説明

半導体発光装置、半導体発光システムおよび照明器具

【課題】相関色温度が1600K以上であって2400K未満であり、Raが高い光を発する半導体発光装置および当該半導体発光装置を備えた半導体発光システムを提供する。
【解決手段】半導体発光装置1は、半導体発光素子としてのLEDチップ10と、LEDチップ10を励起源として発光する蛍光体20とを備え、相関色温度が1600K以上であって2400K未満である光を発する。蛍光体20は、少なくとも緑色蛍光体および赤色蛍光体を含む。当該半導体発光装置1から発せられた光のスペクトルにおいて、LEDチップ10によって発せられた光のピーク強度の値が、蛍光体20が発した光の最大ピーク強度の60%未満の値になるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光装置、当該半導体発光装置を備えた半導体発光システムおよび当該半導体発光装置を備えた照明器具に関し、特に、相関色温度が1600K以上であって2400K未満である光を発する半導体発光装置、当該半導体発光装置を備えた半導体発光システムおよび当該半導体発光装置を備えた照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
照明装置の光源として白熱電球や蛍光灯が従来から広く用いられている。近年では、これらに加え、LEDや有機EL(OLED)等の半導体発光素子を光源とした照明装置が開発され使用されつつある。これらの半導体発光素子では、様々な発光色を得ることが可能であるため、発光色の異なる複数の半導体発光素子を組み合わせ、それぞれの発光色を合成して所望の色の放射光を得るようにした照明装置も開発され使用され始めている。
【0003】
特許文献1には、紫色発光ダイオード素子が用いられ、相関色温度が2700K程度以上であって4000K以下であり、平均演色評価数Ra(以下、単にRaという)が80以上である光を発する半導体発光装置の例が記載されている。
【0004】
特許文献2には、ろうそくの炎の形状に似せた外形の芯部、内炎部、および外炎部を有する疑似炎型発光装置が記載されている。特許文献2に記載されている装置の外炎部の色温度は、1000〜2200Kである。そして、特許文献2に記載されている装置は、外炎部の色温度を1000〜2200Kの範囲にするために、芯部に青色に発光する発光素子を備え、外炎部に黄色乃至黄赤色に発光する蛍光体(具体的には、YAG(Yttrium Alminum Garnet)系蛍光体)を備えることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、相関色温度が1500K程度の光を発し、ろうそくおよび当該ろうそくの炎に似せた外形の照明装置が記載されている。特許文献3に記載されている照明装置は、2つの発光素子からなる光源モジュールを含む。当該2つの発光素子は、それぞれ種々の波長の単色光を発する複数の発光単位層を有しており、発光単位層の層数や層厚に応じた各波長における発光強度を調整することで、発光スペクトルの分布を太陽光スペクトルにおける分布に近づけて、Raを高めている。
【0006】
特許文献4には、ピーク波長が470〜480nmの青色LEDとピーク波長が600±3nmの蛍光物質とを備え、1900〜2100Kの色温度の光を発する発光装置が記載されている。
【0007】
特許文献5には、青色GaN(Gallium Nitride)LED、赤色量子ドット物質、およびイエローグリーン蛍光体物質を備えた光源であって、1000〜16000Kの色温度の光を発する光源が記載されている。また、特許文献5には、LED、量子ドット物質、および蛍光体物質の選択と構成とによって、演色評価数(CRI(Color Rendering Index))を望ましい値に設定することができることが記載されている。
【0008】
特許文献6には、ピーク波長が480nm程度の3つ青色LEDを発光源とし、各青色LEDに塗布された蛍光体がそれぞれ蛍光を発するLED照明灯具について記載されている。特許文献6に記載されているLED照明灯具において、3つの青色LEDのうち2つの青色LEDに緑色蛍光体と赤色蛍光体とが混合されて塗布され、残り1つの青色LEDに黄色蛍光体が塗布されている。そして、特許文献6に記載されているLED照明灯具は、各青色LEDが発する青色光と各蛍光体が発する蛍光との合成光を外部に放射する。
【0009】
特許文献7には、紫色LEDと、当該紫色LEDが発した光の一部を波長変換した蛍光をそれぞれ発する青色蛍光体と緑色蛍光体と赤色蛍光体とが混合された発光体とを備えた照明装置について記載されている。特許文献7に記載されている照明装置は、紫色LEDが発した光と発光体が発した蛍光との合成光を外部に放射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2011/024818号
【特許文献2】特開2005−78905号公報
【特許文献3】特開2004−128443号公報
【特許文献4】特開2009−64999号公報
【特許文献5】特表2008−544553号公報
【特許文献6】特開2009−123429号公報
【特許文献7】国際公開第2008/001799号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
LED等の半導体発光素子を光源とする半導体発光装置を間接照明等の屋内照明用の照明装置として用いる場合に、高い値のRaでろうそく色の光(具体的には、相関色温度が1600K以上であって2400K未満、好ましくは2000K未満である光)を発することが求められる。
【0012】
しかし、特許文献1には、相関色温度が1600K以上であって2400K未満である光を発する装置については記載されていない。
【0013】
また、特許文献2および特許文献4には、Raを高めるための構成や、そのような構成のための検討について記載されていない。
【0014】
特許文献3に記載されている照明装置は、特殊な発光素子のみによって発せられた光を放出するので、当該発光素子の出力を制御するための回路が必要になり、製造等の費用がかかるという問題がある。また、当該発光素子によって発せられる光は指向性が強いので、色分離しやすいという問題がある。
【0015】
特許文献5には、相関色温度が1600K以上であって2400K未満である光を発する装置におけるRaを高めるための構成や、そのような構成のための検討について記載されていない。
【0016】
特許文献6に記載されているLED照明灯具は、発光源に紫色LEDに比べて長波長の光を発する青色LEDが用いられているので、発光効率が低いという問題がある。また、一の青色LEDに赤色成分を多く含む光が発せられるように混合された蛍光体が塗布されているので、Raが十分に高いろうそく色の光を発することができない。
【0017】
特許文献7に記載されている照明装置は、赤色領域の演色性は向上されているが、より低い相関色温度の光であるろうそく色の光の演色性をより向上させるための方法については記載されていない。
【0018】
特許文献1〜7に記載されている技術は、光源の見えとしての感覚が本物のろうそくに比して不十分であり、青色を帯びたりする等して、ろうそく色としては不自然に感じられる光を発する。
【0019】
本発明はこれらのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、相関色温度が1600K以上であって2400K未満、好ましくは2000K未満であり、Raが高い光、すなわち演色性に優れた光を発する半導体発光装置、当該半導体発光装置を備えた半導体発光システムおよび当該半導体発光装置を備えた照明器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するため、本発明の半導体発光装置は、半導体発光素子と、半導体発光素子を励起源として発光する蛍光体とを備え、相関色温度が1600K以上であって2400K未満、好ましくは2000K未満である光を発する半導体発光装置において、蛍光体は、少なくとも緑色蛍光体および赤色蛍光体を含み、当該半導体発光装置から発せられた光のスペクトルにおいて、半導体発光素子によって発せられた光のピーク強度の値が、蛍光体が発した光の最大ピーク強度の60%未満の値であることを特徴とする。
【0021】
半導体発光素子としては、紫色発光ダイオード素子が好ましく用いられ、また、380nm以上であって、430nm以下に発光ピークを有する光を放出する半導体発光素子が好ましく用いられる。紫色発光ダイオード素子、又は、380nm以上であって、430nm以下に発光ピークを有する光を放出する半導体発光素子が用いられる場合、半導体発光装置は、青色蛍光体、緑色蛍光体および赤色蛍光体を含むことが好ましい。
【0022】
また、当該半導体発光装置の半導体発光素子によって発せられた光のピーク強度の値が、蛍光体が発した光の最大ピーク強度の60%未満の値であり、かつ最大ピークが600nm以上660nm以下に位置することが好ましい。
【0023】
このように構成された半導体発光装置によれば、相関色温度が1600K以上、好ましくは1700K以上であって2400K未満、好ましくは2000K未満であり、Raが高い光を発することができる。
