説明

共重合ポリエステル樹脂

【課題】常温での柔軟性に優れ、脆さを改良したポリエステル樹脂であって、湿熱耐久性にも優れ、さらには結晶性にも優れたポリエステル樹脂を提供する。より詳細には、電気・電子部品等のモールディング用途やポッティング加工用途に好適な共重合ポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】酸成分として、芳香族ジカルボン酸とダイマー酸とを含有し、グリコール成分として、1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコールとを含有する共重合ポリエステル樹脂であって、酸成分中のダイマー酸の含有量が10〜50モル%、グリコール成分中の1,4-ブタンジオールの含有量が80モル%以上であり、グリコール成分中のポリブタジエングリコールの含有量が1〜20モル%であり、かつ無機系結晶核剤を含有し、共重合ポリエステル樹脂中の含有量が0.01〜5.0質量%である共重合ポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸成分中にダイマー酸を、グリコール成分中に1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコールとを含有する共重合ポリエステル樹脂であって、かつ結晶核剤として無機系結晶核剤を含有しており、柔軟性、湿熱耐久性、結晶性に優れた共重合ポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称する)またはポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略称する)単位を主成分とし、脂肪族ジカルボン酸または各種ジオールを共重合させた共重合ポリエステルは、優れた耐熱性、耐候性、耐溶剤性、柔軟性等を有しているため、フィルム、繊維、シート、接着剤、シーラントとして広く利用されている。
【0003】
しかしながら、上記の共重合ポリエステルは、高い柔軟性を必要とする用途に用いる場合、低温や常温での柔軟性に欠けて脆いものであり、使用できる用途に限界があった。
【0004】
このような欠点を改善するために、ポリエステル樹脂にソフトセグメントを共重合する方法が考えられている。ポリエーテル化合物をソフトセグメントとするポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体は、樹脂のガラス転移点が低く、流動性が高く、分子量を低下させても樹脂に柔軟性がある。このため、電気・電子部品あるいは自動車部品などで利用される成形材料などの素材として広く利用されている。このようなポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体は、例えば特許文献1に開示されている。
【0005】
しかしながら、このポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体はハードセグメントのエステル結合により加水分解が起きやすく、さらにソフトセグメントであるポリエーテル化合物は高温にさらされたとき、酸化分解や熱分解などが起こりやすいなどの問題があり、この結果、共重合体自身の湿熱耐久性などに問題があった。
【0006】
さらには、上記したような柔軟性や湿熱耐久性に加えて、成形時の作業性を考慮すると、結晶性に優れる性能を有することも求められる。つまり高い結晶性能を有することによって、成形品を得る場合の冷却時間が短くなり、短い成形サイクルで製品を得ることが可能となる。このような、柔軟性、湿熱耐久性、結晶性に優れるポリエステル樹脂は未だに提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−3429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであって、常温での柔軟性に優れ、脆さを改良したポリエステル樹脂であって、湿熱耐久性にも優れ、さらには結晶性にも優れたポリエステル樹脂を提供すること、より詳細には、電気・電子部品等のモールディング用途や、ポッティング加工用途に好適な共重合ポリエステル樹脂を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、酸成分として、芳香族ジカルボン酸とダイマー酸とを含有し、グリコール成分として、1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコールとを含有する共重合ポリエステル樹脂であって、酸成分中のダイマー酸の含有量が10〜50モル%、グリコール成分中の1,4-ブタンジオールの含有量が80モル%以上であり、グリコール成分中のポリブタジエングリコールの含有量が1〜20モル%であり、かつ無機系結晶核剤を含有し、共重合ポリエステル樹脂中の含有量が0.01〜5.0質量%であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、酸成分にダイマー酸、グリコール成分にポリブタジエングリコールを特定量含有するものであるため、常温での柔軟性に優れており、適度な硬さを有し、脆さが改良されたものであり、かつ、湿熱耐久性にも優れている。さらに、無機系結晶核剤を特定量含有するものであるため、結晶性能にも優れている。
