説明

光学素子及び撮像装置

【課題】エレクトロウェッティング現象を用いた光学素子において、より簡易な構成で、開口部の偏芯を抑制する。
【解決手段】本発明の光学素子は、無極性または絶縁性の第1液体と、第1液体と混合せず且つ第1液体と略等しい比重を有する有極性または導電性の第2液体とを備える。また、第1基材部と、第2基材部と、側壁部と、第2基材部及び側壁部の一方に設けられた第2電極と、第1基材部、第2基材部及び側壁部により画成され、第1及び第2液体を内部に密封する収容部とを備える。また、収容部の第1基材部側には第1液体との親和性の高い第1撥水膜を形成し、第2基材部側には第2液体との親和性の高い親水膜を形成する。そして、親水膜の中央には、第1液体との親和性の高い第2撥水膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子及び撮像装置に関し、より詳細には、エレクトロウェッティング現象を利用した光学素子及びこれを備える撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スチルカメラ、ビデオカメラ等の撮像装置に用いられる撮影光学系においては、焦点調節や光量調節の機能を有すること、自然なボケ味を実現すること、像面の光量分布を均一にすることなどが要求される。その中で、光量調節に関しては、一般に、複数枚の可動羽根からなる機械式の絞り機構によりその要求に応えている。
【0003】
しかしながら、機械式の絞り機構には、次のような欠点がある。可動羽根を駆動するためのメカニカル駆動部が必要となり、装置が大型化する。また、絞り機構の開口部を小さくした小絞り状態では、光線の回折が生じ、結像画像の解像度が低下する。さらには、絞り機構の操作時に音が発生する。
【0004】
機械式の絞り機構における上記欠点を解消するために、従来、電気毛管現象(エレクトロウェッティング現象)を用いた光学素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。図18に、特許文献1で提案されている光学素子の概略構成図を示す。特許文献1の光学素子100は、素子内を通過する光線30の光量(透過光量)を制御する光学素子である。
【0005】
光学素子100は、円筒形の容器105の上下の開口に透明基板102及び透明カバー板106を接着等により液密に封止して構成される。透明基板102の内面上には、透明電極103、絶縁層104及び撥水膜111が形成され、透明カバー板106の内面上には、親水膜113が形成される。また、容器105には、容器105を貫通する棒状電極125が設けられ、その先端が第1の液体121と接触する。そして、第1及び第2の液体121,122は親水膜113、撥水膜111及び容器105の内壁により画成される空間に密封される。なお、第1の液体121は、導電性または有極性を有する液体であり、第2の液体122は、第1の液体121と混合しない液体である。また、第1及び第2の液体121,122の屈折率は実質的に等しいが、第1及び第2の液体121,122の透過率は異なる。
【0006】
特許文献1の光学素子100では、透明電極103及び棒状電極125の間に電圧を印加して、エレクトロウェッティング現象により2つの液体間の界面形状を変化させる。これにより、第2の液体122の親水膜113側の表面の一部が親水膜113と接触して、親水膜113上に光が透過可能な開口部が形成される(光学素子100内に光路が生成される)。この光学素子100では、印加電圧を変化させることにより親水膜113上に形成される開口部のサイズを変化させ、これにより、光学素子100内を通過する光線30の透過光量を調整する。すなわち、この光学素子100では、電気的に光量調節が可能であり、上述した機械式の絞り機構の欠点を解消することができる。
【0007】
【特許文献1】特開2000−356792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のようなエレクトロウェッティング現象を用いた光学素子では、光入射側に形成される開口部が偏芯し易く、また、その偏芯量も大きい。このような場合、解像度が低下するという問題が生じる。特許文献1では、この問題を解消するために、透明電極103の形状が液体側から見て凹形状となるように、透明電極103を形成する。しかしながら、このような構成では、光学素子100の厚さを薄くすることが困難であるという問題が生じる。また、特許文献1の光学素子100では、透明電極103を液体側から見て凹形状となるように形成するため、構造が複雑となり、光学素子100の作製及び小型化が困難になる。
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、エレクトロウェッティング現象を用いた光学素子において、より簡易な構成で、開口部の偏芯を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するために、本発明の光学素子を、次のような構成とした。本発明の光学素子は、第1液体と、第1液体と混合しない有極性または導電性を有する第2液体とを備える。また、本発明の光学素子は、第1基材部と、第2基材部と、側壁部と、第2基材部及び側壁部の一方に設けられた第2電極と、第1基材部、第2基材部及び側壁部により画成され、第1及び第2液体を内部に密封する収容部とを備える。なお、第1基材部は、光透過性を有する第1基材と、第1基材の一方の面上に形成された光透過性を有する第1電極と、第1電極上に形成された光透過性を有する絶縁膜とを有する。さらに、第1基材部は、絶縁膜上に形成され、第2液体より第1液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第1膜を有する。第2基材部は、光透過性を有する第2基材と、第2基材の一方の面上に形成され、第1液体より第2液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第2膜と、第2膜の中央に形成され、第2液体より第1液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第3膜とを有する。そして、側壁部は、第1膜及び第2膜が対向するように、第1及び第2基材部を接続する。
