分析装置
【課題】 記憶されている複数の測定データの管理が容易である分析装置を提供する。
【解決手段】 測定データを取得する装置と、画面32を備えた表示装置とを有する分析装置である。測定データは座標Gc,Gdと共に画面32上に画像として表示される。移動子30及び31を移動させると座標Gc,Gd上の測定データの表示内容が更新される。座標Gc,Gdの画像を矢印A,Bのようにウインドウ42へドラッグすると、測定データがビットマップイメージMと関連してメモリ内に記憶され、ビットマップイメージMはウインドウ42内に表示される。表示されているビットマップイメージMをダブルクリックすると、記憶した測定データをいつでも再表示できる。ビットマップイメージMは座標Gc,Gdの画像そのものとすることができるので、分析者はビットマップイメージMによって測定データの内容を容易に判別できる。
【解決手段】 測定データを取得する装置と、画面32を備えた表示装置とを有する分析装置である。測定データは座標Gc,Gdと共に画面32上に画像として表示される。移動子30及び31を移動させると座標Gc,Gd上の測定データの表示内容が更新される。座標Gc,Gdの画像を矢印A,Bのようにウインドウ42へドラッグすると、測定データがビットマップイメージMと関連してメモリ内に記憶され、ビットマップイメージMはウインドウ42内に表示される。表示されているビットマップイメージMをダブルクリックすると、記憶した測定データをいつでも再表示できる。ビットマップイメージMは座標Gc,Gdの画像そのものとすることができるので、分析者はビットマップイメージMによって測定データの内容を容易に判別できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分析装置、X線分析装置等といった分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱分析装置は、試料の温度を変化させながらその試料の物性の変化、重量の変化等を測定し、その測定結果に基づいて試料を分析する装置である。また、X線分析装置は、試料にX線を照射したときにその試料から発生する回折線、散乱線等の強度を測定して試料の構造を分析する装置である。
【0003】
これらの分析装置において、従来、測定の結果を画面上に表示し、その画面表示に基づいて分析を行う装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この文献では、画面上に2次元画像を表示したり(図3)、等高線表示を用いて画面上に3次元画像を平面的に表示したりしている(図4、図7)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−318063(第6〜7頁、図3、図4、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
測定結果を画面上に表示する構造の分析装置では、分析者が種々の測定結果を観察したい場合には、観察したい複数の測定結果を交互に画面上に表示する必要があった。そしてこの場合、更新されて画面から消去された測定結果のデータは画像表示のための処理プロセスの場から除去されて元の記憶領域へと戻されていた。
【0006】
しかしながらこのような従来の処理方法では、一度表示から除外した古い測定データをもう一度画面上に再表示させたい場合には、数多くの測定データの中から希望する測定データを検索する処理を初めからし直さなければならず、大変な労力が必要であった。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解消するために成されたものであって、測定データの管理が容易である分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る分析装置は、測定データを取得する手段と、画面を備えた表示手段と、測定データを座標と共に前記画面上に画像として表示させる測定データ表示手段と、座標と共に表示される測定データを更新する測定データ更新手段と、前記画面上に表示されている更新前の測定データをビットマップイメージと関連して記憶させる手段と、前記ビットマップイメージを画面上に表示する手段とを有することを特徴とする。
【0009】
この分析装置において、「測定データを取得する手段」は、例えば、質量分析装置、熱分析装置、X線測定装置等が考えられる。また、「画面を備えた表示手段」は、例えば、CRT(Cathode-ray Tube)ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ等を用いることができる。また、「測定データ表示手段」、「測定データ更新手段」、「測定データをビットマップイメージと関連して記憶させる手段」、「ビットマップイメージを画面上に表示する手段」の各手段は、例えば、メモリ内に記憶されたプログラムソフトによって機能するCPUによって実現できる。
【0010】
ビットマップイメージは、ドット(すなわち、ピクセル)の集合として表現された画像のことであり、例えば、GIF、JPEG、BMP等といったファイル形式で表現されるイメージのことである。
【0011】
上記構成の本発明に係る分析装置によれば、更新前の測定データはビットマップイメージと関連して記憶され、そのビットマップイメージは画面上に表示されるので、分析者は更新前の古い測定データをビットマップイメージに基づいて極めて容易に探し出すことができる。そしてこれにより、測定データの管理が非常に容易になる。
【0012】
次に、本発明に係る分析装置において、前記ビットマップイメージは、前記測定データが前記座標と共に表示された状態の画像を示すデータであることが望ましい。こうすれば、分析者はビットマップイメージを見たときにそのビットマップイメージに対応する測定データを視覚的に即座に判別することができ、それ故、測定データの管理をより一層簡単にすることができる。
【0013】
次に、本発明に係る分析装置において、前記測定データは、試料温度、発生ガスの質量数、及び発生ガスのイオン強度であり、前記座標は、横軸に試料温度をとり、縦軸に発生ガスのイオン強度をとったマスクロマトグラムの座標であることが望ましい。
【0014】
次に、本発明に係る分析装置において、前記測定データは、試料温度、発生ガスの質量数、及び発生ガスのイオン強度であり、前記座標は、横軸に発生ガスの質量数をとり、縦軸に発生ガスのイオン強度をとったマススペクトルの座標であることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る分析装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、図面では、必要に応じて、実際の構造と異なった比率で各構成要素を示す場合がある。
【0016】
図1は本発明に係る分析装置の一実施形態を示している。この実施形態は、質量分析、TG(Thermogravimetry:熱重量)測定、DTA(Differential Thermal Analysis:示差熱分析)測定の3種類の測定を行うと共に、それらの測定によって得られた測定データを解析する分析装置に本発明を適用するものである。
【0017】
図1において、分析装置1は、CPU(Central Processing Unit)2と、RAM(Random Access Memory)3と、ROM(Read Only Memory)4と、メモリ5と、それらをつなぐバスライン6とを含むコンピュータ制御系を有する。また、分析装置1は、バスライン6に接続された外部機器としての次の各機器、すなわち、質量分析装置9、TG測定装置10、DTA測定装置11、入力装置12、画像表示装置13、そしてプリンタ14とを有する。画像表示装置13は、例えば、CRT(Cathode-ray Tube:陰極線管)ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ等を用いて構成できる。また、プリンタ14は、例えば、静電転写方式のプリンタ、インクジェット方式のプリンタ、その他任意の方式のプリンタによって構成できる。また、入力装置12は、例えば、キーボード、マウス型入力具、タッチパネル型入力装置等を用いて構成できる。
【0018】
CPU2は、プログラムに従って演算を行うと共にRAM3、ROM4、メモリ5の動作を制御する演算・制御装置として機能する。また、CPU2は、メモリ5内に格納された各種のプログラムソフトウエア、RAM3、及びROM4と協働して所定の機能を実現する機能実現手段として機能する。
【0019】
質量分析装置9、TG測定装置10、及びDTA測定装置11は、本実施形態の場合、図2に示すように、1つの測定系として構成されている。この測定系は、温度が変動しても物性変化を生じない物質である標準物質S0を支持した天秤ビーム17aと、測定対象である試料S1を支持した天秤ビーム17bと、標準物質S0及び試料S1を包囲するケーシング18と、ケーシング18の内部を加熱するヒータ19とを有する。ヒータ19は通電によって発熱してケーシング18の内部を加熱する加熱装置であり、グラフGtに示すように、ケーシング18内の温度が時間の経過と共に直線的に上昇するように制御される。
【0020】
