説明

光学部品、その内面反射防止剤及び内面反射防止方法

【課題】 完全に内面反射を防止することができる内面反射防止剤、その内面反射防止剤を被膜した光学部品、及びその光学部品に内面反射防止剤を塗装する内面反射防止方法を提供する。
【解決手段】 光学部品の内面反射を防止するための内面反射防止剤及び内面反射防止方法において、光学部品の砂目(ガラス目)に染み込ませる防止剤に添加剤として地球環境に害のない化学物質を用いる。そのような地球環境に害のない化学物質として、石油ピッチ樹脂を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスレンズなど光学部品の周縁からのフレア、ゴーストなどの内面反射を防止するために、周縁を黒色に塗装するための内面反射防止剤と、内面反射防止剤を塗布して内面反射防止(迷光防止)を施した光学ガラスレンズなどの光学部品と、光学部品の内面反射防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学ガラスレンズなどの光学部品の内面反射を防止するため、光学部品周縁の塗装には、(株)キャノン製のGT−7(商品名)などが使用されている。この種の塗料としては、例えば、特許文献1、2に示すように、一般にコールタール等の黒色塗料が用いられてきた。
【0003】
光学ガラスレンズなど光学部品の周縁からのフレア、ゴーストなどの内面反射を防止するために、従来からコールタール等の黒色塗料が一般的に使用されてきたが、コールタールは、発がん性物質であり、地球環境に有害である。そのため、日本、欧州などにおいて、コールタールは、使用が禁止されるようになった。そのため、これに代わる代替物質が求められている。
【0004】
コールタールの黒色塗料を使用する代わりに、光学ガラスレンズの内面反射防止方法として、光学ガラスレンズなどの光学部品の周縁部に、微視な突起状を設けたり、アルコール性の黒色塗料を用いることが、特許文献1〜5に提案されている。例えば、黒色塗料を基材表面に塗布して塗布厚み50〜300μmとなるように塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥させる工程において塗膜内にベナードセルを形成させることで、基材表面に算術平均粗さが3.0μm以上の表面形状を有する光吸収膜を設けて、カメラなどの光学装置の内壁面の光吸収にして適した光吸収性部材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭58−4946号公報
【特許文献2】特公昭58−29974号公報
【特許文献3】特許4002453号公報
【特許文献4】特開2001−330709号公報、行番号0020〜0022
【特許文献5】特開昭63−153501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の内面反射防止方法では、光学ガラスレンズ周縁に微細な砂目を設け、光吸収性インクを塗布したとしても、空隙が生じ、その箇所で入射光の内面反射が発生してしまう。そのため、依然として、光学ガラスレンズなど光学部品の周縁からのフレア、ゴーストなどの内面反射が発生してしまい、カメラなどの観察、撮影などに支障が生じてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、完全に内面反射を防止することができる内面反射防止剤、その内面反射防止剤を被膜した光学部品、及びその光学部品に内面反射防止剤を塗装する内面反射防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決手段を例示すると、次のとおりである。
【0009】
(1) 光学部品の内面反射を防止するための内面反射防止剤において、光学部品の砂目(ガラス目)に染み込ませる防止剤に添加剤として地球環境に害のない化学物質を用いることを特徴とする内面反射防止剤。
【0010】
(2) 前述の内面反射防止剤において、地球環境に害のない化学物質として、石油ピッチ樹脂を用いることを特徴とする内面反射防止剤。
【0011】
(3) 添加剤として石油ピッチ樹脂を加えた内面反射防止剤が、光学部品の砂目(ガラス目)に染み込んで、光学部品の内面反射防止が施されていることを特徴とする光学部品。
【0012】
(4) 石油ピッチ樹脂を加えた内面反射防止剤を、光学部品の砂目(ガラス目)に添加剤として染み込ませ、光学部品の内面反射を防止することを特徴とする光学部品の内面反射防止方法。
【0013】
(5) 光学ガラスレンズに塗布された黒色塗料を溶剤によって溶かして光学ガラスレンズから除去し、しかるのち、地球環境に害のない化学物質からなる添加剤を光学ガラスレンズの砂目(ガラス目)に染み込ませ、貼り替えを行い、光学ガラスレンズの内面反射防止を施すことを特徴とする光学ガラスレンズの内面反射防止方法。
【0014】
(6) 前述の光学ガラスレンズの内面反射防止方法において、地球環境に害のない化学物質が石油ピッチ樹脂であることを特徴とする光学ガラスレンズの内面反射防止方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地球環境に害のない化学物質からなる樹脂である。石油ピッチ樹脂を添加剤としてレンズコバの砂目に染み込ませて内面反射防止剤を被膜することで、地球環境に害のある物質(発がん性物質など)を用いずに、地球環境に配慮した内面反射防止を実現することができ、完全に内面反射を防止することができる。
【0016】
また、コールタールなどの従来の黒色塗料が塗布されていても、本発明によれば、塗布された従来の黒色塗料を除去し、廃棄物として処理し、地球環境に害のない化学物質を用いた黒色塗料に貼り替えることができ、それによって、その後は、地球環境に害のある化学物質の使用を回避することができ、地球環境の改善に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