【0024】
半導体発光素子によって発せられた光のピーク強度の値が、蛍光体が発した光の最大ピーク強度の5%以上の値となるようなスペクトルの光を発するように構成されていることが好ましい。そのような構成によれば、Raの値と発光効率の値とを高いレベルで両立させることができる。
【0025】
青色蛍光体が、発光ピーク波長の半値幅が30nm以上であるように構成されていてもよく、青色蛍光体が、(Sr,Ba,Ca)5(PO43Cl:Eu、またはBaMgAl1017:Euであってもよい。
【0026】
CIE(1931)XYZ表色系のXY色度図において、当該半導体発光装置が発する光の色度座標が、黒体輻射軌跡曲線からの偏差duvの値が−0.02以上であって0.02以下であるように構成されていてもよい。
【0027】
緑色蛍光体が、βサイアロン、(Ba,Sr)3Si6122:Eu、または(Sr,Ba)2SiO4:Euであってもよいし、赤色蛍光体が、(CaAlSiN31-x(Si22O)x:Eu(xは0<x<0.5)を含んでいてもよい。
【0028】
赤色蛍光体は、K2SiF6:Mnを含んでいてもよいし、A2+xyMnZn(AはNaとKとのうち一方または両方である。MはSiおよびAlである。そして、−1≦x≦1、かつ0.9≦y+z≦1.1、かつ0.001≦z≦0.4、かつ5≦n≦7が成立する)を含んでいてもよい。
【0029】
蛍光体が、半導体発光素子によって発せられた光を所定の透過率で透過させて、当該半導体発光装置の外部に放出するように構成されていてもよい。
【0030】
蛍光体を保持する保持部材を備え、保持部材が、色毎に設定された所定の領域に各色の蛍光体をそれぞれ保持して、色毎に蛍光体を保持する領域が併設された蛍光体層を形成し、蛍光体層が、半導体発光素子との間の距離が0.1mm以上であって500mm以下であるように支持されていてもよい。そのような構成によれば、各色の蛍光体が混合された場合に生じるカスケード励起を防ぐことができる。
【0031】
本発明による半導体発光システムは、第1の半導体発光装置として、上述した特徴のいずれかを有する半導体発光装置を備え、第2の半導体発光装置として、第1の半導体発光装置が発する光とは相関色温度が異なる光を発する半導体発光装置を備えていることを特徴とする。
【0032】
そのような構成によれば、第1の半導体発光装置が発する光の相関色温度と第2の半導体発光装置が発する光の相関色温度との間で、半導体発光システムが発する光の相関色温度を調整することが可能になる。
【0033】
第1の半導体発光装置の平均演色評価数Raの値が86以上であり、かつ、第2の半導体発光装置の平均演色評価数Raの値が86以上であってもよい。そのような構成によれば、半導体発光システムにおいて色温度が調整された際の平均演色評価数Raの変動を小さくすることができる。
【0034】
本発明による照明器具は、上述した特徴のいずれかを有する半導体発光装置を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明による半導体発光装置によれば、相関色温度が1600K以上であって2400K未満、好ましくは2000K未満であり、Raの値が大きい光、すなわち演色性に優れた光を発し、青色を帯びたりせず、ろうそく色として不自然に感じさせない光を発することができる。また、緑色蛍光体や赤色蛍光体等の各蛍光体の混合比の複雑な調整やRaを高めることのみを目的とする各蛍光体の選択を行うことなく、半導体発光素子によって発せられた光のピーク強度の値と蛍光体が発した光の最大ピーク強度との比率を調整して、Raの値を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による半導体発光装置の構成例を示す概略説明図である。
【図2】LEDチップ、緑色蛍光体、赤色蛍光体および青色蛍光体の発光スペクトルを示すグラフである。
【図3】励起光比率がそれぞれ異なる試料が用いられた半導体発光装置の発光スペクトルのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図4】励起光比率の変化に応じたRaのシミュレーション結果を示す表である。
【図5】励起光比率の変化に応じたRaのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図6】励起光比率が互いに異なる各実験試料における各色の蛍光体および封止材の割合を示す表である。
【図7】図6に示す励起光比率が互いに異なる各実験試料が用いられた半導体発光装置の発光スペクトルを示すグラフである。
【図8】図6に示す各実験試料を用いて励起光比率の変化に応じた光学特性の変化を示す表である。
【図9】他の実験試料における各色の蛍光体および封止材の割合を示す表である。
【図10】図9に示す他の実験試料の光学特性を示す表である。
【図11】蛍光体層が形成された半導体発光装置の構成を示す概略図である。
【図12】互いに相関色温度が異なる光を発する半導体発光装置を含む半導体発光システムの例を示す概略説明図である。
【図13】互いに相関色温度が異なる光を発する半導体発光装置を含む半導体発光システムの他の例を示す説明図である。
【図14】上述した実施形態の半導体発光装置を含む照明器具の構成例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨から逸脱しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。また、本実施形態の説明に用いる図面は、いずれも本発明による半導体発光装置1などの特性を模式的に示すものであって、理解を深めるべく、必要に応じて部分的な強調、拡大、縮小、または省略などを行っている場合がある。更に、用いられている様々な数値は、いずれも一例を示すものであり、必要に応じて様々に変更することが可能である。
【0038】
図1は、本発明の実施形態の半導体発光装置1の構成例を示す概略説明図である。図1に示すように、本発明の実施形態の半導体発光装置1は、半導体発光素子であるLEDチップ10と、当該LEDチップ10が発した光の波長を変換する蛍光体20とを含む。そして、相関色温度が1600K以上であって2400K未満、好ましくは2000K未満である合成光を発する。
【0039】
LEDチップ10として、青色発光ダイオード素子または紫色発光ダイオード素子が用いられる。LEDチップ10として、青色発光ダイオード素子が用いられる場合と、紫色発光ダイオード素子が用いられる場合とで、用いられる蛍光体20が異なる。なお、LEDチップ10として、紫色発光ダイオード素子が用いられることが好ましい。
【0040】
(LEDチップ10と蛍光体20との組み合わせ)
LEDチップ10が青色発光ダイオード素子である場合に、蛍光体20は、少なくとも、緑色蛍光体と赤色蛍光体とを含む。そして、通常、青色発光ダイオード素子である当該LEDチップ10から発せられた青色光の一部と、青色光の他の一部が緑色蛍光体によって波長変換された緑色光と、青色光の更に他の一部が赤色蛍光体によって波長変換された赤色光とを成分として含み、相関色温度が1600K以上であって2400K未満、好ましくは2000K未満である合成光を発する。一般的に、青色発光ダイオード素子の発光ピーク波長は、440〜470nmである。なお、蛍光体20に、青色発光ダイオード素子から発せられた青色光の一部を波長変換して黄色光を発する黄色蛍光体が含まれていてもよい。
【0041】
LEDチップ10が紫色発光ダイオード素子である場合に、蛍光体20は、緑色蛍光体と赤色蛍光体と青色蛍光体とを含む。そして、通常、紫色発光ダイオード素子である当該LEDチップ10から発せられた紫外光または紫色光と、紫色発光ダイオード素子である当該LEDチップ10から発せられた紫外光または紫色光の一部が青色蛍光体によって波長変換された青色光と、紫外光または紫色光の他の一部が緑色蛍光体によって波長変換された緑色光と、紫外光または紫色光の更に他の一部が赤色蛍光体によって波長変換された赤色光とを成分として含み、相関色温度が1600K以上であって2400K未満、好ましくは2000K未満である合成光を発する。
【0042】
本実施形態では、相関色温度が1600K以上であって2400K未満、好ましくは2000K未満である合成光の発光スペクトルにおいて、LEDチップ10によって発せられた光(励起光ともいう)のピーク強度と、当該励起光によって励起された蛍光体20が発した光(蛍光ともいう)の最大ピーク強度の比の値が所定の範囲になるようにLEDチップ10と蛍光体20とを構成することにより、Raを高める。なお、蛍光の最大ピーク強度に対する励起光のピーク強度の比率の百分率を励起光比率という。
【0043】
本実施形態において、励起光比率を調整することにより半導体発光装置1によって発せられる合成光のRaを高める理由について説明する。白色光源によって発せられる合成光の相関色温度を低下させると、当該白色光源の発する光が赤みを帯び、発光スペクトルにおいて短い波長領域(例えば、波長が450nm以下である領域)のスペクトルの割合が低下する。このことを、基準光である黒体放射のスペクトルの可視光領域において、相関色温度が2700Kの光のスペクトルにおける450nm以下のスペクトルの割合と、相関色温度が1900Kの光の発光スペクトルにおける450nm以下のスペクトルの割合とを比較して説明する。なお、相関色温度が2700Kの光とは、例えば、照明で使用される白熱電球によって発せられる光(以下、電球色の光ともいう)である。また、相関色温度が1900Kの光とは、例えば、ろうそくの炎によって発せられる光(以下、ろうそく色の光ともいう)である。