TG測定装置10は、天秤ビーム17a及び天秤ビーム17bの動きを検知することにより、標準物質S0と試料S1との重量差(ΔG)を測定し、その重量差ΔGを示す信号及びその重量差が生じたときの温度(T)を示す信号を出力する。DTA測定装置11は、標準物質S0の温度及び試料S1の温度を検出して、それらの温度差(ΔT)を示す信号及びその温度差が生じたときの温度(T)を示す信号を出力する。質量分析装置9は、ガス管20によってケーシング18の内部につながっている。温度変化する試料S1から何等かのガスが発生したときには、そのガスはガス管20を通って質量分析装置9へ導入される。質量分析装置9は導入されたガスの質量数(m/z)及びイオン強度(I)を測定し、それらを示す信号を出力する。
【0021】
図1のメモリ5の内部には、質量分析装置9を用いて行われる質量分析測定を制御する質量分析プログラム23と、TG測定装置10を用いて行われるTG測定を制御するTG測定プログラム24と、DTA測定装置11を用いて行われるDTA測定を制御するDTA測定プログラム25とが、それぞれ、所定領域に記憶されている。また、質量分析測定の結果として得られる(m/z,I)の測定データや、TG測定の結果として得られる(T,ΔG))の測定データや、DTA測定の結果として得られる(T,ΔT)の測定データを記憶するファイル26がメモリ5の所定領域に設けられている。
【0022】
測定データファイル26の中には、例えば、図5及び図6に示すような質量分析測定結果のデータが記憶される。図5と図6は紙面の大きさの都合で1つのデータファイルを便宜上分けて記載してあるが、実際には、図5に示すデータの後に図6に示すデータが記憶されるものである。本実施形態において試料の温度は直線的に昇温するように制御されており、従って図5の温度(T)と時間(t)は1対1の関係にある。そのため、データ処理に際しては、温度(T)を用いても良いし、時間(t)を用いても良い。
【0023】
図1において、メモリ5の内部には、解析プログラム27、2D/3D画像生成プログラム28、入力用画像処理プログラム29の各プログラムが記憶されている。解析プログラム27は、測定データファイル26に記憶された測定データに基づいて分析者が種々の解析を行う際に起動されるプログラムソフトである。解析によって得られたデータはメモリ5内の解析データファイル37内に記憶できる。また、2D/3D画像生成プログラム28は、測定データファイル26に記憶された測定データを画像表示装置13の画面上で2次元画像及び3次元画像のいずれか又は両方の形で表示させるためのプログラムソフトである。
【0024】
ここで、2次元画像とは、図7に矢印Gc及び矢印Gdで示すグラフのように横軸Xa及び縦軸Xbの2軸によって規定される平面座標内にデータを線によって表示した画像である。また、3次元画像には、符号Gaで示す3次元立体画像と、符号Gbで示す3次元平面画像の2種類がある。3次元立体画像Gaは、横軸Xa、縦軸Xb、立体軸Xcの3つの直線状の座標軸によって表現される3次元座標上にデータを立体的な画像として表示した画像である。また、3次元平面画像Gbは、横軸Xa及び縦軸Xbによって規定される平面座標内でデータを等高線表示することにより、紙面垂直方向のデータ量を表現することにした画像である。
【0025】
本実施形態において2D/3D画像生成プログラム28は、表示ウインドウの中の左側の半分よりも少し広い領域に3次元立体画像Gaを表示し、右側の上段領域に3次元平面画像Gbを表示し、右側の中段領域及び下段領域に2次元画像Gc及びGdを表示するという画像データを生成することにしたが、これら各画像の画面32内での配列は要求に応じて種々に変更できる。
【0026】
図1の2D/3D画像生成プログラム28は、測定データファイル26内のデータを2次元画像として表示するためのビデオ表示メモリ(V−RAM)データを生成する2次元画像生成部と、測定データファイル26内のデータを3次元平面画像として表示するためのビデオ表示メモリ(V−RAM)データを生成する3次元平面画像生成部と、測定データファイル20内のデータを3次元立体画像として表示するためのビデオ表示メモリ(V−RAM)データを生成する3次元立体画像生成部という、各画像生成部を有している。
【0027】
また、入力用画像処理プログラム29は、図7のメイン画面内で符号Geで示す入力用画像を表示するためのプログラムソフトである。この入力用画像Geは温度軸用移動子30及び質量数軸用移動子31の各画像を含んでいる。マウス型入力具によって移動されるポインタ(図示せず)をこれらの移動子に一致させて、さらにマウス型入力具の操作によってポインタ及び移動子を左右に平行移動させることができる。そして、入力用画像処理プログラム29はそれらの移動子の位置に基づいて各座標軸上の座標値が入力されたものと認識する。具体的には、温度軸用移動子30の位置により、3次元立体画像Ga及び3次元平面画像Gbにおける温度座標軸Xa上の座標値が入力されたものと認識する。また、質量数軸用移動子31の位置により、3次元立体画像Ga及び3次元平面画像Gbにおける質量数座標軸Xb上の座標値が入力されたものと認識する。
【0028】
なお、図示した入力用画像Geは入力データを処理するための画像の一例であり、この入力用画像Geの画像内容は必要に応じて種々に改変できる。要は、移動子30,31の位置を変化させることができ、さらに、それらの移動子の位置を読み取ることができれば良い。図1の解析プログラム27は、図7の入力用画像Geにおいて移動子30によって温度(T)が入力され、移動子31によって質量数(m/z)が入力されると、それらの入力値を図1の入力値記憶ファイル33内に記憶させる。
【0029】
図1において、メモリ5の内部に定性分析プログラム34が記憶されている。この定性分析プログラム34は、質量分析装置9によって得られた測定データ(m/z,I)と温度データ(T)とに基づいて求められるマススペクトル(すなわち、特定温度時における発生ガスの質量数ごとのイオン強度を示すグラフ)に基づいて、定性分析(すなわち、発生ガス中に含まれるガスの種類を判定する分析)を行う際に起動されるプログラムソフトである。定性分析プログラム34は、分析の対象であるマススペクトルを基準となるマススペクトルと比較することによって分析を行うものであるが、基準となる複数のマススペクトルデータはメモリ5内のライブラリデータファイル39に予め記憶されている。
【0030】
また、メモリ5の内部にスチル処理プログラム35が記憶されている。本実施形態では、図7において、温度軸用移動子30及び質量数軸用移動子31を操作することによって、2次元画像Gc及び2次元画像Gdに表示される測定データを温度や質量数をパラメータとして種々に変更できる。その際、データ内容を変更するたびに前回表示したデータ内容が完全に除去されてしまうと、それを再表示させたいときに前回と同じ操作を再度行わなければならなくなるので面倒である。このことに鑑み、本実施形態では、一度表示させた2次元画像Gc及びGdのデータ内容をメモリ5内のスチルデータファイル36内に記憶し、そのデータを所望のタイミングで図7の画面32上へ読み出せるようにしている。スチル処理プログラム35はこのようなデータ処理を行うためのプログラムソフトであるが、詳しくは後述する。
【0031】
また、図1のメモリ5の内部に多重描画プログラム38が記憶されている。本実施形態では、質量分析装置9を用いた質量分析結果(T,m/z,I)と、TG測定装置10を用いたTG測定結果(T,ΔG)と、DTA測定装置11を用いたDTA測定結果(T,ΔT)の各測定データがそれぞれ独自に求められる。多重描画プログラム38はそれら独自に求められた測定データを1つの座標上にまとめて描画、すなわち表示するためのプログラムソフトである。
【0032】
以下、上記構成より成る分析装置の動作を図3及び図4に示すフローチャートを参照して説明する。図3のステップS1からS5において、必要に応じて、TG測定、DTA測定、及び質量分析測定を行う。測定が終了すると、質量分析測定によって得られた(T(温度)、m/z(質量数)、I(イオン強度))の測定データ、TG測定によって得られた(T、ΔG)の測定データ、及びDTA測定によって得られた(T、ΔT)の測定データの各データが、例えば、図5及び図6に示すようなデータテーブルの形で図1の測定データファイル26の中に記憶される(図3のステップS6)。なお、図5及び図6では主に質量分析関係の測定データだけが示されているが、TG測定及びDTA測定関係の測定データも同じ形式で記憶される。
【0033】
ところで、本実施形態では図1の分析装置1が質量分析装置9、TG測定装置10、及びDTA測定装置11を有していて、それらの各測定装置による実測の結果として得られた測定データを順次に測定データファイル26内へ記憶するようにした。しかしながら、これに代えて、別の場所で予め行われた測定によって得られた測定データをバスライン6を介してデータファイル26へ転送して記憶し、その記憶された測定データを解析に供することもできる。
【0034】
次に、解析処理を行う旨の指示が図1の入力装置12を通して分析者によって成されると、制御の流れは図3のステップS8で解析処理のルーチンに入る。解析処理のルーチンに入ると、図4のステップS11において、図1の測定データファイル26内に記憶されたデータのうちから1つの試料に関して得られた(T,m/z,I,ΔT,ΔG)のデータが読み出される。また、ステップS12において、図1の入力済(m/z,T)ファイル33内に記憶されているデータを読み出す。このデータは、前回の分析において入力されて保持されていたデータである。今の場合は、m/z=41、T=376.0℃が読み出されるものとする。
【0035】
