光活性化陽イオンチャネルおよびその使用
【課題】より高い時間解像度、非侵襲性、および遺伝子を基礎とした、神経作用の制御のための組成物および方法を提供する。
【解決手段】光活性化陽イオンチャネルタンパク質の組成物および方法ならびに細胞膜および細胞内領域内でのそれらの使用。特定の細胞または限定された細胞集団への光活性化陽イオンチャネルの遺伝的に標的化された発現のためのタンパク質、核酸、ベクターおよび方法。特に、細胞、細胞株、トランスジェニック動物、およびヒトにおける中程度の光強度を用いた陽イオンチャネルのミリ秒単位での時間的制御、および神経ネットワークの制御、薬物スクリーニング、および治療のために有用な神経細胞および他の興奮性細胞における光学的に生成する電気的スパイク。
【解決手段】光活性化陽イオンチャネルタンパク質の組成物および方法ならびに細胞膜および細胞内領域内でのそれらの使用。特定の細胞または限定された細胞集団への光活性化陽イオンチャネルの遺伝的に標的化された発現のためのタンパク質、核酸、ベクターおよび方法。特に、細胞、細胞株、トランスジェニック動物、およびヒトにおける中程度の光強度を用いた陽イオンチャネルのミリ秒単位での時間的制御、および神経ネットワークの制御、薬物スクリーニング、および治療のために有用な神経細胞および他の興奮性細胞における光学的に生成する電気的スパイク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューロンに導入され、光の急速なパルスで照射された場合、ミリ秒単位の電気的スパイクを生じ得る光活性化陽イオンチャネルタンパク質に関する。具体的には、本発明は、細胞、細胞株、トランスジェニック動物、およびヒトにおける中程度の光強度を用いた陽イオンチャネルのミリ秒単位での時間的調節を提供する。本発明は、ニューロンネットワークの制御、薬物スクリーニング、および治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
イオンチャネルタンパク質は、例えば、細胞質と細胞外部との間の細胞膜を横切るイオンの流れを調節する。陽イオンチャネルは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リチウム、ルビジウム、およびセシウムなどの陽イオンの流れを調節することによって機能する。陽イオンチャネルが閉じると、細胞膜を横切る陽イオンの輸送は遅くなり、陽イオンチャネルが開かれると、チャネルを通じて陽イオンの流れが増加する。チャネルの開口が、細胞膜の一方に陽イオンの正味の流れをもたらす場合、電流が発生する。細胞膜を横切るイオンの流れは、細胞膜を隔てた電位の変化をももたらすことができる。チャネルが開口している時に細胞膜を隔てた正味の電位があれば、陽イオンは、細胞膜の脱分極を引き起こすように流れる傾向にある。ニューロン(神経細胞)は急激な脱分極を用いて、ニューロンに沿って伝播する電気的シグナルを発生させる活動電位(スパイク)を生じさせる。これらの活動電位、神経インパルス、またはスパイクは、ミリ秒単位で発生し、それらは、ニューロンがシグナルに応じて作用する基本であり、脳および筋肉の機能を調節する。
【0003】
ニューロンは、シグナルを受け取り、伝導し、伝達する。運動ニューロンでは、シグナルは、特定の筋肉の収縮のための指令に相当する。感覚ニューロンでは、シグナルは、特定のタイプの刺激が存在するという情報に相当する。介在ニューロンでは、シグナルは、多くの異なる供給源からの感覚情報を組み合わせ、応答における適切な一連の運動指令を生じる計算の一部に相当する。伝達は、細胞の他の部分に広がる、細胞膜のある部分における電気的な乱れに依存している。これらの伝達は、多くの場合、スパイクまたは神経インパルスとも呼ばれる活動電位を介している。神経シグナルは、細胞接触に専門化した部位であるシナプスにおいて細胞から細胞へと伝達される。シナプスは、電気的シナプス(ギャップジャンクション)、または化学的シナプスのいずれかであり得る。化学的シナプスを横切る伝達の通常の機構は、神経伝達物質の放出をもたらす第一の(シナプス前)ニューロン内の電位の変化を伴う。神経伝達物質は、ニューロン間のギャップ(シナプス間隔)を横切って第二の(シナプス後)ニューロンに拡散する。神経伝達物質は、ポストシナプス性ニューロンにおける電気的応答を誘発することができる。シナプス前ニューロンからの電気的シグナルによりシナプスで生じた変化は、シナプス事象である。シナプス事象は、興奮性または抑制性であり得る。シナプス事象を調節することによって、ニューロン間のシグナルの伝達の調節は制御され得て、連結したニューラルネットワークを通じて活性の光学的制御を可能にする。
【0004】
特定の神経集団における活性の非侵襲的な時間的調節は、神経科学の念願のゴールである。哺乳動物の神経系では、神経計算は、連結したネットワークの中で、固有の遺伝子マーカーを発現し、不均一な形態的特徴および配線特性を示す、様々なクラスのニューロンの多様で正確な一過性のスパイク発火パターンに依存していると考えられている。(例えば、Pouilleら、Nature 429:717(2004)、Nirenbergら、Neuron 18:637(1997)、Klausbergerら、Nature 421:844(2003)、Hausserら、Neuron 19:665(1997))。完全な状態の脳組織における直接的な領域刺激およびニューロンの記録は、回路亜領域の因果機能についての多くの洞察を与えたが(Kandelら、J Neurophysiol 24:243(1961)、Kandelら、J Neurophysiol 24:225(1961)、Ditterichら、Nat Neurosci 6:891(2003)、Goldら、Nature 404:390(2000)、Salzmanら、Nature 346:174(1990))、特定のタイプに属するニューロンは、多くの場合、密集した組織内にまばらに埋め込まれており、情報処理における特定のニューロンタイプの因果的役割を解明するための基礎的な課題を提起している。
【0005】
多くの細胞性神経科学プロセスおよびシステム神経科学プロセスに関して(ならびに、線虫のような種における非スパイキングニューロンに関して)、閾値下の脱分極は、生理学的に意義のある情報を伝える。例えば、閾値下の脱分極は、シナプス−細胞核間シグナルを活性化するために非常に効果的であり(Mermelsteinら、J.Neurosci.20:266(2000)、閾値下及び閾値以上での脱分極の相対的タイミングは、シナプス可塑性のサインを決定するために重要である(Biら、J.Neurosci.18:10464(1998))。しかし、スパイク発火を制御することと比較して、信頼性のある正確にサイズが規定された閾値下の脱分極を制御することは、原理的にはより困難な課題である。活動電位産生に対するはっきりとした閾値は、信頼性のあるスパイク発火を容易にするが、スパイク発火の全か無かの動態により、電気的性質におけるニューロン間の有意な変動性の存在下でも、スパイク間で実質的に同一な波形を産生する。対照的に、膜電位の線形領域において機能する、閾値下の脱分極は、これらの内在性の正常化機構を欠損している。
【0006】
グルタミン酸の脱ケージ化(uncaging)(例えば、Shepherdら、Neuron 38:277(2003)、Denkら、J Neurosci Methods 54:151(1994)、Pettitら、J Neurophysiol 81:1424(1999)、Yoshimuraら、Nature 433:868(2005)、Dalvaら、Science 265:255(1994)、Katzら、J Neurosci Methods 54:205(1994))のような非細胞型特殊技術によるニューラルネットワークの解析でなされた進歩にもかかわらずに、未だに、単一スパイクの解像度で特定のニューロンにおける神経情報符号化をプローブするために必要とされている時間空間的解像度を示す非侵襲的技術は発明されていない。従来の遺伝子にコードされた光学的方法は、恐らくはそれらの膜電位調節機構の性質により、数秒から数分の単位でのみ神経機能の調節を証明している。大体1000倍速い動態が、個々のスパイクまたはシナプスイベントの遠隔制御を可能にするであろう。したがって、既存の遺伝子標的アプローチは、高価で、注文により合成された外因性化合物を必要とし、数秒から数分の単位で機能する(Limaら、Cell 121:141(2005)、Banghartら、Nat Neurosci 7:1381(2004)、Zemelmanら、Proc Natol Acad Sci USA 100:1352(2003)、Fosterら、Nature 433:698(2005))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Pouille他、Nature 429:717(2004)
【非特許文献2】Nirenberg他、Neuron 18:637(1997)
【非特許文献3】Klausberger他、Nature 421:844(2003)
【非特許文献4】Hausser他、Neuron 19:665(1997)
【非特許文献5】Kandel他、J Neurophysiol 24:243(1961)
【非特許文献6】Kandel他、J Neurophysiol 24:225(1961)
【非特許文献7】Ditterich他、Nat Neurosci 6:891(2003)
【非特許文献8】Gold他、Nature 404:390(2000)
【非特許文献9】Salzman他、Nature 346:174(1990)
【非特許文献10】Mermelstein他、J.Neurosci.20:266(2000)
【非特許文献11】Bi他、J.Neurosci.18:10464(1998)
【非特許文献12】Shepherd他、Neuron 38:277(2003)
【非特許文献13】Denk他、J Neurosci Methods 54:151(1994)
【非特許文献14】Pettit他、J Neurophysiol 81:1424(1999)
【非特許文献15】Yoshimura他、Nature 433:868(2005)
【非特許文献16】Dalva他、Science 265:255(1994)
【非特許文献17】Katz他、J Neurosci Methods 54:205(1994)
【非特許文献18】Lima他、Cell 121:141(2005)
【非特許文献19】Banghart他、Nat Neurosci 7:1381(2004)
【非特許文献20】Zemelman他、Proc Natol Acad Sci USA 100:1352(2003)
【非特許文献21】Foster他、Nature 433:698(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、より高い時間解像度、非侵襲性、および遺伝子を基礎とした、神経作用の制御のための組成物および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の一態様は、微細な時間解像度で遺伝的に標的された光刺激を与える、ミリ秒単位の開口動態を有する光活性化陽イオンチャネル(LACC)タンパク質に関連した組成物および方法を提供し、回路動態、情報処理、および可塑性を制御するのに十分な、特定のニューロンにおける時間的活性パターンの解明を可能にする。本明細書中での組成物および方法は、イオンチャネル調節、シグナル伝達、一過性のスパイクおよびシナプス活性パターンによる神経情報符号化、感覚および運動情報処理、回路動態における介在ニューロン調節、および神経精神不全を含む多くの生物学的プロセスに重要な、速い時間単位での、インビトロおよびインビボの両方におけるニューロンおよび様々な他の細胞型の電気的およびイオン的環境の光学制御を提供する。本発明の追加の態様は、創薬、生物工学的および神経精神学的な応用のための光活性化陽イオンチャネルタンパク質に関する組成物および方法に関し、様々な医学的疾患を特徴付け、検出し、および治療する能力を向上させる。
【0010】
本発明の別の態様は、細胞において発現される光活性化陽イオンチャネルタンパク質を含む組成物であり、ここで、該細胞は、哺乳動物細胞、ニューロン、および幹細胞からなる群から選択される。一実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である。別の実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、7回膜貫通型タンパク質である。別の実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、単一成分のタンパク質である。さらに別の実施形態では、LACCタンパク質は、レチナールと共有結合する。
【0011】
本発明のなお別の態様は、1ms以内に光刺激に応答する単離されたLACCタンパク質である。
本発明の別の態様では、約60分間にわたって、約10%増加も減少もしない安定な光電流を発生させる単離されたLACCタンパク質である。
【0012】
本発明の別の態様は、約5ms未満の一時的な微小振動(jitter)を有する電気的応答を発生させる単離されたLACCタンパク質である。
【0013】
本発明の別の態様は、約5回のパルスにわたって、約0.2未満の変動係数を有する閾値下のパルスを発生させることができる単離されたLACCタンパク質である。
【0014】
本発明の別の態様は、LACCタンパク質に対する遺伝子およびプロモーターを含む核酸配列である。一実施形態では、プロモーターは、細胞特異的プロモーターである。別の実施形態では、プロモーターは、ソマトスタチン、パルブアルブミン、GABAα6、L7、またはカルビンジンに対するプロモーターである。別の実施形態では、プロモーターは、細胞汎用プロモーターである。別の実施形態では、プロモーターは、EF−1アルファである。別の実施形態では、核酸配列は、バクテリア人工染色体(BAC)を含む。別の好ましい実施形態では、プロモーターは、投与された薬物に応答され得るトランス作用性因子によって誘導可能なプロモーターなどの誘導性プロモーターである。
【0015】
本発明の別の態様は、別の機能性タンパク質と結合したLACCタンパク質を含む融合タンパク質である。一実施形態では、別の機能性タンパク質は、蛍光タンパク質である。一実施形態では、別の機能性タンパク質は、mCherry、GFP、YFP、またはCFPである。一実施形態では、別の機能性タンパク質は、細胞内領域を標的とする。一実施形態では、別の機能性タンパク質は、PDZドメインまたはAISドメインである。
【0016】
本発明の別の態様は、LACCタンパク質およびプロモーターをコードする核酸配列を含むLACCタンパク質を輸送するベクターである。一実施形態では、ベクターは、ウイルスを含む。ウイルスの好ましい実施形態は、レンチウイルスまたはレトロウイルスである。
【0017】
本発明の別の態様は、LACCタンパク質を発現する細胞である。一実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞、幹細胞、または神経細胞である。
【0018】
本発明の別の態様は、LACCタンパク質を発現する細胞株である。一実施形態では、細胞株は、哺乳動物細胞株、幹細胞株、または神経細胞株である。
【0019】
本発明の別の態様は、LACCタンパク質を発現するトランスジェニック動物である。一実施形態では、トランスジェニック動物は、ハエ(fly)、ぜん虫(worm)、マウス、またはゼブラフィッシュ(zebrafish)である。
【0020】
本発明の別の態様は、細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現させること;および、LACCタンパク質を活性化させるために細胞を光に晒すことを含む、光学的に細胞特性を制御する方法である。好ましい一実施形態では、細胞への光の曝露は、細胞における電気的応答を発生させる。別の好ましい実施形態では、LACCタンパク質の活性化は、ペプチド(例えば、インスリン、レプチン、ニューロペプチドY、サブスタンスP、ヒト成長ホルモン、セクレチン、グルカゴン、エンドルフィン、オキシトシン、バソプレッシン、オレキシン/ヒポクレチン)の放出を引き起こす。別の好ましい実施形態では、LACCタンパク質の活性化は、小分子の放出を引き起こし、その小分子の合成または放出は、細胞の電気活性に依存する(例えば、一酸化窒素、またはアナンダミドもしくは2−アラキドノイルグリセロール(2−AG)などのカンナビノイド)。本発明の別の好ましい実施形態では、LACCタンパク質の活性化は、サイトカインの放出を引き起こす。本発明の別の好ましい実施形態では、細胞は、筋肉細胞をもたらし、LACCタンパク質の活性化は、筋細胞の収縮を引き起こすことを含む。
【0021】
本発明の別の態様では、シナプスで終わるニューロンにおいてLACCタンパク質を発現させるようにすること;および、LACCタンパク質を活性化させるためにニューロンを光に晒すことを含むシナプス伝達を制御する方法であって、ここで、光への曝露はシナプス事象を引き起こす。一実施形態では、シナプス事象は、シナプス伝達を生じさせる。別の実施形態では、シナプス伝達は、第二ニューロンに信号を伝達する。別の実施形態では、シナプス伝達は、連結したニューラルネットワークを通じて活性を制御する。別の実施形態では、シナプス事象は、興奮性また抑制性である。なお別の実施形態では、シナプス事象は、ノルエピネフリン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリン、D−セリン、ヒスタミンなどの小分子神経調節物質、または細胞機能を調節する他の小分子の放出を含む。
【0022】
本発明の別の態様は、細胞と、LACCタンパク質を含む核酸配列を含むベクターとを接触させることを含む、特定の細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質の標的化送達のための方法であり、前記ベクターは、選択的に特定細胞を標的とする。
【0023】
本発明の別の態様は、細胞と、LACCタンパク質を含む核酸配列および細胞特異的プロモーターを含むベクターとを接触させることを含む、特定の細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質を標的化送達するための方法であり、前記特定細胞は、前記LACCタンパク質を発現する。
【0024】
本発明の別の態様は、一群の細胞においてLACCタンパク質を発現させ;前記群の細胞に効果があり得る化合物を晒し;該群の細胞を光に晒し;および、該化合物が該細胞に効果があるかどうかを決定するために該群の細胞内の細胞の電気的応答をモニターすることを含む薬物のスクリーニング方法である。好ましい実施形態では、電気的応答のモニターは、蛍光の変化を視覚的に画像化することを含む。
【0025】
本発明の別の態様は、対象内の興奮性細胞にLACCタンパク質を含むベクターを送達させること;および、このような興奮性細胞に影響を与えるために該細胞を光に晒すことを含む、対象を治療する方法である。
【0026】
本発明の別の態様では、生物内の細胞にLACCタンパク質を含むベクターを送達させること;および、生物の行動を制御するために該細胞を光に曝露することを含む、生物の行動を制御する方法である。
【0027】
本発明の別の態様は、一群の神経細胞を一群の細胞のサブセットに遺伝的に標的化することができるベクターで曝露すること;および、細胞のサブセットにおいてLACCタンパク質を活性化するために細胞を光に曝露することを含む、他の神経細胞の存在下で神経細胞のサブセットを刺激する方法である。
【0028】
本発明の別の態様は、細胞がLACCタンパク質を発現させるようにすること;および、LACCタンパク質を活性化するために細胞を光に曝露することを含む細胞における分化を制御する方法であって、LACCタンパク質の活性化が、曝露された細胞の子孫の分化を制御する。好ましい実施形態では、細胞は、幹細胞を含む。
【0029】
本明細書中に記載される好ましい実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる。
【0030】
本発明の別の態様は、治療的に有効量の光活性化陽イオンチャネルタンパク質をそれを必要とする患者に投与することを含む、患者を治療する方法である。本明細書中に記載される方法および組成物は、治療的利益および/または予防的利益のために利用することができる。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルは、活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する細胞の形態、または光活性化陽イオンチャネルタンパク質をコードする核酸配列を含むベクターの形態のいずれかで投与され、前記ベクターの投与が、前記患者の細胞における光活性化陽イオンチャネルタンパク質の発現を引き起こす。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる。好ましい実施形態では、光を用いた光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化は、インスリン、レプチン、ニューロペプチドY、サブスタンスP、ヒト成長ホルモン、セクレチン、グルカゴン、エンドルフィン、オキシトシン、バソプレッシン、オレキシン/ヒポクレチンなどのペプチド、またはそれらの組合せの放出を引き起こす。光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化はまた、一酸化窒素またはカンナビノイドなどの小分子の放出を引き起こすことができる。同様に、光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化は、サイトカインの放出を引き起こすことができる。いくつかの実施形態では、光活性化陽イオンチャネルは、筋細胞において発現され、光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化は、筋細胞の収縮を引き起こす。別の実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、神経細胞において発現され、光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化は、シナプス事象を引き起こす。シナプス事象は、ノルエピネフリン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリン、D−セリン、ヒスタミンなどの小分子神経調節物質、またはそれらの組合せの放出を引き起こすことができる。シナプス事象は、興奮性または抑制性であり得る。光活性化陽イオンチャネルは、ヒト胚性幹細胞などの幹細胞において発現され得て、光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化は、幹細胞の分化を引き起こすことができる。光活性化陽イオンチャネルは、癌細胞において発現され、光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化は、癌細胞の複製、生存、および/または制御された死の調節を引き起こす。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である。インビボまたはエクスビボ法の実施形態は、幹細胞にいて光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現させることを含み、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、光への曝露によって活性化され、前記活性化は、幹細胞の複製の調節を引きこすことができる。好ましい実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、網膜神経節細胞または脊髄神経節細胞において発現される。好ましい実施形態は、人工装具(器官)であり、即ち、光活性化陽イオンチャネルを発現する移植(インプラント又は埋め込み)(inplantation)用細胞である。好ましい人工装具(器官)は、耳用または眼用であり、好ましくは、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310を発現する。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる。
【0031】
なお別の好ましい態様は、薬物の特性を調節する潜在的なイオンチャネルを予測する方法であって、(a)細胞において、光活性化陽イオンチャネルタンパク質および対象とするイオンチャネルを発現させること;(b)前記細胞を光に晒し、前記細胞における第一応答を監視すること;(c)前記細胞を候補薬物に晒すこと;(d)前記細胞をさらに光に晒し、前記細胞における第二応答を監視すること;(e)第一応答および第二応答の比較に基づいて、前記候補薬物の特性を調節するイオンチャンネルを決定することを含む。これら応答のモニタリングは、前記細胞における蛍光の変化を視覚的に画像化すること、またはシグナル伝達経路をモニタリングすることを含むことができる。シグナル伝達経路は、抗体、蛍光小分子、または遺伝的にコードされた指示薬を用いて監視することができる。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、光を用いて、細胞膜の電気的特性および化学的特性を調節するための新規な組成物および方法を提供する。本発明はまた、膜の電気的特性および化学的特性の非侵襲的な、遺伝的に標的とされた、高い時間的解像度での制御も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】ChR2−YFPを発現している海馬ニューロンの顕微鏡写真を示す。
【図1B】1秒間の励起光(図の全体を通じて線で示される)によって誘発された電位固定ニューロン(左)における内向き電流を示し、集合データを含む(中:平均値+標準偏差;n=18)。図はまた、YFPフィルターを通した光がより小さな電流を誘発することを示す(右;n=5)。
【図1C】図1Bと同様に照射された海馬ニューロンにおける光パルスに応答した電流を示す。
【図1D】1秒間の青色光によって誘発された電流固定海馬ニューロン(左)における膜の脱分極およびスパイクを示す電位トレース。右、スパイク閾値に対する潜時、スパイクピークに対する潜時、およびスパイクピーク時間に対する微小振動、を示す誘発された第一スパイクの特性(n=10)。
【図1E】5ms(上段)、10ms(中段)、および15ms(下段)継続する、短い光連続パルスに応答した電位トレース。
【図2A】は、ポアソン列の光パルスの3回の送達に応答した、電流固定海馬ニューロンにおけるスパイクを示す電位トレース。
【図2B】同じニューロンに送達された同じポアソン列の2回の反復試行におけるスパイクの有無の比較によって測定した、光で誘発されたスパイク列の試行間の信頼性を示す。
【図2C】光で誘発されたスパイク列の試行間の微小振動を示す。
【図2D】全8秒のポアソン列を通じてのスパイク伝達の忠実度の割合を示す。
【図2E】各光パルス配列を通じたパルス潜時(i)、および列を通じたスパイク時間の微小振動(ii)を示す。
【図2F】図2Aで使用されるのと同じ時間的にパターン化された光刺激に応答した、3つの異なる海馬ニューロンにおけるスパイクを示す電位トレース。
【図2G】7個のニューロンのうちのいくつが、ポアソン列における各光パルスに応答してスパイクされたかを示すヒストグラム。
【図2H】光刺激によって誘発されたスパイクのニューロン間微小振動を示す。
【図3A】5Hz、10Hz、20Hz、または30Hzの光パルス列によって誘発された電流固定の海馬ニューロンにおけるスパイクを示す電位トレース。
【図3B】電流固定海馬ニューロンにおいて誘発されたスパイクの数(20回中)を示す集合データ。
【図3C】図3Bに記載した実験に関して、光パルス列によって誘発された外来性スパイクの数を示す。
【図3D】図3Bに記載された実験に関して、光パルス列全体を通してのスパイク時間の微小振動を示す。
【図3E】図3Bに記載される実験に関して、光パルス列全体を通じてのスパイクピークに対する潜時(latency)を示す。
【図4A】電流固定海馬ニューロン(左)における閾値下の脱分極を示す電位トレース。
【図4B】より長い光パルスが反復性の脱分極をどのように誘導したかを図示する。右、誘導した電位変化に対する変動係数(CV)(n=5ニューロン)。
【図4C】光パルスによって制御された興奮性シナプス伝達を示す。グルタミン酸作動性に対するブロッカーNBQXはこれらのシナプス応答を消滅させる(右)。
【図4D】光パルスによって制御される抑制性シナプス伝達を示す。GABA作動性伝達に対するブロッカーであるgabazineは、これらのシナプス応答を消滅させる(右)。
【図5A】ChR2を発現するニューロン(CHR2+;n=18)、ChR2を発現しないニューロン(CHR2−;n=18)、またはChR2を発現し光パルスプロトコール(CHR2+終了;n=2)への曝露後24時間で測定した、ニューロンの膜抵抗性を示す。
【図5B】図5Aに記載されたものと同じニューロンの静止膜電位を示す。
【図5C】同一のニューロンにおいて、300pAの脱分極によって誘発されたスパイク数を示す。
【図6】ChR2を含むレトロウイルスのマップを示す。
【図7】レンチウイルス形質導入によって導入されたChR2を発現するクローン幹細胞株の顕微鏡写真を示す。
【図8】光によって引き起こされた、神経前駆細胞(NPC)における核のSer−133 CREBリン酸化の増加を示す。
【図9】ニューロン(左)および筋細胞(右)において発現したChR2を有する、生きているゼブラフィッシュの顕微鏡写真である。
【図10】本発明の方法の1つの実施形態を図示する。
【図11】本発明の方法の1つの実施形態を図示する。
【図12】配列番号1を図示する。
【図13】配列番号2を図示する。
【図14】配列番号3を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の新規特徴は、添付した特許請求の範囲に具体的に記載される。本発明の特徴および利点のより十分な理解は、発明の原理が利用される例示的な実施形態を記載している下記の詳細な説明を参照することにより得られる。
【0035】
LACC
本発明の好ましい実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、7回膜貫通型タンパク質を含む。
本発明の好ましい実施形態では、LACCは、チャネルロドプシン−2(ChR2)タンパク質またはそのタンパク質の一部を含む。ChR2は、単細胞緑藻コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)由来のロドプシンである。用語「ロドプシン」は、本明細書中で使用するとき、少なくとも2つの構成要素であるオプシンタンパク質、および共有結合した補助因子、通常、レチナール(レチンアルデヒド)を含むタンパク質である。ロドプシンChR2は、オプシンであるチャネルオプシン−2(Chop2)由来である(Nagelら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:13940、およびそこで引用された参考文献)。本発明のLACCタンパク質は、このシステムに加えられるレチナールを組み込むことができ、または使用される細胞型に依存して、細胞に存在するバックグランド濃度のレチナールが必要なレチナールを産生してもよい。本発明の方法は、LACCタンパク質のオプシン形態またはロドプシン形態、例えばChop2もしくはChR2、のいずれかを包含する。典型的には、Chop2およびChR2は、補助因子の添加または除去によって相互変換され得る。このようにして、本明細書中で使用されるとき、LACCタンパク質は、補助因子を伴うオプシンまたは補助因子を伴わないオプシンを含む。例えば、本明細書中で使用するとき、核酸がChop2などのオプシンタンパク質をコードする場合、該核酸は、ChR2などの光活性化陽イオンチャネルタンパク質をコードする。さらに、本明細書中で使用するとき、細胞がChop2などのオプシンタンパク質を発現する場合、該細胞は、LACCタンパク質を発現する。
【0036】
本発明のLACCはまた、光によって活性化されると、膜を横切る塩素イオンなどの陰イオンの流れの変調を引き起こしてもよい。光によるLACCの活性化によって光学的に誘導される電気的および化学的変化は本発明の範囲内でもある。
【0037】
本発明のある実施形態では、補助因子(通常はナノモルからマイクロモルの範囲で)を添加することが望ましい。他の実施形態では、レチナールの添加は必要とされない。ある場合には、培地が必要とされる補助因子を提供してもよい。本発明の好ましい実施形態では、LACCタンパク質は、レチナールに共有結合する。用語レチナールは、本発明において使用されるとき、オールトランスレチナール、11−シスレチナール、およびレチナールの他のアイソフォームを含む。
【0038】
本発明のある実施形態では、タンパク質Bcdoは、ChR2と共に発現され得る。Bcdoは、一般的な食事性分子のベータカロチンをレチナールに変換し(Yanら、Genomics 72(2):193(2001))、したがって、Chop2をChR2に変換するためのレチナールを提供する。
【0039】
本発明中において使用されるとき、用語「ChR2」および「Chop2」は、全長のタンパク質またはその断片を意味する。本発明の好ましい実施形態は、Chop2のアミノ末端の310個のアミノ酸を含み、本明細書中ではChop2−310と呼ばれる。本発明の好ましい実施形態は、ChR2のアミノ末端の310個のアミノ酸を含み、ChR2−310と呼ばれる。ChR2のアミノ末端の310個のアミノ酸は、多くの微生物型のロドプシンの7回膜貫通構造に相同性を示し、光依存性の透過性を有するチャネルを含む。本発明の実施形態では、LACCタンパク質は、7回膜貫通型タンパク質を含む。好ましくは、LACCタンパク質は、レチナールに対する結合親和性を有するかまたはレチナールが結合した7回膜貫通型タンパク質である。
【0040】
好ましい実施形態では、本発明のLACCは、微生物型ロドプシン由来である。好ましい実施形態では、本発明のLACCは、バクテリオロドプシン由来である。
【0041】
本発明の一態様は、LACCタンパク質である単一成分のタンパク質である。本明細書中で使用するとき、単一成分のタンパク質は、アミノ酸の一本の共有結合的に連結された鎖である。複数成分システムは、非共有的に連結された分子間のコミュニケーションを必要とし、立体構造変化を介したタンパク質内のシグナリングよりも遥かに鈍いであろう。いくつかのタンパク質成分を必要とする従来の方法とは異なり、本発明は、単一のタンパク質成分を用いた光依存性の膜透過性をもたらすことを可能にする。理論的にはに結合しないが、ChR2中のレチナールは、微生物型ロドプシンとして、強力に結合し、他の酵素を必要としないでレチナールが暗反応におけるオールトランス基底状態に再異性化するようになると考えられている。この機構は、光が取り除かれた場合に、高速回復(イオンチャネルが閉鎖する)を可能にさせ、オールトランスレチナールの再生成およびチャネルの閉鎖のための他の酵素成分が不必要性とする。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、光活性化陽イオンチャネルであるチャネルロドプシン−2(ChR2)は、遺伝的に、細胞膜に組み込まれている。
【0043】
本発明のLACCタンパク質はまた、Chop2−310のタンパク質配列[配列番号1、図12に示される]も含む。この意味での「タンパク質」は、タンパク質、ポリペプチド、およびペプチドを含む。本明細書中で決定される自然発生の配列をもつアミノ酸変異体もまた本発明のLACCタンパク質に含まれる。好ましくは、該変異体は、Chop2またはChop2−310のタンパク質配列と約75%を超える相同性、より好ましくは約80%を超える相同性、さらにより好ましくは約85%を超える相同性、最も好ましくは90%を超える相同性をもつ。ある実施形態では、相同性は約93〜約95または約98%程の高いものとなる。この状況における相同性は、配列類似性または配列同一性を意味し、同一性が好ましい。この相同性は、当分野において知られる標準的な技術を用いて決定される。本発明の組成物は、本明細書において提供されるタンパク質および核酸配列を含み、提供される配列に対して約50%を超える相同性、提供される配列に対して約55%を超える相同性、提供される配列に対して約60%を超える相同性、提供される配列に対して約65%を超える相同性、提供される配列に対して約70%を超える相同性、提供される配列に対して約75%を超える相同性、提供される配列に対して約80%を超える相同性、提供される配列に対して約85%を超える相同性、提供される配列に対して約90%を超える相同性、または提供される配列に対して約95%を超える相同性の変異体を含む。
【0044】
本発明のLACCタンパク質は、Chop2またはChop2−310のタンパク質配列よりも短くても長くてもよい。したがって、好ましい実施形態では、Chop2タンパク質またはChop2−310タンパク質の配列の一部または断片が、LACCタンパク質の定義に含まれる。さらに、本発明の核酸は、当分野において知られている技術を用いて、追加の翻訳領域、つまり追加のタンパク質配列、を得るために使用することができる。
【0045】
好ましい実施形態では、本発明のLACCタンパク質は、Chop2またはChop2−310と比較して、誘導タンパク質または変異タンパク質である。つまり、本発明の誘導LACCタンパク質は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失または挿入を含み、アミノ酸の置換が特に好ましい。アミノ酸の置換、挿入または挿入は、LACCタンパク質内の任意の残基で起こってもよい。
【0046】
本発明のLACCタンパク質の実施形態には、ChR2、Chop2、ChR2−310、Chop−310または[配列番号1、図12に示される]のアミノ酸配列変異体も含まれる。これらの変異体は、3つの分類:置換、挿入または欠失変異体の1以上に該当する。これらの変異体は、通常、変異をコードするDNAを作製するために、カセット突然変異誘発もしくはPCR突然変異誘発または当分野において知られている他の技術を用いて、LACCタンパク質をコードするDNAにヌクレオチドの部位特異的突然変異誘発し、その後に組換え細胞培養においてDNAを発現させることによって作成される。アミノ酸配列変異体は、変異体の所定の性質、つまり、本発明のLACCタンパク質の自然発生による対立遺伝子変異または種間変異とは別に変異を規定する特性、によって特徴付けられる。該変異体は、典型的には、自然発生による類似体と同じ定性的な生物学的活性を示すが、修飾された特徴を有する誘導体もまた選択され得る。
【0047】
アミノ酸配列の変異を導入するための部位または領域は予定されてはいるが、突然変異そのものは予定されている必要はない。例えば、所定の部位での突然変異の実行を最適化するために、ランダム突然変異誘発が、標的コドンまたは標的領域で実行されてもよく、発現された乳癌変異体は、所望活性の最適な組み合わせを求めてスクリーングされる。既知の配列を有するDNAにおける予定された部位での置換突然変異を作製する技術は周知であり、例えば、M13プライマー突然変異誘発およびPCR突然変異誘発がある。
【0048】
アミノ酸の置換は、典型的には、単一残基の置換であり;挿入は、通常、約1〜20個のアミノ酸の次数であるが、非常に大幅な挿入が容認されてもよい。欠失は、約1〜約20残基の範囲であるが、ある場合には、欠失が非常に大きなものであってもよい。
【0049】
置換、欠失、挿入またはそのいずれかの組み合わせは、最終的な誘導体に達するために用いることができる。一般的には、これらの変化は、分子の改変を最小化するために数個のアミノ酸でなされる。しかしながら、より大きな変化は、ある種の状況では容認され得る。ある実施形態では、本発明のLACCタンパク質の特徴における小さな改変が望まれ、置換は、一般的に、下記の表に従ってなされる。
【0050】
【表1】
【0051】
機能における実質的な変化は、表1に示される置換よりも保存性の低い置換を選択することによって行われる。例えば、アルファヘリックス構造もしくはベータシート構造のような改変する領域におけるポリペプチド骨格の構造、;標的部位での分子の荷電もしくは疎水性;または側鎖の嵩により顕著に影響を与える置換がなされてもよい。一般的に、ポリペプチドの特性に最大の変化を与えると期待がされる置換は、(a)親水性残基、例えば、セリル残基またはスレオニル残基が、疎水性残基、例えば、ロイシル残基、イソロイシル残基、フェニルアラニル残基、バリル残基もしくはアラニル残基に(またはそれによって)置換されるもの;(b)システインもしくはプロリンが任意の他の残基に(またはそれによって)置換されるもの;(c)正電荷の側鎖を有する残基、例えば、リシル残基、アルギニル残基もしくはヒスチジル残基が、負電荷の残基、例えば、グルタミル残基もしくはアスパルチル残基に(またはそれによって)置換されるもの;または(d)嵩の高い側鎖を有する残基、例えば、フェニルアラニンが、側鎖を含まないもの、例えば、グリシンに(またはそれによって)置換されるものである。
【0052】
変異体または誘導体は、典型的には、Chop2、ChR2、Chop−310、またはChR2−310タンパク質と同じ定性的な活性を示すが、変異体または誘導体はまた、必要時にLACCタンパク質の特徴を改変するように選択される。変異体または誘導体は、イオン選択性の増大、安定性、速度、適合性、および毒性の減少を示すことができる。例えば、タンパク質は、野生型ChR2タンパク質の約460nmの波長とは異なった光の波長によって制御可能なように改変することができる。タンパク質は、例えば、約480nm、490nm、500nm、510nm、520nm、530nm、540nm、550nm、560nm、570nm、580nm、または590nmなどのより高い波長で制御可能なように修飾することができる。
【0053】
本発明のLACCタンパク質は、天然アミノ酸と同様に、非天然アミノ酸を組み入れることができる。該非天然アミノ酸は、イオン選択性、安定性、速度、適合性を増大させたり、毒性低くしたりするために使用することができる。
【0054】
本発明の態様は、光活性化陽イオンチャネルタンパク質を含む融合タンパク質である。いくつかのタンパク質の組み合わさった活性を有する単一のタンパク質を作成するように融合タンパク質が作製できることは、当分野において周知である。一実施形態では、融合タンパク質は、Chop2またはChR2を特定の細胞または細胞内の領域を標的とするように用いることができる。
【0055】
LACCタンパク質を含む融合タンパク質の一実施形態は、細胞の細胞内領域を標的とする融合タンパク質である。該融合タンパク質は、例えば、ニューロンの軸索、樹状突起、およびシナプスを標的とすることができる。好ましい実施形態では、PDZ(PSD−95、DlgおよびZO−1)ドメインは、樹状突起を標的とするChR2またはChop2に融合される。別の好ましい実施形態では、軸索起始部(AIS)ドメインは、軸索を標的とするChR2またはChop2に融合する。
【0056】
本発明の他の融合タンパク質は、ChR2の局在化のモニタリングを可能にするために、ChR2および蛍光タンパク質を組み合わせたタンパク質である。好ましい融合タンパク質は、赤色蛍光タンパク質(mCherry)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)および緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むものである。これらの融合タンパク質、例えば、ChR2−mCherry融合タンパク質は、ChR2の独立的な刺激と局在化の同時モニタリングを可能にする。同時刺激および局在化のモニタリングは、哺乳動物系を含む多くの細胞型において実行することができる。
【0057】
光活性化陽イオンチャネルタンパク質が発現される細胞において非毒性である光活性化陽イオンチャネルタンパク質を提供することが本発明の一態様である。好ましくは、本発明の光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、基礎電気特性を乱したりせず、動的電気特性を変化させず、細胞生存の見通しを危うくしたりはしない。好ましくは、本発明の光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、光がない場合での細胞の膜抵抗を変化させたりしない。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルは、細胞におけるアポトーシスを導いたり、濃縮した核の生成を導いたりしない。好ましくは、光がない場合に、LACCタンパク質の存在は、漏洩性のチャネルを介した短絡電流によって、または既存のニューロン入力−出力関係の電位依存性を変化させることによって、電位またはスパイク出力における閾値下の変化のレベルで、細胞の健康状態および持続的な電気活性を変化させない。好ましくは、LACCタンパク質の存在は、該タンパク質を発現するニューロンの電気的特性において、有意な長期間の可塑性の変化および恒常性の変化を引き起こさない。
【0058】
本発明の別の態様は、本発明のLACCタンパク質をコードする核酸配列を提供する。本発明のLACCタンパク質は、種々の核酸によってコードされる得ることは、当業者に理解される。該タンパク質の各アミノ酸は、3個の核酸(コドン)の1以上のセットによって表わされる。多くのアミノ酸は、1以上のコドンによって表わされるため、所定のタンパク質をコードする唯一の核酸配列は存在しない。本発明のLACCタンパク質をコードすることができる核酸が、該タンパク質のアミノ酸配列を知ることによってどのように作製されるのかは、当業者に理解される。ポリペプチドまたはタンパク質をコードする核酸配列は、そのポリペプチドまたはタンパク質の「遺伝子」である。遺伝子は、RNA、DNA、またはポリペプチドまたはタンパク質をコードするであろう他の核酸であり得る。
【0059】
核酸配列の1つの好ましい実施形態は、[配列番号2、図13に示される]を含む。
【0060】
様々な生物におけるコドンシステムは、僅かに異なっていること、および、それゆえに、所定の生物由来の所定のタンパク質の発現が望まれる場合に、核酸配列が該生物内での発現のために修飾され得ること、は当業者に知られている。
