説明

免疫モジュレーションのための核酸およびポリペプチド

【課題】免疫モジュレーションにある役割を果たしているgp38ポリペプチド、およびこれらポリペプチドおよび核酸分子を用いた治療方法および診断方法の提供。
【解決手段】免疫モジュレーション性ヤタポックスウィルスgp38ポリペプチド。該ポリペプチドをコードする、前記核酸分子。gp38核酸分子およびポリペプチドの生物学的活性をモジュレートする化合物を同定する方法。これら化合物を用いた治療方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、概して、免疫学に関し、具体的には、免疫モジュレーターとしての新規なウイルス遺伝子の同定および使用に関する。
【0002】
発明の背景
ウイルスは、高等脊椎動物門の細胞内で生存することによって増殖する。従って、それらは、宿主免疫系から特異的に免れるように進化してきている。ウイルスの生存は、外来抗原への宿主応答を逃れる、抑制する、対抗する、またはそれ以外には回避することができる戦略に依存している。これら宿主応答は、進化論的制約の強力な要素であり、現存する真核ウイルスは全て、宿主免疫応答を抑制するかまたはウイルスを免疫系検出から免れさせる、ウイルスにコードされたタンパク質の存在によって証明されるように、宿主免疫系との戦いの生き残りを含有している。
【0003】
ウイルスによって用いられる一つまたは複数の特異的戦略は、そのゲノム容量によって劇的に異なる。小さいゲノムを有するウイルスは、宿主免疫レパートリー中の弱点または間隙を利用して検出を免れることによって確実に生存している。或いは、または更に、小さいウイルスゲノムは、速やかに複製して、宿主免疫応答を効果的にしのいでいる。より大きいDNAウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、イリドウイルスおよびポックスウイルス)は、感染した宿主による免疫認識および/またはクリアランスからウイルスを防御するように機能するタンパク質を特異的にコードする。このような「破壊」ウイルスタンパク質は、炎症性障害および自己免疫障害の処置に有用な治療薬である。ポックスウイルスは、特に、このような免疫モジュレーション性タンパク質の豊富な源となっている。
【0004】
ポックスウイルスのヤタポックスウィルス(Yatapoxvirus)属には、Tanapoxウイルス(TPV)、ヤバサル腫瘍ウイルス(YMTV)およびヤバ様疾患(YLD)ウイルスが含まれる(Knight et al., Virology 172:116-124,1989)。TPVおよびYMTVは両方とも、直鎖状二本鎖の約145 kbpDNAゲノムを含有する(Essani et al., Microbial Pathogenesis 17:347-353,1994; Knight et al., 上記)。TPVは、ヒトにおいて、一過性発熱、1カ所またはそれを超える結節性皮膚病変および局所リンパ節症を特徴とする軽い疾患を生じるが、YMTVは、サルおよびヒトにおいて良性腫瘍を引き起こす(Paulose et al., Microbial Pathogenesis 25:33-41,1998; Amano et al., Journal of General Virology 76:1109-1115,1995)。TPVに誘発された細胞から分泌される38 kDa糖タンパク質は、3種類のヒトサイトカイン、すなわち、インターフェロン-γ、インターロイキン-2およびインターロイキン-5を特異的に結合し且つ中和すると報告されている(Essani et al., 上記)。
【0005】
免疫学的障害の処置のために新規なウイルス免疫モジュレーション性遺伝子およびポリペプチドを同定することは有用であると考えられる。
【0006】
発明の概要
概して、本発明は、免疫モジュレーション性gp38ポリペプチド、これらポリペプチドをコードする核酸分子、およびこれらポリペプチドおよび核酸分子を用いた治療方法、診断方法およびスクリーニング方法を提供する。本発明は、更に、gp38核酸分子およびポリペプチドの生物学的活性をモジュレートする化合物を同定する方法、およびこれら化合物を用いた治療方法を提供する。
【0007】
本発明は、新規なヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性gp38ポリペプチド、これらポリペプチドをコードする核酸分子、およびこれらポリペプチドおよび核酸分子を用いた治療方法、診断方法およびスクリーニング方法を提供する。本発明は、更に、ヤタポックスウィルスgp38核酸分子およびポリペプチドの生物学的活性をモジュレートする化合物を同定する方法、およびこれら化合物を用いた治療方法を提供する。
【0008】
第一の側面において、本発明は、実質的に純粋なヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性ポリペプチドを提供する。第一の側面の好ましい態様において、このポリペプチドは、ヤバ(yaba)サル腫瘍ウイルスにまたはタナポックスウイルス(tanapox virus)に由来することがありうる。第一の側面のもう一つ好ましい態様において、このポリペプチドには、同定可能なシグナル配列をコードするアミノ酸配列が含まれる。第一の側面のもう一つ好ましい態様において、このポリペプチドは、ケモカイン(例えば、ヒトインターフェロン-γ、ヒトインターロイキン-2およびヒトインターロイキン-5)結合性ポリペプチド、サイトカイン結合性ポリペプチド、免疫モジュレーターおよび抗炎症性ポリペプチドでありうる。第一の側面の他の好ましい態様において、このポリペプチドは、グリコシル化されていることがありうるしまたは抗サイトカイン活性を有することがありうる。第一の側面の他の好ましい態様において、このポリペプチドには、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 4またはSEQ ID NO: 6のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列が含まれてよいし、またはSEQ ID NO: 1、SEQ ID
NO: 2、SEQ ID NO: 4またはSEQ ID NO: 6のアミノ酸配列が含まれてよい。
【0009】
第二の側面において、本発明は、ヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性ポリペプチドをコードする実質的に純粋なヤタポックスウィルス核酸分子を提供する。第二の側面の好ましい態様において、この核酸分子は、ゲノムDNA、cDNAまたはmRNAでありうる。第二の側面のもう一つ好ましい態様において、この核酸分子には、同定可能なシグナル配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が含まれる。第二の側面の他の好ましい態様において、この核酸分子は、ヤバサル腫瘍ウイルスポリペプチドまたはタナポックスウイルスポリペプチドをコードすることができるし、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 4またはSEQ ID NO: 6のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含めたポリペプチドをコードすることができるし、またはSEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 4またはSEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含めたポリペプチドをコードすることができる。第二の側面の他の好ましい態様において、この核酸分子には、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 7またはSEQ ID NO: 9のヌクレオチド配列と実質的に同一であるヌクレオチド配列が含まれうる。
【0010】
第二の側面の他の好ましい態様において、本発明は、ヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性ポリペプチドをコードする実質的に純粋なヤタポックスウィルス核酸分子を含めたベクター(例えば、遺伝子治療用ベクター)、およびこのベクターを含有する細胞を提供する。このベクター中のヤタポックスウィルス核酸分子は、ヤタポックスウィルスポリペプチドの発現のための調節配列に機能的に連結していることがありうるし、これら調節配列には、プロモーターが含まれうる。この細胞は、ヒト細胞、霊長類細胞または齧歯類動物細胞でありうる。
【0011】
第二の側面の他の好ましい態様において、本発明は、ヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性ポリペプチドをコードする実質的に純粋なヤタポックスウィルス核酸分子を含有する非ヒトトランスジェニック動物、およびこの非ヒトトランスジェニック動物からの細胞を提供する。
【0012】
第二の側面の他の好ましい態様において、本発明は、細胞中のヤタポックスウィルス遺伝子、またはヤタポックスウィルス遺伝子ホモログまたはそのフラグメントを検出する方法であって、ヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性ポリペプチドをコードする実質的に純粋なヤタポックスウィルス核酸分子または約18ヌクレオチド長を超えるそのフラグメントと、この細胞からのゲノムDNA標品とを、ハイブリダイゼーション条件下において接触させて、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 7またはSEQ ID NO: 9に約50%またはそれを超えるヌクレオチド配列同一性を有するDNA配列の検出を提供することによる方法を提供する。
【0013】
第三の側面において、本発明は、ヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性ポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする配列に少なくとも50%の核酸配列同一性を有する核酸分子であって、このフラグメントには、少なくとも6個のアミノ酸が含まれ、そしてこの核酸分子は、高ストリンジェントな条件下において、ヤタポックスウィルス核酸分子の少なくとも一部分にハイブリダイズする核酸分子を提供する。第三の側面の好ましい態様において、この核酸分子は、ヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性ポリペプチドまたは少なくとも6個のアミノ酸を含めたそのフラグメントをコードする核酸分子に100%の相補性を有し、そしてこの核酸分子は、高ストリンジェントな条件下において、ヤタポックスウィルス核酸分子の少なくとも一部分にハイブリダイズする。
【0014】
第四の側面において、本発明は、核酸分子であって、ヤタポックスウィルス核酸分子またはそのフラグメントのコーディング鎖に対するアンチセンスである配列を包含する核酸分子を提供する。
【0015】
第五の側面において、本発明は、ヤタポックスウィルスポリペプチドと実質的に同一のポリペプチドをコードする一方のまたは両方の対立遺伝子中にノックアウト変異を有する非ヒトトランスジェニック動物を提供する。
【0016】
第六の側面において、本発明は、ヤタポックスウィルスポリペプチド、例えば、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 4またはSEQ ID NO: 6のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を包含するポリペプチドに特異的に結合する抗体を提供する。第六の側面の好ましい態様において、本発明は、試料中のヤタポックスウィルスポリペプチドを検出する方法であって、この試料と抗体とを接触させ、そしてこのポリペプチドへの抗体の結合について検定することによる方法を提供する。
【0017】
第七の側面において、本発明は、ヤタポックスウィルス遺伝子、またはヤタポックスウィルス遺伝子ホモログまたはそのフラグメントを分析するためのプローブであって、ヤタポックスウィルスポリペプチドまたは少なくとも6個のアミノ酸を包含するそのフラグメントをコードする配列に少なくとも50%のヌクレオチド配列同一性を有するプローブを提供するが、このプローブは、高ストリンジェントな条件下において、ヤタポックスウィルス核酸分子の少なくとも一部分にハイブリダイズする。第七の側面の好ましい態様において、このプローブは、ヤタポックスウィルスポリペプチドまたは少なくとも6個のアミノ酸を包含するそのフラグメントをコードする核酸分子に100%の相補性を有し、そしてこのプローブは、高ストリンジェントな条件下において、ヤタポックスウィルス核酸分子の少なくとも一部分にハイブリダイズする。
【0018】
第八の側面において、本発明は、免疫モジュレーション性ヤタポックスウィルス遺伝子、またはヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性遺伝子ホモログまたはそのフラグメントを同定する方法であって、(a)哺乳動物細胞試料を提供し;(b)この細胞試料中に候補遺伝子を導入し;(c)この候補遺伝子を発現させ;そして(d)この候補遺伝子が、細胞試料中で免疫機能のレベルの変化を引き出すかどうか確かめることによるが、ここにおいて、免疫機能のレベルの変化が、この免疫モジュレーション性ヤタポックスウィルス遺伝子、またはヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性遺伝子ホモログまたはそのフラグメントを同定する、前記方法を提供する。
【0019】
第九の側面において、本発明は、ヤタポックスウィルスポリペプチドの発現または活性をモジュレートする試験化合物を同定する方法であって、このヤタポックスウィルスポリペプチドと試験化合物とを接触させ、そしてヤタポックスウィルスポリペプチド発現または活性へのこの試験化合物の作用を決定することによる、前記方法を提供する。
【0020】
第十の側面において、本発明は、豚痘(swinepox)(C1L)ポリペプチドの発現または活性をモジュレートする試験化合物を同定する方法であって、この豚痘(C1L)ポリペプチドと試験化合物とを接触させ、そして豚痘(C1L)ポリペプチド発現または活性へのこの試験化合物の作用を決定することによる、前記方法を提供する。
【0021】
第十一の側面において、本発明は、細胞からの分泌についてタンパク質を標的化する方法であって、ヤタポックスウィルスポリペプチドより選択される同定可能なシグナル配列を目的のタンパク質に取り付けることによるが、ここにおいて、この目的のタンパク質は細胞から分泌されている、前記方法を提供する。
【0022】
第十二の側面において、本発明は、細胞からの分泌についてタンパク質を標的化する方法であって、豚痘(C1L)ポリペプチドより選択される同定可能なシグナル配列を目的のタンパク質に取り付けることによるが、ここにおいて、この目的のタンパク質は細胞から分泌されている、前記方法を提供する。
【0023】
第十三の側面において、本発明は、哺乳動物での免疫モジュレーションの方法であって、治療的有効量のヤタポックスウィルスポリペプチドまたはそのフラグメントを哺乳動物に投与することによるが、ここにおいて、このポリペプチドは、この哺乳動物に免疫モジュレーション性作用を有する、前記方法を提供する。
【0024】
第十四の側面において、本発明は、哺乳動物での免疫モジュレーションの方法であって、治療的有効量の豚痘(C1L)ポリペプチドまたはそのフラグメントを哺乳動物に投与することによるが、ここにおいて、このポリペプチドは、この哺乳動物に免疫モジュレーション性作用を有する、前記方法を提供する。
【0025】
第十五の側面において、本発明は、哺乳動物での免疫モジュレーションの方法であって、ヤタポックスウィルスポリペプチドの活性をモジュレートする化合物であって哺乳動物に免疫モジュレーション性作用を有する化合物の治療的有効量を、この哺乳動物に投与することによる、前記方法を提供する。
【0026】
第十六の側面において、本発明は、哺乳動物での免疫モジュレーションの方法であって、豚痘(C1L)ポリペプチドの活性をモジュレートする化合物であって哺乳動物に免疫モジュレーション性作用を有する化合物の治療的有効量を、この哺乳動物に投与することによる、前記方法を提供する。
【0027】
第十三〜第十六までの側面の免疫モジュレーションは、哺乳動物における免疫抑制、免疫刺激、細胞増殖、アポトーシス、T細胞刺激の減少および炎症の減少でありうる。
【0028】
第十八の側面において、本発明は、免疫モジュレーション性障害を有する哺乳動物を処置する方法であって、豚痘(C1L)ポリペプチドの活性をモジュレートする化合物であって哺乳動物に免疫モジュレーション性作用を有する化合物の治療的有効量を、この哺乳動物に投与することによる、前記方法を提供する。
【0029】
第十九の側面において、本発明は、少なくとも1回用量の治療的有効量のヤタポックスウィルスポリペプチドまたはそのフラグメントを、薬学的に許容しうる担体中に含めた医薬組成物であって、免疫モジュレーション性障害の処置用に製剤化されている医薬組成物を提供する。
【0030】
第二十の側面において、本発明は、少なくとも1回用量の治療的有効量の豚痘(C1L)ポリペプチドまたはそのフラグメントを、薬学的に許容しうる担体中に含めた医薬組成物であって、免疫モジュレーション性障害の処置用に製剤化されている医薬組成物を提供する。
【0031】
第十三〜第二十までの側面の好ましい態様において、ヤタポックスウィルスポリペプチドには、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 6またはSEQ ID NO: 8のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列、およびそのフラグメントおよび類似体が含まれる。
【0032】
第十三〜第二十までの側面の他の好ましい態様において、哺乳動物はヒトである。