次に、図1の2D/3D画像生成プログラム28を起動して、図4のステップS13からステップS15で3次元立体画像データ、3次元平面画像データ、2次元画像データ、及び入力用画像データの各画像データを生成し、それらの画像データを図1の画像表示装置13へ伝送して、その画面上に各画像を表示する。具体的には、図7において、画面32の左側領域に3次元立体画像Gaを表示し、その上部領域に入力用画像Geを表示し、画面32の左側上段に3次元平面画像Gbを表示し、左側中段に2次元画像であるマスクロマトグラムGcを表示し、左側下段に2次元画像であるマススペクトルGdを表示する。
【0036】
なお、本実施形態では、2D/3D画像生成プログラム28の働きによって図13に示すような2次元画像であるTG−DTA曲線を表示することもできる。このTG−DTA曲線を含んだウインドウ表示は分析者の指示に応じて図7に示すメイングラフのウインドウ表示の上に重ねて表示することができる。
【0037】
図7の3次元立体画像Gaは、1つの試料に関する(T,m/z,I)の特性を3次元の立体画像の形で表現している。この3次元立体画像Gaは横軸Xa、縦軸Xb、及び立体軸Xcによって規定される3次元座標上に形成されている。ここで、横軸Xaは温度(T)軸(すなわち、時間軸)となっており、横軸Xaと協働して平面座標を構成する縦軸Xbは質量数(m/z)軸となっており、立体軸Xcはイオン強度(I)軸となっている。3次元立体画像Gaは、図1の測定データファイル26内から読み出された複数の(T,m/z,I)のデータを上記の3次元座標上にプロットすることにより形成されている。
【0038】
今考えている試料は、図8に示すように、5つのピークP1,P2,P3,P4,P5を持っている。イオン強度の強さから見るとP4>P3>P5>P1>P2となっている。イオン強度の強さを視覚的に容易に認識できるようにするために、本実施形態では、イオン強度が0(ゼロ)から上がるのに従って濃度が高くなるようにピーク波形をグラデーション表示する。あるいは、イオン強度=0(ゼロ)から第1段目の領域を「青色」で表示し、第2段目の領域を「緑色」で表示し、第3段目を「黄色」で表示し、第4段目を「赤色」で表示するというような、色分け表示を行って、イオン強度の大きさの識別を容易にすることもできる。
【0039】
図4のステップS14で生成される2次元画像データは図7における2次元画像Gc及びGdを表示するためのものであるが、この2次元画像データは図4のステップS12で読み込まれた(m/z,T)のデータに基づいて生成される。すなわち、ステップS12では、前回の入力値としてm/z=41及びT=376.0℃が読み込まれているので、ステップS14では、m/z=41に関する(T,I)のデータが読み込まれて図7のマスクロマトグラムGcに対応する2次元画像データが生成される。また、T=376.0℃に関する(m/z,I)のデータが読み込まれて図7のマススペクトルGdに対応する2次元画像データが生成される。
【0040】
また、ステップS13の3次元画像データ生成ステップでは、図8に示すように、(m/z,I)の入力値に対応して、すなわちm/z=41及びT=376.0℃に対応して直線である入力線L1及びL2を表示する画像データを生成する。入力線L1はm/z=41の座標値を通って温度軸Xaに平行な直線である。一方、入力線L2はT=376.0℃の座標値を通って質量数軸Xbに平行な直線である。
【0041】
入力線L1はとりもなおさず、図7のマスクロマトグラムGc(質量数41のガスのマスクロマトグラム)の波形を示している。また、入力線L2はとりもなおさず、図7のマススペクトル(温度376.0℃のときの発生ガスのスペクトル)の波形を示している。マスクロマトグラムやマススペクトルを観察する分析者は、直接的には、マスクロマトグラムGcやマススペクトルGdを見ながら分析を行うのであるが、信頼性の高い分析を行おうとするときには、該当する質量数のマスクロマトグラムGcだけではなく異なる質量数のマスクロマトグラムGcを考慮しながら分析を行ったり、該当する温度のマススペクトルGdだけではなく異なる温度のマススペクトルGdを考慮しながら分析を行ったりすることがある。
【0042】
このような場合、単に2次元画像Gc,Gdだけを画面上に表示していた従来の画像表示方法においては、面倒な操作を行った後に種々の条件のマスクロマトグラムやマススペクトルを交互に表示して分析を行わなければならなかったが、2次元画像Gc,Gdと3次元画像Ga,Gbを1つの画面32上に同時に表示するようにした本実施形態によれば、3次元画像Ga,Gbを観察しながら2次元画像Gc,Gdを観察できるので、信頼性の高い分析を短時間で行うことができる。
【0043】
また、本実施形態では、表示されているマスクロマトグラムGcの質量数(m/z)が3次元立体画像Ga及び3次元平面画像Gb上で入力線L1として表示されており、表示されているマススペクトルGdの温度(T)が3次元立体画像Ga及び3次元平面画像Gb上で入力線L2として表示されている。従って、分析者はマスクロマトグラムGcを3次元画像Ga,Gb上で入力線L1によって正確に把握でき、さらに、マススペクトルGdを3次元画像Ga,Gb上で入力線L2によって正確に把握できる。このため、より一層正確な分析を行うことができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、図7において入力用画像Ge内の温度軸用移動子30の位置によって温度軸Xa上の入力線L2の座標値を決めている。分析者が移動子30の位置をマウス操作によって移動させれば、図4のステップS18で「YES」と判定され、ステップS13からS16で新たに画像データが生成され、その結果、入力線L2を温度軸Xaに沿って平行移動させる表示を行うことができる。また、入力線L1の質量数軸Xb上の座標値は質量数軸用移動子31の位置によって決められており、この質量数軸用移動子31の位置をマウス操作によって移動させれば、同様の画像処理により、入力線L1を質量数軸Xbに沿って平行移動させる表示を行うことがことができる。
【0045】
入力線L1を3次元立体画像Ga上で質量数軸Xbに沿って平行移動させれば、マスクロマトグラムGcには該当する質量数のマスクロマトグラムが次々と表示される。これにより、分析者は、所望のマスクロマトグラムを短時間で適切に特定でき、その結果、マスクロマトグラムの面積に基づいて行われる定量分析を非常に正確に行うことができる。
【0046】
また、入力線L2を3次元立体画像Ga上で温度軸Xaに沿って平行移動させれば、マススペクトルGdには該当する温度のマスクロマトグラムが次々と表示される。これにより、分析者は、所望のマススペクトルを適切に短時間で適切に特定でき、その結果、マススペクトルを用いて行われる定性分析を非常に正確に行うことができる。
【0047】
次に、本実施形態では、マウスやキーボード等を使った適宜の操作により3次元立体画像Gaを画面上で回転させるための指示を行うことができる。この指示が行われると、図4のステップS17で「YES」と判定され、ステップS13に戻って、指定された視点を基準とする3次元画像データが新たに生成され、その結果、図7の3次元立体画像Gaを回転させる表示を行うことができる。これにより、分析者は、希望する角度から3次元立体画像Gaを観察でき、正確な分析を行うことができる。
【0048】
図7では、ある1つの試料に関して得られた(T,m/z,I)の測定データに基づいて3次元立体画像Ga、3次元平面画像Gb,2次元画像Gc,Gdを表示した。図1のCPU2が異なる試料に関して得られた(T,m/z,I)の測定データを測定データファイル26から読み出せば、その異なった試料に関する3次元立体画像Ga、3次元平面画像Gb、及び2次元画像Gc,Gdが、例えば図9に示すように求められる。図9では図7の場合とは異なった試料に関して、質量数44が移動子31によって選択され、温度639.2℃が移動子30によって選択されている。そして、3次元立体画像Ga及び3次元平面画像Gbにおいて質量数軸Xbの座標値44の所に入力線L1が表示され、温度軸Xaの座標値639.2℃の所に入力線L2が表示されている。さらに、2次元画像Gc,Gdの領域を見れば、質量数44のマスクロマトグラムGcが表示され、温度639.2℃のマススペクトルGdが表示されている。
【0049】
本実施形態において、分析者は図7のマススペクトルGdを用いて試料の定性分析を行うことができる。この定性分析は、測定の結果得られた組成が未知である試料のマススペクトルGdを組成が分かっている物質について予め求められていた標準のマススペクトルと比較して、その未知試料の組成を判別するという分析である。定性分析を行いたい分析者は、図1の入力装置12を適宜に操作して定性分析の開始を指示する。すると、図4のステップS19でYESと判定されて、ステップS20の定性分析の処理ルーチンに入る。
【0050】
すると、図1のCPU2はメモリ5内のライブラリデータファイル39の中から適宜のライブラリデータを読み出して、そのライブラリデータを図10において画面32の下段領域に符号Q1のように表示する。また、図7のマススペクトルGd(実測データ)の要部を符号Q3のように上段領域に表示する。また、実測データQ3とライブラリデータQ1とを比較し易いように一緒に表示した画像Q2を中段領域に表示する。分析者はこの比較画像を観察することにより、試料の組成を判別できる。また、CPUは必要に応じて実測データQ3とライブラリデータQ1との一致度を所定の手順によって演算によって決めることができる。分析者はこの一致度を考慮して定性分析を行うこともできる。
【0051】
