反復的な治療介入の同期
【課題】ユーザが心臓蘇生の一部として手動で患者に胸部圧迫を供給することを補助するための医療装置を提供する。
【解決手段】医療装置は、フィードバック合図を生成し、ユーザが胸部圧迫の供給の時機を設定することを補助するように構成されたフィードバック装置と、フィードバック装置によってフィードバック合図が生成される合図時機を決定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路と、を備える。フィードバック合図はユーザが区別できる2つ以上の位相を有し、第1の位相は救助者の運動の上昇位相に対応し、フィードバック合図の第2の位相は救助者の圧迫運動の下降に対応する。
【解決手段】医療装置は、フィードバック合図を生成し、ユーザが胸部圧迫の供給の時機を設定することを補助するように構成されたフィードバック装置と、フィードバック装置によってフィードバック合図が生成される合図時機を決定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路と、を備える。フィードバック合図はユーザが区別できる2つ以上の位相を有し、第1の位相は救助者の運動の上昇位相に対応し、フィードバック合図の第2の位相は救助者の圧迫運動の下降に対応する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、救助者が心肺蘇生(CPR)を実行することの補助など、反復的な治療の供給を補助するための医療装置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
心停止の患者の蘇生治療法には、一般に患者の気道を確保すること、患者に人工呼吸を行うこと、ならびに胸部圧迫を行い、犠牲者の心臓、脳および他の重要器官に血流を供給することが含まれる。患者がショック可能な心臓リズムを有する場合、蘇生には除細動治療も含まれることがある。「一次救命処置(BLS)」の用語には、次の要素、すなわち、初期評価、気道確保、呼気換気(人工呼吸)、および胸部圧迫のすべてが含まれる。「気道、呼吸、および胸部圧迫を含む循環」の3つすべてが組み合わされるときには、「心肺蘇生術(CPR)」の用語が用いられる。
【0003】
異常な心臓リズムには様々な種類が存在し、除細動による治療が可能であるもの(「ショック可能なリズム」)と、不可能であるもの(「ショック不可能なリズム」)とがある。例えば、充分な心拍出量を生じる大部分のECGリズムは、ショック不可能であると考えられる(例えば、正常洞調律、ある種の徐脈、および洞頻脈)。また、充分な心拍出量を生じないが、それらの条件の下では除細動治療が通常無効であるため依然としてショック不可能であると考えられる、幾つかの異常なECGリズムも存在する。これらのショック不可能なリズムの例には、不全収縮、電導収縮解離(EMD)および他の無脈性電気活動(PEA)が含まれる。これらの生存不能かつショック不可能なリズムでは、患者が生存したままでいることは不可能であるが、ショックを与えてもリズムの変換の補助にならない。介護者が除細動を行なうべきショック可能リズムの主な例には、心室性細動、心室性頻拍および心室粗動が含まれる。
【0004】
ショック可能なECGリズムを有する患者に対し、除細動器を用いて1つ以上のショックを与えたにもかかわらず、患者がショック可能もしくはショック不可能な潅流または非潅流のリズムにあり、意識を喪失したままである場合がある。非潅流リズムが存在する場合、介護者は、患者の心臓、脳その他の重要器官へ継続して血流および酸素を供給するために、一定の期間、CPRを行う。ショック可能リズムが存在し続けるか、CPRの実行中に発生する場合、心肺蘇生術のこの期間に続き、さらなる除細動が試みられる。患者が意識を喪失したまま、有効な循環のない状態である限り、介護者は、(電気的なリズムを分析し、場合によってはショックを与えるための)除細動器の使用と、心肺蘇生法(CPR)の実行とを交互に行うことが可能である。CPRには、一般に、5〜15回の胸部圧迫に、2回の人工呼吸を行う休止が続く反復パターンが含まれる。
【0005】
除細動はAEDを用いて実行可能である。アメリカ心臓協会(American Heart Association)、ヨーロッパ蘇生協会(European Resuscitation Council)および他の類似の機関は、AEDの使用を含む、心停止の犠牲者の治療のためのプロトコールを提供している。これらのプロトコールでは、犠牲者の状態に接近し、蘇生中に供給される適切な治療を判定する際に従うべき一連のステップが規定されている。AEDを使用することを要求され得る介護者は、これらのプロトコールに従うように訓練される。
【0006】
大部分の自動式体外除細動器は、実際には半自動式の体外除細動器(SAED)であり、介護者がスタートボタンまたは解析ボタンを押すことを必要とする。その後、除細動器は患者のECGリズムを解析し、電気リズムがショック可能である場合には、患者へショ
ックを加えるように介護者に通知する。次いで、介護者は、制御ボタンを押してショックを供給することに関与する。ショック供給に続き、SAEDは自動または手動で患者のECGリズムを再び解析し、追加のショックを通知したり、介護者に、患者の循環の徴候を検査し(除細動治療が成功したこと、またはリズムがショック不可能であることを示す)、除細動の試行によって循環が回復されなかった場合、CPRを開始するように指示したりする場合がある。一方、完全に自動式の体外除細動器は、ユーザの介在を待機せずに除細動ショックを加える。以下では、自動式体外除細動器(AED)には半自動式体外除細動器(SAED)が含まれる。
【0007】
両方の種類の除細動器は、通常、ECG解析の開始、各ショックの供給またはその両方の前に、音声による「離れ(stand clear)」警告を与える。このとき、介護者は患者から離れること(すなわち、患者とのいかなる物理的な接触も中断すること)が期待され、また、ボタンを押してショックを供給することを要求される場合もある。自動式体外除細動器用の制御部は、通常、蘇生装置のハウジングに配置されている。
【0008】
AEDは、通常、医師、看護師、救急救命士、消防署員および警官など、訓練された医療介護者または準医療介護者によって使用される。心停止の発生と除細動治療の供給との間が1分遅延する毎に患者が心停止から生存する可能性は約10%減少するので、現場のAEDが速やかに利用可能であることや、そのAEDを操作するように訓練された介護者は重要である。
【0009】
訓練された一般の介護者はAED操作者の新たなグループである。例えば、心臓発作の犠牲者の配偶者は、一般の介護者として訓練され得る。一般の介護者は、CPRの除細動を行ったりCPRを供給したりする機会がめったにないため、救急医療中のAEDに容易く恐れをなしてしまう可能性がある。その結果、そのような一般の提供者は、AEDを購入することや必要時に使用することをためらう場合があり、あるいは、一般の提供者は何か間違ったことをしてしまうとの懸念から、利用可能なAEDを使用するよりも、救急車の到着を待機する傾向にある可能性がある。
【0010】
また、一部の訓練された医療提供者(例えば、産科医、皮膚科医および家族介護従事者などの専門家)も、CPR、除細動またはその両方を行う機会はめったにないため、それらを行うことが不安である可能性がある。訓練の頻度が低い場合、能力についての懸念は募り、介護者が、自分は推奨される蘇生プロトコールのステップ、それらのステップの正しい順序またはその両方をすべて思い出すことができないかもしれないと心配することになる。
【0011】
同様に、医療介護者および一般介護者の両方は、特に、それらの介護者の訓練の頻度が低く、それを使用する機会がめったにない場合には、CPRおよび人工呼吸を行うことを躊躇することや、それらのステップをいつ実行するのかについて確信のないことがある。
【0012】
CPRは初期学習および技能維持の両方が不充分である複雑な作業であり、多くの場合、訓練生は6〜9か月以内にその最初の技能の80%を失うことが当業者には知られており、複数の研究により示されている。このため、様々な先行技術の目的は、この不利な条件に対する改善を試みることであった。胸部圧迫の成績の支援については、特許文献1乃至7に記載されている。特許文献8乃至11には、CPRプロンプトシステムについて記載されている。AEDには、1974年の最も初期の市販バージョン以来、救助者に要求される複雑な一連の動作の正しいタイミングおよび順序や除細動電極の配置の両方を提供する、音声プロンプトやフリップチャートまたはプラカード上のグラフィカル命令が常に備えられている。特許文献12乃至14には、視覚的なプロンプトを含む、CRT上または発光ダイオードなどバックライト発光もしくは放射の表示手段を有する印刷ラベル上に
提示されるグラフィカル命令の形態による、高度化されたプロンプトを用いる除細動器について記載されている。1970年代以来のAEDは除細動電極間で測定されるインピーダンスを用いてAEDの状態や救助者に供給する適切なメッセージ(例えば、ユニット上の最初のプロンプトが供給されており、インピーダンスが何らかの所定のしきい値より高いままである場合には「電極を取り付ける(Attach Electrodes)」)を判定していた(あるいは、特許文献15におけるように、過度の患者の動きが存在するか否かを判定していた)。特許文献16には、「電極を取り付ける」などのメッセージを供給するために、電極のインピーダンスを用いてAEDの状態を判定する装置について記載されている。
【0013】
これらの特許により実施される強化されたプロンプトによって、心停止患者の回復に成功するために必要とされる複雑なプロトコールの順守の改善において、救助者に対し何らかの利点が提供される。しかしながら、これらの特許の要素を一般に利用するAEDの試験においては、救助者は依然として約50%未満の成績レベルを達成することしか可能でないことが発見された。研究方法は次の通りであった:以前のAED訓練による偏りの可能性を除去するために、いずれの対象も以前にAEDを用いた経験はなく、AEDを用いる訓練を受けたこともなかった。被験対象に、従来の研究におけるよりも正確に似せた、一般救助者が心停止救助状況に遭遇する模擬使用シナリオを提示した。完全に機能する次の4つの除細動器、すなわち、フィジオコントロール・ライフ・パックCRプラス(Physio−Control LifePak CR Plus)、ゾールAEDプラス(ZOLL AED Plus)、フィリップス/レールダル・ハートスタート・オンサイト(Philips/Laerdal HeartStart OnSite)、カーディアック・サイエンス・パワーハート(Cardiac Science PowerHeart)を用いた。被験対象を模擬事務所へ案内し、人(マネキンによって模擬された)がちょうど床に倒れ、完全に意識を喪失したように見え、死にかけている可能性が充分にあることを告げた。被験対象に、事務所のAEDおよび任意の他の物体を使用し、実際の緊急事態であるかのように行動するよう告げた。各人を、生存シーケンスのチェーン(8ステップ:応答確認、助けを捜す、気道確保、呼吸確認、人工呼吸、循環確認、衣類除去、およびAED電極の取り付け)を含む、行った動作の数に基づき評価した。11人の一般救助者からなる、メドトロニック社(Medtronic)(ミネソタ州)のLifepak CR Plusのグループは、平均3.5±1.4ステップを完了させ、11人の一般救助者からなる、Cardiac Science社(カリフォルニア州)のPowerHeartのグループは、平均3.4±1.9ステップ、12人の一般救助者からなる、Philips社(マサチューセッツ州)のHeartStartのグループは、平均3.8±1.3ステップ、11人の一般救助者からなる、ZOLL社(マサチューセッツ州)のAEDPlusのグループは、平均5.0±1.3ステップを完了させたことが分かった。他の装置より統計的に優れていることが示されたZOLLの装置であっても、63%の遵守率を達成しただけであった。さらに、推奨される毎分100回の圧迫を1分間以上の持続時間に渡って保持することが可能であったのは、被験対象のうちの10%未満であった。
【0014】
最近では、より多くの心停止の犠牲者を救うには良好なCPRが必要であることが認識されている(非特許文献1)。引用した研究では、研究者らは、セグメントの総数のうちの36.9%において圧迫レートが圧迫80回/分(cpm)未満であり、21.7%では、70cpm未満のレートであることを見出した。アメリカ心臓協会がそのガイドラインにおいて推奨している圧迫レートは、100cpm超である。研究では、より高い胸部圧迫レートは、自発循環の初期回復と有意に相関していた(初期の生存者および非生存者についての平均胸部圧迫レートは、それぞれ、90±17,79±18cpm;P=0.0033)。さらに、この研究は、看護師および医師を含む充分に訓練された救助者を用いて実行されており、不十分な圧迫レートの問題が広範なものであることを示している。
【0015】
上述のZOLLおよびPhilipsのものなどCPRフィードバックを備えるAEDは、何らかの形態の圧迫レートのプロンプトを有する。これは、アメリカ心臓協会のガイドラインによって推奨されるように、圧迫100回/分の所望のレートのビープ音またはトーンの形態を取る。ZOLL AEDPlusは、救助者が圧迫を開始するレートで圧迫レートのトーンを開始し、次いで100cpmの所望のレートまで圧迫トーンのレートを徐々に増加させるという追加の特徴を有する。一部の場合には、このアプローチは有用であるが、圧迫トーンのレートが救助者の圧迫と同期していないので、トーンが救助者の圧迫レートの位相から外れて発生することがあり、実際には救助者を混乱させるように作用し、一瞬、圧迫レートを遅らせることがある。
【0016】
また、AEDは専ら除細動に焦点を置いている。除細動は心室性細動および一定の頻脈について最良の治療を提供するものではあるが、無脈性電気活動(PEA)または不全収縮を示す心停止患者のうちの60%には治療は有益でない。AEDが家庭に普及しつつあるが、家庭には、応急手当や、喘息、糖尿病またはAEDが有益でない心臓関連疾患などの慢性症状に関連した事態などを生じる、多数の他の健康問題も存在する。
【0017】
除細動ショックの後、心臓は2つの状態のうちの1つの状態にある。すなわち、ショックが成功し、心臓は麻痺した虚血の症状にあって、リズミカルなペースメーカー活動および有効な心拍出量に必要な心筋のATPエネルギー備蓄が極めて少ない状態か、あるいは、ショックが失敗した状態である。驚く者もあるだろうが、心室性細動が除細動によって有効な血行動態出力を有する正常洞調律へ変換されることは、あったとしても稀である。患者が生存するには、除細動ショックの成功の後に、良好なCPRが必要である。
【0018】
特許文献17に記載されているものなど、自動式胸部圧迫装置は心周期に同期されているが、手動のCPRを供給する救助者は、無脈性電気活動(PEA)と共に発生するものなど、一般に、損傷した心臓の心周期には同期していない固定のレートで胸部を圧迫する。PEAは、心臓が電気的には機能しているが、有効に収縮するのに充分な健康な筋繊維を有しない状態である。通常、患者の駆出分画は非常に低く、収縮中、心臓の血液の大部分は、大動脈および冠状動脈に駆出されず心室に残る。
【0019】
多くの研究では、ECG解析において一般に行われるような胸部圧迫の中断によって、自発循環の回復率および24時間生存率が有意に減少し得ることが報告されている。これらの研究には、非特許文献2乃至4が含まれる。
【0020】
自動式の機械的圧迫システムに関しては、心臓圧迫および換気サイクルを心周期に同期させる有益な効果が存在することが長く認識されている(非特許文献5)。特許文献18および19および特許文献17には、圧迫周期を心周期に同期させる機械的圧迫システムについて記載されている。特許文献20には、監視された血液潅流に基づき胸部圧迫を修正する機械的圧迫システムについて記載されている。
【0021】
特許文献21では、患者の年齢に基づき調整される聴覚的な圧迫レートを供給する蘇生補助タイマについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第4,019,501号明細書
【特許文献2】米国特許第4,077,400号明細書
【特許文献3】米国特許第4,095,590号明細書
【特許文献4】米国特許第5,496,257号明細書
【特許文献5】米国特許第6,125,299号明細書
【特許文献6】米国特許第6,306,107号明細書
【特許文献7】米国特許第6,390,996号明細書
【特許文献8】米国特許第4,588,383号明細書
【特許文献9】米国特許第5,662,690号明細書
【特許文献10】米国特許第5,913,685号明細書
【特許文献11】米国特許第4,863,385号明細書
【特許文献12】米国特許出願第09/952,834号明細書
【特許文献13】米国特許第6,334,070号明細書
【特許文献14】米国特許第6,356,785号明細書
【特許文献15】米国特許第4,610,254号明細書
【特許文献16】米国特許第5,700,281号明細書
【特許文献17】米国特許第6,752,771号明細書
【特許文献18】米国特許第4,273,114号明細書
【特許文献19】米国特許第4,326,507号明細書
【特許文献20】米国特許出願第2004/0162587号明細書
【特許文献21】米国特許第4,491,423号明細書
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Circulation、2005年、第111巻、p.428−434
【非特許文献2】佐藤ら、「心肺蘇生中の前胸部圧迫の中断の悪影響(Adverse effects of interrupting precordial compression during cardiopulmonary resuscitation)」、Critical Care Medicine、1997年5月、第25巻、第5号、p.733−736
【非特許文献3】ユー(Yu)ら、「自動除細動中の前胸部圧迫の中断の有害な結果(Adverse Outcomes of Interrupted Precordial Compression During Automated Defibrillation)」、Circulation、2002年
【非特許文献4】エフテストール(Eftestol)ら、「院外心停止の患者における心室性細動のスペクトルキャラクタリゼーションおよび非パラメータ性分類による除細動の結果予測(Predicting Outcome of Defibrillation by Spectral Characterization and Nonparametric Classification of Ventricular Fibrillation in Patients With Out−of−Hospital Cardiac Arrest)」、Circulation、2002年
【非特許文献5】エム.アール.ピンスキー(M.R.Pinsky)、「胸腔内圧の心周期特異的な増大の血行動態効果(Hemodynamic effects of cardiac cycle−specific increases in intrathoracic pressure)」、Journal of Applied Physiology、1986年2月、第60巻、第2号、p.604−612
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
ユーザが心臓蘇生の一部として手動で患者に胸部圧迫を供給することを補助するための医療装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
医療装置は、フィードバック合図を生成し、ユーザが胸部圧迫の供給の時機を設定することを補助するように構成されたフィードバック装置と、フィードバック装置によってフィードバック合図が生成される合図時機を決定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路と、を備える。フィードバック合図はユーザが区別できる2つ以上の位相を有し、第1の位相は救助者の運動の上昇位相に対応し、フィードバック合図の第2の位相は救助者の圧迫運動の下降に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】システムのブロック図。
【図2】フィードバックトーンのタイミングに対する圧迫のタイミングの例(同期からの遅れの変化する)を示す図。
【図3】フィードバック圧迫タイミングの様々なパラメータを示す詳細なタイミング図。
【図4】リズミカルな蘇生動作の位相同期(同調)における閉ループ制御システムを示すブロック図。
【図5】ヒステリシスの交換演算子の例を示す図。
【図6A】マイナーなヒステリシスループの例を示す図。
【図6B】マイナーなヒステリシスループの例を示す図。
【図7】可変位相決定子関数を表示する図。
【図8】ヒステリシスコントローラを示すブロック図。
【図9】パラメータベースのCPR制御フィードバックの方法を示すフローチャート。
【図10】胸部圧迫を行う救助者に音声プロンプトを供給するために用いられる処理を示す、蘇生装置のブロック図。
【図11】アドバイザリ解析にCPRフィードバックを提供する処理を示す、蘇生装置のブロック図。
【図12A】換気および圧迫について救助者にフィードバックを供給するためのグラフィカル表示の例を示す図。
【図12B】換気および圧迫について救助者にフィードバックを供給するためのグラフィカル表示の例を示す図。
【図12C】換気および圧迫について救助者にフィードバックを供給するためのグラフィカル表示の例を示す図。
【図13A】生理学的フィードバックを行うために食道の上端部に配置されている超音波血流センサについての図。
【図13B】生理学的フィードバックを行うために食道の上端部に配置されている超音波血流センサについての図。
【図13C】生理学的フィードバックを行うために食道の上端部に配置されている超音波血流センサについての図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
一般に、第1の態様では、本発明は、ユーザが手動で患者へ反復的な治療を供給する(例えば、心臓蘇生における胸部圧迫または換気)ことを補助するために用いられる種類の医療装置を特徴とする。この医療装置は、フィードバック合図を生成し、ユーザが反復的な治療の供給の時機を設定することを補助するように構成されたフィードバック装置と、ユーザが実際に反復的な治療を供給した実際の供給時機を検出するように構成された1つ以上のセンサまたは回路部品と、実際の供給時機を所望の供給時機を表す情報と比較し、フィードバック装置によってフィードバック合図が生成される合図時機を決定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路と、からなる。
【0028】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。手動で供給され
る反復的な治療は、心臓蘇生の一部として手動で供給される胸部圧迫を含む。実際の供給時機および所望の供給時機は、実際の供給位相および所望の供給位相を含む。実際の供給時機および所望の供給時機は、実際の供給時機と所望の供給時機との間の差を形成することによって比較される。実際の供給時機を徐々に変更するために、複数の治療供給の時間を通じて合図時機が徐々に変更される。フィードバック合図は聴覚的または視覚的である。反復的な治療は心臓蘇生の一部として換気を含む。フィードバック合図はユーザが区別できる2つ以上の位相を有し、第1の位相は供給される治療の第1の位相に対応し、フィードバック合図の第2の位相は供給される治療の第2の位相に対応する。反復的な治療は心臓蘇生のための胸部圧迫を含み、フィードバック合図の第1の位相は救助者の圧迫運動の上昇に対応し、フィードバック合図の第2の位相は救助者の圧迫運動の下降に対応する。フィードバック合図は可聴音を含み、第1の位相および第2の位相は周波数および振幅のうちの一方または両方において異なる。フィードバック合図は胸部圧迫のための上昇合図を含み、上昇合図は、圧迫の供給前の上昇中に救助者の体が上昇するにつれて、周波数が増加するように変化する。フィードバック合図は圧迫の供給中に時間によって周波数の変化する下降合図を含む。下降合図は上昇合図より持続時間が短い。下降合図の音量は供給される圧迫がほぼ底にある時に最高となるように増大する。プロセッサは、合図時機と実際の供給時機との間の遅延時間を決定するように、かつ、合図時機を決定する際に遅延時間および所望の供給時機を使用するように構成されている。プロセッサは、合図時機と実際の供給時機との間の類似の時間関係を維持するように構成されている。類似の時間関係は実際の供給時機の前に合図時機を発生させる。プロセッサは、トラッキングフィルタを用いて、反復的な治療を供給する際のユーザの過去の成績に基づき、実際の供給時機を予測するように構成されている。トラッキングフィルタはカルマン(Kalman)フィルタを含む。プロセッサは、合図時機と実際の供給時機との間のヒステリシス関係を補償するように構成されている。トラッキングフィルタは、所望の供給時機からの実際の供給時機の短時間の解離の影響を制限するように構成されている。ローパスフィルタによって供給時機の短時間の解離の影響が制限される。所望の供給時機は患者の測定される生理機能に基づき選択される。測定される生理機能は患者のECGを含む。所望の供給時機はECGにおけるT波以外の時である。測定される生理機能は心臓のPEAであり、所望の供給時機は、PEAに関連して位相の設定された実際の胸部圧迫時機を生成し、血行動態の出力を改善するように選択される。測定される生理機能は心臓の低レベルの機械的活動であり、所望の供給時機は、低レベルの機械的活動に関連して位相の設定された実際の胸部圧迫時機を生成し、血行動態の出力を改善するように選択される。測定される生理機能は心臓のリズム状態を含み、プロセッサは、リズム状態における少なくとも幾つかの変化にしたがって合図時機を変化させるように構成されている。患者の基調となる循環器系活動に関連してフィードバック合図の位相を設定するか否かを決定する際にリズム状態が考慮される。測定される生理機能は特定の生理学的事象の時機を含み、合図時機は、生理学的事象の時機と実際の供給時機との間の所望の時間関係を生成するように選択される。生理学的事象は心臓の機械的収縮である。所望の供給時機は、ペーシング刺激によって生じる改善された心筋の緊張の期間に胸部圧迫が発生するように、心臓に供給されるペーシング刺激の直後に続く。
【0029】
本発明の第2の態様では、本発明は、ユーザが手動で患者へ反復的な治療を供給することを補助するために用いられる種類の医療装置を特徴とする。この医療装置は、フィードバック合図を生成し、ユーザが反復的な治療の供給の時機を設定することを補助するように構成されたフィードバック装置と、少なくとも2つの位相、すなわち、精神運動活動の第1の位相に対応する第1の位相および精神運動活動の第2の位相に対応する第2の位相を用いてフィードバック合図を生成するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路とを備え、反復的な治療は治療を供給するユーザの一部に対する精神運動活動を含む。
【0030】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。手動の反復的な治療は手動の心臓蘇生における胸部圧迫を含み、精神運動活動の第1の位相はユーザによる上昇運動を含み、精神運動活動の第2の位相はユーザによる下降運動を含む。