【0011】
また、上記問題を解決するために、本発明の撮像装置を、次のような構成とした。本発明の撮像装置は、上記本発明の光学素子と、光学素子の第1電極及び第2電極間に電圧を印加する電源部と、入射光を集光するレンズ群と、光学素子及びレンズ群を介して光が集光される撮像素子とを備える。
【0012】
本発明では、第2基材部の第2膜の中央に、第2液体より第1液体との親和性の高い第3膜を形成しているので、第1液体は、電圧を印加しない場合において、第1基材部の第1膜だけでなく、第2基材部の第3膜にも接触して固定される。これにより、第1液体と収容部の第2基材部側の膜との接触領域は、第3膜上あるいは、第3膜を中心とした領域に形成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、第2基材部の第2膜の中央に、第2液体より第1液体との親和性の高い第3膜を形成することにより、第1液体と収容部の第2基材部側の膜との接触領域の中心が光軸上からずれることを抑制する。すなわち、本発明によれば、より簡易な構成で、第1液体と収容部の第2基材部側の膜との接触領域の偏芯を抑制することができる。
【0014】
なお、本発明の光学素子を、例えば、撮像装置等の絞り機構(アイリス)に適用した場合には、上述の接触領域は光を透過させる開口部となる。それゆえ、この場合には、より簡易な構成で、開口部の偏芯を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照しながら下記の順で説明する。以下の実施形態では、本発明の光学素子として、撮像装置に用いられる絞り機構(アイリス)を例にとり説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
1.第1の実施形態:基本構成例
2.第2の実施形態:第1電極をパターニングする構成例
【0016】
<1.第1の実施形態>
[撮像装置の構成]
図1に、本実施形態の絞り機構(以下、液体アイリスという)を適用した撮像装置の概略構成例を示す。なお、図1には、ズーム機構を備えた撮像装置の例を示す。また、図1には、主に撮像装置の光学系の構成を示し、撮像した画像の処理及び光学系の制御処理を行う構成部は省略する。なお、本発明は、ズーム機構を備えない撮像装置にも適用可能である。
【0017】
撮像装置20の光学系は、第1レンズ群1と、第2レンズ群2と、液体アイリス10と、第3レンズ群3と、第4レンズ群4と、フィルタ5と、撮像素子6とを備える。また、第1レンズ群1、第2レンズ群2、液体アイリス10、第3レンズ群3、第4レンズ群4、フィルタ5及び撮像素子6は、光線30の入射側から、この順で配置される。
【0018】
入射光を集光するための第1〜第4レンズ群のうち、第1レンズ群1及び第3レンズ群3は、鏡筒(不図示)内に固定して取り付けられる。第2レンズ群2は、ズーム用のレンズ群であり、光軸7の方向に沿って移動可能に鏡筒に取り付けられる。また、第4レンズ群4は、フォーカス用のレンズ群であり、光軸7の方向に移動可能に取り付けられる。なお、第2レンズ群2(ズーム用)及び第4レンズ群4(フォーカス用)の光軸7方向の移動は、撮像装置20内の図示しない制御部により制御される。
【0019】
液体アイリス10(光学素子)は、エレクトロウェッティング現象を利用して液体アイリス10の光入射側の開口径(絞り径)を調整し、これにより、液体アイリス10内を通過する光線30の光量を調整する。液体アイリス10の光入射側の開口径(絞り径)は、液体アイリス10に印加する電圧値により調整し、この調整は撮像装置20内の図示しない制御部により制御される。なお、液体アイリス10の具体的な構成及び動作は後で詳述する。
【0020】
フィルタ5は、赤外カットフィルタやローパスフィルタ等から構成される。また、撮像素子6は、例えば、CCD(Charge Coupled Devices)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等で構成される。
【0021】
本実施形態の撮像装置20では、図1に示すように、第1レンズ群1側から入射された光線30は、上述した種々の光学素子を介して、撮像素子6の結像面6aに集光される。そして、撮像素子6で取得した画像データは、撮像装置20内の図示しない画像処理部により所定の処理が施される。
【0022】
[液体アイリスの構成]
図2(a)及び(b)に、本実施形態の液体アイリス10の概略構成を示す。図2(a)は、電圧を印加していないとき(以下、この状態を静止状態ともいう)の液体アイリス10の概略断面図であり、図2(b)は、そのときの光入射側からみた液体アイリス10の上面図である。
【0023】
液体アイリス10は、第1基材部11と、第2基材部21と、第1基材部11及び第2基材部21を接続する側壁部31とで構成される。そして、第1基材部11、第2基材部21及び側壁部31により画成された収容室40(収容部)に、第1液体41及び第2液体42が密閉封入される。
【0024】
第1液体41には、絶縁性または無極性を有し且つ光透過性を有する液体を用いる。第1液体41としては、このような特徴を有する任意の液体を用いることができる。例えば、第1液体41として、シリコーンオイルを用いる。なお、市販されているシリコーンオイルには種々のものがあり、それぞれ、その比重や屈折率が異なる。それゆえ、第1液体41としてシリコーンオイルを用いる場合には、市販のシリコーンオイルの中から、後述する第2液体42と略同じ比重及び屈折率を有する市販のシリコーンオイルを選び、それを第1液体41として用いる。
【0025】
