説明

凍結乾燥カレーの製造方法

【課題】湯戻り及び食味が良好で、カレーの香気成分が保持された凍結乾燥カレーの製造方法を提供する。
【解決手段】食用油脂、野菜ペースト、カレー粉、具材および水を含む混合物を炊き上げてカレーベースを得る工程、得られたカレーベースを凍結乾燥する工程を有する凍結乾燥カレーの製造方法であって、前記カレーベースを高速裁断撹拌機で撹拌する工程を有することを特徴とする凍結乾燥カレーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥カレーの製造方法に関し、詳しくは湯戻りが良好であり、油脂分離が抑制された凍結乾燥カレーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示される凍結乾燥カレーは、良好な湯戻りを実現するために野菜ペーストを用いて粘度を付与している。
【0003】
しかしながら、カレーに含まれる香気成分は揮発性であって、凍結乾燥時に水とともに揮発するため、湯戻しで得られるカレーはカレーの風味がカレールウを用いて炊き上げたカレーと比較して劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−273410
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、湯戻り及び食味が良好で、カレーの香気成分が保持された凍結乾燥カレーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、野菜ペーストを配合したカレーを炊き上げた後、カレーベースを高速裁断撹拌機で撹拌する処理を行い、その後凍結乾燥処理を行うことで、野菜及びスパイスの風味豊かな凍結乾燥カレーが得られることを見出した。
【0007】
本発明は、以下の凍結乾燥カレーの製造方法を提供するものである。
項1. 食用油脂、野菜ペースト、カレー粉、具材および水を含む混合物を炊き上げてカレーベースを得る工程、得られたカレーベースを凍結乾燥する工程を有する凍結乾燥カレーの製造方法であって、前記カレーベースを高速裁断撹拌機で撹拌する工程を有することを特徴とする凍結乾燥カレーの製造方法。
項2. 前記高速裁断撹拌機がコミトロール、ロータリーカッターミル、ミクロマイスターからなる群から選ばれる、項1に記載の凍結乾燥カレーの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、凍結乾燥後もカレーの香気成分が保持され、湯戻し後に凍結乾燥前と遜色ないスパイス及び野菜の風味豊かなカレーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で使用する野菜ペーストは、食物繊維を含む野菜をペースト化したものであれば良く、用いられる野菜としては、アスパラガス、インゲン豆、枝豆、グリーンピース、オクラ、かぼちゃ、キャベツ、にんにく、牛蒡、小松菜、シソ、春菊、しょうが、ヤングコーン、セロリー、大根、竹の子、玉葱、チンゲン菜、トマト、茄子、ニラ、人参、ネギ、白菜、ピーマン、ブロッコリー、ホウレン草などが例示される。野菜をペースト化する過程は種々の方法が適用出来るが、野菜の食物繊維をより多く残存させるような方法が用いられるべきであり、酵素分解処理よりも物理的処理によるペースト化処理が適している。物理的処理によるペーストの製造方法としては、特に限定されないが、例えばチョッパー等の裁断機による微細化後、裏ごし、加熱撹拌による野菜のペースト化が好ましい。さらに、減圧濃縮法による野菜ペーストの濃縮を行うことが最も好ましい。減圧濃縮法は、通常行われる野菜ペーストの濃縮化とは異なり、減圧下で行われるので、短時間の間に野菜の繊維を大きく損なうことなく濃縮を行うことができ、本発明に最も適している。減圧の程度は、製造に使用する野菜の種類により適宜変えることが出来るが、野菜ペーストの水分蒸発品温が40℃〜90℃程度であるように調整することが望ましい。また、野菜ペーストを濃縮することで、少ない添加量により良好な粘度をカレーに付与出来る。このことから野菜ペーストは、食物繊維含有率として5%以上であることが、製造工程中、安定した粘度を維持して効率的な生産を実現しながらも、おいしいカレーを作る点で最も好ましい。
【0010】
野菜ペーストは、食用油脂、野菜ペースト、カレー粉、具材及び水を含むカレーベースに対し10重量%〜80重量%程度、好ましくは20重量%〜70重量%程度含まれる。
【0011】
食用油脂としては、任意の植物油脂および動物油脂ならびにこれらを原料として得られた硬化油を用い得る。植物油脂の例としては、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、コーン油、サフラワー油、パーム油および米油が挙げられる。動物油脂の例としては、牛脂、ギー、バター、バターオイルおよびラードが挙げられる。油脂は好ましくは、菜種油、コーン油、パーム油、牛脂、ラードおよびバターからなる群より選択され、より好ましくはパーム油、牛脂、ラードおよびバターからなる群より選択される。これらの油脂は、単独であるいは混合して用いることができる。
