説明

全有機体炭素測定装置

【課題】冷却部の冷却性能を低下させることなく冷却部のクーリングコイルや継ぎ手部分からの錆の発生を防止する。
【解決手段】冷却部47は冷却ユニット47aと冷却ファン80により構成されている。冷却ユニット47aは非金属製配管がコイル状に巻かれたクーリングコイル76とそのクーリングコイル76の周囲を囲うカバー72により構成されている。カバー72の前面72aには複数の開口部74aがスリット状に設けられ、背面72bの中央部に開口部74bが設けられている。冷却ユニット47aの背面側に冷却ファン80が配置されており、冷却ファン80からの冷却風が開口部74bから冷却ユニット47a内に取り込まれ、クーリングコイル76の周囲を通って開口部74aから排出されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉と加熱炉内に挿入された燃焼管を有し、燃焼管内に導入された試料を加熱して酸化分解するための酸化反応部と、酸化反応部からのガスを冷却するための冷却部と、酸化分解後の試料を流通させるためのセル、セルに対して光を照射する光源及びセルを透過した光を検出するための検出器を有する測定部と、を備えた全有機体炭素測定装置(以下、TOC計)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水、河川水、工場排水などの水質を分析する水質分析計として、試料中に含まれている全有機体炭素(TOC)を測定するTOC計がある。TOC計では、採取した試料水を酸化反応部に導入し、試料中の炭素成分を酸化分解してCO2に変換し、そのCO2を含むガスを検出部のセルに導入して吸光度を測定することにより、試料水のTOCを測定する(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−93290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
TOC計では、燃焼管の下流側に酸化反応部で気化した高温の試料を冷却するための冷却部が設けられている。冷却部は、配管がコイル状に巻かれたクーリングコイルと、クーリングコイルの側方に設けられたファンで構成されており、クーリングコイルにファンからの冷却風を吹き付けることにより、クーリングコイル内を流れる試料を冷却するようになっている。クーリングコイルに用いられている配管としては、内面にガラスコーティングが施された金属製の配管が一般的である。この場合、クーリングコイルの一端と燃焼管の出口とを接続する継ぎ手にはステンレス製の部材がよく使用されるが、継ぎ手の内面はガラスコーティングが施されていないため、継ぎ手部分で生じた錆が装置の内部に蓄積して、測定値に影響を与えるという問題があった。
【0005】
そのため、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のチューブなど、クーリングコイルを非金属製の配管で構成し、継ぎ手部分もPTFE製などの非金属製部材を使用する場合もある。しかし、クーリングコイルを非金属製配管で構成するとクーリングコイルの熱伝達率が悪くなるため、冷却部の冷却性能が低下する。そうすると、試料を大量に(例えば150μL以上)酸化反応部に注入した場合、冷却性能が不足して酸化反応部で発生した試料ガスを十分に冷却することができなくなる。冷却部において試料を十分に冷却できなかった場合、酸化反応部で気化した高温の試料ガスが装置の内部を流れ、他の部品の劣化を早めるなどの問題がある。
【0006】
そこで本発明は、冷却部の冷却性能を低下させることなく冷却部のクーリングコイルや継ぎ手部分からの錆の発生を防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、加熱炉と加熱炉内に挿入された燃焼管を有し、燃焼管内に導入された試料水中の炭素成分を加熱して酸化分解することにより二酸化炭素に変換する酸化反応部と、燃焼管の出口部に接続され酸化反応部からのガスを冷却するための冷却部と、冷却部を経た酸化反応部からのガスを流通させるためのセル、セルに対して光を照射する光源及びセルを透過した光を検出するための検出器を有する測定部と、を備えたTOC計であって、冷却部は、燃焼管からのガスを流通させるための非金属製配管がコイル状に巻かれたクーリングコイル及びクーリングコイルの周囲を囲うカバーからなる冷却ユニットと、冷却ユニットの近傍に配置され冷却ユニットに対して冷却風を吹き付ける冷却ファンと、で構成されており、カバーの冷却ファンとの対向面に冷却ファンからの冷却風を冷却ユニット内に取り込むための取込み口が設けられ、カバーの前記対向面と反対側の面に冷却ユニット内に取り込まれた冷却風を排出するための排出口が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
