説明

分割可能な錠剤

【課題】断面V形の割溝を設けておらず、錠剤の摩損や錠剤縁部の欠損の起端となるエッジや角部を全く有しない分割可能な錠剤を提供する。
【解決手段】錠剤本体の径方向で相互に直交するX軸及びY軸と、錠剤本体の厚さを増す方向のZ軸に関して、錠剤本体の上縁部(24)がX軸に交差する低位縁部(24L)からY軸に交差する高位縁部(24H)に至り次第にZ軸方向に向けて上り傾斜ラインを描き、凸状曲面(28Y)を形成する一対の隆起部(25,25)が上縁部(24)よりもZ軸方向に突出し、隆起部(25,25)の間にX軸に沿う谷部(29)を形成する。隆起部(25,25)を囲む傾斜周面(30)と稜線相当部(31)が周方向に途切れることなく錠剤本体(22)の全周にわたり環状に周設され、斜周面(30)の低位斜面部(30L)を谷部(29)の両端と低位縁部(24L)の間に介在させ、谷部(29)の谷底部を低位縁部(24L)よりも上方に位置させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末又は顆粒等の粉体を固形化した錠剤であって、分割可能とした錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
分割可能な錠剤は、活性成分の服用量に応じて、薬剤師等の医療従事者又は患者自身が指先等で分割できるように構成されている。
【0003】
分割可能な錠剤は、その開発に際して、下記の課題に留意する必要がある。
(1)錠剤の表面にフィルムコーティングを施すコーティング工程において、錠剤どうしが相互に付着するツウィニング(twinning)を起こさないこと。
(2)ホッパーやコンベヤ等による搬送工程、瓶詰め工程、その他の工程において、振動や、錠剤の相互衝突や、落下衝撃等により、錠剤が摩損したり、錠剤縁部の欠損が生じないこと。
(3)指先等で簡単容易に錠剤を分割することができ、しかも、均等に分割できること。そして、分割作業は、錠剤の割線を上向きにした場合と該割線を下向きにした場合の何れの場合でも容易に行うことができ、更に好ましくは、プレススルーパッケージ(PTP)に収容された錠剤を該パッケージの外側からでも容易に分割できること。
(4)その反面、意図しない外力を受けたとき、錠剤が不慮に分割されないこと。
(5)打錠に際し、粉体が上杵のキャビティに付着するスティッキング(sticking)を生じることがなく、しかも、上杵は、破損のおそれがないように形成できること。
【0004】
図12に示す従来例1において、錠剤1は、ほぼ円柱形とされた錠剤本体2の直径方向に断面V形の割溝3を設けている。該割溝3の最深部は、符号Lで示す錠剤本体2の上縁部4の位置よりも符号nで示すように下方に位置させられ、これにより割溝3が所定の深さに形成されている。錠剤本体2の上面には、前記割溝3の両側に位置して上方に膨隆する凸状面を形成する一対の隆起部5、5が設けられており、該隆起部5、5の稜線6が前記上縁部4の内側に位置して割溝3と交差し、割溝3の両端と稜線6の間に三角形状の面取り部7を形成する。
【0005】
そこで、従来例1の錠剤1は、割溝3の両側に位置する隆起部5、5に押圧力を加えることにより、割溝3の最深部(溝底)に亀裂を生じさせながら分割することができる。しかしながら、上記の留意すべき課題に関して、次のような問題がある。
(a)錠剤本体2の上縁部4が割溝3の両端に交差して分断されることによりエッジ3aを形成し、該エッジ3aに向けて面取り部7の先端に角部7aが形成される。従って、このようなエッジ3a及び角部7aの部分において、上述の錠剤の摩損や錠剤縁部の欠損を招来する問題がある。
(b)錠剤本体2の直径cに比較して、隆起部5、5の凸状面を規定する曲率半径R1がかなり大きく形成され、従って、隆起部5、5の頂上が比較的低く、頂上から割溝3の溝底までの高さdが十分でないため、分割の容易性が良好でない。そして、無理に分割するときは、亀裂の方向が偏り、均等に分割されないおそれがある。
(c)製剤(打錠)は、図12(D)に示すように、筒状の臼8の下側に挿入された下杵9と上側に挿入された上杵10の間で粉体を圧縮して固形化することにより行われ、上杵10には、下向きに開口するキャビティ11と、該キャビティ11の横断方向に配置された刃12が設けられ、キャビティ11の下向き開口縁により周縁13が形成されている。これにより、前記周縁13が錠剤本体2の上縁部4を成形し、前記キャビティ11が隆起部5、5を成形し、前記刃12が割溝3を成形する。しかしながら、従来例1の場合、断面V形の深い割溝3を形成するための刃12が前記周縁13よりも突出するものであるから、上杵10の保管等の取扱いに際して、突出した刃12が異物に衝突して破損しやすく、取扱いが困難である。
(d)また、図12(E)に符号kで示すように、錠剤本体2の上縁部4の分断個所に対応して上杵10の周縁13も分断されているので、打錠時に周縁13の分断個所(刃12と周縁13の境界部分)に応力が集中し、打錠の繰り返しにより当該個所が早期に摩耗する。
【0006】
図13は、上記の従来例1の変形例を示しており、錠剤1を分割しやすくするため、錠剤本体2の直径に比較して隆起部5、5の凸状面を規定する曲率半径Rmを小さくすることにより、隆起部5、5の頂上を高くして、頂上から割溝3の溝底までの高さdmを大きく形成している。しかしながら、このような変形例の場合、分割容易性を向上できる反面、次のような問題がある。
(e)隆起部5、5を高くするためには、符号vmで示すように上杵10のキャビティ11を深く形成する必要がある。ところが、この場合、打錠に際して、離型した上杵10のキャビティ11に素錠が付着したまま離脱せず、スティッキングを起こすおそれがある。
(f)分割の容易性を追究する余り、隆起部5、5の頂上から割溝3の溝底までの高さdmを大きくし過ぎると、意図しない外力を受けたときに錠剤が不慮に分割されてしまうという問題がある。
その他、従来例1について指摘した問題点(a)(c)(d)は、依然として未解決のままである。
【0007】
図14に示す従来例2において、錠剤14は、ほぼ円柱形とされた錠剤本体15の直径方向に断面V形の割溝16を設けている。該割溝16の最深部は、錠剤本体15の上縁部17の位置よりも符号nで示すように下方に位置させられ、これにより割溝16が所定の深さに形成されている。錠剤本体15の上面には、前記割溝16の両側に位置して上面を凹状曲面とした隆起部18、18が設けられ、該隆起部18、18の稜線19が割溝16の両端に交差し、割溝16により分断させられている。前記上縁部17は、割溝16の両端により分断され、該分断部分から符号L1及びL2で示すように隆起部18の稜線19とほぼ平行して上向き傾斜するように延びる。
