説明

単一ユニット抗体精製

本発明は、中間精製およびポリッシングの工程を少なくとも包含する、バイオリアクターにおいて生成されたタンパク質混合物からの抗体の精製のための方法に関し、当該中間精製およびポリッシング工程は、フロースルー様式での、インラインのアニオン交換クロマトグラフィー(AEX)処理および疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)処理を含む。本発明はさらに、アニオン交換クロマトグラフィー部分および疎水性相互作用クロマトグラフィー部分の両方を連続的に連結して含む単一操作ユニットに関し、当該ユニットは、アニオン交換クロマトグラフィー部分の上流端において入口を含みかつ疎水性相互作用クロマトグラフィー部分の下流端において出口を含み、当該ユニットはまた、アニオン交換クロマトグラフィー部分と疎水性相互作用クロマトグラフィー部分との間にも入口を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、抗体の単一ユニット精製のための方法および本方法において使用され得る装置に関する。
【0002】
薬学的用途における使用のための、細胞培養によって産生されるモノクローナル抗体の精製は、多数の工程を要する方法である。こうした抗体は、基本的に、あらゆる潜在的に有害な汚染物質(例えば、抗体を産生する細胞に由来するタンパク質およびDNA)、培地成分(例えば、インスリン、PEGエーテルおよび消泡剤)ならびに存在する可能性のあるあらゆる感染因子(例えば、ウイルスおよびプリオン)から分離されることになる。
【0003】
抗体をこれらのタンパク質を産生する細胞の培養物から精製するための典型的な方法は、BioPharm International Jun 1,2005,Downstream Processing of Monoclonal Antibodies:from High Dilution to High Purityに記載されている。
【0004】
抗体は細胞(例えば、ハイブリドーマ細胞または形質転換宿主細胞(チャイニーズハムスター卵巣(Chinese Hamster Ovary:CHO)細胞、マウス骨髄腫由来NS0細胞、ベビーハムスター腎臓(Baby Hamster Kidney:BHK)細胞およびヒト網膜由来PER.C6(登録商標)細胞など))により産生されるので、粒状細胞物質が、精製プロセスの好ましくは初期に、細胞ブロスから除去されなければならないであろう。プロセスのこの部分は、本明細書において、「清澄化」として示される。その次にまたは清澄化工程の一部として、抗体は、およそ少なくとも約80%まで、通常は結合と溶出のクロマトグラフィー工程(IgGの場合はしばしば固定化プロテインAを使用)を用いて、精製される。本明細書において「捕捉」として示されるこの工程は、抗体の最初のかなりの精製をもたらすだけでなく、体積のかなりの減少、したがって生成物の濃縮ももたらし得る。代替的な捕捉方法は、例えば、膨張床吸着(Expanded Bed Adsorption:EBA)、二液相分離(2−phase liquid separation)(例えばポリエチレングリコールを使用)またはリオトロピック塩(例えば、硫酸アンモニウム)を用いた分画沈殿である。
【0005】
清澄化および捕捉に続いて、抗体は、さらに精製される。一般的に、少なくとも2つのクロマトグラフィー工程が、残留不純物を十分に除去するために、捕捉後に必要とされる。捕捉に続くクロマトグラフィー工程は、しばしば中間精製工程と呼ばれ、最後のクロマトグラフィー工程は、一般にポリッシング工程と呼ばれる。一般的に、これらの工程は、各々、バッチ方式で単一ユニット操作として行われ、これらの工程のうちの少なくとも1つは、結合と溶出の様式で実施される。さらに、それぞれのクロマトグラフィー工程は、例えばpH、導電率などに関して、特異的な負荷条件を必要とする。したがって、負荷物(load)を要求条件に合うように調整するために、追加の処理が、それぞれのクロマトグラフィー工程に先立って行われなければならない。この上述の全てが、プロセスを複雑にし、時間のかかるものにする。これらの工程の間に一般に実質的に除去される不純物は、プロセス由来の汚染物質(例えば、宿主細胞タンパク質、宿主細胞核酸、培地成分(存在する場合)、プロテインA(存在する場合)、菌体内毒素(存在する場合)、および微生物(存在する場合))である。
【0006】
抗体のそのような精製のための多くの方法が、先行技術に記載されている。
