説明

合成樹脂製のボールシート及びこれを用いたボールジョイント

【課題】耐荷重性の低下ならびに耐久性の低下を防止し、しかも、ボールスタッドが通る開口側の球帯状部の変形を防止し、均一な摺動トルクの維持ならびにガタつきを防止し得る合成樹脂製のボールシート及びこれを用いたボールジョイントを提供すること。
【解決手段】ボールジョイント1は、円筒状内面2及び球帯状内面3を有したソケット4と、ソケット4の円筒状内面2に接触した円筒状外面5及び球帯状外面6を有する合成樹脂製のボールシート7と、ボールシート7の球帯状内面8及び10の夫々に接触する球状外面11を有してソケット4内に配されたボール部12を具備したボールスタッド13とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソケット内に収容されボールスタッドのボール部を摺動自在に支持する合成樹脂製のボールシート及びこれを用いたボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2006−292094号公報
【特許文献2】特開2008−164126号公報
【0003】
例えば、自動車の懸架装置又は操舵装置などに用いられるボールジョイントでは、従来、ソケット内にボールスタッドのボール部を回動自在に収容しており、斯かるボール部のソケットに対する回動を滑らかに行わせるべく、ソケットの内面とボール部の球状外面との間にシートベアリングと呼ばれる合成樹脂製のボールシートを介在させている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ボールジョイントにおいて、ボールスタッドが伸張するボールシートの開口からボール部が抜け出ないようにするために、当該ボールシートのボールスタッドが通る開口側の円筒部を縮径すべくそのままボール部の外面に倣って当該円筒部を球帯状に変形させ縮径すると、縮径された開口側の球帯状部に大きな内部応力が生じ、この内部応力により著しい強度低下が起こり、高荷重を受ける縮径された開口側の球帯状部の耐荷重性が著しく劣化し、耐久性が低下する虞がある一方、ボールシートのボールスタッドが通る開口側の円筒部の変形を容易にして縮径された開口側の球帯状部に斯かる大きな内部応力の発生を回避するために、当該開口側のボールシートの円筒部にスリット(切欠き)を形成すると、受圧面積の減少により耐荷重性が低下し、高荷重下でクリープ変形を受け易くなり、スリットに当該スリット近傍の球帯状部が塑性流動することにより、球帯状部の形状が不均一となり、摺動トルクの不安定化又は異常摩耗の発生などにより、ボールスタッドのボール部の球状外面とボールシートの内面とのガタつきが大きくなる虞がある。
【0005】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ボールスタッドのスタッド部が通る開口側の球帯状部に大きな内部応力を生じさせないで、耐荷重性の低下ならびに耐久性の低下を防止し、しかも、スリット付与によるボールスタッドの引っ張りによるボールスタッドが通る開口側の球帯状部の合成樹脂のクリープ変形を極力防止することによりボールスタッドが通る開口側の球帯状部の変形を防止し、均一な摺動トルクの維持ならびにガタつきを防止し得る合成樹脂製のボールシート及びこれを用いたボールジョイントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の合成樹脂製のボールシートは、第一の球帯状内面を有するシート基部と、このシート基部に軸方向において隣接していると共に円筒状内面及びこの円筒状内面に対応して配された円筒状外面を有した円筒部と、この円筒部の円環状端面から軸方向において第一の球帯状内面の球心に向かって当該球心に向かうにしたがって徐々に円周方向の幅を縮小しつつ伸びた楔状スリット部を有していると共に円筒部に形成されたスリットとを具備した合成樹脂製のボールシートであって、楔状スリット部は、ボールシート内に収容するボールスタッドのボール部の球状外面に接触する第二の球帯状内面への円筒状内面の変形において生じる円筒部の円周方向の変形量に対応した円周方向の幅を有している。
