説明

合成樹脂製の乗用簡易車両

【課題】
車室と車台とを薄肉の合成樹脂によって一体に成形した乗用簡易車両において、車輪を車室から外方へ突出させて配置するものでは、車輪を支持する車輪支持腕と車室外板との接続部の剛性向上が求められる。
【解決手段】
車室の底面をなす底板の幅方向両側に、前後方向に伸びる合成樹脂製の中空の補強材を一体的に結合して車体の主体を形成し、その主体の前後に両端で車輪を支持した筒状の支持腕を一体に成形することによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は運転者の乗る車室が合成樹脂によって作られた、1人、あるいは2人乗り用の超小型に作られた、いわゆる、コミュニティ・ビークルと呼ばれる乗用簡易車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の乗用簡易車両としては、かつて、車両の車体の軽量化と製造コストの引き下げのため、合成樹脂で運転者の乗る車室を構成して、原動機付き3輪車、あるいは原動機付き4輪車として多数が市販され
【特許文献1】、すでに公知公用の状態にある。他方、この種の簡易車両とは対極に位置する超高級スポーツ車の中にも、性能向上のため車室の大きさを極小に作られたものも知られている
【特許文献2】。
【0003】
しかし、その乗用簡易車両は、外形こそ軽自動車よりはるかに、小さく作られていたものゝ、車両の骨格となるフレームやフレームと車輪とを結合するダブルウイッシュボーン形の懸架装置などが、機械的な強度の大きい鋼鉄やアルミなどの金属で作られていたので、エンジンの出力や車体と懸架装置との強度のバランスがわるく、重量の低減も十分でないので燃料消費の改善も十分でない上に、走行が緩慢で機敏な運転ができなかった。
【0004】
発明者らは、車体外面を合成樹脂で作った上述の車両の不具合に鑑み、まず、車両の重量を軽くするために、車両の形状を運転者の体形に合わせて車室の幅をバイクの幅に近い、換言すれば乗員の肩幅よりやや大きい程度で、重量も100Kg前後の超小型なものにした。その結果、体重60Kgの運転者が乗車した状態で車輪一個あたりの静荷重が約40Kgと自転車と同程度に軽量化された。
【0005】
しかし、そのように作られた小型の車両では運転者の体重と車両の重量とが近似してくる上、車両に比して重心の高い人間(運転者)が乗車したときの車両の重心が高くなってしまい、旋回時の安定性が損なわれた。
【0006】
このような不具合は車輪の位置を車室から側方へ大きく突出させて配置することによって回避できるが、車輪を車室から離れた位置に支持しようとすると、車台から車輪に至る間を大きく突出させた支持腕によって連結する必要を生じるが、そのような構造では車輪の支持腕と車体外板や車台など車体の主体をなす部分との結合部に大きな曲げ応力が生じるので、車輪の支持腕と車体の主体をなす部分との結合手段の選定が難しくなる。
【0007】
【特許文献1】特開平6−64560号公報
【特許文献2】特開平5−162656号公報
【特許文献3】特開平11−1110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、車台あるいは車体外板などの車体の主体をなす部材と、その部材から遠く離れて外方に設置される車輪との間を、合成樹脂により薄肉の筒形に作られた長い車輪支持腕を用いて結合しようとすると、その車輪支持腕の根部が結合される前記車台や車体外板との連結部に歪を生じ、前記車輪の支持が不安定になることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る合成樹脂製の乗用簡易車両は、車室の底面をなす底板の幅方向両側に、前後方向に伸びる合成樹脂製の中空の補強材を配置し、前記底板と補強材とを一体的に結合するとともに、それら補強材の前端部を両端部に前輪を支持する前輪支持腕と、後端部を両端部に後輪を支持する後輪支持腕との、それぞれの側面に衝合させて前記両補強材と車輪支持腕とを一体に成形することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る合成樹脂製の乗用簡易車両は、両端に車輪を支持する前輪支持腕と後輪支持腕とが、薄肉の合成樹脂によって筒状に作られているので、支持腕が合成樹脂によって作られているにも係わらず高い剛性が得られ、合成樹脂によって車輪を支持することのできる構造が可能となった。また、その支持腕の側面に車体の主体をなす筒状の補強材の端部が結合されるので、両者の結合部に広い面積の部分が存在しないので、車体の主体と左右の車輪支持腕とが合成樹脂によって薄肉に作られているにも拘らず、高い剛性をもって結合できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面によって本願発明の実施例を説明する。図中、10は超小型に作られた合成樹脂製の乗用簡易車両である。乗用簡易車両10は操向輪である前輪12と駆動輪である後輪14とを有し、それら前輪12と後輪14とは前後で、合成樹脂製の車台20を支持している。なお、この実施例では車台20の上面が上部カバー15によって覆われており、その内部が運転席となる車室15aになっている。
