説明

口腔内速崩壊性錠剤

【課題】発泡性を有しながら口腔内で発泡を感知させず、一般的な製剤技術で製造でき、製造過程および流動過程で崩壊しない強度を有する口腔内速崩壊性錠剤を提供する。
【解決手段】 口腔内において唾液との接触により発泡して速やかに崩壊する錠剤であって、発泡源がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩または重炭酸塩であり、発泡源と反応する酸源が繊維素グリコール酸であることを特徴とする口腔内速崩壊性錠剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内において唾液との接触により発泡して速やかに崩壊する錠剤に関する。特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩または重炭酸塩と反応して二酸化炭素を発生する酸成分として、繊維素グリコール酸(カルボキシメチルセルロース遊離酸)を使用した口腔内速崩壊性錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内速崩壊性錠剤は、口腔内での速崩壊性、滑らかな口あたり、味など、目的に応じていろいろな工夫がなされている。この錠剤は、口腔内で速やかに溶解し、水なしでも容易に服薬できるため、高齢者や小児等、嚥下機能に問題のある患者に適した剤形として注目を集めている。
【0003】
錠剤やカプセル剤においては、服用時に水を必要とし、また、大きい製剤や服用量が多い場合には、飲み込みにくく、咽頭や食道につかえる等の問題がある。特に、老人、小児や嚥下困難な患者では、この問題は大きく、時には喉に詰まったり、食道に付着して薬物の影響などにより炎症を起こしたりする場合もある。
【0004】
近年では、嚥下困難な重症患者に対して、錠剤や顆粒剤を粉砕して、あるいは散剤をそのまま用い、水に懸濁させて、注射器で経口又は経鼻で胃管カテーテルを挿入して、薬物を投入する経管投与法が実施されているが、操作が繁雑で、時にはカテーテルの内径が細いため詰まり易いという問題がある。
【0005】
これらの背景より、老人や小児もしくは嚥下困難な患者などにも適する剤形として、口中に含んだ時あるいは、水の中に入れた時、速やかに崩壊もしくは溶解する剤形が知られている。
【0006】
例えば、外国では、R.P.Scherer社(英国)の凍結乾燥を利用した「Zysis」が商品化されているが、凍結乾燥法によって製造される製剤は、急速な崩壊性を有する反面、強度が弱く、硬度の測定が不可能な程もろいという欠点がある。また、凍結乾燥の製造設備が必要で、製造に長時間を要することから、工業的生産性に劣っている。
【0007】
国際公開番号WO93/12769号公報には、医薬物質と乳糖及びマンニトールを寒天溶液に懸濁させ、PTPポケット等に充填してゼリー状に固化させ、減圧乾燥して得られる口腔内崩壊製剤が記載されている。この成型物は、口腔内での崩壊時間は5〜20秒程度という速崩壊錠が得られる反面、錠剤強度が弱く、ボトル包装などPTP包装以外の包装形態には適用困難である。また、製造に長時間を要することから工業的生産性が劣っている。
【0008】
特開平6−218028号公報および特開平8−19589号公報には、湿潤した練合物を鋳型に充填し、圧縮して成型した後、乾燥させて錠剤に製する湿製錠を利用した成型方法が記載されている。これらの方法は、湿式錠剤法による製法であり、低い圧力で成型されているため、乾燥後には適度の空隙率を有する多孔質の錠剤となり、軟らかくて崩壊性に優れている。ただし、流動性の悪い湿潤粉体を充填、圧縮するために、充填バラツキが大きく、貼り付きを生じ易いという欠点がある。また、特殊な成型が必要で、かつ軟らかい成型物の形状を保ったまま乾燥する特殊な乾燥機が必要なこともあり、工業的生産性に劣っている。
【0009】
そのため、錠剤強度が強く、溶解性、崩壊性のよい錠剤の製法として、国際公開番号WO97/47287に、平均粒子径30μm以下の糖又は糖アルコールと活性成分および崩壊剤を組み合わせ、口腔内で速やかに崩壊する錠剤の製造方法が記載されている。これによれば、例えば、糖又は糖アルコールを微粉砕した後、崩壊剤等を加えて成型した圧縮成型物は、それなりの硬度を有し、速やかな崩壊性が得られるとされているが、糖又は糖アルコールを微粉砕することは手間であり、また、マンニトール微粉砕物は、圧縮成型時に臼壁面との間に生じる摩擦を増大させる。錠剤製造時の流動性の低下などのハンドリング性低下の問題がある。
【0010】
