説明

分光測定装置、分光測定用具、分光測定方法およびプログラム

【課題】分光測定用具ごとに計測を行うときに、被検査物質を光が通過する光路長で吸光度を補正する。
【解決手段】発光部11は、分光測定用具2に保持される被検査物質3に複数の波長の光を照射する。受光部13は、被検査物質3を通過した複数の波長の光を受光する。検出部14は、受光部13で受光した光から波長成分吸光度を検出する。光路長算出部16は、検出部14で検出した波長成分吸光度のうち、被検査物質3に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する色素が吸収する光の波長成分吸光度と、その波長成分吸光度の定められた値を比較して、被検査物質3を通過する光路長を算出する。補正部17は、色素が吸収する光の波長以外の検出部14で検出した波長成分吸光度を、光路長算出部16で算出した光路長で補正して、基準の光路長における補正波長成分吸光度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物質の分析対象物質の濃度を吸光光度法で分析する、分光測定装置、分光測定用具、分光測定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
物質が吸収する光の波長は、物質によって異なり、その吸光度は溶液中の物質の濃度と光路長に従って変化する。試料の濃度が小さいとき、溶液中を同じ距離通過した光の吸光度は、試料の濃度に比例することが知られている(ランベルト・ベールの法則)。このランベルト・ベールの法則を利用して、吸光光度法による試料の定量分析が行われている。吸光光度法は、試料溶液に光をあて、その光が試料溶液を通過する際の、対象となる物質による光の吸収の程度、すなわち吸光度を測定することにより、その物質の濃度を定量的に分析する方法である。
【0003】
一般に、吸光光度法で試料溶液を保持する容器をセルといい、透過光で吸光度を測定する場合は、試料を光が通過する長さをセル長ともいう。吸光光度法で物質の濃度を正確に測るためには、試料を光が通過する長さ(セル長)を正確に知ることが必要である。
【0004】
例えば、特許文献1には、分光計測における定量分析において、セル長補正を行うことにより、セル長の異なる複数のセルを利用する技術が開示されている。特許文献1の分光測定法では、所定の複数の波長で分光測光する装置を用いた分光分析において、あらかじめ各種出力変動を各波長ごとに測定し、測定波長数の次元の空間におけるベクトルと考えて、すべてのベクトルに直交する部分空間を求めておく。そして基準となるセルと測定に使用するセルについて、複数の測定対象試料の測定を行い上記の部分空間に射影して、あらかじめ各種の誤差変動を除去する。この射影されたデータを使用して、基準セルを用いた測定値と測定セルを用いた測定値との相関を求め、セル長による変化を補正する。この補正値と検量線式を用いて出力値を求める。これにより、セル長の異なる複数のセルの使用を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−18823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術では、セル長の補正を行う際、多くの波長(実施例では6つ)を使用したうえに、複雑な演算を用いてセル長の補正を行う。
【0007】
しかしながら、検体成分の分析を比色法によって行う際、反応によってシグナルが変化した波長を捉える必要がある。また、そのシグナルが変化している波長領域は決して広くなく、例えば6つの波長を同時に測定するとなると、光源にハロゲンランプやD2ランプ(重水素ランプ)を用いた分光光度計のような大型装置ならまだしも、光源にLEDを用いた小型分析機器の場合、波長特性が異なるLEDを6種類以上搭載する必要があり、制御装置が増えることで小型化が困難であり、システムとしても複雑になってしまう。
【0008】
本発明は上述のような事情に鑑みてなされたもので、分光測定用具ごとに計測を行うときに、被検査物質を光が通過する光路長で吸光度を補正できる、分光測定装置、分光測定用具、分光測定方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点に係る分光測定装置は、
分光測定用具に保持される被検査物質に複数の波長の光を照射する手段と、
前記分光測定用具に保持される被検査物質を通過した複数の波長の光を受光する受光手段と、
前記受光手段で受光した前記複数の波長の光から波長成分吸光度を検出する分光手段と、
前記分光手段で検出した前記波長成分吸光度のうち、前記被検査物質に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する色素が吸収する光の波長成分吸光度と、該波長成分吸光度の定められた値を比較して、前記複数の波長の光が前記分光測定用具に保持される前記被検査物質を通過する光路長を算出する光路長算出手段と、
前記色素が吸収する光の波長以外の前記分光手段で検出した波長成分吸光度を、前記光路長算出手段で算出した光路長で補正して、基準の光路長における補正波長成分吸光度を算出する補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記補正手段は、前記検出した波長成分吸光度から前記色素が吸収する光の波長成分吸光度を差し引いて、前記補正波長成分吸光度を算出することを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記分析対象物質と前記色素は、以下の(a)ないし(f)のいずれか1つの組合せであることを特徴とする。
(a)前記分析対象物質は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、p−ニトロフェノール、5−アミノ−2−ニトロ安息香酸またはリンモリブデン酸を含み、
前記色素は、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を含む。
(b)前記分析対象物質は、ビリベルジンを含み、
前記色素は、インドシアニングリーン、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を含む。
(c)前記分析対象物質は、蛋白−銅イオン錯体を含み、
前記色素は、インドシアニングリーンを含む。
(d)前記分析対象物質は、o−クレゾールフタレインコンプレキソン−Caイオン錯体またはo−クレゾールフタレインコンプレキソン−Mgイオン錯体を含み、
前記色素は、食用青色1号またはインドシアニングリーンを含む。
(e)前記分析対象物質は、4−アミノアンチピリン−トリンダー縮合反応体を含み、
前記色素は、モーダントブルー29、フロキシンBおよびフロキシンBP、または、赤色2号を含む。
(f)前記分析対象物質は、アルブミン−ブロモクレゾールグリーンを含み、
前記色素はインドシアニングリーンまたはフロキシンBを含む。
【0012】
本発明の第2の観点に係る分光測定用具は、
被検査物質を保持する分光測定用具であって、
色素保持部と、内部に2つの平面に挟まれた空洞と、前記分光測定用具の外部から前記空洞の内部に通じる通路とが形成されて、前記空洞を挟む2つの平面のうち少なくとも1つの平面を形成する物質が透明であり、