次に、本実施形態において、分析者は、図1の入力装置12を操作することにより、スチル処理を実行することができる。本実施形態では、図7において、温度軸用移動子30及び質量数軸用移動子31を操作することによって、マスクロマトグラムGc及びマススペクトルGdの内容を種々に更新できる。この際、データ内容を変更するたびに前回表示したデータ内容が完全に除去されてしまうと、それを再表示させたいときに前回と同じ操作を再度行わなければならなくなるので面倒である。このことに鑑み、本実施形態では、一度表示させたマスクロマトグラムGc及びマススペクトルGdのデータ内容を任意のタイミングで簡単に再表示できるようにしている。このような処理がスチル処理である。
【0052】
分析者によってこのスチル処理が指示されると、図4のステップS21でYESと判定され、制御の流れはステップS22のスチル処理ルーチンへ入り、図1のCPU2はスチル処理プログラム35を起動する。すると、図1の画像表示装置13へ所定の画像信号が伝送されて、図11に示すように画面32の左側領域にスチルウインドウ42が表示される。今までにスチル処理が行われていない場合や、装置が初期化された後の場合は、スチルウインドウ42は空欄であってその中に情報は入っていない。他方、過去にスチル処理が行われている場合には、スチルウインドウ42の中に、過去に行われたスチル処理に対応した識別マークMが表示される。
【0053】
分析者が現在の時点で画面32上に表示されているマスクロマトグラムGcを再表示を企図してスチルウインドウ42内に一旦保存しようと思ったとする。この場合、分析者は、マスクロマトグラムGcの領域をマウス操作のダブルクリックで指示するか、矢印Aで示すようにマスクロマトグラムGcとスチルウインドウ42との間でマウス入力具のドラッグアンドドロップ操作を行う。すると、図1のCPU2は、マスクロマトグラムGcとして表示されている(m/z,T,I)のデータ(m/zは1種類の値)をスチルデータファイル36内に転送して、そこに記憶する。その際、CPU2は図11の画面32に表示されているマスクロマトグラムGcの画像をビットマップイメージに変換する。例えば、ビットマップ(BMP)形式のファイルに変換する。そして、図1に符号Dで示すようにデータ内容に対応させてそのビットマップイメージを記憶する。そして、図11のスチルウインドウ42内にはビットマップイメージの画像が識別マークMとして表示される。
【0054】
このビットマップイメージ化された識別マークMはマスクロマトグラムGcの画像をそのままイメージ化したものであり、従って、分析者は識別マークMを見ると直ぐに、記憶されている内容がどのようなものであるかを迅速且つ確実に判別できる。
【0055】
分析者が、現時点で画面32に表示されているマススペクトルGdを一時的に保存したい場合には、例えば、マススペクトルGdを矢印Bのようにスチルウインドウ42へ向けてドラッグアンドドロップ操作することにより、マススペクトルGdのデータ内容を図1のスチルデータファイル36へ記憶でき、同時に、マススペクトルGdの画像をビットマップイメージの識別マークMとして記憶できる。
【0056】
その後、分析者がスチルウインドウ42内に格納したデータを再表示して解析等を行いたい場合には、スチルウインドウ42内に表示された識別マークMのうち再表示を希望する識別マークMを指示、例えばダブルクリックする。例えば、図12においてスチルウインドウ42に表示されているマスクロマトグラムM1のデータを再表示したい場合には、図12において識別マークM1をダブルクリックする。すると、図1においてスチルデータファイル36内に記憶された対応する(m/z,T,I)のデータが読み出され、さらに2次元画像データに変換され、画像表示装置13に伝送され、その画面上に図12に符号Gc’で示すように再表示される。分析者はこの表示に基づいて所望の解析、例えば面積を算出して定量解析を行うことができる。
【0057】
次に、分析者は、図1の入力装置12を操作することにより、多重描画処理を実行することができる。この処理がされると、図4のステップS23においてYESと判定され、ステップS24の多重描画処理ルーチンに入り、図1の多重描画プログラム38が起動する。すると、今まで説明してきた質量分析系の画面に代えて他の測定系のデータ、たとえば図13に示すようなTG−DTA測定の測定データがグラフとして表示される。
【0058】
分析者がこのTG−DTA測定結果にマスクロマトグラムGcやマススペクトルGdを重ねて表示したいと希望する場合には、マスクロマトグラムGcやマススペクトルGdに対して適宜の指示、例えばダブルクリック操作を行う。すると、図14に示すように、TG−DTA線図に重ねてマスクロマトグラムGcやマススペクトルGdが表示される。分析者はこの合成されたグラフを観察することにより、より詳しい解析を行うことができる。
【0059】
本発明は、測定データを取得する手段と、画面を備えた表示手段と、測定データを座標と共に前記画面上に画像として表示させる測定データ表示手段と、座標と共に表示される測定データを更新する測定データ更新手段と、前記画面上に表示されている更新前の測定データをビットマップイメージと関連して記憶させる手段と、前記ビットマップイメージを画面上に表示する手段とを有することを特徴とする分析装置である。
【0060】
この発明を上記の実施形態と比べると、「測定データを取得する手段」は、質量分析装置9、TG測定装置10、DTA測定装置11によって構成される。また、「画面を備えた表示手段」は、画像表示装置13によって構成される。また、「測定データを座標と共に前記画面上に画像として表示させる測定データ表示手段」は、2D/3D画像生成プログラム等によって構成される。また、「座標と共に表示される測定データを更新する測定データ更新手段」は、入力用画像処理プログラム等によって形成される。「更新前の測定データをビットマップイメージと関連して記憶させる手段」及び「ビットマップイメージを画面上に表示する手段」はスチル処理プログラムによって形成される。
【0061】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、以上に説明した実施形態では、図1において測定データファイル26内に記憶して2次元画像表示及び3次元画像表示するデータとして(T,m/z,I)の3つのデータを考えたが、本発明はこれ以外の任意の3種類以上のデータを処理する場合にも適用できる。例えば、温度変化する試料にX線を照射して回折線を検出するX線回折測定によって得られる測定データである(T(温度)、2θ(回折角度)、I(回折線強度))のデータを図1の測定データファイル26内に記憶し、さらにそのデータを2次元画像及び3次元画像することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る分析装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1の分析装置で用いられる測定系の一例を示す図である。
【図3】図1の装置によって行われる処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図3の要部のステップを示すフローチャートである。
【図5】図1の分析装置を構成するメモリの一部領域に記憶されるデータを示す図である。
【図6】図5のデータに続くデータを示す図である。
【図7】図1の分析装置で用いられる表示装置の画面に表示される画像の表示例を示す図である。
【図8】図7の要部を拡大して示す図である。
【図9】図1の分析装置で用いられる表示装置の画面に表示される画像の他の表示例を示す図である。
【図10】定性分析の際に画面に表示される画像を示す図である。
【図11】測定データの管理処理であるスチル処理を行った際に画面に表示される画像を示す図である。
【図12】スチル処理の画面表示の他の例を示す図である。
【図13】図1の分析装置で用いられる表示装置の画面に表示される画像のさらに他の表示例を示す図である。
【図14】多重描画処理を行った際の画像表示例を示す図である。
【図15】従来の分析装置における画像表示例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1.分析装置、 5.メモリ、 6.バス、 9.質量分析装置、
10.TG測定装置、 11.DTA測定装置、 17a,17b.天秤ビーム、
18.ケーシング、 19.ヒータ、 20.ガス管、
26.測定データファイル、 30.温度軸用移動子、 31.質量数軸用移動子、
32.画面、 33.入力値記憶ファイル、 36.スチルデータファイル、
37.解析データファイル、 39.ライブラリデータファイル、
42.スチルウインドウ、 D.スチルデータ、 Ga.3次元立体画像、
Gb.3次元平面画像、 Gc2次元画像(マスクロマトグラム),
Gd.2次元画像(マススペクトル)、 Ge.入力用画像、 M.識別マーク、
Q1.ライブラリデータ、 Q2.比較表示、 Q3.実測データ、 S0.標準物質、
S1.試料
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分析装置、X線分析装置等といった分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱分析装置は、試料の温度を変化させながらその試料の物性の変化、重量の変化等を測定し、その測定結果に基づいて試料を分析する装置である。また、X線分析装置は、試料にX線を照射したときにその試料から発生する回折線、散乱線等の強度を測定して試料の構造を分析する装置である。
【0003】