【0033】
第十三〜第二十一までの側面の他の好ましい態様において、哺乳動物は、急性炎症、慢性関節リウマチ、移植片拒絶反応、喘息、炎症性腸疾患、ブドウ膜炎、再狭窄、多発性硬化症、乾癬、創傷治癒、エリテマトーデス、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、1型インスリン依存性糖尿病、皮膚炎(deramatitis)、髄膜炎、血栓性血小板減少性紫斑病、シェーグレン症候群、脳炎、白血球接着不全、リウマチ熱、ライター症候群、乾癬性関節炎(psoriatic arthritic)、進行性全身性硬化症、原発性胆汁性肝硬変、天疱瘡、類天疱瘡、壊死性血管炎、重症筋無力症(mayasthenia gravis)、エリテマトーデス、多発性筋炎、サルコイドーシス、肉芽腫症、血管炎、悪性貧血、CNS炎症性障害、抗原抗体複合体媒介性疾患、自己免疫性溶血性貧血、橋本甲状腺炎、グレーヴズ病、習慣性自然流産、レイノー症候群(Reynard's syndrome)、糸球体腎炎、皮膚筋炎、慢性活動性肝炎、セリアック病、AIDSの自己免疫性合併症、萎縮性胃炎、強直性脊椎炎、アジソン病、乾癬、尋常性天疱瘡(penphigus vularis)、ベーチェット症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血性心疾患、アテローム性動脈硬化症、透析後症候群、白血病、後天性免疫不全症候群、敗血症性ショック、脂質性組織球増殖症および癌から成る群より選択される状態を有する。
【0034】
第二十一および第二十二の側面において、本発明は、ヤタポックスウィルス核酸分子の分析用キットであって、試験対象中に存在するヤタポックスウィルス核酸分子を分析するための核酸分子プローブを含めたキット、または試験対象中に存在するヤタポックスウィルスポリペプチドを分析するための抗体を含めたキットを提供する。
【0035】
本発明は、いくつかの利点を提供する。例えば、それは、ヤタポックスウィルスまたは豚痘(C1L)gp38ポリペプチドの生物活性に感受性である免疫疾患の診断および処置に用いることができる方法および試薬を提供する。本発明の他の特徴および利点は、発明の詳細な記述、図面および請求の範囲から明らかであろう。
【0036】
発明の詳細な記載
本発明は、免疫モジュレーションにおいてある役割を果たしているgp38ポリペプチドおよび豚痘中ポリペプチド、これらポリペプチドをコードする核酸分子、およびこれらポリペプチドおよび核酸分子を用いた治療方法および診断方法を提供する。本発明は、更に、gp38および豚痘の核酸分子およびポリペプチドの生物学的活性をモジュレートする化合物を同定する方法、およびこれら化合物を用いた治療方法を提供する。
【0037】
「ポリペプチド」または「ポリペプチドフラグメント」は、いずれの翻訳後修飾(例えば、グリコシル化、アセチル化またはリン酸化)とも無関係な、天然に存在するまたは天然に存在しないポリペプチドの全部または一部分を構成している2個またはそれを超えるアミノ酸の鎖を意味する。「翻訳後修飾」とは、合成中または合成後のポリペプチドまたはポリペプチドフラグメントへの何らかの変化を意味する。翻訳後修飾は、(細胞内で合成中のように)自然に生じることがありうるしまたは(組換えまたは化学的手段によるように)人工的に生じることができる。「タンパク質」は、1個またはそれを超えるポリペプチドから作ることができる。
【0038】
「ヤタポックスウィルスgp38免疫モジュレーション性ポリペプチド」または「ヤタポックスウィルスgp38ポリペプチド」は、本明細書中に記載のポリペプチド配列と実質的に同一である、免疫モジュレーション性活性を有するヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドまたはタンパク質、またはその生物学的に活性なフラグメントまたは類似体を意味する。ヤタポックスウィルスは、例えば、本明細書中に援用される、Essani et al.(Microbial Pathogenesis 17:347-353,1994)、Knight et al.(Virology 172:116-124,1989)、Paulose et al.(Microbial Pathogenesis 25:33-41,1998)およびAmano et al.(Journal of General Virology 76:1109-1115,1995)に記載されている。具体的には、本発明中に包含されるのは、ヤバサル腫瘍ウイルス(YMTV)およびタナポックスウイルス(TPV)のgp38ポリペプチドである。
【0039】
ヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドは、本明細書中に記載されたのと実質的に同一のアミノ酸配列を有する基準ヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドと比較して、少なくとも50%、好ましくは、少なくとも75%、より好ましくは、少なくとも90%、最も好ましくは、少なくとも95%の生物学的活性、例えば、免疫モジュレーション性または抗炎症性活性を有するポリペプチドをコードすると定義することもできる。ヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドという用語には、ホモログ、例えば、ヤタポックスウィルスgp38タンパク質の哺乳動物ホモログ並びに対立遺伝子変異、自然変異体、誘発変異体、本明細書中に記載のヤタポックスウィルスgp38配列に高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされているタンパク質、およびヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドに向けられる抗血清によって特異的に結合したポリペプチドまたはタンパク質が含まれる。この用語には、ヤタポックスウィルスgp38フラグメントを包含するキメラポリペプチドも含まれる。
【0040】
「豚痘ウイルス(C1L)gp38免疫モジュレーション性ポリペプチド」または「豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチド」は、本明細書中に記載のポリペプチド配列と実質的に同一である、免疫モジュレーション性活性を有する豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドまたはタンパク質、またはその生物学的に活性なフラグメントまたは類似体を意味する。
【0041】
豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドは、本明細書中に記載されたのと実質的に同一のアミノ酸配列を有する基準豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドと比較して、少なくとも50%、好ましくは、少なくとも75%、より好ましくは、少なくとも90%、最も好ましくは、少なくとも95%の生物学的活性、例えば、免疫モジュレーション性または抗炎症性活性を有するポリペプチドをコードすると定義することもできる。豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドという用語には、ホモログ、例えば、豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質の哺乳動物ホモログ並びに対立遺伝子変異、自然変異体、誘発変異体、本明細書中に記載の豚痘ウイルス(C1L)gp38配列に高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされているタンパク質、および豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドに向けられる抗血清によって特異的に結合したポリペプチドまたはタンパク質が含まれる。この用語には、豚痘ウイルス(C1L)gp38フラグメントを包含するキメラポリペプチドも含まれる。
【0042】
「生物学的に活性なフラグメント」とは、完全長のヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドの免疫モジュレーション性の少なくとも30%、好ましくは、少なくとも50%、より好ましくは、少なくとも75%、最も好ましくは、少なくとも95%である免疫モジュレーション性を示すヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドのポリペプチドフラグメントを意味する。本明細書中で用いられる「フラグメント」という用語は、少なくとも10個連続したアミノ酸、好ましくは、少なくとも30個連続したアミノ酸、より好ましくは、少なくとも50個連続したアミノ酸、最も好ましくは、少なくとも60〜80個またはそれを超えて連続したアミノ酸を意味する。ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質のフラグメントは、当業者に知られている方法によって生成することができるし、または通常のタンパク質プロセシング(例えば、生物学的活性に必要とされない未完成ポリペプチドからのアミノ酸の除去、または選択的mRNAスプライシングまたは選択的タンパク質プロセシングイベントによるアミノ酸の除去)によって生じてもよい。
【0043】
「類似体」とは、それが由来しているヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドの免疫モジュレーション性の少なくとも30%、好ましくは、少なくとも50%、より好ましくは、少なくとも75%、最も好ましくは、少なくとも95%である性質を示す、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドのアミノ酸配列中の何らかの置換、付加または欠失を意味する。類似体は、アミノ酸配列相違によって、翻訳後修飾によってまたはその両方によって、天然に存在するヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質とは異なることがあり得る。本発明の類似体は、天然に存在するヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38配列と実質的に同一である。修飾には、ポリペプチドのin vivoおよびin vitro化学誘導体化、例えば、アセチル化、カルボキシル化、リン酸化またはグリコシル化が含まれる。このような修飾は、ポリペプチド合成またはプロセシング中に、または単離される修飾酵素での処理後に行われてよい。類似体は、一次配列中の変更によって、天然に存在するヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドと異なることもありうる。これらには、自然および誘発両方の遺伝子変異体が含まれる(例えば、本明細書中に援用されるSambrook, Fritsch and Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2d ed.), CSH Press, 1989; または本明細書中に援用されるAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, 1994に記載のように、照射またはエタンメチル硫酸への暴露によるランダム変異誘発または部位特異的変異誘発によって生じる)。更に包含されるのは、L-アミノ酸以外の残基、例えば、D-アミノ酸、または天然に存在しないまたは合成のアミノ酸を含有する環状化ペプチド分子および類似体である。フラグメントおよび類似体は、標準的な技法、例えば、固相ペプチド合成またはポリメラーゼ連鎖反応を用いて、生成することができる。
【0044】
「ヤタポックスウィルスgp38核酸分子」は、本明細書中に記載のいずれかのヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドの特性または生物学的活性を有するポリペプチド、またはそのフラグメントまたは類似体をコードするゲノムDNA、cDNAまたはRNA(例えば、mRNA)のような核酸分子を意味する。ヤタポックスウィルスgp38核酸分子は、本明細書中に記載のように、基準ヤタポックスウィルスgp38核酸分子と実質的に同一である。
【0045】
「豚痘ウイルス(C1L)gp38核酸分子」は、本明細書中に記載のいずれかの豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドの特性または生物学的活性を有するポリペプチド、またはそのフラグメントまたは類似体をコードするゲノムDNA、cDNAまたはRNA(例えば、mRNA)のような核酸分子を意味する。豚痘ウイルス(C1L)gp38核酸分子は、本明細書中に記載のように、基準豚痘ウイルス(C1L)gp38核酸分子と実質的に同一である。
【0046】
「同一性」という用語は、本明細書中において、同じタイプの基準分子の配列と特定の核酸分子またはポリペプチドの配列との関係を記載するのに用いられる。例えば、あるポリペプチドまたは核酸分子が、それを並列させた場合の基準分子と比較して、ある与えられた位置に同じアミノ酸またはヌクレオチド残基を有する場合、その位置に「同一性」があるといわれる。基準分子に対する核酸分子またはポリペプチドの配列同一性レベルは、典型的には、配列分析ソフトウェアを用いて、最適アラインメントに達するためのギャップの導入などの、そこで規定されるデフォルトパラメーターを用いて測定される(例えば、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, WI53705, BLASTまたはPILEUP/PRETTYBOXプログラム)。これらソフトウェアプログラムは、いろいろな置換、欠失または他の修飾に対する同一性の程度を割り当てることによって同一のまたは類似の配列に対合する。保存的置換には、典型的に、次の群、すなわち、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシンおよびロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギンおよびグルタミン;セリンおよびトレオニン;リシンおよびアルギニン;およびフェニルアラニンおよびチロシンの群内の置換が含まれる。
【0047】
核酸分子またはポリペプチドは、それが、その長さ全体にわたって、基準分子の配列と少なくとも50%または55%の同一性、好ましくは、少なくとも60%、65%または68%の同一性、より好ましくは、少なくとも75%または85%の同一性、最も好ましくは、少なくとも90%、95%または99%の同一性を示す場合、基準分子と「実質的に同一」であるといわれる。ポリペプチドについて、比較配列の長さは、少なくとも16アミノ酸、好ましくは、少なくとも20アミノ酸、より好ましくは、少なくとも25アミノ酸、最も好ましくは、少なくとも35アミノ酸である。核酸分子について、比較配列の長さは、少なくとも50ヌクレオチド、好ましくは、少なくとも60ヌクレオチド、より好ましくは、少なくとも75ヌクレオチド、最も好ましくは、少なくとも110ヌクレオチドである。
【0048】
或いは、または更に、二つの核酸配列は、高ストリンジェントな条件下でそれらがハイブリダイズする場合、「実質的に同一」である。「高ストリンジェントな条件」とは、少なくとも500ヌクレオチド長のDNAプローブを用いて、0.5 M NaHPO4、pH 7.2、7%SDS、1 mM EDTAおよび1%BSA(画分V)を含有する緩衝液中において65℃の温度で、または48%ホルムアミド、4.8×SSC、0.2 M Tris-Cl、pH 7.6、1×Denhardt's溶液、10%硫酸デキストランおよび0.1%SDSを含有する緩衝液中において42℃の温度で起こるハイブリダイゼーションと匹敵するハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。(これらは、高ストリンジェントなノーザンまたはサザンハイブリダイゼーションに典型的な条件である。)高ストリンジェントなPCR、DNAシークエンス法、一本鎖高次構造多型分析およびin situハイブリダイゼーションのような、分子生物学者によって常套的に行われる多数の技法の成功にも、高ストリンジェントなハイブリダイゼーションは当てにされている。ノーザンおよびサザンハイブリダイゼーションとは対照的に、これらの技法は、通常は、比較的短いプローブ(例えば、通常は、PCRまたはシークエンス法には16ヌクレオチドまたはそれより長いもの、およびin situハイブリダイゼーションには40ヌクレオチドまたはそれより長いもの)で行われる。これら技法で用いられる高ストリンジェントな条件は、分子生物学における当業者に周知であり、それらの例は、例えば、本明細書中に援用されるAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, NY, 1998に見いだされうる。
【0049】