この問題を解決するため、特開2001−58944によれば、ハンドリング性を向上させ、錠剤強度が強く、溶解性、崩壊性の優れた錠剤を製する方法として、平均粒子径が30μm〜300μmの糖又は糖アルコールを用い、セルロース類を配合して圧縮固形製剤を製する方法を提案している。
【0011】
その他の方法として、有機酸とアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩による発泡反応を利用して製する速やかな崩壊性を有する錠剤が多く見受けられる。例えば、特表平5−501413には、特定の粒径を有するL−クエン酸、フマル酸、クエン酸一ナトリウムおよび/またはアジピン酸よりなる群から選ばれる有機酸とアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩および重炭酸塩よりなる群から選ばれる気体発生成分とを配合し、水中で気体を発生させて崩壊させる方法が記載されている。また、特表平5−500956には、発泡性崩壊剤として、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸などから選ばれる少なくとも一つの酸と、炭酸塩、重炭酸塩およびこれらの混合物よりなる群から選ばれる少なくとも一つの炭酸塩源を配合し、発泡を利用して崩壊させる錠剤が記載されている。
【0012】
このような発泡作用を利用する速崩壊性錠剤の場合、口腔内で発泡を感知するというある意味でのデメリットがあり、また、吸湿による発泡を防止するために、錠剤を製造する際、製造室内の湿度条件を極端に低く保たねばならないというデメリットがある。保存時の吸湿性という点で、錠剤の保存条件が限定されることも大きな問題である。
【0013】
上述したとおり、口腔内あるいは水の中に入れたとき、速やかな崩壊性、溶解性を有するとともに、製造工程、流通過程において崩れないような強い強度を有する錠剤を開発するには多くの工夫が必要で、通常の製造方法で、容易にそのような錠剤を製することはできない。また、発泡性を利用するにしても、口腔内で発泡性を感じず、製造時あるいは保存時の湿度環境に必要以上に留意する必要のない速崩壊性の錠剤を作ることは容易ではない。
【0014】
したがって、口腔内あるいは水の中に入れたとき、口腔内では感知しない程度の緩和な発泡性と速やかな崩壊性、溶解性を有するとともに、製造工程、流通過程において崩れないような強い強度を有する錠剤を開発することを目的として種々検討を行い、本発明に完成させた。
【0015】
本発明の目的は、(1)発泡性を有しながら口腔内で発泡性を感知させず、口腔内で速やかな崩壊性、溶解性を有する口腔内溶解型圧縮成型物を提供すること、(2)複雑な製造工程や特殊な設備を要することなく一般的製剤工程により上記口腔内溶解型圧縮成形物を得る工業的に優れた製造方法を提供すること、(3)水なしで服用可能な口腔溶解型圧縮成型物及びその製造法を提供すること、(4)製造工程および流通過程において崩れない強い強度を有する速崩壊性錠剤を提供することである。
【発明の開示】
【0016】
本発明者らは、特殊な製剤技術を必要とせず、一般的な設備を用い、口腔内あるいは水の中に入れたとき、速やかな崩壊性、溶解性を有し、かつ、製造工程および流通過程において崩れない強い強度を有する速崩壊錠剤について検討を実施した。その結果、酸源として繊維素グリコール酸、塩基剤としてアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩及び重炭酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種を配合し、必要に応じて矯味あるいは微発泡の補助として1錠中に少量の有機酸を配合することによって、微発泡性を有する目的とする固形製剤を製造し、本発明を完成させた。
【0017】
このように本発明に従えば、口腔内において唾液との接触により発泡して速やかに崩壊する錠剤であって、発泡源としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩または重炭酸塩と、酸源として繊維素グリコール酸を含有することを特徴とする口腔内速崩壊性錠剤が提供される。
【0018】