一方、第2液体42には、第1液体41と混合せず、第1液体41と略等しい比重及び屈折率を有し、有極性または導電性を有する液体を用いる。第2液体42としては、このような特徴を有する任意の液体を用いることができる。例えば、第1液体41として、シリコーンオイルを用いる場合には、第2液体42として、水(比重1、屈折率1.333)を用いることができる。また、この場合、水以外では、水とエタノールとの混合液体、水とエタノールとエチレングリコールとの混合溶液、水及びエタノールの混合液体に食塩を加えた混合液体等を第2液体42として用いることができる。また、本実施形態では、第2液体42の光透過率を第1液体41のそれより低くするために(第2液体42の光透過性を抑制するために)、第1液体41(水等)にカーボンブラック等を混合して着色する。なお、着色材としては、カーボンブラック以外の染料を用いてもよい。
【0026】
また、第1液体41と第2液体42の比重及び屈折率をより近くするために、例えば、第2液体42として、水にエタノール、エチレングリコール、食塩等を混合したものを用い、それらの混合比を調節して第2液体42の比重及び屈折率を調整してもよい。なお、第1液体41の屈折率と第2液体42の屈折率を略同一にすることにより、第1液体41と第2液体42との界面における光の屈折(レンズ効果)を防止または十分小さくすることができ、液体アイリス10の絞り動作をより確実に行わせることができる。また、比重を略同じにすることによって、装置全体が振動したり、傾いたりした場合における第1液体41及び第2液体42の界面の変形をすることを抑制することができる。なお、第1液体41及び第2液体42の比重及び屈折率は、装置の光学特性、耐振動特性等が装置の許容範囲内となる程度に近い数値であればよい。
【0027】
第1基材部11は、第1基材12と、第1基材12上に形成された第1電極13と、第1電極13上に形成された絶縁膜14と、絶縁膜14上に形成された第1撥水膜15とを備える。
【0028】
第1基材12は、透明ガラス等の光透過性材料で形成された、例えば、厚さ約0.2〜0.3mmの正方形状の板状部材である。なお、第1基材12の形成材料としては、透明性を有する合成樹脂材料を用いてもよい。第1電極13は、酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)等で形成された透明電極である。第1電極13は、撮像装置20の電源8の一方の端子に接続される。また、絶縁膜14は、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等で形成された誘電体膜である。
【0029】
第1撥水膜15(第1膜)は、第2液体42(有極性液体)より第1液体41(無極性液体)との親和性の高い薄膜(疎水性または親油性の薄膜)である。すなわち、第1液体41の第1撥水膜15に対する濡れ性は、第2液体42の第1撥水膜15に対する濡れ性より大きくなる。本実施形態では、第1撥水膜15の形成材料として、フッ素系樹脂等を用いる。なお、第1撥水膜15としては、親油性及び光透過性を有する薄膜であれば任意の薄膜を用いることができる。
【0030】
第2基材部21は、第2基材22と、第2基材22上に形成された第2電極23と、第2電極23上に形成された親水膜24と、親水膜24の中央に形成された第2撥水膜25とを備える。
【0031】
第2基材22は、第1基材12と同様に、透明ガラス等の光透過性材料で形成された、例えば、厚さ約0.2〜0.3mmの正方形状の板状部材である。第2電極23は、第1電極13と同様に、ITO等で形成された透明電極である。また、第2電極23は、撮像装置20の電源8の他方の端子に接続される。
【0032】
親水膜24(第2膜)は、第1液体41(無極性液体)より第2液体42(有極性液体)との親和性の高い薄膜である。すなわち、第2液体42の親水膜24に対する濡れ性は、第1液体41の親水膜24に対する濡れ性より大きくなる。本実施形態では、親水膜24の形成材料として、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂等を用いる。なお、親水膜24としては、親水性及び光透過性を有する薄膜であれば任意の薄膜を用いることができる。
【0033】
第2撥水膜25(第3膜)は、第1撥水膜15と同様に、第2液体42(有極性液体)より第1液体41(無極性液体)との親和性の高い薄膜(親油性の薄膜)である。本実施形態では、第2撥水膜25の形成材料としては、第1撥水膜15と同じものを用いる。なお、第2撥水膜25の形成材料は、第1撥水膜15と同じでもよいし、第1撥水膜15の形成材料と異なっていてもよい。
【0034】
また、第2撥水膜25の収容室40側の面形状は円形とする(図2(b)参照)。なお、本発明はこれに限定されず、第2撥水膜25の面形状を円形以外の形状としてもよい。ただし、後述するように、本実施形態では、光を通過させる開口部50は第2撥水膜25を中心にして広がる。この際、開口部50の面形状は解像度を考慮して円形であることが好ましい。それゆえ、開口部50の面形状を円形に維持するために、第2撥水膜25の形状としては円形が好ましい。
【0035】
なお、本実施形態では、親水膜24の中央に第2液体42より第1液体41との親和性が高い第2撥水膜25を形成するので、静止状態においても、図2(a)に示すように、第2撥水膜25に第1液体41の一部が接触する。その結果、図2(b)に示すように、静止状態においても光入射側に開口部50が形成される。それゆえ、開口部50の開口径の変化範囲をより大きくするためには、静止状態における開口部50の開口径をできる限り小さくする方が望ましい。すなわち、第2撥水膜25の径はできる限り小さくすることが望ましい。
【0036】
