説明

原子炉の非常用冷却装置

【課題】長期間にわたり蒸気を復水させ続けることを可能にする。
【解決手段】非常時に炉心の崩壊熱によって発生した蒸気を導入して冷却する非常用復水器1と、非常用復水器1にその熱を利用して自然循環で冷却水3を循環させる第1の冷却系2と、冷却水3を冷却する熱交換器4と、熱交換器4にその熱を利用して自然循環で冷却用の海水を海20から循環させる第2の冷却系5を備えている。海水を最終ヒートシンクにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の非常用冷却装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、非常時に炉心の崩壊熱によって発生した蒸気を冷却して復水させる非常用復水器を備える非常用冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非常時に炉心の崩壊熱によって発生した蒸気を冷却して復水させる非常用復水器を備える原子炉がある(例えば、特開平5−256976号公報)。この原子炉を図5に示す。圧力容器101の上には非常用復水器プール102が設けられており、非常用復水器プール102内に非常用復水器103が設置されている。非常用復水器103は非常用復水器プール102内の冷却水によって冷却される。
【0003】
圧力容器101からドライウェル104に放出された蒸気が圧力抑制プール105内の冷却水の温度上昇に伴って凝縮され難くなると、ドライウェル104内の蒸気が配管106から非常用復水器103に導かれて冷却され復水される。復水は、遠隔操作の仕切り弁107が開かれることで配管108を通ってスプレイノズル109から圧力抑制室110内にスプレイされる。復水のスプレイによって圧力抑制室110内の蒸気が凝縮され、圧力抑制室110内の圧力上昇が抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−256976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の原子炉では、非常用復水器103を非常用復水器プール102内に設置し、この非常用復水器プール102内の冷却水によって非常用復水器103を冷却しているので、冷却水を供給するためのポンプ等を不要にできるが、非常用復水器プール102内に大量の冷却水を貯えておくことができず、長期間にわたり蒸気を復水させ続けることができない。
【0006】
本発明は、長期間にわたり蒸気を復水させ続けることが可能な原子炉の非常用冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の原子炉の非常用冷却装置は、非常時に炉心の崩壊熱によって発生した蒸気を導入して冷却する非常用復水器と、非常用復水器にその熱を利用して自然循環で冷却水を循環させる第1の冷却系と、冷却水を冷却する熱交換器と、熱交換器にその熱を利用して自然循環で冷却用の海水を海から循環させる第2の冷却系を備えている。
【0008】
したがって、非常時に非常用復水器に導かれた蒸気は第1の冷却系によって冷却され、復水される。蒸気を冷却した熱は第1の冷却系→熱交換器→第2の冷却系へと伝達され、海に放出される。即ち、海水を最終ヒートシンクとしている。第1の冷却系は温度差による冷却水の密度差を利用した自然循環によって冷却水を循環させ、第2の循環系は温度差による海水の密度差を利用した自然循環により海水を循環させるので、自然の力を利用して熱の運搬を行うことができる。
【0009】
また、請求項2記載の原子炉の非常用冷却装置は、非常用復水器は冷却水の流入口よりも流出口が高くなっており、第1の冷却系は、非常用復水器よりも低い位置に設けられ、熱交換器を収容する加圧タンクと、加圧タンク内の冷却水を非常用復水器に導く供給通路と、非常用復水器を通り抜けて加熱された冷却水を加圧タンク内に導く戻り通路と、戻り通路内の冷却水を冷却して下向きの自然循環力を発生させる冷却手段と、加圧タンク内の冷却水を加圧して流路の最も高い位置まで冷却水を満たす加圧手段を備え、非常用復水器による加熱と冷却手段による冷却とで冷却水を自然循環させるものである。