「プローブ」または「プライマー」とは、相補的配列を含有する第二のDNAまたはRNA分子(「標的」)に塩基対合しうる規定の配列を有する一本鎖のDNAまたはRNA分子を意味する。得られたハイブリッドの安定性は、生じる塩基対合の程度に依る。この安定性は、プローブと標的分子との間の相補性の程度およびハイブリダイゼーション条件のストリンジェントの程度などのパラメーターによって影響される。ハイブリダイゼーションのストリンジェントの程度は、温度、塩濃度、およびホルムアミドのような有機分子の濃度などのパラメーターによって影響され、当業者に周知である方法によって決定される。ヤタポックスウィルスgp38核酸分子に特異的なプローブまたはプライマーは、好ましくは、本明細書中に記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列に、45%を超える配列同一性、より好ましくは、少なくとも55〜75%の配列同一性、なお一層好ましくは、少なくとも75〜85%の配列同一性、また更に好ましくは、少なくとも85〜99%の配列同一性、最も好ましくは、100%の配列同一性を有する。プローブは、当業者に周知である方法によって、放射性かまたは非放射性で検出可能に標識することができる。プローブは、核酸シークエンス法、ポリメラーゼ連鎖反応による核酸増幅、一本鎖高次構造多型(SSCP)分析、制限断片多型(RFLP)分析、サザンハイブリダイゼーション、ノーザンハイブリダイゼーション、in situハイブリダイゼーション、電気泳動移動度シフト分析(EMSA)、および当業者に周知である他の方法のような、核酸ハイブリダイゼーションを行う方法に用いることができる。分子、例えば、オリゴヌクレオチドプローブまたはプライマー、遺伝子またはそのフラグメント、cDNA分子、ポリペプチドまたは抗体は、試料中のその存在を直接的に同定しうるような方法でそれに印を付ける場合、「検出可能に標識」するということができる。分子を検出可能に標識する方法は、当該技術分野において周知であり、制限されることなく、(例えば、32Pまたは35Sのような同位体での)放射性標識および(例えば、フルオレセインのような蛍光標識での)非放射性標識が含まれる。
【0050】
「同定可能なシグナル配列」は、細胞の特定領域にポリペプチドを標的化させる既知の機能を有するペプチド配列への相同性または生物学的活性によって同定することができるアミノ酸の配列を意味する。好ましくは、このシグナル配列は、ポリペプチドを細胞膜に向けて、そのポリペプチドが分泌されるようにする。或いは、このシグナル配列は、ゴルジ装置のような細胞小器官またはオルガネラにポリペプチドを向けることができる。当業者は、容易に入手可能なソフトウェア(例えば、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, WI53705, BLASTまたはPILEUP/PRETTYBOXプログラム)を用いることによってシグナル配列を同定することができる。同定可能なシグナル配列は、例えば、YMTV gp38(SEQ ID NO: 2)のアミノ酸17と18との間に切断を生じる配列と実質的に同一である配列であり得る。
【0051】
「実質的に純粋なポリペプチド」とは、天然ではそれを伴っているタンパク質および有機分子から分離されたポリペプチド(またはそのフラグメントまたは類似体)を意味する。典型的には、あるポリペプチドが、それが天然に関連しているタンパク質および天然に存在する有機分子を少なくとも60重量%含まない場合、それは実質的に純粋である。好ましくは、このポリペプチドは、少なくとも75重量%、より好ましくは、少なくとも90重量%、最も好ましくは、少なくとも99重量%純粋であるヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドである。実質的に純粋なヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドは、例えば、天然源(例えば、感染した哺乳動物細胞)からの抽出によって、ヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドをコードする組換え核酸分子の発現によってまたは化学合成によって得ることができる。純度は、いずれか適当な方法によって、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはHPLC分析によって測定することができる。
【0052】
あるポリペプチドが、その自然状態でそれを伴っているタンパク質および有機分子から分離されている場合、それは、天然に関連している成分を実質的に含まない。したがって、化学合成されているかまたは天然に生産されている細胞とは異なった細胞系で生産されているタンパク質は、天然では関連している成分を実質的に含まない。したがって、実質的に純粋なポリペプチドには、真核生物に由来するもののみならず、発現系、例えば、大腸菌(E. coli)または他の原核生物、酵母または昆虫細胞中で合成されたものも含まれる。
【0053】
「実質的に純粋な核酸分子」は、天然ではそれを伴っている成分を含まない核酸分子を意味する。例えば、実質的に純粋なDNAは、本発明のDNAが由来する生物の天然に存在するゲノム中において、その遺伝子に隣接する遺伝子を含まない。したがって、この用語には、例えば、ベクター中に包含されている組換えDNA;自律複製性プラスミドまたはウイルス中に包含されている組換えDNA;または原核生物または真核生物のゲノムDNA中に包含されている組換えDNA;または他の配列とは無関係な別個の分子(例えば、PCRまたは制限エンドヌクレアーゼ消化によって生産されるcDNAまたはゲノムまたはcDNAフラグメント)として存在するものが含まれる。それには、追加のポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部分である組換えDNAも含まれる。
【0054】
「アンチセンス」である核酸分子は、ヤタポックスウィルスgp38遺伝子または核酸分子のような、ある遺伝子または核酸分子のコーディング鎖の少なくとも75ヌクレオチド、好ましくは、少なくとも100、150または200ヌクレオチドに相補的である配列を有する核酸分子を意味する。アンチセンス核酸分子は、例えば、ヤタポックスウィルスgp38遺伝子または核酸分子によってコードされるヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドの生産を選択的に低下させることが可能であり得る。
【0055】
「ベクター」とは、コードされたペプチドまたはポリペプチドが宿主細胞中で発現されるように、プロモーターに機能的に連結したポリペプチド(例えば、ヤタポックスウィルスgp38ポリペプチド)コーディング配列を宿主細胞中に転移させるのに用いられる、例えば、バクテリオファージ、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルスまたは人工染色体に由来する、遺伝子操作されたプラスミドまたはウイルスを意味する。ベクターは、遺伝子治療用ベクター、すなわち、治療的利益のために患者の細胞中に遺伝物質を転移させるように設計されたベクターであってよい。
【0056】
ベクターは、概して、ポリペプチドコーディング配列に機能的に連結したプロモーターを含めた調節配列を含有する。「プロモーター」は、転写を方向づけるのに十分な最小の核酸配列要素である。所望ならば、本発明の構築物には、細胞タイプ特異的、組織特異的または時間特異的な方法で制御可能な、または外部シグナルまたは試剤によって誘導可能な、プロモーター依存性遺伝子発現を与えるのに十分であるプロモーター要素が含まれうる。このような要素は、遺伝子の5’、3’またはイントロン領域中に位置することがありうる。その調節配列に適当な分子(例えば、転写アクチベータータンパク質)が結合している場合に、遺伝子発現を可能にするように、遺伝子および1個またはそれを超える調節配列が連結している場合に、配列は「機能的に連結」している。
【0057】
「導入遺伝子」とは、細胞(例えば、細胞の核ゲノム)中に人工的に挿入され、しかもその細胞から発生する生物のゲノム中に包含されているDNA分子を意味する。このような導入遺伝子は、トランスジェニック生物には部分的にまたは完全に異種(すなわち、外来性)でありうるし、またはその生物の内因性遺伝子に相同である遺伝子でありうる。生物または動物(例えば、マウス、ラット、ブタまたはヤギのような動物)が、それに人工的に挿入された導入遺伝子を有する細胞から発生した場合、それは「トランスジェニック」であるということができる。
【0058】
「ノックアウト変異」とは、普通にコードされているポリペプチドの生物学的活性を、変異していない遺伝子に対して少なくとも80%減少させる(組換えDNA技術または変異原への意図的暴露によって生じる)核酸分子中の人工的に誘導される変化を意味する。この変異は、制限されることなく、挿入、欠失、フレームシフト変異またはミスセンス変異でありうる。「ノックアウト動物」は、好ましくは、上に定義のようにノックアウト変異を含有する哺乳動物、より好ましくは、マウスである。
【0059】
抗体は、それが、あるポリペプチド(例えば、ヤタポックスウィルスポリペプチド)を認識し且つ結合するが、天然にそのポリペプチドを包含する試料、例えば、生物学的試料中の他の分子(例えば、非ヤタポックスウィルスgp38関連ポリペプチド)を実質的に認識せず且つ結合しない場合、そのポリペプチドに「特異的に結合」するといわれる。好ましい抗体は、本明細書中に示されるポリペプチド配列に実質的に同一であるいずれのヤタポックスウィルスgp38ポリペプチド配列またはそのフラグメントにも結合する。
【0060】
「試料」とは、組織バイオプシー、羊水、細胞、血液、血清、尿、便、または患者または試験対象から得られる他の検体を意味する。この試料を、当該技術分野において知られている方法によって分析して、ヤタポックスウィルスgp38遺伝子中の変異、ヤタポックスウィルスgp38遺伝子またはポリペプチドの発現レベル、またはヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドの生物学的機能を検出することができる。例えば、患者試料に由来するPCR産物のシークエンス法、一本鎖高次構造多型(SSCP)分析または制限断片長多型(RFLP)分析などの方法を用いて、ヤタポックスウィルスgp38遺伝子中の変異を検出することができ;ELISAを用いて、ヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドのレベルを測定することができ;そしてPCRを用いて、ヤタポックスウィルスgp38核酸分子のレベルを測定することができる。
【0061】
「免疫機能」または「免疫反応性」は、標準的な検定によって測定される、外来性抗原に応答する免疫系の能力を意味する。「モジュレートする」または「モジュレートすること」は、ヤタポックスウィルスgp38ポリペプチド若しくは核酸分子または試験化合物との相互作用の結果としての、標的細胞、試料または生物の応答における、減少かまたは増加による量的変化の誘導を意味する。この増加または減少は、未処置対照生物、試料または分子に対して、少なくとも10%、好ましくは、少なくとも20%、より好ましくは、少なくとも50%、なお一層好ましくは、少なくとも75%、また更に好ましくは、少なくとも95%、最も好ましくは、少なくとも100%である。
【0062】
「免疫モジュレーション」または「免疫モジュレーション性」は、本発明のポリペプチドまたは核酸分子、またはそのフラグメントおよび類似体のような試剤での処置に際して、同じタイプの未処置対照に対する哺乳動物の免疫系の全免疫反応性の変化または細胞応答の変化を意味する。免疫モジュレーションは、免疫細胞、例えば、B細胞、T細胞、抗原提示細胞、または免疫機能に関与している何らかの他の細胞を用いて検定することができる。免疫モジュレーションは、免疫関連遺伝子およびタンパク質、またはサイトカイン、サイトカイン受容体、免疫グロブリン等のような免疫関連化合物の発現および/または活性を決定することによって検定することもできる。
【0063】
「免疫抑制」は、特定の免疫モジュレーターと接触したことがない免疫系の免疫反応性と比較した場合の、免疫モジュレーターの投与に対する免疫系の全免疫反応性の減少を意味する。「免疫刺激」は、特定の免疫モジュレーターと接触したことがない免疫系の免疫反応性と比較した場合の、免疫モジュレーターの投与に対する免疫系の全免疫反応性の増加を意味する。「T細胞刺激の減少」は、例えば、クロム放出試験によって測定されるような、T細胞刺激レベルの低下を意味する。「炎症の減少」は、標的組織中の炎症性細胞(白血球、例えば、好酸球)の数の、好ましくは、2倍までの減少を意味する。「細胞増殖」とは、類似した細胞の成長または複製を意味する。「アポトーシス」とは、染色性細胞が、原形質膜泡状突起形成(blebbing)、細胞体萎縮、クロマチン凝縮およびDNAラダー形成(laddering)を包含する十分に特性決定された一連の生化学的特徴を示す場合の細胞死の過程を意味する。
【0064】
「免疫モジュレーター」は、例えば、変異したウイルスのビルレンスの変化によってまたは当該技術分野において周知のいろいろな免疫検定(例えば、本明細書中に記載の走化性検定)によって測定されるような、免疫モジュレーション性作用または変化(すなわち、免疫抑制、免疫刺激等)を誘導する試剤を意味する。例えば、本発明において、免疫モジュレーターは、免疫機能レベルの変化が、ヤタポックスウィルスgp38ポリペプチドを同定するように、変化した免疫機能レベルを引き出すことができる。「抗炎症性」剤は、個体への投与の際に全体の炎症または免疫機能を減少させることができる免疫モジュレーション性剤である。
【0065】
好ましくは、この増加または減少は、未処置対照生物、試料または分子に対して、少なくとも10%、好ましくは、少なくとも20%、より好ましくは、少なくとも50%、なお一層好ましくは、少なくとも75%、また更に好ましくは、少なくとも95%、最も好ましくは、少なくとも100%である。
【0066】
「免疫モジュレーション性障害」または「免疫学的障害」とは、免疫機能の変化を特徴とする、何らかの病態生理学的状態(すなわち、いずれかの哺乳動物疾患が含まれるがこれに制限されるわけではない、外部源、遺伝的素因、物理的または化学的外傷、またはそれらの組合せによって生じる、生きている生物の機能および/または構造の妨害)を意味する。
【0067】
この変化には、例えば、免疫細胞の数またはサイズの減少、細胞アポトーシスまたは細胞死の増加、または免疫細胞の成長、生存または分化の減少が含まれうる。免疫学的障害には、免疫応答または全身免疫を伴ういずれかの疾患が含まれる。より詳しくは、このような障害は、生体中の外来性物質(例えば、ウイルス、細菌、細菌毒素、植物花粉、真菌胞子、動物の鱗屑(animal danders)、投薬、食物、または同種または異種移植臓器)に抵抗する生物の能力を減少させるか、または生体にそれ自体の組織に対する抗体を産生させて(例えば、自己免疫性障害)組織傷害をもたらすか、または癌を引き起こす、免疫系の機能不全である。免疫学的障害は、(例えば、遺伝的欠損、疾病、傷害、栄養不良、または化学療法に用いられるような投薬によって引き起こされる)免疫系の機能不全が、感染の頻度または重症度の増加を引き起こす場合にも起こりうる。免疫学的障害は、しばしば、炎症を伴うが、これは、組織傷害への生体反応であり、傷害部位において、白血球、マクロファージおよびリンパ球の蓄積を引き起こす。
【0068】
免疫学的障害または免疫モジュレーション性障害には、急性炎症、慢性関節リウマチ、移植片拒絶反応、喘息、炎症性腸疾患、ブドウ膜炎、再狭窄、多発性硬化症、乾癬、創傷治癒、エリテマトーデス、および当業者によって認識されうるいずれか他の自己免疫性または炎症性障害が含まれるが、これに制限されるわけではない。
【0069】
例えば、本発明の方法によって処置することができる、炎症に関連した他の疾患には、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎および食物アレルギーが含まれるが、これに制限されるわけではない。免疫系が宿主自体の組織を攻撃している他の自己免疫性障害の例には、1型インスリン依存性糖尿病、皮膚炎、髄膜炎、血栓性血小板減少性紫斑病、シェーグレン症候群、脳炎、白血球接着不全、リウマチ熱、ライター症候群、乾癬性関節炎、進行性全身性硬化症、原発性胆汁性肝硬変、天疱瘡、類天疱瘡、壊死性血管炎、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、多発性筋炎、サルコイドーシス、肉芽腫症、血管炎、悪性貧血、CNS炎症性障害、抗原抗体複合体媒介性疾患、自己免疫性溶血性貧血、橋本甲状腺炎、グレーヴズ病、習慣性自然流産、レイノー症候群、糸球体腎炎、皮膚筋炎、慢性活動性肝炎、セリアック病、AIDSの自己免疫性合併症、萎縮性胃炎、強直性脊椎炎およびアジソン病が含まれるが、これに制限されるわけではない。本発明の方法によって処置することができる、非悪性のまたは免疫学的に関連した細胞増殖性疾患に関連した他の疾患には、乾癬、尋常性天疱瘡、ベーチェット症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血性心疾患、アテローム性動脈硬化症、透析後症候群、白血病、後天性免疫不全症候群、敗血症性ショックおよび他のタイプの急性炎症、脂質性組織球増殖症および癌が含まれる。
【0070】
「試験化合物」とは、それが天然に存在しようと、人工的に誘導されようと、本明細書中に記載のまたは当該技術分野において知られている検定方法の一つを用いることにより、免疫モジュレーターとして作用するその能力について検定される化学物質を意味する。試験化合物には、例えば、ペプチド、ポリペプチド、合成有機分子、天然に存在する有機分子、核酸分子およびそれらの成分が含まれうる。
【0071】
投薬用量に関して本明細書中で用いられる「治療的有効量」は、免疫学的障害に特有の症状を示しているか、または免疫学的障害の危険がある個々の患者各々に合わせて作られる、規定量の薬理学的活性剤(例えば、本明細書中に記載のヤタポックスウィルスgp38ポリペプチド)の投与を意味する。例えば、本発明の処置を受ける患者は、自己免疫性または炎症性疾患を経験していることがありうる。当業者は、投与される薬剤の最適用量が個々に異なるということを理解するであろう。個々の患者の用量は、患者の身長、体重、問題の投薬の吸収および代謝の速度、処置される障害の段階、およびほかにどんな薬剤が同時投与されるかを考慮すべきである。
【0072】
「薬学的に許容しうる担体」とは、処置される哺乳動物に生理学的に許容されうるが、それと一緒に投与される化合物の治療的性質を保持する担体を意味する。一つの代表的な薬学的に許容しうる担体は、生理的食塩水である。他の生理学的に許容しうる担体およびそれらの製剤は、当業者に知られているし、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, (19thedition), ed.A.Gennaro, 1995, Mack Publishing Company, Easton, PAに記載されている。