前記色素保持部に、前記被検査物質に溶解可能であって、前記被検査物質に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する、所定の量の色素が配置されていることを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記分析対象物質と前記色素は、以下の(a)ないし(f)のいずれか1つの組合せであることを特徴とする。
(a)前記分析対象物質は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、p−ニトロフェノール、5−アミノ−2−ニトロ安息香酸またはリンモリブデン酸を含み、
前記色素は、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を含む。
(b)前記分析対象物質は、ビリベルジンを含み、
前記色素は、インドシアニングリーン、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を含む。
(c)前記分析対象物質は、蛋白−銅イオン錯体を含み、
前記色素は、インドシアニングリーンを含む。
(d)前記分析対象物質は、o−クレゾールフタレインコンプレキソン−Caイオン錯体またはo−クレゾールフタレインコンプレキソン−Mgイオン錯体を含み、
前記色素は、食用青色1号またはインドシアニングリーンを含む。
(e)前記分析対象物質は、4−アミノアンチピリン−トリンダー縮合反応体を含み、
前記色素は、モーダントブルー29、フロキシンBおよびフロキシンBP、または、赤色2号を含む。
(f)前記分析対象物質は、アルブミン−ブロモクレゾールグリーンを含み、
前記色素はインドシアニングリーンまたはフロキシンBを含む。
【0014】
本発明の第3の観点に係る分光測定方法は、
被検査物質に、前記被検査物質に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する色素を所定の濃度に溶解する色素添加ステップと、
前記色素を溶解した前記被検査物質を、分光測定用具に保持するステップと、
前記分光測定用具に保持される前記被検査物質に複数の波長の光を照射して、前記分光測定用具に保持される前記被検査物質を通過した複数の波長の光を受光する受光ステップと、
前記受光ステップで受光した前記複数の波長の光から波長成分吸光度を検出する分光ステップと、
前記分光ステップで検出した前記波長成分吸光度のうちの前記色素が吸収する光の波長成分吸光度と、該波長成分吸光度の定められた値を比較して、前記複数の波長の光が前記分光測定用具に保持される前記被検査物質を通過する光路長を算出する光路長算出ステップと、
前記色素が吸収する光の波長以外の前記分光ステップで検出した波長成分吸光度を、前記光路長算出ステップで算出した光路長で補正して、基準の光路長における補正波長成分吸光度を算出する補正ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記補正ステップでは、前記分光ステップで検出した波長成分吸光度から前記色素が吸収する光の波長成分吸光度を差し引いて、前記補正波長成分吸光度を算出することを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記分析対象物質と前記色素は、以下の(a)ないし(f)のいずれか1つの組合せであることを特徴とする。
(a)前記分析対象物質は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、p−ニトロフェノール、5−アミノ−2−ニトロ安息香酸またはリンモリブデン酸を含み、
前記色素は、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を含む。
(b)前記分析対象物質は、ビリベルジンを含み、
前記色素は、インドシアニングリーン、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を含む。
(c)前記分析対象物質は、蛋白−銅イオン錯体を含み、
前記色素は、インドシアニングリーンを含む。
(d)前記分析対象物質は、o−クレゾールフタレインコンプレキソン−Caイオン錯体またはo−クレゾールフタレインコンプレキソン−Mgイオン錯体を含み、
前記色素は、食用青色1号またはインドシアニングリーンを含む。
(e)前記分析対象物質は、4−アミノアンチピリン−トリンダー縮合反応体を含み、
前記色素は、モーダントブルー29、フロキシンBおよびフロキシンBP、または、赤色2号を含む。
(f)前記分析対象物質は、アルブミン−ブロモクレゾールグリーンを含み、
前記色素はインドシアニングリーンまたはフロキシンBを含む。
【0017】
本発明の第4の観点に係るプログラムは、
被検査物質の分光測定を行う分光測定装置を制御するコンピュータに、
分光測定用具に保持される前記被検査物質に複数の波長の光を照射して、前記分光測定用具に保持される前記被検査物質を通過した複数の波長の光を受光する光計測ステップと、
前記光計測ステップで受光した前記複数の波長の光から波長成分吸光度を検出する分光ステップと、
前記分光ステップで検出した前記波長成分吸光度のうち、前記被検査物質に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する色素が吸収する光の波長成分吸光度と、該波長成分吸光度の定められた値を比較して、前記複数の波長の光が前記分光測定用具に保持される前記被検査物質を通過する光路長を算出する光路長算出ステップと、
前記色素が吸収する光の波長以外の前記分光ステップで検出した波長成分吸光度を、前記光路長算出ステップで算出した光路長で補正して、基準の光路長における補正波長成分吸光度を算出する補正ステップと、
を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、分析用具ごとに計測を行うときに、被検査物質を光が通過する光路長で吸光度を補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る分光測定装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】実施の形態に係る分光測定用具の例を示す斜視図である。
【図3A】透過光を用いる分光測定における光路長を説明する図である。
【図3B】反射光を用いる分光測定における光路長を説明する図である。
【図4A】実施の形態に係る分析対象と添加する色素の吸光度の関係を示す図である。
【図4B】実施の形態に係る添加する色素の吸光度と分光測定用具の光路長の関係を示す図である。
【図5】実施の形態に係る分光測定用具の例を示す分解斜視図である。
【図6】実施の形態に係る分光測定用具の例を示す断面図である。
【図7】実施の形態に係る分光測定用具の異なる例を示す分解斜視図である。
【図8】実施の形態に係る分光測定用具の異なる例を示す断面図である。
【図9】実施の形態に係る分光測定用具の変形例を示す分解斜視図である。
【図10】実施の形態に係る分光測定用具の変形例を示す断面図である。
【図11A】実施の形態に係る分光測定の動作の一例を示すフローチャートである。
【図11B】実施の形態に係る分光測定の動作の異なる例を示すフローチャートである。
【図12】実施の形態に係る分析対象物質と添加する色素の組合せの例を示す図である。
【図13】マラカイトグリーンの吸光度を示す図である。
