説明

動植物成長促進剤

【課題】安全性が高くて生分解性を有し、しかも広範なpH領域において金属イオンを可溶化分散でき、土壌分散や海上分散等により動植物に金属成分を供給するために好適な動植物成長促進剤を提供する。
【解決手段】動植物の成長促進に用いられる動植物成長促進剤であって、
下記一般式(1);
【化1】


(式中、Xは、同一若しくは異なって、水素原子、金属原子又はアンモニウム基を表す。)で表される3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸類を必須成分とする動植物成長促進剤、及び、上記動植物成長促進剤に用いられる3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動植物成長促進剤に関する。より詳しくは、土壌や海洋分散されて各種の動植物の成長を促進して農業や漁業の増産等のために用いられる動植物成長促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
動植物成長促進剤は、動植物が生育する環境に対して供給され、動植物の発育を助長し、成長を促進する作用を有するものであり、動植物の成長を促進する金属成分を動植物に取り込まれやすくする作用等を有するものが検討されている。このような動植物成長促進剤は、様々な農業や漁業の増産、安定した収穫等に役立つことが期待されることから、環境や収穫される動植物に対して安全性が高いものや、各種の動物や作物等に対して、また、土壌中や海中等の様々な育成環境に対して効果的なものが求められることになる。
【0003】
従来の動植物成長促進剤の中で土壌分散するものに関して、生分解性鉄キレート化合物を有効成分として含有する、作物に鉄を供給する資材が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この資材においては、動植物の成長を促進する金属成分である鉄が動植物に取り込まれやすくするためにキレート化合物が含まれ、酸性アミノ酸と酢酸とからなる化合物等が例示されている。また、主成分として、酸化第一鉄と含キレート化物質とを含有する植物成長促進剤が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。キレート化合物としては、腐葉土及び牛糞のうち少なくとも一方であることが示されている。
【0004】
また海洋分散するものに関して、海洋における海産物の増産方法において、栄養分が相当量欠如している海面領域を欠落栄養分によって肥沃化し、この肥沃化剤が鉄キレートを含む方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。キレートとしては、リグニン又はリグニン酸スルホン酸を含むものが挙げられている。更に、欠けている栄養素を施用し、海洋に二酸化炭素(CO)を封鎖する方法として、栄養素がかなりの程度欠如している領域に、前記欠如栄養素を含む肥料を施用して、肥沃化し、それにより二酸化炭素を封鎖するステップを含む方法が開示されている(特許文献4参照。)。この方法にて用いられる肥料は、鉄キレートを含み、キレートとしてリグニンスルホン酸を含むものが挙げられている。
【0005】
しかしながら、これらのキレート化合物は、金属キレート能が一般的にpHに依存し、中性やアルカリ性条件下における性能が酸性条件下の場合に比べて通常低下する。土壌や海中においては、酸性領域からアルカリ性領域までの様々な環境条件の下で金属成分が動植物に供給されることになることから、広範なpH条件において有効に動植物の成長を促進することができるようにすることが求められることになる。更に、海洋分散により金属成分を動植物に供給するキレート化合物としては、リグニン、リグニン酸スルホン酸又はリグニンスルホン酸を含むもの以外に動植物の生育環境に応じて適切な化合物を用いるために、動植物に対する安全性が高く、かつ環境を汚染することなく、また様々な条件の下で効率的に金属成分を動植物に供給することができるようにする工夫の余地があった。
【特許文献1】特開平9−136807号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2004−123677号公報(第2頁)
【特許文献3】特表2002−514062号公報(第2−3頁)