【0010】
したがって、第1の冷却系が冷却水を加圧タンク→供給通路→非常用復水器→戻り通路→加圧タンクへと循環させるループとなる。このループは、加圧タンクよりも非常用復水器が高い位置に配置され、非常用復水器の流入口よりも流出口が高い位置に配置されているので、低い位置(加圧タンク)→高い位置→低い位置(加圧タンク)へと戻るループとなる。したがって、冷却水が加熱される非常用復水器では上昇力が発生し、冷却水が冷却される戻り通路では下降力が発生し、全体としてループ内を循環する冷却水の流れが形成される。冷却水は加圧手段によって加圧されているので、ループの最上端にまで冷却水が持ち上げられて満たされており、冷却水の循環が可能になっている。
【0011】
また、請求項3記載の原子炉の非常用冷却装置は、冷却手段が、加圧タンク内の冷却水を吸い上げて戻り通路内の冷却水を冷却した後に放熱させながら加圧タンク内へと戻す循環路を備えており、戻り通路内の冷却水による加熱と放熱による冷却とで循環路内の冷却水を自然循環させるものである。
【0012】
したがって、冷却手段が加圧タンク内の冷却水を吸い込んで第1の冷却系の戻り通路の周囲を循環させて加圧タンクに戻すループとなる。このループは、加圧タンクよりも戻り通路が高い位置に配置されているので、低い位置(加圧タンク)→高い位置→低い位置(加圧タンク)へと戻るループとなる。したがって、戻り通路内の冷却水を冷却する部位では冷却水が加熱されて上昇力が発生し、放熱を行う部位では冷却水が冷却されて下降力が発生し、全体としてループ内を循環する冷却水の流れが形成される。冷却水は加圧手段によって加圧されているので、ループの最上端にまで冷却水が持ち上げられて満たされており、冷却水の循環が可能になっている。また、加圧タンク内の冷却水を循環させるので、第1の冷却系と同じ冷却水を使用して冷却を行うことができる。
【0013】
また、請求項4記載の原子炉の非常用冷却装置は、熱交換器は海水の流入口よりも流出口が高くなっており、第2の冷却系は、海水を海から熱交換器に導く取水通路と、熱交換器を通り抜けて加熱された海水を海に導く排水通路を備え、取水通路の取水口は排水通路の排水口よりも低い位置に設けられている。
【0014】
したがって、第2の冷却系が冷却用の海水を海→取水通路→熱交換器→排水通路→海へと循環させるループとなる。このループは、取水通路の取水口よりも排水通路の排水口が高い位置に配置されると共に、熱交換器の流入口よりも流出口が高い位置に配置されているので、海水が加熱される熱交換器では上昇力が発生し、全体としてループ内を自然循環する海水の流れが形成される。
【0015】
また、請求項5記載の原子炉の非常用冷却装置は、沸騰水型原子炉に設けられ、圧力容器内の蒸気を非常用復水器に循環させるものである。したがって、沸騰水型原子炉に適用することができる。
【0016】
さらに、請求項6記載の原子炉の非常用冷却装置は、加圧水型原子炉に設けられ、蒸気発生器で発生した蒸気を非常用復水器に循環させるものである。したがって、加圧水型原子炉に適用することができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の原子炉の非常用冷却装置では、海水を最終ヒートシンクとしているので、熱容量が膨大であり、長期間にわたり非常用復水器の冷却を継続することができる。そのため、長期間にわたり炉心の崩壊熱の除去が可能になる。また、自然の力を利用して熱を最終ヒートシンクに伝達するので、発電機やポンプ等の動力源が不要であり、静的安全系(Passive Safety System)を構成することができる。
【0018】
また、請求項2記載の原子炉の非常用冷却装置では、第1の冷却系が高低差を有するループになり、非常用復水器による加熱と冷却手段による冷却とで冷却水に位置的な温度差を形成することができるので、冷却水を自然循環させることができる。このため、動力を使わずに冷却水を循環させて非常用復水器を冷却し続けることができる。
【0019】
