説明

医療用容器

【課題】 充填された薬液の水分透過を抑制し、かつ該薬液中に含有される溶質の吸着を抑制することができる医療用容器を提供すること。
【解決手段】 極限粘度が0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート(A)と、メルトフローレート(MFR)が2〜60g/10分のプロピレン系樹脂(B)を含有する単層の樹脂組成物層からなる。成分(A)と成分(B)の重量配合比は、(A)/(B)=3/7〜7/3が好ましく、(A)/(B)=5/5〜7/3がより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエチレンテレフタレートとプロピレン系樹脂を含有する単層の樹脂組成物層からなる医療用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用容器に充填した薬液を長期保存するとその組成が変化することがある。この原因のひとつに医療用容器の素材が挙げられる。薬液を充填する医療用容器、特に点眼剤、点鼻剤および点耳剤に用いられる医療用容器の素材として、主にポリエチレンテレフタレート(以下、PETという場合がある)、ポリエチレン(以下、PEという場合がある)、プロピレン系樹脂(以下、PPという場合がある)などのポリマーが挙げられる。
例えば、PET容器を用いた場合、PETは水分透過性が高いため、薬液中に溶解された化合物の濃度が高くなりやすいことが知られている。また、PPなどのオレフィン素材からなる容器を用いた場合、薬液中の溶質が容器内表面に吸着する性質を持つため、薬液中に溶解した脂溶性化合物の濃度が低下しやすいことが知られている。
【0003】
脂溶性化合物の容器内表面への吸着性に関連して、例えば、文献1には、清涼化剤としてL−メントールが配合された点眼液を充填した容器では、L−メントールが容器内表面に吸着しやすいため、多価アルコール類、界面活性剤及びシクロデキストリン類から選ばれる少なくとも1種以上の成分を同時に配合することにより、L−メントールの容器への吸着を抑制している。
文献1は上記多価アルコール等を吸着抑制剤として点眼液中に配合するものであるが、他方、容器の樹脂素材の面から、上記の問題点をいずれも解決できるような方法が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−119422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、充填された薬液の水分透過を抑制し、かつ該薬液中に含有される溶質の吸着を抑制することができる医療用容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定範囲の極限粘度を有するポリエチレンテレフタレートと特定範囲のメルトフローレートを有するプロピレン系樹脂を含有する単層の樹脂組成物層からなる医療用容器を用いることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 極限粘度が0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート(A)と、メルトフローレート(MFR)が2〜60g/10分のプロピレン系樹脂(B)を含有する単層の樹脂組成物層からなる医療用容器。
〔2〕 成分(A)と成分(B)の重量配合比が(A)/(B)=3/7〜7/3である前記〔1〕記載の容器。
〔3〕 成分(A)と成分(B)の重量配合比が(A)/(B)=5/5〜7/3である前記〔1〕記載の容器。
〔4〕 極限粘度が0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート(A)と、メルトフローレート(MFR)が2〜60g/10分のプロピレン系樹脂(B)、からなる単層の樹脂組成物層からなる医療用容器。
〔5〕 医療用容器が、点眼用容器、点鼻用容器または点耳用容器である前記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の医療用容器。
〔6〕 極限粘度が0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート(A)と、メルトフローレート(MFR)が2〜60g/10分のプロピレン系樹脂(B)を含有する単層の樹脂組成物層からなる医療用容器を用いることで、該容器に充填された薬液の該容器外への水分透過を抑制し、かつ該薬液中に含有される溶質の該容器への吸着を抑制する方法。
〔7〕 極限粘度が0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート(A)と、メルトフローレート(MFR)が2〜60g/10分のプロピレン系樹脂(B)をそれぞれ加温して溶融させる溶融工程、