−国際公開第2007/076032号パンフレットは、抗体(CTLA4−Igおよびその変異体)の精製方法であって、細胞培養物、その上澄み、またはアフィニティークロマトグラフィー後に得られるその画分を、アニオン交換クロマトグラフィーに供して溶出タンパク質生成物を得、この溶出タンパク質生成物を、濃縮したタンパク質生成物が得られるように疎水性相互作用クロマトグラフィーに供する、方法について記載している。この方法において、溶出タンパク質生成物は、まずアニオン交換クロマトグラフィー材料に抗体が捕捉され、続いてその交換クロマトグラフィー材料が洗浄緩衝液で洗浄され、その後、プロセス条件を変更する(溶出緩衝液を用いて溶出させる)ことによってそこから抗体が溶出されるというプロセスによって得られる。
−米国特許出願公開第2008/0167450号明細書は、Fc含有タンパク質(例えば、抗体)の精製であって、プロテインAカラムにそのタンパク質を結合させ、そしてpH勾配溶出系を用いて溶出させることによる、精製に関する。この文献は、疎水性相互作用クロマトグラフィーおよびアニオン交換クロマトグラフィーをフロースルー様式で適用することが望ましいことを記載している[段落0058〜0064)。
−国際公開第2008/025747号パンフレットは、プロテインAもしくはプロテインGクロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィーおよびヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーを含み、特にそれぞれをこの順に使用するプロセスでの、Fc−融合タンパク質の精製に関する。このプロセスにおいては、アニオン交換クロマトグラフィーおよびヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーの両方が、フロースルー様式で適用される。
−米国特許出願公開2007/0167612号明細書は、まずアフィニティーカラム(プロテインAカラムなど)に捕捉されるタンパク質(例えば、抗体)の精製に関する。その次にアフィニティーカラムからの溶出液が、アニオン交換材料と接触され、そこに抗体が結合し、続いて溶出される。さらなる精製のために、追加のクロマトグラフィーカラムおよび精製工程(追加のカチオン交換クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、および疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む)が使用され得る。
−国際公開第2001/072769号パンフレットは、高アニオン性タンパク質(例えば、硫酸化タンパク質)の精製について記載している。この目的のために、連続するアニオン交換および疎水性相互作用クロマトグラフィーが、両方とも結合および溶出の様式で使用された。
−国際公開第2009/058769号パンフレットは、抗体調製から不純物を除去する方法に関する。特に、この文献は、疎水性変異体を含有する抗体を精製する方法に関する。この目的のために、試料は、プロテインAカラム上に負荷され;適切な溶出溶液を用いてプロテインAカラムから溶出され、カチオンおよびまたはアニオン交換カラム上に負荷され;このイオン交換カラムから溶出され、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)カラム上に負荷され、ここで、このHICカラムはフロースルー様式であり、その後、精製物質が回収される。HICカラムのみがフロースルー様式で適用されることに留意されたい。
−欧州特許出願公開第1614694号明細書は、免疫グロブリンの精製および分離を扱っている。特に、この文献は、連続するプロテインA、アニオン交換およびカチオン交換カラム工程と、任意選択的にそれに続く疎水性相互作用カラム工程での、細胞培養物からの抗体の精製を扱っている。これらの工程のうち、アニオン交換カラム工程は、フロースルーで操作され、他の全ての工程は、結合および溶出の様式で操作される。
−国際公開第2008/051448号パンフレットは、抗体調製物中のプロテインA汚染を減少させることに関するものであり、この抗体調製物は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製される。このプロテインA汚染が、電荷変性デプスフィルターを使用して除去され得ることが示唆されている。抗体調製物のための従来の精製工程が、この除去工程に先立って、またはこの除去工程に続いて行われ得る。
−欧州特許第0530447号明細書は、特異的な殺菌工程と組み合わされる、アニオン、カチオンおよび疎水性相互作用クロマトグラフィーによる抗体精製について記載している。クロマトグラフィー工程の順序は可変である。クロマトグラフィー工程は、各々、結合および溶出の様式で操作される。
