説明

反射防止膜積層体およびその製造法

【課題】薄膜でかつ支持用の基材フィルムを必ずしも必要としない転写用の好適な反射防止膜積層体を提供する。
【解決手段】離型フィルム(A)上に反射防止層用ラジカル硬化性組成物を塗布してラジカル硬化性反射防止層を形成する工程、該反射防止層上にハードコート層用組成物を塗布してハードコート層を形成する工程、および該反射防止層用ラジカル硬化性組成物のラジカル硬化を行う工程からなる反射防止膜積層体の製造法および、反射防止層の下にハードコート層が積層され、かつ該ハードコート層の非反射防止層側が、被反射防止処理物に転写自在に構成されてなる反射防止膜積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜を転写により形成することができる積層体およびその積層体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止膜はテレビやOA機器のモニター、携帯電話などの移動通信装置の画面、窓、自動車のガラスなどの光の映り込みを防止するために、それらの機器の最外層の膜として形成されており、反射防止膜とその下層のハードコート層の屈折率の差と膜厚により反射防止効果を達成している。
【0003】
こうした反射防止膜の形成法は、ガラス基材上に直接ハードコート層、反射防止層を順次形成している方法と、反射防止膜用の積層体を別途作製したフィルムをガラス基材などに転写する方法に大別される。
【0004】
後者の転写法では、通常、最外層表面側から離型フィルム、反射防止層、ハードコート層、基材フィルム(補強層)、さらに要すれば粘着層という積層構造のフィルムをガラス等の基材に密着させ、離型フィルムを剥離することにより反射防止膜を形成している。
【0005】
この場合、反射防止層は低屈折率の樹脂層であり、通常、ラジカル反応により樹脂を硬化させて形成している。場合によっては、ハードコート層もラジカル硬化性の組成物を使用する。
【0006】
転写用の反射防止膜積層体は、通常、厚さ25〜1000μm程度の基材フィルム(PETフィルム)上にハードコート層を厚さ1〜10μm程度に形成し、ついで反射防止層を厚さ50〜150nmに塗布し、硬化系に応じて紫外線などの活性エネルギー線の照射や加熱をし、反射防止層を硬化させた後、離型フィルムを貼付して製造している。
【0007】
しかし、こうして得られた転写用積層体は全体の膜厚が厚く、細かな凹凸のある面や曲面を有する構造体に貼付することが難しい。さらに、ハードコート層と反射防止層の密着性が不充分であるという課題もある。
【0008】
そこで、特許文献1では、離型フィルム上に反射防止層を形成した積層体と、別途、基材フィルム上にハードコート層を形成した積層体を反射防止層とハードコート層とでラミネートし、その後、電離放射線で反射防止層を硬化させる方法が提案されている。
【0009】
しかし、特許文献1の方法では、ハードコート層を支持するために充分な厚さの基材フィルムが必ず必要であり、膜厚が厚いことによる被転写表面の形状の制限は解消されていない。また、別々に形成した反射防止層とハードコート層のラミネート面の密着性が不充分で、離型フィルムを剥離するときに反射防止層表面が乱れることがある。
【0010】
【特許文献1】特許第3369684号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、薄膜でかつ支持用の基材フィルムを必ずしも必要としない転写に好適な反射防止膜積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は、反射防止層の下にハードコート層が積層され、かつ該ハードコート層の非反射防止層側が、被反射防止処理物に転写自在に構成されてなる反射防止膜積層体に関する。
【0013】
前記反射防止膜の上には、離型フィルム(A)が積層されていてもよいし、あるいは、さらに前記ハードコート層の非反射防止層側に離型フィルム(B)が積層されていてもよい。
【0014】
本発明はまた、離型フィルム(A)上に反射防止層用ラジカル硬化性組成物を塗布してラジカル硬化性反射防止層を形成する工程、該反射防止層上にハードコート層用組成物を塗布してハードコート層を形成する工程、および該反射防止層用ラジカル硬化性組成物のラジカル硬化を行う工程からなる反射防止膜積層体の製造法に関する。
【0015】
