説明

共重合体及び高分子固体電解質

【課題】 高分子固体電解質のイオン導電率の温度依存性を抑止するとともに、高いイオン導電率を示す高分子固体電解質用ベースポリマーおよびこれを利用した高分子固体電解質を提供すること。
【解決手段】下記式(1)
【化1】


(式中、Rはメチル基又はエチル基であり、nは5〜100の数である)
で表される繰り返し単位を有する共重合体およびこれとリチウム塩とで構成される高分子固体電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖にエチレンオキシド鎖を有する共重合体及びこれをベースポリマーとする高分子固体電解質に関する。さらに詳しくは、エチレンオキシド鎖を有するビニルエーテルとビニレンカーボネートをラジカル重合して得られる交互共重合体及び当該交互共重合体とリチウム塩とで構成される高分子固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、小型電子・電気機器用に市販されているリチウム二次電池の多くは、可燃性の有機溶媒を電解液として使用しており、この有機溶媒電解液の液漏れおよびそれに伴う発火などの危険性を有している。従って、このようなリチウム二次電池を電気自動車のような大型用途に用いることは、安全性の観点から好ましくない。よって、より安全な電解質材料が求められ、その解決策のひとつとして電解質に固体ポリマーを用いる高分子固体電解質電池が注目されている。
【0003】
これらの中でも、比較的高いイオン導電性を示すことが知られているポリエーテル系のポリマーが注目を集め、特に直鎖状のポリエチレンオキシド(以下、「PEO」と略称する)あるいはその構造中にPEO構造を含むものについて数多くの報告がなされている。しかし、PEOは結晶性が高いため、イオン導電率は温度によって大きく変化し、融点以上では10−3S/cmという高いイオン導電率を示すが、融点以下では結晶化に伴う鎖のセグメント運動の低下により導電率が急激に低下してしまうという問題点がある。
【0004】
そこで、PEOの結晶性を低下させることを目的として、ベースポリマーに側鎖を導入したり、ポリメチルメタクリレートなど結晶性の異なる他のポリマーと共重合させることが検討されている。
【0005】
中でも、側鎖にもPEO鎖を持つコポリマーは、室温で10−4S/cmという高いイオン導電率を示すことが報告されている(非特許文献1)。
【0006】
また、側鎖にPEO鎖を有するホスファゼン環を組み込んだポリマーは、10−5S/cmという導電率を示したと報告されている(非特許文献2)。
【0007】
更に、PEO鎖を有するビニルエーテルを架橋して得られるポリマーを用いた高分子固体電解質も報告されている(特許文献1)。
【0008】
しかしながら、いずれの方法においても、PEO系高分子固体電解質のイオン導電率の温度依存性の改善効果は不十分であり、いまだ実用化にはいたっていないのが実情である。
【0009】
一方、セグメント運動とは異なるメカニズムでイオン伝導を起こす高分子固体電解質も検討されており、例えば、ポリビニレンカーボネートとリチウム塩からなる高分子固体電解質では、リチウムイオンがポリマー鎖の極性基間をホッピングするように移動するため、イオン輸送がポリマー鎖の運動性に依存せず、イオン導電率の温度依存性が小さいことが報告されている(非特許文献3)。しかしながら、ポリビニレンカーボネートをベースポリマーとする高分子固体電解質のイオン導電率は、PEO系高分子固体電解質と比べ低い値しか得られていない。
【0010】
また、末端にメチル基を有するオリゴエチレンオキシドビニルエーテル(例えば、トリエチレングリコールメチルビニルエーテル)とビニレンカーボネートをラジカル共重合させると、交互共重合体が生成することが報告されている(非特許文献4)。しかしながら、当該交互共重合体を高分子固体電解質に用いることに関しての検討はなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平04−335011号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】A.Nishimoto, et al, Electrochimica Acta, 43, 1177 (1998)
【非特許文献2】HarryR. Allcock, et al, Macromolecules, 36, 3563 (2003)
【非特許文献3】X.Wei and F. Shriver, Chem. Mater., 10, 2307 (1998)
【非特許文献4】L.Ding, I. Hennig, and S. E. Evsyukov, Polymer, 42, 2745(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情を克服するためになされたものであって、高分子固体電解質のイオン導電率の温度依存性を抑止するとともに、高いイオン導電率を示す高分子固体電解質用ベースポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、PEO鎖を有するビニルエーテルとビニレンカーボネートとの交互共重合体を有する櫛形構造が、セグメント運動性に優れた自由な側鎖を多く持ちながら、PEO鎖の結晶化を抑制する効果を有する可能性に着目した。そして、上記課題を解決するためPEO鎖を有するビニルエーテルとビニレンカーボネートからなる交互共重合体を合成し、これを用いた高分子固体電解質について検討を重ねてきた。その結果、PEO鎖を有するビニルエーテルとビニレンカーボネートからなる交互共重合体において、主としてPEO鎖のセグメント運動によりイオン伝導が起き、さらにPEO鎖長が増加するにつれてイオン導電率が向上し、低温領域における導電率の低下も小さくなることを見出し、本発明に達した。
【0015】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、Rはメチル基又はエチル基であり、nは5〜100の数である)
で表される繰り返し単位を有する共重合体及び当該共重合体とリチウム塩とで構成される高分子固体電解質を提供するものである。
【0016】
また本発明は、前記リチウム塩が、LiN(SOCF、LiBF、LiClO、又はLiN(SOCFCFからなる郡から選択される1種又は2種以上のリチウム塩である前記高分子固体電解質を提供するものである。
【0017】
更に本発明は、高分子固体電解質に含まれるリチウムと酸素のモル比が、リチウム1に対して酸素5〜30である前記高分子固体電解質を提供するものである。
【0018】
更にまた本発明は、前記重合体が、下記式(2)
【化2】