−Kuczewski,M.et al.(2009)[Biotechn.Bioengn.105,296−305]。抗体のポリッシングのための疎水性相互作用膜吸収体の使用について記載している。
−Chen,J.et al.(2008)[J.Chrom.A 1177,272−281]。抗体の精製における従来の疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂と新世代の疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂(混合様式など)との比較。
−Zhou,J.X.et al.(2006)[J.Chrom.A 1134 66−73]。疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーに代わるものとしての、疎水性相互作用膜吸収体の使用について記載している。
−Gottschalk,U.(2008)[Biotechnol.Prog.24,496−503]。膜吸着体の使用と比較した抗体精製におけるカラムクロマトグラフィーの不利点について検討している。
−Wang,C.et al.(2007)[J.Chrom.A 1155,74−84]。抗体材料からの微量汚染物質の除去(ポリッシング)のためのフロースループロセスにおける有核(cored)アニオン交換クロマトグラフィーの使用。非有核アニオン交換材料との比較。
−Azevedo,A.et al.(2008)[J.Chrom.A.1213,154−161]。水性二相抽出、疎水性相互作用クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーを組み合わせた抗体の精製のための統合プロセス。
−Boi,C.(2007)[J.Chrom.B.848,19−27]。このレビューは、モノクローナル抗体の精製のための捕捉およびポリッシング工程の代替技術としての、膜吸着体の使用を検討している。
【0007】
上記の方法の欠点は、長い操作時間、高い変動費(例えば、結合と溶出の工程に本来的に必要とされる大きいカラム容量の必要性、したがって費用がかさむ多量の樹脂が必要とされることによる)および高い固定費(人件費による)である。
【0008】
本発明によれば、細胞培養産生抗体からの残留不純物の非常に効率的な除去は、連続的なインラインのアニオン交換クロマトグラフィー(AEX)および疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を両方ともフロースルー様式で使用して、好ましくは1つの単一ユニット操作として操作することによって、達成され得る。AEX後およびHIC前のリオトロピック塩のインライン混合が、疎水性相互作用クロマトグラフィーに適した条件を整えるために使用され得る。
【0009】
共にフロースルー様式で使用される別個の連続的に連結されたインラインのAEXデバイスおよびHICデバイスを用いたこのプロセスの利点は、操作時間および人件費の大きな削減ならびにより低い操作費用である。また、十分な結合容量を不純物に対してのみ必要とし生成物に対しては必要としないフロースルー様式で全てのユニットを操作するので、より小さい(したがってより費用がかさまない)クロマトグラフィーユニットが必要とされる。
【0010】
したがって、本発明は、中間精製およびポリッシングの工程を少なくとも包含するバイオリアクターにおいて生成された細胞ブロスからの抗体の精製のための方法であって、当該新規精製工程は、連続的なインラインの、分離混合物をフロースルー画分として生成するアニオン交換クロマトグラフィー(AEX)処理と、それに続く、精製抗体調製物をフロースルー画分として生成する疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)処理とを含み、当該精製抗体調製物は、少なくとも1つのさらなる精製工程に供される、方法として規定され得る。
【0011】
本発明の文脈において、「分離混合物」は、本発明に従う第1のイオン交換工程の結果として生じる溶液であり、「精製抗体調製物」は、本発明に従う第2のイオン交換工程の結果として生じる溶液である。本出願の全体にわたってこの用語法に従うことが意図される。
【0012】
「連続的なインラインのAEXおよびHIC」により、AEXおよびHICが、AEXデバイスの流出物が中間的な保存なしに直接にHICデバイスに供給されるように連続的に連結されていることを意味する。
【0013】
