説明

化合物とそれを含有する樹脂組成物およびフィルム

【課題】優れた紫外線吸収能を有すると共に、ブリードアウトし難い化合物、およびかかる化合物を含有した樹脂組成物およびフィルムを提供する。
【解決手段】例えば、下記一般式(3)で表わされる化合物。


(式中、Arは、2〜10価の5〜20員環の芳香族残基を表わす。また、該芳香族残基はヘテロ原子を含有していてもよく、置換基を有していてもよい。Arに結合している環は、任意の位置に二重結合を有していてもよい。R、R3’は、炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表わす。R、Rb3’は、炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表わす。n、n3’は、1〜4の整数を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収剤として利用することができる化合物に関する。また、かかる化合物を含有する樹脂組成物に関する。また、かかる化合物を含有するフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリスチレン等の高分子材料は、紫外線の作用により劣化や分解を引き起こし、例えば黄変等の変色が生じたり、また機械的強度が低下したりする等、長期使用に耐え難いことが知られている。そして、これら高分子材料からなる樹脂製品においても、同様に変色や長期使用に係る問題が生じてしまう。
【0003】
そこで、このような高分子材料の劣化や分解を防止するために、従来から種々の紫外線吸収剤が検討され、これら高分子材料と共に用いられている。かかる紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸系、ハイドロキノン系等がよく知られている。
【0004】
しかしながら、これら従来の紫外線吸収剤は、それ自身耐熱性に劣り、そのため高分子材料の加工中、また高温での使用時に劣化や分解してしまう問題があった。そこで、特許文献1〜5に開示されているような紫外線吸収剤が検討されてきた。また、近年では、特許文献6〜11のような検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−194854号公報
【特許文献2】特開昭59−12952号公報
【特許文献3】特開平7−11231号公報
【特許文献4】特開平7−11232号公報
【特許文献5】特開2009−84508号公報
【特許文献6】特開2009−96794号公報
【特許文献7】特開2009−242639号公報
【特許文献8】特開2010−59122号公報
【特許文献9】特開2010−64979号公報
【特許文献10】特開2010−64980号公報
【特許文献11】特開2010−83791号公報
【特許文献12】特開2009−242641号公報
【特許文献13】特開2010−83980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、近年、例えば電子製品や光学製品等の部品や筐体等として用いられる樹脂成形品や、磁気テープ、写真用フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属板ラミネート用フィルム、光学用フィルム等として用いられる樹脂フィルム等、上記高分子材料からなる樹脂製品において、表面における傷や異物等の欠点をより低減することが求められている。そのような中で、高分子材料に含有する紫外線吸収剤が、常温乃至高温において高分子材料中を拡散し、表面にブリードアウトしてしまうことが問題となっている。
【0007】
また、本発明者らの検討によれば、とりわけ樹脂フィルムを製造する際には、添加された紫外線吸収剤が、フィルム製造工程中の加熱、例えばポリエステルフィルムの製造工程においては特に熱固定工程における加熱によってフィルム表面にブリードアウトし、昇華し、フィルム製膜機(テンター)の内壁にて再結晶化して付着し、付着物が多くなったり、あるいはフィルム製膜機内における風の影響やその他何らかの衝撃が加わったりすることによりかかる再結晶化した紫外線吸収剤がテンターの内壁から落下し、熱風により吹き飛ばされる等してフィルム表面に付着して表面欠陥となったり、フィルム表面に付着した再結晶化した紫外線吸収剤が後のロールに付着して異物となり、かかる異物によりフィルム表面に傷が付く等して表面欠陥となったりする問題が生じることが分かった。そして、本発明者らは、このような表面欠陥が少なく品質に優れる製品を高効率で生産するためには、紫外線吸収剤のブリードアウトの抑制が必要であることに着目した。なお、紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制する報告が、例えば特許文献12や13に開示されているが、これらは2種の剤を併用するごとく煩雑なものである等の問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、優れた紫外線吸収能を有すると共に、ブリードアウトし難い化合物を提供することにある。また、そのような化合物を含有した樹脂組成物を提供することにある。また、そのような化合物を含有したフィルムを提供することにある。
【0009】
さらに、本発明者らの検討によれば、上記のごとくブリードアウトし難い化合物にすべくその分子構造を設計していくと、光の吸収波長が長波長側もしくは短波長側に10nm以上シフトする傾向があり、それにより化合物の吸収波長が可視光領域に影響してしまい、かかる化合物を添加した樹脂が、例えば黄変してしまう等変色してしまうことが新たに分かった。
【0010】
そこで、本発明における望ましい課題は、上記のごとく優れた紫外線吸収能を有し、ブリードアウトし難い化合物であって、さらに光学用途に好適に用いることができる程度に、添加による樹脂の変色を抑制することができる化合物を提供することにある。また、そのような化合物を含有した変色が抑制された樹脂組成物を提供することにある。また、そのような化合物を含有した変色が抑制されたフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用するものである。
1.下記一般式(1)で表わされる化合物。
【化1】

(ただし、式中、
Arは、2〜10価の5〜20員環の芳香族残基を表わす。また、該芳香族残基はヘテロ原子を含有していてもよく、置換基を有していてもよい。
Arに結合している環は、任意の位置に二重結合を有していてもよい。
、XおよびXは、互いに独立してヘテロ原子を表わす。また、X、XおよびXは、置換基を有していてもよい。
a1は、炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表わす。
b1は、炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表わす。
は、2〜10の整数を表わす。
は、1〜4の整数を表わす。)
2.前記一般式(1)で表わされる化合物が、下記一般式(2)で表わされる化合物である、上記1に記載の化合物。
【化2】

(ただし、式中、
Arは、前記一般式(1)のArと同義である。
a2は、前記一般式(1)のRa1と同義である。
b2は、前記一般式(1)のRb1と同義である。
は、前記一般式(1)のmと同義である。
は、前記一般式(1)のnと同義である。)
3.前記一般式(2)で表わされる化合物が、下記一般式(3)で表わされる化合物である、上記2に記載の化合物。
【化3】

(ただし、式中、
Arは、2価の5〜20員環の芳香族残基を表わす。また、該芳香族残基はヘテロ原子を含有していてもよく、置換基を有していてもよい。
a3およびRa3’は、互に独立して、炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表わす。
b3およびRb3’は、互いに独立して、炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表わす。
およびn3’は、互に独立して、1〜4の整数を表わす。)
4.前記一般式(3)で表わされる化合物が、下記一般式(4)で表わされる化合物である、上記3に記載の化合物。
【化4】

(ただし、式中、
a4およびRa4’は、前記一般式(3)のRa3およびRa3’と同義である。
b4およびRb4’は、前記一般式(3)のRb3およびRb3’と同義である。
およびn4’は、前記一般式(3)のnおよびn3’と同義である。)
5.前記一般式(4)で表わされる化合物が、下記一般式(5)で表わされる化合物である、上記4に記載の化合物。
【化5】

(ただし、式中、
a5およびRa5’は、前記一般式(4)のRa4およびRa4’と同義である。
b5およびRb5’は、前記一般式(4)のRb4およびRb4’と同義である。)
【0012】
また、本発明は、以下の態様を包含する。
6.上記1〜5のいずれか1に記載の化合物からなる紫外線吸収剤。
7.上記1〜5のいずれか1に記載の化合物を含有する樹脂組成物。
8.上記1〜5のいずれか1に記載の化合物を含有するフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ブリードアウトし難い、優れた紫外線吸収能を有する化合物を提供することができる。また、そのような化合物を含有した樹脂組成物を提供することができる。また、そのような化合物を含有したフィルムを提供することができる。これらにより、樹脂製品において、紫外線吸収剤のブリードアウトによる表面欠陥を抑制することができる。また、とりわけ樹脂フィルムにおいては、紫外線吸収剤のブリードアウト、およびその昇華と再結晶化に起因して発生する表面欠陥を抑制することができる。そして、表面欠陥の抑制された樹脂製品は、電子製品や光学製品等として、特に樹脂フィルムにおいては光学用フィルムとして好適に用いることができる。
【0014】
さらに、本発明における望ましい態様によれば、上記のごとく優れた紫外線吸収能およびブリードアウト抑制能を有すると同時に、光学用途に好適に用いることができる程度に、添加による樹脂の変色を抑制することができる化合物を提供することができ、また、そのような化合物を含有した変色が抑制された樹脂組成物を提供することができる。また、そのような化合物を含有した変色が抑制されたフィルムを提供することができる。これら変色が抑制された樹脂製品は、無色性が高く、特に光学製品に好適に用いることができる。特に樹脂フィルムにおいては、光学用フィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
[一般式(1)で表わされる化合物]
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表わされる化合物である。本発明の化合物は、X、X、Xを含む環とベンゼン環とからなる骨格部分に、(Rb1−CO−O−Ra1−O−)基のごとく特定構造を有する置換基を有することにより、上記骨格部分による優れた紫外線吸収能を維持したまま、高いブリードアウト抑制効果を付与したものである。
【0016】
【化6】