(式中、Rはメチル基又はエチル基であり、nは5〜100の数である)
で表されるエチレンオキシド鎖を含有するビニルエーテルと、下式(3)
【化3】

で表されるビニレンカーボネートとをラジカル重合して得られるビニルエーテル/ビニレンカーボネート交互共重合体である前記高分子固体電解質および前記共重合体の数平均分子量(Mn)が2,000〜100,000の範囲である前記高分子固体電解質を提供するものである。
【0019】
また更に、本発明は、前記高分子固体電解質のガラス転移温度(Tg)が0℃以下である前記高分子固体電解質を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の共重合体を用いた高分子固体電解質は、高いイオン導電率を有し、イオン導電率の温度依存性が小さく、また、分解温度、分解電圧の点でも優れた特性を示すため、リチウム二次電池用固体電解質に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】エチレンオキシド鎖長が、n=10の共重合体を用いた高分子固体電解質におけるイオン導電率の温度依存性を示すグラフ図である。
【図2】エチレンオキシド鎖長が、n=15の共重合体を用いた高分子固体電解質におけるイオン導電率の温度依存性を示すグラフ図である。
【図3】エチレンオキシド鎖長が、n=23.5の共重合体を用いた高分子固体電解質におけるイオン導電率の温度依存性を示すグラフ図である。
【図4】エチレンオキシド鎖長の異なる共重合体を用いた高分子固体電解質([Li]/[O]=1/16)におけるイオン導電率の温度依存性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の共重合体は、上記式(2)で示されるエチレンオキシド鎖を含有するビニルエーテル(以下、「PEO−VE」と略す)とビニレンカーボネート(3)を、ラジカル重合して得られるもので、前記(1)の繰り返し単位を有するものである。
【0023】
本発明におけるPEO−VE(2)としては、エチレンオキシドの繰り返し数nが1種のものを単独で用いることもできるし、エチレンオキシドの繰り返し数nが異なるものの混合物を用いてもよい。本明細書において、PEO−VE(2)が混合物である場合、便宜上エチレンオキシドの繰り返し数nとして混合物の平均値を用いるものとする。例えばn=5のPEO−VE50%と、n=10のPEO−VE50%の混合物である時、本発明においては、これをn=7.5のPEO−VEと表示して取扱う。
【0024】
上記反応において、一方の原料として用いられるPEO−VE(2)は、例えば、市販されている任意のエチレンオキシド鎖を有するポリエチレングリコールモノアルキルエーテルの水酸基を、トシルクロライドなどを用いてトシル化したトシレートと、NaHの存在下でエチレングリコールモノビニルエーテル又はジエチレングリコールモノビニルエーテルをアルコキシ化したものとを反応させて得られる(スキーム1参照)。
【0025】
【化4】