【0007】
また、本発明の合成樹脂製のボールシートは、第一の球帯状内面と、この第一の球帯状内面の大径端に軸方向において隣接した円筒状内面と、この円筒状内面に対応して配された円筒状外面と、円筒状外面に連接した円環状端面と、この円環状端面から軸方向において第一の球帯状内面の球心に向かって当該球心に向かうにしたがって徐々に円周方向の幅を縮小しつつ伸びた楔状スリット部を有しているスリットとを具備した合成樹脂製のボールシートであって、楔状スリット部は、ボールシート内に収容するボールスタッドのボール部の球状外面に接触する第二の球帯状内面への円筒状内面の変形において生じる当該円筒状内面の円周方向の変形量に対応した円周方向の幅を有している。
【0008】
本発明の合成樹脂製のボールシートによれば、ボールシート内に収容するボールスタッドのボール部の球状外面に接触する第二の球帯状内面への円筒状内面の変形において生じる円筒部の円周方向の変形量に対応した円周方向の幅を楔状スリット部が有しているために、換言すれば、内部に収容するボールスタッドのボール部の球状外面に接触する第二の球帯状内面への円筒状内面の変形において生じる当該円筒状内面の円周方向の変形量に対応した円周方向の幅を楔状スリット部が有しているために、円筒状内面がボール部の球状外面に接触するようにして第二の球帯状内面に変形されてボールジョイントのソケット内にボールシートが配置されても、斯かる変形を楔状スリット部で吸収できる結果、縮径されて得られた第二の球帯状内面を有したボールシートのボールスタッドが通る開口側の球帯状部に大きな内部応力を生じさせないで、耐荷重性の低下ならびに耐久性の低下を防止でき、しかも、楔状スリット部の円周方向の幅が零となって楔状スリット部を規定するボールシートの円周方向において対峙する一対の対向端面が互いに接触する結果、ボールスタッドの引っ張りによる球帯状部の円周方向の合成樹脂のクリープ変形を互いに接触する一対の対向端面の押し合いにより防止できて、均一な摺動トルクの維持ならびにガタつきを防止し得る。
【0009】
本発明において、円筒状内面及び円筒状外面で規定された円筒部は、同径である必要はなく、例えば、楔状スリット部側において円環状端面に向かうに連れて縮径されていてもよく、また、スリットは、一個でもよいが、好ましくは、円周方向において互いに離間して配された複数個でもよく、加えて、楔状スリット部の円周方向の幅は、円筒部の円周方向の変形量と同一、換言すれば、円筒状内面の円周方向の変形量と同一であって、楔状スリット部を規定するボールシートの円周方向において対峙する一対の対向端面が当該対向端面近傍のボールシートの一方の開口側の球帯状部において内部応力を生じることなしに互いに単に接触するような長さであってもよく、これに代えて、円筒部の円周方向の変形量よりも若干小さく、換言すれば、円筒状内面の円周方向の変形量よりも若干小さく、楔状スリット部を規定するボールシートの円周方向において対峙する一対の対向端面が耐荷重性の低下ならびに耐久性の低下を生じさせない程度の内部応力を当該対向端面近傍のボールシートの一方の開口側の球帯状部において生じるように互いに押圧接触するような長さであってもよい。
【0010】
金型の耐久性を向上させる好ましい例では、スリットは、円周方向の幅が最小となる楔状スリット部の一端から軸方向において第一の球帯状内面の球心に向かって円周方向の幅を同一にして伸びた同一幅スリット部を更に有している。
【0011】
斯かる同一幅スリット部は、好ましくは、軸方向において第一の球帯状内面の球心まで伸びているが、これに代えて、軸方向において第一の球帯状内面の球心に至ることなしに軸方向において第一の球帯状内面の球心の手前まで伸びていてもよい。
【0012】
スリットは、同一幅スリット部に代えて、同一幅スリット部と同様に楔状スリット部の一端から軸方向において第一の球帯状内面の球心に向かって伸びている一方、楔角が楔状のスリットよりも小さい小楔状スリット部を有していてもよい。
【0013】
好ましい例では、楔状スリット部を規定する円周方向において対峙する一対の対向端面は、円環状端面から軸方向において第一の球帯状内面の球心に向かって当該球心に向かうにしたがって徐々に接近して伸びている。斯かる楔状スリット部を規定する一対の対向端面間の距離は、円筒状外面から円筒状内面に向かうに連れて短くなっている。
