説明

医薬用カルボスチリル化合物の製法

【課題】 本発明は医薬として有用な式(1)のカルボスチリル化合物の1/2水和物の収率をより安全に格段に向上させた方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、式(1)の化合物またはその塩をメタノールと水の混合液中、塩基を添加して塩基性塩とした後、これを酸性処理して、カルボスチリル化合物(1)の1/2水和物を得るカルボスチリル化合物の改良製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、胃潰瘍等の治療剤の有効成分として有用な下記の医薬用カルボスチリル化合物をより高純度に製造する医薬用カルボスチリル化合物の改良製法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の製法で得られる医薬用カルボスチリル化合物は、下記式(1)で示されるカルボスチリル化合物(化学名:2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−[2(1H)−キノリノン−4−イル]プロピオン酸)であって、胃潰瘍、急性胃炎、または慢性胃炎の急性悪化期に現れる胃粘膜病変に対する優れた治療効果を示す薬剤である。
【化1】

【0003】
本発明の式(1)で示される医薬用カルボスチリル化合物を製造・単離する方法としては、例えば下記反応式1に示す方法が知られている(特許文献1)。すなわち、式(3)の化合物をナトリウムエトキシド等の塩基の存在下に式(4)の化合物と反応させて式(5)の化合物を得、この化合物を塩酸等の鉱酸で加水分解及び脱炭酸させて式(6)の化合物を製造した後、式(7)の4−クロロベンゾイルクロリドでアシル化させて目的とする式(1)の化合物を得た後、医薬として用いる純度の化合物を得るために再結晶化・洗浄等により式(1)の化合物またはその塩を精製する。
反応式1
【化2】

【0004】
上記で述べたとおり、式(1)の化合物の合成および精製は、式(6)のアミノ酸化合物と式(7)の4−クロロベンゾイルクロリドとの反応により合成する方法が知られている。より具体的には、例えばアセトンと水の混合液中で、例えば炭酸カリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基の存在下に行い、反応後に、例えば塩酸を加えて酸性処理することにより、析出する式(1)の化合物を濾取する方法が知られている(特許文献1および非特許文献1)。
【0005】
当該反応は、通常、式(6)のアミノ酸化合物に対して等モル以上、好ましくは等モル〜2倍モル程度の式(7)の化合物が用いられている(特許文献1)。具体的には、1.2倍モル程度が用いられている(特許文献2)。すなわち、前記反応は、実際には等モルの式(7)の化合物を用いて行うと当該反応が充分に完結しないために目的の式(1)の化合物の収率は低下することになる。このため、式(6)のアミノ酸化合物に対して過剰量の式(7)の化合物が用いられるのが一般的である。
【0006】
過剰分の式(7)の化合物は、下記に示す式(9)の4−クロロ安息香酸となって、式(1)の化合物中に不純物として混在することになる。また、その他に式(1)の化合物中に混在する不純物としては、式(5)の化合物中に混在する不純物に由来するもの(例えば、式(10)の化合物など)、式(7)中に混在する不純物に由来するもの(例えば式(11)の化合物など)が例示され、医療用医薬品としての純度を得るためには、これら不純物および先述の4−クロロ安息香酸を除去するための精製工程が必要であった。この精製方法としては、メタノールとクロロホルムの混合液からの再結晶(特許文献1)、N,N−ジメチルホルムアミドと水の混合液からの再結晶(非特許文献1)などが知られている。
更に式(1)の化合物を用いて製剤化するにあたっては、種々の製剤に加工できるよう、医薬品の有効成分として安定な結晶を得る工程も必要であった。
【0007】
すなわち、式(1)の化合物においては、乾燥後空気中に放置することで1/2水和物相当の水分を吸収することが経験的にわかっている。一方、更に水分が多い一水和物相当では、式(1)の医薬用カルボスチリル化合物の規格(日本薬局方外規格2002[平成14年9月20日 医薬発第0920001号])に適合しないため、例えば一水和物が得られた場合は、わざわざ得られた結晶を1/2水和物に変換する必要があった。