これらの分析装置において、従来、測定の結果を画面上に表示し、その画面表示に基づいて分析を行う装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この文献では、画面上に2次元画像を表示したり(図3)、等高線表示を用いて画面上に3次元画像を平面的に表示したりしている(図4、図7)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−318063(第6〜7頁、図3、図4、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
測定結果を画面上に表示する構造の分析装置では、分析者が種々の測定結果を観察したい場合には、観察したい複数の測定結果を交互に画面上に表示する必要があった。そしてこの場合、更新されて画面から消去された測定結果のデータは画像表示のための処理プロセスの場から除去されて元の記憶領域へと戻されていた。
【0006】
しかしながらこのような従来の処理方法では、一度表示から除外した古い測定データをもう一度画面上に再表示させたい場合には、数多くの測定データの中から希望する測定データを検索する処理を初めからし直さなければならず、大変な労力が必要であった。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解消するために成されたものであって、測定データの管理が容易である分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る分析装置は、測定データを取得する手段と、画面を備えた表示手段と、測定データを座標と共に前記画面上に画像として表示させる測定データ表示手段と、座標と共に表示される測定データを更新する測定データ更新手段と、前記画面上に表示されている更新前の測定データをビットマップイメージと関連して記憶させる手段と、前記ビットマップイメージを画面上に表示する手段とを有することを特徴とする。
【0009】
この分析装置において、「測定データを取得する手段」は、例えば、質量分析装置、熱分析装置、X線測定装置等が考えられる。また、「画面を備えた表示手段」は、例えば、CRT(Cathode-ray Tube)ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ等を用いることができる。また、「測定データ表示手段」、「測定データ更新手段」、「測定データをビットマップイメージと関連して記憶させる手段」、「ビットマップイメージを画面上に表示する手段」の各手段は、例えば、メモリ内に記憶されたプログラムソフトによって機能するCPUによって実現できる。
【0010】
ビットマップイメージは、ドット(すなわち、ピクセル)の集合として表現された画像のことであり、例えば、GIF、JPEG、BMP等といったファイル形式で表現されるイメージのことである。
【0011】
上記構成の本発明に係る分析装置によれば、更新前の測定データはビットマップイメージと関連して記憶され、そのビットマップイメージは画面上に表示されるので、分析者は更新前の古い測定データをビットマップイメージに基づいて極めて容易に探し出すことができる。そしてこれにより、測定データの管理が非常に容易になる。
【0012】
次に、本発明に係る分析装置において、前記ビットマップイメージは、前記測定データが前記座標と共に表示された状態の画像を示すデータであることが望ましい。こうすれば、分析者はビットマップイメージを見たときにそのビットマップイメージに対応する測定データを視覚的に即座に判別することができ、それ故、測定データの管理をより一層簡単にすることができる。
【0013】
次に、本発明に係る分析装置において、前記測定データは、試料温度、発生ガスの質量数、及び発生ガスのイオン強度であり、前記座標は、横軸に試料温度をとり、縦軸に発生ガスのイオン強度をとったマスクロマトグラムの座標であることが望ましい。
【0014】
次に、本発明に係る分析装置において、前記測定データは、試料温度、発生ガスの質量数、及び発生ガスのイオン強度であり、前記座標は、横軸に発生ガスの質量数をとり、縦軸に発生ガスのイオン強度をとったマススペクトルの座標であることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る分析装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、図面では、必要に応じて、実際の構造と異なった比率で各構成要素を示す場合がある。
【0016】
図1は本発明に係る分析装置の一実施形態を示している。この実施形態は、質量分析、TG(Thermogravimetry:熱重量)測定、DTA(Differential Thermal Analysis:示差熱分析)測定の3種類の測定を行うと共に、それらの測定によって得られた測定データを解析する分析装置に本発明を適用するものである。
【0017】
図1において、分析装置1は、CPU(Central Processing Unit)2と、RAM(Random Access Memory)3と、ROM(Read Only Memory)4と、メモリ5と、それらをつなぐバスライン6とを含むコンピュータ制御系を有する。また、分析装置1は、バスライン6に接続された外部機器としての次の各機器、すなわち、質量分析装置9、TG測定装置10、DTA測定装置11、入力装置12、画像表示装置13、そしてプリンタ14とを有する。画像表示装置13は、例えば、CRT(Cathode-ray Tube:陰極線管)ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ等を用いて構成できる。また、プリンタ14は、例えば、静電転写方式のプリンタ、インクジェット方式のプリンタ、その他任意の方式のプリンタによって構成できる。また、入力装置12は、例えば、キーボード、マウス型入力具、タッチパネル型入力装置等を用いて構成できる。
【0018】
CPU2は、プログラムに従って演算を行うと共にRAM3、ROM4、メモリ5の動作を制御する演算・制御装置として機能する。また、CPU2は、メモリ5内に格納された各種のプログラムソフトウエア、RAM3、及びROM4と協働して所定の機能を実現する機能実現手段として機能する。
【0019】
質量分析装置9、TG測定装置10、及びDTA測定装置11は、本実施形態の場合、図2に示すように、1つの測定系として構成されている。この測定系は、温度が変動しても物性変化を生じない物質である標準物質S0を支持した天秤ビーム17aと、測定対象である試料S1を支持した天秤ビーム17bと、標準物質S0及び試料S1を包囲するケーシング18と、ケーシング18の内部を加熱するヒータ19とを有する。ヒータ19は通電によって発熱してケーシング18の内部を加熱する加熱装置であり、グラフGtに示すように、ケーシング18内の温度が時間の経過と共に直線的に上昇するように制御される。
【0020】
TG測定装置10は、天秤ビーム17a及び天秤ビーム17bの動きを検知することにより、標準物質S0と試料S1との重量差(ΔG)を測定し、その重量差ΔGを示す信号及びその重量差が生じたときの温度(T)を示す信号を出力する。DTA測定装置11は、標準物質S0の温度及び試料S1の温度を検出して、それらの温度差(ΔT)を示す信号及びその温度差が生じたときの温度(T)を示す信号を出力する。質量分析装置9は、ガス管20によってケーシング18の内部につながっている。温度変化する試料S1から何等かのガスが発生したときには、そのガスはガス管20を通って質量分析装置9へ導入される。質量分析装置9は導入されたガスの質量数(m/z)及びイオン強度(I)を測定し、それらを示す信号を出力する。
【0021】
図1のメモリ5の内部には、質量分析装置9を用いて行われる質量分析測定を制御する質量分析プログラム23と、TG測定装置10を用いて行われるTG測定を制御するTG測定プログラム24と、DTA測定装置11を用いて行われるDTA測定を制御するDTA測定プログラム25とが、それぞれ、所定領域に記憶されている。また、質量分析測定の結果として得られる(m/z,I)の測定データや、TG測定の結果として得られる(T,ΔG))の測定データや、DTA測定の結果として得られる(T,ΔT)の測定データを記憶するファイル26がメモリ5の所定領域に設けられている。
【0022】
測定データファイル26の中には、例えば、図5及び図6に示すような質量分析測定結果のデータが記憶される。図5と図6は紙面の大きさの都合で1つのデータファイルを便宜上分けて記載してあるが、実際には、図5に示すデータの後に図6に示すデータが記憶されるものである。本実施形態において試料の温度は直線的に昇温するように制御されており、従って図5の温度(T)と時間(t)は1対1の関係にある。そのため、データ処理に際しては、温度(T)を用いても良いし、時間(t)を用いても良い。
【0023】
図1において、メモリ5の内部には、解析プログラム27、2D/3D画像生成プログラム28、入力用画像処理プログラム29の各プログラムが記憶されている。解析プログラム27は、測定データファイル26に記憶された測定データに基づいて分析者が種々の解析を行う際に起動されるプログラムソフトである。解析によって得られたデータはメモリ5内の解析データファイル37内に記憶できる。また、2D/3D画像生成プログラム28は、測定データファイル26に記憶された測定データを画像表示装置13の画面上で2次元画像及び3次元画像のいずれか又は両方の形で表示させるためのプログラムソフトである。
【0024】
