可視光応答型光触媒及びその製造方法
【課題】 触媒活性サイトとして働く酸化鉄を含有し、紫外線を含まないLED照明光でも機能を発現する光触媒、及びその工業的生産が可能である簡便な製造方法を提供すること。
【解決手段】 酸化鉄(A)の粒子がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなる光触媒であって、前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボンを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、かつ、当該複合体中における酸化鉄(A)の含有率が10〜80質量%であることを特徴とする光触媒。
【解決手段】 酸化鉄(A)の粒子がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなる光触媒であって、前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボンを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、かつ、当該複合体中における酸化鉄(A)の含有率が10〜80質量%であることを特徴とする光触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED照明光や可視光でもその触媒作用を発現する光触媒に関し、詳しくは、シリカナノ構造体に酸化鉄の粒子が固定されてなる光触媒とその簡便な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、汚れや有害物質等を自発分解し無害化する光触媒が非常に注目されている。その応用分野は、住宅、車、医療、土地処理などへと広がり、循環型社会構築の不可欠技術として位置付けられている。光触媒として長い歴史を持ち、且つ極めて高い光触媒活性を持つ材料としては酸化チタンが挙げられる。しかしながら、酸化チタンの光触媒機能を発現させるためには紫外線を光源とすることが前提条件であり、室内蛍光灯には極微量の紫外線しか含まれておらず、酸化チタンの可視光応答化が以前より盛んに研究されてきた。一方で、蛍光灯と比較して長寿命且つ消費電力量が少ないLED照明が急激な普及を見せており、近い将来にはLED照明が室内用照明の大部分を占めると推測されている。このため、室内環境中において光触媒を有効に使用するためには、LEDランプの発光波長に対応する完全可視光応答型の光触媒の開発が必須である。
【0003】
このLED照明には紫外線が含まれておらず、照射波長が可視光線であり、通常の酸化チタンでは光触媒機能を発現しない。また、現状の可視光応答型酸化チタン光触媒においても、LED光源下では微弱な光触媒活性を示すのみである。その理由としては、酸化チタンの可視光応答化は酸化チタン結晶中の酸素原子を窒素原子に置き換えるアニオンドープ(例えば、非特許文献1参照)、可視光に応答する遷移金属元素をドーピングする金属ドープ(例えば、特許文献1参照)等の手法で行われているが、それらの触媒評価で用いた光源は大低紫外線カットフィルター付きの水銀ランプ/キセノンランプ/蛍光灯などで、実際近紫外線を含むケースが多く、それを可視光範囲へと広げて解釈したことが原因として挙げられる。これらの不純物ドーピングにより酸化チタン結晶中に欠陥構造を形成し、エネルギー準位を下げることで長波長側での励起に有利となるが、その反面、電子と正孔の再結合を引き起こしやすく、しばしば可視光照射による電荷分離効率を低下させることになる。上記実情を鑑み、酸化チタン結晶中に金属ドープを行わずに、酸化チタン表面への金属カチオン担持による可視光応答化の試みも行なわれている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、この手法では酸化チタンから表面の金属カチオンへの電子遷移速度が十分ではなく、満足する可視光応答性を得るまでには至ってない。
【0004】
上記の状況を脱するために、近年、可視光応答能力を持たない酸化チタンに変わり、もともと可視光吸収能力を持ち、且つ、光触媒機能を有する酸化タングステン光触媒に注目が集まっている。しかしながら、酸化タングステンのようにバンドギャップが低い場合、価電子帯から導電帯へと励起される電子は、逆戻りしやすく、触媒機能を発現するには、その電子を「プールまたはトラップ」できる構造の設計が必要となる。その例として、酸化タングステンに白金を担持した光触媒が開示されている(例えば、非特許文献3参照)。しかし、高価な白金を使用する上に決して安価ではない酸化タングステンを使用しているため、現実市場へ大量に供給することは不可能であると言っても過言ではない。又、白金を使用せずに遷移金属を酸化タングステンに担持する方法も研究されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この遷移金属担持酸化タングステン光触媒は現状の可視光応答型酸化チタンの3倍程度の光触媒活性でしかなく、室内空間におけるLED照明用途に満足できる性能とは到底言えない。
【0005】
一方で、可視光領域に吸収を持つ金属酸化物として三酸化タングステンの他に酸化第二鉄が挙げられる。三酸化タングステンが約500nmまでの可視光線を吸収可能であるのに対し、酸化第二鉄は約600nmまでの可視光線を吸収可能であり、且つ、極めて安価、安定な元素であるため、可視光応答型光触媒として高い潜在能力を持っている。しかし、高い可視光吸収能力を持つ酸化第二鉄ではあるが、光触媒としての応用は極めて少ないのが実態である。酸化第二鉄の価電子帯で生成する正孔の電位は理論上約2.6eV(vsNHE)でありNOガスのイオン化反応(Eo=+0.96eV(vsNHE))を進行させることは可能である(例えば、特許文献3参照)。しかし、酸化第二鉄は伝導帯下端のエネルギー準位が+0.3eV(vsNHE)付近であり酸化チタンの−0.2eV(vsNHE)と比較して還元力が弱く活性酸素種を発生させることができず、有機物の分解反応を起こすことはできない。一方で、酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄(Fe2O3・nH2O)のようなものを酸化チタン表面に担持することで可視光応答性能を付加させる研究も積極的に行われている(例えば、特許文献4、5参照)。しかし、可視光応答性能の無い酸化チタンの約2倍の可視光活性である等、信頼性に乏しいものが大多数である。何よりも、酸化鉄等を酸化チタンに担持したものは、あくまで酸化鉄が一種の増感剤として働き、酸化チタンに電子を与えるものであり、光触媒としての機能は酸化チタンが担っているため、十分な電子利用効率を得ることは困難である。
【0006】
上記とは別に、酸化第二鉄を原料に取り入れ、それをCaOと混合焼成から得られるカルシウムフェライト(Ca2Fe2O5)を多孔性シリカと複合することで、可視光応答型光触媒を得ることが報告されている(例えば、非特許文献4参照)。当然、これは酸化鉄そのものではないが、鉄を可視光吸収する元素源にする意味では、興味が持たれる。また、粘土(例えば、モンモリナイト)に酸化第二鉄をインタカレーションしてなる複合体を光触媒として用い、UVランプまたはハロゲンランプで照射することで、酢酸から二酸化炭素とメタンガスが発生することが確認されている(例えば、非特許文献5参照)。もちろん、酸化第二鉄は、水分解における光触媒システム中でもよく利用されている。しかしながら、酸化第二鉄を完全可視光(例えばLEDランプ)応答型の光触媒として用いた有害物質の分解については、未だに報告はない。とりわけ、酸化第二鉄単独では、LED照射(完全可視光)由来の光源下では、触媒活性サイトが機能しないことは周知の知見である。安価でしかも可視光対応できる酸化第二鉄を光触媒として開発することは重要な技術的課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−021991号公報
【特許文献2】特開2009−226299号公報
【特許文献3】特開2001−259436号公報
【特許文献4】特開平07−303835号公報
【特許文献5】WO2007/125998
【0008】
【非特許文献1】Asahi.R et al.、Science.2001年、第293巻、269貢
【非特許文献2】Irie.H et al.、Phys.Lett.2008年、457巻、202貢
【非特許文献3】Ohtani.B et al.、JACS.2008年、第130巻、7780項
【非特許文献4】鈴木憲司、日比科学技術振興財団 平成19年度研究報告書,pp15−26
【非特許文献5】角田世治ら、平成18年度青森県工業総合研究センター事業報告書、pp85−89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、触媒活性サイトとして働く酸化鉄を含有し、紫外線を含まないLED照明光でも機能を発現する可視光応答型光触媒、及びその工業的生産が可能である簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、酸化鉄粒子を、シリカを主成分とする、基本構造体の大きさがナノメートルオーダーであり、この基本構造体が集合してマイクロメートルオーダーの粉体となっているシリカナノ構造体に固定することで得られる、酸化鉄とシリカナノ構造体との複合体が紫外線を含まない光でも光触媒として好適に機能することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、酸化鉄(A)の粒子がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなる光触媒であって、前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボンを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、かつ、当該複合体中における酸化鉄(A)の含有率が10〜80質量%であることを特徴とする光触媒と、これの簡便な製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光触媒は、光触媒サイトとして機能する酸化鉄をシリカナノ構造体に焼き付けて固定されてなるシンプルかつ特異的構造であり、シリカを主成分とし、酸化鉄は少ない量で複合体中に含まれている。純粋な酸化鉄は有機物分解に関して全く光触媒活性を示さないが、本発明における光触媒は光照射により高い有機物分解能力を発揮する。また、使用する元素は鉄とケイ素のみであり、元素戦略上においても極めて有望な元素構成であると言える。従って、本発明の光触媒は、紫外線を含まない照明光下であっても、有害ガス、有機汚染物、黴菌、汚れなどの分解に有効であり、建築材料、産業用電気製品、家電品の保護膜に用いることができる。また、病院、医療用器具などと関連した防菌、殺菌等に用いることができる。また、金属製品の腐食防止にも用いることができる。さらに、本発明の光触媒の製造方法は、汎用の設備でも製造可能であり、精密な制御等をほとんど必要とせず、再現性もあるため、大量生産も可能であり、光触媒の提供方法として有用性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】合成例1で得られた複合体(X−1)のSEM写真である。
【図2】合成例1で得られたシリカナノ構造体(B−1)のSEM写真である。
【図3】合成例2で得られた複合体(X−2)のSEM写真である。
【図4】合成例2で得られたシリカナノ構造体(B−2)のSEM写真である。
【図5】合成例3で得られた複合体(X−3)のSEM写真である。
【図6】合成例3で得られた複合体(X−3)の窒素ガス吸着(下)−脱着(上)の等温線である。
【図7】合成例3で得られた複合体(X−3)のポア体積分布曲線である。
【図8】合成例3で得られた複合体(X−3)のTEM写真である。
【図9】合成例3で得られたシリカナノ構造体(B−3)の窒素ガス吸着(下)−脱着(上)の等温線である。
【図10】合成例3で得られたシリカナノ構造体(B−3)のポア体積分布曲線である。
【図11】合成例3で得られたシリカナノ構造体(B−3)のTEM写真である。
【図12】実施例1で得られた試料No.T13のTEM写真である。
【図13】実施例1で得られた試料No.T13のX線回折パターンである。
【図14】実施例1で得られた試料No.T13のUV−vis拡散反射スペクトルである。
【図15】実施例2で得られた試料No.T23のTEM写真である。
【図16】実施例2で得られた試料No.T23のX線回折パターンである。
【図17】実施例2で得られた試料No.T23のUV−vis拡散反射スペクトルである。
【図18】実施例3で得られた試料No.T33のTEM写真である。
【図19】実施例3で得られた試料No.T33のX線回折パターンである。
【図20】実施例3で得られた試料No.T33のUV−vis拡散反射スペクトルである。
【図21】実施例4で得られた試料No.T42のTEM写真である。
【図22】実施例4で得られた試料No.T42のX線回折パターンである。
【図23】実施例4で得られた試料No.T42のUV−vis拡散反射スペクトルである。
【図24】評価1の結果を示すグラフである。
【図25】評価2の結果を示すグラフである。
【図26】評価3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来、酸化第二鉄は可視光領域に高い光吸収能力を持ち、理論上は可視光照射により電子と正孔を生成し高活性な光触媒となるはずであるが、実際には前述したガス状窒素酸化物の酸化反応が起こりにくく、その量子収率は極めて小さい。一般に酸化第二鉄は電子軌道の局在化が大きく、触媒表面に電荷分離により生成された電子と正孔が速やかに再結合を起こし、期待する活性が得られないケースが多い。この再結合を防止するためには、光触媒活性サイトである酸化第二鉄表面に再結合を防止するための電子プール機能を持つ構造を設計する必要がある。また、酸化第二鉄の伝導帯下端のエネルギー準位では励起電子による酸素還元が理論上起こらないことを前述した。このため、仮に励起電子をプールする構造を設計できたとしても、励起電子に酸素還元能力を持たせることが出来なければ十分な光触媒活性を得ることは到底期待できない。一方で、前述した諸条件を満たすことができれば、酸化鉄を有効成分とする光触媒においても、その精密な構造設計により、電荷分離状態の長時間維持、分離された電子による酸素の還元からの活性酸素の発生、正孔によるC−H結合の直接酸化、及び水の酸化によるラジカル水酸基の生成などが期待できる。即ち、光触媒を酸化鉄の活性サイトだけで構成するのではなく、その周辺で光を拡散したり閉じ込めたりするための、言わば「光子濃縮」の機能、空気中の酸素と水分とを触媒活性サイト周辺にトラップする「酸素、水の濃縮」機能、基質有機物を触媒活性サイト周辺に効率的に拡散、集積する「足場」機能、触媒活性サイトの活性化を促進するナノ界面構造など、諸要素を満たす構成を構築しなければならない。
【0015】