【0073】
「処置すること」または「処置」とは、疾患、病理学的状態または障害を治癒させる、改善する、安定させるまたは予防する意図での患者の医学的処置を意味する。この用語には、積極的な処置、すなわち、疾患、病理学的状態または障害の改善に対して具体的に向けられるまたは治癒に関連した処置が含まれ、原因治療、すなわち、関連した疾患、病理学的状態または障害の原因の除去に対して向けられる処置も含まれる。更に、この用語には、待期的処置、すなわち、疾患、病理学的状態または障害の治癒よりもむしろ症状の軽減のために設計される処置;予防的処置、すなわち、関連した疾患、病理学的状態または障害の発生を最小限にする、または部分的にまたは完全に阻止することに向けられる処置;および支持的処置、すなわち、関連した疾患、病理学的状態または障害の改善に対して向けられる別の具体的な療法を補足するのに用いられる処置が含まれる。「処置」という句には、対症的処置、すなわち、関連した疾患、病理学的状態または障害の全身症状に対して向けられる処置も含まれる。
【0074】
「サイトカイン」とは、免疫応答を調節する場合に、例えば、隣接した細胞にシグナル伝達することによってある重要な役割を果たしている低分子量ポリペプチドを意味する。「ケモカイン」とは、白血球(例えば、好中球、好塩基球、単球およびT細胞)の化学的誘因物質であり、しかも炎症部位中へのリンパ球および単球の浸潤に重要である低分子量リガンドを意味する。
【0075】
本発明の治療方法、診断方法およびスクリーニング方法を最初に記載後、これら方法を実施する場合に用いることができる一般的なアプローチを記載する。この説明は、当業者が本発明およびその理論および利点をよりよく理解するのを助けるであろう。この説明は、本発明を詳しく説明するためのものであり、その範囲を制限するものではない。
【0076】
gp38核酸分子、ポリペプチド、抗体および免疫モジュレーション性化合物を用いた治療方法
本発明には、免疫モジュレーション性剤を用いることによって免疫学的障害を処置するまたは予防する方法が含まれる。免疫モジュレーション性試薬には、制限されることなく、ヤタポックスウィルスgp38または豚痘ウイルス(C1L)ポリペプチド;ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38 cDNA、mRNAまたはアンチセンスRNA;ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38抗体;およびヤタポックスウィルスgp38の生物学的活性、発現または安定性をモジュレートするいずれかの化合物が含まれる。
【0077】
抗サイトカイン活性、抗炎症活性を示し且つ白血球走化性活性の減少を示す、本発明において同定されるヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチド(またはそれらのフラグメントまたは類似体)は、本発明において特に有用であると考えられる;このようなポリペプチドは、例えば、慢性関節リウマチの個体の免疫反応性を減少させる治療薬として用いることができる。免疫抑制剤、または免疫機能を減少させる試剤を用いて処置することができる他の免疫学的障害には、急性炎症、アレルギー反応、喘息反応、炎症性腸疾患(すなわち、クローン病および潰瘍性大腸炎)、移植片拒絶反応および再狭窄が含まれる。或いは、アポトーシスを促進するまたは誘発するポリペプチドは、腫瘍の処置に用いることができる。
【0078】
免疫モジュレーション性障害によって生じる疾患の処置または予防は、例えば、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質を適当な細胞に供給することにより、免疫モジュレーション性タンパク質の機能をモジュレートすることによって達成される。ヤタポックスウィルスgp38タンパク質または核酸分子を適当な細胞に供給することにより、免疫モジュレーション性タンパク質が関与している生理学的経路(例えば、シグナル伝達経路)を修飾することによって免疫欠損を補正することも可能である。
【0079】
例えば、自己免疫性または炎症性障害の処置のための、潜在的または実際の罹患組織部位へ(例えば、注射によって)または全身への、組換えヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質、核酸分子、抗体または化合物の直接投与は、当該技術分野において知られているかまたは本明細書中に記載されているかのいずれかの慣用的な組換えタンパク質投与技術によって行うことができる。実際の投薬量は、個々の患者の体格および健康状態を含めた、当業者に知られている多数の因子に依るが、概して、成人に0.1 mg〜100 mg/日までをいずれかの薬学的に許容しうる製剤中で投与される。
【0080】
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38免疫モジュレーター、抗炎症薬または抗発癌薬は、薬学的に許容しうる希釈剤、担体または賦形剤と一緒に、薬学的有効量で投与することができる。慣用的な医薬慣例を用いて、免疫モジュレーション性障害に苦しむ患者にヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドを投与するのに適した製剤または組成物を提供することができる。いずれの適当な投与経路も、例えば、非経口、静脈内、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼内、脳室内、包内、髄腔内、槽内、腹腔内、鼻腔内、エアロゾルまたは経口投与を用いることができる。治療用製剤は、液状の液剤または懸濁剤の形であってよいし、経口投与用の製剤は、錠剤またはカプセル剤の形であってよいし、鼻腔内用製剤は、散剤、点鼻剤またはエアゾル剤の形であってよい。
【0081】
当該技術分野において周知の製剤製造方法は、例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences, 上記」に見いだされる。非経口投与用製剤は、例えば、賦形剤、滅菌水または生理食塩水、ポリエチレングリコールのようなポリアルキレングリコール、植物由来油、または水素化ナフタレンを含有してよい。生体適合性で生物分解性のラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマーは、これら化合物の放出を制御するのに用いることができる。ヤタポックスウィルスgp38免疫モジュレーション性化合物に潜在的に有用な他の非経口デリバリーシステムには、エチレン-酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透ポンプ、植込み可能注入システムおよびリポソームが含まれる。吸入用製剤は、賦形剤、例えば、ラクトースを含有してよいし、または例えば、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、グリココラートおよびデオキシコラートを含有する水性液剤であってよいし、または点鼻剤の形でまたはゲル剤として投与するための油状液剤であってよい。
【0082】
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38遺伝子治療
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38遺伝子またはそのフラグメントは、免疫モジュレーション性遺伝子治療または抗癌遺伝子治療に用いることができる。例えば、腫瘍の白血球浸潤を促すために、機能性ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38遺伝子またはそのフラグメントを、腫瘍部位の細胞中に導入してよい。更に、自己免疫反応を逆行させることが分かっているヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドも、遺伝子治療に用いることができる。或いは、炎症を阻止するヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドは、遺伝子治療によって、例えば、好酸球により媒介される炎症状態の処置のために投与することができる。
【0083】
遺伝子移入は、ウイルスベクターを用いて、更には、非ウイルス手段によって達成される。患者の患部組織中への遺伝子の移植は、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38遺伝子またはそのフラグメントを、培養可能な細胞タイプ中にex vivoで移入後、その細胞(またはその子孫)を標的組織中に注入することによって行うこともできる。
【0084】
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質を発現する細胞に適当な親和性(tropism)を有するレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクターまたは他のウイルスベクターは、治療用ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38遺伝子構築物の遺伝子移入デリバリーシステムとして用いることができる。この目的に有用な多数のベクターが知られている(例えば、Miller, Human Gene Therapy 15-14,1990;Friedman, Science 244:1275-1281,1989;Eglitis and Anderson, BioTedhniques 6:608-614,1988;Tolstoshev and Anderson, Current Opinion in Biotechnology
1:55-61,1990;Sharp, The Lancet 337:1277-1278,1991;Cornetta et al., Nucleic Acid Research and Molecular Biology 36:311-322,1987;Anderson, Science 226:401-409,1984;Moen, Blood Cells 17:407-416,1991;およびMiller and Rosman, Biotechniques 7:980-990,1989;Le Gal La Salle et al., Science
259:988-990,1993;および Johnson, Chest 107:77S-83S,1995を参照されたい)。レトロウイルスベクターは、特に十分に開発され、臨床環境で用いられている(Rosenberg et al., N.Engl.J.Med 323:370,1990; Anderson et al., 米国特許第5,399,346号)。
【0085】
細胞中への治療用DNAの導入のための非ウイルスアプローチには、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、プロトプラストフュージョン法およびリポソーム法が含まれるがこれに制限されるわけではないいずれかの標準的な技法にもよる、in vitroトランスフェクションが含まれる。例えば、ヤタポックスウィルスgp38遺伝子は、腫瘍細胞中に、リポフェクション(Felgner et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413,1987; Ono et al., Neuroscience Lett 117:259,1990; Brigham et al., Am.J.Med.Sci. 298:278,1989; Staubinger and Papahadjopoulos, Meth.Enz. 101:512,1983);アシアロロソヌコイド-ポリリシンコンジュゲーション(asialorosonucoid-polylysin conjugation)(Wu and Wu, J.Biol.Chem. 263:14621,1988; Wu et al., J.Biol.Chem. 264:16985,1989);または外科的条件下のマイクロインジェクション(Wolff et al., Science 247:1465,1990)によって導入してよい。
【0086】
上のアプローチのいずれについても、治療用ヤタポックスウィルスgp38 DNA構築物は、好ましくは、悪性腫瘍または炎症および細胞障害性損傷の部位に(例えば、注入によって)適用されるが、悪性腫瘍または炎症および細胞障害性損傷の周辺の組織に、またはこれら区域に供給されている血管にさえも適用されてもよい。
【0087】
遺伝子治療用構築物において、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38 cDNA発現は、いずれか適当なプロモーター(例えば、ヒトサイトメガロウイルス、シミアンウイルス40またはメタロチオネインプロモーター)から支配され、その生産は、いずれか望ましい哺乳動物調節要素によって調節される。例えば、所望ならば、内皮または上皮細胞における選択的遺伝子発現を支配することが知られているエンハンサーを用いて、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質発現を支配することができる。このようなエンハンサーには、制限されることなく、肺特異的プロモーター(例えば、サーファクタント)および腸管特異的調節配列が含まれる。
【0088】
或いは、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ゲノムクローンを、治療用構築物として(例えば、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38 cDNAとのハイブリダイゼーションによるその単離後)利用する場合、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質発現は、その同族の調節配列によって、または所望ならば、異種源に由来する調節配列、例えば、本明細書中に記載のいずれかのプロモーターまたは調節要素によって調節される。
【0089】
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38遺伝子治療は、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38 mRNAの腫瘍への直接投与によっても行われる。このmRNAは、いずれの標準的な技法によっても製造し且つ単離することができるが、最も容易には、高効率プロモーター(例えば、T7プロモーター)の制御下においてヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38 cDNAを用いたin vitro転写によって製造される。悪性細胞へのヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38 mRNAの投与は、上記のいずれかの直接核酸投与方法によって行われる。
【0090】
トランスジェニック動物
トランスジェニック動物は、標準的な技法を用いて作ることができる(例えば、Gene Targeting: A Practical Approach, A.L.Joyner,ed., Oxford University Press, 1999 を参照されたい)。例えば、ヤタポックスウィルスgp38遺伝子は、内因性制御配列を用いて、または構成性、組織特異的または誘導性の調節配列を用いて提供することができる。機能性ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ホモログポリペプチドを欠いたトランスジェニック動物も、標準的な技法を用いて作ることができる。これは、本明細書中に与えられるDNA配列を用いて、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ホモログ遺伝子中でノックアウト変異を遺伝子操作することによって行うことができる。
【0091】
ヤタポックスウィルスノックアウト
ポックスウイルスは、最大の真核DNAウイルスの中に含まれ、感染した細胞の細胞質中で自律複製する異例の能力を有する。多数のポックスウイルスタンパク質は、存在する場合、それらが増加した病原性を与え且つ免疫応答性宿主中でのウイルス複製を向上させるという基準で、ビルレンス因子として定義されている。これらビルレンス因子タンパク質をコードする遺伝子が欠失している場合、得られたウイルス株は、概して、弱毒化されたまたは変化した疾患表現型を示す(本明細書中に援用される、Turner, Curr.Top.Microbiol.Immunol., 163:125-151,1990; Buller, Microbiol.Rev., 55:80-122,1991; Smith. J.Gen.Virol., 74:1725-1740; McFadden. Austin (TX): R.G.Landes Company, 1995)。このような「ノックアウト」ヤタポックスウィルスは、ウイルスタンパク質の免疫モジュレーション性のまたは他の役割の解明を助けることができる。
【0092】
標準的なウイルス学検定(例えば、Nash et al.,(1999) Immunological Review, 57:731)を用いると、当業者は、ヤタポックスウィルス感染への各々の遺伝子の寄与、およびウイルス感染の一般的な生化学的および生理学的進行を確定することができる。特定の遺伝子を欠いたノックアウトヤタポックスウィルスは、標準的な分子生物学的技術を用いて生じることができる(本明細書中に各々援用される、Sambrook et al., 上記;Innis et al., PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press, San Diego,CA, 1990; Erlich et al., PCR Technology: Principles and Applications for DNA Amplification, Stockton Press, New York,NY, 1989を参照されたい)。これらノックアウトウイルスのビルレンスは、当該技術分野において周知の標準的な感染性検定(Nash et al., 上記を参照されたい)を用いて評価することができる。例えば、上述のように、ヤタポックスウィルスのgp38ポリペプチド(SEQ ID NO: 1または2)は、ヤタポックスウィルスまたは他のポックスウイルスによって用いられる、炎症を阻止する機構を解明するのに有用であり得る。