さらに、第2撥水膜25の膜厚は、親水膜24とほぼ同じ膜厚にすることが好ましい。すなわち、第2撥水膜25の収容室40側の表面と、親水膜24の収容室40側の表面とを略面一にすることが好ましい。これは、第2撥水膜25の膜厚と親水膜24とが異なり、収容室40側の表面に段差が生じると、その段差部により光学特性が変化し、所望の光学特性が得られなくなるためである。また、液体アイリス10の光学特性の観点から、親水膜24の屈折率と第2撥水膜25の屈折率とができる限り近くなるように、各膜の形成材料を選択することが好ましい。なお、親水膜24及び第2撥水膜25の膜厚及び屈折率は、装置の光学特性が装置の許容範囲内となる程度に近い値であればよい。
【0037】
側壁部31は、主に、円筒状の側壁部材32と、側壁部材32の内壁面上に形成された親水膜33とを備える。
【0038】
側壁部材32は、絶縁性材料(例えば、ガラス等)で形成された円筒状部材である。本実施形態では、例えば、側壁部材32の内径を約9mm、外径を約11mm、そして、高さを約1mmとする。また、側壁部材32は、第1液体41及び第2液体42を、液体アイリス10内に注入するための注入口32aを有する。そして、その注入口32aは側壁部材32の外側から接着部材34により封止される。
【0039】
親水膜33(第4膜)は、第1液体41(無極性液体)より第2液体42(有極性液体)との親和性の高い薄膜である。本実施形態では、親水膜33の形成材料として、第2基材部21の親水膜24と同様に、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂等を用いる。なお、親水膜33としては、親水性及び光透過性を有する薄膜であれば任意の薄膜を用いることができる。
【0040】
また、第1電極13及び第2電極23が接続されている撮像装置20の電源8(電源部)には、交流電源を用いる。なお、電源8としては、直流電源を用いてもよい。ただし、この場合、電圧印加状態から電源をオフにした際に、絶縁膜14に若干電荷が残るので、第1液体41が元の静止状態に戻る動作が、交流電源の場合に比べて若干遅くなる。それゆえ、電源8としては、交流電源の方がより好ましい。
【0041】
[偏芯抑制の原理]
ここで、本実施形態の液体アイリス10における開口部50の偏芯抑制の原理を説明する。本実施形態の液体アイリス10において、第1電極13及び第2電極23間に電圧を印加しない場合(静止状態)には、第1液体41と第2液体42との界面は、図2(a)に示すような状態になる。
【0042】
より具体的に説明すると、収容室40の第1基材部11側の表面には全面に渡って第1撥水膜15が形成されるので、第1撥水膜15に対してより濡れ性の大きい第1液体41が、第1撥水膜15上に広がって接触する。また、収容室40の第2基材部21側の表面の中央には第2撥水膜25が形成されるので、第1液体41の第2基材部21側の表面の一部が第2撥水膜25に接触する。すなわち、本実施形態では、収容室40内において、第1液体41は、第1基材部11側の第1撥水膜15と、第2基材部21側の第2撥水膜25とで固定される。
【0043】
一方、第2液体42は、収容室40の第2基材部21側に形成された親水膜24及び側壁部31側に形成された親水膜33と接触し、第1液体41を取り囲むように配置される。
【0044】
なお、第1液体41及び第2液体42との界面形状は球面状となるが、この形状は、第1液体41及び第2液体42の表面張力、並びに、第1撥水膜15上での界面張力のバランスにより決定される。また、第1液体41は、図2(a)に示すように、第1撥水膜15上で側壁部31近くまで広がるが、収容室40の側壁部31側には親水膜33が形成されるので、第1液体41は側壁部31に接触しない。
【0045】
上述のように、第1液体41の一部は、第2基材部21側に形成された第2撥水膜25で固定される。第2撥水膜25は、親水膜24の中央に形成されているので、第2撥水膜25の中心と、光軸位置とはほぼ一致する。それゆえ、第1液体41と第2撥水膜25との接触領域の中心位置、すなわち、液体アイリス10の光入射側(第2基材部21側)に形成される開口部50の中心位置はほぼ光軸上となり、偏芯を抑制することができる。
【0046】
上述のように、本実施形態では、第1撥水膜15と第1液体41との親和性だけでなく、第2撥水膜25と第1液体41との親和性を利用して、第1液体41の偏芯、すなわち、開口部50の偏芯を抑制する。すなわち、本実施形態では、立体的な偏芯抑制制御を行うことができる。その様子を示したのが、図3(a)及び(b)である。
【0047】
図3(a)は、静止状態時の液体アイリス10の概略断面図であり、図3(b)は、静止状態時の光入射側から見た液体アイリス10の上面図である。図3(a)では、本実施形態の液体アイリス10の立体的な偏芯抑制制御の概念を黒丸印で示す。
【0048】
なお、比較のため、図4(a)及び(b)に、第2撥水膜25を設けない場合の液体アイリス(比較例)における偏芯抑制の概念を示す。図4(a)は、静止状態時の比較例の液体アイリスの概略断面図であり、図4(b)は、静止状態時の光入射側から見た比較例の液体アイリスの上面図である。比較例の場合には、第1撥水膜15と第1液体41との親和性のみを利用して偏芯抑制を行うので、平面的な偏芯抑制制御となる(図4(a)黒丸印参照)。それゆえ、比較例の液体アイリス90では、本実施形態に比べて偏芯抑制の効果は小さくなる。
【0049】
上述のように、本実施形態では、液体アイリス10の光入射側の親水膜24の中央に、第2液体42より第1液体41との親和性の高い第2撥水膜25を設けることにより、立体的な偏芯抑制制御が可能になり、偏芯抑制の効果を増大させることができる。
【0050】
また、本実施形態では、親水膜24の中央に、第2液体42より第1液体41との親和性の高い第2撥水膜25を設けているので、第2液体42が第2撥水膜25ではじかれるので、開口部50内に黒色残り(汚れ)が無くなり、光の透過率が高くなる。
【0051】
さらに、本実施形態では、親水膜24の中央に第2撥水膜25を形成した簡単な構成で偏芯を抑制する。また、本実施形態の液体アイリス10内の電極は平坦であり、特許文献1の光学素子(図18参照)のように凹状の形状としない。それゆえ、本実施形態では、特許文献1に比べて構造が簡易であり、液体アイリス10の厚さを薄くすることができる。
