説明

包装材、及び、その使用方法

【課題】含水量の少ない被包装物のみならず多量の水分や液状成分を含有する被包装物をも長期間に亘って高品位に保存することが可能であり、しかも、温度や包装体内の湿度が変化しても、包装体、包装体内の被包装物及び包装材の過度の品質劣化を抑制し得る、新規且つユニークで汎用性に優れる包装材等を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を成形してなり、JIS L1099 A−2法に準拠して60%RHの湿度条件下で測定した温度(℃)−水蒸気透過量WVTR(g/(m2・h))のプロットチャートにおいて、基準温度TS(℃)からTS+10(℃)の水蒸気透過量WVTRの増加量がTS−10℃(℃)から基準温度TS(℃)の水蒸気透過量WVTRの増加量の2倍以上100倍以下となる遷移領域を有し、且つ、該基準温度Ts(℃)が0℃以上100℃以下の範囲にある、透湿制御層を少なくとも一層備えることを特徴とする包装材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度によって水蒸気透過量が劇的に変化する包装材、及び、その使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂フィルムや樹脂成形体等の包装材が広く用いられている。この種の包装材においては、一般に、被包装物を外界から遮断する性能、すなわち高い密閉性が要求され、これにより、水分や液状成分等の包装外への滲出防止、塵埃や異物等の包装内への侵入防止、さらには外気中のバクテリアや細菌等の病原体等の包装内への侵入による感染防止等が実現されている。また、多量の水分や液状成分を含有する被包装物を包装した包装体を室温近傍〜冷蔵庫等の低温環境下で長期間保存するような場合には、経時的に水分が失われて被包装物が乾燥することを防止すべく、気密性にも優れる、より具体的には水蒸気透過量の小さな包装材が用いられている。
【0003】
一方、包装材の水蒸気透過量が過度に小さいと、高温の被包装物を包装したり、外部から被包装物又は包装体を加熱したりする等、包装体内で被包装物から水蒸気が大量に発生した際に、体積膨張により包装体が変形したり、場合によっては包装材が破損したり、これに伴い被包装物が飛散して外部環境を汚染し得る。また、発生した水蒸気が包装材内面に凝集・結露し、それが被包装物表面に再吸収或いは部分的に滞留する等して、部位によって水分量を大きく異ならしめ、その結果、被包装物の品質劣化を生じさせ得る。さらに、水分量の部分的な増加は細菌等の増殖を促進させ得るので、長期保存が困難となったり、その保存条件が制約されたりする等の不都合を招く。
【0004】
そのため、水蒸気透過量を増大させるべく、包装材として用いる樹脂フィルムに数mm程度の孔を多数形成する試みが為されていたが、このようにすると密閉性が損なわれるので、現状では、かかる試みは、高い密閉性が要求されない一部の用途において実施されているに過ぎない。
【0005】
一方、特許文献1においては、透過性基材の少なくとも片側に水蒸気透過度が500〜4000g・30μm/(m2・24h、40℃・90%RH)の熱可塑性樹脂被膜を有するパン包装用積層フィルムが提案されている。そして、かかるパン包装用積層フィルムによれば、密閉性を過度に損なうことなく、水蒸気透過性の熱可塑性樹脂被膜を介して内部水蒸気を適度に放出し得るので、異物の進入を抑制しつつ内部水蒸気を放出して包装体内部の結露や包装体の変形を抑制できる、と記載されている。
【0006】
また、特許文献2においては、繊維布帛の少なくとも片面にウレタン系高分子フィルムが積層されてなり、該ウレタン系高分子フィルムのガラス転移点温度は0〜60℃の範囲内であり、且つ、該ポリウレタン系高分子の重量平均分子量は15000以上であることを特徴とする透湿性防水布帛が提案されている。そして、かかる透湿性防水布帛は、外気温度によって水蒸気透過量が変動するので、これを用いて衣類を作成すれば、外気温度に拘らず、身体を快適な環境におくことができる、と記載されている。
【0007】
他方、特許文献3においては、アルミニウム箔と紙を積層した食品包装材が提案されている。そして、かかる食品包装材は、結露した水滴等を紙に吸収させることにより、包装体内の食品の水分量のばらつきによる水分斑等の発生や食品の食味の低下を抑制することができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−370320号公報
【特許文献2】特許第3074335号公報
【特許文献3】特許第2882591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の積層フィルムは、パンの包装用途に特化したものであり、水蒸気透過性が比較的に高いので、これを用いて多量の水分や液状成分を含有する被包装物を包装すると、保存環境や期間によっては包装体内の水蒸気が徐々に放出して被包装物が乾燥し、被包装物の品質劣化を生じさせ得るという問題があった。
【0010】
また、特許文献2に記載の透湿性防水布帛は、衣料用途を指向したものであり、以下の理由により、多量の水分や液状成分を含有する被包装物の包装用途に転用することができなかった。すなわち、かかる透湿性防水布帛は、低透湿領域であっても約100〜1000g/(m2・h)程度の透湿量を呈する結果を実施例にて示していることからも明らかなように、水蒸気透過性が比較的に高いので、これを多量の水分や液状成分を含有する被包装物の包装に用いると、保存環境や期間によっては包装体内の水蒸気が徐々に放出して被包装物が乾燥し、被包装物の品質劣化を生じさせ得るという問題があった。その上さらに、特許文献2に記載の透湿性防水布帛は剛性が高いため、フィルム状に成形した場合には包装される被包装物への追従性・密着性が乏しいという問題があり、一方、容器状に成形した場合には強度不足で容器形状を維持できないという問題があった。また、特許文献2に記載の透湿性防水布帛は、透明性が低く視認性に劣り、包装される被包装物の状態を外部から確認することが困難であるという問題があった。さらに、特許文献2に記載の透湿性防水布帛は、表面平滑性に劣り、しかも、布帛表面の空隙内に被包装物が侵入し易いので、布帛表面に付着した被包装物の剥離性が悪いという問題があった。