【図14】マラカイトグリーンを添加する場合のセル長と吸光度変化量の関係を示す図である。
【図15】食用青色1号の吸光度を示す図である。
【図16】食用青色1号を添加する場合のセル長と吸光度変化量の関係を示す図である。
【図17】色素の濃度と吸光度の関係の例を示す図である。
【図18】被検査物質の分析対象物質の吸光度と色素の吸光度の関係の例を示す図である。
【図19】本発明の実施の形態に係る分光測定装置の物理的な構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る分光測定装置の構成例を示すブロック図である。分光測定装置1は、発光部11、試料室12、受光部13、検出部14、演算部15、出力部18および制御部19を備える。演算部15は、光路長算出部16と補正部17を含む。試料室12は、分光測定用具2を支持する。分光測定用具2には、分析対象の物質を含む溶液である被検査物質3が保持される。分光測定用具2の被検査物質3を保持する部分は透明であって、外部から照射された光は被検査物質3を通過して、外部に出射する。
【0022】
図1では、煩雑になるのを避けるために、制御部19から各部への線を省略している。制御部19は、発光部11、受光部13、検出部14、演算部15および出力部18が協調して動作するように、各部を制御する。
【0023】
分光測定装置1は、複数の波長の光を被検査物質3に照射し、被検査物質3を通過した光の波長成分ごとの吸光度から、被検査物質3に含まれる分析対象の物質の濃度を測定する。
【0024】
発光部11は、複数の波長の光を分光測定用具2に保持される被検査物質3に照射する。複数の波長の光を生成するには、例えば、連続スペクトルを有する光源の光を分光して、順次照射する。分光には、例えば、干渉フィルタまたはプリズムを用いることができる。あるいは、波長特性の異なる複数の光源を順次切り替えることによって、複数の波長の光を照射してもよい。
【0025】
受光部13は、光電変換素子などから構成され、発光部11から照射されて被検査物質3を通過した複数の波長の光を受光して、光の強度に応じた電気信号に変換する。複数の波長の光を順次照射する場合は、その照射するタイミングに応じて、波長成分ごとの光の強度がわかる。発光部11で、複数の波長の光を同時に照射して、被検査物質3を通過した光を分光して、複数の受光素子で同時に受光する構成でも構わない。
【0026】
図2は、実施の形態に係る分光測定用具の例を示す斜視図である。分光測定用具2は、片面に色素保持部としての凹部21が形成され、内部に空洞23が形成されている。凹部21と空洞23は通路22でつながっている。分光測定用具2の外部から空洞23の内部には通路22で通じている。空洞23からさらに分光測定用具2の端面に達する気道24が形成されている。空洞23は分光測定用具2の主面に平行な平面で挟まれている。分光測定用具2の空洞23を挟む面は、透明であって光を透過する。
【0027】
凹部21に被検査物質3の溶液を注入すると、通路22を伝わって空洞23に保持される。気道24は凹部21に注入された被検査物質3が空洞23に導入されるように、空洞23内の空気を逃がすために設けられている。空洞23に被検査物質3を保持した状態で、発光部11からの光が照射される位置に空洞23が置かれるように、分光測定用具2が試料室12に支持される。発光部11から照射される光は、分光測定用具2の一方の面から入射して、空洞23に保持される被検査物質3を通過して、他方の面から出射する。
【0028】
図3Aは、透過光を用いる分光測定における光路長を説明する図である。図3Aは、分光測定用具2の空洞23の部分の断面に相当する。図3Aの例では、被検査物質3は、2つの透明な平板に挟まれている。点線矢印で示す光は点Aで被検査物質3に入射して、点Bから出射する。被検査物質3を光が通過する光路長は点Aと点Bの距離lである。2つの透明な平板の間隔(点Aと点Bの距離)をセル長という。分光測定用具2の内部で反射することなく光が直交して透過する場合は、被検査物質3を光が通過する光路長はセル長に等しい。以下、被検査物質3を光が通過する光路長のことを、単に光路長という。また、透過光の場合には、光路長をセル長ともいう。
【0029】
図3Bは、反射光を用いる分光測定における光路長を説明する図である。図3Bの例でも、被検査物質3は、2つの透明な平板に挟まれている。点線矢印で示す光は点Iから被検査物質3に入射して、点Rで反射し、点Oで出射する。点Iと点Oが一致する場合もある。点Iから点Rを経由して点Oに至る経路の長さが光路長である。
【0030】
分光測定装置1は、図3Aのような透過型でもよいし、図3Bのように反射型でもよい。図3A、図3Bいずれの場合も、吸光度で被検査物質3に含まれる分析対象物質の濃度を測定するためには、正確な光路長を知る必要がある。
【0031】
本実施の形態では、被検査物質3に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する色素を、被検査物質3に所定の濃度に溶解させておく。そして、色素を溶解した被検査物質3を通過した複数の波長の光の波長成分のうち、添加した色素が吸収する光の波長成分の吸光度から、光路長を算出する。
【0032】
そのために、添加する色素の所定の濃度の溶液の吸光度を、予め複数の光路長で測定しておいて、基準の光路長における所定の濃度のその色素の吸収波長の吸光度を定めておく。そして、色素を溶解した被検査物質3を通過した複数の波長の光のうち、色素の吸収波長の波長成分吸光度と、その波長成分吸光度の定められた値を比較して、光路長を算出する。
【0033】
本実施の形態の分光測定装置1についてより詳しく言えば、図1の発光部11は、複数の波長の光が被検査物質3の中の(波長による屈折率の違いの影響を除いて)同一の光路を通過するように、複数の波長の光を照射する。すなわち、発光部11は、図3Aまたは図3Bにおいて、複数の波長の光が被検査物質3に同じ点で同じ入射角度で入射するように照射する。また、受光部13は、被検査物質3の中の(波長による屈折率の違いの影響を除いて)同一の光路を通過した複数の波長の光を受光する。
【0034】
図3Bに示す反射型の場合(または、図3Aでも光が被検査物質3の表面に垂直に入射しない場合)、一般に被検査物質3の屈折率は波長によって変化するので、厳密には、同じ点で同じ入射角度で入射しても、波長によって光路長はわずかに異なる。しかしその場合、被検査物質3を挟む2つの面のなす角度のばらつきが小さければ、任意の2つの波長の光路長の比は一定とみなせるので、分光測定用具2の個体差に無関係に補正係数を定めておくことができる。また、図3Bで被検査物質3の表面に垂直に光が入射し、入射する点Iと出射する点Oが一致する場合は(または、図3Aで入射する点Aと出射する点Bが波長によって変わらなければ)、光路の差はないので補正する必要はない。
【0035】
図4Aは、実施の形態に係る分析対象と添加する色素の吸収波長の関係を示す図である。図4Aの左の吸光度Mの線が分析対象物質の吸収波長とする。添加する色素の吸収波長が、右の吸光度Pの線で表されるなら、分析対象物質の吸収波長とは独立で、色素の吸光度は、分析対象物質の濃度に影響されない。逆にこのような関係の色素を選択して、被検査物質3に正確に所定の濃度で添加すれば、吸光度と光路長は比例するので、その色素の吸収波長の吸光度から、光路長を算出することができる。
【0036】