上記TOC計において、クーリングコイルが円筒状に巻かれている場合には、取込み口と排出口はクーリングコイルの円筒の周面に対向する面に配置されていることが好ましい。そうすれば、冷却風を効率的にクーリングコイルに当てることができ、冷却部の冷却効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のTOC計において、冷却部は冷却ユニットと冷却ファンにより構成されている。そして、冷却ユニットのクーリングコイルは非金属製配管で構成されているので、燃焼管などの接続に非金属製の継ぎ手を用いることができ、クーリングコイルや継ぎ手の内面での錆の発生を防止できる。クーリングコイルの周囲をカバーで囲うことによって冷却ユニットを構成し、その冷却ユニットに対して冷却ファンからの冷却風を吹き付ける構造とし、カバーの冷却ファンとの対向面に冷却風の取込み口、その反対側の面に冷却風の排出口を設けることで、冷却ファンからの冷却風が効率よくクーリングコイルに吹き付けられ、クーリングコイルがカバーで囲われていない場合に比べて冷却ファンからの冷却風による冷却効率が上昇する。したがって、冷却効率を低下させることなくクーリングコイルや継ぎ手の内面における錆の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】TOC計の一実施例を示す流路構成図である。
【図2】同実施例の冷却部周辺の構造の一例を示す斜視図である。
【図3】同実施例の冷却部の冷却管ユニットの構造を概略的に示す斜視図であり、(A)は冷却管ユニットの前面側から見た図、(B)は冷却管ユニットの背面側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
TOC計の一実施例を図1を用いて説明する。
この実施例のTOC計は、TOC測定部3と、TOC測定部3に設けられている酸化反応部の燃焼管42にキャリアガスを送るキャリアガス供給部5と、それらを切り換える多ポートバルブ9によって構成されている。
【0012】
多ポートバルブ9の共通ポートには試料水を計量して採取するためのサンプリングシリンジ11が接続され、他のポートには試料導入部13、試料水から無機炭素成分を除去する際に使用される塩酸15、希釈水17、IC(無機体炭素)反応器19、燃焼管42及び排出用ドレン21がそれぞれ接続されており、オートサンプラ1からサンプリングシリンジ11により採取した試料をTOC測定部の燃焼管42に注入できるようになっている。
【0013】
サンプリングシリンジ11は容量5mLで、バレル下部にキャリアガスを導入するための通気ガス入口を備えている。その通気ガス入口は、電磁弁37を介してキャリアガス供給部5に接続されている。ガス通気機構は、ここでは、サンプリングシリンジ11によって実現される。
【0014】
キャリアガス供給部5は、高純度空気をキャリアガスとして供給するものであり、上流側から順にキャリアガス入口23、開閉用の電磁弁25、圧力を調節する調圧弁27、その圧力を計量する圧力計29、流量を調節するマスフローコントローラ31、流量計33、及び加湿器35が接続されて構成されている。流量が計量されて加湿されたキャリアガスは燃焼管42に送られる。また、サンプリングシリンジ11にも流量調整されたキャリアガスが通気ガスとして電磁弁37を介してサンプリングシリンジ11に供給される。
【0015】
燃焼管42はその上部に試料注入部43を備え、内部に試料中の炭素成分の全てをCO2に変換するための金属酸化物や貴金属からなる酸化触媒を備えている。燃焼管42は加熱炉41に挿入されて加熱されるようになっている。試料注入部43にはキャリアガスの逆流を防止する逆止弁45を介してキャリアガス供給部5が接続されている。燃焼管42の下部の出口には、冷却部47と逆流防止トラップ49を介してIC反応器19のキャリアガス導入口に接続されている。
【0016】
IC反応器19はIC測定時にはIC反応液19aとしてリン酸53がポンプ55によって供給され、IC反応器19に試料水が直接注入され、注入された試料水中のICがCO2として発生する。燃焼管42又はIC反応器19で発生したCO2を含むガスは、キャリアガスによって除湿用電子クーラ51へ導かれて水分が除去され、IC反応器19のIC反応液19aはドレン用電磁弁57から排出される。
【0017】