【特許文献4】特表2003−523275号公報(第2−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、安全性が高くて生分解性を有し、しかも広範なpH領域において金属イオンを可溶化分散でき、土壌分散や海上分散等により動植物に金属成分を供給するために好適な動植物成長促進剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、動植物に必要な金属イオンをキレートの形態として輸送することで動植物の成長を促進する動植物成長促進剤について種々検討したところ、3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸類(HIDS類)が金属イオンに対して優れたキレート能を有する化合物であることに着目した。そして、HIDS類の優れたキレート能に起因して広範なpH領域において金属イオンを可溶化分散できるという特性が発揮されることから、酸性や中性条件下だけでなく、アルカリ性領域下でも好適に使用できることから、金属成分を動植物に供給する際し、様々な環境条件において動植物成長促進剤としての優れた作用効果を発揮することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。例えば、動植物の成長を促進する金属が鉄である場合、鉄イオンは比較的低いpHから不溶性の水酸化物(Fe(OH))を形成しやすいため、通常の場合、Fe3+→Fe(OH)↓の反応が進行し、不溶性の沈殿Fe(OH)が生成する。しかし、HIDSの優れたキレート能に起因して、HIDSの存在下では、Fe3+→[Fe−HIDS]と、広範なpH領域においてFeイオンを可溶化分散でき、キレートを形成するという特性が発揮される。またキレート剤として知られているエチレンジアミン四酢酸(EDTA)は中性〜アルカリ性でキレート性能が低下し、例えば鉄の場合、[Fe−EDTA]→Fe(OH)↓+EDTAの反応が進行するのに対し、HIDSはこのような高いpH領域でも水溶性塩を形成できるため、特にアルカリ領域でのFeイオンに対するキレート性能においてEDTAと比較して優位性が認められることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、動植物の成長促進に用いられる動植物成長促進剤であって、下記一般式(1);
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Xは、同一若しくは異なって、水素原子、金属原子又はアンモニウム基を表す。)で表される3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸類を必須成分とする動植物成長促進剤である。
本発明はまた、上記動植物成長促進剤に用いられる3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸類でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明における動植物の成長促進に用いられる動植物成長促進剤は、上記一般式(1)で表される3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸類(HIDS類)を必須成分とするものである。HIDS類はこのような構成であるために、広範なpH領域において金属イオンを可溶化分散でき、優れた生分解性を有することとなる。
上記動植物成長促進剤としては、一般式(1)で表されるHIDS類における原子Xが、同一若しくは異なって、水素原子、金属原子又はアンモニウム基であるHIDS類を必須成分とするものであるが、Xが、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又はアンモニウム基、及び/又は、動植物の成長促進作用を有する金属原子であるHIDS類が好ましい。
上記アルカリ金属原子としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等を挙げることができ、アルカリ土類金属原子としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等を挙げることができ、有機アンモニウム基(有機アミン基)としては、例えば、モノエチルアミン基、ジエチルアミン基、トリエチルアミン基等のアルキルアミン基;モノエタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基;エチレンジアミン基、トリエチレンジアミン基等のポリアミン基等を挙げることができる。
上記動植物の成長促進作用を有する金属原子としては、動植物の成長促進のために必要な金属原子であって、例えば、鉄、マンガン、亜鉛、ニッケル、銅、カルシウム、アルミニウム、モリブデン、クロム等が挙げられる。
【0012】
上記HIDS類は、また、光学異性体が存在する場合がある。このような光学異性体の構造としては、一般式(1)で表されるHIDS類のアスパラギン酸骨格部分におけるL体、D体が存在することになる。
上記一般式(1)で表されるHIDS類のアスパラギン酸骨格部分とは、一般式(1)中の下記一般式(2);