【0011】
一方、特許文献3に記載の食品包装材は、水分の吸収量を高めるために紙層を有するため、比較的に剛性が高く、種々の包装用途に適した柔軟性を有しておらず、また、水分を含有した紙層が細菌等によって腐敗して被包装物を汚染したりし得るので、汎用性に劣るという問題があった。とりわけ、紙層が被包装物と接し得る包装形態の場合は、紙層が被包装物から水分や液状成分を過剰に吸収し得るという欠点もある。しかも、繰り返し使用した場合、強度や紙層の吸湿性が大きく変動し易く、性能安定性が乏しいという問題もあった。さらに、特許文献3に記載の食品包装材は、透明性が低く視認性に劣り、被包装物の状態を包装体の外部から確認することが困難であるという問題があった。
【0012】
本発明は、かかる課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、含水量の少ない被包装物のみならず多量の水分や液状成分を含有する被包装物をも長期間に亘って高品位に保存することが可能であり、しかも、温度や包装体内の湿度が変化しても、包装体、包装体内の被包装物及び包装材の過度の品質劣化を抑制し得る、新規且つユニークで汎用性に優れる包装材、及び、その好適な使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、温度による水蒸気透過量の変化が特定の挙動を示す透湿制御層を少なくとも一層備える包装材を用いることで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下、(1)〜(5)を提供する。
(1)熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を成形してなり、JIS L1099 A−2法に準拠して60%RHの湿度条件下で測定した温度(℃)−水蒸気透過量WVTR(g/(m2・h))のプロットチャートにおいて、基準温度TS(℃)からTS+10(℃)の水蒸気透過量WVTRの増加量がTS−10℃(℃)から基準温度TS(℃)の水蒸気透過量WVTRの増加量の2倍以上100倍以下となる遷移領域を有し、且つ、該基準温度Ts(℃)が0℃以上100℃以下の範囲にある、透湿制御層を少なくとも一層備えることを特徴とする、
包装材。
【0015】
(2)上記(1)記載の包装材を用いて、前記基準温度TS以下の温度の被包装物を包装する工程と、
得られた包装体又は得られた包装体中の前記被包装物を前記基準温度TSより高い温度領域T2まで加熱する工程と、
を少なくとも有する、包装材の使用方法。
【0016】
(3)上記(1)記載の包装材を用いて、前記基準温度TSより高い温度の被包装物を包装する工程と、
得られた包装体又は得られた包装体中の前記被包装物を前記基準温度TS以下の温度領域T1まで冷却する工程と、
を少なくとも有する、包装材の使用方法。
【0017】
(4)上記(1)記載の包装材を用いて、前記基準温度TS以下の温度の被包装物を包装する工程と、
得られた包装体又は得られた包装体中の前記被包装物を前記基準温度TSより高い温度領域T2まで加熱した後に前記基準温度TS以下の温度領域T1まで冷却する操作を少なくとも1回以上実施する工程と、
を少なくとも有する、包装材の使用方法。
【0018】
(5)上記(1)記載の包装材を用いて、前記温度領域TSより高い温度の被包装物を包装する工程と、
得られた包装体又は得られた包装体中の前記被包装物を前記基準温度TS以下の温度領域T1まで冷却した後に前記基準温度TSより高い温度領域T2まで加熱する操作を少なくとも1回以上実施する工程と、
を少なくとも有する、包装材の使用方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、含水量の少ない被包装物のみならず多量の水分や液状成分を含有する被包装物をも長期間に亘って高品位に保存することが可能な、新規且つユニークで汎用性に優れる包装材が実現される。そして、かかる包装材によれば、温度や包装体内の湿度が変化しても、包装体、包装体内の被包装物及び包装材の過度の品質劣化を抑制することができ、その結果、被包装物及びこれを包装した包装体の商品価値の減少を長期に亘って抑制できる。
【0020】
すなわち、本発明の包装材は、遷移領域S未満すなわち比較的に低温環境下では水蒸気透過量が小さく水蒸気バリア性に優れる。したがって、これを用いて被包装物を包装することで、低温環境下で長期保存する際の経時的な水分の減少が十分に抑制される。しかも、本発明の包装材は、遷移領域S以上すなわち比較的に高温環境下では水蒸気透過量が大きく透湿性に優れる。したがって、これを用いて被包装物を包装した際に包装体内で水蒸気が多量に発生しても、体積膨張による包装体の変形や包装材の破損及びこれに伴う被包装物の飛散、包装材内面への結露や被包装物の水分量のばらつきの発生等が抑制される。よって、本発明の包装材を用いることで、長期間に亘って被包装物を高品位保存したり、包装体をそのまま加熱冷却に供することが可能となる。その上さらに、本発明の包装材は、従来に比して、優れた成形性、優れた透明性(視認性)、及び、優れた表面平滑性をも具備し得るので、フィルムや成形体等の種々の形態を採用したり、商品表示等における意匠性を高めたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】包装材の水蒸気透過量の温度依存性を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。
【0023】
本実施形態の包装材は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を成形してなる透湿制御層を少なくとも一層備えるものであり、この透湿制御層が、JIS L1099 A−2法に準拠して60%RHの湿度条件下で測定した温度(℃)−水蒸気透過量WVTR(g/(m2・h))のプロットチャートにおいて、基準温度TS(℃)からTS+10(℃)の水蒸気透過量WVTRの増加量がTS−10℃(℃)から基準温度TS(℃)の水蒸気透過量WVTRの増加量の2倍以上100倍以下となる遷移領域Sを有し、且つ、該基準温度TS(℃)が0℃以上100℃以下の範囲にあることを特徴とする。
