説明

免疫原性を有する物質

本発明は、ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質を含む融合タンパク質に関する。本発明は、前記融合タンパク質によって凝集された免疫原性を有する巨大分子を提供する。前記巨大分子の粒子形態が、ウイルス様粒子のものと異なる。前記巨大分子は、ヒトパピローマウイルス関連疾患の治療に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質を含有する融合タンパク質、上記融合タンパク質を重合してなる免疫原性巨大分子及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト・パピローマウイルス(HPV)は、小さいコーティングされていない二重鎖のDNAウイルスであり、数多くの種類の疾患と関連があり、皮膚又は粘膜表面を通して感染する。皮膚型HPVを感染すると、手又は足に、疣贅を引き起こし、何ヶ月から何年間持続する場合がある。このような良性の病変は、稀なケースを除くと、一般的には命まで危害を及ぼさないが、患者に痛みをもたらす。粘膜型HPVは、肛門及び生殖器領域並びに口腔に感染する。これ迄、既に100種近くの異なる類型のHPVが同定された。40種類近くのHPVサブタイプは特異的に生殖器系及び口腔粘膜に感染する。これらのHPVは、感染する時に、何の症状も引き起こさず、かつ滅多に目に見える生殖器疣贅も生じない。通常、ウイルスに感染してから2〜3ヶ月後兆候が次第に出てくる。感染は、3週間ないし数年間まで知り得ないため、HPVは、知らずに伝播される。大部分の感染は、無症状であるが、生殖器疣贅、肛門又は生殖器管の癌の発生を引き起こし得る。粘膜型HPV感染による性器疣贅は、数多くの性行為感染症(STD)の1種であり、世界中での発生率は、単純ヘルペスウイルス感染の2倍になる。HPVの持続感染により、前癌病変である子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)を引き起こし、その一部が更に子宮頚癌へと進展していく。子宮頚癌は、世界中で発生率が非常に高く、殆どの場合、HPV16とHPV18のDNAが陽性検出できる(>99%)。子宮頚癌の罹患率は、9.98/10万人であり、毎年世界中で500,000人の患者が増加し、50歳以下の婦人の死亡を来たす最大の誘因になる。子宮頚癌の他、HPVは、更に数多くの肛門及び肛門周囲癌に関係する。
【0003】
現在、予防用ワクチンが既に開発されている。真菌細胞において、HPVの主要カプシドタンパク質を発現させ、かつ該主要カプシドタンパク質は発現宿主においてウイルス様粒子(VLP)を形成することができる。精製されたVLPは、HPVに対する有効な予防用ワクチンとして有用である。しかし、感染を治癒できる有効な治療用組成物は、まだ開発されていない。それは、ウイルスが複製を行う際、数多くの宿主細胞自身のメカニズムを利用するため、宿主を害することなくウイルスの複製を抑制する医薬を開発することが難しい。免疫系は、HPV感染の制御において、重要な役割を果たしていることが既に知られている。免疫抑制治療を受けた者の間では、HPVに感染する可能性が増大するという事実も、ウイルス感染が免疫システムによって制御されていることを証明している。自然発生した疣贅の寛解に関する研究も、免疫システムが感染を抑制する能力を有することの証拠になる。外性器疣贅の自然寛解が、いくつかの対象体において生じる。組織学の研究により、大量のTリンパ球の出現が、患部に生じることが示されている。そのため、HPV感染に対し有効な免疫応答は、主として細胞性免疫によって媒介されるものとの仮説が導かれる。さらに、疣贅の自然寛解は、感染領域における、リンパ球の浸潤、くすぐり刺激、発赤、及び細胞性免疫応答に関連するその他の症状を伴う。細胞性免疫能障害をもつ患者において、HPVに感染に続いて損傷が誘導されることは、一般的に見受けられることである。そのため、有効なHPV抗原に対する細胞性免疫応答を誘導することは、HPV感染を予防・治療するためのワクチンを研究する時の手掛かりとなる。
【0004】
予防用ワクチンに関する研究は、L1タンパク質に焦点が当てられている。このタンパク質は、強く、そして持続的な体液性免疫の発生につき生体を効果的に活性化することができるため、ある種のサブタイプのHPV感染を効果的に予防することができるが、既にHPVに感染した損傷を効果的に処置することができない。E6とE7という2種類のHPVタンパク質は、細胞形質変換を誘導し維持することができる。それらは、HPVに感染した腫瘍細胞において発現し、そして、理想的な治療標的である。そのため、E6とE7に対する治療用組成物は、HPV感染関連疾患を制御するためのものとして選択することができる。適当な抗原提示システム(又は抗原キャリア)を使用することにより、E6とE7又はそれらの決定基は、宿主に提示され、強くて、持続的であり、且つ特異的な細胞性免疫応答を引き起こす。そして、これは、HPV関連疾患を治癒する可能性がある。
【0005】
HPVのL1とL2カプシドタンパク質は、細胞性免疫応答を誘導するように、HPVのE6又はE7タンパク質抗原を運搬するためのキャリアシステムとして使用されている。HPVに対する免疫寛容は、感染した宿主がもつHPVに対するある種の免疫、又は、感染したHPVにおける潜伏関連状態または持続的な感染が要因となり、宿主において誘導される。実際に、HPVカプシドタンパク質は、潜在の免疫原性を有するにも関わらず、カプシドタンパク質に特異な免疫グロブリンG(IgG)を発生出来る者は、子宮頚癌患者の半分しか占めていない。このように既存のHPV L1又はL2カプシドタンパク質によって引き起こされる免疫性又は免疫寛容は、治療用ワクチンの有効性を制限する可能性がある。
【0006】
適当な発現システム中で組換え発現する時、他のウイルス由来のカプシドタンパク質も、適当な宿主中でVLPに自己組織化することができる。これらVLPも、抗原提示システム(又は抗原キャリア)として使用でき、E6又はE7抗原或いはそれらの決定基を提示して、細胞性免疫応答を誘導することができる。しかし、VLPの精製に関しては、まだ問題がある。VLPは、ヒトを宿主とするウイルスから得られる場合、その治療用ワクチンも、免疫寛容の問題に直面するおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、当該分野では、HPV感染関連疾患の治療に用いる治療用組成物を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質を含有する融合タンパク質を提供することである。
【0009】
本発明のもう1つの目的は、本発明の融合タンパク質が自己組織化し、重合してなる免疫原性巨大分子を提供することである。
【0010】
本発明のもう1つの目的は、前記免疫原性巨大分子を含有する組成物(例えばワクチン)を提供することである。
【0011】
本発明に係る第1の側面は、ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質を含有する融合タンパク質を提供する。
【0012】
もう1つの好適な実施形態では、前記ヒト・パピローマウイルスE7抗原は、全長のヒト・パピローマウイルスE7抗原であり、若しくは抗原決定基を含有するそのタンパク質のフラグメントである。
【0013】
もう1つの好適な実施形態では、前記ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質が、化学的結合によって連結され又は相互に共役され、前記化学的結合は、共有結合又は非共有結合である。
【0014】
もう1つの好適な実施形態では、前記化学的結合は、ペプチド結合である。
【0015】
もう1つの好適な実施形態では、前記融合タンパク質は、アミノ末端からカルボキシル末端に、順に、ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質を含有する。
【0016】
もう1つの好適な実施形態では、ウイルスカプシドタンパク質と分子シャペロンタンパク質の間は、リンカーペプチド(linking peptide)(例えば、2〜20アミノ酸、更に好ましくは、2〜10アミノ酸)が存在し、前記リンカーペプチドは、少なくとも1つの制限酵素切断部位を有する。
【0017】
もう1つの好適な実施形態では、前記制限酵素切断部位は、エンテロキナーゼ切断部位、トロンビン切断部位、又はトリプシン切断部位から選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
もう1つの好適な実施形態では、前記ウイルスカプシドタンパク質は、B型肝炎ウイルスコア抗原である。
【0019】
もう1つの好適な実施形態では、前記ウイルスカプシドタンパク質は、全長のカプシドタンパク質であり、又は自己組織化能力を保持するそのフラグメントであり、若しくは自己組織化能力を保持するそのバリアントである。
【0020】