ここで、2次元画像とは、図7に矢印Gc及び矢印Gdで示すグラフのように横軸Xa及び縦軸Xbの2軸によって規定される平面座標内にデータを線によって表示した画像である。また、3次元画像には、符号Gaで示す3次元立体画像と、符号Gbで示す3次元平面画像の2種類がある。3次元立体画像Gaは、横軸Xa、縦軸Xb、立体軸Xcの3つの直線状の座標軸によって表現される3次元座標上にデータを立体的な画像として表示した画像である。また、3次元平面画像Gbは、横軸Xa及び縦軸Xbによって規定される平面座標内でデータを等高線表示することにより、紙面垂直方向のデータ量を表現することにした画像である。
【0025】
本実施形態において2D/3D画像生成プログラム28は、表示ウインドウの中の左側の半分よりも少し広い領域に3次元立体画像Gaを表示し、右側の上段領域に3次元平面画像Gbを表示し、右側の中段領域及び下段領域に2次元画像Gc及びGdを表示するという画像データを生成することにしたが、これら各画像の画面32内での配列は要求に応じて種々に変更できる。
【0026】
図1の2D/3D画像生成プログラム28は、測定データファイル26内のデータを2次元画像として表示するためのビデオ表示メモリ(V−RAM)データを生成する2次元画像生成部と、測定データファイル26内のデータを3次元平面画像として表示するためのビデオ表示メモリ(V−RAM)データを生成する3次元平面画像生成部と、測定データファイル20内のデータを3次元立体画像として表示するためのビデオ表示メモリ(V−RAM)データを生成する3次元立体画像生成部という、各画像生成部を有している。
【0027】
また、入力用画像処理プログラム29は、図7のメイン画面内で符号Geで示す入力用画像を表示するためのプログラムソフトである。この入力用画像Geは温度軸用移動子30及び質量数軸用移動子31の各画像を含んでいる。マウス型入力具によって移動されるポインタ(図示せず)をこれらの移動子に一致させて、さらにマウス型入力具の操作によってポインタ及び移動子を左右に平行移動させることができる。そして、入力用画像処理プログラム29はそれらの移動子の位置に基づいて各座標軸上の座標値が入力されたものと認識する。具体的には、温度軸用移動子30の位置により、3次元立体画像Ga及び3次元平面画像Gbにおける温度座標軸Xa上の座標値が入力されたものと認識する。また、質量数軸用移動子31の位置により、3次元立体画像Ga及び3次元平面画像Gbにおける質量数座標軸Xb上の座標値が入力されたものと認識する。
【0028】
なお、図示した入力用画像Geは入力データを処理するための画像の一例であり、この入力用画像Geの画像内容は必要に応じて種々に改変できる。要は、移動子30,31の位置を変化させることができ、さらに、それらの移動子の位置を読み取ることができれば良い。図1の解析プログラム27は、図7の入力用画像Geにおいて移動子30によって温度(T)が入力され、移動子31によって質量数(m/z)が入力されると、それらの入力値を図1の入力値記憶ファイル33内に記憶させる。
【0029】
図1において、メモリ5の内部に定性分析プログラム34が記憶されている。この定性分析プログラム34は、質量分析装置9によって得られた測定データ(m/z,I)と温度データ(T)とに基づいて求められるマススペクトル(すなわち、特定温度時における発生ガスの質量数ごとのイオン強度を示すグラフ)に基づいて、定性分析(すなわち、発生ガス中に含まれるガスの種類を判定する分析)を行う際に起動されるプログラムソフトである。定性分析プログラム34は、分析の対象であるマススペクトルを基準となるマススペクトルと比較することによって分析を行うものであるが、基準となる複数のマススペクトルデータはメモリ5内のライブラリデータファイル39に予め記憶されている。
【0030】
また、メモリ5の内部にスチル処理プログラム35が記憶されている。本実施形態では、図7において、温度軸用移動子30及び質量数軸用移動子31を操作することによって、2次元画像Gc及び2次元画像Gdに表示される測定データを温度や質量数をパラメータとして種々に変更できる。その際、データ内容を変更するたびに前回表示したデータ内容が完全に除去されてしまうと、それを再表示させたいときに前回と同じ操作を再度行わなければならなくなるので面倒である。このことに鑑み、本実施形態では、一度表示させた2次元画像Gc及びGdのデータ内容をメモリ5内のスチルデータファイル36内に記憶し、そのデータを所望のタイミングで図7の画面32上へ読み出せるようにしている。スチル処理プログラム35はこのようなデータ処理を行うためのプログラムソフトであるが、詳しくは後述する。
【0031】
また、図1のメモリ5の内部に多重描画プログラム38が記憶されている。本実施形態では、質量分析装置9を用いた質量分析結果(T,m/z,I)と、TG測定装置10を用いたTG測定結果(T,ΔG)と、DTA測定装置11を用いたDTA測定結果(T,ΔT)の各測定データがそれぞれ独自に求められる。多重描画プログラム38はそれら独自に求められた測定データを1つの座標上にまとめて描画、すなわち表示するためのプログラムソフトである。
【0032】
以下、上記構成より成る分析装置の動作を図3及び図4に示すフローチャートを参照して説明する。図3のステップS1からS5において、必要に応じて、TG測定、DTA測定、及び質量分析測定を行う。測定が終了すると、質量分析測定によって得られた(T(温度)、m/z(質量数)、I(イオン強度))の測定データ、TG測定によって得られた(T、ΔG)の測定データ、及びDTA測定によって得られた(T、ΔT)の測定データの各データが、例えば、図5及び図6に示すようなデータテーブルの形で図1の測定データファイル26の中に記憶される(図3のステップS6)。なお、図5及び図6では主に質量分析関係の測定データだけが示されているが、TG測定及びDTA測定関係の測定データも同じ形式で記憶される。
【0033】
ところで、本実施形態では図1の分析装置1が質量分析装置9、TG測定装置10、及びDTA測定装置11を有していて、それらの各測定装置による実測の結果として得られた測定データを順次に測定データファイル26内へ記憶するようにした。しかしながら、これに代えて、別の場所で予め行われた測定によって得られた測定データをバスライン6を介してデータファイル26へ転送して記憶し、その記憶された測定データを解析に供することもできる。
【0034】
次に、解析処理を行う旨の指示が図1の入力装置12を通して分析者によって成されると、制御の流れは図3のステップS8で解析処理のルーチンに入る。解析処理のルーチンに入ると、図4のステップS11において、図1の測定データファイル26内に記憶されたデータのうちから1つの試料に関して得られた(T,m/z,I,ΔT,ΔG)のデータが読み出される。また、ステップS12において、図1の入力済(m/z,T)ファイル33内に記憶されているデータを読み出す。このデータは、前回の分析において入力されて保持されていたデータである。今の場合は、m/z=41、T=376.0℃が読み出されるものとする。
【0035】
次に、図1の2D/3D画像生成プログラム28を起動して、図4のステップS13からステップS15で3次元立体画像データ、3次元平面画像データ、2次元画像データ、及び入力用画像データの各画像データを生成し、それらの画像データを図1の画像表示装置13へ伝送して、その画面上に各画像を表示する。具体的には、図7において、画面32の左側領域に3次元立体画像Gaを表示し、その上部領域に入力用画像Geを表示し、画面32の左側上段に3次元平面画像Gbを表示し、左側中段に2次元画像であるマスクロマトグラムGcを表示し、左側下段に2次元画像であるマススペクトルGdを表示する。
【0036】
なお、本実施形態では、2D/3D画像生成プログラム28の働きによって図13に示すような2次元画像であるTG−DTA曲線を表示することもできる。このTG−DTA曲線を含んだウインドウ表示は分析者の指示に応じて図7に示すメイングラフのウインドウ表示の上に重ねて表示することができる。
【0037】
図7の3次元立体画像Gaは、1つの試料に関する(T,m/z,I)の特性を3次元の立体画像の形で表現している。この3次元立体画像Gaは横軸Xa、縦軸Xb、及び立体軸Xcによって規定される3次元座標上に形成されている。ここで、横軸Xaは温度(T)軸(すなわち、時間軸)となっており、横軸Xaと協働して平面座標を構成する縦軸Xbは質量数(m/z)軸となっており、立体軸Xcはイオン強度(I)軸となっている。3次元立体画像Gaは、図1の測定データファイル26内から読み出された複数の(T,m/z,I)のデータを上記の3次元座標上にプロットすることにより形成されている。
【0038】
今考えている試料は、図8に示すように、5つのピークP1,P2,P3,P4,P5を持っている。イオン強度の強さから見るとP4>P3>P5>P1>P2となっている。イオン強度の強さを視覚的に容易に認識できるようにするために、本実施形態では、イオン強度が0(ゼロ)から上がるのに従って濃度が高くなるようにピーク波形をグラデーション表示する。あるいは、イオン強度=0(ゼロ)から第1段目の領域を「青色」で表示し、第2段目の領域を「緑色」で表示し、第3段目を「黄色」で表示し、第4段目を「赤色」で表示するというような、色分け表示を行って、イオン強度の大きさの識別を容易にすることもできる。
【0039】
図4のステップS14で生成される2次元画像データは図7における2次元画像Gc及びGdを表示するためのものであるが、この2次元画像データは図4のステップS12で読み込まれた(m/z,T)のデータに基づいて生成される。すなわち、ステップS12では、前回の入力値としてm/z=41及びT=376.0℃が読み込まれているので、ステップS14では、m/z=41に関する(T,I)のデータが読み込まれて図7のマスクロマトグラムGcに対応する2次元画像データが生成される。また、T=376.0℃に関する(m/z,I)のデータが読み込まれて図7のマススペクトルGdに対応する2次元画像データが生成される。
