説明

半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度測定方法

【課題】本発明は、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度の測定において、ハメット指示薬を用いて着色させ、その着色度合いを数値化判定することで、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度の程度を簡便かつ精度よく測定できる方法を提供する。
【解決手段】 シリカ質粉末にハメット指示薬と無極性溶媒の混合溶液を加え、シリカ質粉末に吸着したハメット指示薬の着色度合いをCIE1976L*a*b*表色系で数値化判定する、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度分析方法。シリカ質粉末の水分を加熱除去したのちに、シリカ質粉末にハメット指示薬と無極性溶媒の混合溶液を加え、シリカ質粉末に吸着したハメット指示薬の着色度合いをCIE1976L*a*b*表色系で数値化判定する、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止材用シリカ質粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型軽量化、高性能化の要求に対応して半導体パッケージの小型化、薄型化、狭ピッチ化が急速に進展している。また、その実装方法も配線基板などへの高密度実装に好適な表面実装が主流になっている。このように、半導体パッケージ及びその実装方法が進展する中、半導体封止材にも高温環境下における信頼性向上の要求が一段となされている。
特に、自動車用途においては半導体を多用した制御部品、電子機器の搭載が進んでおり、半導体封止材には、環境負荷の大きい難燃剤を用いないで難燃性を付与することや、振動、加速などの機械的外圧に強いこと、過酷な車体内高温環境下での動作保証が要求され、一般の民生機器以上の高温保管信頼性(High Temperature Storage Life、以下、HTSL特性ともいう。)や、高温動作信頼性(High Temperature Operating Life、以下、HTOL特性ともいう。)の付与が求められている。
【0003】
このような問題を解決するため、半導体封止材用セラミックス粉末を改質する手法として、セラミックス粉末の表面酸性度を制御することによって、組成物の安定した硬化特性と高温放置特性の両立を可能にする方法がある(特許文献1参照)。この場合、表面酸性度が低過ぎると、硬化促進剤がセラミックス粉末の表面酸点に捕捉され難く、組成物の高温放置特性(耐熱性)が悪化する恐れがあり、逆に表面酸性度が高すぎると、硬化促進剤がセラミックス粉末の表面酸点に捕捉され過ぎる結果、組成物の硬化速度が遅くなり、成形後にも所望の組成物硬度が得られなくなる恐れがある。このため、セラミックス粉末の表面酸性度を最適に制御すること、及びその表面酸性度の程度を判断する評価法が重要である。
【0004】
セラミックス粉末の表面酸性度の測定方法としては、特許文献1にあるように、セラミックス粉末にアンモニアなどの塩基性物質を吸着させ、温度を連続的に上昇させることによって脱離する塩基性物質の量を測定する方法が公知である。この手法は精度のよい測定が可能ではあるが、吸着していない気相アンモニアや物理吸着したアンモニアの除去操作が必要であり、測定時間も要していた。また、特許文献2には、固体酸の表面酸性度をハメット指示薬の変色有無で測定する手法が記載されているが、石油化学分野に適用される触媒の測定であり、高精度での判別が必要とされる半導体封止材用セラミックス粉末に応用された例はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO/2007/132771号公報
【特許文献2】特開平2−282337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度の測定において、ハメット指示薬を用いて着色させ、その着色度合いを数値化判定することで、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度の程度を簡便かつ精度よく測定できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)シリカ質粉末にハメット指示薬と無極性溶媒の混合溶液を加え、シリカ質粉末に吸着したハメット指示薬の着色度合いをCIE1976L*a*b*表色系で数値化判定する、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度分析方法。
(2)シリカ質粉末の水分を加熱除去したのちに、シリカ質粉末にハメット指示薬と無極性溶媒の混合溶液を加え、シリカ質粉末に吸着したハメット指示薬の着色度合いをCIE1976L*a*b*表色系で数値化判定する、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度分析方法。