除湿用電子クーラ51を経たガスはハロゲン成分を除去するハロゲンスクラバ61及び異物を除去するためのメンブレンフィルタ63を介して非分散形赤外分析方式(NDIR)のセル65に導かれる。セル65の両端には光源67及び検出器69が対向して備えられており、検出器69の信号はTC、TOC又はICに相当する。排出された二酸化炭素はCO2アブソーバ71に吸収される。除湿用電子クーラ51には除去した水分を排出するためのドレンポット59が接続されている。
【0018】
冷却部47は燃焼管42において気化された高温の試料ガスを冷却するものである。図2は冷却部47の周辺の構造の一例を示した斜視図であり、図3は冷却部47を構成する冷却ユニット47aの構造の一例を概略的に示す斜視図である。この例において冷却部47は加熱炉41の下方に配置されている。冷却部47は冷却管ユニット47aと冷却ファン80により構成されている。冷却管ユニット47aは硬質ガラスなどからなる非金属製配管がコイル状に巻かれたクーリングコイル76と、そのクーリングコイル76の周囲を囲うカバー72により構成されている。冷却管ユニット47aの背面72b側に冷却ファン80が配置されている。
【0019】
クーリングコイル76は非金属製配管で構成されているため、燃焼管42などの外部との接続にPTFE製など非金属製の継ぎ手を用いることができる。これにより、クーリングコイル47aや継ぎ手の内面に錆が発生せず、装置内部への錆の混入を防止できる。
【0020】
クーリングコイル76は円筒状に巻かれており、クーリングコイル76を被うカバー72はクーリングコイル76の円筒の周面の一方側が前面72aとなり、前面72aに対向する側が背面72bとなっている。
【0021】
カバー72の前面72aに複数の開口部74aがスリット状に設けられている。また、前面72aには、クーリングコイル76の両端を外部に露出させて配管接続を容易にするための配管接続部73a及び73bも設けられている。配管接続部73aではクーリングコイル76の一端に例えばPTFE製などの非金属製の継ぎ手78aが取り付けられ、その継ぎ手78aを介して燃焼管42が接続されている。
【0022】
カバー72の背面72bの中央部に開口部74bが設けられている。開口部74bは冷却ファン80からの冷却風を冷却ユニット47a内に取り込むための取込み口となっている。前面72aに設けられた開口部74aは開口部74bから冷却ユニット47a内に取り込まれた冷却風を排出するための排出口となっている。すなわち、開口部74bから取り込まれた冷却風はカバー72によってクーリングコイル76の周面側から入り、クーリングコイル76の周囲に集められ、前面72aの開口部74aから排出される。これにより、クーリングコイル47aは冷却風により効率的に冷却される。開口部74a及び74bの形状や大きさはこの例に示されたものに限られないが、冷却ファン80からの冷却風を効率よくクーリングコイル76の周囲に集めて通り抜けさせるために、開口部74aは前面72aにおいて40%程度の開口率であることが好ましく、開口部74bは背面72bにおいて40%程度の開口率であることが好ましい。
【0023】
冷却部47がこのような構造をとることにより、冷却ファン80からの冷却風が効率よくクーリングコイル76に吹き付けられるので、冷却ファン80によるクーリングコイル76の冷却効率がカバー72を設けていない場合よりも向上し、クーリングコイル76を非金属製配管で構成しても、十分な冷却効果を発揮することができる。
【0024】
また、非金属製配管により構成されたクーリングコイル76の周囲をカバー72で囲うことによって、外部からのクーリングコイル76に対する衝撃からクーリングコイル76を保護することができるという効果もある。さらには、カバー72によってクーリングコイル76の端部に接続された継ぎ手を支持するようにすることで、燃焼管41などをクーリングコイル76に接続する際にクーリングコイル76に過剰な応力が作用することを防止してクーリングコイル76の破損を防止することができる。
【0025】
次に同実施例の動作を説明する。
試料水はサンプリングシリンジ11によってオートサンプラ1から吸入された後、多ポートバルブ9が、サンプリングシリンジ11が燃焼管42に接続されるポートに切り換えられて、サンプリングシリンジ11のプランジャが上昇させられることにより試料水が燃焼管42の試料注入部43に送られ、同時に、高純度空気がキャリアガスとしてキャリアガス供給部5から逆止弁45を介して試料注入部43に送られ、試料水と空気の混合物が燃焼管42に導入される。燃焼管42では加熱炉41により例えば680℃に加熱され、試料水の炭素成分は酸化されて二酸化炭素に変換される。
【0026】