もう1つの好適な実施形態では、前記分子シャペロンタンパク質は、分子シャペロンタンパク質ファミリーから選択された1のタンパク質である。
【0021】
もう1つの好適な実施形態では、前記分子シャペロンタンパク質は、全長の分子シャペロンタンパク質であり、又は生物活性を保持するそのフラグメントであり、若しくは生物活性を保持するそのバリアントである。
【0022】
もう1つの好適な実施形態では、前記分子シャペロンタンパク質は、熱ショックタンパク質65(Hsp65)、熱ショックタンパク質60(Hsp60)、熱ショックタンパク質70(Hsp70)、熱ショックタンパク質90(Hsp90)又は熱ショックタンパク質100(Hsp100)から選択される。
【0023】
もう1つの好適な実施形態では、前記分子シャペロンタンパク質は、熱ショックタンパク質65である。
【0024】
もう1つの好適な実施形態では、前記分子シャペロンタンパク質は、M. bovis BCG Hsp65である。
【0025】
もう1つの好適な実施形態では、前記ヒト・パピローマウイルスE7抗原は、(a1)配列番号:1における第1〜98位に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、或いは(a1)で定義されたアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失もしくは付加によって形成されてなり、かつ(a1)で定義されたタンパク質と同じ抗原性を有するとともに、(a1)から誘導されたタンパク質、であり、又は、
前記ウイルスカプシドタンパク質は、(b1)配列番号:1における第99〜283位に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であり、或いは(b1)で定義されたアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失もしくは付加によって形成されてなり、かつ(b1)で定義されたタンパク質と同じ機能を有するとともに、(b1)から誘導されたタンパク質、であり、又は、
前記分子シャペロンタンパク質は、(c1)配列番号:1における第284〜823位に示されるアミノ酸配を有するタンパク質であり、或いは(c1)で定義されたアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失もしくは付加によって形成されてなり、かつ(c1)で定義されたタンパク質と同じ機能を有するとともに、(c1)から誘導されたタンパク質、である。
【0026】
本発明の第2の側面は、免疫原性巨大分子の製造のための融合タンパク質の使用方法を提供する。
【0027】
本発明の第3の側面は、前記融合タンパク質をコードする核酸分子を提供する。
【0028】
本発明の第4の側面は、前記核酸を含有するベクターを提供する。
【0029】
本発明の第5の側面は、前記ベクターを含有、若しくはそのゲノムには前記核酸分子が組み込まれた細胞を提供する。
【0030】
本発明の第6の側面は、免疫原性巨大分子であって、前記巨大分子は、多分子ポリマー(multi-molecule polymer)であり、前記ポリマーは、主に前記融合タンパク質の自己組織化を通して前記融合タンパク質から形成されるものであり、かつ、その分子量が1,000KDを超えるものを提供する。
【0031】
もう1つの好適な実施形態では、前記免疫原性巨大分子は、粒子状の多分子ポリマーであり、その形態がウイルス様粒子の形態と異なる。
【0032】
もう1つの好適な実施形態では、前記免疫原性巨大分子粒子の直径は、1〜1000nmである。
【0033】
もう1つの好適な実施形態では、前記巨大分子は、更に生体の免疫応答を増強するための少なくとも1つの免疫刺激剤を含む。
【0034】
もう1つの好適な実施形態では、前記免疫刺激剤は、前記免疫原性巨大分子と共役され、又は前記免疫原性巨大分子に詰め込まれ、前記免疫刺激剤は、二重鎖RNA又は非メチル化CpG-DNAから選択される。
【0035】
本発明の第7の側面は、免疫原性巨大分子を調製する方法を提供し、前記方法は、
(1)前記細胞を培養して、前記融合タンパク質を発現させる工程、
(2)(1)で得られた融合タンパク質を単離、及び精製する工程であって、単離、及び精製工程中の1又は複数段階において、カオトロピック剤が使用される、
(3)カオトロピック剤を除去することにより、(2)で得られた融合タンパク質を、前記免疫原性巨大分子を形成するため自己組織化させる工程を含む。
【0036】
もう1つの好適な実施形態では、前記カオトロピック剤は、尿素又は塩酸グアニジンから選択される。
【0037】
もう1つの好適な実施形態では、前記尿素の濃度は、1〜10Mの範囲であり、更に好ましくは2〜8Mの範囲であり、最も好ましくは、4〜8Mの範囲である。
【0038】
もう1つの好適な実施形態では、前記塩酸グアニジンの濃度は、1〜10Mの範囲であり、更に好ましくは1〜6Mの範囲であり、最も好ましくは、3〜6Mの範囲である。
【0039】
本発明の第8の側面は、ヒト・パピローマウイルス(HPV)感染関連疾患を予防又は処置するための組成物の製造における巨大分子の使用を提供する。
【0040】
もう1つの好適な実施形態では、前記疾患は、腫瘍(例えば、子宮頚癌、膣癌、肛門又は肛門周囲癌、中咽頭癌、上顎洞癌、肺癌)、子宮頚部上皮内腫瘍、外性器疣贅から選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
もう1つの好適な実施形態では、前記免疫原性巨大分子を抗原キャリア又はワクチンとして用いることにより、生体に存在するウイルス様粒子に対する免疫応答又は免疫寛容から免れることができる。
【0042】
本発明の第9の側面は、免疫原性組成物であって、前記組成物は、(a)前記免疫原性巨大分子、そして、(b)薬理学的に許容さ得るキャリアを含む免疫原性組成物を提供する。
【0043】
本発明の第10の側面は、HPV感染関連疾患の予防又は処置における免疫原性組成物の使用を提供する。
【0044】
本発明の第11の側面は、HPV関連疾患を治療及び予防する方法を提供し、前記方法は、それを必要とする対象体に対して、前記免疫原性巨大分子、又は前記免疫原性組成物を有効量投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例1における組換えプラスミド構築を示す図である。
【図2】本発明の実施例2における組換え発現E7-Core-BCG65の12% SDS-PAGE電気泳動写真である。
【図3】本発明の実施例2における単離、精製されたE7-Core-BCG65融合タンパク質のSDS-PAGE電気泳動写真である。
【図4】本発明の実施例2の分子篩カラムクロマトグラフィーのプロファイルを比較するグラフである。
【図5】本発明の多分子ポリマーの電子顕微鏡写真である。
【図6】多分子ポリマー粒子のサイズ測定を示すグラフであり、そのうち、パネルAは粒子の光強度分布を示し、パネルBは粒子の容積分布を示し、パネルCは、測定結果の質報告を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、実施例と図面に基づき、本発明を更に詳しく説明する。
【0047】
本発明者は、研究を重ねた結果、ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質を含む融合タンパク質を初めて開示した。この融合タンパク質は、発現され、および変性の条件下で(例えば、高濃度のカオトロピック剤を用いる)精製された後、可溶性の形態で再生(renaturation)と自己組織化を行って、強い免疫原性巨大分子を構築することができる。当該巨大分子は、粒子状の多分子ポリマーであり、その形態がウイルス様粒子の形態と異なり、そして、生体に存在するウイルス様粒子に対する免疫応答又は免疫寛容を避けることができる。
【0048】
本明細書での使用において、用語「本発明の融合タンパク質」、「ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質を含む融合タンパク質」、「E7-Core-Hsp65融合タンパク質」などは、互換的に使用することができ、何れもヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質を融合して形成されるタンパク質を称する。ここで、ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質は、化学的結合による連結、又は、互いに共役することができる。更に好ましくは、それらは、化学的結合(例えばペプチド結合)を介して連結され、これは、リンカーペプチド配列を有していても、いなくてもよい。
【0049】
本明細書での使用において、用語「免疫原性巨大分子」は、複数のモノマー融合タンパク質を含む巨大分子を称する。好ましくは、複数のモノマー融合タンパク質を重合し又は組織化されるものである。前記免疫原性巨大分子は、ウイルス様粒子とは異なる形態を有する粒子状のものである。