図4Bは、実施の形態に係る添加する色素の吸光度と分光測定用具の光路長の関係を示す図である。分析対象物質の濃度に影響されない吸収波長を有する色素、言い換えれば、被検査物質3に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する色素を、被検査物質3に正確な濃度で添加する。そうすると、被検査物質3を通過する光のうち、添加した色素が吸収する(少なくともその一部の)波長成分の吸光度は、図4Bに示すように、光路長に比例する。したがって、その波長成分の吸光度から光路長を算出することができる。
【0037】
図1の検出部14は、受光部13で受光した複数の波長の光から波長成分吸光度を検出する。本実施の形態で波長成分吸光度とは、波長ごとの吸光度を意味する。波長成分吸光度は、以下のようにして検出する。まず、被検査物質3がない(または溶媒だけの)状態で、発光部11から発光して分光測定用具2を透過した光を受光部13で受光し、その受光した光の波長成分(の強度)(基準スペクトル)を計測しておく。この基準スペクトルは、発光部11と受光部13の特性であって、吸光度が0のときのスペクトルである。基準スペクトルの計測は、例えば定期的に、分光測定装置1を較正するときに行っておけばよい。基準スペクトルの計測は、被検査物質3の計測に先だって、毎回行ってもよい。
【0038】
次に、被検査物質3を分光測定用具2に保持して、被検査物質3を透過させた光の波長成分(強度)を計測する。波長ごとに、基準スペクトルの波長成分から被検査物質3を透過した光の波長成分(強度)をひいた差分が、波長成分吸光度である。
【0039】
演算部15の光路長算出部16は、検出部14で検出した波長成分吸光度のうち、被検査物質3に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する色素が吸収する光の波長成分吸光度と、その波長成分吸光度の定められた値を比較して、光路長を算出する。添加した色素の濃度が一定であれば、色素の吸光度と光路長は比例するので、色素の吸光度から、光路長を算出することができる。したがって、添加する色素の濃度の精度で、光路長を知ることができる。
【0040】
補正部17は、検出部14で検出した波長成分吸光度のうち、添加した色素が吸収する光の波長以外の波長成分吸光度を、光路長算出部16で算出した光路長で補正して、基準の光路長における補正波長成分吸光度を算出する。光吸収物質の濃度が一定の場合、その吸光度は光路長に比例する。被検査物質3の実際の光路長は、光路長算出部16で算出した光路長である。そこで、実際の光路長(光路長算出部16で算出した光路長)と、検出部14で検出した波長成分吸光度から比例計算で、基準の光路長における補正波長成分吸光度を算出することができる。
【0041】
補正部17は、検出した波長成分から添加した色素が吸収する光の波長成分吸光度を差し引いて、補正波長成分吸光度を算出することもできる。その場合には、添加する色素の吸収波長の一部が分析対象物質の吸収波長の帯域に掛かっていても、分析対象物質の補正波長成分吸光度を算出することができる。
【0042】
図1に示す制御部19は、発光部11と受光部13が協調して複数の光の発光と受光を行うように制御する。制御部19はまた、色素の吸光度から光路長の算出と波長成分の補正が行われるように、検出部14と演算部15を制御する。出力部18は、分析対象物質の分析のために、補正した波長成分吸光度を分析部(図示せず)などに出力する。分析部では、例えば、予め計測しておいた、分析対象物質が吸収する光の波長における、基準の光路長の吸光度と分析対象物質の濃度との関係を用いて、補正波長成分吸光度から、分析対象物質の濃度を判定する。
【0043】
本実施の形態では、光路長を算出するための色素が吸収する波長の光は、分析対象物質の吸光度を測定する光が通過するのと、同じセルで同じ経路を通過するので、被検査物質3を通過する光路長そのものを知ることができる。また、被検査物質3の測定のときに、光路長を計測するので、分光測定用具ごとに計測を行うときに、被検査物質3を光が通過する光路長で吸光度を補正できる。本実施の形態の方法は、分光測定に先立って被検査物質3に色素を所定の濃度に溶解しておけばよいので、図2の形状以外のどのような分光測定用具2にも適用することができる。
【0044】
本実施の形態ではさらに、被検査物質3に溶解させる色素が所定の濃度になるように、色素を塗布した分光測定用具2を用いる。図5は、実施の形態に係る分光測定用具の例を示す分解斜視図である。図6は、実施の形態に係る分光測定用具の例を示す断面図である。図6は、図2のX−X線断面を示す。
【0045】
分光測定用具2は、透明な基板25と透明なカバー26の間に、凹部21、通路22、空洞23および気道24が形成されたスペーサ27を挟んだ構造になっている。カバー26には、凹部21に重なる部分に孔21Aが形成されている。分光測定用具2は、色素保持部としての凹部21の内面に、色素層28が形成されている。色素層28は、被検査物質3に溶解可能であって、被検査物質3に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する、所定の量の色素が塗布されている。塗布する色素は、分析対象物質に応じて選択される。
【0046】
色素保持部の形態は、被検査物質3に色素を所定の濃度に溶解させることができれば、凹部21に限らない。色素保持部は、たとえば、被検査物質3を透過する多孔質の材料に所定の量の色素を含ませて乾燥させたものを、空洞23に通じる通路22に配置する形態でもよい。その場合、凹部21を形成せず、色素保持部が配置された通路22に分注ノズルで被検査物質3を注入するか、気道24から吸引することによって、被検査物質3に色素を所定の濃度に溶解させて、空洞23に導入することができる。
【0047】
空洞23は、被検査物質3の表面を一定のレベルに保つために、透明なカバー26で覆われている。空洞23は2つの平面に挟まれた構造になっている。透過光を用いる分光測定の場合は、カバー26と基板25の少なくとも空洞23に面する部分が透明である。反射光を用いる分光測定の場合は、空洞23を挟む平面の一方、例えば上のカバー26が透明で、他方、例えば基板25は光を反射する。反射光を用いる場合、下の基板25側から光を照射して、上のカバー26で反射させる構成でもよい。
【0048】
分光測定用具2は、全体として板状の形態を呈しており、長矩形の基板25およびカバー26を、スペーサ27を介して接合した形態を有している。基板25は、たとえば透明なPET、PMMA、PS、ガラスまたはビニロンなどで形成される。カバー26はまた、たとえば透明なPET、PMMA、PS、ガラスまたはビニロンなどで形成される。
【0049】
色素層28は、色素含有液を凹部21の内面に点着した後に、色素含有液を乾燥させることにより形成される。色素含有液は、溶剤に色素を所定の濃度に溶解したものである。色素層28の色素の量が所定の量になるように、色素含有液の量を正確に計って凹部21の内面に点着して乾燥させる。色素層28は、被検査物質に加える試薬を含んで構成されてもよい。
【0050】
以上のように構成された分光測定用具2の凹部21に、所定の量の被検査物質3を注入(または点着)すると、凹部21に塗布された色素が被検査物質3に溶解して、所定の濃度になる。色素が溶解した被検査物質3は、通路22を通って空洞23に導かれる。そののち、分光測定用具2を図1に示す試料室12に支持して、前述の方法で分光測定を行うことができる。