前記溶融工程で得られた成分(A)と成分(B)とを混練する混練工程、
前記混練工程で得られた、成分(A)と成分(B)を含有する樹脂組成物を冷却してペレット化するペレット化工程、
前記ペレット化工程で得られた、樹脂組成物のペレットを溶融させて射出成形する成形工程、
を含む前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の医療用容器の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の医療用容器によれば、該容器に充填された薬液の容器外への水分透過を抑制し、かつ該薬液中に含有される溶質の容器への吸着を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の医療用容器は、上述したとおり、ポリエチレンテレフタレート(A)(以下、成分(A)と略す場合がある)とプロピレン系樹脂(B)(以下、成分(B)と略す場合がある)を含有する単層の樹脂組成物層から構成される。
【0010】
本発明に係る医療用容器の単層樹脂組成物層を構成する原料として用いられるポリエチレンテレフタレート(A)は、医療用容器として通常使用し得るものであれば任意のものを使用することができ、特に射出成形する過程において成形加工性に優れる点で、極限粘度が0.5〜0.9dl/gの範囲のものを用いることが好ましい。本発明における上記極限粘度は、フェノール/テトラクロルエタン(重量比1:1)混合溶媒中、20℃の温度条件で測定したものを意味する。より具体的には、例えば成分(A)200mgをフェノール/テトラクロルエタン(重量比1:1)混合溶媒20mlに105℃で20分間撹拌下で溶解する。溶液を20℃の恒温水槽中でウベローデ型粘度計により溶液粘度を測定し、上記成分(A)の極限粘度とする。
【0011】
ポリエチレンテレフタレート(A)としては市販品を用いることができ、例えば、ユニチカポリエステル樹脂MA−1340P、MA−1344P(いずれもユニチカ(株)製)等が好適に利用できる。
【0012】
本発明に係る医療用容器の単層樹脂組成物層を構成する原料として用いられるプロピレン系樹脂(B)は、プロピレン単独重合体、プロピレンとα−オレフィンとの共重合体、またはこれらの混合物であってもよい。プロピレン・α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィンは、プロピレンを除く炭素数2〜20のα−オレフィンが挙げられ、例えば、エチレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等を例示できる。プロピレンと共重合されるα−オレフィンは、二種以上用いてもよい。このうちエチレン、ブテン−1が好適である。より好ましくはエチレンが好適である。また、これらプロピレン系樹脂(B)は、二種以上混合して使用してもよい。
【0013】
本発明で用いられるプロピレン系樹脂は、射出成形する過程において成形加工性に優れる点で、メルトフローレート(MFR)が2〜60g/10分の範囲のものが好ましい。本発明においてMFRはJISK7210(試験条件:230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定される値である。
【0014】
プロピレン系樹脂(B)としては市販品を用いることができ、例えば、日本ポリプロ(株)社製ノバテックPPシリーズが好適に利用できる。
【0015】
本発明の医療用容器は成分(A)と成分(B)を含有する単層の樹脂組成物層からなる。該樹脂組成物層は、成分(A)と成分(B)を含有するポリマーブレンドである。成分(A)と成分(B)の重量配合比は、通常(A)/(B)=1/9〜9/1の範囲で用いられるが、容器に充填された薬液の容器外への水分透過を抑制することができ、かつ薬液中に含まれる溶質の容器への吸着を抑制することができる点で、(A)/(B)=3/7〜7/3が好ましく、特にPPの配合比率が低い場合でも十分に水分透過を抑制できることから(A)/(B)=5/5〜7/3とすることがさらに好ましい。
【0016】
上記樹脂組成物層は、成分(A)と成分(B)のみからなるものでもよいが、上述した本発明の効果を損なわない限り、さらに、スチレン−ブチレンエチレンのブロック共重合体等の相溶化剤を添加してもよい。
【0017】
本発明の医療用容器の製造方法としては、成分(A)と成分(B)、および必要に応じて相溶化剤等の任意成分を、それぞれ加温して溶融させる溶融工程、該溶融工程で得られた各成分を混練する混練工程、該混練工程で得られた各成分を含有する樹脂組成物を冷却してペレット化するペレット化工程、該ペレット化工程で得られた、樹脂組成物の
ペレットを溶融させて射出成形する工程、を含む。