【0040】
また、ステップS13の3次元画像データ生成ステップでは、図8に示すように、(m/z,I)の入力値に対応して、すなわちm/z=41及びT=376.0℃に対応して直線である入力線L1及びL2を表示する画像データを生成する。入力線L1はm/z=41の座標値を通って温度軸Xaに平行な直線である。一方、入力線L2はT=376.0℃の座標値を通って質量数軸Xbに平行な直線である。
【0041】
入力線L1はとりもなおさず、図7のマスクロマトグラムGc(質量数41のガスのマスクロマトグラム)の波形を示している。また、入力線L2はとりもなおさず、図7のマススペクトル(温度376.0℃のときの発生ガスのスペクトル)の波形を示している。マスクロマトグラムやマススペクトルを観察する分析者は、直接的には、マスクロマトグラムGcやマススペクトルGdを見ながら分析を行うのであるが、信頼性の高い分析を行おうとするときには、該当する質量数のマスクロマトグラムGcだけではなく異なる質量数のマスクロマトグラムGcを考慮しながら分析を行ったり、該当する温度のマススペクトルGdだけではなく異なる温度のマススペクトルGdを考慮しながら分析を行ったりすることがある。
【0042】
このような場合、単に2次元画像Gc,Gdだけを画面上に表示していた従来の画像表示方法においては、面倒な操作を行った後に種々の条件のマスクロマトグラムやマススペクトルを交互に表示して分析を行わなければならなかったが、2次元画像Gc,Gdと3次元画像Ga,Gbを1つの画面32上に同時に表示するようにした本実施形態によれば、3次元画像Ga,Gbを観察しながら2次元画像Gc,Gdを観察できるので、信頼性の高い分析を短時間で行うことができる。
【0043】
また、本実施形態では、表示されているマスクロマトグラムGcの質量数(m/z)が3次元立体画像Ga及び3次元平面画像Gb上で入力線L1として表示されており、表示されているマススペクトルGdの温度(T)が3次元立体画像Ga及び3次元平面画像Gb上で入力線L2として表示されている。従って、分析者はマスクロマトグラムGcを3次元画像Ga,Gb上で入力線L1によって正確に把握でき、さらに、マススペクトルGdを3次元画像Ga,Gb上で入力線L2によって正確に把握できる。このため、より一層正確な分析を行うことができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、図7において入力用画像Ge内の温度軸用移動子30の位置によって温度軸Xa上の入力線L2の座標値を決めている。分析者が移動子30の位置をマウス操作によって移動させれば、図4のステップS18で「YES」と判定され、ステップS13からS16で新たに画像データが生成され、その結果、入力線L2を温度軸Xaに沿って平行移動させる表示を行うことができる。また、入力線L1の質量数軸Xb上の座標値は質量数軸用移動子31の位置によって決められており、この質量数軸用移動子31の位置をマウス操作によって移動させれば、同様の画像処理により、入力線L1を質量数軸Xbに沿って平行移動させる表示を行うことがことができる。
【0045】
入力線L1を3次元立体画像Ga上で質量数軸Xbに沿って平行移動させれば、マスクロマトグラムGcには該当する質量数のマスクロマトグラムが次々と表示される。これにより、分析者は、所望のマスクロマトグラムを短時間で適切に特定でき、その結果、マスクロマトグラムの面積に基づいて行われる定量分析を非常に正確に行うことができる。
【0046】
また、入力線L2を3次元立体画像Ga上で温度軸Xaに沿って平行移動させれば、マススペクトルGdには該当する温度のマスクロマトグラムが次々と表示される。これにより、分析者は、所望のマススペクトルを適切に短時間で適切に特定でき、その結果、マススペクトルを用いて行われる定性分析を非常に正確に行うことができる。
【0047】
次に、本実施形態では、マウスやキーボード等を使った適宜の操作により3次元立体画像Gaを画面上で回転させるための指示を行うことができる。この指示が行われると、図4のステップS17で「YES」と判定され、ステップS13に戻って、指定された視点を基準とする3次元画像データが新たに生成され、その結果、図7の3次元立体画像Gaを回転させる表示を行うことができる。これにより、分析者は、希望する角度から3次元立体画像Gaを観察でき、正確な分析を行うことができる。
【0048】
図7では、ある1つの試料に関して得られた(T,m/z,I)の測定データに基づいて3次元立体画像Ga、3次元平面画像Gb,2次元画像Gc,Gdを表示した。図1のCPU2が異なる試料に関して得られた(T,m/z,I)の測定データを測定データファイル26から読み出せば、その異なった試料に関する3次元立体画像Ga、3次元平面画像Gb、及び2次元画像Gc,Gdが、例えば図9に示すように求められる。図9では図7の場合とは異なった試料に関して、質量数44が移動子31によって選択され、温度639.2℃が移動子30によって選択されている。そして、3次元立体画像Ga及び3次元平面画像Gbにおいて質量数軸Xbの座標値44の所に入力線L1が表示され、温度軸Xaの座標値639.2℃の所に入力線L2が表示されている。さらに、2次元画像Gc,Gdの領域を見れば、質量数44のマスクロマトグラムGcが表示され、温度639.2℃のマススペクトルGdが表示されている。
【0049】
本実施形態において、分析者は図7のマススペクトルGdを用いて試料の定性分析を行うことができる。この定性分析は、測定の結果得られた組成が未知である試料のマススペクトルGdを組成が分かっている物質について予め求められていた標準のマススペクトルと比較して、その未知試料の組成を判別するという分析である。定性分析を行いたい分析者は、図1の入力装置12を適宜に操作して定性分析の開始を指示する。すると、図4のステップS19でYESと判定されて、ステップS20の定性分析の処理ルーチンに入る。
【0050】
すると、図1のCPU2はメモリ5内のライブラリデータファイル39の中から適宜のライブラリデータを読み出して、そのライブラリデータを図10において画面32の下段領域に符号Q1のように表示する。また、図7のマススペクトルGd(実測データ)の要部を符号Q3のように上段領域に表示する。また、実測データQ3とライブラリデータQ1とを比較し易いように一緒に表示した画像Q2を中段領域に表示する。分析者はこの比較画像を観察することにより、試料の組成を判別できる。また、CPUは必要に応じて実測データQ3とライブラリデータQ1との一致度を所定の手順によって演算によって決めることができる。分析者はこの一致度を考慮して定性分析を行うこともできる。
【0051】
次に、本実施形態において、分析者は、図1の入力装置12を操作することにより、スチル処理を実行することができる。本実施形態では、図7において、温度軸用移動子30及び質量数軸用移動子31を操作することによって、マスクロマトグラムGc及びマススペクトルGdの内容を種々に更新できる。この際、データ内容を変更するたびに前回表示したデータ内容が完全に除去されてしまうと、それを再表示させたいときに前回と同じ操作を再度行わなければならなくなるので面倒である。このことに鑑み、本実施形態では、一度表示させたマスクロマトグラムGc及びマススペクトルGdのデータ内容を任意のタイミングで簡単に再表示できるようにしている。このような処理がスチル処理である。
【0052】
分析者によってこのスチル処理が指示されると、図4のステップS21でYESと判定され、制御の流れはステップS22のスチル処理ルーチンへ入り、図1のCPU2はスチル処理プログラム35を起動する。すると、図1の画像表示装置13へ所定の画像信号が伝送されて、図11に示すように画面32の左側領域にスチルウインドウ42が表示される。今までにスチル処理が行われていない場合や、装置が初期化された後の場合は、スチルウインドウ42は空欄であってその中に情報は入っていない。他方、過去にスチル処理が行われている場合には、スチルウインドウ42の中に、過去に行われたスチル処理に対応した識別マークMが表示される。
【0053】
分析者が現在の時点で画面32上に表示されているマスクロマトグラムGcを再表示を企図してスチルウインドウ42内に一旦保存しようと思ったとする。この場合、分析者は、マスクロマトグラムGcの領域をマウス操作のダブルクリックで指示するか、矢印Aで示すようにマスクロマトグラムGcとスチルウインドウ42との間でマウス入力具のドラッグアンドドロップ操作を行う。すると、図1のCPU2は、マスクロマトグラムGcとして表示されている(m/z,T,I)のデータ(m/zは1種類の値)をスチルデータファイル36内に転送して、そこに記憶する。その際、CPU2は図11の画面32に表示されているマスクロマトグラムGcの画像をビットマップイメージに変換する。例えば、ビットマップ(BMP)形式のファイルに変換する。そして、図1に符号Dで示すようにデータ内容に対応させてそのビットマップイメージを記憶する。そして、図11のスチルウインドウ42内にはビットマップイメージの画像が識別マークMとして表示される。
【0054】
このビットマップイメージ化された識別マークMはマスクロマトグラムGcの画像をそのままイメージ化したものであり、従って、分析者は識別マークMを見ると直ぐに、記憶されている内容がどのようなものであるかを迅速且つ確実に判別できる。
【0055】