【0061】
本発明の一態様は、哺乳動物細胞を用いた発現に最適化されている光活性化陽イオンタンパク質をコードする核酸配列を提供する。好ましい実施形態は、ヒト細胞における発現に最適化されている核酸配列を含む。
【0062】
ヒト細胞を用いた発現に最適化されている光活性化陽イオンタンパク質をコードする核酸配列の好ましい実施形態は、[配列番号3、図14に示される]を含む。
【0063】
本発明の別の態様は、ChR2を含むLACCタンパク質の遺伝的に標的化された発現のための試薬を提供する。遺伝的標的は、特定の細胞型、特定の細胞のサブタイプ、生物内の特定の空間領域、および細胞内の細胞内領域に光活性化陽イオンチャンネルタンパク質を送達するために用いることができる。遺伝的標的はまた、発現される光活性化陽イオンチャネルタンパク質の量、および該発現の時期の調節にも関する。
【0064】
LACCタンパク質の遺伝的に標的化された発現のための試薬の好ましい実施形態は、LACCタンパク質の遺伝子を含有するベクターを含む。
【0065】
本明細書中で使用するとき、用語「ベクター」は、操作的に(operatively)連結された別の核酸を異なる遺伝的環境間で運搬することができる核酸分子を意味する。用語「ベクター」はまた、核酸分子を運搬することができるウイルスまたは生物も意味する。好ましいベクターの一つの類型は、エピソーム、即ち、染色体外複製を可能にする核酸分子である。好ましいベクターは、自律的な複製が可能で、および/またはそれらが連結される核酸を発現することができるものである。操作的に連結された遺伝子を発現させることができるベクターは、本明細書中では「発現ベクター」を意味する。他の好ましいベクターは、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびファージなどのウイルスである。好ましいベクターは、分裂細胞および非分裂細胞の両方においてLACCタンパク質を遺伝的に挿入することができる。好ましいベクターは、インビボまたはインビトロでLACCタンパク質を遺伝的に挿入することができる。
【0066】
原核生物のレプリコンを含むベクターはまた、E.coliなどの細菌性宿主細胞で、LACCタンパク質を発現(転写および翻訳)させることができる原核生物プロモーターを含むこともできる。プロモーターは、RNAポリメラーゼの結合および転写が起こることを可能にするDNA配列によって形成される発現調節エレメントである。細菌性の宿主に適合するプロモーター配列は、典型的には、本発明のDNAセグメントの挿入のための利便性のある制限酵素部位を有するプラスミドベクター中に提供される。このようなベクタープラスミドの典型例は、バイオラッド・ラボラトリー(BioRad Laboratories)(カリフォルニア州リッチモンド(Richmonnd,Calif.))より市販されているpUC8、pUC9、pBR322、およびpBR329であり、ファルマシア(Pharmacia)(ニュージャージー州ピスカタウェイ(Piscataway,N.J.))より市販されているpPLおよびpKK223である。
【0067】
真核細胞に適合する発現ベクターもまた使用することができる。真核細胞の発現ベクターは、当分野において周知であり、いくつかの市販の供給源から利用可能である。典型的には、所望のDNAホモログの挿入のために利便性のある制限酵素部位を含むようなベクターが提供される。このようなベクターの典型例は、pKSV−10(ファルマシア(Pharmacia))、pBPV−1/PML2d(インターナショナル・バイオテクノロジーズ社(International Biotechnologies,Inc.))、およびpTDT1(ATCC,No.31255)である。
【0068】
本発明の発現ベクターの1つの好ましい実施形態は、ChR2遺伝子またはChop2遺伝子およびEF1−アルファプロモーターを含むレンチウイルスである。このレンチウイルスベクターは、安定発現細胞株を作成するために、本発明の一態様で使用される。用語「細胞株」は、本明細書中で使用されるとき、適切な培地を与えられると、増殖し続ける確立した細胞培養物である。
【0069】
本発明の発現ベクターの1つの好ましい実施形態は、ChR2遺伝子またはChop2遺伝子および細胞特異的プロモーターを含むレンチウイルスである。細胞特異的プロモーターの例は、ソマトスタチン、パルブアルブミン、GABAα6、L7、およびカルビンジンに対するプロモーターである。他の細胞特異的プロモーターは、PKC、PKA、およびCaMKIIなどのキナーゼに対するプロモーター;NMDAR1、NMDAR2B、GluR2などの他のリガンド受容体に対するプロモーター;カルシウムチャネル、カリウムチャネル、塩素イオンチャネル、およびナトリウムチャネルを含むイオンチャネルに対するプロモーター;および、古典的な成熟細胞型および分裂細胞型を標識する他のマーカー、例えば、カルレチニン、ネスチン、およびベータ3−チューブリンに対するプロモーターである。
【0070】
別の好ましい実施形態は、単にドキシサイクリンなどの外因性薬物のレベルを変化させることによって、ChR2の遺伝子発現レベルを調節可能にするテトラサイクリンエレメントを含むレンチウイルスである。この方法、または薬物依存性プロモーターの制御下にChR2を置く他の方法は、細胞におけるChR2の遺伝子量の調節を可能にし、所定量の光が電気的活性化、物質放出、または細胞発生に異なる影響を与えるようになる。
【0071】
本発明の一態様は、LACCタンパク質のための遺伝子、および該タンパク質の遺伝的に標的化した発現のためのプロモーターを含む核酸配列である。本発明のLACCの遺伝的に標的化された発現は、プロモーターの選択によって促進することができる。用語「プロモーター」は、本明細書中で使用するとき、特定の遺伝子の転写を可能にする核酸配列である。プロモーターは、通常、転写されるべきDNAの領域の近くに存在する。プロモーターは、通常、RNAポリメラーゼによって認識され、RNAポリメラーゼは、プロモーターの制御下でRNAを作り、その後、該RNAがコードするタンパク質に変換される。適切なプロモーターの使用により、LACCタンパク質の発現レベルが調節され得る。細胞は、特定のタンパク質をどこで、いつ、どれくらい発現させるかを制御するためにプロモーターを使用している。したがって、主に、1つのタイプの細胞、1つのサブタイプの細胞、生物内の所定の空間領域、または細胞内の細胞内領域内で選択的に発現されるプロモーターを選択することによって、LACCの発現調節は、それに応じて調節することが可能である。プロモーターの使用はまた、発現されるLACCの量、発現時期を調節可能でもある。プロモーターは、原核生物プロモーターまたは真核生物プロモーターであり得る。
【0072】
本発明の一実施形態は、LACCタンパク質の遺伝子および汎用プロモーターを含む核酸配列である。汎用プロモーターは、広範囲な細胞型においてLACCタンパク質の発現を可能にする。本発明の汎用的のプロモーターの一例は、EF1−アルファプロモーターである。EF−1アルファ遺伝子は、真核細胞において最も豊富にあるタンパク質の1つであり、ほとんど全ての種類の哺乳細胞において発現される伸長因子−1アルファをコードする。この「ハウスキーピング」遺伝子のプロモーターは、インビボで導入遺伝子の持続的な発現をもたらすことができる。別の好ましい汎用のプロモーターは、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーターであり、それは、非常に高レベルで遺伝子発現させることができる。さらに他の好ましい汎用プロモーターは、CaMKIIプロモーターおよびシナプシンIプロモーター(Dittgenら、PNAS 101:18206−11(2004))を含む。
【0073】
本発明の一実施形態は、LACCタンパク質の遺伝子および細胞特異的プロモーターを含む核酸配列である。細胞特異的プロモーターの例は、ソマトスタチン、パルブアルブミン、GABAα6、L7、およびカルビンジンに対するプロモーターである。他の細胞特異的なプロモーターは、PKC、PKA、およびCaMKIIなどのキナーゼに対するプロモーター;NMDAR1、NMDAR2B、GluR2などの他のリガンド受容体に対するプロモーター;カルシウムチャネル、カリウムチャネル、塩素イオンチャネル、およびナトリウムチャネルを含むイオンチャネルに対するプロモーター;カレニチン、ネスチン、およびベータ3−チューブリンなどの古典的な成熟細胞型および分裂細胞型を標識する他のマーカーに対するプロモーターである。本発明の好ましい実施形態では、核酸は、バクテリア人工染色体(BAC)を含む。
【0074】
本発明の一実施形態は、誘導性プロモーターである。例えば、プロモーターは、外部から投与される薬物に応答するトランス作用因子によって誘導することができる。このプロモーターは、限定されないが、テトラサイクリン−オンもしくはテトラサイクリン−オフ、またはタモキシフェン誘導性Cre−ERであり得る。
【0075】
細胞
本発明の一態様は、LACCタンパク質を発現する細胞であり、具体的には、ChR2またはChop2を発現する細胞である。本発明の別の態様は、他のイオンチャネル、受容体、またはシグナルタンパク質を、正常形態および/または機能不全形態の両方で発現もするLACCタンパク質発現細胞である。本発明の別の態様は、本発明の細胞を市販可能なようにさせるためのビジネス方法である。
【0076】
本発明の細胞は、DNA発現ベクター、ウイルスまたは生物を含むベクターを用いて作製することができる。好ましいベクターは、レンチウイルスおよびレトロウイルスを含む。いくつかの場合には、特に、頑強な細胞株が含まれている場合には、ChR2の発現は、リポフェクション技術、例えば、リポフェクタミンもしくはフュージーンを含有するミセルに細胞株を曝露することによって誘導することができ、その後、安定に発現している細胞株を単離するためにFACSソーティングする。
【0077】
任意の起源の細胞、好ましくは組織培養で増殖可能な細胞は、ChR2またはChop2などのLACCタンパク質を用いたトランスフェクトまたは感染のための候補細胞である。培養で増殖可能な特定の細胞型の非制限的な例には、例えば、線維芽細胞、骨格組織(骨および軟骨)、骨格筋、心筋および平滑筋のような結合組織要素、上皮組織(例えば、肝臓、肺、乳房、皮膚、膀胱および腎臓)、神経系細胞(グリアおよびニューロン)、内分泌細胞(副腎細胞、下垂体細胞、膵島細胞)、骨髄細胞、メラノサイト、および多くの様々な型の造血細胞が挙げられる。適した細胞はまた、対象由来の特定の体内組織を代表する細胞であり得る。体内組織のタイプには、限定されないが、血液、筋肉、神経、脳、心臓、肺、肝臓、膵臓、脾臓、胸腺、食道、胃、腸、腎臓、精巣、卵巣、毛髪、皮膚、骨、乳房、子宮、膀胱、脊髄および多種多様な体液が含まれる。培養細胞は、生体組織(初代培養として知られる)から新鮮に単離され、または初代培養に存在する細胞の増殖および/またはクローニングによって継代培養(細胞株として知られる)され得る。
【0078】
生物の異なる発生段階(胚期または成体期)の細胞、またはより具体的には、外胚葉、内胚葉および中胚葉を含む様々な異なった起源の細胞も適用することができる。本発明において具体化される別のタイプの細胞は、「パーソナル細胞型」であり、それは、ファミリーの個体由来の細胞、または同じ系統内の異なる世代由来の個体由来の細胞を含む。
【0079】
特に関心が深いのは、特定の疾患もしくは特定の疾患段階と関連する細胞、自然状態および誘導免疫不全状態、心疾患、神経疾患、炎症状態、および多種の病原体によって引き起こされる疾患由来の細胞である。特定の疾患または疾患段階との関連性は、例えば、細胞周期制御、細胞分化、アポトーシス、ケモタクシス、細胞運動性および細胞骨格再編成のような、1以上の生物学的なプロセスにおける細胞の異常な挙動によって確かめることが可能である。疾患細胞はまた、対象とする疾患を引き起こす病原体(例えば、AIDSに関するHIVおよびB型肝炎に関するHBV)の存在によって確認することができる。
【0080】
好ましい細胞は、哺乳動物細胞、および哺乳動物細胞由来の細胞株である。他の好ましい細胞は、胚性幹細胞および成体幹細胞であり、造血幹細胞、骨髄、神経幹細胞、上皮幹細胞、皮膚幹細胞が含まれる。ChR2発現に適した好ましい細胞株は、HEK細胞、神経幹細胞株、膵島細胞株、および他の興奮性細胞または分泌性細胞を含む。
【0081】
LACCタンパク質は、光によって活性化されると、膜内の他のイオンチャネルタンパク質の活性化も引き起こすことができる。このようにして、本発明の態様は、LACCタンパク質およびLACCタンパク質によって活性化され得る他のイオンチャネルまたはイオンチャネルのスプライスバリアントの両方を有する細胞である。イオンチャネルの例には、限定されないが、神経および筋肉のナトリウム電位依存性チャネルおよびカリウム電位依存性チャネルなどの電位依存性チャネル;アセチルコリン受容体などのリガンド依存性チャネル、AMPA受容体および他の神経伝達物質依存性チャネル;カルシウム活性化チャネルなどの環状ヌクレオチド依存性チャネル;HERGチャネルなどの心臓イオンチャネル;機械受容チャネル;Gタンパク質依存性チャネル;内向き整流性Kチャネル;静止チャネル;カルシウム放出活性化チャネルカルシウム(CRAC)などのストア作動性チャネル;ならびに、他のカルシウムチャネル、他のカリウムおよびナトリウムチャネルが含まれる。1以上のイオンチャネルタンパク質は、人工的であり得て、LACCタンパク質を含有する細胞において発現されるように標的とされることができる。
【0082】
本発明の好ましい実施形態は、活性化され、制御され得るLACCタンパク質、および1以上のイオンチャネルタンパク質を含み、その挙動を理解することができる細胞である。本発明の別の好ましい実施形態は、下記に詳述されるイオンチャンネル修飾因子をスクリーニングするために活性化され、制御され得るLACCタンパク質、および1以上のイオンチャネルタンパク質を含む細胞である。本発明の別の好ましい実施形態は、下記に詳述される化合物の副作用をスクリーニングするために活性化され、調節され得るLACCタンパク質、および1以上の心臓イオンチャネル(例えば、HERGチャネル)を含む細胞である。別の好ましい実施形態は、本明細書中に記載される方法によって活性化することができるLACCタンパク質、および1以上のイオンチャネルタンパク質を含む細胞を含む、下記に記載される製造品である。
【0083】
LACCタンパク質を発現する好ましい細胞、具体的にはChR2またはChop2を発現する細胞は、哺乳動物細胞である。
【0084】
本発明の一態様は、LACCタンパク質を発現する細胞株、具体的にはChR2またはChop2を発現する細胞株である。本発明の細胞株は、DNA発現ベクター、ウイルスまたは生物を含むベクターを用いて作成することができる。好ましいベクターは、レンチウイルスまたはレトロウイルスを含む。ある場合では、特に、頑強な細胞株が含まれている場合は、ChR2の発現は、リポフェクション技術、例えば、リポフェクタミンもしくはフュージーンを含有するミセルに細胞株を晒すことによって誘導することができ、その後、安定に発現している細胞株を単離するためにFACSソーティングする。好ましい細胞株は、上述される哺乳動物細胞株である。好ましい細胞株は、神経細胞株または他の興奮性細胞株である。ChR2発現に適した好ましい細胞株は、HEK細胞、神経幹細胞株、膵島細胞株、および他の興奮性細胞または分泌性細胞を含む。
【0085】
本発明の好ましい細胞株は、EF1−アルファプロモーター下でChR2を発現するクローン神経幹細胞である。このような細胞株は、薬物、特に、神経発生、発達、およびアポトーシスにおける電気的活性に影響を与える薬物のスクリーニングに有用である。
【0086】
本発明の別の好ましい細胞株は、EF1−アルファプロモーター下でChR2を発現する海馬ニューロンの細胞株である。このような細胞株は、薬物のインビトロスクリーニングに有用で、インビボで光を用いてニューロンを調節するためのモデルとして有用ある。
【0087】
本発明の実施形態は、下記に記載される、例えば、インスリン、成長ホルモン、または他の小分子もしくはポリペプチドのような物質を放出する移植可能な、光学的に活性化可能な細胞に基づいた治療を提供する幹細胞株である。本発明による物質の放出制御は、秒〜分の時間単位でなすことができ、特に糖尿病または成長遅延のような状態に対して、薬物投薬の正確な管理を可能にする。
【0088】
本発明の細胞は、固相基質上に固着された単層として、または懸濁培養液中に凝集体として増殖させることができる。基質の選択は、主に、細胞の型および所望の増殖パラメータ(例えば、増殖速度、所望の密度、培地要件など)によって決定される。大部分の細胞は、例えば、ガラス、プラスチックまたはセラミック材料で作られた基質上で増殖可能である。ニューロン、上皮細胞および筋肉細胞のようなある種の細胞型には、細胞接着および伸展を高める電荷を帯びた物質で予め被覆された基質が好ましい。通常使用される被覆材料は、正味の正電荷を有する生物学的基質を含む。生物学的基質の非制限的な例は、細胞外マトリックス/接着タンパク質、例えば、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン、またはポリリジンなどの合成ポリペプチドを含む。様々な非生物学的基質、例えば、ニトロセルロースで作られた膜、ナイロンで作られた膜、ポリテトラフルオロエチレンで作られた膜、または任意の他の移植材料はまた、細胞型に従って適した培地中で細胞の増殖を支持するために用いることもできる。
【0089】
異なる基質上で培養した細胞を回収する場合に、膜の完全性を維持し、細胞膜成分を保存するために通常、予防策がとられる。本発明の方法は、セリンプロテアーゼ、トリプシンなどのタンパク質分解酵素を含む、固着された細胞または細胞層を分離する伝統的な方法の使用を意図する。さらに、本発明の細胞は、細胞表面抗原への損傷を最小にする薬物によって、培養基質から取り出すことができる。これらの薬物は、EDTAおよびEGTAなどのキレート剤を含み、それらは、細胞−基質間接着に必要であることが知られている二価金属イオン(例えば、カルシウムおよびマグネシウム)に結合する。他の適した細胞解離剤は、セリンプロテアーゼインヒビター(例えば、ダイズトリプシンインヒビター)と同時に使用される場合はコラゲナーゼ、ディスパーゼ、中性プロテアーゼを包含する。これらの薬物を用いての細胞の処理は、一般に、細胞表面タンパク質を保存しながら、細胞外マトリックス成分の崩壊をもたらす。固体基質に固着された細胞を脱離させるのに必要な時間は、選択されるプロテアーゼ酵素に依存して変化し得るが、しかし、通常は、約1分〜30分、好ましくは約5分〜15分の時間であろう。酵素処理は、室温または約37℃で行うことができる。過剰な酵素は、当業者によって日常的に調製される生理学的な範囲のpHおよび塩濃度を有するバッファーを用いて穏やかに洗浄することによって除去することができる。
【0090】
細胞の生存率は、膜の完全性の測定によって確かめることが可能である。膜の完全性を評価する方法は、当分野において知られている。最も一般的な測定法は、生細胞または死細胞のいずれかと反応する色素を用いて細胞を染色することを含む。当業者に明確であるように、典型的な色素には、トリパンブルー、エオシンY、ナフタレンブラック、ニグロシン、エリスロシンBおよびファストグリーンが含まれる。
【0091】
トランスジェニック動物
本発明の一態様は、LACCタンパク質を発現するトランスジェニック動物である。好ましい実施形態は、Chop2またはChR2を発現するトランスジェニック動物である。特定のサブセットのニューロンにおけるLACCタンパク質の発現は、回路機能、行動、可塑性、および精神疾患の動物モデルを分析するために用いることができる。
【0092】
LACCタンパク質を発現する本発明の好ましいトランスジェニック動物種は、ゼブラフィッシュ(ダニオ・レリオ(Danio rerio))を含む。ゼブラフィッシュでは、LACCタンパク質は、数百細胞期での迅速注入によって魚の胚に導入することができる。
【0093】
LACCタンパク質を発現する本発明の別の好ましいトランスジェニック動物種は、ハエ(キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster))である。好ましい一実施形態では、ハエは、GAL4−UASシステムで使用するためのUASプロモーター下でChR2を発現する。LACCタンパク質を発現する本発明の別の好ましいトランスジェニック動物種は、ぜん虫(worm)(エレガンス線虫(Caenorhabditis elegans))である。好ましい一実施形態では、安定な系統は、生殖腺内に特定のプロモーター下にChR2を含有するプラスミドの注入によって作製される。
【0094】
LACCタンパク質を発現する本発明の別の好ましいトランスジェニック動物種は、マウスである。好ましい一実施形態では、LACCタンパク質を発現するマウスは、BAC(バクテリア人工染色体)トランスジェニック技術、並びに位置効果多様化技術を用いて作製される。
【0095】
LACCタンパク質を発現する本発明のトランスジェニック動物の好ましい一実施形態は、動機付け行動の制御および精密に調整された運動パターンを生じるのに重要であるセロトニン作動性ニューロンおよびドーパミン作動性ニューロンにおいて、ChR2が発現されるショウジョウバエである。
【0096】
LACCタンパク質を発現する本発明のトランスジェニック動物の好ましい一実施形態は、動機付け行動の制御および精密に調整された運動パターンを生じるのに重要であるセロトニン作動性ニューロンおよびドーパミン作動性ニューロンにおいて、ChR2が発現されるエレガンス線虫である。
【0097】
本発明の別の好ましい実施形態は、LACCが特定のプロモーターの下で発現されるトランスジェニック動物である。本発明の別の好ましい実施形態は、トランスジェニック動物において発現されるLACCがBACを介して導入されるトランスジェニック動物である。本発明の別の好ましい実施形態は、LACC遺伝子が既知の遺伝子座に組み込まれているトランスジェニック動物である。
【0098】
チャネル特性
本発明では、電気的スパイク、または活動電位は、光の照射により膜を横切ってもたらされる。光は、キセノンランプなどの光源によって提供することができ、または光源はレーザーであり得る。レーザーが使用することができる一方で、当業者は、光の強度が高すぎると、局所加熱などにより照射している細胞を損傷し得ることを理解するであろう。細胞を損傷しない光強度を用いることが好ましい。本発明の好ましい実施形態では、イオンチャネルを活性化するために中程度の強度である光が使用される。光の好ましいレベルは、約0.1mW/mm2〜約500mW/mm2、好ましくは約1mW/mm2〜約100mW/mm2、最も好ましくは約5mW/mm2〜約50mW/mm2である。好ましい実施形態では、LACCタンパク質は、ChR2であり、照射光の波長は、約400nm〜約600nm、好ましくは約450nm〜約550nm、最も好ましくは約450nm〜約490nmである。
【0099】
本発明に従って、本発明の光活性化陽イオンチャネルは、ニューロンに導入され、光の急速なパルスで照射されると、ミリ秒単位のスパイクを発生することができることが発見された。
【0100】
本発明の一態様は、興奮性細胞において発現され、ミリ秒の時間枠で作動する光活性化陽イオンチャネルである。好ましい実施形態では、LACCは、100ミリ秒(ms)内、より好ましくは10ms内、さらにより好ましくは1ms内、最も好ましくは0.1ms内で応答する。本発明の好ましい実施形態は、ニューロンまたは他の興奮性細胞において発現されるChR2である。
【0101】
本発明に従って、本発明のLACCを発現する細胞は、ミリ秒の時間枠でスパイクを確実に発生するであろうこともまた発見された。
【0102】
興奮性細胞において発現され、ミリ秒の時間枠で作動するであろう光活性化陽イオンチャネルの好ましい実施形態では、該興奮性細胞は、照射10ms未満、好ましくは5ms未満、最も好ましくは1ms以内に応答する。
【0103】
本発明の一態様は、長期間にわたって、安定な光電流を提供する細胞膜において発現されるLACCタンパク質である。好ましい実施形態では、LACCタンパク質は、ChR2であり、光電流は、一時間の照射にわたって20%を超えて変化せず、好ましくは10%を超えて変化せず、最も好ましくは一時間の照射にわたってで検出可能に変化しない。
【0104】
本発明の一態様は、低い一過性微小振動を伴う正確に時間調節されたスパイクを提供する、細胞膜において発現されるLACCタンパク質である。一過性微小振動は、ニューロン内で測定される場合、好ましくは10msより低く、より好ましくは5ms未満、最も好ましくは3msより低い。
【0105】
本発明の一態様は、ニューロン間で低い一過性微小振動を提供する、細胞膜において発現されるLACCタンパク質である。ニューロン間の低い一過性微小振動は、ニューロンの不均一な集団が協調して調節されることを可能とするため望ましい。好ましくは、ニューロン間の低い一過性微小振動はまた、10ms未満、より好ましくは5ms未満、最も好ましくは3msより低い。好ましくは、ニューロン間微小振動は、ニューロン内微小振動の50%内であり、より好ましくは、ニューロン間微小振動は、ニューロン内微小振動の20%内であり、最も好ましくは、ニューロン内微小振動はニューロン間微小振動から区別できない。
【0106】
本発明の一態様は、確実性があって正確に時間調節される閾値下のパルスを提供する、膜において発現されるLACCタンパク質である。
【0107】
本発明の光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する細胞は、繰り返しの光パルスによって誘起される閾値下の偏りにおける試行ごとの変動性が小さいことが発見された。したがって、ChR2などの本発明の光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、正確に測定された振幅で確実に時間調整される閾値下の脱分極を制御するために使用され得る。
【0108】
本発明の態様は、繰り返し可能な閾値下の分極を有する膜において発現されるLACCタンパク質である。本発明の好ましい実施形態では、膜において発現されるLACCタンパク質は、5回の連続パルスで測定される場合に0.2未満の変動係数を有する閾値下のパルスを生成し、より好ましくは変動係数は、5回の連続パルスで測定される場合に0.15未満であり、最も好ましくは変動係数は、5回の連続パルスで測定される場合に0.10未満である。
【0109】
本発明は、細胞内でLACCタンパク質を発現し、光で該タンパク質を活性化することによって細胞特性の光調節を可能にする。本発明は、興奮性細胞の光調節を可能にする。調節の一つの様式は、ニューロンの調節およびニューロン間のシグナル伝達の調節などのプロセスに対する細胞膜の電気的特性の調節である。調節の別の様式は、Ca2+を含むイオンの流入の調節である。Ca2+の流入の調節は、数千の細胞プロセスに影響を与えることが知られている。興奮性細胞の特性の光調節は、インビボまたはインビトロで実行することができ、生物学的プロセスの理解、創薬、および治療用途のために用いることができる。
【0110】
本発明によって提供される調節の別の様式は、細胞にタンパク質、ペプチド、または小分子の放出をもたらすためにLACCタンパク質の活性化を利用することである。本発明の一実施形態では、LACCタンパク質の光活性化を通じて、細胞は、サイトカインなどのタンパク質の放出を引き起こされ得る。本発明の一実施形態では、ChR2の光活性化を通じて、細胞は、インスリン、レプチン、ニューロペプチドY、サブスタンスP、ヒト成長ホルモン、セクレチン、グルカゴン、エンドルフィン、オキシトシン、バソプレッシン、またはオレキシン/ヒポクレチンなどのペプチドの放出を引き起こされ得る。別の実施形態では、LACCタンパク質の活性化は、その合成または放出が電気的活性に依存している、一酸化窒素、あるいは、アナンダミドや2−アラキドノイルグリセロール(2−AG)などのカンナビノイドのような小分子の放出を引き起こすことができる。
【0111】
本発明はまた、物質の放出を超えて細胞活性の調節を可能にする。例えば、筋細胞において発現されるLACCは、筋細胞収縮の光調節を可能にする。この筋細胞の光収縮、特に他の筋細胞の存在下での特定の筋細胞の収縮は、治療目的、または筋収縮の光調節に用いることができる。
【0112】
本発明によって提供される調節は、特定の細胞内シグナル伝導経路を開始することも含まれる。これらの経路は、限定されないが、キナーゼ、転写因子、およびセカンドメッセンジャーシステムを含む。これらの経路は、使用される光の特定の時間的パターンにより、本発明によって特異的に活性化され得る。この経路はまた、LACCの特異的な細胞内局在により特異的に活性化され得る。
【0113】
本発明の態様は、細胞にLACCタンパク質を発現させるようにすること;LACCタンパク質を活性化するために細胞に光を照射することを含む細胞を光学的に調節する方法である。
【0114】
光学的に細胞特性を調節する方法の好ましい実施形態は、LACCタンパク質がChR2である方法である。
【0115】
細胞特性を光学的に調節する方法の別の好ましい実施形態は、細胞がニューロンまたは他の興奮性細胞である方法である。ニューロンは、他の神経細胞に連結することができ、神経ネットワークであり得る。
【0116】
細胞特性を光学的に調節する方法の別の好ましい実施形態は、細胞が空間的にまたは遺伝的に標的化された細胞のサブセットである方法であり、それらの細胞は、本発明のLACCタンパク質を発現し、特異的に活性化され得る。
【0117】
細胞特性を調節する方法の別の好ましい実施形態は、LACCの活性化がまた細胞内で他のイオンチャネルを調節する方法を含む。例えば、細胞は、LACC、および人工タンパク質であってもよい1以上の他のイオンチャネルタンパク質を発現され得る。LACC活性化は、その上、細胞内の他のイオンチャネルタンパク質を活性化または不活性化するために用いることができる。一実施形態では、LACCを発現する細胞は、細胞の他のイオンチャネルを不活性化するのに十分なほど細胞膜を脱分極するために光で照射され得る。
【0118】
本発明の一態様は、光を用いて細胞分化を制御する方法である。LACCタンパク質は、細胞運命が活性に依存する分化細胞を選択的に標的化するために用いることができる。例えば、ChR2は、前駆細胞または細胞株に送達され得て、次に、光は、適切な子孫への細胞分化を制御するために用いることができる。
【0119】
本発明に従って、急速な光パルスが暗期に続くパルス中で光照射が与えられる場合に、本発明の光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する細胞が、ミリ秒の時間枠のスパイクを確実に発生するであろうことを発見した。
【0120】
細胞特性を光学的に調節する方法の好ましい実施形態は、明期が、0.1ms〜100ms、好ましくは1ms〜50ms、最も好ましくは5ms〜20msで、暗期が、1msより長く、好ましくは10msより長く、最も好ましくは20msより長い、一連の光パルスでLACCタンパク質を有する細胞を照射することを含む方法である。暗期は、必要に応じて長くすることができ、秒から分より長い時間であり得る。
【0121】
本発明の細胞特性を光学的に調節する方法は、完全な状態の神経回路における因果機能をプローブする能力をもたらし、学習、感動、運動協調性、および感覚処理の動物モデルにおける特定のニューロンの役割を調べることができるようになる。これは、複雑な神経疾患および精神疾患の取り組みに重要である、回路全体の機能を調節することができる薬物の発見を可能にするであろう。最初は、動物内の遺伝的に標的化されたニューロンは、正常であろうと機能不全であろうと、観察される行動機能または回路動態機能を仲介する神経情報を調べるのに適した時間尺度の光によって処理可能である。
【0122】
本発明によって可能にされるニューロンにおける電気信号のミリ秒単位の調節は、シナプス事象を調節する能力をもたらす。シナプス伝達を誘発する容易さは、ChR2を含む本発明のLACCタンパク質が、神経回路の時間的に正確な解析のための理想的ツールとなることを可能にする。
【0123】
本発明の別の態様は、シナプス事象を引き起こすための光の使用である。ニューロン内で発現される本発明のLACCタンパク質は、該ニューロン内で電気的シグナルを生じるように光によって活性化され得る。該電気的シグナルは、該シグナルがシナプス事象を誘発することができる場所であるシナプスに、ニューロンに沿って伝播し得る。シナプス事象は電気的シナプス事象もしくは化学的シナプス事象であり得る。好ましい実施形態では、シナプス事象は、細胞機能を調節することができる小分子を放出する。好ましい実施形態では、シナプス事象は、ノルエピネフリン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリン、D−セリン、またはヒスタミンなどの小分子神経調節物質の放出を含む。シナプス事象は、2つのニューロン間でのシナプス伝達をもたらすことができる。したがって、本発明は、一連のニューロン間の光学的に制御された情報交換を提供し、連結した神経ネットワークを通じた光学的に制御された活性を提供する。
【0124】
シナプス事象を生じるための光の使用に関する好ましい実施形態は、第一のニューロンにおいてChR2を発現し、シナプス事象を引き起こすスパイクを生じるためにChR2を活性化する光のパルスを用いて該ニューロンを照射することを含む。シナプス事象を引き起こすための光の使用は、インビトロまたはインビボで実行することができる。
【0125】
シナプスイ事象を引き起こすための光の使用に関する別の好ましい実施形態は、第一ニューロンおよび第二のニューロンとのシナプス結合部においてChR2を発現し、スパイクを生じるように第一のニューロンを照射することを含み、ここで、スパイクは、第一のニューロンと第二のニューロンとの間のシナプスでシナプス事象をもたらし、第二のニューロンは、第一のニューロンからのシグナルにより、興奮するかまたは抑制され、したがって、結果として、第一のニューロンと第二のニューロンとの間のシナプス伝達に至る。
【0126】
シナプス事象を引き起こすための光の使用に関する別の好ましい実施形態は、特定のニューロン、特定のニューロンサブセット、または特定のニューロンサブタイプに本発明のLACCタンパク質を送達するように標的化されたベクターを用いることを含む。標的化された送達は、検体の異なる空間領域への特異的な空間的標的化となり得て、および/または分子的に限定されたクラスまたはサブクラスのニューロンへの化学的標的となり得る。
【0127】
LACCの標的化送達
本発明の態様は、特定の細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質を標的化送達する方法であり、この細胞をLACCタンパク質および細胞特異的プロモーターに対する核酸配列を含むベクターと接触させることを含み、ここで、前記特定の細胞は、LACCタンパク質を発現する。
【0128】
特定の細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質を標的化送達する方法の好ましい実施形態は、ベクターがChop2またはChR2をコードする核酸配列および細胞特異的プロモーターを含む方法を含む。好ましい細胞特異的プロモーターは、ソマトスタチン、パルブアルブミン、GABAα6、L7、およびカルビンジンに対するプロモーターである。他の細胞特異的プロモーターは、PKC、PKA、およびCaMKIIなどのキナーゼに対するプロモーター;NMDAR1、NMDAR2B、GluR2などの他のリガンド受容体に対するプロモーター;カルシウムチャネル、カリウムチャネル、塩素イオンチャネル、およびナトリウムチャネルなどのイオンチャネルに対するプロモーター;および、カルレチニン、ネスチン、およびベータ3−チューブリンなどの古典的的な成熟細胞型および分裂細胞型を標識する他のマーカーに対するプロモーターである。
【0129】
特定の細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質を標的化送達する方法の好ましい実施形態は、ベクターがレンチウイルスまたはレトロウイルスである方法を含む。
【0130】
本発明の態様は、特定の細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質を標的送達させる方法であって、細胞をLACCタンパク質を含む核酸配列を含むベクターと接触させることを含み、前記ベクターは特定の細胞を選択的に標的化する。好ましいベクターは、レンチウイルスおよびレトロウイルスである。
【0131】
治療法
本発明の別の態様は、LACCタンパク質を含むベクターを対象内の興奮性細胞に送達し、光のパルスで前記細胞に照射することを含む、対象を治療する方法である。
【0132】
対象を治療する方法の好ましい実施形態は、ヒトへの治療作用を実施することを含み、ここで、細胞の機能は、ChR2などのLACCタンパク質の遺伝的付加によって救済または調節され、物理的に送達される光のパルス、好ましくは青色光の使用を伴う。ウイルスベクターを介して、ヒト患者にChR2などのLACCタンパク質を送達することは、装着型光学装置(長期間刺激のために)からの青色光、または固定された光学ステーション(より臨時の刺激のために)での青色光による興奮性細胞の調節を可能にする。例えば、ChR2を発現するようにウイルスで形質導入された皮膚痛覚抑制神経のような末梢神経は、有痛性のC繊維の応答を抑制するために、光刺激が脊柱後柱−内側毛帯ニューロンを活性化することを可能にする。修飾されたヘルペスウイルスは、疼痛経路ニューロンにイオンチャネルを送達するように用いられ得ることが示されていて、本明細書中では、疼痛経路ニューロンへの該チャネルの標的化のために、および疼痛知覚の減少のためにChR2を用いて使用することができる。同様に、桿体または錐体の喪失(例えば、網膜色素変性症または黄斑変性症における)を有する患者は、網膜神経節細胞でChR2などのLACCタンパク質を発現するようにウイルスにより形質導入され得、視覚認知を媒介する経路における光の伝達を回復させる。例えば、微生物型ロドプシンである、チャネルロドプシン−2(ChR2)の長期間の発現は、アデノ随伴ウイルスベクターによる送達を用いて、インビボでげっ歯類の網膜内ニューロンにおいて達成することができることが示されてきた。光受容体の変性を有するマウスの残存している網膜内ニューロンにおけるChR2の発現は、光シグナルをコード化し、その光シグナルを視覚野に伝達する網膜の能力を回復することができることが示された(Biら、Neuron 50,23−33(2006))。したがって、ChR2の発現に基づくストラテジーは、網膜変性疾患に適している。別の例では、自己抗原を有する細胞を攻撃する、ChR2を発現するTリンパ球は、照射が十分なCa2+流入を引き起こす場合、アポトーシスを引き起こすように誘導されることが可能である;これは、光学照射装置を通過する血液でエクスビボでなされ得る。
【0133】
一実施形態では、患者におけるLACCタンパク質発現細胞を興奮させるために使用される光学装置は、発光ダイオード(LED)である。LEDは、大きさにしてミリメートルまたはナノメートルであり得る。1つの非制限的な例には、SML0805−B1K−TR LEDtronicsが含まれる。LEDは、電池式、または当分野において知られている方法によってRFによる遠隔的な動力であることができる。LEDはまた、ゴワナ・エレクトロニクス(Gowana Electronics)ニューヨーク州(NY)のCF1008−682Kなどの68マイクロヘンリーの表面実装フェライトコアインダクターに連結することもできる。一実施形態では、装着可能な光学装置は、非ワイヤレス式に非侵襲的に活性化することができる。
【0134】
本明細書中に提供される方法および組成物は、うつ病患者に有益な効果を与えることが可能である。好ましくは、うつ病患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の前側帯状皮質および/または下位の帯状皮質におよび内包前脚にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0135】
本明細書中に提供される方法および組成物はまた、慢性疼痛患者に有利な効果を与えることも可能である。好ましくは、慢性疼痛患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の前側帯状皮質および/または背側帯状皮質にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0136】
同様に、本明細書中に提供される方法および組成物は、肥満患者に有益な効果を与えることが可能である。好ましくは、肥満患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の視床腹内側核にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0137】
同様に、本明細書中に提供される方法および組成物は、強迫性障害(OCD)患者に有益な効果を与えることができる。好ましくは、OCD患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の視床の視床下核内包前脚にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0138】
同様に、本明細書中に提供される方法および組成物は、中毒患者に有益な効果を与えることができる。好ましくは、中毒患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の側坐核および中隔野にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0139】
同様に、本明細書中に提供される方法および組成物は、アルツハイマー患者に有益な効果を与えることができる。好ましくは、アルツハイマー患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の海馬にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0140】
同様に、本明細書中に提供される方法および組成物は、パーキンソン患者に有益な効果を与えることができる。好ましくは、パーキンソン患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の視床下核および/または淡蒼球にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0141】
ChR2などのLACCを用いてヒトの治療のための別の経路は、患者における移植のためにLACCタンパク質発現分泌細胞(例えば、免疫応答を避けるためにナノカプセル化される)を創作することであり、その分泌は、物理的に送達される光のパルスの使用によって該細胞において刺激される。例えば、甲状腺ホルモン(例えば、T4、TRHなど)を放出するChR2発現神経内分泌細胞は、皮下に移植することができ、数ヶ月から数年の単位で制御されたペプチドの放出を可能にする。連続した光のフラッシュは、このような神経内分泌物質の制御された放出を可能にし、ストレス、生殖、代謝、および睡眠の調節を可能にする。同様に、LACCタンパク質を発現する膵島細胞は、光で刺激されると、インスリンを放出させることができる;移植された細胞は、ポンプ移植または他の侵襲的治療を必要とせずに、分単位での糖尿病症状の調節を可能にする。
【0142】
一実施形態では、LACCタンパク質発現細胞は、患者に移植する前にカプセル化される。この細胞は、マクロカプセル化またはナノカプセル化され得る。カプセルの例には、限定されないが、半透膜、中空繊維、ビーズおよび平面拡散デバイスが含まれる。例えば、半透膜へのドーパミン分泌細胞のカプセル化は、免疫系による移植細胞の拒絶反応を避けるために検討されてきた(Emerichら、Neurosci Biobehav Rev 16,437−447)。高分子膜の選択的透過性は、グルコース、酸素および他の必須栄養素を含む低分子量化合物の双方向性アクセス、およびドーパミンの外部拡散を可能にする。膜は、宿主免疫系の要素の通過を制限し、それにより、カプセル化された細胞の宿主拒絶反応を妨げる。例えば、カプセル化された、ラット褐色細胞腫由来のカテコールアミン作動性細胞株であるPC12細胞は、サルおよび成熟モルモットの線条体内に移植することができる(Dateら、Cell Transplant 9,705−709、Aebischerら、Exp Neurol.111,269−275)。さらに、中空繊維、マクロビーズ、または平面拡散デバイス内にカプセル化された膵島またはインスリン産生細胞の異種移植は、マウスおよびラットにおいて高血糖を覆すことができることが示されている(Tatarkiewiczら、Transplantation 67(5)665−671)。
【0143】
別の実施形態では、LACCタンパク質発現細胞は、移植前にカプセル中で生成することができる。例えば、ES細胞は、i)ドーパミン産生ニューロンに分化し、ii)上述したLACCを含有する核酸をトランスフェクトされ、および、iii)患者に移植する前にカプセル中で増殖することができる。ドーパミン作動性ニューロンは、頭蓋骨骨髄由来の間質細胞であるPA6細胞からの馴化培地を用いて、中空繊維に封入されたマウス由来のES細胞から誘導することができることが示されている(Yamazoeら、Biomaterials 27(2006)4871−4880)。これらの研究では、β−チューブリンIII型陽性細胞およびチロシンヒドロキシラーゼ陽性細胞は、培養16日後に中空繊維中に効果的に誘導され、細胞を含有する中空繊維は、ニューロンの脱分極によるドーパミン放出を誘導するように15分間、56mM KClに晒した場合にドーパミン放出が観察された。
【0144】
別の実施形態では、ドーパミンを分泌することができる分化したLACCタンパク質発現幹細胞は、患者の脳に直接移植され、次に、光を用いてそれらの活性化を制御するであろう。ドーパミン分泌細胞は、分化段階の前または後で、ChR2などのLACCタンパク質で本明細書中に記載されるようにトランスフェクトされるかまたは感染されることができ、次に、これらの細胞は、患者の脳に移植することができる。その後、LACCタンパク質発現幹細胞は、末端に光ファイバー接続した発光ダイオードまたはレーザーなどの光学装置によって活性化される。該細胞は光応答性であるので、それらは、遠隔的に光で刺激されるだけで、組織内の深いところでさえもドーパミンを放出するであろう。