【0008】
そこで、従来例2の錠剤14は、割溝16の両側に位置する隆起部18、18に押圧力を加えることにより、割溝16の最深部(溝底)に亀裂を生じさせながら分割することができる。しかしながら、下記に説明するような課題が残されている。
(g)錠剤本体15の上縁部17と隆起部18、18の稜線19が割溝16の両端に交差して分断されているので、割溝16の両端にエッジ16aが形成され、しかも、稜線19と上縁部17の間で割溝16に臨むエッジ17aが形成される。このため、このようなエッジ16a、17aの部分において、上述の錠剤の摩損や錠剤縁部の欠損を招来する問題がある。
(h)隆起部18、18は、凹状曲面を形成しているので、図示のように、錠剤本体15の下面に球面状の凸面20を形成した錠剤14の場合、ツウィニングを起こすおそれがある。
(i)錠剤本体14の隆起部18、18の頂上が比較的低く、頂上から割溝16の溝底までの高さdが十分でないため、分割の容易性が良好でない。そして、無理に分割するときは、亀裂の方向が偏り、均等に分割できない。
(j)割溝16の最深部(溝底)が上縁部17よりも下方に位置するので、従来例1について上述した(c)及び(d)と同様の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3670710号公報
【特許文献2】特許第3839065号公報
【特許文献3】特許第3015677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
錠剤本体の上面に凸状曲面を形成する隆起部を設けた従来例1と、錠剤本体の上面に凹状曲面を形成する隆起部を設けた従来例2を対比すると、ツウィニングを防止する観点からは、従来例1の方が好ましい。
【0011】
従って、分割可能な錠剤を提供する際には、錠剤本体の上面に凸状曲面を形成する隆起部を設けることが望ましいが、従来例1について上述した(a)(b)(c)(d)の問題を解決することが必要であり、しかも、従来例1の変形例について上述した(e)(f)のような問題を生じることがあってはならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するため、従来は錠剤を分割するために必須要件と考えられていた断面V形の割溝を設けず、割溝を有しないにもかかわらず分割容易性を良好とし、しかも、錠剤の摩損や錠剤縁部の欠損の起端となるエッジや角部を全く有しない錠剤を提供するものである。
【0013】
そこで、本発明が構成したところは、粉末又は顆粒等の粉体を固形化した分割可能な錠剤であり、錠剤本体の径方向で相互に直交するX軸及びY軸と、錠剤本体の厚さを増す方向のZ軸に関して、錠剤本体の周面の上縁を形成すると共に、X軸に交差する低位縁部からY軸に交差する高位縁部に至り次第にZ軸方向に向けて上り傾斜ラインを描く上縁部と、X軸を挟んで少なくともY軸方向に凸状曲面を形成することにより、前記上縁部よりもZ軸方向に突出し、X軸に沿う谷部を形成する一対の隆起部と、前記上縁部の内側で前記隆起部を囲むと共に、該隆起部と交わる稜線相当部を形成する傾斜周面を備えており、前記稜線相当部と傾斜周面は、錠剤本体の全周にわたり環状に延びるように形成され、前記傾斜周面のX軸と交差する低位斜面部を前記谷部の両端と低位縁部の間に介在させ、前記谷部の谷底を低位縁部よりも上方に位置させて成る点にある。
【0014】
本発明の実施形態において、分割可能な錠剤は、Y軸上に位置する錠剤本体の周面と谷部の間の水平距離(a)と、Y軸上に位置する稜線相当部と谷部の間の水平距離(b)に関して、前記水平距離の比b/aを0.75≦b/a≦0.98とするように構成するのが好ましい。
【0015】
また、Y軸上に位置して対向する錠剤本体の周面の相互間の水平距離(c)と、一方の隆起部におけるY軸上に位置する稜線相当部と谷部の間の垂直距離(d)に関して、前記垂直距離(d)と水平距離(c)の比d/cを0.10≦d/c≦0.20とするように構成するのが好ましい。
【0016】
また、Y軸上に位置して対向する錠剤本体の周面の相互間の水平距離(c)と、前記隆起部のY軸方向の凸状曲面を規定する曲率半径(R)に関して、前記曲率半径(R)と水平距離(c)の比R/cを0.50≦R/c≦1.50とするように構成するのが好ましい。
【0017】
更に、前記上縁部の内縁と稜線相当部の間に形成された傾斜周面部の幅(w)は、X軸の近傍に位置する低位斜面部の幅(w1)と、Y軸の近傍に位置する高位斜面部の幅(w2)と、前記低位斜面部と高位斜面部の中間に位置する中位斜面部の幅(w3)を、w1<w3かつw2<w3とするように構成するのが好ましい。
【0018】
本発明の実施形態において、一対の隆起部は、Y軸方向の凸状曲面に加えて、X軸方向の凸状曲面を有するように形成することができる。
【0019】
錠剤本体の平面形状は、円形、楕円形又は長円形等に形成することが可能であり、前記隆起部の反対側における錠剤の形状は、凸面R錠、凸面隅角R錠、凸面二段R錠から選ばれた凸面を形成することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の本発明によれば、従来例のような断面V形の割溝を設けておらず、割溝を有しない構成としながらも、分割容易性を良好とし、しかも、錠剤の摩損や錠剤縁部の欠損の起端となるエッジや角部を全く有しない分割可能な錠剤の提供が可能になる。
【0021】
特に、一対の隆起部25、25の間にX軸に沿う谷部29を形成し、該谷部29の谷底から亀裂を生じさせることにより分断する構成において、稜線相当部31と傾斜周面30を錠剤本体22の全周にわたり環状に延びるように形成しているので、上縁部24の全周にわたりエッジや角部を生じる部分が全く存在せず、錠剤の摩損や錠剤縁部の欠損を低減できる。
【0022】
しかも、錠剤の分割起点となる谷部29は、該谷部29の谷底を低位縁部24LのレベルL1よりも上方に位置させると共に、該谷部29の両端と低位縁部24Lの間に傾斜周面30の低位斜面部30Lを介在させているので、谷部29の両端部位にもエッジや角部を生じる部分が全く存在せず、錠剤の摩損や錠剤縁部の欠損を低減できる。