光学部品、例えばデジカメ、ビデオ、携帯電話用のズーム光学系、DVD(登録商標)・HDDVD(登録商標)・Blue−Ray(登録商標)レコーダーの光ピックアップ等のカメラレンズの鏡筒内面を黒色処理する。
【0018】
本発明の好適な実施形態において、カメラ鏡筒内面の黒色処理は、以下のとおり行う。
【0019】
塗料のベースとなる樹脂として、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、アクリルウレタン樹脂、特殊アルキドメラミン樹脂、シリコーン樹脂、変性酢酸ビニル樹脂、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂、無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン樹脂、などを用いる。
【0020】
その他に、添加剤として、好ましくは石油ピッチ樹脂を用いる。
【0021】
そのほかに、次の物質を用いるのが好ましい。例えば、オリエント化学工業株式会社製のVALIFAST BLACKシリーズ、OIL BLACKシリーズ、BONJET BLACK CW−2、MICROPIGMO WMBK−5、BASFジャパン株式会社製のNEOZAPON BLACKのほか、カーボンブラック、含水二酸化珪素、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、ミネラルスピリット、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、シクロヘキサン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどの炭化水素系、アルコール系、アセトン系、ケトン系、エステル系、の各種有機溶剤があげられる。
【0022】
好ましくは、ベース樹脂、添加剤、顔料、染料の良好な組み合わせは、次のとおりである。すなわち、塗料のベースとなる樹脂は、アクリル樹脂などであり、添加剤は、石油ピッチ樹脂、カーボンブラックである。
【0023】
また、樹脂は、変性酢酸ビニル樹脂などを用い、添加剤は、石油ピッチ樹脂、BONJET BLACK CW−2、カーボンブラックを用いる。
【0024】
また、樹脂は、特殊アルキドメラミン樹脂などを用い、添加剤は、石油ピッチ樹脂、BASFジャパン株式会社製のNEOZAPON BLACK、カーボンブラックを用いる。
【0025】
また、樹脂は、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂などを用い、添加剤は、石油ピッチ樹脂、オリエント化学工業株式会社製のOIL BLACKシリーズ、カーボンブラックを用いる。
【0026】
以上の塗料のベースとなる樹脂と石油ピッチ樹脂を含有する添加剤を一定の混合比で組み合わせ調整した内面反射防止剤を、デジカメ、ビデオ、携帯電話用のズーム光学系、DVD(登録商標)・HDDVD(登録商標)・Blue−Ray(登録商標)レコーダーの光ピックアップ等の鏡筒やレンズ端面へ塗布することにより、すぐれた内面反射防止(黒色処理)を効果的に行うことができる。
【0027】
石油ピッチ樹脂は、従来の黒色塗料に用いられているコールタールとは異なり、発がん性物質を含まず、地球環境に害のない化学物質であり、組立作業員や、取扱業者の健康を害することがない。
【0028】
実験例
使用塗料:染料等の配合を抜きにした黒色ベース塗料(一例としてアクリル樹脂)に添加剤(一例として石油ピッチ樹脂)をそれぞれ10%・30%・50%添加したもの
砂目入り性能確認:光学顕微鏡(倍率4倍)にて目視による確認
確認結果:
前述の全ての実験例において、光学顕微鏡による目視確認では、砂目の入り込み性能は良好であった。ただし、各メーカー毎にレンズへの塗布膜厚規格が存在するため、その厚さでの判断が必要である。
【0029】
前述の3種類の塗料をそれぞれ塗布したレンズを所定の乾燥条件の下で乾燥させ、その後、IPAに浸漬したところ、溶け出しは確認できなかった。1週間以上放置しても、溶け出しは確認できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部品の内面反射を防止するための内面反射防止剤において、光学部品の砂目(ガラス目)に染み込ませる防止剤に添加剤として地球環境に害のない化学物質を用いることを特徴とする内面反射防止剤。
【請求項2】
請求項1に記載の内面反射防止剤において、地球環境に害のない化学物質として、石油ピッチ樹脂を用いることを特徴とする内面反射防止剤。
【請求項3】
添加剤として石油ピッチ樹脂を加えた内面反射防止剤が、光学部品の砂目(ガラス目)に染み込んで、光学部品の内面反射防止が施されていることを特徴とする光学部品。
【請求項4】
石油ピッチ樹脂を加えた内面反射防止剤を、光学部品の砂目(ガラス目)に添加剤として染み込ませ、光学部品の内面反射を防止することを特徴とする光学部品の内面反射防止方法。
【請求項5】
光学ガラスレンズに塗布された黒色塗料を溶剤によって溶かして光学ガラスレンズから除去し、しかるのち、地球環境に害のない化学物質からなる添加剤を光学ガラスレンズの砂目(ガラス目)に染み込ませ、貼り替えを行い、光学ガラスレンズの内面反射防止を施すことを特徴とする光学ガラスレンズの内面反射防止方法。
【請求項6】
請求項5に記載の光学ガラスレンズの内面反射防止方法において、地球環境に害のない化学物質が石油ピッチ樹脂であることを特徴とする光学ガラスレンズの内面反射防止方法。

【公開番号】特開2013−76911(P2013−76911A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217571(P2011−217571)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】