この錠剤は、少なくとも医薬活性成分、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩または重炭酸塩、繊維素グリコール酸、結合剤、崩壊剤および滑沢剤、さらに任意に矯味および/または微発泡を補助する目的で少量の脂肪族多塩基酸を含む混合物を圧縮成型することによって製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に用いられる主たる酸源は繊維素グリコール酸であり、発泡源はアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩及び重炭酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種である。発泡性を有する錠剤の場合、通常、酸源としては水溶性の有機酸を用いるが、この場合、特表平5−500956、特開2003−231629などに示されるように、発泡性崩壊剤は、錠剤の崩壊性を促進させることともに、錠剤が口の中に入ったときに発泡を明瞭に感知させるのに有効な量で配合することになる。すなわち、口腔内での崩壊を促進させるためには、錠剤が口の中に入った時に発泡を明瞭に感知させるのに有効な量を配合することが必要なのであり、この感覚はあらゆる人にとって必ずしも好ましいものではないと考えられる。
【0020】
本発明者らは、口腔内での発泡性を感じることなく発泡性を利用して錠剤を速やかに崩壊させる方法に関して検討し、酸源として水に溶解しない繊維素グリコール酸を用いることで、目的とする固形錠剤を製することができることを見いだした。本発明による製剤が口腔内での発泡を感知しないのは、繊維素グリコール酸が水に溶解しないために、塩基剤との反応速度が遅く、かつ反応が弱いためであると考えられる。
【0021】
本発明に用いられる繊維素グリコール酸は、緩やかに発泡させるための必須成分であるが、錠剤中に必要以上に多く配合した場合、製する錠剤用の顆粒強度が弱く、製した錠剤の硬度が弱く、錠剤保存中の吸湿により錠剤強度が使用に耐えないほど弱くなるなどの不都合が生じるため、その配合量は、50重量%以下であることが望ましい。
【0022】
繊維素グリコール酸に反応させる発泡源すなわち塩基剤としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩なら何でもよいが、服用したときの味という観点から、炭酸カルシウムなどを用いることが好ましい。また、その配合量は必要以上に配合する必要はなく、酸源と塩基剤が水で活性化された場合1錠あたり約20cm以下の気体を発生させるに必要な量で充分である。
【0023】
本発明の錠剤は、活性成分、酸源および塩基剤を主たる配合成分として固形剤を製造するが、その他として通常錠剤などを製する際に配合する結合剤、崩壊補助剤、甘味料、矯味剤、滑沢剤などを配合することは自由である。
【0024】
本発明に用いる結合剤はポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロースなど何でもよいが、前述したとおり、発泡性が緩和なため、崩壊力がやや弱いという点を考慮すれば、結合剤の配合量が多い場合、粘度の関係で錠剤の崩壊が遅くなることもあり、結合剤の配合量は固形財組成物全量の2重量部%以下、好ましくは1.5重量部%以下程度が好ましい。
【0025】
崩壊剤としては、デンプン類、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、繊維素グリコール酸類、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウムなど通常用いられる崩壊剤であれば何を用いることも自由である。また、崩壊補助剤として、少量の有機酸、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素などを配合することも可能である。有機酸を配合する場合は、発泡性を感知させない量以下であることが必須であり、固形剤組成物全量の5重量部%以下の配合であることが必須である。
【0026】
本錠剤は速崩壊性の製剤であり、糖、糖アルコールなどの甘味料、アスパルテーム、ステビア、有機酸などの矯味剤を配合することは自由である。
【0027】
上述したとおり、活性成分、酸源としての繊維素グリコール酸および塩基剤としてのアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩及び重炭酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種を配合し、必要に応じて結合剤、崩壊剤、甘味料、矯味剤などを配合したものを圧縮成型することを特徴とする、緩和な発泡性、速やかな崩壊性、溶解性を有するとともに、強い強度を有する口腔内速崩壊性固形製剤である。
【0028】
本発明による錠剤は、口腔内での発泡性を感じることなく発泡性を利用して錠剤を速やかに崩壊させるというメリットを有している以外に、繊維素グリコール酸が水に溶解しないために、製剤を製造する際の室内湿度環境を、通常の発泡錠を製造する際の40%以下というような極端な低湿度環境にする必要がないという点も大きなメリットである。