【0026】
あるいは逆に、エチレングリコールモノビニルエーテル又はジエチレングリコールモノビニルエーテルの水酸基をトシル化したトシレートと、NaHの存在下でポリエチレングリコールモノアルキルエーテルをアルコキシ化したものとを反応させて得ても良い(スキーム2参照)。
【0027】
【化5】

【0028】
所望の長さのエチレンオキシド鎖を有するポリエチレングリコールモノアルキルエーテルが市販で入手出来ない場合は、入手可能なポリエチレングリコールモノアルキルエーテルをトシル化し、適当な長さのポリエチレングリコールと縮合することにより、必要な長さのエチレンオキシド鎖を有するポリエチレングリコールモノアルキルエーテルを得ることができる。
【0029】
また、別のPEO−VE(2)の製造方法としては、エチレングリコールモノビニルエーテル又はジエチレングリコールモノビニルエーテルにエチレンオキシドを付加させて所望のエチレンオキシド鎖長とした後、末端水酸基を水酸化ナトリウム及び塩化メチル、塩化エチル等のハロゲン化低級アルキルと反応させて低級アルキル化する方法も挙げられる(スキーム3参照)。
【0030】
【化6】

【0031】
また、他方の原料であるビニレンカーボネート(3)(別名、炭酸ビニレン)は、市販のものをそのまま、または減圧蒸留、晶析、析出等の方法により精製して用いることができる。
【0032】
PEO−VE(2)とビニレンカーボネート(3)とのラジカル重合反応は、公知の方法にしたがって行うことができる。例えば有機溶剤中での溶液重合、水中での乳化重合、ケン濁重合等;あるいは水可溶性有機溶剤と水との混合溶剤中での溶液重合、ケン濁重合、乳化重合等;更には、溶媒を用いないバルク重合等を挙げることができる。
【0033】
上記のラジカル重合反応に用いる重合開始剤として、有機溶剤を用いた溶液重合系あるいはバルク重合系では、アゾ系化合物や有機過酸化物等のラジカル開始剤が用いられる。アゾ系化合物としては、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート、1,1'−アゾビス−1−シクロヘキサンニトリル、4,4'−アゾビス−4−シアノバレリック酸等が挙げられる。また、有機過酸化物としては、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイド、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0034】
また、水中での重合系に対しては、過硫酸塩、過酸化水素などが用いられる。更に、水可溶性有機溶剤と水との混合溶剤中での重合に際しては上記の種々の重合開始剤の組合せの中から適宜選んで用いることができる。
【0035】
重合温度は、使用する重合溶媒の沸点、重合開始剤の半減期温度等によって決定されるが、一般的には0〜150℃、好ましくは50〜100℃の範囲が選択される。重合時間は1〜24時間、好ましくは2〜20時間で行われる。
【0036】
重合後は、貧溶媒単独、若しくは貧溶媒と良溶媒の混合溶媒による再沈殿を行い、更に必要に応じて洗浄して、重合体を精製することが好ましい。この操作により、未反応モノマー、オリゴマー、重合開始剤及びその残査物等の不要物を除去することができる。
【0037】
なお、上記反応により目的とする上記式(1)で表される繰り返し単位を有する共重合体が得られたことは、共重合組成が各成分の混合比に依らず1:1であることや、元素分析値、赤外吸収スペクトル、核磁気共鳴スペクトル等により確認される。
【0038】
また、本発明の共重合体を高分子固体電解質として用いる場合、原料であるPEO−VE(2)のエチレンオキシド鎖が長くなるほど、共重合体のイオン導電率は向上し、イオン導電率の温度依存性も小さくなり、更に分解温度も高くなって耐熱性が向上する。一方で、共重合体の原料として、PEO−VE(2)のエチレンオキシド鎖が過度に長いものを使用すると、高分子固体電解質のフイルム成形が困難となり好ましくない。このため、高分子固体電解質用の共重合体の原料としてのPEO−VE(2)は、そのエチレンオキシドの繰り返し数nは5〜100の範囲が好ましく、7〜50の範囲がより好ましく、10〜30の範囲が特に好ましい。
【0039】
更に、本発明の共重合体を高分子固体電解質に用いる場合は、数平均分子量(Mn)が2,000〜100,000、好ましくは4,000〜50,000であることが望ましい。数平均分子量が小さすぎると、フイルム成形が困難となり好ましくない。また、数平均分子量が大きすぎる場合も、後述する有機溶媒に対する溶解性が落ち、フイルム成形性に問題が生じる。
【0040】
本発明の高分子固体電解質は、上記共重合体とリチウム塩とで構成される。リチウム塩としては、LiN(SOCF、LiBF、LiClO、LiN(SOCFCFからなる群から選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0041】
リチウム塩の使用量は、基材となる共重合体に含まれるエーテル結合の酸素との比で決められ、リチウム1に対して酸素が5〜30であることが好ましく、8〜20であることがより好ましい。リチウム塩濃度が上記範囲を超えて高くなると、擬似的な架橋が多くなりエチレンオキシド鎖のセグメント運動性が低下し、イオン導電率が低くなる。また、リチウム塩濃度が上記範囲未満であると、イオン伝導に関与するイオンキャリアー数が少なくなるため、やはりイオン導電率が低くなる。
【0042】
また、本発明の高分子固体電解質には、本発明の効果を阻害しない範囲で、可塑剤、アニオン捕捉剤、無機フィラー、架橋剤、酸化防止剤、難燃剤など、公知の添加剤を添加することができる。
【0043】
本発明の高分子固体電解質の製造は、たとえば、上記各成分を有機溶媒に溶解し、適宜の厚みで流延したのち有機溶媒を揮散除去する方法により行うことができる。高分子固体電解質を得るために用いられる有機溶媒としては、本発明の共重合体とリチウム塩とを溶解し、かつ揮散除去できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキソラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなどを好ましいものとして挙げることができる。
【0044】
かくして得られる本発明の高分子固体電解質は、そのガラス転移温度(Tg)が0℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度(Tg)が0℃よりも高いと、得られた高分子固体電解質が低温領域においてセグメント運動性の低下による影響を受けやすくなるため好ましくない。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の好適な実施形態を、実施例、製造例によって説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施形態によって何ら限定されるものでなく、その要旨を変更することなく様々に改変して実施することができる。なお、以下の記載中、高分子固体電解質フイルムの調製及び得られた高分子固体電解質の物性測定は、以下の手順で行った。
【0046】
< 高分子固体電解質フイルムの調製 >
1.減圧にて乾燥させた共重合体を30mlのサンプル瓶へ量り入れた後、ドライボッ
クスへサンプル瓶を入れた。
2.LiN(SOCF2を加え、アセトニトリルを適量加え、約12時間撹拌し
た。
3.混合物をフッ素樹脂製シャーレ(直径:5.0cm、深さ:1.0cm)にキャステ
ィングし、乾燥炉に入れゆっくり減圧し、最大減圧した後、この状態を一晩続けた