【0050】
本明細書での使用において、上記の「含有する」、「有する」又は「含む」は、「含有する」、「主に…から構成される」、「実質的に…から構成される」および「…から構成される」といった用語の意味を含めている。「主に…から構成される」、「実質的に…から構成される」および「…から構成される」は、「含有する」、「有する」又は「含む」の下位概念に属する。
【0051】
融合タンパク質
本発明は、ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質を含む融合タンパク質を提供するものであり、これは、免疫原性巨大分子の形成に有用である。好ましくは、前記融合タンパク質は、他のタンパク質、ポリペプチド又は分子と関連がない単離タンパク質であり、組換え宿主細胞から培養物からの精製産物、又は精製抽出物である。
【0052】
1.ヒト・パピローマウイルスE7抗原
ヒト・パピローマウイルスE7抗原又はその生物活性フラグメント(例えば、抗原決定基を含有するタンパク質フラグメント)は、何れも本発明において用いることができる。ヒト・パピローマウイルスE7抗原の生物活性フラグメントとは、ウイルスカプシドタンパク質および分子シャペロンタンパク質と結合して(好ましくは、ウイルスカプシドタンパク質と結合されることであり、更に好ましくは、ウイルスカプシドタンパク質のN末端に結合されることである)、融合タンパク質を形成した後、依然として全長のヒト・パピローマウイルスE7抗原の全部又は一部の免疫原性を保持できるポリペプチドフラグメントを意味する。通常、前記生物活性フラグメントは、全長ヒト・パピローマウイルスE7抗原の免疫原性の少なくとも50%を保持する。更に好ましくは、前記生物活性フラグメントは、60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は100%の全長ヒト・パピローマウイルスE7抗原の免疫原性を保持することができる。
【0053】
ヒト・パピローマウイルスE7抗原又はその生物活性フラグメントは、基本的にその免疫原性に影響を及ぼさない、保存的アミノ酸置換を有する一部の配列を含む。得られる分子の生物活性を変更せずに適宜アミノ酸を置換するのは、当該分野において公知技術であり、そして容易に実施することができる。一般的に、ポリペプチドの非必須領域で単一のアミノ酸を変更するだけでは、基本的に生物活性は変更しない。Watsonら,Molecular Biology of The Gene,第四版,1987,The Benjamin/Cummings Pub. Co. P224を参照のこと。そのような置換例を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
しばしば経験により決定され、又は既知の保存的配列に基づく、他の類似の置換が存在するかもしれない。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、前記ヒト・パピローマウイルスE7抗原のアミノ酸配列は、配列番号:1における第1〜98位に示される配列と基本的に同じものと、前記ヒト・パピローマウイルスE7抗原のそのコード配列は、配列番号:2における第1〜294位に示される配列と基本的に同じものとすることができる。
【0057】
2.ウイルスカプシドタンパク質
前記ウイルスカプシドタンパク質は、ウイルス由来の任意の適切なカプシドタンパク質であって、自己組織化が可能であり、かつヒト・パピローマウイルスE7抗原及び分子シャペロンタンパク質と連結して、本発明の融合タンパク質を形成した後にも、自己組織化能力を保持するものであればよい。
【0058】
前記ウイルスカプシドタンパク質は、全長のカプシドタンパク質、又は自己組織化能力を保持するその生物活性フラグメント、又は自己組織化能力を保持するそのバリアントである。
【0059】
ウイルスカプシドタンパク質の生物活性フラグメントとは、全長のウイルスカプシドタンパク質の全部又は一部の自己組織化能力を保持できるポリペプチド断片を意味する。通常、前記生物活性フラグメントは、全長ウイルスカプシドタンパク質の自己組織化能力の少なくとも50%を保持する。更に好ましくは、前記生物活性フラグメントは、60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は100%の全長ウイルスカプシドタンパク質の自己組織化能力を保持することができる。
【0060】
全長ウイルスカプシドタンパク質又はその生物活性フラグメントは、基本的にその自己組織化能に影響を及ぼさない、保存的アミノ酸置換を有する配列の一部を含む。そのような置換例を表1に示す。しばしば経験により決定され、又は既知の保存的配列に基づく、他の類似の置換が存在するかもしれない。
【0061】
本発明の好ましい形態において、前記ウイルスカプシドタンパク質は、B型肝炎ウイルス(HBV)コア抗原である。本発明の1つの具体的な実施例では、前記ウイルスカプシドタンパク質は、B型肝炎ウイルスADW2サブタイプである。
【0062】
前記カプシドタンパク質の生物活性フラグメント又はそのバリアントを生成するための方法は、公開された文献を利用することができる(Koschel M, Thomssen R, Bruss V. 1999. Extensive mutagenesis of the hepatitis B virus core gene and mapping of mutations that allow capsid formation. J Virol. 73(3):2153-60; Paintsil J, Muller M, Picken M, Gissmann L, Zhou J. 1996. Carboxyl terminus of bovine papillomavirus type-1 L1 protein is not required for capsid formation. Virology. 223(1):238-44; Beames B, Lanford RE. 1995. Insertions within the hepatitis B virus capsid protein influence capsid formation and RNA encapsidation. J Virol.69(11):6833-8)。
【0063】
本発明の好ましい形態において、前記ウイルスカプシドタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号:1における第99〜283位に示される配列と基本的に同じであることができ、そしてウイルスカプシドタンパク質のコード配列が、配列番号:2における第295〜849位に示される配列と基本的に同じであることができる。
【0064】
3.分子シャペロンタンパク質
前記分子シャペロンタンパク質は、分子シャペロンタンパク質ファミリーに由来する任意の適切なタンパク質であってよく、非天然立体配置、又は、変性のタンパク質と結合した後、変性凝集体の形成を防止することができ、かつ前記変性凝集体の正確な再生を促進し、それにより、変性した融合タンパク質が再生と自己組織化を行うことができるものであればよい。
【0065】
前記分子シャペロンタンパク質は、全長の分子シャペロンタンパク質、又は生物学的機能を保持するその生物活性フラグメント、又は生物学的機能を保持するそのバリアントである。
【0066】
分子シャペロンタンパク質の生物活性フラグメントとは、全長の分子シャペロンタンパク質の全部又は一部の自己組織化能力を保持できるポリペプチド断片を意味する。通常、前記生物活性フラグメントは、全長分子シャペロンタンパク質の生物学的機能の少なくとも50%を保持する。更に好ましくは、前記生物活性フラグメントは、60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は100%の全長分子シャペロンタンパク質の生物学的機能を保持することができる。
【0067】
全長分子シャペロンタンパク質又はその生物活性フラグメントは、基本的にその生物学的機能に影響を及ぼさない、保存的アミノ酸置換を有する配列の一部を含む。そのような置換例を表1に示す。しばしば経験により決定され、又は既知の保存的配列に基づく、他の類似の置換が存在するかもしれない。
【0068】