したがって、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、フィルム、繊維、シート等の成形品としたり、接着剤にも用いることができ、各種の用途に使用することができる。本発明の共重合ポリエステル樹脂は、溶融時の流動性に優れ、低圧での射出成形が可能であるため、薄肉や複雑な形状を有する部品にも溶融成形が可能であり、モールディング用途にも好適に用いることができる。また、ハウジング内や基盤上に部品を置き、これに樹脂を注型し、ハウジングや基板と部品を一体化させるポッティング用途にも好適に用いることができる。
そして、本発明の共重合ポリエステル樹脂は湿熱耐久性にも優れていることから、特に電気・電子部品あるいは自動車用部品など、過酷な環境でも使用できる部品等に好適に使用することが可能である。さらに、結晶性能も高いことから、成形品を得る際には短い成形サイクルで製品を得ることが可能であり、操業性にも優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸とダイマー酸とを含有する酸成分と、1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコールとを含有するグリコール成分とからなるものである。
まず、酸成分について説明する。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、これらを2種類以上併用してもよく、これらの酸のエステル形成性誘導体を使用してもよい。
【0012】
芳香族ジカルボン酸は、共重合ポリエステルの融点を上げ、耐熱性を付与するとともに機械的強度を上げることに寄与するものであり、酸成分中における含有量は50〜90モル%であることが好ましい。芳香族ジカルボン酸の含有量が50モル%未満になると、共重合ポリエステルの融点が低くなり、耐熱性に劣るとともに、機械的強度も低くなりやすい。一方、90モル%を超えると、ダイマー酸の割合が少なくなり、共重合ポリエステル樹脂の柔軟性が乏しくなりやすい。
【0013】
本発明におけるダイマー酸とは、乾性油や半乾性油から得られる精製植物脂肪酸等の不飽和脂肪酸を熱重合して得られる不飽和脂肪酸、又はそれを部分的もしくは完全に水素添加して得られる飽和脂肪酸をいう。これらダイマー酸は、不飽和脂肪酸の二量体又はその水素添加物を主体とするものであるが、三量体、四量体等も含む。市販品として「プリポール」、「プライプラスト」(クローダ社製)、「エンポール」、「ソバモール」(コグニス社製)、「ユニダイム」(アリゾナケミカル社製)等を用いることができる。
【0014】
そして、酸成分中におけるダイマー酸の含有量は、10〜50モル%であることが必要であり、中でも15〜40モル%であることが好ましい。ダイマー酸を共重合成分として含有することにより、得られる共重合ポリエステル樹脂が柔軟性に優れたものとなる。また湿熱耐久性も向上する。酸成分中のダイマー酸の含有量が10モル%未満であると、得られる共重合ポリエステル樹脂に柔軟性を付与することが困難となり、湿熱耐久性の向上効果にも乏しくなる。一方、ダイマー酸の含有量が50モル%を超えると、得られる共重合ポリエステルの融点が低くなり、結晶性能が劣るものとなり、成形性に劣るとともに、耐熱性にも劣り、また、機械的強度も低くなりやすい。
【0015】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、酸成分中に上記したような芳香族ジカルボン酸とダイマー酸とが含まれるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、これら以外の成分が含有されていてもよい。このような他の成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、エイコサン二酸等が挙げられる。
【0016】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分として、1,4−ブタンジオールを含有するものである。グリコール成分中の1,4−ブタンジオールの含有量は、80モル%以上であり、中でも85〜98モル%であることが好ましい。グリコール成分として、1,4−ブタンジオールを80モル%以上含有することで、得られる共重合ポリエステル樹脂は、融点が高くなり、耐熱性に優れるとともに、成形性にも優れる。1,4−ブタンジオールに代えて、1,2−エチレングリコールを用いると、得られる共重合ポリエステル樹脂は、結晶化速度が遅くなり成形性が悪いものとなる。また、1,4−ブタンジオールに代えて、1,6−ヘキサンジオールを用いると、得られる共重合ポリエステルは、融点が低くなり、耐熱性に劣るものとなる。
【0017】
さらに、本発明の共重合ポリエステル樹脂のグリコール成分中には、ポリブタジエングリコールが含有されている。グリコール成分中のポリブタジエングリコールの含有量は、1〜20モル%であることが必要であり、中でも2〜18モル%、さらには3〜16モル%であることが好ましい。