また、請求項3記載の原子炉の非常用冷却装置では、冷却手段が高低差を有するループになり、第1の冷却系の戻り通路との熱交換による加熱と放熱による冷却とで冷却水に位置的な温度差を形成することができるので、冷却水を自然循環させることができる。このため、動力を使わずに冷却水を循環させて第1の冷却系の戻り通路を冷却し続けることができる。また、第1の冷却系と同じ冷却水を使用して冷却を行うことができるので、わざわざ別の冷却水を準備しておく必要がなくなり、装置の複雑化、大型化を防止することができる。
【0020】
また、請求項4記載の原子炉の非常用冷却装置では、第2の冷却系が高低差を有するループになり、熱交換器による加熱によって海水に位置的な温度差を形成することができるので、海水を自然循環させることができる。このため、動力を使わずに海水を循環させて第1の冷却系の冷却水を冷却し続けることができる。
【0021】
また、請求項5記載の原子炉の非常用冷却装置のように、沸騰水型原子炉の圧力容器内の蒸気を非常用復水器に循環させるようにすることで、沸騰水型原子炉に適用することができる。
【0022】
さらに、請求項6記載の原子炉の非常用冷却装置のように、加圧水型原子炉の蒸気発生器で発生した蒸気を非常用復水器に循環させるようにすることで、加圧水型原子炉に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の原子炉の非常用冷却装置の実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図2】第1の冷却系の戻り通路及び冷却手段を示し、(A)は折り返し部近傍の概略構成図、(B)は(A)のA−A’線に沿う断面の概略構成図である。
【図3】本発明の原子炉の非常用冷却装置を沸騰水型原子炉に適用した場合の例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の原子炉の非常用冷却装置を加圧水型原子炉に適用した場合の例を示す概略構成図である。
【図5】従来の非常用復水器を備えた原子炉を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1及び図2に、本発明の原子炉の非常用冷却装置の実施形態の一例を示す。原子炉の非常用冷却装置(以下、単に非常用冷却装置という)は、非常時に炉心の崩壊熱によって発生した蒸気を導入して冷却する非常用復水器1と、非常用復水器1にその熱を利用して自然循環で冷却水3を循環させる第1の冷却系2と、冷却水3を冷却する熱交換器4と、熱交換器4にその熱を利用して自然循環で冷却用の海水を海から循環させる第2の冷却系5を備えるものである。
【0026】
非常用復水器1は蒸気を第1の冷却系2の冷却水3によって冷却して凝縮させるものであり、本実施形態では蒸気/水側の流路1a内に第1の冷却系2の冷却水3側の流路1bを設けている。かかる構成にすることで、冷却水3側の流路1b内に蒸気/水側の流路1aを設ける構成に比べて、圧力容器から導入した蒸気の境界(圧力バウンダリ)を単純な形状にすることができ、安全上より一層有利である。ただし、冷却水3側の流路1b内に蒸気/水側の流路1aを設けても良く、この場合であっても安全的な問題は特に生じない。本実施形態の非常用復水器1は縦型であり、上下方向にそって各流路1a,1bが形成されている。
【0027】
蒸気引き込み管6は非常用復水器1の側面の上部に、復水戻し管7は非常用復水器1の側面の下部にそれぞれ接続されており、蒸気は蒸気/水側の流路1a内を上から下に向けて流れながら冷却される。蒸気引き込み管6の途中には遠隔操作で流路を開閉する第1の制御弁8が設けられている(図3,4参照)。第1の制御弁8を開くことで、蒸気の導入が可能になる。第1の制御弁8はスクラム等による原子炉の運転停止によって自動的に開操作されるが、作業員が手動によって開操作することもできる。
【0028】
非常用復水器1は後述する圧力容器(沸騰水型原子炉)又は蒸気発生器(加圧水型原子炉)よりも高い位置に設けられており、第1の制御弁8を開くだけで圧力容器又は蒸気発生器から蒸気を導入し、復水を重力を利用して戻すことができる。
【0029】