【0044】
【数1】

【0045】
上記式(1)において、
λ:波長[m]
T:色温度[K]
k:ボルツマン定数[J・K-1
h:プランク定数[J・s]
c:光速度[m/s]
であるとする。
【0046】
上記式(1)を用いて、可視光領域におけるスペクトルの積分値に占める450nm以下の波長のスペクトルの積分値の割合を算出すると、相関色温度が2700Kである光の450nm以下の波長のスペクトルの積分値の割合は2.5%であり、相関色温度が1900Kである光の450nm以下の波長のスペクトルの積分値の割合は0.4%である。つまり、相関色温度が1900Kである光の450nm以下の波長のスペクトルの積分値の割合は、相関色温度が2700Kである光の450nm以下の波長のスペクトルの積分値の割合の6分の1以下であり、電球色の光と比べてろうそく色の光は450nm以下という短い波長の光のスペクトルの割合が低い。
【0047】
従って、青色発光ダイオード素子や紫色発光ダイオード素子を励起源として使用した白色ランプを作成する場合に、電球色の合成光とろうそく色の合成光との励起強度(励起源によって発されれた光の強度)を同じにすると、450nm以下の波長のスペクトルのうち、励起光のスペクトルの割合は、電球色の合成光における割合よりもろうそく色の合成光における割合の方が高くなる。換言すれば、ろうそく色の合成光において励起光が相関色温度に与える影響は、電球色の合成光において励起光が相関色温度に与える影響よりも大きい。よって、ろうそく色の合成光において励起光の調整は重要である。
【0048】
例えば、ろうそく色の合成光を発するために紫色発光ダイオード素子と赤色蛍光体と緑色蛍光体と青色蛍光体とを光源として用いる場合に、発せられる合成光の相関色温度をろうそく色の合成光の相関色温度にするためには、短波長の光を発する青色蛍光体の配合量を電球色のものよりも減らす必要がある。しかし、そのようにすると、演色性の基準となる黒体放射スペクトルと比較して、光源の白色スペクトルにおける蛍光による青色領域のスペクトル強度が弱くなってしまう。そして、青色領域において、蛍光のスペクトル強度が弱くなることに関わらず、紫色発光ダイオード素子によって発せられた帯域幅が狭い励起光のスペクトルが残存するので、演色性が低下してしまう。つまり、Raが低下し、高演色性の光を発することができなくなってしまう。
【0049】
従って、相関色温度が1600K以上であって2400K未満、好ましくは2000K未満であるろうそく色の合成光を発する場合には、相関色温度が6500K程度の昼光色の合成光を発する場合や2700K程度の電球色の合成光を発する場合に採用可能な方法である赤色蛍光体と緑色蛍光体と青色蛍光体との混合比の調整や各蛍光体の選択という方法ではRaを高めることは困難である。よって、本実施形態では、励起光比率を調整してRaを高めるのである。
【0050】
ここで、上述した各蛍光体の具体例について以下に説明する。なお、これら蛍光体は本実施形態において好適な蛍光体を例示するものであるが、適用可能な蛍光体は以下に限定されるものではなく、本発明の要旨から逸脱しない限りにおいて、様々な種類の蛍光体を適用することが可能である。
【0051】
(緑色蛍光体)
緑色蛍光体の発光ピーク波長は、通常は500nm以上、好ましくは510nm以上、より好ましくは515nm以上で、通常は550nm未満、好ましくは542nm以下の波長範囲にあるものが好適である。中でも、緑色蛍光体として、例えば、(Y,Lu)3(Al,Ga)512:Ce、CaSc24:Ce、Ca3(Sc,Mg)2Si312:Ce、(Sr,Ba)2SiO4:Eu(BSS)、(Si,Al)6(O,N)8:Eu(β−サイアロン)、(Ba,Sr)3Si6122:Eu(BSON)、SrGa24:Eu、BaMgAl1017:Eu,Mnが好ましい。緑色蛍光体の発光ピーク波長の半値幅は50nm以上が好ましく、65nm以上がより好ましい。緑色蛍光体に発光ピークがブロードなものを用いることで、青色蛍光体として半値幅が狭いものを用いた場合であっても演色性が良くなる傾向にある。
【0052】
(赤色蛍光体)
赤色蛍光体の発光ピーク波長は、通常は570nm以上、好ましくは580nm以上、より好ましくは585nm以上で、通常は780nm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは680nm以下の波長範囲にあるものが好適である。中でも、赤色蛍光体として、例えば、CaAlSiN3:Eu、CaAlSi(N,O)3:Eu(以下、「CASON」蛍光体と呼ぶことがある。(CaAlSiN31-x(Si22O)x:Eu(xは0<x<0.5)と記載することがある。)、(Ca,Sr)AlSiN3:Eu(以下、「SCASN」蛍光体と呼ぶことがある。(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O)3:Euと記載することがある。)、(Ca,Sr,Ba)2Si5(N,O)8:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O)2:Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O)3:Eu、(Sr,Ba)3SiO5:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、SrAlSi47:Eu、(La,Y)22S:Eu、Eu(ジベンゾイルメタン)3・1,10−フェナントロリン錯体などのβ−ジケトン系Eu錯体、カルボン酸系Eu錯体、K2SiF6:Mn、Mn付活ジャーマネートが好ましく、(Ca,Sr,Ba)2Si5(N,O)8:Eu、(Sr,Ca)AlSi(N,O)3:Eu、SrAlSi47:Eu、(La,Y)22S:Eu、K2SiF6:Mn(但し、Siの一部がAlやNaで置換されていてもよい)、Mn付活ジャーマネートがより好ましい。
【0053】
(青色蛍光体)
青色蛍光体の発光ピーク波長は、通常は420nm以上、好ましくは430nm以上、より好ましくは440nm以上で、通常は500nm未満、好ましくは490nm以下、より好ましくは480nm以下、更に好ましくは470nm以下、特に好ましくは460nm以下の波長範囲にあるものが好適である。中でも、青色蛍光体として例えば、(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46(Cl,F)2:Eu、(Ba,Ca,Mg,Sr)2SiO4:Eu、(Ba,Ca,Sr)3MgSi28:Euが好ましく、(Ba,Sr)MgAl1017:Eu、(Ca,Sr,Ba)10(PO46(Cl,F)2:Eu、Ba3MgSi28:Euがより好ましく、Sr10(PO46Cl2:Eu、BaMgAl1017:Euがさらに好ましく、(Sr1-xBax5(PO43Cl:Eu(x>0)が特に好ましい。青色蛍光体の発光ピーク波長の半値幅は、好ましくは30nm以上であり、より好ましくは40nm以上であり、さらに好ましくは50nm以上であり、特に好ましくは60nm以上である。
【0054】
(黄色蛍光体)
黄色蛍光体の発光ピーク波長は、通常は530nm以上、好ましくは540nm以上、より好ましくは550nm以上で、通常は620nm以下、好ましくは600nm以下、より好ましくは580nm以下の波長範囲にあるものが好適である。中でも、黄色蛍光体として例えば、Y3Al512:Ce、(Y,Gd)3Al512:Ce、(Sr,Ca,Ba,Mg)2SiO4:Eu、(Ca,Sr)Si222:Eu、α−サイアロン、La3Si611:Ce(但し、その一部がCaやOで置換されていてもよい)が好ましい。
【0055】
なお、蛍光体20の形態は、パウダー状であってもよいし、セラミック組織中に蛍光体相を含有する発光セラミックであってもよい。パウダー状の蛍光体は、好ましくは、高分子材料またはガラスからなる透明な固定マトリクス中に蛍光体粒子を分散させて固定化されるか、または適当な部材の表面に電着やその他の方法で蛍光体粒子を層状に堆積させて固定化される。LEDチップ10によって発せられた光(具体的には、励起光)が半導体発光装置1の外部に放出される場合に、蛍光体20は当該光を所定の透過率で透過させている。従って、励起光比率を、励起光透過率ともいう。
【0056】
以上に例示した蛍光体等を適宜組み合わせることで、発光装置1が発する光のスペクトルにおける最大ピークの波長及び強度を調整することが可能である。本発明に係る発光装置1が発する光のスペクトルにおける最大ピークの波長及び強度は、本発明の特定の励起光比率を満たせば特段限定されないが、発光装置1が発する光のスペクトルにおける最大ピークの波長が600nm以上660nm以下であることで、いわゆるろうそく色の合成光を達成しやすくなり、好ましくは最大ピーク波長は610nm以上660nm以下である。