(ただし、式中、
Arは、2〜10価の5〜20員環の芳香族残基を表わす。また、該芳香族残基はヘテロ原子を含有していてもよく、置換基を有していてもよい。
Arに結合している環は、任意の位置に二重結合を有していてもよい。
、XおよびXは、互いに独立してヘテロ原子を表わす。また、X、XおよびXは、置換基を有していてもよい。
a1は、炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表わす。
b1は、炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表わす。
は、2〜10の整数を表わす。
は、1〜4の整数を表わす。)
【0017】
上記一般式(1)中、Arは、2〜10価の5〜20員環の芳香族残基を表す。Arを構成する芳香族環は、単環であっても、多環であっても、縮合環であってもよい。単環である場合、Arは、5〜10員環が好ましく、5〜6員環がより好ましい。また、多環である場合は、前記単環のものが結合したものが好ましい。また、縮合環である場合、Arは、5〜10員環が縮合した2〜10環式の芳香族環が好ましく、5〜6員環が縮合した2〜5環式の芳香族環がより好ましい。
Arは、コストや化合物の得やすさ等の観点から、2〜6価の基であることが好ましく、2〜4価の基であることがより好ましく、2価であることがさらに好ましい。
【0018】
芳香族残基Arは、ヘテロ原子を含有していてもよい。Arが含有していてもよいヘテロ原子としては、例えば、ホウ素原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、硫黄原子、セレン原子、およびテルル原子等を挙げることができる。ヘテロ原子として好ましくは、窒素原子、酸素原子、および硫黄原子であり、より好ましくは窒素原子および硫黄原子であり、特に好ましくは硫黄原子である。ヘテロ原子を二つ以上有する場合は、同一原子であってもよく、異なる原子であってもよい。
【0019】
Arは、5〜20員環の芳香族化合物から2〜10個の水素原子を取り除いた2〜10価の芳香族残基である。このような芳香族化合物の具体例としては、例えば、ベンゼン、ビフェニル、トリフェニルメタン、ナフタレン、アントラセン、インデン、アズレン、ビフェニレン、フルオレン、フェナントレン、ピレン、トリフェニレン、テトラフェニレン、ペリレン、ペンタセン、コロネン、クリセン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,3,5−トリアジン、フラン、チオフェン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,3,4−チアジアゾール等を挙げることができる。芳香族化合物として好ましくは、ベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、ピリジン、チオフェンである。より好ましくは、ベンゼン、ビフェニル、チオフェンである。特に好ましくは、ベンゼンである。
【0020】
芳香族化合物から水素原子を取り除く位置は、いずれの箇所でも良い。2価の芳香族残基の場合は、例えば、6員環化合物ベンゼンの結合位置は、1,2位、1,3位、または1,4位が挙げられる。また、ビフェニルの結合位置は、3,3’位、4,4’位が挙げられる。また、ヘテロ5員環化合物ピロールでの結合位置は、2,3位、2,4位、2,5位、3,4位、または3,5位が挙げられる。また、ヘテロ6員環化合物ピリジンでの結合位置は、2,3位、2,4位、2,5位、2,6位、3,4位、3,5位、または3,6位が挙げられる。3価の芳香族残基の場合は、例えば、6員環化合物ベンゼンの結合位置は、1,2,3位、1,2,4位、1,2,5位、または1,3,5位が挙げられる。
【0021】
本発明においては、Arで表わされる芳香族残基として、2価のベンゼンであって、かつその結合位置が、1,3位(メタ位)である芳香族酸基が好ましい。このような態様とすることにより、化合物を樹脂に添加した際の、樹脂の変色をより抑制することができる。かかる効果は、化合物が、上記一般式(1)で示すごとく態様で(Rb1−O−CO−Ra1−O−)基を有する上で、上記のごとく芳香族残基の構造を採用することにより奏される効果である。
【0022】
芳香族残基Arは、置換基を有していても良い。置換基として1価の置換基が挙げられる。1価の置換基(以下Rとする)の例として、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1〜20の直鎖または分枝のアルキル基(例えばメチル、エチル)、炭素数6〜20のアリール基(例えばフェニル、ナフチル)、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル)、置換又は無置換のカルバモイル基(例えばカルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、アルキルカルボニル基(例えばアセチル)、アリールカルボニル基(例えばベンゾイル)、ニトロ基、置換または無置換のアミノ基(例えばアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ)、アシルアミノ基(例えばアセトアミド、エトキシカルボニルアミノ)、スルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド)、イミド基(例えばスクシンイミド、フタルイミド)、イミノ基(例えばベンジリデンアミノ)、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基(例えばメトキシ)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ)、アシルオキシ基(例えばアセトキシ)、アルキルスルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、アリールスルホニルオキシ基(例えばベンゼンスルホニルオキシ)、スルホ基、置換または無置換のスルファモイル基(例えばスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ)、アルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル)、アリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル)、炭素数6〜20のヘテロ環基(例えばピリジル、モルホリノ)などを挙げることができる。また、置換基は更に置換されていても良く、置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。その際、置換基の例としては、上述の1価の置換基Rを挙げることができる。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。
置換基として好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アリール基がある。より好ましくは、アルキル基、アリール基であり、特に好ましくは、アルキル基である。
【0023】
上記一般式(1)中、X、XおよびXは、互いに独立してヘテロ原子を表わす。ヘテロ原子としては、例えば、ホウ素原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子等を挙げることができる。ヘテロ原子として好ましくは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子である。より好ましくは、窒素原子、酸素原子である。これらのヘテロ原子を選択することにより、紫外線吸収能の向上効果を高くすることができ、その波長特性にも優れ、化合物の安定性、耐熱性を高くすることができる。また、製造しやすい。なお、X、XおよびXは置換基を有していても良い。例えば、Xとして窒素原子が選択され、Arと結合している炭素とXとの間の結合が単結合である場合、またXとして窒素原子が選択され、Arと結合している炭素とXとの間の結合が単結合である場合、またXとして窒素原子が選択される場合等は、窒素原子は適宜置換基を有することとなる。また、置換基としては上述した1価の置換基Rの例が挙げられる。
【0024】
上記X、XおよびXを含む、Arに結合している環は、任意の位置に二重結合を有していてもよい。例えば、Xとして窒素原子が選択される場合に、Arと結合している炭素とXとの間は二重結合であってもよい。またXとして窒素原子が選択される場合に、Arと結合している炭素とXとの間は二重結合であってもよい。
【0025】
上記一般式(1)中、Ra1は、炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表わす。かかる炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基においては、直鎖状であってもよいし、分岐構造を含むものであってもよいし、環状構造を含むものであってもよい。また、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和結合を有するものであってもよい。さらに、置換基を有するものであってもよい。炭化水素基としては、特に、ブリードアウトの抑制効果を高くできるという観点、また樹脂に添加した際の、樹脂の変色抑制の向上効果を高くできるという観点、さらには安定性に優れるという観点から、炭素数1〜10の2価の炭化水素基が好ましい。また、飽和で鎖状の脂肪族炭化水素基が好ましい。炭素数は1〜6がより好ましく、メチレン基、エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,6−ヘキシレン基が好ましい。さらに炭素数は1〜4がさらに好ましく、エチレン基、1,2−プロピレン基、ブチレン基がさらに好ましい。
【0026】
上記一般式(1)中、Rb1は、炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表わす。かかる炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基においては、直鎖状であってもよいし、分岐構造を含むものであってもよいし、環状構造を含むものであってもよい。また、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和結合を有するものであってもよい。さらに、置換基を有するものであってもよい。炭化水素基としては、特に、ブリードアウトの抑制効果を高くできるという観点、また樹脂に添加した際の、樹脂の変色抑制の向上効果を高くできるという観点、さらには安定性に優れるという観点から、炭素数1〜10の1価の炭化水素基が好ましい。また、飽和で鎖状の脂肪族炭化水素基が好ましい。炭素数は1〜4がより好ましく、メチル基、エチル基、1,2−プロピル基、1,3−プロピル基、1,4−ブチル基、1,6−ヘキシル基が好ましい。さらに炭素数は1〜2がさらに好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましい。
本発明においては、特に、上記Ra1およびRb1を同時に有する特定構造の置換基を有することにより、化合物のブリードアウト、また樹脂の変色を抑制することができる。
【0027】
上記一般式(1)中、mは、2〜10の整数を表す。吸収波長および溶解性の観点から、mとして好ましくは1〜3であり、より好ましくは1〜2であり、特に好ましくは2である。また、上記範囲とすることにより、樹脂に添加した際の、樹脂の変色を抑制する効果を高くすることができる。
上記一般式(1)中、nは、1〜4の整数を表す。樹脂に添加した際の、樹脂の変色を抑制する効果を高くすることができるという観点から、nとして好ましくは1〜3であり、さらに好ましくは1〜2であり、特に好ましくは1である。
【0028】
[一般式(2)で表わされる化合物]
さらに、前記一般式(1)で表わされる化合物は、下記一般式(2)で表わされる化合物であることが好ましい。このような構成とすることによって、前記一般式(1)で表わされる化合物に対して、ブリードアウト抑制効果を保持したまま、あるいはさらに優れたものとした上で、紫外線吸収能をさらに優れたものとすることができる。また、化合物としての安定性が向上し、長期にわたって紫外線吸収能を維持することができるようになる。さらに、合成が容易であり、コスト、生産性に優れる。
【0029】
【化7】