【0012】
上部カバー15は前部で車台15に枢着されていて、図2中仮想線pで示されるように、後部が上方へ開閉可能になっている。よって、運転者は上部カバー15が図中、仮想線pで示す開いた状態を保ちつつ乗降する。また、車台20の後面は着脱可能な後部カバー17によって覆われており、車台20とそれらのカバー15、17とによって車両の外面が形成されている。
【0013】
前記車台20の要部は、図5以下で示すように、前部に配された前輪支持腕22と後部に配された後輪支持腕24、およびそれらの間に介装された主体26との、大略3個の部分から構成され、それらの部分は繊維強化合成樹脂によって一体的に成形されることによって互いに強固に連結している。
【0014】
車台20の中央部をなす前記主体26は、車室の床面をなす床板26aと、その床板26aの幅方向両側の縁に沿って配置され、前後方向へ伸びる合成樹脂製の補強材26b、26bとを有する。前記床板26aは略水平に配された前半部27aと、後方が高く傾斜させて配置した後半部27bとによって構成され、それらの交差する部分に角部27cが形成され全体として逆へ字形に屈曲されている。床板26aの側面は補強材26bの内面に接着して一体化され、前記屈強した位置関係が強固に保持されている。
【0015】
前記床板26aにはハニカム構造のサンドイッチパネルが用いられている。サンドイッチパネルはステンレスやアルミニウム、あるいは合成樹脂で作られた周知のハニカム構造体27dと、その両面に貼着された竹その他の天然繊維板、あるいは、ガラス、炭素などの人工繊維で補強された合成樹脂板からなり、曲げ剛性の高い板材である。
【0016】
サンドイッチパネルは、この例では図9、図10で示すように、左右両側に配置された補強材26b、26bの間を橋架する底板下面板27jと、その底板下面板27jの上に厚さが約50mmのハニカム構造体27dを接着した上で、ハニカム構造体27dの上方から上面が開く略四角形の容器状をした床板上面部材27kを挿入して、その底面との間を接着材によって接着させて構成してある。なお、前記床板上面部材27kの、側面は前記内面板26fの内面、前輪支持腕22と後輪支持腕24とに接着してある。
【0017】
前記主体26の要部をなす補強材26bは、前記床板26aの左右対称に両側に配置され、図9で示すように、それぞれは下側が狭い略逆三角形状の筒状をなしている。すなわち、前記床板26aから上方へ向かい車室の内面をなす内面板26fと、床板26aから車幅方向外方へ膨らみつつ上方へ湾曲して伸びるとともに車両の外面の一部をなす外面板26h、およびそれらの上縁を連結するとともに前記上部カバー15の下面を支承する水平方向の上面板26jとで構成されている。よって、左右の補強材26bは、前輪12と後輪14とから受ける上下方向の荷重に対して強い剛性を有する。
【0018】
以上のように、車台20の中央部をなす前記主体26は、床板26aと左右に配置された前記補強材26bとによって強固に構成されており、座席28を介して運転者の体重を支承する。座席28は合成樹脂の一枚板からなり、車台20の上に着脱可能に置かれている。かくて、運転手の体重による前半部27aの変形と、運転者の背中から作用する押圧荷重による後半部27bの変形がなく、剛性の高い車台20が得られる。
【0019】
前記主体26の前端部には幅方向に伸びる前輪支持腕22が一体に成形されている。前輪支持腕22は、図7から明らかなように、断面形状が略四角形の筒状をなしており、前記補強材26bの位置より外方に突出させた端部には図示してないが、任意に構成される緩衝装置、および舵取り装置を介して前輪12、12が取り付けられる。
【0020】
前輪支持腕22は図10で示すように、主体26に接続される一個の面を除く3個の面が全長に亘って一連に伸びているので、前輪12から受ける前後および上下方向の外力に対し、大きな剛性を有するので外力による変形が少ない。なお、前輪支持腕22は前輪22から加えられる上下方向の外力に耐えるよう左右の補強材26b、26bの間だけ、端部より高さが高く設定され、曲げ荷重による応力に耐える形状とされるとともに、前記補強材26bと凹凸なく滑らかに連結してある。
【0021】
前記主体26の上方へ伸びた後端部には後輪支持腕24が一体に成形されている。後輪支持腕24の両端部は前輪支持腕22の場合と同様に、補強材26bの位置より外方へ突出させてある。その後輪支持腕24の外端部から下方へ屈曲させた下端部には内外に支脚24a、24aが結合されている。
【0022】