したがって、式(1)の化合物においては、その規格、安定性等の理由、および錠剤、散剤、顆粒剤などの医薬製剤の形態で用いられることを考慮し、公的機関の規格を充足し、製剤化に適した安定な結晶である1/2水和物が最適であった。
【化3】

【特許文献1】特開昭59−7169号公報
【特許文献2】特開2004−131506号公報
【特許文献3】国際公開特許WO2006−59781号公報
【非特許文献1】Uchida, M., et al., Chem. Pharm. Bull., 33 (9), 3775-3786 (1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかして、上記従来法における式(6)の化合物またはその塩を式(7)の化合物と反応させ、式(1)の化合物またはその塩の粗製体を得て、所望の純度の式(1)の化合物またはその塩に精製する方法としては、上記で説明したようにメタノールとクロロホルムの混合液、或いはN,N−ジメチルホルムアミドと水の混合液からの再結晶法等が知られているが、例えば該混合液からの再結晶収率は49%と極めて低いため、効率的に不純物を除去しながら高い収率が得られ、且つ製剤化が容易で、安定な結晶体を得る製法の開発が必要であった。更に、上記の公知の精製方法において使用されているクロロホルム、N,N−ジメチルホルムアミドなどの溶媒は、医薬品の有効成分としての物質での残留量の許容値が厳しいため、より許容値の高い溶媒を用いた、前記製法の開発も必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、上記課題を解消するため鋭意研究の結果、これら課題を解決する製法を見出した。
すなわち、本発明者らは、上記従来法における式(6)の化合物またはその塩を式(7)の化合物と反応させ、所望の式(1)の化合物またはその塩を工業的大量生産に適う高純度に得る方法を見出すべく種々検討した結果、式(6)の化合物またはその塩を式(7)の化合物と反応させ、所望の式(1)の化合物またはその塩をメタノールと水の混合液中に分散し、金属塩基性物質との反応により塩基性塩とした後、これを特定の温度で酸性処理することにより所望の式(1)の化合物の1/2水和物の高純度の結晶体を工業的大量生産においても得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明によれば、医薬として有用な式(1)の化合物1/2水和物を得るために、化学合成によって得られた式(1)の化合物を一旦式(8)で示される式(1)のアルカリ金属塩に変換する工程を行い、もって医薬品の活性成分として、高純度に精製し、公的機関から要求される基準を満足させ、ついで、医薬品の活性成分として、公的機関から要求される基準を満たし、且つ、製剤化に適した結晶体である式(1)の化合物1/2水和物として得る一連の合成・結晶化法を提供する。
【化4】

【0011】
本発明によれば、式(1)の化合物またはその塩を、メタノールと水の混合液中で金属塩化反応を行うことにより式(1)の化合物の塩基性塩を得、次いでこれを酸性処理して式(1)の化合物・1/2水和物を得る、式(1)の化合物・1/2水和物の製造方法が提供できる。
【0012】
本発明によれば、式(6)の化合物またはその塩を式(7)の化合物と反応させて得られる式(1)の化合物またはその塩を、メタノールと水の混合液中で金属塩化反応を行うことにより式(1)の化合物の塩基性塩を得、次いでこれを酸性処理して式(1)の化合物・1/2水和物を得る、式(1)の化合物・1/2水和物の製造方法が提供できる。
【0013】
本発明によれば、式(1)の化合物またはその塩を、メタノールと水の混合液中で金属塩化反応を行うことにより式(1)の化合物の塩基性塩を得、次いでこれを酸性処理して式(1)の化合物・1/2水和物を得る方法を含む式(1)の化合物の精製方法が提供できる。
【0014】
本発明によれば、式(6)の化合物またはその塩を式(7)の化合物と反応させて得られる式(1)の化合物またはその塩を、メタノールと水の混合液中で金属塩化反応を行うことにより式(1)の化合物の塩基性塩を得、次いでこれを酸性処理して式(1)の化合物・1/2水和物を得る方法を含む式(1)の化合物の精製方法が提供できる。
【0015】