本発明で提供する光触媒は、高い比表面積を有する複雑形状のシリカナノ構造体を触媒活性サイト周辺の構造設計に用いることに特徴を有する。即ち、触媒活性サイトとして働く酸化鉄の粒子を、シリカナノ構造体の表面に焼き付けて固定することで、アモルファスのシリカと結晶性の酸化鉄間に特異的なナノ界面を有する一つの複合体が形成される。このように構成された複合体においては、光照射により酸化鉄表面に生成した電子をナノ界面にプールすることができ、励起電子の再結合を防止することで効率的に励起電子を利用することができる。また、詳細構造は不明であるが、このナノ界面にトラップされた励起電子は酸素の還元能力を有することを見出した。また、複雑な形状を有するシリカナノ構造体は光散乱を引き起こし、光子を触媒活性サイト周辺に閉じ込める機能を果たす。また、シリカナノ構造体は多くの空洞、隙間を有し、それらが空気を有効にトラップする。また、シリカのアモルファス構造にはシラノール基が多く、それは常に水分子を効率的に吸着する。さらに、シリカナノ構造体表面は基質の有機物を触媒活性サイト周辺に有効に拡散・吸着・伝送することができる。従って、本発明で提供するシリカナノ構造体と酸化鉄の粒子とからなる複合体は、紫外線を含まないLED照明光下であっても、有機化合物を効率的に分解する触媒として機能することができる。
以下、本発明を詳細に述べる。
【0016】
〔シリカナノ構造体(B)〕
本発明で用いるシリカナノ構造体(B)は、後述する酸化鉄(A)の粒子をその表面に固定する、いわば担体に相当するものである。その製造方法は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが水性媒体中で形成する結晶性会合体を鋳型とし、シリカ前駆体であるアルコキシシランのゾルゲル反応を用いるものである。具体的には、既に本発明者らによって、特開2005−264421号、特開2005−336440号、特開2006−63097号、特開2006−306711号、特開2007−51056号、特開2009−24124号にて提供している何れのシリカナノ構造体であっても本発明のシリカナノ構造体(B)として用いることができる。これらのシリカナノ構造体(B)はシリカゲル等の一般的なマクロサイズシリカと比較し、ナノメートルオーダーの基本ユニットを構成単位として有し、これが三次元空間で集合してなるものであることを特徴とする。又、これらの特許文献において提供されているシリカナノ構造体中に金属イオンや金属ナノ粒子が含まれている場合もあるが、金属イオン・金属ナノ粒子は光触媒機能を阻害するものではないため(金属種によっては、光触媒機能を増強する効果も有する)、そのまま本発明のシリカナノ構造体(B)として好適に用いることができる。
【0017】
より具体的には、太さが10〜100nm、好ましくは20〜80nmであり、アスペクト比が2以上、好ましくは4以上のファイバー状の構造体(以下、ナノファイバー)を基本ユニットとしているものや、厚さが10〜100nm、好ましくは15〜50nmであり、この厚みに対する長さをアスペクト比とした場合のその値が2以上、好ましくは4以上のリボン状/シート状の構造体(以下、ナノリボン/ナノシート)を基本ユニットとしているものが挙げられる。そして、この基本ユニットを構成単位として集合してなる集合体の大きさ(TEM画像で観測したときの、最も長い部分)は、通常1μm〜20μm、好ましくは3〜15μmである。
【0018】
製造方法としては、例えば、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水中に懸濁させ、80℃付近の温度で溶解させる。ポリマーの溶解を確認した後、室温で静置冷却を行う。30分程度の静置冷却でナノファイバー構造を基本ユニットとするポリエチレンイミン含有の沈殿物が得られる。又は、水中に氷を投入し、急冷させることによっても、ナノメートルオーダーの基本構造を有するポリマーの沈殿物が得られる。このようにして得られたポリエチレンイミン骨格を有するポリマーのナノファイバーやナノリボン、ナノシート等が沈殿した水溶液にテトラアルコキシシラン(縮合物を含む)を含んだエタノール溶液を混合させることで、ポリマーのナノファイバー/ナノリボン/ナノシート等の上に均一にシリカを析出させるとともに、これら同士が会合体を形成し、ポリマーとシリカとの複合体(X)を得ることができる。
【0019】
また、上記の直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを80℃の加温で溶解させる際に、ポリエチレングリコール等の他のポリマーを混合させることにより、異なった形状を持つ沈殿物を得ることが可能である。この場合も直鎖状ポリエチレンイミン部分の結晶性により、ナノファイバー又はナノリボン/ナノシート状などの構造体を基本ユニットとしており、該ポリエチレンイミン部の周辺でシリカが析出すると共に会合して全体形状(二次形状)を作り上げ、ポリマー鎖を内部に有する、複雑形状の(比表面積の高い)ポリマーとシリカとの複合体(X)が得られる。
【0020】
また、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを溶解させる方法としては、加温による溶解のみでなく、酸添加による溶解も可能であり、溶解後に塩基を添加することで析出するナノメートルオーダーの基本構造を有する沈殿物に対して、前記と同様の方法でシリカを複合化させることも可能である。
【0021】
上記の方法で調製したポリマーとシリカとの複合体(X)の内部に存在する、鋳型として使用した直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーは、該複合体(X)を例えば、400〜900℃で焼成することにより除去することが可能である。このとき、全体形状は焼成の前後で変化が無いため、シリカを主構成成分とするシリカナノ構造体(B)を得ることができる。尚、シリカを主構成成分とするということは、焼成温度・雰囲気等によってポリマーが炭化した成分が残ることもあるが、意図的に第三成分を併用しない場合において、シリカ以外の成分を含まないことを示すものである。
【0022】
本発明の製造方法においては、前述の、ポリマー鎖を含む複合体(X)であっても、焼成によって該ポリマー鎖を除去したシリカナノ構造体(B)であっても、後述する光触媒の製造における材料として好適に用いることができる。
【0023】
〔光触媒の製造方法〕
本発明における酸化鉄(A)の粒子のシリカナノ構造体(B)への固定方法は、下記の工程を有することを特徴とする。
【0024】
第一の方法は、
(1−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水性媒体中で会合させる工程、
(1−2)水性媒体の存在下で、工程(1−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーとシリカとの複合体(X)を得る工程、
(1−3)工程(1−2)で得られた複合体(X)の分散液、又は該複合体(X)を焼成し、複合体(X)中のポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)の分散液に、鉄酸塩(A’)を混合し、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)中に鉄酸塩(A’)を濃縮させる工程、
(1−4)工程(1−3)で得られた鉄酸塩(A’)を有する、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)を900℃以下で焼成し、シリカナノ構造体(B)への酸化鉄(A)粒子の固定を行なう工程、を有するものである。
【0025】
前記工程(1−1)及び(1−2)については、複合体(X)又はこれの焼成物であるシリカナノ構造体(B)を得る方法であり、前述の通りである。この工程で得られた複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)を媒体に分散させた分散液と、酸化鉄(A)のソースである鉄酸塩(A’)を媒体中で混合すると、複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)の表面に当該鉄酸塩(A’)が吸着され濃縮される。この状態にしてから焼成すると、表面に吸着された鉄酸塩(A’)は酸化鉄(A)となるが、その場所が固定されていることから粒子の成長が制御され、ナノサイズの酸化鉄(A)となる。
【0026】
ここで用いることができる鉄酸塩(A’)としては、焼成によって酸化鉄になるものであれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、硝酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄等が挙げられ、工業的な原料入手容易性の観点から、硝酸鉄をその水溶液として用いることが好ましい。
【0027】
通常シリカの表面は多数のOH基の存在により極性が強い。そのため、複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)を媒体に分散させた分散液と、酸化鉄(A)のソースである鉄酸塩(A’)を媒体中で攪拌、分散処理を行ったあとに遠心分離等により、上澄み水溶液を取り除き、乾燥処理を行うと、複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)表面上に鉄酸塩(A’)が吸着している粉体が得られる。
【0028】
鉄酸塩(A’)と複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)との使用割合としては、焼成後の酸化鉄(A)と、焼成後のシリカナノ構造体(B)との比、即ち(A)/(B)で表される質量比として10/95〜80/20となるように用いることが好ましく、より好ましくは、30/60〜50/50の範囲である。
【0029】
鉄酸塩(A’)と複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)とを混合する際に使用する媒体の量は特に限定するものではないが、鉄酸塩(A’)と複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)との合計の質量に対し、質量比で10〜30倍の範囲であれば好適である。
【0030】
前記媒体としては、水単独のほか、種々の親水性有機溶媒との混合溶媒であっても良く、例えば、エタノール、2−プロパノール、アセトン等が挙げられる。
【0031】
鉄酸塩(A’)と複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)とを媒体中で混合する際に、より吸着を確実にするために、ポリアミンを併用しても良い。即ち、前述の工程(1−3)で鉄酸塩(A’)を加える前に、ポリアミンを混合し、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)の表面にポリアミンを吸着させる。
【0032】
前記ポリアミンとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリリシン類を挙げることができ、単独でも2種以上を併用しても良い。
【0033】
この様な、ポリアミンを吸着させた後、鉄酸塩(A’)と複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)との混合による吸着工程を行なう。吸着工程の詳細な方法については特に制限されるものではなく、例えば、一定割合で混合した後、それを室温(20〜30℃)で1〜24時間攪拌することで十分に吸着できる。
【0034】
〔焼成工程〕
上記で得られた、鉄酸塩(A’)が複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)に吸着している粉体を加熱焼成することで、シリカナノ構造体(B)に酸化鉄(A)の粒子が固定される。
【0035】
加熱焼成温度は、既に内部のポリマー鎖を除去したシリカナノ構造体(B)を使用している場合は350〜900℃の温度範囲であれば良く、ポリマー鎖が内部に存在する複合体(X)を用いた場合や、ポリアミンを併用している場合など、これらの有機物の除去を同時に行なう目的で600℃以上の温度で焼成することが好ましい。尚、900℃を超える温度では、シリカの溶融が始まり、シリカナノ構造体(B)の該構造が崩れる虞があり、又酸化鉄(A)の粒子成長が起こる可能性もあるため、焼成温度の上限は900℃である。
【0036】
焼成時間は通常2〜8時間であればよく、温度上昇をプログラム的に制御することが好ましい。例えば、室温から300℃まで1時間をかけて上昇させ、その後、30分かけて500℃まで上昇させた後、その温度で3時間保持させること等、段階的な焼成であることが好ましい。
【0037】
また、加熱焼成過程を空気雰囲気下で行なうことが好ましいが、不活性ガス、例えば、窒素雰囲気下で行なうこともできる。
【0038】
焼成後の酸化鉄(A)の含有率は、基本的に吸着された鉄酸塩(A’)の量によって決まるものであり、10〜80質量%の範囲に調製することができる。
【0039】
〔酸化鉄(A)の粉末を用いる光触媒製造方法〕
本発明の第二の製造方法は、酸化鉄(A)の粉末を直接、複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)に物理吸着させてから焼成することにより、酸化鉄(A)の粒子のシリカナノ構造体(B)への固定を行なうものである。即ち、下記工程を有することを特徴とする。
【0040】
(2−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水性媒体中で会合させる工程、
(2−2)水性媒体の存在下で、工程(2−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーとシリカとの複合体(X)を得る工程、
(2−3)工程(2−2)で得られた複合体(X)の分散液、又は該複合体(X)を焼成し、複合体(X)中のポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)の分散液に、酸化鉄(A)の粉末を混合し、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)に酸化鉄(A)を吸着させる工程、
(2−4)工程(2−3)で得られた酸化鉄(A)を吸着した複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)を900℃以下で焼成し、シリカナノ構造体(B)への酸化鉄(A)粒子の固定を行なう工程。
【0041】
前記工程(2−3)は、酸化鉄(A)の粉末と、ポリマーとシリカとの複合体(X)、又は該複合体(X)を焼成し、複合体(X)中のポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)と、を水性媒体中で混合し、酸化鉄(A)の粉末をシリカナノ構造体(B)に吸着させる工程である。このとき、超音波処理やスターラー等で攪拌、分散を行うことにより、物理的な吸着が行なわれる。即ち、シリカ表面の多数のシラノール基の存在による極性によって酸化鉄(A)の吸着が進行する結果、遠心分離等により上澄み液を取り除いて、乾燥処理を行うことで、シリカの表面に酸化鉄(A)を物理吸着状態で固定できる。
【0042】