4.乾燥炉を90℃まで徐々に昇温し、24時間乾燥を行った。
5.乾燥炉が室温になるまで放冷し、ピンセットでフイルムをはがし、高分子固体電解
質フイルムを調製した。
【0047】
< 示差走査熱量測定(DSC) >
ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)を調査するために、DSC測定を行った。
試料約10mgをアルミ製の試料ホルダー(アルミパン)につめてアルミの蓋をし、温度範囲:−100〜150℃、昇温速度:10℃/min、窒素気流下で測定を行った。
【0048】
< 熱重量分析(TGA) >
熱安定性(5%重量減少温度)を調査するために、TGA測定を行った。
試料約10mgをアルミ製の試料ホルダー(アルミパン)に入れ、温度範囲:室温(30℃)〜500℃、昇温速度:10℃/min、窒素気流下で測定を行った。
【0049】
< イオン導電率 >
前記の方法により調製した高分子固体電解質フイルムをドライボックス中で直径5mmのポンチでくり抜き、UFO型セルに組み込んだ。作成したセルを複素交流インピーダンス測定装置に銅線を用いて接続し、その抵抗を測定した。測定は、セルを測定開始温度に設定した恒温槽に12時間放置し、電解質とステンレス電極を十分になじませた後に測定を開始し、以降10℃ずつ温度を下げ、各温度で1時間放置した後に行った。イオン導電率σ(S/cm)は次のように定義される。
σ = C/R
(C=l/s)
(ここで、Cはl/sであり、lは試料の厚さ(cm)、sはその面積(cm)を示し、Rは抵抗(Ω)を示す)
【0050】
< リチウムイオン輸率(T)の測定法 >
直流分極測定と複素交流インピーダンス測定の併用によってカチオン輸率(T)を求めた。UFO型セルを用いて、Li/高分子固体電解質/Liの対称型セルを組み、80℃でのリチウムイオン輸率を測定した。セルはまず80℃の恒温槽に3時間置き、その後複素交流インピーダンス測定を行い、直流分極測定を行った。電流が一定になったのを確認した後、再び複素交流インピーダンス測定を行い、得られた電流値と抵抗値からリチウムイオン輸率の計算を行った。
【0051】
< 分解電圧の測定法 >
80℃における分解電圧を求めるため、UFO型セルを用いてLi/高分子固体電解質/ステンレスの非対称型セルを組み、電位範囲:2.0〜6.0V、スキャン速度:10mV/minでサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行い、得られたサイクリックボルタモグラムから電解質の酸化分解電圧を求めた。
【0052】
製 造 例 1
PEO−VE(n=5)の製造:
(1)EO付加
温度計、撹拌機、窒素及びエチレンオキシド導入管を備えたステンレス製高圧反応器にジエチレングリコールモノビニルエーテル(DEGV)1012gと水酸化カリウム1.7gを仕込み、撹拌しながら反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で140℃まで加熱した。そして、エチレンオキシドを反応容器内に連続供給し、圧力を0.3MPaに維持しながら、温度140〜145℃でエチレンオキシドの付加反応を行った。
【0053】
エチレンオキシドの量を適宜調節することにより、エチレンオキシドの付加数3モル(エチレンオキシドの繰り返し数n=5)のビニルエーテル−エチレンオキシド付加物を得た(付加数3モルの場合、エチレンオキシドの供給量:1349g)。
【0054】
(2)末端水酸基のメチル化
温度計、撹拌機、窒素および塩化メチル導入管を備えたステンレス製高圧反応器に、上記(1)で得られたビニルエーテル−エチレンオキシド付加物965gを仕込み、そこへ水酸化ナトリウム259gを少しずつ加え、全量の水酸化ナトリウムを加えた後に窒素置換し、80℃まで加熱した。温度を75〜85℃に維持しながら塩化メチル215gを供給し、全量の塩化メチルを供給した後に、120℃まで昇温しながら4時間熟成して反応を終結させた。
【0055】
反応終了後、反応容器内に1200gの温水を添加し、約60℃で1時間撹拌して析出した塩を溶解させ、更に同温度で1時間静置して有機相と水相とに分液した。有機相をガラス製フラスコへ移して水を留去し、析出した塩をろ別して、n=5のエチレンオキシドの繰り返し数を有するPEO−VEを得た。
【0056】
エチレンオキシドの繰り返し数は、H−NMR測定により確認した〔NMR測定条件:装置は日本電子株式会社製 JEOL AL−400、溶媒は重アセトン〕。
【0057】
製 造 例 2〜5
製造例1と同様の操作により、n=7.5(製造例2)、n=10(製造例3)、n=15(製造例4)、n=23.5(製造例5)のエチレンオキシドの繰り返し数を有するPEO−VEを得た。なお、各反応におけるエチレンオキシドの付加数は、エチレンオキシドの供給量により調節した。
【0058】
参 考 例 1
PEO−VE(n=2)を用いた共重合体の合成:
ガラスアンプル管に2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)22mg(0.14mmol)を計り取り、2−(2−メトキシエトキシ)エチルビニルエーテル(別名:ジエチレングリコールメチルビニルエーテル)2.0g(13.7mmol)と、ビニレンカーボネート(VC)1.18g(13.7mmol)を加え、Freeze−Thaw法により脱気封管し、60℃の恒温槽で8時間反応を行った。
【0059】
反応終了後、少量のクロロホルムを添加して共重合体を溶解し、ジエチルエーテルに滴下して再沈精製を行った。溶解−再沈操作を3回繰り返し、減圧下で乾燥させることにより無色ないし黄色の高粘性液状のポリマー1.7g(収率53%)を得た。得られたポリマーの数平均分子量(Mn)は37,000であった〔GPC測定:検出器はRI(示差屈折率計)、カラムはTOSOH TSKgel Multipore HXL−M×2本、溶離液はTHF、標準物質はポリスチレン〕。
【0060】
参 考 例 2
PEO−VE(n=3)を用いた共重合体の合成:
2−(2−メトキシエトキシ)エチルビニルエーテルに替えて、2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチルビニルエーテル(別名:トリエチレングリコールメチルビニルエーテル)を用い、参考例1と同様の操作により共重合体の合成を行った。反応条件および重合結果を表1に示す。
【0061】
実 施 例 1〜5
PEO−VE(n=5〜23.5)を用いた共重合体の合成:
2−(2−メトキシエトキシ)エチルビニルエーテルに替えて、製造例1〜5で得られたPEO−VEを用い、参考例1と同様の操作により共重合体の合成を行った。反応条件および重合結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
得られたポリマーは、H−NMRスペクトル測定を行い、VC単位のメチンプロトン(a)とPEO−VE単位のメチン及びエチレンオキシド鎖中のエチレンプロトン(b)との面積比から、PEO−VEとVCの交互共重合体であることを確認した。代表例として、n=10の共重合体(実施例3)のH−NMRスペクトルのケミカルシフトδを下に示す〔NMR測定:装置は日本電子株式会社製 JEOL JNM−EX270、溶媒は重クロロホルム〕。
【0064】
【化7】