この製造法において、前記ハードコート層用組成物を塗布する前に、ラジカル硬化性反射防止層を予備硬化させる工程を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細かな凹凸のある面にも貼付可能であり、しかも薄膜でも均質な反射防止膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の転写用に好適な反射防止膜積層体は、反射防止層の下にハードコート層が積層され、かつ該ハードコート層の非反射防止層側が、被反射防止処理物に転写自在に構成されている。このように本発明の反射防止膜積層体は、従来、必須の層であった支持層がなく、ハードコート層を直接に被反射防止処理物に転写可能に構成したものである。
【0018】
反射防止層およびハードコート層の材料および膜厚は従来のものが採用できる。これらについては、後述する製造法の中で説明する。
【0019】
本発明の積層体は、転写する前の層の表面に離型フィルム(A)、(B)を設けて保護してもよい。離型フィルムについても製造法の説明の中で詳述する。
【0020】
本発明の製造法は、
(I)離型フィルム(A)上に反射防止層用ラジカル硬化性組成物を塗布してラジカル硬化性反射防止層を形成する工程、
(II)該反射防止層上にハードコート層用組成物を塗布してハードコート層を形成する工程、および
(III)該反射防止層用ラジカル硬化性組成物のラジカル硬化を行う工程
を含む。
【0021】
各工程について説明する。
【0022】
ラジカル硬化性反射防止層形成工程(I)で使用する離型フィルム(A)としては、従来から使用されている樹脂フィルムも使用できるが、後述する低酸素雰囲気下でラジカル硬化反応を行うためには、実質的に酸素を透過しない樹脂フィルムが好ましく採用される。
【0023】
離型フィルム(A)は剥離後の反射防止層表面を平滑にするために、硬化後の反射防止層と容易に剥離できるものであって、平滑な表面を有するものを使用する。厚さは、通常10〜100μm程度である。離型フィルムの具体例は後述する。
【0024】
かかる離型フィルム(A)上に反射防止層用ラジカル硬化性組成物を塗布してラジカル硬化性反射防止層を形成する。
【0025】
反射防止層用ラジカル硬化性組成物としては、従来公知のラジカル硬化反応性の組成物が使用できる。その他、特願2003−355455号明細書に記載されている硬化性表面改質剤も使用可能である。
【0026】
ラジカル硬化反応は、紫外線、X線、γ線、電子線などの活性エネルギー線により硬化を開始する活性エネルギー硬化反応であっても、公知のラジカル反応開始剤を用いて加熱により硬化を開始させる加熱硬化反応であってもよいが、基材の選択の幅や層の変性が少ない点から、活性エネルギー線硬化反応系が好ましい。
【0027】
活性エネルギー線硬化反応系のラジカル硬化性組成物としては、活性エネルギー線硬化性樹脂と光硬化促進剤や光増感剤などとの組成物が好ましい。
【0028】
活性エネルギー線硬化性樹脂としては、たとえば単官能アクリレート類、2官能アクリレート類、多官能アクリレート類、ポリエステルアクリレート類、ウレタンアクリレート類、エポキシアクリレート類、イミドアクリレート類などがあげられる。
【0029】
光架橋剤としては、たとえばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1、6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート,トリアリルシアヌレートなどの多官能モノマーのほか、ジペンタエリスリトール、ペンタヘキサアクリレートなどがあげられ、光開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン類、アシルフォスフィンオキサイド類、O−アシルオキシム類などがあげられ、光増感剤としてはたとえばn−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアシル、安息香酸2−ジメチルアミノエチル、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノンなどがあげられる。
【0030】
そのほか、添加剤として従来公知の反射防止膜形成用に用いられる添加剤を配合してもよい。
【0031】
これらを有機溶媒に溶解または分散させて塗布用の組成物とし、離型フィルム(A)に塗布する。有機溶媒としては、ケトン系溶剤、酢酸エステル系溶剤、アルコール系溶剤など汎用溶剤が好ましく使用できる。なお、前述の特願2003−355455号明細書に記載されている硬化性表面改質剤はこうした汎用溶剤への溶解性に特に優れ、反射防止膜用の材料として好ましい。