このとき使用する酸化鉄(A)の粉末としては、その結晶化度、粒子径、比表面積等になんら制限されるものではないが、高結晶性、高比表面積を有する酸化鉄を用いることが好ましく、市販品としては、関東化学株式会社製の酸化鉄粉末が挙げられる。
【0043】
前記複合体(X)又は該複合体(X)を焼成しポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)と、酸化鉄(A)との使用割合としては、特に限定されるものではないが、前者/後者で表される質量比として95/10〜20/80の範囲であれば吸着が速やかに進行するため好適である。
【0044】
前記複合体(X)又は該複合体(X)を焼成しポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)と、酸化鉄(A)とを混合する際に使用する水性媒体の量は特に限定するものではないが、固形分の合計質量に対し、10〜30倍量であれば好適である。
【0045】
また、前記水性媒体としては水単独、またはアルコール類等、親水性媒体と水との混合溶媒でもよい。このとき、前記と同様、即ちポリアミンを併用することで、吸着を促進することも可能である。
【0046】
前記複合体(X)又は該複合体(X)を焼成しポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)と、酸化鉄(A)の粒子との混合方法としても特に限定されるものではなく、これらを一定割合で混合した後、それを室温(20〜30℃)で1〜24時間攪拌することで十分である。
【0047】
〔焼成工程〕
上記で得られた、酸化鉄(A)が複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)に吸着している粉体を加熱焼成することで、シリカナノ構造体(B)に酸化鉄(A)の粒子が固定される。
【0048】
加熱焼成温度は、既に内部のポリマー鎖を除去したシリカナノ構造体(B)を使用している場合は350〜900℃の温度範囲であれば良く、ポリマー鎖が内部に存在する複合体(X)を用いた場合には、ポリマー鎖の除去を同時に行なう目的で600℃以上の温度で焼成することが好ましい。尚、900℃を超える温度では、シリカの溶融が始まり、シリカナノ構造体(B)の該構造が崩れる虞があり、又酸化鉄(A)の粒子成長が起こる可能性もあるため、焼成温度の上限は900℃である。
【0049】
焼成時間は通常2〜8時間であればよく、温度上昇をプログラム的に制御することが好ましい。例えば、室温から300℃まで1時間をかけて上昇させ、その後、30分かけて500℃まで上昇させた後、その温度で3時間保持させること等、段階的な焼成であることが好ましい。
【0050】
また、加熱焼成過程を空気雰囲気下で行なうことが好ましいが、不活性ガス、例えば、窒素雰囲気下で行なうこともできる。
【0051】
焼成後の酸化鉄(A)の含有率は、基本的に吸着された酸化鉄(A)の量によって決まるものであり、10〜80質量%の範囲に調製することができる。
【0052】
本発明における酸化鉄固定シリカナノ構造体において、酸化鉄(A)の粒子とシリカナノ構造体(B)とがどのような接合界面を形成しているかは不明であるが、焼成処理を行わないと触媒活性の向上が見られない点、シリカゲル等の複雑形状を持たないシリカ系でもある程度の光触媒活性の向上が見られる点から、酸化鉄(A)とシリカナノ構造体(B)の接合界面において高い光閉じ込め効果と有機物質の濃縮効果が発現していると推察される。
【0053】
本発明の光触媒は、前述の手法で得られた、酸化鉄(A)の粒子がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなるものであり、前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボン/シリカナノシートを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、かつ、当該複合体中における酸化鉄の含有率が10〜80質量%であることを特徴とする。
【0054】
〔光触媒機能〕
本発明での光触媒機能は、有機物質の分解反応において有効であることを言うものであり、使用する光源は、太陽光・蛍光灯等、何れのものであっても良い。特に本発明の光触媒は、近紫外線光をも含まない(可視光のみを含む)光であるLED照明光下であっても、応答性を有し、その活性が高い点において、従来の光触媒よりもその応用範囲が広いことが特徴である。
【0055】
本発明において光触媒の活性を測る手法としては、一定濃度の揮発性有機化合物(VOC)ガスを封入したガラス製反応容器中に光触媒の粉末を静置し、反応器にLED光を照射することで、揮発性有機化合物ガスが酸化分解することによって発生した、二酸化炭素濃度の光照射時間に伴う変化から見積もることができる。
【0056】
前述の手法で光触媒の活性を測る場合には、用いる揮発性有機化合物の濃度は50〜500ppmであればよく、触媒粉末の使用量は反応器の体積に対して5〜100mg/500mL範囲であれば好適である。
【0057】
前記揮発性有機化合物としては、特に限定することではなく、低分子有機物全般を用いることができる。更に低分子化合物以外の有機化合物、例えば、有機色素、ポリマーなど光触媒の表面に付着可能であれば、光照射によって分解反応を行うことができ、例えば有機色素の発色度合いを測定することによっても光触媒の活性を測ることができる。
【0058】
光照射時間は、用いる有機物質の濃度またはその構造により異なるが、1時間〜1日の範囲であることが望ましい。
【0059】
本発明の光触媒は、LED光源単独の照射下であっても、十分光触媒として機能することができる。また、本発明の光触媒は、紫外線が含まれる単独光源、例えば、キセノンランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯など、種々の光源下でも光触媒として用いることができる。当然であるが、本発明の光触媒は、直射光ではなく、太陽光、または各種光源照明に反射・散乱された状態の室内光であっても、光触媒として用いることができる。
【0060】
本発明の光触媒を実用の現場で用いる際には、その形態においてなんら制限されるものではなく、その他の光触媒と併用しても、様々な基材等を含有していても良い。また、光触媒として用いるときの形状としても制限されず、例えば、粉末、粒子、ペレット、膜などの形状で用いることができ、使用する環境下に応じて適宜選択することが好ましい。また、コーティング剤に混合して用いることにより、光触媒機能を有する塗膜とすることも可能である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0062】
〔走査型電子顕微鏡〕
走査型電子顕微鏡はKEYENCE製のVE−9800を使用した。
【0063】
〔UV−vis反射スペクトル〕
UV−vis反射スペクトルはOceanOptics製のUSB−4000分光器、DH−2000ランプを使用した。
【0064】
〔X線回折法(XRD)〕
試料を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲20〜40°の条件で行った。
【0065】
〔透過型電子顕微鏡による構造観察〕
透過型電子顕微鏡はJEOL製のTEM2200FSを使用し、電圧200keVの条件で行った。
【0066】
〔BET法による比表面積測定〕
比表面積測定はSHIMADZU製のTriStarを使用し、BET法を用いて行った。また、ポアサイズ分布はポア体積分率対ポアサイズのプロットから見積もった。
【0067】
〔蛍光X線スペクトルによる酸化鉄含有量測定〕
蛍光X線測定は株式会社リガク製のZSXを用いて、真空条件下で行った。
【0068】
〔光触媒活性評価〕
光触媒活性は気相反応での、アセトアルデヒドの酸化分解反応における二酸化炭素発生量の時間変化から評価した。アセトアルデヒドガスは500ppmで行った。光触媒(粉末)0.2gを使用し、500mLのガラス製反応器に封入した状態で光照射を行った。LED照明は株式会社東芝製 E−CORE LEL−BR9N―F型を用いて、約20,000lx照射下で行った。尚、二酸化炭素発生量はINNOVA社の光音響マルチガスモニタ1312型をテトラフルオロエチレン製のチューブで光反応器に連結して調査した。
【0069】
〔複合体(X)/シリカナノ構造体(B)の製造〕
特許文献(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報)に開示した方法により、形状が異なる粉体を作製した。
【0070】
合成例1
〔ポリマーとシリカとの複合体(X−1)及びシリカナノ構造体(B−1)の製造〕
<直鎖状ポリエチレンイミンの合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量500,000、平均重合度5,000、Aldrich社製)5gを、5Mの塩酸水溶液20mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末を(JEOL JNM−LA300型核磁気共鳴吸収スペクトル測定装置:重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH3)と2.3ppm(CH2)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0071】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿した粉末を濾過し、その粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の粉末をデシケータ中で室温(25℃)乾燥し、直鎖状ポリエチレンイミンを得た。収量は4.5g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、得られた直鎖状ポリエチレンイミンの重合度は加水分解前の5,000と同様である。
【0072】
<ゾルゲル反応による複合体(X−1)の製造>
一定量の直鎖状ポリエチレンイミンを蒸留水中に混合し、それを90℃に加熱し透明溶液を得た後、全体3%の水溶液に調製した。該水溶液を室温で自然冷却し、真っ白の直鎖状ポリエチレンイミンの会合体液を得た。攪拌しながら、その会合体液100mL中に、70mLのTMOS(テトラメトキシシラン)のエタノール溶液(体積濃度50%)を加え、室温で1時間攪拌続けた。析出した沈殿物をろ過し、それをエタノールで3回洗浄した後、40℃で加熱下乾燥することにより、粉体15gを得た。図1に得られた粉体のSEM写真を示す。ナノファイバーの会合体であることを確認した。
【0073】
これで得た粉体の熱重量損失分析(SII Nano Technology Inc社製のTG/DTA6300)から、ポリマー成分である直鎖状ポリエチレンイミンの含有率が7%であることを確認した。また、比表面積測定(Micrometrics社製 Flow Sorb II 2300)を行なった結果、112m2/gであった。これを複合体(X−1)とする。
【0074】
<加熱焼成によるシリカナノ構造体(B−1)の製造>
前記で得られたポリマーとシリカとの複合体(X−1)を600℃で1時間焼成することで、ポリマー成分を除去したシリカナノ構造体を得た。図2に焼成後のシリカナノ構造体のSEM写真を示す。得られたシリカナノ構造体は焼成処理においても形状の変化等は見られず、シリカで構成されたナノファイバーの会合体であることを確認した。また、比表面積測定を行った結果、315m2/gであった。上記で得られた粉末をシリカナノ構造体(B−1)とする。
【0075】
合成例2
〔ポリマーとシリカとの複合体(X−2)及びシリカナノ構造体(B−2)の製造〕
合成例1の<直鎖状ポリエチレンイミンの合成>の前段と同様にしてポリエチルオキサゾリンの加水分解を行い、直鎖状ポリエチレンイミンの塩酸塩を得た。この塩酸塩5gを90mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に1.4mol/Lのアンモニア水溶液29.5mLを混合した。その混合液を12時間攪拌後、再び1.4mol/Lのアンモニア水溶液12.5mLを10時間おき5回に分けて滴下し、その後1時間攪拌を行うことで、白色の沈殿物を得た。析出した沈殿物を遠心分離にて3回洗浄した。洗浄後、得られた粉末を120mLの蒸留水中に分散した。その分散液中に、15mLのメチルシリケート(MS51)を加え、室温下(20〜25℃)4時間攪拌した。反応液を遠心分離にて処理し、析出した固形物をエタノールで洗浄後、室温にて乾燥することにより、ポリエチレンイミンとシリカとからなる複合体を得た。収量:9.7g。図3には、得られた複合体のSEM写真を示した。ナノシートの構造を持つ集合体であることが確認できる。XRDから直鎖状ポリエチレンイミンの結晶体由来のピークが観測された。これをポリマーとシリカとの複合体(X−2)とする。
【0076】
<加熱焼成によるシリカナノ構造体(B−2)の製造>
前記工程で得られたナノシート状の複合体(X−2)0.5gをアルミナ坩堝に加え、それを電気炉内にて焼成した。炉内温度は、1時間かけて800℃まで上げ、その温度にて2時間保持した。これを自然冷却し、ポリマー成分を除去し、粉末を得た。これで得た粉末の比表面積は319.0m2/gであった。図4にはSEM観察のイメージ写真を示した。ナノシートが重なり、構造は800℃焼成後でも変化しなかった。このナノシートの集合体である粉末をシリカナノ構造体(B−2)とする。
【0077】
合成例3
〔ポリマーとシリカとの複合体(X−3)及びシリカナノ構造体(B−3)の製造〕
<ポリエチレンイミン塩酸塩水溶液の調製、結晶化、複合ナノファイバーの合成>
合成例1の<直鎖状ポリエチレンイミンの合成>の前段と同様にしてポリエチルオキサゾリンの加水分解を行い、直鎖状ポリエチレンイミンの塩酸塩を得た。この塩酸塩5gを60mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液10mLを滴下した。この混合液のpHは9.0であった。その混合液を4時間攪拌後、析出した会合体を遠心分離にて3回洗浄した。洗浄後の粉末を500mLの蒸留水中に分散した。この時点での分散液のpH値は6.5であった。その分散液中に、5.5mLのメチルシリケート(MS51)を加え、室温下(20〜25℃)1時間攪拌した。反応液を遠心分離にて処理し、析出した固形物を水で洗浄後、室温にて乾燥し、ポリエチレンイミンとシリカとからなる複合体を得た。収量:10.8g。図5には、得られた複合体のSEM写真を示した。ファイバーが円盤状に集合した構造であることが確認できる。XRDから直鎖状ポリエチレンイミンの結晶体由来のピークが観測された。これをポリマーとシリカとの複合体(X−3)とする。
【0078】
<ナノチューブ状の複合体(X−3)の製造>
