説明

前処理装置及び金属分析装置

【課題】白煙の発生を目視して硝酸の駆逐完了を行うと分析に誤差が生じ、接触式温度計あるいは細線状熱電対温度計を用いると前処理工程中の蒸発濃縮時間が長くなる。
【解決手段】ヒ素、セレン及びアンチモンの内の一つ又は複数を分析するための前処理装置において、赤外放射温度計を備えた。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、前処理装置及び金属分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
水中又は空気中又は土壌中又は産業廃棄物中又は一般材料中のヒ素、セレン、アンチモン、を分析するための前処理工程では、分解用試薬として硝酸が使用される。この分解工程の後、更に後の工程の妨害物質である硝酸を駆逐する作業を行なう。従来、硝酸の駆逐を確認するため、駆逐完了の温度である約150度を目視で観測していた。具体的には、硫酸又は過塩素酸を共存させ、硫酸又は過塩素酸の白煙発生温度である、約150度に達したことを白煙発生の目視観測で認識し、沸点約120度の硝酸の駆逐を推測していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のように硝酸の駆逐を硫酸又は過塩素酸の白煙発生で推測する方法では、該白煙と白煙発生以前から発生し続ける水蒸気とを見分けるのがむずかしい。このため、駆逐に過不足を生じることが多い。駆逐不足の場合は、硝酸が残存し、後の還元工程において、ヒ素、セレン、アンチモン、の各水素化物の生成が不完全となり、分析値に大きなマイナス誤差が生じる。駆逐過剰の場合は、ヒ素、セレン、アンチモン、の各酸化物が揮発してしまい、分析値に大きなマイナス誤差が生じる。白煙発生をはっきりさせるには、供試液量を多くすればよいが、この方法では、前処理工程中の蒸発濃縮時間が長くなることが欠点である。接触式温度計で測温する方法も、供試液量を多くする必要があり、この方法でも、前処理工程中の蒸発濃縮時間が長くなることが欠点である。細線状熱電対温度計で測温する方法でも、液相の深さを深くするために、検液容器の径を細くしなければならないので、前処理工程中の蒸発濃縮時間が長くなることが欠点である。
【0004】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、前処理工程中の蒸発濃縮時間が短時間ですみ、硝酸の駆逐に過不足を生じさせることのない前処理装置及び金属分析装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、ヒ素、セレン及びアンチモンの内の一つ又は複数を分析するための前処理装置において、赤外放射温度計を備えたことによって達成される。このように、赤外放射温度計を用いることによって、硝酸が駆逐される温度への到達を正確に認識することができる。
【0006】
上記前処理装置において、赤外放射温度計は、スポット径が50mm以下であることが望ましい。このようにスポット径が50mm以下の赤外放射温度計を使用することによって、少量の検液の温度を認識できるので、供試液量が少なくて済むことから、前処理工程の蒸発濃縮時間を短縮することができる。
【0007】
また、上記前処理装置において、ヒ素、セレン及びアンチモンの内の一つ又は複数を含む検液を収容する検液容器は、その底面中央にへこみを有するものを用いることが望ましい。このように底面中央にへこみのある検液容器を使用すれば、液相部分の深さが中央で最も深くなるため、供試液量が少なくて済み、前処理工程の蒸発濃縮時間を短縮することができる。また、底面中央にへこみのある検液容器を使用すれば、容器の壁の温度と液温と区別して、液温を正確に測ることができる。
【0008】
上記前処理装置において、赤外放射温度計は、自動制御機構によって水平又は垂直方向に稼動できるように構成されていることが望ましい。また、検液容器は複数並んで配置され、これらが自動制御機構によって水平方向に稼動できるように構成されることが望ましい。
【0009】
ヒ素、セレン、アンチモンの濃度測定を行なう本発明の金属分析装置は、上記のような前処理装置を付属品として持つものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施形態の前処理装置及び金属分析装置の構成例を示す概略図である。図1において、符号1は前処理装置を、符号2は金属分析装置(ICP発光分析装置)をそれぞれ示す。この実施形態においては、金属分析装置2が付属品として前処理装置1を有するものである。
【0011】
前処理装置1内には、加熱装置7が設けられており、この加熱装置7の上にヒ素、セレン及びアンチモンの内の一つ又は複数を含む検液5を収容する検液容器4が置かれている。検液容器4は、その底面中央にへこみを有する。加熱装置7は温度出力装置8に信号ケーブル10によって接続されており、温度出力装置8は温度制御装置9から信号ケーブル10を通して送信されてくる制御信号によって制御される。
【0012】
一方、検液容器4上には赤外放射温度計3が配置されており、検液5から発する赤外線6を検出する。この赤外放射温度計3は、スポット径が50mm以下である。赤外放射温度計3によって検出された温度を示す信号は信号ケーブル10を通して温度制御装置9に送られ、温度制御装置9は検出された温度に応じて温度出力装置を制御する。
【0013】
前処理工程においては、まず、ヒ素、セレン及びアンチモンの内の一つ又は複数を含む検液5を検液容器4にいれ、加熱装置7上に置く。そして、加熱装置7で加熱して硝酸を駆逐しながら、赤外線放射温度計3で検液5から放射される赤外線6を受け、温度を検出する。そして、検液5の温度が150度に達したら、温度制御装置9によって加熱装置7への温度出力装置8からの出力を止め、硝酸の駆逐を終了する。硝酸の駆逐を終えた検液は、金属分析装置2に移送され、ヒ素、セレン、アンチモンの濃度測定が行われる。
【0014】
図示していないが、本実施形態の前処理装置において、赤外放射温度計3は、自動制御機構によって水平又は垂直方向に稼動できるように構成されている。また、本実施形態では検液容器4は1つしか図示していないが、このような検液容器を複数並べて配置し、これらが自動制御機構によって水平方向に稼動できるように構成しても良い。
【0015】
(実施例1)
図1に示す前処理装置1を用い、検液容器4にヒ素を含む検液5を入れて、赤外放射温度計3を用いて温度を検出しながら、加熱装置7で温度が150度に達するまで加熱して硝酸の駆逐を行った。その後、検液5を金属分析装置2に移送し、ヒ素の定量を行った。
【0016】
続いて、同一の検液を図1の検液容器に入れ、赤外放射温度計3を用いずに、白煙発生を目視観測して加熱を停止する従来の方法で硝酸の駆逐を行った。その後、検液を金属分析装置2に移送し、ヒ素の定量を行った。
【0017】
上記赤外放射温度計を用いた場合と、従来の方法とでヒ素の定量誤差を比較した。その結果を表1に示す。本発明の装置を用いた場合には、従来の方法に比べて供試液量が同じ場合には、マイナス誤差が約1/3〜1/5に減少した。
【0018】
(実施例2)
図1に示す前処理装置1を用い、検液容器4にセレンを含む検液5を入れて、赤外放射温度計3を用いて温度を検出しながら、加熱装置7で温度が150度に達するまで加熱して硝酸の駆逐を行った。その後、検液5を金属分析装置2に移送し、セレンの定量を行った。
【0019】
続いて、同一の検液を図1の検液容器に入れ、赤外放射温度計3を用いずに、白煙発生を目視観測して加熱を停止する従来の方法で硝酸の駆逐を行った。その後、検液を金属分析装置2に移送し、セレンの定量を行った。
【0020】
上記赤外放射温度計を用いた場合と、従来の方法とでセレンの定量誤差を比較した。その結果を表1に示す。本発明の装置を用いた場合には、従来の方法に比べて供試液量が同じ場合には、マイナス誤差が約1/10に減少した。
【0021】
(実施例3)
図1に示す前処理装置1を用い、検液容器4にアンチモンを含む検液5を入れて、赤外放射温度計3を用いて温度を検出しながら、加熱装置7で温度が150度に達するまで加熱して硝酸の駆逐を行った。その後、検液5を金属分析装置2に移送し、アンチモンの定量を行った。
【0022】
続いて、同一の検液を図1の検液容器に入れ、赤外放射温度計3を用いずに、白煙発生を目視観測して加熱を停止する従来の方法で硝酸の駆逐を行った。その後、検液を金属分析装置2に移送し、アンチモンの定量を行った。
【0023】
上記赤外放射温度計を用いた場合と、従来の方法とでアンチモンの定量誤差を比較した。その結果を表1に示す。本発明の装置を用いた場合には、従来の方法に比べて供試液量が同じ場合には、マイナス誤差が約1/7〜1/10に減少した。
【0024】
【表1】