冷却水3の流出口1cは流入口1dよりも高い位置に設けられており、冷却水3は冷却水3側の流路1b内を下から上に向けて流れながら加熱される。本実施形態では、非常用復水器1の底面に流入口1dが、上面に流出口1cが設けられている。冷却水3側の流路1bは多数のパイプを並列に並べた構成であり、冷却水3の流れを流入口1dから各パイプへと分岐させた後、各パイプから流出口1cへと集合させている。
【0030】
第1の冷却系2は、非常用復水器1よりも低い位置に設けられ、熱交換器4を収容する加圧タンク9と、加圧タンク9内の冷却水3を非常用復水器1に導く供給通路10と、非常用復水器1を通り抜けて加熱された冷却水3を加圧タンク9内に導く戻り通路11と、戻り通路11内の冷却水3を冷却して下向きの自然循環力を発生させる冷却手段12と、加圧タンク9内の冷却水3を加圧して流路の最も高い位置まで冷却水3を満たすようにする加圧手段13を備え、非常用復水器1による加熱と冷却手段12による冷却とで冷却水3を自然循環させるものである。
【0031】
加圧タンク9は密閉されており、冷却水3と天板9aとの間には加圧手段13として圧縮空気が封入されている。圧縮空気、圧縮した不活性ガス等の圧縮ガスを封入することで、冷却水3を加圧できると共に、冷却水3の液面変動を吸収することができる。また、冷却水3を加圧することで、流路の最も高い位置まで冷却水3を持ち上げることができる他、冷却水3の沸騰が非常用復水器1でのみ生じるようにしている。なお、冷却水3を沸騰させないようにしても良い。冷却水3としては、例えば淡水が使用されている。淡水を使用することで、例えば海水を使用する場合に比べて配管を腐食し難くすることができる。ただし、必ずしも淡水に限るものではなく、海水等の使用も可能である。本実施形態では海辺の地面を掘り下げて加圧タンク9を設けている。
【0032】
なお、加圧手段13として、加圧タンク9内の圧縮ガスが封入されている空間に連通するアキュームレータやポンプ等の圧力源を設けておき、漏れ等により当該空間の圧力が低下した場合や非常時に圧力を供給するようにしても良い。
【0033】
供給通路10は加圧タンク9内の冷却水3中から延び、天板9aを貫通して上昇し、非常用復水器1の底面の流入口1dに接続されている。また、戻り通路11は非常用復水器1の上端とほぼ同じ高さの位置から下方に向けて延び、加圧タンク9の天板9aを貫通し、冷却水3中へと下降している。供給通路10の取水口10aは戻り通路11の排水口11aよりも低い位置に配置され、加圧タンク9内のより温度の低い冷却水3を取水することができる。非常用復水器1の流出口1cと戻り通路11の上端は接続通路15で接続されており、加圧タンク9内の冷却水3を加圧タンク9→供給通路10→非常用復水器1の冷却水3側の流路1b→接続通路15→戻り通路11→加圧タンク9へと循環させるループ(流路)を構成する。このループは、その配管が下から上に向かう部分と非常用復水器1による冷却水3の加熱部分とが一致し、その配管が上から下に向かう部分と冷却手段12による冷却水3の冷却部分とが一致しており、加熱・冷却による自然循環に適したループとなっている。
【0034】
第1の冷却系2のループの最も高い位置、本実施形態では接続通路15の途中位置には、ループ内を冷却水3で満たす場合にループ内の空気を抜くための排気弁16が設けられている。加圧手段13によって冷却水3を加圧し、排気弁16を開けて空気を抜きながらループ内の冷却水3の水位を上げてループ内を冷却水3で満たすようにしている。排気弁16はループ内に冷却水3を入れる場合にのみ使用され、非常用冷却装置の待機時及び作動時には閉じている。
【0035】
接続通路15の途中には遠隔操作されて流路を開閉する第2の制御弁17が設けられている。第2の制御弁17を開くことで冷却水3の循環が可能になる。第2の制御弁17はスクラム等による原子炉の運転停止によって自動的に開操作されるが、作業員が手動によって開操作することもできる。
【0036】
冷却手段12は、加圧タンク9内の冷却水3を吸い上げて戻り通路11内の冷却水3を冷却した後に放熱させながら加圧タンク9内へと戻す循環路18を備えており、戻り通路11内の冷却水3による加熱と放熱による冷却とで循環路18内の冷却水3を自然循環させるものである。
【0037】