本明細書において、「フロースルー様式」により、精製されるべき抗体がクロマトグラフィーデバイスを通過することが意味される。これは、抗体がまずクロマトグラフィー材料に結合し、次の工程で溶出される(すなわち、媒体条件または組成を変更することによって解放される)というような、抗体精製において一般に使用される「捕捉様式」と対照をなす。
【0014】
特定の実施形態において、本発明に従う方法は、AEXおよびHICでの処理が単一ユニット操作として行われることを含む。
【0015】
本明細書において、「単一ユニット操作」により、2つの連続的に連結されたクロマトグラフィーデバイス(AEXおよびHIC)が単一の操作工程で使用されることが意味される。
【0016】
概してバイオリアクターにおいて生成された細胞ブロスは、第1のイオン交換クロマトグラフィー工程に先立って、清澄化される(すなわち、あらゆる細胞物質(例えば、全細胞および細胞破片)から分離される)であろう。
【0017】
また、第1のイオン交換クロマトグラフィー工程に先立って、pHおよび導電率についてこの第1のイオン交換工程に最適な条件を確保するために、コンディショニング溶液が(細胞ブロスにまたは細胞物質から分離された抗体含有溶液に)添加され得る。
【0018】
本明細書において、「フロースルー画分」により、実質的に結合されることなくかつ/または実質的に溶出流体と同じ速度でクロマトグラフィーカラムから出て行く、負荷された抗体含有画分の少なくとも一部が意味される。好ましくは、この画分は、溶出の間、カラム上に実質的に保持されない。したがって、条件は、抗体ではなく不純物が、アニオン交換材料に結合され、疎水性相互作用材料に結合されるように選択される。
【0019】
アニオン交換および疎水性相互作用クロマトグラフィーでのタンパク質混合物の連続処理を使用したタンパク質の分離は、国際公開第2006/020622号パンフレットに開示されている。しかしながら、この文献では、両方(AEXおよびHIC)のクロマトグラフィーカラムが、結合と溶出の様式で使用されている。さらに、この処理は、2D電気泳動によるタンパク質混合物の分析に先立つ予備精製として記載されたものである。したがって、これは(非常に)小規模の分離であった。
【0020】
大規模生産目的のために、本発明に従う(フロースルー様式を用いた)方法は、結合および溶出を用いた先行開示された方法よりもはるかに速い、所望の抗体の分離を提供することが見出された。
【0021】
有利には、HIC処理前の抗体を含有する分離混合物に、適量のリオトロピック/コスモトロピック(kosmotropic)塩が補充される。この塩のアニオンは、好ましくは、リン酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、塩素酸イオン、ヨウ化物イオンおよびチオシアン酸イオンからなる群から選択され得る。この塩のカチオンは、好ましくは、アンモニウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびバリウムイオンからなる群から選択され得る。好ましい塩は、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムである。
【0022】
好ましくは、分離混合物への適量のリオトロピック塩の補充は、単一ユニット操作の一部である(例えば、HIC工程前のプロセス流れへ(例えば、混合チャンバーへ)の塩のインライン混合による)。
【0023】
本明細書において、「適量のリオトロピック塩」により、疎水性相互作用材料への関連不純物の大部分の吸着をもたらすのに十分なリオトロピック塩ではあるが、生成物の結合または沈殿を引き起こさないほど十分に少ない量が意味される。それぞれの精製プロセスについて、塩の最適な量および好ましい種類が確立されなければならない。硫酸アンモニウムが使用される場合には、インライン混合後の濃度は、大抵の場合、0.1〜1.0Mの間になるであろう。
【0024】
本発明に従うAEX処理は、樹脂を含有する典型的な充填床カラム、モノリス材料を含有するカラム、適切なクロマトグラフィー媒体を含有するラジアルカラム 吸着膜ユニット、または、アニオン交換体として機能するのに適切な媒体およびリガンドを用いる当該技術分野において知られている任意の他のクロマトグラフィーデバイスによって具現化され得るAEXユニットにおいて行われ得る。AEXカラムにおいて、クロマトグラフィー材料は、強カチオン性もしくは弱カチオン性リガンドが結合した粒状保持体として存在し得る。膜型アニオン交換体は、強カチオン性もしくは弱カチオン性リガンドが結合した1枚以上のシートの形態の保持体からなる。保持体は、有機材料もしくは無機材料または有機および無機材料の混合物からなり得る。好適な有機材料は、アガロースベースの媒体およびメタクリラートである。好適な無機材料は、シリカ、セラミックおよび金属である。膜形のアニオン交換体は、親水性ポリエーテルスルホン含有カチオン性リガンドからなり得る。好適な強カチオン性リガンドは、例えば第四級アミン基に基づく。好適な弱カチオン性リガンドは、例えば第一級、第二級もしくは第三級アミン基に基づくか、または当該技術分野において知られている任意の他の好適なリガンドである。