その結果、前記下端部は二又に分岐されてた形状をなし、それらの間に橋架された後車軸24bによって前記後輪14、14が支持されている。よって、後輪支持腕24は前輪支持腕22より高い位置に配置され、補強材26bによって運転者の背中から受ける体重を支持しているにも拘らず、前輪12と同じ高さに後輪14が支持される。
【0023】
前記支脚24a、24aと床板26aとによって囲まれる空間は原動機スペース25とされ、エンジンやバッテリ、あるいは電動機など、車両の走行に必要な動力源が収容される。なお、この原動機スペース25は前記した着脱可能な後部カバー17によって覆われ、その内面に形成される。
【0024】
以上のように、この実施例によれば、車台20の中央部を床板26aと、それを取り囲む補強材26b、前輪支持腕22および、後輪支持腕24によって箱形に作り、軽量で、きわめて高い剛性を得るとともに、そこから、外方へ車輪を支持するための支持腕を突出させてある。
【0025】
よって、両支持腕22、24は根部を堅固に支持されているので、車輪から作用する前後、および上下方向の荷重に対して高い剛性をもって支承することができる。なお、後輪支持腕24を前輪支持腕22より高い位置に配置することは、この発明の構成上必須の要件ではなく、両腕22、24を同一平面上に配置する場合を除外するものではない。
【0026】
また、車台20は床板26aの周りに合成樹脂で作られた2個の補助材26b、26b、前輪支持腕22、および後輪支持腕24などを一体的に成形したものであるから材質の変更による重量の軽減の他に、車台代20を構成する各部材の結合にボルトその他の重量の大きい機械要素を要せず、車両の軽量化に大きく寄与している。
【0027】
さらに、車台20の床板26aが、前側の水平板27aと後側の傾斜板27bとに分けられ、後方が高く設定された傾斜板27bを利用して、後部を高く作られているので、傾斜板27bの後面を後部カバー17によって覆うだけで内面に原動機スペース25が得られる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本願発明に係る乗用簡易車両の正面図である。
【図2】その側面図である。
【図3】その平面図である。
【図4】その後面図である。
【図5】要部である車台の外観図である。
【図6】車台を取り出して示す平面図である。
【図7】車台を取り出して示す側面図である。
【図8】車台を取り出して示す後面図である。
【図9】図7中のIX−IX断面を拡大して示す拡大断面図である。
【図10】車台の前部を分解して示す部分外観図である。
【符号の説明】
【0029】
10 乗用簡易車両
12 前輪(操向輪)
14 後輪(駆動輪)
15 上部カバー
15a 運転席となる車室
16 前部カバー
17 後部カバー
20 車台
22 前輪支持腕
24 後輪支持腕
24a 支脚
24b 後車軸
25 原動機スペース
26 主体
26a 床板
26b 補強材
26f 内面板
26h 外面板
26j 上面板
27a 水平板
27b 傾斜板
27c 角部
27d ハニカム構造体
27j 底板下面板
27k 床板上面部材
28 座席
p 仮想線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の底面をなす底板の幅方向両側に、前後方向に伸びる合成樹脂製の中空の補強材を配置し、前記底板と補強材とを一体的に結合するとともに、それら補強材の前端部を両端部に前輪を支持する前輪支持腕と、後端部を両端部に後輪を支持する後輪支持腕との、それぞれの側面に衝合させて前記両補強材と車輪支持腕とを一体に成形してなる合成樹脂製の乗用簡易車両。
【請求項2】
請求項1において、前記底板がハニカムサンドイッチパネルによって構成されている合成樹脂製の乗用簡易車両。
【請求項3】
両端に前輪を支持する筒状の前輪支持腕と後輪を支持する筒状の後輪支持腕とを幅方向へ向けた状態で前後に配し、前記両支持腕の間を車両の前後に向けて配置された左右一対の補強材によって連結し、前記車輪支持腕の補強材より外方へ突出した部分に車輪を支持してなる合成樹脂製の乗用簡易車両。
【請求項4】
請求項3において、前記前後に配置された車輪支持腕と左右一対の補強材とによって形成される平面形状が略四角形の空間の下部に床板を貼着してなる合成樹脂製の乗用簡易車両。
【請求項5】
請求項1および請求項3のいずれかにおいて、前記後側に配置された車輪支持腕を、前側に配置された前輪支持腕より高い位置に配置し、前記床板を略水平な前半部と後方が高く比較的急角度に傾斜する後半部とによって略逆ヘ字形に屈曲させてなる合成樹脂製の乗用簡易車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−179129(P2009−179129A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18736(P2008−18736)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(594044130)
【Fターム(参考)】