【0093】
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38核酸分子、ポリペプチドおよび抗体を用いた診断方法
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドおよび核酸分子は、炎症、自己免疫および他の状態の検出または監視に用いることができる。例えば、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質は、白血球走化性に関与している可能性があるため、および白血球数の減少は、免疫抑制と相関しているため、特定のヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質生産レベルの変化は、その状態の予後の指標を与える。ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質発現レベルは、いずれの標準的な技法によっても検定することができる。例えば、生物学的試料(例えば、バイオプシー)中でのその発現は、標準的なノーザンブロット分析によって監視することができるしまたはPCRによって助けることができる(例えば、Ausubel et al., 上記;Yap and McGee, Nucl.Acids.Res. 19:4294,1991を参照されたい)。
【0094】
更にもう一つのアプローチにおいて、免疫検定は、生物学的試料中のヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質を検出するまたは監視するのに用いられる。ヤタポックスウィルスgp38タンパク質特異的ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体(本明細書中に記載のように製造される)は、いずれの標準的な免疫検定フォーマット(例えば、ELISA、ウェスタンブロットまたはRIA検定)においても、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドレベルを測定するのに用いることができる。ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質生産の変化は、具体的な予後を示すものでありうる。免疫検定の例は、例えば、Ausubel et al., 上記に記載されている。免疫組織化学的技法は、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質検出に利用することもできる。例えば、組織試料は、抗ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質抗体およびいずれかの標準的な検出システム(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼに抱合した(conjugated)二次抗体を包含するもの)を用いて、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質の存在について、染色された切片および患者から得ることができる。このような技法に関する一般的な指針は、例えば、Bancroft and Stevens(Theory and Practice of Histological Techniques, Churchill Livingstone, 1982)および Ausubel et al.(上記)に見いだされうる。
【0095】
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38生物学的活性をモジュレートする分子、またはその生物学的活性がヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ウイルスによってモジュレートされる分子の同定
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38核酸分子配列の単離は、ヤタポックスウィルスgp38または豚痘ウイルス(C1L)ポリペプチドの生物学的活性を増加させるまたは減少させる分子の同定を容易にもする。同様に、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチド生物学的活性によって活性がモジュレートされる分子を同定することができる。これら分子は、本明細書中に記載の検定、例えば、走化性検定を用いて調べることができる。ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質発現の増加または白血球走化性活性の減少を促進する分子は、本発明において特に有用であると考えられ、このような分子は、例えば、個体の免疫反応性を減少させる治療薬として用いることができる。
【0096】
一つのアプローチによれば、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38 mRNAを発現する細胞の培地に、いろいろな濃度で候補分子を加える。次に、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチド生物学的活性を、標準的な技法を用いて測定する。生物学的活性の測定には、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドタンパク質および核酸分子のレベル、または免疫モジュレーションへのヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドの作用の測定が含まれうる。
【0097】
所望ならば、発現への候補分子の作用は、代わりに、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチド特異的抗体でのウェスタンブロッティングまたは免疫沈降などの標準的な免疫学的検出技術および同様の一般的なアプローチを用いて、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質生産レベルで測定することができる(下を参照されたい)。
【0098】
候補モジュレーターは、精製された(または実質的に精製された)分子でありうるし、化合物混合物(例えば、細胞から得られる抽出物または上澄み;Ausubel et al., 上記)の一つの成分でありうる。混合化合物検定において、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチド発現は、候補化合物プールのますます小さいサブセット(例えば、標準的な精製技術、例えば、HPLCまたはFPLCによって生じる)に対して、単一の化合物または最小限の化合物混合物が、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチド発現をモジュレートすることが示されるまで、調べられる。
【0099】
或いは、または更に、候補化合物は、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチド活性をモジュレートするものについてスクリーニングされうる。このアプローチでは、候補化合物の存在下での免疫モジュレーションレベルを、均等な条件下において、その不存在下での免疫モジュレーションレベルと比較する。再度、このようなスクリーニングは、一つまたはそれを超える有用な候補化合物が段階的に単離される候補化合物プールを用いて開始することができる。
【0100】
上記のスクリーニング検定は、当業者に周知であるいろいろな方法で行うことができる。これらには、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチド変異型を用いること、またはヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドのフラグメントを用いることが含まれる。
【0101】
上記の方法でスクリーニングすることができる試験化合物は、化学物質でありうるし、天然に存在するものまたは人工的に誘導されるものでありうる。このような化合物には、例えば、ポリペプチド、合成有機分子、天然に存在する有機分子、核酸分子およびそれらの成分が含まれうる。候補ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドモジュレーターには、ペプチド分子、更には、非ペプチド分子(例えば、細胞抽出物、哺乳動物血清、または哺乳動物細胞が培養された成長培地中で見いだされる、例えば、ペプチド分子または非ペプチド分子)が含まれる。
【0102】
概して、免疫モジュレーション性疾患の予防または処置のための新規な薬物は、天然産物、合成(または半合成)抽出物の大規模ライブラリーおよび化学ライブラリーの双方から、当該技術分野において周知である方法を用いて同定される。薬物の発見および開発の分野の当業者は、本発明のスクリーニング方法にとって、正確な試験抽出物または化合物源が重要ではないということを理解するであろう。したがって、実際には、いずれかの多数の化学抽出物または化合物も、これら方法を用いてスクリーニングすることができる。このような抽出物または化合物の例には、植物-、真菌-、原核生物-または動物-ベースの抽出物、発酵ブイヨンおよび合成化合物、更には、既存の化合物の修飾が含まれるが、これに制限されるわけではない。
【0103】
サッカライド-、脂質-、ペプチド-および核酸分子-ベースの化合物が含まれるがこれに制限されるわけではない、いずれか多数の化合物のランダムなまたは支配された合成(例えば、半合成または全合成)を行うのにも、多数の方法が利用可能である。合成化合物ライブラリーは、Brandon Associates(Merrimack, NH)およびAldrich Chemical(Milwaukee, WI)から商業的に入手可能である。或いは、細菌、真菌、植物および動物の抽出物の形の天然化合物のライブラリーが、Biotics(Sussex, UK)、Xenova(Slough, UK)、Harbor Branch Oceanographic Institute(Ft.Pierce, FL)およびPharmaMar,U.S.A.(Cambridge, MA)を含めた多数の供給源から商業的に入手可能である。更に、天然のおよび合成によって製造されるライブラリーは、所望ならば、当該技術分野において知られている方法によって、例えば、標準的な抽出法および分別法によって製造される。更に、所望ならば、いずれのライブラリーまたは化合物も、標準的な化学的、物理的または生化学的方法を用いて容易に修飾することができる。
【0104】
更に、薬物の発見および開発の技術分野の当業者は、脱複製(dereplication)(例えば、分類学的脱複製、生物学的脱複製および化学的脱複製またはそれらのいずれかの組合せ)の方法、または免疫学的障害へのそれらの治療的活性について既に知られている材料の複製物(replicates)または反復体(repeats)の脱離の方法を、可能な場合はいつでも用いることができるということを容易に理解する。
【0105】
粗製抽出物が、免疫モジュレーションを調節することが判明した場合、正のリード抽出物の分別を更に行って、認められる作用の原因となる化学成分を単離することができる。したがって、抽出、分別および精製の工程の目的は、望まれる活性を有する粗製抽出物中の化学物質の注意深い特性決定および同定である。化合物混合物中での活性の検出について本明細書中に記載の同様の検定を用いて、活性成分を精製し且つその誘導体を調べることができる。このような不均一抽出物の分別および精製の方法は、当該技術分野において知られている。所望ならば、処置に有用な試剤であることが分かった化合物を、当該技術分野において知られている方法によって化学修飾する。治療的に価値があると同定された化合物は、引き続き、例えば、本明細書中に記載のいずれかの動物モデルを用いて分析することができる。
【0106】
上のアプローチは、上記のヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドの代わりに、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質阻止活性を有する(例えば、アミノ末端に欠失または挿入を有する)変更されたヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドを置き換えることによって、候補化合物の活性を阻害するのに用いることもできる。
【0107】
動物モデル
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質の発現または活性のレベルで有効であることが判明した本発明の免疫モジュレーターおよび他の化合物を、自己免疫性および炎症性の疾患および癌を処置する場合の効力について、動物モデルで調べる。
【0108】
候補化合物の免疫モジュレーション性作用を調べるための動物モデルは、当該技術分野において周知である。したがって、本発明は、本発明の候補化合物を調べるのに用いることができる動物モデルの選択に言及する。本発明において自己免疫性および炎症性の障害を処置する場合の候補化合物の効力について調べるのに用いるための考えられる動物モデルには、次が含まれるが、これに制限されるわけではない。
【0109】
急性炎症:
急性炎症の動物モデルは、初期のおよび迅速な薬物効力スクリーニング、および慢性炎症性疾患の結果の可能な予測値(predicative value)を標的とする。次の動物モデルは、急性炎症を処置する場合の本発明の候補化合物の効力について調べるのに用いることができる。(1)カラゲニンに誘発される炎症モデル;(2)テルペンチンに誘発される炎症モデル;(3)トランスジェニックHLAB-27炎症モデル;および(4)炎症の耳掻き(ear-scratch)モデル。
【0110】
慢性関節リウマチ:ラット、マウス、ウサギ
慢性関節リウマチでの効力は、(1)ウサギ、ラットおよびマウスの各種抗原に誘発される関節炎モデル;および(2)トランスジェニックリウマチモデルで評価した。
【0111】
候補化合物の作用の分子機構および細胞機構を、関節病に関与する分解過程を調節する中心的な細胞内機構に影響を与えるそれら化合物の効力を調べることによって評価する。特に注目される重要な分子機構および細胞機構には、増加した血管新生、滑液過形成およびマトリックスメタロプロテアーゼ発現のような疾患過程を調節するシグナリングイベントが含まれる。これら過程は、関節炎疾患における軟骨分解に関与している。
【0112】
1.コラーゲンに誘発される関節炎:ラット、マウス、ウサギ
自己免疫に媒介される多発性関節炎は、特定の齧歯類動物系統(ラット、マウスおよびウサギ)および非ヒト霊長類において、天然のII型コラーゲンでそれらを免疫感作することによって誘発することができる。コラーゲンに誘発される関節炎モデルは、広く用いられ且つ十分に特性決定されている。コラーゲンに誘発される関節炎は、II型コラーゲンの特定の領域に結合する自己抗体への感受性によって媒介される。この誘発機構は、MHCクラスII分子に関連しているが、免疫感作に用いられるII型コラーゲンの種にも依存する。
【0113】
2.オボアルブミンに誘発される関節炎:ウサギ
オボアルブミン関節炎の兆候および症状を減少させる場合の候補化合物の効力について調べる。多発性関節炎は、オボアルブミンでウサギを免疫感作することによって誘発される。
【0114】
3.アジュバントに誘発される関節炎:ラット、マウス、ウサギ
アジュバントに誘発される関節炎の兆候および症状を減少させる場合の候補化合物の効力について調べる。多発性関節炎は、フロイントアジュバント(Freud's Adjuvant)で特定の齧歯類動物系統を免疫感作することによって誘発される。
【0115】
4.連鎖球菌細胞壁に誘発される関節炎:ラット
連鎖球菌細胞壁に誘発される関節炎の兆候および症状を減少させる場合の候補化合物の効力について調べる。慢性のびらん性多発性関節炎は、A群連鎖球菌から単離される細胞壁フラグメントの水性懸濁液の腹腔内注射によって誘発される。
【0116】
移植片拒絶反応(急性および慢性)
移植片拒絶反応での効力は、移植片血管病(GVD)の各種モデルで評価する。GVDは、充実性器官移植での後期移植片不全の最も一般的な原因である。GVDおよび移植片アテローム性動脈硬化症は、小血管中でのプラーク形成および線維症を特徴とする。移植片血管病の発症は、急性同種移植片拒絶反応、虚血-再灌流障害、および細菌感染またはウイルス感染に関連している。これら術後性傷害の一般的な経路は、血管壁中への間葉性細胞の移動を引き起こして、最終的には、血管腔の閉塞または部分閉塞をもたらす血管周囲炎症を引き起こす。
【0117】
1.大動脈同種移植片モデル:ラット、ウサギ、サル
MHCミスマッチのラット、サルおよびウサギの特定の系統で行われる大動脈部分の移植後の血管傷害モデルにおいて、移植片アテローム性動脈硬化症および移植片拒絶反応を減少させる場合の候補化合物の効力について調べる。
【0118】
2.気管同種移植片モデル:ラット、ウサギ、サル
MHCミスマッチのラット、ウサギおよびサルの特定の系統で行われる気管部分の移植後の血管傷害モデルにおいて、移植片アテローム性動脈硬化症および移植片拒絶反応を減少させる場合の候補化合物の効力について調べる。
【0119】
3.異所性心臓移植片:マウス、ラット、サル
異所性心臓移植を、MHCミスマッチ動物で行う。このモデルにおいて、動物を移植後の最初の7日間だけシクロスポリンAで処置し、移植片血管病を発症させた後、術後90日目に屠殺後に分析する。