本発明によれば、上記金属塩化反応に用いる塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、または炭酸水素リチウムから選択されることを特徴とする上記の製造方法または精製方法が提供される。さらに、該塩基が、水酸化ナトリウムであることを特徴とする上記に記載の製造方法または精製方法が提供できる。
【0016】
さらに、本発明によれば、メタノールと水の混合液が式(1)の化合物1重量部に対して3〜15容量部であること、及び/またはメタノールと水の混合液の混合割合が、メタノール1容量部に対して、水0.05〜0.4容量部であることを特徴とする上記の製造方法または精製方法が提供される。
【0017】
さらに、本発明によれば、酸性処理に用いる酸が塩酸であることを特徴とする上記に記載の製造方法または精製方法が提供できる。
【0018】
また、上記反応において酸性処理の反応温度が50℃から90℃であることを特徴とする上記の製造方法または精製方法を提供することができる。
【0019】
また、本発明は、さらに式(1)の化合物の塩基性塩を単離せずに水溶液のまま、酸性処理して式(1)の化合物・1/2水和物を得ることを特徴とする上記の製造方法または精製方法が提供できる。
【0020】
さらに本発明によれば、上記式(1)の化合物の塩基性塩の水溶液を得るために加える塩基の量が、式(1)の化合物の塩基性塩に対して、0.1〜5倍モルであることを特徴とする上記に記載の製造方法または精製方法が提供できる。
【0021】
すなわち、高純度の式(1)の化合物の1/2水和物を得る為に、塩基性条件下、式(6)の化合物を式(7)の化合物と反応させて、一旦、粗製の式(1)の化合物またはその塩を得た場合に、共に収得される式(9)の4−クロロ安息香酸を主とする、不純物を管理基準値以下に除去し、医薬品の有効成分としての純度を得、更にこれを、医薬品の有効成分として好適な、式(1)の化合物の1/2水和物に変換する工業的大量製造法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
式(3)の化合物の製造
本発明において、式(1)の化合物の1/2水和物を得る為に、式(3)の化合物をナトリウムエトキシド等の塩基の存在下に式(4)の化合物と反応させて式(5)の化合物を得、この化合物を塩酸等の鉱酸で加水分解及び脱炭酸させて式(6)の化合物を製造した後、式(7)の4−クロロベンゾイルクロリドでアシル化させて式(1)の化合物またはその塩を得る。まずこの反応で用いる式(3)の4−ブロモメチル−2(1H)キノリノンは、下記反応式2に示すように式(2)の化合物であるアセトアセトアニリドをクロロホルム中で等モル〜過剰量の臭素と反応させた後、減圧濃縮により4−ブロモアセトアセトアニリドを残渣として得た後、該化合物を濃硫酸中に添加して脱水縮合することにより閉環させて所望の式(3)の4−ブロモメチル−2(1H)キノリノンへと導き、製造する(特許文献1)。
【0023】
反応式2
【化5】

上記反応式2の式(3)の化合物は、反応式1に示されるように式(1)の化合物またはその塩を得るための中間原料として供されるため、相応の純度が要求されることとなる。しかしながら、この純度要求に対して、前記の方法による式(3)の化合物の製造方法(特許文献1)には、いくつかの問題が残されている。具体的には、式(2)の化合物に単体臭素を作用させて目的とする式(12)を得る際には、式(2)の構造上から目的とする式(12)の化合物とは、臭素化位置の異なる化合物の副生、あるいは過剰に臭素化された化合物の副生が起こる。前記の方法では、式(12)の化合物を減圧濃縮により得ていることから、これらの副生する化合物群は、次の式(3)の化合物を得るための反応の際に、そのまま持ち込まれる。しかして、このように得られた式(3)の化合物には、例えば下記の式(13)の化合物が混在することが知られているし(特許文献3)、その他にも例えば式(14)や式(15)に示される不純物が混在することとなる。さらに、式(3)の化合物を適当な溶媒による再結晶や分散洗浄などの手段で精製しても、十分な精製効果を得ることが困難であるか、あるいはある程度の精製効果が認められるN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1―メチル―2−ピロリドンなどの溶媒を使用しても濾液への損失が大きく工業的製造法としては実用的でないという問題が知られている(特許文献3)。