【0032】
離型フィルム(A)への塗布は、バーコート法、ロールコート法、ディップコート法、スピンコート法、リバースロールコート法、ダイレクトグラビア法、グラビアリバース法、リップコート法、マイクログラビア法などの方法により行うことができる。塗布量は、乾燥後の反射防止層の厚さが50〜150nm、さらには80〜120nmとなる量が好ましい。塗布後に要すれば乾燥工程を行ってもよい。
【0033】
また、ハードコート層形成工程(II)に先立ち、形成された未硬化の反射防止層を予備硬化させる工程(IA)を行ってもよい。この予備硬化工程(IA)を施すことにより、ハードコート層の形成時の影響を受けにくくなり、反射防止層の均質性や表面平滑性が保たれる点で望ましい。この予備硬化は組成物のラジカル硬化反応系に応じた硬化方法で行う。
【0034】
予備硬化の程度(硬化度)は任意に選定してよいが、目安としては反射防止層が処理中に他の材料に付着したり、膜厚の均一性が損なわれたりしなくなる程度でよく、たとえば反射防止層におけるラジカル硬化性組成物の硬化サイトの5%以上、好ましくは20%以上が消費されるまで行うことが望ましい。ただし完全に硬化させるのは後述する硬化工程(III)であり、したがって硬化サイトは95%以上、好ましくは80%以上は残しておく。
【0035】
活性エネルギー線硬化系では、完全硬化に必要な活性エネルギー線の線量の5〜80%、好ましくは10〜20%程度の線量を照射する。
【0036】
なお、硬化の程度は、IR分析において硬化サイトの特性吸収の強度で判断できる。その特性吸収が消失したときが完全硬化した状態である。
【0037】
つぎに、かくして形成された未硬化または不完全に予備硬化された反射防止層上にハードコート層用組成物を塗布してハードコート層を形成する工程(II)を施す。
【0038】
ハードコート層用組成物は、反射防止層の屈折率より高い樹脂からなる組成物であり、従来公知の組成物が使用できる。このハードコート層用組成物もラジカル硬化性であることが、硬度、機械的強度などに優れることから好ましい。具体的には比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコールなどの多官能化合物の(メタ)アクリレート類のオリゴマーまたはプレポリマーに、反応性希釈剤としてエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドンなどの単官能モノマーを配合した活性エネルギー線硬化性組成物;ラウリルアクリレート、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルなどが例示できる。活性エネルギー線硬化性組成物には、上記光架橋剤や光開始剤、光増感剤を配合することが好ましい。
【0039】
反射防止層への塗布は、バーコート法、ロールコート法、ディップコート法、スピンコート法、リバースロールコート法、ダイレクトグラビア法、グラビアリバース法、リップコート法、マイクログラビア法などの方法により行うことができる。塗布量は、乾燥後のハードコート層の厚さが1〜10μm、さらには4〜6μmとなる量が好ましい。塗布後に要すれば乾燥工程を行ってもよい。
【0040】
かくして離型フィルム(A)+反射防止層+ハードコート層からなる積層体が形成される。
【0041】
この構造を基本とする積層体に対して、ラジカル硬化反応を完了させる工程が工程(III)である。
【0042】
ラジカル硬化工程(III)の硬化反応は、前述したように活性エネルギー線硬化でもよいし、加熱処理でもよいが、前述の理由から活性エネルギー線硬化が好ましい。
【0043】
ところで、ラジカル硬化反応は、酸素の存在が硬化反応を阻害することが知られている。そこで、従来でも、硬化雰囲気を酸素濃度が低いものを使用して硬化を行っている。たとえば特開平11−268240号公報では、不活性ガス(実施例では窒素ガス)を充填した雰囲気下で硬化を行っている。
【0044】
本発明では、反射防止層が離型フィルム(A)とハードコート層で挟まれているので、離型フィルム(A)として酸素を実質的に透過させない材料を使用することにより、空気中での硬化反応を行うことができ、工程的にも設備的にも有利である。
【0045】