(ただし、式中、
Arは、前記一般式(1)のArと同義である。
a2は、前記一般式(1)のRa1と同義である。
b2は、前記一般式(1)のRb1と同義である。
は、前記一般式(1)のmと同義である。
は、前記一般式(1)のnと同義である。)
【0030】
上記一般式(2)中、Arは、前記一般式(1)のArと同義であり、好ましい態様および得られる効果も同様である。
上記一般式(2)中、Ra2は、前記一般式(1)のRa1と同義であり、好ましい態様および得られる効果も同様である。
上記一般式(2)中、Rb2は、前記一般式(1)のRb1と同義であり、好ましい態様および得られる効果も同様である。
上記一般式(2)中、mは、前記一般式(1)のmと同義であり、好ましい態様および得られる効果も同様である。
上記一般式(2)中、nは、前記一般式(1)のnと同義であり、好ましい態様および得られる効果も同様である。
【0031】
[一般式(3)で表わされる化合物]
さらに、前記一般式(2)で表わされる化合物は、下記一般式(3)で表わされる化合物であることが好ましい。このような構成とすることによって、前記一般式(2)で表わされる化合物に対して、紫外線吸収能を保持したまま、あるいはこれらをさらに優れたものとした上で、ブリードアウト抑制効果をさらに優れたものとすることができる。また、化合物としての安定性がさらに向上し、より長期にわたって紫外線吸収能を維持することができるようになる。さらに、合成がより容易であり、コスト、生産性にさらに優れる。
【0032】
【化8】

(ただし、式中、
Arは、2価の5〜20員環の芳香族残基を表わす。また、該芳香族残基はヘテロ原子を含有していてもよく、置換基を有していてもよい。
a3およびRa3’は、互に独立して、炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表わす。
b3およびRb3’は、互いに独立して、炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表わす。
およびn3’は、互に独立して、1〜4の整数を表わす。)
【0033】
上記一般式(3)中、Arは、2価の5〜20員環の芳香族残基を表す。ここで、2価の5〜20員環の芳香族残基としては、前記一般式(1)におけるArについて上述した例が挙げられ、好ましい態様および得られる効果も同様である。
芳香族残基Arは、ヘテロ原子を含有していてもよい。また、芳香族残基Arは、置換基を有していても良い。かかるヘテロ原子を含有する態様、および置換基を有する態様は、前記一般式(1)におけるArについて上述したヘテロ原子を含有する態様、および置換基を有する態様の例が挙げられ、好ましい態様および得られる効果も同様である。
【0034】
上記一般式(3)中、Ra3およびRa3’は、互に独立して、炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表わす。ここで、炭素数1〜20の2価の炭化水素基としては、前記一般式(1)におけるRa1について上述した例が挙げられ、好ましい態様および得られる効果も同様である。
上記一般式(3)中、Rb3およびRb3’は、互いに独立して、炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表わす。ここで、炭素数1〜4の1価の炭化水素基としては、前記一般式(1)におけるRb1について上述した例が挙げられ、好ましい態様および得られる効果も同様である。
上記一般式(3)中、nおよびn3’は、互に独立して、1〜4の整数を表わす。ここで、nおよびn3’としては、前記一般式(1)におけるnについて上述した例が挙げられ、好ましい態様および得られる効果も同様である。
【0035】
[一般式(4)で表わされる化合物]
さらに、前記一般式(3)で表わされる化合物は、下記一般式(4)で表わされる化合物であることが好ましい。このような構成とすることによって、前記一般式(3)で表わされる化合物に対して、紫外線吸収能、ブリードアウト抑制効果を保持したまま、あるいはこれらをさらに優れたものとした上で、変色抑制効果をさらに優れたものとすることができる。また、化合物としての安定性がさらに向上し、より長期にわたって紫外線吸収能を維持することができるようになる。さらに、溶解度が高くなり、合成がより容易であり、コスト、生産性にさらに優れる。
【0036】
【化9】

(ただし、式中、
a4およびRa4’は、前記一般式(3)のRa3およびRa3’と同義である。
b4およびRb4’は、前記一般式(3)のRb3およびRb3’と同義である。
およびn4’は、前記一般式(3)のnおよびn3’と同義である。)
【0037】
上記一般式(4)中、Ra4およびRa4’は、前記一般式(3)のRa3およびRa3’と同義であり、好ましい態様および得られる効果も同様である。
上記一般式(4)中、Rb4およびRb4’は、前記一般式(3)のRb3およびRb3’と同義であり、好ましい態様および得られる効果も同様である。
上記一般式(4)中、nおよびn4’は、前記一般式(3)のnおよびn3’と同義であり、好ましい態様および得られる効果も同様である。
【0038】
[一般式(5)で表わされる化合物]
さらに、前記一般式(4)で表わされる化合物は、下記一般式(5)で表わされる化合物であることが好ましい。このような構成とすることによって、前記一般式(4)で表わされる化合物に対して、紫外線吸収能、ブリードアウト抑制効果を保持したまま、あるいはこれらをさらに優れたものとした上で、変色抑制効果をさらに優れたものとすることができる。また、化合物としての安定性がさらに向上し、より長期にわたって紫外線吸収能を維持することができるようになる。さらに、反応性が高くなり、合成がより容易であり、効率よく合成することができ、コスト、生産性にさらに優れる。
【0039】
【化10】