本発明において上記各成分の溶融混練物である樹脂組成物は、上記のとおり、上記各成分を別々に溶融させた後に混練して製造してもよいし、上記各成分を一緒に溶融混練することにより製造してもよい。上記各成分を別々または一緒に溶融または混練する際には、単軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサー、プラベンダー、ロール等を用いることができる。
【0018】
なお、成分(A)は含水率が高いため、溶融させる前に十分な時間加温して乾燥させることが望ましい。また、ペレット化工程においては、樹脂組成物がバラス状にならないように、混練時の温度および攪拌速度を制御することが望ましい。
【0019】
本発明の医療用容器は、点眼用容器、点鼻用容器または点耳用容器として好適であり、ノズル、キャップなどの部材と組み合わせて使用することができる。ノズル、キャップなどの素材は特に限定されるものではないが、例えば、PET、PP、PEなどが用いられる。本容器に適したノズル素材として、嵌合性の観点からPEを使用することが望ましい。また本容器に適したキャップ素材として、気密性の観点からPPを使用することが望ましい。
【0020】
本発明の医療用容器に充填される薬液の種類は特に制限はないが、薬液に含まれる溶質が脂溶性の高い薬物、テルペノイド化合物などの芳香族化合物または界面活性剤である場合において、本発明の効果を顕著に得ることができる。
【0021】
脂溶性の高い薬物としては、日本薬局方通則に記載の溶解性を示す用語「水にとけにくい〜水にほとんど溶けない」の範囲内のものであって、例えば非ステロイド性消炎鎮痛剤、ステロイド、免疫抑制剤及び抗生物質、ビタミン剤であってよい。
【0022】
テルペノイド化合物としてはメントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール及びリナロールが挙げられる。特にメントールの場合、本発明の効果は顕著である。
【0023】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤および両イオン性界面活性剤が挙げられ、特に第4級アンモニウム型陽イオン性界面活性剤(特に、塩化ベンザルコニウム)の場合、本発明の効果は顕著である。
【0024】
本発明の医療用容器は、該容器に充填された薬液の容器外への水分透過を抑制することができるとともに、該薬液中に含まれる溶質の容器への吸着を抑制することができる。水分透過性は、医療用容器に充填した薬液の水分透過による水分減少量を指標として判断される。水分減少量としては、40℃、相対湿度25%以下に14日保管した場合、通常、初期重量の1%以下、好ましくは0.7%以下に抑制できることが望ましい。また、水分減少量の他の基準として、例えば、日米EU医薬品規制調和国際会議 安定性試験ガイドラインに基づく水分損失試験において、40℃、相対湿度25%以下で3ヶ月保管後の水分減少が初期重量の5%以下であることが望ましい。溶質の吸着性は、医療用容器に充填した薬液中の溶質の容器への吸着量が一定に達したときの該溶質の残存率を指標として判断される。特に溶質が薬液の添加物である場合、溶質の効果を考慮して、溶質の残存率が、初期溶質重量に対して50%以上、好ましくは60%以上であることが望ましい。
【0025】
以上説明したとおり、医療用容器に充填された薬液の容器外への水分透過を抑制し、かつ該薬液中に含まれる溶質の容器への吸着を抑制するには、特定範囲の極限粘度を有するポリエチレンテレフタレート(A)と特定範囲のMFRを有するプロピレン系樹脂(B)を含有する単層の樹脂組成物層からなる医療用容器を用いることが重要であり、加えて、成分(A)と成分(B)の重量配合比を好適範囲に設定することが重要である。
【実施例】
【0026】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0027】
1.ペレット(PET/PPブレンド品、PET単品、PP単品)の作製例
原料樹脂としてPET(商品名;ユニチカポリエステル樹脂 MA−1340P、ユニチカ(株)製、数平均分子量=18,000、Tg=75℃、融点=230℃、極限粘度=0.57dl/g)とPP(商品名;ノバテックPP MG03E、日本ポリプロ(株)製、プロピレン・エチレンランダム共重合体、MFR=30g/10分)を用い、これらが溶融するまでそれぞれ加温した。なお、PETは加温して溶融させる前に、あらかじめ含有水分を蒸散させるのに十分な時間加温した。
溶融した上記PETとPPを重量比でPET/PP=7/3、5/5、3/7になるよう混合し、十分に混合した上で、2軸押出機(商品名;LABOTEX30HSS、(株)日本製鋼所製)を用いて該混合物を押し出し、押し出された混合物をペレタイザーにてペレット化した。
なお、上記とは別に、PETとPPのブレンド品に代えて、PETまたはPPのみを用いたこと以外は上記と同様の方法によりPET単品またはPP単品のペレットを作製した。