本実施形態の循環路18は、戻り通路11内の冷却水3を冷却する冷却通路18cと、冷却によって温度上昇した循環路18内の冷却水3の温度を下げる放熱通路18dを備えている。冷却通路18cは戻り通路11内に、放熱通路18dは戻り通路11の外側に設けられている。放熱通路18dは加圧タンク9の天板9aを貫通している。冷却通路18c及び放熱通路18dは例えば複数のパイプより構成され、それらの上端は戻り通路11の上端近傍に設けられたヘッダー18eに接続されている。循環路18の取水口18bは排水口18aよりもが低い位置に設けられている。排水口18aである放熱通路18dの下端は戻り通路11の下端である排水口11aとほぼ同じ高さに設けられている。また、取水口18bである冷却通路18cの下端は供給通路10の下端である取水口10aとほぼ同じ高さに設けられている。冷却通路18cの取水口18bを放熱通路18dの排水口18aよりも低い位置に配置することで、加圧タンク9内のより温度の低い冷却水3を取水することができる。冷却手段12は、加圧タンク9内の冷却水3を加圧タンク9→冷却通路18c→ヘッダー18e→放熱通路18d→加圧タンク9へと循環させるループ(流路)を構成する。このループは、その配管が下から上に向かう部分と戻り通路11による冷却水3の加熱部分とが一致し、その配管が上から下に向かう部分と放熱による冷却水3の冷却部分とが一致しており、加熱・冷却による自然循環に適したループとなっている。
【0038】
冷却手段12のループの最も高い位置、本実施形態ではヘッダー18eにはループ内を冷却水3で満たす場合にループ内の空気を抜くための排気弁19が設けられている。加圧手段13によって冷却水3を加圧し、排気弁19を開けて空気を抜きながらループ内の冷却水3の水位を上げてループ内を冷却水3で満たすようにしている。排気弁19はループ内に冷却水3を入れる場合にのみ使用され、非常用冷却装置の待機時及び作動時には閉じている。
【0039】
冷却手段12は冷却媒体として加圧タンク9内の冷却水3を使用しているが、その取水口18bは排水口18aや戻り通路11の排水口11aよりも低い位置に設けられており、より低温の冷却水3を吸い込むので、戻り通路11内の冷却水3(より高温の冷却水3)を冷却することができる。
【0040】
本実施形態では、加圧タンク9内に1基の熱交換器4を設けている。ただし、熱交換器4の数は1基に限るものではなく、加圧タンク9内の冷却水3の冷却能力等に応じて適宜決定される。
【0041】
本実施形態の熱交換器4は冷却水3中に多数のパイプを並列に並べたものであり、各パイプの下端は海水の流入口4aが設けられた分岐部4bに、上端は海水の流出口4cが設けられた集合部4dにそれぞれ接続されている。本実施形態の熱交換器4は縦型であり、各パイプを上下方向に向けており、流入口4aよりも流出口4cを高くして第2の冷却系5の海水の自然循環を容易にしている。
【0042】
第2の冷却系5は、海水を海20から熱交換器4に導く取水通路21と、熱交換器4を通り抜けて加熱された海水を海20に導く排水通路22を備えている。取水通路21は熱交換器4の流入口4aに接続され、排水通路22は熱交換器4の流出口4cに接続されている。取水通路21及び排水通路22は加圧タンク9の側壁9bを貫通し、海水中に突出している。取水通路21の取水口21aは排水通路22の排水口22aよりも低い位置に設けられている。第2の冷却系5は、冷却用の海水を海20→取水通路21→熱交換器4の各パイプ→排水通路22→海20へと循環させるループ(流路)を構成する。このループは、その配管が下から上に向かう部分と熱交換器4による海水の加熱部分とが一致し、下の取水口21aから吸い込んだ海水を上の排水口22aから排出する構成であり、加熱による自然循環に適したループとなっている。
【0043】
本実施形態の非常用冷却装置は沸騰水型原子炉に設けられている(図3)。なお、図3中、符号23は炉心、符号24は圧力容器、符号25は格納容器、符号26はサプレッションプールである。沸騰水型原子炉では圧力容器24内で蒸気が発生するので、この蒸気を非常用復水器1に循環させるために蒸気引き込み管6は圧力容器24の上部に接続されている。また、非常用復水器1による復水を圧力容器24内に戻すために、復水戻し管7は圧力容器24の下部に接続されている。