前記分子シャペロンタンパク質の生物活性フラグメント又はそのバリアントを生成するための方法は、公開された文献を利用することができる(Jewett AI, Shea JE. 2006. Folding on the chaperone: yield enhancement through loose binding. J Mol. Biol. 363(5):945-57; Bhattacharyya J, Padmanabha Udupa EG, Wang J, Sharma KK. 2006. Mini-alphaB-crystallin: a functional element of alphaB-crystallin with chaperone-like activity. Biochemistry. 45(9):3069-76; Ramon-Luing LA, Cruz-Migoni A, Ruiz-Medrano R, Xoconostle-Cazarea B, Ortega-Lopez J. 2006. One-step purification and immobilization in cellulose of the GroEL apical domain fused to a carbohydate-binding module and its use in protein refolding. Biotechnol Lett. 28(5):301-7; Fox JD, Routzahn KM, Bucher MH, Waugh DS. 2003. Maltodextrin-binding proteins from diverse bacteria and archaea are potent solubility enhancers. FEBS Lett. 537(1-3):53-7;Fox JD, Kapust RB, Waugh DS, 2001. Single amino acid substitutions on the surface of Escherichia coli maltose-binding protein can have a profound impact on the solubility of fusion proteins. Protein Sci. 10(3):622-30; Chatellier J, Buckle AM, Fersht AR. 1999. GroEL recognises sequential and non-sequential linear structural motifs compatible with extended beta-strands and alpha-helices. J Mol. Biol. 292(1):163-72)。細菌、例えば、大腸菌では、分子シャペロンタンパク質は、有害な条件、例えば高温の条件下で、しばしば高い発現レベルを有する。そのため、このタイプの分子シャペロンタンパク質は、従来から熱ショックタンパク質(Hsp)とも称される。分子シャペロンタンパク質の発現は、通常、熱又は細胞に対する有害な他の条件による誘導と関連する。その理由としては、適当なホールディング工程は、比較的高い温度で顕著に影響を受けるので、分子シャペロンタンパク質は、いくつかのタンパク質のミスフォールディングによって引き起こされ得る細胞に対する損傷を修復するために要求される、からである。一般的な分子シャペロンタンパク質ファミリーは、Hsp60、Hsp70、Hsp90、Hsp100及び小分子量のHspタンパク質を含む。さらに、分子シャペロンタンパク質は、熱ショックタンパク質に限定されない。他の分子シャペロンタンパク質も、本発明の方法により、ウイルスカプシドタンパク質と融合し、本発明に記載の免疫原性巨大分子の製造のための融合タンパク質を構築するのに用いることができる。
【0069】
本発明の好ましい実施形態において、前記分子シャペロンタンパク質は、 M. Bovis BCG hsp65である。
【0070】
本発明の好ましい形態において、前記分子シャペロンタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号:1における第284〜823位に示される配列と基本的に同じであることができ、そして分子シャペロンタンパク質のコード配列が、配列番号:2における第850〜2469位に示される配列と基本的に同じであることができる。
【0071】
4.連結
前記ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質は、化学的結合を通して連結、又は、相互に共役される。前記化学的結合は、共有結合又は非共有結合である。
【0072】
本発明の好ましい実施形態において、前記ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質は、化学的結合を介して連結される。更に好ましくは、前記化学的結合が、ペプチド結合である。
【0073】
もう1つの選択可能な実施形態として、前記ウイルスカプシドタンパク質と分子シャペロンタンパク質は、化学的結合を介して連結され、ここで、ヒト・パピローマウイルスE7抗原とウイルスカプシドタンパク質は、互いに共役される。
【0074】
本発明の好ましい実施形態において、前記融合タンパク質は、アミノ端からカルボキシル端に、ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質を順に含む。
【0075】
前記ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質及び分子シャペロンタンパク質は、互いに直接連結されていてもよく、又はポリペプチドリンカー(リンカーペプチド)を介して連結してもよい。前記リンカーは、例えば、夫々1〜50個のアミノ酸、より好ましくは、1〜30個のアミノ酸を含み、結合ペプチドの設置は、免疫原性巨大分子の形成のための融合タンパク質の自己組織化に実質的に影響を及ぼさないような様式で処理される。
【0076】
本発明の好ましい実施形態において、リンカーペプチド(例えば、2〜20アミノ酸;更に好ましくは、例えば、2〜10アミノ酸)が、ウイルスカプシドタンパク質と分子シャペロンタンパク質の間に含まれる。前記リンカーペプチドには、少なくとも1個の特異性制限酵素切断部位が含まれ、前記制限酵素切断部位は、エンテロキナーゼ切断部位、トロンビン切断部位、又はトリプシン切断部位から選択されるが、これらに限定されるものではない。制限酵素切断部位は、後続の、前記融合タンパク質又は前記巨大分子粒子から分子シャペロンタンパク質の切断が促進されるような様式で処置される。このように設計され構築された融合タンパク質は、免疫原性巨大分子(多分子ポリマー)を形成するため、組換え発現、単離及び精製、再生及び自己組織化を受け、そして、特異的な酵素で、分子シャペロンタンパク質を切断することにより、カプシドタンパク質のみを含む最終の巨大分子を得ることができる。例えば、Asp Asp Asp Asp Lysの配列は、特異的にエンテロキナーゼによって認識され得る。この配列を本発明に記載の融合タンパク質の結合サイトに導入すると、前記分子シャペロンタンパク質は前記融合タンパク質によって形成された巨大分子から、エンテロキナーゼによって切断され、更に単離及び精製後に、カプシドタンパク質のみを有する巨大分子を得ることができる。
【0077】
5.核酸分子
他の側面において、本発明は、前記融合タンパク質をコードする単離核酸又はその相補鎖を提供する。前記融合タンパク質をコードする如何なる核酸も、本発明に有用である。以下の実施例に言及される配列は、何れも本発明の方法に好適である。
【0078】
本発明の融合タンパク質をコードするDNA配列は、全長において人工的に合成されたものであってよい。さらに、前記ヒト・パピローマウイルスE7抗原、前記ウイルスカプシドタンパク質、及び前記分子シャペロンタンパク質夫々をコードするDNA配列も、PCR増幅によって取得することができ、そして、それらを互いに連結して、本発明の融合タンパク質をコードするDNA配列を形成してもよい。
【0079】
6.発現ベクター
本発明は、前記融合タンパク質をコードする核酸分子を含むベクターをも提供する。前記融合タンパク質の発現を促進するため、前記ベクターは、前記核酸分子の配列に作動可能に連結される発現調節配列を含めてもよい。
【0080】
本明細書において、「作動可能に連結される」とは、線状DNA配列のある部分が、同一の線状DNA配列における他の部分の活性に影響を与え得る状態を称する。例えば、プロモーターは、コード配列の転写を制御すると、前記プロモーターは、コード配列に作動可能に連結されてある。
【0081】
本発明では、任意の適切なベクターを使用でき、例えば、Pouwelsら、Cloning Vectors: A Laboratory Manualに記載されるような細菌、真菌、酵母及び哺乳動物細胞のクローニングと発現に用いられるベクターが挙げられる。
【0082】
7.宿主細胞
前記融合タンパク質をコードする核酸配列を含む組換え細胞も、本発明に含まれる。
【0083】
本明細書において、用語「宿主細胞」とは、原核細胞と真核細胞の双方を含む。一般的に使用される原核宿主細胞は、大腸菌、枯草菌などが含まれ、例えば、E. coli HMS174(DE3)又はBL21(DE3)であってよい。一般的に使用される真核宿主細胞として、酵母、昆虫細胞及び哺乳動物細胞が含まれる。本発明の好ましい実施形態では、原核細胞を宿主細胞として使用する。
【0084】
8.融合タンパク質の産生方法