【0029】
加うるに、本発明技術を利用することにより、疎水性医薬活性成分など配合分量の多い医薬品を、比較的に小型化した口腔内速崩壊錠に製することが可能で、今後の利用価値が非常に高い発明と考えられる。
【0030】
本発明の製剤は、慣用の製剤製造技術で製造することができる。すなわち、医薬活性成分、繊維素グリコール酸、塩基剤などを混合し、結合剤をエタノールなどの有機溶剤に溶解した溶液を用い湿式造粒・乾燥・篩過したものに、矯味剤、滑沢剤などを混合したものを、圧縮成型して製造することが可能である。繊維素グリコール酸と塩基剤は水中で反応するため、水による湿式法で造粒する場合、それぞれを別顆粒にしたり、繊維素グリコール酸と塩基剤のいずれかを滑沢剤などとともに後で混合するというような、一般的に製剤で工夫される方法を採用して製剤化することは自由であることは論を持たない。また、結合剤を粉末のまま配合して溶剤で湿式造粒することも自由である。
【0031】
上記製剤化法に関わる造粒操作は、攪拌造粒機、流動層造粒機、ニーダー、転動造粒機、乾式造粒機、真空造粒機などが使用可能であり、造粒機種を選ばないこともメリットである。
【0032】
本発明により、特殊な製剤技術を必要とせず、一般的な設備を用い、口腔内あるいは水の中に入れたとき、口腔内では感知しない程度の緩和な発泡性と速やかな崩壊性を有するとともに、製造工程、流通過程において崩れないような強い強度を有する錠剤を製造することが可能となった。
【実施例】
【0033】
以下に限定を意図しない実施例によって、本発明を例証する。
【0034】
実施例1
プランルカスト水和物を1409g、コリドンK30(クロスポビドン)を13g、繊維素グリコール酸を635g、アスパルテームを56gとり充分に混合した後、リンゴ酸31gを水1050gに溶解した液を添加して練合し、造粒、乾燥したものに、沈降炭酸カルシウムを282g、オレンジミクロンを3g、フマル酸ステアリルナトリウムを75g混合して、直径8mmの平面杵で1錠200mgの錠剤を製した。この錠剤は口腔内で発泡性を感知することなく、30秒以内で崩壊した。
【0035】
実施例2
レバミピドを200g、乳糖を9g、繊維素グリコール酸を100g、アスパルテームを20gとり充分混合した後、リンゴ酸5gを水98gに溶解した液を添加して練合し、造粒、乾燥したものに、沈降炭酸カルシウム41.6g、軽質無水ケイ酸を2g、オレンジミクロンを0.4g、ステアリン酸ナトリウムを2g混合して、直径8mmの平面杵で1錠190mgの錠剤を製した。この錠剤は口腔内で発泡性を感知することなく、約30秒で崩壊した。
【0036】
実施例3
プランルカスト水和物を225g、コリドンK30を2g、繊維素グリコール酸を102g、アスパルテームを8g、タウマチンを1gとり充分に混合した後、182gの水を添加して練合し、造粒、乾燥したものに、重炭酸ナトリウムを45g、オレンジミクロンを0.36g、ステアリン酸マグネシウムを2g混合して、直径8mmの平面杵で1錠195mgの錠剤を製した。この錠剤は口腔内で発泡性を感知することなく、30秒以内で崩壊した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内において唾液との接触により発泡して速やかに崩壊する錠剤であって、発泡源がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩または重炭酸塩であり、発泡源と反応する酸源が繊維素グリコール酸であることを特徴とする口腔内速崩壊性錠剤。
【請求項2】
少なくとも医薬活性成分、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩または重炭酸塩、繊維素グリコール酸、結合剤、崩壊剤および滑沢剤を含む混合物を圧縮成型してなる請求項1の口腔内速崩壊性錠剤。
【請求項3】
前記混合物が矯味または微発泡を補助する目的で少量の脂肪族多塩基酸をさらに含んでいる請求項2の口腔内速崩壊性錠剤。

【公開番号】特開2008−127319(P2008−127319A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313059(P2006−313059)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(596166690)全星薬品工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】