【0025】
本発明に従うHIC処理は、樹脂を含有する典型的なカラム、モノリス材料ベースのカラム、適切なクロマトグラフィー媒体を含有するラジアルカラム、吸着膜ユニット、または、疎水性相互作用材料として機能するのに適切なリガンドを用いる当該技術分野において知られている任意の他のクロマトグラフィーデバイスによって具現化され得るHICユニットにおいて行われ得る。HICカラムにおいて、クロマトグラフィー材料は、疎水性リガンドが結合した粒状保持体として存在し得る。膜様のクロマトグラフィーデバイスは、疎水性リガンドが結合した1枚以上のシートの形態の保持体からなる。保持体は、有機材料もしくは無機材料または有機および無機材料の混合物からなり得る。好適な有機保持体は、例えば、親水性炭水化物(例えば、架橋アガロース、セルロースまたはデキストラン)または合成コポリマー材料(例えば、ポリ(アルキルアスパルトアミド)(poly(alkylaspartamide))、2−ヒドロキシエチルメタクリラートおよびエチレンジメタクリラートのコポリマー、またはアシル化ポリアミン)からなる。好適な無機保持体は、例えば、シリカ、シリカ、セラミックおよび金属である。膜形のHICは、親水性ポリエーテルスルホン含有疎水性リガンドからなり得る。疎水性リガンドの好適な例は、直鎖もしくは分岐鎖のアルカン(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルまたはオクチル)、芳香族基(例えば、フェニル基)、エーテルまたはポリエーテル(例えば、ポリプロピレングリコール)である。
【0026】
本発明の方法に従って精製され得る抗体は、6.0以上、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.5以上の等電位pHを有する抗体である。これらの抗体は、Gクラス、AクラスまたはMクラスの免疫グロブリンであり得る。抗体は、ヒトもしくは非ヒト(例えば、齧歯類)またはキメラ(例えば、「ヒト化」)抗体であり得るか、上述の免疫グロブリンのサブユニットであり得るか、免疫グロブリン部分と別の(非免疫グロブリン)タンパク質由来のまたはそのような別のタンパク質と同一の部分とからなるハイブリッドタンパク質であり得る。
【0027】
驚くべきことに、合せたAEXおよびHIC処理の結果としてもたらされる抗体材料は、概して、少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.9%、さらにより好ましくは少なくとも99.99%という、非常に高い純度(タンパク質含有量をいう)を有するであろう。
【0028】
本発明に従うアニオン交換クロマトグラフィー工程は、好ましくは、中性または僅かにアルカリ性のpHで実施される。この工程は、DNA、宿主細胞タンパク質、プロテインA(存在する場合)、ウイルス(存在する場合)、タンパク質培地成分(例えば、インスリンおよびインスリン様成長因子)(存在する場合)などの、負に帯電した不純物を除去するであろう。
【0029】
次の疎水性相互作用クロマトグラフィー工程の間に、主要な残りの大分子不純物(large molecular impurities)(主として生成物凝集体)が、それらが単量体生成物よりも疎水性であるという性質を利用し、それらが生成物が貫流する間にクロマトグラフィーデバイスに結合することになるような条件を設定して、除去されるであろう。
【0030】
続いて、あらゆる残留低分子量不純物を除去し、緩衝液を最終製剤緩衝液(final formulation buffer)と交換し、所望の最終生成物濃度を調整するために、高度に精製された材料は、概して、限外濾過およびダイアフィルトレーションによって処理されなければならないであろう。この工程はまた、添加されたリオトロピック塩の除去を確実なものにする。
【0031】
さらに、高度に精製された材料は、概して、存在する可能性のある感染因子(例えば、ウイルスおよび/またはプリオン)の完全な除去を確実なものにするためにも処理されなければならないであろう。
【0032】