融合タンパク質を産生するための方法も本発明に含まれる。前記方法は、融合タンパク質をコードする核酸を含む組換え細胞を培養することを含む。前記方法は、コードされた融合タンパク質を細胞が発現させることを含んでよく、そして、発現させた融合タンパク質を再生させることを含めてよい。前記方法は、更に再生させた融合タンパク質の単離及び/又は精製を含めてもよい。
【0085】
上述のように得られた融合タンパク質を本質的に均質なものに精製することができる、例えば、SDS-PAGE電気泳動にて単一のバンドとして示すようにすることができる。
【0086】
9.融合タンパク質の使用
本発明の融合タンパク質は、細胞性免疫応答を含む、生体内で免疫応答を誘導するため、免疫原性巨大分子を使用することができる。
【0087】
免疫原性巨大分子及びその製造方法
本発明は、多分子ポリマーである免疫原性巨大分子を提供する。前記ポリマーは、前記融合タンパク質を含み、そして、好ましくは、前記ポリマーは、本質的に前記融合タンパク質を重合してなる。前記免疫原性巨大分子は、粒子状の多分子ポリマーであり、その形態がウイルス様粒子と相違する。前記巨大分子粒子は、典型的には、その直径が約1〜1000nm、好ましくは5〜500nm、さらに好ましくは、10〜100nmの範囲、例えば、約20nm、40nm、60nm、80nmの粒子を有する。
【0088】
生体のMHCクラスI型、及びクラスII型免疫システムは、外因性の抗原を提示し、それは可溶性のモノマー抗原よりも粒子状である方が1000倍又は10000倍強い。つまり、粒子状の形で存在する抗原は、可溶性モノマー抗原よりも強い免疫原性を有する。
【0089】
個々の変性カプシドタンパク質は、再生中に、無定形な凝集体粒子を形成しやすく、そしてウイルス用粒子の形成に失敗する。そして、個々の変性カプシドタンパク質分子は、カオトロピック剤を含まない溶液では、しばしば凝集体粒子を形成するため、可溶型で存在することができない。それは、カプシドタンパク質分子における疎水性基間の相互作用に関連する可能性がある。これらの疎水性基は、カプシドタンパク質分子がウイルス様粒子に自己組織化する際に、及び形成されたウイルス様粒子の安定性を維持に際して、極めて重要な役割を果たしている。そして、疎水性基は、正常のウイルス性粒子内に封入される。高濃度のカオトロピック剤を含む溶液、例えば、尿素又は塩酸グアニジン溶液中では、ウイルス様粒子が、高濃度のカオトロピック剤の存在により一部又は完全に解離され、その結果、タンパク質の高次構造は破壊され、それにより、正常のウイルス様粒子に封入された疎水性基が(溶液に)暴露される。カオトロピック剤を次第に溶液から除去する際に、暴露された疎水性基同士の相互作用が次第に増加し、変性カプシドタンパク質が凝集体粒子を形成する。高濃度のカオトロピック剤の溶液、例えば、尿素又は塩酸グアニジン溶液中の融合タンパク質は、溶液に暴露されたカプシドタンパク質の疎水性基を有する。しかし、カオトロピック剤を溶液から次第に除去する際に、カプシドタンパク質の暴露された疎水性基は、融合タンパク質における分子シャペロンタンパク質によって保護され、融合タンパク質は、可溶性形態で溶液中にて存在し、再生と自己組織化を受け、最終的に粒子状の免疫原性巨大分子を形成する。融合タンパク質は、カプシドタンパク質とは区別される分子である。それは、融合タンパク質が生体外で変性、再生及び再自己組織化を行う過程は、カプシドタンパク質が生体内でカプシド蛋白分子の折り畳み及び自己組織化を行う天然の過程に比べて、工程の環境条件、工程に関与する因子、及び工程の進行などの面において、本質的に全く相違するからである。従って、本発明の融合タンパク質の生体外での変性、再生及び再自己組織化を経て形成される本発明の巨大分子の形態学的特徴は、天然のウイルス様粒子と相違する。
【0090】
本発明の免疫原性巨大分子は、自然のウイルス様粒子の形態学的特徴を有しないが、極めて強い免疫原性を保持する。この形態学的特徴の相違により、本発明の免疫原性巨大分子におけるカプシドタンパク質によって暴露された抗原又は抗原決定基は、ウイルス様粒子におけるカプシドタンパク質によって暴露されたものとは相違する。生体の免疫応答、特に体液性免疫応答は、暴露した抗原又は抗原決定基と密接に関連する。そのため、本発明の免疫原性巨大分子及びウイルス様粒子との間における、カプシドタンパク質分子抗原又は抗原基の暴露についての相違は、以下の利点を提供する。
【0091】
1.ウイルス感染により誘導された生体内における免疫応答は、本発明の免疫原性巨大分子に対しては如何なる作用も有しないため、したがって、本発明の免疫原性巨大分子を免疫抗原として用いる場合、ウイルスカプシドタンパク質に対する生体の免疫攻撃を避けることができる。対照的に、ウイルス様粒子は、生体の免疫応答の攻撃を受け、そのため、生体における免疫応答の活性化のための免疫抗原として使用することができない。
【0092】
2.生体が、ウイルス感染に対し免疫寛容を発生した場合、前記ウイルス様粒子に対する免疫原性は、免疫寛容の影響を受ける可能性がある。一方、本発明の免疫原性巨大分子を用いることにより、生体の免疫寛容からの影響を避けることができる。
【0093】
3.本発明の免疫原性巨大分子を免疫抗原として用いると、商業的に利用されるカプシドタンパク質の免疫分析に対する干渉を避けることができる。
【0094】
本発明の免疫原性巨大分子は、かなり高い免疫原性を有する。その理由は、以下の通りである。
(1)それらは、いくつかのモノマー又はサブユニットからなり、1000KDを超える分子量を有する粒子状の形態であり、粒子状の抗原は、モノマーの可溶性抗原よりも1000又は10000倍高い免疫原性を有する。
(2)融合タンパク質におけるカプシドタンパク質のいくつかの配列は、自然免疫機構によって認識され、生体の後天性免疫との相乗効果により、強く、そして持続性の免疫応答を発生する可能性がある。
【0095】
組換えDNAの技術で発現させた後、本発明の融合タンパク質は、1又は複数の段階で高濃度のカオトロピック剤、例えば尿素又は塩酸グアニジンなどを用いて、単離及び精製することができる。精製融合タンパク質は、カオトロピック剤を徐々に除去することで、再生と自己組織化を行い、本発明に記載の免疫原性巨大分子に形成することができる。
【0096】
免疫原性巨大分子を調製する方法は、(1)前記融合タンパク質をコードする核酸を含有する細胞を培養して、前記融合タンパク質を発現させる工程、(2)(1)で得られた融合タンパク質を単離・精製する工程であって、ここで、単離・精製工程中の1又は複数の段階で、カオトロピック剤を用いる工程、そして、(3)カオトロピック剤を取除くことにより、(2)で得られた融合タンパク質を、前記免疫原性巨大分子に自己組織化させる工程を含む。
【0097】
カオトロピック剤は、尿素又は塩酸グアニジンから選択されるが、これらに限定するものではない。使用される尿素の濃度は、1〜10Mの範囲であり、好ましくは2〜8Mの範囲である。使用される塩酸グアニジンの濃度は、1〜10Mの範囲である、好ましくは1〜6Mの範囲である。
【0098】
融合タンパク質分子におけるカプシドタンパク質は、自己組織化する時に、その中に核酸を詰め込むことによって免疫原性巨大分子を形成することができる。いくつかの核酸、例えば二重鎖RNAと非メチル化CpG-DNAは、強い免疫刺激剤であり、生体の免疫応答を顕著に向上することができる。
【0099】
本発明の融合タンパク質は、単離・精製を経た後、依然として再生と自己組織化により1000KDを超える分子量の免疫原性巨大分子(即ち、多分子ポリマー)に形成することができる。前記免疫原性巨大分子は、粒子状の形態であり、それらの免疫原性は、モノマーの可溶性抗原に比べて、1000倍又は10000倍高い。分子篩カラムクロマトグラフィーによる検定は、本発明の免疫原性巨大分子の溶出ピークの位置は、カプシドタンパク質で形成されたウイルス様粒子のピークのものと本質的に一致する。
【0100】
本発明は、更に、ヒト・パピローマウイルス(HPV)感染に関連する疾患を予防し又は処置するための組成物の製造における、免疫原性巨大分子の用途を提供する。前記疾患は、腫瘍(例えば、子宮頚癌、膣癌、肛門又は肛門周囲癌、中咽頭癌、上顎洞癌、肺癌)、子宮頚部上皮内腫瘍、外性器疣贅から選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
組成物
本発明は、更に、有効量の本発明の免疫原性巨大分子と、薬理学的に許容可能なキャリアとを含む、免疫原性組成物(予防用又は治療用ワクチン)を提供する。
【0102】