(3)ハメット指示薬にジシンナマルアセトン、無極性溶媒にトルエンを用いる前記(1)又は(2)に記載の半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度分析方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度の測定において、ハメット指示薬を用いて着色させ、その着色度合いを数値化判定することで、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度の程度を簡便かつ精度よく測定できる方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、シリカ質粉末にハメット指示薬と無極性溶媒の混合溶液を加え、シリカ質粉末に吸着したハメット指示薬の着色度合いをCIE1976L*a*b*表色系で数値化判定する、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度分析方法である。本発明で使用するハメット指示薬は、シリカ質粉末の表面酸性度の強さに応じて選択することができる。すなわち、表面酸性度が低いシリカ質粉末に対しては酸解離定数(pKa)が高いハメット指示薬を使用し、逆に表面酸性度が高いシリカ質粉末に対してはpKaが低いハメット指示薬を使用すればよい。半導体封止材用として好適に使用できるシリカ質粉末の表面酸性度の強さの場合、pKaが−8〜3のハメット指示薬が好ましい。例としてはベンザルアセトフェノン、ジシンナマルアセトン、p−ニトロ-ジフェニルアミン、2−アミノ−5−アゾトルエンなどが挙げられ、pKaが−3.0のジシンナマルアセトンが特に好ましい。
【0010】
本発明で使用する溶媒は、無極性溶媒であることが好ましい。極性溶媒を使用すると、極性溶媒とハメット指示薬との相互作用、或いは極性溶媒とシリカ質粉末との相互作用により、測定精度を悪化させる恐れがある。無極性溶媒は、使用するハメット指示薬が溶解するものであれば良い。例えばハメット指示薬としてジシンナマルアセトンを用いる際は、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなどを使用すれば良い。この場合、安全性の観点から、トルエンを使用することが好ましい。
【0011】
CIE1976L*a*b*表色系での数値化判定に用いる座標軸は、ハメット指示薬が何色に変色するかで選択すれば良い。a*軸のプラス側は赤領域、マイナス側は緑領域に対応し、b*軸のプラス側は黄領域、マイナス側は青領域に対応している。すなわち、酸性質により赤領域や緑領域に変色する場合はa*値、黄領域や青領域に変色する場合はb*値で判定することが好ましい。例えば、ハメット指示薬としてジシンナマルアセトンを使用する際は、酸性質により黄色から赤色に変色するため、a*値で判定することが好ましい。このCIE1976L*a*b*表色系の測定には、例えば、SE−2000(日本電色工業)などの市販の色彩色差計装置を用いれば容易に測定することが可能である。
【0012】
本発明で測定するシリカ質粉末は、予め加熱処理し、水分を除去したシリカ質粉末を用いることが好ましい。通常、シリカ質粉末の表面には水分が付着しているため、この水分を可能な限り除去してから着色させることで、さらに精度良く測定を行うことができる。加熱温度としては物理的吸着水と水素結合OH基由来の水分が除去される550℃が好ましく、物理的吸着水と水素結合OH基由来の水分に加え、孤立OH基由来の水分が除去される900℃が更に好ましい。
【実施例】
【0013】
以下、本発明について、実施例及び比較例により、更に、詳細に説明する。
まず、種々の表面酸性度を有するシリカ質粉末A〜Gを準備した。これらのシリカ質粉末の表面酸性度を確認するため、特許文献1に記載された測定方法でアンモニア吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0014】
それぞれのシリカ質粉末5gを石英ガラス容器に精秤し、それを加熱無し、電気炉にて500℃、又は900℃で加熱し、シリカ質粉末の水分を除去したものを準備した。加熱無しのシリカ質粉末はそのまま密閉した。また、電気炉にて加熱したシリカ質粉末は、加熱後200℃まで放冷させた後に直ぐに容器を密閉し、更に室温まで冷却させた。次に、これらのシリカ質粉末にハメット指示薬と溶媒の混合溶液5mlを加えたのちに、1分間振とうさせ、ハメット指示薬をシリカ質粉末に吸着させた。ハメット指示薬としてはジシンナマルアセトン、ベンザルアセトフェノンを用いた。溶媒としてはトルエン、シクロヘキサン、エタノール、アセトンを用いた。なお、いずれの混合溶液もハメット指示薬の濃度は0.06wt%に調製した。それぞれの測定条件を表2に示す。
【0015】
ハメット指示薬を吸着させたシリカ質粉末の着色度合いは日本電色工業社製分光式色差計SE−2000を用いて測定した。数値化判定にはa*値を用い、石英ガラス容器を空の状態で測定した時のa*値を差し引いた色差(△a*値)で数値化判定を行った。この操作を各シリカ質粉末につき5回行い、平均値と標準偏差を求めた。また、色差(△a*値)の平均値と、前述したアンモニア吸着量の測定方法と比較し、相関関係Rを求めた。各シリカ質粉末の数値化判定結果を表2に示す。