本発明はまた、アニオン交換クロマトグラフィー部分(AEX)および疎水性相互作用クロマトグラフィー部分(HIC)の両方を連続的に連結して含む単一操作ユニットに関する。この単一操作ユニットはさらに、アニオン交換クロマトグラフィー部分の上流端において入口を含み、かつ疎水性相互作用クロマトグラフィー部分の下流端において出口を含む。この単一操作ユニットはまた、アニオン交換クロマトグラフィー部分と疎水性相互作用クロマトグラフィー部分との間に連結部も含み、これが、後の方の部分への、したがって分離混合物への、リオトロピック塩溶液の供給のための入口をさらに含む。
【0033】
本発明に従うプロセスの間の液体流れは、任意の市販のデュアルポンプクロマトグラフィーシステム(例えば、AKTAエクスプローラー(GE)、BIOPROCESS(GE))、任意のデュアルポンプHPLCシステム、または図1の図に従う任意の特別仕様のデバイスによって確立され得る。こうしたクロマトグラフィーデバイスの多くは、単一のクロマトグラフィーユニット(すなわち、カラムまたは膜)を操作するように設計されている。簡単な改造により、追加の連結が、ポンプAの後から混合チャンバーまでにアニオン交換を設けるために行われ得る。
【0034】
図1は、基本構成を示すものである。図1に示されるような位置の任意選択のプレフィルターを加えた2つのクロマトグラフィーデバイスの連続的なインライン連結は、望ましくない圧力増大に繋がり得る。したがって、状況によっては、追加の技術的改良(例えば、AEXユニット後の追加のポンプおよびAEXユニット前の減圧デバイス)が、この図に含まれなければならないことがあり得る)。
【図面の簡単な説明】
【0035】
[図面の説明]
【図1】アニオン交換クロマトグラフィー部分および疎水性相互作用クロマトグラフィー部分の両方を含む単一操作ユニット。緩衝液Aは、AEX工程の最適な操作に適したコンディショニングおよび洗浄緩衝液である。緩衝液Bは、リオトロピック塩を含有しており、HIC工程の操作に最適な条件を得るために必要とされる、負荷物/緩衝液Aに対する比で混合される。この混合比は、一定の体積混合流量(fixed volumetric mixing flow)を用いて達成され得るか、またはフィードバックループによって、例えば導電率出力に基づき、自動制御され得る。MCは、任意の種類の静的混合機を含有し得る、任意選択の混合チャンバーである。L=負荷物PA=ポンプAPB=ポンプBAEX=アニオン交換ユニットHIC=疎水性相互作用クロマトグラフィーユニットpH=pHセンサーσ=導電率センサーPF=任意選択のプレフィルター
【0036】
[実施例]
[材料および方法]
全ての試験を、ヒト細胞株PER.C6のクローンP419によって産生されたIgG1を用いて実施した。
【0037】
培養を、化学的に規定された培地を使用して流加バッチで実施し、その後、細胞を、ZetaPlus 10M02P、ZetaPlus 60ZA05およびSterAssure PSA020(全てCuno(3M)から)の三段デプス濾過フィルター列によって除去した。
【0038】
この清澄化した採取物は、7.5g/LのIgGを含有するものであり、2〜8℃で保存した。
【0039】
まず、標準的なプロテインAクロマトグラフィーによる最初の精製を、MabSelect(GE)を使用し、標準的な手順(清澄化採取物を負荷し、まず20mM Tris+150mM NaClで洗浄し、次にpH5.5の緩衝液で洗浄し、緩衝液pH3.0を用いて溶出させる)を用いて実施した。次の精製のための最適化緩衝液条件を見出すために、2番目の洗浄および溶出は、100mMアセタート緩衝液または100mMシトラート緩衝液を用いて実施した。
【0040】
MabSelect溶出後、溶出ピークを回収し、1時間にわたってpH3.5に維持した。その後、導電率を5.0mSに設定するために、試料を2M Tris pH9.0を使用してpH7.4に中和し、脱塩水を用いて希釈し、そして0.22μmで濾過した。
【0041】
こうして得られた材料は、アセタートTris緩衝液またはシトラートTris緩衝液中の予備精製したIgGであった。この材料を用いて、次の3つの一連の試験を実施した。1.フロースルー様式でのAEXクロマトグラフィーに最適な条件を確立する(試験1)。2.フロースルー様式でHI−クロマトグラフィーを使用して最適条件を確立する(試験2)。3.最適化されたAEX条件およびHIC条件の両方を1つの単一ユニット操作試験において組み合わせる(実施例1)。
【0042】
HCPは、多クローン性抗PER.C6 HCPを用いてELIZAによって測定した。
【0043】
単量体IgGおよび凝集体の濃度は、標準的な手順に従って、サイズ排除クロマトグラフィー(HP−SEC)によって測定した。
【0044】
[試験1]
[フロースルー様式でのアニオン交換クロマトグラフィーに最適な条件を確立する]