【0120】
4.同所性腎臓移植片:マウス、ラット、サル
同所性腎臓移植を、MHCミスマッチ動物で行う。このモデルにおいて、治療量以下の用量のシクロスポリンAを、移植後の最初の10日間与えられた動物では、70%の症例で慢性の腎同種移植片拒絶反応の特徴を示され、その後術後90日目に屠殺後に分析する。
【0121】
5.同所性肺移植片:ラット、サル
ラットおよびサルでの肺の全臓器移植後の臓器拒絶反応の兆候および症状を遅延させるまたは減少させる場合の候補化合物の有効性について調べる。
【0122】
6.再灌流障害:ラット
臨床的肺移植での即時術後経過は、しばしば、虚血および再灌流障害の結果として、遅延移植片機能によって激しく損なわれる。虚血-再灌流障害での薬物候補の予防的効力は、ラットの急性in vivo二重肺移植モデルを用いて評価する(本明細書中に援用される、Hausen et al., Ann.Thorac.Surg. 61:1714-9,1996)。
【0123】
再狭窄
バルーン血管形成術後の冠状動脈再狭窄モデルにおいて、アテローム性動脈硬化症プラーク沈着を減少させる場合の候補化合物の効力について調べる。アテローム性動脈硬化症プラーク形成は、血管閉塞に決定的に関与し、動脈傷害への過度の炎症性応答、および血栓応答に関連している。
【0124】
喘息:齧歯類動物
喘息の兆候および症状の減少での候補化合物の有効性を、抗原に誘発される実験的気道炎症の齧歯類動物モデルにおいて評価する。これらモデルには、次が含まれる。
【0125】
1.オボアルブミンに誘発される実験的気道炎症:齧歯類動物
実験的気道炎症のオボアルブミン感作齧歯類動物モデルにおけるエアゾールチャレンジ後の肺の気管支肺胞洗浄検査での炎症性細胞成分を減少させる場合の候補化合物の効力について調べる。
【0126】
2.GM-CSF導入遺伝子発現の存在下におけるオボアルブミンに誘発されるアレルギー感作:マウス
GM-CSFの局所発現の場合のオボアルブミンエアゾールチャレンジ後のマウス肺の気管支肺胞洗浄検査での炎症性細胞成分を減少させる場合の候補化合物の効力について調べる(Staempfli et al., J.Clin.Invest., Vol.102:9,1704-1714)。
【0127】
炎症性腸疾患(IBD):マウスおよびラット
マウスおよびラットの抗原に誘発されるおよび遺伝的に媒介される自発性の慢性腸管炎症のいろいろなモデルを利用して、潰瘍性大腸炎またはクローン病における薬物候補の潜在的な治療的効力について評価する。例には、次が含まれる。
【0128】
1.デキストラン硫酸ナトリウムに誘発されるIBD:マウス
IBDの慢性の不可逆性臨床症状を、デキストラン硫酸ナトリウムの経口投与でマウスを処置することによって誘発する。
【0129】
2.IBDの遺伝子欠失モデルおよびトランスジェニックモデル:齧歯類動物
化合物の効力は、炎症性腸疾患のヒト要素によく似た症状を発するトランスジェニック齧歯類動物系統において調べるであろう。モデルには、IL-2、IL-10、TGFβ、T細胞受容体α/β、ケラチン8、Gi2αをコードする遺伝子の標的化欠失が含まれる。更に、ヒトWA-B27およびHLA-B27、更には、N-カドヘリンを機能的にブロックするドミナントネガティブ構築物の導入遺伝子を発現する動物を調べるであろう。
【0130】
ブドウ膜炎
ブドウ膜炎のいろいろな動物モデルにおいて、薬物候補の効力について評価するであろう。重要なモデルには、実験的自己免疫性ブドウ膜炎および養子移入された実験的自己免疫性ブドウ膜炎両方が含まれる。
【0131】
1.実験的自己免疫性ブドウ膜炎(EAU)
EAUは、眼特異的抗原での免疫感作によっていくつかの哺乳動物種で誘発されうる、T細胞に媒介される炎症性眼病である(本明細書中に援用される、Gery et
al., Invest.Opthalmol.Vis.Sci., 27:1296-1300,1986,. Sanui et al., J.Exp.Med., 169:1947-1989)。この実験的疾患は、ヒトの一連の炎症性眼病のモデルと考えられ、それらヒト検査の前に多数のモダリティーを調べるのに用いられている。
【0132】
2.養子移入された実験的自己免疫性ブドウ膜炎
養子移入されたEAUは、ナイーブ同系レシピエント中に注射されている網膜抗原に対して予め感作されたリンパ球の注射によって誘発される(本明細書中に援用される、McAllister et al., J.Immunol., 138:1416-1420,1987)。
【0133】
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質発現
概して、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38は、適当な発現用ビヒクル中における、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質をコードするcDNAフラグメントの全部または一部分での適当な宿主細胞の形質転換またはトランスフェクションによって生じることができる。
【0134】
分子生物学分野の当業者は、広範囲の発現系のいずれかを用いて、組換えタンパク質を提供することができるということを理解するであろう。用いられる正確な宿主細胞は、本発明に重要ではない。ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質は、原核性宿主(例えば、E. coli)中または真核性宿主(酵母細胞、例えば、Saccharomyces cerevisiae、昆虫細胞、例えば、Sf21細胞、または哺乳動物細胞、例えば、COS1、NIH 3T3またはHeLa細胞)中で生じることができる。このような細胞は、広範囲の供給源(例えば、the American Type Culture Collection, Rockland, MD;例えば、Ausubel et al., 上記も参照されたい)から入手可能である。形質転換またはトランスフェクションの方法および発現用ビヒクルの選択は、選択される宿主系に依存するであろう。形質転換およびトランスフェクションの方法は、例えば、Ausubel et al.(上記)に記載されており、発現用ビヒクルは、例えば、Cloning Vectors: A Laboratory Manual, P.H.Pouwels et al., 1985, Supp. 1987に与えられたものから選択することができる。
【0135】
一つの好ましい発現系は、Clontech(Pal Alto, CA)から入手可能な(例えば、ベクターpBacPAK9を用いた)バキュロウイルス系である。所望ならば、この系は、他のタンパク質発現技術、例えば、Evan et al.(Mol.Cell Biol. 5:3610-3616,1985)によって記載されたmycタグアプローチと組み合わせて用いてよい。
【0136】
或いは、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質を、安定的にトランスフェクションされた哺乳動物細胞系によって生じさせる。哺乳動物細胞の安定なトランスフェクションに適した多数のベクターは、公的に利用可能であり、例えば、Pouwels et al.(上記)を参照されたいが、このような細胞系を構築する方法も、例えば、Ausubel et al.(上記)において、公的に利用可能である。一つの例において、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質をコードするcDNAを、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子を包含する発現ベクター中にクローン化する。プラスミドの組込み、したがって、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質をコードする遺伝子の宿主細胞染色体中への組込みは、細胞培地中の0.01〜300 mMのメトトレキセートの包含について選択される(Ausubel et al., 上記に記載のように)。この優性選択は、大部分の細胞タイプで行うことができる。組換えタンパク質発現は、トランスフェクションされた遺伝子のDHFRに媒介される増幅によって増加させることができる。遺伝子増幅を有する細胞系を選択する方法は、Ausubel et al.(上記)に記載されており、このような方法は、概して、徐々に増加するレベルのメトトレキセートを含有する培地中で拡大した培養を伴う。この目的に一般的に用いられるDHFR含有発現ベクターには、pCVSEII-DHFRおよびpAdD26SV(A)が含まれる(Ausubel et al., 上記に記載される)。上記のいずれかの宿主細胞、または好ましくは、DHFR欠損CHO細胞系(例えば、CHO DHFR-細胞、ATCC受託番号CRL9096)は、安定的にトランスフェクションされる細胞系のDHFR選択、またはDHFRに媒介される遺伝子増幅に好ましい宿主細胞の中に入る。
【0137】
組換えヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質がいったん発現されたら、それを、例えば、アフィニティークロマトグラフィーを用いて単離する。一つの例において、抗ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質抗体(例えば、本明細書中に記載のように製造される)を、カラムに取り付け且つ用いて、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質を単離する。アフィニティークロマトグラフィーの前に、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質を含んでいる細胞の溶解および分別を、標準法によって行う(例えば、Ausubel et al., 上記を参照されたい)。もう一つの例において、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質を、細胞から得られる抽出物または上澄みのような化合物混合物から精製するかまたは実質的に精製する(Ausubel et al., 上記)。標準的な精製技術を用いて、単一の化合物または最小限の数の有効な化合物が単離されるまで、望ましくない化合物をその混合物から漸進的に除去することができる。
【0138】
いったん単離されたら、組換えタンパク質は、所望ならば、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって更に精製することができる(例えば、Fisher, Laboratory Techniques In Biochemistry And Molecular Biology, eds.,Work and Burdon, Elsevier, 1980を参照されたい)。
【0139】
本発明のポリペプチド、特に、短いヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質フラグメントは、化学合成によって(例えば、Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd ed., 1984 The Pierce Chemical Co., Rockford, ILに記載の方法によって)生じることもできる。
【0140】
ポリペプチド発現および精製のこれら一般的な技術は、有用なヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質フラグメントまたは類似体(本明細書中に記載される)を製造し且つ単離するのに用いることもできる。
【0141】
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドは、いろいろなタグのいずれか一つに取り付けることができる。タグは、アミノ酸タグまたは化学的タグでありうるし、精製の目的に加えることができる(例えば、ニッケルカラムでの精製用の6-ヒスチジンタグ)。いろいろな標識は、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質の別のタンパク質への、例えば、ケモカインまたはケモカイン受容体への結合を検出する手段として用いることができる。或いは、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38 DNAまたはRNAは、例えば、ハイブリダイゼーション検定での検出のために標識されてよい。ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38核酸またはポリペプチド、またはそれらの誘導体は、例えば、放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素で、直接的にまたは間接的に標識されてよい。当業者は、他の適当な標識について承知しているであろうし、または常套実験を用いてこれを確かめることができるであろう。ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドは、毒素に連結することもできる。毒素に連結されたタンパク質は、そのタンパク質が悪性腫瘍に局在する能力を有する場合、例えば、その腫瘍に毒性薬を標的化させるのに用いることができる。
【0142】
抗ヤタポックスウィルスまたは抗豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質抗体
ヤタポックスウィルスgp38タンパク質特異的抗体を生じさせるために、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドコーディング配列(例えば、TPV、YMTVまたは豚痘ウイルス(C1L)からのgp38)を、例えば、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)とのC末端融合として発現させる(Smith et al., Gene 67:31-40,1988)。次に、この融合タンパク質を、グルタチオン-セファロースビーズ上で精製し、(遺伝子操作された切断部位において)トロンビンで切断されたグルタチオンで溶離し、そしてウサギの免疫感作に必要な程度まで精製する。一次免疫感作を、完全フロイントアジュバントで行い、それ以後の免疫感作を不完全フロイントアジュバントで行う。抗体力価は、ウェスタンブロットおよび免疫沈降分析により、GST-ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38融合タンパク質のトロンビンで切断されたヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質フラグメントを用いて監視する。免疫血清は、CNBr-セファロースにカップリングしたヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質を用いてアフィニティー精製する。抗血清特異性は、(既知の配列を用いたPCRによって作られた)無関係のGSTタンパク質およびGST-トリプシンのパネルを用いて決定する。
【0143】
GST融合タンパク質への代わりのまたは補助の免疫源として、比較的珍しい親水性のヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質に該当するペプチドを生じさせ、そして導入されるC末端リシンによってキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)にカップリングさせてよい。これらペプチド各々への抗血清を、BSAに抱合したペプチド上で同様にアフィニティー精製し、そしてペプチド抱合体を用いたELISAおよびウェスタンブロットにおいて、およびGST融合タンパク質として発現されるヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質を用いたウェスタンブロットおよび免疫沈降によって特異性を調べる。
【0144】
或いは、モノクローナル抗体を、上記のヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質および標準的なハイブリドーマ技術を用いて製造することができる(例えば、Kohler et al., Nature, 256:495,1975; Kohler et al., Eur.J.Immunol. 6:511,1976; Kohler et al., Eur.J.Immunol. 6:292,1976;
Hammerling et al., In Monoclonal Antibodies and T Cell Hybridomas, Elsevier, NY, 1981; Ausubel et al., 上記を参照されたい)。いったん製造されたら、モノクローナル抗体の特異的ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質認識についても、ウェスタンブロットまたは免疫沈降分析によって(Ausubel et al., 上記に記載の方法によって)調べる。ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質を特異的に結合する抗体は、本発明に有用であると考えられ、このような抗体は、例えば、免疫検定において、哺乳動物によって生産されるヤタポックスウィルスgp38タンパク質のレベルを監視するのに(例えば、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38タンパク質の量または場所を決定するのに)用いることができる。
【0145】