【0052】
[液体アイリスの作製方法]
次に、本実施形態の液体アイリス10の作製方法を、図5を参照しながら説明する。図5は、液体アイリス10の作製手順を示したフローチャートである。
【0053】
まず、透明ガラス等の光透過性材料からなる第1基材12を用意する。次いで、第1基材12の一方の表面上に、蒸着法等により、光透過性導電材(ITO等)からなる第1電極13を、例えば膜厚約30nmで形成する(ステップS1)。次いで、第1電極13上に、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等で形成された、例えば厚さ約1〜5μmの誘電体膜を接着剤で貼り付け等を行うことにより、絶縁膜14を形成する(ステップS2)。
【0054】
次いで、絶縁膜14上に、フッ素系樹脂等をスピンコート法等により塗布し、その後、例えば150℃で焼成して、例えば膜厚約10〜30nmの第1撥水膜15を形成する(ステップS3)。上述したステップS1〜S3の工程により第1基材部11を作製する。
【0055】
また、ステップS1〜S3と並行して、第2基材部21及び側壁部31を次のようにして作製する。まず、透明ガラス等の光透過性材料からなる第2基材22を用意する。次いで、第2基材22の一方の表面上に、蒸着法等により、光透過性導電材(ITO等)からなる第2電極23を、例えば膜厚約30nmで形成する(ステップS4)。
【0056】
次いで、第2電極23上に、側壁部材32を、例えば紫外線硬化型の接着剤を用いて接着する(ステップS5)。次いで、第2電極23上及び側壁部材32の内壁上に、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂等をスピンコート法等により塗布し、例えば膜厚約300〜600nmの親水膜24,33を形成する(ステップS6)。
【0057】
次いで、親水膜24の中央に、第2撥水膜25を形成する(ステップS7)。この際、第2撥水膜25の膜厚は、親水膜24の膜厚と略同じにする。第2撥水膜25の形成方法としては、次のような方法で形成することができる。まず、第2電極23の全面に渡って親水膜24を形成し、次いで、第2撥水膜25を形成する部分以外の親水膜24の領域をマスクする。次いで、第2撥水膜25を形成する部分の親水膜24をエッチング法等により除去する。そして、除去された部分にフッ素系樹脂等を塗布して第2撥水膜25を形成する。また、別の方法として、次のような方法を用いてもよい。まず、第2電極23上の第2撥水膜25を形成する部分をマスクしておき、その上から、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂等をスピンコート法等により塗布して親水膜24を形成する。次いで、親水膜24をマスクし、その上からフッ素系樹脂等を塗布して第2撥水膜25を形成する。
【0058】
上述したステップS4〜S7の工程により、第2基材部21及び側壁部31、並びに、それらを接続した部材を作製する。
【0059】
次に、上述のようにして作製した第1基材部11と、第2基材部21及び側壁部31を接続した部材とを、例えば紫外線硬化型の接着剤を用いて接着する(ステップS8)。なお、この際、第1撥水膜15と、親水膜24(第2撥水膜25)とが対向するように接着する。この工程により、液体アイリス10内に、第1液体41及び第2液体42を封入する収容室40が形成される。
【0060】
次いで、液体アイリス10の所望の面(光入射側または光出射側の表面)に、蒸着法等により反射防止膜(不図示)を形成する(ステップS9)。なお、反射防止膜としては、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された多層反射膜等を用いることができる。例えば、反射防止膜をLaTiO/SiO膜等で形成し、その膜厚を例えば約400nmとする。
【0061】
次いで、注射器等を用いて、側壁部材32に設けられた注入口32aから第1液体41及び第2液体42を収容室40に注入する(ステップS10)。この際、先に、所定量の第2液体42を収容室40内に注入し、その後、残りの収容室40内の空間に第1液体41を充填する。また、この際、収容室40内に空気が残らないように第1液体41及び第2液体42を充填する。なお、第1液体41の注入量と第2液体42の注入量との割合は、第2液体42の親水膜24,33に対する濡れ性の大きさ、第1液体41の第1及び第2撥水膜15,25に対する濡れ性の大きさ、第2撥水膜25の径等に応じて適宜調整する。
【0062】
次いで、第1電極13及び第2電極23を電源8に接続する(ステップS11)。そして、最後に、例えば紫外線硬化型の接着剤(接着部材34)を側壁部材32上に塗布した後、紫外線照射を行って接着剤を硬化し、側壁部材32の注入口32aを封止する(ステップS12)。これにより、収容室40を密閉し、内部に第1液体41及び第2液体42を密封する。上述のようにして、本実施形態では、液体アイリス10を作製する。
【0063】
[液体アイリスの動作]
次に、本実施形態の液体アイリス10の電圧印加時の動作を説明するが、その前に、エレクトロウェッティング現象(電気毛管現象)について簡単に説明する。
【0064】
図6(a)及び(b)に、エレクトロウェッティング現象の原理図を示す。図6(a)は、有極性液体80に電圧が印加されていない場合の有極性液体80の状態を示す図であり、図6(b)は、有極性液体80に電圧を印加した際の有極性液体80の状態を示す図である。
【0065】
図6(a)及び(b)の例では、基材81上に電極82、絶縁膜83及び撥水膜84(疎水膜)が形成された部材の撥水膜84上に有極性液体80(例えば、水)が滴下されている場合を考える。なお、有極性液体80はスイッチ86を介して電源85の一方の端子に接続され、電源85の他方の端子は電極82に接続される。また、この例では、図6(a)に示すように、有極性液体80内には、プラスイオンの分子80aとマイナスイオンの分子80bとが存在する。