【0014】
楔状スリット部を規定する円周方向において対峙する一対の対向端面は、ボールシート内に収容するボール部の球状外面に接触するような円筒状内面の第二の球帯状内面への変形で互いに接触するようになっているとよい。
【0015】
本発明のボールシートは、軸方向における第一の球帯状内面及び円筒状内面との間に配された潤滑剤収容用の球帯状溝を更に有していてもよい。
【0016】
また、本発明のボールシートは、楔状スリット部を規定する円周方向において対峙する一対の対向端面に沿って円筒状内面に形成された段部を更に有していてもよく、この段部は、一対の対向端面が互いに接触された場合に、互いに協働して潤滑剤収容用の軸方向溝を形成するようになっているとよい。
【0017】
更に、本発明のボールシートにおいては、段部は、一対の対向端面が互いに接触された場合に、互いに協働して潤滑剤収容用の球帯状溝に連通する潤滑剤収容用の軸方向溝を形成するようになっていてもよい。
【0018】
本発明のボールシートを形成する合成樹脂として、ポリアミド樹脂、ポリアリーレート樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタンエラストマー系樹脂、ポリエーテルケトン樹脂及びポリエステルエラストマー系樹脂等を好ましい例として挙げることができる。
【0019】
本発明のボールジョイントは、円筒状内面及びこの円筒状内面に軸方向において連接された球帯状内面を有したソケットと、このソケットの円筒状内面に接触した円筒状外面を有すると共にソケットの球帯状内面に接触する球帯状外面を有する前記のボールジョイント用の合成樹脂製のボールシートと、このボールシートの第一球帯状内面及びソケットの球帯状内面に倣って変形された第二の球帯状内面の夫々に接触する球状外面を有してボールシート内に配されたボール部を具備したボールスタッドとを有しており、ボールシートの球帯状外面は、ボールシートの円筒状内面に対応して配されたボールシートの円筒状外面がソケットの球帯状内面に倣って変形されて形成されており、ボールシートの楔状スリット部を規定する円周方向において対峙する一対の対向端面は、互いに接触している。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ボールスタッドのスタッド部が通る開口側の球帯状部に大きな内部応力を生じさせないで、耐荷重性の低下ならびに耐久性の低下を防止し、しかも、スリット付与によるボールスタッドの引っ張りによるボールスタッドが通る開口側の球帯状部の合成樹脂のクリープ変形を極力防止することによりボールスタッドが通る開口側の球帯状部の変形を防止し、均一な摺動トルクの維持ならびにガタつきを防止し得る合成樹脂製のボールシート及びこれを用いたボールジョイントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の好ましい例の断面説明図である。
【図2】図2は、図1に示す例のボールシートの拡大断面説明図である。
【図3】図3は、図1に示す例のボールシートの正面説明図である。
【図4】図4は、図1に示す例のボールシートの平面説明図である。
【図5】図5は、図1に示す例のボールシートのソケットへの装着前の平面説明図である。
【図6】図6は、図5に示すソケットのVI−VI線矢視断面説明図である。
【図7】図7は、図5に示すソケットの一部拡大説明図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態の好ましい他の例の平面説明図である。
【図9】図9は、図8に示す例の一部拡大説明図である。
【図10】図10は、図8に示す例のソケットへの装着後の図11に示すX−X線矢視断面説明図である。
【図11】図11は、図8に示す例のソケットへの装着後の平面説明図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態の他の好ましい例の断面説明図である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態の他の好ましい例の断面説明図である。