【0145】
別の実施形態では、LACCタンパク質発現分泌細胞は、患者の組織または臓器に移植される。分泌細胞は、ChR2などのLACCタンパク質を用いて、本明細書中に記載されるようにトランスフェクトされるかまたは感染され、次に、これらの細胞は、患者の組織または臓器に移植される。その後、LACCタンパク質発現分泌細胞は、末端に光学ファイバーを接続した発光ダイオードまたはレーザーなどの光学装置によって活性化される。図10は、本明細書中に記載される方法の一実施形態を図示し、ここで、ChR2を発現する細胞(トランスフェクションまたは感染により)は、光のパルスによる物質の放出の制御を可能にする。
【0146】
LACCタンパク質発現分泌細胞で移植され得る組織または臓器の例には、限定されないが、上皮、結合組織、結合組織、神経組織、心臓、肺、脳、目、胃、脾臓、膵臓、腎臓、肝臓、腸、皮膚、子宮、および膀胱が含まれる。
【0147】
本明細書中の記載される方法によって患者の組織または臓器に分泌することができる化合物の例には、限定されないが、インスリン、成長ホルモン、速効性神経伝達物質、ドーパミン、サイトカイン、ケモカイン、ホルモンおよびホルモンアンタゴニスト、下垂体ホルモンおよび下垂体ホルモンの視床下部放出因子、甲状腺剤および抗甲状腺剤、エストロゲンおよびプロゲスチン、アンドロゲン、副腎皮質刺激ホルモン;副腎皮質ステロイドおよびそれらの合成類似体;副腎皮質ホルモンの合成および作用の阻害剤、インスリン、経口血糖降下薬、および膵臓内分泌部の薬理学、石灰化および骨の代謝回転に影響する薬物:カルシウム、リン酸塩、副甲状腺ホルモン、ビタミンD、カルシトニン、例えば、水溶性ビタミン、ビタミンB複合体、アスコルビン酸、脂溶性ビタミン、ビタミンA、K、およびE、などのビタミン、増殖因子、ムスカリン受容体アゴニストおよびムスカリン受容体アンタゴニスト;抗コリンエステラーゼ剤;神経筋接合部で作用する薬物および/または自律神経節で作用する薬物;カテコールアミン、交感神経作動薬、およびアドレナリン受容体アゴニストまたはアドレナリン受容体アンタゴニスト;および、5−ヒドロキシトリプタミン(5−HT、セロトニン)受容体アゴニストおよび5−HTアンタゴニストが含まれる。
【0148】
一実施形態では、LACCタンパク質発現分泌細胞は、糖尿病患者の皮膚に移植される。次に、LACCタンパク質発現分泌細胞は、末端に光学ファイバーを接続した発光ダイオードまたはレーザーなどの光学装置によってインスリンを分泌するように誘導される。
【0149】
ChR2などのLACCタンパク質は、興奮性細胞からの一時的で非侵襲的な物質放出の制御を可能にする。電気的活性、Ca2+、および異なる化合物の分泌は、事実上、数千の細胞プロセスに影響を与えることができることは明確である。したがって、インビボでChR2などのLACCタンパク質の一般的な応用領域は、多様なシステムにおける多くの生物学的疾患プロセスにわたる調節を可能にし得る。
【0150】
生物または細胞の調節
本発明の別の態様は、生物の行動を調節する方法であって、生物内の興奮性細胞にLACCタンパク質を含むベクターを送達し、生物の行動を調節するために光のパルスで該細胞を照射することを含む。
【0151】
本発明の別の態様は、細胞の運命を調節するために、本明細書中に記載される方法の使用を含む。本明細書中に記載される技術は、電気的活性によって調節される細胞の活性を調節するために用いられる。この方法は、細胞の生存、複製、分化、および/または死を調節するために用いることができる。チャネルロドプシンは、チャネルロドプシンの活性化を制御するために用いられる正確なパターンの刺激に依存して、これらのプロセスのいずれか1つを制御するために使用され、そしてこのことが次に、下流のシグナル伝達の特異的なパターンおよび特異的な細胞運命の応答をもたらす。したがって、チャネルロドプシンを特定細胞に標的化し、次に、該細胞を特定の光パターンに晒すことは、光活性化チャネルを発現する細胞の生存を増加させ、分化または複製を制御し、または死を加速するために使用される。このような細胞プロセスの調節は、好ましくは、幹細胞で使用され、特定のパターンの活性が幹細胞(ヒト胚幹細胞を含む)の分化を制御し、幹細胞の複製を制御し、または(過剰な複製を停止することが望まれる場合)幹細胞の死を制御してもよい。標的細胞が腫瘍または癌細胞である場合、それらの細胞へのチャネルロドプシンの標的化は、該腫瘍/癌細胞を殺傷するための特異的かつ適切パターンの光の使用を可能にする。他の適した標的細胞は、様々な分泌性細胞または臓器細胞またはそれらの前駆細胞、心臓細胞または他の筋細胞、または脳中のグリア細胞を含む。これらの場合のそれぞれにおいて、これらの細胞の複製、分化、死を正確に調節することが望ましい。チャネルロドプシンは、(生体への移植の前または後で)インビトロ、実験動物のインビボ、またはヒトのインビボにおけるこれらの事態を調節するために有用であってもよい。
【0152】
薬物スクリーニング
本発明の態様は、薬物をスクリーニングする方法であって、一群の細胞でLACCタンパク質を発現すること;一群の該細胞を化合物に晒すこと;光で一群の該細胞を照射すること;および、一群の該細胞内で細胞の電気的応答をモニターすることを含む。細胞の電気的応答は、電気的、光学的、または他の手段によってモニターすることができる。細胞の電気的応答は、化学薬品もしくは電位感受性色素、あるいは酸化または還元を受ける色素を用いて観察およびモニターすることができる。これらの変化は、光センサーまたはフィルム式カメラを備えた顕微鏡下、CCDアレイ、および当業者に既知の他の方法でモニターすることができる。
【0153】
薬物スクリーニングの方法の好ましい実施形態は、中枢神経および末梢神経、心筋、膵島細胞、下垂体および腎臓における神経内分泌細胞、幹細胞、癌細胞、および他の細胞などの細胞の、イオン性機能およびシグナリング機能に影響を与える薬物に対するハイスループットスクリーニングである。
【0154】
薬物スクリーニングの方法の好ましい実施形態は、電位依存性イオンチャネルを遮断または活性化し、(癲癇および疼痛において役割を果たす)興奮性シナプス伝達または抑制性シナプス伝達を変化させ、筋収縮を変化させる薬物をスクリーニングするために、速い応答が可能な電気的に興奮性の細胞(例えば、ニューロンおよび心筋、またはそれらから誘導された細胞株)における電位を迅速に調節することを含む。多くのチャネルおよび受容体は急速に活性化され、次いで、脱感作または不活性化されるので、光の短いパルスで膜電位を調節する能力は、ある種のチャネル、シナプス、または筋疾患表現型を標的とする薬物を開発する能力を高める。例えば、家族性片麻痺性片頭痛の患者は、カルシウムチャネルにおいて点突然変異を有し、所定の短い脱分極に対してカルシウム流入が減少している。本発明の方法は、この患者群においてチャネル機能を改善する方法を発見するために、変異カルシウムチャネルおよびChR2を発現する細胞株において、特定の定型的な脱分極に対するカルシウム応答(カルシウム色素を用いて測定される)を調節する薬物のスクリーニングを可能にする。
【0155】
必ずしも電位を急速に変化させるとは限らないが、電気的に制御されたCa2+流入の下流で、生体内で重要な機能を有する多くの細胞が存在する。例えば、膵島細胞および神経内分泌細胞(例えば、甲状腺、下垂体、および副腎の内分泌細胞)は、有芯小胞の融合を介して、Ca2+に依存した方法でホルモンを放出する。ChR2のような本発明のLACCタンパク質は、細胞の脱分極を引き起こすだけでなく、そのチャネル孔を通じてCa2+イオンを通過させることができ、このような細胞(または誘導された細胞株)からのペプチドまたはホルモンの放出を活性化するために使用することができ、ホルモン放出を促進または抑制する薬物をスクリーニングすることを助ける。このような発見は、正常に機能しない増殖、発生、代謝、ストレス、および生殖の問題を治療する薬理学的な方法の発見を助けることができる。
【0156】
最後に、ChR2を含む本発明のLACCタンパク質は、細胞における遅いシグナル伝達を変化させる薬物をスクリーニングするために用いることができ、癌からうつ病にわたる慢性疾患プロセスに対する治療を明らかにする。特に、免疫細胞は、様々な長期変化を伴うCa2+流入の継続的なパターンに応答し、それらは、免疫応答を強化または弱体化し、あるいは場合によっては自己免疫症状も強化または弱体化をもたらすことができる。癌細胞はまた、イオンチャネルを発現し、変化した増殖を伴って電気的活性に応答する可能性がある。神経幹細胞は、ニューロンに分化することによって脱分極およびCa2+流入に応答する;よって、光を用いてLACCタンパク質を発現する幹細胞を活性化することは、機能的な脳および他の組織を生成する段階である、生存および成熟組織への組み込みを促進し得る。
【0157】
薬物スクリーニングの方法の好ましい実施形態では、ChR2のような本発明のLACCタンパク質を発現する幹細胞株は、光学的に組織修復を調節するために使用することができ、これらの幹細胞への光の照射は、ニューロンへの形質転換の促進に重要な段階である、CREBのリン酸化をもたらす。
【0158】
別の好ましい実施形態は、光学的制御下で分化する細胞を構築するために、幹細胞特異的なプロモーター下にChR2を有するヒト胚幹(ES)細胞を作製することを含む薬物スクリーニング法である。このような細胞におけるChR2の発現は、それらの環境中での細胞の生存および死の活性依存的な進行を変化させる薬物の発見を可能にする。
【0159】
本発明の方法を用いて、細胞は、遠隔制御を介して発生の運命を変えるように強いられることが可能であり、これが可能である薬物スクリーニングツールは、細胞増殖、分化、およびアポトーシスのこのような長期的効果を操作する新規な分子の発見を可能にする。これらのシナリオの全てにおいて、特定の細胞集団は、急速な時間単位で光による処理が可能であり、細胞機能の多くの態様のスクリーニングを可能にする。
【0160】
これらの技術は、イオンチャネル機能を調節する(孔をブロックすること、ゲート開閉に影響を与えること、または開口しているチャネルに影響を与えることのいずれかによって、イオンチャネル機能を遮断するかまたは促進すること)薬物のスクリーニングに適している。図11は、薬物のスクリーニング法の一例を図示する。最初に、イオンチャネルの基礎的な電気的活性は、光をフラッシュし、脱分極を観察することによって測定される。該細胞の蛍光は、光が消された後に元の値まで戻る。次に、薬物は、例えば、その薬物中にピペッティングすること(またはマイクロ流体チャネルを通じて流入すること)によって投与される。最後に、光を再度フラッシュし、イオンチャネルの電気的活性を測定する。この技術は、ホールセルパッチクランプ技術と併用して用いることができ、ここで、電極は、細胞の上方に設置され、吸引は、細胞を突き破り、イオンチャネルを発現する細胞の薬物投与前後の活性を記録するために適用される。本明細書中に記載される方法に従ってスクリーニングすることができる薬物の例には、限定されないが、抗うつ剤、抗精神病薬、カルシウムアンタゴニスト、抗癲癇薬、並びにOCD、アルツハイマー病、パーキンソン病、肥満、中毒、慢性疼痛、筋肉障害および心臓障害を治療するための薬物が含まれる。
【0161】
薬物スクリーニングのための方法の一実施形態は、下記の通りである。
1)光によって活性化されるチャネルタンパク質、好ましくはチャネルロドプシンを細胞株に発現する;
2)同じ細胞株に対象となるイオンチャネル(「チャネルn」)を発現する;
3)電位感受性色素(または他の適切な指示薬、例えば、下記に記載されるもの)を用いて該細胞を標識する;
4)上記細胞を光に曝露し、電位感受性色素の蛍光を記録する;
5)チャネルnの機能を調節し得る候補化合物に上記細胞を曝露する;
6)上記細胞に2度目の光を曝露し、電位感受性色素の蛍光を記録する。
【0162】
好ましくは、光活性化チャネルタンパク質の調節は、チャネルnの調節に関係する。例えば、光活性化チャネルタンパク質の活性化は、チャネルnの活性化を引き起こす。活性におけるこのような相関関係は、直接的でも間接的でもあり得る。該相関関係は、シグナル伝達経路を介し得る。活性における該相関関係は、互いに正比例的であるかまたは互いに反比例的であり得る。
【0163】
蛍光が工程(4)よりも工程(6)で大きい場合、恐らく候補薬物は、チャネル機能を促進する。蛍光が工程(4)よりも工程(6)で小さい場合、恐らく候補薬物は、チャネル機能を減少させる。蛍光が工程(4)と(6)で(色素の退色の余地を許容して)等しい場合、該薬物は、チャネル機能に影響を与えない。このようにして、チャネル機能に影響を与える薬物を、迅速に検出することができる。図11は、薬物がチャネル機能の負の調節因子である一例を図示する。
【0164】
工程(1)および(2)において細胞株の調製後、細胞株は、チャネルnを調節する多くの(恐らくは数百万の)薬物のスクリーニングに対して十分である。工程(4)、(5)、および(6)は、384ウェルプレートを光学ビームの焦点に移動するロボット装置で行うことができる。プレートのウェルは、同じ細胞株を含み、特定のチャネルに影響を与える薬物のスクリーニング(「ハイスループット標的スクリーニング」、下記を参照)を容易にし、または各ウェルは、異なる細胞株の細胞を含み、多くの異なるチャネルに対して1つの薬物のスクリーニング(「副作用に対するスクリーニング」、下記を参照)を容易にすることができる。
【0165】
電位感受性色素は、高速動態であるので好ましいが、他の色素(例えば、チャネルnがカルシウムチャネルの場合のカルシウム感受性色素)はまた、チャネル機能が薬物によって調節されるかどうかを明らかにするために使うことができる。遺伝的にコードされた電位またはカルシウムの指示薬(例えば、FLASH、GCaMP2、カメロンなど)はまた、細胞の活性を解釈する有用であり得る。この場合、これらの指示薬は、同様に細胞株に安定に発現される。薬物が効果を有するかどうかを解釈する他の方法、例えば、イオンチャネル活性の時期中またはその後にリン酸化される部位のリン酸化に対する免疫染色、もまた有用である。
【0166】
薬物スクリーニングに関して、1)チャネルロドプシンを発現し、細胞電位の変化を制御する、細胞を照射するための光源(発光ダイオード(LED)、ランプ、レーザー)、2)色素または指示薬に対する光源、場合により、電位変化を制御するために用いられるのと同じ光源、および3)2つの光源を切り替えるためのスイッチ、または両種類の光の同時非干渉送達のためのビームスプリッタ、を含む光学画像装置を有することが好ましい。色素または指示薬の蛍光は、典型的には、センサー(CCDカメラ、PMT、または光ダイオード)によって測定される。この種の装置は、上述されるイオンチャネル薬物スクリーニングに有用である。装置自体はまた、光源およびセンサーが存在する場を、プレート(例えば、384ウェルプレート)を移動させるためのロボットアームからなっていてもよい。この種の組み合わせた光源/画像装置はまた、診断用途を有する。例えば、細胞を患者から採取し、該細胞にチャネルロドプシンを発現させ、該細胞を光に曝露することは、生検標本または循環系の細胞における患者特異的なイオンチャネル症候群を検出するために用いることができる。
【0167】
本明細書中に記載される方法は、好ましくは、チャネルロドプシンを用いて行うが、任意の適した光活性化陽イオンチャネルを用いることができる。
【0168】
本発明のさらに別の態様は、ハイスループット標的スクリーニングに関する方法である。一実施形態では、ハイスループット標的スクリーニングは、光刺激/読み出し領域に、対象とする細胞を含むウェルを移動させ、次に、上記の方法を実行するプレートリーダーを含み、図11に図示される。次に、機械は、プレートを移動させて、次のウェルを順番にフラッシュすることができる。ウェルプレートの例には、96ウェル、384ウェル、1526ウェルプレートが挙げられる。一実施形態では、本発明のハイスループット標的スクリーニング法は、約2,000個の薬物/日/セットアップまで分析可能である。別の実施形態では、本発明のハイスループット標的スクリーニング法は、約2,500,000個の薬物/年/5セットアップまで分析可能である。
【0169】
別の実施形態では、ハイスループット標的スクリーニングは、チップを用いたシステムを含む。チップを用いたシステムは、マイクロ流体チップ上に作成された溶液環境の層流を横切る単一細胞を高速スキャンすることにより、イオンチャネル上での化合物の、並列的試験というよりもむしろ連続的試験を可能にする。マイクロ流体チップのスキャンは、細胞が薬物溶液の別個のゾーンを抽出することを可能にし、コンピュータ制御の電動スキャンステージによって制御される。マイクロ流体チップは、ハイスループット分析用に、例えば、8チャネル、16チャネル、48チャネルまたはそれより多いチャネルを有することができる。
【0170】
別の実施形態では、ハイスループット標的スクリーニングは、流体の流れに沿って細胞を取り込むための別個の配置群を含む細胞選別装置を含む。この別個の配置は、別個の部位もアクセス可能となるように表面部を横切る規定のパターンに配置され得て、薬物溶液の別個のゾーンを含む。別個の部位における細胞のアレイを作成するために用いられてもよい表面部の例には、限定されないが、セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ガラス、水晶または他の結晶性基質、例えば、ガリウムヒ素化合物、シリコン、金属、半導体、種々のプラスチックおよびプラスチック共重合体、シクロオレフィンポリマー、種々の膜およびゲル、微粒子、ビーズおよび常磁性微小粒子または超常磁性微小粒子が挙げられる。
【0171】
本発明の更なる別の態様は、副作用に対するスクリーニング法である。この方法は、1つのイオンチャネルに選択的に影響を与え、他のイオンチャネルには影響を与えない薬物のスクリーニングを可能にする。個々のイオンチャネルに対するこのスクリーニングは、潜在的な副作用を予期するスクリーニングを可能にする。
【0172】
副作用のスクリーニングの一例として、多くのチャネルは、心臓と脳において別々に発現される。脳で様々にチャネルに結合するが心臓では結合しない薬物のスクリーニングによって、心臓機能に影響を与えない神経精神病学的薬物を見出すことができる。心臓機能に特に重要なのは、カルシウムチャネル、HERGチャネル、他のカリウムチャネル、および鼓動の周期性または鼓動の振幅に影響を与えるイオンチャネルである。
【0173】
人工装具デバイス(人工器官)(Prosthetic Devices)
本発明の別の態様は、人工装具デバイス(人工器官)における本明細書中に記載された方法および組成物の使用である。盲目、難聴、および他の感覚欠損は、世界中の数百万の人々に影響を与え、かれらの生活の質に深刻な影響を及ぼす。ヒト患者の体細胞に標的化されたチャネルロドプシンは、新しい分類の感覚性人工装具(器官)を開発する。例えば、盲目のいくつかの様態は、光センサー機能を破壊するが、下流のニューロンでのシグナル処理は完全なままにさせる。このような疾患、例えば、黄斑変性症または網膜色素変性症では、網膜神経節細胞にチャネルロドプシンを標的化すること(例えば、眼内の網膜細胞層にチャネルロドプシンを発現するウイルスを注入することによる)は、視覚機能の回復を可能にする。網膜神経節細胞を標的としたチャネルロドプシンで処置されたこのような患者では、網膜神経節細胞それ自体が光感受性となり、生来の目に相当する解像度を有する視力を与え、好ましくはその時点以外は侵襲的な技術を必要としない。チャネルロドプシンは、日光(〜1kW/m2の仕事率)を検出するには十分に感受性である。または、チャネルロドプシンは、視力を与えるためにアマクリン細胞または双極細胞に標的とされ得る。外界の光を増幅する投影装置を伴って、網膜細胞にチャネルロドプシンを発現させることは、室内または微光状態で視力を与えるだろう。
【0174】
別の実施形態では、年齢および経験に関連した多くの難聴の様態では、有毛細胞が失われるが、下流のニューロンは損なわれていない。らせん神経節細胞(即ち、8個の神経ニューロン)においてチャネルロドプシンを発現させることは、これらの細胞を光で活性化することを可能にするだろう。蝸牛インプラントは、現在、単一電極またはせいぜい数個の電極を用いて蝸牛の全ての細胞を刺激し、蝸牛内の感覚求心性神経のどんな空間分布も発生反復も試みられていない。1)音を検出するためのマイクロホンと、2)音の周波要素を分析し、それらをLEDシグナルに変換するためのマイクロプロセッサーと、3)空間的にパターン化された様式で光を発するために複数のLEDと、を含むデバイスを蝸牛に挿入することによって、周波数特定的にマップされた刺激装置が作られ、適切な細胞に光を標的するだけで異なる周波数の音の知覚を制御するだろう。
【0175】
さらに別の実施形態では、ヒトの中枢神経系ニューロンはチャネルロドプシンを発現するウイルスで感染させ(または別の方法でチャネルロドプシンを発現するようにさせる)、これらのニューロンは、光に応答することが可能になる。この遺伝子治療アプローチは、脳の標的ニューロンの光学刺激を可能にする。標的ニューロンが感覚野内にある場合、これは、新しい種類の皮質性感覚人工装具(器官)の可能性を広げる。標的ニューロンが前頭皮質または他の脳の部分にある場合、これらの光感受性ニューロンは、感情または認知の調節を可能にする。標的ニューロンが脊髄にある場合、有痛性刺激を阻害するニューロンは、光によって制御されることが可能である。一般的に、この遺伝子治療アプローチは、神経系の定められた部分において、光が神経活動に変換される、新しい種類の汎用の人工装具(器官)を開発する。
【0176】
人工装具デバイス(人工器官)の一実施形態は、化合物を分泌し、光に応答するように操作されている移植細胞に関し、また、完全な状態の動物の脳における神経回路レベルの標的物の捜索に関し、移植可能なLEDまたは頭部装着型のLED、または他の小さな光源を有することは非常に有用であるかもしれない。このような光源は、皮膚の下、頭蓋骨の下、脳内の深部、または対象とする別の臓器の深部に移植することができ、そこには、チャネルロドプシン発現細胞もまた配置されている(外因的に導入されるか、または、内在的に配置されウイルスを用いて標的化される)。このデバイスは、光源に直接的に近接して位置する細胞において、ChR2を刺激するために用いることができる。人工内耳の例には、それぞれが個別に制御可能なLEDのストリップが有用であり得る。皮質への移植の例には、二次元配列のLEDが有用であり得る。皮下に位置したインスリン分泌細胞の例には、バッテリーを備えたブレスレット上の装着型青色LEDが有用であり得る。
【0177】
いくつかの実施形態では、医療用途のために、LEDは遠隔的に電力供給される。遠隔的に電源供給されるLEDは、閉ループ直列回路中のLEDとインダクターとを組み合わせることによって作ることが可能である。これは、高周波(RF)エネルギーまたは急激な変化する磁場(例えば、経頭蓋磁気共鳴(TMS)コイルによって達せられる)が、一時的にインダクターを強化させることを可能にし、したがって、連結されたLEDは、脳構造の深部にでさえ局所的な光の送達を可能にする。このような装置は、皮下、頭蓋骨の下、脳内の深部、または、チャネルロドプシンを発現している細胞(外因的に導入されるか、または、内在的に配置されウイルスを用いて標的化される)もまた位置している、対象とする別の臓器内の深部に移植され得る。次いで、移植されたデバイスを活性化するため、RFや磁力を遠隔的に送達できるデバイスが近くに配置される。
【0178】
生化学的修飾
別の態様は、チャネルロドプシンなどの光活性化チャネルの生化学的修飾を含む。このような修飾は、概して、細胞の異なる部分にチャネルロドプシンを標的化するために行われる。結果として得られるタンパク質がチャネルロドプシンおよび標的ペプチドの両方を含むようにするために、DNAの標的配列にチャネルロドプシンを融合することは、チャネルロドプシンを、シナプス前終末、シナプス後終末、細胞核、または他の細胞内コンパートメントに送るために利用することができる。このような標的配列は、PDZドメイン、グルタミン酸受容体C末端配列およびGABA受容体C末端配列、イオンチャネルC末端配列、前シナプス足場標的配列、および他の標的配列を含む。チャネルロドプシンのこれらの形式は、神経保護、記憶、または他の永続的なシグナル伝達機能に重要なシグナル伝達事象を含む、特異的な細胞内シグナル伝達事象を誘因するために用いることができる。
【0179】
組合わせ方式では、これらの試薬は、チャネルロドプシンの他の用途を補完することができる。例えば、これらの試薬は、薬物スクリーニング(例えば、特定の細胞内コンパートメント内のチャネルの機能を調節する薬物の発見)に有用である。これらの試薬はまた、人工器官(例えば、天然のシナプス活性をよりそっくり真似るために、ニューロンの樹状突起における活性を制御すること)に有用でもある。
【0180】
LEDを有する方法およびデバイスが本明細書中に記載されるが、しかし、小さなレーザー、または外部の供給源(キセノンランプまたは水銀ランプ)から光をもたらす光ファイバーケーブルもまた用いることができる。チャネルロドプシン発現細胞を照射するために使用される好ましい光源は、下記の特性を有する:
0〜25ms、またはそれよりも長時間で調節可能な刺激時間、
0〜10mW/mm2の範囲、またはそれより高い範囲で調節可能な明るさ、
光活性化チャネルの強度に依存して、440〜490nmの範囲、またはそれよりも広い範囲の波長。
【0181】
製造品
本発明の別の態様では、本明細書中に記載される組成物を含む製造品(例えば、LACC配列を含む核酸、またはLACCタンパク質発現細胞)が提供される。この製造品は、容器およびラベルを含む。適した容器には、例えば、ボトル、バイアル、注射器、プレート、および試験管が含まれる。該容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成されてもよい。使用のための適した包装および追加の物品(例えば、液体製剤用の計量カップ、空気への曝露を最小限にするホイル包装、ディスペンサーなど)は、当分野において知られ、製造品に含むことができる。
【0182】
一実施形態では、容器は、各ウェルに、例えば、保護培地(例えば、20%DMSOを含む培地)にあらかじめ凍結した、対象とする異なる細胞を含む96ウェル、384ウェル、および1526ウェルのプレートである。該プレートは、ドライアイス中で搬送され、受領次第、短時間保存のために−80℃で保存可能である。または、プレートは、長期保存のためには、液体窒素中で保存される。このプレートは、上述したもの、または当分野において知られる規定のプレートリーダーのようなプレートリーダー/電動ステージデバイスに適合する。
【0183】
一実施形態では、容器は、疾患状態を治療するために効果的である組成物を保持し、無菌のアクセスポートを有してもよい(例えば、該容器は、皮下注射針によって穴を開けられるストッパーを有する静脈注射用の溶液バッグまたはバイアルであってもよい)。組成物中の活性剤は、本明細書中に記載される発明の組成物である(例えば、LACC配列を含む核酸、またはLACCタンパク質発現細胞)。製造品は、さらに、同一または別個の容器内に、本発明の組成物と同時投与される治療薬などの別の薬物と、任意的に、リン酸緩衝化生理食塩水、リンゲル液、およびブドウ糖溶液などの医薬として許容されるバッファーを含むことができる。
【0184】
容器上のラベルまたは容器に関連したラベルは、組成物を使用するための指示を示し、例えば、容器は、組成物が選択された疾患状態を治療するために、または化合物をスクリーニングするために、もしくは化合物の副作用をスクリーニングするために用いられることを指示してもよい。本明細書中に記載される容器は、さらに、商業的およびユーザーの立場から臨まれる他の材料を含んでもよく、それには、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、注射器、および使用説明書を含む添付文書が含まれる。
【0185】
本明細書中に記載の実施例は、本発明の真の範囲を決して制限するものではないが、、むしろ例証的な目的のために示されていることが解釈される。本明細書中に引用された全ての参考文献および受入番号を有する配列は、全体として参照文献に取り込まれている。
【実施例】
【0186】
プラスミドコンストラクト。ChR2−YFP遺伝子は、NotI部位を介して、ChR2(GeneBank受入番号AF461397)の最初の310個のアミノ酸残基のC−末端にEYFP(Clontech)をインフレームで融合させることによって構築した。レンチウイルスベクターpLECYTは、プライマー:
【0187】
【化1】
を用いて、ChR2−YFPを増幅するPCRによって生成し、AfeIおよびSpeI制限部位を介して、pLET(Eric WexlerおよびTheo Palmer(スタンフォード大学)から贈呈)に連結した。該プラスミドを増幅し、次に、Qiagen MaxiPrepキット(Qiagen)を用いて精製した。
【0188】
ウイルス生成。VSVg偽型レンチウイルスは、Lipfectmine 2000を用いて、pLECYT、pMD.G、およびpCMVデルタR8.7(Eric WexlerおよびTheo Palmerから贈呈)を、293FT細胞(Invitrogen)に3重トランスフェクションすることによって生成した。レンチウイルス生成プロトコールは、リン酸カルシウム沈殿法の代わりにLipofectamine 2000を使用したことは除いて、以前に記載されたもの42と同じである。集菌後、ウイルスは、SW28ローター(Beckmann Coulter)中で、20,000rpmで2時間、4℃で遠心分離により濃縮した。濃縮したウイルスの力価は、FACSソーティングにより決定し、5×108〜1×109IU/mLであった。
【0189】
海馬細胞培養。出生後0日(P0)のスプラーグドーリー(Sprague−Dawley)ラット(Charles River)の海馬を切除し、パパイン(20U/ml)で45分間、37℃で処理した。該消化は、20mMグルコース、Serum Extender(1:1000)、および25mgのウシ血清アルブミン(BSA)と25mgのトリプシン阻害剤とを含む10%熱不活性化ウシ胎児血清と共に、10mlのL−グルタミン不含MEM/Earle塩で停止させた。該組織は、先端熱加工パスツールピペットで少量のこの溶液中に倍散し、24ウェルプレート中に、カバースリップ当たり、1mlあたり約100,000細胞を播種した。ガラス製カバースリップ(一晩HCl中で前洗浄し、その後、何回か100%EtOHで洗浄し火炎滅菌した)は、1:50のマトリゲル(Collaborative Biomedical Products,Bedford,MA)を一晩37℃で被覆した。細胞は、2×B−27(Life Technologies)および2mM Glutamax−I(Life Technologies)を含む培養液:Neurobasal中に播種した。2分の1の培地を次の日に培地と交換し、最終の血清濃度を1.75%とした。ここに記載されるいずれの実験に対しても培養培地または記録培地にはオールトランスレチナールを添加しなかった。しかしながら、B27は、ChR2機能の手助けをしたかもしれない酢酸レチニルのような少量のレチナール誘導体を含む。オールトランスレチナールまたはその前駆体の追加補給は、完全な状態での回路研究へのChR2の適用において手助けとなるかもしれない。
【0190】
ウイルス感染。海馬培養物は、レンチウイルス(約1×106IU/ml)の5倍連続希釈を用いて、インビトロ培養7日目(d.i.v.7)で感染させた。24ウェルプレート中のカバースリップに播種した海馬培養物にウイルス希釈物を添加し、その後、パッチクランプを用いて記録する前に37℃で7日間インキュベートした。
【0191】
共焦点画像処理。63×水浸レンズを用いてライカ(Leica)TCS−SP2 LSM共焦点顕微鏡上で画像を取得した。ChR2−YFP発現細胞は、NaCl、125mM;KCl、2mM;CaCl2、3mM;MgCl2、1mM;グルコース、30mM;および、HEPES、25mM(NaOHでpH7.3にする)を含むタイロード(Tyrode)液中で、YFP用の顕微鏡設定を用いて生きた状態で撮像した。ヨウ化プロピジウム(PI;Molecular Probes)染色は、細胞培養液に5μg/mLのPIを5分間、37℃で添加し、タイロード液で2回洗浄することにより、生細胞で行われ、次いで、直ちに蛍光細胞および非蛍光細胞をカウントした。その後、カバースリップは、新鮮な4%パラホルムアルデヒドを加えたPBS中で5分間固定し、0.1% Triton−100を加えたPBSで2分間透過処理し、次に、濃縮した核の観察のために、5μg/mLのPIに5分間浸した。カバースリップ当たり、少なくとも8つの異なる視野が調べられた。
【0192】
電気生理学および光学的方法。培養した海馬ニューロンは、感染7日後の、インビトロ培養約14日目(d.i.v.14)で記録した。ニューロンは、20×対物レンズを装備したOlympus IX71倒立顕微鏡上のAxon Multiclamp 700B(Axon Instruments,Inc.)増幅器を使用して、ホールセルパッチクランプ技術を用いて記録した。ホウケイ酸ガラス(Warner)ピペットの抵抗は、平均4MΩ、3〜8MΩの範囲であった。アクセス抵抗は、10〜30MΩであり、記録の間中モニターした。細胞内液は、97グルコン酸カリウム、38KCl、0.35EGTA、20HEPES、4マグネシウムATP、0.35ナトリウムGTP、6NaCl、および7クレアチンリン酸(KOHでpH7.25にする)から成る。ニューロンは、上述のように、タイロード液中で灌流した。全ての実験は、室温(22〜24℃)で行った。図4bおよび図4cに示されるシナプス伝達データ以外の全ての実験について、本発明者らは、シナプス伝達をブロックするために、5μMのNBQXおよび20μMのgabazineを含むタイロード液中に浸した蛍光細胞をパッチした。
【0193】
光電流は、−65mVに固定した電位にニューロンを保持しながら測定した。不活性化からの回復は、1〜10秒持続する暗間によって分離される、各々が500ms持続するパルス対を用いてニューロンを照射しながら光電流を計測することによって測定した。
【0194】
スパイクは、約−65mVでの細胞の電位を保つための電流を注入しながら(0pA〜200pAの範囲で電流を保持しながら)測定した。シナプス伝達実験については、本発明者らは、ChR2発現ニューロンの近くに非蛍光ニューロンを固定し、正の興奮性シナプス後応答を分離するために20μMのgabazineを含むか、または正の阻害性シナプス後応答を分離するために5μMのNBQXを含むタイロード液中に浸した。発生した電位が確かにシナプスに制御されたものかどうかを確かめるために、シナプス刺激後に、本発明者らは、20μMのgabazineと5μMのNBQXとの両方を含む溶液を用いて全てのシナプス後受容体を遮断し、再度光刺激した。
【0195】
pClamp9ソフトウェア(Axon Instruments)は、全てのデータを記録し、MultiClamp 700B増幅器を操作するために使用し、300Wキセノンランプを有するSutter DG−4超高速光スイッチ(Sutter Instruments)は、ChR2活性化のための光パルスを送達するために使用した。標準的なEndow GFP励起フィルター(励起フィルターHQ470/40x、二色性Q495LP;Chroma)は、バンド幅450〜490nmで、ChR2活性化のための青色光を送達するために使用した。YFPは、標準的なYFPフィルター(励起HQ500/20×、二色性Q515LP、発光HQ535/30m;Chroma)を用いて可視化した。20×対物レンズを通して、青色光の電力密度は、シリコン電力計(Newport)を用いて測定されるように、8〜12mW/mm2であった。一連のパルスは、MATLAB(MathWorks)に書き込まれたカスタムソフトウェアによって合成され、PCに接続したDigidataインプット/アウトプットボード(Axon)を介してpClamp9にエクスポートした。ポアソンインパルス列は8秒の長さで、ポアソンパラメーターλ=100msまたはλ=200msを有する。ポアソンインパルス列に関しては、生物物理学的な現実性を考慮して、10msの最小不応期が光パルス間に課された。
【0196】
膜抵抗は、3秒ごとに繰り返される75ms持続する20mVパルスを用いて、電位固定モードで測定した。直接的な電流入力によるスパイク比率は、0.5秒持続する電流300pAのパルスで測定した。
【0197】
データ解析。データは、Clampfit(Axon)およびMATLABに書き込まれたカスタムソフトウェアを用いて、自動的に解析した。スパイクは、閾値(典型的には、静止電位より60mV上)を超える電位の通過を探すことによって抽出され、潜時は、光パルスの開始からスパイクピークまで測定した。外因性のスパイクは、光パルスの開始後の30ms以降に発生するいずれかのスパイクも加えて、1回の光パルス後の余分なスパイクの数として測定される。
【0198】
微小振動は、スパイク潜時の標準偏差として計算され、スパイク列を通して(列を通しての信頼度を評価する場合)、または異なるスパイク列間の同じスパイクに対して(列間またはニューロン間の信頼度を評価する場合)のいずれかで測定した。全ての微小振動の解析に関して、特定のニューロンにおいてスパイクを引き出さなかった光パルスは、そのニューロンの微小振動の解析については無視された。図2hに示されるニューロン間微小振動解析に関して、7個全てのニューロンにおいてスパイクを引き出さなかった光パルスは無視された(λ=100刺激については31/59の光パルス、λ=200刺激については30/46の光パルスが残った)。
【0199】
実施例1
光と神経脱分極とを結びつける、安定で信頼性のあるChR2発現を得るために、本発明者らは、ニューロンのゲノム改変のための、ChR2−YFR融合タンパク質を含むレンチウイルスを構築した。培養したラットCA3/CA1ニューロンへの感染は、感染後の数日〜数週間で、膜に局在化し、耐容性のよい、適切なChR2の発現をもたらした(図1a)。融合タンパク質の発現が高いレベルでも、発現タンパク質による毒性の兆候はなかった。ニューロンの細胞全体の電位固定記録は、バンド幅450〜490nmでの従来のGFP照射(Chroma励起フィルターHQ470/40×を介した300Wキセノンランプ(Sutter DG−4))は、速い上昇速度での脱分極を誘導し、光パルスの開始後、2.3+1.1ms以内に160+111pA/msの最大上昇速度に達した(平均値+標準偏差として記載、n=18;図1b、左)。細胞全体の平均の内向き電流は大きく、最大時に496pA±336pA、定常状態で193pA±177pAであった(図1b、中央)。対照実験では、YFPを単独で発現している細胞では、光により誘発された応答は見られなかった(データ示さず)。ChR2の既知の励起スペクトル20と一致して、バンド幅490−510nmでのYFP−スペクトル光(Chroma励起フィルターHQ500/20×でフィルターした300Wキセノンランプ)を用いたChR2発現ニューロンへの照射は、GFPフィルターを用いて誘発したものよりも小さな電流を引き起こした(図1b、右)。持続的な光曝露によるChR2の不活性化(図1bおよび参考文献20)にもかかわらずに、本発明者らは、ニューロンにおいてピークのChR2光電流の急速な回復を観察した(図1c;τ=5.1+1.4秒;Levenberg−Marquardtアルゴリズムに適合した回復軌道;n=9)。この急速な回復は、細菌型ロドプシンにおけるシッフ塩基(レチナールを結合する、7番目の膜貫通ヘリックス中のリジン)の周知な安定性、および、暗反応において、他の酵素を必要としないでオールトランス基底状態に再異性化するといったレチナールの能力と一致する。上記で示されたピーク光電流の短時間での回復に加えて、光により誘発された電流の振幅はまた、長期間で安定であり、一時間のパルス光曝露の間中、パッチクランプされたニューロンで変化しないままであり(データ示さず)、共焦点画像によって示唆されるような毒性を欠くことを機能レベルで確実にしている(図1a)。したがって、ChR2は、検出可能な有害な副作用のない、大きな振幅の急速で持続的な光電流を媒介することができる。
【0200】
実施例2
本発明者らは、ChR2誘導電流を誘発するために用いたものと同じ一定照射プロトコールを用いて、ChR2が電流固定モードで保持されたニューロンの実際の脱分極を制御できるかどうかを調べた(図1d、左)。一定照射期の初期では、単一のニューロンスパイクが、急速および確実に誘発され(スパイクピークまで8.0+1.9msの潜時;n=10;図1d、右)、上述したChR2電流の高速な上昇の時間と一致した。しかしながら、これらの細胞については、これらの特定の条件で、一定照射中に誘発される、その後のスパイクのいずれも、あまり時間調節されていなかった(図1d、左)。したがって、この特定の試料に関しては、第一スパイクの信頼度にもかかわらずに、一定照射は、ChR2を用いた継続的なスパイクのタイミングを調節するには適切ではなかった。体細胞の電流注入を用いた初期のパッチクランプ研究は、スパイク時間は、一定の高振幅電流を注入している期間よりも、膜電位が急速上昇している期間のほうが、より信頼性があることを示した。これは、一定照射が単一の確実に時間調節されたスパイクを誘発し、その後、不規則なスパイクを誘発したという本発明者らの見解と一致している。
【0201】
実施例3
本発明者らは、一定照射によって確実に誘発された単一スパイクが、試行ごとに非常に低い一過性の微小振動を有することを見出した(図1d、右;0.5+0.3ms;n=10ニューロン)。この観察は、光パルスの開始時に誘発される単一の信頼性のあるスパイクの低い微小振動を利用する、パルス光理論を考案させた。しかし、このようなパルス光理論が作用するためには、ChR2の透過性および動態が、所望のスパイク間の間隔よりも短い光パルスの間に、十分な振幅のピーク電流を可能にしなければならない。実際には、高速光スイッチを用いて、本発明者らは、分散した暗期を伴う複数の光のパルスが、信頼性があり十分に時間調節されたスパイク列を誘発することができることを見出した(図1e;25Hzの4つのパルス列に関して示される)。図1eは、より長い光パルスは、短い光パルスよりも高い確率で単一スパイクを誘発するという事実を強調する。高速光スイッチを用いて容易に光パルス期間を変える能力は、照射される全てのニューロンで単一スパイクが確実に観察されるまで、光パルス期間を単に増加させることによって、異なるChR2電流密度を有する複数のニューロンにおいてもスパイクを誘発する直接的な方法を提案する。光パワーの急速調節はまた、この種の制御を可能にする。本明細書に記載される実験では、本発明者らは、5ms、10ms、または15msのいずれかの光パルス期間を使用した(n=13、信頼性のあるスパイクを発した高発現ニューロン;n=5、信頼性のある閾値下の脱分極を発した低発現ニューロン)。したがって、ニューロンスパイク生成の非線形的な性質は、得られる電位のふれがスパイク発火の閾値を超えるまで、ChR2発現ニューロンに送達される光エネルギーを単に増加させることによって、スパイクを確実に誘発させることを可能にする。しかしながら、短い光パルスを使用することなしで、ChR2の高速動態は、信頼性のあるスパイク誘導の調節において、通常、有益でない可能性がある:これは、光学機器を光刺激試薬のバンド幅に適合させる必要性を強調する。
【0202】
実施例4
本明細書中に発見されたミリ秒単位の制御は、遠隔的な光学制御によってニューロンに、任意に定義された、自然なスパイク列(例えば、通常、自然の活性をモデルするために使用されるポアソン列)を産生する見通しをもたらす。図2aは、同じポアソン分布の光パルスシリーズの3回の送達に応答した、海馬ニューロンにおけるスパイク列を示す(ここでは、それぞれが10ms間続く、59回連続の光パルスを示す;ポアソンパラメータλ=100ms)。これらの光学的に制御されたスパイク列は、繰り返される同じシリーズの光パルスの送達間でほとんど一貫していた:平均して、95%以上の連続した光パルスは、図2aに示されるλ=100msの連続光パルスについて、および、46スパイクからなるλ=200msの連続光パルスの両者について、(図2b;n=7ニューロン)、それらが二回目の試行でスパイクを誘発する場合、およびその場合のみ、一試行中にスパイクを誘発する。信頼性のあるスパイク発火点まで光パルス期間を増加させるストラテジーに続いて、本発明者らは、7ニューロンのうち4つに対して各々10ms持続する光パルス列を使用し、他の3つに対して15ms持続する光パルス列を使用した(図2の解析については、全てのデータをプールした)。試行間の微小振動は、同じポアソン連続の光パルスの繰り返された送達間で、非常に小さかった(λ=100に対して2.3+1.4ms、λ=200に対して1.0+0.5ms;図2c)。広域なパルスシリーズの全体で、列全体でのスパイク誘発効率は維持された(76%および85%の光パルスがそれぞれ効果的にスパイクを誘発した;図2d)。光パルス開始後のスパイクに対する潜時も、一連のパルス全体で一貫していた(それぞれ、14.3+3.1msおよび13.3+3.4ms;図2e)。最後に、スパイクの微小振動は、列全体で顕著に小さいままであった(3.9+1.4msおよび3.3+1.2ms;図2e)。それ故、ChR2のパルス光学活性化は、長期に亘って単一ニューロンにおいて正確で繰り返し可能なスパイク列を誘発することができる。
【0203】
実施例5
異なるニューロン間でさえ、規定された光パルスシリーズによるChR2の活性化は、著しく高い忠実度を持つ同一のスパイク列を誘発することができた(図2fに、3つの海馬ニューロンについて示す)。個々のニューロンの不均一性、例えば、それらの膜電気容量(68.8+22.6pF)および膜抵抗(178.8+94.8MΩ)における不均一性は、それらの統合的な電気的特性に有意な可変性を導入することが期待され得て、スパイク発火と光の連関に関して固有である、強力な非線形性は、この可変性を克服した。実際には、異なるニューロンは、所定のパルスシリーズに対して同様に応答し、80〜90%の光パルスシリーズで、試験した7個のニューロンのうち少なくとも4つにスパイクを誘発した(図2g)。さらに、異なるニューロンに送達された同じ光パルスシリーズに対して測定すると、スパイクは非常に低い一過性の微小振動を有した(λ=100に対して3.4+1.0ms、λ=200に対して3.4+1.2ms;図2h)。著しいことに、このニューロン間微小振動(図2h)は、光パルスシリーズ全体で測定される、ニューロン内微小振動と同一であった(図2e)。したがって、ニューロンの不均一な集団は、期間中に単一ニューロンの調節に関して観察される、実質的には同一の精度で、協奏的に調節可能である。