【0028】
2.医療用容器の作製例
(実施例1〜3)
上記で得られたPET/PP=7/3、5/5、3/7のペレットをそれぞれ加温して流動化させ、射出成形にて単層ボトル(内径15mm、胴部肉厚0.7mm、高さ48.7mm(胴部の高さは30.5mm))を作製した(実施例1〜3)。
【0029】
(比較例1)
PET/PPのペレットに代えて、PET単品からなるペレットを用いたこと以外は、上記と同様の方法で単層ボトルを作製した。
【0030】
(比較例2)
PET/PPのペレットに代えて、PP単品からなるペレットを用いたこと以外は、上記と同様の方法で単層ボトルを作製した。
【0031】
3.水分透過性の評価
上記で作製した実施例1〜3、比較例1および2のボトルに精製水5mLを充填し、
各ボトルの口部をキャップで密栓したものを検体1〜5とした。なお、使用したキャップは、上記ボトルの口部に嵌合するように、ポリエチレン(商品名;ノバテックLD LJ808、日本ポリエチレン(株)製)を用いて、射出成形により製造されたものである。
各検体を40℃±2℃、相対湿度20%±2%に保管し、保管開始時、保管開始から1、4、7および14日後に各検体の重量を測定した。
測定された重量から、下記式1に基づいて水蒸気透過率を算出し、ブレンド材を用いた単層ボトルの水分透過性について評価した。結果を表1に示す
(式1) 水蒸気透過率(%)=(開始時の重量(g)−保管後の重量(g))/5(g)×100

【0032】
【表1】

【0033】
比較例1(PET100%)のボトルを使用した検体4の水蒸気透過率が最も高く、検体1、検体2、検体3と、PPの配合比率を上げるごとに徐々に水蒸気透過率が低下した。14日後の結果から、PET100%のボトルを用いた検体4の水蒸気透過率は1.14%であったが、PPを30%配合したボトルを用いた検体1の水蒸気透過率は0.67%であった。上記の結果は、試験開始から14日後を基準にした場合、ボトル材料としてPETにPPを30%配合すれば、PET100%のボトルと比較して、水蒸気透過率を約40%減少させることができることを示している。
水分透過性の望ましい基準として、40℃、相対湿度25%以下で3カ月保管後の水分減少率が初期重量の約5%以下とした場合、40℃、2週間後で上記基準に相当する水分減少率は約0.78%以下となる。実施例1〜3のボトルを使用した場合はいずれもこの基準を満たすものであった。
【0034】
4.試験片の作製例
(試験片1〜3)
上記で得られたPET/PP=7/3、5/5、3/7のペレットをそれぞれ加温して流動化させ、射出成形にてプレート(140mm×90mm、厚み1mm)を作製し、次いで30mm×5mmに切断したものを、後述するL−メントール吸着性評価試験の試験片1〜3とした。試験片1〜3の構成成分、混合比は以下のとおりである。
試験片1:PET/PP=7/3
試験片2:PET/PP=5/5
試験片3:PET/PP=3/7
【0035】
(試験片4)
PET/PPのペレットに代えて、PET単品からなるペレットを用いたこと以外は、上記と同様の方法でプレート(140mm×90mm、厚み1mm)を作製し、次いで30mm×5mmに切断したものを、後述するL−メントール吸着性評価試験の試験片4とした。
【0036】
(試験片5)
PET/PPのペレットに代えて、PP単品からなるペレットを用いたこと以外は、上記と同様の方法でプレート(140mm×90mm、厚み1mm)を作製し、次いで30mm×5mmに切断したものを、後述するL−メントール吸着性評価試験の試験片5とした。
【0037】
5.L−メントールの吸着性の評価
ガラス製アンプル(容量約8mL)に0.01重量% L−メントール水溶液6mLを充填し、試験片1〜5を各2個ずつ浸漬させて密閉(溶封)したものを検体A〜Eとした。各検体を50℃±2℃に保管し、保管開始時、保管開始後1、4、8および12日後に水溶液中のL−メントールの含量を測定した。なおL−メントールの含量は高速液体クロマトグラフ法(HPLC)にて定量した。HPLCの測定条件は以下のとおりである。
(HPLC測定方法)
検出器:示差屈折計(セル温度:40℃付近の一定温度)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクチルシリル化シリカゲル(OC12S05−1546WT(A−202)ワイエムシイ)を充填する。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:水/アセトニトリル混液(1:1)
流量:内標準物質の保持時間が約5分になるように調整する。
【0038】
L−メントールの定量にあたり、下記式2に基づいてL−メントール量を算出し、次いで下記式3に基づいてL−メントール残存率を算出した。結果を表2に示す。
(式2) L−メントール量(対表示率%)=定量用L−メントール秤取量(mg)×QT/QS×10