【図14】図14は、本発明の実施の形態の他の好ましい例の断面説明図である。
【図15】図15は、本発明の実施の形態の他の好ましい例の断面説明図である。
【図16】図16は、本発明の実施の形態の他の好ましい例の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明を、図に示す好ましい実施の形態の例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0023】
図1から図4において、本例のボールジョイント1は、円筒状内面2及び円筒状内面2に軸方向Aにおいて連接された球帯状内面3を有したソケット4と、ソケット4の円筒状内面2に接触した円筒状外面5及びソケット4の球帯状内面3に倣って変形されていると共に当該球帯状内面3に接触した球帯状外面6を有する合成樹脂製のボールシート7と、ボールシート7の球帯状内面8及びソケット4の球帯状内面3に従うボールシート7の球帯状外面6の倣い変形に伴ってボールシート7の円筒状内面9(図6参照)が変形された球帯状内面10の夫々に接触する球状外面11を有してソケット4内に配されたボール部12を具備したボールスタッド13と、ソケット4からのボールシート7の抜け出しを防止する閉鎖円板14とを有している。
【0024】
軸方向Aにおいて円環状の端面21及び22を有する剛性の金属製のソケット4は、円筒状内面2及び球帯状内面3に加えて、端面22及び球帯状内面3間において当該端面22及び球帯状内面3に連接して有すると共に当該球帯状内面3から端面22に向かうに従って拡径した円環状のテーパー面23と、軸方向Aにおいて端面21に隣接して円筒状内面2に形成された円環状の凹所24とを具備しており、円筒状内面2及び球帯状内面3並びにテーパー面23によりボールシート7を収容するソケット4内である空間25が形成されており、空間25は、円筒状内面2の軸方向Aの一端部及びテーパー面23の夫々により規定された開口26及び27を介してソケット4の外部に連通している。
【0025】
ボールスタッド13は、ボール部12に加えて、一端部では開口27側のボール部12に一体的に形成されていると共に他端部には取付用のねじ部31を有したスタッド部32を具備しており、ボール部12においてボールシート7を介してボール部12の球心Oを中心としてソケット4に対して揺動自在に支持されている。
【0026】
円環状の外周端部35でソケット4の凹所24に嵌着された閉鎖円板14は、ソケット4の開口26を閉鎖して当該開口26を介するボールシート7の空間25からの抜け出しを防止すると共にボールシート7の球帯状外面6とソケット4の球帯状内面3との間に隙間が生じないように球帯状外面6を球帯状内面3に押し付けている。
【0027】
ボールシート7は、球帯状外面6及び球帯状内面10への変形前は、図5から図7に示すように、基本的には、球帯状内面8を有するシート基部36と、シート基部36に隣接して一体形成されていると共に円筒状内面9及び円筒状内面9に対応して配された円筒状外面47を有した円筒部71と、円筒部71に形成された複数のスリット51とを具備しており、より具体的には、球帯状外面6及び球帯状内面10への変形前のボールシート7は、軸方向Aの一方の円環状端面41と、円環状端面41の円環状の内周端に連接されていると共に一方の開口42を規定する円筒状内面43と、円環状の小径端で円筒状内面43に連接した球帯状内面8と、球帯状内面8の円環状の大径端に潤滑剤収容用の球帯状溝44を間にして軸方向Aにおいて隣接して設けられた円筒状内面9と、円筒状内面9の軸方向Aにおいて隣接されて他方の開口45を規定する共に当該円筒状内面9から軸方向Aに離れるに従って拡径したテーパ内面46と、テーパ内面46及び円筒状内面9に対応して配された円筒状外面47と、円筒状外面47及びテーパ内面46の夫々に連接した軸方向Aの他方の円環状端面48と、円筒状外面47から円環状端面41に向かって連続的に伸びている円筒状外面5と、円筒状外面5及び円環状端面41間に配されていると共に円筒状外面5から円環状端面41に向かうに従って縮径されたテーパ外面49と、円環状端面48から軸方向Aにおいて球帯状内面8の球心でもあるボール部12の球心Oに向かって当該球心Oに向かうに従って徐々に円周方向Rの幅を小さくしつつ伸びた楔状スリット部50を夫々有していると共に円周方向Rにおいて互いに離間して配された複数のスリット、本例では円周方向Rにおいて互いに90度の角度間隔をもって離間して配された四個のスリット51とを具備している。