【0066】
有極性液体80に電圧が印加されていない場合(スイッチ86がオフの場合)、有極性液体80の表面は、表面張力により球面状になる(図6(a)の状態)。このときの撥水膜84の表面と、有極性液体80の撥水膜84に接触している部分の液面との角度、すなわち接触角をθとする。
【0067】
ここで、スイッチ86を閉じて、有極性液体80に電圧を印加すると、絶縁膜83の一方の表面にプラス電荷83aが帯電し、他方の表面にマイナス電荷83bが帯電する。図6(a)及び(b)の例では、絶縁膜83の有極性液体80側にプラス電荷83aが帯電し、電極82側にマイナス電荷83bが帯電する場合を考える。この場合、有極性液体80のマイナスイオンの分子80bに静電気力が作用し、マイナスイオンの分子80bは絶縁膜83上の撥水膜84に引き付けられる。この結果、電圧を印加しない場合(図6(a)の状態)に比べて、有極性液体80は、撥水膜84上により広がった状態で付着する(図6(b)の状態)。このときの有極性液体80の接触角θは、電圧を印加しない場合の接触角θより小さくなる。すなわち、電圧を印加することで、有極性液体80の撥水膜84に対する濡れ性(有極性液体80と撥水膜84との親和性)が大きくなる。このような現象がエレクトロウェッティング現象とよばれるものである。
【0068】
本実施形態では、上述したエレクトロウェッティング現象を利用して、液体アイリス10内に封入された第1液体41と第2液体42との界面形状を変形させて、液体アイリス10の絞り動作を行う。
【0069】
図7(a)及び(b)に、第1電極13及び第2電極23間に電圧Vを印加した際の液体アイリス10の動作の様子を示す。なお、図7(a)は、電圧Vを印加した際の液体アイリス10の断面図であり、図7(b)は、その際の光入射側から見た液体アイリス10の上面図である。第1電極13及び第2電極23間に電圧Vを印加すると、エレクトロウェッティング現象により第1液体41が第2基材部21側の膜にさらに押しつけられる。これにより、第1液体41と第2基材部21側の膜との接触領域、すなわち、液体アイリス10の光入射側に形成される円形の開口部50の径が大きくなる。例えば、図7(a)及び(b)の例では、電圧Vを印加すると、開口部50の径がTとなり、静止状態時(図2(b)参照)の開口部50の径より大きくなる。
【0070】
ここで、第1電極13及び第2電極23間に電圧を印加した際に、エレクトロウェッティング現象により、第1液体41と第2基材部21側の膜との接触領域が大きくなる原理を図8を参照しながら説明する。図8は、液体アイリス10に電圧を印加した際の動作原理図である。なお、図8では、電圧印加時に、絶縁膜14の液体側にプラス電荷14aが帯電し、第1電極13側にマイナス電荷14bが帯電する例を説明する。
【0071】
第1電極13及び第2電極23間に電圧を印加すると、絶縁膜14の液体側にプラス電荷14aが帯電する。この場合、有極性液体である第2液体42中のマイナスイオンの分子42bに静電気力が作用し、マイナスイオンの分子42bは第1撥水膜15側に引き付けられる(図8中の白抜き矢印)。この際、第2液体42は、エレクトロウェッティング現象により第1撥水膜15上に広がろうとするので、第1液体41には、その周囲に存在する第2液体42から押す力(図8中の黒矢印)が生じる。これにより、第1液体41の親水膜24側の表面が親水膜24側に押し出されるように変形し(図8中の斜線矢印)、第1液体41の親水膜24側の表面の一部が親水膜24側が押しつけられる。この結果、第1液体41と第2基材部21側の膜との接触領域が大きくなり、液体アイリス10の光入射側(親水膜24側)に形成される開口部50の径が大きくなる。
【0072】
そこで、さらに、第1電極13及び第2電極23間に印加する電圧を大きくすると、第2液体42は、エレクトロウェッティング現象により第1撥水膜15上により一層広がろうとする。これにより、第2液体42から第1液体41に働く押力(図8中の黒矢印)がさらに大きくなり、第1液体41の親水膜24側の表面が親水膜24側にさらに押し出されるように変形する。すなわち、第1液体41及び第2液体42の界面の第1撥水膜15に対する傾斜角がさらに大きくなる。この場合、第1液体41と親水膜24側の膜との接触領域がさらに広くなり、開口部50の径がさらに大きくなる。その様子を、図9(a)及び(b)に示す。
【0073】
図9(a)は、第1電極13及び第2電極23間に電圧V(>V)を印加した際の液体アイリス10の断面図であり、図9(b)は、その際の光入射側から見た液体アイリス10の上面図である。第1電極13及び第2電極23間に印加する電圧をVからVに大きくすると、液体アイリス10の光入射側に形成される開口部50の径もTからTに大きくなる。
【0074】
また、本実施形態の液体アイリス10では、上述のように静止状態において第1液体41の一部が親水膜24の中央に形成された第2撥水膜25に固定される。それゆえ、印加電圧時に形成される開口部50は、第2撥水膜25を中心にして広がる。すなわち、電圧印加時においても、光入射側に形成された開口部50の中心と光軸との位置ずれ(偏芯)は起こらない。それゆえ、本実施形態によれば、電圧印加時においても偏芯を抑制することができ、解像度の低下を抑制することができる。
【0075】
<2.第2の実施形態>
第2の実施形態では、第1の実施形態の液体アイリス10の構成において、さらに第1電極の構成を変えた例を説明する。
【0076】
[液体アイリスの構成]
図10(a)及び(b)に、本実施形態の液体アイリスの概略構成図を示す。図10(a)は、電荷を印加していないときの液体アイリス60の断面図であり、図10(b)は、その際の光線30の入射側から見た液体アイリス60の上面図である。なお、図10(a)及び(b)の液体アイリス60において、第1の実施形態の液体アイリス10(図2(a)及び(b))と同じ構成部分には同一符号を付して示す。
【0077】