【0031】
第3の実施形態では、本発明は、ユーザが心臓蘇生の一部として手動で患者に胸部圧迫を供給することを補助するための医療装置を特徴とする。この医療装置は、フィードバック合図を生成し、ユーザが胸部圧迫の供給の時機を設定することを補助するように構成されたフィードバック装置と、フィードバック装置によってフィードバック合図が生成される合図時機を決定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路とを備え、フィードバック合図はユーザが区別できる2つ以上の位相を有し、第1の位相は救助者の運動の上昇位相に対応し、フィードバック合図の第2の位相は救助者の圧迫運動の下降に対応する。
【0032】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。フィードバック合図は可聴音を含み、第1の位相および第2の位相は周波数および振幅のうちの一方または両方において異なる。フィードバック合図は胸部圧迫のための上昇合図を含み、上昇合図は、圧迫の供給前の上昇中に救助者の体が上昇するにつれて、周波数が増加するように変化する。フィードバック合図は圧迫の供給中に時間によって周波数の変化する下降合図を含む。下降合図は上昇合図より持続時間が短い。下降合図の音量は供給される圧迫がほぼ底にある時に最高となるように増大する。
【0033】
第4の態様では、本発明は、ユーザが心臓蘇生の一部として手動で患者へ胸部圧迫および換気を供給することを補助するための医療装置を特徴とする。この医療装置は、フィードバック合図を生成し、ユーザが胸部圧迫および換気の供給の時機を設定することを補助するように構成されたフィードバック装置と、フィードバック装置によってフィードバック合図が生成される合図時機を決定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路とを備え、フィードバック合図は聴覚的であり、胸部圧迫に対するフィードバック合図は換気に対するフィードバック合図とは音が異なる。
【0034】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。圧迫合図と換気合図との間の音の差はトーンの差である。圧迫に対するフィードバック合図のトーンは少なくとも幾つかの時点において換気に対するフィードバック合図のトーンに重なっている。換気フィードバック合図は、実質的により短い持続時間の複数の圧迫フィードバック合図に重なる持続時間を有する、徐々に変化する音である。
【0035】
第5の態様では、本発明はユーザが手動で患者へ反復的な胸部圧迫を供給することを補助するために用いられる種類の心臓蘇生装置を特徴とする。この装置は、非言語的フィードバック合図を生成してユーザにフィードバックを提供し、1つ以上の圧迫パラメータに関してユーザを補助するように構成されたフィードバック装置と、圧迫パラメータに関してユーザの成績を判定するように構成された1つ以上のセンサまたは回路部品と、圧迫パラメータに関するユーザの実際の成績を圧迫パラメータに関する所望の成績と比較するように、かつ、非言語的フィードバック合図を決定し、ユーザが所望の成績により近い成績を達成することを補助するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路とを備える。
【0036】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。圧迫パラメータは、次のパラメータ、すなわち、圧迫深度、圧迫速度、デューティサイクル、胸部解放の速度、圧迫中の胸腔内圧、圧迫中の胸膜内圧、胸骨の位置、速度または加速度、および胸壁または胸骨の歪みまたは変形、のうちの1つ、または2つ以上の組み合わせである。プロセッサは、反復的な胸部圧迫の供給を1つ以上の圧迫パラメータと関連付ける生理学的
モデルによって構成されている。
【0037】
第6の態様では、本発明は、心臓蘇生において自動的に胸部圧迫を供給する方法を特徴とする。この方法は、圧迫供給時機に自動的に胸部圧迫を供給するための装置を患者に取り付ける工程と、患者に対し供給される電気ペーシング刺激のタイミングを検出する工程と、電気ペーシング刺激の選択された位相に同期した圧迫供給時機を選択する工程と、からなる。
【0038】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。装置の供給する圧迫は、装置の供給する電気ペーシングから分離している。装置は、患者に取り付けられている電極から電気ペーシング刺激のタイミングを検出する。
【0039】
第7の態様では、本発明は、反復的な胸部圧迫が供給されているあいだに第2の反復的な治療を供給する方法を特徴とする。この方法は、反復的な胸部圧迫のタイミングを検出する工程と、反復的な胸部圧迫の選択された位相に同期した時機に第2の反復的な治療を供給する工程と、からなる。
【0040】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。第2の反復的な治療は電磁気ペーシング刺激を含む。ペーシング刺激は閾値下であり、心筋の緊張を改善するように構成されている。ペーシング刺激は閾値より高く、心臓を収縮させるように構成されている。胸部圧迫は手動で供給される。胸部圧迫は自動装置によって供給される。フィードバック合図は非言語的合図である。
【0041】
第8の態様では、本発明は、ユーザが手動で患者へ反復的な治療を供給することを補助するための医療装置を特徴とする。この医療装置は、視覚的な非言語的フィードバックグラフィックを生成し、反復的な治療がどの程度よく供給されているかについてユーザにグラフィカル表示を提供するための視覚表示装置と、治療がどの程度よく供給されているかに関する、1つ以上のパラメータを感知するための1つ以上のセンサと、1つ以上のセンサからの1つ以上の出力を処理し、視覚表示装置上のグラフィカル表示の外観を制御するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路と、からなる。
【0042】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。反復的な治療は心臓蘇生の一部として胸部圧迫を含む。反復的な治療は心臓蘇生の一部として換気を含む。グラフィカル表示は、個々の圧迫が大凡どの程度よく供給されているかに関するフィードバックをほぼ圧迫毎にユーザに提供する、少なくとも第1のグラフィカル要素を含む。グラフィカル表示は、冠動脈潅流圧に対する過去の圧迫の累積的な影響の推定に関するフィードバックをユーザに提供する、少なくとも第2のグラフィカル要素を含む。第1のグラフィカル要素はバー要素の境界の色彩または他のグラフィカルな様相であり、第2のグラフィカル要素は色彩または他のグラフィカルな様相を有するバー要素内の割合領域である。2つ以上のセンサおよび2つ以上のパラメータが存在し、グラフィカル表示は、第1の軸に沿って動いて第1のパラメータの値を伝達する第1のインジケータを含む第1のグラフィカル要素と、第1の軸に直交する第2の軸に沿って動いて第2のパラメータの値を伝達する第2のインジケータを含む第2のグラフィカル要素と、を含む。3つ以上のパラメータが存在し、グラフィカル表示は、第1の軸と第2の軸との交点に位置し第3のパラメータの値を伝達するように構成された第3のグラフィカル要素を含んでもよい。
【0043】
第9の態様では、本発明は、血流を測定するための超音波センサシステムを特徴とする。このセンサシステムは、カテーテルの端部に配置された超音波プローブと、プローブの出力を処理し、超音波ドップラ流量測定によって動脈または静脈の血流を推定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路とを備え、プローブおよびカテーテル
は食道の開口部にまたは開口部の中に挿入されるように構成されており、プローブは、背骨に向けて後部の方へ、ほぼ頚椎C3−C6に超音波エネルギーを供給し、測定し、脊椎骨および血管の両方から反射される超音波エネルギーを測定するように構成されている。
【0044】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。システムは心臓蘇生装置と結合されており、ユーザに対し供給されるフィードバック合図のタイミングを判定する際、センサ出力から判定される推定される血流が用いられる。センサは食道に挿入されるように、かつ、頚椎へ向けて超音波エネルギーを供給し、椎骨動脈の血流を推定するように構成されている。
【0045】
第10の態様では、本発明は、血流を測定するための超音波センサシステムを特徴とする。このセンサシステムは、カテーテルの端部に配置された超音波プローブと、プローブの出力を処理し、超音波ドップラ流量測定によって動脈または静脈の血流を推定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路と、を備え、プローブおよびカテーテルは食道の開口部にまたは開口部の中に挿入されるように構成されており、プローブは、咽頭筋の領域において食道の上端部にて咽頭基部に対して配置され、プローブの広端部が咽頭下部においてその直上にあるように、円錐状に成形されており、プローブは側方に超音波エネルギーを供給し、測定するように構成されており、センサは、総頸動脈および頚静脈が交差する上向きの角度に向けられたビームにより超音波エネルギーを供給するように構成されている。
【0046】
好適な実施形態では、プロセッサは、超音波プローブの出力を処理し、頚動脈および頚静脈の両方について血流速度を推定するように構成されてよい。プロセッサは、ピーク大動脈速度と最小心拡張期速度との差を1つの心周期を通じた平均速度で除したものとして、拍動指数を計算するように構成されてよい。プロセッサは、ピーク大動脈速度と最小心拡張期速度との間の差をピーク大動脈速度で除したものとして、抵抗指数を計算するように構成されてよい。
【0047】
本発明は次を含む多くの利点を有する(それらのうちの一部は、一部の態様および一部の実施形態においてのみ存在する)。
心臓は除細動ショック後の回復の初期段階にあり、多くの場合、電気活動はリズミカルであるものの機械的出力の低下した状態であるので、本発明によって、胸部圧迫が回復中の心臓の正常な機械的活動(低レベルであっても)に同期されることにより、心臓の回復が強化される。本発明は、非潅流の細動リズムの患者やPEAなど血行動態的に不安定または無効なリズムの患者に有効なCPRを供給するのを支援することができる。
【0048】
胸部圧迫を損傷した心臓の活動に同期させる本発明の性能によって、潅流が改善され得る。本発明を用いない場合、胸部圧迫は心室充満中に発生する場合があるため、心臓中の血液量は少なく、大動脈と冠状動脈に血液がほとんどまたは全く駆出されないので、それほど有効ではない。この時間中の圧迫によって、胸郭内圧、拡張期圧またはその両方が上昇し、さらに、心室充満を遅らせる場合がある。
【0049】
本発明では、等容性収縮など心収縮の特定の位相中に発生するように圧迫の時機を設定することが可能であるため、PEA中のCPRの有効性を改善することができる。
不全収縮のリズムはCPR中に自然にPEAに変化する場合があり、現在通常実行されているようなPEA中の胸部圧迫の非同期な供給は、循環系の血行動態に関して本質的に最適なものではない。ショック後のPEAなど、これらの回復の初期段階においては、実際には心臓はある程度収縮しており、圧迫の位相を非同期とすることによって、心筋に対する追加のストレスや、より低い駆出分画が与えられる場合がある。本発明では、1つのリズム状態から次のリズム状態への心臓の変化を検出し、救助者の換気及び胸部圧迫など
CPR活動の位相を心臓および肺の基調となる電気および機械的活動に同期させる(同調させる)フィードバックを、救助者に供給することができる。これには、胸部圧迫の中断の必要を減少させること、および血行動態を改善することの両方の利点が存在する。
【0050】
本発明では、圧迫毎に救助者にフィードバックを供給するため、CPRの質(例えば、圧迫の深度)を監視することや、患者の心臓に対する圧迫の特定の効果を調べることができる。CPRガイドラインは必然的に一般人口を含むものであり、圧迫の深度またはレートなど個々のパラメータが個々の犠牲者には最適ではない場合がある。個々の圧迫の評価は、より有効なCPRを供給すること、および必要とされるより多くの力または速度で胸部を圧迫しないことによってエネルギーを節約することにおいて、救助者に有益な場合がある。
【0051】
本発明では、半端な時間だと思われる時に予想外に合図が発生することによって救助者が混乱および当惑しないように、フィードバック合図のタイミングを調整し、フィードバック合図を実際の圧迫に同期させることができる。合図の遅延時間および圧迫の開始時間を測定することによって、合図が正常な遅延時間からそれほど外れないように合図の時機を設定できる。例えば、救助者が疲労しており、圧迫のレートが低下している場合、救助者を励ましてレートを上昇させるように合図のタイミングが少し調整されるが、圧迫および合図の相対位相に小さな変化しか発生しないように調整を行うことができる。従来技術では、フィードバック合図のレートしか対処されておらず、合図および圧迫開始の相対位相はいずれでもあり得るので、困惑を生じることがある。
【0052】
図1を参照すると、患者から生理学的な信号を取得するために、1つ以上のセンサまたは機器1、2、3が用いられる。関連する測定値を導出するためまたはアーチファクトを除去するために、一定の信号について前処理が必要な場合がある。例えば、CPRアーチファクトは既知の技術を用いてECG信号から除去され得る。1つのそのような技術では、センサ3は、圧迫が実際に発生する時を検出する。このセンサは、救助者の手の下に存在する小さなプラスチックハウジングに配置された加速度計であり得る。信号処理方法(「CPR中の胸部圧迫の強化用の方法および装置(Method and Apparatus for Enhancement of Chest Compressions During CPR)」と題する2003年11月6日出願の係属中の米国特許出願第10/704,366号明細書(これを引用によって本明細書に援用する)に開示されるような)を用いると、加速度信号の二重積分によって胸部変位が推定される。胸部圧迫29の開始時間は推定される変位から判定可能である。胸部圧迫の開始時間は、通常、AEDによって測定される経胸的インピーダンスによるもの、または胸部圧迫によってECGに生じるアーチファクトによるものを含め、他の手法により判定可能である。スピーカ6は、フィードバックトーン21(1つの可能な種類のフィードバック合図)を生成する。また、心周期に関する所望のレートおよびタイミングにて、圧迫レートトーン(CRT)なども参照する。
【0053】
図2に示すように、胸部圧迫を行う際の救助者のタイミング誤差を、アルゴリズムによって訂正する。図2に例では、アルゴリズムによって、計算される目標圧迫時機、フィードバックトーン21、および実際の圧迫29の間の遅延時間20が測定される。アルゴリズムによって、救助者の遅延時間20を訂正するようにフィードバックトーン(CRT)が進められ、圧迫が圧迫の所望のレートおよび位相と同期される時(図では第4の圧迫によって生じている)が検出される。
【0054】
救助者に対するフィードバック合図には聴覚的なトーンが好適であるが、視覚的な信号を含む他の形態のフィードバック合図を救助者に供給することが可能である。
入力信号をフィードバックトーン(または他の圧迫フィードバック合図)に変換するア
ルゴリズムは、複雑さが異なってよい。このアルゴリズムは、ECG信号におけるQRS群または他の関心の点を検出する程度の単純なものであってもよい。あるいは、このアルゴリズムは、カルマンフィルタ、または過去の読取値を用いて次の圧迫が生じるべき時を予測する他の方法など、予測的なトラッキングアルゴリズムを含む、より複雑な方法を含んでもよい。予測された圧迫時機を用いて、フィードバック合図の供給される時機が即座に更新されてもよく、あるいは(図2に示すように)、複数の圧迫を通じてフィードバック合図のタイミングがゆっくり調整され、救助者が圧迫のリズムをゆっくり変化させ、圧迫を所望のタイミングに至らせることを可能としてもよい。
【0055】
図3を参照すると、一部の実施形態では、フィードバック合図が2つの位相を有する場合がある(3つ以上の位相も可能である)。2つの位相を用いることによって、胸部圧迫を供給する行動は主として2位相の精神運動活動であるという我々の発見に対処する。ここで、救助者の起立筋棘筋および大殿筋などの後部筋肉群は圧迫周期の予備上昇位相に伴い、前部内外腹斜筋群は下降に伴う。単相のトーンには、単相のトーンは救助者の精神において下降に対応するが、下降を供給可能であるには充分な予備活動が必要である(すなわち、圧迫前の上昇)ので、救助者は自身の下降が単一の位相トーンと一致するように次の圧迫トーンがいつ発生するかを予想する必要がある、という問題が存在する。この問題は、様々なCPRプロンプト装置に現在実装されている圧迫トーンが充分に有効ではないことの主要な理由であると考えられる。
【0056】
一部の実施形態では、フィードバックトーンの周波数および音量は、複数の位相(上昇および下降)の間で変化する。周波数は救助者の上体の犠牲者からの高さの聴覚的な比喩として用いられ、例えば、周波数が上昇するトーンは上昇を示す。一部の実施形態では、上昇位相トーン(UPT)38は、救助者が上昇を行う時間に渡って続き、救助者がトーンによって供給される非言語的命令に正確に従い、下降位相のトーン(DPT)39が発生するときに下降を開始するように適切に位置することを可能とする。一部の実施形態では、DPT 39は周波数が相当迅速に下降する、持続時間のより短いトーンであり、周波数の減少につれて音量は漸増し、圧迫下降の底に対応する点で最大の音量が発生する。
【0057】
他の実施形態では、このアプローチは、その位相が救助者に対し明らかに記述され、トーンの各位相のパラメータが精神運動活動の各位相の同期を補助するように調整される多相のトーンを供給することによって、3以上の位相を有するものを含む、他の多相の反復的な精神運動活動に適用可能である。各位相のフィードバックトーンのパラメータについての他の可能性は、有色雑音信号の帯域幅または信号の音量エンベロープである。例えば、エンベロープの立ち上がり部分(attack)の傾斜レートの増大を用いて、救助者に自身が圧迫の下降の速度を増大させる必要があることを示すことが可能である。
【0058】
フィードバックトーンを生成するための1つの可能な制御システムのブロック図を図4に示す。タイミング図は図3に示す。制御アルゴリズムは、誤差信号e(kT)52を最小化するように、フィードバック制御ベクトルF(kT+1)63(このベクトルは、UPT開始、φ,σ,Δf+,Δf−,εonset,εhold,εoffを含む)を調整する。ここで、Tは現在のサンプル間隔である。入力信号x(kT)64は圧迫の所望の位相およびレートである。X(kT)64は、(加速度計センサ18の出力である54を積分する)動き検出アルゴリズムによって圧迫が実際に検出される対応する時間である、t0、t0+1/f、t0+2/f...に圧迫の発生することが望ましい離散時間の形態を取ってもよい。また、X(kT)64は、救助者の動作の所望の動きパラメータを記述する波形ベクトルの形態を取ってもよい。動きフィードバック信号は、好適には、実際の加速度、速度および変位の波形の推定値から構成される1組の波形である、ベクトルV’(kT)57の形態を取る。誤差信号e(kT)52は、V’(kT)57と所望の動きx(kT)64との間の差である。また、推定値H’(kT)56は、特に、ECG
1、パルスオキシメトリ2、侵襲性血圧および非侵入性血圧などによって測定される血行動態状態である、患者の生理学的な状態から生成される。H’(kT)56は、X(kT)64のレートおよび位相が患者の現在の生理学的な状態に最大の利益を提供するように最適化されるよう、X(kT)64を調整するようにフィードバックされる。
【0059】
また、図3および4を参照すると、フィードバックコントローラモジュール(FCM)53内でに計算されるいくつかの間隔が存在する。パラメータδ(25)は、UPT 38の終了と圧迫が実際に発生した時との間の差の時間である。パラメータψ(24)は、実際の圧迫と、圧迫が発生することが望ましかった時点t0(30)との間の時間差である。所望の圧迫時機t0は、心周期の収縮期位相に対応するECG 1またはパルスオキシメトリ2の波形における特定の起点に相当する場合がある。パラメータφ(31)は、UPT 38の終了とDPT 39の開始との間の時間差であり、DPT 39の開始および救助者による圧迫下降の動作前の自然な予期休止を定量する。パラメータσは、Hz/ミリ秒の単位で測定される周波数の増大の勾配であり、(1/σ*Δf)は、UPT傾斜に必要な時間の長さである。ここで、Δf(28)はUPT 38位相中の周波数の総変化である。
【0060】
図4の閉ループ制御システムの目的は、実際の圧迫が所望の圧迫時機30の時間の近くで発生するように、ψを減少させることである。しかしながら、UPT 38が救助者の実際の圧迫とはるかに異なる位相である場合、救助者は混乱させられ、成績には不利な影響が与えられる。1つの手法を提供するため、すなわち、UPTおよび救助者の実際の圧迫の相対位相をゆっくり調整するため、ψt+1=ψt*βのように変動係数(β)を用いることができる。βは、比例、差分、積分(PID)、状態空間など当業者に知られている従来の制御システム方法または非直線的制御方法などを用いて調整される変数であってよい。患者の基調となるリズムが不全収縮であり(圧迫を同期させる心臓リズムがない)、システムが救助者に正しいレートで圧迫を供給させようとしかしない場合、t0は生理学的な起点に相当しない。
【0061】
フィードバックコントローラ53(図4)は、例えば、適時の圧迫の供給からの救助者の短時間の解離によって生じ得る擬似的な誤差信号を最小化するために、多くの場合、ローパスフィルタまたはメディアンフィルタを有する。このフィルタはシステムの状態に応じて帯域幅を切り替えるように構成可能である。例えば、トラッキングシステムにおいて知られているように、フィルタの帯域幅は、最初、同期を得るために広く設定される場合がある。しかしながら、同期が得られると(救助者は、所望の圧迫時機に対して許容可能なタイミング誤差で規則的に圧迫を供給している)、救助者による短時間のタイミング誤差の影響を最小化するように、帯域幅はより狭い設定に切り替えられ得る。換言すると、フィードバックシステムの状態は、3より多くの圧迫に対し0.2未満である比ψ/Pに基づき、「不良な」圧迫から「良好な」圧迫に変化することがある(ψ/Pは、圧迫についての所望の時機と実際の圧迫との間の許容可能な誤差はどの程度かに関する正規化された尺度である)。また、フィルタは同期の喪失を検出するように構成される必要もあるこれは、例えば、ψ/Pの平均または標準偏差により瞬間的または持続的な増大を調べることによる。
【0062】
この処理の支配方程式は圧迫期間P(32)が固定されるように構成され、次のUPT開始が発生する時を判定するために将来の間隔の推定値δt+1が計算される:
UPT開始=t0+{P−[φ−(δt+1−ψt+1)+(1/σ*Δf)]} 。
【0063】
(δt+i−ψt+i)の推定および予測のために、カルマンフィルタなどのトラッキングアルゴリズムが用いられてもよい。カルマンフィルタはフィードバック制御の形態を用いることによって処理を推定する。すなわち、このフィルタはある時間の処理状態を推
定し、次いで、(ノイズを含む)測定値の形態のフィードバックを得る。そのため、カルマンフィルタの方程式は、複数の時間更新方程式および複数の測定値更新方程式の2つの群となる。時間更新方程式は、現在の状態の前方(時間)および誤差共分散推定値を予測し、次の時間ステップに対する演繹的な推定値を得ることを担う。測定値更新方程式はフィードバックを担う。すなわち、新たな測定値を演繹的な推定値に組み込み、改善された帰納的な推定値を得ることを担う。測定値更新方程式は修正方程式と考えられ、時間更新方程式は予測方程式と考えられる。実際、最終の推定値アルゴリズムは、数値問題を解くための予測−修正アルゴリズムに類似している。
【0064】
離散的なカルマンフィルタ時間更新方程式は、次式である:
【0065】
【数1】
【0066】
離散的なカルマンフィルタ測定値更新方程式は、次式である:
【0067】
【数2】
【0068】
測定値更新中の第1の作業はカルマンゲインKkを計算することである。次のステップは、実際に取得する処理を測定し、次いで、測定値zkを組み込むことによって、帰納的な状態推定値を生成することである。最終ステップは、帰納的な誤差共分散推定値Pkを得ることである。各時間更新および測定値更新の対の後、処理は繰り返され、以前の帰納的な推定値を用いて新たな演繹的な推定値が予測または予想される。この再帰的な性質は、カルマンフィルタの非常に魅力的な特徴のうちの1つである。すなわち、(例えば)各推定値に対しすべてのデータについて直接的に動作するように設計されたウィナー(Wiener)フィルタの実装より、充分に実現可能な実際的な実装が得られる。一方、カルマンフィルタは、過去の測定値のすべてについて現在の推定値を再帰的に調整する。次式は予測方程式と呼ばれる。
【0069】
【数3】
【0070】
カルマンフィルタの主要な制限のうちの1つは、それが、生理学的な設定においては遭遇されることの少ない、ガウス分布の線形系をモデル化するものでしかないことである。
非ガウス分布で非線形のフィルタリングの問題を解決する最もよく知られているアルゴリズムは、拡張カルマンフィルタ(EKF)である。このフィルタは、テイラー級数展開を用いて測定値および発展モデルを線形化する原理に基づく。しかしながら、EKFアルゴリズムにおける級数近似は、関心の非線形関数および確率分布の不十分な表現が導かれることがある。その結果、このフィルタは発散することがある。任意の非線形関数を近似することよりガウス分布を近似することの方が容易であるという仮説に基づき、他の研究者らは、無香(unscented)カルマンフィルタ(UKF)と呼ばれるフィルタを開発した。UKFではEKFより正確な結果が導かれること、詳細には、充分により良好な状態の共分散の推定値を生成する(EKFでは多くの場合この量が過小評価されると思われる)ことが示されている。しかしながら、UKFには、ECGスペクトル分布の場合に多く見られる一般的な非ガウス分布に適用されないという制限が存在する。粒子フィルタとしても知られる逐次モンテカルロ法によって、この制限が克服され、平均、モード、尖度および分散などの任意の統計推定値を容易に計算可能であるように、状態の後の分布の完全な表現が可能となった。したがって、粒子フィルタによって、任意の非線形性または分布が処理される。粒子フィルタは重点サンプリングに依っており、その結果、後の分布を適度に十分に近似可能な予測分布の設計を必要とする。一般に、そのような予測を設計することは困難である。最も一般的なストラテジーは、状態発展(先の遷移)の確率モデルからサンプリングを行うことである。しかしながら、新たな測定値が先の測定値のテールに出現する場合、あるいは尤度が先の尤度と比較して尖鋭すぎる場合、このストラテジーは失敗することがある。
【0071】
一部の実施形態では、メルヴェ(Merwe)、ドゥーセ(Doucet)、フレイタス(Freitasz)およびワン(Wan)によって開発されたような、無香粒子フィルタ(UPF)として知られている推定/予測軌跡トラッキング技術が用いられる。UPFの擬似コードは次の通りである。
【0072】
無香粒子フィルタ:
初期化:t=0.