【0204】
実施例6
持続的で自然なスパイク列を制御するChR2の能力を確実にするために、本発明者らは、次に、光とスパイクに連関する周波数応答を定量的に精査することにした。ChR2は、ポアソン列のデータ(図2)によって示唆されるように、5〜30Hzの持続的スパイク列(図3a;ここでは、一連の20個の10msの長さの光パルスを用いて試験した)を制御することができた。これらの特定の条件下でのこれらの特定の細胞に関して、高い周波数でよりも低い周波数でより多くのスパイクを誘発することが容易であった(図3b;n=13ニューロン)。5Hzまたは10Hzで送達された光パルスは、任意に長いスパイク列を誘発すことができ(図3b)、スパイク確率はより高い周波数の刺激で低下した(20Hzでは、7.2+6.6スパイク、30Hzでは、4.0+6.3スパイク)。これらの実験に関しては、使用した光パルス期間は、5ms(n=1)、10ms(n=9)、または15ms(n=3)の長さであった(n=13細胞の全てのデータは、図3の集団解析のためにプールした)。光パルスは、一般的に、単一スパイクを誘発するという観察(図1dおよび図2)から期待されるように、光パルス列の送達中に、外因性のパルスはほどんど発生しなかった(図3c)。より高い周波数でさえ、スパイクタイミングの一過性の微小振動は、列を通じて非常に低いままであり(5ms以下;図3d)、スパイクに対する潜間は、周波数間で一定のままであった(全体を通じて約10ms;図3e)。したがって、ChR2は、列の制御およびスパイクのバースト発火に適した、生理学的に関連している発火頻度の範囲全域でスパイクを誘導することができる。
【0205】
実施例7
繰り返しの光パルスによって誘発される閾値下のふれにおける試行間の可変性は、全く小さいことが見出され、変動係数は、0.06+0.03であった(図4b;n=5)。したがって、ChR2は、正確に決定された振幅を用いて確実に時間制御された閾値下の脱分極を制御するために使用することができる。
【0206】
実施例8
ChR2により媒介されるスパイク発火の忠実度の高い制御は、シナプス伝達を介して、連結した神経ネットワーク全体で光学的に活性を制御することができることを示唆した。実際に、興奮性(図4c)および抑制性(図4d)シナプス事象は、ChR2を発現しているシナプス前ニューロンからのインプットを受けて誘発することができた。これらの結果は、シナプス伝達がChR2を用いて確実に調節され得ることを示唆した。
【0207】
実施例9
ニューロンにおけるChR2の発現が、該ニューロンの基礎的な電気特性を乱したり、光がない状態で該ニューロンの動的な電気特性を変化させたり、または細胞生存の見通しを危うくしたりするか、を試験するために、広範囲の制御を実行した。少なくとも1週間のレンチウイルスからのChR2の発現は、暗闇中で測定されると、ニューロンの膜抵抗(ChR2陽性細胞に対して212+115MΩ、対して、ChR2陰性細胞に対して239.3+113MΩ;図5a;p>0.45;各々n=18)またはニューロンの静止電位(ChR2陽性細胞に対して−60.6+9.0mV、対して、ChR陰性細胞に対して−59.4+6.0mV;図5b;p>0.60)を変化させなかった。これは、ニューロンにおいて、光がない状態で、ChR2はほとんど基底の電気的活性を持たないか、または受動的な短絡(shunting)能力でさえ有しないことを示唆した。膜の完全性の電気的判定によって示されるように、ChR2の発現は一般的な細胞の健康状態を障害しなかったことも示唆する。膜の完全性と細胞の健康状態とを独立して測定するため、本発明者らは、膜非透過性のDNA結合色素であるヨウ化プロピジウム(PI)を用いて生きた培養ニューロンを染色した。ChR2陽性の発現は、PIを取り込む生きたニューロンの割合に影響を与えなかった(1/56 ChR2陽性ニューロン、対して、1/49 ChR2陰性ニューロン;χ2検定によるp>0.9)。ChR2を発現している細胞において、アポトーシス変性の指標となる、いかなる濃縮した核も検出しなかった(データ示さず)。本発明者らはまた、暗闇中で測定した動的電気特性の変化を調べた。過分極方向(ChR2陽性ニューロンに対して−22.6+8.9mV、対して、ChR2陰性ニューロンに対して−24.5+8.7mV;p>0.50)または脱分極方向(ChR2陽性ニューロンに対して+18.9+4.4mM、対して、ChR2陰性ニューロンに対して18.7+5.2mV;p>0.90)のいずれにおいても、100pAの注入電流に起因する電位変化に差異がなく、0.5秒の+300pAの電流注入(ChR2陽性ニューロンに対して6.6+4.8、対して、ChR2陰性ニューロンに対して5.8+3.5;図5c;p>0.55)によって誘発されたスパイクの数において差異はなかった。従って、光がない状態では、ChR2の存在は、漏洩性チャネルを介した電流を短絡したり、既存のニューロン入出力関係の電位依存性を変えることによって、電位またはスパイクのアウトプットの閾値下の変化のレベルで、細胞の健康状態および進行中の電気的活性を変化させない。これらの制御はまた、ChR2を発現しているニューロンの電気的特性に、有意な長期の可塑的または恒常的変化がないことを示唆する。
【0208】
実施例10
ChR2が、ニューロンに光誘導性の細胞健康状態に関した問題を生じ易くするかどうかの試験では、本発明者らは、典型的なパルスプロトコール(1秒間の20Hz、15msの光フラッシュを1分間に1回、10分間)に光曝露後の暗闇中で24時間後、上述した電気的特性を測定した。ChR2を発現しているニューロンへの光の曝露は、フラッシュしていないニューロンと比較して、それらの基底の電気的特性を変更せず、細胞は、正常な膜抵抗(178+81MΩ;図5a;p>0.35;n=12)、および静止電位(−59.7+7.0mV;図5b;p>0.75)を保有していた。光への曝露は、生細胞のPI摂取によって測定されるように、ニューロンを細胞死になり易くさせなかった(2/75ChR2陽性ニューロン、対して、3/70 ChR2陰性ニューロン;χ2検定によるp>0.55)。ChR2を発現し、光フラッシュに曝露されたニューロンはまた、体細胞電流注入により誘発されるスパイク数は正常であった(6.1+3.9;図5c;p>0.75)。従って、膜の完全性、細胞の健康、および基底電気的特性は、ChR2を発現し、光に曝露されたニューロンにおいて正常であった。
【0209】
実施例11 ChR2を挿入するためのレトロウイルス
モロニー型レトロウイルスは、幹細胞などの分裂細胞(Oryら、Proc Natl Acad Sci USA 93:11400(1996))を選択的に標的とする。本発明者らは、蛍光タンパク質に融合させるか、または非融合蛍光タンパク質との同時発現を可能にするためIRESを用いて、ChR2を含むレトロウイルスを構築した(図6)。これらのウイルスは、CMVトリβアクチンプロモーター下でChR2を制御し、分裂哺乳動物細胞への効果的な感染を可能にするためにVSV−G偽型である。これらのレトロウイルスは、ChR2を含むプラスミドとヘルパーベクターとを、293T細胞に三重トランスフェクトすることによって生成された。または、本発明者らは、レトロウイルスのパッケージングシステムを持続的に担持する細胞を選択するために、テトラサイクリン、ピューロマイシン、およびG418を含む成長培地中で293GPG細胞株を増殖させた。テトラサイクリンは、増殖相において、293GPG細胞への毒性があるVSV−Gの発現を抑制するために用いられる。70%コンフルエンスまで細胞を増殖後、VSV−Gの発現を可能にするためにテトラサイクリンを除去する。この時点で、Chr2およびGFP(適切な)を含むプラスミドをリポフェクタミンを用いて293GPG細胞にトランスフェクトし、培養した293GPG細胞は、遺伝子発現およびレトロウイルス産生が開始する際の蛍光の兆候をモニターされる。次に、これらの細胞株は、将来のレトロウイルス産生のために凍結される。これらのウイルスは、インビトロ(腎臓細胞株、幹細胞)およびラットのインビボ(海馬幹細胞、グリア)の両方において、分裂細胞に効率的に感染することが示された。このコンストラクトは、エクスビボで分裂細胞にChR2を標的化する目的、治療でヒトに移植する目的、細胞株の作製の目的、癲癇、片頭痛、睡眠発作、さらに自己免疫疾患などの細胞活性疾患の研究のための標識化細胞の選択的集団を用いた動物の開発の目的に有用であろう。本発明者らが作製したレンチウイルスは、ドキシサイクリンなどの外因性薬物のレベルを変更することだけで、ChR2の遺伝子発現レベルの調節を可能にするテトラサイクリンエレメントを含む。この方法、または薬物依存性プロモーターの調節下にChR2を配置する他の方法は、細胞におけるChR2の遺伝子量の調節を可能にし、所定量の光が、電気的活動、物質放出、または細胞発生において異なる効果を有することができるようにする。本発明者らが作製したレンチウイルスは、ドキシサイクリンなどの外因性薬物のレベルを変更することだけで、ChR2の遺伝子発現レベルの調節を可能にするテトラサイクリンエレメントを含む。
【0210】
実施例12 幹細胞株
EF1−アルファプロモーターの制御下でChR2−EYFPを安定に発現するクローン性神経幹細胞株は、培養した非分化神経幹細胞を、ChR2をコードする遺伝子を含むレンチウイルスを用いて感染させることによって作製した。図7は、この神経系前駆細胞(NPC)幹細胞株の顕微鏡写真を示す。この細胞株は、神経の発生、発達、またはアポトーシスにおける電気的活性に影響を与える薬物のスクリーニングに適している。本発明者らが既に作製した幹細胞株は、光学的に制御可能な組織修復の目標を実現する正しいステップであり、これらの幹細胞への光の照射は、該幹細胞のニューロンへの形質転換を促進する重要なステップであるCREBリン酸化をもたらす(図8)。これらの均質な幹細胞株はまた、成熟動物の脳に移植することもでき、それらは、海馬回路に組み込まれ、2〜6週後に機能的に試験することができる。
【0211】
実施例13 トランスジェニックゼブラフィッシュ
ゼブラフィッシュ(ダニオ・レニオ(Danio rerio))胚は、数百細胞期において、ゼブラフィッシュにおける特定の細胞型に特異的なプロモーターの下にChR2を含むプラスミドDNAを急性的に注入された。それから、ゼブラフィッシュ中のランダムな細胞サブセットはDNAを取り込み、魚の発生の間中、該プラスミドを維持し、その後、特定の細胞がプラスミド中のChR2を発現する。図9は、ゼブラフィッシュ三叉神経(左)、およびゼブラフィッシュ筋細胞(右)において選択的に発現したChR2−EYFPの顕微鏡写真を示す。簡単には、受精後48時間から96時間の幼生は、フィッシュ・リンゲル液中の0.02%トリカインで麻酔され、画像処理および光刺激のために1.2%アガロース中にマウントした。筋肉でChR2を発現している生きた魚への0.5秒の青色光の照射は、急速で、位相性の、1回の筋収縮を引き起こし、このことは、ChR2を含まないゼブラフィッシュでは見られなかった。ニューロンは、ChR2発現に対し十分に耐容性を示し、蛍光カルシウム色素(例えば、オレゴン・グリーン(Oregon Green)、BAPTA−1、X−rhod−1)を負荷することができ、二光子顕微鏡を用いて、ChR2を発現する選択的に活性化されたニューロンの下流のニューロン活性をモニターするのに適している。
【0212】
実施例14 トランスジェニックハエ
ハエにおいて遺伝子発現の柔軟な調節を可能にするGAL4−UASシステムにおいて使用するために、UASプロモーター下でChR2を発現するハエ(キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を生成した。UAS−ChR2ハエは、種々のショウジョウバエGAL4系統と交配することができ、ここ数年に亘って作製された多数のトランスジェニックハエを利用することができる。本発明者らは、セロトニン作動性ニューロンおよびドーパミン作動性ニューロンで排他的に発現されるGAL4を含むハエとUAS−ChR2を発現するハエとを交配している。これは、動機付け行動の制御および微細に調節された運動パターンの生成についての研究を可能にする。
【0213】
実施例15 トランスジェニックぜん虫
ぜん虫(線虫(C.elegans))は、ぜん虫の合胞体の生殖腺に特異的なプロモーター下にChR2を含むプラスミドを注入することによってChR2の発現が引き起こされた。ぜん虫はまた、可視的マーカー遺伝子を同時に注入され、トランスジェニック線虫の産生の成功を目視で検査することを可能にする。ぜん虫の生殖腺は、プラスミドDNAを取り込み、卵中の大きな染色体外アレイにDNAを保存し、ぜん虫の子孫までプラスミドを伝える。本発明者らは、機械感受性ニューロンAFD、介在ニューロンAIY、またセロトニン作動性ニューロンおよびドーパミン作動性ニューロンに、ChR2を標的化する線虫系統を作製した。これらのぜん虫は、安定な株の生成の成功を示す、可視的マーカー遺伝子を発現する。本発明者らは、動機付け行動の制御および微細に調節された運動パターンの生成において重要である、セロトニン作動性ニューロンおよびドーパミン作動性ニューロンにおいてChR2を線虫で発現させる。
【0214】
実施例16 トランスジェニックマウス
マウスは、BACトランスジェニック技術(遺伝子の本来の遺伝的環境を模倣するために)、または位置効果多様化技術(ニューロンのごく小さな集団において遺伝子がランダムに発現するのを可能にするトランスジェニック方法)を用いて、特異的遺伝子座(既存の遺伝子座に遺伝子を「ノック・インする」)に特異的プロモーターの制御下(特異的プロモーター下にChR2を含むプラスミドを前核注入することによる)で、遺伝子導入によりChR2を発現するように作製される。本発明者らは、これらの手段の全てを探究している。本技術の能力を速やかに証明するため、本発明者らは、位置効果多様化を用いてニューロンの小集団でChR2が発現可能となるマウスを構築した。本発明者らは、神経系の多くの部分において投射ニューロンで発現される免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであるThy1(Gordonら、Cell 50:445(1987)、Fengら、Neuron 28:41(2000))遺伝子に対するプロモーター下にChR2を配置した。Thy1プロモーターの制御下でGFPを発現している従来の遺伝子組換え体は、Thy1プロモーターと局所制御エレメントとがランダムに相互作用により、Thy1−GFPマウスの多くの系統がニューロンの小集団においてGFPを発現することを示した(Fengら、2000)。本発明者らは、Thy1−ChR2−EYFPを含む直線化プラスミドをマウスの胚性幹細胞に注入し、これらのマウスは、現在、神経系のニューロンの特定の小集団においてThy1を発現する子孫を産生するために交配している。これらのマウスは、脳におけるこれまでに知られていなかった細胞型の機能解析に極めて有力であることが検証され、特定のニューロン型の因果機能の理解へと導くだろう。
【0215】
実施例17
ChR2を用いたげっ歯類光受容体変性症の治療
網膜変性疾患によって引き起こされる光受容細胞の死は、多くの場合、光に対するレチナール応答の完全な喪失をもたらす。網膜内ニューロンは、レンチウイルスベクターを用いてチャネルロドプシン−2(ChR2)を送達させることによって、光感受性細胞に変換することができる。該ベクターは、上記実施例に記載されるように構築可能である。
【0216】
ベクター感染−新生仔(P1)ラット(スプラーグ−ドーリーおよびロング−エバンス(Long−Evans))およびマウス(C57/BLおよびC3H/HeJまたはrd1/rd1)の仔は、氷上冷却によって麻酔することができる。成熟マウス(rd1/rd1)は、ケタミン(katamine)(100mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)の組合せの腹腔内注射によって麻酔することができる。解剖顕微鏡下で、強膜を露出させるために眼瞼を通ってはさみで切開される。水晶体後方の強膜領域に針で小さな穿孔を作製され、約13×1011ゲノム粒子/mlの濃度のウイルスベクター懸濁液0.8〜1.5μlは、32ゲージの平滑な末端の針を有するハミルトンシリンジでその穴から硝子体内の空間に注入され得る。各動物に対しては、通常、片方の目だけに、Chop2−GFPを有するウイルスベクターが注入され、他方の目には注入されないか、またはGFPのみを有するウイルスベクターが注入される。注入後、動物は、12時間/12時間の光/暗サイクルで飼育される。500nmの波長で測定される、動物飼育部屋の光照射は、典型的には、6.0×1014光子cm-2s-1である。
【0217】
トランスフェクトした網膜ニューロンにおけるChR2タンパク質の発現および機能特性は、本明細書中に記載された方法を含む、当分野において知られている方法によって測定することができる。
【0218】
視覚誘発電位記録−視覚誘発電位記録は、4〜6ヶ月齢の野生型マウス(C57BL/6および129/SV)、ならびに6〜11ヶ月齢およびウイルスベクター注入後2〜6月齢rd1/rd1マウスにおいて実行した。ケタミン(100mg/kg)およびアセプロマジン(0.8mg/kg)の組合せの腹腔内注射による麻酔後、動物を定位固定装置に載せる。体温は、温熱パットおよび直腸測定用電極で34℃に維持されるかまたは管理されない。1%アトロピンおよび2.5% accu−フェニレフリンによって瞳孔を拡張する。正中から約2.5mmで人字縫合の頭側1mmを中心とした頭蓋骨の小片(約1.5×1.5mm)をドリルで穴を開け、取り出す。刺激した目の反対側の皮質表面の真下0.4mm進行させたガラス製マイクロピペット(4M NaClで満たした後、約0.5Mの抵抗)によって視覚野(領域V1)から記録される。刺激は、0.5Hzで20msパルスである。応答は増幅され(1,000〜10,000)、バンドパスフィルター(0.3e100Hz)を通され、デジタル化され(1kHz)、30〜250回の試行が平均化される。
【0219】
光刺激−視覚誘発電位のために、光刺激は、モノクロメーターによって生成され、光ファイバーを通じて目に投影される。光強度は、中間密度フィルターによって弱められる。光エネルギーは、薄型センサー(TQ82017)および光学光強度測定器(モデル:TQ8210)(アドバンテスト(Advantest)、東京、日本)によって測定される。
【0220】
実施例18
マクロカプセル化したChR2トランスフェクト膵島の移植によるマウス高血糖症の治療
マクロカプセル化した膵島は、腹腔(i.p.)、皮下(s.c.)、または脂肪体に移植されると、糖尿病の動物における高血糖症を一変させることができる。マクロカプセル化したChR2トランスフェクト膵島の移植は、時間的に正確な様式でインスリン放出を制御する方法を提供する。これは、ChR2で膵島をトランスフェクトし、これらの細胞を動物の皮膚に移植し、光を用いてそれらを制御することによって達成することができる。
【0221】
動物−25〜30gの雄のスイス・ウェブスター(Swiss Webster)ヌードマウス(タコニック(Taconic)、ニューヨーク州ジャーマンタウン(Germantown,NY))は、クエン酸塩バッファー(pH4.5)に溶解した4%ストレプトゾシン(STZ*)(シグマ(Sigma)、ミズーリ州セントルイス(St.Louis,MO))を250mg/kg体重(bw)で腹腔内注射することにより糖尿病にすることができる。次に、350mg/dlを超える血糖値の動物だけがレシピエントとして用いられる。約250gのスプラーグ−ドーリー(SD)ラット(タコニック)はドナーとして使用される。全ての動物は、通常条件下で、標準的な固形飼料および生水に自由にアクセスできる気候順化した部屋で飼育される。レシピエントの非空腹時血糖値および体重(bw)は、移植当日、次いで、7週間、毎週測定される。血糖濃度は、ワンタッチIIポータブルグルコメーター(One Touch II portable glucometer)(ライフスキャン社(Lifescan Inc.)、カリフォルニア州ミルピタス(Milpitas,CA))を用いて測定することができる。ドナーおよびレシピエントの血漿グルコースと全血グルコースとの関係を比較するために、自由に餌を与えられた正常マウスおよびラット、および絶食させた正常マウスおよびラットからの血漿の追加試料を回収した。血漿グルコース値は、グルコース・アナライザー2(Glucose Analyzer 2)(ベックマン(Beckman)、カリフォルニア州パロ・アルト(Palo Alto,CA))によって評価することができる。
【0222】
膵島単離−ラット膵島は、当分野において知られている技術を用いて単離される。例えば、1〜2mg/mlのコラゲナーゼP(ベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim)、インディアナ州インディアナポリス(Indianapolis,IN))溶液を膵管に注入し、膵臓を37℃で19分間消化する;次に、膵島は、ヒストパーク−1077(Histopaque−1077)(シグマ)を用いた不連続密度勾配遠心法を用いて外分泌組織から分離される。50〜250μmの直径を有する膵島を手動で拾い、カウントし、10%ウシ胎児血清、100U/mlペニシリン、および100mg/mlストレプトマイシンを補足した、200mg/dlの標準的なグルコース濃度を有するRPMI−1640組織培養液中で培養する。
【0223】
膵島は、前述の実施例に記載されるように、ChR2を用いてトランスフェクトすることができる。トランスフェクトされた細胞におけるChR2タンパク質の発現および機能特性は、本明細書中に記載された方法を含む、当分野において知られている方法によって測定することができる。
【0224】
マクロロカプセル化および移植−20μlの内部容積を有するポートデバイス(テラ・サイト(商標)(Thera Cyte))は、膵島マクロカプセル化に用いることができる。該デバイスは、外側に支持体を提供するポリエステルメッシュを有する外部孔径5μmのポリテトラフルオロエチレンの血管新生膜に積層した0.45μmの通常の孔径を有する細胞保持膜、の3層から構成されるメンブレンラミネートから加工されている。四角形のメンブレンラミネートは、超音波溶接によって縁にシールされる。デバイスの一端には、ポリエチレンチューブが、内腔へのアクセスを提供するために接着されている。一定分量1200個の膵島は、エッペンドルフ(Eppendorf)チューブで20μlの容積に懸濁され、ハミルトン(Hamilton)シリンジを用いてデバイスの内腔にポートを通して移植される;チューブは、シラスティック(Silastic)シリコン接着剤(ダウ・コーニング社(Dow Corning Corp.)、ミシガン州ミッドランド(Midland,MI))を用いてシールされる。移植は、メトファン(Metofane)麻酔下で行うことができる。皮下移植する場合、動物の背中の右側面が約2cm皮膚切開され、適度な鈍的切開で皮下ポケットを作製する。デバイスをこのポケットに挿入し、切開を創傷クリップで閉じた。
【0225】
細胞は、末端に光ファイバーを接続した発光ダイオードまたはレーザー、または本明細書中で記載された方法によって、活性化されインスリンを放出し得る。
【0226】
耐糖能テスト−移植後7週目に、IPGTTを行う(グルコース2g/kg体重、10%溶液として注入される)。グルコース負荷前には、全ての動物は、約16時間絶食にする。血糖のための試料は、尾の切れ目から、グルコース注入後の0分、15分、30分、60分および120分で採取する。
【0227】
実施例19
中空繊維におけるドーパミン作動性ChR2トランスフェクトニューロンの産生
ES細胞分化におけるPA6CMの効果−ES細胞は、ニューロン分化を誘導するためにPA6CMを用いて培養される。PA6の馴化培地(CM)を調製するために、コンフルエントなPA6細胞は、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含むリン酸緩衝化生理食塩水[PBS(+)]で3回洗浄し、次に、5% KSR、0.1mM非必須アミノ酸、1mMピルビン酸および0.1mM 2−メルカプトエタノールを含み、ヘパリン(10または100mg/ml)を含むかまたは含まないG−MEMによって置き換えられる。48時間後、その上清を回収し、0.22mmフィルターでろ過する。ヘパリンを含まない、10mg/mlヘパリンを含む、および100mg/mlヘパリンを含むGMEM培地を用いて回収したCMは、それぞれCM−0H、CM−10H、およびCM−100Hと呼ばれる。
【0228】
ES細胞は、5% KSR、0.1mM非必須アミノ酸、1mMピルビン酸および0.1mM 2−メルカプトエタノールを補足したG−MEM中に1250細胞/cm2の密度で、ポリオルニチン(シグマ)/フィブロネクチン(インビトロジェン)コートガラスプレート上に播種される。5時間後、CM−0H、CM−10H(ヘパリンの最終濃度は3.3mg/ml)、またはCM−100H(ヘパリンの最終濃度は33mg/ml)は、培養培地の13倍容積になるまで培養プレートに添加し、十分に混合する。全ての培養ディッシュは、5%CO2を含む空気中、37℃で16日間維持される。
【0229】
中空繊維中でのES細胞の分化−半透性ポリマーメンブレンから加工され、種々の直径および壁厚で利用可能な中空繊維は、ハウジング(housing)に差し込まれ、人工腎臓および人工肺などの体外の人工臓器で広範囲に用いられる。3種類の中空繊維が、ここで用いることができる。FB−150Fファイバーは、血液透析(ニプロ(NIPRO)、大阪、日本)に用いられ、内径200mmおよび壁厚15mmを有するセルロース取りアセテートから作られている。エバフラックス(Evafluxs)2Aおよびエバフラックス5Aファイバーは、血漿交換(クラレ(Kuaray)、岡山、日本)に用いられ、内径175mmおよび壁厚40mmを有するエチレンビニルアルコール共重合体から作られている。FB−150F、エバフラックス2Aまたはエバフラックス5Aの中空繊維は、HF−1、HF−2またはHF−3と呼ばれ、それらの分子量遮断値は、それぞれ55kD(95%遮断)、144kDa(90%遮断)および570kDa(90%遮断)である。ES細胞は、PBS中の0.25%トリプシンおよび1mM EDTAを用いてそれらを処理することによって単一細胞に解離される。細胞は1×107細胞/mlの濃度で、1mlシリンジに充填され、9cmの長さの中空繊維に穏やかに注入される。ES細胞を充填した繊維は、100mm細胞培養ディッシュに播種し、5% KSR、0.1mM非必須アミノ酸、1mMピルビン酸、0.1mM 2−メルカプトエタノールおよび33% CM−10Hを補足したG−MEM中で維持される。全ての培養ディッシュは、5%CO2を含む空気中、37℃で16日間維持される。
【0230】
ES細胞は、本明細書に記載された方法によって、分化の前または分化の後で、ChR2を用いてトランスフェクトされ得る。
【0231】
培養細胞の細胞増殖は、当分野において知られる方法によって行うことができる。ES細胞のドーパミン作動性ニューロンへの分化は、免疫蛍光解析およびRT−PCRなどの当分野において知られている方法で実行することができる。ドーパミンレベルは、逆相HPLCなどの当分野において知られる方法によって測定され得る。
【0232】
トランスフェクトされた細胞におけるChR2タンパク質の発現および機能特性は、本明細書中に記載される方法を含む、当分野において知られている方法によって測定することができる。
【0233】
中空繊維中にドーパミン作動性ChR2をトランスフェクトしたニューロンの生成することは、例えば、パーキンソン病などに対する細胞療法を行うための前途有望なアプローチである。この方法は、今日直面する障害の2つである、最小限の損傷でドーパミン作動性ES子孫細胞を回収およびカプセル化、および、宿主免疫系からの移植細胞の保護を可能にする。さらに、ドーパミン作動性ニューロンにおけるChR2タンパク質の発現は、本明細書中で記載される方法に従って、脳内へのドーパミンの制御された放出を可能にする。本発明の好ましい実施形態は、本明細書中に示され、および記載されるが、このような実施形態が単なる一例として提供されていることは、当業者に明らかであろう。無数の差異、変更、および置き換えは、本発明から逸脱することなしに、直ちに当業者に見出されるであろう。本明細書中に記載される発明の実施形態に対する種々の代替案が、本発明の実施において採用されることは理解しなければならない。添付の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義し、特許請求の範囲内の方法および構造ならびにそれらの均等物はそれによって包含されることが意図される。シナプス伝達を誘発することは、ChR2が神経回路の時間的に正確な解析のための理想的なツールであることを示す。
【0234】
相互参照
本出願は、参照により全体として本明細書中に援用される、2005年7月22日出願の米国仮特許出願第60/701,799号に関連し、それに対する優先権を主張する。
連邦政府支援の研究としての陳述
本発明は、国立衛生研究所の契約番号K08MH071315およびF31DC007006による米国政府の支援、ならびにスタンフォード大学の医学工学学校の支援でなされた。
【0235】
参照による援用
本明細書中に言及される全ての刊行物および特許出願は、各々個々の刊行物または特許出願が参照により援用されるように具体的におよび個別的に示されているかのような程度に、参照により本明細書中に援用される。
【0236】
本発明は以下の態様を含む。
(1)光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する哺乳動物細胞を含む組成物。
(2)前記哺乳動物細胞が、神経細胞または幹細胞である、(1)に記載の組成物。
(3)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である、(1)に記載の組成物。
(4)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、7回膜貫通型タンパク質である、(1)に記載の組成物。
(5)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、単一成分のタンパク質である、(1)に記載の組成物。
(6)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、レチナールに共有結合する、(1)に記載の組成物。
(7)光活性化陽イオンチャネルタンパク質が哺乳動物細胞に発現される場合、1ms以内に光刺激に応答する前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質。
(8)光活性化陽イオンチャネルタンパク質が哺乳動物細胞に発現される場合、約60分の間中、約10%増加も減少もしない安定な光電流を生じる前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質。
(9)光活性化陽イオンチャネルタンパク質が哺乳動物細胞に発現される場合、約5ms未満の一過性微小振動を伴って電気的応答を生じる前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質。
(10)光活性化陽イオンチャネルタンパク質が哺乳動物細胞に発現される場合、5回のパルスにわたって0.2未満の変動係数を有する閾値下のパルスを生じることができる前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質。
(11)光活性化陽イオンチャネルの遺伝子およびプロモーターを含む核酸配列。
(12)前記プロモーターが、細胞特異的プロモーターである、(10)に記載の核酸配列。
(13)前記プロモーターが、ソマトスタチン、パルブアルブミン、GABAα6、L7、またはカルビンジンである、(11)に記載の核酸配列。
(14)前記プロモーターが、細胞汎用プロモーターである、(10)に記載の核酸配列。
(15)前記プロモーターが、EF1−アルファである、(13)に記載の核酸配列。
(16)前記核酸配列が、バクテリア人工染色体(BAC)を含む、(10)に記載の核酸配列。
(17)前記プロモーターが、誘導性プロモーターである、(10)に記載の核酸配列。
(18)前記誘導性プロモーターが、投与した薬物に応答し得るトランス作用因子によって誘導可能である、(16)に記載の核酸配列。
(19)別の機能性タンパク質に結合した光活性化陽イオンチャネルタンパク質を含む融合タンパク質。
(20)前記別の機能性タンパク質が、蛍光タンパク質である、(18)に記載の融合タンパク質。
(21)前記別の機能性タンパク質が、mCherry、GFP、YFP、またはCFPである、(19)に記載の融合タンパク質。
(22)前記別の機能性タンパク質が、細胞内領域を標的とする、(18)に記載の融合タンパク質。
(23)前記別の機能性タンパク質が、PDZドメインまたはAISドメインを有する、(18)に記載の融合タンパク質。
(24)光活性化陽イオンチャネルタンパク質およびプロモーターをコードする核酸配列を含む光活性化陽イオンチャネルタンパク質を送達するためのベクター。
(25)前記ベクターが、ウイルスを含む、(23)に記載のベクター。
(26)前記ウイルスが、レンチウイルスまたはレトロウイルスを含む、(24)に記載のベクター。
(27)光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現するトランスジェニック動物。
(28)前記動物が、ハエ、ぜん虫、マウス、またはゼブラフィッシュである、(27)に記載のトランスジェニック動物。
(29)光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる、(1)に記載の組成物。
(30)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる、(7)、(8)、(9)、または(10)に記載の光活性化陽イオンチャネルタンパク質。
(31)治療的に有効量の光活性化陽イオンチャネルタンパク質を、治療を必要とする患者に投与することを含む対象を治療する方法。
(32)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、該光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する細胞の形態、または光活性化陽イオンチャネルタンパク質をコードする核酸配列を含むベクターの形態のいずれかで投与され、前記ベクターの投与が、前記患者の細胞における光活性化陽イオンチャネルタンパク質の発現を引き起こす、(31)に記載の方法。
(33)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、光への曝露によって活性化される、(31)に記載の方法。
(34)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、ペプチドの放出を引き起こす、(33)に記載の方法。
(35)前記ペプチドが、インスリン、レプチン、ニューロペプチドY、サブスタンスP、ヒト成長ホルモン、セクレチン、グルカゴン、エンドルフィン、オキシトシン、バソプレッシン、オレキシン/ヒポクレチン、またはそれらの組合せである、(34)に記載の方法。
(36)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、小分子の放出を引き起こす、(33)に記載の方法。
(37)小分子が一酸化窒素またはカンナビノイドを含む、(36)に記載の方法。
(38)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、サイトカインの放出を引き起こす、(33)に記載の方法。
(39)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、筋細胞において発現されること、及び、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、筋細胞の収縮を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(40)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、神経細胞において発現されること、及び、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、シナプス事象を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(41)前記シナプス事象が、シナプス伝達を引き起こす、(40)に記載の方法。
(42)前記シナプス事象が、小分子神経調節物質の放出を含む、(40)に記載の方法。
(43)前記小分子神経調節物質が、ノルエピネフリン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリン、D−セリン、ヒスタミン、またはそれらの組合せである、(42)に記載の方法。
(44)前記シナプス事象が、興奮性である、(40)に記載の方法。
(45)前記シナプス事象が、抑制性である、(40)に記載の方法。
(46)前記ベクターが、細胞特異的プロモーターをさらに含む、(32)に記載の方法。
(47)前記投与が、前記患者の行動の調節を引き起こす、(31)に記載の方法。
(48)前記光活性化陽イオンチャネルが、幹細胞において発現されること、及び、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、幹細胞の分化を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(49)前記光活性化陽イオンチャネルが、幹細胞において発現されること、及び、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、幹細胞における複製、生存、および/または制御された死を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(50)前記光活性化陽イオンチャネルが、癌細胞において発現されること、及び、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、癌細胞における複製、生存、および/または制御された死を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(51)前記幹細胞が、ヒト胚性幹細胞である、(48)または(49)に記載の方法。
(52)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である、(31)に記載の方法。
(53)幹細胞における光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現することを含む幹細胞活性を調節する方法であって、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、光への曝露によって活性化されること、及び、前記活性化が該幹細胞の複製の調節を引き起こすことを特徴とする前記方法。
(54)前記幹細胞が、ヒト胚性幹細胞である、(53)に記載の方法。
(55)前記光活性化陽イオンチャネルが、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現している網膜神経節細胞の形態、または光活性化陽イオンチャネルタンパク質をコードする核酸配列を含むベクターの形態のいずれかで投与され、ここで該ベクターの投与が、前記患者の網膜神経節細胞における光活性化陽イオンチャネルタンパク質の発現を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(56)前記光活性化陽イオンチャネルが、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現している脊髄神経節細胞の形態、または光活性化陽イオンチャネルタンパク質をコードする核酸配列を含むベクターの形態のいずれかで投与され、ここで該ベクターの投与が、前記患者の脊髄神経節細胞における光活性化陽イオンチャネルタンパク質の発現を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(57)光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する網膜神経節細胞を含む網膜人工デバイス。
(58)光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する網膜神経節細胞を含む蝸牛人工デバイス。
(59)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である、(57)または(58)に記載のデバイス。
(60)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる、(31)に記載の方法。
(61)薬物の潜在的なイオンチャネル調節特性を予測するための方法であって:
(a)細胞において光活性化陽イオンチャネルタンパク質および対象とするイオンチャネルを発現させること;
(b)前記細胞を光に曝露し、前記細胞における第一応答をモニタリングすること;
(c)前記細胞を候補薬物に曝露すること;
(d)前記細胞をさらに光に曝露し、前記細胞における第二応答をモニタリングすること;
(e)第一応答および第二応答の比較に基づいて、前記候補薬物のイオンチャネル調節特性を測定すること、
を含む前記方法。
(62)前記応答のモニタリングが、前記細胞における蛍光の変化の光学画像処理を含む、(61)に記載の方法。
(63)前記応答のモニタリングが、前記細胞におけるシグナル伝達系をモニタリングすることを含む、(61)に記載の方法。
(64)前記シグナル伝達のモニタリングが、抗体、蛍光性小分子、または遺伝子にコードされた指示薬である、(63)に記載の方法。
(65)対象とする前記イオンチャネルに対する前記候補薬物の選択的効果を評価するために実行される、(61)に記載の方法。
(66)チャネルスプライスバリアント、チャネルアイソフォーム、別々のニューロンタイプにおいてそれぞれ発現されるチャネル、脳の別々の部分にそれぞれ発現されるチャネル、別々の臓器においてそれぞれ発現されるチャネル、または長期間別々に発現されるチャネルに対する前記薬物の別々の効果が評価される、(61)に記載の方法。
(67)対象とする前記イオンチャネルが、HERGチャネルである、(61)に記載の方法。
(68)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である、(61)に記載の方法。
(69)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、配列番号2または3の配列によってコードされる、(61)に記載の方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューロンに導入され、光の急速なパルスで照射された場合、ミリ秒単位の電気的スパイクを生じ得る光活性化陽イオンチャネルタンパク質に関する。具体的には、本発明は、細胞、細胞株、トランスジェニック動物、およびヒトにおける中程度の光強度を用いた陽イオンチャネルのミリ秒単位での時間的調節を提供する。本発明は、ニューロンネットワークの制御、薬物スクリーニング、および治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
イオンチャネルタンパク質は、例えば、細胞質と細胞外部との間の細胞膜を横切るイオンの流れを調節する。陽イオンチャネルは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リチウム、ルビジウム、およびセシウムなどの陽イオンの流れを調節することによって機能する。陽イオンチャネルが閉じると、細胞膜を横切る陽イオンの輸送は遅くなり、陽イオンチャネルが開かれると、チャネルを通じて陽イオンの流れが増加する。チャネルの開口が、細胞膜の一方に陽イオンの正味の流れをもたらす場合、電流が発生する。細胞膜を横切るイオンの流れは、細胞膜を隔てた電位の変化をももたらすことができる。チャネルが開口している時に細胞膜を隔てた正味の電位があれば、陽イオンは、細胞膜の脱分極を引き起こすように流れる傾向にある。ニューロン(神経細胞)は急激な脱分極を用いて、ニューロンに沿って伝播する電気的シグナルを発生させる活動電位(スパイク)を生じさせる。これらの活動電位、神経インパルス、またはスパイクは、ミリ秒単位で発生し、それらは、ニューロンがシグナルに応じて作用する基本であり、脳および筋肉の機能を調節する。
【0003】
ニューロンは、シグナルを受け取り、伝導し、伝達する。運動ニューロンでは、シグナルは、特定の筋肉の収縮のための指令に相当する。感覚ニューロンでは、シグナルは、特定のタイプの刺激が存在するという情報に相当する。介在ニューロンでは、シグナルは、多くの異なる供給源からの感覚情報を組み合わせ、応答における適切な一連の運動指令を生じる計算の一部に相当する。伝達は、細胞の他の部分に広がる、細胞膜のある部分における電気的な乱れに依存している。これらの伝達は、多くの場合、スパイクまたは神経インパルスとも呼ばれる活動電位を介している。神経シグナルは、細胞接触に専門化した部位であるシナプスにおいて細胞から細胞へと伝達される。シナプスは、電気的シナプス(ギャップジャンクション)、または化学的シナプスのいずれかであり得る。化学的シナプスを横切る伝達の通常の機構は、神経伝達物質の放出をもたらす第一の(シナプス前)ニューロン内の電位の変化を伴う。神経伝達物質は、ニューロン間のギャップ(シナプス間隔)を横切って第二の(シナプス後)ニューロンに拡散する。神経伝達物質は、ポストシナプス性ニューロンにおける電気的応答を誘発することができる。シナプス前ニューロンからの電気的シグナルによりシナプスで生じた変化は、シナプス事象である。シナプス事象は、興奮性または抑制性であり得る。シナプス事象を調節することによって、ニューロン間のシグナルの伝達の調節は制御され得て、連結したニューラルネットワークを通じて活性の光学的制御を可能にする。
【0004】