(ただし、式中、
a5およびRa5’は、前記一般式(4)のRa4およびRa4’と同義である。
b5およびRb5’は、前記一般式(4)のRb4およびRb4’と同義である。)
【0040】
上記一般式(5)中、Ra5およびRa5’は、前記一般式(4)のRa4およびRa4’と同義であり、好ましい態様および得られる効果も同様である。
上記一般式(5)中、Rb5およびRb5’は、前記一般式(4)のRb4およびRb4’と同義であり、好ましい態様および得られる効果も同様である。
【0041】
[化合物の製造方法]
前記一般式(1)〜(5)のいずれかで表わされる化合物は、任意の方法で合成することができる。例えば、公知の特許文献等、例えば特開昭57−209979号公報の実施例および比較例、特開平7−11231号公報の実施例および比較例、特開2009−286717号公報の実施例および比較例等を参考にして合成することができる。
【0042】
例えば、例示化合物(1)は、出発原料として5−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラニル酸とイソフタル酸ジクロライドを用い、中間体であるアミド化合物と無水酢酸を反応させることにより合成できる。また、例示化合物(15)は、出発原料として5−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラニル酸とテレフタル酸ジクロライドを用い、中間体であるアミド化合物と無水酢酸を反応させることにより合成できる。このように当業者であれば、公知の合成方法を用いて、その出発原料を任意に変更することにより、過度の試行錯誤を要さずに、本発明の化合物を得ることができる。
【0043】
[化合物の具体例]
前記一般式(1)〜(5)のいずれかで表わされる化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
[化合物の構造を含有するポリマー]
前記一般式(1)〜(5)のいずれかで表わされる化合物の構造を繰り返し単位内に含むポリマーも、本発明に好適に使用できる。ポリマーは、ホモポリマーであってもよいし、2種類以上の繰り返し単位からなるコポリマーであってもよい。さらに他の繰り返し単位を含むコポリマーであってもよい。なお、紫外線吸収剤構造を繰り返し単位内に含むポリマーについては、特公平1−53455号公報、特開昭61−189530号公報、および欧州特許27242号明細書に記載がある。ポリマーを得る方法についてはこれら特許文献の記述を参考にすることができる。
【0050】
[化合物の特性]
本発明の化合物は、後述する樹脂に添加して紫外線吸収剤として好適に用いることができ、樹脂に紫外線吸収能を付与し、紫外線透過率を低下させたり、また紫外線による樹脂の劣化を抑制したりすることができる。
【0051】
本発明の化合物は、その吸光特性を見ると、後述の測定方法によって求められる波長360nmの光線の吸光度は0.1以上であり、優れた紫外線吸収能を有することがわかる。波長360nmの光線の吸光度は、好ましくは0.15以上である。また同時に、波長390nmの光線の吸光度は0.15以下であることが好ましく、このように、紫外領域(波長360nm付近)から可視光領域(波長390nm付近)にかけて、吸光度の変化(立ち上がり)が急峻であると、これにより可視光領域における余分な吸光が抑制されており、樹脂に添加した際には、かかる余分な吸光による変色が抑制され、とりわけ黄変が抑制され、無色性に優れる。このような観点から、波長390nmの光線の吸光度は0.1以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましく、0.03以下が特に好ましく、理想的には0.00である。本発明においては、特に、上記一般式(4)および好ましくは(5)で表わされる化合物は、紫外領域から可視光領域にかけて吸光度の変化がより急峻であり、可視光領域における余分な吸光がより抑制されているため、無色性により優れ、またこれを用いた樹脂組成物の無色性にもより優れる。さらに、樹脂に練りこむ際に、熱等による劣化が生じにくい。それによってもまた、樹脂に添加した際の樹脂の変色を抑制することができる。
【0052】
また、本発明の化合物は、波長400nmの光線の吸光度が、好ましくは0.05以下、さらに好ましくは0.03以下、特に好ましくは0.01以下であり、理想的には0.00である。また、波長400〜800nmの領域において、各波長の吸光度が常に0.05以下であることが好ましく、0.03以下であることがさらに好ましく、0.01以下であることが特に好ましく、0.00であることが理想的である。このような態様とすることにより、優れた可視光線の透過能を示すことがわかる。また、無色性にも優れる。
さらに、本発明の化合物は、その構成から高純度で得ることができる。
【0053】
[紫外線吸収剤としての使用(樹脂組成物)]
本発明の化合物は、種々の高分子化合物に対して優れた相溶性を示すため、これを高分子材料(樹脂)に配合して紫外線吸収剤として好適に用いることができる。そして上述のごとく、本発明の化合物はブリードアウトし難いことから、樹脂に本発明の化合物を添加した樹脂組成物においては、表面に異物が少なく、品質に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0054】
以下、本発明の化合物を紫外線吸収剤として用いる態様について説明する。なお、以下においては本発明の化合物を紫外線吸収剤と呼称する場合がある。
本発明の樹脂組成物を構成する高分子材料としては、特に制限はなく、紫外線による分子鎖の分解が生じ易い高分子化合物や、紫外線吸収能を有しない高分子化合物が挙げられる。さらには、もともと紫外線吸収能を有する高分子化合物であってもよく、その紫外線吸収能をさらに高くすることが考えられる。これら高分子化合物は、熱可塑性樹脂でもよく、熱硬化性樹脂でもよく、弾性体の未硬化物(ゴム配合物)であってもよい。
【0055】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、イソフタル酸を共重合したPETおよびPEN、ナフタレンジカルボン酸を共重合したPET等のポリエステル、ポリエステルをハードセグメントとしポリエーテルおよび/またはポリエステルをソフトセグメントとするポリエステル/ポリエーテルあるいはポリエステル/ポリエステルセグメント化エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン等のポリオレフィン、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル/エチレン共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/アクリル酸エステル共重合体等の塩化ビニル共重合体、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66等のポリアミド、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、MBS樹脂等の各種スチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリルアミド等のアクリルや、その他、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン、ポリアリレート等を挙げることができる。また、これらの2種以上からなる混合体を挙げることができる。
【0056】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0057】
弾性体の未硬化物としては、天然ゴム、合成ゴム等を挙げることができる。
なかでもポリエステルは、その機械特性や耐熱性、透明性のためにさまざまな用途で使用されているが、紫外線により劣化しやすく、また黄変しやすいという欠点を有する。そのため、本発明の化合物を紫外線吸収剤として添加して、紫外線吸収能を付与したり、紫外線に対する耐久性を付与したりすることが有用である。またポリエステルは、欠点が少ないことや、無色透明であることが要求される用途に用いられることが多いことからも、本発明の紫外線吸収剤の適用は有用である。このように、本発明の紫外線吸収剤は、とりわけポリエステルに用いることが有用である。
【0058】
高分子材料に対する紫外線吸収剤の添加量は、高分子材料の種類や、最終物に求められる紫外線吸収能や透明性、無色性等を勘案して、適宜増減させて用途に適した添加量を選択することができる。また、樹脂組成物を取り扱う工程の性質(加熱が施されるか等)によって、適宜添加量を選択することができる。
【0059】
樹脂組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、高分子材料100重量部に対して、好ましくは0.01〜30重量部である。添加量をこのような範囲とすることにより、紫外線吸収能の向上効果を高くすることができ、またブリードアウト抑制の向上効果を高くすることができる。さらに、紫外線吸収剤の添加による樹脂の変色抑制の向上効果を高くすることができる。添加量が少なすぎる場合は、紫外線吸収能を付与する効果が低くなる傾向にある。このような観点から、添加量は、高分子材料100重量部に対して、さらに好ましくは0.05重量部以上、特に好ましくは0.1重量部以上である。他方、添加量が多すぎると、ブリードアウトの抑制効果が低くなる傾向にある。また、高分子材料が本来有する性質が失われる傾向にある。このような観点から、添加量は、高分子材料100重量部に対して、さらに好ましくは20重量部以下、特に好ましくは10重量部以下である。