i=1,...Nについて、先のp(x0)から状態(粒子)x0(i)を取り出し設定する、
【0073】
【数4】
【0074】
t=1,2,...について、
a)重点サンプリングステップ:
i=1,...Nについて:UKFを用いて粒子を更新:
シグマ点を計算:
【0075】
【数5】
【0076】
将来の粒子を予測(時間更新)
【0077】
【数6】
【0078】
新たな観測値を組み込む(測定値更新)
【0079】
【数7】
【0080】
i=1,...Nについて、正規化定数まで重点重みを推定:
【0081】
【数8】
【0082】
i=1,...Nについて、重点重みを正規化.
b)選択ステップ
それぞれ高重点/低重点重み
【0083】
【数9】
【0084】
を用いて、粒子
【0085】
【数10】
【0086】
を多重化/抑制し、N個のランダム粒子を得る。
c)出力:このアルゴリズムの出力は、後の分布を近似するために使用可能な次式の1組のサンプルである:
【0087】
【数11】
【0088】
例えば、境界条件の平均または境界条件の共分散または他のモーメントである、何らかの関心の関数gtについて、次の推定値が得られる。
【0089】
【数12】
【0090】
ユーザが、短い時間を定量する能力は不充分であるものの、時間的な順序、すなわち、圧迫フィードバックが実際の圧迫の前後のいずれに発生したかの識別には優れていることは、認知心理学やユーザインタフェースのユーザビリティ試験に関する多数の研究により示されている。このため、0付近で振動するδの小さな絶対変化によって、救助者の圧迫の位相同調においてより大きな不利な振動を生じることがあるので、通常、遅延δ(25)は常に正であることが有利である。
【0091】
救助者が時間の小さな変化を識別する能力を欠くことは、所望のタイミングと実際の圧迫タイミングとの間に実際には不感帯関係が存在することを意味している。この不感帯内では、フィードバック合図のタイミングの変化によって、ユーザの所望のタイミングの認識に変化が生じない場合がある。そのような不感帯は、一般にヒステリシスと呼ばれるものを生じる。ヒステリシス、すなわち、所与の負荷または状態変化に続く応答に対する身体の以前の履歴または治療の影響は、自然界に広範に見られる。それは、最初、強磁性体において認識され、続いて可塑性、摩擦および相転移において、また特に力学、熱力学、生物学、化学および経済学など幾らか異なる分野において認識された。システムに対する入力が増大または減少のいずれであるかに応じてシステムの伝達関数が変化するとき、ヒ
ステリシスが存在する。
【0092】
図5,6Aおよび6Bを参照する。非局所的記憶によるヒステリシス、すなわち、t>t0における出力y(t)の将来の値がy(t0)のみならず以前の入力の極値にも依存することを表現するには、プライザッハ(Preisach)モデルがよく用いられる。プライザッハモデルでは、特に、交換演算子γαβ80の無限集合が考えられる。ここで、α81,β82は上昇、下降の切替値に対応し、出力は−1と+1との間で切り替えられる。
【0093】
制限された周波数範囲において、ヒステリシスがレートから独立に、システムの線形力学に対する追加の外乱として作用することが考えられる。ここでは、ヒステリシスを有するシステムは、レートに無関係な記憶とのヒステリシスを有する線形の力学系の並列接続のように見られる。演算子の形態では、システムは次のように表現可能である:
【0094】
【数13】
【0095】
ここで、Γ^はレートに無関係な記憶とのヒステリシスを表し、Lはシステムの力学を表す。交換の無限集合の重み付けされた応答は、すべての可能な切替値を通じて合計される:
【0096】
【数14】
【0097】
図6Aおよび6Bには、入力信号がα183とβ184との間で変化した後に生成されるマイナーなヒステリシスループを示す。三角形T(α1,β1)は、入力がα1に達すると正の組S+に加算され、負の組S−から減算され、また、入力がβ184に達するとS+から減算される。入力がα183であるとき、境界線L(t)は単にβ軸に平行な線であり、α183およびβ085の交点の1つの角に、1組の過去の極値を生成する。入力がβ184であるとき、三角形T(α1,β1)は負の組S−に加算され、境界線L(t)は図6Aおよび6Bに示すステップである。この差は、ループに2本の異なる曲線をトレースさせるものである。
【0098】
図5〜8を参照すると、ヒステリシスコントローラ90は2段階である、すなわち、その周期的な入力信号を第1の段階に対し一定の位相角だけ変位させる「位相決定子(phaser)」演算子92と、次式によって決定される、図7に示す、第2の段階に対する可変位相決定子91とを用いる。
【0099】
【数15】
【0100】
ここで、φ1≧0かつφ2≦0であり、s93は経験的に決定される。図7において太い実線によって示される不連続関数の近似は、細い実線によって示すように双曲正接関数を用いて行われることがある。
【0101】
救助者7によって提供されるフィードバックは、視覚的および聴覚的な合図(最も有効であると考えられる)を含む様々な形態により実装されてよい。
フィードバックのタイミングを判定するために、患者の生理機能についての様々な種類の情報が入力として用いられてよい。例えば、次の生理学的な信号のうちのいずれか、または複数の生理学的な信号の組み合わせを用いることも可能である:ECG、心拍出量の測定値、心拍の測定値、血圧、酸素飽和度(SpO2)、心音(心音図検査を含む)、心臓画像処理(超音波を含む)、インピーダンスカルジオグラフィー。
【0102】
フィードバック合図は、例えば、次のいずれか、または次のものの組み合わせを含む、圧迫タイミング以外の様々な圧迫パラメータを対処することが可能である:圧迫速度、圧迫深度、デューティサイクル、胸部解放の速度、圧迫中の胸腔内圧、圧迫中の胸膜内圧、胸骨の位置、速度または加速度、胸壁または胸骨の歪みまたは変形。
【0103】
一部の実施形態では、胸部圧迫の質が監視され、フィードバック合図は質を改善するように変化する。例えば、次の圧迫パラメータは、胸部圧迫の血行動態の影響に有意な効果を有することが示されている:圧迫の深度、圧迫下降の速度(駆出分画および収縮期の有効性を改善する)、および圧迫上昇中の胸骨からの圧力の急速かつ完全な解放の達成(これによって、心臓の心拡張期の充満を改善する)。フィードバック合図を変化させることによって、圧迫のタイミングおよび質の両方を改善することが可能である。適切な圧迫深度は、AHAの推奨では、約5.08cm(2インチ)に指定されている。動物および理論モデルでは、圧迫の速度および胸骨からの圧力の完全な解放は、圧迫の深度と同等に重要な場合があることが示されている。一部の実施形態では、システムは上昇合図(UPT)38中に周波数変化Δf(28)を増大させることができ、この結果、さらに救助者は脱圧迫位相中に患者の胸骨から自身の手を解放する。一部の実施形態では、下降合図(DPT)39の音声音量および振幅エンベロープを増大させることによって、救助者に圧迫下降の速度を増大させることができる。また、CPR圧迫のデューティサイクル(すなわち、上昇に当てられる時間対下降に当てられる時間の割合)は、UPTおよびDPTの合図に当てられる時間の相対比を調整することによって(例えば、心臓の測定された活動に応じて)変化させることが可能である(例えば、DPT合図に当てられる時間を長くすることによって、救助者によるより長い下降が得られる)。
【0104】
他の実施形態では、換気の供給の時機を設定するために救助者にフィードバックが与えられる。これは、過換気の防止や胸腔内圧の制御に有用な場合がある。胸部圧迫からの圧力および換気は、血液の心臓への静脈還流や心室からの血液の駆出を補助する重要な要因である。現在推奨される圧迫と換気との間の比は、成人について15:2である。圧迫サイクルのように、バッグを圧搾する位相およびバッグを解放する位相からなる連続した二相として、弁付バッグマスク(BVM)を用いる換気サイクルを救助者に提示することが可能である。換気における二相の音声トーンは、圧迫に用いられるものとは異なる。これ
は、好適には、知覚的に分類可能な観点から、圧迫および換気のそれぞれのフィードバックトーンを認識可能な別個のものとすることによって達成可能である。例えば、圧迫用のトーンはトランペットとして理解される波形および和声を有し、換気はバイオリンとして理解されるが波形および和声を有することができる。音声合成に共通する技術を用いて、各々のトーンについて基本周波数を変位させ、フィードバックに必要な周波数を変化させることができる。
【0105】
自動式胸部圧迫装置、自動式換気装置またはその両方が救助中に利用可能である他の実施形態では、自動式の胸部圧迫、自動式装置によって供給される換気またはその両方は、電気ペーシングなどの反復的な心臓刺激療法によって誘発される心臓の活動と同期させることができる。また、ペーシングは、磁気刺激(米国特許第4,994,015号明細書および米国特許第5,078,674号明細書)または超音波トランスデューサを用いて機械的に誘発される刺激によって誘発されることも可能である。誘発される心臓の血行動態応答は患者毎に異なるので、血流を最大化し心筋組織のエネルギー消費を減少させる削減するために、自動式胸部圧迫装置によって供給される機械的な圧迫は誘発される血行動態応答に同期されることが望ましい。また、圧迫リズムの開始時間tcは、ペーシングの開始時間tpに関連して、tp−tc=κ−πとなるように調整される。ここで、κ(36)は圧迫の開始から血行動態応答までの遅延であり、π(22)は、ペーシングリズムの開始から血行動態応答までの遅延である。蘇生中に患者の状態が変化するにしたがって、πおよびκの値は、血管の緊張やカルシウムチャネルおよびベータチャネル関連の興奮収縮(EC)連関に効果のあるエピネフリンおよびアミオダロンなどの薬品が供給されるにつれて、変化する。手動の圧迫の実施形態におけるように、機械式圧迫装置または膨張式ベストの制御に用いられる予測的アルゴリズムを用いて、患者の応答の変化を考慮に入れることが可能であり、装置によって適用される圧迫のタイミングに予測的なアルゴリズムが適用される。同期は、シリアルのユニバーサルシリアルバス(USB)インタフェースなど装置間の直接的な通信によって達成されてもよく、いわゆるZigBee、すなわち、IEEE 802.15.4プロトコル標準など低遅延時間の無線プロトコルを無線で用いて達成されてもよい。
【0106】
また、一部の実施形態では、救助者の機械的な圧迫を電気的に誘発される心筋の収縮によって増大させる手段として、ペーシングが手動の圧迫と組み合わされてもよい。それらの実施形態では、電気的に誘発される活動の血行動態応答が救助者による手動の圧迫によって誘発される活動の血行動態応答にわずかに先行する(50〜100ミリ秒程度)ように、πはδに関して調整され得る。蘇生中、心臓は深刻な虚血状態にあって、乳酸塩が心筋に蓄積し組織のpHが低下するにつれて、弛緩および緊張の喪失を生じる。緊張の喪失の結果、心臓は、手動の胸部圧迫中に血流を生成するにはあまり有効でないポンプ構造となる。エピネフリンなどの薬品は緊張を改善するように作用するが、静脈性に供給されるので、唯一の血流が胸部圧迫によって誘発されるものである心停止中には、その作用に2〜3分を要する場合がある。ペーシングは、心筋が代謝的に損なわれた状態にある結果、満足な血行動態応答を実際に引き起こすのに充分な場合も充分でない場合もあるが、エピネフリンなどの薬品により経験される治療遅延なしで、機械的な圧迫の直前に、また機械的な圧迫に同期して、心筋の緊張を充分に改善することが可能である。この心筋の緊張の瞬間的な改良は、機械的な圧迫の血行動態の有効性を充分に改善することが可能である。
【0107】
他の実施形態では、圧迫および換気などの治療介入に関連した様々なパラメータのフィードバックが、患者の状態および圧迫の質の両方に基づき救助者へフィードバックされる。より単純な幾つかの実施形態では、心室の再分極を示すECGのT波などの特定の生理学的事象中、救助者が胸部圧迫を供給することを防止するように、システムがフィードバックを提供する。T波中に圧迫が供給される場合、その圧迫は、心臓震盪として知られている過程である、生命を脅かす心室性細動を誘発する可能性が充分にある。他のより頑丈
な実施形態では、まさに言及したような医療知識が、Crit Care Med、2000年、第28巻、第11号(補遺)に記載のものなど、循環系の数学的記述と組み合わされる。この著者が記載するように、微分方程式のシステムは複数の刊行物に記載されている。この特定の例では、“ヒトの循環は血液が流動できる抵抗によって接続された7つの弾性の室によって表現される。弾性体は、胸大動脈、腹大動脈、上大静脈および右心、腹部および低末端静脈、頚動脈、ならびに頚静脈に相当する。加えて、胸郭は、肺血管および左心の弾性体を表現するポンプを含む。このポンプは、加えられる圧力によって心臓自体から大動脈弁を通じて血液を絞り出す心臓状の心臓ポンプとして、あるいは加えられる圧力によって肺血管床から左心を通じて周囲へ血液を搾り出す全体的な胸部圧力ポンプとして、機能するように構成され得る。教科書的な普通の「70kgの男性」を記述する生理学的変数の値を用いて、モデルにおける弾性および抵抗を指定する。頭部、胸部および尾部の構成要素への血管のコンダクタンス(1/抵抗)の分布は、様々な身体領域に対する心拍出量の教科書的な分布を反映している”とある。
【0108】
図4を参照する。著者の上述の記載による生理学的モデルによって供給されるシステム推定ブロック55による状態空間方法を用いる、閉ループフィードバック方法を用いることができる。フィードバックコントローラ53は、例えば、当業者に知られているような、比例、差分、積分(PID)または状態フィードバック制御方法など、従来の制御システム方法を用いてよい。閉ループ制御に代えて、この装置は、図9のフローチャートに示すように、センサを監視することによって最も良好な圧迫パラメータを「探索」することができる。フローチャートには1つのパラメータしか表示しないが、センサが患者を監視している時に複数のパラメータが変化する場合もある。この方法は一度に1つまたは並列でパラメータを変化させ、潅流を改善することを試みる。システムは、一定のパラメータ(例えば、デューティサイクル)のある値が改善された潅流を生じていることを見出し、状態の変化する場合、その値で治療を続行するか、または、その値の近くの範囲におけるパラメータの変化を続行することができる。また、傾斜最急降下法、自己アニーリングまたは遺伝的アルゴリズムなどの最適化探索方法も用いられてよい。
【0109】
最急降下アルゴリズムは、特定のパラメータ(例えば、レート)を増大させ、それによってシステムの性能(例えば、EtCO2値)において何らかの測定される改良が生じるか否かを確認することによって機能する。何らかの測定される改良が生じる場合、システムの所望の成績が達成されるまで、その特定のパラメータがさらに調整される。2パラメータシステム(例えば、レートおよび深度)では、これは、x−y座標が2つのパラメータであり、Z軸がシステム性能(EtCO2)を表す、地形状に見られる。通常、このアルゴリズムは何らかの出力値を最小化するように機能する(したがって、最急降下)。一部の実施形態では、目的はEtCO2値を最大化することである。方法は、通常、パラメータ値を変化させ、システム出力を測定することに基づいており、完全に経験的である。任意の時点にて、救助者のレートおよび深度が地形図上の特定の点に配置される。各パラメータを調整することによって、別個に勾配(局所的な)傾斜が提供される。次いで、所望のEtCO2値を含む充分な領域を通じる単調な傾斜を仮定して、所望のEtCO2値を達成するように2つのパラメータの両方を調整する。
【0110】
また、胸部圧迫を基調となる生理学的活動と同期させることによって、圧迫の時を心室の拡張期に発生させるようにを設定することにより、遅いまたは徐脈性のリズムを補足することができる。例えば、毎分30拍のリズムを有する患者は、拍間で胸部圧迫が供給されることで、毎分60拍のような有効な心拍となり、より良好な潅流を受けることができる。フィードバックは、救助者が圧迫の時機を心室に幾らかの血液が存在する状態に設定し、T波における圧迫を防止するために必要である。
【0111】
図10を参照すると、他の実施形態では、心音を検出するためにマイクロホン100ま
たは他のトランスデューサが用いられる。この音は、訓練された救助者7に対しスピーカ6を通じて増幅されてもよく、訓練のより少ない救助者7に合図を供給するように処理されてもよい。心音は、CPRレート、深度、デューティサイクルまたはその両方を判定するため、およびCPRの有効性を評価するために、他の測定値から独立して用いられてよい。これは、ECG 1、血圧または脈拍が自然なレートまたは心臓の圧迫される時機を示唆しない不全収縮において、患者11に有効な場合がある。圧迫のDPT 39位相の速度は弁膜逆流を最小化するように調整されてよい。適切な圧迫の深度は、弁閉止を示す心音によって評価されてよい。
【0112】
他の実施形態では、圧迫のタイミングおよびレートは任意の心音に基づき調整されてよいが、心室収縮の開始を示すためにS1が理想的であり得る。過換気は、大動脈および肺の弁閉止を分離することによって、減少した胸腔内圧が増大されるので、S2の解析によって推定される。雑音および他の音は心臓に対する損傷についての診断情報を提供する場合があり、CPRパラメータは、この情報に基づき調整されてよい。
【0113】
超音波または経胸インピーダンスなど他の手段を用いて、心臓の体積変化または血流を検出および測定することが可能である。一部の実施形態では、患者の気道の挿管前に、先端に超音波プローブを有するカテーテルが患者の食道に挿入される。超音波プローブは、頚椎に向けて後部の方へ面し、ほぼ頚椎C3−C6の場所に配置される。一般には使用時に超音波ドップラ流量測定方法によって、音響エネルギーが椎骨から反射されて、椎骨動脈における呼吸の流れを測定するための頑丈な信号がプローブのセンサに対し提供される。そのようなシステムの利点が幾つか存在する。すなわち、(1)トランスデューサは胸部圧迫の発生している領域外に配置されるので、動きアーチファクトが最小化される、(2)この方法によって、脳に対する血流を測定する優れた方法が提供される、(3)CPR胸部圧迫によって脳に対し有効な流量を誘発するのに充分な脳潅流圧力(BPP)を達成することは、心臓の有効な潅流を誘発するのに必要な冠動脈潅流圧(CPP)より困難であるので、脊椎流量測定は、蘇生努力中の有効なBPPおよびCPPの両方に関する感度のよいインジケータである。
【0114】
椎骨動脈は脊柱に沿って巡らされており、外側から触れることは不可能である。この椎骨動脈は結集し、頭蓋の底部にて脳幹の近くに1つの脳底動脈を形成する。この動脈は、大脳の頭頂および後頭葉、小脳の一部ならびに脳幹に血液を供給する。頭頂葉は、感覚(触覚および圧覚)を制御する主要感覚皮質と、微細な感覚(生地、重量、寸法および形状の判断)を制御する大連合野とを含む。右頭頂葉に対する損傷は空間視覚障害を引き起こし、患者が新た場所において、またはよく知られている場所においても自身の進路を見つけることを困難とすることがある。左頭頂葉に対する損傷は、話された言語、書かれた言葉またはその両方を理解する患者の能力を分裂させる場合がある。後頭葉は視覚情報を処理する。後頭葉は視覚的な受容に関与しており、形状および色彩の視覚的な認識を支援する連合野を含む。この葉に対する損傷は視覚的な障害を引き起こすことがある。小脳は脳において2番目に大きな領域であり、反射神経、平衡ならびに運動および統合の一定の態様を制御する。脳幹は、呼吸、消化および心臓の拍動や、注意および覚醒(目が覚めている状態)など、生命に重要な様々な自動機能を担う。したがって、他の実施形態では、蘇生中に椎骨動脈の血流を監視し、その流量を最大化するように治療介入を調整することができる。
【0115】
図13A〜13Cを参照すると、別の実施形態では、超音波流量センサは、犠牲者の咽頭下部に配置された円錐形に成形されたプローブ132であってよく、プローブの狭端部が輪状咽頭筋130の領域において咽頭の上端部にあり、プローブの広端部は咽頭下部においてその直上にある。超音波トランスデューサ131は側方に配置され、そのビームは背骨の軸から約45度の角度で上方に向けられている。この音響ビームは、トランスデュ
ーサアレイを使用することによって、またはプローブ面への音響レンズを組み込むことによって形成され、約45度のビーム方位角を有する狭い上昇ビームを生じる。トランスデューサは、音響ビームに総頸動脈と頚静脈とを交差させるようにプローブに配置され、上昇ビーム角が狭いため、狭い領域においてのみ頚動脈および頚静脈と交差し、血流速度の精度を改善する。頚動脈および頚静脈の両方の血流速度は、ドップラ偏移2fcv/cを用いて同時に計算される。ここで、fc、vおよびcは、それぞれ音響ビームの中心周波数、血流速度および音速である。
【0116】
計算された頚動脈および頚静脈の両方の血流速度プロファイルを用いて、ピーク大動脈速度と最小心拡張期速度との差を1周期を通じた平均速度で除したものとして、拍動指数が計算される。ピーク大動脈速度と最小心拡張期速度との差をピーク大動脈速度で除したものとして、Pourcelot指数(すなわち、抵抗指数)が計算される。
【0117】
トランスデューサシステムの信号検出性能を改善するために、ヒドロゲル上にラミネートされたアルミ箔133などの音響学的な反射材料が、音響ビーム軸に沿って患者の頚部に着けられる場合がある。
【0118】
一部の実施形態では、装置は、CPRの時機およびCPRの質の履歴のトラッキングを行う。エキスパートシステムが治療を推奨するとき、この情報はアドバイザリアルゴリズムの一部として用いられる。心臓のリズムをショック可能またはショック不可能として分類するために、ECGのみが用いられていた。しかしながら、虚血組織では組織化された分極が起こる可能性が低いので、CPRの履歴によって心臓ペーシングの除細動の成功が影響を与えられる場合がある。