【0057】
(LEDチップ10)
LEDチップ10には、360〜490nmの光を発する半導体発光素子が用いられることが好ましい。なお、そのような半導体発光素子として、例えば、青色発光ダイオード素子と紫色発光ダイオード素子とがある。半導体発光素子は、窒素ガリウム系、酸化亜鉛系または炭化ケイ素系の半導体で形成されたpn接合形の発光部を有する発光ダイオード素子であることが好ましい。
【0058】
LEDチップ10の発光ピーク波長が、380〜420nmとなるように構成されていることが好ましい。LEDチップ10の発光ピーク波長が380nm以上であることが好ましい理由は、蛍光体20の励起波長(励起光の波長)と蛍光体発光波長との差異が大きいことに起因して、ストークスシフトによるエネルギ損失が大きくなり、半導体発光装置1(より具体的には蛍光体20)の発光効率が低下するからである。なお、LEDチップ10によって発せられる光に可視成分の光(380〜780nmの波長の光)が含まれない場合には、LEDチップ10によって発せられた光は、半導体発光装置1から発せられる光の相関色温度や色度に直接に影響を与えないので、励起光比率を変化させてもRaは変化しないことになる。
【0059】
LEDチップ10の発光ピーク波長が420nm以下であることが好ましい理由は、420nmよりも長い波長を発光ピーク波長とするLEDチップ10(例えば、青色発光ダイオード素子)によって発せられた光には青色成分が多く含まれていることになり、励起光比率を調整するために、緑色蛍光体と赤色蛍光体との配合比を大きく変更しなければならなくなるからである。発光ピーク波長が420nm以下のLEDチップ10(例えば、紫色発光ダイオード素子)を用いた場合には、緑色蛍光体と赤色蛍光体と青色蛍光体との配合比を大きく変更することなく、蛍光体20の総量と蛍光体20を半導体発光装置1の内部に封止するための樹脂の量との割合を調整することで、励起光比率を調整することができる。
【0060】
また、青色発光ダイオード素子が用いられた場合には、当該青色発光ダイオード素子が発熱等したことにより発光ピーク波長が変動したときに、青色発光ダイオード素子から発せられた光には青色成分が多く含まれていることに起因して、半導体発光装置が発する光の色度や色温度が変化してしまうことがある。それに対して、紫色発光ダイオード素子が用いられた場合には、当該紫色発光ダイオード素子の発光ピーク波長が変動したとしても、半導体発光装置が発する光の色度や色温度の変化を抑制することができる。また、半導体発光素子の製造ロットが異なることなどによって当該半導体発光素子の発光ピーク波長が異なることがあるが、紫色発光ダイオード素子を用いた場合には、当該紫色発光ダイオード素子の発光ピーク波長が変動したとしても半導体発光装置が発する光の色度や色温度の変化が少ないので、半導体発光装置を製造したときの歩留まりを良好なものとすることができる。
【0061】
また、紫色発光ダイオード素子が用いられた場合には、青色発光ダイオード素子が用いられた場合と比較して素子に流れる電流量を変化させたときの色度の変動が小さいので、後述する半導体発光システムに好適に使用することができる。
【0062】
半導体発光装置1によって発せられる合成光における励起光比率を調整する方法として、LEDチップ10に応じて、緑色蛍光体と赤色蛍光体と青色蛍光体との配合比を変更する方法、および蛍光体20の総量と蛍光体20を半導体発光装置1の内部に封止するための樹脂の量との割合を調整する方法について述べたが、他の方法で励起光比率を調整してもよい。具体的には、例えば、半導体発光装置1における自半導体発光装置1が発した合成光が外部に放出される経路や励起光が通過する経路に、励起光の波長以外の波長の光を通過させるフィルタ(バンドパスフィルタ)や、励起光の波長よりも短い波長の光を通過させないフィルタ(UVカットフィルタ)、励起光の波長の光を通過させないまたは所定の割合で減じて通過させるフィルタ(バンドエリミネーションフィルタ)が設置されていてもよい。
【0063】
<実験試料>
本発明の発明者等が行った実験(シミュレーションを含む)の試料(本実施形態の半導体発光装置1)について説明する。本実験において、LEDチップ10として、発光ピーク波長が405nmで半値幅が30nmである紫色発光ダイオード素子が用いられている。なお、発光ピーク波長および半値幅は、積分球が用いられて測定されている。また、緑色蛍光体としてβ−サイアロンが用いられ、赤色蛍光体としてCaAlSi(N,O)3:Eu(CASON)が用いられ、青色蛍光体として(Sr1-xBax5(PO43Cl:Eu(x>0)が用いられている。なお、当該緑色蛍光体の発光ピーク波長は540nmで半値幅は60nmであり、当該赤色蛍光体の発光ピーク波長は640nmで半値幅は115nmであり、当該青色蛍光体の発光ピーク波長は475nmで半値幅は80nmである。各蛍光体の発光ピーク波長および半値幅は分光光度計で測定された値である。
【0064】
図2は、LEDチップ10、緑色蛍光体、赤色蛍光体および青色蛍光体の発光スペクトルを示すグラフである。図2において、LEDチップ10の発光スペクトルは実線で示され、緑色蛍光体の発光スペクトルは一点鎖線で示され、赤色蛍光体の発光スペクトルは破線で示され、青色蛍光体の発光スペクトルは点線で示されている。図2に示すように、LEDチップ10の発光ピーク波長は405nmであり、緑色蛍光体の発光ピーク波長は540nmであり、赤色蛍光体の発光ピーク波長は640nmであり、青色蛍光体の発光ピーク波長は475nmである。
【0065】
そして、所望の相関色温度(具体的には、1900K)および所望のduv(具体的には、CIE(1931)XYZ表色系のXY色度図において、色度座標の黒体輻射軌跡曲線からの偏差duvの値が−0.02以上であって0.02以下である0.0〜−0.0083)である合成光を発し、所望の励起光比率(10%間隔で0〜130%)となるようにシミュレーションを行い、Raを測定した。具体的には、所望の相関色温度、所望の偏差duvの値、および所望の励起光比率となるようにLEDチップ10および各蛍光体の発光スペクトル強度を調整した半導体発光装置1の発光スペクトルをシミュレーションによって得て、Raを測定した。すなわち、相関色温度が1900Kおよびduvが0.0〜−0.0083である合成光を発する半導体発光装置1であって、励起光比率が0%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、または130%となる半導体発光装置1の発光スペクトルをシミュレーションによって得て、Raを測定した。
【0066】
図3は、励起光比率がそれぞれ異なる試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルのシミュレーション結果を示すグラフである。図3において、励起光比率が、0%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが細破線で示され、10%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが中破線で示され、20%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが太点線で示され、30%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが中点線で示され、40%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが細点線で示され、50%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが太二点鎖線で示され、60%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが中二点鎖線で示され、70%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが細二点鎖線で示され、80%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが太一点鎖線で示され、90%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが中一点鎖線で示され、100%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが細一点鎖線で示され、110%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが太実線で示され、120%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが中実線で示され、130%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが細実線で示されている。
【0067】