【0024】
本明細書において、水蒸気透過量WVTRは、JIS L1099 A−2法に準拠して測定されるものを意味し、特に記載のない限り、60%RHの湿度条件下で測定される値を意味する。なお、本実施形態の包装材は、水蒸気透過量が温度依存性を示すものであるため、水蒸気透過量WVTRの測定は、試験毎に温度を種々に設定して行なう必要があり、好ましくは10℃毎、より好ましくは5℃毎に行う。
【0025】
また、本明細書において、包装材とは、被包装物の保存、移動、加工、保護、加熱、冷却等を目的として、被包装物を包装するために用いられるものを意味する。包装材の形態は、特に限定されず、目的に応じて任意の形態を採用することができ、例えば、フィルム状、シート状、袋状、蓋付容器や箱などの成形品等を採り得る。さらに、本明細書において、包装体とは、被包装物が包装材で包装された状態のものを意味する。なお、被包装物には食品が含まれる。ここで、食品とは、すべての飲食物を意味し、食材、生鮮食品、加工食品、機能性食品、特定保健用食品の他、調味用材料や食品添加物等を含む概念である。
【0026】
透湿制御層は、基準温度TSを基準として高温領域側と低温領域側とで水蒸気透過量WVTRが劇的に変化する遷移領域Sを有し、この遷移領域S(基準温度TS)の前後で水蒸気透過量WVTRが特異的に増大(減少)する点に特徴がある。かかる遷移領域Sは、基準温度TS(℃)からTS+10(℃)までの水蒸気透過量WVTRの増加量と、TS−10℃(℃)から基準温度TS(℃)までの水蒸気透過量WVTRの増加量と、を比較することにより判別される。
【0027】
通常、0℃以上100℃以下の範囲では水分は液体と気体の平衡状態となっており、この範囲において前述した食品等の被包装物の乾燥や包装体内の結露等の問題が生じる。したがって、基準温度TSは、0℃以上100℃以下の範囲内に設定する必要があり、好ましくは0℃以上80℃以下の範囲内、より好ましくは10℃以上60℃以下の範囲内である。基準温度TSが100℃を超えるような場合及び基準温度TSが0℃以下である場合には、実用的な包装環境及び保存環境の温度範囲内における水蒸気透過量WVTRの変動幅が小さく、当該温度範囲内において放湿効果と乾燥抑制効果の双方の機能を両立することができないので、本実施形態の包装材として適当ではない。なお、(長期)保存時の被包装物の保存温度は保存環境温度近傍に収束し、また、その保存環境温度近傍での保存時間が大きな割合を占めることになる。したがって、長期保存時の乾燥抑制効果を重視した設計とするには、基準温度TSを当該包装する被包装物毎に推奨される(長期)保存環境温度より若干高い温度に設定することが好ましい。一方、包装体または包装体内の被包装物を開封前に電子レンジやオーブンその他の加温手段或いは加湿加温手段にて温める場合が想定される等、放湿効果を重視した設計とするには、基準温度TSを当該被包装物の加温温度より若干低い温度に設定することが好ましい。
【0028】
一方、基準温度TS(℃)からTS+10(℃)までの水蒸気透過量WVTRの増加量は、TS−10℃(℃)から基準温度TS(℃)までの水蒸気透過量WVTRの増加量の2倍以上100倍以下であることが必要であり、好ましくは2倍以上50倍以下、より好ましくは3倍以上20倍以下である。このように水蒸気透過量WVTRが基準温度TSを境として急激に変化することにより、基準温度TSより低温側では優れた水蒸気バリア性が、基準温度TSより高温側では優れた水蒸気透過性が発揮され、放湿効果と乾燥抑制効果の双方の機能が両立する。かかる水蒸気透過量WVTRの増加量の差が100倍を超えると、基準温度TSより高い温度における水蒸気透過量WVTRが大きすぎて被包装物の乾燥抑制効果が不十分となり、また、2倍未満では変動幅が小さいので放湿効果と乾燥抑制効果の双方の機能を両立することができない。
【0029】
なお、遷移領域S未満の温度における透湿制御層の水蒸気透過量WVTR(g/(m2・h))は、0より大きく50以下であることが好ましく、より好ましくは1以上30以下、さらに好ましくは5以上20以下である。遷移領域S未満の温度におけるWVTRが50(g/(m2・h))を超えると、含水量の過度の変動を許容できない被包装物を包装する場合に、水蒸気バリア性が不十分で被包装物の乾燥抑制効果が効果的に発揮されず、比較的に低温環境下でも被包装物の水分が迅速に失われて包装材として求められる機能を十分に果たすことができない場合がある。
【0030】
透湿制御層は、遷移領域Sを境として水蒸気透過量WVTR(g/(m2・h))が劇的に変化するという、特異的な挙動を示す。言い換えれば、透湿制御層は、基準温度TSの直前まで優れた乾燥抑制効果を発揮して水蒸気バリア層として機能する一方、基準温度TSを超えるにしたがい急激に放湿効果が出現して水蒸気透過膜として機能する。この特性により、本実施形態の包装材が食品等の被包装物の包装に最適化された透湿制御効果を発揮する理由は、以下のように説明できる。
【0031】
図1は、JIS L1099 A−2法に準拠して60%RHの湿度条件下で測定した温度(℃)−水蒸気透過量WVTR(g/(m2・h))のプロットチャートである。上記従来の包装材の水蒸気透過性は、図中、点線a又は点線cの挙動を示す。点線aで示すもの、例えば、不織布や紙等から形成されるポーラスな包装材である場合、基準温度TSより高温領域において十分な水蒸気透過量を有するため、高温下で水蒸気が包装体内に充満して包装体が膨張したり包装材の内面に結露が発生したりする等の問題は生じ難いものの、基準温度TS未満の温度領域においても水蒸気透過量が大きいため長期保存した際に被包装物が乾燥したり、被包装物が食品の場合には食品本来の風味や食感が損なわれたり、異物が混入したりする等の問題が生じ易い。また、点線cで示すもの、例えば、市販されているポリエチレン製の食品包装用ラップやポリプロピレン製の包装容器等である場合、基準温度TS未満の温度における水蒸気透過性が低く水蒸気バリア性に優れるので長期保存した際に被包装物が乾燥したり異物が混入したりする等の問題は生じ難いものの、基準温度TS以上の温度領域においても水蒸気透過量が小さいため被包装物が加温される等した際に発生した水蒸気を包装内から外界へ十分に放出できず、包装体が膨張したり、包装材が伸長したり、包装材が破損したり、包装材の内面に結露が発生したりする等の問題を避け難く、包装体の肥大による取扱性の低下、内部高温蒸気の噴出による安全性の低下等を引き起こし得る。表1に、上記従来の代表的な包装材の水蒸気透過量WVTR(g/(m2・h))の挙動例を具体的に示す。