フロースルー様式でのAEXクロマトグラフィーを、上述のアセタートTris緩衝液またはシトラートTris緩衝液中の予備精製したIgGを使用して実施した。以下のAEX媒体を試験した:Mustang Qコイン(0.35mL)(Pall)、Sartobind Qカプセル(1mL)、ChromaSorbカプセル(0.08mL)(Millipore)(全て膜吸着体)、およびPoros 50 HQ樹脂(applied Biosystems)(1mL充填床)を使用した充填床カラム。
【0045】
全てのAEX媒体を、40床体積/時間でAKTAエクスプローラーを使用して、フロースルーで実施した。コンディショニングおよび洗浄緩衝液は、100mMアセタートTris pH7.4(アセタート緩衝液中の生成物試験用)または100mMシトラートTris pH7.4(シトラート緩衝液中の生成物試験用)を用いた。各AEX媒体上に負荷した生成物の量は、1.5g/mL膜またはカラム床体積であった。
【0046】
HCPを、クロマトグラフィー工程の前後で測定した。HCP除去は、AEXクロマトグラフィー性能として最も重要であると考えられる。HCPの対数減少値は、前述のアニオン交換体について、それぞれ1.9、1.7、1.8および2.1であった(全て単独試験)。シトラートマトリックスを使用すると、全てのAEX媒体の性能が著しく劣り、Mustang Q、ChromasorbおよびPoros 50 HQについては、それぞれ1.2、0.2および1.3というHCP対数減少値を結果としてもたらした。これらの結果は、試験した全てのAEXクロマトグラフィー媒体が、アセタート緩衝液を使用してHCPを実質的に除去するのに適していることを示し、これらの条件下においてほぼ同じHCP対数減少値を示した。
【0047】
[試験2]
[フロースルー様式で疎水性相互作用クロマトグラフィーを使用して最適条件を確立する]
HIC工程について、次の4種の樹脂を試験した:Phenyl Sepharose FF lowsub(GE)、Toyopearl PPG 600(Tosoh)、Toyopearlフェニル600(Tosoh)、Toyopearlブチル600(Tosoh)。
【0048】
これらの試験については、予備精製したIgGは、100mMアセタートTris緩衝液pH7.4、導電率5.0mS中のものであった。さらに、MabSelect予備精製IgG含有材料を、凝集体の量をおよそ20%に増加させるために、40分間pH4および50℃でインキュベートした。
【0049】
コンディショニングおよび洗浄には、100mMアセタートTris緩衝液pH7.4、導電率5.0mS(緩衝液A)を、特定の体積パーセントの緩衝液Bとインライン混合して使用した。緩衝液Bは、100mMアセタートTris緩衝液pH7.4中に2M硫酸アンモニウムを含有したものであった。全ての樹脂を、緩衝液Bとの体積ベースでのインライン混合を生成物負荷の間に使用して試験した。負荷物/緩衝液Aおよび緩衝液Bについてのいくつかのパーセント比を、各樹脂について試験した。カラム体積は全て1mLであり、流量は100mL/時間であり、負荷物中のIgGの量は0.29g/Lであり、100mLを負荷した。
【0050】
負荷物およびフロースルー物の両方をサンプリングし、分析した。
【0051】
Toyopearlフェニル600、Toyopearlブチル600の両方は、0%Bですでに、凝集体ばかりでなくIgGの大部分と結合した。したがって、これらの樹脂が、適用した条件下でのP419 IgGを使用したフロースルー様式での凝集体除去に適していないと結論づけた。
【0052】
Phenyl Sepharose FF lowsub(示さず)、Toyopearl PPG 600(表1参照)の両方が、硫酸アンモニウム含有緩衝液Bの特定の比率でのインライン混合を使用したフロースルーにおいて良好な凝集体除去をもたらした。
【0053】
【表1】



【0054】
[実施例1]
1つの単一ユニット操作における最適化したAEX条件およびHIC条件でのIgGの精製。
【0055】
AEXユニットおよびHICユニットを、図1の図に示されるように、連続的にインライン連結した。AEXには、Mustang Qコインを使用し、HICには、3mLのToyopearl PPG 600樹脂を含有するカラムを使用した。
【0056】
生成物負荷前の樹脂コンディショニングには、100mMアセタートTris緩衝液pH7.4、導電率5.0mSを使用した(緩衝液A)。同時に、緩衝液Bを、22%の体積比でインライン混合した。緩衝液Bは、100mMアセタートTris緩衝液pH7.4中に2M硫酸アンモニウムを含有したものであった。
【0057】