【0119】
図1および11を参照すると、救助者はAED 10を用いて、心臓蘇生中に自動的に犠牲者を監視する。AED 10は、スピーカ6、表示装置7、アナログフィルタおよびアナログ・デジタル変換器などの信号処理部を含む信号処理モジュール9、プロセッサ14、ならびに除細動パルス発生器または他のペースメーカー電流または磁気パルス発生器などのエネルギー出力手段13を備える。信号処理モジュール9は、ECG信号捕捉モジュール1によって、犠牲者11に取り付けられた1組のECGリードへ接続される。プロセッサ14は、胸部圧迫技術を用いて犠牲者が蘇生されているとき、ECG信号を用いて犠牲者の心臓において危険なリズムを監視する。AED 10が危険な心臓リズムを検出する場合、AED 10は警報信号を発生させる。この警報信号は救助者に気付かれる。救助者がAED 10に命令を発するとき、AED 10は、犠牲者に除細動ショックを生成することが可能である。除細動ショックは、犠牲者の心臓の危険なリズムを改善することが意図される。
【0120】
AED 10は、(a)ECG信号の周波数領域の特徴を定量し、(b)VFなど正常なECGリズムと異常なECGリズムとを区別し、(c)異常なECGリズムの開始を検出し、(d)心臓の生理学的な状態に関する決定を行う、リズムアドバイザリ方法を用いる。この周波数領域測定値は、ECG信号において胸部圧迫アーチファクトが存在する場合も存在しない場合も信頼可能である。AED 10は、心臓の現在の生理学的な状態を識別した後、救助者が行う適切な治療動作についての決定を行うことが可能であり、その動作をスピーカ6、表示装置7またはその両方を用いて救助者に通信する。表示装置は、液晶ディスプレイ(LCD)などグラフィカル表示装置の形態を取ってもよく、単純に1つ以上の発光ダイオードまたは他のそのような視覚的なインジケータであってもよい。LED棒グラフに含まれるものなど棒グラフインジケータは、上述の周期的な反復的フィードバックを伝達する際に特に有効であり、同時に、LCD表示装置より高価でなく、より明るく、読取を行うことがより容易な場合がある。一部の救助者の混乱を最小化するように、圧迫と換気とに対し、複数の棒グラフLEDなど別個の可視のインジケータが利用さ
れてもよい。
【0121】
図12Aおよび12Bを参照すると、別の実施形態では、LCDディスプレイ上などにグラフィカルなフィードバックを出力するために、例えば、上述のBabbsなど、1組の連立差分方程式のからなる生理学的モデルによって供給されるシステム推定ブロック55が用いられる。救助者が他の救助者との通信に気を取られている状況が存在する場合もあり、所望の位相同期(同調)を得るために必要な圧迫毎の自身の圧迫に集中することができない場合もある。位相同期(同調)の欠如により効果は減少するので、救助者に4つの主な蘇生パラメータ、すなわち、圧迫毎の圧迫深度114、レート115、ならびに換気の一回呼吸量112およびレート113の簡潔な視覚的フィードバックを供給することによって得られる利益が依然として存在し得る。この視覚的フィードバックは、蘇生制御パネルのLCDディスプレイの部分に提供される、1つは圧迫用、1つは換気用の別個のダイヤル110、111の形態を取ってもよい。各ダイヤルは、直交軸上に表示されるその性能に関連した2つの主要なパラメータを有し得る。複数の状態バー115を対比することによって、各々のパラメータの性能の現在の状態を示し、緑の中央部116は所望の目標領域を示す。状態バー115が中央部116の右または下に存在することは、関連するパラメータが増大される必要があることを示し、状態バー115が中央部116の右または上にあることは、関連するパラメータが減少される必要があることを示す。一部の場合、換気レートのみが表示されてよい。これに代えて、ダイヤルは追加のインジケータ、例えば、高すぎるまたは低すぎる換気一回呼吸量、高すぎるまたは低すぎる換気レート、深すぎるまたは浅すぎる圧迫深度、速すぎるまたは遅すぎる圧迫レート、および2つの中央部に対応する5つのインジケータから構成されてもよい。ダイヤルに対する2つのパラメータのうちの1つが高すぎるか低すぎる場合、その特定のインジケータが点灯し、また、第2のパラメータが適切に実行されていることによって、中央部116は赤から黄色に変化する。特定のダイヤルについての両方のパラメータが正確に実行されているとき、中央部は緑になる。インジケータはLEDであってもよく、LCD上の領域であってもよい。
【0122】
これらの実施形態では、フィードバックループによる単純な生理学的モデルが提供される。良好な血流を発現させるための良好な胸部圧迫には約35〜45秒を要するが、救助者がCPRを停止した後、その血流が低下するにはわずか5秒しか要しない。問題は、人々が胸部圧迫を停止する傾向にある場合が多すぎることである。生理学的モデル(例えばBabbsモデルまたはより単純なモデル)を用いることによって、各圧迫により何らかの量だけインジケータが増大され、この量は圧迫の深度に依存する。この結果は、実際の冠動脈潅流圧が犠牲者に作用する手法の近似である。
【0123】
上述のように、Babbs生理学的モデル(動物モデルおよびヒト臨床研究において検証されている)では、冠動脈潅流圧(CPP)を何らかの適正な値とするには実際に約30〜45秒の良好なCPRを要することが示される。CPPは、冠循環(心臓筋肉に血液を供給する)に入る血圧の尺度である。圧迫中、CPPは上昇するのが遅く、良好なCPRが停止すると、CPPは約10秒以内に急速に減少する。
【0124】
別の実施形態では、救助者に視覚的に提示されるのは潅流性能指数(PPI)であり、心停止犠牲者に対するCPRの生理学的な影響の単純なインジケータを提供するように、生理学的モデルがフィードバックループに組み込まれる。単純な実施形態では、潅流は、各圧迫により圧迫の深度に依存する量を充填される、漏れのある容器としてモデル化される。各圧迫の中間では、その量のうちの幾らかが容器から漏れる。
【0125】
以下に挙げる擬似コードによって、1つの可能な生理学的モデルが実装される。50回の良好な(適切な深度の)圧迫(約30秒)により潅流作業指数は100%となるが、同
時に15秒でPPIを0とするレートで減少することが所望された。選択された特定の値は、部分的には、アメリカ心臓協会(AHA)によって提案されている、換気対圧迫について30:2の比の新たなCPRガイドラインによった。通常、休止は換気の実行されるときに発生するので、PPIは分間の換気サイクルにより生じる休止の終了によって著しく低下する。しかし、良好な圧迫が実行される場合、1分間のCPR間隔の終了に発生する除細動ショックの直前に100まで戻る。救助者の目標はショック直前に100に近いPPIを得ることである。PPIはショック後に0にリセットされるので、救助者はショック直後に圧迫を開始するように動機付けを行われる。図12Cには、別の可能なグラフィカルなフィードバック実施形態を示す。PPIブロック120の外側の厚い帯(幅約3.2mm(約1/8インチ))は、良好な圧迫(約3.81cm(1.5インチ)以上)が供給された後、1秒間緑になり、次いで黒に戻る。「不良な」圧迫(約3.81cm(1.5インチ))が供給されると、この帯は1秒間赤くなり、次いで再び黒に戻る。目標はPPIの輪郭の帯120を緑色にしておくことである。PPIブロック121は、Perfusion_Perf_Ind値に基づき満ちる(Perfusion_Perf_Ind=32896のとき完全)。より複雑な実施形態では、換気と圧迫との相互作用またはBabbsによって記載されるより完全なモデルが組み込まれてよい。
【0126】
1つの可能な擬似コード実施形態は次の通りである:
【0127】
【表1】
【0128】
AED 10は、胸部圧迫、換気など追加の治療動作、または代謝もしくは構成栄養素を含有する静脈注射液の供給を実行するための機能を組み込むことができる。リズムアド
バイザリ方法の解析の結果に基づき、AED 10は、自動的に患者11に適切な治療を供給することができる。また、AED 10は「アドバイザリ」モードにより構成されてもよい。「アドバイザリ」モードでは、AED 10は、AED 10が最も良好な治療の決定を行った後、介護者にプロンプトを示す。治療が患者へ供給される前に、ボタン押下または音声検出の承認の形態の介護者/装置操作者による承認が要求される。
【0129】
次いで、AED 10はECG信号を解析して、除細動成功を予測するとともに、除細動を行うことと、胸部圧迫、エピネフリンなどの薬品、グルコースなどの構成栄養素またはペーシングなど他の電気治療などの代替療法を供給することとのいずれが適切であるかを決定する。
【0130】
一部の実施形態では、1つ以上の治療供給装置15が、患者に適切な治療を自動的に供給する。治療供給装置15は除細動器AED 10から物理的に分離しており、治療供給装置15の制御は通信リンク16によって行われ得る。通信リンク16は、装置を接続するケーブルの形態を取ってもよいが、好適には、リンク16は、Bluetooth(登録商標)などの無線プロトコルまたはIEEE(米国電気電子学会)802.11などの無線ネットワークプロトコールである。治療給装置16は、カリフォルニア州サニーベール(Sunnyvale)のRevivantによってAutopulse(商標)として市販されている携帯胸部圧迫装置であることが可能である。他の例では、治療供給装置16は、ペンシルバニア州プリマスミーティング(Plymouth Meeting)のInfusion DynamicsによってPower Infuser(商標)として市販されている、またはイリノイ州ラウンドレイク(Round Lake)のBaxter Healthcare社によってColleague CX(商標)として市販されている薬品注入装置である。治療供給装置16は、ニューヨーク州パールリバー(Pearl River)のVersamedによってiVent(商標)として市販されている換気装置であることが可能である。また、治療供給装置16は、除細動、胸部圧迫、換気および薬品注入など複数の治療を含むことが可能である。
【0131】
他の実施形態では、全体的な蘇生事象および様々な治療の供給の制御および統合は、装置17またはAED 10の外の処理要素によって行われてよい。例えば、装置17は、AED 10からECGデータをダウンロードして処理し、ECG信号を解析し、その解析に基づき決定を行い、AED 10を含む他の治療装置16を制御することができる。
【0132】
他の実施形態では、AED 10は、ECG信号を解析することを含めてECGの処理すべてを実行し、適切な治療の最終決定のみを制御装置17に送信することができる。この場合、制御装置17は、他のリンクされた装置30上で制御動作を実行する。制御装置17は、好適には、コロラド州デンバー(Denver)のZOLL Data Systemsによって製造されているタブレットPCRなど、自動式の患者記録ソフトウェアの動作するラップトップコンピュータである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、救助者が心肺蘇生(CPR)を実行することの補助など、反復的な治療の供給を補助するための医療装置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
心停止の患者の蘇生治療法には、一般に患者の気道を確保すること、患者に人工呼吸を行うこと、ならびに胸部圧迫を行い、犠牲者の心臓、脳および他の重要器官に血流を供給することが含まれる。患者がショック可能な心臓リズムを有する場合、蘇生には除細動治療も含まれることがある。「一次救命処置(BLS)」の用語には、次の要素、すなわち、初期評価、気道確保、呼気換気(人工呼吸)、および胸部圧迫のすべてが含まれる。「気道、呼吸、および胸部圧迫を含む循環」の3つすべてが組み合わされるときには、「心肺蘇生術(CPR)」の用語が用いられる。
【0003】
異常な心臓リズムには様々な種類が存在し、除細動による治療が可能であるもの(「ショック可能なリズム」)と、不可能であるもの(「ショック不可能なリズム」)とがある。例えば、充分な心拍出量を生じる大部分のECGリズムは、ショック不可能であると考えられる(例えば、正常洞調律、ある種の徐脈、および洞頻脈)。また、充分な心拍出量を生じないが、それらの条件の下では除細動治療が通常無効であるため依然としてショック不可能であると考えられる、幾つかの異常なECGリズムも存在する。これらのショック不可能なリズムの例には、不全収縮、電導収縮解離(EMD)および他の無脈性電気活動(PEA)が含まれる。これらの生存不能かつショック不可能なリズムでは、患者が生存したままでいることは不可能であるが、ショックを与えてもリズムの変換の補助にならない。介護者が除細動を行なうべきショック可能リズムの主な例には、心室性細動、心室性頻拍および心室粗動が含まれる。
【0004】
ショック可能なECGリズムを有する患者に対し、除細動器を用いて1つ以上のショックを与えたにもかかわらず、患者がショック可能もしくはショック不可能な潅流または非潅流のリズムにあり、意識を喪失したままである場合がある。非潅流リズムが存在する場合、介護者は、患者の心臓、脳その他の重要器官へ継続して血流および酸素を供給するために、一定の期間、CPRを行う。ショック可能リズムが存在し続けるか、CPRの実行中に発生する場合、心肺蘇生術のこの期間に続き、さらなる除細動が試みられる。患者が意識を喪失したまま、有効な循環のない状態である限り、介護者は、(電気的なリズムを分析し、場合によってはショックを与えるための)除細動器の使用と、心肺蘇生法(CPR)の実行とを交互に行うことが可能である。CPRには、一般に、5〜15回の胸部圧迫に、2回の人工呼吸を行う休止が続く反復パターンが含まれる。
【0005】
除細動はAEDを用いて実行可能である。アメリカ心臓協会(American Heart Association)、ヨーロッパ蘇生協会(European Resuscitation Council)および他の類似の機関は、AEDの使用を含む、心停止の犠牲者の治療のためのプロトコールを提供している。これらのプロトコールでは、犠牲者の状態に接近し、蘇生中に供給される適切な治療を判定する際に従うべき一連のステップが規定されている。AEDを使用することを要求され得る介護者は、これらのプロトコールに従うように訓練される。
【0006】
大部分の自動式体外除細動器は、実際には半自動式の体外除細動器(SAED)であり、介護者がスタートボタンまたは解析ボタンを押すことを必要とする。その後、除細動器は患者のECGリズムを解析し、電気リズムがショック可能である場合には、患者へショ
ックを加えるように介護者に通知する。次いで、介護者は、制御ボタンを押してショックを供給することに関与する。ショック供給に続き、SAEDは自動または手動で患者のECGリズムを再び解析し、追加のショックを通知したり、介護者に、患者の循環の徴候を検査し(除細動治療が成功したこと、またはリズムがショック不可能であることを示す)、除細動の試行によって循環が回復されなかった場合、CPRを開始するように指示したりする場合がある。一方、完全に自動式の体外除細動器は、ユーザの介在を待機せずに除細動ショックを加える。以下では、自動式体外除細動器(AED)には半自動式体外除細動器(SAED)が含まれる。
【0007】
両方の種類の除細動器は、通常、ECG解析の開始、各ショックの供給またはその両方の前に、音声による「離れ(stand clear)」警告を与える。このとき、介護者は患者から離れること(すなわち、患者とのいかなる物理的な接触も中断すること)が期待され、また、ボタンを押してショックを供給することを要求される場合もある。自動式体外除細動器用の制御部は、通常、蘇生装置のハウジングに配置されている。
【0008】
AEDは、通常、医師、看護師、救急救命士、消防署員および警官など、訓練された医療介護者または準医療介護者によって使用される。心停止の発生と除細動治療の供給との間が1分遅延する毎に患者が心停止から生存する可能性は約10%減少するので、現場のAEDが速やかに利用可能であることや、そのAEDを操作するように訓練された介護者は重要である。
【0009】
訓練された一般の介護者はAED操作者の新たなグループである。例えば、心臓発作の犠牲者の配偶者は、一般の介護者として訓練され得る。一般の介護者は、CPRの除細動を行ったりCPRを供給したりする機会がめったにないため、救急医療中のAEDに容易く恐れをなしてしまう可能性がある。その結果、そのような一般の提供者は、AEDを購入することや必要時に使用することをためらう場合があり、あるいは、一般の提供者は何か間違ったことをしてしまうとの懸念から、利用可能なAEDを使用するよりも、救急車の到着を待機する傾向にある可能性がある。
【0010】
また、一部の訓練された医療提供者(例えば、産科医、皮膚科医および家族介護従事者などの専門家)も、CPR、除細動またはその両方を行う機会はめったにないため、それらを行うことが不安である可能性がある。訓練の頻度が低い場合、能力についての懸念は募り、介護者が、自分は推奨される蘇生プロトコールのステップ、それらのステップの正しい順序またはその両方をすべて思い出すことができないかもしれないと心配することになる。
【0011】
同様に、医療介護者および一般介護者の両方は、特に、それらの介護者の訓練の頻度が低く、それを使用する機会がめったにない場合には、CPRおよび人工呼吸を行うことを躊躇することや、それらのステップをいつ実行するのかについて確信のないことがある。
【0012】
CPRは初期学習および技能維持の両方が不充分である複雑な作業であり、多くの場合、訓練生は6〜9か月以内にその最初の技能の80%を失うことが当業者には知られており、複数の研究により示されている。このため、様々な先行技術の目的は、この不利な条件に対する改善を試みることであった。胸部圧迫の成績の支援については、特許文献1乃至7に記載されている。特許文献8乃至11には、CPRプロンプトシステムについて記載されている。AEDには、1974年の最も初期の市販バージョン以来、救助者に要求される複雑な一連の動作の正しいタイミングおよび順序や除細動電極の配置の両方を提供する、音声プロンプトやフリップチャートまたはプラカード上のグラフィカル命令が常に備えられている。特許文献12乃至14には、視覚的なプロンプトを含む、CRT上または発光ダイオードなどバックライト発光もしくは放射の表示手段を有する印刷ラベル上に
提示されるグラフィカル命令の形態による、高度化されたプロンプトを用いる除細動器について記載されている。1970年代以来のAEDは除細動電極間で測定されるインピーダンスを用いてAEDの状態や救助者に供給する適切なメッセージ(例えば、ユニット上の最初のプロンプトが供給されており、インピーダンスが何らかの所定のしきい値より高いままである場合には「電極を取り付ける(Attach Electrodes)」)を判定していた(あるいは、特許文献15におけるように、過度の患者の動きが存在するか否かを判定していた)。特許文献16には、「電極を取り付ける」などのメッセージを供給するために、電極のインピーダンスを用いてAEDの状態を判定する装置について記載されている。
【0013】
これらの特許により実施される強化されたプロンプトによって、心停止患者の回復に成功するために必要とされる複雑なプロトコールの順守の改善において、救助者に対し何らかの利点が提供される。しかしながら、これらの特許の要素を一般に利用するAEDの試験においては、救助者は依然として約50%未満の成績レベルを達成することしか可能でないことが発見された。研究方法は次の通りであった:以前のAED訓練による偏りの可能性を除去するために、いずれの対象も以前にAEDを用いた経験はなく、AEDを用いる訓練を受けたこともなかった。被験対象に、従来の研究におけるよりも正確に似せた、一般救助者が心停止救助状況に遭遇する模擬使用シナリオを提示した。完全に機能する次の4つの除細動器、すなわち、フィジオコントロール・ライフ・パックCRプラス(Physio−Control LifePak CR Plus)、ゾールAEDプラス(ZOLL AED Plus)、フィリップス/レールダル・ハートスタート・オンサイト(Philips/Laerdal HeartStart OnSite)、カーディアック・サイエンス・パワーハート(Cardiac Science PowerHeart)を用いた。被験対象を模擬事務所へ案内し、人(マネキンによって模擬された)がちょうど床に倒れ、完全に意識を喪失したように見え、死にかけている可能性が充分にあることを告げた。被験対象に、事務所のAEDおよび任意の他の物体を使用し、実際の緊急事態であるかのように行動するよう告げた。各人を、生存シーケンスのチェーン(8ステップ:応答確認、助けを捜す、気道確保、呼吸確認、人工呼吸、循環確認、衣類除去、およびAED電極の取り付け)を含む、行った動作の数に基づき評価した。11人の一般救助者からなる、メドトロニック社(Medtronic)(ミネソタ州)のLifepak CR Plusのグループは、平均3.5±1.4ステップを完了させ、11人の一般救助者からなる、Cardiac Science社(カリフォルニア州)のPowerHeartのグループは、平均3.4±1.9ステップ、12人の一般救助者からなる、Philips社(マサチューセッツ州)のHeartStartのグループは、平均3.8±1.3ステップ、11人の一般救助者からなる、ZOLL社(マサチューセッツ州)のAEDPlusのグループは、平均5.0±1.3ステップを完了させたことが分かった。他の装置より統計的に優れていることが示されたZOLLの装置であっても、63%の遵守率を達成しただけであった。さらに、推奨される毎分100回の圧迫を1分間以上の持続時間に渡って保持することが可能であったのは、被験対象のうちの10%未満であった。