【0012】
食用油脂は、食用油脂、野菜ペースト、カレー粉、具材及び水を含むカレーベースに対し1重量%〜15重量%程度、好ましくは5重量%〜10重量%程度含まれる。
【0013】
カレー粉は、一般に複数の香辛料を組み合わせることによって得られる複合香辛料である。本発明で使用されるカレー粉としては、特に制限されるものではないが、具体的には、ターメリック、サフラン、クミン、コリアンダー、カルダモン、ナツメグ、シナモン、クローブ、ブラックペッパー、フェンネル、陳皮、唐辛子、ジンジャー、オールスパイス、キャラウエイ、山椒、タイム、ホワイトペッパー、アニス、スターアニス、レモングラス、バジル、オニオン、オレガノ、フェヌグリーク、ガーリック、パプリカ、ローリエ等の香辛料の中から、所望の風味に応じて複数種類を組み合わせたものが例示される。
【0014】
カレー粉は、食用油脂、野菜ペースト、カレー粉、具材及び水を含むカレーベースに対し1重量%〜5重量%程度、好ましくは2重量%〜4重量%程度含まれる。
【0015】
カレーベースには、カレー粉、食用油脂、野菜ペーストの他に、水、具材を配合する。具材としては、玉ねぎ、にんじんなどの野菜、牛肉、豚肉、鶏肉などの畜肉類、エビ、イカ、貝柱などの魚介類、カレー粉以外の香辛料、砂糖、食塩、うま味調味料などの調味料、香料、色素などを配合することができる。
【0016】
本発明で使用する高速裁断撹拌機とは、高速で回転する刃と固定されたカッティングヘッドの刃によって投入された食品部が細分化されるものや、大きな相対速度を持つ2面のディスク間の間隙に起きるせん断力と衝撃を利用して液中で裁断と高速撹拌を同時に行うような装置のことをいう。
【0017】
高速裁断撹拌機としては、コミトロール、コロイドミル、電動ミル、マスコロイダー、フードプロセッサー、パルパーフィニッシャー、ロータリーカッターミル(株式会社奈良機械製作所)、ミクロマイスター(増幸産業株式会社)などが挙げられ、コミトロール、ロータリーカッターミル、ミクロマイスターが好ましく例示される。
【0018】
高速裁断撹拌機による処理は、炊き上げた後のカレーベースを高速裁断撹拌機を通すことにより実施することができる。高速裁断撹拌機による処理は、1回のみの短時間行ってもよく、凍結までの間に2回以上繰り返し行ってもよい。高速裁断撹拌機による処理は、食用油脂の分離を抑制する効果がある。
【0019】
高速裁断撹拌機の運転条件は、特に限定されない。例えばコミトロールの使用方法は、通常用いられる方法と同じでよく、投入口より炊き上げたカレーベースを投入し、高速回転する刃とカッティングヘッドを通過させる。カレーベースの品温は特に限定されないが、用いる食用油脂の融点以上であることが望ましい。具体的には、20℃〜90℃程度である。カレーベースの品温が高いほど流動性がよい為、刃の回転速度は遅くても目的とする効果を得る事が可能である。刃の回転速度は、500rpm〜10、000rpm程度、好ましくは1,500rpm〜4,000rpm程度である。
【0020】
このような条件でカレーベースを処理することにより、カレーベースの香気成分が内部に閉じこめられて、凍結乾燥時の揮発を抑制する。
【0021】
カレーベースの製造は、特に限定されず常法に従い行うことができる。例えば食用油脂を100℃以上に昇温後、カレー粉、スパイス類などを投入して加熱撹拌を行いながらカレールウを製造する。この後、砂糖、食塩、うまみ調味料などの粉末原料を投入して品温を下げ、さらに、畜肉エキス、魚介エキス、野菜エキスなどの液体調味料と水を加えて品温を100℃以下に下げる。最後に野菜ペーストを加えて撹拌を行い、粘度付与を行う。このようにして製造したカレーに人参、玉葱等の野菜や、牛肉、豚肉、鶏肉等の畜肉類、エビやイカ、貝柱等の魚介類を混合しても良い。ただし、これらの具材はカレーに混合される前に、ボイル等の加熱処理により、酵素を失活しておく必要がある。酵素活性が残った具材をカレーに混合した場合、野菜ペーストの繊維が分解されて粘度低下が起きる可能性がある。
【0022】
本発明におけるカレーの凍結乾燥は、当該分野で公知の方法によって行うことができる。具体例としては、カレーを−20℃程度で凍結させ、真空減圧することによってカレー中の水分を昇華させ、凍結乾燥カレーを得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明について、具体的に実施例、及び比較例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
実施例1及び比較例1
凍結真空乾燥に供する前のカレーを次の要領で作製した。
【0024】
(カレーベース1の作製)