酸素を実質的に透過させないとは、硬化させる組成物中の酸素濃度を硬化(架橋)阻害を起こさない程度に保つことができればよく、高度の酸素不透過性までは要求されない。 たとえば、フィルムの形態であれば、酸素透過度(JIS K7126)が50,000cm3/m2・day・1atm(23℃、65%RH。以下同様)以下、また20,000cm3/m2・day・1atm以下、さらには5,000cm3/m2・day・1atm以下、特に1,000cm3/m2・day・1atm以下のものが好適である。下限は低い方がよいが、通常1cm3/m2・day・1atm以上が好ましい。
【0046】
そうした酸素を実質的に透過させない離型フィルムの材料としては、具体的にはポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、トリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、(メタ)アクリロニトリル、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエーテルサルホン、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、低密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリプロピレン、エチレン/アルコール系共重合体などのほか、ポリテトラフルオロエチレン、テチトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレンなどのフッ素樹脂やフッ素ゴム;加熱硬化系の場合はアルミニウム蒸着フィルム、ポリイミド、尿素樹脂、上記フッ素樹脂などがあげられる。材料自体に離型性がない場合、これらのフィルムにシリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル−メラミン樹脂などの離型剤を塗布またはコーティングして離型性を付与すればよい。
【0047】
また、ハードコート層がラジカル硬化性の組成物で反射防止層と同時に硬化させるものである場合は、ハードコート層の外側を実質的に酸素を透過させない保護層で覆うことにより、酸素遮断下で硬化反応を行うことができる。
【0048】
実質的に酸素を透過させない保護層の1例としては、離型フィルム(B)が例示できる。もちろんその他の樹脂フィルムや樹脂層なども例示でき、従来の基材(支持)フィルムに相当するもののうち、酸素を実質的に透過しないものも含まれるが、厚さは従来よりも大幅に薄くでき、10nm〜75μm程度でよい。もちろん、用途によっては従来のように厚いものでもよい。保護層としての離型フィルム(B)や樹脂フィルム、樹脂層は硬化反応のためだけでなく、補強用や粘着層としての役割を果たさせてもよい。実質的に酸素を透過させない保護層としての離型フィルム(B)や樹脂フィルム、樹脂層としては、上記実質的に酸素を透過させない離型フィルム(A)の材料が適宜使用できる。
【0049】
また、保護層は液体であってもよい。この場合、硬化反応の際だけに存在させておけばよく、反応後には容易に除去できる物質が好ましい。そうした酸素を実質的に透過させない液体としては、酸素飽和溶解度(溶存酸素質量/溶液質量)が1000ppm(25℃以下)であることが望ましく、たとえばフッ素オイル、ソルベントオイル、流動パラフィン類、高級アルコール類、多糖類、ゼラチンなどがあげられる。
【0050】
さらにまた、硬化反応の間の一時的な酸素遮断のためであれば、酸素を実質的に透過させない材料を仮にハードコート層上に載置してもよい。そうした材料としては、酸素吸収剤が配合された各種不織布、織布、フェルト、ウェブなどがあげられる。これらは硬化工程後に取り除かれる。
【0051】
なお、これらの保護層は硬化反応に関与しない材料であることが望ましい。したがって離型フィルム(A)、(B)および保護層は、活性エネルギー線硬化系であれば活性エネルギー線に透明であることが好ましく、加熱硬化系であれば耐熱性であることが好ましい。活性エネルギー線硬化系の場合は、活性エネルギー線の照射は、離型フィルム(A)側からでもハードコート層(離型フィルム(B)や保護層)側からでもよい。
【0052】
本発明においては、ハードコート層上または保護層(補強層)上に、粘着剤層、印刷層などを適宜形成してもよい。ハードコート層上または保護層が転写すべき物品の表面材料と親和性(密着性)がある場合は、粘着剤層を設けなくてもしっかりした密着性が得られる。