予備精製したIgGの負荷は、緩衝液Aのポンプ輸送を停止している間に、IgGを緩衝液Aと同様の流量でポンプ輸送することによって開始した。4.37gのIgGを含有する362mLの量を負荷した。負荷の完了後、このシステムから全ての生成物を回収するために、ポンプを緩衝液Aに戻した。その後、緩衝液Bのインライン混合を停止することによってHICユニットをストリッピングした、したがって100%緩衝液A(別個に回収される)を使用する。全試験の間、HICを通る流量は、185mL/時間であった。合計時間(コンディショニング、洗浄およびストリッピングを含む)は、3.5時間であった。負荷物およびフロースルー物の両方を、IgG凝集体比、DNA含有量、HCP含有量およびタンパク質(生成物)含有量(A280)について分析した。HCP減少は、>log2.3であった(フロースルー中のHCPの量はLoD未満であった)。凝集体の量は、負荷物中5.8%、フロースルー物中1.2%であった。A280に基づく全生成物回収率は、ストリッピングなしでは86.7%であり、ストリッピングを含むと90.1%であった。
【0058】
[使用した略語]
280 280nmでの(光)吸収
AEX アニオン交換クロマトグラフィー
BHK細胞 ベビーハムスター腎臓細胞
CHO細胞 チャイニーズハムスター卵巣細胞
EBA 膨張床吸着
HCP 宿主細胞タンパク質
HIC 疎水性相互作用クロマトグラフィー
HPLC 高圧液体クロマトグラフィー
IgG 免疫グロブリンG
LoD 検出限界
TFF 接線流濾過
Tris トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間精製およびポリッシングの工程を少なくとも包含する、バイオリアクターにおいて生成されたタンパク質混合物からの抗体の精製のための方法であって、前記中間精製およびポリッシング工程は、連続的なインラインの、分離混合物をフロースルー画分として生成するアニオン交換クロマトグラフィー(AEX)と、それに続く、精製抗体調製物をフロースルー画分として生成する疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)とを含み、前記精製抗体調製物は、少なくとも1つのさらなる精製工程に供される、方法。
【請求項2】
アニオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性相互作用クロマトグラフィーが、連続的に連結された2つの別個のデバイスにおいて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記連続的なインラインのAEXおよびHICが、単一ユニット操作として行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
HIC前の前記分離混合物に、適量のリオトロピック塩が補充される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
HIC前の前記分離混合物に、適量の硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムが補充される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
アニオン交換クロマトグラフィー部分および疎水性相互作用クロマトグラフィー部分の両方を連続的に連結して含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法において使用され得る単一操作ユニットであって、前記アニオン交換クロマトグラフィー部分の出口は、前記疎水性相互作用クロマトグラフィー部分の入口に連結されており、前記ユニットは、前記アニオン交換クロマトグラフィー部分の上流端に入口を含みかつ前記疎水性相互作用クロマトグラフィー部分の下流端において出口を含み、前記ユニットはまた、前記アニオン交換クロマトグラフィー部分と前記疎水性相互作用クロマトグラフィー部分との間にも入口を含む、単一操作ユニット。

【図1】
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【公表番号】特表2013−519652(P2013−519652A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552397(P2012−552397)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際出願番号】PCT/EP2011/051975
【国際公開番号】WO2011/098526
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】