【0016】
次に、シリカ質粉末A〜Gの半導体封止材の充填材としての特性を評価した(シリカ質粉末の平均粒径はいずれも20μm、比表面積は2.0m/g)。すなわち、各粉末87.2部(質量部、以下同じ)に対し、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製NC−3000P)6.7部、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂(日本化薬社製MEH−7851SS)5.1部、トリフェニルホスフィン0.2部、エポキシシランカップリング剤0.4部、カーボンブラック0.1部、及びカルナバワックス0.3部を加え、ヘンシェルミキサーにてドライブレンドした。その後、同方向噛み合い二軸押出混練機(スクリュー径D=25mm、ニーディングディスク長10Dmm、パドル回転数50〜150rpm、吐出量3.0g/Hr、混練物温度100〜102℃)で加熱混練した。混練物(吐出物)をプレス機にてプレスして冷却した後、粉砕して半導体封止材を製造した。得られた半導体封止材の高温放置特性、成形性(スパイラルフロー)を以下に従って評価した。それらの結果を表3に示す。
【0017】
(1)高温放置特性
トランスファー成型機を用い、SOP-28p(リードフレーム42アロイ製)にTEG-ML1020チップを載せ、リードフレームとチップとを40μmφの金線により8ヶ所接続した後、各種半導体封止材でパッケージングして、175℃で8時間アフターキュアし、模擬半導体を20個作製した。これらの模擬半導体を195℃中に1500時間保管し、室温まで冷却後、通電の有無を測定した。8ヶ所の配線のうち1配線でも導通不良のある模擬半導体の個数を計測した。この値が小さいほど、高温放置特性が良好であることを示す。
【0018】
(2)スパイラルフロー
EMMI−I−66(Epoxy Molding Material Institute;Society of Plastic Industry)に準拠したスパイラルフロー測定用金型を取り付けたトランスファー成形機を用い、半導体封止材のスパイラルフロー値を測定した。トランスファー成形条件は、金型温度175℃、成形圧力7.4MPa、保圧時間90秒とした。この値が大きいほど、流動性が良好であることを示す。
【0019】
(3)バーコル硬度
トランスファー成形機により、金型温度175℃、90秒間成形し、金型の型開き10秒後の硬度をバーコル硬度計935型で測定した。この値が大きいほど、硬化性が良いことを示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
表2から明らかなように、本発明の分析方法は、アンモニア吸着量の測定方法と相関性が高いので、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度の程度を簡便かつ精度よく測定することができる。さらに、表3から本発明の分析方法を用いて測定した半導体封止材用シリカ質粉末を半導体封止材に適用した場合、色差(△a*値)の平均値と半導体封止材の高温放置特性、流動性には明らかに傾向が認められ、硬化性(バーコル硬度)にも閾値が認められるので、半導体封止材用シリカ質粉末を半導体封止材の充填材に用いた場合の高温放置特性、流動性、硬化特性などの良否を容易に推察することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の測定方法は、自動車、携帯電子機器、パソコン、家庭電化製品等に使用される半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度の測定方法として利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ質粉末にハメット指示薬と無極性溶媒の混合溶液を加え、シリカ質粉末に吸着したハメット指示薬の着色度合いをCIE1976L*a*b*表色系で数値化判定する、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度分析方法。
【請求項2】
シリカ質粉末の水分を加熱除去したのちに、シリカ質粉末にハメット指示薬と無極性溶媒の混合溶液を加え、シリカ質粉末に吸着したハメット指示薬の着色度合いをCIE1976L*a*b*表色系で数値化判定する、半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度分析方法。
【請求項3】
ハメット指示薬にジシンナマルアセトン、無極性溶媒にトルエンを用いる請求項1又は2に記載の半導体封止材用シリカ質粉末の表面酸性度分析方法。


【公開番号】特開2012−220266(P2012−220266A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84200(P2011−84200)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】