上記で得た複合体0.5gを10mLのメタノール中1時間浸漬後、ろ過し、固形分を室温にて乾燥させた。これにより、内部の直鎖状ポリエチレンイミンが溶解し、それを取り囲んでいたシリカの内表面に吸着され、ファイバーの芯が消失したナノチューブ状の複合体(X−3)が得られた。得られた複合体(X−3)を表面分析測定に用いた。BET表面積は286m2/gであった。それの等温線及びポア分布を、それぞれ図6と図7に示した。ポアサイズ分布の結果から、ポアサイズの3.5nmのところに、シャープなピークが現れた。このピーク値はちょうどチューブ内径サイズを反映する。ポアサイズは2nmから増大し、4nm以下でピーク値を経て、低下する。これは、このファイバー状のシリカ中には、規則的中空構造、即ちチューブを形成していることを強く示唆する。また、TEM観察から、太さが12nm以下の真っすぐ伸びたファイバーが密に重なり、それがシートを形成し、かつ、ファイバーの中心部が透明に映ることが確認された(図8)。即ち、中心部は空洞で、その内径は3〜4nmである。熱分析から、重量損失は25.3wt%であった。
【0079】
<複合体(X−3)の焼成によるシリカナノ構造体(B−3)の製造>
前記工程で得られたナノチューブ状の複合体(X−3)0.5gをアルミナ坩堝に加え、それを電気炉内にて焼成した。炉内温度は、1時間かけて800℃まで上げ、その温度にて2時間保持した。これを自然冷却し、ポリマー成分を除去し、粉末を得た。
【0080】
これで得た粉末の比表面積は418.5m2/gであった。この粉末の等温線及びポアサイズ分布は、それぞれ図9と図10に示した。ポアサイズは2nmから低下するが、3nm当たりから増大し、ピーク値後再び低下する。これはちょうどチューブ内径サイズを反映する。また、図11にはTEM観察のイメージ写真を示した。ナノファイバーの重なり構造は800℃焼成後でも変化しなかった。ポアサイズ分布での中空のサイズ(4.2nm)とTEM観察での内径(4nm)はほぼ一致した。このナノチューブ状の粉末をシリカナノ構造体(B−3)とする。
【0081】
実施例1<酸化鉄(A−1)のシリカナノ構造体(B−1)への固定>
合成例1で得られたシリカナノ構造体(B−1)と市販の酸化鉄(和光純薬工業:一級、以下A−1と称する)とをそれらの使用割合が表1に記載の値になるように用い、この混合物の合計1.5gを蒸留水30mlに懸濁させ、1時間超音波照射を行った後、1晩静置した。遠心分離機を用いて蒸留水を除去し、真空乾燥機を用いて更に乾燥した。得られた粉末を空気雰囲気下、電気炉を用いて室温から300℃まで30分加熱し、300℃/1時間保持後、さらに30分かけて600℃まで温度を上げ、その温度で30分保持した後、自然冷却した。この焼成プログラムにより、酸化鉄(A−1)の粒子をシリカナノ構造体(B−1)上に焼き付けて固定をしたことになる。得られた固体における酸化鉄の含有率を表1に示す
【0082】
【表1】
【0083】
TEMを用いて試料No.T13の表面観察を行った結果、酸化鉄の粒子がシリカのナノファイバー上に固定されていることが確認できた(図12)。また、X線回折測定を用いて試料No.T13の結晶構造を調査し、酸化鉄の結晶構造であることを確認した(図13)。また、拡散反射スペクトルを用いて試料No.T13の吸光度スペクトルを測定し、約600nmまでの可視光領域に酸化鉄由来の吸収領域を持つことを確認した(図14)。
【0084】
実施例2<酸化鉄(A−1)のシリカナノ構造体(B−2)への固定>
用いるシリカナノ構造体として、合成例1で得られた構造体(B−1)の代わりに、合成例2で得られたシリカナノ構造体(B−2)を用いる以外は実施例1と同様にして、酸化鉄(A−1)のシリカナノ構造体への焼付けによる固定を行なった。酸化鉄(A−1)とシリカナノ構造体(B−2)との使用割合、及び得られた固体中における酸化鉄含有率を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
TEMを用いて試料No.T23の表面観察を行った結果、酸化鉄の粒子がシリカのナノシート上に固定されていることが確認できた(図15)。また、X線回折測定を用いて試料No.T23の結晶構造を調査し、酸化鉄の結晶構造であることを確認した(図16)。また、拡散反射スペクトルを用いて試料No.T23の吸光度スペクトルを測定し、約600nmまでの可視光領域に酸化鉄由来の吸収領域を持つことを確認した(図17)。
【0087】
実施例3<酸化鉄(A−1)のシリカナノ構造体(B−3)への固定>
用いるシリカナノ構造体として、合成例1で得られた構造体(B−1)の代わりに、合成例3で得られたシリカナノ構造体(B−3)を用いる以外は実施例1と同様にして、酸化鉄(A−1)のシリカナノ構造体への焼付けによる固定を行なった。酸化鉄(A−1)とシリカナノ構造体(B−3)との使用割合、及び得られた固体中における酸化鉄含有率を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
TEMを用いて試料No.T33の表面観察を行った結果、酸化鉄の粒子がシリカのナノチューブ上に固定されていることが確認できた(図18)。また、X線回折測定を用いて試料No.T33の結晶構造を調査し、酸化鉄の結晶構造であることを確認した(図19)。また、拡散反射スペクトルを用いて試料No.T33の吸光度スペクトルを測定し、約600nmまでの可視光領域に酸化鉄由来の吸収領域を持つことを確認した(図20)。
【0090】
実施例4<鉄酸塩を用いる、シリカナノ構造体(B−3)への固定>
合成例3で得られたシリカナノ構造体(B−3)0.2gを秤量した。また硝酸鉄(III)9水和物(関東化学株式会社製特級)を蒸留水を用いて5質量%に調整した。調整後の5%水溶液を(A’−1)と称する。これらを、質量比で表4中記載の割合になるよう混合し、更に蒸留水を加えて全体の体積を10mlに調製した。これを1時間攪拌し、得られた懸濁液から蒸留水を除去し、更に真空乾燥器を用いて12時間120℃で乾燥した。乾燥した粉末を空気雰囲気下、電気炉を用いて室温から300℃まで30分加熱し、300℃/1時間保持後、さらに30分かけて600℃まで温度を上げ、その温度で30分保持した後、自然冷却した。この焼成プログラムにより、酸化鉄のナノ粒子がシリカナノ構造体(B−3)上に焼き付けて固定をしたことになる。得られた固体における酸化鉄の含有率を表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
TEMを用いて試料No.T42の表面観察を行い、酸化鉄の粒子がナノサイズでシリカナノチューブ中に固定されていることを確認した(図21)。また、X線回折測定を用いて試料No.T42の結晶構造を調査し、酸化鉄の結晶構造であることを確認した(図22)。また、拡散反射スペクトルを用いて試料No.T42の吸光度スペクトルを測定し、約600nmまでの可視光領域に酸化鉄由来の吸収領域を持つことを確認した(図23)。
【0093】
比較例1<酸化鉄(A−1)のシリカゲルB’への固定>
用いるシリカとして、合成例1で得られた構造体(B−1)の代わりに、市販のシリカゲル(メルク:シリカゲル60、以下B’と称する)を用いる以外は実施例1と同様にして、酸化鉄(A−1)のシリカゲルB’への焼付けによる固定を行なった。酸化鉄(A−1)とシリカゲルB’との使用割合、及び得られた固体中における酸化鉄含有率を表5に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
比較例2<鉄酸塩を用いる、シリカゲルB’への固定>
用いるシリカとして、合成例3で得られた構造体(B−3)の代わりに、比較例1で用いた市販のシリカゲルB’を用いる以外は実施例4と同様にして、蒸留水を用いて5質量%に調製した硝酸鉄水溶液(A’−1)のシリカゲルB’上への焼付けによる固定を行った。得られた固体における酸化鉄の含有率を表6に示す。
【0096】
【表6】
【0097】
比較例3<銅二価塩担持三酸化タングステン可視光応答型光触媒>
LED照射下での光触媒活性を評価するために、比較例として銅二価塩担持三酸化タングステン可視光応答型光触媒の調製を行った(特開2009−226299号のトレース実験)。
酸化タングステン粉末(平均粒径250nm、株式会社高純度化学研究所)をフィルターに通して粒径1μm以上の粒子を除去し、650℃で3時間焼成する前処理を行うことによって、三酸化タングステンを得た。そしてこの三酸化タングステン微粒子を蒸留水中に10質量%になるように懸濁させ、次にこれに、0.1質量%(Cu(II)vs.WO3)の量でCuCl2・2H2O(和光純薬工業株式会社製)を加え、攪拌しながら90℃に加熱して1時間保持した。次に、得られた懸濁液を吸引濾過によって濾別した後に、残渣を蒸留水によって洗浄し、さらに110℃で加熱乾燥することによって、銅二価塩を担持した三酸化タングステン微粒子を比較用サンプルとして得た。
【0098】
評価1<酸化鉄を固定したシリカナノ構造体の光触媒活性評価1>
実施例1の試料No.T13、実施例2の試料No.T23、実施例3の試料No.T33を用いて光触媒活性評価を行なった。比較として、比較例1の試料No.T53及び比較例3で得られた銅二価塩担持三酸化タングステンを用いた。結果を図24に示す。本発明の全ての試料において、明確なアセトアルデヒド光分解活性が確認された。特にシリカナノチューブに焼付け固定を行った試料No.T33の触媒活性が高く、比較例3の銅2価塩担持三酸化タングステンの約2倍の触媒活性を確認した。一方で、比較例1で得られた試料No.T53からは光触媒活性が確認できなかった。このことは、シリカナノ構造体と酸化鉄の粒子を複合化した場合のみ光触媒活性が発現することを示しており、本発明におけるシリカナノ構造体を酸化鉄の粒子と複合化することで、高い実用性を持つ光触媒の創製が可能であることを強く示唆している。
【0099】
評価2 <焼成前後の光触媒活性の比較>
実施例1において、試料No.T33の焼成前後、及び酸化鉄粒子(A−1)との光触媒活性の比較を行なった。結果を図25に示す。酸化鉄粒子のみではアセトアルデヒド光分解反応が全く進行しないことを確認した。また、焼成処理を行っていない酸化鉄粒子とシリカナノチューブとの単純混合物も光触媒活性を全く示さない。一方で、酸化鉄粒子とシリカナノチューブとを焼付けて固定することによって、明確な触媒活性の発現を確認した。このことから、熱焼成によって形成された酸化鉄粒子とシリカナノ構造体の界面が光触媒機能の発現に関与していることが推定できる。
【0100】
評価3 <酸化鉄粒子を固定したシリカナノ構造体の光触媒活性評価2>
実施例4の試料No.T42を用いて光触媒活性評価を行なった。比較として、比較例2の試料No.T62及び比較例3で得られた銅二価塩担持三酸化タングステンを用いた。結果を図26に示す。本発明の試料において、高いアセトアルデヒド光分解活性が確認された。評価1で用いた試料No.T33の触媒活性が銅二価塩担持三酸化タングステンの約2倍であったのに対し、試料No.T42では約3倍の触媒活性を示した。これは、硝酸鉄を用いて固定した酸化鉄粒子がナノメートルオーダーの微粒子(以下、ナノ粒子という)としてシリカナノチューブ上に存在していることに起因していると考えられる。ナノ粒子として存在することによりシリカナノチューブ表面との接触面積が大きくなり、ナノ界面の面積が増加するためであると推察できる。一方で、シリカゲルへの焼付け固定においては評価1と同様、触媒活性が確認できなかった。このことからも、複雑形状を有するシリカナノ構造体と酸化鉄の粒子との焼付けにより形成される界面が、高い光触媒機能の発現に大きく関わっていることが確認できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED照明光や可視光でもその触媒作用を発現する光触媒に関し、詳しくは、シリカナノ構造体に酸化鉄の粒子が固定されてなる光触媒とその簡便な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、汚れや有害物質等を自発分解し無害化する光触媒が非常に注目されている。その応用分野は、住宅、車、医療、土地処理などへと広がり、循環型社会構築の不可欠技術として位置付けられている。光触媒として長い歴史を持ち、且つ極めて高い光触媒活性を持つ材料としては酸化チタンが挙げられる。しかしながら、酸化チタンの光触媒機能を発現させるためには紫外線を光源とすることが前提条件であり、室内蛍光灯には極微量の紫外線しか含まれておらず、酸化チタンの可視光応答化が以前より盛んに研究されてきた。一方で、蛍光灯と比較して長寿命且つ消費電力量が少ないLED照明が急激な普及を見せており、近い将来にはLED照明が室内用照明の大部分を占めると推測されている。このため、室内環境中において光触媒を有効に使用するためには、LEDランプの発光波長に対応する完全可視光応答型の光触媒の開発が必須である。
【0003】
このLED照明には紫外線が含まれておらず、照射波長が可視光線であり、通常の酸化チタンでは光触媒機能を発現しない。また、現状の可視光応答型酸化チタン光触媒においても、LED光源下では微弱な光触媒活性を示すのみである。その理由としては、酸化チタンの可視光応答化は酸化チタン結晶中の酸素原子を窒素原子に置き換えるアニオンドープ(例えば、非特許文献1参照)、可視光に応答する遷移金属元素をドーピングする金属ドープ(例えば、特許文献1参照)等の手法で行われているが、それらの触媒評価で用いた光源は大低紫外線カットフィルター付きの水銀ランプ/キセノンランプ/蛍光灯などで、実際近紫外線を含むケースが多く、それを可視光範囲へと広げて解釈したことが原因として挙げられる。これらの不純物ドーピングにより酸化チタン結晶中に欠陥構造を形成し、エネルギー準位を下げることで長波長側での励起に有利となるが、その反面、電子と正孔の再結合を引き起こしやすく、しばしば可視光照射による電荷分離効率を低下させることになる。上記実情を鑑み、酸化チタン結晶中に金属ドープを行わずに、酸化チタン表面への金属カチオン担持による可視光応答化の試みも行なわれている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、この手法では酸化チタンから表面の金属カチオンへの電子遷移速度が十分ではなく、満足する可視光応答性を得るまでには至ってない。
【0004】
上記の状況を脱するために、近年、可視光応答能力を持たない酸化チタンに変わり、もともと可視光吸収能力を持ち、且つ、光触媒機能を有する酸化タングステン光触媒に注目が集まっている。しかしながら、酸化タングステンのようにバンドギャップが低い場合、価電子帯から導電帯へと励起される電子は、逆戻りしやすく、触媒機能を発現するには、その電子を「プールまたはトラップ」できる構造の設計が必要となる。その例として、酸化タングステンに白金を担持した光触媒が開示されている(例えば、非特許文献3参照)。しかし、高価な白金を使用する上に決して安価ではない酸化タングステンを使用しているため、現実市場へ大量に供給することは不可能であると言っても過言ではない。又、白金を使用せずに遷移金属を酸化タングステンに担持する方法も研究されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この遷移金属担持酸化タングステン光触媒は現状の可視光応答型酸化チタンの3倍程度の光触媒活性でしかなく、室内空間におけるLED照明用途に満足できる性能とは到底言えない。
【0005】