【0060】
また、樹脂組成物を、樹脂成形品や樹脂フィルム等の樹脂製品を製造するための原料チップとして用いる場合は、紫外線吸収剤の含有量は次のとおりとなる。すなわち、かかる原料チップを他の樹脂により希釈せずに用いて(ここで「希釈せずに用いて」とは、紫外線吸収剤を含有する原料チップ100重量部に対して10重量部以下、好ましくは5重量部以下といった少ない添加量で他の樹脂(原料チップ)を添加することは含まないものとする。)、樹脂成形品や樹脂フィルムを製造する場合は、原料チップ中の紫外線吸収剤の含有量は、上述の樹脂組成物中の紫外線吸収剤の含有量と同じである。
【0061】
他方、原料チップを他の樹脂により希釈して(ここで「希釈して」とは、紫外線吸収剤を含有する原料チップ100重量部に対して10重量部を超える、好ましくは50重量部以上、さらに好ましくは100重量部以上の添加量で他の樹脂(原料チップ)を添加することを表わすものとする。)、樹脂成形品や樹脂フィルムを製造する場合、すなわち樹脂組成物をいわゆるマスターバッチとして用いる場合は、原料チップ中の紫外線吸収剤の含有量は、高分子材料100重量部に対して1〜100重量部とすることが好ましい。このような範囲とすることで、かかるマスターバッチを用いて希釈、濃度調整等が容易となり、またマスターバッチを用いた樹脂製品の製造において、均一に紫外線吸収剤を分散させることができる。このような観点から、この場合における添加量は、高分子材料100重量部に対して、さらに好ましくは2〜70重量部、特に好ましくは3〜45重量部である。
【0062】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物は、本発明の化合物を、前記高分子材料に添加することによって得られるが、かかる添加方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、高分子材料の合成や重合中に添加する方法、高分子材料からなる樹脂を例えば溶融押出工程等において溶融した溶融樹脂に添加する方法、高分子材料からなる樹脂製品等に含浸する方法等を挙げることができる。
【0063】
特に、高分子材料がポリエステルの場合においては、ポリエステルの重合工程において、例えば粉末のまま、あるいは適当な溶媒を用いた溶液またはスラリーとした状態で添加することができる。また、一旦チップ化したポリエステルをポリエステルの融点以上の温度、例えば260〜280℃の温度で再溶融して、かかる溶融ポリエステル中に添加することができる。ここで溶融は、ポリエステル成形品を製造する工程における溶融押出工程や、ポリエステルフィルムを製造する工程における溶融押出工程であってもよいし、マスターバッチを製造する工程における溶融押出工程であってもよい。
【0064】
これらのなかでも特に、高分子材料の熱劣化を抑制するという観点から、樹脂成形品や樹脂フィルムの製造工程における溶融押出工程において、溶融樹脂中に化合物を添加し、練り込み配合するのが好ましい。また、濃度調整が容易である、均一に分散できるという観点からは、マスターバッチ法を採用することが好ましい。
【0065】
(樹脂組成物の用途)
本発明における樹脂組成物は、上述のように、チップ状として、樹脂成形品や樹脂フィルムのごとく樹脂製品を製造するための原料として用いることができる。かかる樹脂成形品としては、例えば電子製品や光学製品の部品や筐体、繊維、フィルム、シート、プレート、パイプ、チューブ、各種容器等である。また、本発明における樹脂組成物は、チップ状として、本発明の紫外線吸収剤を有する上記樹脂製品を得るための原料チップとして用いることができる。
【0066】
また、本発明の樹脂組成物には、上記紫外線吸収剤以外にも、本発明の目的を損なわない範囲において、滑剤(ワックス等)、粒子(有機粒子、無機粒子、有機無機複合粒子等)、酸化防止剤、帯電防止剤、離型剤、蛍光漂白剤等の添加剤を含有していてもよい。また、本発明の目的を損なわない範囲において、他の紫外線吸収剤(金属系紫外線吸収剤や、例えば特開平7−11231号公報に記載の紫外線吸収剤等)を併用することもできる。
【0067】
(樹脂組成物の特性)
本発明の樹脂組成物は、本発明の紫外線吸収剤が用いられているために、優れた紫外線吸収能を有すると同時に、紫外線吸収剤のブリードアウトが少なく、それにより加熱時の昇華物も少なく、外観に優れ、欠点が少なく、品質に優れたものである。
【0068】
本発明の樹脂組成物は、例えば、後述する樹脂組成物のブリードアウト性評価2において検出される昇華物を、樹脂組成物の重量を基準として、昇華率として表わして0.3重量%以下に抑えることができる。かかる昇華率がこのような範囲である場合は、樹脂組成物からブリードアウトする紫外線吸収剤が少ないことを表わし、そのことにより樹脂組成物の外観に優れるものとなる。また、ブリードアウトした紫外線吸収剤が昇華することによる製造工程の汚染を抑制することができ、またかかる汚染に起因する樹脂組成物の欠点を抑制できる。さらに、清掃等に要する時間が省略できるため、生産性に優れる。このような観点から、昇華率は、好ましくは0.2重量%以下、さらに好ましくは0.15重量%以下である。
【0069】
[紫外線吸収剤としての使用(フィルム)]
また、上記樹脂組成物を原料として用いて、紫外線吸収剤を含有した樹脂フィルムを得ることができる。かかるフィルムは、紫外線吸収剤のブリードアウトが抑制されているため、かかるブリードアウトによる表面欠陥が抑制される。また、本発明における好ましい態様を有する紫外線吸収剤を含有した樹脂フィルムは、樹脂に添加したときに生じる樹脂の変色を抑制することができるため、無色性に優れる。無色性に優れる樹脂フィルムは、とりわけ光学用途に好適に用いることができる。
【0070】
(フィルムの製造方法)
本発明の紫外線吸収剤を含有したフィルムは、上記樹脂組成物を原料として用いて、従来公知の方法、例えば、溶融した樹脂を、スリットを備えるダイから押し出し、冷却固化する方法、樹脂を溶解した溶液をキャストする方法等により得ることができる。また、本発明のフィルムは、延伸可能な高分子材料を用いた場合は、機械特性、耐熱性、透明性等を向上させる目的において、一軸または二軸に延伸されたものであることが好ましい。かかる延伸方法は、従来公知の方法を採用することができ、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法、インフレーション法等が挙げられる。配向結晶化し得る高分子材料を用いた場合は、かかる延伸と、好ましくはその後の加熱処理により、配向結晶化し、機械特性、耐熱性、透明性等をさらに向上させることができる。また、紫外線に対する耐久性もさらに向上することができる。
【0071】
以下、本発明における好ましい態様である、高分子材料として配向結晶性を有するポリエステルを用いて二軸配向フィルムを得る場合を例に挙げて、本発明のフィルムの製造方法について説明する。なお、他の高分子材料を用いた場合も、以下の記載および公知技術を参照して、同様にフィルムを製造することができる。
【0072】
まず、上述の樹脂組成物からなるマスターバッチと、希釈用のポリエステルチップとを、得られるフィルム中の紫外線吸収剤の濃度が所定の範囲となるように混合し、熱風乾燥機や真空装置等を用いて充分に乾燥する。その後、押出機に投入して、ポリエステルの融点以上の温度、例えば260〜320℃で溶融し、かかる溶融樹脂をフィルターにより濾過して異物を除去し、スリット状の口金を備えるダイから溶融シートを押し出し、例えば10〜70℃程度に冷却されたキャスティングドラム上にて急冷固化させて未延伸フィルムを得る。ここで得られる未延伸フィルムの厚みは、得ようとするフィルムの厚みおよび延伸倍率を考慮して決定すればよいが、生産性の観点から、0.5mm以上であることが好ましい。
【0073】
次いで未延伸フィルムを製膜機械軸方向(以下、縦方向または長手方向またはMDという場合がある。)および製膜機械軸方向と厚み方向とに垂直な方向(以下、横方向または幅方向またはTDという場合がある。)の二軸方向に延伸する。かかる延伸は、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。逐次二軸延伸の場合は、縦方向および横方向を任意の順序で延伸することができるが、生産性の観点から、縦延伸、次いで横延伸を行う縦−横逐次二軸延伸が好ましい。以下は、最初に縦延伸を行い、次いで横延伸を行う逐次二軸延伸を採用した場合について説明する。
【0074】
まず、縦方向に、好ましくは40〜135℃の温度において、好ましくは倍率2.0〜6.0倍、さらに好ましくは3.0〜4.5倍で延伸を行い、縦一軸延伸フィルムを得る。なお、かかる縦延伸は、従来公知のIRヒーターを用いたロール延伸等により行うことができる。ここで、得ようとするフィルムが表面に塗布層を有するフィルムである場合は、かかる縦延伸の後に、塗布層を形成するための塗液をフィルム表面に塗布することが好ましい。これにより、続く横延伸工程や熱固定工程における熱により、塗液を乾燥したり、塗液中の成分の反応を促進させたり、塗布層とフィルムとの密着性を向上したりすることができる。
【0075】