【0014】
最近では、より多くの心停止の犠牲者を救うには良好なCPRが必要であることが認識されている(非特許文献1)。引用した研究では、研究者らは、セグメントの総数のうちの36.9%において圧迫レートが圧迫80回/分(cpm)未満であり、21.7%では、70cpm未満のレートであることを見出した。アメリカ心臓協会がそのガイドラインにおいて推奨している圧迫レートは、100cpm超である。研究では、より高い胸部圧迫レートは、自発循環の初期回復と有意に相関していた(初期の生存者および非生存者についての平均胸部圧迫レートは、それぞれ、90±17,79±18cpm;P=0.0033)。さらに、この研究は、看護師および医師を含む充分に訓練された救助者を用いて実行されており、不十分な圧迫レートの問題が広範なものであることを示している。
【0015】
上述のZOLLおよびPhilipsのものなどCPRフィードバックを備えるAEDは、何らかの形態の圧迫レートのプロンプトを有する。これは、アメリカ心臓協会のガイドラインによって推奨されるように、圧迫100回/分の所望のレートのビープ音またはトーンの形態を取る。ZOLL AEDPlusは、救助者が圧迫を開始するレートで圧迫レートのトーンを開始し、次いで100cpmの所望のレートまで圧迫トーンのレートを徐々に増加させるという追加の特徴を有する。一部の場合には、このアプローチは有用であるが、圧迫トーンのレートが救助者の圧迫と同期していないので、トーンが救助者の圧迫レートの位相から外れて発生することがあり、実際には救助者を混乱させるように作用し、一瞬、圧迫レートを遅らせることがある。
【0016】
また、AEDは専ら除細動に焦点を置いている。除細動は心室性細動および一定の頻脈について最良の治療を提供するものではあるが、無脈性電気活動(PEA)または不全収縮を示す心停止患者のうちの60%には治療は有益でない。AEDが家庭に普及しつつあるが、家庭には、応急手当や、喘息、糖尿病またはAEDが有益でない心臓関連疾患などの慢性症状に関連した事態などを生じる、多数の他の健康問題も存在する。
【0017】
除細動ショックの後、心臓は2つの状態のうちの1つの状態にある。すなわち、ショックが成功し、心臓は麻痺した虚血の症状にあって、リズミカルなペースメーカー活動および有効な心拍出量に必要な心筋のATPエネルギー備蓄が極めて少ない状態か、あるいは、ショックが失敗した状態である。驚く者もあるだろうが、心室性細動が除細動によって有効な血行動態出力を有する正常洞調律へ変換されることは、あったとしても稀である。患者が生存するには、除細動ショックの成功の後に、良好なCPRが必要である。
【0018】
特許文献17に記載されているものなど、自動式胸部圧迫装置は心周期に同期されているが、手動のCPRを供給する救助者は、無脈性電気活動(PEA)と共に発生するものなど、一般に、損傷した心臓の心周期には同期していない固定のレートで胸部を圧迫する。PEAは、心臓が電気的には機能しているが、有効に収縮するのに充分な健康な筋繊維を有しない状態である。通常、患者の駆出分画は非常に低く、収縮中、心臓の血液の大部分は、大動脈および冠状動脈に駆出されず心室に残る。
【0019】
多くの研究では、ECG解析において一般に行われるような胸部圧迫の中断によって、自発循環の回復率および24時間生存率が有意に減少し得ることが報告されている。これらの研究には、非特許文献2乃至4が含まれる。
【0020】
自動式の機械的圧迫システムに関しては、心臓圧迫および換気サイクルを心周期に同期させる有益な効果が存在することが長く認識されている(非特許文献5)。特許文献18および19および特許文献17には、圧迫周期を心周期に同期させる機械的圧迫システムについて記載されている。特許文献20には、監視された血液潅流に基づき胸部圧迫を修正する機械的圧迫システムについて記載されている。
【0021】
特許文献21では、患者の年齢に基づき調整される聴覚的な圧迫レートを供給する蘇生補助タイマについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第4,019,501号明細書
【特許文献2】米国特許第4,077,400号明細書
【特許文献3】米国特許第4,095,590号明細書
【特許文献4】米国特許第5,496,257号明細書
【特許文献5】米国特許第6,125,299号明細書
【特許文献6】米国特許第6,306,107号明細書
【特許文献7】米国特許第6,390,996号明細書
【特許文献8】米国特許第4,588,383号明細書
【特許文献9】米国特許第5,662,690号明細書
【特許文献10】米国特許第5,913,685号明細書
【特許文献11】米国特許第4,863,385号明細書
【特許文献12】米国特許出願第09/952,834号明細書
【特許文献13】米国特許第6,334,070号明細書
【特許文献14】米国特許第6,356,785号明細書
【特許文献15】米国特許第4,610,254号明細書
【特許文献16】米国特許第5,700,281号明細書
【特許文献17】米国特許第6,752,771号明細書
【特許文献18】米国特許第4,273,114号明細書
【特許文献19】米国特許第4,326,507号明細書
【特許文献20】米国特許出願第2004/0162587号明細書
【特許文献21】米国特許第4,491,423号明細書
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Circulation、2005年、第111巻、p.428−434
【非特許文献2】佐藤ら、「心肺蘇生中の前胸部圧迫の中断の悪影響(Adverse effects of interrupting precordial compression during cardiopulmonary resuscitation)」、Critical Care Medicine、1997年5月、第25巻、第5号、p.733−736
【非特許文献3】ユー(Yu)ら、「自動除細動中の前胸部圧迫の中断の有害な結果(Adverse Outcomes of Interrupted Precordial Compression During Automated Defibrillation)」、Circulation、2002年
【非特許文献4】エフテストール(Eftestol)ら、「院外心停止の患者における心室性細動のスペクトルキャラクタリゼーションおよび非パラメータ性分類による除細動の結果予測(Predicting Outcome of Defibrillation by Spectral Characterization and Nonparametric Classification of Ventricular Fibrillation in Patients With Out−of−Hospital Cardiac Arrest)」、Circulation、2002年
【非特許文献5】エム.アール.ピンスキー(M.R.Pinsky)、「胸腔内圧の心周期特異的な増大の血行動態効果(Hemodynamic effects of cardiac cycle−specific increases in intrathoracic pressure)」、Journal of Applied Physiology、1986年2月、第60巻、第2号、p.604−612
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
ユーザが心臓蘇生の一部として手動で患者に胸部圧迫を供給することを補助するための医療装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
医療装置は、フィードバック合図を生成し、ユーザが胸部圧迫の供給の時機を設定することを補助するように構成されたフィードバック装置と、フィードバック装置によってフィードバック合図が生成される合図時機を決定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路と、を備える。フィードバック合図はユーザが区別できる2つ以上の位相を有し、第1の位相は救助者の運動の上昇位相に対応し、フィードバック合図の第2の位相は救助者の圧迫運動の下降に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】システムのブロック図。
【図2】フィードバックトーンのタイミングに対する圧迫のタイミングの例(同期からの遅れの変化する)を示す図。
【図3】フィードバック圧迫タイミングの様々なパラメータを示す詳細なタイミング図。
【図4】リズミカルな蘇生動作の位相同期(同調)における閉ループ制御システムを示すブロック図。
【図5】ヒステリシスの交換演算子の例を示す図。
【図6A】マイナーなヒステリシスループの例を示す図。
【図6B】マイナーなヒステリシスループの例を示す図。
【図7】可変位相決定子関数を表示する図。
【図8】ヒステリシスコントローラを示すブロック図。
【図9】パラメータベースのCPR制御フィードバックの方法を示すフローチャート。
【図10】胸部圧迫を行う救助者に音声プロンプトを供給するために用いられる処理を示す、蘇生装置のブロック図。
【図11】アドバイザリ解析にCPRフィードバックを提供する処理を示す、蘇生装置のブロック図。
【図12A】換気および圧迫について救助者にフィードバックを供給するためのグラフィカル表示の例を示す図。
【図12B】換気および圧迫について救助者にフィードバックを供給するためのグラフィカル表示の例を示す図。
【図12C】換気および圧迫について救助者にフィードバックを供給するためのグラフィカル表示の例を示す図。
【図13A】生理学的フィードバックを行うために食道の上端部に配置されている超音波血流センサについての図。
【図13B】生理学的フィードバックを行うために食道の上端部に配置されている超音波血流センサについての図。
【図13C】生理学的フィードバックを行うために食道の上端部に配置されている超音波血流センサについての図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
一般に、第1の態様では、本発明は、ユーザが手動で患者へ反復的な治療を供給する(例えば、心臓蘇生における胸部圧迫または換気)ことを補助するために用いられる種類の医療装置を特徴とする。この医療装置は、フィードバック合図を生成し、ユーザが反復的な治療の供給の時機を設定することを補助するように構成されたフィードバック装置と、ユーザが実際に反復的な治療を供給した実際の供給時機を検出するように構成された1つ以上のセンサまたは回路部品と、実際の供給時機を所望の供給時機を表す情報と比較し、フィードバック装置によってフィードバック合図が生成される合図時機を決定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路と、からなる。
【0028】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。手動で供給され
る反復的な治療は、心臓蘇生の一部として手動で供給される胸部圧迫を含む。実際の供給時機および所望の供給時機は、実際の供給位相および所望の供給位相を含む。実際の供給時機および所望の供給時機は、実際の供給時機と所望の供給時機との間の差を形成することによって比較される。実際の供給時機を徐々に変更するために、複数の治療供給の時間を通じて合図時機が徐々に変更される。フィードバック合図は聴覚的または視覚的である。反復的な治療は心臓蘇生の一部として換気を含む。フィードバック合図はユーザが区別できる2つ以上の位相を有し、第1の位相は供給される治療の第1の位相に対応し、フィードバック合図の第2の位相は供給される治療の第2の位相に対応する。反復的な治療は心臓蘇生のための胸部圧迫を含み、フィードバック合図の第1の位相は救助者の圧迫運動の上昇に対応し、フィードバック合図の第2の位相は救助者の圧迫運動の下降に対応する。フィードバック合図は可聴音を含み、第1の位相および第2の位相は周波数および振幅のうちの一方または両方において異なる。フィードバック合図は胸部圧迫のための上昇合図を含み、上昇合図は、圧迫の供給前の上昇中に救助者の体が上昇するにつれて、周波数が増加するように変化する。フィードバック合図は圧迫の供給中に時間によって周波数の変化する下降合図を含む。下降合図は上昇合図より持続時間が短い。下降合図の音量は供給される圧迫がほぼ底にある時に最高となるように増大する。プロセッサは、合図時機と実際の供給時機との間の遅延時間を決定するように、かつ、合図時機を決定する際に遅延時間および所望の供給時機を使用するように構成されている。プロセッサは、合図時機と実際の供給時機との間の類似の時間関係を維持するように構成されている。類似の時間関係は実際の供給時機の前に合図時機を発生させる。プロセッサは、トラッキングフィルタを用いて、反復的な治療を供給する際のユーザの過去の成績に基づき、実際の供給時機を予測するように構成されている。トラッキングフィルタはカルマン(Kalman)フィルタを含む。プロセッサは、合図時機と実際の供給時機との間のヒステリシス関係を補償するように構成されている。トラッキングフィルタは、所望の供給時機からの実際の供給時機の短時間の解離の影響を制限するように構成されている。ローパスフィルタによって供給時機の短時間の解離の影響が制限される。所望の供給時機は患者の測定される生理機能に基づき選択される。測定される生理機能は患者のECGを含む。所望の供給時機はECGにおけるT波以外の時である。測定される生理機能は心臓のPEAであり、所望の供給時機は、PEAに関連して位相の設定された実際の胸部圧迫時機を生成し、血行動態の出力を改善するように選択される。測定される生理機能は心臓の低レベルの機械的活動であり、所望の供給時機は、低レベルの機械的活動に関連して位相の設定された実際の胸部圧迫時機を生成し、血行動態の出力を改善するように選択される。測定される生理機能は心臓のリズム状態を含み、プロセッサは、リズム状態における少なくとも幾つかの変化にしたがって合図時機を変化させるように構成されている。患者の基調となる循環器系活動に関連してフィードバック合図の位相を設定するか否かを決定する際にリズム状態が考慮される。測定される生理機能は特定の生理学的事象の時機を含み、合図時機は、生理学的事象の時機と実際の供給時機との間の所望の時間関係を生成するように選択される。生理学的事象は心臓の機械的収縮である。所望の供給時機は、ペーシング刺激によって生じる改善された心筋の緊張の期間に胸部圧迫が発生するように、心臓に供給されるペーシング刺激の直後に続く。
【0029】
本発明の第2の態様では、本発明は、ユーザが手動で患者へ反復的な治療を供給することを補助するために用いられる種類の医療装置を特徴とする。この医療装置は、フィードバック合図を生成し、ユーザが反復的な治療の供給の時機を設定することを補助するように構成されたフィードバック装置と、少なくとも2つの位相、すなわち、精神運動活動の第1の位相に対応する第1の位相および精神運動活動の第2の位相に対応する第2の位相を用いてフィードバック合図を生成するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路とを備え、反復的な治療は治療を供給するユーザの一部に対する精神運動活動を含む。
【0030】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。手動の反復的な治療は手動の心臓蘇生における胸部圧迫を含み、精神運動活動の第1の位相はユーザによる上昇運動を含み、精神運動活動の第2の位相はユーザによる下降運動を含む。
【0031】
第3の実施形態では、本発明は、ユーザが心臓蘇生の一部として手動で患者に胸部圧迫を供給することを補助するための医療装置を特徴とする。この医療装置は、フィードバック合図を生成し、ユーザが胸部圧迫の供給の時機を設定することを補助するように構成されたフィードバック装置と、フィードバック装置によってフィードバック合図が生成される合図時機を決定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路とを備え、フィードバック合図はユーザが区別できる2つ以上の位相を有し、第1の位相は救助者の運動の上昇位相に対応し、フィードバック合図の第2の位相は救助者の圧迫運動の下降に対応する。
【0032】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。フィードバック合図は可聴音を含み、第1の位相および第2の位相は周波数および振幅のうちの一方または両方において異なる。フィードバック合図は胸部圧迫のための上昇合図を含み、上昇合図は、圧迫の供給前の上昇中に救助者の体が上昇するにつれて、周波数が増加するように変化する。フィードバック合図は圧迫の供給中に時間によって周波数の変化する下降合図を含む。下降合図は上昇合図より持続時間が短い。下降合図の音量は供給される圧迫がほぼ底にある時に最高となるように増大する。
【0033】
第4の態様では、本発明は、ユーザが心臓蘇生の一部として手動で患者へ胸部圧迫および換気を供給することを補助するための医療装置を特徴とする。この医療装置は、フィードバック合図を生成し、ユーザが胸部圧迫および換気の供給の時機を設定することを補助するように構成されたフィードバック装置と、フィードバック装置によってフィードバック合図が生成される合図時機を決定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路とを備え、フィードバック合図は聴覚的であり、胸部圧迫に対するフィードバック合図は換気に対するフィードバック合図とは音が異なる。
【0034】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。圧迫合図と換気合図との間の音の差はトーンの差である。圧迫に対するフィードバック合図のトーンは少なくとも幾つかの時点において換気に対するフィードバック合図のトーンに重なっている。換気フィードバック合図は、実質的により短い持続時間の複数の圧迫フィードバック合図に重なる持続時間を有する、徐々に変化する音である。
【0035】
第5の態様では、本発明はユーザが手動で患者へ反復的な胸部圧迫を供給することを補助するために用いられる種類の心臓蘇生装置を特徴とする。この装置は、非言語的フィードバック合図を生成してユーザにフィードバックを提供し、1つ以上の圧迫パラメータに関してユーザを補助するように構成されたフィードバック装置と、圧迫パラメータに関してユーザの成績を判定するように構成された1つ以上のセンサまたは回路部品と、圧迫パラメータに関するユーザの実際の成績を圧迫パラメータに関する所望の成績と比較するように、かつ、非言語的フィードバック合図を決定し、ユーザが所望の成績により近い成績を達成することを補助するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路とを備える。
【0036】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。圧迫パラメータは、次のパラメータ、すなわち、圧迫深度、圧迫速度、デューティサイクル、胸部解放の速度、圧迫中の胸腔内圧、圧迫中の胸膜内圧、胸骨の位置、速度または加速度、および胸壁または胸骨の歪みまたは変形、のうちの1つ、または2つ以上の組み合わせである。プロセッサは、反復的な胸部圧迫の供給を1つ以上の圧迫パラメータと関連付ける生理学的
モデルによって構成されている。
【0037】
第6の態様では、本発明は、心臓蘇生において自動的に胸部圧迫を供給する方法を特徴とする。この方法は、圧迫供給時機に自動的に胸部圧迫を供給するための装置を患者に取り付ける工程と、患者に対し供給される電気ペーシング刺激のタイミングを検出する工程と、電気ペーシング刺激の選択された位相に同期した圧迫供給時機を選択する工程と、からなる。
【0038】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。装置の供給する圧迫は、装置の供給する電気ペーシングから分離している。装置は、患者に取り付けられている電極から電気ペーシング刺激のタイミングを検出する。
【0039】
第7の態様では、本発明は、反復的な胸部圧迫が供給されているあいだに第2の反復的な治療を供給する方法を特徴とする。この方法は、反復的な胸部圧迫のタイミングを検出する工程と、反復的な胸部圧迫の選択された位相に同期した時機に第2の反復的な治療を供給する工程と、からなる。
【0040】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。第2の反復的な治療は電磁気ペーシング刺激を含む。ペーシング刺激は閾値下であり、心筋の緊張を改善するように構成されている。ペーシング刺激は閾値より高く、心臓を収縮させるように構成されている。胸部圧迫は手動で供給される。胸部圧迫は自動装置によって供給される。フィードバック合図は非言語的合図である。
【0041】
第8の態様では、本発明は、ユーザが手動で患者へ反復的な治療を供給することを補助するための医療装置を特徴とする。この医療装置は、視覚的な非言語的フィードバックグラフィックを生成し、反復的な治療がどの程度よく供給されているかについてユーザにグラフィカル表示を提供するための視覚表示装置と、治療がどの程度よく供給されているかに関する、1つ以上のパラメータを感知するための1つ以上のセンサと、1つ以上のセンサからの1つ以上の出力を処理し、視覚表示装置上のグラフィカル表示の外観を制御するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路と、からなる。