【0051】
図7は、実施の形態に係る分光測定用具の異なる例を示す分解斜視図である。図8は、実施の形態に係る分光測定用具の異なる例を示す断面図である。図8は、図7に示す分光測定用具の断面図に相当する。図7および図8に示す分光測定用具2では、凹部21を形成した面に気道24の開口部24Aを形成している。
【0052】
図7および図8の分光測定用具2でも、用い方と作用は、図5の分光測定用具と同じである。図7および図8の場合、分光測定用具2を水平に支持した状態で、被検査物質が気道から漏れ出るおそれがない。
【0053】
図9は、実施の形態に係る分光測定用具の変形例を示す分解斜視図である。図10は、実施の形態に係る分光測定用具の変形例を示す断面図である。図10は、図9に示す分光測定用具の断面図に相当する。図9および図10に示す分光測定用具2では、凹部21と空洞23は通路22でつながっていない。その代わりに、カバー26に注入口29Aが形成されている。注入口29Aと空洞23は、通路29でつながっている。分光測定用具2の外部から空洞23の内部には通路29で通じている。変形例の分光測定用具2では、図7と同様、気道24の開口24Aがカバー26に形成されている。変形例の分光測定用具2でも、凹部21の内面に色素層28が形成されている。
【0054】
図9および図10に示す変形例では、所定の量の被検査物質3を凹部21に注入して、色素層28の色素を被検査物質3に溶解させる。そして、色素が一定濃度に溶解した被検査物質3を、凹部21から注入口29に移す。凹部21から注入口29Aに移す被検査物質3の量は、空洞3を満たすに足りればよく、正確に計る必要はない。注入口29Aから注入された被検査物質3は、通路22を通って空洞23に導かれる。そののち、分光測定用具2を図1に示す試料室12に支持して、前述の方法で分光測定を行うことができる。
【0055】
上述の分光測定用具2を用いれば、被検査物質3の量を正確に計って分光測定用具2に注入するだけで、容易に本実施の形態の方法で分光測定を行うことができる。分析対象物質に応じた色素を塗布した分光測定用具2を用意することによって、さまざまな分析対象物質の吸光光度法による分析を容易に行うことができる。以下、本実施の形態に係る分光測定装置1の動作を説明する。
【0056】
図11Aは、実施の形態に係る分光測定の動作の一例を示すフローチャートである。分光測定に先だって、被検査物質3に所定の濃度で分析対象物質に応じた色素を溶解しておく。色素を溶解した被検査物質3を保持する分光測定用具2を試料室12に支持して、分光測定を開始する。
【0057】
制御部19は、試料室12に分光測定用具2が正しく支持されて、外部から光が入らないように閉じられていることをセンサー(図示せず)の信号で確認し、発光部11から複数の波長の光を分光測定用具2に照射させ、同時に受光部13で光を受光させる(ステップS11)。検出部14は、受光部13で受光した光から、複数の波長の光から波長成分吸光度を検出する(ステップS12)。
【0058】
演算部15の光路長算出部16は、色素が吸収する所定の波長の吸光度(波長成分吸光度)を抽出し(ステップS13)、その波長成分吸光度の定められた値と比較して、光路長を算出する(ステップS14)。補正部17は、検出部14で検出した波長成分吸光度のうち、色素が吸収する光の波長以外の波長成分吸光度を、光路長算出部16で算出した光路長で補正して、基準の光路長における補正波長成分吸光度を算出する(ステップS15)。出力部18は、分析対象物質の分析のために、補正した波長成分吸光度を外部に出力する(ステップS16)。補正波長成分吸光度を受け取った分析部では、例えば、分析対象物質が吸収する光の波長における、基準の光路長の吸光度と分析対象物質の濃度との関係を用いて、補正波長成分吸光度から、分析対象物質の濃度を判定する。
【0059】
図11Bは、実施の形態に係る分光測定の動作の異なる例を示すフローチャートである。図11Bは、検出した波長成分から添加した色素が吸収する光の波長成分を差し引いて、補正波長成分を算出する場合の動作を示す。図11BのステップS21〜ステップS24の動作は、図11AのステップS11〜ステップS14と同様である。
【0060】
補正部17は、光路長算出部16で光路長を算出(ステップS24)したのちに、検出した波長成分吸光度から添加した色素が吸収する光の波長成分吸光度を差し引く(ステップS25)。そして、その差分を光路長算出部16で算出した光路長で補正して、基準の光路長における補正波長成分吸光度を算出する(ステップS26)。出力部18は、図11Aと同様に補正した波長成分吸光度を出力する(ステップS27)。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態の分光測定装置1によれば、被検査物質3に色素を所定の濃度で溶解させることによって、分析用具ごとに計測を行うときに、被検査物質3を光が通過する光路長で吸光度を補正できる。さらに、本実施の形態の分光測定用具2を用いれば、被検査物質3の量を正確に計って注入することによって、被検査物質3に色素を所定の濃度に溶解させることができる。以下、分析対象物質と添加する色素の組合せについて、具体的な例を説明する。
【0062】
(具体例)
図12は、実施の形態に係る分析対象物質と添加する色素の組合せの例を示す図である。図12の項目は、主に臨床検査における生化学検査を対象にしている。主波長は、検出する分析対象物質が吸収する光の波長の主たる成分の波長である。光路長モニターに使用できる色素は、分析対象物質の濃度に影響されない吸収波長を有する色素で、被検査物質3に添加して光路長を算出できる色素の例である。補正波長可能範囲は、その範囲に吸収波長を有する色素を用いて、光路長を算出する吸光度を測定できることを示す。具体例補正波長は、光路長モニターに使用できる色素の欄に挙げた色素の吸収波長である。項目によって、反応で分析対象物質の生成する変化量を計測する場合と、反応が終わって生成した総量を計測する場合があるが、いずれにも本実施の形態を適用することができる。
【0063】
番号1の、ALT(Alanine transaminase:アラニントランスアミナーゼ)、AST(Aspartate Amino Transferase:アスパラギン酸アミノ基転移酵素)、および、UN(Urea nitrogen:尿素窒素)の項目では、主に血清と試薬の反応によって、項目の物質の濃度に応じて変化するNAD(nicotinamide adenine dinucleotide:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド )またはNADP(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)の、還元型(NADH/NADPH)の濃度を分析する。番号1の分析対象物質では、NADHまたはNADPHをNAD(P)Hとまとめて表現している。NADH/NADPHの主波長は340nmである。
【0064】