【0053】
本発明における硬化工程(III)は、転写する前に行ってもよいし、転写後、反射防止膜を形成すべき物品に転写された状態で行ってもよい。
【0054】
なお、本発明の反射防止膜積層体は、上述のような製法に限らず、たとえば離型フィルム(B)上にハードコート層を形成し、該ハードコート層上に反射防止層を形成し、該ハードコート層上に離型フィルム(A)を形成することによって製造してもよい。
【0055】
反射防止膜を形成すべき物品の基材としては、たとえばガラス基板や透明プラスチック基板、シリコンゴム製タッチパネルなどが例示できる。
【0056】
活性エネルギー線硬化の場合の照射線量は、硬化性組成物の種類や層の厚さなどによって適宜選定すればよい。加熱による硬化の場合の条件は、硬化系(パーオキサイド系硬化、カチオン系硬化など)によって適宜選定すればよい。なお、予備硬化を行う場合については上述したとおりである。
【0057】
転写方法としては、従来公知の転写法、たとえば真空圧縮成形法、カレンダー法などが採用できる。もちろん、技能さえあれば手作業でもよい。特に本発明によれば薄い貼付用の反射防止膜積層体が製造できるので、微細な凹凸がある物品、携帯電話の文字盤、レンズ、各種装置の操作パネルなどに対しても表面追随性が良好であり、反射防止機能はもとより、仕上げの外観にも優れている。
【0058】
さらに転写後、離型フィルム(A)を剥離したときに生ずる可能性のある表面乱れは、たとえば前記特願2003−355455号明細書に記載されている硬化性表面改質剤などの表面改質剤を塗布することによって修復することができる。
【0059】
つぎに本発明の製造法、さらには転写(反射防止膜の形成)までの工程の好ましい実施形態をいくつか示すが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0060】
実施形態1:
(1-1)離型フィルム(A)上に反射防止層を形成する。
(1-2)反射防止層を離型フィルム(A)の反対側から活性エネルギー線を照射して不完全に予備硬化させる。
(1-3)反射防止層上にハードコート層を形成する。
(1-4)ハードコート層上に保護用の離型フィルム(B)を貼付する。
(1-5)離型フィルム(B)側から活性エネルギー線を照射して反射防止層およびハードコート層を完全に硬化させる。
(1-6)離型フィルム(B)を取り除き、ハードコート層上に粘着剤層(要すれば剥離紙をさらに貼付してもよい)を形成して、粘着剤層側で物品(ガラス基材など)に貼り付け、離型フィルム(A)を剥離する。
【0061】
実施形態2:
(1-1)離型フィルム(B)上にハードコート層を形成する。
(1-2)ハードコート層上に反射防止層を形成する。
(1-3)反射防止層をハードコート層の反対側から活性エネルギー線を照射して不完全に予備硬化させる。
(1-4)反射防止層上に離型フィルム(A)を貼付する。
(1-5)離型フィルム(A)側から活性エネルギー線を照射して反射防止層およびハードコート層を完全に硬化させる。
(1-6)離型フィルム(B)を取り除き、ハードコート層上に粘着剤層(要すれば剥離紙をさらに貼付してもよい)を形成して、粘着剤層側で物品(ガラス基材など)に貼り付け、離型フィルム(A)を剥離する。
【0062】
本発明の貼付用反射防止膜積層体は、たとえばつぎのような物品に反射防止機能や防汚機能を付与することができる。
家電製品:テレビ、電子レンジの窓、家電機器の各種表示板、外板部分の意匠的目的での反射防止など。
OA機器:各種モニター、センサー部分、操作パネル(ボタン)表面、外板部分の意匠的目的での反射防止など。
移動通信機器:携帯電話の液晶画面、操作ボタン表面、外板部分の意匠的目的での反射防止など。
建築関連:窓、看板、ショーウインドウガラス、カーブミラー、信号機レンズなど。
車両関連:自動車・電車のガラス、ドアミラー、メータパネル保護板・表示面など。
インテリア関連:鏡、ショーケース、ブラインド、壁面、天井、床面、家具の表面など。
エクステリア関連:ネオンサイン、門扉、シャッター、各種エクステリアの表面など。
光学機器:眼鏡のレンズ、各種のレンズ、センサー部など。
意匠表示物関連:看板、ネオンサイン、ショーウィンドウなど。
その他:時計の文字盤など。
【実施例】
【0063】
つぎに実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
実施例1