【0023】
そして、錠剤21を上記のように構成することにより、打錠のための上杵34は、周縁37が周方向の途中で分断されることなく、なだらかな傾斜を維持しつつ全周にわたり形成され、従来例1における上杵のような応力集中個所を有しないので、早期摩耗を招来することがなく耐用性を満足する。しかも、峰36が周縁37から突出することなくキャビティ35の内部に配置されるので、従来例1における突出刃12のような破損のおそれはなく、取扱いが容易である。
【0024】
更に、分割容易性を良好とするため、隆起部25の頂上(稜線相当部31の最高部位31H)と谷部29の間の垂直距離dを大きくするときは、従来例1の変更例について説明したような打錠時のスティッキングの問題があるのに対し、本発明によれば、錠剤本体22の上縁部24を低位縁部24Lから高位縁部24Hに至り次第にZ軸方向に向けて上り傾斜ラインを描くように形成しているので、上杵34のキャビティ35を浅く形成することができ、これによりスティッキングを防止することができる。
【0025】
その結果、本発明によれば、製剤時のスティッキングの問題が解決されているので、前記垂直距離dを必要十分に大きくすることが可能となり、分割容易性に優れた錠剤21を提供することができる。
【0026】
因みに、本発明の錠剤をX軸方向から見たとき、低位縁部24Lから高位縁部24Hに至る上縁部24の上り傾斜ラインは、図1(B)に示す第1実施形態のような直線ラインや、図5(B)に示す第2実施形態のようなS字状ラインや、図9(B)に示す第3実施形態のような円弧状ラインとすることができ、任意のライン形状を選択することが可能である。
【0027】
また、本発明の錠剤を平面視したとき、全周にわたり環状に延びる稜線相当部31と傾斜周面30は、図1(A)に示す第1実施形態のように、稜線相当部31を上縁部24と同心円を描く環状ライン上に設けることにより、傾斜周面30を同幅で延びる円環状に形成したものや、図5(A)に示す第2実施形態のように、稜線相当部31をほぼ矩形を描く環状ライン上に設けることにより、傾斜周面30を異形の環状に形成したものや、図9(A)に示す第3実施形態のように、稜線相当部31をX軸の両側で上縁部24と偏心した円弧を描く環状ライン上に設けることにより、傾斜周面30を次第に幅が変化して延びる円環状に形成することができ、その他、途中で分断されることなく錠剤本体22の全周にわたり延びる環状のものであれば良く、種々の形態を採用することが可能である。
【0028】
請求項2に記載の本発明によれば、錠剤21は、それぞれY軸上に位置する錠剤本体22の周面23(Y軸と交差する周面23の部位)と谷部29(Y軸と交差する谷部29の部位)の間の水平距離aと、それぞれY軸上に位置する稜線相当部31の(稜線相当部31の最高部位31H)と谷部29(Y軸と交差する谷部29の部位)の間の水平距離bに関して、前記水平距離の比b/aを0.75≦b/a≦0.98とするように形成されている。このような水平距離の比b/aによれば、分割のための必要十分なモーメントが可能になると共に、傾斜周面30の高位斜面部30Hにエッジを生じるような急斜面が形成されることを防ぐことができる。
【0029】
請求項3に記載の本発明によれば、錠剤21は、Y軸上で対向する錠剤本体22の周面23の相互間の水平距離c(Y軸と交差する周面23の一対の部位の間の水平距離)と、一方のY軸上に位置する稜線相当部31(稜線相当部31の最高部位31H)と谷部29(Y軸と交差する谷部29の部位)の間の垂直距離dに関して、前記垂直距離dと水平距離cの比d/cを0.10≦d/c≦0.20とするように形成されている。このような垂直距離dと水平距離cの比d/cによれば、分割容易性を良好としつつ、意図しない衝撃を受けた際の割れが防止される。
【0030】
請求項4に記載の本発明によれば、錠剤21は、前記水平距離c(Y軸と交差する周面23の一対の部位の間の水平距離)と、隆起部25のY軸方向の凸状曲面28Yを規定する曲率半径Rに関して、前記曲率半径Rと水平距離cの比R/cを0.50≦R/c≦1.50とするように形成されている。このような曲率半径Rと水平距離cの比R/cによれば、分割容易性を良好としつつ、意図しない衝撃を受けた際の割れや、凸状曲面の欠けが防止される。
【0031】
請求項5に記載の本発明によれば、上縁部24の内縁と稜線相当部31の間に形成された傾斜周面部30の幅wは、X軸の近傍に位置する低位斜面部30Lの幅w1と、Y軸の近傍に位置する高位斜面部30Hの幅w2と、前記低位斜面部30Lと高位斜面部30Hの中間に位置する中位斜面部30Mの幅w3を、w1<w3かつw2<w3とするように構成されている。このように中位斜面部30Mの幅w3を広く形成することにより、傾斜周面30における中位斜面部30Mを緩斜面にすることができるので、稜線相当部31の最高部位31Hと谷部29の間の垂直距離dを必要十分に大きく構成した場合でも、隆起部25の全体にわたり膨隆する凸状曲面の変化を最小限に抑制することができる。これにより、衝撃を集中する個所がなく、例えば、口腔内崩壊を目的としたフィルムコーティングを有しない素錠の場合でも、重度の欠けの発生頻度が極めて低いものとなる。
【0032】
請求項6に記載の本発明によれば、一対の隆起部25、25は、Y軸方向の凸状曲面28Yに加えて、X軸方向の凸状曲面28Xを形成しているので、一対の隆起部25、25を下向きとして錠剤21をテーブル等の平坦面に置き、上から凸面27を指先等で押圧することにより谷部29を広げるようにして分割する場合、隆起部25、25がテーブル等の平坦面にほぼ点接触状態で接し、摩擦抵抗が小さいので、該接点が移動しやすく、分割を容易とする。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態を示しており、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【図2】本発明の第1実施形態を示しており、(A)は図1(A)のY軸に沿う断面図、(B)は図1(A)のX軸に沿う断面図、(C)は図1(A)のA−A線断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態を示しており、(A)は各部の寸法に関して最良の実施例を示す正面図、(B)は隆起部の凸状面を規定する曲率半径に関して最良の実施例を示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態を示しており、(A)はX軸に沿う部分を断面にて示す斜視図、(B)は打錠機の圧縮成形部を示す断面図、(C)は上杵を下方から見た斜視図である。