【0028】
各スリット51は、楔状スリット部50に加えて、円周方向Rの幅が最小となる楔状スリット部50の一端から軸方向Aにおいて球心Oに向かって円周方向Rの幅を同一にして球心Oまで伸びた同一幅スリット部52を更に有している。
【0029】
各楔状スリット部50を規定する円周方向Rにおいて対峙する一対の対向端面61及び62は、円環状端面48から軸方向Aにおいて球帯状内面8の球心Oに向かって当該球心Oに向かうにしたがって徐々に接近して伸びており、各同一幅スリット部52を規定する円周方向Rにおいて対峙する一対の対向端面63及び64は、対応する一対の対向端面61及び62の一端から軸方向Aにおいて球帯状内面8の球心Oまで平行に伸びている。
【0030】
各対の対向端面61及び62は、図5から図7に示す球帯状内面8、球帯状溝44、円筒状内面9及びテーパ内面46によって規定されたボールシート7内である空間65に収容するボール部12の球状外面11に接触するような図1から図4に示す円筒状内面9の球帯状内面10への変形で互いに接触するようになっており、同じく、各対の端面63及び64は、空間65に収容するボール部12の球状外面11に接触するような円筒状内面9の球帯状内面10への変形で互いに接触するようになっており、而して、各楔状スリット部50は、空間65に収容するボール部12の球状外面11に接触する球帯状内面10への円筒状内面9の変形において生じる円筒状内面9の円周方向Rの変形量に対応した円周方向Rの幅dを有しており、幅dは、円筒状内面9及び円筒状外面47の円周方向Rの変形量の差異により、円筒状外面47から円筒状内面9に向かうに連れて小さくなっている、即ち、対向端面61及び62間の距離及び端面63及び64間の距離は、円周方向Rの変形量の差異に基づいて円筒状外面47から円筒状内面9に向かうに連れて短くなっている。
【0031】
したがって、ボールシート7の円筒状内面9に対応して配されたボールシート7の円筒状外面47がソケット4の球帯状内面3に倣って変形されて形成されたボールシート7の球帯状外面6を有する図1から図4に示すボールジョイント1においては、ボールシート7の各スリット51の楔状スリット部50を規定する円周方向Rにおいて対峙する一対の対向端面61及び62は互いに接触しており、ボールシート7の各スリット51の同一幅スリット部52を規定する円周方向Rにおいて対峙する一対の端面63及び64は、涙状の隙間をもって対峙している。
【0032】
以上のボールジョイント1は、例えば、金型等を用いて一体成形された図5から図7に示すボールシート7の空間65にボール部12を収容し、ボール部12を収容したボールシート7を、ねじ部31を先導端として開口26からソケット4の空間25に圧入して、円筒状内面9、テーパ内面46、円環状端面48及び円筒状外面47を有するボールシート7のスリット51付き円筒部71を、合成樹脂製のボールシート7の可塑性を利用して、ソケット4の球帯状内面3及びボール部12の球状外面11に倣わせて球帯状内面10、テーパ内面46、円環状端面48及び球帯状外面6を有する球帯状部72に変形させ、この圧入後、閉鎖円板14を凹所24に嵌着して、製造され得る。
【0033】