特定の神経集団における活性の非侵襲的な時間的調節は、神経科学の念願のゴールである。哺乳動物の神経系では、神経計算は、連結したネットワークの中で、固有の遺伝子マーカーを発現し、不均一な形態的特徴および配線特性を示す、様々なクラスのニューロンの多様で正確な一過性のスパイク発火パターンに依存していると考えられている。(例えば、Pouilleら、Nature 429:717(2004)、Nirenbergら、Neuron 18:637(1997)、Klausbergerら、Nature 421:844(2003)、Hausserら、Neuron 19:665(1997))。完全な状態の脳組織における直接的な領域刺激およびニューロンの記録は、回路亜領域の因果機能についての多くの洞察を与えたが(Kandelら、J Neurophysiol 24:243(1961)、Kandelら、J Neurophysiol 24:225(1961)、Ditterichら、Nat Neurosci 6:891(2003)、Goldら、Nature 404:390(2000)、Salzmanら、Nature 346:174(1990))、特定のタイプに属するニューロンは、多くの場合、密集した組織内にまばらに埋め込まれており、情報処理における特定のニューロンタイプの因果的役割を解明するための基礎的な課題を提起している。
【0005】
多くの細胞性神経科学プロセスおよびシステム神経科学プロセスに関して(ならびに、線虫のような種における非スパイキングニューロンに関して)、閾値下の脱分極は、生理学的に意義のある情報を伝える。例えば、閾値下の脱分極は、シナプス−細胞核間シグナルを活性化するために非常に効果的であり(Mermelsteinら、J.Neurosci.20:266(2000)、閾値下及び閾値以上での脱分極の相対的タイミングは、シナプス可塑性のサインを決定するために重要である(Biら、J.Neurosci.18:10464(1998))。しかし、スパイク発火を制御することと比較して、信頼性のある正確にサイズが規定された閾値下の脱分極を制御することは、原理的にはより困難な課題である。活動電位産生に対するはっきりとした閾値は、信頼性のあるスパイク発火を容易にするが、スパイク発火の全か無かの動態により、電気的性質におけるニューロン間の有意な変動性の存在下でも、スパイク間で実質的に同一な波形を産生する。対照的に、膜電位の線形領域において機能する、閾値下の脱分極は、これらの内在性の正常化機構を欠損している。
【0006】
グルタミン酸の脱ケージ化(uncaging)(例えば、Shepherdら、Neuron 38:277(2003)、Denkら、J Neurosci Methods 54:151(1994)、Pettitら、J Neurophysiol 81:1424(1999)、Yoshimuraら、Nature 433:868(2005)、Dalvaら、Science 265:255(1994)、Katzら、J Neurosci Methods 54:205(1994))のような非細胞型特殊技術によるニューラルネットワークの解析でなされた進歩にもかかわらずに、未だに、単一スパイクの解像度で特定のニューロンにおける神経情報符号化をプローブするために必要とされている時間空間的解像度を示す非侵襲的技術は発明されていない。従来の遺伝子にコードされた光学的方法は、恐らくはそれらの膜電位調節機構の性質により、数秒から数分の単位でのみ神経機能の調節を証明している。大体1000倍速い動態が、個々のスパイクまたはシナプスイベントの遠隔制御を可能にするであろう。したがって、既存の遺伝子標的アプローチは、高価で、注文により合成された外因性化合物を必要とし、数秒から数分の単位で機能する(Limaら、Cell 121:141(2005)、Banghartら、Nat Neurosci 7:1381(2004)、Zemelmanら、Proc Natol Acad Sci USA 100:1352(2003)、Fosterら、Nature 433:698(2005))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Pouille他、Nature 429:717(2004)
【非特許文献2】Nirenberg他、Neuron 18:637(1997)
【非特許文献3】Klausberger他、Nature 421:844(2003)
【非特許文献4】Hausser他、Neuron 19:665(1997)
【非特許文献5】Kandel他、J Neurophysiol 24:243(1961)
【非特許文献6】Kandel他、J Neurophysiol 24:225(1961)
【非特許文献7】Ditterich他、Nat Neurosci 6:891(2003)
【非特許文献8】Gold他、Nature 404:390(2000)
【非特許文献9】Salzman他、Nature 346:174(1990)
【非特許文献10】Mermelstein他、J.Neurosci.20:266(2000)
【非特許文献11】Bi他、J.Neurosci.18:10464(1998)
【非特許文献12】Shepherd他、Neuron 38:277(2003)
【非特許文献13】Denk他、J Neurosci Methods 54:151(1994)
【非特許文献14】Pettit他、J Neurophysiol 81:1424(1999)
【非特許文献15】Yoshimura他、Nature 433:868(2005)
【非特許文献16】Dalva他、Science 265:255(1994)
【非特許文献17】Katz他、J Neurosci Methods 54:205(1994)
【非特許文献18】Lima他、Cell 121:141(2005)
【非特許文献19】Banghart他、Nat Neurosci 7:1381(2004)
【非特許文献20】Zemelman他、Proc Natol Acad Sci USA 100:1352(2003)
【非特許文献21】Foster他、Nature 433:698(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、より高い時間解像度、非侵襲性、および遺伝子を基礎とした、神経作用の制御のための組成物および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の一態様は、微細な時間解像度で遺伝的に標的された光刺激を与える、ミリ秒単位の開口動態を有する光活性化陽イオンチャネル(LACC)タンパク質に関連した組成物および方法を提供し、回路動態、情報処理、および可塑性を制御するのに十分な、特定のニューロンにおける時間的活性パターンの解明を可能にする。本明細書中での組成物および方法は、イオンチャネル調節、シグナル伝達、一過性のスパイクおよびシナプス活性パターンによる神経情報符号化、感覚および運動情報処理、回路動態における介在ニューロン調節、および神経精神不全を含む多くの生物学的プロセスに重要な、速い時間単位での、インビトロおよびインビボの両方におけるニューロンおよび様々な他の細胞型の電気的およびイオン的環境の光学制御を提供する。本発明の追加の態様は、創薬、生物工学的および神経精神学的な応用のための光活性化陽イオンチャネルタンパク質に関する組成物および方法に関し、様々な医学的疾患を特徴付け、検出し、および治療する能力を向上させる。
【0010】
本発明の別の態様は、細胞において発現される光活性化陽イオンチャネルタンパク質を含む組成物であり、ここで、該細胞は、哺乳動物細胞、ニューロン、および幹細胞からなる群から選択される。一実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である。別の実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、7回膜貫通型タンパク質である。別の実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、単一成分のタンパク質である。さらに別の実施形態では、LACCタンパク質は、レチナールと共有結合する。
【0011】
本発明のなお別の態様は、1ms以内に光刺激に応答する単離されたLACCタンパク質である。
本発明の別の態様では、約60分間にわたって、約10%増加も減少もしない安定な光電流を発生させる単離されたLACCタンパク質である。
【0012】
本発明の別の態様は、約5ms未満の一時的な微小振動(jitter)を有する電気的応答を発生させる単離されたLACCタンパク質である。
【0013】
本発明の別の態様は、約5回のパルスにわたって、約0.2未満の変動係数を有する閾値下のパルスを発生させることができる単離されたLACCタンパク質である。
【0014】
本発明の別の態様は、LACCタンパク質に対する遺伝子およびプロモーターを含む核酸配列である。一実施形態では、プロモーターは、細胞特異的プロモーターである。別の実施形態では、プロモーターは、ソマトスタチン、パルブアルブミン、GABAα6、L7、またはカルビンジンに対するプロモーターである。別の実施形態では、プロモーターは、細胞汎用プロモーターである。別の実施形態では、プロモーターは、EF−1アルファである。別の実施形態では、核酸配列は、バクテリア人工染色体(BAC)を含む。別の好ましい実施形態では、プロモーターは、投与された薬物に応答され得るトランス作用性因子によって誘導可能なプロモーターなどの誘導性プロモーターである。
【0015】
本発明の別の態様は、別の機能性タンパク質と結合したLACCタンパク質を含む融合タンパク質である。一実施形態では、別の機能性タンパク質は、蛍光タンパク質である。一実施形態では、別の機能性タンパク質は、mCherry、GFP、YFP、またはCFPである。一実施形態では、別の機能性タンパク質は、細胞内領域を標的とする。一実施形態では、別の機能性タンパク質は、PDZドメインまたはAISドメインである。
【0016】
本発明の別の態様は、LACCタンパク質およびプロモーターをコードする核酸配列を含むLACCタンパク質を輸送するベクターである。一実施形態では、ベクターは、ウイルスを含む。ウイルスの好ましい実施形態は、レンチウイルスまたはレトロウイルスである。
【0017】
本発明の別の態様は、LACCタンパク質を発現する細胞である。一実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞、幹細胞、または神経細胞である。
【0018】
本発明の別の態様は、LACCタンパク質を発現する細胞株である。一実施形態では、細胞株は、哺乳動物細胞株、幹細胞株、または神経細胞株である。
【0019】
本発明の別の態様は、LACCタンパク質を発現するトランスジェニック動物である。一実施形態では、トランスジェニック動物は、ハエ(fly)、ぜん虫(worm)、マウス、またはゼブラフィッシュ(zebrafish)である。
【0020】
本発明の別の態様は、細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現させること;および、LACCタンパク質を活性化させるために細胞を光に晒すことを含む、光学的に細胞特性を制御する方法である。好ましい一実施形態では、細胞への光の曝露は、細胞における電気的応答を発生させる。別の好ましい実施形態では、LACCタンパク質の活性化は、ペプチド(例えば、インスリン、レプチン、ニューロペプチドY、サブスタンスP、ヒト成長ホルモン、セクレチン、グルカゴン、エンドルフィン、オキシトシン、バソプレッシン、オレキシン/ヒポクレチン)の放出を引き起こす。別の好ましい実施形態では、LACCタンパク質の活性化は、小分子の放出を引き起こし、その小分子の合成または放出は、細胞の電気活性に依存する(例えば、一酸化窒素、またはアナンダミドもしくは2−アラキドノイルグリセロール(2−AG)などのカンナビノイド)。本発明の別の好ましい実施形態では、LACCタンパク質の活性化は、サイトカインの放出を引き起こす。本発明の別の好ましい実施形態では、細胞は、筋肉細胞をもたらし、LACCタンパク質の活性化は、筋細胞の収縮を引き起こすことを含む。
【0021】
本発明の別の態様では、シナプスで終わるニューロンにおいてLACCタンパク質を発現させるようにすること;および、LACCタンパク質を活性化させるためにニューロンを光に晒すことを含むシナプス伝達を制御する方法であって、ここで、光への曝露はシナプス事象を引き起こす。一実施形態では、シナプス事象は、シナプス伝達を生じさせる。別の実施形態では、シナプス伝達は、第二ニューロンに信号を伝達する。別の実施形態では、シナプス伝達は、連結したニューラルネットワークを通じて活性を制御する。別の実施形態では、シナプス事象は、興奮性また抑制性である。なお別の実施形態では、シナプス事象は、ノルエピネフリン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリン、D−セリン、ヒスタミンなどの小分子神経調節物質、または細胞機能を調節する他の小分子の放出を含む。
【0022】
本発明の別の態様は、細胞と、LACCタンパク質を含む核酸配列を含むベクターとを接触させることを含む、特定の細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質の標的化送達のための方法であり、前記ベクターは、選択的に特定細胞を標的とする。
【0023】
本発明の別の態様は、細胞と、LACCタンパク質を含む核酸配列および細胞特異的プロモーターを含むベクターとを接触させることを含む、特定の細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質を標的化送達するための方法であり、前記特定細胞は、前記LACCタンパク質を発現する。
【0024】
本発明の別の態様は、一群の細胞においてLACCタンパク質を発現させ;前記群の細胞に効果があり得る化合物を晒し;該群の細胞を光に晒し;および、該化合物が該細胞に効果があるかどうかを決定するために該群の細胞内の細胞の電気的応答をモニターすることを含む薬物のスクリーニング方法である。好ましい実施形態では、電気的応答のモニターは、蛍光の変化を視覚的に画像化することを含む。
【0025】
本発明の別の態様は、対象内の興奮性細胞にLACCタンパク質を含むベクターを送達させること;および、このような興奮性細胞に影響を与えるために該細胞を光に晒すことを含む、対象を治療する方法である。
【0026】
本発明の別の態様では、生物内の細胞にLACCタンパク質を含むベクターを送達させること;および、生物の行動を制御するために該細胞を光に曝露することを含む、生物の行動を制御する方法である。
【0027】
本発明の別の態様は、一群の神経細胞を一群の細胞のサブセットに遺伝的に標的化することができるベクターで曝露すること;および、細胞のサブセットにおいてLACCタンパク質を活性化するために細胞を光に曝露することを含む、他の神経細胞の存在下で神経細胞のサブセットを刺激する方法である。
【0028】
本発明の別の態様は、細胞がLACCタンパク質を発現させるようにすること;および、LACCタンパク質を活性化するために細胞を光に曝露することを含む細胞における分化を制御する方法であって、LACCタンパク質の活性化が、曝露された細胞の子孫の分化を制御する。好ましい実施形態では、細胞は、幹細胞を含む。
【0029】
本明細書中に記載される好ましい実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる。
【0030】
本発明の別の態様は、治療的に有効量の光活性化陽イオンチャネルタンパク質をそれを必要とする患者に投与することを含む、患者を治療する方法である。本明細書中に記載される方法および組成物は、治療的利益および/または予防的利益のために利用することができる。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルは、活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する細胞の形態、または光活性化陽イオンチャネルタンパク質をコードする核酸配列を含むベクターの形態のいずれかで投与され、前記ベクターの投与が、前記患者の細胞における光活性化陽イオンチャネルタンパク質の発現を引き起こす。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる。好ましい実施形態では、光を用いた光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化は、インスリン、レプチン、ニューロペプチドY、サブスタンスP、ヒト成長ホルモン、セクレチン、グルカゴン、エンドルフィン、オキシトシン、バソプレッシン、オレキシン/ヒポクレチンなどのペプチド、またはそれらの組合せの放出を引き起こす。光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化はまた、一酸化窒素またはカンナビノイドなどの小分子の放出を引き起こすことができる。同様に、光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化は、サイトカインの放出を引き起こすことができる。いくつかの実施形態では、光活性化陽イオンチャネルは、筋細胞において発現され、光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化は、筋細胞の収縮を引き起こす。別の実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、神経細胞において発現され、光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化は、シナプス事象を引き起こす。シナプス事象は、ノルエピネフリン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリン、D−セリン、ヒスタミンなどの小分子神経調節物質、またはそれらの組合せの放出を引き起こすことができる。シナプス事象は、興奮性または抑制性であり得る。光活性化陽イオンチャネルは、ヒト胚性幹細胞などの幹細胞において発現され得て、光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化は、幹細胞の分化を引き起こすことができる。光活性化陽イオンチャネルは、癌細胞において発現され、光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化は、癌細胞の複製、生存、および/または制御された死の調節を引き起こす。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である。インビボまたはエクスビボ法の実施形態は、幹細胞にいて光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現させることを含み、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、光への曝露によって活性化され、前記活性化は、幹細胞の複製の調節を引きこすことができる。好ましい実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、網膜神経節細胞または脊髄神経節細胞において発現される。好ましい実施形態は、人工装具(器官)であり、即ち、光活性化陽イオンチャネルを発現する移植(インプラント又は埋め込み)(inplantation)用細胞である。好ましい人工装具(器官)は、耳用または眼用であり、好ましくは、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310を発現する。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる。
【0031】
なお別の好ましい態様は、薬物の特性を調節する潜在的なイオンチャネルを予測する方法であって、(a)細胞において、光活性化陽イオンチャネルタンパク質および対象とするイオンチャネルを発現させること;(b)前記細胞を光に晒し、前記細胞における第一応答を監視すること;(c)前記細胞を候補薬物に晒すこと;(d)前記細胞をさらに光に晒し、前記細胞における第二応答を監視すること;(e)第一応答および第二応答の比較に基づいて、前記候補薬物の特性を調節するイオンチャンネルを決定することを含む。これら応答のモニタリングは、前記細胞における蛍光の変化を視覚的に画像化すること、またはシグナル伝達経路をモニタリングすることを含むことができる。シグナル伝達経路は、抗体、蛍光小分子、または遺伝的にコードされた指示薬を用いて監視することができる。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、光を用いて、細胞膜の電気的特性および化学的特性を調節するための新規な組成物および方法を提供する。本発明はまた、膜の電気的特性および化学的特性の非侵襲的な、遺伝的に標的とされた、高い時間的解像度での制御も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】ChR2−YFPを発現している海馬ニューロンの顕微鏡写真を示す。
【図1B】1秒間の励起光(図の全体を通じて線で示される)によって誘発された電位固定ニューロン(左)における内向き電流を示し、集合データを含む(中:平均値+標準偏差;n=18)。図はまた、YFPフィルターを通した光がより小さな電流を誘発することを示す(右;n=5)。
【図1C】図1Bと同様に照射された海馬ニューロンにおける光パルスに応答した電流を示す。
【図1D】1秒間の青色光によって誘発された電流固定海馬ニューロン(左)における膜の脱分極およびスパイクを示す電位トレース。右、スパイク閾値に対する潜時、スパイクピークに対する潜時、およびスパイクピーク時間に対する微小振動、を示す誘発された第一スパイクの特性(n=10)。
【図1E】5ms(上段)、10ms(中段)、および15ms(下段)継続する、短い光連続パルスに応答した電位トレース。
【図2A】は、ポアソン列の光パルスの3回の送達に応答した、電流固定海馬ニューロンにおけるスパイクを示す電位トレース。
【図2B】同じニューロンに送達された同じポアソン列の2回の反復試行におけるスパイクの有無の比較によって測定した、光で誘発されたスパイク列の試行間の信頼性を示す。
【図2C】光で誘発されたスパイク列の試行間の微小振動を示す。
【図2D】全8秒のポアソン列を通じてのスパイク伝達の忠実度の割合を示す。
【図2E】各光パルス配列を通じたパルス潜時(i)、および列を通じたスパイク時間の微小振動(ii)を示す。
【図2F】図2Aで使用されるのと同じ時間的にパターン化された光刺激に応答した、3つの異なる海馬ニューロンにおけるスパイクを示す電位トレース。
【図2G】7個のニューロンのうちのいくつが、ポアソン列における各光パルスに応答してスパイクされたかを示すヒストグラム。
【図2H】光刺激によって誘発されたスパイクのニューロン間微小振動を示す。
【図3A】5Hz、10Hz、20Hz、または30Hzの光パルス列によって誘発された電流固定の海馬ニューロンにおけるスパイクを示す電位トレース。
【図3B】電流固定海馬ニューロンにおいて誘発されたスパイクの数(20回中)を示す集合データ。
【図3C】図3Bに記載した実験に関して、光パルス列によって誘発された外来性スパイクの数を示す。
【図3D】図3Bに記載された実験に関して、光パルス列全体を通してのスパイク時間の微小振動を示す。
【図3E】図3Bに記載される実験に関して、光パルス列全体を通じてのスパイクピークに対する潜時(latency)を示す。
【図4A】電流固定海馬ニューロン(左)における閾値下の脱分極を示す電位トレース。
【図4B】より長い光パルスが反復性の脱分極をどのように誘導したかを図示する。右、誘導した電位変化に対する変動係数(CV)(n=5ニューロン)。
【図4C】光パルスによって制御された興奮性シナプス伝達を示す。グルタミン酸作動性に対するブロッカーNBQXはこれらのシナプス応答を消滅させる(右)。
【図4D】光パルスによって制御される抑制性シナプス伝達を示す。GABA作動性伝達に対するブロッカーであるgabazineは、これらのシナプス応答を消滅させる(右)。
【図5A】ChR2を発現するニューロン(CHR2+;n=18)、ChR2を発現しないニューロン(CHR2−;n=18)、またはChR2を発現し光パルスプロトコール(CHR2+終了;n=2)への曝露後24時間で測定した、ニューロンの膜抵抗性を示す。
【図5B】図5Aに記載されたものと同じニューロンの静止膜電位を示す。
【図5C】同一のニューロンにおいて、300pAの脱分極によって誘発されたスパイク数を示す。
【図6】ChR2を含むレトロウイルスのマップを示す。
【図7】レンチウイルス形質導入によって導入されたChR2を発現するクローン幹細胞株の顕微鏡写真を示す。
【図8】光によって引き起こされた、神経前駆細胞(NPC)における核のSer−133 CREBリン酸化の増加を示す。
【図9】ニューロン(左)および筋細胞(右)において発現したChR2を有する、生きているゼブラフィッシュの顕微鏡写真である。
【図10】本発明の方法の1つの実施形態を図示する。
【図11】本発明の方法の1つの実施形態を図示する。
【図12】配列番号1を図示する。
【図13】配列番号2を図示する。
【図14】配列番号3を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の新規特徴は、添付した特許請求の範囲に具体的に記載される。本発明の特徴および利点のより十分な理解は、発明の原理が利用される例示的な実施形態を記載している下記の詳細な説明を参照することにより得られる。
【0035】
LACC
本発明の好ましい実施形態では、光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、7回膜貫通型タンパク質を含む。
本発明の好ましい実施形態では、LACCは、チャネルロドプシン−2(ChR2)タンパク質またはそのタンパク質の一部を含む。ChR2は、単細胞緑藻コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)由来のロドプシンである。用語「ロドプシン」は、本明細書中で使用するとき、少なくとも2つの構成要素であるオプシンタンパク質、および共有結合した補助因子、通常、レチナール(レチンアルデヒド)を含むタンパク質である。ロドプシンChR2は、オプシンであるチャネルオプシン−2(Chop2)由来である(Nagelら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:13940、およびそこで引用された参考文献)。本発明のLACCタンパク質は、このシステムに加えられるレチナールを組み込むことができ、または使用される細胞型に依存して、細胞に存在するバックグランド濃度のレチナールが必要なレチナールを産生してもよい。本発明の方法は、LACCタンパク質のオプシン形態またはロドプシン形態、例えばChop2もしくはChR2、のいずれかを包含する。典型的には、Chop2およびChR2は、補助因子の添加または除去によって相互変換され得る。このようにして、本明細書中で使用されるとき、LACCタンパク質は、補助因子を伴うオプシンまたは補助因子を伴わないオプシンを含む。例えば、本明細書中で使用するとき、核酸がChop2などのオプシンタンパク質をコードする場合、該核酸は、ChR2などの光活性化陽イオンチャネルタンパク質をコードする。さらに、本明細書中で使用するとき、細胞がChop2などのオプシンタンパク質を発現する場合、該細胞は、LACCタンパク質を発現する。
【0036】
本発明のLACCはまた、光によって活性化されると、膜を横切る塩素イオンなどの陰イオンの流れの変調を引き起こしてもよい。光によるLACCの活性化によって光学的に誘導される電気的および化学的変化は本発明の範囲内でもある。
【0037】
本発明のある実施形態では、補助因子(通常はナノモルからマイクロモルの範囲で)を添加することが望ましい。他の実施形態では、レチナールの添加は必要とされない。ある場合には、培地が必要とされる補助因子を提供してもよい。本発明の好ましい実施形態では、LACCタンパク質は、レチナールに共有結合する。用語レチナールは、本発明において使用されるとき、オールトランスレチナール、11−シスレチナール、およびレチナールの他のアイソフォームを含む。
【0038】
本発明のある実施形態では、タンパク質Bcdoは、ChR2と共に発現され得る。Bcdoは、一般的な食事性分子のベータカロチンをレチナールに変換し(Yanら、Genomics 72(2):193(2001))、したがって、Chop2をChR2に変換するためのレチナールを提供する。
【0039】
本発明中において使用されるとき、用語「ChR2」および「Chop2」は、全長のタンパク質またはその断片を意味する。本発明の好ましい実施形態は、Chop2のアミノ末端の310個のアミノ酸を含み、本明細書中ではChop2−310と呼ばれる。本発明の好ましい実施形態は、ChR2のアミノ末端の310個のアミノ酸を含み、ChR2−310と呼ばれる。ChR2のアミノ末端の310個のアミノ酸は、多くの微生物型のロドプシンの7回膜貫通構造に相同性を示し、光依存性の透過性を有するチャネルを含む。本発明の実施形態では、LACCタンパク質は、7回膜貫通型タンパク質を含む。好ましくは、LACCタンパク質は、レチナールに対する結合親和性を有するかまたはレチナールが結合した7回膜貫通型タンパク質である。
【0040】
好ましい実施形態では、本発明のLACCは、微生物型ロドプシン由来である。好ましい実施形態では、本発明のLACCは、バクテリオロドプシン由来である。
【0041】
本発明の一態様は、LACCタンパク質である単一成分のタンパク質である。本明細書中で使用するとき、単一成分のタンパク質は、アミノ酸の一本の共有結合的に連結された鎖である。複数成分システムは、非共有的に連結された分子間のコミュニケーションを必要とし、立体構造変化を介したタンパク質内のシグナリングよりも遥かに鈍いであろう。いくつかのタンパク質成分を必要とする従来の方法とは異なり、本発明は、単一のタンパク質成分を用いた光依存性の膜透過性をもたらすことを可能にする。理論的にはに結合しないが、ChR2中のレチナールは、微生物型ロドプシンとして、強力に結合し、他の酵素を必要としないでレチナールが暗反応におけるオールトランス基底状態に再異性化するようになると考えられている。この機構は、光が取り除かれた場合に、高速回復(イオンチャネルが閉鎖する)を可能にさせ、オールトランスレチナールの再生成およびチャネルの閉鎖のための他の酵素成分が不必要性とする。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、光活性化陽イオンチャネルであるチャネルロドプシン−2(ChR2)は、遺伝的に、細胞膜に組み込まれている。
【0043】
本発明のLACCタンパク質はまた、Chop2−310のタンパク質配列[配列番号1、図12に示される]も含む。この意味での「タンパク質」は、タンパク質、ポリペプチド、およびペプチドを含む。本明細書中で決定される自然発生の配列をもつアミノ酸変異体もまた本発明のLACCタンパク質に含まれる。好ましくは、該変異体は、Chop2またはChop2−310のタンパク質配列と約75%を超える相同性、より好ましくは約80%を超える相同性、さらにより好ましくは約85%を超える相同性、最も好ましくは90%を超える相同性をもつ。ある実施形態では、相同性は約93〜約95または約98%程の高いものとなる。この状況における相同性は、配列類似性または配列同一性を意味し、同一性が好ましい。この相同性は、当分野において知られる標準的な技術を用いて決定される。本発明の組成物は、本明細書において提供されるタンパク質および核酸配列を含み、提供される配列に対して約50%を超える相同性、提供される配列に対して約55%を超える相同性、提供される配列に対して約60%を超える相同性、提供される配列に対して約65%を超える相同性、提供される配列に対して約70%を超える相同性、提供される配列に対して約75%を超える相同性、提供される配列に対して約80%を超える相同性、提供される配列に対して約85%を超える相同性、提供される配列に対して約90%を超える相同性、または提供される配列に対して約95%を超える相同性の変異体を含む。
【0044】
本発明のLACCタンパク質は、Chop2またはChop2−310のタンパク質配列よりも短くても長くてもよい。したがって、好ましい実施形態では、Chop2タンパク質またはChop2−310タンパク質の配列の一部または断片が、LACCタンパク質の定義に含まれる。さらに、本発明の核酸は、当分野において知られている技術を用いて、追加の翻訳領域、つまり追加のタンパク質配列、を得るために使用することができる。
【0045】
好ましい実施形態では、本発明のLACCタンパク質は、Chop2またはChop2−310と比較して、誘導タンパク質または変異タンパク質である。つまり、本発明の誘導LACCタンパク質は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失または挿入を含み、アミノ酸の置換が特に好ましい。アミノ酸の置換、挿入または挿入は、LACCタンパク質内の任意の残基で起こってもよい。
【0046】
本発明のLACCタンパク質の実施形態には、ChR2、Chop2、ChR2−310、Chop−310または[配列番号1、図12に示される]のアミノ酸配列変異体も含まれる。これらの変異体は、3つの分類:置換、挿入または欠失変異体の1以上に該当する。これらの変異体は、通常、変異をコードするDNAを作製するために、カセット突然変異誘発もしくはPCR突然変異誘発または当分野において知られている他の技術を用いて、LACCタンパク質をコードするDNAにヌクレオチドの部位特異的突然変異誘発し、その後に組換え細胞培養においてDNAを発現させることによって作成される。アミノ酸配列変異体は、変異体の所定の性質、つまり、本発明のLACCタンパク質の自然発生による対立遺伝子変異または種間変異とは別に変異を規定する特性、によって特徴付けられる。該変異体は、典型的には、自然発生による類似体と同じ定性的な生物学的活性を示すが、修飾された特徴を有する誘導体もまた選択され得る。
【0047】
アミノ酸配列の変異を導入するための部位または領域は予定されてはいるが、突然変異そのものは予定されている必要はない。例えば、所定の部位での突然変異の実行を最適化するために、ランダム突然変異誘発が、標的コドンまたは標的領域で実行されてもよく、発現された乳癌変異体は、所望活性の最適な組み合わせを求めてスクリーングされる。既知の配列を有するDNAにおける予定された部位での置換突然変異を作製する技術は周知であり、例えば、M13プライマー突然変異誘発およびPCR突然変異誘発がある。
【0048】
アミノ酸の置換は、典型的には、単一残基の置換であり;挿入は、通常、約1〜20個のアミノ酸の次数であるが、非常に大幅な挿入が容認されてもよい。欠失は、約1〜約20残基の範囲であるが、ある場合には、欠失が非常に大きなものであってもよい。
【0049】
置換、欠失、挿入またはそのいずれかの組み合わせは、最終的な誘導体に達するために用いることができる。一般的には、これらの変化は、分子の改変を最小化するために数個のアミノ酸でなされる。しかしながら、より大きな変化は、ある種の状況では容認され得る。ある実施形態では、本発明のLACCタンパク質の特徴における小さな改変が望まれ、置換は、一般的に、下記の表に従ってなされる。
【0050】
【表1】
【0051】
機能における実質的な変化は、表1に示される置換よりも保存性の低い置換を選択することによって行われる。例えば、アルファヘリックス構造もしくはベータシート構造のような改変する領域におけるポリペプチド骨格の構造、;標的部位での分子の荷電もしくは疎水性;または側鎖の嵩により顕著に影響を与える置換がなされてもよい。一般的に、ポリペプチドの特性に最大の変化を与えると期待がされる置換は、(a)親水性残基、例えば、セリル残基またはスレオニル残基が、疎水性残基、例えば、ロイシル残基、イソロイシル残基、フェニルアラニル残基、バリル残基もしくはアラニル残基に(またはそれによって)置換されるもの;(b)システインもしくはプロリンが任意の他の残基に(またはそれによって)置換されるもの;(c)正電荷の側鎖を有する残基、例えば、リシル残基、アルギニル残基もしくはヒスチジル残基が、負電荷の残基、例えば、グルタミル残基もしくはアスパルチル残基に(またはそれによって)置換されるもの;または(d)嵩の高い側鎖を有する残基、例えば、フェニルアラニンが、側鎖を含まないもの、例えば、グリシンに(またはそれによって)置換されるものである。
【0052】
変異体または誘導体は、典型的には、Chop2、ChR2、Chop−310、またはChR2−310タンパク質と同じ定性的な活性を示すが、変異体または誘導体はまた、必要時にLACCタンパク質の特徴を改変するように選択される。変異体または誘導体は、イオン選択性の増大、安定性、速度、適合性、および毒性の減少を示すことができる。例えば、タンパク質は、野生型ChR2タンパク質の約460nmの波長とは異なった光の波長によって制御可能なように改変することができる。タンパク質は、例えば、約480nm、490nm、500nm、510nm、520nm、530nm、540nm、550nm、560nm、570nm、580nm、または590nmなどのより高い波長で制御可能なように修飾することができる。
【0053】
本発明のLACCタンパク質は、天然アミノ酸と同様に、非天然アミノ酸を組み入れることができる。該非天然アミノ酸は、イオン選択性、安定性、速度、適合性を増大させたり、毒性低くしたりするために使用することができる。
【0054】
本発明の態様は、光活性化陽イオンチャネルタンパク質を含む融合タンパク質である。いくつかのタンパク質の組み合わさった活性を有する単一のタンパク質を作成するように融合タンパク質が作製できることは、当分野において周知である。一実施形態では、融合タンパク質は、Chop2またはChR2を特定の細胞または細胞内の領域を標的とするように用いることができる。
【0055】
LACCタンパク質を含む融合タンパク質の一実施形態は、細胞の細胞内領域を標的とする融合タンパク質である。該融合タンパク質は、例えば、ニューロンの軸索、樹状突起、およびシナプスを標的とすることができる。好ましい実施形態では、PDZ(PSD−95、DlgおよびZO−1)ドメインは、樹状突起を標的とするChR2またはChop2に融合される。別の好ましい実施形態では、軸索起始部(AIS)ドメインは、軸索を標的とするChR2またはChop2に融合する。
【0056】
本発明の他の融合タンパク質は、ChR2の局在化のモニタリングを可能にするために、ChR2および蛍光タンパク質を組み合わせたタンパク質である。好ましい融合タンパク質は、赤色蛍光タンパク質(mCherry)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)および緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むものである。これらの融合タンパク質、例えば、ChR2−mCherry融合タンパク質は、ChR2の独立的な刺激と局在化の同時モニタリングを可能にする。同時刺激および局在化のモニタリングは、哺乳動物系を含む多くの細胞型において実行することができる。
【0057】
光活性化陽イオンチャネルタンパク質が発現される細胞において非毒性である光活性化陽イオンチャネルタンパク質を提供することが本発明の一態様である。好ましくは、本発明の光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、基礎電気特性を乱したりせず、動的電気特性を変化させず、細胞生存の見通しを危うくしたりはしない。好ましくは、本発明の光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、光がない場合での細胞の膜抵抗を変化させたりしない。好ましくは、光活性化陽イオンチャネルは、細胞におけるアポトーシスを導いたり、濃縮した核の生成を導いたりしない。好ましくは、光がない場合に、LACCタンパク質の存在は、漏洩性のチャネルを介した短絡電流によって、または既存のニューロン入力−出力関係の電位依存性を変化させることによって、電位またはスパイク出力における閾値下の変化のレベルで、細胞の健康状態および持続的な電気活性を変化させない。好ましくは、LACCタンパク質の存在は、該タンパク質を発現するニューロンの電気的特性において、有意な長期間の可塑性の変化および恒常性の変化を引き起こさない。
【0058】
本発明の別の態様は、本発明のLACCタンパク質をコードする核酸配列を提供する。本発明のLACCタンパク質は、種々の核酸によってコードされる得ることは、当業者に理解される。該タンパク質の各アミノ酸は、3個の核酸(コドン)の1以上のセットによって表わされる。多くのアミノ酸は、1以上のコドンによって表わされるため、所定のタンパク質をコードする唯一の核酸配列は存在しない。本発明のLACCタンパク質をコードすることができる核酸が、該タンパク質のアミノ酸配列を知ることによってどのように作製されるのかは、当業者に理解される。ポリペプチドまたはタンパク質をコードする核酸配列は、そのポリペプチドまたはタンパク質の「遺伝子」である。遺伝子は、RNA、DNA、またはポリペプチドまたはタンパク質をコードするであろう他の核酸であり得る。
【0059】
核酸配列の1つの好ましい実施形態は、[配列番号2、図13に示される]を含む。
【0060】
様々な生物におけるコドンシステムは、僅かに異なっていること、および、それゆえに、所定の生物由来の所定のタンパク質の発現が望まれる場合に、核酸配列が該生物内での発現のために修飾され得ること、は当業者に知られている。
【0061】
本発明の一態様は、哺乳動物細胞を用いた発現に最適化されている光活性化陽イオンタンパク質をコードする核酸配列を提供する。好ましい実施形態は、ヒト細胞における発現に最適化されている核酸配列を含む。
【0062】
ヒト細胞を用いた発現に最適化されている光活性化陽イオンタンパク質をコードする核酸配列の好ましい実施形態は、[配列番号3、図14に示される]を含む。
【0063】
本発明の別の態様は、ChR2を含むLACCタンパク質の遺伝的に標的化された発現のための試薬を提供する。遺伝的標的は、特定の細胞型、特定の細胞のサブタイプ、生物内の特定の空間領域、および細胞内の細胞内領域に光活性化陽イオンチャンネルタンパク質を送達するために用いることができる。遺伝的標的はまた、発現される光活性化陽イオンチャネルタンパク質の量、および該発現の時期の調節にも関する。
【0064】
LACCタンパク質の遺伝的に標的化された発現のための試薬の好ましい実施形態は、LACCタンパク質の遺伝子を含有するベクターを含む。
【0065】
本明細書中で使用するとき、用語「ベクター」は、操作的に(operatively)連結された別の核酸を異なる遺伝的環境間で運搬することができる核酸分子を意味する。用語「ベクター」はまた、核酸分子を運搬することができるウイルスまたは生物も意味する。好ましいベクターの一つの類型は、エピソーム、即ち、染色体外複製を可能にする核酸分子である。好ましいベクターは、自律的な複製が可能で、および/またはそれらが連結される核酸を発現することができるものである。操作的に連結された遺伝子を発現させることができるベクターは、本明細書中では「発現ベクター」を意味する。他の好ましいベクターは、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびファージなどのウイルスである。好ましいベクターは、分裂細胞および非分裂細胞の両方においてLACCタンパク質を遺伝的に挿入することができる。好ましいベクターは、インビボまたはインビトロでLACCタンパク質を遺伝的に挿入することができる。
【0066】
原核生物のレプリコンを含むベクターはまた、E.coliなどの細菌性宿主細胞で、LACCタンパク質を発現(転写および翻訳)させることができる原核生物プロモーターを含むこともできる。プロモーターは、RNAポリメラーゼの結合および転写が起こることを可能にするDNA配列によって形成される発現調節エレメントである。細菌性の宿主に適合するプロモーター配列は、典型的には、本発明のDNAセグメントの挿入のための利便性のある制限酵素部位を有するプラスミドベクター中に提供される。このようなベクタープラスミドの典型例は、バイオラッド・ラボラトリー(BioRad Laboratories)(カリフォルニア州リッチモンド(Richmonnd,Calif.))より市販されているpUC8、pUC9、pBR322、およびpBR329であり、ファルマシア(Pharmacia)(ニュージャージー州ピスカタウェイ(Piscataway,N.J.))より市販されているpPLおよびpKK223である。
【0067】
真核細胞に適合する発現ベクターもまた使用することができる。真核細胞の発現ベクターは、当分野において周知であり、いくつかの市販の供給源から利用可能である。典型的には、所望のDNAホモログの挿入のために利便性のある制限酵素部位を含むようなベクターが提供される。このようなベクターの典型例は、pKSV−10(ファルマシア(Pharmacia))、pBPV−1/PML2d(インターナショナル・バイオテクノロジーズ社(International Biotechnologies,Inc.))、およびpTDT1(ATCC,No.31255)である。
【0068】
本発明の発現ベクターの1つの好ましい実施形態は、ChR2遺伝子またはChop2遺伝子およびEF1−アルファプロモーターを含むレンチウイルスである。このレンチウイルスベクターは、安定発現細胞株を作成するために、本発明の一態様で使用される。用語「細胞株」は、本明細書中で使用されるとき、適切な培地を与えられると、増殖し続ける確立した細胞培養物である。
【0069】
本発明の発現ベクターの1つの好ましい実施形態は、ChR2遺伝子またはChop2遺伝子および細胞特異的プロモーターを含むレンチウイルスである。細胞特異的プロモーターの例は、ソマトスタチン、パルブアルブミン、GABAα6、L7、およびカルビンジンに対するプロモーターである。他の細胞特異的プロモーターは、PKC、PKA、およびCaMKIIなどのキナーゼに対するプロモーター;NMDAR1、NMDAR2B、GluR2などの他のリガンド受容体に対するプロモーター;カルシウムチャネル、カリウムチャネル、塩素イオンチャネル、およびナトリウムチャネルを含むイオンチャネルに対するプロモーター;および、古典的な成熟細胞型および分裂細胞型を標識する他のマーカー、例えば、カルレチニン、ネスチン、およびベータ3−チューブリンに対するプロモーターである。