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Xは、同一若しくは異なって、水素原子、金属原子又はアンモニウム基を表す。)で表される構造を意味する。
またアスパラギン酸骨格部分におけるL体、D体とは、一般式(2)で表される構造中の不斉炭素原子における立体配置がS配置、R配置であるHIDS類であり、S配置の場合はL体、R配置の場合はD体となる。
【0015】
本発明におけるHIDS類の光学異性体の含有割合としては特に限定されず、L体又はD体をそれぞれ合成したり、ラセミ体を分割することにより、L体又はD体を単独で用いてもよい。なお、HIDS類の生分解性は用いた原料アスパラギン酸の異性体により異なり、原料アスパラギン酸が、D体、ラセミ体、L体の順に高くなることから、使用するHIDS類としては、原料アスパラギン酸としてラセミ体を用いることが好ましく、L体を用いることがより好ましい。このように、上記HIDS類のアスパラギン酸骨格部分における異性体割合を特定の範囲に調整する方法としては、HIDS類の調製方法において、D体とL体の比率が特定範囲にあるアスパラギン酸及び/又はその塩を含む原料を用いて反応を行う方法、D体のHIDS類とL体のHIDS類とを別々に合成し、これらを特定比率で混合する方法等が好適である。
【0016】
上記HIDS類の調製方法としては、アスパラギン酸及び/又はその塩と、エポキシコハク酸とを含む原料を水性媒体中で反応させる方法を挙げることができる。この方法によると、工程数を増やすことなく、任意のpHのHIDS類を含む水溶液組成物を得られることから好適に用いられることとなる。
上記調製方法において、原料におけるアスパラギン酸及び/又はその塩と、エポキシコハク酸との比率や、反応温度等の反応条件としては特に限定されるものではない。また、エポキシコハク酸としては、シス体、トランス体の両立体異性体をそれぞれ単独又は混合して用いることができる。水性媒体とは、水又は水と水に溶解する溶媒との混合物であり、水;水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、アセトニトリル等との混合溶媒が好適であるが、これらの中でも、水を用いることが好ましい。
【0017】
上記反応において、例えば、L体のアスパラギン酸及び/又はその塩を原料として用いると、これに由来する立体配置が生成するHIDS類の構造式中のアスパラギン酸骨格部分の不斉炭素原子にS配置として保持されることになり、アスパラギン酸骨格部分における異性体がL体であるHIDS類が生成することになる。このようなHIDS類は、アスパラギン酸のカルボン酸の一部又は全部を中和した反応液に、エポキシコハク酸を添加し反応させることで、HIDS類を含む水溶液を得る方法で調製可能である。
【0018】
本発明における動植物成長促進剤は、動植物に金属成分を供給するために好適なものであり、このような金属成分としては、上記動植物の成長促進作用を有する金属原子が好ましく、中でも、鉄がより好ましい。鉄は、動植物が有効に吸収することができない不溶性の水酸化物(Fe(OH))を比較的低いpHから形成しやすいためか、無機鉄や塩化鉄等として付与しても動植物の吸収効果が充分でないことが多く、本発明の動植物成長促進剤の作用効果が発揮されることにより動植物に好適に取り込まれ得る金属成分の一つである。このような動植物成長促進剤による金属成分の取り込みを促進するメカニズムとしては、鉄の場合は、不溶性の水酸化鉄を形成しにくい[Fe−HIDS]を利用することにより、Feイオンを可溶化した状態とし、金属成分を取り込む部位まで運搬されることが可能となり、動植物等への効率的な取り込みを促進することが挙げられる。HIDS類はFeキレート性能、特に中性以上のアルカリ性条件下においてもFeイオンの可溶・分散化能に優れていることから、このようなアルカリ性条件下や中性条件下等の環境下で生育する動植物に特に好適に用いることができる。また、HIDS類は、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)等のその他類似化合物と比較して、Feキレートの形成能に優位性が認められる。
【0019】
上記金属成分は、必要に応じて動植物成長促進剤に配合して及び/又は動植物成長促進剤とは別の形態で供給することができる。このような場合、HIDS類の高いキレート能に起因して、配合された及び/又は別の形態で供給された金属成分の少なくとも一部は、一般式(1)においてXが配合及び/又は供給された金属成分で表されるキレート化合物を形成することとなる。
上記金属成分を別の形態で供給する方法としては、動植物成長促進剤を分散させる前に金属成分を分散させてもよく、動植物成長促進剤と同時に分散させてもよく、動植物成長促進剤を撒布させた後で分散させてもよい。