【0032】
【表1】

注1)0℃以上100℃以下の範囲内に水蒸気透過量WVTRが飛躍的に増大する特異点を有さず、遷移領域Sが存在しない。このような挙動を示す包装材を用いて中心温度80℃のおにぎりを包装した後に20℃にて8時間保管した場合、乾燥が生じ食味が損なわれ易く、そればかりか、異物が混入し易い。このような挙動を呈する包装材は、例えば、コットンリンターの再生セルロースをスパンボンド法により10〜50g/m2の坪量の不織布を形成することにより得ることができる。
注2)0℃以上100℃以下の範囲内に水蒸気透過量WVTRが飛躍的に増大する特異点を有さず、遷移領域Sが存在しない。このような挙動を示す包装材を用いて中心温度80℃のおにぎりを包装した後に20℃にて8時間保管した場合、包装材の内面に結露が発生して食味が損なわれ易い。このような挙動を呈する包装材は、例えば、軟質ポリ塩化ビニル樹脂等を融点以上で熱溶融して広幅のスリットから押し出して約5〜50μm程度の厚みに製膜することにより得ることができる。
【0033】
一方、本実施形態の包装材の水蒸気透過性は、図中、実線bの挙動を示す。上述した通り、本実施形態の包装材は、基準温度TS以下の温度領域において水蒸気透過量が十分に小さいので、包装体内から外界への放湿が抑制され、その結果、被包装物の乾燥が抑制される。このとき、基準温度TS以下の温度領域では包装体内の湿度は高められ得るが、比較的に低温環境下なので水蒸気の発生量自体が相対的に少なく、たとえ凝結した水滴が発生しても食味や衛生面への影響はまったくないか無視できる程度に軽微である。一方、上述した通り、本実施形態の包装材は、基準温度TS近辺から温度が上がるにしたがい水蒸気透過量が著しく増大し、発生する水蒸気を速やかに放出し得るほどの水蒸気透過性を示す。そのため、包装材の内面に結露が発生し難くなるとともに、結露によって生じた水滴による被包装物への悪影響や包装体の膨張等が抑制される。表2に、本実施形態の包装材の水蒸気透過量WVTR(g/(m2・h))の挙動例を具体的に示す。
【0034】
【表2】

注3)50〜70℃に遷移領域Sが存在し、基準温度TSが60℃に存在する。このような挙動を示す包装材を用いて中心温度80℃のおにぎりを包装した後に20℃にて8時間保管した場合、結露の発生、被包装物の乾燥、食味の悪化、異物の混入は生じ難い。また、上記従来の不織布等の包装材に比して、視認性(透明性)、形状追従性、剥離性、繰り返し使用の耐久性にも優れる。このような挙動を呈する包装材は、例えば、スチレン・ブタジエン共重合高分子(旭化成ケミカルズ株式会社製樹脂、商品名「アスマー」)を、融点以上で熱溶融して広幅のスリットから押し出して約5〜50μm程度の厚みに製膜することにより得ることができる。
注4)25〜45℃に遷移領域Sが存在し、基準温度TSが35℃に存在する。このような挙動を示す包装材を用いて中心温度80℃のおにぎりを包装した後に20℃にて8時間保管した場合、結露の発生、被包装物の乾燥、食味の悪化、異物の混入は生じ難い。また、上記従来の不織布等の包装材に比して、視認性(透明性)、形状追従性、剥離性、繰り返し使用の耐久性にも優れる。このような挙動を呈する包装材は、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとポリプロピレングリコールを共重合させて得たウレタンプレポリマーをエチレングリコールと反応させて得られるウレタン系高分子を、融点以上で熱溶融して広幅のスリットから押し出して約5〜50μm程度の厚みに製膜することにより得ることができる。
【0035】
本実施形態の包装材の透湿制御層は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を成形することで得ることができる。より具体的には、ガラス転移温度、融点、結晶性、分子量、分子鎖長、立体構造、分子間隙、極性、親水性等が異なる複数成分を重合或いは配合してなる熱可塑性樹脂を用い、このような熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を成形することで、上記の範囲内に水蒸気透過性(水蒸気透過量の温度依存性)が制御された透湿制御層を簡易に得ることができる。
【0036】
透湿制御層を構成する熱可塑性樹脂の具体例としては、特に限定されないが、例えば、2種以上のモノマーからなる共重合体(好ましくは、ブロック共重合体又はグラフト共重合体)、1種以上のプレポリマーと1種以上のモノマーからなる重合体(好ましくは、ブロック共重合体又はグラフト共重合体)、2種以上のポリマーのポリマーブレンド(物理的ブレンド、化学的ブレンド、ポリマーアロイを含む)、及び、2種以上のポリマーのポリマーコンプレックス等が挙げられる。透湿制御層の水蒸気透過性が上記の範囲内に調整される理由は、種々の要因が絡み合うため一義的に述べることは不可能であるが、主として、透湿制御層が、熱可塑性樹脂を構成する複数成分の化学的性質、物理的性質、熱的性質に起因して、例えば、部分的に結晶構造と非晶構造を有する等、ソフトユニット(ソフトセグメント)及びハードユニット(ハードセグメント)で不均一に構築されていることによるものと推定される。そのため、例示したものの如く、透湿制御層の形成時に、ソフトユニット及びハードユニットを容易に構築し得る熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0037】
透湿制御層の水蒸気透過性(水蒸気透過量、水蒸気透過量の温度依存性、基準温度TS)の制御方法は、特に限定されず、任意の方法を採用することができる。例えば、熱可塑性樹脂を構成する各成分のガラス転移温度や融点、結晶性、分子量、分子鎖長、立体構造、分子間隙、極性、親水性等の他、複数成分の配合比率、成形時の溶融或いは冷却の条件(温度、時間、プロセス管理等)、成形時のフィルムやシートの厚み、成形体厚み等を適宜調整することで、透湿制御層の水蒸気透過性を制御することができる。
【0038】