分析者が、現時点で画面32に表示されているマススペクトルGdを一時的に保存したい場合には、例えば、マススペクトルGdを矢印Bのようにスチルウインドウ42へ向けてドラッグアンドドロップ操作することにより、マススペクトルGdのデータ内容を図1のスチルデータファイル36へ記憶でき、同時に、マススペクトルGdの画像をビットマップイメージの識別マークMとして記憶できる。
【0056】
その後、分析者がスチルウインドウ42内に格納したデータを再表示して解析等を行いたい場合には、スチルウインドウ42内に表示された識別マークMのうち再表示を希望する識別マークMを指示、例えばダブルクリックする。例えば、図12においてスチルウインドウ42に表示されているマスクロマトグラムM1のデータを再表示したい場合には、図12において識別マークM1をダブルクリックする。すると、図1においてスチルデータファイル36内に記憶された対応する(m/z,T,I)のデータが読み出され、さらに2次元画像データに変換され、画像表示装置13に伝送され、その画面上に図12に符号Gc’で示すように再表示される。分析者はこの表示に基づいて所望の解析、例えば面積を算出して定量解析を行うことができる。
【0057】
次に、分析者は、図1の入力装置12を操作することにより、多重描画処理を実行することができる。この処理がされると、図4のステップS23においてYESと判定され、ステップS24の多重描画処理ルーチンに入り、図1の多重描画プログラム38が起動する。すると、今まで説明してきた質量分析系の画面に代えて他の測定系のデータ、たとえば図13に示すようなTG−DTA測定の測定データがグラフとして表示される。
【0058】
分析者がこのTG−DTA測定結果にマスクロマトグラムGcやマススペクトルGdを重ねて表示したいと希望する場合には、マスクロマトグラムGcやマススペクトルGdに対して適宜の指示、例えばダブルクリック操作を行う。すると、図14に示すように、TG−DTA線図に重ねてマスクロマトグラムGcやマススペクトルGdが表示される。分析者はこの合成されたグラフを観察することにより、より詳しい解析を行うことができる。
【0059】
本発明は、測定データを取得する手段と、画面を備えた表示手段と、測定データを座標と共に前記画面上に画像として表示させる測定データ表示手段と、座標と共に表示される測定データを更新する測定データ更新手段と、前記画面上に表示されている更新前の測定データをビットマップイメージと関連して記憶させる手段と、前記ビットマップイメージを画面上に表示する手段とを有することを特徴とする分析装置である。
【0060】
この発明を上記の実施形態と比べると、「測定データを取得する手段」は、質量分析装置9、TG測定装置10、DTA測定装置11によって構成される。また、「画面を備えた表示手段」は、画像表示装置13によって構成される。また、「測定データを座標と共に前記画面上に画像として表示させる測定データ表示手段」は、2D/3D画像生成プログラム等によって構成される。また、「座標と共に表示される測定データを更新する測定データ更新手段」は、入力用画像処理プログラム等によって形成される。「更新前の測定データをビットマップイメージと関連して記憶させる手段」及び「ビットマップイメージを画面上に表示する手段」はスチル処理プログラムによって形成される。
【0061】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、以上に説明した実施形態では、図1において測定データファイル26内に記憶して2次元画像表示及び3次元画像表示するデータとして(T,m/z,I)の3つのデータを考えたが、本発明はこれ以外の任意の3種類以上のデータを処理する場合にも適用できる。例えば、温度変化する試料にX線を照射して回折線を検出するX線回折測定によって得られる測定データである(T(温度)、2θ(回折角度)、I(回折線強度))のデータを図1の測定データファイル26内に記憶し、さらにそのデータを2次元画像及び3次元画像することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る分析装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1の分析装置で用いられる測定系の一例を示す図である。
【図3】図1の装置によって行われる処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図3の要部のステップを示すフローチャートである。
【図5】図1の分析装置を構成するメモリの一部領域に記憶されるデータを示す図である。
【図6】図5のデータに続くデータを示す図である。
【図7】図1の分析装置で用いられる表示装置の画面に表示される画像の表示例を示す図である。
【図8】図7の要部を拡大して示す図である。
【図9】図1の分析装置で用いられる表示装置の画面に表示される画像の他の表示例を示す図である。
【図10】定性分析の際に画面に表示される画像を示す図である。
【図11】測定データの管理処理であるスチル処理を行った際に画面に表示される画像を示す図である。
【図12】スチル処理の画面表示の他の例を示す図である。
【図13】図1の分析装置で用いられる表示装置の画面に表示される画像のさらに他の表示例を示す図である。
【図14】多重描画処理を行った際の画像表示例を示す図である。
【図15】従来の分析装置における画像表示例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1.分析装置、 5.メモリ、 6.バス、 9.質量分析装置、
10.TG測定装置、 11.DTA測定装置、 17a,17b.天秤ビーム、
18.ケーシング、 19.ヒータ、 20.ガス管、
26.測定データファイル、 30.温度軸用移動子、 31.質量数軸用移動子、
32.画面、 33.入力値記憶ファイル、 36.スチルデータファイル、
37.解析データファイル、 39.ライブラリデータファイル、
42.スチルウインドウ、 D.スチルデータ、 Ga.3次元立体画像、
Gb.3次元平面画像、 Gc2次元画像(マスクロマトグラム),
Gd.2次元画像(マススペクトル)、 Ge.入力用画像、 M.識別マーク、
Q1.ライブラリデータ、 Q2.比較表示、 Q3.実測データ、 S0.標準物質、
S1.試料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定データを取得する手段と、
画面を備えた表示手段と、
測定データを座標と共に前記画面上に画像として表示させる測定データ表示手段と、
座標と共に表示される測定データを更新する測定データ更新手段と、
前記画面上に表示されている更新前の測定データをビットマップイメージと関連して記憶させる手段と、
前記ビットマップイメージを画面上に表示する手段と
を有することを特徴とする分析装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ビットマップイメージは、前記測定データが前記座標と共に表示された状態の画像を示すことを特徴とする分析装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記測定データは、試料温度、発生ガスの質量数、及び発生ガスのイオン強度であり、
前記座標は、横軸に試料温度をとり、縦軸に発生ガスのイオン強度をとったマスクロマトグラムの座標であることを特徴とする分析装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
前記測定データは、試料温度、発生ガスの質量数、及び発生ガスのイオン強度であり、
前記座標は、横軸に発生ガスの質量数をとり、縦軸に発生ガスのイオン強度をとったマススペクトルの座標であることを特徴とする分析装置。
【請求項1】
測定データを取得する手段と、
画面を備えた表示手段と、
測定データを座標と共に前記画面上に画像として表示させる測定データ表示手段と、
座標と共に表示される測定データを更新する測定データ更新手段と、
前記画面上に表示されている更新前の測定データをビットマップイメージと関連して記憶させる手段と、
前記ビットマップイメージを画面上に表示する手段と
を有することを特徴とする分析装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ビットマップイメージは、前記測定データが前記座標と共に表示された状態の画像を示すことを特徴とする分析装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記測定データは、試料温度、発生ガスの質量数、及び発生ガスのイオン強度であり、
前記座標は、横軸に試料温度をとり、縦軸に発生ガスのイオン強度をとったマスクロマトグラムの座標であることを特徴とする分析装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
前記測定データは、試料温度、発生ガスの質量数、及び発生ガスのイオン強度であり、
前記座標は、横軸に発生ガスの質量数をとり、縦軸に発生ガスのイオン強度をとったマススペクトルの座標であることを特徴とする分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−64787(P2007−64787A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250951(P2005−250951)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
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