本明細書において、「薬理学的に許容可能な」成分とは、過度の有害作用反応(例えば、毒性)なしに、ヒト及び/又は哺乳動物において使用のため適した、すなわち、合理的に利点/危険が釣り合っている、物質を称する。用語「薬理学的に許容可能なキャリア」とは、治療剤の投与のためのキャリアを称し、各種の賦形剤と希釈剤を含める。当該用語は、それ自身では、必須の活性成分ではなく、投与後の過度の毒性もない治療剤ためのキャリアを称する。適当なキャリアは、当業者に良く知られている。薬理学的に許容可能なキャリアに関する十分な記述を、Reminton’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub. Co., N.J. 1991)中で見出すことができます。組成物における、薬理学的に許容可能なキャリアは、液体、例えば水、食塩水、グリセロール及びソルビトールを含有してもよい。また、これらのキャリアには、更に補助的な物質、例えば潤滑剤、流動促進剤又は乳化剤、pH緩衝剤及び安定化剤、例えば、アルブミン等が含まれる。
【0103】
前記組成物を、哺乳動物の投与に適用される各種タイプの剤型に製剤することができる。前記剤型は、注射剤、カプセル剤、錠剤、乳剤、座剤を含めているが、上記に限定されるものではない。
【0104】
動物実験は、本発明の免疫原性巨大分子を用いて調製されたワクチンで免疫したマウスは、低下した腫瘍の成長速度、及び、低減した腫瘍容積を示し、腫瘍を担持するマウスの生存率が効果的に向上したことを示した。
【0105】
使用に際して、安全かつ有効な量の本発明に記載の免疫原性巨大分子を、哺乳動物、例えばヒトに投与する。ここで、前記安全、かつ有効な量は、典型的には、少なくとも1μg/kg体重である。そして、殆どの場合は、10mg/kg体重を超えず、好ましくは、約1μg/kg体重〜約1mg/kg体重の範囲である。当然、具体的な投与量について、投与方法、患者の健康状況などの要素を考慮すべきであり、これらは、何れも熟練した医療担当者の技能範囲内のことである。
【0106】
以下、具体的な実施例を結び付けて、本発明を更に説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。以下の実施例では、具体的な条件が記載されていない実験方法は、一般的には、通常の条件、例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989に記載の条件、或いは製造業者が推奨する条件に従うものとする。別途説明がない限り、パーセンテージと部分は、重量で計算する。
【実施例1】
【0107】
HPV抗原を運搬するFCCP分子のための遺伝子の設計及び合成
分子シャペロンタンパク質は、Mycobacterium bovis BCGのHsp65(Thole JE, Keulen WJ, De Bruyn J, Kolk AH, Groothuis DG, Berwald LG, Tiesjema RH, van Embden JD. 1987. Characterization, sequence determination, and immunogenicity of a 64-kilodalton protein of Mycobacterium bovis BCG expressed in Escherichia coli K-12. Infect. Immun. 55(6):1466-75; GeneBank 目録番号: M17705.1)から由来するものである。分子シャペロンタンパク質を、B型肝炎ウイルス(HBV)のADW2サブタイプのカプシドタンパク質(コア抗原:NCBIヌクレオチド目録番号:AF324148)のC末端に融合して、融合カプシド−シャペロンタンパク質(FCCP)分子を形成した。運搬される抗原は、ヒト・パピローマウイルス(human papillomavirus,HPV)タイプ16 E7タンパク質(GeneBank目録番号:#K02718)を選択した。E7タンパク質中のFCCPのカプシドタンパク質分子のN末端に融合することにより、E7抗原を運搬するFCCPの融合タンパク質、即ちE7-Core-Hsp65を形成した。そのアミノ酸配列を、配列番号:1に示す。
【0108】
アミノ酸配列から、E7-Core-Hsp65融合タンパク質の分子量が89.245Kdであると推定された。GeneBankの配列に基づいて、化学方法により、E7-Core-Hsp65(E7-Core-BCG65と称される)融合タンパク質をコードするDNA配列を人工合成した。合成されたDNA配列、トータルで2,479bpを、配列番号:2に示すとともに、Ankegens 2479bpと称する。それを、 pBluescript II SK (+/-)(Stratagene)ベクターのSmaI 部位にクローニングし、組換えプラスミドpBSK-Ankegens-2479bpを得た(図1を参照のこと)。
【実施例2】
【0109】
E7-Core-Hsp65融合タンパク質の組換え発現、単離、及び精製
E7-Core-BCG65融合タンパク質のDNAフラグメントは、NdeI とEcoRIによりpBSK-Ankegens-2479bpプラスミドから切断し、そして、pET-23a発現プラスミド(Emdbiosciences)の対応部位にサブクローニングして、組換えプラスミドpET-23a-2479を得た。E7-Core-Hsp65融合タンパク質の発現のため、組換えプラスミドpET-23a−2479をNovagen社の宿主細菌Rosetta-gami(DE3) に形質転換した。Novagen社のpET System Manualにより、組換えプラスミドに形質転換された大腸菌の菌株Rosetta-gami(DE3)を、発酵性培養し、そして、0.5mM IPTG (イソプロピル−チオ−ガラクピラノシド) で誘導させ、E7-Core-Hsp65融合タンパク質の発現を達成した。発現産物のSDS-PAGE電気泳動結果を図2に示す。ここで、レーン1は、組換えプラスミドを有しないトータル宿主細菌Rosetta-gami(DE3)の電気泳動結果を示し、レーン2、3、4、5は、何れも、IPTG誘導後のpET-23a-2479で形質転換されたRosetta-gami(DE3)のトータル電気泳動結果を示し、レーン6は、低分子量タンパク質標準の電気泳動結果を示す。
【0110】
発酵後、遠心分離により、細菌を収集した。湿細胞100gを、1000mlの緩衝液A(100mM Tris-HCl pH 9.0; 5mM EDTA)中に懸濁させた。十分に懸濁させた細胞を、8500rpmで30分間遠心分離した。上澄液を廃棄し、そして、1000mlの緩衝液B(50 mM 酢酸ナトリウム;2 mM EDTA)に懸濁させた。十分に懸濁させた細胞を、760barの高圧ホモジナイズ処理により溶菌した。溶菌液を8,500rpmで30分間遠心分離した。その上澄液を収集し、そして沈澱物を廃棄した。上澄液に、上澄み液1mlに対して0.7g尿素、の比率で尿素を添加した。最終濃度が100mMになるようにNaClを添加し、そして、最終濃度が20mMになるように L−システインを添加した。室温で十分に攪拌し、尿素が完全に溶解し、得られた溶液を4℃で一晩攪拌した。一晩の攪拌後、充填材として300ml SP-Sepharose(GE Health)を含むXK-50(GE Health)クロマトグラフィーカラムにサンプルをロードした。ロード前に、1 MのNaClでこのカラムを予め洗浄し、緩衝液C(50 mM 酢酸ナトリウム; 100 mM NaCl;;2 mM EDTA; 8 M 尿素; 10 mM L−システイン)で十分に平衡化した。サンプルのローディング後、エンドトキシン夾雑物を除去するために、10倍カラム容積の緩衝液D(50 mM 酢酸ナトリウム;100 mM NaCl;2 mM EDTA;;8 M 尿素;10 mM L−システイン; 2.5% Triton-X-100) を用いて、カラムを一晩洗浄した。その後、5倍カラム容積の緩衝液Cでカラムを洗浄することにより、Triton-X-100を除去し、3倍カラム容積の緩衝液E(50 mM 酢酸ナトリウム;300 mM NaCl;2 mM EDTA; 8 M 尿素; 10 mM L-システイン)でカラムを洗浄することにより、他の夾雑物を除去した。E7-Core-BCG65融合タンパク質を、緩衝液H(50 mM 酢酸ナトリウム; 800 mM NaCl;2 mM EDTA;8 M 尿素; 10 mM L-システイン)でカラムから溶出した。溶出タンパク質を、4×40倍容積の緩衝液F(50 mM 酢酸ナトリウム、6 M 尿素)で透析し、NaCl とL-システインを除去した。透析後、それぞれ最終濃度が200mMと50mMになるように亜硫酸ナトリウムと四チオン酸ナトリウムを添加し、混合物を室温で一晩をインキュベートすることにより、ジスルフィド結合の解離を行った。その後、得られたサンプルを、5倍容積の緩衝液Fで希釈した後、充填材として150ml Q-Sepharose(GE Health)を収容したXK-50 クロマトグラフィーカラムに希釈液をロードした。ここで、当該カラムは1M NaClで予め洗浄し、そして、緩衝液Fで十分に平衡化してあった。サンプルのローディング後、クロマトグラフィーカラムを、2倍カラム容積の95%の緩衝液Fと5%の緩衝液G(50 mM 酢酸ナトリウム; 1 M NaCl; 6 M 尿素)で洗浄した。E7-Core-BCG65融合タンパク質を、直線グラジエント、95%緩衝液Fと5%の緩衝液Gから50%の緩衝液Fと50%の緩衝液Gまでの8倍以上のカラム容積で溶出した。溶出したE7-Core-BCG65融合タンパク質を貯留し、透析溶液(1×40容積のTris.HCl pH9.0、100 mM NaClを含む1×40倍容積のTris.HCl pH7.5)に対して透析して尿素を除去し、そして、E7-Core-BCG65融合タンパク質を、多分子ポリマーに再生及び自己組織化した。