斯かる合成樹脂製のボールシート7によれば、内部である空間65に収容するボールスタッド13のボール部12の球状外面11に接触する球帯状内面10への円筒状内面9の変形において生じる当該円筒状内面9の円周方向Rの変形量に対応した円周方向Rの幅dを各楔状スリット部50が有しているために、円筒状内面9がボール部12の球状外面11に接触するようにして球帯状内面10に変形されてボールジョイント1のソケット4内である空間25にボールシート7が配置されても、斯かる変形を各楔状スリット部50で吸収できる結果、縮径されて得られた球帯状内面10を有したボールシート7の開口45側の球帯状部72に大きな内部応力を生じさせないで、耐荷重性の低下ならびに耐久性の低下を防止でき、しかも、各楔状スリット部50の円周方向Rの幅が零となって各楔状スリット部50を規定するボールシート7の円周方向Rにおいて対峙する一対の対向端面61及び62が互いに接触する結果、ボールスタッド13の引っ張りによる球帯状部72の円周方向Rの合成樹脂のクリープ変形を互いに接触する一対の対向端面61及び62の押し合いにより防止できて、均一な摺動トルクの維持ならびにガタつきを防止し得る。
【0034】
ところで、上記のボールシート7では、軸方向Aにおける球帯状内面8と円筒状内面9との間に潤滑剤収容用の球帯状溝44を設けたが、図10及び図11に示すように、一端部では斯かる球帯状溝44に連通すると共に他端部ではテーパ内面46又はテーパ内面46及び円環状端面48で、本例ではテーパ内面46で開口する潤滑剤収容用の軸方向溝81を円周方向Rにおいて互いに90度の角度間隔をもって離間してテーパ内面46及び球帯状内面10に設けてもよい。この場合、図8及び図9に示すように、球帯状外面6及び球帯状内面10への変形前のボールシート7において、各楔状スリット部50及び同一幅スリット部52を規定する円周方向において対峙する一対の対向端面61及び62並びに63及び64に沿ってテーパ外面46及び円筒状内面9に段部82及び83を形成し、段部82及び83により、一対の対向端面61及び62が互いに接触された場合に、互いに協働して潤滑剤収容用の球帯状溝44に連通する潤滑剤収容用の軸方向溝81を形成するようにしてもよい。
【0035】
また、本発明では、軸方向溝81を形成する段部82及び83をテーパ内面46及び円筒状内面9に設けると共に図12に示すように、一端では球帯状溝44に連通する一方、他端では開口42に連通する潤滑剤収容用の軸方向溝91を球帯状内面8に設けてもよく、更には、軸方向溝81及び91に代えて、図13及び図14に示すように、潤滑剤収容用の円形又は楕円形の溝92及び93を球帯状内面8及び円筒状内面9に円周方向Rにおいては複数個を等角度間隔をもって軸方向Aにおいては複数段をもって設けてもよく、この場合、図14に示すように、円形溝92と円形溝93とを円周方向R又は軸方向Aに関して千鳥状に配置してもよい。
【0036】
上記のボールシート7では、シート基部36と円筒部71とを一体形成しているが、これに代えて、図15及び図16に示すように、シート基部36と、円筒部71とを別体にしたボールシート7でもよく、斯かる図15に示す本発明のボールシート7では、円筒部71の厚肉円筒部95内にシート基部36が嵌装されている一方、厚肉円筒部95に一体な円筒部71の薄肉円筒部96がシート基部36に軸方向Aにおいて隣接して配置されており、図16に示す本発明のボールシート7では、円環状の隙間97をもってシート基部36と円筒部71とが軸方向Aに関して隣接、配列されて配置されており、いずれの場合にも、図15及び図16に示すように、シート基部36の球帯状内面8に潤滑剤収容用の軸方向溝98を少なくとも一個形成してもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 ボールジョイント
2 円筒状内面
3、8、10 球帯状内面
4 ソケット
5 円筒状外面
6 球帯状外面
7 ボールシート
9 円筒状内面
11 球状外面
12 ボール部
13 ボールスタッド
14 閉鎖円板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の球帯状内面を有するシート基部と、このシート基部に軸方向において隣接していると共に円筒状内面及びこの円筒状内面に対応して配された円筒状外面を有した円筒部と、この円筒部の円環状端面から軸方向において第一の球帯状内面の球心に向かって当該球心に向かうにしたがって徐々に円周方向の幅を縮小しつつ伸びた楔状スリット部を有していると共に円筒部に形成されたスリットとを具備した合成樹脂製のボールシートであって、楔状スリット部は、ボールシート内に収容するボールスタッドのボール部の球状外面に接触する第二の球帯状内面への円筒状内面の変形において生じる円筒部の円周方向の変形量に対応した円周方向の幅を有しているボールジョイント用の合成樹脂製のボールシート。
