説明

医療用チューブ

【課題】チューブの外径が小さく、肉厚が薄く、外面および内面の滑り性が良好であると共に、手元からの操作を行った場合に、曲がった血管内を屈曲すること無く円滑な押し込みが可能な医療用途のチューブの提供。
【解決手段】テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体95〜85質量%、黒鉛を5〜15質量%を配合した、外径に相当する径で巻きつけた場合に塑性変形を生じることがなく、径の小さな血管の内部にも円滑に挿入することができることを特徴とする医療用チューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管、臓器内等に挿入して液体の注入又は吸引、あるいは治療や検査を行う際に使用されるカテーテル等の医療用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用チューブには、耐熱性、寸法安定性、化学的安定性および生体適合性を有する部材が用いられている。医療用チューブには、手元からの操作によって血管等の内部を円滑に進行すると共に、先端部が管壁等を損傷することがない操作性、および柔軟性、外面の滑り性、および内部に挿入するガイドワイヤー等の滑り性が求められている。
【0003】
各種の合成樹脂のなかでも、ポリテトラフルオロエチレンは潤滑性および化学的安定性に優れたものであるが、押出加工によって径が小さく厚みが薄く柔軟性に優れたチューブを作製することは困難であるので、ポリテトラフルオロエチレンに、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)を混合することによって押出成形によって、滑り性が良好なカテーテルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる医療用チューブも提案されているが、ダイレータ、留置針のガイド、あるいはシースイントロデューサーであり、これらの用途に提案されいるものは柔軟性が不充分であった(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−168521号公報
【特許文献2】特開2006−34894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カテーテルを使用した診断、治療の対象の広がりと共に、医療用チューブに対しても、従来に増して高度な特性が要求されており、チューブの外径が小さく、肉厚が薄く、外面および内面の滑り性が良好であると共に、手元からの操作を行った場合に、曲がった血管内を屈曲すること無く円滑な押し込みが可能な医療用途のチューブが求められている。
本発明は、肉厚の薄肉化と押し込み時の屈曲と言う相反する問題を解決し、押し込み時に屈曲することなく円滑に押し込みが可能な肉厚が薄い医療用チューブを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体95〜85質量%、黒鉛を5〜15質量%を配合した、外径に相当する径で巻きつけた場合にも塑性変形を生じることがない医療用チューブによって解決することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の医療用チューブは、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体に黒鉛を配合して押出成形によって作製したものであるので、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体が有する剛性を保持すると共に、滑り性が良好である。また、外径に相当する径で巻きつけた場合にも塑性変形を生じることがないので、径の小さな血管の内部にも円滑に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施例、比較例の引抜負荷測定方法を説明する図である。
【図2】図2は、実施例、比較例の押込負荷測定方法を説明する図である。
【図3】図3は、実施例、比較例の測定結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
医療用チューブには、各種の合成樹脂が用いられているが、なかでもフッ素樹脂は生体適合性に優れ、熱、薬剤等に対しても耐性を有している。
フッ素樹脂には化学構造によって物性が異なり、例えば、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体を使用した医療用チューブは、他のフッ素樹脂に比べて大きな剛性を有する点を利用したものであって、ダイレータ、留置針のガイド、あるいはシースイントロデューサー等に用いられていたが、細い血管内に挿入して長い距離を移動するような可撓性を要するカテーテルには使用されて来なかった。
これは、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)は、剛性はあるものの、柔軟性に欠け、更には、ポリテトラフルオロエチレン等に比べて滑り性が良くないことに起因するものとみられる。
【0010】
本発明は、このような他のフッ素樹脂に比べて剛性が大きく、柔軟性に欠けるというテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体についても、径を小さくし、肉厚を薄くした場合には、柔軟性があって、押し込み力を加えた場合には屈曲に対する耐力が大きなものを得ることが可能であることを見いだしたものである。また、他のフッ素樹脂に比べて劣る滑り性については、生体に影響を及ぼさない黒鉛を配合することによって改善可能であるを見いだしたものである。
【0011】
本発明の医療用チューブは、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体95から85質量%、黒鉛を5から15質量%を配合して、溶融押出成形によって、目的とする内径、および外形を有するチューブとして製造することができる。
また、外径に相当する円柱に巻きつけた場合にも、折れつぶれなどの塑性変形を生じることなく巻き付けることができ、柔軟性に優れている。これは、折り曲げて両端部を重ね会わせたものと同等であって、極めて大きな柔軟性を有しているものである。