好ましくは、本発明の抗体は、全ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドを用いて生じるのみならず、高度に保存された領域外にあるが、高頻度の荷電残基が用いられてもよいような判定基準によって抗原性であると考えられる、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)gp38ポリペプチドのフラグメントを用いても生じる。一つの具体的な例において、このようなフラグメントは、標準的なPCR技術によって生じ、pGEX発現ベクター中にクローン化される(Ausubel et al., 上記)。融合タンパク質を、E. coli中で発現させ、Ausubel et al.(上記)に記載のグルタチオンアガロースアフィニティーマトリックスを用いて精製する。抗血清の低い親和性または特異性から起こりうる問題を最小限することを試みるために、各々のタンパク質について2種類または3種類のこのような融合を生じさせ、各々の融合を、少なくとも2羽のウサギに注射する。抗血清は、一連の、好ましくは、少なくとも3回のブースター注射を含めた注射によって上昇する。
【0146】
ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)タンパク質への抗体は、ヤタポックスウィルスまたは豚痘ウイルス(C1L)タンパク質を検出するのに用いることができる。更に、これら抗体は、診断または治療的使用のために、放射性核種およびリポソームのような化合物にカップリングさせることができる。
【0147】
実施例
追加のヤタポックスウィルス関連gp38遺伝子のクローニング
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびDNAハイブリダイゼーションなどの標準的な技法を用いて、ヤタポックスウィルス関連gp38遺伝子をクローン化することができる。ヤタポックスウィルス関連gp38遺伝子およびホモログは、特異的プローブまたはプライマーでの低ストリンジェントなDNAハイブリダイゼーションまたは低ストリンジェントなPCRを用いて容易に同定することができる。縮重プライマーであるヤタポックスウィルス関連gp38アミノ酸配列を用いて、追加のヤタポックスウィルス関連gp38遺伝子およびホモログをRT-PCRによってクローン化することができる。
【0148】
本発明によって提供されるアミノ酸配列に基づき、制限部位を含有する縮重オリゴヌクレオチドプライマーを合成する。第一鎖cDNAは、目的の組織から調製されるRNAから合成し、そしてPCRは、Bluescript II KS(Stratagene)中に引き続きサブクローン化することができるヤタポックスウィルス関連gp38 cDNAフラグメントを増幅するために、例えば、37℃で60秒間の最初の5サイクル工程後、50℃で60秒間の25サイクル(95℃で30秒間の変性および72℃90秒間の伸長)で行う。選択された組織から単離されるポリA RNAを用いたcDNAライブラリーの構築は、Stratagene ZAP Express Vectorを用いて、その製造者の指示にしたがって行う。可能性のあるクローンを、引き続き増幅させ、このcDNAライブラリー含有ファージのアリコートを、Klenow酵素で32P標識されたヤタポックスウィルスgp38 cDNAでスクリーニングする。単離されたファージミドは、引き続き、Applied Biosystems Instrumentation(373a型)およびダイ・ターミネータープロトコールを用いて、両鎖について自動配列決定を行う。配列分析は、例えば、Wisconsin大学遺伝学コンピューターグループ(Altschul, et al., J.Mol.Biol. 215:403-410,1990)によって開発されたソフトウェアを用いて行う。
【0149】
種々の器官でのヤタポックスウィルスgp38 mRNA発現
種々の哺乳動物組織試料から単離される全RNAのノーザンブロット分析を行って、いずれかのヤタポックスウィルスgp38遺伝子、ホモログまたは誘導体の発現を検出する。脳、骨髄、皮膚、腸管、胃、心臓、胸腺、リンパ節、乳腺、骨格筋、舌、脾臓、肝、精巣および腎臓を含めた哺乳動物組織を分析する。同様に、脾臓から単離され且つ培養されるマクロファージ、肺上皮細胞系、および結腸腺癌細胞のような細胞系を、ヤタポックスウィルスgp38 mRNAの発現について分析する。
【0150】
DNAおよびRNA分析
RNAを、グアニジンイソチオシアネート中のCsCl遠心分離によって単離する(Chirgwin, et al. (1979) Biochemistry. 18:5294-9)。生物学的に活性なリボ核酸は、リボヌクレアーゼが濃縮された源から単離する。DNAも、これら勾配から単離する。ある場合には、RNAは、RNAzol(Biotecx Lab,Inc.)を用いて、その製造者の指示にしたがって単離する。ポリA RNAは、オリゴdTカラム(Pharmacia)を介する溶離によって富化させる。例えば、10μgの全RNA、2μgのポリA RNAまたは10μgの制限エンドヌクレアーゼ切断DNAを、アガロース中で電気泳動させ、Gene Screen(NEN Dupont)膜に移す。膜は、翻訳されたタンパク質をコードする32P標識された完全長cDNAまたはフラグメントとハイブリダイズするであろう。高ストリンジェントなハイブリダイゼーションは、例えば、50%ホルムアミド、10%硫酸デキストラン、5×SSC、1×デンハート溶液(0.0002%(w/v)ポリビニルピロリドン、0.0002%(w/v)BSA、0.0002%(w/v)Ficoll 400)、1%(w/v)SDS、100μg/ml変性ニシン精子DNAおよび20 mMトリス中において42℃で行い、そして65℃において0.2×SSC、0.5%SDSでブロットを洗浄する。低ストリンジェントなハイブリダイゼーションは、例えば、0.6 M NaCl、80 mMトリスCl、4 mM EDTA、0.1%(w/v)ピロリン酸ナトリウム、0.1%(w/v)SDS、10×デンハート、100μg/ml変性ニシン精子DNA中において50℃で行い、そして50℃において1×SSC、0.05%SDSで洗浄する。バンドハイブリダイゼーションの強度の定量は、Phosphor-Imager(Molecular Dynamics)を用いて決定するであろう。
【0151】
ヤタポックスウィルスgp38遺伝子分析
ヤタポックスウィルスgp38 cDNAのコーディング領域からのcDNAプローブを、Klenow酵素で32P標識し且つ用いて、低ストリンジェントな条件下(0.6 M NaCl、80 mMトリスCl、4 mM EDTA、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%SDS、10×デンハート溶液(0.002%ポリビニルピロリドン、0.002%BSA、0.002%Ficoll 400)、100μg/ml変性ニシン精子DNA中において50℃でのハイブリダイゼーションおよび50℃において1×SSC、0.05%SDSで洗浄されるブロット)において、哺乳動物ゲノムライブラリー(例えば、いろいろなライブラリーが、Stratagene, La Jolla, CA から入手可能である)から約1×106個のプラークをスクリーニングする。強くハイブリダイズするプラークを精製する。そのゲノムDNAを、適当な酵素での制限消化によってファージDNAから遊離させ、そしてpBlue-Script SK II(Stratagene)中にサブクローン化する。そのプローブとハイブリダイズする正に同定されるいずれかのゲノムフラグメントを、例えば、pBlue-Script KS II中にサブクローン化し、そしてApplied Biosystems Instrumentation(373a型)およびダイ・ターミネータープロトコールを用いて、両鎖について自動配列決定を行う。配列分析は、例えば、Wisconsin大学遺伝学コンピューターグループAltschul, et al., J.Mol.Biol. 215:403-410,1990によって開発されたソフトウェアを用いて行う。
【0152】
ヤタポックスウィルスgp38遺伝子ホモログ染色体局在性は、遺伝子中で同定されるいずれかの多型の分析によって決定する。この多型に隣接するPCRプライマーは構築されるであろうし、ゲノムDNAをPCRによって増幅させる。これらプライマーを用いて、サイズ多型を同定する(例えば、Rowe, et al., Mamm.Gen. 5:253-274,1994を参照されたい)。
【0153】
同定されたゲノムフラグメントは、高ストリンジェントな条件下(50%ホルムアミド、10%硫酸デキストラン、5×SSC、1×デンハート溶液、1%SDS、100 mcg/ml変性ニシン精子DNAおよび20 mMトリス中において42℃でのハイブリダイゼーション、ブロットを65℃において0.2×SSC、0.05%SDSで洗浄した)において、哺乳動物cDNA発現ライブラリー(Stratagene)をスクリーニングするのに用いることができる。正のプラークを同定し、精製し、そしてライブラリー製造者の指示にしたがってファージミドを製造する。これらインサートは、自動配列決定によって両鎖について完全に配列決定する。アラインメント分析は、Clustal法により、MegAlignソフトウェア(DNASTAR Inc)(Higgins, et al. (1988) Gene 73,237-244)または他の標準的なソフトウェアを用いて決定されるであろう。
【0154】
タンパク質発現ベクターの構築およびトランスフェクション
PCRプライマーは、引き続きのサブクローニングに好都合な制限部位が隣接した、ヤタポックスウィルスgp38遺伝子またはそのホモログ若しくは誘導体のコーディング領域を増幅させるように設計する。PCRは、標準的な条件下において、ヤタポックスウィルスgp38 cDNA-pBlueScriptを鋳型として用いて行う。次に、得られたPCR産物を、例えば、TAクローニングキット(Invitrogen, San Diego, CA)を用いてサブクローン化し、そして確認の配列決定を行う。ヤタポックスウィルスgp38 cDNAを、pcDNA-I/Amp(Invitrogen)の利用可能な制限部位中にサブクローン化する。約4μgのヤタポックスウィルスgp38-pcDNA-I構築物を、約30%コンフルエントなCOS細胞が入っている100 mmプレート中に、DEAE-デキストランを用いてトランスフェクションさせる(Lopata, et al., Nucl.Acids Res. 12,5707-5717,1984)。トランスフェクション効率を測定するために、COS細胞の重複培養(replicate)試料は、CMVプロモーター-胎盤アルカリ性ホスファターゼ制御プラスミドでトランスフェクションされるであろう(Fields-Berry et al.,
Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 89:693-697,1992)。RNA発現は、ノーザン分析により、ヤタポックスウィルスgp38 cDNAをプローブとして用いて確認する。ヤタポックスウィルスgp38-pcDNA-Iでトランスフェクションされたまたは模擬トランスフェクションされたCOS細胞上澄みを、72時間培養後に得、4℃で貯蔵する。もう一組のトランスフェクション実験において、ヤタポックスウィルスgp38 cDNAを、MoLTR-SV40I/PA発現ベクターの利用可能な部位中に同様にサブクローン化する(例えば、Luster, et al., J.Exp.Med. 178,1057-1065,1993を参照されたい)。20μgの直鎖状ヤタポックスウィルスgp38-MoLTR構築物および1μgの直鎖状ネオマイシン耐性プラスミドpSV7Neoを用いて、J558L細胞をエレクトロポレーションによってトランスフェクションする。単一ウェルからのG418耐性細胞を、ヤタポックスウィルスgp38 mRNA発現についてノーザン分析によって分析する。ヤタポックスウィルスgp38タンパク質を発現する細胞または対照の(ヤタポックスウィルスgp38タンパク質を発現しない)非トランスフェクション細胞は、大量培養で増加するであろう。上澄み中のヤタポックスウィルスgp38タンパク質の濃度を最適にするために、それら細胞を、FCS不含RPMI中において高密度(1×106個細胞/ml)で成長させ、72時間培養し、そしてその調整培地を、Centricon 3000ミクロコンセントレーター(Amicon, Beverly, MA)で5倍に濃縮後、貯蔵する。
【0155】
走化性検定
白血球、例えば、好酸球を単離する。具体的には、好酸球は、IL-5トランスジェニックマウスから単離することができる(Dent, et al., J.Exp.Med. 172:1425-1431,1990)。これらマウスは巨脾症を発症し、好酸球が約30%の脾細胞の原因となっている。その脾臓から、免疫磁気分離を用いて混入している脾細胞を除去して、好酸球を精製する。簡単に言うと、脾細胞を、抗Thy-1(M5/49)、抗B220(6B2)および抗Lyt-2(53-6.7)で標識する。ハイブリドーマ細胞系は、例えば、American Type Culture Collectionから入手し、ハイブリドーマ細胞上澄みを抗体源として用いる。抗体で標識された細胞を、抗血清でコーティングされた磁気ビーズで処理するが、この抗血清は、一次抗体のアイソタイプに特異性を有し(M450、Dynal, Great Neck, NY)、そして好酸球を、磁場による負の選択によって濃縮させる。マクロファージ細胞は、2.9%チオグリコラート(Difco, Detroit, CA)の腹腔内注射で(2日前に)予め処置されたマウスの腹膜腔から単離する。腹膜好中球は、ナトリウムカゼインで予め処置されたマウスから単離する(Luo, et al., J.Immun. 153,4616-4624,1994)。マクロファージおよび好中球は、Percoll勾配によって精製する(Luo, et al., J.Immun. 153,4616-4624,1994)。好酸球またはマクロファージを、0.05%BSAを含むHBSS中に2×106個細胞/mlでそれぞれ懸濁させ、50 mlの重複培養細胞を、48ウェルミクロ走化性チェンバー(Neuro Probe,Inc. Cabin John, MD)の最上部ウェル中に入れる。5μm細孔を有するポリカーボネートフィルターを用いて、それら細胞を、緩衝液(30 ml)単独から、または組換えCOS細胞上澄みおよび正対照(例えば、MCP-1(Rollins,& Pober, Am.J.Path., 138,1315-1319,1991))および負対照(例えば、模擬トランスフェクションされたCOS細胞からの上澄み)を含有する緩衝液から分離し、その結果、比較を行うことができ、そしてヤタポックスウィルスgp38タンパク質の免疫抑制(走化性の阻害)性状を評価する。細胞を37℃で60分間(好酸球および好中球)または90分間(マクロファージ)インキュベートし、そしてフィルターを越えて移動し且つフィルターの底面に付着する細胞を、Diff-Quick(Baxter Scientific, McGaw Park, IL)で染色する。400×視野当たりの細胞数を計数する。
【0156】
統計的分析
平均間の統計的有意差を、分散分析(ANOVA)によって決定する。P<0.05を有意とみなす。ANOVAが有意差を示す場合、Newman-Keuls試験を用いて、どの群が互いに有意に異なるかを決定する。
【0157】
他の実施態様
本明細書中に挙げられる公報および特許出願は全て、各々独立の公報または特許出願が、具体的に且つ個々に援用されると示された場合と同程度に、本明細書中に援用される。
【0158】
本発明をその具体的な実施態様に関連して記載してきたが、本発明が更に修正可能であること、および本出願が、概して、発明の理論にしたがって、および本発明が関する技術分野の範囲内の既知のまたは慣例の実務に入る且つ本明細書中の前に示された本質的な特徴に当てはめることができるような本開示からの逸脱を含めて、本発明のいずれの変更、使用または応用も包含するものであり、請求の範囲の範囲にしたがうということは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】図1は、タナポックスウイルス(SEQ ID NO: 10)およびヤバサル腫瘍ウイルス(SEQ ID NO: 11)からのgp38の部分アミノ酸配列のアラインメントを示す。
【図2】図2は、ヤバサル腫瘍ウイルス(YMTV)からのgp38の部分アミノ酸配列(SEQ ID NO: 11)および部分オープンリーディングフレームヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 12)を示す。
【図3】図3は、タナポックスウイルスからのgp38ポリペプチドのアミノ酸配列(SEQ ID NO: 4)を示す。
【図4】図4は、タナポックスウイルスからのgp38の核酸配列(SEQ ID NO: 5)を示す。
【図5】図5は、ヤバ様疾患ウイルス(YLDV)からのgp38ポリペプチドのアミノ酸配列(SEQ ID NO: 6)を示す。
【図6】図6は、ヤバ様疾患ウイルス(YLDV)からのgp38の核酸配列(SEQ ID NO: 7)を示す。
【図7】図7は、豚痘ウイルス(C1L)からのgp38ポリペプチドのアミノ酸配列(SEQ ID NO: 8)を示す。
【図8】図8は、豚痘ウイルス(C1L)からのgp38の核酸配列(SEQ ID NO: 9)を示す。
【図9】図9は、各種ポリペプチドアミノ酸配列の配列類似性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に純粋なヤタポックスウィルス(Yatapoxvirus)免疫モジュレーション性ポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、ヤバ(yaba)サル腫瘍ウイルスに由来する、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、タナポックスウイルス(tanapox virus)に由来する、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドが、同定可能なシグナル配列をコードするアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドが、ケモカイン結合性ポリペプチド、サイトカイン結合性ポリペプチド、免疫モジュレーターおよび抗炎症性ポリペプチドから成る群より選択される、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記ケモカインが、ヒトインターフェロン-γ、ヒトインターロイキン-2およびヒトインターロイキン-5から成る群より選択される、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記ポリペプチドがグリコシル化されている、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記ポリペプチドが抗サイトカイン活性を有する、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項9】