【0042】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。反復的な治療は心臓蘇生の一部として胸部圧迫を含む。反復的な治療は心臓蘇生の一部として換気を含む。グラフィカル表示は、個々の圧迫が大凡どの程度よく供給されているかに関するフィードバックをほぼ圧迫毎にユーザに提供する、少なくとも第1のグラフィカル要素を含む。グラフィカル表示は、冠動脈潅流圧に対する過去の圧迫の累積的な影響の推定に関するフィードバックをユーザに提供する、少なくとも第2のグラフィカル要素を含む。第1のグラフィカル要素はバー要素の境界の色彩または他のグラフィカルな様相であり、第2のグラフィカル要素は色彩または他のグラフィカルな様相を有するバー要素内の割合領域である。2つ以上のセンサおよび2つ以上のパラメータが存在し、グラフィカル表示は、第1の軸に沿って動いて第1のパラメータの値を伝達する第1のインジケータを含む第1のグラフィカル要素と、第1の軸に直交する第2の軸に沿って動いて第2のパラメータの値を伝達する第2のインジケータを含む第2のグラフィカル要素と、を含む。3つ以上のパラメータが存在し、グラフィカル表示は、第1の軸と第2の軸との交点に位置し第3のパラメータの値を伝達するように構成された第3のグラフィカル要素を含んでもよい。
【0043】
第9の態様では、本発明は、血流を測定するための超音波センサシステムを特徴とする。このセンサシステムは、カテーテルの端部に配置された超音波プローブと、プローブの出力を処理し、超音波ドップラ流量測定によって動脈または静脈の血流を推定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路とを備え、プローブおよびカテーテル
は食道の開口部にまたは開口部の中に挿入されるように構成されており、プローブは、背骨に向けて後部の方へ、ほぼ頚椎C3−C6に超音波エネルギーを供給し、測定し、脊椎骨および血管の両方から反射される超音波エネルギーを測定するように構成されている。
【0044】
好適な実施形態では、次の特徴のうちの1つ以上が組み込まれてよい。システムは心臓蘇生装置と結合されており、ユーザに対し供給されるフィードバック合図のタイミングを判定する際、センサ出力から判定される推定される血流が用いられる。センサは食道に挿入されるように、かつ、頚椎へ向けて超音波エネルギーを供給し、椎骨動脈の血流を推定するように構成されている。
【0045】
第10の態様では、本発明は、血流を測定するための超音波センサシステムを特徴とする。このセンサシステムは、カテーテルの端部に配置された超音波プローブと、プローブの出力を処理し、超音波ドップラ流量測定によって動脈または静脈の血流を推定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路と、を備え、プローブおよびカテーテルは食道の開口部にまたは開口部の中に挿入されるように構成されており、プローブは、咽頭筋の領域において食道の上端部にて咽頭基部に対して配置され、プローブの広端部が咽頭下部においてその直上にあるように、円錐状に成形されており、プローブは側方に超音波エネルギーを供給し、測定するように構成されており、センサは、総頸動脈および頚静脈が交差する上向きの角度に向けられたビームにより超音波エネルギーを供給するように構成されている。
【0046】
好適な実施形態では、プロセッサは、超音波プローブの出力を処理し、頚動脈および頚静脈の両方について血流速度を推定するように構成されてよい。プロセッサは、ピーク大動脈速度と最小心拡張期速度との差を1つの心周期を通じた平均速度で除したものとして、拍動指数を計算するように構成されてよい。プロセッサは、ピーク大動脈速度と最小心拡張期速度との間の差をピーク大動脈速度で除したものとして、抵抗指数を計算するように構成されてよい。
【0047】
本発明は次を含む多くの利点を有する(それらのうちの一部は、一部の態様および一部の実施形態においてのみ存在する)。
心臓は除細動ショック後の回復の初期段階にあり、多くの場合、電気活動はリズミカルであるものの機械的出力の低下した状態であるので、本発明によって、胸部圧迫が回復中の心臓の正常な機械的活動(低レベルであっても)に同期されることにより、心臓の回復が強化される。本発明は、非潅流の細動リズムの患者やPEAなど血行動態的に不安定または無効なリズムの患者に有効なCPRを供給するのを支援することができる。
【0048】
胸部圧迫を損傷した心臓の活動に同期させる本発明の性能によって、潅流が改善され得る。本発明を用いない場合、胸部圧迫は心室充満中に発生する場合があるため、心臓中の血液量は少なく、大動脈と冠状動脈に血液がほとんどまたは全く駆出されないので、それほど有効ではない。この時間中の圧迫によって、胸郭内圧、拡張期圧またはその両方が上昇し、さらに、心室充満を遅らせる場合がある。
【0049】
本発明では、等容性収縮など心収縮の特定の位相中に発生するように圧迫の時機を設定することが可能であるため、PEA中のCPRの有効性を改善することができる。
不全収縮のリズムはCPR中に自然にPEAに変化する場合があり、現在通常実行されているようなPEA中の胸部圧迫の非同期な供給は、循環系の血行動態に関して本質的に最適なものではない。ショック後のPEAなど、これらの回復の初期段階においては、実際には心臓はある程度収縮しており、圧迫の位相を非同期とすることによって、心筋に対する追加のストレスや、より低い駆出分画が与えられる場合がある。本発明では、1つのリズム状態から次のリズム状態への心臓の変化を検出し、救助者の換気及び胸部圧迫など
CPR活動の位相を心臓および肺の基調となる電気および機械的活動に同期させる(同調させる)フィードバックを、救助者に供給することができる。これには、胸部圧迫の中断の必要を減少させること、および血行動態を改善することの両方の利点が存在する。
【0050】
本発明では、圧迫毎に救助者にフィードバックを供給するため、CPRの質(例えば、圧迫の深度)を監視することや、患者の心臓に対する圧迫の特定の効果を調べることができる。CPRガイドラインは必然的に一般人口を含むものであり、圧迫の深度またはレートなど個々のパラメータが個々の犠牲者には最適ではない場合がある。個々の圧迫の評価は、より有効なCPRを供給すること、および必要とされるより多くの力または速度で胸部を圧迫しないことによってエネルギーを節約することにおいて、救助者に有益な場合がある。
【0051】
本発明では、半端な時間だと思われる時に予想外に合図が発生することによって救助者が混乱および当惑しないように、フィードバック合図のタイミングを調整し、フィードバック合図を実際の圧迫に同期させることができる。合図の遅延時間および圧迫の開始時間を測定することによって、合図が正常な遅延時間からそれほど外れないように合図の時機を設定できる。例えば、救助者が疲労しており、圧迫のレートが低下している場合、救助者を励ましてレートを上昇させるように合図のタイミングが少し調整されるが、圧迫および合図の相対位相に小さな変化しか発生しないように調整を行うことができる。従来技術では、フィードバック合図のレートしか対処されておらず、合図および圧迫開始の相対位相はいずれでもあり得るので、困惑を生じることがある。
【0052】
図1を参照すると、患者から生理学的な信号を取得するために、1つ以上のセンサまたは機器1、2、3が用いられる。関連する測定値を導出するためまたはアーチファクトを除去するために、一定の信号について前処理が必要な場合がある。例えば、CPRアーチファクトは既知の技術を用いてECG信号から除去され得る。1つのそのような技術では、センサ3は、圧迫が実際に発生する時を検出する。このセンサは、救助者の手の下に存在する小さなプラスチックハウジングに配置された加速度計であり得る。信号処理方法(「CPR中の胸部圧迫の強化用の方法および装置(Method and Apparatus for Enhancement of Chest Compressions During CPR)」と題する2003年11月6日出願の係属中の米国特許出願第10/704,366号明細書(これを引用によって本明細書に援用する)に開示されるような)を用いると、加速度信号の二重積分によって胸部変位が推定される。胸部圧迫29の開始時間は推定される変位から判定可能である。胸部圧迫の開始時間は、通常、AEDによって測定される経胸的インピーダンスによるもの、または胸部圧迫によってECGに生じるアーチファクトによるものを含め、他の手法により判定可能である。スピーカ6は、フィードバックトーン21(1つの可能な種類のフィードバック合図)を生成する。また、心周期に関する所望のレートおよびタイミングにて、圧迫レートトーン(CRT)なども参照する。
【0053】
図2に示すように、胸部圧迫を行う際の救助者のタイミング誤差を、アルゴリズムによって訂正する。図2に例では、アルゴリズムによって、計算される目標圧迫時機、フィードバックトーン21、および実際の圧迫29の間の遅延時間20が測定される。アルゴリズムによって、救助者の遅延時間20を訂正するようにフィードバックトーン(CRT)が進められ、圧迫が圧迫の所望のレートおよび位相と同期される時(図では第4の圧迫によって生じている)が検出される。
【0054】
救助者に対するフィードバック合図には聴覚的なトーンが好適であるが、視覚的な信号を含む他の形態のフィードバック合図を救助者に供給することが可能である。
入力信号をフィードバックトーン(または他の圧迫フィードバック合図)に変換するア
ルゴリズムは、複雑さが異なってよい。このアルゴリズムは、ECG信号におけるQRS群または他の関心の点を検出する程度の単純なものであってもよい。あるいは、このアルゴリズムは、カルマンフィルタ、または過去の読取値を用いて次の圧迫が生じるべき時を予測する他の方法など、予測的なトラッキングアルゴリズムを含む、より複雑な方法を含んでもよい。予測された圧迫時機を用いて、フィードバック合図の供給される時機が即座に更新されてもよく、あるいは(図2に示すように)、複数の圧迫を通じてフィードバック合図のタイミングがゆっくり調整され、救助者が圧迫のリズムをゆっくり変化させ、圧迫を所望のタイミングに至らせることを可能としてもよい。
【0055】
図3を参照すると、一部の実施形態では、フィードバック合図が2つの位相を有する場合がある(3つ以上の位相も可能である)。2つの位相を用いることによって、胸部圧迫を供給する行動は主として2位相の精神運動活動であるという我々の発見に対処する。ここで、救助者の起立筋棘筋および大殿筋などの後部筋肉群は圧迫周期の予備上昇位相に伴い、前部内外腹斜筋群は下降に伴う。単相のトーンには、単相のトーンは救助者の精神において下降に対応するが、下降を供給可能であるには充分な予備活動が必要である(すなわち、圧迫前の上昇)ので、救助者は自身の下降が単一の位相トーンと一致するように次の圧迫トーンがいつ発生するかを予想する必要がある、という問題が存在する。この問題は、様々なCPRプロンプト装置に現在実装されている圧迫トーンが充分に有効ではないことの主要な理由であると考えられる。
【0056】
一部の実施形態では、フィードバックトーンの周波数および音量は、複数の位相(上昇および下降)の間で変化する。周波数は救助者の上体の犠牲者からの高さの聴覚的な比喩として用いられ、例えば、周波数が上昇するトーンは上昇を示す。一部の実施形態では、上昇位相トーン(UPT)38は、救助者が上昇を行う時間に渡って続き、救助者がトーンによって供給される非言語的命令に正確に従い、下降位相のトーン(DPT)39が発生するときに下降を開始するように適切に位置することを可能とする。一部の実施形態では、DPT 39は周波数が相当迅速に下降する、持続時間のより短いトーンであり、周波数の減少につれて音量は漸増し、圧迫下降の底に対応する点で最大の音量が発生する。
【0057】
他の実施形態では、このアプローチは、その位相が救助者に対し明らかに記述され、トーンの各位相のパラメータが精神運動活動の各位相の同期を補助するように調整される多相のトーンを供給することによって、3以上の位相を有するものを含む、他の多相の反復的な精神運動活動に適用可能である。各位相のフィードバックトーンのパラメータについての他の可能性は、有色雑音信号の帯域幅または信号の音量エンベロープである。例えば、エンベロープの立ち上がり部分(attack)の傾斜レートの増大を用いて、救助者に自身が圧迫の下降の速度を増大させる必要があることを示すことが可能である。
【0058】
フィードバックトーンを生成するための1つの可能な制御システムのブロック図を図4に示す。タイミング図は図3に示す。制御アルゴリズムは、誤差信号e(kT)52を最小化するように、フィードバック制御ベクトルF(kT+1)63(このベクトルは、UPT開始、φ,σ,Δf+,Δf−,εonset,εhold,εoffを含む)を調整する。ここで、Tは現在のサンプル間隔である。入力信号x(kT)64は圧迫の所望の位相およびレートである。X(kT)64は、(加速度計センサ18の出力である54を積分する)動き検出アルゴリズムによって圧迫が実際に検出される対応する時間である、t0、t0+1/f、t0+2/f...に圧迫の発生することが望ましい離散時間の形態を取ってもよい。また、X(kT)64は、救助者の動作の所望の動きパラメータを記述する波形ベクトルの形態を取ってもよい。動きフィードバック信号は、好適には、実際の加速度、速度および変位の波形の推定値から構成される1組の波形である、ベクトルV’(kT)57の形態を取る。誤差信号e(kT)52は、V’(kT)57と所望の動きx(kT)64との間の差である。また、推定値H’(kT)56は、特に、ECG
1、パルスオキシメトリ2、侵襲性血圧および非侵入性血圧などによって測定される血行動態状態である、患者の生理学的な状態から生成される。H’(kT)56は、X(kT)64のレートおよび位相が患者の現在の生理学的な状態に最大の利益を提供するように最適化されるよう、X(kT)64を調整するようにフィードバックされる。
【0059】
また、図3および4を参照すると、フィードバックコントローラモジュール(FCM)53内でに計算されるいくつかの間隔が存在する。パラメータδ(25)は、UPT 38の終了と圧迫が実際に発生した時との間の差の時間である。パラメータψ(24)は、実際の圧迫と、圧迫が発生することが望ましかった時点t0(30)との間の時間差である。所望の圧迫時機t0は、心周期の収縮期位相に対応するECG 1またはパルスオキシメトリ2の波形における特定の起点に相当する場合がある。パラメータφ(31)は、UPT 38の終了とDPT 39の開始との間の時間差であり、DPT 39の開始および救助者による圧迫下降の動作前の自然な予期休止を定量する。パラメータσは、Hz/ミリ秒の単位で測定される周波数の増大の勾配であり、(1/σ*Δf)は、UPT傾斜に必要な時間の長さである。ここで、Δf(28)はUPT 38位相中の周波数の総変化である。
【0060】
図4の閉ループ制御システムの目的は、実際の圧迫が所望の圧迫時機30の時間の近くで発生するように、ψを減少させることである。しかしながら、UPT 38が救助者の実際の圧迫とはるかに異なる位相である場合、救助者は混乱させられ、成績には不利な影響が与えられる。1つの手法を提供するため、すなわち、UPTおよび救助者の実際の圧迫の相対位相をゆっくり調整するため、ψt+1=ψt*βのように変動係数(β)を用いることができる。βは、比例、差分、積分(PID)、状態空間など当業者に知られている従来の制御システム方法または非直線的制御方法などを用いて調整される変数であってよい。患者の基調となるリズムが不全収縮であり(圧迫を同期させる心臓リズムがない)、システムが救助者に正しいレートで圧迫を供給させようとしかしない場合、t0は生理学的な起点に相当しない。
【0061】
フィードバックコントローラ53(図4)は、例えば、適時の圧迫の供給からの救助者の短時間の解離によって生じ得る擬似的な誤差信号を最小化するために、多くの場合、ローパスフィルタまたはメディアンフィルタを有する。このフィルタはシステムの状態に応じて帯域幅を切り替えるように構成可能である。例えば、トラッキングシステムにおいて知られているように、フィルタの帯域幅は、最初、同期を得るために広く設定される場合がある。しかしながら、同期が得られると(救助者は、所望の圧迫時機に対して許容可能なタイミング誤差で規則的に圧迫を供給している)、救助者による短時間のタイミング誤差の影響を最小化するように、帯域幅はより狭い設定に切り替えられ得る。換言すると、フィードバックシステムの状態は、3より多くの圧迫に対し0.2未満である比ψ/Pに基づき、「不良な」圧迫から「良好な」圧迫に変化することがある(ψ/Pは、圧迫についての所望の時機と実際の圧迫との間の許容可能な誤差はどの程度かに関する正規化された尺度である)。また、フィルタは同期の喪失を検出するように構成される必要もあるこれは、例えば、ψ/Pの平均または標準偏差により瞬間的または持続的な増大を調べることによる。
【0062】
この処理の支配方程式は圧迫期間P(32)が固定されるように構成され、次のUPT開始が発生する時を判定するために将来の間隔の推定値δt+1が計算される:
UPT開始=t0+{P−[φ−(δt+1−ψt+1)+(1/σ*Δf)]} 。
【0063】
(δt+i−ψt+i)の推定および予測のために、カルマンフィルタなどのトラッキングアルゴリズムが用いられてもよい。カルマンフィルタはフィードバック制御の形態を用いることによって処理を推定する。すなわち、このフィルタはある時間の処理状態を推
定し、次いで、(ノイズを含む)測定値の形態のフィードバックを得る。そのため、カルマンフィルタの方程式は、複数の時間更新方程式および複数の測定値更新方程式の2つの群となる。時間更新方程式は、現在の状態の前方(時間)および誤差共分散推定値を予測し、次の時間ステップに対する演繹的な推定値を得ることを担う。測定値更新方程式はフィードバックを担う。すなわち、新たな測定値を演繹的な推定値に組み込み、改善された帰納的な推定値を得ることを担う。測定値更新方程式は修正方程式と考えられ、時間更新方程式は予測方程式と考えられる。実際、最終の推定値アルゴリズムは、数値問題を解くための予測−修正アルゴリズムに類似している。
【0064】
離散的なカルマンフィルタ時間更新方程式は、次式である:
【0065】
【数1】
【0066】
離散的なカルマンフィルタ測定値更新方程式は、次式である:
【0067】
【数2】
【0068】
測定値更新中の第1の作業はカルマンゲインKkを計算することである。次のステップは、実際に取得する処理を測定し、次いで、測定値zkを組み込むことによって、帰納的な状態推定値を生成することである。最終ステップは、帰納的な誤差共分散推定値Pkを得ることである。各時間更新および測定値更新の対の後、処理は繰り返され、以前の帰納的な推定値を用いて新たな演繹的な推定値が予測または予想される。この再帰的な性質は、カルマンフィルタの非常に魅力的な特徴のうちの1つである。すなわち、(例えば)各推定値に対しすべてのデータについて直接的に動作するように設計されたウィナー(Wiener)フィルタの実装より、充分に実現可能な実際的な実装が得られる。一方、カルマンフィルタは、過去の測定値のすべてについて現在の推定値を再帰的に調整する。次式は予測方程式と呼ばれる。
【0069】
【数3】
【0070】
カルマンフィルタの主要な制限のうちの1つは、それが、生理学的な設定においては遭遇されることの少ない、ガウス分布の線形系をモデル化するものでしかないことである。
非ガウス分布で非線形のフィルタリングの問題を解決する最もよく知られているアルゴリズムは、拡張カルマンフィルタ(EKF)である。このフィルタは、テイラー級数展開を用いて測定値および発展モデルを線形化する原理に基づく。しかしながら、EKFアルゴリズムにおける級数近似は、関心の非線形関数および確率分布の不十分な表現が導かれることがある。その結果、このフィルタは発散することがある。任意の非線形関数を近似することよりガウス分布を近似することの方が容易であるという仮説に基づき、他の研究者らは、無香(unscented)カルマンフィルタ(UKF)と呼ばれるフィルタを開発した。UKFではEKFより正確な結果が導かれること、詳細には、充分により良好な状態の共分散の推定値を生成する(EKFでは多くの場合この量が過小評価されると思われる)ことが示されている。しかしながら、UKFには、ECGスペクトル分布の場合に多く見られる一般的な非ガウス分布に適用されないという制限が存在する。粒子フィルタとしても知られる逐次モンテカルロ法によって、この制限が克服され、平均、モード、尖度および分散などの任意の統計推定値を容易に計算可能であるように、状態の後の分布の完全な表現が可能となった。したがって、粒子フィルタによって、任意の非線形性または分布が処理される。粒子フィルタは重点サンプリングに依っており、その結果、後の分布を適度に十分に近似可能な予測分布の設計を必要とする。一般に、そのような予測を設計することは困難である。最も一般的なストラテジーは、状態発展(先の遷移)の確率モデルからサンプリングを行うことである。しかしながら、新たな測定値が先の測定値のテールに出現する場合、あるいは尤度が先の尤度と比較して尖鋭すぎる場合、このストラテジーは失敗することがある。
【0071】
一部の実施形態では、メルヴェ(Merwe)、ドゥーセ(Doucet)、フレイタス(Freitasz)およびワン(Wan)によって開発されたような、無香粒子フィルタ(UPF)として知られている推定/予測軌跡トラッキング技術が用いられる。UPFの擬似コードは次の通りである。
【0072】
無香粒子フィルタ:
初期化:t=0.