【化6】

【0024】
このような不純物の問題を解決する手段としては、式(12)の化合物を一旦単離して精製することなども考えられる。しかしながら、式(12)の化合物は極めて高い変異原性を示すことから、これを工業的に大量製造する場合においては、製造に携わる作業員の人体への安全性、保健衛生上の問題を考慮し、該作業員への曝露を防止しなければなないという課題が浮上する。このように式(1)の化合物またはその塩の中間原料である式(3)の化合物の製造方法においても、医薬用の純度を有する化合物を工業的規模で大量に製造するとなると様々な改良技術が要求されている。
【0025】
式(3)の化合物またはその塩を得るための上記問題点を解決する手段の開発が望まれているが、結局のところ、式(3)の化合物をより安全に効率よく且つ純度を低下させることなく得る製造方法として、例えば、式(2)の化合物を臭素と反応させた後、該反応溶液を水洗することによって、該反応溶液中に含まれる臭化水素を除去し、その溶液に濃硫酸を加えて閉環反応を行うことによって、式(3)の化合物またはその塩を得る製造方法(高橋幸一、加門聡:立山化成株式会社)が挙げられる。
【0026】
具体的には、例えば溶媒として1,2−ジクロロエタンを用い、式(2)で示される化合物またはその塩と臭素とを反応させ、式(12)の4−ブロモアセトアセトアニリドの1,2−ジクロロエタン溶液を得、この溶液を水洗した後に濃硫酸を加えて閉環反応を行い、分液することにより式(3)の4−ブロモメチル−2(1H)キノリノンの硫酸溶液を得る。
この硫酸溶液を水中に添加し、析出した式(3)の化合物またはその塩の結晶を分離した後、乾燥することにより、式(1)の化合物またはその塩を得る為に用いられる式(3)の化合物をより安全に効率よく且つ高純度に製造できる。
このようにして式(2)の化合物またはその塩から、式(12)の化合物を単離せずに式(3)の化合物またはその塩を製造することもでき、医薬品の活性成分を工業的に大量に製造するための中間原料として供するに十分な純度と量の式(3)の化合物またはその塩を取得することができる。
【0027】
式(3)の化合物から式(6)の化合物の製造
次いで、上記で得られた式(3)の化合物またはその塩を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムアミド、水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の塩基の存在下に式(4)の化合物と反応させて式(5)の化合物を得、この化合物を塩酸等の鉱酸で加水分解及び脱炭酸させて式(6)の化合物を製造することができる。
【0028】
式(6)の化合物から式(1)の化合物の製造
反応式3
【化7】

式(6)の化合物を式(7)の4−クロロベンゾイルクロリドと反応させて式(1)のカルボスチリル化合物、またはその塩を得る反応は、塩基性条件下に常法のアミド結合生成反応によって容易に行うことができる。また、用いる溶媒を適当に選択することによって、反応終了後、反応液を冷却し、また必要に応じて反応液を中和し、析出する結晶を濾取することにより、式(1)の化合物またはその塩を簡単に分離採取することができる。
【0029】
上記反応での塩基は通常、慣用の塩基を用いるができる。該塩基としては、様々な公知の無機塩基及び有機塩基を使用でき、無機塩基としては、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等)、炭酸水素アルカリ金属(例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等)、炭酸アルカリ金属(例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等)、アルカリ金属低級アルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ペントキシド等)、アルカリ金属水素化合物(例えば、水素化ナトリウム、水素化カリウム等)等が例示できる。有機塩基としては、トリアルキルアミン(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−エチルジイソプロピルアミン等)、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン−5−エン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)等が例示できる。また、これらの塩基が液状の場合、溶媒として兼用することもできるし、これらの塩基を上記したような適当な水性溶媒に溶解して用いることもできる。これらの塩基は、1種単独または2種以上混合して使用することもできる。