【0065】
実 施 例 6
共重合体(n=10)を用いた高分子固体電解質:
高分子固体電解質におけるリチウム塩添加量の効果を調べるため、実施例3で得られた共重合体(式(1)中、n=10)を使用し、リチウム塩LiN(SOCFを[Li]/[O]が、それぞれ、1/8、1/12、1/16、1/20となるように添加して高分子固体電解質を調製した。
【0066】
得られた高分子固体電解質のガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、熱安定性(5%重量減少温度)、リチウムイオン輸率、分解電圧の測定結果を表2に示す。また、−20〜130℃で測定したイオン導電率の温度依存性を図1に示す。
【0067】
実 施 例 7
共重合体(n=15)を用いた高分子固体電解質:
実施例6と同様にして、実施例4で得られた共重合体(式(1)中、n=15)を使用し、高分子固体電解質を調製し、得られた高分子固体電解質の物性測定を行った。この結果を表2に示す。また、−20〜130℃で測定したイオン導電率の温度依存性を図2に示す。
【0068】
実 施 例 8
共重合体(n=23.5)を用いた高分子固体電解質:
実施例6と同様にして、実施例5で得られた共重合体(式(1)中、n=23.5)を使用し、高分子固体電解質を調製し、得られた高分子固体電解質の物性測定を行った。この結果を表2に示す。また、−20〜130℃で測定したイオン導電率の温度依存性を図3に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示されるように、いずれの高分子固体電解質も融点(Tm)を示さずアモルファスであった。また、ガラス転移温度(Tg)はリチウム塩の添加量の増加に伴い高くなる傾向を示した。これは、リチウム塩濃度の増加に伴い擬似的な架橋が多くなったためと考えられる。また、いずれの高分子固体電解質にもTgが2つ観測された(表では、低温でのTgのみ記載した)。低温でのTgは、エチレンオキシド鎖(EO鎖)に由来し、高温でのTgは主鎖に由来するものと考えられる。EO鎖長の異なる共重合体を用いた高分子電解質を比較すると、EO鎖が長くなるにつれてTgは低くなることが分かった。
【0071】
分解温度は、リチウム塩濃度が変化してもほとんど影響が見られなかった。また、全ての高分子固体電解質において、分解温度は300℃以上であり、特にEO鎖長n=23.5の電解質では350℃付近の高い熱安定性を示し、これらの高分子固体電解質を実際に電池に使用する場合、十分な熱安定性を有していることがわかった。
【0072】
リチウムイオン輸率は、リチウム塩の添加量が比較的少ない場合に向上し、[Li]/[O]=1/16または[Li]/[O]=1/20において0.15〜0.2の値を示した。
【0073】
分解電圧は、リチウム塩濃度が変化してもほとんど影響が見られなかったが、[Li]/[O]=1/8、1/12、1/16の場合においてEO鎖長による分解電圧の向上が見られた。分解電圧は4.0V以上であり、特にEO鎖長n=23.5の電解質では4.5V以上の高い分解電圧を示す電解質もあり、比較的高い電気化学的安定性を示した。これらの高分子固体電解質をリチウム二次電池に応用するのに十分な安定性を有していることがわかった。
【0074】
また、図1〜3に示されるように、いずれの共重合体を用いた高分子固体電解質においても、イオン導電率はリチウム塩濃度により変化し、EO鎖長がn=10及びn=23.5の共重合体の場合には、[Li]/[O]=1/16の時に最もイオン導電率が高く、EO鎖長がn=15の共重合体の場合には、[Li]/[O]=1/20の時に最もイオン導電率が高くなった。これは、リチウム塩濃度が高くなるほどイオンキャリアーの濃度は増加するものの、EO鎖とリチウムイオンとの擬似的な架橋も多くなり、EO鎖のセグメント運動性が低下するため、リチウム塩の添加量が比較的少ない場合に高いイオン導電率を示したと考えられる。
【0075】
比 較 例 1、2 及び 実 施 例 9、10
共重合体(n=2〜7.5)を用いた高分子固体電解質:
更に高分子固体電解質におけるエチレンオキシドの繰り返し数の影響を調べるため、参考例1、2及び実施例1、2で得られた共重合体を用いて、実施例6と同様にして[Li]/[O]=1/16の高分子固体電解質を調製した(順に、比較例1、比較例2、実施例9および実施例10)。
【0076】
得られた高分子固体電解質のガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、熱安定性(5%重量減少温度)の測定結果を表3に、また、−10〜130℃で測定したイオン導電率の温度依存性を図4に示す(比較のため、実施例6〜8で得られた高分子固体電解質の値も記載した)。
【0077】
【表3】