i=1,...Nについて、先のp(x0)から状態(粒子)x0(i)を取り出し設定する、
【0073】
【数4】
【0074】
t=1,2,...について、
a)重点サンプリングステップ:
i=1,...Nについて:UKFを用いて粒子を更新:
シグマ点を計算:
【0075】
【数5】
【0076】
将来の粒子を予測(時間更新)
【0077】
【数6】
【0078】
新たな観測値を組み込む(測定値更新)
【0079】
【数7】
【0080】
i=1,...Nについて、正規化定数まで重点重みを推定:
【0081】
【数8】
【0082】
i=1,...Nについて、重点重みを正規化.
b)選択ステップ
それぞれ高重点/低重点重み
【0083】
【数9】
【0084】
を用いて、粒子
【0085】
【数10】
【0086】
を多重化/抑制し、N個のランダム粒子を得る。
c)出力:このアルゴリズムの出力は、後の分布を近似するために使用可能な次式の1組のサンプルである:
【0087】
【数11】
【0088】
例えば、境界条件の平均または境界条件の共分散または他のモーメントである、何らかの関心の関数gtについて、次の推定値が得られる。
【0089】
【数12】
【0090】
ユーザが、短い時間を定量する能力は不充分であるものの、時間的な順序、すなわち、圧迫フィードバックが実際の圧迫の前後のいずれに発生したかの識別には優れていることは、認知心理学やユーザインタフェースのユーザビリティ試験に関する多数の研究により示されている。このため、0付近で振動するδの小さな絶対変化によって、救助者の圧迫の位相同調においてより大きな不利な振動を生じることがあるので、通常、遅延δ(25)は常に正であることが有利である。
【0091】
救助者が時間の小さな変化を識別する能力を欠くことは、所望のタイミングと実際の圧迫タイミングとの間に実際には不感帯関係が存在することを意味している。この不感帯内では、フィードバック合図のタイミングの変化によって、ユーザの所望のタイミングの認識に変化が生じない場合がある。そのような不感帯は、一般にヒステリシスと呼ばれるものを生じる。ヒステリシス、すなわち、所与の負荷または状態変化に続く応答に対する身体の以前の履歴または治療の影響は、自然界に広範に見られる。それは、最初、強磁性体において認識され、続いて可塑性、摩擦および相転移において、また特に力学、熱力学、生物学、化学および経済学など幾らか異なる分野において認識された。システムに対する入力が増大または減少のいずれであるかに応じてシステムの伝達関数が変化するとき、ヒ
ステリシスが存在する。
【0092】
図5,6Aおよび6Bを参照する。非局所的記憶によるヒステリシス、すなわち、t>t0における出力y(t)の将来の値がy(t0)のみならず以前の入力の極値にも依存することを表現するには、プライザッハ(Preisach)モデルがよく用いられる。プライザッハモデルでは、特に、交換演算子γαβ80の無限集合が考えられる。ここで、α81,β82は上昇、下降の切替値に対応し、出力は−1と+1との間で切り替えられる。
【0093】
制限された周波数範囲において、ヒステリシスがレートから独立に、システムの線形力学に対する追加の外乱として作用することが考えられる。ここでは、ヒステリシスを有するシステムは、レートに無関係な記憶とのヒステリシスを有する線形の力学系の並列接続のように見られる。演算子の形態では、システムは次のように表現可能である:
【0094】
【数13】
【0095】
ここで、Γ^はレートに無関係な記憶とのヒステリシスを表し、Lはシステムの力学を表す。交換の無限集合の重み付けされた応答は、すべての可能な切替値を通じて合計される:
【0096】
【数14】
【0097】
図6Aおよび6Bには、入力信号がα183とβ184との間で変化した後に生成されるマイナーなヒステリシスループを示す。三角形T(α1,β1)は、入力がα1に達すると正の組S+に加算され、負の組S−から減算され、また、入力がβ184に達するとS+から減算される。入力がα183であるとき、境界線L(t)は単にβ軸に平行な線であり、α183およびβ085の交点の1つの角に、1組の過去の極値を生成する。入力がβ184であるとき、三角形T(α1,β1)は負の組S−に加算され、境界線L(t)は図6Aおよび6Bに示すステップである。この差は、ループに2本の異なる曲線をトレースさせるものである。
【0098】
図5〜8を参照すると、ヒステリシスコントローラ90は2段階である、すなわち、その周期的な入力信号を第1の段階に対し一定の位相角だけ変位させる「位相決定子(phaser)」演算子92と、次式によって決定される、図7に示す、第2の段階に対する可変位相決定子91とを用いる。
【0099】
【数15】
【0100】
ここで、φ1≧0かつφ2≦0であり、s93は経験的に決定される。図7において太い実線によって示される不連続関数の近似は、細い実線によって示すように双曲正接関数を用いて行われることがある。
【0101】
救助者7によって提供されるフィードバックは、視覚的および聴覚的な合図(最も有効であると考えられる)を含む様々な形態により実装されてよい。
フィードバックのタイミングを判定するために、患者の生理機能についての様々な種類の情報が入力として用いられてよい。例えば、次の生理学的な信号のうちのいずれか、または複数の生理学的な信号の組み合わせを用いることも可能である:ECG、心拍出量の測定値、心拍の測定値、血圧、酸素飽和度(SpO2)、心音(心音図検査を含む)、心臓画像処理(超音波を含む)、インピーダンスカルジオグラフィー。
【0102】
フィードバック合図は、例えば、次のいずれか、または次のものの組み合わせを含む、圧迫タイミング以外の様々な圧迫パラメータを対処することが可能である:圧迫速度、圧迫深度、デューティサイクル、胸部解放の速度、圧迫中の胸腔内圧、圧迫中の胸膜内圧、胸骨の位置、速度または加速度、胸壁または胸骨の歪みまたは変形。
【0103】
一部の実施形態では、胸部圧迫の質が監視され、フィードバック合図は質を改善するように変化する。例えば、次の圧迫パラメータは、胸部圧迫の血行動態の影響に有意な効果を有することが示されている:圧迫の深度、圧迫下降の速度(駆出分画および収縮期の有効性を改善する)、および圧迫上昇中の胸骨からの圧力の急速かつ完全な解放の達成(これによって、心臓の心拡張期の充満を改善する)。フィードバック合図を変化させることによって、圧迫のタイミングおよび質の両方を改善することが可能である。適切な圧迫深度は、AHAの推奨では、約5.08cm(2インチ)に指定されている。動物および理論モデルでは、圧迫の速度および胸骨からの圧力の完全な解放は、圧迫の深度と同等に重要な場合があることが示されている。一部の実施形態では、システムは上昇合図(UPT)38中に周波数変化Δf(28)を増大させることができ、この結果、さらに救助者は脱圧迫位相中に患者の胸骨から自身の手を解放する。一部の実施形態では、下降合図(DPT)39の音声音量および振幅エンベロープを増大させることによって、救助者に圧迫下降の速度を増大させることができる。また、CPR圧迫のデューティサイクル(すなわち、上昇に当てられる時間対下降に当てられる時間の割合)は、UPTおよびDPTの合図に当てられる時間の相対比を調整することによって(例えば、心臓の測定された活動に応じて)変化させることが可能である(例えば、DPT合図に当てられる時間を長くすることによって、救助者によるより長い下降が得られる)。
【0104】
他の実施形態では、換気の供給の時機を設定するために救助者にフィードバックが与えられる。これは、過換気の防止や胸腔内圧の制御に有用な場合がある。胸部圧迫からの圧力および換気は、血液の心臓への静脈還流や心室からの血液の駆出を補助する重要な要因である。現在推奨される圧迫と換気との間の比は、成人について15:2である。圧迫サイクルのように、バッグを圧搾する位相およびバッグを解放する位相からなる連続した二相として、弁付バッグマスク(BVM)を用いる換気サイクルを救助者に提示することが可能である。換気における二相の音声トーンは、圧迫に用いられるものとは異なる。これ
は、好適には、知覚的に分類可能な観点から、圧迫および換気のそれぞれのフィードバックトーンを認識可能な別個のものとすることによって達成可能である。例えば、圧迫用のトーンはトランペットとして理解される波形および和声を有し、換気はバイオリンとして理解されるが波形および和声を有することができる。音声合成に共通する技術を用いて、各々のトーンについて基本周波数を変位させ、フィードバックに必要な周波数を変化させることができる。
【0105】
自動式胸部圧迫装置、自動式換気装置またはその両方が救助中に利用可能である他の実施形態では、自動式の胸部圧迫、自動式装置によって供給される換気またはその両方は、電気ペーシングなどの反復的な心臓刺激療法によって誘発される心臓の活動と同期させることができる。また、ペーシングは、磁気刺激(米国特許第4,994,015号明細書および米国特許第5,078,674号明細書)または超音波トランスデューサを用いて機械的に誘発される刺激によって誘発されることも可能である。誘発される心臓の血行動態応答は患者毎に異なるので、血流を最大化し心筋組織のエネルギー消費を減少させる削減するために、自動式胸部圧迫装置によって供給される機械的な圧迫は誘発される血行動態応答に同期されることが望ましい。また、圧迫リズムの開始時間tcは、ペーシングの開始時間tpに関連して、tp−tc=κ−πとなるように調整される。ここで、κ(36)は圧迫の開始から血行動態応答までの遅延であり、π(22)は、ペーシングリズムの開始から血行動態応答までの遅延である。蘇生中に患者の状態が変化するにしたがって、πおよびκの値は、血管の緊張やカルシウムチャネルおよびベータチャネル関連の興奮収縮(EC)連関に効果のあるエピネフリンおよびアミオダロンなどの薬品が供給されるにつれて、変化する。手動の圧迫の実施形態におけるように、機械式圧迫装置または膨張式ベストの制御に用いられる予測的アルゴリズムを用いて、患者の応答の変化を考慮に入れることが可能であり、装置によって適用される圧迫のタイミングに予測的なアルゴリズムが適用される。同期は、シリアルのユニバーサルシリアルバス(USB)インタフェースなど装置間の直接的な通信によって達成されてもよく、いわゆるZigBee、すなわち、IEEE 802.15.4プロトコル標準など低遅延時間の無線プロトコルを無線で用いて達成されてもよい。
【0106】
また、一部の実施形態では、救助者の機械的な圧迫を電気的に誘発される心筋の収縮によって増大させる手段として、ペーシングが手動の圧迫と組み合わされてもよい。それらの実施形態では、電気的に誘発される活動の血行動態応答が救助者による手動の圧迫によって誘発される活動の血行動態応答にわずかに先行する(50〜100ミリ秒程度)ように、πはδに関して調整され得る。蘇生中、心臓は深刻な虚血状態にあって、乳酸塩が心筋に蓄積し組織のpHが低下するにつれて、弛緩および緊張の喪失を生じる。緊張の喪失の結果、心臓は、手動の胸部圧迫中に血流を生成するにはあまり有効でないポンプ構造となる。エピネフリンなどの薬品は緊張を改善するように作用するが、静脈性に供給されるので、唯一の血流が胸部圧迫によって誘発されるものである心停止中には、その作用に2〜3分を要する場合がある。ペーシングは、心筋が代謝的に損なわれた状態にある結果、満足な血行動態応答を実際に引き起こすのに充分な場合も充分でない場合もあるが、エピネフリンなどの薬品により経験される治療遅延なしで、機械的な圧迫の直前に、また機械的な圧迫に同期して、心筋の緊張を充分に改善することが可能である。この心筋の緊張の瞬間的な改良は、機械的な圧迫の血行動態の有効性を充分に改善することが可能である。
【0107】
他の実施形態では、圧迫および換気などの治療介入に関連した様々なパラメータのフィードバックが、患者の状態および圧迫の質の両方に基づき救助者へフィードバックされる。より単純な幾つかの実施形態では、心室の再分極を示すECGのT波などの特定の生理学的事象中、救助者が胸部圧迫を供給することを防止するように、システムがフィードバックを提供する。T波中に圧迫が供給される場合、その圧迫は、心臓震盪として知られている過程である、生命を脅かす心室性細動を誘発する可能性が充分にある。他のより頑丈
な実施形態では、まさに言及したような医療知識が、Crit Care Med、2000年、第28巻、第11号(補遺)に記載のものなど、循環系の数学的記述と組み合わされる。この著者が記載するように、微分方程式のシステムは複数の刊行物に記載されている。この特定の例では、“ヒトの循環は血液が流動できる抵抗によって接続された7つの弾性の室によって表現される。弾性体は、胸大動脈、腹大動脈、上大静脈および右心、腹部および低末端静脈、頚動脈、ならびに頚静脈に相当する。加えて、胸郭は、肺血管および左心の弾性体を表現するポンプを含む。このポンプは、加えられる圧力によって心臓自体から大動脈弁を通じて血液を絞り出す心臓状の心臓ポンプとして、あるいは加えられる圧力によって肺血管床から左心を通じて周囲へ血液を搾り出す全体的な胸部圧力ポンプとして、機能するように構成され得る。教科書的な普通の「70kgの男性」を記述する生理学的変数の値を用いて、モデルにおける弾性および抵抗を指定する。頭部、胸部および尾部の構成要素への血管のコンダクタンス(1/抵抗)の分布は、様々な身体領域に対する心拍出量の教科書的な分布を反映している”とある。
【0108】
図4を参照する。著者の上述の記載による生理学的モデルによって供給されるシステム推定ブロック55による状態空間方法を用いる、閉ループフィードバック方法を用いることができる。フィードバックコントローラ53は、例えば、当業者に知られているような、比例、差分、積分(PID)または状態フィードバック制御方法など、従来の制御システム方法を用いてよい。閉ループ制御に代えて、この装置は、図9のフローチャートに示すように、センサを監視することによって最も良好な圧迫パラメータを「探索」することができる。フローチャートには1つのパラメータしか表示しないが、センサが患者を監視している時に複数のパラメータが変化する場合もある。この方法は一度に1つまたは並列でパラメータを変化させ、潅流を改善することを試みる。システムは、一定のパラメータ(例えば、デューティサイクル)のある値が改善された潅流を生じていることを見出し、状態の変化する場合、その値で治療を続行するか、または、その値の近くの範囲におけるパラメータの変化を続行することができる。また、傾斜最急降下法、自己アニーリングまたは遺伝的アルゴリズムなどの最適化探索方法も用いられてよい。
【0109】
最急降下アルゴリズムは、特定のパラメータ(例えば、レート)を増大させ、それによってシステムの性能(例えば、EtCO2値)において何らかの測定される改良が生じるか否かを確認することによって機能する。何らかの測定される改良が生じる場合、システムの所望の成績が達成されるまで、その特定のパラメータがさらに調整される。2パラメータシステム(例えば、レートおよび深度)では、これは、x−y座標が2つのパラメータであり、Z軸がシステム性能(EtCO2)を表す、地形状に見られる。通常、このアルゴリズムは何らかの出力値を最小化するように機能する(したがって、最急降下)。一部の実施形態では、目的はEtCO2値を最大化することである。方法は、通常、パラメータ値を変化させ、システム出力を測定することに基づいており、完全に経験的である。任意の時点にて、救助者のレートおよび深度が地形図上の特定の点に配置される。各パラメータを調整することによって、別個に勾配(局所的な)傾斜が提供される。次いで、所望のEtCO2値を含む充分な領域を通じる単調な傾斜を仮定して、所望のEtCO2値を達成するように2つのパラメータの両方を調整する。
【0110】
また、胸部圧迫を基調となる生理学的活動と同期させることによって、圧迫の時を心室の拡張期に発生させるようにを設定することにより、遅いまたは徐脈性のリズムを補足することができる。例えば、毎分30拍のリズムを有する患者は、拍間で胸部圧迫が供給されることで、毎分60拍のような有効な心拍となり、より良好な潅流を受けることができる。フィードバックは、救助者が圧迫の時機を心室に幾らかの血液が存在する状態に設定し、T波における圧迫を防止するために必要である。
【0111】
図10を参照すると、他の実施形態では、心音を検出するためにマイクロホン100ま
たは他のトランスデューサが用いられる。この音は、訓練された救助者7に対しスピーカ6を通じて増幅されてもよく、訓練のより少ない救助者7に合図を供給するように処理されてもよい。心音は、CPRレート、深度、デューティサイクルまたはその両方を判定するため、およびCPRの有効性を評価するために、他の測定値から独立して用いられてよい。これは、ECG 1、血圧または脈拍が自然なレートまたは心臓の圧迫される時機を示唆しない不全収縮において、患者11に有効な場合がある。圧迫のDPT 39位相の速度は弁膜逆流を最小化するように調整されてよい。適切な圧迫の深度は、弁閉止を示す心音によって評価されてよい。
【0112】
他の実施形態では、圧迫のタイミングおよびレートは任意の心音に基づき調整されてよいが、心室収縮の開始を示すためにS1が理想的であり得る。過換気は、大動脈および肺の弁閉止を分離することによって、減少した胸腔内圧が増大されるので、S2の解析によって推定される。雑音および他の音は心臓に対する損傷についての診断情報を提供する場合があり、CPRパラメータは、この情報に基づき調整されてよい。
【0113】
超音波または経胸インピーダンスなど他の手段を用いて、心臓の体積変化または血流を検出および測定することが可能である。一部の実施形態では、患者の気道の挿管前に、先端に超音波プローブを有するカテーテルが患者の食道に挿入される。超音波プローブは、頚椎に向けて後部の方へ面し、ほぼ頚椎C3−C6の場所に配置される。一般には使用時に超音波ドップラ流量測定方法によって、音響エネルギーが椎骨から反射されて、椎骨動脈における呼吸の流れを測定するための頑丈な信号がプローブのセンサに対し提供される。そのようなシステムの利点が幾つか存在する。すなわち、(1)トランスデューサは胸部圧迫の発生している領域外に配置されるので、動きアーチファクトが最小化される、(2)この方法によって、脳に対する血流を測定する優れた方法が提供される、(3)CPR胸部圧迫によって脳に対し有効な流量を誘発するのに充分な脳潅流圧力(BPP)を達成することは、心臓の有効な潅流を誘発するのに必要な冠動脈潅流圧(CPP)より困難であるので、脊椎流量測定は、蘇生努力中の有効なBPPおよびCPPの両方に関する感度のよいインジケータである。
【0114】
椎骨動脈は脊柱に沿って巡らされており、外側から触れることは不可能である。この椎骨動脈は結集し、頭蓋の底部にて脳幹の近くに1つの脳底動脈を形成する。この動脈は、大脳の頭頂および後頭葉、小脳の一部ならびに脳幹に血液を供給する。頭頂葉は、感覚(触覚および圧覚)を制御する主要感覚皮質と、微細な感覚(生地、重量、寸法および形状の判断)を制御する大連合野とを含む。右頭頂葉に対する損傷は空間視覚障害を引き起こし、患者が新た場所において、またはよく知られている場所においても自身の進路を見つけることを困難とすることがある。左頭頂葉に対する損傷は、話された言語、書かれた言葉またはその両方を理解する患者の能力を分裂させる場合がある。後頭葉は視覚情報を処理する。後頭葉は視覚的な受容に関与しており、形状および色彩の視覚的な認識を支援する連合野を含む。この葉に対する損傷は視覚的な障害を引き起こすことがある。小脳は脳において2番目に大きな領域であり、反射神経、平衡ならびに運動および統合の一定の態様を制御する。脳幹は、呼吸、消化および心臓の拍動や、注意および覚醒(目が覚めている状態)など、生命に重要な様々な自動機能を担う。したがって、他の実施形態では、蘇生中に椎骨動脈の血流を監視し、その流量を最大化するように治療介入を調整することができる。
【0115】
図13A〜13Cを参照すると、別の実施形態では、超音波流量センサは、犠牲者の咽頭下部に配置された円錐形に成形されたプローブ132であってよく、プローブの狭端部が輪状咽頭筋130の領域において咽頭の上端部にあり、プローブの広端部は咽頭下部においてその直上にある。超音波トランスデューサ131は側方に配置され、そのビームは背骨の軸から約45度の角度で上方に向けられている。この音響ビームは、トランスデュ
ーサアレイを使用することによって、またはプローブ面への音響レンズを組み込むことによって形成され、約45度のビーム方位角を有する狭い上昇ビームを生じる。トランスデューサは、音響ビームに総頸動脈と頚静脈とを交差させるようにプローブに配置され、上昇ビーム角が狭いため、狭い領域においてのみ頚動脈および頚静脈と交差し、血流速度の精度を改善する。頚動脈および頚静脈の両方の血流速度は、ドップラ偏移2fcv/cを用いて同時に計算される。ここで、fc、vおよびcは、それぞれ音響ビームの中心周波数、血流速度および音速である。
【0116】
計算された頚動脈および頚静脈の両方の血流速度プロファイルを用いて、ピーク大動脈速度と最小心拡張期速度との差を1周期を通じた平均速度で除したものとして、拍動指数が計算される。ピーク大動脈速度と最小心拡張期速度との差をピーク大動脈速度で除したものとして、Pourcelot指数(すなわち、抵抗指数)が計算される。
【0117】
トランスデューサシステムの信号検出性能を改善するために、ヒドロゲル上にラミネートされたアルミ箔133などの音響学的な反射材料が、音響ビーム軸に沿って患者の頚部に着けられる場合がある。
【0118】
一部の実施形態では、装置は、CPRの時機およびCPRの質の履歴のトラッキングを行う。エキスパートシステムが治療を推奨するとき、この情報はアドバイザリアルゴリズムの一部として用いられる。心臓のリズムをショック可能またはショック不可能として分類するために、ECGのみが用いられていた。しかしながら、虚血組織では組織化された分極が起こる可能性が低いので、CPRの履歴によって心臓ペーシングの除細動の成功が影響を与えられる場合がある。
【0119】
図1および11を参照すると、救助者はAED 10を用いて、心臓蘇生中に自動的に犠牲者を監視する。AED 10は、スピーカ6、表示装置7、アナログフィルタおよびアナログ・デジタル変換器などの信号処理部を含む信号処理モジュール9、プロセッサ14、ならびに除細動パルス発生器または他のペースメーカー電流または磁気パルス発生器などのエネルギー出力手段13を備える。信号処理モジュール9は、ECG信号捕捉モジュール1によって、犠牲者11に取り付けられた1組のECGリードへ接続される。プロセッサ14は、胸部圧迫技術を用いて犠牲者が蘇生されているとき、ECG信号を用いて犠牲者の心臓において危険なリズムを監視する。AED 10が危険な心臓リズムを検出する場合、AED 10は警報信号を発生させる。この警報信号は救助者に気付かれる。救助者がAED 10に命令を発するとき、AED 10は、犠牲者に除細動ショックを生成することが可能である。除細動ショックは、犠牲者の心臓の危険なリズムを改善することが意図される。