番号2のCK(Creatine Kinase:クレアチンキナーゼ)、CRE(クレアチニン)、LD(Lactate Dehydrogenase:乳酸脱水素酵素)、GLU(グルコース)、TG(中性脂肪)、T−CHO(総コレステロール)、および、HDL−C(HDLコレステロール)の項目においても、NAD/NADPの還元型(NADH/NADPH)(主波長は340nm)の濃度を分析する。番号1と番号2の項目では、補正波長可能範囲は、400−800nmである。番号1と番号2の項目で添加する色素には、630nmの吸収波長を有するマラカイトグリーンまたは食用青色1号(ブリリアントブルーFCF (Brilliant Blue FCF))を用いることができる。
【0065】
番号3のAMY(amylase:アミラーゼ)、ALP(Alkaline Phosphatase:アルカリホスファターゼ)の項目では、p−ニトロフェノール(pNP)の吸光度変化量を測定する。pNPの主波長は、405nmである。pNPの吸光度測定でも、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を用いることができる。
【0066】
番号4のGGT(γ-glutamyltransferase:γ-グルタミルトランスフェラーゼ)は、5−アミノ−2−ニトロ安息香酸の濃度を測定する。GGTでも主波長は405nmであり、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を用いることができる。
【0067】
番号5のT−BIL(ビリベルジン (Biliverdin)) は、ヘモグロビンなどに含まれるヘムの生分解産物の中間体で、緑色のテトラピロール化合物である。ビリベルジンの主波長は450nmで、添加する色素には、インドシアニングリーン、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を用いることができる。
【0068】
番号6のTP(血清総タンパク)は、蛋白−銅イオン錯体の濃度を測定する。蛋白−銅イオン錯体の主波長は550nmであり、添加する色素として、インドシアニングリーンを用いることができる。
【0069】
番号7のCa(カルシウム)または番号8のMg(マグネシウム)は、キレート法によってOCPC(o−クレゾールフタレインコンプレキソン)との錯体が生成して、色調が変化するのを測定する。番号7および8では、主波長は570nmであり、添加する色素として、食用青色1号またはインドシアニングリーンを用いることができる。
【0070】
番号9のUA(尿酸)は、トリンダー試薬で生成する4−AAトリンダー縮合反応体(4−アミノアンチピリン−トリンダー縮合反応体)の濃度を測定する。4−AAトリンダー縮合反応体の主波長は630nmである。補正波長可能範囲は、400−570nmである。そこで、分析で添加する色素には、モーダントブルー、フロキシンBもしくはフロキシンBP、または赤色2号を用いることができる。
【0071】
番号10のALB(アルブミン)は、Alb−BCG(Albumen - Bromocresol Green:アルブミン−ブロモクレゾールグリーン)結合体の濃度を測定する。Alb−BCGの主波長は、630nmであり、補正波長可能範囲は、400−570nm、および700−800nmである。Alb−BCGの分析では、添加する色素としてインドシアニングリーンまたはフロキシンBを用いることができる。
【0072】
番号11のIP(無機リン)は、リンモリブデン酸の濃度を測定する。リンモリブデン酸の主波長は730nmであり、補正波長可能範囲は400−660nmである。添加する色素としてマラカイトグリーンまたは食用青色1号を用いることができる。
【0073】
図13は、マラカイトグリーンの吸光度を示す図である。図13の例では、NADH(還元型NAD)14mMを含む被検査物質3にマラカイトグリーンを一定濃度に添加して、異なるセル長の分光測定用具2で吸光度を測定した。図13の例は、図12の番号2の項目に対応する。NADHの吸収波長は340nmで、マラカイトグリーンの吸収波長630nmに影響を及ぼさないことが見て取れる。セル長が大きくなるにつれて吸光度が大きくなっている。
【0074】
図14は、マラカイトグリーンを添加する場合のセル長と吸光度変化量の関係を示す図である。図14は、図13の結果からセル長に対してマラカイトグリーンの吸光度をプロットしたものである。ここでは、マラカイトグリーンの吸光度を、630nmとそれ以降(630〜700nm)の範囲でとっている。被検査物質3に含まれるビリルビン、溶血および濁度などの吸収を考慮すると、光路長を630nmとそれ以降の波長との2波長補正演算により求めるのが好ましい。図14から、被検査物質3にNADHが含まれても、マラカイトグリーンの吸光度はセル長に比例すると言える。
【0075】
図15は、食用青色1号の吸光度を示す図である。図15の例では、NADH7mMを含む被検査物質3に食用青色1号を一定濃度に添加して、異なるセル長の分光測定用具2で吸光度を測定した。図15の例も、図12の番号2の項目に対応する。食用青色1号の場合も、630nm以降の波長領域でNADHの吸収波長に影響されないことが見て取れる。
【0076】
図16は、食用青色1号を添加する場合のセル長と吸光度変化量の関係を示す図である。図16は、図15の結果からセル長に対して食用青色1号の吸光度をプロットしたものである。ここでも、食用青色1号の吸光度を、630nmとそれ以降(630〜700nm)の範囲でとっている。食用青色1号の場合にも、被検査物質3にNADHが含まれても、食用青色1号の吸光度はセル長に比例すると言える。
【0077】
図17は、色素の濃度と吸光度の関係の例を示す図である。図17は、血清+緩衝剤の被検査物質3に、インドシアニングリーンを0.00%、0.01%、0.04%および0.10%加えた場合の吸光度の変化を示す。図17の例では、緩衝剤にN−メチル−D−グルカミン(MEG)とN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)を用いて、pH10に調整している。図17に示されるように、インドシアニングリーンの濃度が大きくなるに従って、吸光度が大きくなっている。
【0078】
図18は、被検査物質の分析対象物質の吸光度と色素の吸光度の関係の例を示す図である。図18の例は、血清のみの場合、血清にインドシアニングリーンを添加した場合、および、血清にMg反応を起こさせてインドシアニングリーンを添加した場合、のそれぞれの被検査物質3の吸光度を測定した結果である。図18の例は、図12の番号8のMg項目に対応する。
【0079】
図18からは、血清はインドシアニングリーンの吸光度に影響を及ぼさないことと、Mg反応の吸光度とインドシアニングリーンの吸光度は相互に干渉しないことが見て取れる。したがって、インドシアニングリーンを所定の濃度で添加すれば、インドシアニングリーンの吸光度からセル長を算出することができる。また、インドシアニングリーンに影響されることなく、Mg反応(OCPC−MGイオン錯体)の吸光度を測定することができる。そして、インドシアニングリーンの吸光度から算出したセル長で、Mg反応の吸光度を基準のセル長に補正して、Mg反応の濃度を正確に分析することができる。
【0080】
図19は、実施の形態に係る分光測定装置の物理的な構成例を示すブロック図である。分光測定装置1は、図19に示すように、制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35および入出力部36を備える。主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35および入出力部36はいずれも内部バス30を介して制御部31に接続されている。
