリスの概略断面図であり、図8(b)は、開口部形成時の光入射側から見た液体アイリスの上面図である。
【図9】図9(a)は、開口部形成時の液体アイリスの概略断面図であり、図9(b)は、開口部形成時の光入射側から見た液体アイリスの上面図である。
【図10】図10(a)は、開口部を閉じる際の液体アイリスの概略断面図であり、図10(b)は、開口部を閉じる際の光入射側から見た液体アイリスの上面図である。
【図11】開口部を閉じる際の液体アイリスの動作原理を示す図である。
【図12】図12(a)は、変形例1の液体アイリスの概略断面図であり、図12(b)は、光入射側から見た液体アイリスの上面図である。
【図13】図13(a)は、変形例2の液体アイリスの概略断面図であり、図13(b)は、光入射側から見た液体アイリスの上面図である。
【図14】変形例3の第1電極の構成図である。
【図15】変形例3の第1電極による偏芯制御の原理図である。
【符号の説明】
【0098】
1…第1レンズ群、2…第2レンズ群、3…第3レンズ群、4…第4レンズ群、5…フィルタ、8…電源部、8a…電源、8b…切替スイッチ、10…液体アイリス(光学素子)、11…第1基材部、12…第1基材、13…第1電極、14…第1絶縁膜、15…親水膜(第1膜)、16…第1撥水膜(第2膜)、20…撮像装置、21…第2基材部、22…第2基材、23…第2電極、24…第2絶縁膜、25…第2撥水膜(第3膜)、31…側壁部、32…側壁電極、33…親水膜(第4膜)、40…収容室(収容部)、41…第1液体、42…第2液体、50…開口部、62…棒状電極、80…第2電極、80a…電極部、80b…電極開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有極性または導電性を有する第1液体と、
前記第1液体と混合しない第2液体と、
光透過性を有する第1基材と、前記第1基材の一方の面上に形成された光透過性を有する第1電極と、前記第1電極上に形成された光透過性を有する第1絶縁膜と、前記第1絶縁膜上に形成され、前記第2液体より前記第1液体との親和性が高く、且つ、光透過性を有する第1膜と、前記第1膜の中央に形成され、前記第1液体より前記第2液体との親和性が高く、且つ、光透過性を有する第2膜とを有する第1基材部と、
光透過性を有する第2基材と、前記第2基材の一方の面上に形成された光透過性を有する第2電極と、前記第2電極上に形成された光透過性を有する第2絶縁膜と、前記第2絶縁膜上に形成され、前記第1液体より前記第2液体との親和性が高く、且つ、光透過性を有する第3膜とを有する第2基材部と、
第3電極を有し、前記第1膜及び前記第3膜が対向するように前記第1及び第2基材部を接続する側壁部と、
前記第1基材部、前記第2基材部及び前記側壁部により画成され、前記第1及び第2液体を内部に密封する収容部と
を備える光学素子。
【請求項2】
前記第1液体の光透過率が前記第2液体の光透過率より低く、前記第1液体の屈折率と前記第2液体の屈折率とが同じである
請求項2に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第1膜の膜厚と、前記第2膜の膜厚とが同じである
請求項1に記載の光学素子。
【請求項4】
前記側壁部が、前記側壁部の前記収容部側の面上に形成され、且つ、前記第2液体より前記第1液体との親和性が高い第4膜を有する
請求項1に記載の光学素子。
【請求項5】
前記第3電極が筒状電極であり、前記第3電極により前記第1及び第2基材部が接続される
請求項1に記載の光学素子。
【請求項6】
前記第3電極が棒状電極であり、前記第3電極の一方の先端が前記収容部内の前記第1溶液と接触する
請求項1に記載の光学素子。
【請求項7】
前記第2膜の前記収容部側の面形状が円形である
請求項1に記載の光学素子。
【請求項8】
前記第2電極の中央に星形形状の開口部が形成されている
請求項1に記載の光学素子。
【請求項9】
有極性または導電性を有する第1液体と、前記第1液体と混合しない第2液体と、光透過性を有する第1基材、前記第1基材の一方の面上に形成された光透過性を有する第1電極、前記第1電極上に形成された光透過性を有する第1絶縁膜、前記第1絶縁膜上に形成され、前記第2液体より前記第1液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第1膜、及び、前記第1膜の中央に形成され、前記第1液体より前記第2液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第2膜を有する第1基材部と、光透過性を有する第2基材、前記第2基材の一方の面上に形成された光透過性を有する第2電極、前記第2電極上に形成された光透過性を有する第2絶縁膜、及び、前記第2絶縁膜上に形成され、前記第1液体より前記第2液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第3膜を有する第2基材部と、第3電極を有し、前記第1膜及び前記第3膜が対向するように前記第1及び第2基材部を接続する側壁部と、前記第1基材部、前記第2基材部及び前記側壁部により画成され且つ前記第1及び第2液体を内部に密封する収容部とを有する光学素子と、
前記光学素子の前記第1電極及び前記第3電極間、または、前記第2電極及び前記第3電極間に電圧を印加する電源部と、
入射光を集光するレンズ群と、
前記光学素子及び前記レンズ群を介して入射光が集光される撮像素子と
を備える撮像装置。
【請求項10】
有極性または導電性を有する第1液体と、前記第1液体と混合しない第2液体と、光透過性を有する第1基材、前記第1基材の一方の面上に形成された光透過性を有する第1電極、前記第1電極上に形成された光透過性を有する第1絶縁膜、前記第1絶縁膜上に形成され、前記第2液体より前記第1液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第1膜、及び、前記第1膜の中央に形成され、前記第1液体より前記第2液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第2膜を有する第1基材部と、光透過性を有する第2基材、前記第2基材の一方の面上に形成された光透過性を有する第2電極、前記第2電極上に形成された光透過性を有する第2絶縁膜、及び、前記第2絶縁膜上に形成され、前記第1液体より前記第2液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第3膜を有する第2基材部と、第3電極を有し、前記第1膜及び前記第3膜が対向するように前記第1及び第2基材部を接続する側壁部と、前記第1基材部、前記第2基材部及び前記側壁部により画成され且つ前記第1及び第2液体を内部に密封する収容部とを有する光学素子の前記第2電極と前記第3電極との間に電圧を印加して、前記第1液体及び前記第2液体の界面形状を変化させるステップと、
前記変化した前記第1液体及び前記第2液体の界面形状を元の形状に戻す際に、前記第1電極と前記第3電極との間に電圧を印加するステップと
を含む光学素子の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−79097(P2010−79097A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249241(P2008−249241)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】