【0070】
別の好ましい実施形態は、単にドキシサイクリンなどの外因性薬物のレベルを変化させることによって、ChR2の遺伝子発現レベルを調節可能にするテトラサイクリンエレメントを含むレンチウイルスである。この方法、または薬物依存性プロモーターの制御下にChR2を置く他の方法は、細胞におけるChR2の遺伝子量の調節を可能にし、所定量の光が電気的活性化、物質放出、または細胞発生に異なる影響を与えるようになる。
【0071】
本発明の一態様は、LACCタンパク質のための遺伝子、および該タンパク質の遺伝的に標的化した発現のためのプロモーターを含む核酸配列である。本発明のLACCの遺伝的に標的化された発現は、プロモーターの選択によって促進することができる。用語「プロモーター」は、本明細書中で使用するとき、特定の遺伝子の転写を可能にする核酸配列である。プロモーターは、通常、転写されるべきDNAの領域の近くに存在する。プロモーターは、通常、RNAポリメラーゼによって認識され、RNAポリメラーゼは、プロモーターの制御下でRNAを作り、その後、該RNAがコードするタンパク質に変換される。適切なプロモーターの使用により、LACCタンパク質の発現レベルが調節され得る。細胞は、特定のタンパク質をどこで、いつ、どれくらい発現させるかを制御するためにプロモーターを使用している。したがって、主に、1つのタイプの細胞、1つのサブタイプの細胞、生物内の所定の空間領域、または細胞内の細胞内領域内で選択的に発現されるプロモーターを選択することによって、LACCの発現調節は、それに応じて調節することが可能である。プロモーターの使用はまた、発現されるLACCの量、発現時期を調節可能でもある。プロモーターは、原核生物プロモーターまたは真核生物プロモーターであり得る。
【0072】
本発明の一実施形態は、LACCタンパク質の遺伝子および汎用プロモーターを含む核酸配列である。汎用プロモーターは、広範囲な細胞型においてLACCタンパク質の発現を可能にする。本発明の汎用的のプロモーターの一例は、EF1−アルファプロモーターである。EF−1アルファ遺伝子は、真核細胞において最も豊富にあるタンパク質の1つであり、ほとんど全ての種類の哺乳細胞において発現される伸長因子−1アルファをコードする。この「ハウスキーピング」遺伝子のプロモーターは、インビボで導入遺伝子の持続的な発現をもたらすことができる。別の好ましい汎用のプロモーターは、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーターであり、それは、非常に高レベルで遺伝子発現させることができる。さらに他の好ましい汎用プロモーターは、CaMKIIプロモーターおよびシナプシンIプロモーター(Dittgenら、PNAS 101:18206−11(2004))を含む。
【0073】
本発明の一実施形態は、LACCタンパク質の遺伝子および細胞特異的プロモーターを含む核酸配列である。細胞特異的プロモーターの例は、ソマトスタチン、パルブアルブミン、GABAα6、L7、およびカルビンジンに対するプロモーターである。他の細胞特異的なプロモーターは、PKC、PKA、およびCaMKIIなどのキナーゼに対するプロモーター;NMDAR1、NMDAR2B、GluR2などの他のリガンド受容体に対するプロモーター;カルシウムチャネル、カリウムチャネル、塩素イオンチャネル、およびナトリウムチャネルを含むイオンチャネルに対するプロモーター;カレニチン、ネスチン、およびベータ3−チューブリンなどの古典的な成熟細胞型および分裂細胞型を標識する他のマーカーに対するプロモーターである。本発明の好ましい実施形態では、核酸は、バクテリア人工染色体(BAC)を含む。
【0074】
本発明の一実施形態は、誘導性プロモーターである。例えば、プロモーターは、外部から投与される薬物に応答するトランス作用因子によって誘導することができる。このプロモーターは、限定されないが、テトラサイクリン−オンもしくはテトラサイクリン−オフ、またはタモキシフェン誘導性Cre−ERであり得る。
【0075】
細胞
本発明の一態様は、LACCタンパク質を発現する細胞であり、具体的には、ChR2またはChop2を発現する細胞である。本発明の別の態様は、他のイオンチャネル、受容体、またはシグナルタンパク質を、正常形態および/または機能不全形態の両方で発現もするLACCタンパク質発現細胞である。本発明の別の態様は、本発明の細胞を市販可能なようにさせるためのビジネス方法である。
【0076】
本発明の細胞は、DNA発現ベクター、ウイルスまたは生物を含むベクターを用いて作製することができる。好ましいベクターは、レンチウイルスおよびレトロウイルスを含む。いくつかの場合には、特に、頑強な細胞株が含まれている場合には、ChR2の発現は、リポフェクション技術、例えば、リポフェクタミンもしくはフュージーンを含有するミセルに細胞株を曝露することによって誘導することができ、その後、安定に発現している細胞株を単離するためにFACSソーティングする。
【0077】
任意の起源の細胞、好ましくは組織培養で増殖可能な細胞は、ChR2またはChop2などのLACCタンパク質を用いたトランスフェクトまたは感染のための候補細胞である。培養で増殖可能な特定の細胞型の非制限的な例には、例えば、線維芽細胞、骨格組織(骨および軟骨)、骨格筋、心筋および平滑筋のような結合組織要素、上皮組織(例えば、肝臓、肺、乳房、皮膚、膀胱および腎臓)、神経系細胞(グリアおよびニューロン)、内分泌細胞(副腎細胞、下垂体細胞、膵島細胞)、骨髄細胞、メラノサイト、および多くの様々な型の造血細胞が挙げられる。適した細胞はまた、対象由来の特定の体内組織を代表する細胞であり得る。体内組織のタイプには、限定されないが、血液、筋肉、神経、脳、心臓、肺、肝臓、膵臓、脾臓、胸腺、食道、胃、腸、腎臓、精巣、卵巣、毛髪、皮膚、骨、乳房、子宮、膀胱、脊髄および多種多様な体液が含まれる。培養細胞は、生体組織(初代培養として知られる)から新鮮に単離され、または初代培養に存在する細胞の増殖および/またはクローニングによって継代培養(細胞株として知られる)され得る。
【0078】
生物の異なる発生段階(胚期または成体期)の細胞、またはより具体的には、外胚葉、内胚葉および中胚葉を含む様々な異なった起源の細胞も適用することができる。本発明において具体化される別のタイプの細胞は、「パーソナル細胞型」であり、それは、ファミリーの個体由来の細胞、または同じ系統内の異なる世代由来の個体由来の細胞を含む。
【0079】
特に関心が深いのは、特定の疾患もしくは特定の疾患段階と関連する細胞、自然状態および誘導免疫不全状態、心疾患、神経疾患、炎症状態、および多種の病原体によって引き起こされる疾患由来の細胞である。特定の疾患または疾患段階との関連性は、例えば、細胞周期制御、細胞分化、アポトーシス、ケモタクシス、細胞運動性および細胞骨格再編成のような、1以上の生物学的なプロセスにおける細胞の異常な挙動によって確かめることが可能である。疾患細胞はまた、対象とする疾患を引き起こす病原体(例えば、AIDSに関するHIVおよびB型肝炎に関するHBV)の存在によって確認することができる。
【0080】
好ましい細胞は、哺乳動物細胞、および哺乳動物細胞由来の細胞株である。他の好ましい細胞は、胚性幹細胞および成体幹細胞であり、造血幹細胞、骨髄、神経幹細胞、上皮幹細胞、皮膚幹細胞が含まれる。ChR2発現に適した好ましい細胞株は、HEK細胞、神経幹細胞株、膵島細胞株、および他の興奮性細胞または分泌性細胞を含む。
【0081】
LACCタンパク質は、光によって活性化されると、膜内の他のイオンチャネルタンパク質の活性化も引き起こすことができる。このようにして、本発明の態様は、LACCタンパク質およびLACCタンパク質によって活性化され得る他のイオンチャネルまたはイオンチャネルのスプライスバリアントの両方を有する細胞である。イオンチャネルの例には、限定されないが、神経および筋肉のナトリウム電位依存性チャネルおよびカリウム電位依存性チャネルなどの電位依存性チャネル;アセチルコリン受容体などのリガンド依存性チャネル、AMPA受容体および他の神経伝達物質依存性チャネル;カルシウム活性化チャネルなどの環状ヌクレオチド依存性チャネル;HERGチャネルなどの心臓イオンチャネル;機械受容チャネル;Gタンパク質依存性チャネル;内向き整流性Kチャネル;静止チャネル;カルシウム放出活性化チャネルカルシウム(CRAC)などのストア作動性チャネル;ならびに、他のカルシウムチャネル、他のカリウムおよびナトリウムチャネルが含まれる。1以上のイオンチャネルタンパク質は、人工的であり得て、LACCタンパク質を含有する細胞において発現されるように標的とされることができる。
【0082】
本発明の好ましい実施形態は、活性化され、制御され得るLACCタンパク質、および1以上のイオンチャネルタンパク質を含み、その挙動を理解することができる細胞である。本発明の別の好ましい実施形態は、下記に詳述されるイオンチャンネル修飾因子をスクリーニングするために活性化され、制御され得るLACCタンパク質、および1以上のイオンチャネルタンパク質を含む細胞である。本発明の別の好ましい実施形態は、下記に詳述される化合物の副作用をスクリーニングするために活性化され、調節され得るLACCタンパク質、および1以上の心臓イオンチャネル(例えば、HERGチャネル)を含む細胞である。別の好ましい実施形態は、本明細書中に記載される方法によって活性化することができるLACCタンパク質、および1以上のイオンチャネルタンパク質を含む細胞を含む、下記に記載される製造品である。
【0083】
LACCタンパク質を発現する好ましい細胞、具体的にはChR2またはChop2を発現する細胞は、哺乳動物細胞である。
【0084】
本発明の一態様は、LACCタンパク質を発現する細胞株、具体的にはChR2またはChop2を発現する細胞株である。本発明の細胞株は、DNA発現ベクター、ウイルスまたは生物を含むベクターを用いて作成することができる。好ましいベクターは、レンチウイルスまたはレトロウイルスを含む。ある場合では、特に、頑強な細胞株が含まれている場合は、ChR2の発現は、リポフェクション技術、例えば、リポフェクタミンもしくはフュージーンを含有するミセルに細胞株を晒すことによって誘導することができ、その後、安定に発現している細胞株を単離するためにFACSソーティングする。好ましい細胞株は、上述される哺乳動物細胞株である。好ましい細胞株は、神経細胞株または他の興奮性細胞株である。ChR2発現に適した好ましい細胞株は、HEK細胞、神経幹細胞株、膵島細胞株、および他の興奮性細胞または分泌性細胞を含む。
【0085】
本発明の好ましい細胞株は、EF1−アルファプロモーター下でChR2を発現するクローン神経幹細胞である。このような細胞株は、薬物、特に、神経発生、発達、およびアポトーシスにおける電気的活性に影響を与える薬物のスクリーニングに有用である。
【0086】
本発明の別の好ましい細胞株は、EF1−アルファプロモーター下でChR2を発現する海馬ニューロンの細胞株である。このような細胞株は、薬物のインビトロスクリーニングに有用で、インビボで光を用いてニューロンを調節するためのモデルとして有用ある。
【0087】
本発明の実施形態は、下記に記載される、例えば、インスリン、成長ホルモン、または他の小分子もしくはポリペプチドのような物質を放出する移植可能な、光学的に活性化可能な細胞に基づいた治療を提供する幹細胞株である。本発明による物質の放出制御は、秒〜分の時間単位でなすことができ、特に糖尿病または成長遅延のような状態に対して、薬物投薬の正確な管理を可能にする。
【0088】
本発明の細胞は、固相基質上に固着された単層として、または懸濁培養液中に凝集体として増殖させることができる。基質の選択は、主に、細胞の型および所望の増殖パラメータ(例えば、増殖速度、所望の密度、培地要件など)によって決定される。大部分の細胞は、例えば、ガラス、プラスチックまたはセラミック材料で作られた基質上で増殖可能である。ニューロン、上皮細胞および筋肉細胞のようなある種の細胞型には、細胞接着および伸展を高める電荷を帯びた物質で予め被覆された基質が好ましい。通常使用される被覆材料は、正味の正電荷を有する生物学的基質を含む。生物学的基質の非制限的な例は、細胞外マトリックス/接着タンパク質、例えば、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン、またはポリリジンなどの合成ポリペプチドを含む。様々な非生物学的基質、例えば、ニトロセルロースで作られた膜、ナイロンで作られた膜、ポリテトラフルオロエチレンで作られた膜、または任意の他の移植材料はまた、細胞型に従って適した培地中で細胞の増殖を支持するために用いることもできる。
【0089】
異なる基質上で培養した細胞を回収する場合に、膜の完全性を維持し、細胞膜成分を保存するために通常、予防策がとられる。本発明の方法は、セリンプロテアーゼ、トリプシンなどのタンパク質分解酵素を含む、固着された細胞または細胞層を分離する伝統的な方法の使用を意図する。さらに、本発明の細胞は、細胞表面抗原への損傷を最小にする薬物によって、培養基質から取り出すことができる。これらの薬物は、EDTAおよびEGTAなどのキレート剤を含み、それらは、細胞−基質間接着に必要であることが知られている二価金属イオン(例えば、カルシウムおよびマグネシウム)に結合する。他の適した細胞解離剤は、セリンプロテアーゼインヒビター(例えば、ダイズトリプシンインヒビター)と同時に使用される場合はコラゲナーゼ、ディスパーゼ、中性プロテアーゼを包含する。これらの薬物を用いての細胞の処理は、一般に、細胞表面タンパク質を保存しながら、細胞外マトリックス成分の崩壊をもたらす。固体基質に固着された細胞を脱離させるのに必要な時間は、選択されるプロテアーゼ酵素に依存して変化し得るが、しかし、通常は、約1分〜30分、好ましくは約5分〜15分の時間であろう。酵素処理は、室温または約37℃で行うことができる。過剰な酵素は、当業者によって日常的に調製される生理学的な範囲のpHおよび塩濃度を有するバッファーを用いて穏やかに洗浄することによって除去することができる。
【0090】
細胞の生存率は、膜の完全性の測定によって確かめることが可能である。膜の完全性を評価する方法は、当分野において知られている。最も一般的な測定法は、生細胞または死細胞のいずれかと反応する色素を用いて細胞を染色することを含む。当業者に明確であるように、典型的な色素には、トリパンブルー、エオシンY、ナフタレンブラック、ニグロシン、エリスロシンBおよびファストグリーンが含まれる。
【0091】
トランスジェニック動物
本発明の一態様は、LACCタンパク質を発現するトランスジェニック動物である。好ましい実施形態は、Chop2またはChR2を発現するトランスジェニック動物である。特定のサブセットのニューロンにおけるLACCタンパク質の発現は、回路機能、行動、可塑性、および精神疾患の動物モデルを分析するために用いることができる。
【0092】
LACCタンパク質を発現する本発明の好ましいトランスジェニック動物種は、ゼブラフィッシュ(ダニオ・レリオ(Danio rerio))を含む。ゼブラフィッシュでは、LACCタンパク質は、数百細胞期での迅速注入によって魚の胚に導入することができる。
【0093】
LACCタンパク質を発現する本発明の別の好ましいトランスジェニック動物種は、ハエ(キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster))である。好ましい一実施形態では、ハエは、GAL4−UASシステムで使用するためのUASプロモーター下でChR2を発現する。LACCタンパク質を発現する本発明の別の好ましいトランスジェニック動物種は、ぜん虫(worm)(エレガンス線虫(Caenorhabditis elegans))である。好ましい一実施形態では、安定な系統は、生殖腺内に特定のプロモーター下にChR2を含有するプラスミドの注入によって作製される。
【0094】
LACCタンパク質を発現する本発明の別の好ましいトランスジェニック動物種は、マウスである。好ましい一実施形態では、LACCタンパク質を発現するマウスは、BAC(バクテリア人工染色体)トランスジェニック技術、並びに位置効果多様化技術を用いて作製される。
【0095】
LACCタンパク質を発現する本発明のトランスジェニック動物の好ましい一実施形態は、動機付け行動の制御および精密に調整された運動パターンを生じるのに重要であるセロトニン作動性ニューロンおよびドーパミン作動性ニューロンにおいて、ChR2が発現されるショウジョウバエである。
【0096】
LACCタンパク質を発現する本発明のトランスジェニック動物の好ましい一実施形態は、動機付け行動の制御および精密に調整された運動パターンを生じるのに重要であるセロトニン作動性ニューロンおよびドーパミン作動性ニューロンにおいて、ChR2が発現されるエレガンス線虫である。
【0097】
本発明の別の好ましい実施形態は、LACCが特定のプロモーターの下で発現されるトランスジェニック動物である。本発明の別の好ましい実施形態は、トランスジェニック動物において発現されるLACCがBACを介して導入されるトランスジェニック動物である。本発明の別の好ましい実施形態は、LACC遺伝子が既知の遺伝子座に組み込まれているトランスジェニック動物である。
【0098】
チャネル特性
本発明では、電気的スパイク、または活動電位は、光の照射により膜を横切ってもたらされる。光は、キセノンランプなどの光源によって提供することができ、または光源はレーザーであり得る。レーザーが使用することができる一方で、当業者は、光の強度が高すぎると、局所加熱などにより照射している細胞を損傷し得ることを理解するであろう。細胞を損傷しない光強度を用いることが好ましい。本発明の好ましい実施形態では、イオンチャネルを活性化するために中程度の強度である光が使用される。光の好ましいレベルは、約0.1mW/mm2〜約500mW/mm2、好ましくは約1mW/mm2〜約100mW/mm2、最も好ましくは約5mW/mm2〜約50mW/mm2である。好ましい実施形態では、LACCタンパク質は、ChR2であり、照射光の波長は、約400nm〜約600nm、好ましくは約450nm〜約550nm、最も好ましくは約450nm〜約490nmである。
【0099】
本発明に従って、本発明の光活性化陽イオンチャネルは、ニューロンに導入され、光の急速なパルスで照射されると、ミリ秒単位のスパイクを発生することができることが発見された。
【0100】
本発明の一態様は、興奮性細胞において発現され、ミリ秒の時間枠で作動する光活性化陽イオンチャネルである。好ましい実施形態では、LACCは、100ミリ秒(ms)内、より好ましくは10ms内、さらにより好ましくは1ms内、最も好ましくは0.1ms内で応答する。本発明の好ましい実施形態は、ニューロンまたは他の興奮性細胞において発現されるChR2である。
【0101】
本発明に従って、本発明のLACCを発現する細胞は、ミリ秒の時間枠でスパイクを確実に発生するであろうこともまた発見された。
【0102】
興奮性細胞において発現され、ミリ秒の時間枠で作動するであろう光活性化陽イオンチャネルの好ましい実施形態では、該興奮性細胞は、照射10ms未満、好ましくは5ms未満、最も好ましくは1ms以内に応答する。
【0103】
本発明の一態様は、長期間にわたって、安定な光電流を提供する細胞膜において発現されるLACCタンパク質である。好ましい実施形態では、LACCタンパク質は、ChR2であり、光電流は、一時間の照射にわたって20%を超えて変化せず、好ましくは10%を超えて変化せず、最も好ましくは一時間の照射にわたってで検出可能に変化しない。
【0104】
本発明の一態様は、低い一過性微小振動を伴う正確に時間調節されたスパイクを提供する、細胞膜において発現されるLACCタンパク質である。一過性微小振動は、ニューロン内で測定される場合、好ましくは10msより低く、より好ましくは5ms未満、最も好ましくは3msより低い。
【0105】
本発明の一態様は、ニューロン間で低い一過性微小振動を提供する、細胞膜において発現されるLACCタンパク質である。ニューロン間の低い一過性微小振動は、ニューロンの不均一な集団が協調して調節されることを可能とするため望ましい。好ましくは、ニューロン間の低い一過性微小振動はまた、10ms未満、より好ましくは5ms未満、最も好ましくは3msより低い。好ましくは、ニューロン間微小振動は、ニューロン内微小振動の50%内であり、より好ましくは、ニューロン間微小振動は、ニューロン内微小振動の20%内であり、最も好ましくは、ニューロン内微小振動はニューロン間微小振動から区別できない。
【0106】
本発明の一態様は、確実性があって正確に時間調節される閾値下のパルスを提供する、膜において発現されるLACCタンパク質である。
【0107】
本発明の光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する細胞は、繰り返しの光パルスによって誘起される閾値下の偏りにおける試行ごとの変動性が小さいことが発見された。したがって、ChR2などの本発明の光活性化陽イオンチャネルタンパク質は、正確に測定された振幅で確実に時間調整される閾値下の脱分極を制御するために使用され得る。
【0108】
本発明の態様は、繰り返し可能な閾値下の分極を有する膜において発現されるLACCタンパク質である。本発明の好ましい実施形態では、膜において発現されるLACCタンパク質は、5回の連続パルスで測定される場合に0.2未満の変動係数を有する閾値下のパルスを生成し、より好ましくは変動係数は、5回の連続パルスで測定される場合に0.15未満であり、最も好ましくは変動係数は、5回の連続パルスで測定される場合に0.10未満である。
【0109】
本発明は、細胞内でLACCタンパク質を発現し、光で該タンパク質を活性化することによって細胞特性の光調節を可能にする。本発明は、興奮性細胞の光調節を可能にする。調節の一つの様式は、ニューロンの調節およびニューロン間のシグナル伝達の調節などのプロセスに対する細胞膜の電気的特性の調節である。調節の別の様式は、Ca2+を含むイオンの流入の調節である。Ca2+の流入の調節は、数千の細胞プロセスに影響を与えることが知られている。興奮性細胞の特性の光調節は、インビボまたはインビトロで実行することができ、生物学的プロセスの理解、創薬、および治療用途のために用いることができる。
【0110】
本発明によって提供される調節の別の様式は、細胞にタンパク質、ペプチド、または小分子の放出をもたらすためにLACCタンパク質の活性化を利用することである。本発明の一実施形態では、LACCタンパク質の光活性化を通じて、細胞は、サイトカインなどのタンパク質の放出を引き起こされ得る。本発明の一実施形態では、ChR2の光活性化を通じて、細胞は、インスリン、レプチン、ニューロペプチドY、サブスタンスP、ヒト成長ホルモン、セクレチン、グルカゴン、エンドルフィン、オキシトシン、バソプレッシン、またはオレキシン/ヒポクレチンなどのペプチドの放出を引き起こされ得る。別の実施形態では、LACCタンパク質の活性化は、その合成または放出が電気的活性に依存している、一酸化窒素、あるいは、アナンダミドや2−アラキドノイルグリセロール(2−AG)などのカンナビノイドのような小分子の放出を引き起こすことができる。
【0111】
本発明はまた、物質の放出を超えて細胞活性の調節を可能にする。例えば、筋細胞において発現されるLACCは、筋細胞収縮の光調節を可能にする。この筋細胞の光収縮、特に他の筋細胞の存在下での特定の筋細胞の収縮は、治療目的、または筋収縮の光調節に用いることができる。
【0112】
本発明によって提供される調節は、特定の細胞内シグナル伝導経路を開始することも含まれる。これらの経路は、限定されないが、キナーゼ、転写因子、およびセカンドメッセンジャーシステムを含む。これらの経路は、使用される光の特定の時間的パターンにより、本発明によって特異的に活性化され得る。この経路はまた、LACCの特異的な細胞内局在により特異的に活性化され得る。
【0113】
本発明の態様は、細胞にLACCタンパク質を発現させるようにすること;LACCタンパク質を活性化するために細胞に光を照射することを含む細胞を光学的に調節する方法である。
【0114】
光学的に細胞特性を調節する方法の好ましい実施形態は、LACCタンパク質がChR2である方法である。
【0115】
細胞特性を光学的に調節する方法の別の好ましい実施形態は、細胞がニューロンまたは他の興奮性細胞である方法である。ニューロンは、他の神経細胞に連結することができ、神経ネットワークであり得る。
【0116】
細胞特性を光学的に調節する方法の別の好ましい実施形態は、細胞が空間的にまたは遺伝的に標的化された細胞のサブセットである方法であり、それらの細胞は、本発明のLACCタンパク質を発現し、特異的に活性化され得る。
【0117】
細胞特性を調節する方法の別の好ましい実施形態は、LACCの活性化がまた細胞内で他のイオンチャネルを調節する方法を含む。例えば、細胞は、LACC、および人工タンパク質であってもよい1以上の他のイオンチャネルタンパク質を発現され得る。LACC活性化は、その上、細胞内の他のイオンチャネルタンパク質を活性化または不活性化するために用いることができる。一実施形態では、LACCを発現する細胞は、細胞の他のイオンチャネルを不活性化するのに十分なほど細胞膜を脱分極するために光で照射され得る。
【0118】
本発明の一態様は、光を用いて細胞分化を制御する方法である。LACCタンパク質は、細胞運命が活性に依存する分化細胞を選択的に標的化するために用いることができる。例えば、ChR2は、前駆細胞または細胞株に送達され得て、次に、光は、適切な子孫への細胞分化を制御するために用いることができる。
【0119】
本発明に従って、急速な光パルスが暗期に続くパルス中で光照射が与えられる場合に、本発明の光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する細胞が、ミリ秒の時間枠のスパイクを確実に発生するであろうことを発見した。
【0120】
細胞特性を光学的に調節する方法の好ましい実施形態は、明期が、0.1ms〜100ms、好ましくは1ms〜50ms、最も好ましくは5ms〜20msで、暗期が、1msより長く、好ましくは10msより長く、最も好ましくは20msより長い、一連の光パルスでLACCタンパク質を有する細胞を照射することを含む方法である。暗期は、必要に応じて長くすることができ、秒から分より長い時間であり得る。
【0121】
本発明の細胞特性を光学的に調節する方法は、完全な状態の神経回路における因果機能をプローブする能力をもたらし、学習、感動、運動協調性、および感覚処理の動物モデルにおける特定のニューロンの役割を調べることができるようになる。これは、複雑な神経疾患および精神疾患の取り組みに重要である、回路全体の機能を調節することができる薬物の発見を可能にするであろう。最初は、動物内の遺伝的に標的化されたニューロンは、正常であろうと機能不全であろうと、観察される行動機能または回路動態機能を仲介する神経情報を調べるのに適した時間尺度の光によって処理可能である。
【0122】
本発明によって可能にされるニューロンにおける電気信号のミリ秒単位の調節は、シナプス事象を調節する能力をもたらす。シナプス伝達を誘発する容易さは、ChR2を含む本発明のLACCタンパク質が、神経回路の時間的に正確な解析のための理想的ツールとなることを可能にする。
【0123】
本発明の別の態様は、シナプス事象を引き起こすための光の使用である。ニューロン内で発現される本発明のLACCタンパク質は、該ニューロン内で電気的シグナルを生じるように光によって活性化され得る。該電気的シグナルは、該シグナルがシナプス事象を誘発することができる場所であるシナプスに、ニューロンに沿って伝播し得る。シナプス事象は電気的シナプス事象もしくは化学的シナプス事象であり得る。好ましい実施形態では、シナプス事象は、細胞機能を調節することができる小分子を放出する。好ましい実施形態では、シナプス事象は、ノルエピネフリン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリン、D−セリン、またはヒスタミンなどの小分子神経調節物質の放出を含む。シナプス事象は、2つのニューロン間でのシナプス伝達をもたらすことができる。したがって、本発明は、一連のニューロン間の光学的に制御された情報交換を提供し、連結した神経ネットワークを通じた光学的に制御された活性を提供する。
【0124】
シナプス事象を生じるための光の使用に関する好ましい実施形態は、第一のニューロンにおいてChR2を発現し、シナプス事象を引き起こすスパイクを生じるためにChR2を活性化する光のパルスを用いて該ニューロンを照射することを含む。シナプス事象を引き起こすための光の使用は、インビトロまたはインビボで実行することができる。
【0125】
シナプスイ事象を引き起こすための光の使用に関する別の好ましい実施形態は、第一ニューロンおよび第二のニューロンとのシナプス結合部においてChR2を発現し、スパイクを生じるように第一のニューロンを照射することを含み、ここで、スパイクは、第一のニューロンと第二のニューロンとの間のシナプスでシナプス事象をもたらし、第二のニューロンは、第一のニューロンからのシグナルにより、興奮するかまたは抑制され、したがって、結果として、第一のニューロンと第二のニューロンとの間のシナプス伝達に至る。
【0126】
シナプス事象を引き起こすための光の使用に関する別の好ましい実施形態は、特定のニューロン、特定のニューロンサブセット、または特定のニューロンサブタイプに本発明のLACCタンパク質を送達するように標的化されたベクターを用いることを含む。標的化された送達は、検体の異なる空間領域への特異的な空間的標的化となり得て、および/または分子的に限定されたクラスまたはサブクラスのニューロンへの化学的標的となり得る。
【0127】
LACCの標的化送達
本発明の態様は、特定の細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質を標的化送達する方法であり、この細胞をLACCタンパク質および細胞特異的プロモーターに対する核酸配列を含むベクターと接触させることを含み、ここで、前記特定の細胞は、LACCタンパク質を発現する。
【0128】
特定の細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質を標的化送達する方法の好ましい実施形態は、ベクターがChop2またはChR2をコードする核酸配列および細胞特異的プロモーターを含む方法を含む。好ましい細胞特異的プロモーターは、ソマトスタチン、パルブアルブミン、GABAα6、L7、およびカルビンジンに対するプロモーターである。他の細胞特異的プロモーターは、PKC、PKA、およびCaMKIIなどのキナーゼに対するプロモーター;NMDAR1、NMDAR2B、GluR2などの他のリガンド受容体に対するプロモーター;カルシウムチャネル、カリウムチャネル、塩素イオンチャネル、およびナトリウムチャネルなどのイオンチャネルに対するプロモーター;および、カルレチニン、ネスチン、およびベータ3−チューブリンなどの古典的的な成熟細胞型および分裂細胞型を標識する他のマーカーに対するプロモーターである。
【0129】
特定の細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質を標的化送達する方法の好ましい実施形態は、ベクターがレンチウイルスまたはレトロウイルスである方法を含む。
【0130】
本発明の態様は、特定の細胞に光活性化陽イオンチャネルタンパク質を標的送達させる方法であって、細胞をLACCタンパク質を含む核酸配列を含むベクターと接触させることを含み、前記ベクターは特定の細胞を選択的に標的化する。好ましいベクターは、レンチウイルスおよびレトロウイルスである。
【0131】
治療法
本発明の別の態様は、LACCタンパク質を含むベクターを対象内の興奮性細胞に送達し、光のパルスで前記細胞に照射することを含む、対象を治療する方法である。
【0132】
対象を治療する方法の好ましい実施形態は、ヒトへの治療作用を実施することを含み、ここで、細胞の機能は、ChR2などのLACCタンパク質の遺伝的付加によって救済または調節され、物理的に送達される光のパルス、好ましくは青色光の使用を伴う。ウイルスベクターを介して、ヒト患者にChR2などのLACCタンパク質を送達することは、装着型光学装置(長期間刺激のために)からの青色光、または固定された光学ステーション(より臨時の刺激のために)での青色光による興奮性細胞の調節を可能にする。例えば、ChR2を発現するようにウイルスで形質導入された皮膚痛覚抑制神経のような末梢神経は、有痛性のC繊維の応答を抑制するために、光刺激が脊柱後柱−内側毛帯ニューロンを活性化することを可能にする。修飾されたヘルペスウイルスは、疼痛経路ニューロンにイオンチャネルを送達するように用いられ得ることが示されていて、本明細書中では、疼痛経路ニューロンへの該チャネルの標的化のために、および疼痛知覚の減少のためにChR2を用いて使用することができる。同様に、桿体または錐体の喪失(例えば、網膜色素変性症または黄斑変性症における)を有する患者は、網膜神経節細胞でChR2などのLACCタンパク質を発現するようにウイルスにより形質導入され得、視覚認知を媒介する経路における光の伝達を回復させる。例えば、微生物型ロドプシンである、チャネルロドプシン−2(ChR2)の長期間の発現は、アデノ随伴ウイルスベクターによる送達を用いて、インビボでげっ歯類の網膜内ニューロンにおいて達成することができることが示されてきた。光受容体の変性を有するマウスの残存している網膜内ニューロンにおけるChR2の発現は、光シグナルをコード化し、その光シグナルを視覚野に伝達する網膜の能力を回復することができることが示された(Biら、Neuron 50,23−33(2006))。したがって、ChR2の発現に基づくストラテジーは、網膜変性疾患に適している。別の例では、自己抗原を有する細胞を攻撃する、ChR2を発現するTリンパ球は、照射が十分なCa2+流入を引き起こす場合、アポトーシスを引き起こすように誘導されることが可能である;これは、光学照射装置を通過する血液でエクスビボでなされ得る。
【0133】
一実施形態では、患者におけるLACCタンパク質発現細胞を興奮させるために使用される光学装置は、発光ダイオード(LED)である。LEDは、大きさにしてミリメートルまたはナノメートルであり得る。1つの非制限的な例には、SML0805−B1K−TR LEDtronicsが含まれる。LEDは、電池式、または当分野において知られている方法によってRFによる遠隔的な動力であることができる。LEDはまた、ゴワナ・エレクトロニクス(Gowana Electronics)ニューヨーク州(NY)のCF1008−682Kなどの68マイクロヘンリーの表面実装フェライトコアインダクターに連結することもできる。一実施形態では、装着可能な光学装置は、非ワイヤレス式に非侵襲的に活性化することができる。
【0134】
本明細書中に提供される方法および組成物は、うつ病患者に有益な効果を与えることが可能である。好ましくは、うつ病患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の前側帯状皮質および/または下位の帯状皮質におよび内包前脚にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0135】
本明細書中に提供される方法および組成物はまた、慢性疼痛患者に有利な効果を与えることも可能である。好ましくは、慢性疼痛患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の前側帯状皮質および/または背側帯状皮質にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0136】
同様に、本明細書中に提供される方法および組成物は、肥満患者に有益な効果を与えることが可能である。好ましくは、肥満患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の視床腹内側核にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0137】
同様に、本明細書中に提供される方法および組成物は、強迫性障害(OCD)患者に有益な効果を与えることができる。好ましくは、OCD患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の視床の視床下核内包前脚にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0138】
同様に、本明細書中に提供される方法および組成物は、中毒患者に有益な効果を与えることができる。好ましくは、中毒患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の側坐核および中隔野にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0139】
同様に、本明細書中に提供される方法および組成物は、アルツハイマー患者に有益な効果を与えることができる。好ましくは、アルツハイマー患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の海馬にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0140】
同様に、本明細書中に提供される方法および組成物は、パーキンソン患者に有益な効果を与えることができる。好ましくは、パーキンソン患者は、本明細書中に記載される方法によって、ヒト患者の視床下核および/または淡蒼球にChR2などのLACCタンパク質を送達し、興奮させることによって治療される。
【0141】
ChR2などのLACCを用いてヒトの治療のための別の経路は、患者における移植のためにLACCタンパク質発現分泌細胞(例えば、免疫応答を避けるためにナノカプセル化される)を創作することであり、その分泌は、物理的に送達される光のパルスの使用によって該細胞において刺激される。例えば、甲状腺ホルモン(例えば、T4、TRHなど)を放出するChR2発現神経内分泌細胞は、皮下に移植することができ、数ヶ月から数年の単位で制御されたペプチドの放出を可能にする。連続した光のフラッシュは、このような神経内分泌物質の制御された放出を可能にし、ストレス、生殖、代謝、および睡眠の調節を可能にする。同様に、LACCタンパク質を発現する膵島細胞は、光で刺激されると、インスリンを放出させることができる;移植された細胞は、ポンプ移植または他の侵襲的治療を必要とせずに、分単位での糖尿病症状の調節を可能にする。
【0142】
一実施形態では、LACCタンパク質発現細胞は、患者に移植する前にカプセル化される。この細胞は、マクロカプセル化またはナノカプセル化され得る。カプセルの例には、限定されないが、半透膜、中空繊維、ビーズおよび平面拡散デバイスが含まれる。例えば、半透膜へのドーパミン分泌細胞のカプセル化は、免疫系による移植細胞の拒絶反応を避けるために検討されてきた(Emerichら、Neurosci Biobehav Rev 16,437−447)。高分子膜の選択的透過性は、グルコース、酸素および他の必須栄養素を含む低分子量化合物の双方向性アクセス、およびドーパミンの外部拡散を可能にする。膜は、宿主免疫系の要素の通過を制限し、それにより、カプセル化された細胞の宿主拒絶反応を妨げる。例えば、カプセル化された、ラット褐色細胞腫由来のカテコールアミン作動性細胞株であるPC12細胞は、サルおよび成熟モルモットの線条体内に移植することができる(Dateら、Cell Transplant 9,705−709、Aebischerら、Exp Neurol.111,269−275)。さらに、中空繊維、マクロビーズ、または平面拡散デバイス内にカプセル化された膵島またはインスリン産生細胞の異種移植は、マウスおよびラットにおいて高血糖を覆すことができることが示されている(Tatarkiewiczら、Transplantation 67(5)665−671)。
【0143】
別の実施形態では、LACCタンパク質発現細胞は、移植前にカプセル中で生成することができる。例えば、ES細胞は、i)ドーパミン産生ニューロンに分化し、ii)上述したLACCを含有する核酸をトランスフェクトされ、および、iii)患者に移植する前にカプセル中で増殖することができる。ドーパミン作動性ニューロンは、頭蓋骨骨髄由来の間質細胞であるPA6細胞からの馴化培地を用いて、中空繊維に封入されたマウス由来のES細胞から誘導することができることが示されている(Yamazoeら、Biomaterials 27(2006)4871−4880)。これらの研究では、β−チューブリンIII型陽性細胞およびチロシンヒドロキシラーゼ陽性細胞は、培養16日後に中空繊維中に効果的に誘導され、細胞を含有する中空繊維は、ニューロンの脱分極によるドーパミン放出を誘導するように15分間、56mM KClに晒した場合にドーパミン放出が観察された。
【0144】
別の実施形態では、ドーパミンを分泌することができる分化したLACCタンパク質発現幹細胞は、患者の脳に直接移植され、次に、光を用いてそれらの活性化を制御するであろう。ドーパミン分泌細胞は、分化段階の前または後で、ChR2などのLACCタンパク質で本明細書中に記載されるようにトランスフェクトされるかまたは感染されることができ、次に、これらの細胞は、患者の脳に移植することができる。その後、LACCタンパク質発現幹細胞は、末端に光ファイバー接続した発光ダイオードまたはレーザーなどの光学装置によって活性化される。該細胞は光応答性であるので、それらは、遠隔的に光で刺激されるだけで、組織内の深いところでさえもドーパミンを放出するであろう。
【0145】
別の実施形態では、LACCタンパク質発現分泌細胞は、患者の組織または臓器に移植される。分泌細胞は、ChR2などのLACCタンパク質を用いて、本明細書中に記載されるようにトランスフェクトされるかまたは感染され、次に、これらの細胞は、患者の組織または臓器に移植される。その後、LACCタンパク質発現分泌細胞は、末端に光学ファイバーを接続した発光ダイオードまたはレーザーなどの光学装置によって活性化される。図10は、本明細書中に記載される方法の一実施形態を図示し、ここで、ChR2を発現する細胞(トランスフェクションまたは感染により)は、光のパルスによる物質の放出の制御を可能にする。
【0146】
LACCタンパク質発現分泌細胞で移植され得る組織または臓器の例には、限定されないが、上皮、結合組織、結合組織、神経組織、心臓、肺、脳、目、胃、脾臓、膵臓、腎臓、肝臓、腸、皮膚、子宮、および膀胱が含まれる。
【0147】
本明細書中の記載される方法によって患者の組織または臓器に分泌することができる化合物の例には、限定されないが、インスリン、成長ホルモン、速効性神経伝達物質、ドーパミン、サイトカイン、ケモカイン、ホルモンおよびホルモンアンタゴニスト、下垂体ホルモンおよび下垂体ホルモンの視床下部放出因子、甲状腺剤および抗甲状腺剤、エストロゲンおよびプロゲスチン、アンドロゲン、副腎皮質刺激ホルモン;副腎皮質ステロイドおよびそれらの合成類似体;副腎皮質ホルモンの合成および作用の阻害剤、インスリン、経口血糖降下薬、および膵臓内分泌部の薬理学、石灰化および骨の代謝回転に影響する薬物:カルシウム、リン酸塩、副甲状腺ホルモン、ビタミンD、カルシトニン、例えば、水溶性ビタミン、ビタミンB複合体、アスコルビン酸、脂溶性ビタミン、ビタミンA、K、およびE、などのビタミン、増殖因子、ムスカリン受容体アゴニストおよびムスカリン受容体アンタゴニスト;抗コリンエステラーゼ剤;神経筋接合部で作用する薬物および/または自律神経節で作用する薬物;カテコールアミン、交感神経作動薬、およびアドレナリン受容体アゴニストまたはアドレナリン受容体アンタゴニスト;および、5−ヒドロキシトリプタミン(5−HT、セロトニン)受容体アゴニストおよび5−HTアンタゴニストが含まれる。
【0148】
一実施形態では、LACCタンパク質発現分泌細胞は、糖尿病患者の皮膚に移植される。次に、LACCタンパク質発現分泌細胞は、末端に光学ファイバーを接続した発光ダイオードまたはレーザーなどの光学装置によってインスリンを分泌するように誘導される。
【0149】
ChR2などのLACCタンパク質は、興奮性細胞からの一時的で非侵襲的な物質放出の制御を可能にする。電気的活性、Ca2+、および異なる化合物の分泌は、事実上、数千の細胞プロセスに影響を与えることができることは明確である。したがって、インビボでChR2などのLACCタンパク質の一般的な応用領域は、多様なシステムにおける多くの生物学的疾患プロセスにわたる調節を可能にし得る。
【0150】
生物または細胞の調節
本発明の別の態様は、生物の行動を調節する方法であって、生物内の興奮性細胞にLACCタンパク質を含むベクターを送達し、生物の行動を調節するために光のパルスで該細胞を照射することを含む。
【0151】
本発明の別の態様は、細胞の運命を調節するために、本明細書中に記載される方法の使用を含む。本明細書中に記載される技術は、電気的活性によって調節される細胞の活性を調節するために用いられる。この方法は、細胞の生存、複製、分化、および/または死を調節するために用いることができる。チャネルロドプシンは、チャネルロドプシンの活性化を制御するために用いられる正確なパターンの刺激に依存して、これらのプロセスのいずれか1つを制御するために使用され、そしてこのことが次に、下流のシグナル伝達の特異的なパターンおよび特異的な細胞運命の応答をもたらす。したがって、チャネルロドプシンを特定細胞に標的化し、次に、該細胞を特定の光パターンに晒すことは、光活性化チャネルを発現する細胞の生存を増加させ、分化または複製を制御し、または死を加速するために使用される。このような細胞プロセスの調節は、好ましくは、幹細胞で使用され、特定のパターンの活性が幹細胞(ヒト胚幹細胞を含む)の分化を制御し、幹細胞の複製を制御し、または(過剰な複製を停止することが望まれる場合)幹細胞の死を制御してもよい。標的細胞が腫瘍または癌細胞である場合、それらの細胞へのチャネルロドプシンの標的化は、該腫瘍/癌細胞を殺傷するための特異的かつ適切パターンの光の使用を可能にする。他の適した標的細胞は、様々な分泌性細胞または臓器細胞またはそれらの前駆細胞、心臓細胞または他の筋細胞、または脳中のグリア細胞を含む。これらの場合のそれぞれにおいて、これらの細胞の複製、分化、死を正確に調節することが望ましい。チャネルロドプシンは、(生体への移植の前または後で)インビトロ、実験動物のインビボ、またはヒトのインビボにおけるこれらの事態を調節するために有用であってもよい。
【0152】
薬物スクリーニング