次いで、縦一軸延伸フィルムをステンターに導き、横方向に、好ましくは95〜145℃で、好ましくは2.0〜6.0倍、さらに好ましくは3.0〜4.5倍で延伸を行い、二軸延伸フィルムを得る。このとき、面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)が、好ましくは5〜30倍、さらに好ましくは9〜20倍となるようにすればよい。本発明においては、上記のような縦延伸および横延伸の条件を採用することにより、機械特性、耐熱性、透明性に優れ、光学用途に好適に用いることができるフィルムを得ることができる。
【0076】
続いて、二軸延伸フィルムは、好ましくはポリエステルの結晶化温度以上、融点未満の温度、好ましくは180〜230℃で1〜60秒間熱処理(熱固定という。)を行う。これにより、機械特性、耐熱性、透明性をさらに向上させることができる。このようにして、二軸配向フィルムを得る。
なお、二軸配向フィルムは、さらに必要に応じて上記熱処理温度より10〜20℃低い温度で縦方向および/または幅方向に0〜20%収縮させながら再熱処理を行うことにより、収縮方向における熱収縮率を低減させるべく調整することができる。
【0077】
フィルム中における紫外線吸収剤の含有量は、フィルムの重量に対して、好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.2〜3重量%、特に好ましくは0.3〜2重量%である。かかる範囲とすることによって、優れた紫外線吸収能を効率よく奏することができる。また、フィルムからの紫外線吸収剤のブリードアウト抑制の向上効果を高くすることができる。また、透明性に優れ、無色性の向上効果を高くすることができる。紫外線吸収剤の含有量が少ないと、紫外線吸収能の向上効果が低くなる傾向にあり、他方、多すぎると、フィルムの透明性が低下する傾向にある。また無色製の向上効果が低くなる傾向にある。また紫外線吸収剤のブリードアウト量および昇華量が増加する傾向にあり、工程汚染の程度が悪化する傾向にある。またそれによりフィルム表面における欠点抑制の向上効果が低くなる。
【0078】
(フィルムの構成)
フィルムの厚みは、用途によって好ましい範囲にすればよく、特に制限されないが、好ましくは1〜500μm、より好ましくは5〜300μm、さらに好ましくは10〜280μm、特に好ましくは30〜250μmである。フィルム厚みが薄すぎると、破断等により製膜が困難となる。光学用途向けには、フィルムの厚みは、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、25μm以上がさらに好ましい。フィルム厚みが薄すぎると、フィルムにコシがなく、他の光学部材との貼り合わせや組み込みが困難になる等取り扱いが困難となる。また、300μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましく、フィルム厚みが厚すぎると、重量が増し、それにより製品の重量が増すため、部材として好適に用いにくい。またフィルムが厚くなると透明性に劣る傾向にある。
【0079】
本発明のフィルムには、上記紫外線吸収剤以外にも、本発明の目的を損なわない範囲において、滑剤(ワックス等)、粒子(有機粒子、無機粒子、有機無機複合粒子等)、酸化防止剤、帯電防止剤、離型剤、蛍光漂白剤等の添加剤を含有していてもよい。また、本発明の目的を損なわない範囲において、他の紫外線吸収剤(金属系紫外線吸収剤や、例えば特開平7−11231号公報に記載の紫外線吸収剤等)を併用することもできる。
【0080】
本発明のフィルムは、本発明の紫外線吸収剤を含有する層を少なくとも1層有する積層フィルムであってもよい。かかる積層フィルムとしては、本発明の紫外線吸収剤を含有する層を層A、含有しない層を層Bとしたときに、例えばA/Bの2層構成、A/B/AやB/A/Bの3層構成等を挙げることができる。また、さらに本発明の紫外線吸収剤を含有しない他の層Cを有する、A/B/CやB/A/C等の3層構成等を挙げることができる。表層に紫外線吸収剤を含有しない層を配することにより、紫外線吸収剤のブリードアウトの抑制効果を高くすることができる。
【0081】
本発明のフィルムは、その表面に被膜層を設けてもよい。かかる被膜層としては、蒸着法やスパッタ法等により得られる金属層(例えばAl、Au、Pt等からなる層)や金属酸化物層(例えばSiO、TiO、ITO、IZO等からなる層)を挙げることができる。また、塗布法により得られる金属酸化物層や樹脂層(アクリル、ポリエステル、ウレタン等からなる層)を挙げることができる。樹脂層を設けることにより、易接着性、易滑性、ブリードアウト防止性等の効果を付与することができる。
【0082】
塗布法により被膜層を形成する方法は、通常の塗布工程、すなわち、フィルムを必要に応じて二軸延伸熱固定したりする等して得た後に、該フィルムの製造工程と切り離した工程において塗布を行う、いわゆるオフライン塗布によってもよいし、フィルムの製造工程において塗布を行う、いわゆるインライン塗布によってもよい。インライン塗布は、塗布前のフィルムが芥、塵埃等を巻き込み難く、また、フィルムと被膜層との密着性を高くすることができる。また、高い生産性で被膜層を形成できるという観点から好ましい。
【0083】
塗布方法としては、公知の任意の塗布法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法及びカーテンコート法等を単独または組合せて用いることができる。
【0084】
塗布量は、塗布する塗液の濃度や粘度、得ようとする被膜層の厚み、塗布方式等により適宜調整することができるが、例えば、走行しているフィルム1m当り0.5〜20g、さらには1〜10gとすることで、均一な被膜層を得やすくなる。また、塗液は水性液であることが好ましく、水分散液または乳化液として用いるのがさらに好ましい。塗布法によって得られる被膜層の厚さは、0.02〜1μmであることが好ましく、被膜層がその機能を好適に発現しやすくなる。また、皮膜層の強度やフィルムとの密着性を高くすることができる。なお、被膜は、必要に応じ、フィルムの片面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。
【0085】
(フィルムの特性)
(紫外線吸収能(分光透過率))
本発明のフィルムは、本発明の紫外線吸収剤が用いられているために、優れた紫外線吸収能を有すると同時に、紫外線吸収剤のブリードアウトが少なく、それにより加熱時の昇華物も少なく、外観に優れ、表面欠陥が少なく、品質に優れたものである。
【0086】
本発明のフィルムは、波長360nmにおける光線透過率が10%以下であることが好ましい。このような範囲であると、紫外線吸収能に優れることを意味する。波長360nmにおける光線透過率は、さらに好ましくは5.0%以下、特に好ましくは1.0%以下である。また同時に、波長390nmにおける光線透過率が70%以上であることが好ましい。このように、紫外領域から可視光領域にかけて、光線透過率が急峻に変化する態様であると、可視光領域における余分な光の吸収が抑制されており、それにより変色が抑制され、無色性に優れる。このことから、波長390nmにおける光線透過率は、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは78%以上、特に好ましくは80%以上である。さらに同時に、波長400nmにおける光線透過率が80%以上であることが好ましく、82%以上であることが更に好ましく、83%以上であることが特に好ましく、無色性にさらに優れる。このような態様とするためには、本発明が規定する化合物を紫外線吸収剤として用いればよい。また、添加量を本発明が好ましく規定する範囲とすればよい。また、とりわけ本発明において一般式(4)、好ましくは一般式(5)で表わされる化合物を用いるとよい。
【0087】
また、本発明のフィルムは、波長400〜800nmにおいて、光線透過率が常に80%以上であることが好ましく、すなわち可視光領域における光線透過率が高く、透明であることを示す。波長400〜800nmにおける光線透過率の最低値は、82%以上であることがさらに好ましく、83%以上であることが特に好ましい。
【0088】
さらに、本発明のフィルムは、光線透過率が80%以上となる最短の波長が、380〜400nmの範囲にあることが好ましい。かかる範囲にあると、紫外線吸収能と無色性の向上効果を同時に高くすることができる。かかる波長が短すぎると、紫外線吸収能の向上効果に劣る傾向にあり、他方長すぎると無色性の向上効果に劣る傾向にある。このような観点から、高線透過率が80%以上となる最短の波長が、385〜395nmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0089】
(ヘーズ)
本発明のフィルムは、ヘーズが3.0%以下であることが好ましい。それにより、光学用等の透明性を要する用途に好適に用いることができる。このような観点から、ヘーズは、さらに好ましくは2.5%以下、特に好ましくは2.2%以下である。このようなヘーズの値は、本発明の紫外線吸収剤の添加量を、本発明が好ましく規定する範囲とすればよい。また、フィルム中における滑剤や粒子等の添加剤の含有量を減らすと、ヘーズは低くなる傾向にある。
【0090】
(透過カラーb*値)
本発明のフィルムは、透過法で測定したカラーb*値が0.8以下であることが好ましい。カラーb*値がこのような範囲であると、無色性が高いことを表わす。これにより、光学用途等、黄色味が少なく、無色であることが要される用途に好適に用いることができる。カラーb*値は、より好ましくは−0.8〜0.8である。かかるカラーb*値は、特に本発明の一般式(4)、好ましくは一般式(5)で表わされる化合物を紫外線吸収剤として用いることにより、より好ましく達成することができる。また、紫外線吸収剤の添加量を本発明が好ましく規定する範囲とするのもよい。