前記ポリペプチドが、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID
NO: 4またはSEQ ID NO: 6のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項10】
前記ポリペプチドが、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 4またはSEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含む、請求項9に記載のポリペプチド。
【請求項11】
実質的に純粋なヤタポックスウィルス核酸分子であって、ヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性ポリペプチドをコードする、前記核酸分子。
【請求項12】
前記核酸分子が、ゲノムDNA、cDNAおよびmRNAから成る群より選択される、請求項11に記載の核酸分子。
【請求項13】
前記核酸分子が、同定可能なシグナル配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項11に記載の核酸分子。
【請求項14】
前記核酸分子が、ヤバサル腫瘍ウイルスポリペプチドをコードする、請求項11に記載の核酸分子。
【請求項15】
前記核酸分子が、タナポックスウイルスポリペプチドをコードする、請求項11に記載の核酸分子。
【請求項16】
前記核酸分子が、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 4またはSEQ ID NO: 6のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、請求項11に記載の核酸分子。
【請求項17】
前記核酸分子が、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 4またはSEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、請求項16に記載の核酸分子。
【請求項18】
前記核酸分子が、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 5またはSEQ ID NO: 7のヌクレオチド配列と実質的に同一であるヌクレオチド配列を含む、請求項11に記載の核酸分子。
【請求項19】
ヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性ポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする配列に少なくとも50%の核酸配列同一性を有する核酸分子であって、該フラグメントが少なくとも6個のアミノ酸を含み、そして該核酸分子が、高ストリンジェントな条件下において、ヤタポックスウィルス核酸分子の少なくとも一部分にハイブリダイズする、前記核酸分子。
【請求項20】
前記核酸分子が、ヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性ポリペプチドまたは少なくとも6個のアミノ酸を含むそのフラグメントをコードする核酸分子に100%の相補性を有する、請求項19に記載の核酸分子であって、そして該核酸分子が高ストリンジェントな条件下においてヤタポックスウィルス核酸分子の少なくとも一部分にハイブリダイズする、核酸分子。
【請求項21】
ヤタポックスウィルス核酸分子またはそのフラグメントのコーディング鎖に対するアンチセンスである配列を含む、前記核酸分子。
【請求項22】
請求項11に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項23】
前記ベクターが遺伝子治療用ベクターである、請求項22に記載のベクター。
【請求項24】
請求項22に記載のベクターを含む細胞。
【請求項25】
前記核酸分子が、ヤタポックスウィルスポリペプチドの発現のための調節配列に機能的に連結していて、該調節配列がプロモーターを含む、請求項22に記載のベクター。
【請求項26】
前記細胞が、ヒト細胞、霊長類細胞および齧歯類動物細胞から成る群より選択される、請求項24に記載の細胞。
【請求項27】
請求項11に記載の核酸分子を含む非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項28】
請求項27に記載の非ヒトトランスジェニック動物からの細胞。
【請求項29】
ヤタポックスウィルスポリペプチドと実質的に同一のポリペプチドをコードする一方のまたは両方の対立遺伝子中にノックアウト変異を有する、非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項30】
ヤタポックスウィルスポリペプチドに特異的に結合する抗体。
【請求項31】
前記ポリペプチドが、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 4またはSEQ ID NO: 6のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む、請求項30に記載の抗体。
【請求項32】
ヤタポックスウィルス遺伝子、またはヤタポックスウィルス遺伝子ホモログまたはそのフラグメントを分析するためのプローブであって、該プローブは、ヤタポックスウィルスポリペプチドまたは少なくとも6個のアミノ酸を含むそのフラグメントをコードする配列に少なくとも50%のヌクレオチド配列同一性を有し、そして該プローブは、高ストリンジェントな条件下において、ヤタポックスウィルス核酸分子の少なくとも一部分にハイブリダイズする、前記プローブ。
【請求項33】
前記プローブが、ヤタポックスウィルスポリペプチドまたは少なくとも6個のアミノ酸を含むそのフラグメントをコードする核酸分子に100%の相補性を有し、そして該プローブは、高ストリンジェントな条件下において、ヤタポックスウィルス核酸分子の少なくとも一部分にハイブリダイズする、請求項32に記載のプローブ。
【請求項34】
試料中のヤタポックスウィルスポリペプチドを検出する方法であって、該試料と請求項30に記載の抗体とを接触させ、そして該ポリペプチドへの該抗体の結合について検定することを含む方法。
【請求項35】
細胞中のヤタポックスウィルス遺伝子、またはヤタポックスウィルス遺伝子ホモログまたはそのフラグメントを検出する方法であって、請求項11に記載の核酸分子または約18ヌクレオチド長を超えるそのフラグメントと、該細胞からのゲノムDNA標品とを、ハイブリダイゼーション条件下において接触させて、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 5またはSEQ ID NO: 7に約50%またはそれを超えるヌクレオチド配列同一性を有するDNA配列の検出を提供することを含む、前記方法。
【請求項36】
免疫モジュレーション性ヤタポックスウィルス遺伝子、またはヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性遺伝子ホモログまたはそのフラグメントを同定する方法であって、
(a)哺乳動物細胞試料を提供し;
(b)該細胞試料中に候補遺伝子を導入し;
(c)該候補遺伝子を発現させ;そして
(d)該候補遺伝子が、該細胞試料中で免疫機能のレベルの変化を引き出すかどうか確かめることを含み、ここにおいて、免疫機能のレベルの変化が、該免疫モジュレーション性ヤタポックスウィルス遺伝子、またはヤタポックスウィルス免疫モジュレーション性遺伝子ホモログまたはそのフラグメントを同定する、前記方法。
【請求項37】
ヤタポックスウィルスポリペプチドの発現または活性をモジュレートする試験化合物を同定する方法であって、該ヤタポックスウィルスポリペプチドと該試験化合物とを接触させ、そして該ヤタポックスウィルスポリペプチド発現または活性への該試験化合物の作用を決定することを含む、前記方法。
【請求項38】
細胞からの分泌についてタンパク質を標的化する方法であって、ヤタポックスウィルスポリペプチドより選択される同定可能なシグナル配列を目的のタンパク質に取り付けることを含み、ここにおいて、該目的のタンパク質は該細胞から分泌されている、前記方法。
【請求項39】
哺乳動物での免疫モジュレーションの方法であって、治療的有効量のヤタポックスウィルスポリペプチドまたはそのフラグメントを該哺乳動物に投与することを含み、ここにおいて、該ポリペプチドが、該哺乳動物に免疫モジュレーション性作用を有する、前記方法。
【請求項40】
哺乳動物での免疫モジュレーションの方法であって、ヤタポックスウィルスポリペプチドの活性をモジュレートする化合物であって該哺乳動物に免疫モジュレーション性作用を有する該化合物の治療的有効量を、該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項41】
免疫モジュレーション性障害を有する哺乳動物を処置する方法であって、ヤタポックスウィルスポリペプチドの活性をモジュレートする化合物であって該哺乳動物に免疫モジュレーション性作用を有する該化合物の治療的有効量を、該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項42】
少なくとも1回用量の治療的有効量のヤタポックスウィルスポリペプチドまたはそのフラグメントを、薬学的に許容しうる担体中に含む医薬組成物であって、免疫モジュレーション性障害の処置用に製剤化されている、前記医薬組成物。
【請求項43】
ヤタポックスウィルスポリペプチドが、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 4またはSEQ ID NO: 6のアミノ酸配列、およびそのフラグメントおよび類似体と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む、請求項37〜42に記載の方法。
【請求項44】
前記免疫モジュレーションが、哺乳動物における免疫抑制、免疫刺激、細胞増殖、アポトーシス、T細胞刺激の減少および炎症の減少から成る群より選択される、請求項39または請求項40に記載の方法。
【請求項45】
前記哺乳動物がヒトである、請求項39〜41に記載の方法。
【請求項46】
前記哺乳動物が、急性炎症、慢性関節リウマチ、移植片拒絶反応、喘息、炎症性腸疾患、ブドウ膜炎、再狭窄、多発性硬化症、乾癬、創傷治癒、エリテマトーデス、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、1型インスリン依存性糖尿病、皮膚炎(deramatitis)、髄膜炎、血栓性血小板減少性紫斑病、シェーグレン症候群、脳炎、白血球接着不全、リウマチ熱、ライター症候群、乾癬性関節炎(psoriatic arthritic)、進行性全身性硬化症、原発性胆汁性肝硬変、天疱瘡、類天疱瘡、壊死性血管炎、重症筋無力症(mayasthenia gravis)、エリテマトーデス、多発性筋炎、サルコイドーシス、肉芽腫症、血管炎、悪性貧血、CNS炎症性障害、抗原抗体複合体媒介性疾患、自己免疫性溶血性貧血、橋本甲状腺炎、グレーヴズ病、習慣性自然流産、レイノー症候群(Reynard's syndrome)、糸球体腎炎、皮膚筋炎、慢性活動性肝炎、セリアック病、AIDSの自己免疫性合併症、萎縮性胃炎、強直性脊椎炎、アジソン病、乾癬、尋常性天疱瘡(penphigus vularis)、ベーチェット症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血性心疾患、アテローム性動脈硬化症、透析後症候群、白血病、後天性免疫不全症候群、敗血症性ショックおよび他のタイプの急性炎症、および脂質性組織球増殖症から成る群より選択される状態を有する、請求項39〜41に記載の方法。
【請求項47】
ヤタポックスウィルス核酸分子の分析用キットであって、試験対象中に存在するヤタポックスウィルス核酸分子を分析するための核酸分子プローブを含む、前記キット。
【請求項48】
ヤタポックスウィルスポリペプチドの分析用キットであって、試験対象中に存在するヤタポックスウィルスポリペプチドを分析するための抗体を含む、前記キット。
【請求項49】
SEQ ID NO: 8のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドの発現または活性をモジュレートする試験化合物を同定する方法であって、該ポリペプチドと該試験化合物とを接触させ、そして該ポリペプチド発現または活性への該試験化合物の作用を決定することを含む、前記方法。
【請求項50】
細胞からの分泌についてタンパク質を標的化する方法であって、SEQ ID NO: 8のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドより選択される同定可能なシグナル配列を目的のタンパク質に取り付けることを含み、ここにおいて、該目的のタンパク質は該細胞から分泌されている、前記方法。
【請求項51】
哺乳動物での免疫モジュレーションの方法であって、SEQ ID NO: 8のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはそのフラグメントの治療的有効量を該哺乳動物に投与することを含み、ここにおいて、該ポリペプチドが、該哺乳動物に免疫モジュレーション性作用を有する、前記方法。
【請求項52】
哺乳動物での免疫モジュレーションの方法であって、SEQ ID NO: 8のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドの活性をモジュレートする化合物であって該哺乳動物に免疫モジュレーション性作用を有する該化合物の治療的有効量を、該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項53】
免疫モジュレーション性障害を有する哺乳動物を処置する方法であって、SEQ ID NO: 8のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドの活性をモジュレートする化合物であって該哺乳動物に免疫モジュレーション性作用を有する該化合物の治療的有効量を該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項54】
SEQ ID NO: 8のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはそのフラグメントの少なくとも1回用量の治療的有効量を、薬学的に許容しうる担体中に含む医薬組成物であって、免疫モジュレーション性障害の処置用に製剤化されている、前記医薬組成物。
【請求項55】
ポリペプチドが、SEQ ID NO: 8のアミノ酸配列を有する、請求項49〜54に記載の方法。
【請求項56】
前記免疫モジュレーションが、哺乳動物における免疫抑制、免疫刺激、細胞増殖、アポトーシス、T細胞刺激の減少および炎症の減少から成る群より選択される、請求項51または請求項52に記載の方法。
【請求項57】
前記哺乳動物がヒトである、請求項51〜53に記載の方法。
【請求項58】
前記哺乳動物が、急性炎症、慢性関節リウマチ、移植片拒絶反応、喘息、炎症性腸疾患、ブドウ膜炎、再狭窄、多発性硬化症、乾癬、創傷治癒、エリテマトーデス、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、1型インスリン依存性糖尿病、皮膚炎、髄膜炎、血栓性血小板減少性紫斑病、シェーグレン症候群、脳炎、白血球接着不全、リウマチ熱、ライター症候群、乾癬性関節炎、進行性全身性硬化症、原発性胆汁性肝硬変、天疱瘡、類天疱瘡、壊死性血管炎、重症筋無力症、エリテマトーデス、多発性筋炎、サルコイドーシス、肉芽腫症、血管炎、悪性貧血、CNS炎症性障害、抗原抗体複合体媒介性疾患、自己免疫性溶血性貧血、橋本甲状腺炎、グレーヴズ病、習慣性自然流産、レイノー症候群、糸球体腎炎、皮膚筋炎、慢性活動性肝炎、セリアック病、AIDSの自己免疫性合併症、萎縮性胃炎、強直性脊椎炎、アジソン病、乾癬、尋常性天疱瘡、ベーチェット症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血性心疾患、アテローム性動脈硬化症、透析後症候群、白血病、後天性免疫不全症候群、敗血症性ショックおよび他のタイプの急性炎症、および脂質性組織球増殖症から成る群より選択される状態を有する、請求項51〜53に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−19517(P2011−19517A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171339(P2010−171339)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【分割の表示】特願2002−534485(P2002−534485)の分割
【原出願日】平成13年10月11日(2001.10.11)
【出願人】(503136185)バイロン・セラピューティックス・インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】