【図5】本発明の第2実施形態を示しており、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【図6】本発明の第2実施形態を示しており、(A)は図5(A)のY軸に沿う断面図、(B)は図5(A)のX軸に沿う断面図、(C)は図5(A)のB−B線断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態を示しており、(A)は各部の寸法に関して最良の実施例を示す正面図、(B)は隆起部の凸状面を規定する曲率半径に関して最良の実施例を示す断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態をX軸に沿う部分を断面にて示す斜視図である。
【図9】本発明の第3実施形態を示しており、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【図10】本発明の第3実施形態を示しており、(A)は図9(A)のY軸に沿う断面図、(B)は図9(A)のX軸に沿う断面図である。
【図11】本発明の第3実施形態を示しており、各部の寸法に関して最良の実施例を示す正面図である。
【図12】本発明に対する従来例1を示しており、(A)は正面図、(B)は割溝に沿う部分を断面にて示す斜視図、(C)は割溝の端部を拡大して示す斜視図、(D)は打錠機の圧縮成形部を示す断面図、(E)は上杵を下方から見た斜視図である。
【図13】従来例1の変更例を示しており、(A)は正面図、(B)は打錠機の圧縮成形部の断面図である。
【図14】本発明に対する従来例2を示しており、(A)は正面図、(B)は割溝に沿う部分を断面にて示す斜視図、(C)は割溝の端部を拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下図面に基づいて本発明の好ましい実施形態を詳述する。
【0035】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を図1ないし図4に基づいて説明する。図1及び図2に示すように、錠剤21は、所定厚さの錠剤本体22を構成し、該錠剤本体22の周面23の上縁に上縁部24を形成すると共に、上面に一対の隆起部25、25を形成している。図例の場合、錠剤本体22は、ほぼ円柱形に形成され、平面視において真円形に表されるが、楕円形ないし長円形等を表すように形成しても良い。
【0036】
図例の場合、錠剤21は、錠剤本体22の周面23の下縁に水平に延びる下縁部26を形成すると共に、該下縁部26により囲まれた下面に球面状に膨隆する凸面27を形成した「凸面R錠」を例示している。しかしながら、錠剤本体22の下面に関する構成は、これに限定されるものでなく、例えば、周面23の下縁部と、下向き球面状に膨隆する凸面との間に、円錐台状の帯部を設けた「凸面隅角R錠」としても良く、あるいは曲率半径の大きい球面の中心部に曲率半径の小さい球面を重ね合わせて膨隆させた「凸面二段R錠」としても良い。
【0037】
図1(A)に示すように、錠剤本体22は、平面視において、径方向で相互に直交するX軸及びY軸と、錠剤本体22の厚さを増す方向のZ軸を仮想することが可能とされ、これらの軸に対して次のように構成されている。尚、図例のように錠剤本体22が真円形の場合、X軸及びY軸は、円の中心で相互に直交する直径方向の軸を規定するが、上述のように錠剤本体22を楕円形又は長円形に形成する場合は、X軸が短軸上に配置され、Y軸が長軸上に配置される。
【0038】
前記錠剤本体22の周面23の上縁に形成された上縁部24は、図1(B)に示すように、X軸に交差する低いレベルL1に位置する低位縁部24Lから、Y軸に交差する高いレベルL2に位置する高位縁部24Hに至り、次第にZ軸方向に向かう上り傾斜ラインを描き、これにより錠剤本体22の上下縁部24、26の間の厚さをX軸部分からY軸方向に向けて次第に増すように形成している。
【0039】
錠剤21は、上述した従来例のような断面V形の割溝を設けておらず、しかも、錠剤の摩損や錠剤縁部の欠損の起端となるエッジや角部を全く有していない。
【0040】
前記一対の隆起部25、25は、X軸を挟んでY軸方向に凸状曲面28Yを形成すると共に前記上縁部24よりもZ軸方向に突出されており、これにより、一対の隆起部25、25の間にX軸に沿う谷部29を形成する。第1実施形態の場合、隆起部25の凸状曲面28Yは、Y軸方向に向けて曲率半径Rにより規定された円弧を描くように湾曲されており、図2(B)(C)に示すようにX軸方向には湾曲していない。
【0041】
前記上縁部24は、途中で分断されることなく錠剤本体22の全周にわたり延び、該上縁部24の内側に位置して前記隆起部25、25を囲む傾斜周面30を形成し、該傾斜周面30と隆起部25、25が相互に交わる部分を稜線相当部31としている。図1(A)に示す平面視において、稜線相当部31は、前記上縁部24の内側で該上縁部24と同心円を描き、従って、稜線相当部31と傾斜周面30は、途中で分断されることなく錠剤本体22の全周にわたり環状に延びるように形成されている。
【0042】
前記傾斜周面30は、上縁部24の内側から稜線相当部31に向けて角度θで示す上り勾配を有する斜面を形成している。図1(B)に示す正面視からわかるように、稜線相当部31は、谷部29から最高部位31Hに至り、弓状に湾曲するラインを描くので、傾斜周面30は、X軸と交差する低位斜面部30Lが最も緩斜面とされ、Y軸と交差する高位斜面部30Hが急斜面とされ、両斜面部30L、30Hの中間に位置する中位斜面部30Mが最も急斜面とされている。
【0043】
その結果、稜線相当部31に囲まれた一対の隆起部25、25の間に形成される谷部29は、該谷部29の両端と上縁部24の低位縁部24Lとの間に低位斜面部30Lを介在させられ、これにより、図1(B)に符号pで示すように、谷部29の谷底(最深部)が低位縁部24Lよりも上方に位置する。因みに、図例の場合、谷部29の谷底は、水平方向の直線に沿って形成されているが、上向きに湾曲する曲線又は下向きに湾曲する曲線に沿って形成しても良く、その場合、最も下方に位置する部分(最深部)が低位縁部24Lよりも上方に位置していれば良い。
【0044】