一方で、可視光領域に吸収を持つ金属酸化物として三酸化タングステンの他に酸化第二鉄が挙げられる。三酸化タングステンが約500nmまでの可視光線を吸収可能であるのに対し、酸化第二鉄は約600nmまでの可視光線を吸収可能であり、且つ、極めて安価、安定な元素であるため、可視光応答型光触媒として高い潜在能力を持っている。しかし、高い可視光吸収能力を持つ酸化第二鉄ではあるが、光触媒としての応用は極めて少ないのが実態である。酸化第二鉄の価電子帯で生成する正孔の電位は理論上約2.6eV(vsNHE)でありNOガスのイオン化反応(Eo=+0.96eV(vsNHE))を進行させることは可能である(例えば、特許文献3参照)。しかし、酸化第二鉄は伝導帯下端のエネルギー準位が+0.3eV(vsNHE)付近であり酸化チタンの−0.2eV(vsNHE)と比較して還元力が弱く活性酸素種を発生させることができず、有機物の分解反応を起こすことはできない。一方で、酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄(Fe2O3・nH2O)のようなものを酸化チタン表面に担持することで可視光応答性能を付加させる研究も積極的に行われている(例えば、特許文献4、5参照)。しかし、可視光応答性能の無い酸化チタンの約2倍の可視光活性である等、信頼性に乏しいものが大多数である。何よりも、酸化鉄等を酸化チタンに担持したものは、あくまで酸化鉄が一種の増感剤として働き、酸化チタンに電子を与えるものであり、光触媒としての機能は酸化チタンが担っているため、十分な電子利用効率を得ることは困難である。
【0006】
上記とは別に、酸化第二鉄を原料に取り入れ、それをCaOと混合焼成から得られるカルシウムフェライト(Ca2Fe2O5)を多孔性シリカと複合することで、可視光応答型光触媒を得ることが報告されている(例えば、非特許文献4参照)。当然、これは酸化鉄そのものではないが、鉄を可視光吸収する元素源にする意味では、興味が持たれる。また、粘土(例えば、モンモリナイト)に酸化第二鉄をインタカレーションしてなる複合体を光触媒として用い、UVランプまたはハロゲンランプで照射することで、酢酸から二酸化炭素とメタンガスが発生することが確認されている(例えば、非特許文献5参照)。もちろん、酸化第二鉄は、水分解における光触媒システム中でもよく利用されている。しかしながら、酸化第二鉄を完全可視光(例えばLEDランプ)応答型の光触媒として用いた有害物質の分解については、未だに報告はない。とりわけ、酸化第二鉄単独では、LED照射(完全可視光)由来の光源下では、触媒活性サイトが機能しないことは周知の知見である。安価でしかも可視光対応できる酸化第二鉄を光触媒として開発することは重要な技術的課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−021991号公報
【特許文献2】特開2009−226299号公報
【特許文献3】特開2001−259436号公報
【特許文献4】特開平07−303835号公報
【特許文献5】WO2007/125998
【0008】
【非特許文献1】Asahi.R et al.、Science.2001年、第293巻、269貢
【非特許文献2】Irie.H et al.、Phys.Lett.2008年、457巻、202貢
【非特許文献3】Ohtani.B et al.、JACS.2008年、第130巻、7780項
【非特許文献4】鈴木憲司、日比科学技術振興財団 平成19年度研究報告書,pp15−26
【非特許文献5】角田世治ら、平成18年度青森県工業総合研究センター事業報告書、pp85−89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、触媒活性サイトとして働く酸化鉄を含有し、紫外線を含まないLED照明光でも機能を発現する可視光応答型光触媒、及びその工業的生産が可能である簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、酸化鉄粒子を、シリカを主成分とする、基本構造体の大きさがナノメートルオーダーであり、この基本構造体が集合してマイクロメートルオーダーの粉体となっているシリカナノ構造体に固定することで得られる、酸化鉄とシリカナノ構造体との複合体が紫外線を含まない光でも光触媒として好適に機能することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、酸化鉄(A)の粒子がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなる光触媒であって、前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボンを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、かつ、当該複合体中における酸化鉄(A)の含有率が10〜80質量%であることを特徴とする光触媒と、これの簡便な製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光触媒は、光触媒サイトとして機能する酸化鉄をシリカナノ構造体に焼き付けて固定されてなるシンプルかつ特異的構造であり、シリカを主成分とし、酸化鉄は少ない量で複合体中に含まれている。純粋な酸化鉄は有機物分解に関して全く光触媒活性を示さないが、本発明における光触媒は光照射により高い有機物分解能力を発揮する。また、使用する元素は鉄とケイ素のみであり、元素戦略上においても極めて有望な元素構成であると言える。従って、本発明の光触媒は、紫外線を含まない照明光下であっても、有害ガス、有機汚染物、黴菌、汚れなどの分解に有効であり、建築材料、産業用電気製品、家電品の保護膜に用いることができる。また、病院、医療用器具などと関連した防菌、殺菌等に用いることができる。また、金属製品の腐食防止にも用いることができる。さらに、本発明の光触媒の製造方法は、汎用の設備でも製造可能であり、精密な制御等をほとんど必要とせず、再現性もあるため、大量生産も可能であり、光触媒の提供方法として有用性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】合成例1で得られた複合体(X−1)のSEM写真である。
【図2】合成例1で得られたシリカナノ構造体(B−1)のSEM写真である。
【図3】合成例2で得られた複合体(X−2)のSEM写真である。
【図4】合成例2で得られたシリカナノ構造体(B−2)のSEM写真である。
【図5】合成例3で得られた複合体(X−3)のSEM写真である。
【図6】合成例3で得られた複合体(X−3)の窒素ガス吸着(下)−脱着(上)の等温線である。
【図7】合成例3で得られた複合体(X−3)のポア体積分布曲線である。
【図8】合成例3で得られた複合体(X−3)のTEM写真である。
【図9】合成例3で得られたシリカナノ構造体(B−3)の窒素ガス吸着(下)−脱着(上)の等温線である。
【図10】合成例3で得られたシリカナノ構造体(B−3)のポア体積分布曲線である。
【図11】合成例3で得られたシリカナノ構造体(B−3)のTEM写真である。
【図12】実施例1で得られた試料No.T13のTEM写真である。
【図13】実施例1で得られた試料No.T13のX線回折パターンである。
【図14】実施例1で得られた試料No.T13のUV−vis拡散反射スペクトルである。
【図15】実施例2で得られた試料No.T23のTEM写真である。
【図16】実施例2で得られた試料No.T23のX線回折パターンである。
【図17】実施例2で得られた試料No.T23のUV−vis拡散反射スペクトルである。
【図18】実施例3で得られた試料No.T33のTEM写真である。
【図19】実施例3で得られた試料No.T33のX線回折パターンである。
【図20】実施例3で得られた試料No.T33のUV−vis拡散反射スペクトルである。
【図21】実施例4で得られた試料No.T42のTEM写真である。
【図22】実施例4で得られた試料No.T42のX線回折パターンである。
【図23】実施例4で得られた試料No.T42のUV−vis拡散反射スペクトルである。
【図24】評価1の結果を示すグラフである。
【図25】評価2の結果を示すグラフである。
【図26】評価3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来、酸化第二鉄は可視光領域に高い光吸収能力を持ち、理論上は可視光照射により電子と正孔を生成し高活性な光触媒となるはずであるが、実際には前述したガス状窒素酸化物の酸化反応が起こりにくく、その量子収率は極めて小さい。一般に酸化第二鉄は電子軌道の局在化が大きく、触媒表面に電荷分離により生成された電子と正孔が速やかに再結合を起こし、期待する活性が得られないケースが多い。この再結合を防止するためには、光触媒活性サイトである酸化第二鉄表面に再結合を防止するための電子プール機能を持つ構造を設計する必要がある。また、酸化第二鉄の伝導帯下端のエネルギー準位では励起電子による酸素還元が理論上起こらないことを前述した。このため、仮に励起電子をプールする構造を設計できたとしても、励起電子に酸素還元能力を持たせることが出来なければ十分な光触媒活性を得ることは到底期待できない。一方で、前述した諸条件を満たすことができれば、酸化鉄を有効成分とする光触媒においても、その精密な構造設計により、電荷分離状態の長時間維持、分離された電子による酸素の還元からの活性酸素の発生、正孔によるC−H結合の直接酸化、及び水の酸化によるラジカル水酸基の生成などが期待できる。即ち、光触媒を酸化鉄の活性サイトだけで構成するのではなく、その周辺で光を拡散したり閉じ込めたりするための、言わば「光子濃縮」の機能、空気中の酸素と水分とを触媒活性サイト周辺にトラップする「酸素、水の濃縮」機能、基質有機物を触媒活性サイト周辺に効率的に拡散、集積する「足場」機能、触媒活性サイトの活性化を促進するナノ界面構造など、諸要素を満たす構成を構築しなければならない。
【0015】
本発明で提供する光触媒は、高い比表面積を有する複雑形状のシリカナノ構造体を触媒活性サイト周辺の構造設計に用いることに特徴を有する。即ち、触媒活性サイトとして働く酸化鉄の粒子を、シリカナノ構造体の表面に焼き付けて固定することで、アモルファスのシリカと結晶性の酸化鉄間に特異的なナノ界面を有する一つの複合体が形成される。このように構成された複合体においては、光照射により酸化鉄表面に生成した電子をナノ界面にプールすることができ、励起電子の再結合を防止することで効率的に励起電子を利用することができる。また、詳細構造は不明であるが、このナノ界面にトラップされた励起電子は酸素の還元能力を有することを見出した。また、複雑な形状を有するシリカナノ構造体は光散乱を引き起こし、光子を触媒活性サイト周辺に閉じ込める機能を果たす。また、シリカナノ構造体は多くの空洞、隙間を有し、それらが空気を有効にトラップする。また、シリカのアモルファス構造にはシラノール基が多く、それは常に水分子を効率的に吸着する。さらに、シリカナノ構造体表面は基質の有機物を触媒活性サイト周辺に有効に拡散・吸着・伝送することができる。従って、本発明で提供するシリカナノ構造体と酸化鉄の粒子とからなる複合体は、紫外線を含まないLED照明光下であっても、有機化合物を効率的に分解する触媒として機能することができる。
以下、本発明を詳細に述べる。
【0016】
〔シリカナノ構造体(B)〕
本発明で用いるシリカナノ構造体(B)は、後述する酸化鉄(A)の粒子をその表面に固定する、いわば担体に相当するものである。その製造方法は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが水性媒体中で形成する結晶性会合体を鋳型とし、シリカ前駆体であるアルコキシシランのゾルゲル反応を用いるものである。具体的には、既に本発明者らによって、特開2005−264421号、特開2005−336440号、特開2006−63097号、特開2006−306711号、特開2007−51056号、特開2009−24124号にて提供している何れのシリカナノ構造体であっても本発明のシリカナノ構造体(B)として用いることができる。これらのシリカナノ構造体(B)はシリカゲル等の一般的なマクロサイズシリカと比較し、ナノメートルオーダーの基本ユニットを構成単位として有し、これが三次元空間で集合してなるものであることを特徴とする。又、これらの特許文献において提供されているシリカナノ構造体中に金属イオンや金属ナノ粒子が含まれている場合もあるが、金属イオン・金属ナノ粒子は光触媒機能を阻害するものではないため(金属種によっては、光触媒機能を増強する効果も有する)、そのまま本発明のシリカナノ構造体(B)として好適に用いることができる。
【0017】
より具体的には、太さが10〜100nm、好ましくは20〜80nmであり、アスペクト比が2以上、好ましくは4以上のファイバー状の構造体(以下、ナノファイバー)を基本ユニットとしているものや、厚さが10〜100nm、好ましくは15〜50nmであり、この厚みに対する長さをアスペクト比とした場合のその値が2以上、好ましくは4以上のリボン状/シート状の構造体(以下、ナノリボン/ナノシート)を基本ユニットとしているものが挙げられる。そして、この基本ユニットを構成単位として集合してなる集合体の大きさ(TEM画像で観測したときの、最も長い部分)は、通常1μm〜20μm、好ましくは3〜15μmである。
【0018】
製造方法としては、例えば、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水中に懸濁させ、80℃付近の温度で溶解させる。ポリマーの溶解を確認した後、室温で静置冷却を行う。30分程度の静置冷却でナノファイバー構造を基本ユニットとするポリエチレンイミン含有の沈殿物が得られる。又は、水中に氷を投入し、急冷させることによっても、ナノメートルオーダーの基本構造を有するポリマーの沈殿物が得られる。このようにして得られたポリエチレンイミン骨格を有するポリマーのナノファイバーやナノリボン、ナノシート等が沈殿した水溶液にテトラアルコキシシラン(縮合物を含む)を含んだエタノール溶液を混合させることで、ポリマーのナノファイバー/ナノリボン/ナノシート等の上に均一にシリカを析出させるとともに、これら同士が会合体を形成し、ポリマーとシリカとの複合体(X)を得ることができる。
【0019】
また、上記の直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを80℃の加温で溶解させる際に、ポリエチレングリコール等の他のポリマーを混合させることにより、異なった形状を持つ沈殿物を得ることが可能である。この場合も直鎖状ポリエチレンイミン部分の結晶性により、ナノファイバー又はナノリボン/ナノシート状などの構造体を基本ユニットとしており、該ポリエチレンイミン部の周辺でシリカが析出すると共に会合して全体形状(二次形状)を作り上げ、ポリマー鎖を内部に有する、複雑形状の(比表面積の高い)ポリマーとシリカとの複合体(X)が得られる。
【0020】
また、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを溶解させる方法としては、加温による溶解のみでなく、酸添加による溶解も可能であり、溶解後に塩基を添加することで析出するナノメートルオーダーの基本構造を有する沈殿物に対して、前記と同様の方法でシリカを複合化させることも可能である。
【0021】