【0078】
表3に示されるように、n=2〜7.5においても、融点(Tm)は観測されなかった。また、いずれの高分子固体電解質にもTgが2つ観測された(表では、低温でのTgのみ記載した)。いずれの高分子固体電解質においても、n=10以上の場合と同様に、EO鎖が長くなるにつれてTgは低くなったが、比較例(n=2またはn=3)においてはTgが0℃を超えているのに対し、実施例(n=5以上)はいずれもTgが0℃より低かった。
【0079】
分解温度は、n=2〜7.5の範囲では300℃前後であり、EO鎖長による影響はほとんど見られなかった。
【0080】
また図4に示されるように、比較例(n=2またはn=3)においては、低温域で急激にイオン導電率が低下し、80℃でイオン導電率が10−5S/cm以下に達するのに対し、実施例(n=5以上)では低温域でも比較的良好なイオン導電率を維持し、特にEO鎖長がn=10以上では30℃においても10−5S/cm以上を維持し、n=23.5では30℃においても10−4S/cm以上を維持することが可能である。EO鎖長の伸長に伴うイオン導電率の向上は、共重合体のセグメント運動性が向上したためであると考えられ、このことは、表3においてEO鎖が長くなるにつれてTgが低下することからも裏付けられる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
実施例において示されるように、本発明の共重合体(1)を用いた高分子固体電解質は、高いイオン導電率を有し、イオン導電率の温度依存性が小さく、また、分解温度、分解電圧の点でも優れた特性を示すものであった。従って、本発明の高分子固体電解質は、リチウム二次電池用固体電解質に好適に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、Rはメチル基又はエチル基であり、nは5〜100の数である)
で表される繰り返し単位を有する共重合体。
【請求項2】
下記式(1)
【化2】