【0091】
(ブリードアウト性)
本発明のフィルムは、例えば、後述するブリードアウト性評価4において、スライドガラスのヘーズ変化率を10%以下に抑えることができる。かかるヘーズ変化率が10%以下である場合は、フィルムからブリードアウトする紫外線吸収剤が少ないことを表わし、そのことによりフィルムの表面欠陥を抑制することができる。また、ブリードアウトした紫外線吸収剤が昇華することによるフィルム製造工程の汚染を抑制することができ、またかかる汚染に起因するフィルムの表面欠陥を抑制できる。さらに、清掃等に要する時間が省略できるため、生産性に優れる。このような観点から、スライドガラスのヘーズ変化率は、好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下である。
【0092】
(フィルムの用途)
本発明の紫外線吸収剤を含有したフィルムの用途としては、農業用フィルム、包装用フィルム、各種光学用フィルム、例えばフラットパネルディスプレイ用の赤外線吸収剤の保護用フィルム、自動車等の窓貼り用フィルム、太陽電池の保護シート用フィルム等が挙げられ、好適に用いることができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
(1)ヘーズ
JIS K7361に準じ、ヘーズ測定器(日本電色工業社製、商品名「NDH―2000」)を用いてヘーズを測定した。サンプル中任意の5点について測定を行い、平均値を求めた。
【0094】
(2)吸光度、分光透過率、光線透過率
(化合物の吸光度)
化合物25mgを1,1,2,2−テトラクロロエタン100mLに溶解し、さらにこの溶液2mLを1,1,2,2−テトラクロロエタンで100mLに希釈し、日立製U−2800形分光光度計にて10mmのセルを使用して、波長250〜410nmを測定した。波長360nm、390nm、400nmにおける吸光度を求めた。また、波長400〜800nmにおける吸光度の最大値を求めた。
(フィルムの分光透過率)
分光光度計(島津製作所製UV−3101PC)を用いて、波長範囲300〜800nmにおいて、スキャン速度200nm、スリット幅20nm、サンプリングピッチ1.0nmの条件で、各波長における光線透過率を測定した。波長360nm、390m、400nmにおける光線透過率を求めた。また、波長400〜800nmにおいて、光線透過率の最低値を求めた。また、光線透過率が80%となる最低の波長を求めた。
また、波長360nmにおける光線透過率について、10%以下のものを評価「○」とし、10%を超えるものを評価「×」とした。
【0095】
(3)無色性評価
(透過カラーb*値)
カラー測定器(日本電色工業社製の商品名「SZ−Σ90」)を用いて測定した。フィルム上の任意の3点について、透過法で測定し、平均値を求めた。
(目視評価(未延伸フィルム))
製膜時に巻き取ったロールの端面を目視観察し、以下の指標で評価した。
○:端面の黄色味が弱く、紫外線吸収剤を添加していないものと同等である。
△:端面の黄色味が若干強い。
×:端面の黄色味が強い。
(目視評価(延伸フィルム))
製膜時に巻き取ったロールの端面を目視観察し、以下の指標で評価した。
○:端面の黄色味が弱く、紫外線吸収剤を添加していないものと同等である。
×:端面の黄色味が強い。
【0096】
(4)ブリードアウト性評価
[樹脂組成物]
樹脂組成物のブリードアウト性評価は、樹脂組成物を160℃で4時間乾燥した後、アンチモン昇華装置を使用し、かかる装置の密閉容器中に乾燥後の樹脂組成物40gを仕込み、温度300℃、圧力30Paの真空条件下で4時間加熱処理し、次のようにして行った。なお、昇華物は、容器内の上部に備えるアルミパンに付着する。
(ブリードアウト性評価1)
上記において、アルミパンを目視観察し、以下の指標で評価した。
○:昇華物の付着が少ない。
△:昇華物の付着が少しある。
×:昇華物の付着が多い。
(ブリードアウト性評価2)
上記において、アルミパンに付着した昇華物を採取して計量し、仕込んだ樹脂組成物の重量に対する昇華物の重量を昇華率(重量%)として求めた。
【0097】
[フィルム]
フィルムのブリードアウト性評価は、フィルムの加熱処理前後において、昇華物を捕捉したスライドガラスのヘーズ変化率を測定することで行った。すなわち、フィルム上部の6.5mmの位置にスライドガラスを設置し、フィルム下面より230℃で15分間加熱処理を施し、次のようにして行った。
(ブリードアウト性評価3)
加熱処理後のスライドガラスについて目視観察し、以下の指標で評価した。
○:昇華物の付着が少なく、白濁が少ない。
△:昇華物の付着が少しあり、白濁が少しある。
×:昇華物の付着が多く、白濁が多い。
(ブリードアウト性評価4)
加熱処理前後におけるスライドガラスのヘーズをそれぞれ測定し、これらの値から下記式によりスライドガラスのヘーズ変化率を算出した。
スライドガラスのヘーズ変化率(%)
=((加熱後のスライドガラスヘーズ(%)−加熱前のスライドガラスヘーズ(%))
/加熱前のスライドガラスヘーズ(%))
【0098】
(5)化合物の融点
融点はDSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Thermal lyst2100)により試料量20mg、昇温速度20℃/minで測定して求めた。
【0099】
[紫外線吸収剤の製造]
[実施例1−1]
例示化合物(1)について、以下のように合成した。
(工程1:アミド化)
温度計、攪拌機、環流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入部、およびハロゲン化水素除去設備へ接続されたガス導出部を備えた、3000ml4つ口フラスコ中で、5−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラニル酸(HEEA)140gをメチルエチルケトン(MEK)1690gに溶解した。次に、この溶液の温度を55〜60℃の範囲とし、イソフタル酸ジクロライド78.9gをMEK369gに溶解したものを30分間で滴下した。その後、反応フラスコの気相部に窒素を15ml/minで流しながら約80℃で12時間反応させた。反応後、溶液の温度を30℃以下まで冷却し、濾過し、得られた結晶をMEKで洗浄した。
(工程2:脱水)
温度計、攪拌機、環流冷却器、滴下ロート、還流液抜き取り口および酸性ガス除去設備へ接続されたガス導出部を備えた、3000ml4つ口フラスコに、上記で得られた結晶と無水酢酸2300gを入れ、1時間に60g程度ずつ還流液を留出させながら12時間加熱還流した。温度は徐々に上昇し最終的に130℃を超えた。その後30℃以下まで冷却し、濾過して結晶を得た。
この結晶とメタノール500gを、温度計、攪拌機、環流冷却器、滴下ロート、および酸性ガス除去設備へ接続されたガス導出部を備えた、500ml4つ口フラスコに入れ50〜60℃の範囲で30分間撹拌洗浄した。これにイオン交換水500gを滴下し、30℃以下まで冷却したのち濾過し、得られた結晶をメタノールで洗浄した。得られた結晶を60℃で乾燥し例示化合物(1)(微黄色結晶)を171g得た。
【0100】
[実施例1−2]
5−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラニル酸の代わりに5−(4−ヒドロキシブトキシ)アントラニル酸177gを用いた以外は実施例1−1と同様にして、例示化合物(9)を得た。
【0101】
[実施例1−3]
5−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラニル酸の代わりに5−(6−ヒドロキシヘキシロキシ)アントラニル酸180gを用いた以外は実施例1−1と同様にして、例示化合物(13)を得た。
【0102】
[実施例1−4]
イソフタル酸ジクロライドの代わりにテレフタル酸ジクロライドを用いた以外は実施例1−1と同様にして、例示化合物(19)を得た。
【0103】
[実施例1−5]
イソフタル酸ジクロライドの代わりに2,6−ナフタレン酸ジクロライド107gを用いた以外は実施例1−1と同様にして、例示化合物(21)を得た。
【0104】
[実施例1−6]
イソフタル酸ジクロライドの代わりに4,4’−ビフェニル酸ジクロライド108gを用いた以外は実施例1−1と同様にして、例示化合物(26)を得た。
【0105】
[実施例1−7]
イソフタル酸ジクロライドの代わりに2,5−チオフェンジカルボニルジクロライド33gを用いた以外は実施例1−1と同様にして、例示化合物(28)を得た。
【0106】
[比較例1−1]
アントラニル酸86重量部及び炭酸ナトリウム58重量部を水1200重量部に溶解した。テレフタル酸ジクロライド51重量部をアセトン300重量部に溶解した溶液を、上記の水溶液に室温で滴下し、撹拌しつつ2時間反応させ、更にアセトン還流下1時間反応させた。得られたスラリー状の反応液を室温に冷却し、塩酸を加えて反応液を酸性とした後、濾過水洗し、アミドジカルボン酸112重量部を得た。次いで上記のアミドジカルボン酸に無水酢酸300重量部を加え、撹拌下2時間加熱還流した。反応液を室温に冷却後、結晶を濾過し、水洗及びメタノール洗浄し、これを更にジメチルアセトアミドを用いて再結晶により精製し、下記式[化11]で示す化合物(わずかに黄味を帯びた白色結晶)を85重量部得た。
【0107】
【化11】