【0044】
非常用冷却装置の地上部分は、例えば原子炉建屋(図示省略)内に収容され、建屋の壁等にしっかりと支持されている。また、加圧タンク9は屋外の地下に設けられている。
【0045】
上述の各ループを構成する配管は、全長にわたってストレートである必要はなく、曲がった部分があっても良い。また、流れが上昇する部分や下降する部分は垂直であることが好ましいが、必ずしも垂直である必要はなく、斜めでも良い。また、各ループに部分的な水平部分があっても良い。自然循環できればその形状は制限されない。
【0046】
本実施形態では、1基の非常用復水器1に対して1ループの第1の冷却系2を設けると共に、1ループの第1の冷却系2に対して1基の熱交換器4と1ループの第2の冷却系5を設けている。ただし、非常用復水器1、第1の冷却系2、熱交換器4、第2の冷却系5の数の対応はこれに限るものではなく、非常用復水器1によって蒸気を冷却した熱を海20へと伝達できるように適宜決定される。なお、第1の冷却系2として複数のループを設けた場合には、各ループ毎に専用の加圧タンク9を設けても良いし、複数のループで同じ加圧タンク9を共有しても良い。
【0047】
次に、非常用冷却装置の作動について説明する。非常用冷却装置は例えばスクラム等によって原子炉の運転が停止された後の炉心23の崩壊熱を除去するのに使用され、通常運転時には待機状態となっている。待機状態では2つの制御弁8,17は閉じられている。
【0048】
スクラム等により原子炉の運転が自動的に停止されると、第1の制御弁8及び第2の制御弁17が開操作される。これにより、非常用冷却装置が作動(機能を発揮)する。
【0049】
非常用復水器1は圧力容器24よりも高い位置に設けられているので、第1の制御弁8が開かれると、圧力容器24内の蒸気が蒸気引き込み管6から非常用復水器1に流入する。蒸気は非常用復水器1内の蒸気/水側流路1a内を下降しながら冷却され、凝縮して水に戻り、復水戻し管7内を自重によって流れて圧力容器24内に戻る。
【0050】
また、第2の制御弁17が開かれると、第1の冷却系2の冷却水3の循環が可能になる。第1の冷却系2の冷却水3は非常用復水器1の冷却水3側流路1bを流れながら蒸気を冷却することで加熱される。加熱された冷却水3の密度は減少し、上昇する力が発生するので、冷却水3は流路1b内を上昇する。また、冷却水3は戻り通路11を流れながら冷却手段12によって冷却される。冷却された冷却水3の密度は増加し、下降する力が発生するので、冷却水3は戻り通路11内を下降する。したがって、第1の冷却系2全体としてループ内を自然循環する冷却水3の流れが形成される。冷却水3は加圧手段13によって加圧されているので、ループの最上端にまで冷却水3が持ち上げられて満たされており、冷却水3の循環が可能になっている。冷却水3の自然循環は、非常用復水器1が低温になるまで継続される。
【0051】
また、冷却手段12の冷却水3は冷却通路18cを流れながら第1の冷却系2の冷却水3を冷却することで加熱される。加熱された冷却水3の密度は減少し、上昇する力が発生するので、冷却水3は冷却通路18c内を上昇する。また、冷却手段12の冷却水3は放熱通路18dを流れながら放熱によって冷却される。冷却された冷却水3の密度は増加し、下降する力が発生するので、冷却水3は放熱通路18d内を下降する。したがって、冷却手段12全体としてループ内を自然循環する冷却水3の流れが形成される。冷却水3は加圧手段13によって加圧されているので、ループの最上端にまで冷却水3が持ち上げられて満たされており、冷却水3の循環が可能になっている。冷却水3の自然循環は、戻り通路11を流れる冷却水3が低温になるまで継続される。
【0052】
非常用復水器1の冷却により第1の冷却系2の冷却水3が加熱され、加圧タンク9内の冷却水3が高温になると、熱交換器4のパイプ内の海水が加熱される。加熱された海水の密度は減少し、上昇する力が発生するので、海水は熱交換器4のパイプ内を上昇する。したがって、第2の冷却系5全体としてループ内を自然循環する海水の流れが形成される。海水の自然循環は、加圧タンク9内の冷却水3が低温になるまで継続される。