上記の方法で調製したポリマーとシリカとの複合体(X)の内部に存在する、鋳型として使用した直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーは、該複合体(X)を例えば、400〜900℃で焼成することにより除去することが可能である。このとき、全体形状は焼成の前後で変化が無いため、シリカを主構成成分とするシリカナノ構造体(B)を得ることができる。尚、シリカを主構成成分とするということは、焼成温度・雰囲気等によってポリマーが炭化した成分が残ることもあるが、意図的に第三成分を併用しない場合において、シリカ以外の成分を含まないことを示すものである。
【0022】
本発明の製造方法においては、前述の、ポリマー鎖を含む複合体(X)であっても、焼成によって該ポリマー鎖を除去したシリカナノ構造体(B)であっても、後述する光触媒の製造における材料として好適に用いることができる。
【0023】
〔光触媒の製造方法〕
本発明における酸化鉄(A)の粒子のシリカナノ構造体(B)への固定方法は、下記の工程を有することを特徴とする。
【0024】
第一の方法は、
(1−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水性媒体中で会合させる工程、
(1−2)水性媒体の存在下で、工程(1−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーとシリカとの複合体(X)を得る工程、
(1−3)工程(1−2)で得られた複合体(X)の分散液、又は該複合体(X)を焼成し、複合体(X)中のポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)の分散液に、鉄酸塩(A’)を混合し、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)中に鉄酸塩(A’)を濃縮させる工程、
(1−4)工程(1−3)で得られた鉄酸塩(A’)を有する、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)を900℃以下で焼成し、シリカナノ構造体(B)への酸化鉄(A)粒子の固定を行なう工程、を有するものである。
【0025】
前記工程(1−1)及び(1−2)については、複合体(X)又はこれの焼成物であるシリカナノ構造体(B)を得る方法であり、前述の通りである。この工程で得られた複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)を媒体に分散させた分散液と、酸化鉄(A)のソースである鉄酸塩(A’)を媒体中で混合すると、複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)の表面に当該鉄酸塩(A’)が吸着され濃縮される。この状態にしてから焼成すると、表面に吸着された鉄酸塩(A’)は酸化鉄(A)となるが、その場所が固定されていることから粒子の成長が制御され、ナノサイズの酸化鉄(A)となる。
【0026】
ここで用いることができる鉄酸塩(A’)としては、焼成によって酸化鉄になるものであれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、硝酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄等が挙げられ、工業的な原料入手容易性の観点から、硝酸鉄をその水溶液として用いることが好ましい。
【0027】
通常シリカの表面は多数のOH基の存在により極性が強い。そのため、複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)を媒体に分散させた分散液と、酸化鉄(A)のソースである鉄酸塩(A’)を媒体中で攪拌、分散処理を行ったあとに遠心分離等により、上澄み水溶液を取り除き、乾燥処理を行うと、複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)表面上に鉄酸塩(A’)が吸着している粉体が得られる。
【0028】
鉄酸塩(A’)と複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)との使用割合としては、焼成後の酸化鉄(A)と、焼成後のシリカナノ構造体(B)との比、即ち(A)/(B)で表される質量比として10/95〜80/20となるように用いることが好ましく、より好ましくは、30/60〜50/50の範囲である。
【0029】
鉄酸塩(A’)と複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)とを混合する際に使用する媒体の量は特に限定するものではないが、鉄酸塩(A’)と複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)との合計の質量に対し、質量比で10〜30倍の範囲であれば好適である。
【0030】
前記媒体としては、水単独のほか、種々の親水性有機溶媒との混合溶媒であっても良く、例えば、エタノール、2−プロパノール、アセトン等が挙げられる。
【0031】
鉄酸塩(A’)と複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)とを媒体中で混合する際に、より吸着を確実にするために、ポリアミンを併用しても良い。即ち、前述の工程(1−3)で鉄酸塩(A’)を加える前に、ポリアミンを混合し、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)の表面にポリアミンを吸着させる。
【0032】
前記ポリアミンとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリリシン類を挙げることができ、単独でも2種以上を併用しても良い。
【0033】
この様な、ポリアミンを吸着させた後、鉄酸塩(A’)と複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)との混合による吸着工程を行なう。吸着工程の詳細な方法については特に制限されるものではなく、例えば、一定割合で混合した後、それを室温(20〜30℃)で1〜24時間攪拌することで十分に吸着できる。
【0034】
〔焼成工程〕
上記で得られた、鉄酸塩(A’)が複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)に吸着している粉体を加熱焼成することで、シリカナノ構造体(B)に酸化鉄(A)の粒子が固定される。
【0035】
加熱焼成温度は、既に内部のポリマー鎖を除去したシリカナノ構造体(B)を使用している場合は350〜900℃の温度範囲であれば良く、ポリマー鎖が内部に存在する複合体(X)を用いた場合や、ポリアミンを併用している場合など、これらの有機物の除去を同時に行なう目的で600℃以上の温度で焼成することが好ましい。尚、900℃を超える温度では、シリカの溶融が始まり、シリカナノ構造体(B)の該構造が崩れる虞があり、又酸化鉄(A)の粒子成長が起こる可能性もあるため、焼成温度の上限は900℃である。
【0036】
焼成時間は通常2〜8時間であればよく、温度上昇をプログラム的に制御することが好ましい。例えば、室温から300℃まで1時間をかけて上昇させ、その後、30分かけて500℃まで上昇させた後、その温度で3時間保持させること等、段階的な焼成であることが好ましい。
【0037】
また、加熱焼成過程を空気雰囲気下で行なうことが好ましいが、不活性ガス、例えば、窒素雰囲気下で行なうこともできる。
【0038】
焼成後の酸化鉄(A)の含有率は、基本的に吸着された鉄酸塩(A’)の量によって決まるものであり、10〜80質量%の範囲に調製することができる。
【0039】
〔酸化鉄(A)の粉末を用いる光触媒製造方法〕
本発明の第二の製造方法は、酸化鉄(A)の粉末を直接、複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)に物理吸着させてから焼成することにより、酸化鉄(A)の粒子のシリカナノ構造体(B)への固定を行なうものである。即ち、下記工程を有することを特徴とする。
【0040】
(2−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水性媒体中で会合させる工程、
(2−2)水性媒体の存在下で、工程(2−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーとシリカとの複合体(X)を得る工程、
(2−3)工程(2−2)で得られた複合体(X)の分散液、又は該複合体(X)を焼成し、複合体(X)中のポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)の分散液に、酸化鉄(A)の粉末を混合し、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)に酸化鉄(A)を吸着させる工程、
(2−4)工程(2−3)で得られた酸化鉄(A)を吸着した複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)を900℃以下で焼成し、シリカナノ構造体(B)への酸化鉄(A)粒子の固定を行なう工程。
【0041】
前記工程(2−3)は、酸化鉄(A)の粉末と、ポリマーとシリカとの複合体(X)、又は該複合体(X)を焼成し、複合体(X)中のポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)と、を水性媒体中で混合し、酸化鉄(A)の粉末をシリカナノ構造体(B)に吸着させる工程である。このとき、超音波処理やスターラー等で攪拌、分散を行うことにより、物理的な吸着が行なわれる。即ち、シリカ表面の多数のシラノール基の存在による極性によって酸化鉄(A)の吸着が進行する結果、遠心分離等により上澄み液を取り除いて、乾燥処理を行うことで、シリカの表面に酸化鉄(A)を物理吸着状態で固定できる。
【0042】
このとき使用する酸化鉄(A)の粉末としては、その結晶化度、粒子径、比表面積等になんら制限されるものではないが、高結晶性、高比表面積を有する酸化鉄を用いることが好ましく、市販品としては、関東化学株式会社製の酸化鉄粉末が挙げられる。
【0043】
前記複合体(X)又は該複合体(X)を焼成しポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)と、酸化鉄(A)との使用割合としては、特に限定されるものではないが、前者/後者で表される質量比として95/10〜20/80の範囲であれば吸着が速やかに進行するため好適である。
【0044】
前記複合体(X)又は該複合体(X)を焼成しポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)と、酸化鉄(A)とを混合する際に使用する水性媒体の量は特に限定するものではないが、固形分の合計質量に対し、10〜30倍量であれば好適である。
【0045】
また、前記水性媒体としては水単独、またはアルコール類等、親水性媒体と水との混合溶媒でもよい。このとき、前記と同様、即ちポリアミンを併用することで、吸着を促進することも可能である。
【0046】
前記複合体(X)又は該複合体(X)を焼成しポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)と、酸化鉄(A)の粒子との混合方法としても特に限定されるものではなく、これらを一定割合で混合した後、それを室温(20〜30℃)で1〜24時間攪拌することで十分である。
【0047】
〔焼成工程〕
上記で得られた、酸化鉄(A)が複合体(X)またはシリカナノ構造体(B)に吸着している粉体を加熱焼成することで、シリカナノ構造体(B)に酸化鉄(A)の粒子が固定される。
【0048】
加熱焼成温度は、既に内部のポリマー鎖を除去したシリカナノ構造体(B)を使用している場合は350〜900℃の温度範囲であれば良く、ポリマー鎖が内部に存在する複合体(X)を用いた場合には、ポリマー鎖の除去を同時に行なう目的で600℃以上の温度で焼成することが好ましい。尚、900℃を超える温度では、シリカの溶融が始まり、シリカナノ構造体(B)の該構造が崩れる虞があり、又酸化鉄(A)の粒子成長が起こる可能性もあるため、焼成温度の上限は900℃である。
【0049】
焼成時間は通常2〜8時間であればよく、温度上昇をプログラム的に制御することが好ましい。例えば、室温から300℃まで1時間をかけて上昇させ、その後、30分かけて500℃まで上昇させた後、その温度で3時間保持させること等、段階的な焼成であることが好ましい。
【0050】
また、加熱焼成過程を空気雰囲気下で行なうことが好ましいが、不活性ガス、例えば、窒素雰囲気下で行なうこともできる。
【0051】
焼成後の酸化鉄(A)の含有率は、基本的に吸着された酸化鉄(A)の量によって決まるものであり、10〜80質量%の範囲に調製することができる。
【0052】
本発明における酸化鉄固定シリカナノ構造体において、酸化鉄(A)の粒子とシリカナノ構造体(B)とがどのような接合界面を形成しているかは不明であるが、焼成処理を行わないと触媒活性の向上が見られない点、シリカゲル等の複雑形状を持たないシリカ系でもある程度の光触媒活性の向上が見られる点から、酸化鉄(A)とシリカナノ構造体(B)の接合界面において高い光閉じ込め効果と有機物質の濃縮効果が発現していると推察される。
【0053】
本発明の光触媒は、前述の手法で得られた、酸化鉄(A)の粒子がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなるものであり、前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボン/シリカナノシートを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、かつ、当該複合体中における酸化鉄の含有率が10〜80質量%であることを特徴とする。
【0054】
〔光触媒機能〕
本発明での光触媒機能は、有機物質の分解反応において有効であることを言うものであり、使用する光源は、太陽光・蛍光灯等、何れのものであっても良い。特に本発明の光触媒は、近紫外線光をも含まない(可視光のみを含む)光であるLED照明光下であっても、応答性を有し、その活性が高い点において、従来の光触媒よりもその応用範囲が広いことが特徴である。
【0055】
本発明において光触媒の活性を測る手法としては、一定濃度の揮発性有機化合物(VOC)ガスを封入したガラス製反応容器中に光触媒の粉末を静置し、反応器にLED光を照射することで、揮発性有機化合物ガスが酸化分解することによって発生した、二酸化炭素濃度の光照射時間に伴う変化から見積もることができる。
【0056】
前述の手法で光触媒の活性を測る場合には、用いる揮発性有機化合物の濃度は50〜500ppmであればよく、触媒粉末の使用量は反応器の体積に対して5〜100mg/500mL範囲であれば好適である。
【0057】
前記揮発性有機化合物としては、特に限定することではなく、低分子有機物全般を用いることができる。更に低分子化合物以外の有機化合物、例えば、有機色素、ポリマーなど光触媒の表面に付着可能であれば、光照射によって分解反応を行うことができ、例えば有機色素の発色度合いを測定することによっても光触媒の活性を測ることができる。
【0058】
光照射時間は、用いる有機物質の濃度またはその構造により異なるが、1時間〜1日の範囲であることが望ましい。
【0059】