【請求項2】
第一の球帯状内面と、この第一の球帯状内面の大径端に軸方向において隣接した円筒状内面と、この円筒状内面に対応して配された円筒状外面と、円筒状外面に連接した円環状端面と、この円環状端面から軸方向において第一の球帯状内面の球心に向かって当該球心に向かうにしたがって徐々に円周方向の幅を縮小しつつ伸びた楔状スリット部を有しているスリットとを具備した合成樹脂製のボールシートであって、楔状スリット部は、ボールシート内に収容するボールスタッドのボール部の球状外面に接触する第二の球帯状内面への円筒状内面の変形において生じる当該円筒状内面の円周方向の変形量に対応した円周方向の幅を有しているボールジョイント用の合成樹脂製のボールシート。
【請求項3】
スリットは、円周方向の幅が最小となる楔状スリット部の一端から軸方向において球心に向かって円周方向の幅を同一にして伸びた同一幅スリット部を更に有している請求項1又は2に記載のボールジョイント用の合成樹脂製のボールシート。
【請求項4】
楔状スリット部を規定する円周方向において対峙する一対の対向端面は、円環状端面から軸方向において第一の球帯状内面の球心に向かって当該球心に向かうにしたがって徐々に互いに接近して伸びている請求項1から3のいずれか一項に記載のボールジョイント用の合成樹脂製のボールシート。
【請求項5】
楔状スリット部を規定する円周方向において対峙する一対の対向端面は、ボールシート内に収容するボール部の球状外面に接触するような円筒状内面の第二の球帯状内面への変形で互いに接触するようになっている請求項1から4のいずれか一項に記載のボールジョイント用の合成樹脂製のボールシート。
【請求項6】
軸方向における第一の球帯状内面及び円筒状内面との間に配された潤滑剤収容用の球帯状溝を更に有している請求項1から5のいずれか一項に記載のボールジョイント用の合成樹脂製のボールシート。
【請求項7】
楔状スリット部を規定する円周方向において対峙する一対の対向端面に沿って円筒状内面に形成された段部を更に有しており、この段部は、一対の対向端面が互いに接触された場合に、互いに協働して潤滑剤収容用の軸方向溝を形成するようになっている請求項1から6のいずれか一項に記載のボールジョイント用の合成樹脂製のボールシート。
【請求項8】
楔状スリット部を規定する円周方向において対峙する一対の対向端面に沿って円筒状内面に形成された段部を更に有しており、この段部は、一対の対向端面が互いに接触された場合に、互いに協働して潤滑剤収容用の球帯状溝に連通する潤滑剤収容用の軸方向溝を形成するようになっている請求項6に記載のボールジョイント用の合成樹脂製のボールシート。
【請求項9】
円筒状内面及びこの円筒状内面に軸方向において連接された球帯状内面を有したソケットと、このソケットの円筒状内面に接触した円筒状外面を有すると共にソケットの球帯状内面に接触する球帯状外面を有する請求項1から8のいずれか一項に記載のボールジョイント用の合成樹脂製のボールシートと、このボールシートの第一球帯状内面及びソケットの球帯状内面に倣って変形された第二の球帯状内面の夫々に接触する球状外面を有してボールシート内に配されたボール部を具備したボールスタッドとを有しており、ボールシートの球帯状外面は、ボールシートの円筒状内面に対応して配されたボールシートの円筒状外面がソケットの球帯状内面に倣って変形されて形成されており、ボールシートの楔状スリット部を規定する円周方向において対峙する一対の対向端面は、互いに接触しているボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−52602(P2012−52602A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195724(P2010−195724)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】