【0053】
このように、非常用復水器1で蒸気を冷却した熱は第1の冷却系2→熱交換器4→第2の冷却系5→海20へと伝達され、海水を最終ヒートシンクとしているので、熱容量が膨大であり、長期間にわたり非常用復水器1の冷却を継続することができる。そのため、長期間にわたり炉心の崩壊熱の除去が可能になる。
【0054】
また、第1の冷却系2、冷却手段12、第2の冷却系5の循環は自然の力を利用した循環であり、発電機やポンプ等の動力源が不要であり、静的安全系を構成することができる。
【0055】
また、冷却手段12の冷却媒体として第1の冷却系2と同じ冷却水3を使用しているので、わざわざ別の冷却媒体を準備する必要がなく、装置の複雑化、大型化を防止することができる。
【0056】
本発明の非常用冷却装置を既存の崩壊熱除去手段に置き換えて使用しても良いが、置き換えるのではなく追加して使用することが好ましい。即ち、原理の異なる崩壊熱除去手段として本発明の非常用冷却装置を追加することが好ましい。
【0057】
非常用冷却装置は構造がシンプルであり、2つの制御弁8,17を操作するだけで全体を作動させることができるので、原子炉の定期点検時には勿論のこと、例えば原子炉の運転中にも試験運転が可能であり、作動チェックが容易である。
【0058】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0059】
例えば、上述の説明では、冷却手段12の冷却媒体として第1の冷却系2と同じ冷却水3を使用していたが、第1の冷却系2の冷却水3とは異なる冷却水を使用しても良い。例えば、加圧タンク9とは別の加圧タンクを設け、この加圧タンク内の冷却水を循環させるようにしても良い。この場合には、加圧タンク9内の冷却水3よりも低温の冷却水の使用が可能になる。
【0060】
また、冷却手段12の冷却媒体として海水や種類の異なる冷却媒体を使用しても良い。
【0061】
また、上述の説明では、沸騰水型原子炉に適用していたが、その他の原子炉にも適用できる。例えば、加圧水型原子炉にも適用できる。加圧水型原子炉への適用では、図4に示すように、蒸気発生器27で発生した蒸気を非常用復水器1に循環させる。即ち、加圧水型原子炉は蒸気発生器27で蒸気を発生させるので、この蒸気を非常用復水器1に循環させるために蒸気引き込み管6は蒸気発生器27の上部に接続されている。また、非常用復水器1による復水を蒸気発生器27に戻すために、復水戻し管7は蒸気発生器27の下部に接続されている。なお、図4中、符号28は加圧器である。加圧水型原子炉に適用した場合も沸騰水型原子炉に適用した場合と同様の効果が得られる。
【実施例1】
【0062】
電気出力100万kWeの原子炉への適用を想定して、非常用冷却装置の伝熱と流動についての計算を行った。その結果を表1〜表6に示す。
【0063】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【0064】
非常用復水器1の基数は1基とした。伝熱管(冷却水側の流路1b)の長さは10m、外径/内径は0.040/0.036m、伝熱管束は30×30=900本、伝熱管配列は正方形配列で配列ピッチ/外径は1.30程度とした。非常用復水器1の外胴の形状は円筒あるいは正方形とした。
【0065】
非常用冷却装置の地上高さを約40mとし、非常用復水器1の伝熱管内の圧力を約1気圧にするために、加タンク9内の冷却水3を約5気圧に加圧した。
【0066】
供給通路10の取水口10aに吸い込まれる冷却水3の温度:10℃、非常用復水器1を通り抜けた冷却水3の温度:80℃、戻り通路11内での冷却水3の冷却:−18℃(戻り通路11の排水口11aから排出される冷却水3の温度:62℃)とし、熱交換器4による加圧タンク9内の冷却水3の冷却:−52℃、となるように設計を行った。
【0067】
冷却用淡水(冷却水3)は非常用復水器1内で加熱されてその密度に変化が生じ、これが冷却用淡水の駆動力となる。この加熱によって冷却用淡水は沸騰する。この場合、非常用復水器1の管側(冷却水3側)の圧力は1気圧を想定している。この沸騰は冷却用淡水の平均温度が飽和温度に達しないサブクール沸騰になると考えられる。