例えば、ガラス転移温度の違いを利用してTSを決定するような場合では、水蒸気透過量の制御は以下のように説明できると推測される。すなわち、通常、ソフトユニットは、ハードユニットに比してガラス転移点が低く、ガラス転移温度以上では分子のミクロブラウン運動が活発化して分子間隙が増大し、水蒸気透過量が著しく増大する。一方、同温度において、ハードユニットの物理特性には殆ど変化がなく剛性や形状を維持することが可能である。したがって、これらが不均一に存在している透湿制御層は、ソフトユニットのガラス転移温度以上の高温環境下において、包装材として求められる形状や剛性をハードユニットの特性により維持すると同時に、水蒸気透過量の著しい増大をソフトユニットの特性により引き起こすことが可能である。一般的には、ハードユニットの配合割合が高くなるほど全体としてのガラス転移温度は高くなり、ハードユニットを構成する成分やソフトユニットを構成する成分の分子量が大きいほどガラス転移温度は低くなり、それぞれ成分の立体的な剛直性が増大するほどガラス転移点は高くなる。そして、それぞれの成分の親水性が増大すると水蒸気透過量は増大し、ソフトユニットのミクロブラウン運動の活性が高いほど水蒸気透過量の増大幅が大きくなる傾向にある。したがって、熱可塑性樹脂を構成する各成分の組み合せや配合割合を調整することで、透湿制御層の水蒸気透過性を精密に制御することが可能である。
【0039】
2種以上のモノマーからなる共重合体の具体例としては、特に限定されないが、例えば、スチレン系アロイであるスチレン−ブタジエン共重合体が挙げられる。この場合、例えば、120℃程度の高温下で溶融しそれ以下の温度においては形状や剛性に大きな変化が殆ど生じないポリスチレンをハードユニットとして採用し、60〜80℃程度で結晶が溶融して水蒸気透過性が著しく増加する結晶性ポリブタジエンをソフトユニットとして採用することで、温度による水蒸気透過量の変化が特定の挙動を示す本実施形態の透湿制御層を実現することができる。かかるスチレン−ブタジエン共重合体においては、例えば、ポリスチレンと結晶性ポリブタジエンとの配合比率を変更することにより、基準温度TS前後の水蒸気透過量WVTRの変動量を任意に調整することができる。
【0040】
1種以上のプレポリマーと1種以上のモノマーからなる重合体の具体例としては、特に限定されないが、例えば、一般式OCNR1NCOで表わされるポリイソシアネートとHOR2OHで表わされるジオールとを共重合させて得られるウレタンプレポリマーを、HOR3OHで表わされる鎖延長剤と反応させて得られるウレタン系高分子OCN[(R1NHCOOR2OCONH)m(R1NHCOOR3OCONH)nl1NCO[但し、m、n及びlは正の整数を表わし、特に1〜16であることが好ましい]が挙げられる。かかるポリウレタン系高分子は、分子レベルで完全な均一状態にはならず、ジオールの非結晶ユニットからなるソフトセグメントと、鎖延長剤及びポリイソシアネートからなるハードセグメントとで不均一に構成されていると考えられ、そのガラス転移温度と水蒸気透過特性は、R1、R2、R3の剛直性、分子量、立体構造、極性、親水性等の他、m及びnの数等によって変動し得る。すなわち、R2、R3の分子量が大きくなるほどガラス転移温度が低くなり、R1、R2、R3の剛直性が増すほどガラス転移温度が高くなる傾向にある。また、R1、R2、R3の親水性が高いほど水蒸気透過量が増大し、R3の分子鎖長が長いなどミクロブラウン運動の活性が高い場合にはガラス転移温度における水蒸気透過量の増大幅が大きくなる傾向にある。したがって、かかるポリウレタン系高分子においては、これらを考慮して組み合わせることで、基準温度TSや基準温度TS前後の水蒸気透過量WVTRの変動量を精密に調整することができ、これにより、温度による水蒸気透過量の変化が特定の挙動を示す本実施形態の透湿制御層を実現することができる。
【0041】
ポリイソシアネートの具体例としては、特に限定されないが、例えば、末端にイソシアネート基を2つ以上有するもの、より具体的には、2,4−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プレポリマー型のポリイソシアネート等が挙げられる。これらは、一種単独で或いは二種以上を混合して用いることができる。
【0042】
ジオールの具体例としては、特に限定されないが、例えば、分子中にヒドロキシル基を2個以上有するもの、より具体的には、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタングリコールアジペート、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールA+プロピレンオキサイドなどといったポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びこれらを重合させたポリエーテルポリエステルポリオール等が挙げられる。これらは、一種単独で或いは二種以上を混合して用いることができる。
【0043】
鎖延長剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタングリコール、ビス(2−ハイドロキシエチル)ハイドロキノン、ビスフェノールA+エチレンオキサイド、ビスフェノールA+プロピレンオキサイド等が挙げられる。これらは、一種単独で或いは二種以上を混合して用いることができる。
【0044】
2種以上のポリマーのポリマーブレンド及び2種以上のポリマーのポリマーコンプレックスの具体例としては、特に限定されないが、例えば、スチレン系、オレフィン系、エステル系、アミド系、カーボネート系のポリマーブレンド、ポリマーアロイ又はポリマーコンプレックスが挙げられ、より具体的には、例えば、ポリアミド・ポリプロピレン、ポリアミド・エラストマー、ポリカーボネート・ポリスチレン、ポリカーボネート・ポリプロピレン、ポリカーボネート・ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート・ポリエチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテル、ABS・ポリオレフィン及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。これらは、一種単独で或いは二種以上を混合して用いることができる。