燃焼管42で発生したガス(二酸化炭素と水蒸気)は冷却部47で冷却され、二酸化炭素は逆流防止トラップ49を経由してIC反応器19に導入され、IC反応液19aを通って上部から除湿用電子クーラ51に導かれて水分が除去され、ハロゲンスクラバ61でハロゲン成分が除かれ、メンブレンフィルタ63により濾過されて、セル65に導入される。そして、光源67からの赤外光が、セル65中に照射され、二酸化炭素の濃度に比例した信号が検出器69から得られる。この信号は液体試料のTCに相当する。そして排出された二酸化炭素はCO2アブソーバ71に吸着される。
【0027】
次に、サンプリングシリンジ11によってオートサンプラ1から吸入された試料水が、多ポートバルブ9の切替えとサンプリングシリンジ11の作動によってIC反応器19に送られる。IC反応器19では、下部からキャリアガスが送られてIC反応液19aがバブリングされる状態に保たれ、その状態で上部から導入された試料水は、IC反応液19aであるリン酸溶液に触れ、酸性化作用により二酸化炭素を生成する。この二酸化炭素を含むガスは、除湿用電子クーラ51に導かれて水分が除去され、ハロゲンスクラバ61でハロゲン成分が除かれ、メンブレンフィルタ63により濾過されて、セル65に導入される。そして、光源67からの赤外光が、セル65中に照射され、二酸化炭素の濃度に比例した信号が検出器69から得られる。この二酸化炭素量はICに相当する。
このようにして測定されたTCからICを差し引きすれば、TOCを求めることができる。
【0028】
このTOC測定装置では、サンプリングシリンジ11に通気処理を行う機構とサンプリングシリンジ11に酸を注入する機構を備えているので、直接にTOCを測定することもできる。すなわち、試料水がサンプリングシリンジ11に採取された後、多ポートバルブ9がサンプリングシリンジ11を塩酸15を供給するポートに切り替えられて塩酸がサンプリングシリンジ11に吸引される。その後、多ポートバルブ9がドレン用のポートに接続され、サンプリングシリンジ11のプランジャがバレル下部の通気位置まで下げられ、電磁弁37が開かれて、高純度空気がキャリアガスとしてサンプリングシリンジ11内に導入され、サンプリングシリンジ11内の試料水を通気処理して多ポートバルブ9のドレン用ポートから排出される。このとき、試料水に溶解していたICが炭酸ガスとしてキャリアガスとともに試料水から排出される。その後、その試料水を燃焼管42に導いて炭素成分を測定すると、TOCが測定される。
【符号の説明】
【0029】
1 オートサンプラ
3 TOC測定部
5 キャリアガス供給部
9 多ポートバルブ
41 加熱炉
42 燃焼管
43 試料注入部
47 冷却部
47a 冷却管ユニット
72 カバー
72a カバー前面
72b カバー背面
73a,73b 配管接続部
74a,74b 開口部
76 クーリングコイル
78a,78b 継ぎ手
80 冷却ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉と加熱炉内に挿入された燃焼管を有し、燃焼管内に導入された試料水中の炭素成分を加熱して酸化分解することにより二酸化炭素に変換する酸化反応部と、前記燃焼管の出口部に接続され前記酸化反応部からのガスを冷却するための冷却部と、前記冷却部を経た前記酸化反応部からのガスを流通させるためのセル、前記セルに対して光を照射する光源及び前記セルを透過した光を検出するための検出器を有する測定部と、を備えた全有機体炭素測定装置において、
前記冷却部は、前記燃焼管からのガスを流通させるための非金属製配管がコイル状に巻かれたクーリングコイル及び前記クーリングコイルの周囲を囲うカバーからなる冷却ユニットと、前記冷却ユニットの近傍に配置され前記冷却ユニットに対して冷却風を吹き付ける冷却ファンと、で構成されており、
前記カバーの前記冷却ファンとの対向面に前記冷却ファンからの冷却風を前記冷却ユニット内に取り込むための取込み口が設けられ、前記カバーの前記対向面と反対側の面に前記冷却ユニット内に取り込まれた冷却風を排出するための排出口が設けられていることを特徴とする全有機体炭素測定装置。
【請求項2】
前記クーリングコイルは円筒状に巻かれており、
前記取込み口と前記排出口は前記クーリングコイルの円筒の周面に対向する面に配置されている請求項1に記載の全有機体炭素測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−132731(P2012−132731A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283927(P2010−283927)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】