【0111】
透析の前の、最終の単離・精製サンプルの純度を、SDS-PAGE電気泳動により決定し、そして、その結果は、E7-Core-BCG65融合タンパク質が、90 KDに近い分子量を有する主要バンドとして表れることを示した(図3を参照のこと)。図3において、レーン1は、低分子量タンパク質標準の電気泳動結果を示し、レーン2は、ローディング量が0.8μgのE7-Core-BCG65融合タンパク質の電気泳動の結果を示し、レーン3は、ローディング量が1.7μgのE7-Core-BCG65融合タンパク質の電気泳動結果を示す。
【0112】
分子篩カラムクロマトグラフィーでの検定は、再生E7-Core-BCG65の分子量は、その溶出ピークが表しているように、対応モノマータンパク質(ウシ血清アルブミン)の分子量よりも遥かに大きい。その再生E7-Core-BCG65の溶出ピークの位置は、ヒト・パピローマウイルス16 L1主要カプシドタンパク質で形成されたウイルス様粒子と基本的に一致し、これは、再生E7-Core-BCG65が多分子ポリマーの特徴を表していることが示唆する(図4参照)。図4において、パネルAは、タンパク質濃度が1.2 mg/mlのウシ血清アルブミン(68kD)の分子篩カラムクロマトグラフィーであり、パネルBは、タンパク質濃度が1.5 mg/mlの本発明の再生E7-Core-BCG65の分子篩カラムクロマトグラフィーであり、図Cは、タンパク質濃度が1.3 mg/mlのヒト・パピローマウイルスL1で形成されたウイルス様粒子の分子篩カラムクロマトグラフィーである。分子篩カラムクロマトグラフィーの基本的なパラメーターは、以下の通りである。カラム直径:1.6cm、カラムの長さ:100cm、充填材:Sepharose 4FF (GE Healthcare)、充填材のローディング量:180ml、流動相:100M PB, 0.4M NaCl, pH6.5、流速:2 ml/min、ローディング量:1 ml。
【0113】
電子顕微鏡の観察は、本実施例で得られた多分子ポリマーにおいて、ヒトB型肝炎ウイルスのカプシドタンパク質で形成されたウイルス様粒子の典型的な形態学的特徴は有しないことが示された(図5を参照のこと)。パネルBは、パネルAより大きな拡大率である。
【0114】
本実施例で得られた多分子ポリマーは、タンパク質のN末端アミノ酸配列決定に付され、そして、そのN末端アミノ酸配列は、MHGDTPTLHEYMLDであることが決定された。これは、理論上のE7-Core-BCG65のN末端アミノ酸配列と完全に一致する。単離・精製後の産物の測定分子量が、予想 E7-Core-BCG65の分子量と一致する(図3を参照のこと)とのSDS-PAGEの結果と組み合わせると、本実施例で得られた多分子ポリマーが、E7-Core-BCG65からなるものであると確定できた。
【0115】
Abcam社製B型肝炎ウイルスのコア抗原に抗するモノクローン抗体を用いて、本実施例で調製された多分子ポリマーにつき、ウェスタンブロッティング分析を行った。そして、前記モノクローン抗体が、E7-Core-BCG65におけるコア抗原を識別できないことが見出された。そのため、本実施例で製造された多分子ポリマーは、免疫原として用いられる場合に、生体におけるHBVウイルスカプシドタンパク質(コア抗原)に対する生体の免疫攻撃を回避できる可能性がある。
【0116】
本実施例で製造された最終産物は、1mgタンパク質当たり5EUより小さいエンドドキシン含有量である。
【実施例3】
【0117】
多分子ポリマーの粒子サイズの決定
前記実施例2で調製された多分子ポリマーを、50 mmol/L mops緩衝液+0.5 mol/L NaCl + 0.03% Tween-80, pH 7.0により、約3倍に希釈した。Malvern Zetasizer Nano ZS (Marvern Instruments Ltd., England)で、多分子ポリマー粒子サイズを測定した。
【0118】
測定条件:25℃、平衡化時間:3分、水を基準として使用、DTS0012-Disposable sizing cuvetteを測定カップとして使用し、測定を2回繰り返した。
【0119】
測定の結果は、図6に示される通りである。ここで、パネルAは、粒子の光強度分布を示し、パネルBは、粒子の容積分布を示し、パネルCは、測定結果の品質レポートを示す。結果から、前記多分子ポリマーの Z-Average sizeは61.3nmであり、PDI < 0.2であり、測定のデータは、信頼できることが理解される。
【実施例4】
【0120】
E7-Core-BCG65融合タンパク質から形成された多分子ポリマーの動物実験における治療性及び予防性効果
E7-Core-BCG65融合タンパク質から形成された多分子ポリマーは、ヒト・パピローマウイルス16 E7抗原(E7タンパク質)を運搬する。本発明において、E7抗原を発現するTC-1腫瘍細胞ラインを使用したマウス実験において、多分子ポリマーの治療性及び予防性効果について評価した。
【0121】
雌C57BL/6マウス、6〜8週間、(20.0±2.0g)を、Shanghai Slac Laboratory Animal Co. Ltd.から購入した(Quality Control No.: SCXK (Shanghai)2003-0003)。
【0122】
E7抗原を発現するTC-1腫瘍細胞ラインは、C57BL/6マウスの原発肺細胞に由来する。原発細胞ラインは、ヒト・パピローマウイルス16 E7遺伝子及び活性化されたヒトC-Ha-ras遺伝子を原発細胞ラインに導入することによって形質転換され、そして、不死化能を獲得した。
【0123】
TC-1細胞を、ペニシリン/ストレプトマイシン、2 mM L-グルタミン、1 mMピルビン酸ナトリウム、2 mM非必須のアミノ酸、及び10% FBSを補充したRPMI-1640培地にて通例に従い培養した。生体外で良好に増殖したTC-1細胞を収集して、PBSで3回洗浄し、そして細胞密度を5×105細胞/mlに調整した。C57BL/6マウスの左側腹部に対し、皮下注射を行い、マウス毎に0.2mlを接種した。そして、マウスをランダムにグループ分け、予定のプロトコールに従い、多分子ポリマーを投与した。多分子ポリマーのサンプルを生理食塩水で希釈し、マウスの背中に皮下注射を行った。毎日、動物を腫瘍の増殖につき観察した。接種後の異なる時間に腫瘍が生じた動物の数を記録し、腫瘍形成率を算出し、それは、各グループにおける、実際の動物の数に対する腫瘍が生じた動物の数の比である。腫瘍が触知できるようになった後、週2回に副尺ノギス(vernier caliper)を使用して、腫瘍の長径と短径を測定し、腫瘍の体積を算出した。つまり、腫瘍体積=(長径×短径)/2である。腫瘍発生後の各動物の生存時間を記録した。データは、平均値±SD(x±s)で表される。実験動物は、ランダムに6グループに分けられた(表2を参照のこと)。
【0124】
【表2】

【0125】
皮下腫瘍増殖を、C57BL/ 6マウスの左側腹部に1×105 TC-1細胞を皮下注射で接種4日間後に観察した。コントロールグループの動物は、接種後10日以内に腫瘍形成率は100%に達した。腫瘍の大きさが均一であり、体積が約40 mm3であった。腫瘍の成長は速く、腫瘍細胞を接種した後36日目、コントロールグループの平均腫瘍体積は、7499.84 mm3になった。このグループの動物は、接種45日間後、過剰な腫瘍が負担となり、死亡しはじめ、60日目、全て死亡した。
【0126】
治療グループの動物は、腫瘍を接種した後48時間目に初回免疫を行い(即ち、実施例2で調製された多分子ポリマーの投与を受ける)、16日目に追加免疫を行った。HPV治療用ワクチンでの免疫で、マウスの腫瘍の増殖速度はゆっくりとなり、腫瘍容積が減少した。異なる用量のグループ間で、用量−効果相関関係が明らかとなった。腫瘍接種後60日目、治療グループのマウスは、全て生存した(表2を参照のこと)。
【0127】
予防グループの動物に対して、それらは、14日の間隔をもって2回免疫を受け、2回目の免疫後14日に、腫瘍細胞を接種した。100 μg 又は20μgでの前記ポリマーでの免疫で、マウスは、腫瘍接種後に低い腫瘍形成率を有し、接種後60日間、それらはすべて生存した(表3を参照のこと)。
【0128】
【表3】

【実施例5】
【0129】
E7-Core-BCG65融合タンパク質のバリアント