ポリ塩化ビニリデンフィルム(厚さ20μm、酸素透過度55cm3/m2・day・1atm:23℃−65%RH)に離型剤としてシリコーンオイルを塗布した離型フィルム(A)上に、スピンコーターによりつぎの反射防止層用の紫外線硬化性組成物を塗布し、20分間室温で乾燥した(膜厚107nm)。なお、膜厚は光学式膜厚計(FILMETRICS社製)を使用して測定した(以下、同様)。
【0065】
(反射防止層用組成物)
官能基含有含フッ素樹脂(オプツールAR−110。ダイキン工業(株)製)に架橋剤(ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサ−アクリレート)と光開始剤(イルガキュア、商品名。チバスペシャリティケミカルズ社製)を混合し、メチルイソブチルケトンで固形分濃度を4質量%に調整したもの。
【0066】
ついで、高圧水銀灯(照度165mW/cm2)を用いて紫外線を200mJ/cm2照射して反射防止層を予備硬化した(なお、反射防止層を完全に硬化させる線量は1J/cm2である)。
【0067】
この予備硬化した反射防止層上にハードコート層用組成物(アクリル樹脂系。旭電化工業(株)製のKRX−559)をバーコーターで塗布してハードコート層を形成した(厚さ5μm)。
【0068】
このハードコート層上に保護層としてポリエチレンテレフタレート(PET)製の離型フィルム(B1)(厚さ25μm、酸素透過度72cm3/m2・day・1atm:23℃−65%RH)を載せ、高圧水銀灯を用いて紫外線を2000mJ/cm2照射して反射防止層およびハードコート層を完全に硬化させて、反射防止膜積層体を作製した。
【0069】
ついで、離型フィルム(B1)を取り除いた後、ハードコート層上に粘着剤を塗布し、真空圧縮成形装置により、表面が平滑でないポリカーボネート製の成形体表面に積層体を貼付したところ、表面の凹凸にきれいに沿って貼付されていた。
【0070】
貼付した積層体から離型フィルム(A)を剥離し、最外層となった反射防止層につき、以下の特性を調べた。結果を表1に示す。
(1)対水接触角
協和界面科学(株)製のCA−DT・A型接触角計で測定する。
(2)表面硬度
JIS K5400に従い、鉛筆硬度を測定する。
(3)ヘイズ値
初期および磨耗試験後(ヘイドン磨耗計にスチールウールを取り付け、200g/cm2の荷重で反射防止層上を30往復させる)のヘイズ値をJIS K7105に準拠したヘイズメータにより測定する。
(4)硬化度
使用した架橋剤のC=C二重結合の特性吸収(1647〜1640cm-1)の吸光強変化をIR分光光度計で分析し、架橋剤の消費量割合から硬化度(架橋度)を算出する。なお、反射防止層の予備硬化前(20分間乾燥した時点)の吸光度を100%とする。
【0071】
実施例2
反射防止層の膜厚を113nmとし、離型フィルム(B)として(PE)製の離型フィルム(B2)(厚さ25μm、酸素透過度13,000cm3/m2・day・1atm:23℃−65%RH)を用いたほかは実施例1と同様にして本発明の積層体を作製し、実施例1と同様にして特性を調べた。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射防止層の下にハードコート層が積層され、かつ該ハードコート層の非反射防止層側が、被反射防止処理物に転写自在に構成されてなる反射防止膜積層体。
【請求項2】
前記反射防止膜の上に離型フィルム(A)が積層されている請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記ハードコート層の非反射防止層側に離型フィルム(B)が積層されている請求項1または2記載の積層体。
【請求項4】
離型フィルム(A)上に反射防止層用ラジカル硬化性組成物を塗布してラジカル硬化性反射防止層を形成する工程、該反射防止層上にハードコート層用組成物を塗布してハードコート層を形成する工程、および該反射防止層用ラジカル硬化性組成物のラジカル硬化を行う工程からなる反射防止膜積層体の製造法。
【請求項5】
前記ハードコート層用組成物を塗布する前に、ラジカル硬化性反射防止層を予備硬化させる工程を行う請求項4記載の製造法。

【公開番号】特開2006−7434(P2006−7434A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183598(P2004−183598)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】