前述したように、蛍光のピーク強度に対する励起光のピーク強度の比率の百分率が励起光比率であるところ、図3に示すように、蛍光のピーク強度である640nm付近の波長の発光スペクトルの変化よりも、405nm付近の波長の発光スペクトルの強度(つまり、励起光のピーク強度)の値が大きく変化することにより、励起光比率の値が大きく変化している。つまり、本実施形態では、半導体発光装置1が発する光において、発光ピーク波長が405nmの紫色発光ダイオード素子であるLEDチップ10が発した光(励起光)の強度を変化させることにより、励起光比率を変化させている。
【0068】
図4は、図3に発光スペクトルを示した試料の励起光比率の変化に応じたRaのシミュレーション結果を示す表である。図5は、図3に発光スペクトルを示した試料の励起光比率の変化に応じたRaのシミュレーション結果を示すグラフである。図4および図5に示すように、励起光比率が減少するとRaが高くなる。具体的には、励起光比率が60%以上のときのRaの値は86未満であるが、励起光比率が50%であるときのRaの値は86であり、励起光比率が30%であるときのRaの値は88であり、励起光比率が0%であるときのRaの値は92である。本発明による半導体発光装置1においては、平均演色評価数Raの値が86以上であることが好ましく、88以上であることがより好ましく、90以上であることがさらに好ましく、92以上であることが特に好ましい。
【0069】
なお、図4に示すように、励起光比率が0〜50%の場合には、相関色温度を1900Kにした場合にduvを0.0000にすることができたが、励起光比率が60〜130%の場合には、この検討で使用している青色蛍光体、緑色蛍光体及び赤色蛍光体の組み合わせでは、相関色温度を1900Kにしたときにはduvを0.0000にすることができなかった。そのため励起光比率が60〜130%の場合には、duvの値がマイナスであって、最も0に近い半導体発光装置1を用いたシミュレーションによってRaを測定した。
【0070】
本発明の発明者等は、前述したシミュレーションに用いた各色の蛍光体と同様な蛍光体およびLEDチップ10を用いて、相関色温度が1900K程度であって、励起光比率が互いに異なる複数の実験試料を作成した。そして、作成した複数の実験試料のそれぞれが用いられた半導体発光装置1について、それぞれR9等の特殊演色評価数を含む演色評価数と相関色温度とを測定すると共に、平均演色評価数Raと発光効率とをそれぞれ算出した。
【0071】
図6は、励起光比率が互いに異なるこれら実験試料のそれぞれにおける各色の蛍光体および封止材の割合を示す表である。図7は、同じく励起光比率が互いに異なるこれら実験試料が用いられた半導体発光装置1のそれぞれの発光スペクトルを示すグラフである。図7において、励起光比率が、70%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが点線で示され、48%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが破線で示され、27%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが一点鎖線で示され、14%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが長破線で示され、10%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが長一点鎖線で示され、6%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが長二点鎖線で示され、3%の試料が用いられた半導体発光装置1の発光スペクトルが短破線で示されている。
【0072】
図8は、図6に示す各実験試料を用いた場合の半導体発光装置1における励起光比率の変化に応じた光学特性の変化を示す表である。図8に示すように、励起光比率が減少するとRaの値が大きくなっている。励起光比率が70%である場合にはRaの値は80であり、励起光比率が48%である場合にはRaの値は83である。しかし、励起光比率が27%である場合にはRaの値は86になり、励起光比率が14%である場合にはRaの値は90になり、励起光比率が10%である場合にはRaの値は92になる。さらに励起光比率が減少して、6%や3%である場合にはRaは93である。
【0073】
また、赤色についての特殊演色評価数であるR9、および青色についての特殊演色評価数であるR12も、励起光比率が減少すると値が大きくなる傾向にあり、R9およびR12は、いずれもろうそく色の光(本実験例では相関色温度が2400K未満の光)としては高い値になっている。
【0074】
それに対して発光効率ηLは、図8に示すように、励起光比率が48%程度である場合をピークに、励起光比率が増加しても減少しても値が小さくなる傾向にある。具体的には、励起光比率が48%である場合の発光効率ηLは40.4であるのに対して、励起光比率が70%に増加した場合の発光効率ηLは37.0である。つまり、励起光比率が48%から増加した場合に発光効率ηLは減少している。また、励起光比率が48%から減少するに従って発光効率ηLも減少し、励起光比率が3%である場合の発光効率ηLは37.0である。つまり、励起光比率が48%から減少した場合に発光効率ηLは減少している。
【0075】
本発明の発明者等は、前述したシミュレーションに用いた赤色蛍光体と異なる蛍光体を用いて、相関色温度が1900K程度の光を発する他の実験試料を作成し、R9等の特殊演色評価数を含む演色評価数と相関色温度とを測定すると共に、平均演色評価数Raと発光効率とをそれぞれ算出した。具体的には、赤色蛍光体に、CASON(CaAlSi(N,O)3:Eu)に代えて、SCASN((Sr,Ca)AlSi(N,O)3:Eu)が用いられている。図9は、このような他の実験試料における各色の蛍光体および封止材の割合を示す表である。図9に示すように、他の実験試料に用いられている青色蛍光体および緑色蛍光体は、前述したシミュレーションおよび前述した実験試料における青色の蛍光体および緑色の蛍光体とそれぞれ同じ蛍光体である。また、上述の他の実験試料に用いられているLEDチップのピーク波長は、前述したシミュレーションおよび前述した実験試料に用いられているLEDチップ10のピーク波長である410nmと同程度である409nmである。
【0076】
図10は、図9に示した他の実験試料の光学特性を示す表である。図10に示すように、赤色蛍光体にSCASNが用いられた他の実験試料は、励起光比率が19%であり、発光効率ηLは40.5%であり、Raは82である。図10に示すように、赤色蛍光体にSCASNが用いられた他の実験試料は、励起光比率が19%である場合に、発光効率ηLが40.5%と高い値になっている。
【0077】
図8および図10に示すように、赤色蛍光体にCASONが用いられた場合およびSCASNが用いられた場合の両者ともに、励起光比率が5%以上であって60%未満の範囲内であれば、Raの値が80を超えた値であって、かつ、発光効率ηLの値が33%を超えた値になる。つまり、励起光比率が5%以上であって60%未満の範囲内であれば、Raの値と発光効率ηLの値とを高いレベルで両立させることができる。
【0078】
Raの値のみを考えると、励起光比率は、55%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、45%以下であることが特に好ましく、35%以下であることがさらに好ましく、25%以下であることがよりさらに好ましく、15%以下であることが最も好ましい。また、励起光比率の下限値は通常0%である。
【0079】
表1は、励起光比率が互いに異なる実験試料が用いられた半導体発光装置1が発した光について、13人の被験者による官能試験の結果を表す表である。表1において、◎の欄は、「ほとんどろうそくのように感じた。ろうそくの炎に近い感じがした」と回答した人数を示している。○の欄は、「不自然さはあまり感じられなかった」と回答した人数を示している。×の欄は、「青みが感じられ、不自然に感じた」と回答した人数を示している。
【0080】
【表1】

【0081】
表1に示すように、励起光比率が低い方が、◎と回答する人数が増え、×と回答する人数が減っている。従って、各半導体発光装置1が発した光の色度点の座標値および相関色温度はそう大きく変化していないのであるが、本官能試験では、励起光比率がより低い実験試料によって発せられる光がろうそくによって発せられる光により近いと全ての被験者が判定した。
【0082】
しかし、励起光比率が48%以下に減少すると、発光効率ηLの値も減少することを考慮すると、励起光比率は、60%未満であって、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。
【0083】
また、波長が440nm以上であって480nm以下のスペクトルの最大値が、LEDチップ10が発する光の最大ピーク強度よりもよりも小さいことが好ましい。図6に示すように、本実施形態では、最大ピーク強度の光の波長が410nmであるLEDチップ10が用いられている。図7に示すように、本実施形態の実験試料のうち、励起光比率が5%以上であって60%未満の範囲内である実験試料が発する光における波長が440nm以上であって480nm以下のスペクトルの最大値は、波長410nm付近のスペクトル、すなわちLEDチップ10が発する光の最大ピーク強度よりも小さい。そのように構成されていることによって、2400K未満という比較的低い相関色温度の光であるにもかかわらず、大きいRaの値と高い発光効率とを両立することができる。
