説明

光導電膜と強誘電体薄膜を用いた強誘電体薄膜光メモリー素子

【課題】強誘電体光メモリーにおいて、メモリー素子である強誘電体セラミックスを薄膜化することにより、駆動電圧を大幅に低電圧化することが課題である
【解決手段】
本発明の解決手段は、Pt(111)/TiO/SiO/Si(100) 基板上1に、メモリー材料としてPLZT2、光導電膜としてCdS3、透明電極としてITO4を積層させたサンドイッチ構造の素子とすることである。強誘電体セラミックスは駆動電圧に数キロボルト程度必要であるが、強誘電体薄膜は駆動電圧が1.5ボルト以上程度で済む。強誘電体薄膜を形成する技術は、多様に進展しており、既存の薄膜形成技術を駆使できる。強誘電体薄膜光メモリー素子の構造は単純であり、低コストで生産する事が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導電膜と強誘電体薄膜をサンドイッチ構造に構成したデバイスの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強誘電体セラミックス上に光導電膜を合成し、その両端に透明電極を塗布した構造を有する強誘電体光メモリーは画像表示用アナログ記録素子として研究が行なわれたが、セラミックスを用いるため、駆動電圧が数キロボルト程度必要となり、実用化し商業的に用いるには困難が生じる。
【0003】
本特許は、強誘電体セラミックスを薄膜化することにより駆動電圧を低下させることが出来、光導電膜を用いることで光を当てた任意の場所に対してデータを書き込めるという特徴を持つ素子である。
【0004】
強誘電体薄膜光メモリーは下部電極から上部透明電極までを既存の薄膜形成技術で解決できるために、複雑な生産工程を必要とせず、生産コストを押さえることができる。
【0005】
強誘電体光メモリーは既に提案されており、主として画像表示素子を目的とするものであった。液晶やLEDと比較して、次の様な利点が挙げられる。
(1)ヒステリシス現象を利用した半永久的記憶作用がある。
(2)大画面表示ができる。
(3)局部的な書込みや消去ができる。
(4)応答速度が速い。
【0006】
強誘電体光メモリーは前述のような優れた特性を有するデバイスではあるが、メモリー素子として強誘電体セラミックスを用いていたため、駆動電圧が数キロボルト必要であり、商業的に実用化には至らなかった。
【0007】
強誘電体薄膜光メモリーはメモリー素子として強誘電体薄膜を用いるため、駆動電圧は1.5ボルト〜数10ボルト程度あれば十分である。
【0008】
したがって、本発明は強誘電体光メモリーの構造を利用するが、上記のセラミックス手法とは考え方を異にする薄膜手法を用いるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、強誘電体光メモリーの強誘電体セラミックスを強誘電体薄膜化し、駆動電圧を低電圧化させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
強誘電体薄膜光メモリーを構成する材料を以下に述べる。メモリー素子はPbLaZrTiO、ランタン添加チタンジルコン酸鉛であり、以下PLZTと略記する。光導電膜はCdS、硫化カドミウムである。透明電極はInO−SnO、酸化インジウム-酸化スズであり、以下ITOと略記する。
【0011】
図1に強誘電体薄膜光メモリーの模式図を示す。強誘電体薄膜光メモリーは、Pt(111)/TiO/SiO/Si(100)基板上1に、メモリー材料としてPLZT2、光導電膜としてCdS3、透明電極としてITO4を積層させたサンドイッチ構造の素子である。
【0012】
強誘電体薄膜光メモリーはレーザー光源5より照射された任意の位置に電圧6を印加する事が可能である。詳細な駆動原理については図2で述べる。
【0013】
強誘電体薄膜は以下のプロセスによりゾルゲル法で合成する。
PT前駆体溶液を一分間あたり1000回転で10秒、一分間あたり3000回転で20秒の条件でコーティングした後、ホットプレートにより300℃で5分間の熱分解および結晶化を行ない、バッファー層を合成する。次に、PLZT前駆体溶液を第1ステップでは一分間あたり1000回転で10秒、第2ステップでは一分間あたり3000回転で20秒の条件でコーティングし、ホットプレートにより100℃で5分乾燥の後、300℃で3分間の熱分解を行なう。高速熱熱処理装置を用いて、酸素雰囲気中で焼成(700℃、2分間、1kgf/cm)を行ない結晶化させる。本工程を4回繰り返し、膜厚約300〜350ナノmのPLZT薄膜を合成する。
【0014】
光導電膜CdSは真空蒸着法で合成する
1.
基板の脱ガスのため、基板温度を400℃まで加熱する。同時に、CdS粉末の脱ガスのため、蒸発源温度を500℃まで徐々に加熱する。
2.
基板温度400℃、蒸発源温度500℃に達したら、そのまま10分間保ち、基板およびCdS粉末の脱ガスを行なう。
3.
基板温度を所定の温度まで下げ、蒸発源温度を250℃に保つ。
4.
基板温度が所定の温度に達したら、蒸発源温度を徐々に希望する温度に過熱する。
5.
基板温度が所定の温度になり、蒸発源温度が希望の温度に達したら、蒸着を開始する。
6.
30分蒸着した後、蒸着を終了する。
【0015】
透明電極ITOはスパッタリング法で合成する。
上部透明電極として、スパッタリング法によりITO薄膜を合成した。
スパッタリング条件は、印加電圧周波数13.6メガHz、陽極電流80ミリA、陽極電圧0.9キロボルト、導入ガスはアルゴンガス9割に対して酸素1割を混入させた複合ガス、基板加熱温度は350℃である。スパッタリング時間は約20分である。
以上が課題を解決する手段である。
【0016】
強誘電体光メモリーの駆動方法について述べる。
図2に強誘電体薄膜光メモリーの駆動模式図を示した。強誘電体薄膜とフォトコンダクターに対して電界が印加されているので、分圧される。このとき、分圧の定量的な関係は式(1)である。
E=V+V・・・(1)
ここで、Eは印加電界、Vは強誘電体に印加される電界、Vはフォトコンダクターに印加される電界である。
【0017】
電界はV<Eという条件を満たすように印加する。ここでEは強誘電体の抗電界である。次に、フォトコンダクターに光を照射すると、フォトコンダクターの抵抗RP1は光導電効果により、RP2へ変化する。このときフォトコンダクターの抵抗値はRP2<RP1となる。その結果、強誘電体に印加される電界はV>Eとなり、分極反転を引き起こしメモリーの書込みが完了する。
【0018】
以上のように本発明による課題の解決手段は、強誘電体光メモリーにおける強誘電体セラミックスを強誘電体薄膜にすることで、駆動電圧の大幅な低電圧化を狙うものである。
【0019】
本発明はSi基板上に、強誘電体薄膜を合成するプロセス、光導電膜を合成するプロセス、透明電極を合成するステップから成るものである。
【発明の効果】
【0020】
強誘電体セラミックスは焼成時間が長いため粒径が大きくなるまた、単一な粒径を合成するには単結晶にする必要があるが、製造プロセスが精密になり、生産コストが上昇する欠点を持つ。強誘電体薄膜は焼成時間が短いため、微小な粒径を形成し、かつ粒径の大きさをコントロールすることができる。
【0021】
強誘電体は非線型誘電率顕微鏡を用いることにより1平方インチあたり1.5テラビットの記録密度を持つ事が実証されている。この記録密度は現行の磁気記録密度1平方インチあたり6ギガビットを遥かに凌駕する高密度記録である。したがって、強誘電体は高記録密度を有する材料として優れたポテンシャルを持っている。
【0022】
レーザー光などの単色光は半導体レーザーの開発により低コスト化・小型化されている。
DVDおよびCDに代表される光ディスクメモリー素子においては、中村による青色半導体レーザーの開発が成功し、Blue−ray DVD(以下、DVD−blue)が実用化されている。DVD−blueに代表される高密度記録光メモリーは、従来よりも波長の短い青色光を用いることで回折限界を向上させ、レーザー光を小さく絞り高密度記録を達成している。同様に、強誘電体光メモリーも青色のレーザーを用いることによって高密度記録を達成できると考えられる。
【0023】
したがって、前述に述べた通り、強誘電体薄膜光メモリーは産業活性化の一助となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】強誘電体薄膜光メモリーの模式図
【図2】強誘電体薄膜光メモリーの駆動模式図
【符号の説明】
【0025】
1・・・Pt(111)/TiO/SiO/Si(100) 基板
2・・・メモリー素子
3・・・光導電膜
4・・・透明電極
5・・・レーザー光源
6・・・印加電圧