【0081】
制御部31はCPU(Central Processing Unit)等から構成され、外部記憶部33に記憶されている制御プログラム39に従って、前述の分光測定のための処理を実行する。
【0082】
主記憶部32はRAM(Random-Access Memory)等から構成され、外部記憶部33に記憶されている制御プログラム39をロードし、制御部31の作業領域として用いられる。
【0083】
外部記憶部33は、フラッシュメモリ、ハードディスク、DVD−RAM(Digital Versatile Disc Random-Access Memory)、DVD−RW(Digital Versatile Disc ReWritable)等の不揮発性メモリから構成され、上述の処理を制御部31に行わせるための制御プログラム39を予め記憶し、また、制御部31の指示に従って、この制御プログラム39が記憶するデータを制御部31に供給し、制御部31から供給されたデータを記憶する。
【0084】
操作部34はキーボードおよびマウスまたはタッチパネルなどのポインティングデバイス等と、キーボードおよびポインティングデバイス等を内部バス30に接続するインタフェース装置から構成されている。操作部34を介して、分析対象物質および添加する色素に関する入力操作を受付ける。
【0085】
表示部35は、LCD(Liquid Crystal Display)もしくは有機ELディスプレイ、およびスピーカなどから構成され、分光測定に関して算出したセル長、補正した分析対象物質の吸光度、分析対象物質の濃度などのデータを表示する。
【0086】
入出力部36は、シリアルインタフェースまたはパラレルインタフェースから構成されている。入出力部36に発光部11および受光部13が接続される。また、試料室12の分光測定用具2を検出するセンサ、試料室12が閉じられていることを検出するセンサなどが入出力部36に接続される。制御部31は、入出力部36を介して発光部11および受光部13に指令を送り、受光部13からの信号を受け取る。
【0087】
分光測定装置1の検出部14、演算部15、出力部18および制御部19などの処理は、制御プログラム39が、制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35、入出力部36および送受信部37などを資源として用いて処理することによって実行する。
【0088】
その他、前記のハードウエア構成やフローチャートは一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0089】
制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、内部バス30などから構成される制御処理を行う中心となる部分は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。たとえば、前記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM等)に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、前記の処理を実行する分光測定装置1を構成してもよい。また、インターネット等の通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に当該コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロード等することで分光測定装置1を構成してもよい。
【0090】
また、分光測定装置1の機能を、OS(オペレーティングシステム)とアプリケーションプログラムの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体や記憶装置に格納してもよい。
【0091】
また、搬送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。たとえば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS:Bulletin Board System)に前記コンピュータプログラムを掲示し、ネットワークを介して前記コンピュータプログラムを配信してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、前記の処理を実行できるように構成してもよい。
【0092】
本発明は、上記発明の実施の形態および具体例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0093】
本明細書の中で明示した公開特許公報の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【0094】
本出願は、2011年7月6日に出願された日本国特許出願2011−150436号に基づく。本明細書中に、日本国特許出願2011−150436号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【符号の説明】
【0095】
1 分光測定装置
2 分光測定用具
3 被検査物質
11 発光部
12 試料室
13 受光部
14 検出部
15 演算部
16 光路長算出部
17 補正部
18 出力部
19 制御部
21 凹部
22 通路
23 空洞
24 気道
24A 開口部
25 基板
26 カバー
27 スペーサ
28 色素層
29 通路
29A 注入口
30 内部バス
31 制御部
32 主記憶部
33 外部記憶部
34 操作部
35 表示部
36 入出力部
39 制御プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光測定用具に保持される被検査物質に複数の波長の光を照射する手段と、
前記分光測定用具に保持される被検査物質を通過した複数の波長の光を受光する受光手段と、
前記受光手段で受光した前記複数の波長の光から波長成分吸光度を検出する分光手段と、
前記分光手段で検出した前記波長成分吸光度のうち、前記被検査物質に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する色素が吸収する光の波長成分吸光度と、該波長成分吸光度の定められた値を比較して、前記複数の波長の光が前記分光測定用具に保持される前記被検査物質を通過する光路長を算出する光路長算出手段と、
前記色素が吸収する光の波長以外の前記分光手段で検出した波長成分吸光度を、前記光路長算出手段で算出した光路長で補正して、基準の光路長における補正波長成分吸光度を算出する補正手段と、
を備えることを特徴とする分光測定装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記検出した波長成分吸光度から前記色素が吸収する光の波長成分吸光度を差し引いて、前記補正波長成分吸光度を算出することを特徴とする請求項1に記載の分光測定装置。
【請求項3】
前記分析対象物質と前記色素は、以下の(a)ないし(f)のいずれか1つの組合せであることを特徴とする請求項1または2に記載の分光測定装置。
(a)前記分析対象物質は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、p−ニトロフェノール、5−アミノ−2−ニトロ安息香酸またはリンモリブデン酸を含み、