【0045】
上記の他に、結晶・非結晶部位を有する素材として、例えば、結晶性ポリ塩化ビニル部位及び非結晶ポリ塩化ビニル部位を有するポリ塩化ビニルが挙げられる。この場合、結晶性ポリ塩化ビニル部位がハードユニットとして、また非結晶ポリ塩化ビニル部位がソフトユニットとして機能し、ソフトユニットのミクロブラウン運動が温度に依存して増減することで水蒸気透過量が増減すると考えられる。同様の効果を発揮する素材として、例えば、ビスコース、トランスイソプレン、ポリノルボルネン、ポリブタジエンゴム等が挙げられる。
【0046】
熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物は、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に限定されず、公知の添加剤、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、内部離型剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、顔料、各種溶媒等が挙げられる。
【0047】
熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物から透湿制御層を成形するにあたっては、公知の熱可塑性樹脂の製膜・成形方法等を用いることができる。具体的には、例えば、溶液キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、圧空成形法、真空成形法、発泡成形法等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0048】
透湿制御層の厚みは、特に限定されず、要求される水蒸気透過性に応じて、適宜設定される。通常、透湿制御層の厚みが増すほど、水蒸気透過性が低下する傾向にある一方、透湿制御層の厚みが薄いほど、水蒸気透過性が増大する傾向にあり、また、視認性(透明性)や形状追従性が高められる傾向にある。
【0049】
包装材は、上述した透湿制御層単独の構成であっても、フィルム状又はシート状に成形した透湿制御層の片面若しくは両面に他の機能層を部分的或いは全面に設置した構成であっても、透湿制御層中に他の機能層が含まれる構成であっても、透湿制御層が他の機能層と一体化した構成であってもよい。
【0050】
機能層の具体例としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、高吸水性樹脂、天然ゴムや合成ゴム等のエラストマー等の他、天然繊維、合成繊維又は半合成繊維等を用いた不織布や織布、紙等が挙げられる。かかる機能層との積層構成を採用することで、粘着性、滑り性、吸水性、吸油性、剥離性、密着性等の機能を付与する或いは向上することができ、これにより、用途に応じた高機能な包装材としての利用価値が高められる。
【0051】
機能層は、0〜100℃の温度領域全般に亘り、水蒸気透過量WVTR(g/(m2・h))が透湿制御層よりも常に大きいものが好ましい。機能層の水蒸気透過量WVTR(g/(m2・h))が透湿制御層より小さい場合は包装材全体の水蒸気透過量WVTR(g/(m2・h))が機能層に支配され得るので、透湿制御層の透湿制御効果を十分に発揮し得なくなる場合がある。また、機能層は、吸湿性が乏しいものであることが好ましい。機能層の吸湿性が高いと使用時における透湿性の調整が困難になるので、透湿制御層の透湿制御効果を十分に発揮し得なくなる場合がある。
【0052】
包装材は、布帛を含有しないことが望ましい。包装材が布帛を含むと、布帛が不透明なため包装体内の被包装物を外部から視認し難くなるので、包装体内の被包装物を確認するためには解包する必要がある等、不都合が生じ得る。また、布帛を含む包装材がフィルム状又はシート状である場合には、布帛の持つ厚みと剛性によってフィルム又はシートの成形時或いは成形後の取り扱い時の柔軟性や形状追従性が損なわれ、生産性、取扱性及び汎用性が低下する傾向にある。その一方、布帛を含む包装材が容器形状の成形体である場合には、布帛の柔軟性によって成形体の成形時或いは成形後の取り扱い時の形状維持が困難となり易く、生産性、形状安定性及び寸法安定性が低下する傾向にある。さらに布帛は表面に凹凸を有し平滑性が乏しく剥離性に劣るので、包装時或いは保存時に包装体内の被包装物が布帛の表面の空隙に侵入する等の不都合が生じ得る。また、布帛を構成する繊維が脱落して被包装物に混入し得るので、包装材としての用途が制限され得る。
【0053】
機能層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、シート状に別途成形した機能層を接着剤や熱によってラミネートしてフィルム状又はシート状に成形した透湿制御層に積層又は一体化する方法、溶融した機能層をフィルム状又はシート状に成形した透湿制御層に直接押し出して製膜しながら積層又は一体化する方法、別途溶液に溶解させた機能層を透湿制御層に塗布或いは噴霧する等した後に乾燥して積層又は一体化する方法、共押出或いは蒸着等によって機能層を透湿制御層に積層又は一体化するする方法等が挙げられる。
【0054】
以上、詳述した通り、本実施形態の包装材は、パンのような含水量の少ない被包装物のみならず多量の水分や液状成分を含有する被包装物をも長期間に亘って高品位保存することが可能であり、例えば、炊いたり蒸したり発酵した米や穀物を含有する食品を包装する包装材として好適に用いることができる。例えば、おにぎりは、通常、60〜90℃程度の高温状態で成形され、その風味を維持するため一定時間放熱させた後に包装され、包装体のまま保存され或いは搬送されることが多いが、本実施形態の包装材は、比較的に高温時の放湿効果と比較的に低温時の乾燥抑制効果の双方の機能を両立しているので、これを用いることにより、放熱するプロセスを省略して包装することができる。したがって、本実施形態の包装材を用いることにより、プロセス裕度が飛躍的に高められ、その結果、生産性及び経済性が高められる。
【0055】
以下、本実施形態の包装材の好ましい使用方法について詳述する。