ところで、本発明において、傾斜周面30と隆起部25、25の交差部分にアール面を施すことが可能であり、その場合、前記稜線相当部31は、必ずしも明確に視認できる稜線として表れないことを諒解されたい。同様に、一対の隆起部25、25の突き合わせ部分にもアール面を施すことが可能であり、その場合、前記谷部29は、必ずしも明確に視認できる直線として表れないことを諒解されたい。従って、図1(A)は、稜線相当部31及び谷部29を鎖線で示している。
【0045】
錠剤21の外形を表す各部の寸法に関して、図3に基づいて説明すると、代表的な実施例において、錠剤21は、錠剤本体22の直径が8.0mmに形成され、上縁部24のランド面の幅eが0.1mmに形成される。
【0046】
それぞれY軸上に位置する錠剤本体22の周面23(Y軸と交差する周面23の部位)と谷部29(Y軸と交差する谷部29の部位)の間の水平距離aと、それぞれY軸上に位置する稜線相当部31の最高部位31Hと谷部29の間の水平距離bは、前記水平距離の比b/aを0.75≦b/a≦0.98とするように形成されている。
【0047】
テーブル等の平坦面に置かれた錠剤21を指先等で押圧することにより分割する場合、隆起部25、25を上向きとしているときは、稜線相当部31の左右の最高部位31H、31Hが押圧力の力点とされ、谷部29を広げるようにして分割される。従って、水平距離bをできるだけ長くすることにより、モーメントを大きくすることができるが、水平距離bが長過ぎると、高位斜面部30Hが急斜面となり、稜線相当部31の最高部位31Hにエッジが形成され、欠損の原因となるため好ましくない。従って、前記比b/aは、0.75以上かつ0.98以下に形成するのが好ましい。
【0048】
反対に、隆起部25、25を下向きとして凸面27を指先等で押圧することにより分割するときは、テーブル等の平坦面に接する稜線相当部31の左右の最高部位31H、31Hを押圧力の支点として、谷部29を広げるようにして分割される。この際、前記水平距離bが短いと、押圧力が加わりにくく、分割が容易でない。従って、前記比b/aは0.75以上に形成するのが好ましい。
【0049】
また、前記のY軸上で対向する錠剤本体22の周面23の相互間の水平距離c(Y軸と交差する周面23の一対の部位の間の水平距離)と、一方の隆起部25における前記稜線相当部31の最高部位31Hと谷部29の間の垂直距離dは、前記垂直距離dと水平距離cの比d/cを0.10≦d/c≦0.20とするように形成されている。
【0050】
分割容易性の観点からは、垂直距離dをできるだけ長くすることにより隆起部25、25の間の谷部29を深く形成すれば良いが、余り深過ぎると、意図しない衝撃を受けた際に割れやすくなるので好ましくない。反対に、垂直距離dが十分でないときは、指先等で押圧することにより分割しようとしても、容易に分割することができない。このため、前記比d/cを0.10以上かつ0.20以下に形成するのが好ましい。
【0051】
更に、前記水平距離c(Y軸と交差する周面23の一対の部位の間の水平距離)と、前記隆起部25のY軸方向の凸状曲面28Yを規定する曲率半径Rは、前記曲率半径Rと水平距離cの比R/cを0.50≦R/c≦1.50とするように形成されている。
【0052】
曲率半径Rを小さくすることにより、図3(B)に鎖線で示すような急曲面28Sを形成するときは、谷部29に向かう凸状曲面28Yの傾斜が急斜面となり、意図しない衝撃を受けた際に割れやすくなる問題があり、しかも、凸状曲面が膨らみ過ぎて重度の欠けが発生しやすくなるので好ましくない。反対に、曲率半径Rを大きくすることにより、図3(B)に鎖線で示すような緩曲面28Lを形成するときは、谷部29に向かう斜面が緩やかとなり、分割性が低下する。その結果、前記比R/cを0.50以上かつ1.50以下に形成するのが好ましい。
【0053】
上記の錠剤21は、図4(A)に示すように、錠剤の摩損や錠剤縁部の欠損の起端となるエッジや角部を全く有していない。
【0054】
ところで、打錠に際して、錠剤21は、図4(B)に示すように、筒状の臼32の下側に挿入された下杵33と上側に挿入された上杵34の間で粉末又は顆粒等の粉体を圧縮して固形化することにより成形され、上杵34には、下向きに開口するキャビティ35と、該キャビティ35の横断方向に配置される峰36が設けられ、キャビティ35の下向き開口縁により周縁37が形成されている。前記周縁37により錠剤本体22の上縁部24が成形され、前記峰36及びキャビティ35により谷部29と隆起部25、25が成形される。
【0055】
図示のように、峰36は、周縁37から突出することなくキャビティ35の内部に配置されているので、従来例1における突出刃12のような破損のおそれはなく、取扱いが容易である。しかも、図4(C)に示すように、上杵34の周縁37は、周方向の途中で分断されることなく、なだらかな傾斜を維持しつつ全周にわたり形成されており、従来例1の上杵における突出した刃と周縁部の交差部分のような応力集中個所を有しないので、早期摩耗を招来することはなく、耐用性を満足する。
【0056】
更に、上述のように隆起部25における稜線相当部31の最高部位31Hと谷部29の間の垂直距離dを必要十分に長く形成し、谷部29を好適な深さとする構成でありながら、錠剤本体22の上縁部24を低位縁部24Lから高位縁部24Hに向けて傾斜させているので、図4(B)に示すように、上杵34のキャビティ35の深さは、符号mで示すように比較的浅く形成される。このため、離型された上杵のキャビティ35から素錠を容易に脱落させることができることから、図10に基づいて説明した従来例1の変更例のようなスティッキングの発生を抑制できる。
【0057】
(第2実施形態)
図5ないし図8は、本発明の第2実施形態を示している。第2実施形態においても、錠剤21は、上述した従来例のような断面V形の割溝を設けておらず、しかも、錠剤の摩損や錠剤縁部の欠損の起端となるエッジや角部を全く有していない。錠剤本体22の上縁部24は、X軸に交差する低いレベルL1の低位縁部24LからY軸に交差する高いレベルL2の高位縁部24Hに至り、次第にZ軸方向に向かう上り傾斜ラインを描き、途中で分断されることなく錠剤本体22の全周にわたり形成されている。隆起部25、25は、上縁部24の内側に形成された傾斜周面30により囲まれており、該傾斜周面30と稜線相当部31が途中で分断されることなく全周にわたり環状に延びるように形成されている。一対の隆起部25、25の間に形成された谷部29は、該谷部29の両端と上縁部24の低位縁部24Lとの間に低位斜面部30Lを介在し、図5(B)に符号pで示すように、谷部29の谷底(最深部)が低位縁部24Lよりも上方に位置する。