【0084】
本実施形態によれば、励起光比率を低く(好ましくは60%未満に)することで、相関色温度が1600K以上であって2400K未満、好ましくは2000K未満であり、Raの値が大きい光を発することができる。また、緑色蛍光体や赤色蛍光体等の各蛍光体の混合比の複雑な調整やRaを高めることのみを目的とする各蛍光体の選択を行うことなく、LEDチップ10によって発せられた光のピーク強度の値と蛍光体20が発した光の最大ピーク強度との比率を調整して、Raの値を高めることができる。
【0085】
なお、発光ピーク波長が420nm以下のLEDチップ10を用いた場合には、緑色蛍光体と赤色蛍光体と青色蛍光体との配合比を大きく変更することなく、蛍光体20の総量と蛍光体20を半導体発光装置1の内部に封止するための封止材としてのシリコーン樹脂の量との割合(つまり、シリコーン樹脂組成物における蛍光体20の割合)を調整することで、励起光比率を調整することができる。
【0086】
なお、前述したシミュレーションおよび各実験試料は、緑色蛍光体と赤色蛍光体と青色蛍光体と封止材とが混合されて蛍光体20が形成されていた。しかし、LEDチップ10が発した光を受光する位置に、緑色蛍光体と赤色蛍光体と青色蛍光体とが並設された蛍光体層20Lが形成されていてもよい。そのような構成によって、各色の蛍光体が混合されることによって生じるカスケード励起を防ぐことができる。
【0087】
図11は、蛍光体層20Lが形成された半導体発光装置11の構成を示す概略図である。図11(a)は、蛍光体層20Lが形成された半導体発光装置11の構成を示す概略断面図である。図11(b)は、蛍光体層20Lが形成された半導体発光装置11の構成を示す概略斜視図である。図11(a),(b)に示すように、蛍光体層20Lは、それぞれ複数の緑色蛍光体部20gと赤色蛍光体部20rと青色蛍光体部20bとを含む。各蛍光体部は、基板20k上に載置されたLEDチップ10の上面10aに向かい合う第1の面21を有するように膜状または板状に成形された保持部材20hに形成される。つまり、蛍光体層20Lは、第2の面22に各蛍光体部が形成された保持部材20hを含む。
【0088】
保持部材20hには、例えば、透明樹脂材やガラス材等が用いられる。なお、透明樹脂材として、例えば、熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が用いられるが、LEDチップ10から発せられる光に対して十分な透明性と耐久性とを有した材料が用いられることが好ましい。
【0089】
そのような材料に、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレンやスチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、エチルセルロースやセルロースアセテートやセルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等がある。また、無機系材料に、例えば、金属アルコキシド、セラミックス前駆体ポリマー、もしくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合してなる溶液、またはこれらの組み合わせを固化した無機系材料、例えば、シロキサン結合を有する無機系材料やガラスがある。
【0090】
そして、蛍光体層20Lにおいて保持部材20h上には、隣接する各色の蛍光体部20r,20g,20bの境界に設けられた仕切り部20sが形成されている。つまり、複数の赤色蛍光体部2rと複数の緑色蛍光体部2gと複数の青色蛍光体部2bとが仕切り部20sを挟んで並設されている。
【0091】
本実施形態において、保持部材20hにおける厚さ方向に向く一方の面(例えば、LEDチップ10の上面10aに向かい合う第1の面21の反対側の第2の面22)に、仕切り部20sによって仕切られた各領域に所定の充填剤と混合された各色の蛍光体部20r,20g,20bがスクリーン印刷等で塗布されることにより複数の複数の赤色蛍光体部20rと複数の緑色蛍光体部20gと複数の青色蛍光体部20bとが仕切り部20sを挟んで並設されている。つまり、複数の赤色蛍光体部20rと複数の緑色蛍光体部20gと複数の青色蛍光体部20bとは、膜状または板状の蛍光体層20Lの厚さ方向に向く面に並べられている。なお、保持部材20hにおける第1の面21に、仕切り部によって仕切られた各領域に所定の充填剤と混合された各色の蛍光体部20r,20g,20bがスクリーン印刷等で塗布されていてもよい。また、保持部材20hが仕切り部20sを構成する仕切り部材によって複数の領域に仕切られ、当該仕切り部材によって仕切られた各領域に、赤色蛍光体が充填剤と混合された赤色蛍光体部2rと緑色蛍光体が充填剤と混合された緑色蛍光体部2gと青色蛍光体が充填剤と混合された青色蛍光体部2bとが形成されてもよい。
【0092】
そして、本実施形態の蛍光体層20Lにおいて、保持部材20hの第2の面22における各蛍光体部の面積は、励起光比率にもとづいて決定される。具体的には、例えば、図8に示す各励起光比率に応じた各蛍光体の配合割合に相当する面積比で、各蛍光体部の面積が決定される。なお、蛍光体部の色毎に領域の大きさを異ならせることによって各蛍光体部の面積比を異ならせてもよいし、蛍光体部の色毎に領域の数を異ならせることによって各蛍光体部の面積比を異ならせてもよい。また、励起光比率にもとづいて各蛍光体と充填剤との混合割合を互いに異ならせてもよい。
【0093】
また、蛍光体層20Lの第1の面21とLEDチップ10の上面10aとの間には、例えば、封止材20jが0.1mm以上であって500mm以下の厚さで充填されている。そして、蛍光体層20Lは、LEDチップ10の上面10aとの間の距離が0.1mm以上であって500mm以下であるように保持部材20hによって支持されている。
【0094】
なお、仕切り部には、例えば、アルミナ系セラミックや、セラミック、樹脂、ガラスエポキシ、樹脂中にフィラーを含有した複合樹脂などから選択された材料が用いられてもよい。なお、各色の蛍光体部内に光を反射させて戻すために、アルミナ粉末、シリカ粉末、酸化マグネシウム、酸化チタンなどの白色顔料を含むシリコーン樹脂が用いられてもよい。
【0095】
以上に、緑色蛍光体と赤色蛍光体と青色蛍光体と封止材とが混合されて蛍光体20を形成される場合(各色の蛍光体が混合される場合)と、各色の蛍光体部20r,20g,20bを含む蛍光体層20Lが形成される場合(各色の蛍光体が塗り分けられる場合)とについて述べたが、各色の蛍光体が混合される場合には、青色蛍光体として(Sr,Ba,Ca)5(PO43Cl:Euが用いられることが好ましい。また、各色の蛍光体が塗り分けられる場合には、青色蛍光体として(Sr,Ba,Ca)5(PO43Cl:Eu、またはBaMgAl1017:Euが用いられることが好ましい。
【0096】
ここで、(Sr,Ba,Ca)5(PO43Cl:Euが、各色の蛍光体が混合される場合であっても用いられることが好ましい理由について説明する。まず、各色の蛍光体が混合された場合には、青色蛍光体が発した青色の蛍光が緑色蛍光体および赤色蛍光体によって吸収されるカスケード励起が生じる。また、(Sr,Ba,Ca)5(PO43Cl:Euは、410nm程度の波長の光を励起光とする蛍光の発光効率が、BaMgAl1017:Euにおける発光効率よりも高い。そうすると、(Sr,Ba,Ca)5(PO43Cl:Euが他の色の蛍光体と混合され、(Sr,Ba,Ca)5(PO43Cl:Euが発した青色の蛍光がカスケード励起によって他の色の蛍光体に吸収されたとしても、所要の強さの青色の蛍光が半導体発光装置1から発せられる。従って、カスケード励起が生じる各色の蛍光体が混合される場合であっても、(Sr,Ba,Ca)5(PO43Cl:Euが用いられることが好ましいのである。
【0097】
<参考例>
励起光比率を所定の値に調整し、相関色温度が2700Kで、duvが0.00であって、発する光の励起光比率がそれぞれ異なる白色半導体発光装置の試作結果を以下に示す。LEDチップ10として、発光ピーク波長が約405nmで半値幅が約30nmであり、350μm角のInGaN系紫色発光ダイオード素子が用いられている。なお、発光ピーク波長および半値幅は、積分球が用いられて測定されている。緑色蛍光体としてβ−サイアロンが用いられ、赤色蛍光体としてCaAlSi(N,O)3:Euが用いられ、青色蛍光体として(Sr1-xBax5(PO43Cl:Eu(x>0)が用いられている。なお、当該緑色蛍光体の発光ピーク波長は542nmで半値幅は56nmであり、当該赤色蛍光体の発光ピーク波長は640nmで半値幅は115nmであり、当該青色蛍光体の発光ピーク波長は475nmで半値幅は80nmである。各蛍光体の発光ピーク波長および半値幅は分光光度計で測定された値である。
【0098】