【0030】
上記反応において、式(6)の化合物と式(7)の4−クロロベンゾイルクロリドの使用割合は、前者に対して、後者を少なくとも等モル、好ましくは、等モル〜2倍モルとする。また、使用する塩基の量は、4−クロロベンゾイルクロリドに対して、少なくとも等モルを用いる。
【0031】
上記反応に用いられる溶媒としては、慣用の溶媒を用いることができ、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等が例示でき、1種単独または2種以上混合して使用することもできる。
【0032】
上記反応は、通常−10〜110℃程度、好ましくは0〜40℃程度で行い、通常5〜15時間程度で完了し、粗製の式(1)の化合物またはその塩(反応副産物としての不純物も含有する)を得ることができる。
【0033】
式(1)の化合物の精製
粗製の式(1)の化合物またはその塩においては、高収率で、且つ不純物が極めて少なくされた医薬の有効成分として相応しい純度に精製するための工程をさらに必要とする。
上記で得られた粗製の式(1)の化合物またはその塩を精製する方法は、上記で述べたようにメタノールとクロロホルムの混合溶媒あるいはN,N−ジメチルホルムアミドと水の混合溶媒からの再結晶法などの公知の方法がある。しかしながら、これら既知の操作方法では工業的レベルで要求される収率としては必ずしも満足し得る収率を得ているわけではなかった。
また、式(1)の化合物は、通常用いられる溶媒に溶け難くく、また上記の公知の式(1)の化合物の精製方法で使用される溶媒のうち、例えばクロロホルム、N,N−ジメチルホルムアミドなどの溶媒は、医薬の有効成分としての物質の残留量の許容値が厳しく、医薬品製造に使用する上で問題となる溶媒でもある。
【0034】
本発明の方法では、粗製の式(1)の化合物またはその塩をメタノールと水という特定の溶媒を特定の混合割合に混合した溶媒中に分散して、塩基を加えて、式(1)の化合物の塩基性塩とし、これを単離するのみという極めて簡便な操作のみで高純度に精製することができ、しかも高収率を得ることが可能となる。更に本発明の方法では、この精製された式(1)の塩基性塩を、水中で酸性処理することにより、医薬の有効成分として好適な所望の式(1)の化合物の1/2水和物の結晶を得ることが可能となる。
しかも一連の工程で使用される溶媒は、メタノールと水のみであって、最終工程で使用される溶媒は水のみであるため、溶媒残留量に係る問題点も考慮する必要がないという利点がある。
【0035】
上記において、メタノールと水の混合液の使用量は、粗製の式(1)の化合物またはその塩1重量部に対して、3〜15容量部、好ましくは、5〜10容量部を用いるとよい。また、メタノールと水の混合液の混合割合は、メタノール1容量部に対して、水0.05〜0.4容量部、好ましくは、0.05〜0.2容量部であるのがよい。ただし、本発明で用いる上記の比率はこれらに限らない。
【0036】
上記反応において、粗製の式(1)の化合物またはその塩を塩基性塩とするために用いる塩基としては、これらに限らないが、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウムのいずれか1種または2種以上から選ばれ、水酸化ナトリウムを好ましく例示できる。また、これらの塩基は例えば水溶液などの形態として用いることもできる。
【0037】
該塩基の使用量は、例えば水酸化ナトリウムが使用される場合は、粗製の式(1)の化合物またはその塩(式(1)の化合物およびこれに混在する式(7)の化合物のモル数の合計)に対して、等モル以上となるように用いるとよい。すなわち、系内のpHが8以上となるように塩基を加えるとよい。
【0038】
上記塩基性塩化反応温度は、特に限定されないが、通常50℃以下で行うのがよく、好ましくは30〜50℃程度で行うとよい。
【0039】
式(1)の化合物またはその塩の塩基性塩の単離は、慣用の手段、例えば10℃程度まで冷却することにより、式(1)の塩基性塩の結晶として単離することができる。なお、これらの塩基性塩は結晶として単離せずに、例えば水溶液などの形態として次反応に用いることもできる。