【0058】
このように、第2実施形態の錠剤21は、第1実施形態の錠剤21について説明した技術的構成を同様に備えており、上述の水平距離b及びaの比b/aを0.75≦b/a≦0.98とする点、垂直距離dと水平距離cの比d/cを0.10≦d/c≦0.20とする点、Y軸方向の曲面の曲率半径Rと水平距離cの比R/cを0.50≦R/c≦1.50とする点についても同様である。従って、同様の構成部分は同一符号により図示すると共に、第1実施形態の上述の説明を援用し、第1実施形態と異なる第2実施形態の構成部分を以下に説明する。
【0059】
第2実施形態の場合、一対の隆起部25、25は、図6(B)(C)に示すように、Y軸方向の凸状曲面28Yに加えて、X軸方向の凸状曲面28Xを有している。従って、隆起部25、25は、X軸方向に関して中高となる山を形成する。
【0060】
上縁部24の内縁と稜線相当部31の間に形成された傾斜周面30の幅wは、図8に示すように、X軸の近傍に位置する低位斜面部30Lの幅w1と、Y軸の近傍に位置する高位斜面部30Hの幅w2と、前記低位斜面部30Lと高位斜面部30Hの中間に位置する中位斜面部30Mの幅w3を、w1<w3かつw2<w3とするように構成されている。
【0061】
従って、図5(B)に示す正面視において、稜線相当部31がシグモイド曲線ないしS字状曲線を描くように形成されている。その結果、傾斜周面30の上り勾配の角度θに関して、第1実施形態と第2実施形態を比較すると、第1実施形態の中位斜面部30Mが急斜面とされるのに対し、第2実施形態の中位斜面部30Mは緩斜面となるように形成されている。
【0062】
そこで、第2実施形態によれば、一対の隆起部25、25を下向きとして錠剤21をテーブル等の平坦面に置き、上から凸面27を指先等で押圧することにより谷部29を広げるようにして分割するとき、Y軸方向の凸状曲面28Yに加えてX軸方向の凸状曲面28Xを有する隆起部25、25がテーブル等の平坦面にほぼ点接触状態で接し、摩擦抵抗が小さいので、該接点が移動しやすく、分割を容易とする。
【0063】
また、第2実施形態によれば、傾斜周面30の中位斜面部30Mの幅w3を広くすることにより、該中位斜面部30Mに緩斜面を形成しているので、稜線相当部31の最高部位31Hと谷部29の間の垂直距離dを必要十分に確保する構成としながら、全体的に緩斜面とされる傾斜周面30に囲まれた隆起部25の凸状曲面28Y、28Xの膨隆を穏やかなものとし、膨隆する曲面の変化を最小限に抑制することができる。このため、衝撃を集中する個所がなく、例えば、口腔内崩壊を目的としたフィルムコーティングを有しない素錠の場合でも、重度の欠けの発生頻度が極めて低いものとなる。
【0064】
(第3実施形態)
図9ないし図11は、本発明の第3実施形態を示している。第3実施形態においても、錠剤21は、上述した従来例のような断面V形の割溝を設けておらず、しかも、錠剤の摩損や錠剤縁部の欠損の起端となるエッジや角部を全く有していない。錠剤本体22の上縁部24は、X軸に交差する低いレベルL1の低位縁部24LからY軸に交差する高いレベルL2の高位縁部24Hに至り、次第にZ軸方向に向かう上り傾斜ラインを描き、途中で分断されることなく錠剤本体22の全周にわたり形成されている。隆起部25、25は、上縁部24の内側に形成された傾斜周面30により囲まれており、該傾斜周面30と稜線相当部31が途中で分断されることなく全周にわたり環状に延びるように形成されている。一対の隆起部25、25の間に形成された谷部29は、該谷部29の両端と上縁部24の低位縁部24Lとの間に低位斜面部30Lを介在し、図9(B)に符号pで示すように、谷部29の谷底(最深部)が低位縁部24Lよりも上方に位置する。
【0065】
このように、第3実施形態の錠剤21は、第1実施形態の錠剤21について説明した技術的構成を同様に備えており、上述の水平距離b及びaの比b/aを0.75≦b/a≦0.98とする点、垂直距離dと水平距離cの比d/cを0.10≦d/c≦0.20とする点、Y軸方向の曲面の曲率半径Rと水平距離cの比R/cを0.50≦R/c≦1.50とする点についても同様である。従って、同様の構成部分は同一符号により図示すると共に、第1実施形態の上述の説明を援用し、第1実施形態と異なる第3実施形態の構成部分を以下に説明する。
【0066】
第3実施形態の場合、一対の隆起部25、25は、図10(B)に示すように、Y軸方向の凸状曲面28Yに加えて、X軸方向の凸状曲面28Xを有している。従って、隆起部25、25は、X軸方向に関して中高となる山を形成する。
【0067】
上縁部24の内縁と稜線相当部31の間に形成された傾斜周面30の幅wは、図9(A)に示す平面視において、X軸の近傍に位置する低位斜面部30Lの幅waと、Y軸の近傍に位置する高位斜面部30Hの幅wcと、前記低位斜面部30Lと高位斜面部30Hの中間に位置する中位斜面部30Mの幅wbを、wa<wb<wcとするように構成されている。
【0068】
ところで、図9(B)に示す正面視において、上縁部24は、下向きに湾曲する円弧状ラインを描き、これに対して、稜線相当部31は、上向きに湾曲する円弧状ラインを描いている。従って、傾斜周面30の上り勾配の角度θに関して、中位斜面部30Mが急斜面とされるが、低位斜面部30Lに至るに従い次第に緩斜面となるように形成されている。
【0069】
そこで、第3実施形態によれば、一対の隆起部25、25を下向きとして錠剤21をテーブル等の平坦面に置き、上から凸面27を指先等で押圧することにより谷部29を広げるようにして分割するとき、Y軸方向の凸状曲面28Yに加えてX軸方向の凸状曲面28Xを有する隆起部25、25がテーブル等の平坦面にほぼ点接触状態で接し、摩擦抵抗が小さいので、該接点が移動しやすく、分割を容易とする。
【0070】
また、第3実施形態によれば、急斜面とされた中位斜面部30Mから低位斜面部30Lに向けて次第に緩斜面となるように形成すると共に、X軸方向の凸状曲面28Xを形成することにより、傾斜周面30に囲まれた隆起部25の膨隆を穏やかなものとし、膨隆する曲面の変化を最小限に抑制している。このため、衝撃を集中する個所がなく、例えば、口腔内崩壊を目的としたフィルムコーティングを有しない素錠の場合でも、重度の欠けの発生頻度が極めて低いものとなる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例、比較例および試験例により説明するが、本発明はこれらに限定されることはない。