【0025】
【発明の効果】
本発明の装置を使用して、ヒ素、セレン、アンチモンを分析すれば、従来の方法よりも、誤差を小さくできる。また、前処理時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の前処理装置及び金属分析装置を示す概略図である。
【符号の説明】
1 前処理装置
2 金属分析装置(ICP発光分析装置)
3 赤外放射温度計
4 検液容器
5 検液
6 赤外線
7 加熱装置
8 温度出力装置
9 温度制御装置
10 信号ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素、セレン及びアンチモンの内の一つ又は複数を分析するための前処理装置において、赤外放射温度計を備えたことを特徴とする前処理装置。
【請求項2】
前記赤外放射温度計は、スポット径が50mm以下である請求項1記載の前処理装置。
【請求項3】
前記ヒ素、セレン及びアンチモンの内の一つ又は複数を含む検液を収容する検液容器の底面中央にへこみを有する請求項1記載の前処理装置。
【請求項4】
前記赤外放射温度計が、自動制御機構によって水平又は垂直方向に稼動できるように構成された請求項1記載の前処理装置。
【請求項5】
前記ヒ素、セレン及びアンチモンの内の一つ又は複数を含む検液を収容する検液容器が複数並んで配置され、これらが自動制御機構によって水平方向に稼動できるように構成された請求項1記載の前処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の前処理装置を付属品として持つ、ヒ素、セレン、アンチモンの濃度測定を行なう金属分析装置。

【図1】
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【公開番号】特開2004−20324(P2004−20324A)
【公開日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−174348(P2002−174348)
【出願日】平成14年6月14日(2002.6.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】