上記金属成分としては、また、動植物が育成する環境中、例えば、土壌や海洋に存在するものを利用してもよいが、充分な量の金属成分を供給できる点から、環境中の金属成分とは別に金属成分を供給する形態が好ましい。また、供給する金属成分をあらかじめ安定なキレートとでき、分散後に動植物が取り込むことのできない水酸化物等を生成するおそれが少ない点から、動植物成長促進剤に金属成分を配合する形態がより好ましい。
【0020】
上記動植物成長促進剤の使用量及び環境中の金属成分とは別に添加する場合の金属成分の濃度としては、適用される動植物の種類、環境中に存在する金属成分の濃度等を含む生育環境、発育段階、適用方法等により変動するが、動植物成長促進剤のHIDS類の濃度としては0.001〜100000ppmが好ましく、0.01〜10000ppmがより好ましい。一方、金属成分の濃度としては、0.01〜100000ppmが好ましく、0.1〜10000ppmがより好ましい。
【0021】
上記動植物成長促進剤は、また、上述のHIDS類を必須成分としてなるものであり、必要に応じてその他の成分を含むものであってもよい。
上記その他の成分としては、HIDS類以外のキレート化合物であってもよく、このようなキレート化合物としては、イミノジコハク酸、ヒドロキシイミノジ酢酸、アスパラギン酸−N−モノ酢酸、アスパラギン酸−N,N−ジ酢酸、グルタミン酸−N,N−ジ酢酸、メチルグリシンジ酢酸、エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸が挙げられる。これらの中でも、イミノジコハク酸、ヒドロキシイミノジ酢酸、エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸が好ましく、イミノジコハク酸、ヒドロキシイミノジ酢酸がより好ましい。
上記動植物成長促進剤としてはまた、酸化防止、光防止、結晶析出防止等の成分を含むものであってもよい。更に、動植物成長促進剤を適当な形態とするための、鉱物系担体、植物系担体及び高分子担体等の固体担体、溶剤又は希釈剤としての液体担体、界面活性剤、粉砕助剤、加工処理用助剤、結合助剤、分散剤等を含んでいてもよい。
上記動植物成長促進剤としては更に、動植物の成長を促進及び/又は捕助する成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、農薬、無機塩、無機肥料、有機肥料、殺虫剤、除草剤、腐葉土、堆肥等が挙げられる。
【0022】
上記その他の成分は、動植物の成長を促進する作用効果が損なわれない範囲で含有されていてもよく、その形状、大きさ等は特に限定されない。また、これらの各種成分は、動植物成長促進剤に含まれていてもよく、動植物成長促進剤と併用してもよい。
上記その他の成分の含有量としては、動植物成長促進剤100重量部に対して、0.1重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましい。また、これらのその他の成分を動植物成長促進剤と併用する場合の含有量としては、動植物成長促進剤100重量部に対して、0.1重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましい。
【0023】
上記動植物成長促進剤を上記土壌分散、又は、海洋分散する形態としては、上記担体や助剤等を用いて粉体、ペレット、スラリー、溶液等の適当な形態として用いることができる。
【0024】
本発明の動植物成長促進剤は、また、動植物の成長促進のために土壌分散、又は、海洋分散して好適に用いることができる。このように、動植物が生育する環境に土壌分散、又は、海洋分散して供給することにより、動植物の発育を助長し、成長を促進する等の作用効果を発揮し、例えば、植物においては光合成の効率が高まってCOの固定が促進されることとなる。また、上述の動植物成長促進剤の特性に起因して、動植物成長促進剤は、動植物成長促進剤の分散の対象となる土壌がアルカリ性の土壌である場合や、通常中性を示す海水で生育する動植物、例えば、海苔養殖等に好適に用いることができる。
上記土壌分散を行う動植物としては、農園芸作物等が挙げられ、海洋分散を行う対象としては、黄色藻類等の藻類、魚介類およびこれらの増産、成長に寄与する動植物プランクトン等が挙げられる。
上記動植物成長促進剤は、これらの農園芸作物や、動植物プランクトン等の成長促進や増産等に用いることができ、動植物の各成長段階のいずれに用いてもよい。
【0025】
本発明はまた、動植物の成長促進剤に用いられるHIDS類でもある。このようなHIDS類は、上記一般式(1)で表されるものであり、動植物の成長促進のために供給する金属成分を可溶性のキレート化合物とすることで、動植物が取り込むことが可能となり、その作用効果を発揮することとなる。
