説明

凝縮器の防食方法

【課題】有機物、水分および酸性物質を含有するガスを凝縮させるステンレス製などの凝縮器を、容易に、確実に防食する方法を提供する。
【解決手段】本発明の凝縮器の防食方法は、有機化合物、水分および酸性物質を含有するガスを凝縮させる凝縮器の上部内側または該凝縮器の上流側に水または該凝縮器の凝縮液をスプレーすること、およびその水量がガス中の水分1重量部に対して0.2〜1.5重量部であることを特徴とし、また、スプレーする水が、当該凝縮器以外で分離、回収した水を含むものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝縮器の防食方法に関する。詳しくは、有機物、水分および酸性物質を含有するガスを凝縮させる凝縮器の防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物を製造(例えば特許文献1)する際などに、発生する有機化合物を含有するガスを、多くの場合、汎用のステンレス鋼であるSUS304、SUS316、SUS329J4L製の凝縮器を用いて凝縮させている。
【0003】
有機化合物を酸分解する系において、有機物、水分および酸性物質を含有するガスを凝縮させた場合には、酸性物質の種類、および水分や酸性物質の濃度にもよるが、ステンレス製の凝縮器が腐食されることがある。
このような場合には、通常、ハステロイ合金、ジルコニウム、タンタルなどのいわゆる高級材料製の凝縮器が用いられている。
【0004】
しかしながら、これらの材料は高価であること、また、溶接施工が難しく、酸素や窒素と結合して脆化し、問題を起すことがあり、より容易に実施でき、確実に防食する方法が望まれている。
【特許文献1】特開2001−226304号公報(段落0016)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、有機物、水分および酸性物質を含有するガスを凝縮させる凝縮器を、容易で確実に防食する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、有機物、水分および酸性物質を含有するガスを凝縮させる凝縮器の防食方法について鋭意検討した結果、有機化合物、水分および酸性物質を含有するガスを凝縮させる凝縮器の上部内側または該凝縮器の上流側に水または該凝縮器の凝縮液を、その水量としてガス中の水分1重量部に対して0.2〜1.5重量部スプレーすることによって、容易で確実に凝縮器を防食できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、有機化合物、水分および酸性物質を含有するガスを凝縮させる凝縮器の上部内側または該凝縮器の上流側に水または該凝縮器の凝縮液をスプレーすること、およびその水量がガス中の水分1重量部に対して0.2〜1.5重量部であることを特徴とする凝縮器の防食方法である。
また、スプレーする水が、当該凝縮器以外で分離、回収した水を含むものであることを特徴とする前記の凝縮器の防食方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法は、凝縮器の上部内側または凝縮器の上流側に水または当該凝縮器の凝縮液をスプレーするだけであり、容易に、しかも確実にステンレス製などの凝縮器の腐食を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の対象とする凝縮器は、有機化合物、水分および酸性物質を含有するガスを凝縮させる凝縮器であり、通常、汎用のステンレス鋼であるSUS304、SUS316、SUS329J4L製の凝縮器である。また、型式としては多管式凝縮器、ケトル式凝縮器、スパイラル式凝縮器などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0010】
有機化合物、水分および酸性物質を含有するガスとしては、有機溶媒、例えば、メチルイソブチルケトン、アセトン、トルエン、ベンゼン、エーテルなどが挙げられ、また、酸性物質としては、硫酸、酢酸、蟻酸、燐酸、塩酸などの鉱酸、ベンゼンスルホン酸、トリクロル酢酸、トリフルオル酢酸などの有機酸が挙げられる。これらプロセスにおいて凝縮器に導入されるガスは、凝縮器入口近傍において水よりも沸点の低い酸性物質が初期凝縮を起こし、酸性物質の濃度は凝縮処理された凝縮液の平均的酸濃度に比較し、約1〜約10重量%高くなっており、本発明はこれらプロセスにおいて特に有効である。
【0011】
スプレーする水は、工業用水、純水のみならず、製造プロセスの当該凝縮器以外で分離、回収した有機物などを含む水、例えば、当該凝縮器以外の凝縮器で凝縮、分離した水でも良い。また、スプレーする当該凝縮器の凝縮液は、凝縮液そのものでも、凝縮液を油水分離して得られる水層、これらに水を加えたものでも良い。
【0012】
スプレーする水または凝縮液の量は、酸性物質の種類、ガス中に含まれる水分および酸性物質の量によって変わるが、その水量として(すなわち、凝縮液の場合は含まれる水量として)、通常、ガス中に含まれる水分1重量部に対して約0.2〜1.5重量部、好ましくは約0.3〜1重量部である。
添加する水が少なすぎると防食効果が低下して好ましくない。防食効果の観点からはスプレーする水分量は多くても構わないが、それに見合った効果は得られず、むしろ水は最終的に廃棄処理する必要があるため、多すぎるのは好ましくない。
【0013】
水または凝縮液をスプレーする位置としては、凝縮器の上部内側、すなわちチューブの上方、凝縮器の上流側の配管内、凝縮器の上流側にデミスターがある場合にはそのデミスター内が挙げられる。
【実施例】
【0014】
実施例1
メチルイソブチルケトン、アセトン、水分、微量の硫酸を含有するガス(約85〜90℃、約3t/hr)をデミスターを経由して多管式凝縮器(SUS316L製)に導入し、約45℃まで冷却して凝縮させた。
当該多管式凝縮器の凝縮液(メチルイソブチルケトン:約30〜35重量%、アセトン:約55〜65%、水:約5〜10%、硫酸:約30〜70ppm)をデミスター内に約2〜2.5t/hrを循環してスプレーした(スプレーした水量は、ガス中の水分1重量部に対して約0.8重量部)。
凝縮液を循環スプレーしなかった時には、凝縮器のチューブのガス入り口部に腐食が発生した(腐食速度:2.7mm/y)が、凝縮液を循環スプレーすることによって凝縮器に長期間腐食は見られなかった(腐食速度:0.1mm/y未満)。
【0015】
実施例2
クメン、エチルベンゼン、酢酸、蟻酸、水を含有するガス(約220℃)を多管式凝縮器(SUS329J4L製)に導入し、約135℃まで冷却して凝縮させた。
製造プロセスの当該多管式凝縮器以外の凝縮器で凝縮、分離した水(酢酸を約650ppm、蟻酸を15ppmを含有)を当該凝縮器の上部内側でチューブの上方に約0.5〜1.5t/hrをスプレーした。当該凝縮器からの凝縮液を油水分離して得られる水(酢酸を約2100〜2600ppm、蟻酸を約100〜200ppmを含有)は約2〜3.2t/hrであった(スプレーした水量は、ガス中の水分1重量部に対して約0.6重量部)。
水をスプレーすることによって凝縮器に長期間腐食は見られなかった(腐食速度:0.1mm/y未満)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物、水分および酸性物質を含有するガスを凝縮させる凝縮器の上部内側または該凝縮器の上流側に水または該凝縮器の凝縮液をスプレーすること、およびその水量がガス中の水分1重量部に対して0.2〜1.5重量部であることを特徴とする凝縮器の防食方法。
【請求項2】
スプレーする水が、当該凝縮器以外で分離、回収した水を含むものであることを特徴とする請求項1記載の凝縮器の防食方法。