各白色半導体発光装置には、当該紫色発光ダイオード素子6個が5050SMD型アルミナセラミックパッケージに実装され、パウダー状の蛍光体を添加したシリコーン樹脂組成物で封止されることにより作製されている。表2には、各白色半導体発光装置に用いられた発光ダイオード素子を封止するシリコーン樹脂組成物における各蛍光体の含有量(重量%濃度)が示されている。例えば、参考例1の白色半導体発光装置は、青色蛍光体、緑色蛍光体および赤色蛍光体を、それぞれ1.5wt%、3.7wt%および7.9wt%の濃度で含み、青色蛍光体、緑色蛍光体および赤色蛍光体によって構成される蛍光体混合物を13.0wt%の濃度で含むシリコーン樹脂組成物により、紫色発光ダイオード素子が封止された構造を有している。また、参考例2の白色半導体発光装置は、青色蛍光体、緑色蛍光体および赤色蛍光体を、それぞれ5.7wt%、3.8wt%および9.9wt%の濃度で含み、青色蛍光体、緑色蛍光体および赤色蛍光体によって構成される蛍光体混合物を19.4wt%の濃度で含むシリコーン樹脂組成物により、紫色発光ダイオード素子が封止された構造を有している。参考例3の白色半導体発光装置は、青色蛍光体、緑色蛍光体および赤色蛍光体を、それぞれ16.0wt%、3.5wt%および10.5wt%の濃度で含み、青色蛍光体、緑色蛍光体および赤色蛍光体によって構成される蛍光体混合物を30.0wt%の濃度で含むシリコーン樹脂組成物により、紫色発光ダイオード素子が封止された構造を有している。
【0099】
【表2】

【0100】
表2に示すように、参考例1の白色半導体発光装置によって発せられる光の励起光比率は175%であり、参考例2の白色半導体発光装置によって発せられる光の励起光比率は79%であり、参考例3の白色半導体発光装置によって発せられる光の励起光比率は23%である。表2から明らかなように、例えば、シリコーン樹脂組成物中の蛍光体混合物の含有量を調整することで、励起光比率を調整することが可能であることがわかる。
【0101】
半導体発光装置の発光ダイオード素子を封止するための封止材として用いられるシリコーン樹脂に、例えば、透明樹脂材やガラス材等が用いられる。なお、透明樹脂材として、例えば、熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が用いられるが、発光ダイオード素子から発せられる近紫外光に対して十分な透明性と耐久性とを有した材料が用いられることが好ましい。そのような材料に、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレンやスチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、エチルセルロースやセルロースアセテートやセルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等がある。また、無機系材料に、例えば、金属アルコキシド、セラミックス前駆体ポリマー、もしくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合してなる溶液、またはこれらの組み合わせを固化した無機系材料、例えば、シロキサン結合を有する無機系材料やガラスがある。
【0102】
また、封止材に、光散乱剤が含まれていてもよい。封止材に含まれる光散乱剤は、無機粒子であることが好ましく、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウムである。封止材に光散乱剤が含まれている場合には、封止材に含まれる光散乱剤の量を調整すれば、封止材に含まれる蛍光体の総量や、各蛍光体の配合比を大きく変化させることなく、励起光比率を調整することができる。
【0103】
上述の実施形態では、相関色温度が1600K以上であって2400K未満、好ましくは2000K未満の特定色温度の合成光を得るようにしたが、互いに相関色温度が異なる光を発する半導体発光装置を含む半導体発光システムが構成されてもよい。図12は、互いに相関色温度が異なる光を発する半導体発光装置を含む半導体発光システムの例を示す概略説明図である。図12に示す例では、互いに相関色温度が異なる光を発する半導体発光装置1aと半導体発光装置1bとが並んで設置されている。半導体発光装置1aは、LEDチップ10aと蛍光体20aとを含む。半導体発光装置1bは、LEDチップ10bと蛍光体20bとを含む。
【0104】
図12に示す半導体発光装置1aは、前述の実施形態の半導体発光装置1における構成と同様な構成で、例えば、相関色温度が1900K(つまり、ろうそく色)の光を発し、半導体発光装置1bは、例えば、相関色温度が1900K以外の相関色温度(つまり、ろうそく色以外の色)である2000K以上、好ましくは2400K以上であって6700K以下のいずれかの相関色温度の光を発する。なお、半導体発光装置1aが発する光の相関色温度と、半導体発光装置1bが発する光の相関色温度との差である相関色温度差は、2000K以上であることが好ましく、3000K以上であることがより好ましく、3500K以上であることが特に好ましい。具体的には、例えば、半導体発光装置1aが発する光の相関色温度が1900Kであり、半導体発光装置1bが発する光の相関色温度が2700K、5000K、または6700Kのいずれかである。そのような構成によれば、例えば、それぞれの半導体発光装置におけるLEDチップに流れる電流量を制御することにより、半導体発光装置1aが発する光の強度と半導体発光装置1bが発する光の強度とを調整して、それぞれの光の合成により得られる合成光の相関色温度を、半導体発光装置1aが発する光の相関色温度(例えば、1900K)と半導体発光装置1bが発する光の相関色温度(例えば、2700K、5000Kまたは6700Kのいずれか)との間で調整可能な半導体発光システムを実現することができる。
【0105】
図12に示すような半導体発光装置1aおよび半導体発光装置1bを有した半導体発光システムのもう1つの例を図13に示す。図13に示す例では、半導体発光システム101は、電気絶縁性に優れて良好な放熱性を有したアルミナ系セラミックからなる配線基板102のチップ実装面102aに4個ずつ2列に実装されたLEDチップ103を備えている。更に、配線基板102のチップ実装面102aには、これらLEDチップ103を取り囲むように、環状且つ円錐台形状のリフレクタ(壁部材)104が設けられている。
【0106】
なお、半導体発光装置1aは、前述したように、平均演色評価数Raの値が86以上であることが好ましく、88以上であることがより好ましく、90以上であることがさらに好ましく、92以上であることが特に好ましい。さらには、半導体発光装置1bも、平均演色評価数Raの値が86以上であることが好ましく、88以上であることがより好ましく、90以上であることがさらに好ましく、92以上であることが特に好ましい。特に、半導体発光装置1aの平均演色評価数Raの値を上記の好ましい値のいずれかとし、かつ、半導体発光装置1bの平均演色評価数Raの値を上記の好ましい値のいずれかとすることで、色温度を調整した際の平均演色評価数Raの変動を小さくすることができる。
【0107】
リフレクタ104の内側は、仕切り部材105によって第1領域106と第2領域107とに分割され、各領域にはそれぞれ蛍光体が充填剤に混合された状態で充填されている。具体的には、第1領域106には、前述の実施形態における半導体発光装置1および前述の半導体発光装置1aと同様に、例えば、相関色温度が1900Kの光を発するための蛍光体が充填され、第2領域107には、前述の半導体発光装置1bと同様に、例えば、相関色温度が2700K、5000Kまたは6700Kのいずれかの光を発するための蛍光体が充填されている。従って、第1領域106には、LEDチップ103と第1の領域106に充填された蛍光体とによって半導体発光装置1aが構成され、第2領域107には、LEDチップ103と第2の領域107に充填された蛍光体とによって半導体発光装置1bが構成されていることになる。なお、リフレクタ104および仕切り部材105は、樹脂、金属、セラミックなどで形成することができ、接着剤などを用いて配線基板102に固定される。また、リフレクタ104および仕切り部材105に導電性を有する材料を用いる場合は、配線パターンに対して電気的な絶縁性を持たせるための処理が必要となる。
【0108】
なお、図13に示すLEDチップ103の数は一例であって、必要に応じて増減可能であり、第1領域106と第2領域107とに1個ずつとすることも可能であり、またそれぞれの領域で数を異ならせることも可能である。また、配線基板102の材質についても、アルミナ系セラミックに限定されるものではなく、様々な材質を適用可能であり、例えば、セラミック、樹脂、ガラスエポキシ、樹脂中にフィラーを含有した複合樹脂などから選択された材料を用いてもよい。更に、配線基板102のチップ実装面102aにおける光の反射性を良くして半導体発光システムの発光効率を向上させる上では、アルミナ粉末、シリカ粉末、酸化マグネシウム、酸化チタンなどの白色顔料を含むシリコーン樹脂を用いるのが好ましい。一方、銅製基板やアルミ製基板などのような金属製基板を用いて放熱性を向上させることも可能である。但し、この場合には、電気的絶縁を間に介して配線基板に配線パターンを形成する必要がある。