【0072】
<実施例1>
以下の手順により、実施例1の製剤を作成した。
結晶セルロース(セオラスPH−101、旭化成工業)1785g、無水リン酸水素カルシウム(無水リン酸水素カルシウムGS、協和化学工業)2675g、トウモロコシデンプン(日食コーンスターチXX16、日本食品化工)500g、ステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム(植物性)、太平化学工業)40gを混合した。図1ないし図3に示す第1実施形態の外形を備えた、前記水平距離b及びaの比b/aを0.85、前記垂直距離dと水平距離cの比d/cを0.17、前記曲率半径Rと水平距離cの比R/cを0.64とした直径8.0mmの円形錠金型にて、ロータリープレスVELA2(菊水製作所)を用いて、上記混合粉末を6kNの圧縮力、回転盤回転数30回転/分にて成型し素錠を得た。ヒプロメロース(TC−5E、信越化学工業)45g、マクロゴール6000(三洋化成)15g、酸化チタン(精製脱砒酸化チタン、東邦産業)15gを精製水925gに溶解・分散してコーティング液を調製した。上記素錠750gをコーティング機(ハイコーターHCT−30N、フロイント産業)に投入し、給気温度80℃、給気風量0.6m3/分、パン回転数20回転/分、送液速度6g/分、アトマイズエアー圧力0.15MPa、排気温度約45℃の条件で、1錠あたりのフィルム量が5mgとなるようにコーティングを行った。
【0073】
上記手順に従い、図1ないし図3に示す第1実施形態の外形を備えた直径8.0mmのフィルムコーティング錠を試作した。前記水平距離b及びaの比b/aを0.85、前記垂直距離dと水平距離cの比d/cを0.17、前記曲率半径Rと水平距離cの比R/cを0.64とした。
【0074】
<比較例1>
比較例1の製剤として、図12に示す従来例1の外形を備え、前記水平距離b及びaの比b/aを0.77、前記垂直距離dと水平距離cの比d/cを0.19、前記曲率半径Rと水平距離cの比R/cを0.83となる直径8.0mmの円形錠金型を使用した以外は、実施例1と同様の手順にて、フィルムコーティング錠を作成した。
【0075】
[試験例1]
<割りやすさの評価>
(評価方法)
モニター5名が実際に錠剤を割ることにより試験した。割りやすさの評価基準は、「非常に割りやすい:4点」「割りやすい:3点」「ふつう:2点」「割りにくい:1点」「非常に割りにくい:0点」として、実施例1と比較例1のそれぞれに与えられた5名の評価点を平均した。
【0076】
【表1】

【0077】
(評価結果)
(1)隆起部を上向きとして、上から指先で押圧することにより割った場合の評価は、比較例1が2.0点であるのに対し、実施例1は3.5点とされ、実施例1の評価が高い。
(2)隆起部を下向きとして、上から指先で押圧することにより割った場合の評価は、比較1が0.4点であるのに対し、実施例1は2.0点とされ、実施例1の評価が格段に高い。
【0078】
<実施例2>
以下の手順により、実施例2の製剤を作成した。
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L、日本曹達)6gを精製水594gに溶解し、結合液とした。アムロジピンベシル酸塩83.2g、D−マンニトール(PEARLITOL 50C、ロケットジャパン)819.2g、トウモロコシデンプン(日食コーンスターチXX16、日本食品化工)108g、クロスポビドン(POLYPLASDONE XL−10、ISP)30g、アスパルテーム(味の素)6g、黄色三二酸化鉄0.72gを混合し、流動層乾燥造粒機マルチプレックスMP−01(株式会社パウレック)に投入し混合したのち、上記結合液600gを噴霧し、流動層造粒を行った。造粒物877.6に、軽質無水ケイ酸(アエロジル200、日本アエロジル)5g、香料0.6g、及びフマル酸ステアリルナトリウム(PRUV、JRS Pharma)18gを混合した。図5ないし図7に示す第2実施形態の外形を備えた、前記水平距離b及びaの比b/aを0.90、前記垂直距離dと水平距離cの比d/cを0.14、前記曲率半径Rと水平距離cの比R/cを0.88とした直径8.0mmの円形錠金型にて、ロータリープレスVELA2(菊水製作所)を用いて、上記混合粉末を12kNの圧縮力、回転盤回転数30回転/分にて成型し口腔内崩壊錠を得た。
【0079】
上記手順に従い、図5ないし図7に示す第2実施形態の外形を備えた直径8.0mmのフィルムコーティングを有しない口腔内崩壊錠を試作した。前記水平距離b及びaの比b/aを0.90、前記垂直距離dと水平距離cの比d/cを0.14、前記曲率半径Rと水平距離cの比R/cを0.88とした。
【0080】
<比較例2>
比較例2の製剤として、図12に示す従来例1の外形を備え、前記水平距離b及びaの比b/aを0.77、前記垂直距離dと水平距離cの比d/cを0.19、前記曲率半径Rと水平距離cの比R/cを0.83となる直径8.0mmの円形錠金型を使用した以外は、実施例2と同様の手順にて、口腔内崩壊錠を作成した。
【0081】
<比較例3>
比較例3の製剤として、図14に示す従来例2の外形を備え、前記水平距離b及びaの比b/aを0.82、前記垂直距離dと水平距離cの比d/cを0.18となる直径8.0mmの円形錠金型を使用した以外は、実施例2と同様の手順にて、口腔内崩壊錠を作成した。
【0082】
[試験例2]
<割りやすさの評価>
(評価方法)
モニター5名が実際に錠剤を割ることにより試験した。割りやすさの評価基準は、「非常に割りやすい:4点」「割りやすい:3点」「ふつう:2点」「割りにくい:1点」「非常に割りにくい:0点」として、実施例2と比較例2及び比較例3のそれぞれに与えられた5名の評価点を平均した。
【0083】
【表2】

【0084】
(評価結果)
(1)隆起部を上向きとして、上から指先で押圧することにより割った場合の評価は、比較例2が3.4点、比較例3が2.6点であるのに対し、実施例2は3.6点とされ、実施例2の評価が高い。
(2)隆起部を下向きとして、上から指先で押圧することにより割った場合の評価は、比較例2が0.7点、比較例3が1.4点であるのに対し、実施例2は2.9点とされ、実施例2の評価が格段に高い。