本発明の光触媒は、LED光源単独の照射下であっても、十分光触媒として機能することができる。また、本発明の光触媒は、紫外線が含まれる単独光源、例えば、キセノンランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯など、種々の光源下でも光触媒として用いることができる。当然であるが、本発明の光触媒は、直射光ではなく、太陽光、または各種光源照明に反射・散乱された状態の室内光であっても、光触媒として用いることができる。
【0060】
本発明の光触媒を実用の現場で用いる際には、その形態においてなんら制限されるものではなく、その他の光触媒と併用しても、様々な基材等を含有していても良い。また、光触媒として用いるときの形状としても制限されず、例えば、粉末、粒子、ペレット、膜などの形状で用いることができ、使用する環境下に応じて適宜選択することが好ましい。また、コーティング剤に混合して用いることにより、光触媒機能を有する塗膜とすることも可能である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0062】
〔走査型電子顕微鏡〕
走査型電子顕微鏡はKEYENCE製のVE−9800を使用した。
【0063】
〔UV−vis反射スペクトル〕
UV−vis反射スペクトルはOceanOptics製のUSB−4000分光器、DH−2000ランプを使用した。
【0064】
〔X線回折法(XRD)〕
試料を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲20〜40°の条件で行った。
【0065】
〔透過型電子顕微鏡による構造観察〕
透過型電子顕微鏡はJEOL製のTEM2200FSを使用し、電圧200keVの条件で行った。
【0066】
〔BET法による比表面積測定〕
比表面積測定はSHIMADZU製のTriStarを使用し、BET法を用いて行った。また、ポアサイズ分布はポア体積分率対ポアサイズのプロットから見積もった。
【0067】
〔蛍光X線スペクトルによる酸化鉄含有量測定〕
蛍光X線測定は株式会社リガク製のZSXを用いて、真空条件下で行った。
【0068】
〔光触媒活性評価〕
光触媒活性は気相反応での、アセトアルデヒドの酸化分解反応における二酸化炭素発生量の時間変化から評価した。アセトアルデヒドガスは500ppmで行った。光触媒(粉末)0.2gを使用し、500mLのガラス製反応器に封入した状態で光照射を行った。LED照明は株式会社東芝製 E−CORE LEL−BR9N―F型を用いて、約20,000lx照射下で行った。尚、二酸化炭素発生量はINNOVA社の光音響マルチガスモニタ1312型をテトラフルオロエチレン製のチューブで光反応器に連結して調査した。
【0069】
〔複合体(X)/シリカナノ構造体(B)の製造〕
特許文献(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報)に開示した方法により、形状が異なる粉体を作製した。
【0070】
合成例1
〔ポリマーとシリカとの複合体(X−1)及びシリカナノ構造体(B−1)の製造〕
<直鎖状ポリエチレンイミンの合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量500,000、平均重合度5,000、Aldrich社製)5gを、5Mの塩酸水溶液20mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末を(JEOL JNM−LA300型核磁気共鳴吸収スペクトル測定装置:重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH3)と2.3ppm(CH2)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0071】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿した粉末を濾過し、その粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の粉末をデシケータ中で室温(25℃)乾燥し、直鎖状ポリエチレンイミンを得た。収量は4.5g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、得られた直鎖状ポリエチレンイミンの重合度は加水分解前の5,000と同様である。
【0072】
<ゾルゲル反応による複合体(X−1)の製造>
一定量の直鎖状ポリエチレンイミンを蒸留水中に混合し、それを90℃に加熱し透明溶液を得た後、全体3%の水溶液に調製した。該水溶液を室温で自然冷却し、真っ白の直鎖状ポリエチレンイミンの会合体液を得た。攪拌しながら、その会合体液100mL中に、70mLのTMOS(テトラメトキシシラン)のエタノール溶液(体積濃度50%)を加え、室温で1時間攪拌続けた。析出した沈殿物をろ過し、それをエタノールで3回洗浄した後、40℃で加熱下乾燥することにより、粉体15gを得た。図1に得られた粉体のSEM写真を示す。ナノファイバーの会合体であることを確認した。
【0073】
これで得た粉体の熱重量損失分析(SII Nano Technology Inc社製のTG/DTA6300)から、ポリマー成分である直鎖状ポリエチレンイミンの含有率が7%であることを確認した。また、比表面積測定(Micrometrics社製 Flow Sorb II 2300)を行なった結果、112m2/gであった。これを複合体(X−1)とする。
【0074】
<加熱焼成によるシリカナノ構造体(B−1)の製造>
前記で得られたポリマーとシリカとの複合体(X−1)を600℃で1時間焼成することで、ポリマー成分を除去したシリカナノ構造体を得た。図2に焼成後のシリカナノ構造体のSEM写真を示す。得られたシリカナノ構造体は焼成処理においても形状の変化等は見られず、シリカで構成されたナノファイバーの会合体であることを確認した。また、比表面積測定を行った結果、315m2/gであった。上記で得られた粉末をシリカナノ構造体(B−1)とする。
【0075】
合成例2
〔ポリマーとシリカとの複合体(X−2)及びシリカナノ構造体(B−2)の製造〕
合成例1の<直鎖状ポリエチレンイミンの合成>の前段と同様にしてポリエチルオキサゾリンの加水分解を行い、直鎖状ポリエチレンイミンの塩酸塩を得た。この塩酸塩5gを90mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に1.4mol/Lのアンモニア水溶液29.5mLを混合した。その混合液を12時間攪拌後、再び1.4mol/Lのアンモニア水溶液12.5mLを10時間おき5回に分けて滴下し、その後1時間攪拌を行うことで、白色の沈殿物を得た。析出した沈殿物を遠心分離にて3回洗浄した。洗浄後、得られた粉末を120mLの蒸留水中に分散した。その分散液中に、15mLのメチルシリケート(MS51)を加え、室温下(20〜25℃)4時間攪拌した。反応液を遠心分離にて処理し、析出した固形物をエタノールで洗浄後、室温にて乾燥することにより、ポリエチレンイミンとシリカとからなる複合体を得た。収量:9.7g。図3には、得られた複合体のSEM写真を示した。ナノシートの構造を持つ集合体であることが確認できる。XRDから直鎖状ポリエチレンイミンの結晶体由来のピークが観測された。これをポリマーとシリカとの複合体(X−2)とする。
【0076】
<加熱焼成によるシリカナノ構造体(B−2)の製造>
前記工程で得られたナノシート状の複合体(X−2)0.5gをアルミナ坩堝に加え、それを電気炉内にて焼成した。炉内温度は、1時間かけて800℃まで上げ、その温度にて2時間保持した。これを自然冷却し、ポリマー成分を除去し、粉末を得た。これで得た粉末の比表面積は319.0m2/gであった。図4にはSEM観察のイメージ写真を示した。ナノシートが重なり、構造は800℃焼成後でも変化しなかった。このナノシートの集合体である粉末をシリカナノ構造体(B−2)とする。
【0077】
合成例3
〔ポリマーとシリカとの複合体(X−3)及びシリカナノ構造体(B−3)の製造〕
<ポリエチレンイミン塩酸塩水溶液の調製、結晶化、複合ナノファイバーの合成>
合成例1の<直鎖状ポリエチレンイミンの合成>の前段と同様にしてポリエチルオキサゾリンの加水分解を行い、直鎖状ポリエチレンイミンの塩酸塩を得た。この塩酸塩5gを60mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液10mLを滴下した。この混合液のpHは9.0であった。その混合液を4時間攪拌後、析出した会合体を遠心分離にて3回洗浄した。洗浄後の粉末を500mLの蒸留水中に分散した。この時点での分散液のpH値は6.5であった。その分散液中に、5.5mLのメチルシリケート(MS51)を加え、室温下(20〜25℃)1時間攪拌した。反応液を遠心分離にて処理し、析出した固形物を水で洗浄後、室温にて乾燥し、ポリエチレンイミンとシリカとからなる複合体を得た。収量:10.8g。図5には、得られた複合体のSEM写真を示した。ファイバーが円盤状に集合した構造であることが確認できる。XRDから直鎖状ポリエチレンイミンの結晶体由来のピークが観測された。これをポリマーとシリカとの複合体(X−3)とする。
【0078】
<ナノチューブ状の複合体(X−3)の製造>
上記で得た複合体0.5gを10mLのメタノール中1時間浸漬後、ろ過し、固形分を室温にて乾燥させた。これにより、内部の直鎖状ポリエチレンイミンが溶解し、それを取り囲んでいたシリカの内表面に吸着され、ファイバーの芯が消失したナノチューブ状の複合体(X−3)が得られた。得られた複合体(X−3)を表面分析測定に用いた。BET表面積は286m2/gであった。それの等温線及びポア分布を、それぞれ図6と図7に示した。ポアサイズ分布の結果から、ポアサイズの3.5nmのところに、シャープなピークが現れた。このピーク値はちょうどチューブ内径サイズを反映する。ポアサイズは2nmから増大し、4nm以下でピーク値を経て、低下する。これは、このファイバー状のシリカ中には、規則的中空構造、即ちチューブを形成していることを強く示唆する。また、TEM観察から、太さが12nm以下の真っすぐ伸びたファイバーが密に重なり、それがシートを形成し、かつ、ファイバーの中心部が透明に映ることが確認された(図8)。即ち、中心部は空洞で、その内径は3〜4nmである。熱分析から、重量損失は25.3wt%であった。
【0079】
<複合体(X−3)の焼成によるシリカナノ構造体(B−3)の製造>
前記工程で得られたナノチューブ状の複合体(X−3)0.5gをアルミナ坩堝に加え、それを電気炉内にて焼成した。炉内温度は、1時間かけて800℃まで上げ、その温度にて2時間保持した。これを自然冷却し、ポリマー成分を除去し、粉末を得た。
【0080】
これで得た粉末の比表面積は418.5m2/gであった。この粉末の等温線及びポアサイズ分布は、それぞれ図9と図10に示した。ポアサイズは2nmから低下するが、3nm当たりから増大し、ピーク値後再び低下する。これはちょうどチューブ内径サイズを反映する。また、図11にはTEM観察のイメージ写真を示した。ナノファイバーの重なり構造は800℃焼成後でも変化しなかった。ポアサイズ分布での中空のサイズ(4.2nm)とTEM観察での内径(4nm)はほぼ一致した。このナノチューブ状の粉末をシリカナノ構造体(B−3)とする。
【0081】
実施例1<酸化鉄(A−1)のシリカナノ構造体(B−1)への固定>
合成例1で得られたシリカナノ構造体(B−1)と市販の酸化鉄(和光純薬工業:一級、以下A−1と称する)とをそれらの使用割合が表1に記載の値になるように用い、この混合物の合計1.5gを蒸留水30mlに懸濁させ、1時間超音波照射を行った後、1晩静置した。遠心分離機を用いて蒸留水を除去し、真空乾燥機を用いて更に乾燥した。得られた粉末を空気雰囲気下、電気炉を用いて室温から300℃まで30分加熱し、300℃/1時間保持後、さらに30分かけて600℃まで温度を上げ、その温度で30分保持した後、自然冷却した。この焼成プログラムにより、酸化鉄(A−1)の粒子をシリカナノ構造体(B−1)上に焼き付けて固定をしたことになる。得られた固体における酸化鉄の含有率を表1に示す
【0082】
【表1】
【0083】
TEMを用いて試料No.T13の表面観察を行った結果、酸化鉄の粒子がシリカのナノファイバー上に固定されていることが確認できた(図12)。また、X線回折測定を用いて試料No.T13の結晶構造を調査し、酸化鉄の結晶構造であることを確認した(図13)。また、拡散反射スペクトルを用いて試料No.T13の吸光度スペクトルを測定し、約600nmまでの可視光領域に酸化鉄由来の吸収領域を持つことを確認した(図14)。
【0084】
実施例2<酸化鉄(A−1)のシリカナノ構造体(B−2)への固定>
用いるシリカナノ構造体として、合成例1で得られた構造体(B−1)の代わりに、合成例2で得られたシリカナノ構造体(B−2)を用いる以外は実施例1と同様にして、酸化鉄(A−1)のシリカナノ構造体への焼付けによる固定を行なった。酸化鉄(A−1)とシリカナノ構造体(B−2)との使用割合、及び得られた固体中における酸化鉄含有率を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
TEMを用いて試料No.T23の表面観察を行った結果、酸化鉄の粒子がシリカのナノシート上に固定されていることが確認できた(図15)。また、X線回折測定を用いて試料No.T23の結晶構造を調査し、酸化鉄の結晶構造であることを確認した(図16)。また、拡散反射スペクトルを用いて試料No.T23の吸光度スペクトルを測定し、約600nmまでの可視光領域に酸化鉄由来の吸収領域を持つことを確認した(図17)。
【0087】
実施例3<酸化鉄(A−1)のシリカナノ構造体(B−3)への固定>
用いるシリカナノ構造体として、合成例1で得られた構造体(B−1)の代わりに、合成例3で得られたシリカナノ構造体(B−3)を用いる以外は実施例1と同様にして、酸化鉄(A−1)のシリカナノ構造体への焼付けによる固定を行なった。酸化鉄(A−1)とシリカナノ構造体(B−3)との使用割合、及び得られた固体中における酸化鉄含有率を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
TEMを用いて試料No.T33の表面観察を行った結果、酸化鉄の粒子がシリカのナノチューブ上に固定されていることが確認できた(図18)。また、X線回折測定を用いて試料No.T33の結晶構造を調査し、酸化鉄の結晶構造であることを確認した(図19)。また、拡散反射スペクトルを用いて試料No.T33の吸光度スペクトルを測定し、約600nmまでの可視光領域に酸化鉄由来の吸収領域を持つことを確認した(図20)。
【0090】
実施例4<鉄酸塩を用いる、シリカナノ構造体(B−3)への固定>
合成例3で得られたシリカナノ構造体(B−3)0.2gを秤量した。また硝酸鉄(III)9水和物(関東化学株式会社製特級)を蒸留水を用いて5質量%に調整した。調整後の5%水溶液を(A’−1)と称する。これらを、質量比で表4中記載の割合になるよう混合し、更に蒸留水を加えて全体の体積を10mlに調製した。これを1時間攪拌し、得られた懸濁液から蒸留水を除去し、更に真空乾燥器を用いて12時間120℃で乾燥した。乾燥した粉末を空気雰囲気下、電気炉を用いて室温から300℃まで30分加熱し、300℃/1時間保持後、さらに30分かけて600℃まで温度を上げ、その温度で30分保持した後、自然冷却した。この焼成プログラムにより、酸化鉄のナノ粒子がシリカナノ構造体(B−3)上に焼き付けて固定をしたことになる。得られた固体における酸化鉄の含有率を表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