【0040】
上記操作により、高純度に精製された式(1)の化合物の塩基性塩を得ることができる、より具体的には後記実施例においては、高純度に精製された式(8)で示される式(1)の化合物のナトリウム塩を得ることができる。
【0041】
次いで、上記式(1)の化合物の塩基性塩を酸性処理し、医薬品の有効成分としての基準を満たす純度の式(1)の化合物の結晶を得る。
具体的には、まず上記の式(1)の化合物の塩基性塩を水に溶解させる。水の量は特に限定はされないが、通常、式(1)の化合物の塩基性塩1重量部に対して20容量部以上を用いるとよい。また、この式(1)の化合物の塩基性塩水溶液を得る際に、適量の塩基を加えると溶解しやすくなり好ましい。次いで、この式(1)の化合物の塩基性塩の水溶液を酸性処理、すなわち、酸を作用させて、式(1)の化合物の1/2水和物を結晶化させる。この酸を作用させる時、好ましくは式(1)の塩基性水溶液に酸を滴下する方法を選ぶが、酸に式(1)の塩基性水溶液を加える方法であってもよい。
【0042】
式(1)の化合物の塩基性塩の水溶液を得るために加える塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウムのいずれか1種または2種以上から選ばれる。前記塩基としては、水酸化ナトリウムを好ましく例示できる。また、式(1)の化合物の塩基性塩の塩基性水溶液を得るために加える塩基の量は、式(1)の化合物の塩基性塩に対して、0.1〜5倍モル程度であることがよい。
【0043】
上記式(1)の化合物の塩基性塩の水溶液を酸性処理する際に作用させる酸としては、これらに限らないが、例えば塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、及び硫酸等を挙げることができる。前記酸としては、塩酸を好ましく例示できる。また、式(1)の化合物の塩基性塩の塩基性水溶液に酸を作用させる好適な温度は、50℃から90℃、更に好ましくは65℃から70℃である。当該温度で酸を作用させることにより、製剤化に適した結晶を工業的大スケールにおいて、容易に効率よく取得できる。
上記反応溶液を10℃から35℃、好ましくは30℃から35℃に冷却して結晶を分離し、水等で洗浄後、得られる湿体を80℃〜110℃にて乾燥して所望の式(1)の化合物の1/2水和物を得ることができる。
【0044】
本発明において反応式1における原料化合物(3)〜(6)は適当な塩であってもよく、また適当な反応性誘導体であってもよい。
本発明の製法で得られる式(1)で示される化合物の1/2水和物は、必ずしも結晶水が式(1)で示される化合物に付加しているのではなく、付着水を含む広い概念としての1/2水和物を意味し、また立体異性体、光学異性体を包含する。
【0045】
また本発明の製法で得られる式(1)で示される化合物の1/2水和物は、通常の粉砕機(例えばアトマイザー)によって微細化することにより、生体内への吸収をより効率よく行うことができる。当該化合物の微細化した粉末を製造する方法は、当業者が良く知っている公知の方法により容易にできる。該方法は例えばミルの回転比、或いは化合物(1)の1/2水和物の供給比などの適当な条件下にセラミックミルによって微細化することができる。また本発明の製法で得られる式(1)で示される化合物の1/2水和物の適当な供給比や回転比で回転させながら、適当な供給空気圧でエア−ジェットミルを通過させることによっても微細化することができる。当該方法により製剤化に適した平均粒子径0.5〜5μm、90%積算粒子径10μm以下の本発明の製法で得られる式(1)で示される化合物の1/2水和物粉砕品を得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下に参考例、実施例、比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
(参考例1:高橋および加門の製法)
アセトアセトアニリド(式(2)の化合物)(12kg)を1,2−ジクロロエタン(141L)に溶解させ、室温で臭素(10.9kg)の1,2−ジクロロエタン(17L)溶液を滴下した。40℃〜50℃で3時間反応させた。水(60L)を加えて、60℃〜70℃程度で暫く攪拌した後、分液し、1,2−ジクロロエタン層に濃硫酸(24L)を加え、60℃〜70℃で2時間反応させた。