液体アイリス60は、第1基材部61と、第2基材部21と、第1基材部61及び第2基材部21を接続する側壁部31とで構成される。そして、第1基材部61、第2基材部21及び側壁部31により画成された収容室40に、第1液体41及び第2液体42が密閉封入される。
【0078】
本実施形態では、第1基材部61の第1電極63の構造を変えたこと以外は、第1の実施形態の液体アイリス10と同様の構成とする。それゆえ、ここでは、第1電極63以外の構成についての説明は省略する。
【0079】
図11に、本実施形態で用いる第1電極63の概略構成を示す。第1電極63の電極部63aの中央には、電極開口部63bが形成される。なお、第1電極63の電極部63aは、第1の実施形態の第1電極13と同じ材料、同じ厚さで形成される。また、電極開口部63bには、第1電極63が形成される第1基材12が露出している。
【0080】
電極開口部63bは、星形形状の開口部である。本実施形態では、電極開口部63bを、第1電極63の中心に形成された円形部63cと、円形部63cの外周部において互いに90度間隔で離れ、且つ、その外周部から外側に向かって逆V字状に突出した4つの凸部63dとで構成する。
【0081】
電極開口部63bの形成(パターニング)は、次のようにして行うことができる。まず、第1電極63を、第1の実施形態と同様にして、第1基材12上にその全面に渡って形成する(図5中のステップS1)。次いで、電極開口部63bに対応する部分の第1電極63をウェットエッチング法等により除去して、電極開口部63bを形成する。また、別の方法としては、第1基材12上の電極開口部63bに対応する部分をマスクして、その上から第1電極63を形成してもよい。なお、本実施形態の液体アイリス60は、電極開口部63bを上述のようにして形成すること以外は、第1の実施形態と同様にして作製することができる。
【0082】
[偏芯抑制の原理]
図12に、第1電極63の中央に星形形状の電極開口部63bを形成した場合の開口部の偏芯抑制の原理図を示す。第1液体41(絶縁性の透明液体)が、図12に示すように、第1電極63上で第1電極63の中央からずれている(偏芯している)と、第1液体41と電極部63aとの重なる部分が不均一になる(対称性が無くなる)。
【0083】
このような状況で液体アイリス60に電圧を印加すると、エレクトロウェッティング現象により第2液体42から第1液体41に作用する押力のバランスが崩れる。このとき、この押力のバランスがとれるようにする力、すなわち、第1液体41を第1電極63の中央に戻そうとする復元力(図12中の白抜き矢印)が第1液体41に働く。それゆえ、本実施形態では、電圧印加時には、第1液体41を、第1電極63の中央に位置づけるように復元力が働くので、開口部の偏芯を抑制することができる。したがって、本実施形態では、第1電極63上(第1撥水膜15上)での偏芯抑制の効果を一層増大させることができる。
【0084】
[第1電極の別の構成例]
第1電極63の電極開口部63bの形状は、図11に示した星形形状に限定されない。電極開口部の星形形状としては、中心から外側に突出する複数の凸部が第1電極の中心に対して周回方向に略等距離(略等間隔)で配置される形状が好ましい。図11の形状以外の星形形状の電極開口部の例を図13〜17に示す。
【0085】
図13の例では、電極開口部70bは、第1電極70の中心に形成された円形部70cと、円形部70cの外周部において互いに60度間隔で離れ、且つ、その外周部から外側に向かって逆V字状に突出した6つの凸部70dとで構成される。
【0086】
図14の例では、電極開口部71bは、第1電極71の中心に形成された円形部71cと、円形部71cの外周部において互いに45度間隔で離れ、且つ、その外周部から外側に向かって逆V字状に突出した8つの凸部71dとで構成される。
【0087】
図15の例では、電極開口部72bは、第1電極72の中心に形成された円形部72cと、円形部72cの外周部において互いに60度間隔で離れ、且つ、その外周部から外側に向かって略逆V字状に突出した6つの凸部72dとで構成される。また、図15の例では、各凸部72dの先端形状は、円形部72cと同心円の円弧形状になる。
【0088】
図16の例では、電極開口部73bは、第1電極73の中心に形成された円形部73cと、円形部73cの外周部において互いに120度間隔で離れ、且つ、その外周部から外側に向かって逆V字状に突出した3つの凸部73dとで構成される。
【0089】
図17の例では、電極開口部74cは、第1電極74の中心に形成された円形部74cと、円形部74cの外周部において互いに60度間隔で離れ、且つ、その外周部から外側に向かって幅均一で突出した矩形状の6つの凸部74dとで構成される。
【0090】
また、第1電極の電極開口部の形状としては、第2液体42が第1電極の中央に位置する際に、第2液体42と電極部との重なる部分が第1電極の中心に対して対称になるような形状であれば、任意の形状を用いることができる。
【0091】
[変形例]
上記実施形態では、第2基材22上に、第2電極23を透明電極膜で形成する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第2電極として、特許文献1と同様に、棒状電極を用いてもよい。この場合、棒状電極は側壁部から挿入され、棒状電極の先端が第1液体41に直接接触した状態となる。また、この場合、親水膜24及び第2撥水膜25は、第2基材22上に直接形成される。
【0092】
また、上記実施形態では、液体アイリスに本発明を適用した例を説明したが、本発明はこれに限定されない。シャッターやレンズ等の光学素子に対しても適用可能である。ただし、レンズに本発明を用いる場合には、第1液体41及び第2液体42の両方を透明液体で構成し、第1液体41の屈折率と第2液体42の屈折率とが異なるものを用いる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】第1の実施形態に係る撮像装置の概略構成図である。