【0120】
AED 10は、(a)ECG信号の周波数領域の特徴を定量し、(b)VFなど正常なECGリズムと異常なECGリズムとを区別し、(c)異常なECGリズムの開始を検出し、(d)心臓の生理学的な状態に関する決定を行う、リズムアドバイザリ方法を用いる。この周波数領域測定値は、ECG信号において胸部圧迫アーチファクトが存在する場合も存在しない場合も信頼可能である。AED 10は、心臓の現在の生理学的な状態を識別した後、救助者が行う適切な治療動作についての決定を行うことが可能であり、その動作をスピーカ6、表示装置7またはその両方を用いて救助者に通信する。表示装置は、液晶ディスプレイ(LCD)などグラフィカル表示装置の形態を取ってもよく、単純に1つ以上の発光ダイオードまたは他のそのような視覚的なインジケータであってもよい。LED棒グラフに含まれるものなど棒グラフインジケータは、上述の周期的な反復的フィードバックを伝達する際に特に有効であり、同時に、LCD表示装置より高価でなく、より明るく、読取を行うことがより容易な場合がある。一部の救助者の混乱を最小化するように、圧迫と換気とに対し、複数の棒グラフLEDなど別個の可視のインジケータが利用さ
れてもよい。
【0121】
図12Aおよび12Bを参照すると、別の実施形態では、LCDディスプレイ上などにグラフィカルなフィードバックを出力するために、例えば、上述のBabbsなど、1組の連立差分方程式のからなる生理学的モデルによって供給されるシステム推定ブロック55が用いられる。救助者が他の救助者との通信に気を取られている状況が存在する場合もあり、所望の位相同期(同調)を得るために必要な圧迫毎の自身の圧迫に集中することができない場合もある。位相同期(同調)の欠如により効果は減少するので、救助者に4つの主な蘇生パラメータ、すなわち、圧迫毎の圧迫深度114、レート115、ならびに換気の一回呼吸量112およびレート113の簡潔な視覚的フィードバックを供給することによって得られる利益が依然として存在し得る。この視覚的フィードバックは、蘇生制御パネルのLCDディスプレイの部分に提供される、1つは圧迫用、1つは換気用の別個のダイヤル110、111の形態を取ってもよい。各ダイヤルは、直交軸上に表示されるその性能に関連した2つの主要なパラメータを有し得る。複数の状態バー115を対比することによって、各々のパラメータの性能の現在の状態を示し、緑の中央部116は所望の目標領域を示す。状態バー115が中央部116の右または下に存在することは、関連するパラメータが増大される必要があることを示し、状態バー115が中央部116の右または上にあることは、関連するパラメータが減少される必要があることを示す。一部の場合、換気レートのみが表示されてよい。これに代えて、ダイヤルは追加のインジケータ、例えば、高すぎるまたは低すぎる換気一回呼吸量、高すぎるまたは低すぎる換気レート、深すぎるまたは浅すぎる圧迫深度、速すぎるまたは遅すぎる圧迫レート、および2つの中央部に対応する5つのインジケータから構成されてもよい。ダイヤルに対する2つのパラメータのうちの1つが高すぎるか低すぎる場合、その特定のインジケータが点灯し、また、第2のパラメータが適切に実行されていることによって、中央部116は赤から黄色に変化する。特定のダイヤルについての両方のパラメータが正確に実行されているとき、中央部は緑になる。インジケータはLEDであってもよく、LCD上の領域であってもよい。
【0122】
これらの実施形態では、フィードバックループによる単純な生理学的モデルが提供される。良好な血流を発現させるための良好な胸部圧迫には約35〜45秒を要するが、救助者がCPRを停止した後、その血流が低下するにはわずか5秒しか要しない。問題は、人々が胸部圧迫を停止する傾向にある場合が多すぎることである。生理学的モデル(例えばBabbsモデルまたはより単純なモデル)を用いることによって、各圧迫により何らかの量だけインジケータが増大され、この量は圧迫の深度に依存する。この結果は、実際の冠動脈潅流圧が犠牲者に作用する手法の近似である。
【0123】
上述のように、Babbs生理学的モデル(動物モデルおよびヒト臨床研究において検証されている)では、冠動脈潅流圧(CPP)を何らかの適正な値とするには実際に約30〜45秒の良好なCPRを要することが示される。CPPは、冠循環(心臓筋肉に血液を供給する)に入る血圧の尺度である。圧迫中、CPPは上昇するのが遅く、良好なCPRが停止すると、CPPは約10秒以内に急速に減少する。
【0124】
別の実施形態では、救助者に視覚的に提示されるのは潅流性能指数(PPI)であり、心停止犠牲者に対するCPRの生理学的な影響の単純なインジケータを提供するように、生理学的モデルがフィードバックループに組み込まれる。単純な実施形態では、潅流は、各圧迫により圧迫の深度に依存する量を充填される、漏れのある容器としてモデル化される。各圧迫の中間では、その量のうちの幾らかが容器から漏れる。
【0125】
以下に挙げる擬似コードによって、1つの可能な生理学的モデルが実装される。50回の良好な(適切な深度の)圧迫(約30秒)により潅流作業指数は100%となるが、同
時に15秒でPPIを0とするレートで減少することが所望された。選択された特定の値は、部分的には、アメリカ心臓協会(AHA)によって提案されている、換気対圧迫について30:2の比の新たなCPRガイドラインによった。通常、休止は換気の実行されるときに発生するので、PPIは分間の換気サイクルにより生じる休止の終了によって著しく低下する。しかし、良好な圧迫が実行される場合、1分間のCPR間隔の終了に発生する除細動ショックの直前に100まで戻る。救助者の目標はショック直前に100に近いPPIを得ることである。PPIはショック後に0にリセットされるので、救助者はショック直後に圧迫を開始するように動機付けを行われる。図12Cには、別の可能なグラフィカルなフィードバック実施形態を示す。PPIブロック120の外側の厚い帯(幅約3.2mm(約1/8インチ))は、良好な圧迫(約3.81cm(1.5インチ)以上)が供給された後、1秒間緑になり、次いで黒に戻る。「不良な」圧迫(約3.81cm(1.5インチ))が供給されると、この帯は1秒間赤くなり、次いで再び黒に戻る。目標はPPIの輪郭の帯120を緑色にしておくことである。PPIブロック121は、Perfusion_Perf_Ind値に基づき満ちる(Perfusion_Perf_Ind=32896のとき完全)。より複雑な実施形態では、換気と圧迫との相互作用またはBabbsによって記載されるより完全なモデルが組み込まれてよい。
【0126】
1つの可能な擬似コード実施形態は次の通りである:
【0127】
【表1】
【0128】
AED 10は、胸部圧迫、換気など追加の治療動作、または代謝もしくは構成栄養素を含有する静脈注射液の供給を実行するための機能を組み込むことができる。リズムアド
バイザリ方法の解析の結果に基づき、AED 10は、自動的に患者11に適切な治療を供給することができる。また、AED 10は「アドバイザリ」モードにより構成されてもよい。「アドバイザリ」モードでは、AED 10は、AED 10が最も良好な治療の決定を行った後、介護者にプロンプトを示す。治療が患者へ供給される前に、ボタン押下または音声検出の承認の形態の介護者/装置操作者による承認が要求される。
【0129】
次いで、AED 10はECG信号を解析して、除細動成功を予測するとともに、除細動を行うことと、胸部圧迫、エピネフリンなどの薬品、グルコースなどの構成栄養素またはペーシングなど他の電気治療などの代替療法を供給することとのいずれが適切であるかを決定する。
【0130】
一部の実施形態では、1つ以上の治療供給装置15が、患者に適切な治療を自動的に供給する。治療供給装置15は除細動器AED 10から物理的に分離しており、治療供給装置15の制御は通信リンク16によって行われ得る。通信リンク16は、装置を接続するケーブルの形態を取ってもよいが、好適には、リンク16は、Bluetooth(登録商標)などの無線プロトコルまたはIEEE(米国電気電子学会)802.11などの無線ネットワークプロトコールである。治療給装置16は、カリフォルニア州サニーベール(Sunnyvale)のRevivantによってAutopulse(商標)として市販されている携帯胸部圧迫装置であることが可能である。他の例では、治療供給装置16は、ペンシルバニア州プリマスミーティング(Plymouth Meeting)のInfusion DynamicsによってPower Infuser(商標)として市販されている、またはイリノイ州ラウンドレイク(Round Lake)のBaxter Healthcare社によってColleague CX(商標)として市販されている薬品注入装置である。治療供給装置16は、ニューヨーク州パールリバー(Pearl River)のVersamedによってiVent(商標)として市販されている換気装置であることが可能である。また、治療供給装置16は、除細動、胸部圧迫、換気および薬品注入など複数の治療を含むことが可能である。
【0131】
他の実施形態では、全体的な蘇生事象および様々な治療の供給の制御および統合は、装置17またはAED 10の外の処理要素によって行われてよい。例えば、装置17は、AED 10からECGデータをダウンロードして処理し、ECG信号を解析し、その解析に基づき決定を行い、AED 10を含む他の治療装置16を制御することができる。
【0132】
他の実施形態では、AED 10は、ECG信号を解析することを含めてECGの処理すべてを実行し、適切な治療の最終決定のみを制御装置17に送信することができる。この場合、制御装置17は、他のリンクされた装置30上で制御動作を実行する。制御装置17は、好適には、コロラド州デンバー(Denver)のZOLL Data Systemsによって製造されているタブレットPCRなど、自動式の患者記録ソフトウェアの動作するラップトップコンピュータである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが手動で患者へ反復的な治療を供給することを補助するために用いられる種類の医療装置であって、
ユーザが反復的な治療を供給する供給時機を設定することを補助するためのフィードバック合図を生成するように構成されたフィードバック装置と、
ユーザが実際に反復的な治療を供給した実際の供給時機を検出するように構成された1つ以上のセンサまたは回路部品と、
実際の供給時機を所望の供給時機を表す情報と比較し、該比較結果に基づいて、フィードバック装置がフィードバック合図を生成する合図時機を決定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路と、からなる装置。
【請求項2】
手動で供給される反復的な治療は、心臓蘇生の一部として手動で供給される胸部圧迫を含む請求項1に記載の装置。
【請求項3】
実際の供給時機および所望の供給時機は、実際の供給位相および所望の供給位相を含む請求項2に記載の装置。
【請求項4】
実際の供給時機および所望の供給時機は、実際の供給時機と所望の供給時機との間の差を形成することによって比較される請求項2に記載の装置。
【請求項5】
実際の供給時機を徐々に変更するように、複数の治療供給の時間を通じて合図時機が徐々に変更される請求項2に記載の装置。
【請求項6】
フィードバック合図は聴覚的または視覚的である請求項2に記載の装置。
【請求項7】
反復的な治療は心臓蘇生の一部として換気を含む請求項2に記載の装置。
【請求項8】
フィードバック合図はユーザが区別できる2つ以上の位相を有し、第1の位相は供給される治療の第1の位相に対応し、かつ、フィードバック合図の第2の位相は供給される治療の第2の位相に対応する請求項1に記載の装置。
【請求項9】
反復的な治療は心臓蘇生のための胸部圧迫を含み、フィードバック合図の第1の位相は救助者の圧迫運動の上昇に対応し、かつ、フィードバック合図の第2の位相は救助者の圧迫運動の下降に対応する請求項8に記載の装置。
【請求項10】
フィードバック合図は可聴音を含み、第1の位相および第2の位相は周波数および振幅のうちの一方または両方において異なる請求項9に記載の装置。
【請求項11】
フィードバック合図は胸部圧迫のための上昇合図を含み、上昇合図は、圧迫の供給前の上昇中に救助者の体が上昇するにつれて、周波数が増加するように変化する請求項10に記載の装置。
【請求項12】
フィードバック合図は圧迫の供給中に時間によって周波数の変化する下降合図を含む請求項11に記載の装置。
【請求項13】
下降合図は上昇合図より持続時間が短い請求項12に記載の装置。
【請求項14】
下降合図の音量は供給される圧迫がほぼ底にある時に最高となるように増大する請求項12に記載の装置。
【請求項15】
プロセッサは、合図時機と実際の供給時機との間の遅延時間を決定するように、かつ、合図時機を決定する際に遅延時間および所望の供給時機を使用するように構成されている請求項1に記載の装置。
【請求項16】
プロセッサは、合図時機と実際の供給時機との間の類似の時間関係を維持するように構成されている請求項1に記載の装置。
【請求項17】
前記類似の時間関係は実際の供給時機の前に合図時機を発生させる請求項16に記載の装置。
【請求項18】
プロセッサは、トラッキングフィルタを用いて、反復的な治療を供給する際のユーザの過去の成績に基づき、実際の供給時機を予測するように構成されている請求項1に記載の装置。
【請求項19】
トラッキングフィルタはカルマンフィルタを含む請求項18に記載の装置。
【請求項20】
プロセッサは、合図時機と実際の供給時機との間のヒステリシス関係を補償するように構成されている請求項18に記載の装置。
【請求項21】
トラッキングフィルタは、所望の供給時機からの実際の供給時機の短時間の解離の影響を制限するように構成されている請求項18に記載の装置。
【請求項22】
ローパスフィルタによって供給時機の短時間の解離の影響が制限される請求項21に記載の装置。
【請求項23】
所望の供給時機は患者の測定される生理機能に基づき選択される請求項2に記載の装置。
【請求項24】
測定される生理機能は患者のECGを含む請求項23に記載の装置。
【請求項25】
所望の供給時機はECGにおけるT波以外の時である請求項24に記載の装置。
【請求項26】
測定される生理機能は心臓のPEAであり、所望の供給時機は、PEAに関連して位相の設定された実際の胸部圧迫時機を生成し、血行動態の出力を改善するように選択される請求項23に記載の装置。
【請求項27】
測定される生理機能は心臓の低レベルの機械的活動であり、所望の供給時機は、低レベルの機械的活動に関連して位相の設定された実際の胸部圧迫時機を生成し、血行動態の出力を改善するように選択される請求項23に記載の装置。
【請求項28】
測定される生理機能は心臓のリズム状態を含み、プロセッサは、リズム状態における少なくとも幾つかの変化にしたがって合図時機を変化させるように構成されている請求項23に記載の装置。
【請求項29】
患者の基調となる循環器系活動に関連してフィードバック合図の位相を設定するか否かを決定する際にリズム状態が考慮される請求項28に記載の装置。
【請求項30】
測定される生理機能は特定の生理学的事象の時機を含み、合図時機は、生理学的事象の時機と実際の供給時機との間の所望の時間関係を生成するように選択される請求項23に
記載の装置。
【請求項31】
生理学的事象は心臓の機械的収縮である請求項30に記載の装置。
【請求項32】
所望の供給時機は、ペーシング刺激によって生じる改善された心筋の緊張の期間に胸部圧迫が発生するように、心臓に供給されるペーシング刺激の直後に続く、請求項2に記載の装置。
【請求項33】
フィードバック合図は非言語的合図である請求項1に記載の装置。
【請求項1】
ユーザが手動で患者へ反復的な治療を供給することを補助するために用いられる種類の医療装置であって、
ユーザが反復的な治療を供給する供給時機を設定することを補助するためのフィードバック合図を生成するように構成されたフィードバック装置と、
ユーザが実際に反復的な治療を供給した実際の供給時機を検出するように構成された1つ以上のセンサまたは回路部品と、
実際の供給時機を所望の供給時機を表す情報と比較し、該比較結果に基づいて、フィードバック装置がフィードバック合図を生成する合図時機を決定するように構成されたプロセッサ、メモリおよび関連する回路と、からなる装置。
【請求項2】
手動で供給される反復的な治療は、心臓蘇生の一部として手動で供給される胸部圧迫を含む請求項1に記載の装置。
【請求項3】
実際の供給時機および所望の供給時機は、実際の供給位相および所望の供給位相を含む請求項2に記載の装置。
【請求項4】
実際の供給時機および所望の供給時機は、実際の供給時機と所望の供給時機との間の差を形成することによって比較される請求項2に記載の装置。
【請求項5】
実際の供給時機を徐々に変更するように、複数の治療供給の時間を通じて合図時機が徐々に変更される請求項2に記載の装置。
【請求項6】
フィードバック合図は聴覚的または視覚的である請求項2に記載の装置。
【請求項7】
反復的な治療は心臓蘇生の一部として換気を含む請求項2に記載の装置。
【請求項8】
フィードバック合図はユーザが区別できる2つ以上の位相を有し、第1の位相は供給される治療の第1の位相に対応し、かつ、フィードバック合図の第2の位相は供給される治療の第2の位相に対応する請求項1に記載の装置。
【請求項9】
反復的な治療は心臓蘇生のための胸部圧迫を含み、フィードバック合図の第1の位相は救助者の圧迫運動の上昇に対応し、かつ、フィードバック合図の第2の位相は救助者の圧迫運動の下降に対応する請求項8に記載の装置。
【請求項10】
フィードバック合図は可聴音を含み、第1の位相および第2の位相は周波数および振幅のうちの一方または両方において異なる請求項9に記載の装置。
【請求項11】
フィードバック合図は胸部圧迫のための上昇合図を含み、上昇合図は、圧迫の供給前の上昇中に救助者の体が上昇するにつれて、周波数が増加するように変化する請求項10に記載の装置。
【請求項12】
フィードバック合図は圧迫の供給中に時間によって周波数の変化する下降合図を含む請求項11に記載の装置。
【請求項13】
下降合図は上昇合図より持続時間が短い請求項12に記載の装置。
【請求項14】
下降合図の音量は供給される圧迫がほぼ底にある時に最高となるように増大する請求項12に記載の装置。
【請求項15】
プロセッサは、合図時機と実際の供給時機との間の遅延時間を決定するように、かつ、合図時機を決定する際に遅延時間および所望の供給時機を使用するように構成されている請求項1に記載の装置。
【請求項16】
プロセッサは、合図時機と実際の供給時機との間の類似の時間関係を維持するように構成されている請求項1に記載の装置。
【請求項17】
前記類似の時間関係は実際の供給時機の前に合図時機を発生させる請求項16に記載の装置。
【請求項18】
プロセッサは、トラッキングフィルタを用いて、反復的な治療を供給する際のユーザの過去の成績に基づき、実際の供給時機を予測するように構成されている請求項1に記載の装置。
【請求項19】
トラッキングフィルタはカルマンフィルタを含む請求項18に記載の装置。
【請求項20】
プロセッサは、合図時機と実際の供給時機との間のヒステリシス関係を補償するように構成されている請求項18に記載の装置。
【請求項21】
トラッキングフィルタは、所望の供給時機からの実際の供給時機の短時間の解離の影響を制限するように構成されている請求項18に記載の装置。
【請求項22】
ローパスフィルタによって供給時機の短時間の解離の影響が制限される請求項21に記載の装置。
【請求項23】
所望の供給時機は患者の測定される生理機能に基づき選択される請求項2に記載の装置。
【請求項24】
測定される生理機能は患者のECGを含む請求項23に記載の装置。
【請求項25】
所望の供給時機はECGにおけるT波以外の時である請求項24に記載の装置。
【請求項26】
測定される生理機能は心臓のPEAであり、所望の供給時機は、PEAに関連して位相の設定された実際の胸部圧迫時機を生成し、血行動態の出力を改善するように選択される請求項23に記載の装置。
【請求項27】
測定される生理機能は心臓の低レベルの機械的活動であり、所望の供給時機は、低レベルの機械的活動に関連して位相の設定された実際の胸部圧迫時機を生成し、血行動態の出力を改善するように選択される請求項23に記載の装置。
【請求項28】
測定される生理機能は心臓のリズム状態を含み、プロセッサは、リズム状態における少なくとも幾つかの変化にしたがって合図時機を変化させるように構成されている請求項23に記載の装置。
【請求項29】
患者の基調となる循環器系活動に関連してフィードバック合図の位相を設定するか否かを決定する際にリズム状態が考慮される請求項28に記載の装置。
【請求項30】
測定される生理機能は特定の生理学的事象の時機を含み、合図時機は、生理学的事象の時機と実際の供給時機との間の所望の時間関係を生成するように選択される請求項23に
記載の装置。
【請求項31】
生理学的事象は心臓の機械的収縮である請求項30に記載の装置。
【請求項32】
所望の供給時機は、ペーシング刺激によって生じる改善された心筋の緊張の期間に胸部圧迫が発生するように、心臓に供給されるペーシング刺激の直後に続く、請求項2に記載の装置。
【請求項33】
フィードバック合図は非言語的合図である請求項1に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【公開番号】特開2013−81798(P2013−81798A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−280150(P2012−280150)
【出願日】平成24年12月21日(2012.12.21)
【分割の表示】特願2008−531209(P2008−531209)の分割
【原出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(504242032)ゾール メディカル コーポレイション (42)
【氏名又は名称原語表記】ZOLL Medical Corporation
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年12月21日(2012.12.21)
【分割の表示】特願2008−531209(P2008−531209)の分割
【原出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(504242032)ゾール メディカル コーポレイション (42)
【氏名又は名称原語表記】ZOLL Medical Corporation
【Fターム(参考)】
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