グリコール成分中にポリブタジエングリコールが含有されていることにより、得られる共重合ポリエステル樹脂は柔軟性や湿熱耐久性に優れたものとなる。ポリブタジエングリコールの割合が1モル%未満であると、得られる共重合ポリエステル樹脂を柔軟性や湿熱耐久性に優れたものとすることが困難となる。一方、ポリブタジエングリコールの割合が20モル%を超えると、得られる共重合ポリエステルの融点が低くなり、結晶性能が劣るものとなり、成形性に劣るとともに、耐熱性にも劣り、また、機械的強度も低くなりやすい。
【0018】
ポリブタジエングリコールは、平均分子量が350〜6000であることが好ましく、中でも500〜4500であることが好ましい。ポリブタジエングリコールの平均分子量が6000を超えると、相溶性が悪くなり、共重合することが困難となりやすい。一方、分子量が350未満では、得られる共重合ポリエステル樹脂の柔軟性を向上させることが困難となりやすい。
【0019】
ポリブタジエングリコールとしては、1,2−ポリブタジエングリコールや1,4−ポリブタジエングリコール等を用いることができる。このようなポリブタジエングリコールで市販のものとしては、日本曹達社製の『G−1000』や『G−2000』、『G−3000』、『GI−1000』、『GI−2000』、『GI−3000』、出光石油化学社製の『Poly bd』や『Poly ip』、『エポール』等が挙げられる。
【0020】
本発明の共重合ポリエステル樹脂中には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、グリコール成分中に1,4−ブタンジオールやポリブタジエングリコール以外の成分が含有されていてもよい。このような他の成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物およびプロピレンオキシド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0021】
さらに、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、無機系結晶核剤を含有するものである。共重合ポリエステル樹脂中の無機系結晶核剤の含有量は、0.01〜5.0質量%であることが必要であり、中でも0.1〜3.0質量%であることが好ましい。無機系結晶核剤を適量含有することにより、共重合ポリエステル樹脂の柔軟性や湿熱耐久性の性能を損なうことなく、結晶性能を向上させることができる。
無機系結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、共重合ポリエステル樹脂の結晶性能を向上させることができず、成形性に劣り、一方、無機系結晶核剤の含有量が5.0質量%を超えると、特に共重合ポリエステル樹脂の柔軟性を損なうこととなる。
【0022】
本発明における無機系結晶核剤としては、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、合成ケイ酸およびケイ酸塩、亜鉛華、ハロサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト扮、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム等を挙げることができ、これらの無機化合物の少なくとも一種を使用することが好ましい。中でも、本発明における無機系結晶核剤としては、タルク、マイカ、カオリン、シリカのうちの少なくとも一種を用いることが好ましく、さらには、タルクを用いることが好ましい。
【0023】
そして、本発明の共重合ポリエステル樹脂が結晶性能に優れていることを示す指標として、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足することが好ましい。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・(1)
【0024】
本発明における共重合ポリエステル樹脂のDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量2mgで測定するものである。
【0025】
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。図1に示すように、ポリエステル樹脂のDSC曲線において、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【0026】
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。つまり、b/aの値が高いほど降温での結晶性が良好なため、短い成形サイクルで成形品を得ることが可能となり、生産性に優れるものとなる。一方、b/aが0.05(mW/mg・℃)未満の場合、結晶化速度が遅いため、成形品を得る際の成形サイクルが長くなり、生産性に劣るものとなる。また、ポリエステル樹脂をチップ化や貯蔵・運搬する際や乾燥工程においてブロッキングが生じやすくなる。
【0027】
そして、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、上記のような組成とすることで柔軟性に優れるが、柔軟性を示す指標として、20℃でのヤング率が100MPa以下であることが好ましく、中でも60MPa以下であることが好ましい。
ヤング率は、本発明の共重合ポリエステル樹脂を日精樹脂工業社製の射出成型機「PS20E2ASE」を用いて、射出成形し、厚み1mm、幅3mmの成型サンプルを作成し、引張試験機「テンシロン」(オリエンテック社製UTM−4−100型)を用い、20℃にて引張速度10mm/minで測定するものである。