本発明の態様は、薬物をスクリーニングする方法であって、一群の細胞でLACCタンパク質を発現すること;一群の該細胞を化合物に晒すこと;光で一群の該細胞を照射すること;および、一群の該細胞内で細胞の電気的応答をモニターすることを含む。細胞の電気的応答は、電気的、光学的、または他の手段によってモニターすることができる。細胞の電気的応答は、化学薬品もしくは電位感受性色素、あるいは酸化または還元を受ける色素を用いて観察およびモニターすることができる。これらの変化は、光センサーまたはフィルム式カメラを備えた顕微鏡下、CCDアレイ、および当業者に既知の他の方法でモニターすることができる。
【0153】
薬物スクリーニングの方法の好ましい実施形態は、中枢神経および末梢神経、心筋、膵島細胞、下垂体および腎臓における神経内分泌細胞、幹細胞、癌細胞、および他の細胞などの細胞の、イオン性機能およびシグナリング機能に影響を与える薬物に対するハイスループットスクリーニングである。
【0154】
薬物スクリーニングの方法の好ましい実施形態は、電位依存性イオンチャネルを遮断または活性化し、(癲癇および疼痛において役割を果たす)興奮性シナプス伝達または抑制性シナプス伝達を変化させ、筋収縮を変化させる薬物をスクリーニングするために、速い応答が可能な電気的に興奮性の細胞(例えば、ニューロンおよび心筋、またはそれらから誘導された細胞株)における電位を迅速に調節することを含む。多くのチャネルおよび受容体は急速に活性化され、次いで、脱感作または不活性化されるので、光の短いパルスで膜電位を調節する能力は、ある種のチャネル、シナプス、または筋疾患表現型を標的とする薬物を開発する能力を高める。例えば、家族性片麻痺性片頭痛の患者は、カルシウムチャネルにおいて点突然変異を有し、所定の短い脱分極に対してカルシウム流入が減少している。本発明の方法は、この患者群においてチャネル機能を改善する方法を発見するために、変異カルシウムチャネルおよびChR2を発現する細胞株において、特定の定型的な脱分極に対するカルシウム応答(カルシウム色素を用いて測定される)を調節する薬物のスクリーニングを可能にする。
【0155】
必ずしも電位を急速に変化させるとは限らないが、電気的に制御されたCa2+流入の下流で、生体内で重要な機能を有する多くの細胞が存在する。例えば、膵島細胞および神経内分泌細胞(例えば、甲状腺、下垂体、および副腎の内分泌細胞)は、有芯小胞の融合を介して、Ca2+に依存した方法でホルモンを放出する。ChR2のような本発明のLACCタンパク質は、細胞の脱分極を引き起こすだけでなく、そのチャネル孔を通じてCa2+イオンを通過させることができ、このような細胞(または誘導された細胞株)からのペプチドまたはホルモンの放出を活性化するために使用することができ、ホルモン放出を促進または抑制する薬物をスクリーニングすることを助ける。このような発見は、正常に機能しない増殖、発生、代謝、ストレス、および生殖の問題を治療する薬理学的な方法の発見を助けることができる。
【0156】
最後に、ChR2を含む本発明のLACCタンパク質は、細胞における遅いシグナル伝達を変化させる薬物をスクリーニングするために用いることができ、癌からうつ病にわたる慢性疾患プロセスに対する治療を明らかにする。特に、免疫細胞は、様々な長期変化を伴うCa2+流入の継続的なパターンに応答し、それらは、免疫応答を強化または弱体化し、あるいは場合によっては自己免疫症状も強化または弱体化をもたらすことができる。癌細胞はまた、イオンチャネルを発現し、変化した増殖を伴って電気的活性に応答する可能性がある。神経幹細胞は、ニューロンに分化することによって脱分極およびCa2+流入に応答する;よって、光を用いてLACCタンパク質を発現する幹細胞を活性化することは、機能的な脳および他の組織を生成する段階である、生存および成熟組織への組み込みを促進し得る。
【0157】
薬物スクリーニングの方法の好ましい実施形態では、ChR2のような本発明のLACCタンパク質を発現する幹細胞株は、光学的に組織修復を調節するために使用することができ、これらの幹細胞への光の照射は、ニューロンへの形質転換の促進に重要な段階である、CREBのリン酸化をもたらす。
【0158】
別の好ましい実施形態は、光学的制御下で分化する細胞を構築するために、幹細胞特異的なプロモーター下にChR2を有するヒト胚幹(ES)細胞を作製することを含む薬物スクリーニング法である。このような細胞におけるChR2の発現は、それらの環境中での細胞の生存および死の活性依存的な進行を変化させる薬物の発見を可能にする。
【0159】
本発明の方法を用いて、細胞は、遠隔制御を介して発生の運命を変えるように強いられることが可能であり、これが可能である薬物スクリーニングツールは、細胞増殖、分化、およびアポトーシスのこのような長期的効果を操作する新規な分子の発見を可能にする。これらのシナリオの全てにおいて、特定の細胞集団は、急速な時間単位で光による処理が可能であり、細胞機能の多くの態様のスクリーニングを可能にする。
【0160】
これらの技術は、イオンチャネル機能を調節する(孔をブロックすること、ゲート開閉に影響を与えること、または開口しているチャネルに影響を与えることのいずれかによって、イオンチャネル機能を遮断するかまたは促進すること)薬物のスクリーニングに適している。図11は、薬物のスクリーニング法の一例を図示する。最初に、イオンチャネルの基礎的な電気的活性は、光をフラッシュし、脱分極を観察することによって測定される。該細胞の蛍光は、光が消された後に元の値まで戻る。次に、薬物は、例えば、その薬物中にピペッティングすること(またはマイクロ流体チャネルを通じて流入すること)によって投与される。最後に、光を再度フラッシュし、イオンチャネルの電気的活性を測定する。この技術は、ホールセルパッチクランプ技術と併用して用いることができ、ここで、電極は、細胞の上方に設置され、吸引は、細胞を突き破り、イオンチャネルを発現する細胞の薬物投与前後の活性を記録するために適用される。本明細書中に記載される方法に従ってスクリーニングすることができる薬物の例には、限定されないが、抗うつ剤、抗精神病薬、カルシウムアンタゴニスト、抗癲癇薬、並びにOCD、アルツハイマー病、パーキンソン病、肥満、中毒、慢性疼痛、筋肉障害および心臓障害を治療するための薬物が含まれる。
【0161】
薬物スクリーニングのための方法の一実施形態は、下記の通りである。
1)光によって活性化されるチャネルタンパク質、好ましくはチャネルロドプシンを細胞株に発現する;
2)同じ細胞株に対象となるイオンチャネル(「チャネルn」)を発現する;
3)電位感受性色素(または他の適切な指示薬、例えば、下記に記載されるもの)を用いて該細胞を標識する;
4)上記細胞を光に曝露し、電位感受性色素の蛍光を記録する;
5)チャネルnの機能を調節し得る候補化合物に上記細胞を曝露する;
6)上記細胞に2度目の光を曝露し、電位感受性色素の蛍光を記録する。
【0162】
好ましくは、光活性化チャネルタンパク質の調節は、チャネルnの調節に関係する。例えば、光活性化チャネルタンパク質の活性化は、チャネルnの活性化を引き起こす。活性におけるこのような相関関係は、直接的でも間接的でもあり得る。該相関関係は、シグナル伝達経路を介し得る。活性における該相関関係は、互いに正比例的であるかまたは互いに反比例的であり得る。
【0163】
蛍光が工程(4)よりも工程(6)で大きい場合、恐らく候補薬物は、チャネル機能を促進する。蛍光が工程(4)よりも工程(6)で小さい場合、恐らく候補薬物は、チャネル機能を減少させる。蛍光が工程(4)と(6)で(色素の退色の余地を許容して)等しい場合、該薬物は、チャネル機能に影響を与えない。このようにして、チャネル機能に影響を与える薬物を、迅速に検出することができる。図11は、薬物がチャネル機能の負の調節因子である一例を図示する。
【0164】
工程(1)および(2)において細胞株の調製後、細胞株は、チャネルnを調節する多くの(恐らくは数百万の)薬物のスクリーニングに対して十分である。工程(4)、(5)、および(6)は、384ウェルプレートを光学ビームの焦点に移動するロボット装置で行うことができる。プレートのウェルは、同じ細胞株を含み、特定のチャネルに影響を与える薬物のスクリーニング(「ハイスループット標的スクリーニング」、下記を参照)を容易にし、または各ウェルは、異なる細胞株の細胞を含み、多くの異なるチャネルに対して1つの薬物のスクリーニング(「副作用に対するスクリーニング」、下記を参照)を容易にすることができる。
【0165】
電位感受性色素は、高速動態であるので好ましいが、他の色素(例えば、チャネルnがカルシウムチャネルの場合のカルシウム感受性色素)はまた、チャネル機能が薬物によって調節されるかどうかを明らかにするために使うことができる。遺伝的にコードされた電位またはカルシウムの指示薬(例えば、FLASH、GCaMP2、カメロンなど)はまた、細胞の活性を解釈する有用であり得る。この場合、これらの指示薬は、同様に細胞株に安定に発現される。薬物が効果を有するかどうかを解釈する他の方法、例えば、イオンチャネル活性の時期中またはその後にリン酸化される部位のリン酸化に対する免疫染色、もまた有用である。
【0166】
薬物スクリーニングに関して、1)チャネルロドプシンを発現し、細胞電位の変化を制御する、細胞を照射するための光源(発光ダイオード(LED)、ランプ、レーザー)、2)色素または指示薬に対する光源、場合により、電位変化を制御するために用いられるのと同じ光源、および3)2つの光源を切り替えるためのスイッチ、または両種類の光の同時非干渉送達のためのビームスプリッタ、を含む光学画像装置を有することが好ましい。色素または指示薬の蛍光は、典型的には、センサー(CCDカメラ、PMT、または光ダイオード)によって測定される。この種の装置は、上述されるイオンチャネル薬物スクリーニングに有用である。装置自体はまた、光源およびセンサーが存在する場を、プレート(例えば、384ウェルプレート)を移動させるためのロボットアームからなっていてもよい。この種の組み合わせた光源/画像装置はまた、診断用途を有する。例えば、細胞を患者から採取し、該細胞にチャネルロドプシンを発現させ、該細胞を光に曝露することは、生検標本または循環系の細胞における患者特異的なイオンチャネル症候群を検出するために用いることができる。
【0167】
本明細書中に記載される方法は、好ましくは、チャネルロドプシンを用いて行うが、任意の適した光活性化陽イオンチャネルを用いることができる。
【0168】
本発明のさらに別の態様は、ハイスループット標的スクリーニングに関する方法である。一実施形態では、ハイスループット標的スクリーニングは、光刺激/読み出し領域に、対象とする細胞を含むウェルを移動させ、次に、上記の方法を実行するプレートリーダーを含み、図11に図示される。次に、機械は、プレートを移動させて、次のウェルを順番にフラッシュすることができる。ウェルプレートの例には、96ウェル、384ウェル、1526ウェルプレートが挙げられる。一実施形態では、本発明のハイスループット標的スクリーニング法は、約2,000個の薬物/日/セットアップまで分析可能である。別の実施形態では、本発明のハイスループット標的スクリーニング法は、約2,500,000個の薬物/年/5セットアップまで分析可能である。
【0169】
別の実施形態では、ハイスループット標的スクリーニングは、チップを用いたシステムを含む。チップを用いたシステムは、マイクロ流体チップ上に作成された溶液環境の層流を横切る単一細胞を高速スキャンすることにより、イオンチャネル上での化合物の、並列的試験というよりもむしろ連続的試験を可能にする。マイクロ流体チップのスキャンは、細胞が薬物溶液の別個のゾーンを抽出することを可能にし、コンピュータ制御の電動スキャンステージによって制御される。マイクロ流体チップは、ハイスループット分析用に、例えば、8チャネル、16チャネル、48チャネルまたはそれより多いチャネルを有することができる。
【0170】
別の実施形態では、ハイスループット標的スクリーニングは、流体の流れに沿って細胞を取り込むための別個の配置群を含む細胞選別装置を含む。この別個の配置は、別個の部位もアクセス可能となるように表面部を横切る規定のパターンに配置され得て、薬物溶液の別個のゾーンを含む。別個の部位における細胞のアレイを作成するために用いられてもよい表面部の例には、限定されないが、セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ガラス、水晶または他の結晶性基質、例えば、ガリウムヒ素化合物、シリコン、金属、半導体、種々のプラスチックおよびプラスチック共重合体、シクロオレフィンポリマー、種々の膜およびゲル、微粒子、ビーズおよび常磁性微小粒子または超常磁性微小粒子が挙げられる。
【0171】
本発明の更なる別の態様は、副作用に対するスクリーニング法である。この方法は、1つのイオンチャネルに選択的に影響を与え、他のイオンチャネルには影響を与えない薬物のスクリーニングを可能にする。個々のイオンチャネルに対するこのスクリーニングは、潜在的な副作用を予期するスクリーニングを可能にする。
【0172】
副作用のスクリーニングの一例として、多くのチャネルは、心臓と脳において別々に発現される。脳で様々にチャネルに結合するが心臓では結合しない薬物のスクリーニングによって、心臓機能に影響を与えない神経精神病学的薬物を見出すことができる。心臓機能に特に重要なのは、カルシウムチャネル、HERGチャネル、他のカリウムチャネル、および鼓動の周期性または鼓動の振幅に影響を与えるイオンチャネルである。
【0173】
人工装具デバイス(人工器官)(Prosthetic Devices)
本発明の別の態様は、人工装具デバイス(人工器官)における本明細書中に記載された方法および組成物の使用である。盲目、難聴、および他の感覚欠損は、世界中の数百万の人々に影響を与え、かれらの生活の質に深刻な影響を及ぼす。ヒト患者の体細胞に標的化されたチャネルロドプシンは、新しい分類の感覚性人工装具(器官)を開発する。例えば、盲目のいくつかの様態は、光センサー機能を破壊するが、下流のニューロンでのシグナル処理は完全なままにさせる。このような疾患、例えば、黄斑変性症または網膜色素変性症では、網膜神経節細胞にチャネルロドプシンを標的化すること(例えば、眼内の網膜細胞層にチャネルロドプシンを発現するウイルスを注入することによる)は、視覚機能の回復を可能にする。網膜神経節細胞を標的としたチャネルロドプシンで処置されたこのような患者では、網膜神経節細胞それ自体が光感受性となり、生来の目に相当する解像度を有する視力を与え、好ましくはその時点以外は侵襲的な技術を必要としない。チャネルロドプシンは、日光(〜1kW/m2の仕事率)を検出するには十分に感受性である。または、チャネルロドプシンは、視力を与えるためにアマクリン細胞または双極細胞に標的とされ得る。外界の光を増幅する投影装置を伴って、網膜細胞にチャネルロドプシンを発現させることは、室内または微光状態で視力を与えるだろう。
【0174】
別の実施形態では、年齢および経験に関連した多くの難聴の様態では、有毛細胞が失われるが、下流のニューロンは損なわれていない。らせん神経節細胞(即ち、8個の神経ニューロン)においてチャネルロドプシンを発現させることは、これらの細胞を光で活性化することを可能にするだろう。蝸牛インプラントは、現在、単一電極またはせいぜい数個の電極を用いて蝸牛の全ての細胞を刺激し、蝸牛内の感覚求心性神経のどんな空間分布も発生反復も試みられていない。1)音を検出するためのマイクロホンと、2)音の周波要素を分析し、それらをLEDシグナルに変換するためのマイクロプロセッサーと、3)空間的にパターン化された様式で光を発するために複数のLEDと、を含むデバイスを蝸牛に挿入することによって、周波数特定的にマップされた刺激装置が作られ、適切な細胞に光を標的するだけで異なる周波数の音の知覚を制御するだろう。
【0175】
さらに別の実施形態では、ヒトの中枢神経系ニューロンはチャネルロドプシンを発現するウイルスで感染させ(または別の方法でチャネルロドプシンを発現するようにさせる)、これらのニューロンは、光に応答することが可能になる。この遺伝子治療アプローチは、脳の標的ニューロンの光学刺激を可能にする。標的ニューロンが感覚野内にある場合、これは、新しい種類の皮質性感覚人工装具(器官)の可能性を広げる。標的ニューロンが前頭皮質または他の脳の部分にある場合、これらの光感受性ニューロンは、感情または認知の調節を可能にする。標的ニューロンが脊髄にある場合、有痛性刺激を阻害するニューロンは、光によって制御されることが可能である。一般的に、この遺伝子治療アプローチは、神経系の定められた部分において、光が神経活動に変換される、新しい種類の汎用の人工装具(器官)を開発する。
【0176】
人工装具デバイス(人工器官)の一実施形態は、化合物を分泌し、光に応答するように操作されている移植細胞に関し、また、完全な状態の動物の脳における神経回路レベルの標的物の捜索に関し、移植可能なLEDまたは頭部装着型のLED、または他の小さな光源を有することは非常に有用であるかもしれない。このような光源は、皮膚の下、頭蓋骨の下、脳内の深部、または対象とする別の臓器の深部に移植することができ、そこには、チャネルロドプシン発現細胞もまた配置されている(外因的に導入されるか、または、内在的に配置されウイルスを用いて標的化される)。このデバイスは、光源に直接的に近接して位置する細胞において、ChR2を刺激するために用いることができる。人工内耳の例には、それぞれが個別に制御可能なLEDのストリップが有用であり得る。皮質への移植の例には、二次元配列のLEDが有用であり得る。皮下に位置したインスリン分泌細胞の例には、バッテリーを備えたブレスレット上の装着型青色LEDが有用であり得る。
【0177】
いくつかの実施形態では、医療用途のために、LEDは遠隔的に電力供給される。遠隔的に電源供給されるLEDは、閉ループ直列回路中のLEDとインダクターとを組み合わせることによって作ることが可能である。これは、高周波(RF)エネルギーまたは急激な変化する磁場(例えば、経頭蓋磁気共鳴(TMS)コイルによって達せられる)が、一時的にインダクターを強化させることを可能にし、したがって、連結されたLEDは、脳構造の深部にでさえ局所的な光の送達を可能にする。このような装置は、皮下、頭蓋骨の下、脳内の深部、または、チャネルロドプシンを発現している細胞(外因的に導入されるか、または、内在的に配置されウイルスを用いて標的化される)もまた位置している、対象とする別の臓器内の深部に移植され得る。次いで、移植されたデバイスを活性化するため、RFや磁力を遠隔的に送達できるデバイスが近くに配置される。
【0178】
生化学的修飾
別の態様は、チャネルロドプシンなどの光活性化チャネルの生化学的修飾を含む。このような修飾は、概して、細胞の異なる部分にチャネルロドプシンを標的化するために行われる。結果として得られるタンパク質がチャネルロドプシンおよび標的ペプチドの両方を含むようにするために、DNAの標的配列にチャネルロドプシンを融合することは、チャネルロドプシンを、シナプス前終末、シナプス後終末、細胞核、または他の細胞内コンパートメントに送るために利用することができる。このような標的配列は、PDZドメイン、グルタミン酸受容体C末端配列およびGABA受容体C末端配列、イオンチャネルC末端配列、前シナプス足場標的配列、および他の標的配列を含む。チャネルロドプシンのこれらの形式は、神経保護、記憶、または他の永続的なシグナル伝達機能に重要なシグナル伝達事象を含む、特異的な細胞内シグナル伝達事象を誘因するために用いることができる。
【0179】
組合わせ方式では、これらの試薬は、チャネルロドプシンの他の用途を補完することができる。例えば、これらの試薬は、薬物スクリーニング(例えば、特定の細胞内コンパートメント内のチャネルの機能を調節する薬物の発見)に有用である。これらの試薬はまた、人工器官(例えば、天然のシナプス活性をよりそっくり真似るために、ニューロンの樹状突起における活性を制御すること)に有用でもある。
【0180】
LEDを有する方法およびデバイスが本明細書中に記載されるが、しかし、小さなレーザー、または外部の供給源(キセノンランプまたは水銀ランプ)から光をもたらす光ファイバーケーブルもまた用いることができる。チャネルロドプシン発現細胞を照射するために使用される好ましい光源は、下記の特性を有する:
0〜25ms、またはそれよりも長時間で調節可能な刺激時間、
0〜10mW/mm2の範囲、またはそれより高い範囲で調節可能な明るさ、
光活性化チャネルの強度に依存して、440〜490nmの範囲、またはそれよりも広い範囲の波長。
【0181】
製造品
本発明の別の態様では、本明細書中に記載される組成物を含む製造品(例えば、LACC配列を含む核酸、またはLACCタンパク質発現細胞)が提供される。この製造品は、容器およびラベルを含む。適した容器には、例えば、ボトル、バイアル、注射器、プレート、および試験管が含まれる。該容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成されてもよい。使用のための適した包装および追加の物品(例えば、液体製剤用の計量カップ、空気への曝露を最小限にするホイル包装、ディスペンサーなど)は、当分野において知られ、製造品に含むことができる。
【0182】
一実施形態では、容器は、各ウェルに、例えば、保護培地(例えば、20%DMSOを含む培地)にあらかじめ凍結した、対象とする異なる細胞を含む96ウェル、384ウェル、および1526ウェルのプレートである。該プレートは、ドライアイス中で搬送され、受領次第、短時間保存のために−80℃で保存可能である。または、プレートは、長期保存のためには、液体窒素中で保存される。このプレートは、上述したもの、または当分野において知られる規定のプレートリーダーのようなプレートリーダー/電動ステージデバイスに適合する。
【0183】
一実施形態では、容器は、疾患状態を治療するために効果的である組成物を保持し、無菌のアクセスポートを有してもよい(例えば、該容器は、皮下注射針によって穴を開けられるストッパーを有する静脈注射用の溶液バッグまたはバイアルであってもよい)。組成物中の活性剤は、本明細書中に記載される発明の組成物である(例えば、LACC配列を含む核酸、またはLACCタンパク質発現細胞)。製造品は、さらに、同一または別個の容器内に、本発明の組成物と同時投与される治療薬などの別の薬物と、任意的に、リン酸緩衝化生理食塩水、リンゲル液、およびブドウ糖溶液などの医薬として許容されるバッファーを含むことができる。
【0184】
容器上のラベルまたは容器に関連したラベルは、組成物を使用するための指示を示し、例えば、容器は、組成物が選択された疾患状態を治療するために、または化合物をスクリーニングするために、もしくは化合物の副作用をスクリーニングするために用いられることを指示してもよい。本明細書中に記載される容器は、さらに、商業的およびユーザーの立場から臨まれる他の材料を含んでもよく、それには、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、注射器、および使用説明書を含む添付文書が含まれる。
【0185】
本明細書中に記載の実施例は、本発明の真の範囲を決して制限するものではないが、、むしろ例証的な目的のために示されていることが解釈される。本明細書中に引用された全ての参考文献および受入番号を有する配列は、全体として参照文献に取り込まれている。
【実施例】
【0186】
プラスミドコンストラクト。ChR2−YFP遺伝子は、NotI部位を介して、ChR2(GeneBank受入番号AF461397)の最初の310個のアミノ酸残基のC−末端にEYFP(Clontech)をインフレームで融合させることによって構築した。レンチウイルスベクターpLECYTは、プライマー:
【0187】
【化1】
を用いて、ChR2−YFPを増幅するPCRによって生成し、AfeIおよびSpeI制限部位を介して、pLET(Eric WexlerおよびTheo Palmer(スタンフォード大学)から贈呈)に連結した。該プラスミドを増幅し、次に、Qiagen MaxiPrepキット(Qiagen)を用いて精製した。
【0188】
ウイルス生成。VSVg偽型レンチウイルスは、Lipfectmine 2000を用いて、pLECYT、pMD.G、およびpCMVデルタR8.7(Eric WexlerおよびTheo Palmerから贈呈)を、293FT細胞(Invitrogen)に3重トランスフェクションすることによって生成した。レンチウイルス生成プロトコールは、リン酸カルシウム沈殿法の代わりにLipofectamine 2000を使用したことは除いて、以前に記載されたもの42と同じである。集菌後、ウイルスは、SW28ローター(Beckmann Coulter)中で、20,000rpmで2時間、4℃で遠心分離により濃縮した。濃縮したウイルスの力価は、FACSソーティングにより決定し、5×108〜1×109IU/mLであった。
【0189】
海馬細胞培養。出生後0日(P0)のスプラーグドーリー(Sprague−Dawley)ラット(Charles River)の海馬を切除し、パパイン(20U/ml)で45分間、37℃で処理した。該消化は、20mMグルコース、Serum Extender(1:1000)、および25mgのウシ血清アルブミン(BSA)と25mgのトリプシン阻害剤とを含む10%熱不活性化ウシ胎児血清と共に、10mlのL−グルタミン不含MEM/Earle塩で停止させた。該組織は、先端熱加工パスツールピペットで少量のこの溶液中に倍散し、24ウェルプレート中に、カバースリップ当たり、1mlあたり約100,000細胞を播種した。ガラス製カバースリップ(一晩HCl中で前洗浄し、その後、何回か100%EtOHで洗浄し火炎滅菌した)は、1:50のマトリゲル(Collaborative Biomedical Products,Bedford,MA)を一晩37℃で被覆した。細胞は、2×B−27(Life Technologies)および2mM Glutamax−I(Life Technologies)を含む培養液:Neurobasal中に播種した。2分の1の培地を次の日に培地と交換し、最終の血清濃度を1.75%とした。ここに記載されるいずれの実験に対しても培養培地または記録培地にはオールトランスレチナールを添加しなかった。しかしながら、B27は、ChR2機能の手助けをしたかもしれない酢酸レチニルのような少量のレチナール誘導体を含む。オールトランスレチナールまたはその前駆体の追加補給は、完全な状態での回路研究へのChR2の適用において手助けとなるかもしれない。
【0190】
ウイルス感染。海馬培養物は、レンチウイルス(約1×106IU/ml)の5倍連続希釈を用いて、インビトロ培養7日目(d.i.v.7)で感染させた。24ウェルプレート中のカバースリップに播種した海馬培養物にウイルス希釈物を添加し、その後、パッチクランプを用いて記録する前に37℃で7日間インキュベートした。
【0191】
共焦点画像処理。63×水浸レンズを用いてライカ(Leica)TCS−SP2 LSM共焦点顕微鏡上で画像を取得した。ChR2−YFP発現細胞は、NaCl、125mM;KCl、2mM;CaCl2、3mM;MgCl2、1mM;グルコース、30mM;および、HEPES、25mM(NaOHでpH7.3にする)を含むタイロード(Tyrode)液中で、YFP用の顕微鏡設定を用いて生きた状態で撮像した。ヨウ化プロピジウム(PI;Molecular Probes)染色は、細胞培養液に5μg/mLのPIを5分間、37℃で添加し、タイロード液で2回洗浄することにより、生細胞で行われ、次いで、直ちに蛍光細胞および非蛍光細胞をカウントした。その後、カバースリップは、新鮮な4%パラホルムアルデヒドを加えたPBS中で5分間固定し、0.1% Triton−100を加えたPBSで2分間透過処理し、次に、濃縮した核の観察のために、5μg/mLのPIに5分間浸した。カバースリップ当たり、少なくとも8つの異なる視野が調べられた。
【0192】
電気生理学および光学的方法。培養した海馬ニューロンは、感染7日後の、インビトロ培養約14日目(d.i.v.14)で記録した。ニューロンは、20×対物レンズを装備したOlympus IX71倒立顕微鏡上のAxon Multiclamp 700B(Axon Instruments,Inc.)増幅器を使用して、ホールセルパッチクランプ技術を用いて記録した。ホウケイ酸ガラス(Warner)ピペットの抵抗は、平均4MΩ、3〜8MΩの範囲であった。アクセス抵抗は、10〜30MΩであり、記録の間中モニターした。細胞内液は、97グルコン酸カリウム、38KCl、0.35EGTA、20HEPES、4マグネシウムATP、0.35ナトリウムGTP、6NaCl、および7クレアチンリン酸(KOHでpH7.25にする)から成る。ニューロンは、上述のように、タイロード液中で灌流した。全ての実験は、室温(22〜24℃)で行った。図4bおよび図4cに示されるシナプス伝達データ以外の全ての実験について、本発明者らは、シナプス伝達をブロックするために、5μMのNBQXおよび20μMのgabazineを含むタイロード液中に浸した蛍光細胞をパッチした。
【0193】
光電流は、−65mVに固定した電位にニューロンを保持しながら測定した。不活性化からの回復は、1〜10秒持続する暗間によって分離される、各々が500ms持続するパルス対を用いてニューロンを照射しながら光電流を計測することによって測定した。
【0194】
スパイクは、約−65mVでの細胞の電位を保つための電流を注入しながら(0pA〜200pAの範囲で電流を保持しながら)測定した。シナプス伝達実験については、本発明者らは、ChR2発現ニューロンの近くに非蛍光ニューロンを固定し、正の興奮性シナプス後応答を分離するために20μMのgabazineを含むか、または正の阻害性シナプス後応答を分離するために5μMのNBQXを含むタイロード液中に浸した。発生した電位が確かにシナプスに制御されたものかどうかを確かめるために、シナプス刺激後に、本発明者らは、20μMのgabazineと5μMのNBQXとの両方を含む溶液を用いて全てのシナプス後受容体を遮断し、再度光刺激した。
【0195】
pClamp9ソフトウェア(Axon Instruments)は、全てのデータを記録し、MultiClamp 700B増幅器を操作するために使用し、300Wキセノンランプを有するSutter DG−4超高速光スイッチ(Sutter Instruments)は、ChR2活性化のための光パルスを送達するために使用した。標準的なEndow GFP励起フィルター(励起フィルターHQ470/40x、二色性Q495LP;Chroma)は、バンド幅450〜490nmで、ChR2活性化のための青色光を送達するために使用した。YFPは、標準的なYFPフィルター(励起HQ500/20×、二色性Q515LP、発光HQ535/30m;Chroma)を用いて可視化した。20×対物レンズを通して、青色光の電力密度は、シリコン電力計(Newport)を用いて測定されるように、8〜12mW/mm2であった。一連のパルスは、MATLAB(MathWorks)に書き込まれたカスタムソフトウェアによって合成され、PCに接続したDigidataインプット/アウトプットボード(Axon)を介してpClamp9にエクスポートした。ポアソンインパルス列は8秒の長さで、ポアソンパラメーターλ=100msまたはλ=200msを有する。ポアソンインパルス列に関しては、生物物理学的な現実性を考慮して、10msの最小不応期が光パルス間に課された。
【0196】
膜抵抗は、3秒ごとに繰り返される75ms持続する20mVパルスを用いて、電位固定モードで測定した。直接的な電流入力によるスパイク比率は、0.5秒持続する電流300pAのパルスで測定した。
【0197】
データ解析。データは、Clampfit(Axon)およびMATLABに書き込まれたカスタムソフトウェアを用いて、自動的に解析した。スパイクは、閾値(典型的には、静止電位より60mV上)を超える電位の通過を探すことによって抽出され、潜時は、光パルスの開始からスパイクピークまで測定した。外因性のスパイクは、光パルスの開始後の30ms以降に発生するいずれかのスパイクも加えて、1回の光パルス後の余分なスパイクの数として測定される。
【0198】
微小振動は、スパイク潜時の標準偏差として計算され、スパイク列を通して(列を通しての信頼度を評価する場合)、または異なるスパイク列間の同じスパイクに対して(列間またはニューロン間の信頼度を評価する場合)のいずれかで測定した。全ての微小振動の解析に関して、特定のニューロンにおいてスパイクを引き出さなかった光パルスは、そのニューロンの微小振動の解析については無視された。図2hに示されるニューロン間微小振動解析に関して、7個全てのニューロンにおいてスパイクを引き出さなかった光パルスは無視された(λ=100刺激については31/59の光パルス、λ=200刺激については30/46の光パルスが残った)。
【0199】
実施例1
光と神経脱分極とを結びつける、安定で信頼性のあるChR2発現を得るために、本発明者らは、ニューロンのゲノム改変のための、ChR2−YFR融合タンパク質を含むレンチウイルスを構築した。培養したラットCA3/CA1ニューロンへの感染は、感染後の数日〜数週間で、膜に局在化し、耐容性のよい、適切なChR2の発現をもたらした(図1a)。融合タンパク質の発現が高いレベルでも、発現タンパク質による毒性の兆候はなかった。ニューロンの細胞全体の電位固定記録は、バンド幅450〜490nmでの従来のGFP照射(Chroma励起フィルターHQ470/40×を介した300Wキセノンランプ(Sutter DG−4))は、速い上昇速度での脱分極を誘導し、光パルスの開始後、2.3+1.1ms以内に160+111pA/msの最大上昇速度に達した(平均値+標準偏差として記載、n=18;図1b、左)。細胞全体の平均の内向き電流は大きく、最大時に496pA±336pA、定常状態で193pA±177pAであった(図1b、中央)。対照実験では、YFPを単独で発現している細胞では、光により誘発された応答は見られなかった(データ示さず)。ChR2の既知の励起スペクトル20と一致して、バンド幅490−510nmでのYFP−スペクトル光(Chroma励起フィルターHQ500/20×でフィルターした300Wキセノンランプ)を用いたChR2発現ニューロンへの照射は、GFPフィルターを用いて誘発したものよりも小さな電流を引き起こした(図1b、右)。持続的な光曝露によるChR2の不活性化(図1bおよび参考文献20)にもかかわらずに、本発明者らは、ニューロンにおいてピークのChR2光電流の急速な回復を観察した(図1c;τ=5.1+1.4秒;Levenberg−Marquardtアルゴリズムに適合した回復軌道;n=9)。この急速な回復は、細菌型ロドプシンにおけるシッフ塩基(レチナールを結合する、7番目の膜貫通ヘリックス中のリジン)の周知な安定性、および、暗反応において、他の酵素を必要としないでオールトランス基底状態に再異性化するといったレチナールの能力と一致する。上記で示されたピーク光電流の短時間での回復に加えて、光により誘発された電流の振幅はまた、長期間で安定であり、一時間のパルス光曝露の間中、パッチクランプされたニューロンで変化しないままであり(データ示さず)、共焦点画像によって示唆されるような毒性を欠くことを機能レベルで確実にしている(図1a)。したがって、ChR2は、検出可能な有害な副作用のない、大きな振幅の急速で持続的な光電流を媒介することができる。
【0200】
実施例2
本発明者らは、ChR2誘導電流を誘発するために用いたものと同じ一定照射プロトコールを用いて、ChR2が電流固定モードで保持されたニューロンの実際の脱分極を制御できるかどうかを調べた(図1d、左)。一定照射期の初期では、単一のニューロンスパイクが、急速および確実に誘発され(スパイクピークまで8.0+1.9msの潜時;n=10;図1d、右)、上述したChR2電流の高速な上昇の時間と一致した。しかしながら、これらの細胞については、これらの特定の条件で、一定照射中に誘発される、その後のスパイクのいずれも、あまり時間調節されていなかった(図1d、左)。したがって、この特定の試料に関しては、第一スパイクの信頼度にもかかわらずに、一定照射は、ChR2を用いた継続的なスパイクのタイミングを調節するには適切ではなかった。体細胞の電流注入を用いた初期のパッチクランプ研究は、スパイク時間は、一定の高振幅電流を注入している期間よりも、膜電位が急速上昇している期間のほうが、より信頼性があることを示した。これは、一定照射が単一の確実に時間調節されたスパイクを誘発し、その後、不規則なスパイクを誘発したという本発明者らの見解と一致している。
【0201】
実施例3
本発明者らは、一定照射によって確実に誘発された単一スパイクが、試行ごとに非常に低い一過性の微小振動を有することを見出した(図1d、右;0.5+0.3ms;n=10ニューロン)。この観察は、光パルスの開始時に誘発される単一の信頼性のあるスパイクの低い微小振動を利用する、パルス光理論を考案させた。しかし、このようなパルス光理論が作用するためには、ChR2の透過性および動態が、所望のスパイク間の間隔よりも短い光パルスの間に、十分な振幅のピーク電流を可能にしなければならない。実際には、高速光スイッチを用いて、本発明者らは、分散した暗期を伴う複数の光のパルスが、信頼性があり十分に時間調節されたスパイク列を誘発することができることを見出した(図1e;25Hzの4つのパルス列に関して示される)。図1eは、より長い光パルスは、短い光パルスよりも高い確率で単一スパイクを誘発するという事実を強調する。高速光スイッチを用いて容易に光パルス期間を変える能力は、照射される全てのニューロンで単一スパイクが確実に観察されるまで、光パルス期間を単に増加させることによって、異なるChR2電流密度を有する複数のニューロンにおいてもスパイクを誘発する直接的な方法を提案する。光パワーの急速調節はまた、この種の制御を可能にする。本明細書に記載される実験では、本発明者らは、5ms、10ms、または15msのいずれかの光パルス期間を使用した(n=13、信頼性のあるスパイクを発した高発現ニューロン;n=5、信頼性のある閾値下の脱分極を発した低発現ニューロン)。したがって、ニューロンスパイク生成の非線形的な性質は、得られる電位のふれがスパイク発火の閾値を超えるまで、ChR2発現ニューロンに送達される光エネルギーを単に増加させることによって、スパイクを確実に誘発させることを可能にする。しかしながら、短い光パルスを使用することなしで、ChR2の高速動態は、信頼性のあるスパイク誘導の調節において、通常、有益でない可能性がある:これは、光学機器を光刺激試薬のバンド幅に適合させる必要性を強調する。
【0202】
実施例4
本明細書中に発見されたミリ秒単位の制御は、遠隔的な光学制御によってニューロンに、任意に定義された、自然なスパイク列(例えば、通常、自然の活性をモデルするために使用されるポアソン列)を産生する見通しをもたらす。図2aは、同じポアソン分布の光パルスシリーズの3回の送達に応答した、海馬ニューロンにおけるスパイク列を示す(ここでは、それぞれが10ms間続く、59回連続の光パルスを示す;ポアソンパラメータλ=100ms)。これらの光学的に制御されたスパイク列は、繰り返される同じシリーズの光パルスの送達間でほとんど一貫していた:平均して、95%以上の連続した光パルスは、図2aに示されるλ=100msの連続光パルスについて、および、46スパイクからなるλ=200msの連続光パルスの両者について、(図2b;n=7ニューロン)、それらが二回目の試行でスパイクを誘発する場合、およびその場合のみ、一試行中にスパイクを誘発する。信頼性のあるスパイク発火点まで光パルス期間を増加させるストラテジーに続いて、本発明者らは、7ニューロンのうち4つに対して各々10ms持続する光パルス列を使用し、他の3つに対して15ms持続する光パルス列を使用した(図2の解析については、全てのデータをプールした)。試行間の微小振動は、同じポアソン連続の光パルスの繰り返された送達間で、非常に小さかった(λ=100に対して2.3+1.4ms、λ=200に対して1.0+0.5ms;図2c)。広域なパルスシリーズの全体で、列全体でのスパイク誘発効率は維持された(76%および85%の光パルスがそれぞれ効果的にスパイクを誘発した;図2d)。光パルス開始後のスパイクに対する潜時も、一連のパルス全体で一貫していた(それぞれ、14.3+3.1msおよび13.3+3.4ms;図2e)。最後に、スパイクの微小振動は、列全体で顕著に小さいままであった(3.9+1.4msおよび3.3+1.2ms;図2e)。それ故、ChR2のパルス光学活性化は、長期に亘って単一ニューロンにおいて正確で繰り返し可能なスパイク列を誘発することができる。
【0203】
実施例5
異なるニューロン間でさえ、規定された光パルスシリーズによるChR2の活性化は、著しく高い忠実度を持つ同一のスパイク列を誘発することができた(図2fに、3つの海馬ニューロンについて示す)。個々のニューロンの不均一性、例えば、それらの膜電気容量(68.8+22.6pF)および膜抵抗(178.8+94.8MΩ)における不均一性は、それらの統合的な電気的特性に有意な可変性を導入することが期待され得て、スパイク発火と光の連関に関して固有である、強力な非線形性は、この可変性を克服した。実際には、異なるニューロンは、所定のパルスシリーズに対して同様に応答し、80〜90%の光パルスシリーズで、試験した7個のニューロンのうち少なくとも4つにスパイクを誘発した(図2g)。さらに、異なるニューロンに送達された同じ光パルスシリーズに対して測定すると、スパイクは非常に低い一過性の微小振動を有した(λ=100に対して3.4+1.0ms、λ=200に対して3.4+1.2ms;図2h)。著しいことに、このニューロン間微小振動(図2h)は、光パルスシリーズ全体で測定される、ニューロン内微小振動と同一であった(図2e)。したがって、ニューロンの不均一な集団は、期間中に単一ニューロンの調節に関して観察される、実質的には同一の精度で、協奏的に調節可能である。
【0204】
実施例6
持続的で自然なスパイク列を制御するChR2の能力を確実にするために、本発明者らは、次に、光とスパイクに連関する周波数応答を定量的に精査することにした。ChR2は、ポアソン列のデータ(図2)によって示唆されるように、5〜30Hzの持続的スパイク列(図3a;ここでは、一連の20個の10msの長さの光パルスを用いて試験した)を制御することができた。これらの特定の条件下でのこれらの特定の細胞に関して、高い周波数でよりも低い周波数でより多くのスパイクを誘発することが容易であった(図3b;n=13ニューロン)。5Hzまたは10Hzで送達された光パルスは、任意に長いスパイク列を誘発すことができ(図3b)、スパイク確率はより高い周波数の刺激で低下した(20Hzでは、7.2+6.6スパイク、30Hzでは、4.0+6.3スパイク)。これらの実験に関しては、使用した光パルス期間は、5ms(n=1)、10ms(n=9)、または15ms(n=3)の長さであった(n=13細胞の全てのデータは、図3の集団解析のためにプールした)。光パルスは、一般的に、単一スパイクを誘発するという観察(図1dおよび図2)から期待されるように、光パルス列の送達中に、外因性のパルスはほどんど発生しなかった(図3c)。より高い周波数でさえ、スパイクタイミングの一過性の微小振動は、列を通じて非常に低いままであり(5ms以下;図3d)、スパイクに対する潜間は、周波数間で一定のままであった(全体を通じて約10ms;図3e)。したがって、ChR2は、列の制御およびスパイクのバースト発火に適した、生理学的に関連している発火頻度の範囲全域でスパイクを誘導することができる。
【0205】
実施例7
繰り返しの光パルスによって誘発される閾値下のふれにおける試行間の可変性は、全く小さいことが見出され、変動係数は、0.06+0.03であった(図4b;n=5)。したがって、ChR2は、正確に決定された振幅を用いて確実に時間制御された閾値下の脱分極を制御するために使用することができる。
【0206】
実施例8
ChR2により媒介されるスパイク発火の忠実度の高い制御は、シナプス伝達を介して、連結した神経ネットワーク全体で光学的に活性を制御することができることを示唆した。実際に、興奮性(図4c)および抑制性(図4d)シナプス事象は、ChR2を発現しているシナプス前ニューロンからのインプットを受けて誘発することができた。これらの結果は、シナプス伝達がChR2を用いて確実に調節され得ることを示唆した。
【0207】
実施例9
ニューロンにおけるChR2の発現が、該ニューロンの基礎的な電気特性を乱したり、光がない状態で該ニューロンの動的な電気特性を変化させたり、または細胞生存の見通しを危うくしたりするか、を試験するために、広範囲の制御を実行した。少なくとも1週間のレンチウイルスからのChR2の発現は、暗闇中で測定されると、ニューロンの膜抵抗(ChR2陽性細胞に対して212+115MΩ、対して、ChR2陰性細胞に対して239.3+113MΩ;図5a;p>0.45;各々n=18)またはニューロンの静止電位(ChR2陽性細胞に対して−60.6+9.0mV、対して、ChR陰性細胞に対して−59.4+6.0mV;図5b;p>0.60)を変化させなかった。これは、ニューロンにおいて、光がない状態で、ChR2はほとんど基底の電気的活性を持たないか、または受動的な短絡(shunting)能力でさえ有しないことを示唆した。膜の完全性の電気的判定によって示されるように、ChR2の発現は一般的な細胞の健康状態を障害しなかったことも示唆する。膜の完全性と細胞の健康状態とを独立して測定するため、本発明者らは、膜非透過性のDNA結合色素であるヨウ化プロピジウム(PI)を用いて生きた培養ニューロンを染色した。ChR2陽性の発現は、PIを取り込む生きたニューロンの割合に影響を与えなかった(1/56 ChR2陽性ニューロン、対して、1/49 ChR2陰性ニューロン;χ2検定によるp>0.9)。ChR2を発現している細胞において、アポトーシス変性の指標となる、いかなる濃縮した核も検出しなかった(データ示さず)。本発明者らはまた、暗闇中で測定した動的電気特性の変化を調べた。過分極方向(ChR2陽性ニューロンに対して−22.6+8.9mV、対して、ChR2陰性ニューロンに対して−24.5+8.7mV;p>0.50)または脱分極方向(ChR2陽性ニューロンに対して+18.9+4.4mM、対して、ChR2陰性ニューロンに対して18.7+5.2mV;p>0.90)のいずれにおいても、100pAの注入電流に起因する電位変化に差異がなく、0.5秒の+300pAの電流注入(ChR2陽性ニューロンに対して6.6+4.8、対して、ChR2陰性ニューロンに対して5.8+3.5;図5c;p>0.55)によって誘発されたスパイクの数において差異はなかった。従って、光がない状態では、ChR2の存在は、漏洩性チャネルを介した電流を短絡したり、既存のニューロン入出力関係の電位依存性を変えることによって、電位またはスパイクのアウトプットの閾値下の変化のレベルで、細胞の健康状態および進行中の電気的活性を変化させない。これらの制御はまた、ChR2を発現しているニューロンの電気的特性に、有意な長期の可塑的または恒常的変化がないことを示唆する。