分液し、硫酸層を水(314L)に注ぎ、析出した結晶を分離し、水(500L)で洗浄した。得られた湿体を乾燥し、4−ブロモメチル−2(1H)キノリノン(式(3)の化合物)12kg(収率75%)を得た。
【0047】
(参考例2)
エタノール(40L)にナトリウムエトキシド(3.72kg)、アセチルアミノマロン酸ジエチル(式(4)の化合物)(10.0kg)及び4−ブロモメチル−2(1H)キノリノン(式(3)の化合物)(10.0kg)を加え、55℃〜65℃で1.5時間反応させた。酢酸(0.5kg)を加えた後、減圧濃縮後に水を加え、10℃以下に冷却し、析出した結晶を分離し、水及びエタノールで洗浄した。得られた湿体を乾燥し、2−アセトアミド−2−エトキシカルボニル−3−[2(1H)−キノリノン−4−イル]プロピオン酸エチル(式(5)の化合物)14.0kg(収率89%)を得た。
【0048】
(参考例3)
2−アセトアミド−2−エトキシカルボニル−3−[2(1H)−キノリノン−4−イル]プロピオン酸エチル(式(5)の化合物)40kgに、20%塩酸400mlを加え、8時間還流した。20℃以下に冷却後、析出した結晶を濾取した。得られた結晶をアセトンで洗浄し、約60℃で温風乾燥して、35.4kg(収率97.1%)の2−アミノ−3−[2(1H)−キノリノン−4−イル]プロピオン酸二塩酸塩二水和物(式(6)の化合物)を得た。
【0049】
(実施例1)
2−アミノ−3−[2(1H)−キノリノン−4−イル]プロピオン酸二塩酸塩二水和物(式(6)の化合物)(608kg)に、水(10336L)及び25%の水酸化ナトリウム水溶液(1662L)を加えて溶解した。次に、4−クロロベンゾイルクロリド(式(7)の化合物)(437kg)のアセトン(1216L)溶液を15℃以下で滴下した。滴下終了後、塩酸酸性とし、析出した結晶を濾取し、水およびアセトンで洗浄して粗製の式(1)の化合物の結晶を得た(661.6kg)。
粗製の式(1)の化合物の結晶をメタノール(6000L)と水(400L)の混合液に加え、40〜50℃に加熱して分散させた。25%の水酸化ナトリウム水溶液(200L)を加えた後、10℃以下に冷却して、析出した結晶を濾取し、メタノールで洗浄した。50℃で乾燥して、式(1)のナトリウム塩を得た(643.1kg、式(6)の化合物からの収率91.9%)。
【0050】
(実施例2)
実施例1で得られた式(1)のナトリウム塩(325.0kg)を水(16253L)に加え、さらに25%の水酸化ナトリウム水溶液(106L)を加えて、65℃に加温して溶解させた。希塩酸(1972L)を滴下したのち、30℃以下に冷却して、析出した結晶を濾取し、水で洗浄した。85℃で乾燥して、精製された式(1)の化合物の1/2水和物を得た(276kg、収率90.0%)。
【0051】
このように本発明の製造方法を用いることにより、医療用医薬品として十分な純度を得、更に式(1)の化合物を医薬品の有効成分として安定な式(1)の化合物の1/2水和物として工業的に大量製造することが可能となる。更には、本発明の製造法において使用される有機溶媒は、安価で安全性の高い溶媒のみである。
【0052】
実施例1及び実施例2に示した、式(1)の化合物の粗製体から式(1)のナトリウム塩を経て、式(1)の化合物の1/2水和物を得るまでの、本発明の方法による工業的大量製造における精製効果を明らかにするため、その程度を製造試験例として表1にHPLC分析結果を示す。
【表1】

表1から明らかなように、粗製体と共に収得される式(9)の4−クロロ安息香酸は、本発明の方法によりナトリウム塩として単離することによって顕著に除去されることが明らかである。更には、その他の微量の不純物、例えば式(10)の化合物についても明らかな精製効果が認められる。このように医薬として要求される高純度な式(1)の化合物の1/2水和物が得られることが分かる。
【0053】
(実施例3)
実施例1と同様にして得られたHPLC分析で3.54%の4−クロロ安息香酸を不純物として含む、HPLC分析で純度96.24%の粗製の式(1)の化合物(1010.5kg)をメタノール(4500L)と水(300L)の混合液に加え、分散させた。次いで25%の水酸化ナトリウム水溶液(345L)を加えた。
10℃以下に冷却して、析出した結晶を濾取し、メタノールで洗浄し、式(1)のナトリウム塩の湿体を得た(1129.2kg、HPLC分析の結果、式(1)の化合物の純度は、99.92%、4−クロロ安息香酸の混在量は、0.01%であった。)。