更に、環境中へ散布した場合、HIDSは生分解性化合物であることから、適宜分解され、環境に対して負荷がかからない。そして、HIDSは魚毒性がきわめて低く、安全性に優れているので、養殖等に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の動植物成長促進剤は、上述の構成よりなり、安全性が高くて生分解性を有し、しかも広範なpH領域において金属イオンを可溶化分散でき、土壌分散及び海上分散により動植物に金属成分を供給するために好適であり、動植物が生育する環境に対して供給され、動植物の発育を助長し、成長を促進するために有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0028】
実施例1
Fe3+に対するキレート能
0.1Mのキレート剤水溶液5ml、1MのNaNO水溶液5ml、及び、鉄供給源として硝酸第二鉄九水和物を用いて調製した0.1MのFe3+水溶液5mlを50mlビーカーに入れ、約45mlとなるように純水を加えた。攪拌しながらHNO水溶液又はNaOH水溶液でpH調整を行った。その後50mlメスフラスコに移してメスアップした。このようにして図1に示す種々のpHに調製された0.01MのFe3+及びキレート剤を含む水溶液を、50mlねじ口瓶に移して室温で約5日間放置した。その後、フィルターで固形分をろ過してろ液中の金属イオン濃度を、測定機器として誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置によりICP測定し、可溶化金属イオンの割合をHIDSとEDTAとで比較した。
【0029】
実施例2
キレート0.20%、Fe3+5mM、NaOH3%を含む水溶液を調製し、20℃で4又は24時間放置した後の残留Fe3+濃度を、キレートとしてHIDS、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、グルタミン酸−N,N−ジ酢酸(GDLA)及びEDTAを用いた場合について比較した。結果を図2に示す。
上記実施例から分かるようにHIDSは幅広いpH範囲において水酸化鉄の形成による沈殿生成を抑制することができ、特に他のキレート剤と比較してアルカリ性領域で鉄イオンを可溶化分散することができる。
【0030】
試験例1
安全性データ:魚類急性毒性試験
3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸四ナトリウムを被験物質として用い、試験方法は、OECD203「魚類急性毒性試験」に準拠して行った。LC50>2000ppm(ヒメダカ96hr)である試験結果を得て、HIDSは、きわめて毒性の低い化学物質であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、種々のpHにおいて、可溶化金属イオンの割合をHIDSとEDTAとで比較することにより検証した図である。
【図2】図2は、各種キレートについて、残留鉄イオン濃度を比較することにより検証した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物の成長促進に用いられる動植物成長促進剤であって、
下記一般式(1);
【化1】

(式中、Xは、同一若しくは異なって、水素原子、金属原子又はアンモニウム基を表す。)で表される3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸類を必須成分とする
ことを特徴とする動植物成長促進剤。
【請求項2】
前記動植物成長促進剤は、動植物の成長促進のために土壌分散して用いられるものである
ことを特徴とする請求項1記載の動植物成長促進剤。
【請求項3】
前記動植物成長促進剤は、動植物の成長促進のために海洋分散して用いられるものである
ことを特徴とする請求項1記載の動植物成長促進剤。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の動植物成長促進剤に用いられることを特徴とする3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸類。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−69866(P2006−69866A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257525(P2004−257525)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】