【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを基盤とし、該基板上に、白金を下部電極として、下から順に強誘電体薄膜、光導電膜を積層し、さらに上部電極として透明電極の各薄膜を積層させた、サンドイッチ構造であることを特徴とする強誘電体薄膜光メモリー素子。
【請求項2】
請求項1記載の強誘電体薄膜の材料として、透過性と屈折率が共に高く、且つ優れた光学特性を示すペロブスカイト構造である強誘電体であることを特徴とする請求項1記載の強誘電体薄膜光メモリー素子。
【請求項3】
請求項2記載の強誘電体として、ランタン添加チタンジルコン酸鉛、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、を用いた強誘電体薄膜であることを特徴とする請求項1記載の強誘電体薄膜光メモリー素子。
【請求項4】
請求項1記載の光導電膜の材料として、光伝道効果を有する硫化カドミウム、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム、を用いることを特徴とする請求項1記載の強誘電体薄膜光メモリー素子。
【請求項5】
請求項1記載の強誘電体薄膜をゾルゲル法で形成し、光導電膜を真空蒸着法で形成し、さらに透明電極の薄膜をスパッタリング法で形成して、各薄膜を積層することを特徴とする請求項1記載の強誘電体薄膜光メモリー素子。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−265481(P2007−265481A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86816(P2006−86816)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(303002930)財団法人青森県工業技術教育振興会 (17)