【0085】
[試験例3]
<欠けにくさの評価>
(評価方法)
錠剤を1.5mの高さからステンレス製の容器に向けて落下させることにより試験した。欠けの評価基準は、3〜4mm程度の欠けが生じたものを「中程度」、5mm以上の欠けが生じたものを「重度」として、比較例2と、比較例3と、実施例2のそれぞれを100錠について試験し、欠けを生じた錠剤の個数を記録した。
【0086】
【表3】

【0087】
(評価結果)
(1)「中程度」の欠けは、それぞれ100錠中、比較例2が14個、比較例3が3個であるのに対し、実施例2は4個であり、実施例2の好結果が確認された。
(2)「重度」の欠けは、それぞれ100錠中、比較例2が15個、比較例3が11個であるのに対し、実施例2は0個であり、実施例2の顕著な好結果が確認された。
(3)実施例2は、「割れ」及び溝表面欠けにおける「重度」の欠けのいずれについても、全く確認されなかった。溝表面欠けにおける「中程度」の欠けも比較例2及び3より少なかった。
【0088】
[試験例4]
スティッキング及び上杵の破損
(評価結果)
実施例1〜2、及び比較例1〜3の打錠工程において、10分間打錠した後の上杵のキャビティ表面の外観を目視にて確認した。実施例1〜2、及び比較例3の打錠後にはキャビティへの粉末付着はなく光沢のある表面であったのに対し、比較例1の打錠後にはキャビティに粉末の付着がみられた。また比較例2の打錠後にはキャビティ表面に曇りがみられたことから、軽度のスティッキングが発生したことが確認された。
【符号の説明】
【0089】
21 錠剤
22 錠剤本体
23 周面
24 上縁部
24L 低位縁部
24H 高位縁部
25 隆起部
28 凸状曲面
29 谷部
30 傾斜周面
30L 低位斜面部
30H 高位斜面部
30M 中位斜面部
31 稜線相当部
31H 最高部位
34 上杵
35 キャビティ
36 峰
37 周縁
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明により、錠剤の摩損や錠剤縁部の欠損の起端となるエッジや角部を全く有しない、分割容易性の優れた錠剤を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末又は顆粒等の粉体を固形化した錠剤であり、錠剤本体の径方向で相互に直交するX軸及びY軸と、錠剤本体の厚さを増す方向のZ軸に関して、
錠剤本体の周面の上縁を形成すると共に、X軸に交差する低位縁部(24L)からY軸に交差する高位縁部(24H)に至り次第にZ軸方向に向けて上り傾斜ラインを描く上縁部(24)と、
X軸を挟んで少なくともY軸方向に凸状曲面(28Y)を形成することにより、前記上縁部(24)よりもZ軸方向に突出し、X軸に沿う谷部(29)を形成する一対の隆起部(25,25)と、
前記上縁部(24)の内側で前記隆起部(25,25)を囲むと共に、該隆起部と交わる稜線相当部(31)を形成する傾斜周面(30)を備えており、
前記稜線相当部(31)と傾斜周面(30)は、錠剤本体(22)の全周にわたり環状に延びるように形成され、
前記傾斜周面(30)のX軸と交差する低位斜面部(30L)を前記谷部(29)の両端と低位縁部(24L)の間に介在させ、前記谷部(29)の谷底部を低位縁部(24L)よりも上方に位置させて成ることを特徴とする分割可能な錠剤。
【請求項2】
Y軸上に位置する錠剤本体の周面(23)と谷部(29)の間の水平距離(a)と、Y軸上に位置する稜線相当部(31)と谷部(29)の間の水平距離(b)に関して、前記水平距離の比b/aを0.75≦b/a≦0.98とするように構成して成ることを特徴とする請求項1に記載の分割可能な錠剤。
【請求項3】
Y軸上に位置して対向する錠剤本体の周面(23)の相互間の水平距離(c)と、一方の隆起部(25)におけるY軸上に位置する稜線相当部(31)と谷部(29)の間の垂直距離(d)に関して、前記垂直距離(d)と水平距離(c)の比d/cを0.10≦d/c≦0.20とするように構成して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の分割可能な錠剤。
【請求項4】
Y軸上に位置して対向する錠剤本体の周面(23)の相互間の水平距離(c)と、前記隆起部(25)のY軸方向の凸状曲面(28Y)を規定する曲率半径(R)に関して、前記曲率半径(R)と水平距離(c)の比R/cを0.50≦R/c≦1.50とするように構成して成ることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の分割可能な錠剤。
【請求項5】
前記上縁部(24)の内縁と稜線相当部(31)の間に形成された傾斜周面部(30)の幅(w)は、X軸の近傍に位置する低位斜面部(30L)の幅(w1)と、Y軸の近傍に位置する高位斜面部(30H)の幅(w2)と、前記低位斜面部と高位斜面部の中間に位置する中位斜面部(30M)の幅(w3)を、w1<w3かつw2<w3となるように構成して成ることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の分割可能な錠剤。
【請求項6】
一対の隆起部(25,25)は、Y軸方向の凸状曲面(28Y)に加えて、X軸方向の凸状曲面(28X)を有して成ることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5に記載の分割可能な錠剤。
【請求項7】
錠剤本体の平面形状が円形又は楕円形に形成されて成ることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6に記載の分割可能な錠剤。
【請求項8】
前記隆起部の反対側における錠剤の形状は、凸面R錠、凸面隅角R錠、凸面二段R錠から選ばれた凸面(27)を備えて成ることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載の分割可能な錠剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−36159(P2012−36159A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180378(P2010−180378)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】