好ましい第1の使用方法は、本実施形態の包装材を用いて基準温度TS以下の温度の被包装物を包装し、得られた包装体又は得られた包装体中の被包装物を基準温度TSより高い温度領域T2まで加熱する方法である。このような使用方法の具体例としては、特に限定されないが、例えば、室温の食材を包装後に電子レンジ等の調理器等で加熱する場合、冷凍された食品を包装後に調理器等で加熱するか室温下に放置する等して解凍する場合、濡れた布帛を包装後に加熱して蒸しタオルを作る場合、等が挙げられる。なお、包装体の解包は、温度領域T1及び温度領域T2のいずれでも行うことができる。
【0056】
好ましい第2の使用方法は、本実施形態の包装材を用いて基準温度TSより高い温度の被包装物を包装し、得られた包装体又は得られた包装体中の被包装物を基準温度TS以下の温度領域T1まで冷却する方法である。このような使用方法の具体例としては、特に限定されないが、例えば、加熱調理直後の食品を包装した後に冷蔵庫又は冷凍庫内で保存する場合、高温の液状体又はゲル状体を包装した後に室温環境下に放置したり室温環境下で移動させたりする場合、等が挙げられる。なお、包装体の解包は、温度領域T1及び温度領域T2のいずれでも行うことができる。
【0057】
好ましい第3の使用方法は、本実施形態の包装材を用いて、基準温度TS以下の温度の被包装物を包装し、得られた包装体又は得られた包装体中の被包装物を基準温度TSより高い温度領域T2まで加熱した後に基準温度TS以下の温度領域T1まで冷却する操作を少なくとも1回以上実施する方法である。包装材内面に結露が生じていると加熱時に局所的な加熱斑が発生し易く、また、破損により伸長した或いは孔が形成した包装材を用いると目的とする高品位保存が実行し難くなる等の理由により、このように包装体が温度領域T1と温度領域T2を繰り返し経験する場合において、放湿効果と乾燥抑制効果の双方の機能を両立した本実施形態の包装材の優位性が顕著となる。このような使用方法の具体例としては、特に限定されないが、例えば、食材を包装後に一旦加熱し、さらに低温食材と混合して下拵えをする等の目的で再冷却する場合、濡れた布帛を包装後に加熱して殺菌消毒し、さらに衛生的な含水布帛として用いる或いは冷たいオシボリを提供する等の目的で再冷却する場合、等が挙げられる。なお、包装体の解包は、温度領域T1及び温度領域T2のいずれでも行うことができる。
【0058】
好ましい第4の使用方法は、本実施形態の包装材を用いて、温度領域TSより高い温度の被包装物を包装し、得られた包装体又は得られた包装体中の被包装物を基準温度TS以下の温度領域T1まで冷却した後に基準温度TSより高い温度領域T2まで加熱する操作を少なくとも1回以上実施する方法である。包装材内面に結露が生じていると加熱時に局所的な加熱斑が発生し易く、また、破損により伸長した或いは孔が形成した包装材を用いると目的とする高品位保存が実行し難くなる等の理由により、このように包装体が温度領域T1と温度領域T2を繰り返し経験する場合において、放湿効果と乾燥抑制効果の双方の機能を両立した本実施形態の包装材の優位性が顕著となる。このような使用方法の具体例としては、特に限定されないが、例えば、加熱調理直後の食品を包装した後に冷蔵庫内で保存し、さらに食事前に再度加熱する場合、等が挙げられる。なお、包装体の解包は、温度領域T1及び温度領域T2のいずれでも行うことができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらに制限されるものではない。
【0060】
[実施例1]
スチレン・ブタジエン共重合高分子(旭化成ケミカルズ株式会社製樹脂、商品名「アスマー」)を、融点以上で熱溶融してTダイ法によりシートを作成した後、真空圧空成形法により1mmの厚みで15cm角の包装容器とした。この容器においては、60℃を基準温度TS(℃)とする遷移領域Sが確認され、60〜70℃の範囲における水蒸気透過量WVTRの増加量が50〜60℃の範囲における水蒸気透過量WVTRの増加量の約8倍を示した。
【0061】
[実施例2]
ジイソシアネート成分である4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートと長鎖ジオール成分であるポリプロピレングリコールを共重合させてウレタンプレポリマーを得、このウレタンプレポリマーを鎖延長剤であるエチレングリコールと反応させて得られるウレタン系高分子(ガラス転移点Tg=35℃)を、融点以上で熱溶融して広幅のスリットから押し出して30μmの厚みに製膜して包装用フィルムとした。このフィルムにおいては、30〜35℃を基準温度TS(℃)とする遷移領域Sが確認された。
【0062】
[比較例1]
比較例1の包装材として、市販されているポリエチレン樹脂製の食品包装用ラップ(シーアイ化成株式会社製、商品名「NEWローズラップ」)を用いた。このフィルムは、0〜100℃の温度範囲において、基準温度TS及び遷移領域Sを有さず、水蒸気透過量WVTRが常に50(g/(m2・h))を下回っていた。
【0063】
[比較例2]
比較例2の包装材として、スパンボンド法により30g/m2の坪量に形成したコットンリンターの再生セルロース繊維製不織布を用いた。この不織布は、0〜100℃の温度範囲において、基準温度TS及び遷移領域Sを有さず、水蒸気透過量WVTRが常に50(g/(m2・h))を上回っていた。
【0064】
表3に、実施例及び比較例の包装材の水蒸気透過量WVTRを示す。
【0065】
【表3】

【0066】
(性能評価1)
実施例1の包装材の基準温度TS以下の温度である15℃の含水したタオルを包装した後、電子レンジにて2分間加熱して約80℃に温めた。包装体及び被包装物の観察結果と評価結果を、表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
(性能評価2)
実施例2の包装材の基準温度TSより高い温度である中心温度80℃のおにぎりを包装した後、室温にて12時間保管した。包装体及び被包装物の観察結果と評価結果を、表5に示す。
【0069】
【表5】

【0070】
(性能評価3)
実施例2の包装材の基準温度TS以下の温度である室温(20℃)にて哺乳瓶を包装し、殺菌を目的に電子レンジにて5分間加熱して約100℃とした後、室温にて8時間保管した。包装体及び被包装物の観察結果と評価結果を、表6に示す。