【0068】
電気出力100万kWeの原子炉の崩壊熱(初期)は定格熱出力の7%程度であり、熱から電気への変換効率を33%とすれば、崩壊熱は2.1×10J/sとなる。これに対して、非常用冷却装置の非常用復水器1による除熱量は2.8×10J/s程度と見積もられるので、崩壊熱の除去が可能である。即ち、海水を最終ヒートシンクとした冷却が可能であることが確認できた。なお、非常用復水器1に引き込まれる蒸気の圧力は8MPa(80気圧)、温度は飽和温度295℃と想定している。
【符号の説明】
【0069】
1 非常用復水器
1d 非常用復水器の流入口
1c 非常用復水器の流出口
2 第1の冷却系
3 冷却水
4 熱交換器
4a 熱交換器の流入口
4c 熱交換器の流出口
5 第2の冷却系
9 加圧タンク
10 供給通路
11 戻り通路
12 冷却手段
13 加圧手段
18 循環路
18a 冷却手段の排水口
18b 冷却手段の取水口
20 海
21 取水通路
21a 取水通路の取水口
22 排水通路
22a 排水通路の排水口
23 炉心
24 圧力容器
27 蒸気発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非常時に炉心の崩壊熱によって発生した蒸気を導入して冷却する非常用復水器と、前記非常用復水器にその熱を利用して自然循環で冷却水を循環させる第1の冷却系と、前記冷却水を冷却する熱交換器と、前記熱交換器にその熱を利用して自然循環で冷却用の海水を海から循環させる第2の冷却系を備えることを特徴とする原子炉の非常用冷却装置。
【請求項2】
前記非常用復水器は前記冷却水の流入口よりも流出口が高くなっており、前記第1の冷却系は、前記非常用復水器よりも低い位置に設けられ、前記熱交換器を収容する加圧タンクと、前記加圧タンク内の前記冷却水を前記非常用復水器に導く供給通路と、前記非常用復水器を通り抜けて加熱された前記冷却水を前記加圧タンク内に導く戻り通路と、前記戻り通路内の前記冷却水を冷却して下向きの自然循環力を発生させる冷却手段と、前記加圧タンク内の前記冷却水を加圧して流路の最も高い位置まで前記冷却水を満たす加圧手段を備え、前記非常用復水器による加熱と前記冷却手段による冷却とで前記冷却水を自然循環させることを特徴とする請求項1記載の原子炉の非常用冷却装置。
【請求項3】
前記冷却手段は、前記加圧タンク内の前記冷却水を吸い上げて前記戻り通路内の前記冷却水を冷却した後に放熱させながら前記加圧タンク内へと戻す循環路を備え、前記戻り通路内の前記冷却水による加熱と前記放熱による冷却とで前記循環路内の前記冷却水を自然循環させることを特徴とする請求項2記載の原子炉の非常用冷却装置。
【請求項4】
前記熱交換器は前記海水の流入口よりも流出口が高くなっており、前記第2の冷却系は、前記海水を海から前記熱交換器に導く取水通路と、前記熱交換器を通り抜けて加熱された前記海水を海に導く排水通路を備え、前記取水通路の取水口は前記排水通路の排水口よりも低い位置に設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の原子炉の非常用冷却装置。
【請求項5】
沸騰水型原子炉に設けられ、圧力容器内の蒸気を前記非常用復水器に循環させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の原子炉の非常用冷却装置。
【請求項6】
加圧水型原子炉に設けられ、蒸気発生器で発生した蒸気を前記非常用復水器に循環させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の原子炉の非常用冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−2834(P2013−2834A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131191(P2011−131191)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)