【0028】
さらに、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、上記のような組成とすることで柔軟性に優れると同時に、適度な硬さを有し、脆さが改良されたものである。このような適度な硬さを有し、脆さが改良されていることを示す指標として、20℃でのショアD硬度が50以下であることが好ましく、中でも46以下であることが好ましい。
ショアD硬度は、本発明の共重合ポリエステル樹脂を日精樹脂工業社製の射出成型機「PS20E2ASE」を用いて射出成形し、厚み3mm、幅20mmの成型サンプルを作成し、このサンプルを2枚重ね合わせ、20℃にてショアD硬度計(WESTOP WR−105D)を用い測定するものである。
【0029】
20℃でのヤング率が100MPaを超えると、共重合ポリエステル樹脂は柔軟性に乏しいものとなりやすい。20℃でのショアD硬度が50を超えると、共重合ポリエステル樹脂は、硬さが不十分で脆い樹脂となり、多種多様な用途に用いることが困難となりやすい。
【0030】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、上記のような組成とすることで、柔軟性に優れるとともに、適度な硬さを有し、脆さが改良されたものとなるが、20℃でのヤング率と20℃でのショアD硬度ともに、上記範囲内のものであることが好ましい。
【0031】
さらに、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、上記のような組成とすることで湿熱耐久性に優れる。湿熱耐久性を示す指標として、下記に示すひずみ保持率が80%以上であることが好ましく、中でも85%以上であることが好ましく、さらには90%以上であることが好ましい。ひずみ保持率が80%未満では、湿熱処理により樹脂の強度低下が大きいものとなり、このような樹脂を使用した成形体は形状安定性に劣るものとなる。つまり、湿熱耐久性に劣る樹脂となる。
なお、本発明におけるひずみ保持率は、以下のようにして算出する。本発明の共重合ポリエステル樹脂を日精樹脂工業社製の射出成型機「PS20E2ASE」を用いて、融点よりも50℃高い温度で溶融した樹脂を圧力1MPaで金型内に射出成形し、厚み1mm、幅3mmの成型サンプルを作成し、ISO規格527−2に記載の方法に従い、引張破壊ひずみを測定する(処理前の引張破壊ひずみ)。恒温恒湿器(ヤマト科学社製IG400型)を用い、得られた成型サンプルを、温度60℃湿度95%RHの環境下に200時間保存処理し、湿熱処理を施す。湿熱処理後のサンプルを上記と同様にして引張破壊ひずみを測定し、下記式により算出する。
ひずみ保持率(%)=〔(処理後の引張破壊ひずみ)/(処理前の引張破壊ひずみ)〕×100
【0032】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、耐熱性にも優れるものであり、融点は120〜180℃であることが好ましく、中でも130〜170℃であることが好ましい。融点が120℃未満では耐熱性に乏しく、用いる用途が限定される。一方、180℃を超えると成型時の加工温度を高くする必要があり、コスト的に不利になると同時に、樹脂の熱劣化も大きくなる。
なお、融点は、パーキンエルマー社ダイヤモンドDSCを使用し、10℃/分で昇温、降温し、融解ピークの温度で測定するものである。
【0033】
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、200℃での溶融粘度が1Pa・s〜300Pa・sであることが好ましく、10〜150Pa・sであることがより好ましい。溶融粘度がこの範囲内であることにより、低圧での成形加工が可能となり、ホットメルトモールディング用途やポッティング用途に好適なものとなる。溶融粘度が300Pa・sを超えると、流動性が低くなり、低圧での成形が困難となる。また溶融粘度を低下させるために溶融温度を高くすると、装置への負荷が大きくなるほか、共重合ポリエステル樹脂の熱劣化も顕著なものとなる。一方、溶融粘度が1Pa・s未満であると、共重合ポリエステル樹脂の強度が低くなりやすい。
なお、溶融粘度は、フローテスター(島津製作所製、型式CFT−500)にて、ノズル径1.0mm、ノズル長10mmのノズルを用い、剪断速度1000sec−1の時の溶融粘度を測定するものである。
【0034】
次に、本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造方法について説明する。上記の酸成分、グリコール成分及び無機系結晶核剤を150〜250℃でエステル化反応後、減圧しながら230〜300℃で重縮合することにより、本発明の共重合ポリエステル樹脂を得ることができる。あるいは、芳香族ジカルボン酸のジメチルエステル等の誘導体とグリコール成分及び無機系結晶核剤を用いて150℃〜250℃でエステル交換反応後、減圧しながら230℃〜300℃で重縮合することにより、本発明の共重合ポリエステル樹脂を得ることができる。
【0035】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材等を添加してもよい。
熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤が使用できるが、環境を配慮した場合、非ハロゲン系難燃剤の使用が望ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等)、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)、無機系化合物(硼酸塩、Mo化合物等)が挙げられる。なお、本発明の共重合ポリエステル樹脂にこれらを添加する方法は特に限定されない。
【0036】
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂を用いる際には、その効果を損なわない範囲で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリル酸エステル)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸エステル)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、およびそれらの共重合体等の樹脂を添加して用いてもよい。
【実施例】
【0037】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(1)融点、溶融粘度、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
上記と同様の方法で測定した。
(2)ポリマー組成
得られた共重合ポリエステル樹脂を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(3)ショアD硬度、ヤング率
上記と同様の方法で測定した。
(4)引張破壊ひずみ、ひずみ保持率(湿熱耐久性)
上記と同様の方法で測定した。
(5)引張強度
(4)と同様にして得られた成型サンプルを用い、引張試験機「テンシロン」(オリエンテック社製UTM−4−100型)を用い、20℃にて引張速度10mm/分で測定するものである。
(6)成形性(成形サイクル)
射出成形機(東芝機械社製、商品名「IS−80G」)で、ISOダンベル型試験片を成形した。成形温度を融点よりも50℃高い温度にして樹脂組成物を溶融し、金型温度20℃の金型に充填した。樹脂組成物が金型内に射出される際の、射出時間と射出後に圧力をかけた時間の合計を10秒とし、その後、成形体が金型に固着、または、抵抗なく取り出すことができ、突き出しピンによる変形がなく、良好に離型できるまでの所要時間との合計時間(成形サイクル)(秒)を測定し、以下の基準で評価した。
◎:所要時間が15秒以下である。
○:所要時間が15秒より長く20秒以下である。
×:所要時間が20秒を超える。
【0038】
実施例1
酸成分として、テレフタル酸62質量部、イソフタル酸9質量部、炭素数36の水素添加ダイマー酸(クローダージャパン社製、Pripol 1009)74質量部、ジオール成分として、1,4−ブタンジオール64質量部、1,2−ポリブタジエングリコール(日本曹達社製、GI−1000)58質量部を用い、テトラ−n−ブチルチタネート2質量部を添加し、240℃に加熱して、エステル化反応を行った。次に、無機系結晶核剤として平均粒径1.0μmのタルクを、得られる共重合ポリエステル樹脂中の含有量が1.0質量%となる量添加し、温度240℃にて60分間で徐々に真空度を上げながら10〜30Paの高真空までもっていき、その後4時間重縮合反応を行い、表1に示す組成を有する共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0039】
実施例2〜10、比較例1〜2、5〜10
テレフタル酸、イソフタル酸、水素添加ダイマー酸、1,4−ブタンジオール、1,2−ポリブタジエングリコール、タルクの種類や添加量を変更し、表1に示す組成(含有量)となるようにした以外は、実施例1と同様に行い、共重合ポリエステル樹脂を得た。なお、実施例5では、ダイマー酸として、炭素数36のダイマー酸(クローダージャパン社製、Pripol 1013)を使用した。実施例9では、タルクとして平均粒径が2.0μmのものを使用した。実施例10では、1,2−ポリブタジエングリコールとして、日本曹達社製 GI−2000を使用した。
【0040】
比較例3
グリコール成分として、1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールを用い、表1に示す組成(含有量)となるようにした以外は、実施例1と同様に行い、共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0041】
比較例4
グリコール成分として、1,6−ヘキサンジオールのみを用い、表1に示す組成(含有量)となるようにした以外は、実施例1と同様に行い、共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0042】