一例を挙げれば、外径0.5mmから2.5mmである、細い血管内にも挿入することが可能な医療用チューブを得ることができる。
【0012】
本発明の医療用チューブは、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体95から85質量%、個数平均粒径3から8μmの黒鉛を5から15質量%を配合してシリンダー温度が280℃から320℃の温度条件において溶融して押出成形を行って所定の肉厚と外径を有する医療用チューブとすることができる。
また、押出成形後には、ガラス転移点以上の温度で延伸等の処理を行うことなく、冷却を行うことによって製造することができる。
本発明の医療用チューブに好適なテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体には、旭硝子製フルオンC88−AXPを挙げることができる。
【実施例】
【0013】
以下に実施例、比較例を示して本発明を説明する。
実施例1
テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(旭硝子製フルオンC88−AXP)と、個数平均粒径3μmの鱗状黒鉛とを、鱗状黒鉛の配合量を25質量%、20質量%、15質量%、10質量%、5質量%に変えた試料を調製し、混練のうえ押出成形機によって、シリンダー温度280から320℃に保持して内径0.5mm、外径1.0mmの試料を作製した。
【0014】
作製した各試料について、内部にガイドワイヤー等を円滑に進行または引き抜くことが可能な機能を有することを以下の引抜負荷測定方法によって評価し、表1に単位Nの値で示すと共に、図3に示す。
同様に、各試料について、手元から操作した場合に血管内を円滑に進行する機能を、以下の押込負荷測定方法によって評価し、表2に単位Nの値で示すと共に、図3に示す。
また、長さ300mmの試料を直径1mmのステンレス鋼製の棒にU字状となるように巻きつけた後に、巻き付けを終了した後には可塑性を保持し、元の状態に回復した。
【0015】
引抜負荷測定方法
図1に示すように、作製した医療用チューブ1を長さ460mmに切断し、高剛性ステンレス鋼製ワイヤーにポリテトラフロオロエチレンを被覆した血管造影用のガイドワイヤー(直径0.35mm)2を挿入した後に、直径45mmのステンレス鋼製の円柱3に3周巻付けた。
医療用チューブの両端4および5のそれぞれ50mmが、それぞれ垂直方向に直線状に位置するように粘着テープ6で固定した。
前記ガイドワイヤーの上方に伸びる部分を引張試験機(ミネベア製TCM−100)7のチャック8で固定し、200mm/分の速度で矢印方向へ引抜き,その時の最大負荷の測定を5回行った。5回の測定値の加重平均値を引抜負荷の値とした。
【0016】
押込負荷測定方法
図2に示すように、作製した医療用チューブ1を長さ50mmに切断し、一端を間隔を設けて配置した台座11に固定した固定チャック12によって固定した。
一方、台座11から間隔を設けて配置した他方の台座13には、レール状部材14を配置し、レール状部材上には、レール状部材上を移動する可動チャック15を設けた。固定チャックと可動チャックとの間隔は30mmとなるように、医療用チューブ1の他方の端部を固定するとともに、その先端部は、可動チャックから延長させて、荷重測定装置(日本電産シンポ製FGP−0.5)16に結合した。
次いで、可動チャック15を300mm/分の速度で固定チャック側へ押込み、医療用チューブが,固定チャックと可動チャックの間で折れ曲がるのに至るまでの最大負荷の測定を5回測定を行い、その加重平均値を押込負荷の値とした。
【0017】
比較例1
黒鉛を配合しない点を除き、実施例1と同様にして比較試料1を作製して、実施例1と同様にして測定して、その結果を表1、表2に示すと共に、図1に示す。
【0018】
比較例2
ポリテトラフルオロエチレン(三井・デュポンフロロケミカル製 テフロン640J)のみを使用して黒鉛を配合しない点を除き実施例1と同様にして比較試料2を作製して1と同様にして測定して、その結果を表1、表2に示すと共に、図1に示す。
【0019】
比較例3
黒鉛に代えてポリテトラフルオロエチレン(ダイキン製 ルブロンL−2)を10質量%配合した点を除き実施例1と同様にして比較試料3を作製して、実施例1と同様にして測定して、その結果を表1、表2に示すと共に、図1に示す。
【0020】
比較例4
テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(旭硝子製フルオンC88−AXP)のみを原料にして、押出成形後に、チューブ状に賦形されたチューブを引取る一対の引取りローラ間で引取り速度を変え、延伸用加熱炉によって軸方向に3倍に延伸した後に、150℃でアニール処理を行って、内径1.15mm、外径1.45mmのチューブを作製した。
得られたチューブは巻き付け不能であった。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の医療用チューブは、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体に黒鉛を配合して押出成形によって作製したものであるので、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体が有する剛性を保持すると共に、滑り性が良好であると共に、径の小さな血管の内部にも円滑に挿入することができる。
【符号の説明】
【0024】
1…医療用チューブ、2…ガイドワイヤー、3…円柱、4,5…医療用チューブの両端部、6…粘着テープ、7…引張試験機、8…チャック、11…台座、12…固定チャック、13…台座、14…レール状部材、15…可動チャック、16…荷重測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体95〜85質量%、黒鉛を5〜15質量%を配合した、外径に相当する径に巻きつけた場合に塑性変形を生じることがないことを特徴とする医療用チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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