TEMを用いて試料No.T42の表面観察を行い、酸化鉄の粒子がナノサイズでシリカナノチューブ中に固定されていることを確認した(図21)。また、X線回折測定を用いて試料No.T42の結晶構造を調査し、酸化鉄の結晶構造であることを確認した(図22)。また、拡散反射スペクトルを用いて試料No.T42の吸光度スペクトルを測定し、約600nmまでの可視光領域に酸化鉄由来の吸収領域を持つことを確認した(図23)。
【0093】
比較例1<酸化鉄(A−1)のシリカゲルB’への固定>
用いるシリカとして、合成例1で得られた構造体(B−1)の代わりに、市販のシリカゲル(メルク:シリカゲル60、以下B’と称する)を用いる以外は実施例1と同様にして、酸化鉄(A−1)のシリカゲルB’への焼付けによる固定を行なった。酸化鉄(A−1)とシリカゲルB’との使用割合、及び得られた固体中における酸化鉄含有率を表5に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
比較例2<鉄酸塩を用いる、シリカゲルB’への固定>
用いるシリカとして、合成例3で得られた構造体(B−3)の代わりに、比較例1で用いた市販のシリカゲルB’を用いる以外は実施例4と同様にして、蒸留水を用いて5質量%に調製した硝酸鉄水溶液(A’−1)のシリカゲルB’上への焼付けによる固定を行った。得られた固体における酸化鉄の含有率を表6に示す。
【0096】
【表6】
【0097】
比較例3<銅二価塩担持三酸化タングステン可視光応答型光触媒>
LED照射下での光触媒活性を評価するために、比較例として銅二価塩担持三酸化タングステン可視光応答型光触媒の調製を行った(特開2009−226299号のトレース実験)。
酸化タングステン粉末(平均粒径250nm、株式会社高純度化学研究所)をフィルターに通して粒径1μm以上の粒子を除去し、650℃で3時間焼成する前処理を行うことによって、三酸化タングステンを得た。そしてこの三酸化タングステン微粒子を蒸留水中に10質量%になるように懸濁させ、次にこれに、0.1質量%(Cu(II)vs.WO3)の量でCuCl2・2H2O(和光純薬工業株式会社製)を加え、攪拌しながら90℃に加熱して1時間保持した。次に、得られた懸濁液を吸引濾過によって濾別した後に、残渣を蒸留水によって洗浄し、さらに110℃で加熱乾燥することによって、銅二価塩を担持した三酸化タングステン微粒子を比較用サンプルとして得た。
【0098】
評価1<酸化鉄を固定したシリカナノ構造体の光触媒活性評価1>
実施例1の試料No.T13、実施例2の試料No.T23、実施例3の試料No.T33を用いて光触媒活性評価を行なった。比較として、比較例1の試料No.T53及び比較例3で得られた銅二価塩担持三酸化タングステンを用いた。結果を図24に示す。本発明の全ての試料において、明確なアセトアルデヒド光分解活性が確認された。特にシリカナノチューブに焼付け固定を行った試料No.T33の触媒活性が高く、比較例3の銅2価塩担持三酸化タングステンの約2倍の触媒活性を確認した。一方で、比較例1で得られた試料No.T53からは光触媒活性が確認できなかった。このことは、シリカナノ構造体と酸化鉄の粒子を複合化した場合のみ光触媒活性が発現することを示しており、本発明におけるシリカナノ構造体を酸化鉄の粒子と複合化することで、高い実用性を持つ光触媒の創製が可能であることを強く示唆している。
【0099】
評価2 <焼成前後の光触媒活性の比較>
実施例1において、試料No.T33の焼成前後、及び酸化鉄粒子(A−1)との光触媒活性の比較を行なった。結果を図25に示す。酸化鉄粒子のみではアセトアルデヒド光分解反応が全く進行しないことを確認した。また、焼成処理を行っていない酸化鉄粒子とシリカナノチューブとの単純混合物も光触媒活性を全く示さない。一方で、酸化鉄粒子とシリカナノチューブとを焼付けて固定することによって、明確な触媒活性の発現を確認した。このことから、熱焼成によって形成された酸化鉄粒子とシリカナノ構造体の界面が光触媒機能の発現に関与していることが推定できる。
【0100】
評価3 <酸化鉄粒子を固定したシリカナノ構造体の光触媒活性評価2>
実施例4の試料No.T42を用いて光触媒活性評価を行なった。比較として、比較例2の試料No.T62及び比較例3で得られた銅二価塩担持三酸化タングステンを用いた。結果を図26に示す。本発明の試料において、高いアセトアルデヒド光分解活性が確認された。評価1で用いた試料No.T33の触媒活性が銅二価塩担持三酸化タングステンの約2倍であったのに対し、試料No.T42では約3倍の触媒活性を示した。これは、硝酸鉄を用いて固定した酸化鉄粒子がナノメートルオーダーの微粒子(以下、ナノ粒子という)としてシリカナノチューブ上に存在していることに起因していると考えられる。ナノ粒子として存在することによりシリカナノチューブ表面との接触面積が大きくなり、ナノ界面の面積が増加するためであると推察できる。一方で、シリカゲルへの焼付け固定においては評価1と同様、触媒活性が確認できなかった。このことからも、複雑形状を有するシリカナノ構造体と酸化鉄の粒子との焼付けにより形成される界面が、高い光触媒機能の発現に大きく関わっていることが確認できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄(A)の粒子がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒を製造する方法であって、
(1−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水性媒体中で会合させる工程、
(1−2)水性媒体の存在下で、工程(1−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーとシリカとの複合体(X)を得る工程、
(1−3)工程(1−2)で得られた複合体(X)の分散液、又は該複合体(X)を焼成し、複合体(X)中のポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)の分散液に、鉄酸塩(A’)を混合し、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)中に鉄酸塩(A’)を濃縮させる工程、
(1−4)工程(1−3)で得られた鉄酸塩(A’)を有する、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)を900℃以下で焼成し、シリカナノ構造体(B)への酸化鉄(A)粒子の固定を行なう工程、
を有することを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項2】
酸化鉄(A)の粒子がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒を製造する方法であって、
(2−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水性媒体中で会合させる工程、
(2−2)水性媒体の存在下で、工程(2−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーとシリカとの複合体(X)を得る工程、
(2−3)工程(2−2)で得られた複合体(X)の分散液、又は該複合体(X)を焼成し、複合体(X)中のポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)の分散液に、酸化鉄(A)の粉末を混合し、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)に酸化鉄(A)を吸着させる工程、
(2−4)工程(2−3)で得られた酸化鉄(A)を吸着した複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)を900℃以下で焼成し、シリカナノ構造体(B)への酸化鉄(A)粒子の固定を行なう工程、
を有することを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項3】
シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のファイバー状又はリボン状の基本構造体の集合体であって、該集合体の大きさ(TEM画像で観測したときの、最も長い部分)が1μm〜20μmの範囲である請求項1又は2記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項4】
シリカナノ構造体(B)に固定されている酸化鉄(A)の粒子の大きさが、10〜100nmである請求項1〜3の何れか1項記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項5】
酸化鉄(A)又は鉄酸塩(A’)とシリカナノ構造体(B)との使用割合が、(A)/(B)で表される質量比として10/95〜80/20である請求項1〜4の何れか1項記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項6】
酸化鉄(A)の粒子がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなる光触媒であって、
前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボンを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、
かつ、当該複合体中における酸化鉄(A)の含有率が10〜80質量%であることを特徴とする可視光応答型光触媒。
【請求項7】
LED照明光応答型である請求項6記載の可視光応答型光触媒。
【請求項1】
酸化鉄(A)の粒子がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒を製造する方法であって、
(1−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水性媒体中で会合させる工程、
(1−2)水性媒体の存在下で、工程(1−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーとシリカとの複合体(X)を得る工程、
(1−3)工程(1−2)で得られた複合体(X)の分散液、又は該複合体(X)を焼成し、複合体(X)中のポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)の分散液に、鉄酸塩(A’)を混合し、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)中に鉄酸塩(A’)を濃縮させる工程、
(1−4)工程(1−3)で得られた鉄酸塩(A’)を有する、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)を900℃以下で焼成し、シリカナノ構造体(B)への酸化鉄(A)粒子の固定を行なう工程、
を有することを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項2】
酸化鉄(A)の粒子がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒を製造する方法であって、
(2−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水性媒体中で会合させる工程、
(2−2)水性媒体の存在下で、工程(2−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーとシリカとの複合体(X)を得る工程、
(2−3)工程(2−2)で得られた複合体(X)の分散液、又は該複合体(X)を焼成し、複合体(X)中のポリマーを除去したシリカナノ構造体(B)の分散液に、酸化鉄(A)の粉末を混合し、複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)に酸化鉄(A)を吸着させる工程、
(2−4)工程(2−3)で得られた酸化鉄(A)を吸着した複合体(X)又はシリカナノ構造体(B)を900℃以下で焼成し、シリカナノ構造体(B)への酸化鉄(A)粒子の固定を行なう工程、
を有することを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項3】
シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のファイバー状又はリボン状の基本構造体の集合体であって、該集合体の大きさ(TEM画像で観測したときの、最も長い部分)が1μm〜20μmの範囲である請求項1又は2記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項4】
シリカナノ構造体(B)に固定されている酸化鉄(A)の粒子の大きさが、10〜100nmである請求項1〜3の何れか1項記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項5】
酸化鉄(A)又は鉄酸塩(A’)とシリカナノ構造体(B)との使用割合が、(A)/(B)で表される質量比として10/95〜80/20である請求項1〜4の何れか1項記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項6】
酸化鉄(A)の粒子がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなる光触媒であって、
前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボンを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、
かつ、当該複合体中における酸化鉄(A)の含有率が10〜80質量%であることを特徴とする可視光応答型光触媒。
【請求項7】
LED照明光応答型である請求項6記載の可視光応答型光触媒。
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図11】
【図12】
【図15】
【図18】
【図21】
【図7】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図11】
【図12】
【図15】
【図18】
【図21】
【公開番号】特開2012−245481(P2012−245481A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120309(P2011−120309)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】
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