【図2】図2(a)は、第1の実施形態に係る液体アイリスの概略断面図であり、図2(b)は、光入射側から見た液体アイリスの上面図である。
【図3】第1実施形態の液体アイリスの作製手順を示すフローチャートである。
【図4】図4(a)は、有極性液体に電圧を印加する前の有極性液体の状態を示す図であり、図4(b)は、有極性液体に電圧を印加した際の有極性液体の状態を示す図である。
【図5】図5(a)は、電圧印加時の液体アイリスの概略断面図であり、図5(b)は、電圧印加時の光入射側から見た液体アイリスの上面図である。
【図6】液体アイリスの動作原理を示す図である。
【図7】図7(a)は、電圧印加時の液体アイリスの概略断面図であり、図7(b)は、電圧印加時の光入射側から見た液体アイリスの上面図である。
【図8】図8(a)は、静止状態時の液体アイリスの概略断面図であり、図8(b)は、静止状態時の光入射側から見た液体アイリスの上面図である。
【図9】図9(a)は、静止状態時の比較例の液体アイリスの概略断面図であり、図9(b)は、静止状態時の光入射側から見た比較例の液体アイリスの上面図である。
【図10】図10(a)は、第2の実施形態に係る液体アイリスの概略断面図であり、図10(b)は、光入射側から見た液体アイリスの上面図である。
【図11】第2の実施形態の第1電極の構成図である。
【図12】第1電極による偏芯制御の原理図である。
【図13】第1電極の別の構成例である。
【図14】第1電極の別の構成例である。
【図15】第1電極の別の構成例である。
【図16】第1電極の別の構成例である。
【図17】第1電極の別の構成例である。
【図18】従来の光学素子の概略断面図である。
【符号の説明】
【0094】
1…第1レンズ群、2…第2レンズ群、3…第3レンズ群、4…第4レンズ群、5…フィルタ、8…電源(電源部)、10…液体アイリス(光学素子)、11…第1基材部、12…第1基材、13…第1電極、14…絶縁膜、15…第1撥水膜(第1膜)、20…撮像装置、21…第2基材部、22…第2基材、23…第2電極、24…親水膜(第2膜)、25…第2撥水膜(第3膜)、31…側壁部、32…側壁部材、33…親水膜(第4膜)、40…収容室(収容部)、41…第1液体、42…第2液体、50…開口部、63…第1電極、63a…電極部、63b…電極開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1液体と、
前記第1液体と混合しない有極性または導電性を有する第2液体と、
光透過性を有する第1基材と、前記第1基材の一方の面上に形成された光透過性を有する第1電極と、前記第1電極上に形成された光透過性を有する絶縁膜と、前記絶縁膜上に形成され、前記第2液体より前記第1液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第1膜とを有する第1基材部と、
光透過性を有する第2基材と、前記第2基材の一方の面上に形成され、前記第1液体より前記第2液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第2膜と、前記第2膜の中央に形成され、前記第2液体より前記第1液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第3膜とを有する第2基材部と、
前記第1膜及び前記第2膜が対向するように、前記第1及び第2基材部を接続する側壁部と、
前記第2基材部及び前記側壁部の一方に設けられた第2電極と、
前記第1基材部、前記第2基材部及び前記側壁部により画成され、前記第1及び第2液体を内部に密封する収容部と
を備える光学素子。
【請求項2】
前記第1液体の光透過率が前記第2液体の光透過率より高く、前記第1液体の屈折率と前記第2液体の屈折率とが同じである
請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第3膜の前記収容部側の面形状が円形である
請求項1に記載の光学素子。
【請求項4】
前記第2膜の膜厚と、前記第3膜の膜厚とが同じである
請求項1に記載の光学素子。
【請求項5】
前記第1電極の中央に星形形状の開口部が形成されている
請求項1に記載の光学素子。
【請求項6】
前記第2電極が、光透過性を有する電極であり、前記第2基材と前記第2膜との間に形成されている
請求項1に記載の光学素子。
【請求項7】
前記側壁部が、前記側壁部の前記収容部側の面上に形成され且つ前記第1液体より前記第2液体との親和性が高い第4膜を有する
請求項1に記載の光学素子。
【請求項8】
第1液体と、前記第1液体と混合しない有極性または導電性を有する第2液体と、光透過性を有する第1基材、前記第1基材の一方の面上に形成された光透過性を有する第1電極、前記第1電極上に形成された光透過性を有する絶縁膜、及び、前記絶縁膜上に形成され、前記第2液体より前記第1液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第1膜を有する第1基材部と、光透過性を有する第2基材、前記第2基材の一方の面上に形成され、前記第1液体より前記第2液体との親和性が高く且つ光透過性を有する第2膜、及び、前記第2膜の中央に形成され、前記第2液体より前記第1液体の親和性が高く且つ光透過性を有する第3膜を有する第2基材部と、前記第1膜及び前記第2膜が対向するように前記第1及び第2基材部を接続する側壁部と、前記第2基材部及び前記側壁部の一方に設けられた第2電極と、前記第1基材部、前記第2基材部及び前記側壁部により画成され且つ前記第1及び第2液体を内部に密封する収容部とを有する光学素子と、
前記光学素子の前記第1電極及び前記第2電極間に電圧を印加する電源部と
入射光を集光するレンズ群と、
前記光学素子及び前記レンズ群を介して光が集光される撮像素子と
を備える撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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