実施例1におけるE7-Core-BCG65のアミノ酸配列に基づき、E7-Core-BCG65のバリアントを構築した。E7-Core-BCG65-Mと称するこのバリアントは以下の点で、E7-Core-BCG65と異なる。第8位のアミノ酸が、LeuからIleに変更された。第812位のアミノ酸がVal からLeuに変更された;そして、第283位と第284位の間に、アミノ酸Asp Asp Asp Asp Lysが添加された。融合タンパク質E7-Core-BCG65-Mのコード配列を、化学的方法を用いたトータル人工合成により調製し、そして、実施例1と同じ手順により、pBluescript II SK (+/-)(Stratagene) ベクターの SmaI部位にクローニングした。
【0130】
実施例2と同じ手順により、E7-Core-BCG65-M融合タンパク質の組換え発現、単離、及び精製を行い、その最終結果として、E7-Core-BCG65-M融合タンパク質を、粒子状の多分子ポリマーに形成した。
【0131】
実施例4と同じ手順により、E7-Core-BCG65-Mから形成された多分子ポリマーに対し、動物実験を施した。そして、前記ポリマーが腫瘍細胞の成長を顕著に抑制できることを見出した。
【0132】
個々の刊行物が参照として組み込まれる事を特異的にかつ個々に示すように、本発明において引用される全ての刊行物は、本明細書において参照として組み込まれる。さらに、本発明の上記開示を読み取り、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく本発明に対し様々な改変又は変更を行うことができ、これらの均等物も、特許請求の範囲で定義された本発明の範囲内であると意図されると、理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト・パピローマウイルスE7抗原、ウイルスカプシドタンパク質、及び分子シャペロンタンパク質を含む融合タンパク質。
【請求項2】
前記ヒト・パピローマウイルスE7抗原、前記ウイルスカプシドタンパク質、及び前記分子シャペロンタンパク質が、化学的結合を介して連結、又は、互いに共役されており、ここで、前記化学的結合は、共有結合又は非共有結合である請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記化学的結合が、ペプチド結合である請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記融合タンパク質が、アミノ末端からカルボキシル末端に向けて、前記ヒト・パピローマウイルスE7抗原、前記ウイルスカプシドタンパク質及び前記分子シャペロンタンパク質を含む請求項3に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記ウイルスカプシドタンパク質と前記分子シャペロンタンパク質の間に、リンカーペプチドを含み、前記リンカーペプチドが、少なくとも1つの制限酵素切断部位を含む、請求項3に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記ウイルスカプシドタンパク質が、B型肝炎ウイルスコア抗原である請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記分子シャペロンタンパク質が、分子シャペロンタンパク質ファミリーの1つのメンバーから選択される請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記分子シャペロンタンパク質が、熱ショックタンパク質65、熱ショックタンパク質60、熱ショックタンパク質70、熱ショックタンパク質90、及び熱ショックタンパク質100から選択される、請求項7に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
前記ヒト・パピローマウイルスE7抗原が、(a1)配列番号:1における第1〜98位に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であり、又は、(a1)で定義されたアミノ酸配列における1つ又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失もしくは付加によって形成されてなり、かつ(a1)で定義されたタンパク質と同じ抗原性を有するとともに、(a1)から誘導されたタンパク質であり、又は、
前記ウイルスカプシドタンパク質が、(b1)配列番号:1における第99〜283位に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であり、又は、(b1)で定義されたアミノ酸配列における1つ又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失もしくは付加によって形成されてなり、かつ(b1)で定義されたタンパク質と同じ機能を有するとともに、(b1)から誘導されたタンパク質であり、又は、
前記分子シャペロンタンパク質が、(c1)配列番号:1における第284〜823位に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であり、又は、(c1)で定義されたアミノ酸配列における1つ又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失もしくは付加によって形成されてなり、かつ(c1)で定義されたタンパク質と同じ機能を有するとともに、(c1)から誘導されたタンパク質である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
免疫原性巨大分子の製造のための請求項1に記載の融合タンパク質の使用方法。
【請求項11】
請求項1に記載の融合タンパク質をコードする核酸分子。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項13】
請求項12に記載の前記ベクターを含む、又はゲノムに組み込まれた請求項11に記載の核酸分子を含む細胞。
【請求項14】
免疫原性巨大分子であって、前記巨大分子は、請求項1の融合タンパク質から、前記融合タンパク質の自己組織化によって主に形成され、かつ1,000KD以上の分子量を有する多分子ポリマーである、免疫原性巨大分子。
【請求項15】
前記巨大分子が、少なくとも1つの免疫刺激剤を含む請求項14に記載の免疫原性巨大分子。
【請求項16】
前記免疫刺激剤が、前記免疫原性巨大分子と共役し、又は前記免疫原性巨大分子に詰め込まれ、ここで、前記免疫刺激剤が、二重鎖RNA又は非メチル化CpG-DNAから選択される請求項15に記載の免疫原性巨大分子。
【請求項17】
請求項14に記載の免疫原性巨大分子の調製方法であって、
(1)請求項13に記載の細胞を培養して、請求項1に記載の融合タンパク質を発現させる工程、
(2)(1)で得られた融合タンパク質を単離及び精製する工程であって、単離及び精製工程中の1又は複数の段階においてカオトロピック剤を用いる工程、
(3)カオトロピック剤を除去することにより、(2)で得られた融合タンパク質を自己組織化して前記免疫原性巨大分子を形成させる工程、を含む免疫原性巨大分子の調製方法。
【請求項18】
前記カオトロピック剤が、尿素及び塩酸グアニジンから選択される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ヒト・パピローマウイルス感染関連疾患を予防又は治療する組成物の製造のための、請求項14に記載の巨大分子の使用方法。
【請求項20】
前記疾患が、腫瘍、子宮頚部上皮内腫瘍、外性器疣贅から選択される請求項19に記載の使用方法。
【請求項21】
(a)請求項14〜16の何れか一項に記載の免疫原性巨大分子、及び、
(b)薬理学的に許容可能なキャリア、を含む免疫原性組成物。
【請求項22】
ヒト・パピローマウイルス感染関連疾患の予防又は治療における請求項21に記載の免疫原性組成物の使用方法。
【請求項23】
ヒト・パピローマウイルス感染関連疾患を予防又は処置するための方法であって、
前記方法は、有効量の請求項14〜16の何れか一項に記載の免疫原性巨大分子、又は請求項21に記載の免疫原性組成物を、それを必要とする対象体に投与する工程を含むヒト・パピローマウイルス感染関連疾患を予防又は処置するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−538604(P2010−538604A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512496(P2010−512496)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国際出願番号】PCT/CN2008/071346
【国際公開番号】WO2008/154867
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509348878)上海▲沢▼▲潤▼安珂生物▲製▼▲薬▼有限公司 (2)
【出願人】(509348856)
【Fターム(参考)】