【0071】
【表6】

【0072】
(性能評価4)
実施例1の包装材の基準温度TSより高い温度である100℃に加熱された調理直後の饅頭を包装し、冷蔵庫内にて8時間保管した後、電子レンジにて2分間加熱して約80℃まで温度を上昇させた。包装体及び被包装物の観察結果と評価結果を、表7に示す。
【0073】
【表7】

【0074】
ここで、上記性能評価における各々の評価基準は、以下の通りとした。
[1]結露の発生
試験後に解包し被包装物を取り除いた後、包装材の内面に付着した水滴の重量を測定し、2g/m2以下であるものを「結露なし」、2g/m2を超えるものを「結露あり」と評価した。
[2]被包装物の乾燥
試験前後の被包装物の表層部を1cm2角に5箇所サンプリングし、赤外線水分計(株式会社ケット化学研究所製 FD−240)にて測定された水分量の平均値を比較して、試験前後における減少率が20%以下であれば「乾燥なし」、20%を超える場合には「乾燥」と評価した。
[3]異物混入の有無
試験前後の被包装物の表面を目視にて観察し、塵埃や包装材の脱落、付着などの有無を評価した。
[4]食味
試験後の被包装物を実際に食し、部分的な乾燥やふやけなどの食感についてまったくないものを5〜ひどく多いものを1として官能的に5段階で採点し、パネラー10人の平均評価が4以上のものを◎、2.5以上のものを○、2.5に満たないものを×と評価した。
[5]水分斑
試験後の被包装物の表層部を1cm2角に5箇所サンプリングし、赤外線水分計(株式会社ケット化学研究所製 FD−240)にて測定された水分量のばらつきが、平均値の±20%以内にある場合を「水分斑なし」、20%を超えて分布している場合を「水分斑あり」と評価した。
[6]異臭
試験後の被包装物について腐敗臭や変臭などの有無を官能的に評価し、パネラー10人中8人以上が異臭なしと判断したものを「異臭なし」、7人以下であった場合を「異臭あり」と評価した。
[7]開封のしやすさ
試験後に解包する際に食品に密着してはがれにくいなどの問題の有無について官能評価を行い、10人中9人以上が問題ないと判断したものを◎、6人以上8人以下が問題ないと判断したものを○、問題ないと判断した人数が5人以下の場合は×と評価した。
[8]包装材の変形
加熱中の包装体を外部から目視にて観察し、包装体の形状の変化の有無を評価した。
[9]包装材の破壊
試験後の包装材を目視にて確認し、孔や亀裂、溶解、破れなどの有無を評価した。
[10]水蒸気の噴出し
加熱中の包装体を外部から目視にて観察し、包装体からの水蒸気の流出が激しいものについて、試験後の包装材の破壊の有無を観察し、破壊のあったものについて「水蒸気の噴出しあり」と評価した。
【0075】
表4〜表7から明らかなように、実施例に示される包装材においては高温下で水蒸気透過性が向上することによる結露の抑制効果や包装体内部の圧力低下効果、包装材の破壊抑制効果などの特徴と、低温下での水蒸気透過性の低下による高バリア性、変形抑制効果等を同時に優れて備えられており、高含水の内容物を包装して温度変化を与えるような包装用途に優れた効果を発揮することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の包装材は、比較的に高温時の放湿効果と比較的に低温時の乾燥抑制効果の双方の機能を両立しており、含水量の少ない被包装物のみならず多量の水分や液状成分を含有する被包装物をも長期間に亘って高品位保存したり、包装体をそのまま加熱冷却に供することが可能なので、種々の被包装物の保存、移動、加工、保護、加熱、冷却に用いる素材として、広く且つ有効に利用可能であり、特に、多量の水分や液状成分を含有する被包装物、例えば、食品の包装用途において、広く且つ格別に有効に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を成形してなり、JIS L1099 A−2法に準拠して60%RHの湿度条件下で測定した温度(℃)−水蒸気透過量WVTR(g/(m2・h))のプロットチャートにおいて、基準温度TS(℃)からTS+10(℃)の水蒸気透過量WVTRの増加量がTS−10℃(℃)から基準温度TS(℃)の水蒸気透過量WVTRの増加量の2倍以上100倍以下となる遷移領域を有し、且つ、該基準温度Ts(℃)が0℃以上100℃以下の範囲にある、透湿制御層を少なくとも一層備えることを特徴とする、
包装材。
【請求項2】
請求項1記載の包装材を用いて、前記基準温度TS以下の温度の被包装物を包装する工程と、
得られた包装体又は得られた包装体中の前記被包装物を前記基準温度TSより高い温度領域T2まで加熱する工程と、
を少なくとも有する、包装材の使用方法。
【請求項3】
請求項1記載の包装材を用いて、前記基準温度TSより高い温度の被包装物を包装する工程と、
得られた包装体又は得られた包装体中の前記被包装物を前記基準温度TS以下の温度領域T1まで冷却する工程と、
を少なくとも有する、包装材の使用方法。
【請求項4】
請求項1記載の包装材を用いて、前記基準温度TS以下の温度の被包装物を包装する工程と、
得られた包装体又は得られた包装体中の前記被包装物を前記基準温度TSより高い温度領域T2まで加熱した後に前記基準温度TS以下の温度領域T1まで冷却する操作を少なくとも1回以上実施する工程と、
を少なくとも有する、包装材の使用方法。
【請求項5】
請求項1記載の包装材を用いて、前記温度領域TSより高い温度の被包装物を包装する工程と、
得られた包装体又は得られた包装体中の前記被包装物を前記基準温度TS以下の温度領域T1まで冷却した後に前記基準温度TSより高い温度領域T2まで加熱する操作を少なくとも1回以上実施する工程と、
を少なくとも有する、包装材の使用方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−25977(P2011−25977A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175245(P2009−175245)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(390017949)旭化成ホームプロダクツ株式会社 (56)
【Fターム(参考)】