まず、ラード9重量部を100℃まで加熱し、カレー粉2.0重量部を加えて120℃まで加熱した。さらに、砂糖3重量部、食塩0.5重量部、カラメル色素0.2重量部、香辛料0.2重量部を加えて撹拌を行い、カレールウとした。こうして得たカレールウを100℃以下まで降温させた後、チキンエキス1重量部、カツオエキス1重量部、野菜ペーストA 21.6重量部(生姜ペースト2.0重量部、にんにくペースト0.6重量部、トマトペースト5.0重量部、オニオンペーストA 7.0重量部、オニオンペーストB 7.0重量部)、10mm×10mmにカット後90℃2分間のボイル処理を行った玉ねぎ28.0重量部、さらに、トータルで100重量部となるように水を加えて、90℃達温まで加熱撹拌を行い、カレーベースを炊き上げた。このカレーベースを、コミトロールを通過させることで、高速裁断撹拌処理を施し、カレーベース1とした。
【0025】
なお、オニオンペーストAは減圧濃縮法で製造された食物繊維含有率5%のオニオンペーストである。オニオンペーストBは、ダイサーで5mm×5mmにカット後、加熱撹拌によってペースト化された食物繊維含有率1.5%のオニオンペーストである。
【0026】
(カレーベース2の作製)
まず、ラード9重量部を100℃まで加熱し、カレー粉2.0重量部を加えて120℃まで加熱した。さらに、砂糖3重量部、食塩0.5重量部、カラメル色素0.2重量部、香辛料0.2重量部を加えて撹拌を行い、カレールウとした。こうして得たカレールウを100℃以下まで降温させた後、チキンエキス1重量部、カツオエキス1重量部、野菜ペーストB21.6重量部(生姜ペースト2.0重量部、にんにくペースト0.6重量部、トマトペースト5.0重量部、オニオンペーストA7.0重量部、オニオンペーストB7.0重量部)、オニオンペーストC28.0重量部、さらに、トータルで100重量部となるように水を加えて、90℃達温まで加熱撹拌を行い、カレーベース2を作製した。カレーベース2では、コミトロール処理を行わなかった。
【0027】
なお、野菜ペーストBは、上記記載の野菜ペーストを予め混合した状態で、高速裁断撹拌処理(コミトロール処理)を施したものである。また、オニオンペーストCは、10mm×10mmにカット後90℃2分間のボイル処理を行った玉ねぎを、高速裁断撹拌処理(コミトロール処理)を施し、ペースト状に加工したものである。
【0028】
以上のコミトロール処理は、アーシェルジャパン社製 モデルナンバー1700 カッティングヘッド目開き3.8mmを使用して行った。
【0029】
(実施例1 凍結真空乾燥カレーの調整)
以上のようにして仕上げたカレーベース1を、5.0gのボイル済みスライス牛肉と共に、5cm×5cm×2cmのプラスチックトレーに充填を行い、−20℃の冷凍庫に48時間保管して、完全に凍結させた。その後、東洋製作所の凍結真空乾燥機VF−350を用いて乾燥を行い、即席乾燥カレーを得た。
【0030】
(比較例1 凍結真空乾燥カレーの調整)
以上のようにして仕上げたカレーベース2を、5.0gのボイル済みスライス牛肉と共に、5cm×5cm×2cmのプラスチックトレーに充填を行い、−20℃の冷凍庫に48時間保管して、完全に凍結させた。その後、東洋製作所の凍結真空乾燥機VF−350を用いて乾燥を行い、即席乾燥カレーを得た。
【0031】
(評価例)
表1に評価例を示す。評価結果を次の基準で記した。
(味に一体感を感じるか)
1:全く感じない
2:あまり感じない
3:僅かに感じる
4:よく感じる
(スパイス感の感じ方)
1:あまり感じない
2:弱い
3:強すぎる
4:適度である
(総合的なおいしさは)
1:おいしくない
2:あまりおいしくない
3:まあまあおいしい
4:とてもおいしい
(総合評価)
1:好ましくない
2:あまり好ましくない
3:まあまあ好ましい
4:とても好ましい
(評価方法)
凍結真空乾燥処理後のカレーを、熱湯130ccで湯戻し後、5名のパネルでそれぞれ試食評価を行い、その後に総合評価を判定した。
(評価結果)
炊き上げたカレーベースを、高速裁断撹拌機(コミトロール)によって処理することで、予め野菜原料を高速裁断撹拌機(コミトロール)によって処理したカレーと比較して、味の一体感、スパイス感の感じ方、総合的なおいしさ、いずれにおいても良好な結果が得られた。
【0032】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂、野菜ペースト、カレー粉、具材および水を含む混合物を炊き上げてカレーベースを得る工程、得られたカレーベースを凍結乾燥する工程を有する凍結乾燥カレーの製造方法であって、前記カレーベースを高速裁断撹拌機で撹拌する工程を有することを特徴とする凍結乾燥カレーの製造方法。
【請求項2】
前記高速裁断撹拌機がコミトロール、ロータリーカッターミル、ミクロマイスターからなる群から選ばれる、請求項1に記載の凍結乾燥カレーの製造方法。