【0054】
(実施例4)
実施例3で得られた式(1)のナトリウム塩の湿体(576.6kg)を水(25544L)に加え、25%の水酸化ナトリウム水溶液(174L)を加えて、67℃に加温して溶解させた。希塩酸(3288L)を滴下した。35℃以下に冷却して、析出した結晶を濾取し、水で洗浄した。110℃で乾燥して、精製された式(1)の化合物の1/2水和物を得た(449.8kg、HPLC分析の結果、式(1)の化合物の1/2水和物の純度は、99.93%、4−クロロ安息香酸の混在量は、0.005%であった)。
【0055】
実施例3及び4に示したように、本発明の製造法を用いる場合、精製された式(1)のナトリウム塩の乾燥を行わずに、これを湿体のまま、塩酸を作用させて式(1)の化合物の1/2水和物を得る工程に進めることもでき、本発明の製造法は、式(1)の化合物の1/2水和物の工業的大量製造を行う場合において、極めて有効な製造方法である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の製造法によれば、医薬として有用な式(1)の化合物を得るために、式(1)の化合物またはその塩を式(1)の化合物の塩基性塩に変換して、不純物を除去した後、医薬品の活性成分として、必要な基準を満たし、高純度に精製され、且つ製剤化に適した結晶体である式(1)の化合物の1/2水和物として、効率よく取得できる改善された製造方法を提供できる。またこの方法を用いて、式(1)の化合物の精製方法を提供できる。
また本発明の製法において得られる式(1)の化合物の1/2水和物は、医薬品の活性成分として、結晶の取り出しが容易であるため、錠剤、散剤、顆粒剤などの医薬製剤の製剤化に適した安定な結晶体である式(1)の化合物の1/2水和物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)の化合物またはその塩を、メタノールと水の混合液中で金属塩化反応を行うことにより式(1)の化合物の塩基性塩を得、次いでこれを酸性処理して式(1)の化合物・1/2水和物を得る、式(1)の化合物・1/2水和物の製造方法。
【化1】

【請求項2】
式(6)の化合物またはその塩を式(7)の化合物と反応させて得られる式(1)の化合物またはその塩を、メタノールと水の混合液中で金属塩化反応を行うことにより式(1)の化合物の塩基性塩を得、次いでこれを酸性処理して式(1)の化合物・1/2水和物を得る、式(1)の化合物・1/2水和物の製造方法。
【化2】

【請求項3】
請求項1または2の方法を含むことを特徴とする、式(1)の化合物の精製方法。
【化3】

【請求項4】
金属塩化反応に用いる塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、または炭酸水素リチウムから選択される請求項1〜3のいずれかの方法。
【請求項5】
金属塩化反応に用いる塩基が、水酸化ナトリウムである請求項1〜3のいずれかの方法。
【請求項6】
メタノールと水の混合液が式(1)の化合物1重量部に対して3〜15容量部である請求項1〜5のいずれかの方法。
【請求項7】
メタノールと水の混合液の混合割合が、メタノール1容量部に対して、水0.05〜0.4容量部である請求項1〜6のいずれかの方法。
【請求項8】
酸性処理に用いる酸が塩酸である請求項1〜7のいずれかの方法。
【請求項9】
酸性処理の反応温度が50℃から90℃である請求項1〜8のいずれかの方法。
【請求項10】
式(1)の化合物の塩基性塩を単離せずに水溶液のまま、酸性処理して式(1)の化合物・1/2水和物を得る請求項1〜9のいずれかの方法。
【請求項11】
式(1)の化合物の塩基性塩の水溶液を得るために加える塩基の量が、式(1)の化合物の塩基性塩に対して、0.1〜5倍モルであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかの方法。

【公開番号】特開2008−143794(P2008−143794A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329671(P2006−329671)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】