【0108】
[比較例1−2]
アントラニル酸の代わりに4−クロルアントラニル酸108重量部を用いた以外は比較例1−1と同様の方法で、下記式[化12]で示す化合物(わずかに黄味を帯びた白色結晶)を得た。
【0109】
【化12】

【0110】
[比較例1−3]
テレフタル酸ジクロライドの代わりにイソフタル酸ジクロライドを用いた以外は比較例1−1と同様の方法で、下記式[化13]で示す化合物(わずかに黄味を帯びた白色結晶)を得た。
【0111】
【化13】

【0112】
以上で得られた化合物の評価結果を表6、7に示す。
【0113】
【表6】

【0114】
【表7】

【0115】
[紫外線吸収剤含有樹脂組成物の製造]
[実施例2−1]
固有粘度0.65(フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン混合溶媒(重量比60/40)中、35℃で測定)のポリエチレンテレフタレート97.5重量部を180℃で3時間以上乾燥した後、280℃で溶融し、実施例1−1で製造した紫外線吸収剤2.5重量部を添加し、撹拌しつつ、5分間溶融ブレンドし、これを溶融押出して、約5mm角のチップ状にして樹脂組成物(樹脂組成物における紫外線吸収剤濃度2.5重量%)を得た。
【0116】
[実施例2−2〜2−7、比較例2−1〜2−3]
実施例2−1と同様に、それぞれ表8のごとく実施例1−2〜1−7、および比較例1−1〜1−3で得られた紫外線吸収剤を用いて、樹脂組成物を得た。
【0117】
[比較例2−4]
紫外線吸収剤を含有しないポリエチレンテレフタレートチップのみを用い、実施例2−1と同様にして樹脂組成物を得た。
以上で得られた樹脂組成物の特性を表8、9に示す。
【0118】
【表8】

【0119】
【表9】

【0120】
[紫外線吸収剤含有フィルム(未延伸)の製造]
[実施例3−1]
上記実施例2−1で得られた樹脂組成物を40重量部(得られるフィルムにおける紫外線吸収剤の濃度は1.0重量%となる。)と、紫外線吸収剤を含有しないポリエリレンテレフタレートチップ60重量部とブレンダーを用いて充分に混合し、この混合物を160℃で3時間乾燥後、押出機に投入し、溶融温度280℃で溶融混練し、溶融押出し、キャスティングドラム上で急冷して未延伸フィルムを得た。
【0121】
[実施例3−2〜3−7、比較例3−1〜3−4]
実施例3−1と同様に、それぞれ表10のごとく実施例2−2〜2−7、および比較例2−1〜2−4で得られた樹脂組成物を用いて、未延伸フィルムを得た。
以上で得られた未延伸フィルムの特性を表10、11に示す。
【0122】
【表10】

【0123】
【表11】

【0124】
[紫外線吸収剤含有フィルム(延伸)の製造]
[実施例4−1]
上記実施例2−1で得られた樹脂組成物を20重量部(得られるフィルムにおける紫外線吸収剤の濃度は0.5重量%となる。)と、紫外線吸収剤を含有しないポリエリレンテレフタレートチップ80重量部とブレンダーを用いて充分に混合し、この混合物を160℃で3時間乾燥後、押出機に投入し、溶融温度280℃で溶融混練し、溶融押出し、キャスティングドラム上で急冷して未延伸フィルムを得た。
次いで、得られた未延伸フィルムを74〜84℃にて予熱し、テンターに供給し、同時二軸延伸機により縦方向に3.4倍、横方向に3.6倍に延伸して、得られた二軸延伸フィルムを230℃の温度で5秒間熱固定し、厚み50μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0125】
[実施例4−2〜4−7、比較例4−1〜4−4]
実施例4−1と同様に、それぞれ表12のごとく実施例2−2〜2−7、および比較例2−1〜2−4で得られた樹脂組成物を用いて、二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
以上で得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表12、13に示す。
【0126】
【表12】

【0127】
【表13】

【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の化合物は、優れた紫外線吸収能を有し、樹脂に添加して用いることでかかる樹脂に紫外線吸収能を付与することができる。それにより、かかる樹脂組成物から得られる樹脂製品の劣化を抑制することができる。
また、本発明の化合物は、樹脂に添加した際のブリードアウトが抑制されているため、品質に優れた樹脂製品を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる化合物。
【化1】

(ただし、式中、
Arは、2〜10価の5〜20員環の芳香族残基を表わす。また、該芳香族残基はヘテロ原子を含有していてもよく、置換基を有していてもよい。
Arに結合している環は、任意の位置に二重結合を有していてもよい。
、XおよびXは、互いに独立してヘテロ原子を表わす。また、X、XおよびXは、置換基を有していてもよい。
a1は、炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表わす。
b1は、炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表わす。
は、2〜10の整数を表わす。
は、1〜4の整数を表わす。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表わされる化合物が、下記一般式(2)で表わされる化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化2】

(ただし、式中、
Arは、前記一般式(1)のArと同義である。
a2は、前記一般式(1)のRa1と同義である。
b2は、前記一般式(1)のRb1と同義である。
は、前記一般式(1)のmと同義である。
は、前記一般式(1)のnと同義である。)
【請求項3】
前記一般式(2)で表わされる化合物が、下記一般式(3)で表わされる化合物である、請求項2に記載の化合物。
【化3】

(ただし、式中、
Arは、2価の5〜20員環の芳香族残基を表わす。また、該芳香族残基はヘテロ原子を含有していてもよく、置換基を有していてもよい。
a3およびRa3’は、互に独立して、炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表わす。
b3およびRb3’は、互いに独立して、炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表わす。
およびn3’は、互に独立して、1〜4の整数を表わす。)
【請求項4】
前記一般式(3)で表わされる化合物が、下記一般式(4)で表わされる化合物である、請求項3に記載の化合物。
【化4】

(ただし、式中、
a4およびRa4’は、前記一般式(3)のRa3およびRa3’と同義である。
b4およびRb4’は、前記一般式(3)のRb3およびRb3’と同義である。
およびn4’は、前記一般式(3)のnおよびn3’と同義である。)
【請求項5】
前記一般式(4)で表わされる化合物が、下記一般式(5)で表わされる化合物である、請求項4に記載の化合物。
【化5】

(ただし、式中、
a5およびRa5’は、前記一般式(4)のRa4およびRa4’と同義である。
b5およびRb5’は、前記一般式(4)のRb4およびRb4’と同義である。)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物からなる紫外線吸収剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を含有する樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を含有するフィルム。

【公開番号】特開2012−214385(P2012−214385A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78800(P2011−78800)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【出願人】(508158263)錦海化学株式会社 (2)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】