(式中、Rはメチル基又はエチル基であり、nは5〜100の数である)
で表される繰り返し単位を有する共重合体と、リチウム塩とで構成される高分子固体電解質。
【請求項3】
前記リチウム塩が、LiN(SOCF、LiBF、LiClO、又はLiN(SOCFCFからなる群から選択される1種又は2種以上のリチウム塩であることを特徴とする請求項2記載の高分子固体電解質。
【請求項4】
前記高分子固体電解質に含まれるリチウムと酸素のモル比が、リチウム1に対して酸素5〜30であることを特徴とする請求項2又は3記載の高分子固体電解質。
【請求項5】
前記共重合体が、下記式(2)
【化3】

(式中、Rはメチル基又はエチル基であり、nは5〜100の数である)
で表されるエチレンオキシド鎖を含有するビニルエーテルと、下記式(3)
【化4】

で表されるビニレンカーボネートとをラジカル重合して得られるビニルエーテル/ビニレンカーボネート交互共重合体であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の高分子固体電解質。
【請求項6】
前記共重合体の数平均分子量(Mn)が、2,000〜100,000の範囲であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の高分子固体電解質。
【請求項7】
前記高分子固体電解質のガラス転移温度(Tg)が0℃以下であることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載の高分子固体電解質。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−51962(P2012−51962A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193299(P2010−193299)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】