前記色素は、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を含む。
(b)前記分析対象物質は、ビリベルジンを含み、
前記色素は、インドシアニングリーン、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を含む。
(c)前記分析対象物質は、蛋白−銅イオン錯体を含み、
前記色素は、インドシアニングリーンを含む。
(d)前記分析対象物質は、o−クレゾールフタレインコンプレキソン−Caイオン錯体またはo−クレゾールフタレインコンプレキソン−Mgイオン錯体を含み、
前記色素は、食用青色1号またはインドシアニングリーンを含む。
(e)前記分析対象物質は、4−アミノアンチピリン−トリンダー縮合反応体を含み、
前記色素は、モーダントブルー29、フロキシンBおよびフロキシンBP、または、赤色2号を含む。
(f)前記分析対象物質は、アルブミン−ブロモクレゾールグリーンを含み、
前記色素はインドシアニングリーンまたはフロキシンBを含む。
【請求項4】
被検査物質を保持する分光測定用具であって、
色素保持部と、内部に2つの平面に挟まれた空洞と、前記分光測定用具の外部から前記空洞の内部に通じる通路とが形成されて、前記空洞を挟む2つの平面のうち少なくとも1つの平面を形成する物質が透明であり、
前記色素保持部に、前記被検査物質に溶解可能であって、前記被検査物質に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する、所定の量の色素が配置されていることを特徴とする分光測定用具。
【請求項5】
前記分析対象物質と前記色素は、以下の(a)ないし(f)のいずれか1つの組合せであることを特徴とする請求項4に記載の分光測定用具。
(a)前記分析対象物質は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、p−ニトロフェノール、5−アミノ−2−ニトロ安息香酸またはリンモリブデン酸を含み、
前記色素は、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を含む。
(b)前記分析対象物質は、ビリベルジンを含み、
前記色素は、インドシアニングリーン、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を含む。
(c)前記分析対象物質は、蛋白−銅イオン錯体を含み、
前記色素は、インドシアニングリーンを含む。
(d)前記分析対象物質は、o−クレゾールフタレインコンプレキソン−Caイオン錯体またはo−クレゾールフタレインコンプレキソン−Mgイオン錯体を含み、
前記色素は、食用青色1号またはインドシアニングリーンを含む。
(e)前記分析対象物質は、4−アミノアンチピリン−トリンダー縮合反応体を含み、
前記色素は、モーダントブルー29、フロキシンBおよびフロキシンBP、または、赤色2号を含む。
(f)前記分析対象物質は、アルブミン−ブロモクレゾールグリーンを含み、
前記色素はインドシアニングリーンまたはフロキシンBを含む。
【請求項6】
被検査物質に、前記被検査物質に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する色素を所定の濃度に溶解する色素添加ステップと、
前記色素を溶解した前記被検査物質を、分光測定用具に保持するステップと、
前記分光測定用具に保持される前記被検査物質に複数の波長の光を照射して、前記分光測定用具に保持される前記被検査物質を通過した複数の波長の光を受光する受光ステップと、
前記受光ステップで受光した前記複数の波長の光から波長成分吸光度を検出する分光ステップと、
前記分光ステップで検出した前記波長成分吸光度のうちの前記色素が吸収する光の波長成分吸光度と、該波長成分吸光度の定められた値を比較して、前記複数の波長の光が前記分光測定用具に保持される前記被検査物質を通過する光路長を算出する光路長算出ステップと、
前記色素が吸収する光の波長以外の前記分光ステップで検出した波長成分吸光度を、前記光路長算出ステップで算出した光路長で補正して、基準の光路長における補正波長成分吸光度を算出する補正ステップと、
を備えることを特徴とする分光測定方法。
【請求項7】
前記補正ステップでは、前記分光ステップで検出した波長成分吸光度から前記色素が吸収する光の波長成分吸光度を差し引いて、前記補正波長成分吸光度を算出することを特徴とする請求項6に記載の分光測定方法。
【請求項8】
前記分析対象物質と前記色素は、以下の(a)ないし(f)のいずれか1つの組合せであることを特徴とする請求項6または7に記載の分光測定方法。
(a)前記分析対象物質は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、p−ニトロフェノール、5−アミノ−2−ニトロ安息香酸またはリンモリブデン酸を含み、
前記色素は、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を含む。
(b)前記分析対象物質は、ビリベルジンを含み、
前記色素は、インドシアニングリーン、マラカイトグリーンまたは食用青色1号を含む。
(c)前記分析対象物質は、蛋白−銅イオン錯体を含み、
前記色素は、インドシアニングリーンを含む。
(d)前記分析対象物質は、o−クレゾールフタレインコンプレキソン−Caイオン錯体またはo−クレゾールフタレインコンプレキソン−Mgイオン錯体を含み、
前記色素は、食用青色1号またはインドシアニングリーンを含む。
(e)前記分析対象物質は、4−アミノアンチピリン−トリンダー縮合反応体を含み、
前記色素は、モーダントブルー29、フロキシンBおよびフロキシンBP、または、赤色2号を含む。
(f)前記分析対象物質は、アルブミン−ブロモクレゾールグリーンを含み、
前記色素はインドシアニングリーンまたはフロキシンBを含む。
【請求項9】
被検査物質の分光測定を行う分光測定装置を制御するコンピュータに、
分光測定用具に保持される前記被検査物質に複数の波長の光を照射して、前記分光測定用具に保持される前記被検査物質を通過した複数の波長の光を受光する光計測ステップと、
前記光計測ステップで受光した前記複数の波長の光から波長成分吸光度を検出する分光ステップと、
前記分光ステップで検出した前記波長成分吸光度のうち、前記被検査物質に含まれる分析対象物質が吸収する光の波長以外の波長の光を吸収する色素が吸収する光の波長成分吸光度と、該波長成分吸光度の定められた値を比較して、前記複数の波長の光が前記分光測定用具に保持される前記被検査物質を通過する光路長を算出する光路長算出ステップと、
前記色素が吸収する光の波長以外の前記分光ステップで検出した波長成分吸光度を、前記光路長算出ステップで算出した光路長で補正して、基準の光路長における補正波長成分吸光度を算出する補正ステップと、
を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−33031(P2013−33031A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−139417(P2012−139417)
【出願日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】