(式2)において、QTはL−メントールのピーク面積を示し、QSは内標準物質のピーク面積を示す。
(式3) L−メントール残存率(%)=経時変化後の平均対表示率(%)/開始時の平均対表示率(%)×100
なお、対表示率とは、ある成分の表示量に対する、調製した検体中に含まれるその成分の量を百分率(%)で表したものである。
【0039】
【表2】

【0040】
試験片4(PET100%)を用いた検体Dでは日数が経過しても水溶液中のL−メントールは残存率約100%を維持し続けていたが、検体A、検体B、検体Cと、PPの配合比率を上げるごとに水溶液中のL−メントールの残存率が低下した。このことはボトル材料としてPPの配合比率を上げることでL−メントールのボトルへの吸着が高まることを示している。
L−メントールの清涼化効果を考慮すると、ボトルへの吸着がプラトーに達したときの残存率は約50%以上であることが望ましい。試験片1〜3の配合比からなる単層ボトルを使用した場合はいずれも上記基準を満たすものと推定される。
【0041】
上記「3.水分透過性の評価」および「5.L−メントールの吸着性の評価」の結果より、容器材料としてPETとPPのブレンド材を用いることで、充填された薬液の水分蒸発を抑制でき、かつ脂溶性薬物の容器への吸着を抑制できる容器として使用できることが分かった。これらの効果は、内溶液に含まれる物性または物質によって左右されるが、PETとPPの配合比率を適宜コントロールすることで最大限の効果を発揮させることができる。特にPPの配合比が低い場合であっても、顕著に水分透過を抑制できることから、溶質の容器吸着性も合わせて勘案すると、PETとPPの配合比率は、PET/PP=5/5〜7/3とすることが最も望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の医療用容器は、該容器に充填された薬液の容器外への水分透過を抑制し、かつ該薬液中に含有される溶質の容器への吸着を抑制することができるので、かかる効果が要望される医療用容器に広く適用可能であり、例えば、点眼用容器、点鼻用容器または点耳用容器として広く利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極限粘度が0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート(A)と、メルトフローレート(MFR)が2〜60g/10分のプロピレン系樹脂(B)を含有する単層の樹脂組成物層からなる医療用容器。
【請求項2】
成分(A)と成分(B)の重量配合比が(A)/(B)=3/7〜7/3である請求項1記載の容器。
【請求項3】
成分(A)と成分(B)の重量配合比が(A)/(B)=5/5〜7/3である請求項1記載の容器。
【請求項4】
極限粘度が0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート(A)と、メルトフローレート(MFR)が2〜60g/10分のプロピレン系樹脂(B)、からなる単層の樹脂組成物層からなる医療用容器。
【請求項5】
医療用容器が、点眼用容器、点鼻用容器または点耳用容器である請求項1〜4のいずれか記載の医療用容器。
【請求項6】
極限粘度が0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート(A)と、メルトフローレート(MFR)が2〜60g/10分のプロピレン系樹脂(B)を含有する単層の樹脂組成物層からなる医療用容器を用いることで、該容器に充填された薬液の該容器外への水分透過を抑制し、かつ該薬液中に含有される溶質の該容器への吸着を抑制する方法。
【請求項7】
極限粘度が0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート(A)と、メルトフローレート(MFR)が2〜60g/10分のプロピレン系樹脂(B)をそれぞれ加温して溶融させる溶融工程、
前記溶融工程で得られた成分(A)と成分(B)とを混練する混練工程、
前記混練工程で得られた、成分(A)と成分(B)を含有する樹脂組成物を冷却してペレット化するペレット化工程、
前記ペレット化工程で得られた、樹脂組成物のペレットを溶融させて射出成形する成形工程、
を含む請求項1〜5のいずれか記載の医療用容器の製造方法。

【公開番号】特開2013−70947(P2013−70947A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214348(P2011−214348)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000199175)千寿製薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】