【0208】
実施例10
ChR2が、ニューロンに光誘導性の細胞健康状態に関した問題を生じ易くするかどうかの試験では、本発明者らは、典型的なパルスプロトコール(1秒間の20Hz、15msの光フラッシュを1分間に1回、10分間)に光曝露後の暗闇中で24時間後、上述した電気的特性を測定した。ChR2を発現しているニューロンへの光の曝露は、フラッシュしていないニューロンと比較して、それらの基底の電気的特性を変更せず、細胞は、正常な膜抵抗(178+81MΩ;図5a;p>0.35;n=12)、および静止電位(−59.7+7.0mV;図5b;p>0.75)を保有していた。光への曝露は、生細胞のPI摂取によって測定されるように、ニューロンを細胞死になり易くさせなかった(2/75ChR2陽性ニューロン、対して、3/70 ChR2陰性ニューロン;χ2検定によるp>0.55)。ChR2を発現し、光フラッシュに曝露されたニューロンはまた、体細胞電流注入により誘発されるスパイク数は正常であった(6.1+3.9;図5c;p>0.75)。従って、膜の完全性、細胞の健康、および基底電気的特性は、ChR2を発現し、光に曝露されたニューロンにおいて正常であった。
【0209】
実施例11 ChR2を挿入するためのレトロウイルス
モロニー型レトロウイルスは、幹細胞などの分裂細胞(Oryら、Proc Natl Acad Sci USA 93:11400(1996))を選択的に標的とする。本発明者らは、蛍光タンパク質に融合させるか、または非融合蛍光タンパク質との同時発現を可能にするためIRESを用いて、ChR2を含むレトロウイルスを構築した(図6)。これらのウイルスは、CMVトリβアクチンプロモーター下でChR2を制御し、分裂哺乳動物細胞への効果的な感染を可能にするためにVSV−G偽型である。これらのレトロウイルスは、ChR2を含むプラスミドとヘルパーベクターとを、293T細胞に三重トランスフェクトすることによって生成された。または、本発明者らは、レトロウイルスのパッケージングシステムを持続的に担持する細胞を選択するために、テトラサイクリン、ピューロマイシン、およびG418を含む成長培地中で293GPG細胞株を増殖させた。テトラサイクリンは、増殖相において、293GPG細胞への毒性があるVSV−Gの発現を抑制するために用いられる。70%コンフルエンスまで細胞を増殖後、VSV−Gの発現を可能にするためにテトラサイクリンを除去する。この時点で、Chr2およびGFP(適切な)を含むプラスミドをリポフェクタミンを用いて293GPG細胞にトランスフェクトし、培養した293GPG細胞は、遺伝子発現およびレトロウイルス産生が開始する際の蛍光の兆候をモニターされる。次に、これらの細胞株は、将来のレトロウイルス産生のために凍結される。これらのウイルスは、インビトロ(腎臓細胞株、幹細胞)およびラットのインビボ(海馬幹細胞、グリア)の両方において、分裂細胞に効率的に感染することが示された。このコンストラクトは、エクスビボで分裂細胞にChR2を標的化する目的、治療でヒトに移植する目的、細胞株の作製の目的、癲癇、片頭痛、睡眠発作、さらに自己免疫疾患などの細胞活性疾患の研究のための標識化細胞の選択的集団を用いた動物の開発の目的に有用であろう。本発明者らが作製したレンチウイルスは、ドキシサイクリンなどの外因性薬物のレベルを変更することだけで、ChR2の遺伝子発現レベルの調節を可能にするテトラサイクリンエレメントを含む。この方法、または薬物依存性プロモーターの調節下にChR2を配置する他の方法は、細胞におけるChR2の遺伝子量の調節を可能にし、所定量の光が、電気的活動、物質放出、または細胞発生において異なる効果を有することができるようにする。本発明者らが作製したレンチウイルスは、ドキシサイクリンなどの外因性薬物のレベルを変更することだけで、ChR2の遺伝子発現レベルの調節を可能にするテトラサイクリンエレメントを含む。
【0210】
実施例12 幹細胞株
EF1−アルファプロモーターの制御下でChR2−EYFPを安定に発現するクローン性神経幹細胞株は、培養した非分化神経幹細胞を、ChR2をコードする遺伝子を含むレンチウイルスを用いて感染させることによって作製した。図7は、この神経系前駆細胞(NPC)幹細胞株の顕微鏡写真を示す。この細胞株は、神経の発生、発達、またはアポトーシスにおける電気的活性に影響を与える薬物のスクリーニングに適している。本発明者らが既に作製した幹細胞株は、光学的に制御可能な組織修復の目標を実現する正しいステップであり、これらの幹細胞への光の照射は、該幹細胞のニューロンへの形質転換を促進する重要なステップであるCREBリン酸化をもたらす(図8)。これらの均質な幹細胞株はまた、成熟動物の脳に移植することもでき、それらは、海馬回路に組み込まれ、2〜6週後に機能的に試験することができる。
【0211】
実施例13 トランスジェニックゼブラフィッシュ
ゼブラフィッシュ(ダニオ・レニオ(Danio rerio))胚は、数百細胞期において、ゼブラフィッシュにおける特定の細胞型に特異的なプロモーターの下にChR2を含むプラスミドDNAを急性的に注入された。それから、ゼブラフィッシュ中のランダムな細胞サブセットはDNAを取り込み、魚の発生の間中、該プラスミドを維持し、その後、特定の細胞がプラスミド中のChR2を発現する。図9は、ゼブラフィッシュ三叉神経(左)、およびゼブラフィッシュ筋細胞(右)において選択的に発現したChR2−EYFPの顕微鏡写真を示す。簡単には、受精後48時間から96時間の幼生は、フィッシュ・リンゲル液中の0.02%トリカインで麻酔され、画像処理および光刺激のために1.2%アガロース中にマウントした。筋肉でChR2を発現している生きた魚への0.5秒の青色光の照射は、急速で、位相性の、1回の筋収縮を引き起こし、このことは、ChR2を含まないゼブラフィッシュでは見られなかった。ニューロンは、ChR2発現に対し十分に耐容性を示し、蛍光カルシウム色素(例えば、オレゴン・グリーン(Oregon Green)、BAPTA−1、X−rhod−1)を負荷することができ、二光子顕微鏡を用いて、ChR2を発現する選択的に活性化されたニューロンの下流のニューロン活性をモニターするのに適している。
【0212】
実施例14 トランスジェニックハエ
ハエにおいて遺伝子発現の柔軟な調節を可能にするGAL4−UASシステムにおいて使用するために、UASプロモーター下でChR2を発現するハエ(キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を生成した。UAS−ChR2ハエは、種々のショウジョウバエGAL4系統と交配することができ、ここ数年に亘って作製された多数のトランスジェニックハエを利用することができる。本発明者らは、セロトニン作動性ニューロンおよびドーパミン作動性ニューロンで排他的に発現されるGAL4を含むハエとUAS−ChR2を発現するハエとを交配している。これは、動機付け行動の制御および微細に調節された運動パターンの生成についての研究を可能にする。
【0213】
実施例15 トランスジェニックぜん虫
ぜん虫(線虫(C.elegans))は、ぜん虫の合胞体の生殖腺に特異的なプロモーター下にChR2を含むプラスミドを注入することによってChR2の発現が引き起こされた。ぜん虫はまた、可視的マーカー遺伝子を同時に注入され、トランスジェニック線虫の産生の成功を目視で検査することを可能にする。ぜん虫の生殖腺は、プラスミドDNAを取り込み、卵中の大きな染色体外アレイにDNAを保存し、ぜん虫の子孫までプラスミドを伝える。本発明者らは、機械感受性ニューロンAFD、介在ニューロンAIY、またセロトニン作動性ニューロンおよびドーパミン作動性ニューロンに、ChR2を標的化する線虫系統を作製した。これらのぜん虫は、安定な株の生成の成功を示す、可視的マーカー遺伝子を発現する。本発明者らは、動機付け行動の制御および微細に調節された運動パターンの生成において重要である、セロトニン作動性ニューロンおよびドーパミン作動性ニューロンにおいてChR2を線虫で発現させる。
【0214】
実施例16 トランスジェニックマウス
マウスは、BACトランスジェニック技術(遺伝子の本来の遺伝的環境を模倣するために)、または位置効果多様化技術(ニューロンのごく小さな集団において遺伝子がランダムに発現するのを可能にするトランスジェニック方法)を用いて、特異的遺伝子座(既存の遺伝子座に遺伝子を「ノック・インする」)に特異的プロモーターの制御下(特異的プロモーター下にChR2を含むプラスミドを前核注入することによる)で、遺伝子導入によりChR2を発現するように作製される。本発明者らは、これらの手段の全てを探究している。本技術の能力を速やかに証明するため、本発明者らは、位置効果多様化を用いてニューロンの小集団でChR2が発現可能となるマウスを構築した。本発明者らは、神経系の多くの部分において投射ニューロンで発現される免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであるThy1(Gordonら、Cell 50:445(1987)、Fengら、Neuron 28:41(2000))遺伝子に対するプロモーター下にChR2を配置した。Thy1プロモーターの制御下でGFPを発現している従来の遺伝子組換え体は、Thy1プロモーターと局所制御エレメントとがランダムに相互作用により、Thy1−GFPマウスの多くの系統がニューロンの小集団においてGFPを発現することを示した(Fengら、2000)。本発明者らは、Thy1−ChR2−EYFPを含む直線化プラスミドをマウスの胚性幹細胞に注入し、これらのマウスは、現在、神経系のニューロンの特定の小集団においてThy1を発現する子孫を産生するために交配している。これらのマウスは、脳におけるこれまでに知られていなかった細胞型の機能解析に極めて有力であることが検証され、特定のニューロン型の因果機能の理解へと導くだろう。
【0215】
実施例17
ChR2を用いたげっ歯類光受容体変性症の治療
網膜変性疾患によって引き起こされる光受容細胞の死は、多くの場合、光に対するレチナール応答の完全な喪失をもたらす。網膜内ニューロンは、レンチウイルスベクターを用いてチャネルロドプシン−2(ChR2)を送達させることによって、光感受性細胞に変換することができる。該ベクターは、上記実施例に記載されるように構築可能である。
【0216】
ベクター感染−新生仔(P1)ラット(スプラーグ−ドーリーおよびロング−エバンス(Long−Evans))およびマウス(C57/BLおよびC3H/HeJまたはrd1/rd1)の仔は、氷上冷却によって麻酔することができる。成熟マウス(rd1/rd1)は、ケタミン(katamine)(100mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)の組合せの腹腔内注射によって麻酔することができる。解剖顕微鏡下で、強膜を露出させるために眼瞼を通ってはさみで切開される。水晶体後方の強膜領域に針で小さな穿孔を作製され、約13×1011ゲノム粒子/mlの濃度のウイルスベクター懸濁液0.8〜1.5μlは、32ゲージの平滑な末端の針を有するハミルトンシリンジでその穴から硝子体内の空間に注入され得る。各動物に対しては、通常、片方の目だけに、Chop2−GFPを有するウイルスベクターが注入され、他方の目には注入されないか、またはGFPのみを有するウイルスベクターが注入される。注入後、動物は、12時間/12時間の光/暗サイクルで飼育される。500nmの波長で測定される、動物飼育部屋の光照射は、典型的には、6.0×1014光子cm-2s-1である。
【0217】
トランスフェクトした網膜ニューロンにおけるChR2タンパク質の発現および機能特性は、本明細書中に記載された方法を含む、当分野において知られている方法によって測定することができる。
【0218】
視覚誘発電位記録−視覚誘発電位記録は、4〜6ヶ月齢の野生型マウス(C57BL/6および129/SV)、ならびに6〜11ヶ月齢およびウイルスベクター注入後2〜6月齢rd1/rd1マウスにおいて実行した。ケタミン(100mg/kg)およびアセプロマジン(0.8mg/kg)の組合せの腹腔内注射による麻酔後、動物を定位固定装置に載せる。体温は、温熱パットおよび直腸測定用電極で34℃に維持されるかまたは管理されない。1%アトロピンおよび2.5% accu−フェニレフリンによって瞳孔を拡張する。正中から約2.5mmで人字縫合の頭側1mmを中心とした頭蓋骨の小片(約1.5×1.5mm)をドリルで穴を開け、取り出す。刺激した目の反対側の皮質表面の真下0.4mm進行させたガラス製マイクロピペット(4M NaClで満たした後、約0.5Mの抵抗)によって視覚野(領域V1)から記録される。刺激は、0.5Hzで20msパルスである。応答は増幅され(1,000〜10,000)、バンドパスフィルター(0.3e100Hz)を通され、デジタル化され(1kHz)、30〜250回の試行が平均化される。
【0219】
光刺激−視覚誘発電位のために、光刺激は、モノクロメーターによって生成され、光ファイバーを通じて目に投影される。光強度は、中間密度フィルターによって弱められる。光エネルギーは、薄型センサー(TQ82017)および光学光強度測定器(モデル:TQ8210)(アドバンテスト(Advantest)、東京、日本)によって測定される。
【0220】
実施例18
マクロカプセル化したChR2トランスフェクト膵島の移植によるマウス高血糖症の治療
マクロカプセル化した膵島は、腹腔(i.p.)、皮下(s.c.)、または脂肪体に移植されると、糖尿病の動物における高血糖症を一変させることができる。マクロカプセル化したChR2トランスフェクト膵島の移植は、時間的に正確な様式でインスリン放出を制御する方法を提供する。これは、ChR2で膵島をトランスフェクトし、これらの細胞を動物の皮膚に移植し、光を用いてそれらを制御することによって達成することができる。
【0221】
動物−25〜30gの雄のスイス・ウェブスター(Swiss Webster)ヌードマウス(タコニック(Taconic)、ニューヨーク州ジャーマンタウン(Germantown,NY))は、クエン酸塩バッファー(pH4.5)に溶解した4%ストレプトゾシン(STZ*)(シグマ(Sigma)、ミズーリ州セントルイス(St.Louis,MO))を250mg/kg体重(bw)で腹腔内注射することにより糖尿病にすることができる。次に、350mg/dlを超える血糖値の動物だけがレシピエントとして用いられる。約250gのスプラーグ−ドーリー(SD)ラット(タコニック)はドナーとして使用される。全ての動物は、通常条件下で、標準的な固形飼料および生水に自由にアクセスできる気候順化した部屋で飼育される。レシピエントの非空腹時血糖値および体重(bw)は、移植当日、次いで、7週間、毎週測定される。血糖濃度は、ワンタッチIIポータブルグルコメーター(One Touch II portable glucometer)(ライフスキャン社(Lifescan Inc.)、カリフォルニア州ミルピタス(Milpitas,CA))を用いて測定することができる。ドナーおよびレシピエントの血漿グルコースと全血グルコースとの関係を比較するために、自由に餌を与えられた正常マウスおよびラット、および絶食させた正常マウスおよびラットからの血漿の追加試料を回収した。血漿グルコース値は、グルコース・アナライザー2(Glucose Analyzer 2)(ベックマン(Beckman)、カリフォルニア州パロ・アルト(Palo Alto,CA))によって評価することができる。
【0222】
膵島単離−ラット膵島は、当分野において知られている技術を用いて単離される。例えば、1〜2mg/mlのコラゲナーゼP(ベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim)、インディアナ州インディアナポリス(Indianapolis,IN))溶液を膵管に注入し、膵臓を37℃で19分間消化する;次に、膵島は、ヒストパーク−1077(Histopaque−1077)(シグマ)を用いた不連続密度勾配遠心法を用いて外分泌組織から分離される。50〜250μmの直径を有する膵島を手動で拾い、カウントし、10%ウシ胎児血清、100U/mlペニシリン、および100mg/mlストレプトマイシンを補足した、200mg/dlの標準的なグルコース濃度を有するRPMI−1640組織培養液中で培養する。
【0223】
膵島は、前述の実施例に記載されるように、ChR2を用いてトランスフェクトすることができる。トランスフェクトされた細胞におけるChR2タンパク質の発現および機能特性は、本明細書中に記載された方法を含む、当分野において知られている方法によって測定することができる。
【0224】
マクロロカプセル化および移植−20μlの内部容積を有するポートデバイス(テラ・サイト(商標)(Thera Cyte))は、膵島マクロカプセル化に用いることができる。該デバイスは、外側に支持体を提供するポリエステルメッシュを有する外部孔径5μmのポリテトラフルオロエチレンの血管新生膜に積層した0.45μmの通常の孔径を有する細胞保持膜、の3層から構成されるメンブレンラミネートから加工されている。四角形のメンブレンラミネートは、超音波溶接によって縁にシールされる。デバイスの一端には、ポリエチレンチューブが、内腔へのアクセスを提供するために接着されている。一定分量1200個の膵島は、エッペンドルフ(Eppendorf)チューブで20μlの容積に懸濁され、ハミルトン(Hamilton)シリンジを用いてデバイスの内腔にポートを通して移植される;チューブは、シラスティック(Silastic)シリコン接着剤(ダウ・コーニング社(Dow Corning Corp.)、ミシガン州ミッドランド(Midland,MI))を用いてシールされる。移植は、メトファン(Metofane)麻酔下で行うことができる。皮下移植する場合、動物の背中の右側面が約2cm皮膚切開され、適度な鈍的切開で皮下ポケットを作製する。デバイスをこのポケットに挿入し、切開を創傷クリップで閉じた。
【0225】
細胞は、末端に光ファイバーを接続した発光ダイオードまたはレーザー、または本明細書中で記載された方法によって、活性化されインスリンを放出し得る。
【0226】
耐糖能テスト−移植後7週目に、IPGTTを行う(グルコース2g/kg体重、10%溶液として注入される)。グルコース負荷前には、全ての動物は、約16時間絶食にする。血糖のための試料は、尾の切れ目から、グルコース注入後の0分、15分、30分、60分および120分で採取する。
【0227】
実施例19
中空繊維におけるドーパミン作動性ChR2トランスフェクトニューロンの産生
ES細胞分化におけるPA6CMの効果−ES細胞は、ニューロン分化を誘導するためにPA6CMを用いて培養される。PA6の馴化培地(CM)を調製するために、コンフルエントなPA6細胞は、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含むリン酸緩衝化生理食塩水[PBS(+)]で3回洗浄し、次に、5% KSR、0.1mM非必須アミノ酸、1mMピルビン酸および0.1mM 2−メルカプトエタノールを含み、ヘパリン(10または100mg/ml)を含むかまたは含まないG−MEMによって置き換えられる。48時間後、その上清を回収し、0.22mmフィルターでろ過する。ヘパリンを含まない、10mg/mlヘパリンを含む、および100mg/mlヘパリンを含むGMEM培地を用いて回収したCMは、それぞれCM−0H、CM−10H、およびCM−100Hと呼ばれる。
【0228】
ES細胞は、5% KSR、0.1mM非必須アミノ酸、1mMピルビン酸および0.1mM 2−メルカプトエタノールを補足したG−MEM中に1250細胞/cm2の密度で、ポリオルニチン(シグマ)/フィブロネクチン(インビトロジェン)コートガラスプレート上に播種される。5時間後、CM−0H、CM−10H(ヘパリンの最終濃度は3.3mg/ml)、またはCM−100H(ヘパリンの最終濃度は33mg/ml)は、培養培地の13倍容積になるまで培養プレートに添加し、十分に混合する。全ての培養ディッシュは、5%CO2を含む空気中、37℃で16日間維持される。
【0229】
中空繊維中でのES細胞の分化−半透性ポリマーメンブレンから加工され、種々の直径および壁厚で利用可能な中空繊維は、ハウジング(housing)に差し込まれ、人工腎臓および人工肺などの体外の人工臓器で広範囲に用いられる。3種類の中空繊維が、ここで用いることができる。FB−150Fファイバーは、血液透析(ニプロ(NIPRO)、大阪、日本)に用いられ、内径200mmおよび壁厚15mmを有するセルロース取りアセテートから作られている。エバフラックス(Evafluxs)2Aおよびエバフラックス5Aファイバーは、血漿交換(クラレ(Kuaray)、岡山、日本)に用いられ、内径175mmおよび壁厚40mmを有するエチレンビニルアルコール共重合体から作られている。FB−150F、エバフラックス2Aまたはエバフラックス5Aの中空繊維は、HF−1、HF−2またはHF−3と呼ばれ、それらの分子量遮断値は、それぞれ55kD(95%遮断)、144kDa(90%遮断)および570kDa(90%遮断)である。ES細胞は、PBS中の0.25%トリプシンおよび1mM EDTAを用いてそれらを処理することによって単一細胞に解離される。細胞は1×107細胞/mlの濃度で、1mlシリンジに充填され、9cmの長さの中空繊維に穏やかに注入される。ES細胞を充填した繊維は、100mm細胞培養ディッシュに播種し、5% KSR、0.1mM非必須アミノ酸、1mMピルビン酸、0.1mM 2−メルカプトエタノールおよび33% CM−10Hを補足したG−MEM中で維持される。全ての培養ディッシュは、5%CO2を含む空気中、37℃で16日間維持される。
【0230】
ES細胞は、本明細書に記載された方法によって、分化の前または分化の後で、ChR2を用いてトランスフェクトされ得る。
【0231】
培養細胞の細胞増殖は、当分野において知られる方法によって行うことができる。ES細胞のドーパミン作動性ニューロンへの分化は、免疫蛍光解析およびRT−PCRなどの当分野において知られている方法で実行することができる。ドーパミンレベルは、逆相HPLCなどの当分野において知られる方法によって測定され得る。
【0232】
トランスフェクトされた細胞におけるChR2タンパク質の発現および機能特性は、本明細書中に記載される方法を含む、当分野において知られている方法によって測定することができる。
【0233】
中空繊維中にドーパミン作動性ChR2をトランスフェクトしたニューロンの生成することは、例えば、パーキンソン病などに対する細胞療法を行うための前途有望なアプローチである。この方法は、今日直面する障害の2つである、最小限の損傷でドーパミン作動性ES子孫細胞を回収およびカプセル化、および、宿主免疫系からの移植細胞の保護を可能にする。さらに、ドーパミン作動性ニューロンにおけるChR2タンパク質の発現は、本明細書中で記載される方法に従って、脳内へのドーパミンの制御された放出を可能にする。本発明の好ましい実施形態は、本明細書中に示され、および記載されるが、このような実施形態が単なる一例として提供されていることは、当業者に明らかであろう。無数の差異、変更、および置き換えは、本発明から逸脱することなしに、直ちに当業者に見出されるであろう。本明細書中に記載される発明の実施形態に対する種々の代替案が、本発明の実施において採用されることは理解しなければならない。添付の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義し、特許請求の範囲内の方法および構造ならびにそれらの均等物はそれによって包含されることが意図される。シナプス伝達を誘発することは、ChR2が神経回路の時間的に正確な解析のための理想的なツールであることを示す。
【0234】
相互参照
本出願は、参照により全体として本明細書中に援用される、2005年7月22日出願の米国仮特許出願第60/701,799号に関連し、それに対する優先権を主張する。
連邦政府支援の研究としての陳述
本発明は、国立衛生研究所の契約番号K08MH071315およびF31DC007006による米国政府の支援、ならびにスタンフォード大学の医学工学学校の支援でなされた。
【0235】
参照による援用
本明細書中に言及される全ての刊行物および特許出願は、各々個々の刊行物または特許出願が参照により援用されるように具体的におよび個別的に示されているかのような程度に、参照により本明細書中に援用される。
【0236】
本発明は以下の態様を含む。
(1)光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する哺乳動物細胞を含む組成物。
(2)前記哺乳動物細胞が、神経細胞または幹細胞である、(1)に記載の組成物。
(3)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である、(1)に記載の組成物。
(4)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、7回膜貫通型タンパク質である、(1)に記載の組成物。
(5)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、単一成分のタンパク質である、(1)に記載の組成物。
(6)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、レチナールに共有結合する、(1)に記載の組成物。
(7)光活性化陽イオンチャネルタンパク質が哺乳動物細胞に発現される場合、1ms以内に光刺激に応答する前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質。
(8)光活性化陽イオンチャネルタンパク質が哺乳動物細胞に発現される場合、約60分の間中、約10%増加も減少もしない安定な光電流を生じる前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質。
(9)光活性化陽イオンチャネルタンパク質が哺乳動物細胞に発現される場合、約5ms未満の一過性微小振動を伴って電気的応答を生じる前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質。
(10)光活性化陽イオンチャネルタンパク質が哺乳動物細胞に発現される場合、5回のパルスにわたって0.2未満の変動係数を有する閾値下のパルスを生じることができる前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質。
(11)光活性化陽イオンチャネルの遺伝子およびプロモーターを含む核酸配列。
(12)前記プロモーターが、細胞特異的プロモーターである、(10)に記載の核酸配列。
(13)前記プロモーターが、ソマトスタチン、パルブアルブミン、GABAα6、L7、またはカルビンジンである、(11)に記載の核酸配列。
(14)前記プロモーターが、細胞汎用プロモーターである、(10)に記載の核酸配列。
(15)前記プロモーターが、EF1−アルファである、(13)に記載の核酸配列。
(16)前記核酸配列が、バクテリア人工染色体(BAC)を含む、(10)に記載の核酸配列。
(17)前記プロモーターが、誘導性プロモーターである、(10)に記載の核酸配列。
(18)前記誘導性プロモーターが、投与した薬物に応答し得るトランス作用因子によって誘導可能である、(16)に記載の核酸配列。
(19)別の機能性タンパク質に結合した光活性化陽イオンチャネルタンパク質を含む融合タンパク質。
(20)前記別の機能性タンパク質が、蛍光タンパク質である、(18)に記載の融合タンパク質。
(21)前記別の機能性タンパク質が、mCherry、GFP、YFP、またはCFPである、(19)に記載の融合タンパク質。
(22)前記別の機能性タンパク質が、細胞内領域を標的とする、(18)に記載の融合タンパク質。
(23)前記別の機能性タンパク質が、PDZドメインまたはAISドメインを有する、(18)に記載の融合タンパク質。
(24)光活性化陽イオンチャネルタンパク質およびプロモーターをコードする核酸配列を含む光活性化陽イオンチャネルタンパク質を送達するためのベクター。
(25)前記ベクターが、ウイルスを含む、(23)に記載のベクター。
(26)前記ウイルスが、レンチウイルスまたはレトロウイルスを含む、(24)に記載のベクター。
(27)光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現するトランスジェニック動物。
(28)前記動物が、ハエ、ぜん虫、マウス、またはゼブラフィッシュである、(27)に記載のトランスジェニック動物。
(29)光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる、(1)に記載の組成物。
(30)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる、(7)、(8)、(9)、または(10)に記載の光活性化陽イオンチャネルタンパク質。
(31)治療的に有効量の光活性化陽イオンチャネルタンパク質を、治療を必要とする患者に投与することを含む対象を治療する方法。
(32)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、該光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する細胞の形態、または光活性化陽イオンチャネルタンパク質をコードする核酸配列を含むベクターの形態のいずれかで投与され、前記ベクターの投与が、前記患者の細胞における光活性化陽イオンチャネルタンパク質の発現を引き起こす、(31)に記載の方法。
(33)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、光への曝露によって活性化される、(31)に記載の方法。
(34)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、ペプチドの放出を引き起こす、(33)に記載の方法。
(35)前記ペプチドが、インスリン、レプチン、ニューロペプチドY、サブスタンスP、ヒト成長ホルモン、セクレチン、グルカゴン、エンドルフィン、オキシトシン、バソプレッシン、オレキシン/ヒポクレチン、またはそれらの組合せである、(34)に記載の方法。
(36)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、小分子の放出を引き起こす、(33)に記載の方法。
(37)小分子が一酸化窒素またはカンナビノイドを含む、(36)に記載の方法。
(38)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、サイトカインの放出を引き起こす、(33)に記載の方法。
(39)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、筋細胞において発現されること、及び、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、筋細胞の収縮を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(40)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、神経細胞において発現されること、及び、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、シナプス事象を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(41)前記シナプス事象が、シナプス伝達を引き起こす、(40)に記載の方法。
(42)前記シナプス事象が、小分子神経調節物質の放出を含む、(40)に記載の方法。
(43)前記小分子神経調節物質が、ノルエピネフリン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリン、D−セリン、ヒスタミン、またはそれらの組合せである、(42)に記載の方法。
(44)前記シナプス事象が、興奮性である、(40)に記載の方法。
(45)前記シナプス事象が、抑制性である、(40)に記載の方法。
(46)前記ベクターが、細胞特異的プロモーターをさらに含む、(32)に記載の方法。
(47)前記投与が、前記患者の行動の調節を引き起こす、(31)に記載の方法。
(48)前記光活性化陽イオンチャネルが、幹細胞において発現されること、及び、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、幹細胞の分化を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(49)前記光活性化陽イオンチャネルが、幹細胞において発現されること、及び、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、幹細胞における複製、生存、および/または制御された死を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(50)前記光活性化陽イオンチャネルが、癌細胞において発現されること、及び、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質の活性化が、癌細胞における複製、生存、および/または制御された死を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(51)前記幹細胞が、ヒト胚性幹細胞である、(48)または(49)に記載の方法。
(52)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である、(31)に記載の方法。
(53)幹細胞における光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現することを含む幹細胞活性を調節する方法であって、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、光への曝露によって活性化されること、及び、前記活性化が該幹細胞の複製の調節を引き起こすことを特徴とする前記方法。
(54)前記幹細胞が、ヒト胚性幹細胞である、(53)に記載の方法。
(55)前記光活性化陽イオンチャネルが、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現している網膜神経節細胞の形態、または光活性化陽イオンチャネルタンパク質をコードする核酸配列を含むベクターの形態のいずれかで投与され、ここで該ベクターの投与が、前記患者の網膜神経節細胞における光活性化陽イオンチャネルタンパク質の発現を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(56)前記光活性化陽イオンチャネルが、前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現している脊髄神経節細胞の形態、または光活性化陽イオンチャネルタンパク質をコードする核酸配列を含むベクターの形態のいずれかで投与され、ここで該ベクターの投与が、前記患者の脊髄神経節細胞における光活性化陽イオンチャネルタンパク質の発現を引き起こすことを特徴とする、(31)に記載の方法。
(57)光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する網膜神経節細胞を含む網膜人工デバイス。
(58)光活性化陽イオンチャネルタンパク質を発現する網膜神経節細胞を含む蝸牛人工デバイス。
(59)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である、(57)または(58)に記載のデバイス。
(60)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、配列番号2または配列番号3の配列によってコードされる、(31)に記載の方法。
(61)薬物の潜在的なイオンチャネル調節特性を予測するための方法であって:
(a)細胞において光活性化陽イオンチャネルタンパク質および対象とするイオンチャネルを発現させること;
(b)前記細胞を光に曝露し、前記細胞における第一応答をモニタリングすること;
(c)前記細胞を候補薬物に曝露すること;
(d)前記細胞をさらに光に曝露し、前記細胞における第二応答をモニタリングすること;
(e)第一応答および第二応答の比較に基づいて、前記候補薬物のイオンチャネル調節特性を測定すること、
を含む前記方法。
(62)前記応答のモニタリングが、前記細胞における蛍光の変化の光学画像処理を含む、(61)に記載の方法。
(63)前記応答のモニタリングが、前記細胞におけるシグナル伝達系をモニタリングすることを含む、(61)に記載の方法。
(64)前記シグナル伝達のモニタリングが、抗体、蛍光性小分子、または遺伝子にコードされた指示薬である、(63)に記載の方法。
(65)対象とする前記イオンチャネルに対する前記候補薬物の選択的効果を評価するために実行される、(61)に記載の方法。
(66)チャネルスプライスバリアント、チャネルアイソフォーム、別々のニューロンタイプにおいてそれぞれ発現されるチャネル、脳の別々の部分にそれぞれ発現されるチャネル、別々の臓器においてそれぞれ発現されるチャネル、または長期間別々に発現されるチャネルに対する前記薬物の別々の効果が評価される、(61)に記載の方法。
(67)対象とする前記イオンチャネルが、HERGチャネルである、(61)に記載の方法。
(68)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、ChR2、Chop2、ChR2−310、またはChop2−310である、(61)に記載の方法。
(69)前記光活性化陽イオンチャネルタンパク質が、配列番号2または3の配列によってコードされる、(61)に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンネルロドプシンを発現する細胞を含む移植可能な人工器官であって、前記細胞が網膜細胞、脊髄神経節細胞、又はニューロンである、人工器官。
【請求項2】
チャンネルロドプシンが、配列番号:1で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%のアミノ酸配列相同性を持つアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の人工器官。
【請求項3】
細胞が網膜細胞であり、それがアマクリン細胞または双極細胞である、請求項1に記載の人工器官。
【請求項4】
細胞が脊髄神経節細胞である、請求項1に記載の人工器官。
【請求項5】
a)音を検出するためのマイクロホン、
b)音の周波要素を分析し、それらをLEDシグナルに変換するためのマイクロプロセッサー、及び、
c)空間的にパターン化された様式で光を発するための複数のLED
を更に含む、請求項4に記載の人工器官。
【請求項6】
細胞がニューロンである、請求項1に記載の人工器官。
【請求項7】
移植可能な光源をさらに含む、請求項6に記載の人工器官。
【請求項8】
チャンネルロドプシンがウイルスベクター内の核酸配列によってコードされ、当該チャンネルロドプシンをコードする核酸配列が細胞特異的プロモーターに操作的に連結されている、請求項1に記載の人工器官。
【請求項9】
細胞特異的プロモーターが、ソマトスタチンプロモーター、パルブアルブミンプロモーター、GABAα6プロモーター、カルビンジンプロモーター、又はEF−1アルファプロモーターである、請求項8に記載の人工器官。
【請求項10】
ウイルスベクターが、レンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターである、請求項8に記載の人工器官。
【請求項11】
移植可能な光源をさらに含む、請求項1に記載の人工器官。
【請求項12】
チャンネルロドプシンが、配列番号:1で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%のアミノ酸配列相同性を持つアミノ酸配列を有する、請求項11に記載の人工器官。
【請求項13】
細胞が網膜細胞であり、それがアマクリン細胞または双極細胞である、請求項12に記載の人工器官。
【請求項14】
細胞が脊髄神経節細胞である、請求項12に記載の人工器官。
【請求項15】
a)音を検出するためのマイクロホン、
b)音の周波要素を分析し、それらをLEDシグナルに変換するためのマイクロプロセッサー、及び、
c)空間的にパターン化された様式で光を発するための複数のLED
を更に含む、請求項14に記載の人工器官。
【請求項16】
細胞がニューロンである、請求項12に記載の人工器官。
【請求項17】
ニューロンがドーパミン作動性ニューロンである、請求項16に記載の人工器官。
【請求項18】
チャンネルロドプシンがウイルスベクター内の核酸配列によってコードされ、当該チャンネルロドプシンをコードする核酸配列が細胞特異的プロモーターに操作的に連結されている、請求項12に記載の人工器官。
【請求項19】
細胞特異的プロモーターが、ソマトスタチンプロモーター、パルブアルブミンプロモーター、GABAα6プロモーター、カルビンジンプロモーター、又はEF−1アルファプロモーターである、請求項18に記載の人工器官。
【請求項20】
ウイルスベクターが、レンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターである、請求項18に記載の人工器官。
【請求項1】
チャンネルロドプシンを発現する細胞を含む移植可能な人工器官であって、前記細胞が網膜細胞、脊髄神経節細胞、又はニューロンである、人工器官。
【請求項2】
チャンネルロドプシンが、配列番号:1で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%のアミノ酸配列相同性を持つアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の人工器官。
【請求項3】
細胞が網膜細胞であり、それがアマクリン細胞または双極細胞である、請求項1に記載の人工器官。
【請求項4】
細胞が脊髄神経節細胞である、請求項1に記載の人工器官。
【請求項5】
a)音を検出するためのマイクロホン、
b)音の周波要素を分析し、それらをLEDシグナルに変換するためのマイクロプロセッサー、及び、
c)空間的にパターン化された様式で光を発するための複数のLED
を更に含む、請求項4に記載の人工器官。
【請求項6】
細胞がニューロンである、請求項1に記載の人工器官。
【請求項7】
移植可能な光源をさらに含む、請求項6に記載の人工器官。
【請求項8】
チャンネルロドプシンがウイルスベクター内の核酸配列によってコードされ、当該チャンネルロドプシンをコードする核酸配列が細胞特異的プロモーターに操作的に連結されている、請求項1に記載の人工器官。
【請求項9】
細胞特異的プロモーターが、ソマトスタチンプロモーター、パルブアルブミンプロモーター、GABAα6プロモーター、カルビンジンプロモーター、又はEF−1アルファプロモーターである、請求項8に記載の人工器官。
【請求項10】
ウイルスベクターが、レンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターである、請求項8に記載の人工器官。
【請求項11】
移植可能な光源をさらに含む、請求項1に記載の人工器官。
【請求項12】
チャンネルロドプシンが、配列番号:1で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%のアミノ酸配列相同性を持つアミノ酸配列を有する、請求項11に記載の人工器官。
【請求項13】
細胞が網膜細胞であり、それがアマクリン細胞または双極細胞である、請求項12に記載の人工器官。
【請求項14】
細胞が脊髄神経節細胞である、請求項12に記載の人工器官。
【請求項15】
a)音を検出するためのマイクロホン、
b)音の周波要素を分析し、それらをLEDシグナルに変換するためのマイクロプロセッサー、及び、
c)空間的にパターン化された様式で光を発するための複数のLED
を更に含む、請求項14に記載の人工器官。
【請求項16】
細胞がニューロンである、請求項12に記載の人工器官。
【請求項17】
ニューロンがドーパミン作動性ニューロンである、請求項16に記載の人工器官。
【請求項18】
チャンネルロドプシンがウイルスベクター内の核酸配列によってコードされ、当該チャンネルロドプシンをコードする核酸配列が細胞特異的プロモーターに操作的に連結されている、請求項12に記載の人工器官。
【請求項19】
細胞特異的プロモーターが、ソマトスタチンプロモーター、パルブアルブミンプロモーター、GABAα6プロモーター、カルビンジンプロモーター、又はEF−1アルファプロモーターである、請求項18に記載の人工器官。
【請求項20】
ウイルスベクターが、レンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターである、請求項18に記載の人工器官。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−235785(P2012−235785A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−153542(P2012−153542)
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【分割の表示】特願2008−523046(P2008−523046)の分割
【原出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(503115205)ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (69)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【分割の表示】特願2008−523046(P2008−523046)の分割
【原出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(503115205)ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (69)
【Fターム(参考)】
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