【0109】
また、上述したリフレクタ104及び仕切り部材105の形状も一例を示すものであって、必要に応じて様々に変更可能である。例えば、予め成形したリフレクタ104及び仕切り部材105に代えて、ディスペンサなどを用い、配線基板102のチップ実装面102aにリフレクタ104に相当する環状壁部(壁部材)を形成し、その後に仕切り部材105に相当する仕切り壁(仕切り部材)を形成するようにしてもよい。この場合、環状壁部及び仕切り壁部に用いる材料には、例えばペースト状の熱硬化性樹脂材料またはUV硬化性樹脂材料などがあり、無機フィラーを含有させたシリコーン樹脂が好適である。
【0110】
図13に示すような構成によれば、半導体発光装置1aおよび半導体発光装置1bに流す電流量を制御して、第1領域106に設置されている半導体発光装置1aが発する光の相関色温度(例えば、1900K)と第2領域107に設置されている半導体発光装置1bが発する光の相関色温度(例えば、2700K、5000Kまたは6700Kのいずれか)との間で、半導体発光システムによって発せられる合成光の相関色温度を調整することができる。
【0111】
なお、図13に示す構成において、第1領域106および第2領域107への蛍光体の充填に代えて、透明な板材に蛍光体を塗布し、LEDチップ103の上方に配置するようにしてもよい。
【0112】
図14は、上述した実施形態の半導体発光装置1を含む照明器具200の構成例を示す概略断面図である。図14に示す例の照明器具200は、ベース部材201の上面に半導体発光装置1が設置されている。そして、半導体発光装置1から発せられた光が通過する位置に、カバー部材202が設置されている。図14に示す例では、カバー部材202は、ろうそくの炎の形状を摸した外形形状であり、底面に上方に向かう凹部203が設けられている。そして、カバー部材202の底面とベース部材201の上面との間において、カバー部材202に凹部203が設けられていることによって生じた当該カバー部材202の内壁と凹部203の天面とに囲まれた部分に半導体発光装置1が設置されている。
【0113】
そして、LEDチップ10には、電線204によって発光するための電力が供給される。すると、LEDチップ10は光を発し、蛍光体20は、当該LEDチップ10が発した光によって励起されて蛍光を発する。そして、LEDチップ10と蛍光体20とを含む半導体発光装置1は、LEDチップ10が発した光と蛍光との合成光であるろうそく色の光をカバー部202を介して外部に放射する。
【0114】
そのような構成によれば、半導体発光装置1が発したろうそく色の光がカバー部材202を通過して外部に放射されるので、照明器具200にろうそく色の光を発させて、ろうそくの炎の外形形状を摸したカバー部材202がろうそく色の光を発しているように見せることができる。従って、照明器具200を、ろうそくの炎に摸した点灯状態にすることができる。
【0115】
なお、図14には、各色の蛍光体が混合された蛍光体20を含む半導体発光装置1が設置されることが例示されているが、図11に示すような各色の蛍光体が塗り分けられて蛍光体層20Lが形成された半導体発光装置11が設置されてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1,1a,1b,11 半導体発光装置
10,10a,10b,103 LEDチップ
20,20a,20b 蛍光体
20r 赤色蛍光体
20g 緑色蛍光体
20b 青色蛍光体
20L 蛍光体層
20k 基板
20h 保持部材
20s 仕切り部
20j 封止材
101 半導体発光システム
102 配線基板
102a チップ実装面
104 リフレクタ
105 仕切り部材
106 第1領域
107 第2領域
200 照明器具
201 ベース部材
202 カバー部材
203 凹部
204 電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
380nm以上であって、430nm以下に発光ピークを有する光を放出する半導体発光素子と、
前記半導体発光素子を励起源として発光する蛍光体とを備え、
相関色温度が1600K以上であって2400K未満である光を発する半導体発光装置において、
前記蛍光体は、少なくとも青色蛍光体、緑色蛍光体および赤色蛍光体を含み、
当該半導体発光装置から発せられた光のスペクトルにおいて、前記半導体発光素子によって発せられた光のピーク強度の値が、前記蛍光体が発した光の最大ピーク強度の60%未満の値であり、かつ最大ピークが600nm以上660nm以下に位置する
ことを特徴とする半導体発光装置。
【請求項2】
前記半導体発光素子によって発せられた光のピーク強度の値が、前記蛍光体が発した光の最大ピーク強度の5%以上の値となるようなスペクトルの光を発する
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記相関色温度が1600K以上であって2000K未満である光を発する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記青色蛍光体は、発光ピーク波長の半値幅が30nm以上である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記青色蛍光体は、(Sr,Ba,Ca)5(PO43Cl:Eu、またはBaMgAl1017:Euである
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の半導体発光装置。
【請求項6】
CIE(1931)XYZ表色系のXY色度図において、当該半導体発光装置が発する光の色度座標は、黒体輻射軌跡曲線からの偏差duvの値が−0.02以上であって0.02以下である
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の半導体発光装置。
【請求項7】
前記緑色蛍光体は、βサイアロン、(Ba,Sr)3Si6122:Eu、または(Sr,Ba)2SiO4:Euである
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の半導体発光装置。
【請求項8】
前記赤色蛍光体は、(CaAlSiN31-x(Si22O)x:Eu(xは0<x<0.5)を含む
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の半導体発光装置。
【請求項9】
前記赤色蛍光体は、K2SiF6:Mnを含む
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の半導体発光装置。
【請求項10】
前記赤色蛍光体は、A2+xyMnZn(AはNaとKとのうち一方または両方である。MはSiおよびAlである。そして、−1≦x≦1、かつ0.9≦y+z≦1.1、かつ0.001≦z≦0.4、かつ5≦n≦7が成立する)
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の半導体発光装置。
【請求項11】
前記蛍光体は、前記半導体発光素子によって発せられた光を所定の透過率で透過させて、当該半導体発光装置の外部に放出する
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の半導体発光装置。
【請求項12】
前記蛍光体を保持する保持部材を備え、
前記保持部材は、色毎に設定された所定の領域に各色の前記蛍光体をそれぞれ保持して、色毎に前記蛍光体を保持する領域が併設された蛍光体層を形成し、
前記蛍光体層は、前記半導体発光素子との間の距離が0.1mm以上であって500mm以下であるように支持されている
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の半導体発光装置。
【請求項13】
第1の半導体発光装置として、請求項1乃至12のいずれかに記載の半導体発光装置を備え、
第2の半導体発光装置として、前記第1の半導体発光装置が発する光とは相関色温度が異なる光を発する半導体発光装置を備えている
ことを特徴とする半導体発光システム。
【請求項14】
前記第1の半導体発光装置の平均演色評価数Raの値が86以上であり、かつ、前記第2の半導体発光装置の平均演色評価数Raの値が86以上である
ことを特徴とする請求項13に記載の半導体発光システム。
【請求項15】
請求項1乃至12のいずれかに記載の半導体発光装置を備えている
ことを特徴とする照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−12711(P2013−12711A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−45422(P2012−45422)
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【特許番号】特許第5105132号(P5105132)
【特許公報発行日】平成24年12月19日(2012.12.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】