実施例1〜10、比較例1〜10で得られた共重合ポリエステル樹脂の組成、特性値、評価結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1から明らかなように、実施例1〜10で得られた共重合ポリエステル樹脂は、本発明を満足する組成のものであったため、20℃でのヤング率が53MPa以下、20℃でのショアD硬度が46以下であり、柔軟性に優れ、かつ適度な硬さを有しており、脆さが改良されたものであった。そして、引張破壊ひずみの値、保持率ともに高く、強度に優れるとともに湿熱耐久性にも優れていた。さらには、結晶性能が高く、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が(1)式を満足するものであったため、短い成形サイクルで成形品を得ることができ、成形性の評価にも優れるものであった。
一方、比較例1で得られた共重合ポリエステル樹脂は、酸成分中のダイマー酸の含有量が少ないものであったため、ショアD硬度、ヤング率が高く柔軟性に劣るものであり、ひずみ保持率が低く、湿熱耐久性に劣るものであった。比較例2で得られた共重合ポリエステル樹脂は、酸成分中のダイマー酸の含有量が多く、芳香族ジカルボン酸の含有量が少ないものであったため、融点が測定できず(非晶性のものとなり)、耐熱性に劣るとともに結晶性能に劣り、成形性の評価にも劣るものであった。また、引張強度も劣るものであった。比較例3で得られた共重合ポリエステル樹脂は、ジオール成分の1,4-ブタンジオールの割合が80モル%未満であったため、比較例4で得られた共重合ポリエステル樹脂は、ジオール成分として1,4-ブタンジオールを含有せず、1,6−ヘキサンジオールを主成分とするものであったため、両樹脂ともに融点が低く、耐熱性に劣るものであった。さらに、結晶性能に劣り、DSC曲線が(1)式を満足するものとはならず、成形サイクルが長いものとなり、成形性の評価にも劣るものであった。比較例5で得られた共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分として、ポリブタジエングリコールを含有しなかったため、比較例6で得られた共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分としてポリブタジエングリコールの含有量が少なかったため、ヤング率、ショアD硬度が高く、柔軟性に劣るものであり、ひずみ保持率が低く湿熱耐久性に劣るものであった。比較例7で得られた共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分のポリブタジエングリコールの含有量が多すぎたため、融点が低く、耐熱性に劣るとともに、結晶性能に劣り、DSC曲線が(1)式を満足するものとはならず、成形サイクルが長いものとなり、成形性の評価にも劣るものであった。また、引張強度も劣るものであった。比較例8で得られた共重合ポリエステル樹脂は、無機系結晶核剤を含有しなかったため、比較例9で得られた共重合ポリエステル樹脂は、無機系結晶核剤の含有量が少なすぎたため、いずれも結晶性能に劣り、DSC曲線が(1)式を満足するものとはならず、成形サイクルが長いものとなり、成形性の評価にも劣るものであった。比較例10で得られた共重合ポリエステル樹脂は、無機系結晶核剤の含有量が多すぎたため、ヤング率が高く、柔軟性に劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分として、芳香族ジカルボン酸とダイマー酸とを含有し、グリコール成分として、1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコールとを含有する共重合ポリエステル樹脂であって、酸成分中のダイマー酸の含有量が10〜50モル%、グリコール成分中の1,4-ブタンジオールの含有量が80モル%以上であり、グリコール成分中のポリブタジエングリコールの含有量が1〜20モル%であり、かつ無機系結晶核剤を含有し、共重合ポリエステル樹脂中の含有量が0.01〜5.0質量%であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。
【請求項2】
無機系結晶核剤が、タルク、マイカ、カオリン、シリカのうちの少なくとも一種である請求項1記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項3】
DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足する請求項1又は2に記載の共重合ポリエステル樹脂。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・(1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【請求項4】
20℃でのヤング率が100MPa以下である請求項1〜3いずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項5】
20℃でのショアD硬度が50以下である請求項1〜4いずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂。


【公開番号】特開2012−255100(P2012−255100A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129235(P2011−129235)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】